説明

7−(2−(4−(3−トリフルオロメチル−フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンベシル酸塩、この調製および治療的使用

本発明は、7−(2−(4−(3−トリフルオロメチル−フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロ−ピリド−1−イル)エチル)イソキノリンベシル酸塩に関する。本発明はまた、7−(2−(4−(3−トリフルオロメチル−フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロ−ピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩の調製方法、ならびにこの治療的使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンの新規の塩、この調製、および治療におけるこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(I)の7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンは、WO2001/029026公報に開示されている。
【0003】
【化1】

【0004】
この化合物は、他のテトラヒドロピリジン誘導体の中でも、TNF−α(腫瘍壊死因子)の活性を調節する分子として記載されている。
【0005】
WO2001/029026公報は、遊離塩基の形態または種々の塩(例えば、二塩酸塩またはフマル酸塩)の形態の、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンを開示している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この同一化合物のモノベンゼンスルホン酸(ベシル酸ともいう)の塩形態は、これを医薬中の有効成分としての使用に特に好適にする有利な特性を示すということが、今回見出された。
【0007】
したがって、本発明の主題は、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩、この調製、および治療におけるこの適用である。
【0008】
7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩は、下記式(II)で規定される。
【0009】
【化2】

【0010】
特に、予想外なことに、式(I)の化合物のベシル酸塩形態は、この同一化合物の二塩酸塩またはフマル酸塩形態よりもさらに改善されている、特に湿気に関する、安定性を有することが示された。
【0011】
式(I)の化合物のベシル酸塩形態は、この同一化合物の二硫酸水素塩、二ベシル酸塩または二塩酸塩形態よりも改善されている、吸湿性をさらに有することも示された。
【0012】
本発明によれば、一般式(I)の化合物は、WO2001/029026出願に開示された方法に従って調製され得る。以下において、出発材料および反応物質は、これらの調製が記載されていない場合、市販されているかまたは文献等に記載されており、これらに記載されているかまたは当業者に公知である方法に従って調製され得る。
【0013】
二塩酸塩およびフマル酸塩等の、遊離塩基または他の塩形態に対して式(I)の化合物のベシル酸塩形態に関連する利点は、下記の物理化学的分析から明らかとなる。
【実施例1】
【0014】
7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩の調製
3.86gのベンゼンスルホン酸を、50mlのエタノール中に、70℃で撹拌しながら溶解する。60mlのエタノール中の11gの7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンを、撹拌しながら、前記ベンゼンスルホン酸のエタノール溶液へ添加する。引き続いて、前記溶液を、1時間当たり−20℃の温度勾配で70℃から20℃へ冷却する。
【0015】
引き続いて、回収された析出物を濾別し、22mlのエタノールで2回洗浄し、次いで50℃で真空乾燥する。
【0016】
99%の純度で、表題生成物が、白色粉末の形態で得られる。
収率:87.3%
融点=189.5℃
H NMR(303kHz,d−メタノール)δ(ppm):2.93(混合,2H),3.35−3.42(混合,2H),3.59−3.64(混合,2H),3.66(幅広 t,J=5.13,2H),4.08(broad s,2H),6.24(ddd,J=6.89,3.46,1.62,1H),7.34(混合,2H),7.37(混合,1H),7.57(t,J=7.70,1H),7.62(d,J=7.72,1H),7.72(d,J=7.91,1H),7.73(s,1H),7.79(dd,−−,1.72,1H),7.81(dd,2H),7.82(d,J=5.57,1H),7.94(d,J=8.50,1H),8.05(broad s,1H),8.42(d,J=5.82,1H),9.20(s,1H)。
【0017】
種々の塩で得られた物理化学的特性の比較
【実施例2】
【0018】
化学的安定性
二塩酸塩、二硫酸水素塩、フマル酸塩、ジベンゼンスルホン酸塩、およびモノベンゼンスルホン酸塩形態の、式(I)の化合物の化学的安定性を研究した。
【0019】
上記の5つの塩の各々を、下記の条件下で、熱、湿気、および光へ暴露する。
− 80℃の温度で14日間、
− 80℃の温度および80%の相対湿度(RH)レベルで14日間、
− 400W.Hrs.m−2の光への暴露。
【0020】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定された結果を下記表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
明らかであるように、ベシル酸塩形態の式(I)の化合物が、中でも最も高い、熱に対する化学的安定性を示す。
【0023】
ベシル酸塩形態の化合物(I)はまた、温度および湿度で行われる試験の間、前記塩の中で最も少なく分解される。
【実施例3】
【0024】
含水量
上記5つの塩の含水量を、熱重量分析(TGA)によって研究した。
【0025】
TGA試験を、TGA850モジュールを備えたTA8000装置において行う。温度較正を、インジウムの融解を使用して、従来通り行う。
【0026】
使用した実験パラメータは以下であった:
出発温度:25℃
加熱勾配:10℃/分
最終温度:二塩酸塩について250℃、フマル酸塩について300℃、二硫酸水素塩について200℃もしくは250℃、二ベシル酸塩およびベシル酸塩について250℃もしくは300℃。
【0027】
前記システムを、70ml/分の流速で窒素を使用してパージする。
【0028】
使用したパンは70μlシリカパンであった。
【0029】
結果を下記表IIに与える。
【0030】
【表2】

