説明

A/D変換装置、およびこれを用いた通信機器

【課題】A/D変換器の直線性誤差、D/A変換器の直線性誤差、A/D変換器とD/A変換器とのマッチング誤差を完全にキャンセルする、オフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置を提供すること。
【解決手段】A/D変換器の入力側にアナログオフセットキャンセラーを設け、A/D変換器の出力側にディジタルオフセットキャンセラーを設ける。そして、まず第1段階でアナログオフセットキャンセラーにて、入力レンジをシフトするように大きなオフセットをキャンセルする粗調整を行う。次いで、第2段階でディジタルオフセットキャンセラーにて、残留オフセットをキャンセルする微調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセットキャンセル機能を有するアナログ/ディジタル(A/D)変換装置、及びこのA/D変換装置を用いた携帯電話機などの通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、A/D変換器に存在するオフセット誤差をキャンセルするために、オフセットキャンセル機能を付加したA/D変換装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
図6は特許文献1(その実施例、図7)に示されるような従来のオフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置の構成を示す図である。
【0004】
図6において、A/D変換器60は、入力電圧Vinをディジタル電圧に変換し、出力電圧Voutとして出力する。なお、本出願の明細書、特許請求の範囲では、ディジタル形式の信号で表された電圧を、ディジタル電圧、という。
【0005】
このA/D変換器60には、オフセットが存在するので、そのオフセットをキャンセルするために、アナログオフセットキャンセラー70、D/A(ディジタル/アナログ)変換器80、オフセット演算部90及び入力切替スイッチSW1を設けている。
【0006】
図6で、オフセットキャンセル値を求める場合には、切替スイッチSW1を接点2側に切り替えて、減算器として動作するアナログオフセットキャンセラー70の正入力端子+にグランド電圧Vgnd、即ち零電圧を入力する。アナログオフセットキャンセラー70の負入力端子−への入力も、この時点では零である。このときのアナログオフセットキャンセラー70から出力される電圧、即ちA/D変換器60へのアナログ入力電圧Vaがディジタル電圧Vdに変換されて、出力電圧Voutとして出力される。
【0007】
A/D変換器60及びアナログオフセットキャンセラー70にオフセットがなければ、Voutは零である。しかし、A/D変換器60やアナログオフセットキャンセラー70にはオフセットが存在するので、出力電圧Voutはそのオフセットに応じたオフセット電圧Vofsになっている。
【0008】
このオフセット電圧Vofsを、積分回路を有するオフセット演算部90で演算処理し、ディジタルのオフセットキャンセル電圧Aofsdを得る。このオフセットキャンセル電圧AofsdをD/A変換器80でアナログのオフセットキャンセル電圧Aofsに変換して、アナログオフセットキャンセラー70の負入力端子−へ入力する。
【0009】
アナログオフセットキャンセル電圧Aofs、即ちオフセットキャンセル値をアナログオフセットキャンセラー70の負入力端子−へ入力した状態で、切替スイッチSW1を接点1側に切り替えて、アナログ入力電圧Vinをアナログオフセットキャンセラー70の正入力端子+に入力する。
【0010】
これにより、A/D変換器60やアナログオフセットキャンセラー70によるオフセット電圧はキャンセルされるから、入力電圧Vinに応じた出力電圧Voutが得られることになる。
【特許文献1】特開2003−264462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1のA/D変換装置では、A/D変換器60の直線性誤差Vofs−adの他に、オフセットキャンセルのためにD/A変換器80を設けることに伴って、D/A変換器80の直線性誤差Vofs−daと、A/D変換器60とD/A変換器80とのマッチング誤差Vofs−mとが新たに誤差成分として加わることになる。これに白色雑音(ホワイトノイズ)のばらつきVofs−wnも存在する。
【0012】
