説明

9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造法

【課題】 本発明は、工業的な実施に好適な9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造方法、即ち、塩酸とチオール類を触媒として、一定の品質を維持し、着色の少ない高純度な9,9−ビスクレゾールフルオレンを、短時間で効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 チオール類および塩酸の共存下、フルオレノンとクレゾールとを反応させ、9,9−ビスクレゾールフルオレンを製造する方法において、フルオレノンとクレゾールの割合がフルオレノン/クレゾール=1/6.5〜1/13(重量比)であり、且つ、チオール類と塩酸中の塩化水素の割合がチオール類/塩化水素=1/3.2〜1/8(重量比)である9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、変性アクリル樹脂等の原料として有用な9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、9,9−ビスクレゾールフルオレンなどのフルオレン誘導体は、耐熱性、透明性に優れ、高屈折率を備えたポリマー(例えばエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等)を製造するための原料として有望であり、光学レンズ、フィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基盤、耐熱性樹脂やエンジニヤリングプラスチックなどの素材原料として期待されている。
【0003】
9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造方法としては、硫酸とチオールを触媒としてフルオレノンとフェノール類を脱水縮合させた後、炭化水素溶媒と極性溶媒を用いて結晶を析出させる方法(特許文献1)が開示されている。しかし、この方法では大量の硫酸を用いるため、反応後の精製に煩雑な操作が必要であり、また製品中に触媒由来の硫黄成分が混入し、着色や安定性の低下などの問題が生じる。
【0004】
また、塩化水素とメルカプトプロピオン酸を触媒としてフルオレノンとフェノール類を脱水縮合させた後、低級アルコールと水を用いて結晶を析出させる方法が開示されている(特許文献2)。しかし、この方法では、腐食性が強く工業的に取り扱い難い塩化水素ガスを使用しているため、特別な設備や安全対策が必要である。
【0005】
塩化水素ガスを使用しない方法として、塩酸(塩化水素水溶液)とチオール類を触媒としてフルオレノンとフェノールを脱水縮合させる方法が開示されている(特許文献3)。しかし、フェノール類としてクレゾールを用いた場合、反応性が異なるばかりでなく、着色しやすく、副生成物が生成しやすいという問題点があった。
【0006】
また、塩酸(塩化水素水溶液)とチオール類を触媒としてフルオレノンとクレゾールを脱水縮合させる方法が開示されている(特許文献4)。具体的には、チオール類と塩酸中の塩化水素の割合が、チオール類/塩化水素=1/0.1〜1/3(重量比)の割合で組み合わせて使用することにより、水分の存在が反応阻害となって活性が有効に発現しなかった塩酸をもちいても前記反応が有効に進行することが記載されている。
更に、塩酸とチオール類を触媒として反応後、アセトン、アセトニトリル等のゲスト化合物をもちいてビスフェノールフルオレノン類のホストゲスト錯体を形成後、炭化水素溶媒を用いて高純度の製品を回収する方法(特許文献5)が開示されている。
【0007】
しかし、前述したように、9,9−ビスクレゾールフルオレンは、近年、例えば光学ポリカーボネート樹脂の原料として用いられており、これらの用途には、従来にもまして、反応副生成物や硫黄成分などの不純物を含まず、着色のない高純度製品を高収率で、安価に製造することが求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−221352号公報
【0009】
【特許文献2】特開平4−41450号公報
【0010】
【特許文献3】特開平8−253437号公報
【0011】
【特許文献4】特開2002−47227号公報
【0012】
