説明

6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールおよびフレグランス成分としてのこの使用

6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナール、この製造方法およびこれを含むフレグランス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マリン、シー(sea)、オゾン、グリーン、フルーツ、シトラスの芳香ノートを有する6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナール、この製造方法およびこれを含むフレグランス組成物に言及する。
【背景技術】
【0002】
香料産業において、芳香ノートについて増強もしくは改善するか、または新たな芳香ノートを付与する新規な化合物について、定常的な要求がある。特に、新鮮な水域環境(海浜、山間の湖など)に関連する芳香ノートは、最近香料において人気が高くなっている。
【発明の開示】
【0003】
文献にこれまで記載されたことのない6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールは、感覚刺激特性を有することが見出され、これは、有用であり、香料、芳香で満たす組成物および良好な芳香製品の製造のために評価されていることが、見出された。驚異的なことに、6−メトキシ−2,6−ジメチルヘプタナール(Methoxymelonal(登録商標))と比較して、本発明の化合物は、6−メトキシ−2,6−ジメチルヘプタナールに構造的に極めて近いものの、約2.5倍低い臭気しきい濃度により特徴づけられることが、見出された。Methoxymelonal(登録商標)は、ウッディな感じを連想させる一方、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールは、一層シトラスであり、一層明るい、一層清浄な、かつ一層新鮮な芳香ノートを有する。
【0004】
臭気しきい濃度は、嗅覚により検出され得る空気中のにおい物質の蒸気の最低濃度として定義される。当該濃度は、臭度測定手段またはパネリストが提示された上部の空間のにおいを嗅ぐことを可能にする嗅覚感知ビン(sniff-bottle)のいずれかを用いることにより、当該分野において知られている標準的な方法により測定することができる。
【0005】
嗅覚の効果を達成するためにフレグランス組成物中で比較的低い濃度のこの化合物を用いることを可能にするのは、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールの低い臭気しきい濃度である。
したがって、本発明は、この観点の1つにおいて、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールのフレグランス成分としての使用に言及する。
【0006】
本発明の化合物は、2つのキラル中心を含み、これ自体立体異性体の混合物として存在し得るか、またはこれを、異性体的に純粋な形態として分解してもよい。立体異性体の分割は、これらの化合物の製造および精製の複雑さを大きくし、したがって6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを、単に経済的理由によりこの立体異性体の混合物として用いるのが、好ましい。しかし、個別の立体異性体を調製するのが望ましい場合には、これを、当該分野において知られている手順に従って、例えば分取HPLCおよびGC、または立体選択的合成により達成してもよい。
【0007】
本発明の化合物を、広範囲の香料用途において、例えば上質および機能的香料、例えば香水、家庭用品、ランドリー製品、ボディーケア製品および化粧品のすべての分野において、用いることができる。この化合物を、特定の用途並びに他の着臭剤成分の性質および量に依存して、広範囲に変化する量で用いることができる。極めて一般的に、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールは、極めて強力な着臭剤であり、したがって効果は、極めて低い投与量、例えば0.01重量%においてすでに得られ得る。他方、最適なパートナーと混ぜ合わせた場合には、これを、極めて高い濃度においても用いることができる。好ましい濃度は、最終製品を基準として、約0.01重量%〜約15重量%の間、好ましくは0.1〜5重量%の間で変化する。しかし、経験のある香水業者はまた、一層低い、または一層高い濃度を用いて、効果を達成することができるか、または新規な調和を作成することができるため、これらの値は、例としてのみ示される。
【0008】
1つの態様において、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを、シャンプーにおいて、0.1〜3重量%の量で用いることができる。他の態様において、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを、上質の香料において、0.1〜20重量%、一層好ましくは0.1〜5重量%の量で用いることができる。
【0009】