A/D変換器60やD/A変換器80の精度を高めることによって、残留するオフセット電圧を減少することはできるが、完全にキャンセルすることはできない。また、オフセットキャンセルのためのサンプリング回数を増やすことによって、残留オフセット電圧を減らすことも期待できるが、そのためにはオフセットキャンセル値を得るために要する時間が長くなってしまう。いずれにしても、特許文献1のA/D変換装置では、A/D変換装置内部のオフセット電圧を完全になくすことができない。
【0013】
また、D/A変換器80のビット数も、A/D変換器60のビット数(例、16ビット)だけ必要とするから、オフセットキャンセルのための回路規模が大きくなってしまう。
【0014】
さらに、入力電圧Vinが、RF(無線周波数)変調信号のように、中心電圧Vctrに入力信号電圧Vsigが重畳されている波形の場合には、その中心電圧Vctrのオフセット電圧を除去する必要がある。しかし、従来のA/D変換装置では、オフセットキャンセル値を求めるときに入力電圧Vinを零電圧とするから、その中心電圧Vctrのオフセット電圧を除去することはできない。したがって、アナログ入力電圧VaがA/D変換装置の内部で飽和(クリップ;電圧の大きさが制限されて波形が頭打ちになること)してしまう場合には、入力信号電圧Vsigをディジタル信号に正確に変換することができなくなるという問題もある。
【0015】
そこで、本発明は、A/D変換器の直線性誤差Vofs−ad、D/A変換器の直線性誤差Vofs−da、A/D変換器とD/A変換器とのマッチング誤差Vofs−mを完全にキャンセルする、オフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、入力電圧Vinが、中心電圧Vctrに入力信号電圧Vsigが重畳されている波形の場合に、その中心電圧Vctrのオフセット電圧を除去し、入力信号電圧Vsigを正確にディジタル信号に変換する、オフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、それらのオフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置を用いた携帯電話機などの通信機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1のA/D変換装置は、アナログの入力電圧Vinをディジタル電圧に変換して出力電圧Voutとして出力するA/D変換装置において、
A/D変換器10と、該A/D変換器の入力側に入力電圧Vinからアナログオフセットキャンセル電圧Aofsを減算した値に応じたアナログ電圧Vaを出力するように動作するアナログオフセットキャンセラー20を設けるとともに、前記A/D変換器の出力側にそのディジタル電圧Vdからディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを減算した出力電圧Voutを出力するディジタルオフセットキャンセラー30を設け、
前記アナログオフセットキャンセラー20は、入力電圧Vinを所定電圧値に設定した状態で、出力電圧Voutに基づいて求めたアナログオフセットキャンセル電圧Aofsが供給されるように構成され、
前記ディジタルオフセットキャンセラー30は、入力電圧Vinを所定電圧値に設定し、且つ求めたアナログオフセットキャンセル電圧Aofsを前記アナログオフセットキャンセラー20へ供給した状態で、出力電圧Voutに基づいて求めたディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsが供給されるように構成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項2のA/D変換装置は、入力電圧Vinとアナログオフセットキャンセル電圧Aofsとが入力され、入力電圧Vinからアナログオフセットキャンセル電圧Aofsを減算した値に応じたアナログ電圧Vaを出力するように動作するアナログオフセットキャンセラー20と、
前記アナログオフセットキャンセラー20から出力されたアナログ電圧Vaを第1所定ビット数のディジタル電圧Vdに変換するA/D変換器10と、
前記A/D変換器から出力されたディジタル電圧Vdとディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsとが入力され、ディジタル電圧Vdからディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを減算した出力電圧Voutを出力するディジタルオフセットキャンセラー30と、
出力電圧Voutが入力され、ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsd及びディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを出力するオフセット演算部50と、
