説明

ATM阻害剤

式(I)(式中:RおよびRは一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい窒素含有複素環を形成しており;ならびにRはヒドロキシおよび−NRN1N2から選択され、ここでRN1およびRN2は、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、置換されていてもよいC3−20ヘテロシクリル基および置換されていてもよいC5−20アリール基から独立に選択され、または一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい窒素含有複素環を形成している)の化合物、ならびにその異性体、塩、溶媒和物、化学的に保護された形態、およびプロドラッグ、ならびにATMの阻害でのその使用。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はATM阻害剤として作用する化合物、その使用および合成に関する。
【0002】
ヒトのDNAは常に、主として酸化的代謝の副産物からの活性酸素中間体による攻撃に曝されている。活性酸素種はDNA一本鎖切断を生じさせることができ、そのようなもの2つが非常に近接して生じた場合は、DNA二本鎖切断(DSB)が生じる。さらに、DNA複製フォークがダメージを受けた鋳型と遭遇すると一本鎖および二本鎖切断が誘導され、それらの切断は電離放射線(IR)およびある種の抗癌剤(例えば、ブレオマイシン、エトポシド、カンプトテシン)などの外来性作用物によって生じる。DSBはまた、機能を有する脊椎動物の免疫系の発生にきわめて重要なプロセスである部位特異的V(D)J組換えにおける中間体としても生ずる。DNA DSBが修復されないままとなった場合、または不正確に修復された場合には、変異および/または染色体の異常が誘発され、それが今度は細胞死をもたらしうる。DNA DBSによってもたらされる深刻な脅威に打ち勝つために、真核細胞はそれらの修復を媒介するいくつかの機作を発達させている。DNA修復のプロセスにきわめて重要なのは、その細胞にダメージを修復するための時間を与えるために、細胞の増殖を遅らせることである。DNA DSBの検出、およびこの情報の細胞周期機構へのシグナル伝達において鍵となるタンパク質は、キナーゼATM(ataxia telangiectasia mutated, 毛細血管拡張性運動失調症の変異)である(DurocherとJackson (2001) DNA-PK, ATM and ATR as sensors of DNA damage:variations on a theme? Curr Opin Cell Biol., 13:225-31, Abraham(2001) Cell cycle checkpoint signaling through the ATM and ATR kinases. Genes Dev., 15;2177-96)。
【0003】
ATMタンパク質は、そのカルボキシル末端領域中にキナーゼドメインと推定されるものがあるのでホスファチジルイノシトール(PI)3−キナーゼファミリーのタンパク質の一員とされている約350 kDaのポリペプチドである(Savitskyら (1995) A single ataxia telangiectasia gene with a product similar to PI-3 kinase. Science, 268:1749-53)。PI 3−キナーゼそれ自身などの古典的なPI 3−キナーゼはシグナル伝達と細胞内のセカンドメッセンジャーとして働くイノシトール脂質のリン酸化に関与している(TokerとCantley (1997) Signaling through the lipid products of phosphoinositide-3-OH kinase, Nature, 387:673-6で総説が述べられている)。しかし、ATMは、PI 3−キナーゼファミリーのサブセットと大部分の配列が類似しており、そのファミリーはATMと同様に、細胞周期の調節ならびに/またはDNAの損傷の検出およびシグナル伝達に関与しているものである(KeithとSchreiber (1995) PIK-related kinases:DNA repair, recombination, and cell cycle checkpoints, Science, 270:50-1, Zakian (1995) ATM-related genes: what do they tell us about functions of the human gene? Cell, 82;685-7)。特に、現在までのところ、PI 3−キナーゼファミリーのこのサブセットのメンバーのいずれかが脂質をリン酸化できるとの証拠はない。しかし、このファミリーのメンバーは全てセリン/トレオニンキナーゼ活性を有することが示されている。ATMは、DNAのDBS生成に応じて開始される種々の細胞周期チェックポイントシグナル伝達経路に関与する鍵となるタンパク質をリン酸化する(下記参照)。そのような下流のエフェクタータンパク質としてはp53、Chk2、NBS1/ニブリン、BRCA1、およびRad 17が挙げられる(Abraham, 2001)。