【0031】
二塩酸塩のTGA曲線は、該塩が、無水塩1モル当たり3つの水分子を含み、三水和形態で存在していると見なされ得ることを示している。水の減少は、比較的低温で生じ、これは、この水和物の弱く結合された性質を反映している。このような形態は、不利であると判り得、周囲条件に従って化学量論が変化することが可能である。このタイプの結果は、有効成分が異なる水和形態で存在し得る可能性を潜在的に反映している。
【0032】
フマル酸塩は、TGAにより25℃から110℃間で重量の少量の減少を示し、これは、残存する溶媒および弱く結合された水に起因すると考えられる。同様に、二硫酸水素塩および二ベシル酸塩は、残存する溶媒または弱く結合された水に起因してTGAにより重量の減少を示し、続いて、高温で、該生成物が分解する。
【0033】
二硫酸水素塩および二ベシル酸塩は、30から80%相対湿度で、収着サイクルの間、水の顕著な獲得を示し、これは医薬組成物として回避することが一般的に望まれる。脱着の間に観察されたヒステリシスは、研究した生成物の物理的形態の変化を示し、これは、一般に活性物質について望ましくない。
【0034】
DVS試験はDVS−1システムを使用して行われる。20から32mgの生成物を1分析当たり使用し、および温度を25℃プラスまたはマイナス0.2℃に維持する。窒素を、サンプルチャンバ中、100ml/分の流速で、担体ガスとして使用する。相対湿度は、サイクルに従って、30%から95%へ、次いで0%へ変化し、5分間にわたって0.0002%の平衡条件(dm/dt)が達成されたとき、徐々に増加しながら、30%で終了する。
【0035】
フマル酸の収着等温線は、この塩は、低吸湿性であることを示している。二塩酸塩の収着等温線は、1.9重量%/水の重量が、30から80%相対湿度の収着サイクルの間に得られることを示している。この顕著な収着は、依然許容可能であるが、しかし、20%から95%RHの全動作範囲にわたって弱いヒステリシスが観察されるので、ますますそうである。
【0036】
他方で、ベシル酸塩は、水和されず、および、水収着等温線測定の間、優れた挙動を示す。この塩は、試験した全ての塩のうち吸湿性が最も低いようである。収着および脱着におけるDVS測定の間、ヒステリシスは記録されず、これは、医薬開発についてこれを潜在的に有利にする。
【0037】
これらの分析から、式(I)の化合物のベシル酸塩は、乾燥または湿潤熱に対するかにかかわらず、吸湿性および安定性の両方を示すことが明らかであり、これらは、試験した他の塩のこれらよりも良好であり、および医薬の製造のためにこれを特に好適にする。
【0038】
ベシル酸塩形態の式(I)の化合物の物理化学的性質はまた、光、温度および湿度の存在に関しての予防策を過度に制限することなく、通常の条件下でこれが保存されることを可能にする。
【0039】
7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩は、TNF−αに関して調節特性を示す。したがって、これは、医薬、特に、免疫性または炎症性障害に関連する疾患を治療するように意図される医薬の調製のために使用され得る。
【0040】
このような疾患としては、以下が挙げられる。アテローム性動脈硬化症、自己免疫疾患、ニューロンの脱髄へ至る疾患(例えば、多発性硬化症)、喘息、関節リウマチ、線維症、特発性肺線維症、嚢胞性線維症、糸球体腎炎、リウマチ様脊椎炎、変形性関節症、痛風、骨および軟骨吸収、骨粗しょう症、パジェット病、多発性骨髄腫、ぶどう膜網膜炎、敗血症性ショック、敗血症、内毒素性ショック、移植片対宿主反応、移植片拒絶、成人呼吸促進症候群、珪肺症、石綿肺症、肺サルコイドーシス、クローン病、潰瘍性大腸炎、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、播種状紅斑性狼瘡(lupus erythematosus disseminatus)、血流力学的ショック(haemodynamic shock)、虚血性病的状態(心筋梗塞、心筋虚血、冠動脈攣縮(coronary vasospasm)、狭心症、心不全、心臓発作)、虚血後再灌流障害、マラリア、ミコバクテリア感染、髄膜炎、らい病、ウイルス感染(HIV、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス)、AIDS関連日和見感染、結核症、乾癬、アトピー性および接触皮膚病(atopic and contact dermatosis)、糖尿病、悪液質、癌および放射線媒介損傷(radiation−mediated damage)。
【0041】
したがって、本発明の主題は、この態様の別のものによれば、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩を含む医薬である。