第2所定ビット数のディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsをアナログ電圧に変換して、アナログオフセットキャンセル電圧Aofsを出力するD/A変換器40とを有することを特徴とする。
【0020】
請求項3のA/D変換装置は、請求項2に記載のA/D変換装置において、入力電圧Vinを所定電圧値に設定し、前記アナログオフセットキャンセラー20へのアナログオフセットキャンセル電圧Aofs及び前記ディジタルオフセットキャンセラー30へのディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsが零電圧の状態で、アナログオフセットキャンセル電圧Aofsを出力電圧Voutに基づいて前記オフセット演算部及び前記D/A変換器40により求めて、求めたアナログオフセットキャンセル電圧Aofsを前記アナログオフセットキャンセラー20に供給し、
入力電圧Vinを所定電圧値に設定したままで、且つ前記ディジタルオフセットキャンセラー30へのディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsが零電圧の状態で、ディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを出力電圧Voutに基づいて前記オフセット演算部50により求めて、求めたディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを前記ディジタルオフセットキャンセラー30に供給する、ことを特徴とする。
【0021】
請求項4のA/D変換装置は、請求項3に記載のA/D変換装置において、前記アナログオフセットキャンセル電圧Aofsは、出力電圧Voutの複数N回の平均値に基づいて求めると共に、ディジタルオフセットキャンセル電圧Aofsは、出力電圧Voutの複数M回の平均値に基づいて求めることを特徴とする。
【0022】
請求項5のA/D変換装置は、請求項3、4に記載のA/D変換装置において、前記D/A変換器40の第2所定ビット数は、前記A/D変換器10の第1所定ビット数よりも少ないビット数であることを特徴とする。
【0023】
請求項6のA/D変換装置は、請求項1乃至5に記載のA/D変換装置において、前記A/D変換器10は基準電圧Vrefを有しており、入力されるアナログ電圧Vaが基準電圧を超えるときにその超過分に応じた正のディジタル電圧が出力され、入力されるアナログ電圧Vaが基準電圧を下回るときにその不足分に応じた負のディジタル電圧が出力されることを特徴とする。
【0024】
請求項7のA/D変換装置は、請求項6に記載のA/D変換装置において、入力電圧Vinの所定電圧値は、基準電圧と等しくなるように設定されていることを特徴とする。
【0025】
請求項8のA/D変換装置は、請求項7に記載のA/D変換装置において、入力電圧Vinは、所定電圧値の中心電圧Vctrに入力信号電圧Vsigが重畳された電圧であることを特徴とする。
【0026】
請求項9のA/D変換装置は、請求項1乃至8に記載のA/D変換装置において、前記ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsd及び前記ディジタルオフセットキャンセル電圧Aofsを記憶する不揮発性メモリ装置を有することを特徴とする。
【0027】
請求項10の通信機器は、所定電圧値の中心電圧Vctrに入力信号電圧Vsigが重畳された電圧を出力する前段回路と、該前段回路からの電圧が入力電圧Vinとして入力される請求項1乃至9のいずれかに記載のA/D変換回路とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、A/D変換器の入力側にアナログオフセットキャンセラーを設け、A/D変換器の出力側にディジタルオフセットキャンセラーを設ける。そして、まず第1段階でアナログオフセットキャンセラーにて、入力レンジをシフトするように大きなオフセットをキャンセルする粗調整を行い、次いで、第2段階でディジタルオフセットキャンセラーにて、残留オフセットをキャンセルする微調整を行う。
【0029】
これにより、アナログオフセットキャンセラーだけでは除去することができなかったA/D変換装置内部の残留オフセットをキャンセルすることができる。したがって、精度の高いA/D変換を行うことができる。
【0030】