【0004】
ATMは、毛細血管拡張性運動失調症(A−T)において変異している遺伝子の産物である(Savitskyら (1995))。A−Tは人口100,000人あたり約一例発生する、ヒト常染色体劣性遺伝病である。A−Tは、進行性小脳変性、眼皮膚毛細血管拡張症、成長の遅延、免疫不全、癌の素因、および早発老化のいくつかの特徴を含む多数の衰弱症状によって特徴付けられる(LavinとShiloh (1997), The genetic defect in ataxia-telangiectasia. Annu. Rev.Immunol., 15:177-202; Shiloh (2001), ATM and ATR:networking cellular responses to DNA damege, Curr. Opin. Genet. Dev., 11:71-7)。細胞レベルでは、A−Tは染色体の不安定性が高度であり、放射線に抵抗性のDNA合成が起こり、電離放射線(IR)および放射線類似作用薬物に高感受性であることが特徴である。さらに、A−T細胞は、DNA損傷に対してそのゲノムをDNA複製または有糸分裂の前に修復できるようにするためにそのDNA損傷に応答してその細胞周期を一旦止めると考えられている、放射線で誘発されるG−S、S、およびG−M細胞周期チェックポイントに異常がある(LavinとShiloh, 1997)。このことはおそらく部分的には、A−T細胞がIRに応答するp53の誘導を行わないかまたは非常に遅らせるという事実を反映したものであろう。事実、p53が媒介するその後の現象も、IR暴露後のA−T細胞中では不完全なものとなる。従って、ATMは、IRで誘導されるDNA損傷シグナル伝達経路中ではp53の上流で作用する。また、A−T細胞では、電離放射線の照射を受けた後にDNA二本鎖切断(dsb)が蓄積することが示されており、これはdsb修復が不完全であることを示唆している。
【0005】
ATMがDNA DSBに対する細胞性応答の主要なレギュレーターであることは明らかである。従って、小分子を介するこのキナーゼを阻害すれば、DNA DSBを直接的または間接的に誘発する、電離放射線および化学療法の双方に対する感受性を細胞に持たせることになる。従ってATM阻害剤は癌の放射線療法および化学療法の補助剤として用いることができる。現在までに報告されているATMの阻害剤はカフェインとウォルトマンニンのみであり(Sarkariaら, (1999) Inhibition of ATM and ATR kinase activities by the radiosensitizing agent, caffeine. Cancer Res., 59:4375-82; Baninら, (1998) Enhanced phosphorylation of p53 by ATM in response to DNA damage. Science, 281:1674-1677)、これらは放射線感受性化を生じさせるがその作用機作がATMの阻害によるものかどうかは明確ではなく、それはこれらの小分子がキナーゼ阻害剤としては非常に非特異的であるからである。
【0006】
電離放射線が誘発するDNA損傷に応答するATMの機能は組織特異的であることが示されている。例えば、Atmヌルマウス由来の線維芽細胞は放射線に感受性だが、AtmヌルニューロンはIRで誘導されるアポトーシスがないので放射線に抵抗性である(Herzogら, (1998) Requirement for Atm in ionizing radiation-induced cell death in the developing central nervous system. Science, 280:1089-91)。従って、ATMの阻害剤は特定の細胞の状況においては放射線防護性を示す可能性がある。
【0007】
ATM阻害剤はまた、レトロウイルスが媒介する疾患の処置にも有用であろう。一定の条件下ではレトロウイルスDNAの安定な形質導入にはATM機能が必要であることが示されている(Daniel ら. (2001) Wortmannin potentiates integrase-mediated killing of lymphocytes and reduces the efficiency of stable transduction by retroviruses. Mol. Cell Biol., 21:1164-72)。従って、ATM阻害剤はレトロウイルスDNAのインテグレーションをブロックする能力がある。
【0008】