【0042】
これらの医薬は、治療において、特に、免疫系の低下もしくは炎症に関連するかまたは炎症性もしくは免疫性合併症が生じ得る臨床適応症(clinical indications)の、治療および予防において、使用される。
【0043】
したがって、本発明の別の主題は、免疫性または炎症性障害に関連する疾患を治療するように意図される医薬の調製における、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩の使用である。
【0044】
本発明は、この態様の別のものによれば、有効成分として、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩を含む、医薬組成物に関する。これらの医薬組成物は、有効量の7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩および少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤を含む。該賦形剤は、所望の医薬形態および所望の投与方法に従って、当業者に公知の通常の賦形剤から選択される。
【0045】
これらの医薬組成物は、好適な賦形剤と組み合わせて、経口、非経口または静脈内投与に適切ないずれかの形態、例えば、錠剤(例えば、糖衣錠)、カプセル剤(例えば、硬ゼラチンカプセル剤)、経口摂取されるもしくは注射される懸濁剤または液剤などで提示され得る。全てのこれらの形態は、有利に、1以上の用量で、1患者1日当たり1から1000mgの投与を可能にするための投薬量を含む。より高いまたはより低い投薬量が適切である特定の場合が存在し得る。このような投薬量は、本発明の範囲から逸脱していない。通常のプラクティスによれば、各患者に対して適切な投薬量は、投与方法ならびに患者の体重および応答に依存して医師により決定される。
【0046】
例として、錠剤形態の単位投与形態は、以下の成分を含み得る。
− 7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩 50.0mg
− マンニトール 223.75mg
− クロスカルメロースナトリウム 6.0mg
− トウモロコシデンプン 15.0mg
− ヒドロキシプロピルメチルセルロース 2.25mg
− ステアリン酸マグネシウム 3.0mg
本発明はまた、この態様の別のものによれば、有効量の7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩の患者への投与を含む、炎症性または免疫性合併症が生じ得るかまたは免疫系の低下もしくは炎症に関連する臨床病理学の治療方法に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンベシル酸塩。
【請求項2】
エタノールの溶液中の7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンを、エタノール中のベンゼンスルホン酸の溶液と反応させることを特徴とする、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩の調製方法。
【請求項3】
7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩を含むことを特徴とする、医薬。
【請求項4】
有効成分として7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩および少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項5】
免疫性または炎症性障害に関連する疾患を治療するように意図される医薬の調製における、7−(2−(4−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリド−1−イル)エチル)イソキノリンのベシル酸塩の使用。
【請求項6】
関節リウマチを治療するように意図される医薬の調製における請求項5に記載の使用。

【公表番号】特表2008−534450(P2008−534450A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501367(P2008−501367)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000566
【国際公開番号】WO2006/097624
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】