また、入力される所定電圧値のばらつきを含めて、アナログオフセットキャンセラーで大きなオフセットを粗くキャンセルするから、アナログオフセットキャンセラーやD/A変換回路の精度は低いものでよい。したがって、A/D変換装置としての回路規模を小さくすることができる。
【0031】
また、アナログオフセットキャンセルのサンプル数を少なくすることができ、全体としてのオフセットキャンセルに要する時間が短縮できる。
【0032】
また、A/D変換器10は基準電圧Vrefを有しており、入力されるアナログ電圧が基準電圧に対する超過分あるいは不足分に応じた正あるいは負のディジタル電圧を出力する。入力電圧Vinの所定電圧値をその基準電圧と等しくなるように設定することで、その所定電圧値自体のオフセットも自動的にキャンセルできる。また、A/D変換器10の正あるいは負のディジタル電圧を互いの補数値で出力することで、単にディジタル電圧を加算するだけで平均値(積算値/サンプル回数)を得ることができる。
【0033】
また、所定電圧値の中心電圧に入力信号電圧が重畳された電圧、例、RF変調信号を出力する前段回路と、本発明のA/D変換回路とを組み合わせることにより、オフセット電圧がキャンセルされるし、且つ、信号電圧がクリップされることによる出力電圧の歪みなども改善される。
【0034】
また、ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsd及びディジタルオフセットキャンセル電圧Aofsを記憶する記憶装置52として、不揮発性メモリ装置を用いる。これにより、一度求めたオフセットキャンセル電圧Aofsd、Aofsを不揮発性メモリ装置から読み出して使用する、A/D変換装置は動作開始の度にオフセットキャンセル電圧Aofsd、Aofsを求める必要がなく、常に高精度で変換できる。また、A/D変換装置や通信装置の出荷時に、オフセットキャンセルを行って、オフセットキャンセル電圧Aofsd、Aofsを不揮発性メモリ装置に記憶させておくことにより、ユーザーは安価で且つ高精度のA/D変換装置や通信装置を容易に使えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明のオフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置、及びこのA/D変換装置を用いた通信機器の実施例について、図を参照して説明する。なお、通信機器としては、例えば携帯電話機などへの適用が好適である。
【0036】
図1は、本発明の実施例に係るA/D変換装置100と、このA/D変換装置100に入力電圧Vinを入力する前段回路200とを示している。
【0037】
前段回路200は、例えばRF変調信号を出力するものであり、A/D変換装置100と共に通信機器を構成する。前段回路200からは、通常の動作状態においては、所定電圧値の中心電圧Vctrに入力信号電圧Vsigが重畳された電圧が出力される。A/D変換装置100において、オフセットキャンセル電圧を求める場合には、所定電圧値の中心電圧Vctrだけが前段回路200から出力される。
【0038】
アナログオフセットキャンセラー20は、入力電圧Vinとアナログオフセットキャンセル電圧Aofsとが入力され、入力電圧Vinからアナログオフセットキャンセル電圧Aofsを減算した値に応じたアナログ電圧Vaを出力するように動作する。オフセットキャンセル電圧を求める場合には、入力電圧Vinとして、所定電圧値の中心電圧Vctrが入力される。
【0039】
この入力される中心電圧Vctrにも本来予定された電圧値からのオフセット電圧が含まれている可能性がある。また、アナログオフセットキャンセラー20自体にもオフセット電圧が含まれている可能性がある。特に、アナログオフセットキャンセラー20は、増幅器などのアナログ回路を含んでいてもよく、この場合にはそれらの増幅器などのオフセット電圧もまた発生することになる。
【0040】
A/D変換器10は、アナログオフセットキャンセラー20から出力されたアナログ電圧Vaを第1所定ビット数のディジタル電圧Vdに変換する。この第1所定ビット数は例えば16ビットである。このA/D変換器10は基準電圧Vref(図5を参照)を有しており、前段回路200からの所定電圧値の中心電圧Vctrは本来この基準電圧Vrefに等しくなるように設定されるが、オフセット電圧を含んでしまうことがある。
【0041】
A/D変換器10では、入力されるアナログ電圧Vaが基準電圧Vrefに等しいときに零電圧を出力する。また、入力されるアナログ電圧Vaが基準電圧Vrefを超えるときにその超過分に応じた正のディジタル電圧Vdが出力され、逆に下回るときにその不足分に応じた負のディジタル電圧Vdが出力される。