【特許文献5】特開2004−91414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、工業的な実施に好適な9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造方法、即ち、塩酸とチオール類を触媒として、一定の品質を維持し、着色の少ない高純度な9,9−ビスクレゾールフルオレンを、短時間で効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、クレゾールの使用量およびチオール類と塩酸の使用割合を最適化することにより、反応時間が短縮され、且つ、一種類の溶媒を用いた1回の晶析操作で、色相の良好な高純度の9,9−ビスクレゾールフルオレンを容易に製造できること、また、塩酸中の塩化水素に対し、着色原因となるチオール類の割合が、従来の知見より少ない割合でも反応が有効に進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記(1)〜(3)を提供するものである。
(1)チオール類および塩酸の共存下、フルオレノンとクレゾールとを反応させ、9,9−ビスクレゾールフルオレンを製造する方法において、フルオレノンとクレゾールの割合がフルオレノン/クレゾール=1/6.5〜1/13(重量比)であり、且つ、チオール類と塩酸中の塩化水素の割合がチオール類/塩化水素=1/3.2〜1/8(重量比)である事を特徴とする9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造方法。
(2)チオール類の使用量が、フルオレノン1モル当たり0.01〜0.3モルである前記(1)項に記載の製造方法。
(3)反応後、芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素から選ばれる一種類の溶媒を用いて9,9−ビスクレゾールフルオレンの結晶を析出させることを特徴とする前記(1)〜(2)項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塩酸とチオール類の共存下、フルオレノンとクレゾールの反応による9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造において、色相が良好で高純度でポリマー原料として優れた製品を工業的有利に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその実施の形態とともに記載する。
【0018】
本発明においては、塩酸およびチオール類の共存下、フルオレノンとクレゾールとを反応させて9,9−ビスクレゾールフルオレンを得る。クレゾールとしてはo−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールが挙げられ、これらは単独または二種以上の組み合わせで使用できる。この中でも特にo−クレゾールが好ましい。クレゾールの使用量は、フルオレノン/クレゾール(重量比)=1/6.5〜1/13、好ましくは1/6.5〜1/9である。クレゾール量がフルオレノン/クレゾール(重量比)で1/13より多いと経済性、生産性が悪くなる。またクレゾール量がフルオレノン/クレゾール(重量比)で1/6.5より少ないと本発明のチオール類および塩酸触媒の使用割合において、反応時間が長くなり、副生成物の増加による収率低下や色相悪化の原因となる。また、反応が有効に進行しない場合がある。
【0019】
チオール類と塩酸との割合は、チオール類/塩酸中の塩化水素(重量比)=1/3.2〜1/8、好ましくは1/3.2〜1/6.4、より好ましくは1/3.5〜1/6.4である。チオール類の割合がチオール類/塩酸中の塩化水素(重量比)で1/3.2より多いと色相悪化の原因となる。また、チオール類の割合がチオール類/塩酸中の塩化水素(重量比)で1/ 8より少ないと塩酸中の水分の影響により反応が有効に進行しない場合がある。本発明のクレゾール使用量において、チオール類と塩酸触媒を前記割合で用いることにより、着色しやすいクレゾールとフルオレノンの反応において、色相が良好で高純度の9,9−ビスクレゾールフルオレンを短時間で容易に製造することができる。
【0020】
触媒として用いられる塩酸は通常、5〜36重量%、好ましくは20〜36重量%の塩化水素水溶液である。助触媒として用いられるチオール類は、公知のチオール類を使用することができる。例えば、チオ酢酸、β―メルカプトプロピオン酸、α―メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプルピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、ベンジルメルカプタンなどのアラルキルメルカプタンやそれらのアルカリ金属塩が挙げられる。チオール類は単独または二種類以上の組み合わせで使用できる。これらの中でもアルキルメルカプタンが好ましく、更には、臭気が少なく取り扱いが容易なことから、アルキル基の炭素数が6以上のアルキルメルカプタンが好ましい、特にドデシルメルカプタンである。
【0021】