本発明の化合物は、これをベース材料と混和することにより、極めて広い範囲のフレグランス組成物を作成するために用いることができる。本明細書中で用いる「ベース材料」は、現在入手できる広範囲の天然の製品および合成の分子から選択されたすべての既知の着臭剤分子、例えばエッセンシャルオイル、アルコール類、アルデヒド類およびケトン類、エーテル類およびアセタール類、エステル類およびラクトン類、大環状化合物および複素環式化合物、および/またはフレグランス組成物中で着臭剤と組み合わせて慣用的に用いられる1種もしくは2種以上の成分もしくは賦形剤、例えば担体材料、および当該分野において一般的に用いられている他の補助剤との混和物を含む。したがって、フルーティー/メロン、シトラスの特性を有するフレグランス組成物に、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールは、新鮮さを付与し、オゾン/メロンノートの辛辣さ(harshness)を一掃する。
【0010】
以下のリストは、本発明の化合物と混ぜ合わせることができる、既知の着臭剤分子の例を含む:
−エッセンシャルオイルおよび抽出物、例えばツリーモスアブソリュート(absolute)、メボウキ油、海狸香、コスタス根油、ギンバイカ油、オークモスアブソリュート、ゼラニウム油、ジャスミンアブソリュート、パチョリ油、ローズ油、ビャクダン油、ヨモギ油、ラベンダー油またはイランイラン油;
−アルコール類、例えばシトロネロール、Ebanol(登録商標)、オイゲノール、ファルネソール、ゲラニオール、Super Muguet(登録商標)、リナロール、フェニルエチルアルコール、Sandalore(登録商標)、テルピネオールまたはTimberol(登録商標)。
【0011】
−アルデヒド類およびケトン類、例えばα−アミルシンナムアルデヒド、Georgywood(登録商標)、ヒドロキシシトロネラール、Iso E Super(登録商標)、Isoraldeine(登録商標)、Hedione(登録商標)、マルトール、メチルセドリルケトン、メチルイオノンまたはバニリン;
−エーテルおよびアセタール類、例えばAmbrox(登録商標)、ゲラニルメチルエーテル、ローズオキシドまたはSpirambrene(登録商標)。
−エステル類およびラクトン類、例えば酢酸ベンジル、酢酸セドリル、γ−デカラクトン、Helvetolide(登録商標)、γ−ウンデカラクトンまたは酢酸ベチベニル。
−大環状化合物、例えばアンブレットリド、エチレンブラシレートまたはExaltolide(登録商標)。
−複素環式化合物、例えばイソブチルキノリン。
【0012】
本発明の化合物は、フレグランス利用品中において、単にフレグランス組成物をフレグランス利用品と直接混合することにより用いることができるか、またはこれを、一層早期の段階において、封入材料、例えばポリマー、カプセル、マイクロカプセルおよびナノカプセル、リポソーム、フィルム形成剤、吸収剤、例えば炭素もしくはゼオライト、環状オリゴ糖類およびこれらの混合物を用いて封入することができるか、またはこれを、基質に化学的に結合させ、外部の刺激、例えば光、酵素などを適用することにより6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを放出し、次に利用品と混合するようにこれを適合させることができる。
【0013】
したがって、本発明はさらに、フレグランス利用品の製造方法であって、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを、フレグランス成分として、これを利用品に直接混和することにより、または6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを含むフレグランス組成物を混和し、次にこれを、慣用の手法および方法を用いてフレグランス利用品に混合することができることにより導入することを含む、前記方法を提供する。
【0014】
本明細書中で用いる「フレグランス利用品」は、着臭剤を含むすべての製品、例えば上質香料、例えば香水およびオードトワレ;家庭用品、例えば食器洗浄機用の洗浄剤、表面洗浄剤;ランドリー製品、例えば柔軟剤、漂白剤、洗浄剤;ボディーケア製品、例えばシャンプー、シャワー用ジェル;化粧品、例えばデオドラント、バニシングクリーム;並びに消臭スプレーを意味する。製品のこのリストは、例示により示し、いかなる方法によっても限定するものとみなされるべきではない。
【0015】
ここで、本発明を、以下の非限定的例を参照してさらに記載する。
【0016】
例1:6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールの合成
A)6−メトキシ−6−メチル−2−オクタノン
4lのメタノール中の2kgの6−メチル−オクト−5−エン−2−オンに、800mlの濃硫酸を、3℃で40分にわたり加えた。室温でさらに5時間攪拌した後、溶液を、8kgの氷水上に注入し、tert−ブチルメチルエーテルで抽出した。混ぜ合わせた有機層を、20%のNaCO(200ml)および濃NaCl溶液(3×150ml)で洗浄した。溶媒を除去した後、残留物を、70cmのズルツァーカラム上で蒸留して、840gの回収した出発物質(沸点:72℃〜75℃/10mmHg)および970gの6−メトキシ−6−メチル−2−オクタノン(沸点:95℃〜98℃/10Torr=13.3mbar)を得た。
【0017】
1H-NMR (400MHz, CDCl3): δ 0.84 (t, J = 7.6Hz, 3H), 1.09 (s, 3H), 1.38-1.61 (m, 6H), 2.14 (s, 3H), 2.44 (t, J = 7.2Hz, 2H), 3.14 (s, 3H).