【0042】
この正あるいは負の出力電圧は、互いの補数値で出力することが望ましい。この場合には、単にディジタル電圧Vdを加算するだけで平均値(積算値/サンプル回数)を得ることができるから、オフセットの演算処理が容易になる。
【0043】
ディジタルオフセットキャンセラー30は、A/D変換器10から出力されたディジタル電圧Vdとディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsとが入力される。そして、ディジタル電圧Vdからディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを減算した出力電圧Voutを出力する。
【0044】
オフセット演算部50は、出力電圧Voutが入力され、ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsd及びディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを出力する。そのためにオフセット演算部50は、図2に示されるように平均化回路51と、ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsdを記憶しておく第1オフセット記憶部52A及びディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを記憶しておく第2オフセット記憶部52Dとを持つ記憶装置52とを有している。
【0045】
この記憶装置52としては、例えばEEPROM、フラッシュメモリ、FRAMなどの不揮発性メモリで構成することがよい。
【0046】
このオフセット演算部50では、アナログオフセットキャンセル電圧Aofsは、出力電圧Voutの複数N回(Nは任意の整数)の平均値に基づいて求めると共に、ディジタルオフセットキャンセル電圧Aofsは、出力電圧Voutの複数M(Mは任意の整数)回の平均値に基づいて求める。この平均値を求めるためのN回、M回は、多くするほど残留オフセットを少なくできるが、A/D変換装置の状態に併せてそれぞれ適切な回数に設定される。
【0047】
D/A変換器40は、第2所定ビット数のディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsdをアナログ電圧に変換して、アナログオフセットキャンセル電圧Aofsを出力する。このD/A変換器40は、A/D変換装置100に入力される所定電圧値のばらつきを含めて、アナログオフセットキャンセラーを用いて大きなオフセットを粗くキャンセルするためのものであるから、アナログオフセットキャンセラー20やD/A変換回路40の精度は低いものでよい。したがって、第2所定ビット数は、第1予定ビット数(例、16ビット)よりも少ないビット数(例えば10ビット)でよい。回路規模に大きな影響を与えるアナログ回路部分が、このように少なくできることによって、A/D変換装置100としての回路規模を小さくできる。
【0048】
本発明のA/D変換装置100のオフセットキャンセル動作を説明する。まず、入力電圧Vinを所定電圧値である中心電圧Vctrに設定し、アナログオフセットキャンセル電圧Aofs及びディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsが零電圧の状態にする。この状態で、アナログオフセットキャンセル電圧Aofsを出力電圧Voutに基づいてオフセット演算部50及びD/A変換器40により求めて、アナログオフセットキャンセラー20に供給する。これがオフセットキャンセル動作の第1段階であるオフセット電圧の粗調整である。
【0049】
ついで、入力電圧Vinを所定電圧値に設定したままで、アナログオフセットキャンセラー20へ求められたアナログオフセットキャンセル電圧Aofsを供給し、且つディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsが零電圧の状態にする。この状態で、ディジタルオフセットキャンセル電圧Dofs(所定ビット数;ここでは16ビット)を出力電圧Voutに基づいてオフセット演算部50により求めて、ディジタルオフセットキャンセラー30に供給する。これがオフセットキャンセル動作の第2段階であるオフセット電圧の微調整である。
【0050】
図3は、オフセット量とオフセットキャンセル動作の関係を模式的に示す図である。A/D変換装置100には、A/D変換器10の直線性誤差Vofs−ad、D/A変換器40の直線性誤差Vofs−da、A/D変換器10とD/A変換器40とのマッチング誤差Vofs−m及び白色雑音のばらつきVofs−wnが存在し、また、前段回路200からの中心電圧Vctrのオフセット電圧Vofs−ctrも存在する。
