説明

ATカット水晶振動子

【課題】短冊状振動子において厚み滑り振動と結合する厚み屈曲振動モードを抑圧する圧電振動子を提供する。
【解決手段】長さL1の長手方向をX軸、長さWの幅方向をZ’軸、厚みHの厚さ方向をY’軸とした圧電基板1のほぼ中央部にX軸方向の頂辺の長さをL2、該頂辺L2を望む仰角をそれぞれθ1゜、θ2゜、Z’軸方向の頂辺の長さをW、厚さをtとしたXY’断面が台形状の凸部を形成すると共に、該台形状の凸部上面と、該凸部と対向する圧電基板1の裏面に対向する電極2a、2bを付着し、電極2a、2bからそれぞれ圧電基板1の端部に向けてリード電極3a、3bを延在して圧電振動素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電振動子に関し、特に厚み滑り振動に結合する厚み屈曲振動モードを抑圧した圧電振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子、例えばATカット水晶振動子は小型であること、高精度、高安定な周波数が容易に得られるため、通信機から電子機器まで広く使用されている。
図4は従来の表面実装形水晶振動子(SMD水晶振動子)の構成を示す斜視図であって、水晶結晶から短冊状に切り出されたATカット水晶基板11の両主面に対向する電極12a、12bを付着すると共に、該電極12a、12bからそれぞれ基板11の端部に向けてリード電極13a、13bを延在して、水晶振動素子Sを形成する。次に、水晶振動素子Sをセラミックパッケージ(図示しない)に収容し、そのリード電極13a、13bをパッケージ内部の段差部に設けた端子電極に、導電性接着剤等を用いて導通固定する。さらに、該水晶振動子を真空装置に入れて、蒸着等の手段を用いて所望の周波数に微調整した後、金属蓋を抵抗溶接して水晶振動子を構成する。
【0003】
図4に示すように、短冊状水晶振動子は長手方向をX軸に、幅方向をZ’軸に、厚さ方向をY’軸に設定するのが一般的である。周知のように、圧電基板の各部の寸法が適切でないと、X−Y’面に生ずる屈曲振動が厚み滑り振動と結合して、該振動の周波数及びクリスタルインピーダンス(CI)に変動を生じることになる。
近年、水晶振動子の更なる小型化を図るため、辺比(厚さに対する輪郭寸法の比)のより小さな短冊状の基板が採用されるようになった。そのため、主振動である厚み振動と、輪郭系振動、例えば面滑り振動や屈曲振動等との結合がわずかな加工誤差によっても生じるという問題をかかえている。
【0004】
例えば、輪郭系振動との結合を避ける手段として、図5(a)、(b)、(c)に示す断面図ように、圧電基板の主面を加工した水晶振動子が考案され、使用されてきた。即ち、図5(a)は主面の端を斜めに切り落としたような形状で、一般に面取り振動子(ベベリング振動子)と称している。また、図5(b)は主面をレンズ状に加工する、所謂コンベックス振動子(プラノコンベックス振動子)、図5(c)は主面の一部を凸状に加工した振動子(メサ状振動子)である。いずれの場合も厚み滑り振動の振動エネルギーを基板中央部に集中させると共に、輪郭系振動との結合を弱めるように作用している。
【0005】
図6(a)に示す平板の短冊状振動子と、(b)に示すメサ状振動子との振動変位分布の違いを有限要素法を用いて、シミュレーションにより求めたものが図6(c)である。即ち、基板の長手方向の寸法X0を4800μm、幅方向の寸法Z0を780μm、厚さY0を128μmとし、金電極Dの寸法は3600μm、その膜厚を0.9μmとした水晶振動子の振動エネルギー分布Pを示している。また、電極Dによる周波数低下に相当する量をメサ構造の厚さに換算して、凸状部の厚みtを12.98μmとした水晶振動子の振動エネルギー分布をTで示す。このとき、薄い電極膜(導電性はあるが、質量負荷効果がないとした電極膜)を凸部と、該部と対向する基板の裏面に付着しているものとした。縦軸は振動変位の自乗、即ち振動エネルギーを基板中央の値で基準化し、横軸は基板中央からの距離を示している。
図6(c)から明らかなように、いずれの場合も基板の端部で高次の厚み屈曲振動による変位が生じているが、メサ状振動子(T)の方が平板短冊振動子(P)より振動変位が小さいことが分かる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、メサ型構造の水晶振動子は従来の平板の短冊状水晶振動子より、ある程度厚み屈曲振動を抑圧できるものの、十分に抑圧しきれない場合もあり、これが厚み滑り振動と結合し、該振動の周波数温度特性になめらかな3次曲線からズレを生じさせたり、あるいはCI−温度特性に変動(CIディップ)を生じさせるという問題があった。
本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、厚み屈曲振動を抑圧した水晶振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る圧電振動子の請求項1記載の発明は、長手方向をX軸、幅方向をZ’軸、厚さ方向をY’軸とした短冊状ATカット水晶基板上にXY’断面の形状が台形状である凸部を前記水晶基板と一体的に形成し、該凸部上面と対向する基板裏面とに対向電極を設けたことを特徴とする圧電振動子である。
請求項2記載の発明は、前記凸部の斜面と基板面との仰角をθ1、θ2とするとき、該仰角θ1、θ2がいずれもを90゜より小さいことを特徴とする圧電振動子である。
請求項3記載の発明は、前記仰角θ1、θ2をそれぞれほぼ35゜、63゜としたことを特徴とする圧電振動子である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る圧電振動子の、(a)は斜視図、(b)はその断面図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は本発明に係る圧電基板を形成するプロセスを示す断面図である。