IR: 1715 cm-1.
【0018】
B)3−(4−メトキシ−4−メチル−ヘキシル)−3−メチル−オキシラン−2−カルボン酸メチルエステル
860gの6−メトキシ−6−メチル−2−オクタノン、4lのtert−ブチルメチルエーテルおよび648gのクロロ酢酸メチルを、窒素のガスシールの下で0℃に冷却した。さらなる冷却の下で、350gのナトリウムメトキシドを、6回に分割して20分にわたり加えた。次に、混合物を、ケトンの消費がもはや観察されなくなるまで(GC)室温で加えた。0℃に冷却した後、1lの5%酢酸(w/w)を加え、相を分離した。水性相を、tert−ブチルメチルエーテル(500ml)で抽出した。混ぜ合わせた有機相を、水、濃KHCO溶液、濃NaCl溶液で洗浄し、MgSOで乾燥した。溶媒を除去した後に残留した黄色油を、小Vigreuxカラム上で蒸留して、823gの3−(4−メトキシ−4−メチル−ヘキシル)−3−メチル−オキシラン−2−カルボン酸メチルエステル(異性体の混合物、沸点:115℃〜128℃/0.3Torr=0.399mbar)を得た。
【0019】
1H-NMR (400MHz, CDCl3): δ 0.8-0.88 (m, 3H), 1.07-1.09 (m, 3H), 1.35-1.75 (m, 11H), 3.12-3.15 (m, 3H), 3.34-3.36 (m, 1H), 3.78 (s)および3.79 (s, total 3H).
MS: 87 (100%)
【0020】
C)6−メトキシ−2,6−ジメチル−オクタナール
800mlの水に溶解した180gの水酸化カリウムを、2時間にわたり、810gの3−(4−メトキシ−4−メチル−ヘキシル)−3−メチル−オキシラン−2−カルボン酸メチルエステルに、0℃〜5℃の温度にて加えた。次に、150mlの水に溶解した36gのKOHを、オレンジ色からベージュ色への色の変化が持続するまで分割して加えた。次に、pH11を有する混合物を、HCl 32%(300ml、30分にわたり加えた)、続いて希リン酸を加えることによりpH3に達するまで0℃で酸性化した。相を分離し、水性相を、tert−ブチルメチルエーテルで抽出した。混ぜ合わせた有機相を、溶媒を蒸発させる前に濃NaCl溶液で洗浄した。残留した極めて粘性が高い油(780g)を、3時間にわたり300mlのPEG 200に滴加し、これを160℃に保持した。これにより、生成物を蒸留して除去した。加えた後、水蒸気を約30分間注入して、すべての水蒸気揮発性(steam-volatile)生成物を蒸留して除去した。留出物の2つの相を分離し、水性相を、tert−ブチルメチルエーテルで抽出した。混ぜ合わせた有機相を、KHCOおよびNaClで洗浄した。溶媒の蒸発により、380gのわずかに黄色の油が得られ、これを、60cmのズルツァーカラム上で蒸留して、338gの6−メトキシ−2,6−ジメチル−オクタナール(沸点65℃〜66℃/0.3Torr=0.399mbar)を得た。
【0021】
1H-NMR (400MHz, CDCl3): δ 0.83 (t, J = 7.6Hz, 3H), 1.07 (s, 3H), 1.1 (d, J = 7.2Hz, 3H), 1.28-1.52 (m, 7H), 1.66-1.76 (m, 1H), 2.31-2.42 (m, 1H), 3.12 (s, 3H), 9.62 (d, J = 1.6Hz, 1H).