【0051】
第1段階のアナログオフセットキャンセルでは、大きなオフセット電圧に対して粗くオフセットキャンセルを行う粗調整を行う。この粗調整により、図3に示すように、全体のオフセット量はかなりの部分がキャンセルされる。
【0052】
第2段階のディジタルオフセットキャンセルでは、第1段階で残された残留オフセットをキャンセルする微調整を行う。この微調整により、図3に示すように、白色雑音のばらつきVofs−wnを除く、A/D変換器10の直線性誤差Vofs−ad、D/A変換器40の直線性誤差Vofs−da、A/D変換器10とD/A変換器40とのマッチング誤差Vofs−m及び中心電圧Vctrのオフセット電圧Vofs−ctrは、ほぼ完全にキャンセルされる。白色雑音のばらつきVofs−wnが最終的に残留オフセットとなる。なお、白色雑音のばらつきVofs−wnは、微調整時の平均化処理のサンプル回数Mに応じて、Vofs−wn/M1/2 のように低減することが期待できる。
【0053】
このオフセットキャンセル動作を、図4のフローチャートを用いて、さらに詳しく説明する。
【0054】
図4において、オフセットキャンセル動作が開始されると、ステップS100で前段回路200から所定電圧値である中心電圧Vctrがアナログオフセットキャンセラー20の正入力端子+に入力される。この中心電圧Vctrはオフセットキャンセル動作が終了するまで同じ電圧値に保たれる。
【0055】
まず、粗調整としてのアナログオフセットキャンセルを行う。ステップS110にてA/D変換器10でA/D変換が行われる。この段階では、アナログオフセットキャンセル電圧Aofs及びディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsが零電圧であるから、全てのオフセット電圧を含んだ出力電圧Voutがオフセット演算部50に入力される。このときの出力電圧Voutをオフセット電圧として平均化回路51に積算する(ステップS120)。ステップS130で、粗調整におけるA/D変換がN回行われたかどうかを判断し、N回行われるまでステップS110〜S130が繰り返される。
【0056】
粗調整におけるA/D変換がN回行われるとステップS140に進み、平均化回路51に積算された積算結果を平均して、ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsdを得る。このディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsdを、記憶装置52の第1オフセット記憶部52Aに格納する。なお、その積算結果はクリアされる。
【0057】
このディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsdを、D/A変換器40にてアナログオフセットキャンセル電圧Aofsに変換し、これをアナログオフセットキャンセラー20の負入力端子−に入力する(ステップS150)。これにより、粗調整であるアナログオフセットキャンセルが行われたことになる。
【0058】
次に、微調整としてのディジタルオフセットキャンセルを行う。ステップS210にてA/D変換器10でA/D変換が行われる。この段階では、アナログオフセットキャンセル電圧Aofsがアナログオフセットキャンセラー20に供給されており、ディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsが零電圧である。したがって、粗調整済みのオフセット電圧を含んだ出力電圧Voutがオフセット演算部50に入力される。このときの出力電圧Voutをオフセット電圧として平均化回路51に積算する(ステップS220)。ステップS230で、微調整におけるA/D変換がM回行われたかどうかを判断し、M回行われるまでステップS210〜S230が繰り返される。
【0059】
微調整におけるA/D変換がM回行われるとステップS240に進み、平均化回路51に積算された積算結果を平均して、ディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを得る。このディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを、記憶装置52の第2オフセット記憶部52Bに格納する。
【0060】
このディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを、ディジタルオフセットキャンセラー30へ負入力−として入力する(ステップS250)。ディジタルオフセットキャンセラー30では、A/D変換器10からのディジタル電圧Vaからディジタルオフセットキャンセル電圧Dofsを減算し、オフセット電圧がキャンセルされた出力電圧Voutを出力する。これにより、粗調整であるアナログオフセットキャンセルと共に、微調整であるディジタルオフセットキャンセルが行われたことになる。これによりA/D変換装置100のオフセットキャンセル動作は終了する。
【0061】
求めたオフセットキャンセル電圧Aofsd、Aofsを、不揮発性メモリ装置である記憶装置52に格納し、必要時に読み出して使用することで、A/D変換装置は動作開始の度にオフセットキャンセル電圧Aofsd、Aofsを求める必要がなく、常に高精度で変換できる。また、A/D変換装置や通信装置の出荷時に、オフセットキャンセルを行って、オフセットキャンセル電圧Aofsd、Aofsを不揮発性メモリ装置に記憶させておくことがよい。これにより、ユーザーは安価で且つ高精度のA/D変換装置や通信装置を容易に使えるようになる。なお、使用環境の変化や、所定以上の期間が経過した場合等には、改めて、それぞれのオフセットキャンセル電圧Aofsd、Aofsを求めて、それを不揮発性メモリ装置に格納し直すようにすることが望ましい。
【0062】
図5は、入力電圧Vinが、RF変調信号のように、中心電圧Vctrに入力信号電圧Vsigが重畳されている波形の場合に、その中心電圧Vctrがオフセット電圧を含むときの作用を説明する図である。
【0063】
その中心電圧Vctrは、予定されている基準電圧Vrefと等しいことが望ましい。中心電圧Vctrが基準電圧Vrefに対してオフセット電圧|Vctr−Vref|を持っている場合に、従来のA/D変換装置では、そのオフセット電圧|Vctr−Vref|をキャンセルすることができない。この場合に、入力電圧Vinが入力されたときにオフセットキャンセラー70等が飽和して、図5のIに示すように、アナログ入力電圧Vaが最大電圧Vmaxにクリップされることが発生し、入力信号電圧Vsigをディジタル信号に正確に変換することができない。
【0064】
しかし、本発明のA/D変換装置100では、そのオフセット電圧|Vctr−Vref|をアナログオフセットキャンセラー20でキャンセルするから、図5のIIに示すように、入力電圧Vinが入力されたときにアナログ入力電圧Vaがクリップされることはなく、入力信号電圧Vsigをディジタル信号に正確に変換できる。
【0065】
このように、所定電圧値の中心電圧Vctrに入力信号電圧Vsigが重畳された電圧、例えばRF変調信号を出力する前段回路200と、本発明のA/D変換装置100とを組み合わせて、携帯電話機などの通信機器を構成することにより、回路規模の縮小化が図れ、低消費電流になるとともに、オフセット電圧がキャンセルされ、且つ、信号電圧がクリップされることによる出力電圧の歪みなども改善される。
【0066】
なお、オフセットキャンセル動作時に、A/D変換装置100へ中心電圧Vctrに正弦波などの交番電圧を重畳した電圧を入力するようにしてもよい。この場合にも、オフセット演算部50での平均化処理により、正しくオフセットキャンセルを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のオフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置の構成図
【図2】図1のオフセット演算部の構成を示す図
【図3】オフセット量とオフセットキャンセル動作の関係を模式的に示す図
【図4】オフセットキャンセル動作を説明するフローチャート
【図5】中心電圧がオフセット電圧を含むときの従来と本発明の作用を説明する図
【図6】従来のオフセットキャンセル機能を有するA/D変換装置の構成図
【符号の説明】
【0068】
100 A/D変換装置
10 A/D変換器
20 アナログオフセットキャンセラー
30 ディジタルオフセットキャンセラー
40 D/A変換器
50 オフセット演算部
51 平均化回路
52 記憶装置
200 前段回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログの入力電圧をディジタル電圧に変換して出力電圧として出力するA/D変換装置において、
A/D変換器と、該A/D変換器の入力側に入力電圧からアナログオフセットキャンセル電圧を減算した値に応じたアナログ電圧を出力するように動作するアナログオフセットキャンセラーを設けるとともに、前記A/D変換器の出力側にそのディジタル電圧からディジタルオフセットキャンセル電圧を減算した出力電圧を出力するディジタルオフセットキャンセラーを設け、