ATMはテロメア性の染色体の末端の長さの調節にきわめて重要な役割を果たしていることが知られている(Metcalfeら. (1996) Accelerated telomere shortening in ataxia telangiectasia Nat Genet., 13:350-3)。大多数の正常な細胞タイプではテロメア性の末端は細胞分裂毎に短くなる。過剰に短縮されたテロメアを有する細胞は分裂できない。従って、ATM阻害剤は癌性の、または前癌性の細胞の増殖能を限定させることによる癌の進行の防止に有用なものとなる可能性がある。さらに、ATMはテロメラーゼの酵素それ自体の一部ではないものと思われる(Metcalfら. (1996))。従って、ATM阻害剤は抗テロメラーゼ剤と協同して作用しうると考えられる。
【0009】
A−T患者またはATMヌルマウス由来の細胞は培養液中で遺伝的にマッチしたATM陽性細胞よりも増殖が遅い。従って、ATM阻害剤はそれ自身の本来の状態で増殖阻害/抗増殖性を有しているのかもしれない。従って、ATM阻害剤は癌処置において細胞増殖抑制剤として用いることができる。
【0010】
A−T患者は免疫不全を示す。このことは完全な機能を有する免疫系が作られるにはATMが必要であることを示している。従って、ATMの阻害剤は免疫系を調節するために用いることができる。
【0011】
要約すれば、ATM阻害剤は、腫瘍細胞を電離放射線またはDNA DSBを誘導する化学療法に対して感受性となるようにし、テロメアの長さを制御する機作に変化を与え、レトロウイルスのインテグレーションをブロックし、免疫系に変化を与え、DNAの損傷が誘発するアポトーシスから特定の細胞タイプを防護する能力を有する。
【発明の開示】
【0012】
本発明者らのなかには、ATMの阻害を示す広範なクラスの化合物についてこれまでに報告しているものもいる。それらの化合物は国際公開第03/070726号パンフレットに記述されており、その文献は参照により本明細書に組み入れられる。
【0013】
本発明者らは、今回、ATMの阻害を示すさらに特異的な化合物を発見した。従って、本発明の第1の態様では、式Iの化合物:
【化1】

【0014】
ならびにその異性体、塩、溶媒和物、化学的に保護された形態、およびプロドラッグを提供する。式中:
およびRは一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい窒素含有複素環を形成しており;ならびに
はヒドロキシおよび−NRN1N2から選択され、ここでRN1およびRN2は、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、置換されていてもよいC3−20ヘテロシクリル基および置換されていてもよいC5−20アリール基から独立に選択され、または一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい窒素含有複素環を形成している。
【0015】
本発明の第2の態様では、第1の態様の化合物および製薬上許容される担体または希釈剤を含む組成物が提供される。
【0016】
本発明の第3の態様では、第1の態様の化合物の治療方法における使用を提供する。
【0017】
本発明の第4の態様では、第1の態様の化合物のATMの活性を阻害する医薬の調製における使用を提供する。
【0018】
本発明の第5の態様では、癌治療での補助剤(adjunct)として用いる医薬、または電離放射線もしくは化学療法剤を用いた処置に対して腫瘍細胞を感受性化する(potentiating)医薬の調製における本発明の第1の態様の化合物の使用を提供する。
【0019】
本発明の第6の態様では、後天性免疫不全症候群を含めて、レトロウイルス媒介性の疾患またはATMの阻害によって改善される疾患の処置のための医薬の調製における本発明の第1の態様の化合物の使用を提供する。
【0020】
本発明のさらなる態様では、好ましくは医薬組成物の形態での、ヒトまたは動物体の処置方法で用いる本明細書に記載の活性化合物を提供する。
【0021】
本発明の別の態様では、細胞を本明細書に記載の活性化合物の有効量と接触させる段階を含む、インビトロまたはインビボにおいてATMを阻害する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
定義
1−7アルキル:本明細書において用いられる「C1−7アルキル」という用語は、炭素原子を1個から7個有するC1−7炭化水素化合物から水素1原子を除去することによって得られる1価の分子部分に関し、そのC1−7炭化水素化合物は脂肪族化合物もしくは脂環式化合物、またはそれらの組み合わせとすることができ、その化合物は飽和したもの、部分的に不飽和のもの、または完全に不飽和のものとすることができる。
【0023】
飽和直鎖状C1−7アルキル基の例としては、限定はされないが、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、およびn−ペンチル(アミル)が挙げられる。
【0024】