チオール類の使用量は、通常、フルオレノン1モルに対して0.01〜0.3モル、好ましくは0.01〜0.1モル、さらに好ましくは0.02〜0.06モルである。チオール類が多いと色相が悪化する場合がある。また、チオール類が少ないと反応が有効に進行しない場合がある。
【0022】
フルオレノンとクレゾールとの反応を実施する方法は、特に限定されるものではないが、通常、フルオレノンとクレゾールと触媒を反応容器に仕込み、空気中又は窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、トルエン、キシレンなどの不活性溶媒存在下又は非存在下で過熱攪拌することにより行うことができる。反応は液体クロマトグラフィーなどの分析手段で追跡することができる。
【0023】
反応温度は特に限定されるものではないが、通常、80℃以下、好ましくは60〜25℃、更に好ましくは60〜40℃、特に50〜40℃である。反応温度が高すぎると副生成物の増加による収率低下や色相悪化の原因となる。反応温度が低すぎると反応が有効に進行しない場合がある。
【0024】
反応後、得られた反応液は、そのまま9,9−ビスクレゾールフルオレンの結晶を析出させてもよいが、通常、溶媒希釈後、洗浄、濃縮等の後処理を施した後に、晶析溶媒を加えて、冷却晶析により9,9−ビスクレゾールフルオレンの結晶を析出させる。析出した結晶は濾過等により回収される。得られた結晶は晶析に用いた溶媒等を用いて洗浄されてもよいし、乾燥されてもよい。晶析溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル溶媒などが用いられる。好ましくは芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素溶媒であり、更に好ましくは芳香族炭化水素溶媒、特にトルエンまたはキシレンである。晶析溶媒は単独または二種類以上の組み合わせで使用できる。
【0025】
一般的に、色相が良好で高純度な9,9−ビスクレゾールフルオレンを得るためには、複数の溶媒を用いるか、複数回晶析を繰り返す必要があるが、本発明によれば、単独溶媒を用いた1回の晶析操作で、色相が良好で高純度な、ポリマー原料として優れた9,9−ビスクレゾールフルオレンが得られる。中でも芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素溶媒を単独で用いることが好ましい。
【0026】
(実施例)
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例中、純度およびフルオレノン残存量は液体クロマトグラフィーを用い下記条件で測定した面積百分率値である。
液体クロマトグラフィー測定条件:
装置 :島津製作所(株)製LC−2010C
カラム:ODS(5μm、4.6mmφ×150mm)
移動相:水/メタノール、流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃、検出波長:UV 254nm
【実施例1】
【0027】
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、フルオレノン23g(0.13モル)、ドデシルメルカプタン1.26g(0.006モル)およびo−クレゾール161g(1.49モル)を加え、内温45℃まで昇温した後、35%塩酸12.9gを10分間かけて滴下した。その後、内温50℃で2時間反応した結果、フルオレノン残存量が0.1%以下であることを確認した。得られた反応混合液にトルエン134g、水23gを加えて80℃に加温し、29%水酸化ナトリウムを加えて中和した後、水相を分液除去し有機相に目的物を分配回収した。その後水23gで2回洗浄した。得られた有機相を減圧濃縮することにより、トルエン及びo−クレゾールを除去した。得られたスラリーにトルエン161gを加え加熱溶解した後、内温10℃まで徐々に冷却し、晶析を行った。析出した結晶を濾過、乾燥することにより、9,9−ビスクレゾールフルオレンの白色結晶42g(収率83.5%、純度99.2%)を得た。得られた結晶の溶融色は、ガードナーでNo.2であった。
【実施例2】
【0028】
実施例1のo−クレゾールの使用量を207g(1.91モル)に、35%塩酸の使用量を11.6gに変更して、実施例1と同じ操作で2時間反応した結果、フルオレノン残存量が0.1%以下であることを確認した。この反応混合液を実施例1と同じ操作で精製し結晶を取り出したところ、9,9−ビスクレゾールフルオレンの白色結晶42.5g(収率88%、純度99.1%)が得られた。得られた結晶の溶融色は、ガードナーでNo.1であった。
【実施例3】
【0029】