【0022】
例2:オルファクトメーターを用いることによる臭気しきい濃度
オルファクトメーターは、搬送ガス中の着臭剤の直線状の希釈の原理に基づいて機能する。置換された着臭剤の量は、この蒸気圧および搬送ガス流に依存する。流量調整弁により調節された窒素の一定の流れにより、着臭剤が、試料容器から混合チャンバへと搬送される。ここで、搬送ガス−臭気混合物は、無臭の空気で希釈される。混合チャンバから、1部の希釈された臭気を有する空気が、溶融石英毛細管を介して臭気感知(sniffing)漏斗に流される。混合チャンバから臭気感知漏斗中への臭気を有する空気の吸収量を決定する毛細管を通しての流量は、二元の段階において1〜256mlの間でPCにより調節することができる弁の開きに依存する。臭気を有する空気試料の最終的な希釈は、8L/分の流量で無臭の空気と共にこれらを永久的に流すことにより、ガラス漏斗中で行われる。
【0023】
強制選択三角形提示(triangle presentation)を、特定の自動チャネル設定装置により達成し、ここでスイッチの1つの位置においてのみ、着臭剤送達毛細管は、臭気感知漏斗中に進入し、一方他の2つの位置において、毛細管は、漏斗の外側に位置し、ここで流出物は、吸引して除去される。各々の試行の後、チャネル設定を、自動的に、かつ無秩序な順序で変更する。濃度を、着臭剤蒸気圧から、および希釈比率から計算し、これをオルファクトメーターにおいて適用し、蒸気飽和が試料発生装置において達成されることが推測された。対照として、濃度を、毛細管流出物から上部の空間のフィルター中に既知の容積を試料採取し、次に決定することによるものとした。
【0024】
パネリストは、当該パネリストが着臭剤を中程度の強度で感知した濃度レベルにおいてオルファクトメーターにおいて臭気感知を開始する。同一のレベルにおける3回の連続する試行における3回の正確な回答(または5回の試行のうち4回の正確な回答)の後、パネリストが当該パネリストのしきい値レベルに達するまで、刺激濃度を、次の一層低いレベルに対して2倍減少させるなどする。
【0025】
同一の条件の下で、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールおよび6−メトキシ−2,6−ジメチルヘプタナールについての臭気しきい濃度を測定し、12人のパネリストの群により比較した。パネリストが臭気の感知を開始した2種の化合物の順序を、交互にした。両方の化合物を、同一の日において測定し、以下のデータが得られた:
【0026】
【表1】

【0027】
結果から、本発明の化合物は、従来技術の化合物と比較して2.46倍低いしきい値を有することが、明らかである。これに基づいて、はるかに一層少量のクレームされた化合物が、同一の嗅覚効果を付与するのに必要であるため、顕著な進歩が達成される。
【0028】
【表2】

【0029】
10部の6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを加えると、上記の組成物は、一層自然で、円熟し(rounder)、かつ新鮮になる。これはまた、このフローラルフルーティーフラワーノートに異国風のみずみずしい暗示的意味を付与し、また魅力的な新鮮なエアリー−マリンフローラルな香りを開発するのを補助する。
【0030】
【表3】

【0031】
30部の6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを加えると、上記の組成物に新鮮さ、活発さおよび快適さがもたらされる。これはまた、トップからドライダウン(dry-down)まで新鮮なマリンノートをもたらし、トップノートの明るさを増強し、自然的な新鮮さからウッディでムスクなドライダウンを保持する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナール。
【請求項2】
6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールのフレグランス成分としての使用。
【請求項3】
6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを含む、フレグランス組成物。
【請求項4】
6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを含む、フレグランス利用品。
【請求項5】
フレグランス利用品が、香水、家庭用品、ランドリー製品、ボディーケア製品または化粧品製品である、請求項4に記載のフレグランス利用品。
【請求項6】
フレグランス利用品の製造方法であって、6−メトキシ−2,6−ジメチルオクタナールを導入する段階を含む、前記方法。

【公表番号】特表2009−509934(P2009−509934A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530294(P2008−530294)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/CH2006/000501
【国際公開番号】WO2007/030967
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】