飽和分枝C1−7アルキル基の例としては、限定はされないが、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、およびネオ−ペンチルが挙げられる。
【0025】
飽和脂環式C1−7アルキル基(「C3−7シクロアルキル」基とも呼ばれる)の例としては、限定はされないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルのような基、ならびに、例えばこれらの基を含んでいる基である、メチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、ジメチルシクロブチル、メチルシクロペンチル、ジメチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロプロピルメチル、およびシクロヘキシルメチルなどの置換された基が挙げられる。
【0026】
1個以上の炭素−炭素二重結合を有する不飽和C1−7アルキル基(「C2−7アルケニル基」とも呼ばれる)の例としては、限定はされないが、エテニル(ビニル、−CH=CH)、2−プロペニル(アリル、−CH−CH=CH)、イソプロペニル(−C(CH)=CH)、ブテニル、ペンテニル、およびヘキセニルが挙げられる。
【0027】
1個以上の炭素−炭素三重結合を有する不飽和C1−7アルキル基(「C2−7アルキニル基」とも呼ばれる)の例としては、限定はされないが、エチニルおよび2−プロピニル(プロパルギル)が挙げられる。
【0028】
1個以上の炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂環式(炭素環式)C1−7アルキル基(「C3−7シクロアルケニル基」とも呼ばれる)の例としては、限定はされないが、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、およびシクロヘキセニルなどの置換されていない基、ならびに、例えばそのような基を含んでいる基である、シクロプロペニルメチルおよびシクロヘキセニルメチルなどの置換された基が挙げられる。
【0029】
3−20ヘテロシクリル:本明細書において用いられる「C3−20ヘテロシクリル」という用語は、C3−20複素環化合物の環原子から水素原子1個を除去することによって得られた1価の分子部分に関し、該化合物は環を1つ、または2個以上有し(例えば、スピロ、縮合環、架橋されたもの)、3から20個の環原子を有し、それらの原子の1から10個は環のヘテロ原子であり、その環(1個または複数個)のうちの少なくとも1つが複素環である。好ましくは、環は各々が3から7個の環原子を有し、そのうちの1から4個が環のヘテロ原子である。「C3−20」とは環の原子数を、それが炭素原子、ヘテロ原子のいずれであっても、示すものである。
【0030】
環原子として窒素を1個有しているC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン(テトラヒドロピロール)、ピロリン(例えば3−ピロリン、2,5−ジヒドロピロール)、2H−ピロールまたは3H−ピロール(イソピロール、イソアゾール)、ピペリジン、ジヒドロピリジン、テトラヒドロピリジン、およびアゼピン由来のものが挙げられる。
【0031】
環原子に酸素を1個有しているC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、オキシラン、オキセタン、オキソラン(テトラヒドロフラン)、オキソール(ジヒドロフラン)、オキサン(テトラヒドロピラン)、ジヒドロピラン、ピラン(C)、およびオキセピン由来のものが挙げられる。置換されたC3−20ヘテロシクリル基の例としては環状の糖、例えば、フラノースおよびピラノース、それらとしては、例えばリボース、リキソース、キシロース、ガラクトース、スクロース、フルクトース、およびアラビノースが挙げられる。
【0032】
環原子に1個の硫黄を有するC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、チイラン、チエタン、チオラン(テトラヒドロチオフェン)、チアン(テトラヒドロチオピラン)、およびチエパン由来のものが挙げられる。
【0033】
環原子に酸素を2個有しているC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、ジオキソラン、ジオキサン、およびジオキセパン由来のものが挙げられる。
【0034】
環原子に窒素を2個有しているC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、イミダゾリジン、ピラゾリジン(ジアゾリジン)、イミダゾリン、ピラゾリン(ジヒドロピラゾール)、およびピペラジン由来のものが挙げられる。
【0035】