実施例1の助触媒を、ドデシルメルカプタン1.26g(0.006モル)からβ−メルカプトプロピオン酸0.661g(0.006モル)に変更し、35%塩酸の使用量を11.3gに変更して、実施例1と同じ操作で2時間反応した結果、フルオレノン残存量が0.1%以下であることを確認した。この反応混合液を実施例1と同じ操作で精製し結晶を取り出したところ、9,9−ビスクレゾールフルオレンの白色結晶41.5g(収率86%、純度98.9%)が得られた。得られた結晶の溶融色は、ガードナーでNo.2であった。
【実施例4】
【0030】
実施例1のドデシルメルカプタンの使用量を0.64g(0.003モル)に変更して、実施例1と同じ操作で4時間反応した結果、フルオレノン残存量が0.1%以下であることを確認した。この反応混合液を実施例1と同じ操作で精製し結晶を取り出したところ、9,9−ビスクレゾールフルオレンの白色結晶42g(収率87%、純度99.1%)が得られた。得られた結晶の溶融色は、ガードナーでNo.2であった。
【0031】
(比較例1)
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、フルオレノン23g(0.13モル)、β−メルカプトプロピオン酸2.61g(0.025モル)およびo−クレゾール83g(0.77モル)を加え、内温25℃まで昇温した後、35%塩酸8.51gを30分かけて滴下した。その後、内温40℃で10時間反応した結果、フルオレノン残存量が0.1%以下であることを確認した。得られた反応混合液にトルエン134g、水23gを加えて80℃に加温し、29%水酸化ナトリウムを加えて中和した後、水相を分液除去し有機相に目的物を分配回収した。その後水23gで2回洗浄した。得られた有機相を減圧濃縮することにより、トルエンを除去した後、濃縮液にトルエン30gおよびアセトン100gの混合液を加えて加熱し均一溶液とした後、内温10℃まで徐々に冷却し、晶析を行った。析出した結晶を濾過、乾燥することにより、9,9−ビスクレゾールフルオレンの白色結晶40.6g(収率84%、純度98.5%)を得た。得られた結晶の溶融色は、ガードナーでNo.5であった。
【0032】
(比較例2)
攪拌器、冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、フルオレノン36g(0.20モル)、β−メルカプトプロピオン酸1.20g(0.011モル)およびo−クレゾール151g(1.40モル)を加え、内温45℃まで昇温した後、35%塩酸27gを2時間かけて滴下した。その後、内温50℃で8時間反応した結果、フルオレノン残存量が0.1%以下であることを確認した。得られた反応混合液にトルエン210g、水36gを加えて80℃に加温し、29%水酸化ナトリウムを加えて中和した後、水相を分液除去し有機相に目的物を分配回収した。その後水36gで2回洗浄した。得られた有機相を減圧濃縮することにより、トルエン及びo−クレゾールを除去した後、濃縮液にアセトン100gを加えて加熱した後、内温10℃まで徐々に冷却し、晶析を行った。析出した結晶を取り出し、トルエン800gに懸濁させた後、留出する溶媒を除去しながら111℃まで加温して均一溶液とした後、室温まで徐々に冷却し、晶析した。析出した結晶を濾過、乾燥することにより9,9−ビスクレゾールフルオレンの白色結晶46.9g(収率62%、純度98.1%)を得た。得られた結晶の溶融色は、ガードナーでNo.7であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール類および塩酸の共存下、フルオレノンとクレゾールとを反応させ、9,9−ビスクレゾールフルオレンを製造する方法において、フルオレノンとクレゾールの割合がフルオレノン/クレゾール=1/6.5〜1/13(重量比)であり、且つ、チオール類と塩酸中の塩化水素の割合がチオール類/塩化水素=1/3.2〜1/8(重量比)である事を特徴とする9,9−ビスクレゾールフルオレンの製造方法。
【請求項2】
チオール類の使用量が、フルオレノン1モル当たり0.01〜0.3モルである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
反応後、芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素から選ばれる単独の溶媒を用いて9,9−ビスクレゾールフルオレンの結晶を析出させることを特徴とする請求項1〜2記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−248139(P2010−248139A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100515(P2009−100515)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】