【図3】(a)はシミュレーションに用いた台形状の凸部を有する圧電基板の断面図、(b)は仰角αをパラメータとした変位のエネルギー分布を示す図である。
【図4】従来の短冊状水晶振動子の斜視図である。
【図5】(a)は面取りをした基板、(b)コンベックス加工した基板、(c)はメサ状加工した基板の断面図である。
【図6】(a)は短冊状振動子の断面図、(b)はメサ状振動子の断面図、(c)は圧電基板の形状による振動変位エネルギー分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1(a)は本発明に係る圧電振動子の構成を示す斜視図であって、長さLの長手方向をX軸、長さWの幅方向をZ’軸、厚みHの厚さ方向をY’軸とした圧電基板1のほぼ中央部にX軸方向の頂辺の長さをL2、該頂辺L2を望む仰角をそれぞれθ1とθ2、Z’軸方向の頂辺の長さをW、厚さをtとしたXY’断面が台形状の凸部を形成すると共に、該台形状の凸部上面と、該凸部と対向する圧電基板1の裏面に対向する電極2a、2bを付着し、電極2a、2bからそれぞれ圧電基板1の端部に向けてリード電極3a、3bを延在して圧電振動素子を構成したものである。
【0010】
本発明の特徴は、図6(c)に示すような凸部の両端が直角となっているメサ状圧電基板ではなく、図2(b)に断面図を示すように、台形状の頂辺を望む仰角をそれぞれθ1とθ2とした凸部を有する圧電基板を用いて圧電振動子を構成したことである。
本発明に係る圧電基板の形成法を図2に示した図面に従って説明する。始めに、所望の周波数を得るための厚みを有するATカット基板1に蒸着等の手段を用いて金属膜4、例えば金(Au)の膜を付着すると共に、該膜4の上にフォトレジスト膜を塗布し、マスクを介して露光、現像して図2(a)に示すような圧電基板1上に周期的に並んだ帯状電極膜4を形成する。次に、これをエッチング液、例えばフッ化アンモニウム液中でエッチングすると、水晶結晶の異方性により図2(b)に断面図を示すように、エッチングされた溝の両側の壁面が所定の角度を備えたエッチング面を呈することになる。金属膜4を剥離すると図2(c)に示すように、エッチング溝が規則的に並んだ圧電基板1となり、台形状の凸部の頂辺を望む仰角は、+X軸方向ではθ1=約35゜、−X軸方向ではθ2=約63゜の基板が得られ、該基板をQ−Qで切断することにより、本発明に係る台形状の凸部を有する基板が得られる。なお、凸部の厚みtはエッチングの時間により制御することができる。
【0011】
図3(a)は台形状の凸部を有する圧電基板の断面を示す図で、頂辺を望む仰角をいずれもαと設定し、頂辺の長さをL2、凸部の厚みをt、X軸方向の寸法をL1、基板の厚みをH、Z’方向の幅をW(図示しない)とした基板である。図3(b)は、(a)に示した基板の長手方向の寸法L1を4800μm、幅方向の寸法Wを780μm、厚さHを141μmとし、台形状の凸部の頂辺の長さL2を3600μm、その厚さtを12.98μmとした水晶基板に、薄い電極膜(導電性はあるが、質量負荷効果がないとした電極膜)を付着した水晶振動子の振動エネルギー分布を有限要素法を用いて、シミュレーションにより求めた図である。仰角αをパラメータとし、35゜、63゜、90゜と変化させて変位分布を比較した。図3(b)から明らかなように、仰角αを従来のように直角とするより、小さくして行くと基板周縁部に生ずる厚み屈曲振動の変位が小さくなることが判明した。
厚み屈曲振動の変位が小さいということは、厚みすべり振動と厚み屈曲振動との結合が小さいことを意味し、周波数温度特性がなめらかな3次曲線を描くことになり、CI−温度特性がフラットに近づくことになる。
【0012】
(発明の効果)
本発明は、以上説明したように構成したので、厚み振動と厚み屈曲振動との結合を抑圧でき、周波数温度特性がなめらかで、CIディップの少ない圧電振動子を可能とした。本発明になる圧電振動子を携帯電話等に多く使用されている温度補償水晶発振器等に用いればその歩留まりが向上しるという優れた効果を表す。
【符号の説明】
【0013】
1・・圧電基板 2a、2b・・電極 3a、3b・・リード電極 4・・エッチング用金属膜 L1・・X軸方向の寸法 W・・Z’方向の寸法 H・・基板の厚み L2・・凸部のX軸方向寸法 t・・凸部の厚み θ1、θ2・・仰角 Q・・切断面 α・・仰角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向をX軸、幅方向をZ’軸、厚さ方向をY’軸とした短冊状ATカット水晶基板上にXY’断面の形状が台形状である凸部を前記水晶基板と一体的に形成し、該凸部上面と対向する基板裏面とに対向電極を設けたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
前記凸部の斜面と基板面との仰角をθ1、θ2とするとき、該仰角θ1、θ2がいずれもを90゜より小さいことを特徴とする圧電振動子。
【請求項3】
前記仰角θ1、θ2をそれぞれほぼ35゜、63゜としたことを特徴とする圧電振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−66905(P2011−66905A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231606(P2010−231606)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【分割の表示】特願2000−42067(P2000−42067)の分割
【原出願日】平成12年2月18日(2000.2.18)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】