環原子に窒素を1個および酸素を1個有しているC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、テトラヒドロオキサゾール、ジヒドロオキサゾール、テトラヒドロイソキサゾール、ジヒドロイソキサゾール、モルホリン、テトラヒドロオキサジン、ジヒドロオキサジン、およびオキサジン由来のものが挙げられる。
【0036】
環原子に酸素を1個および硫黄を1個有しているC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、オキサチオラン、およびオキサチアン(チオキサン)由来のものが挙げられる。
【0037】
環原子に窒素を1個および硫黄を1個有しているC3−20ヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、チアゾリン、チアゾリジン、およびチオモルホリン由来のものが挙げられる。
【0038】
3−20ヘテロシクリル基のその他の例としては、限定はされないが、オキサジアジン、およびオキサチアジンが挙げられる。
【0039】
1個以上のオキソ(=O)基をさらに有するヘテロシクリル基の例としては、限定はされないが、次のものに由来するものが挙げられる:
複素環、例えばフラノン、ピロン、ピロリドン(ピロリジノン)、ピラゾロン(ピラゾリノン)、イミダゾリドン、チアゾロン、およびイソチアゾロン;
複素環、例えばピペリジノン(ピペリドン)、ピペリジンジオン、ピペラジノン、ピペラジンジオン、ピリダジノン、およびピリミジノン(例えば、シトシン、チミン、ウラシル)、およびバルビツール酸;
縮合複素環、例えばオキシンドール、プリノン(例えばグアニン)、ベンゾキサゾリノン、ベンゾピロン(例えば、クマリン);
環状無水物(環中に−C(=O)−O−C(=O)−がある)、限定はされないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、および無水グルタル酸など;
環状カーボネート(環中に−O−C(=O)−O−がある)、例えば、エチレンカーボネート、および1,2−プロピレンカーボネート;
イミド(環中に−C(=O)−NR−C(=O)−がある)、限定はされないが、スクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、およびグルタルイミドなど;
ラクトン(環状エステル、環中に−O−C(=O)−がある)、限定はされないが、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン(2−ピペリドン)、およびε−カプロラクトンなど;
ラクタム(環状アミド、環中に−NR−C(=O)−がある)、限定はされないが、β−プロピオラクタム、γ−ブチロラクタム(2−ピロリドン)、δ−バレロラクタム、およびε−カプロラクタムなど;
環状カルバメート(環中に−O−C(=O)−NR−がある)、例えば2−オキサゾリドン;
環状尿素(環中に−NR−C(=O)−NR−がある)、例えば2−イミダゾリドン、およびピリミジン−2,4−ジオン(例えば、チミン、ウラシル)。
【0040】
5−20アリール:本明細書において用いられる「C5−20アリール」という用語は、C5−20芳香族化合物の芳香環の原子から水素原子1個を除去することによって得られた1価の分子部分に関し、該化合物は環を1つ、または2個以上有し(例えば、縮合環)、5から20個の環原子を有し、それらの環の少なくとも1個が芳香環である。好ましくは、環は各々が5から7個の環原子を有する。
【0041】
環原子は「カルボアリール基」中のように全て炭素原子とすることができ、そのような場合には、その基は便宜上「C5−20カルボアリール」基と呼ぶことができる。
【0042】
環ヘテロ原子を持たないC5−20アリール基(すなわち、C5−20カルボアリール基)の例としては、限定はされないが、ベンゼン(すなわちフェニル)(C)、ナフタレン(C10)、アントラセン(C14)、フェナントレン(C14)、ナフタセン(C18)、およびピレン(C16)に由来する基が挙げられる。
【0043】
縮合環を含み、そのうちの1つが芳香環でないアリール基の例としては、限定はされないが、インデンおよびフルオレン由来の基が挙げられる。
【0044】
あるいはまた、その環原子には「ヘテロアリール基」のように、酸素、窒素、および硫黄を含むがこれらに限定されない、1つ以上のヘテロ原子を含むことができる。この場合には、その基は便宜上「C5−20ヘテロアリール」基と呼ぶことができ、ここで「C5−20」とは、環の原子数を、それが炭素原子、ヘテロ原子のいずれであっても、示すものである。好ましくは、環の各々は5から7個の環原子を有し、そのうちの0から4個は環ヘテロ原子である。
【0045】
5−20ヘテロアリール基の例としては、限定はされないが、フラン(オキソール)、チオフェン(チオール)、ピロール(アゾール)、イミダゾール(1,3−ジアゾール)、ピラゾール(1,2−ジアゾール)、トリアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、およびオキサトリアゾール由来のCヘテロアリール基;ならびにイソキサジン、ピリジン(アジン)、ピリダジン(1,2−ジアジン)、ピリミジン(1,3−ジアジン;例えば、シトシン、チミン、ウラシル)、ピラジン(1,4−ジアジン)、トリアジン、テトラゾール、およびオキサジアゾール(フラザン)由来のCヘテロアリール基が挙げられる。