前記アナログオフセットキャンセラーは、入力電圧を所定電圧値に設定した状態で、出力電圧に基づいて求めたアナログオフセットキャンセル電圧が供給されるように構成され、
前記ディジタルオフセットキャンセラーは、入力電圧を所定電圧値に設定し、且つ求めたアナログオフセットキャンセル電圧を前記アナログオフセットキャンセラーへ供給した状態で、出力電圧に基づいて求めたディジタルオフセットキャンセル電圧が供給されるように構成されていることを特徴とする。
【請求項2】
入力電圧とアナログオフセットキャンセル電圧とが入力され、入力電圧からアナログオフセットキャンセル電圧を減算した値に応じたアナログ電圧を出力するように動作するアナログオフセットキャンセラーと、
前記アナログオフセットキャンセラーから出力されたアナログ電圧を第1所定ビット数のディジタル電圧に変換するA/D変換器と、
前記A/D変換器から出力された前記ディジタル電圧とディジタルオフセットキャンセル電圧とが入力され、ディジタル電圧からディジタルオフセットキャンセル電圧を減算した出力電圧を出力するディジタルオフセットキャンセラーと、
出力電圧が入力され、ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧及びディジタルオフセットキャンセル電圧を出力するオフセット演算部と、
第2所定ビット数のディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧をアナログ電圧に変換して、アナログオフセットキャンセル電圧を出力するD/A変換器とを有することを特徴とする。
【請求項3】
入力電圧を所定電圧値に設定し、前記アナログオフセットキャンセラーへのアナログオフセットキャンセル電圧及び前記ディジタルオフセットキャンセラーへのディジタルオフセットキャンセル電圧が零電圧の状態で、アナログオフセットキャンセル電圧を出力電圧に基づいて前記オフセット演算部及び前記D/A変換器により求めて、求めたアナログオフセットキャンセル電圧を前記アナログオフセットキャンセラーに供給し、
入力電圧を所定電圧値に設定したままで、且つ前記ディジタルオフセットキャンセラーへのディジタルオフセットキャンセル電圧が零電圧の状態で、ディジタルオフセットキャンセル電圧を出力電圧に基づいて前記オフセット演算部により求めて、求めたディジタルオフセットキャンセル電圧を前記ディジタルオフセットキャンセラーに供給することを特徴とする、請求項2に記載のA/D変換装置。
【請求項4】
前記アナログオフセットキャンセル電圧は、出力電圧の複数N回の平均値に基づいて求めると共に、ディジタルオフセットキャンセル電圧は、出力電圧の複数M回の平均値に基づいて求めることを特徴とする、請求項3に記載のA/D変換装置。
【請求項5】
前記D/A変換器の第2所定ビット数は、前記A/D変換器の第1所定ビット数よりも少ないビット数であることを特徴とする請求項3または4に記載のA/D変換装置。
【請求項6】
前記A/D変換器は基準電圧を有しており、入力されるアナログ電圧が基準電圧を超えるときにその超過分に応じた正のディジタル電圧が出力され、入力されるアナログ電圧が基準電圧を下回るときにその不足分に応じた負のディジタル電圧が出力されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のA/D変換装置。
【請求項7】
入力電圧の所定電圧値は、基準電圧と等しくなるように設定されていることを特徴とする、請求項6に記載のA/D変換装置。
【請求項8】
入力電圧は、所定電圧値の中心電圧に入力信号電圧が重畳された電圧であることを特徴とする、請求項7に記載のA/D変換装置。
【請求項9】
前記ディジタル形式アナログオフセットキャンセル電圧Aofsd及び前記ディジタルオフセットキャンセル電圧Aofsを記憶する不揮発性メモリ装置を有することを特徴とする、請求項1乃至8に記載のA/D変換装置。
【請求項10】
所定電圧値の中心電圧に入力信号電圧が重畳された電圧を出力する前段回路と、該前段回路からの電圧が入力電圧として入力される請求項1乃至9のいずれかに記載のA/D変換回路とを有することを特徴とする、通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−33479(P2006−33479A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210195(P2004−210195)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】