【0046】
縮合環を含んでいるC5−20ヘテロアリール基の例としては、限定はされないが、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、プリン(例えば、アデニン、グアニン)、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾール由来のC複素環基;キノリン、イソキノリン、ベンゾジアジン、ピリドピリジン、キノキサリン由来のC10複素環基;カルバゾール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン由来のC13複素環基;アクリジン、キサンテン、フェノキサチン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジン由来のC14複素環基が挙げられる。
【0047】
上記のC1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、およびC5−20アリール基は、それらが単独で存在するかまたは別の置換基の一部となっているかにかかわらず、それらをそれら自体および下記に列挙した追加の置換基から選択された1つ以上の基で任意に置換することができる。
【0048】
ハロ:−F、−Cl、−Br、および−I。
【0049】
ヒドロキシ:−OH。
【0050】
エーテル:−OR、ここでRはエーテル置換基、例えば、C1−7アルキル基(これはC1−7アルコキシとも呼ばれ、下記に述べる)、C3−20ヘテロシクリル基(これはC3−20ヘテロシクリルオキシ基とも呼ばれる)、またはC5−20アリール基(これはC5−20アリールオキシ基とも呼ばれる)であり、好ましくは、C1−7アルキル基である。
【0051】
1−7アルコキシ:−OR、ここでRはC1−7アルキル基である。C1−7アルコキシ基の例としては、限定はされないが、−OCH(メトキシ)、−OCHCH(エトキシ)および−OC(CH(tert−ブトキシ)が挙げられる。
【0052】
1−2アルキジオキシレン(alkdioxylene):本明細書において用いられる「C1−2アルキジオキシレン」という用語は、1個または2個の炭素原子を有するC1−2炭化水素ジオール化合物の2個の異なるアルコール基の各々から2個の水素原子を除去すること、すなわちCH(OH)およびHO−CH−CH−OHから−O−CH−O−および−O−CH−CH−O−を形成させることによって得られる二座の分子部分に関する。この二座の分子部分は単一原子のまたは2個の隣接原子の置換基とすることができる。
【0053】
オキソ(ケト、−オン):=O。置換基としてオキソ基(=O)を有する環状化合物および/または基の例としては、限定はされないが、シクロペンタノンおよびシクロヘキサノンなどの炭素環化合物;ピロン、ピロリドン、ピラゾロン、ピラゾリノン、ピペリドン、ピペリジンジオン、ピペラジンジオン、およびイミダゾリドンなどの複素環化合物;無水マレイン酸および無水コハク酸を含むがこれらに限定されない、無水環状化合物;プロピレンカーボネートなどの、環状カーボネート化合物;スクシンイミドおよびマレイミドを含むがこれらに限定されない、イミド;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、およびε−カプロラクトンを含むが、これらに限定されない、ラクトン(環状エステル、環中に−O−C(=O)−がある);ならびにβ−プロピオラクタム、γ−ブチロラクタム(2−ピロリドン)、δ−バレロラクタム、およびε−カプロラクタムを含むが、これらに限定されない、ラクタム(環状アミド、環中に−NR−C(=O)−がある)が挙げられる。
【0054】
イミノ(イミン):=NR、ここでRはイミノ置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基であり、好ましくは水素またはC1−7アルキル基である。エステル基の例としては、限定はされないが、=NH、=NMe、=NEt、および=NPhが挙げられる。
【0055】
ホルミル(カルボアルデヒド、カルボキシアルデヒド):−C(=O)H。
【0056】
アシル(ケト):−C(=O)R、ここでRはアシル置換基、例えば、C1−7アルキル基(C1−7アルキルアシルまたはC1−7アルカノイルとも呼ばれる)、C3−20ヘテロシクリル基(C3−20ヘテロシクリルアシルとも呼ばれる)、またはC5−20アリール基(C5−20アリールアシルとも呼ばれる)、好ましくは、C1−7アルキル基である。アシル基の例としては、限定はされないが、−C(=O)CH(アセチル)、−C(=O)CHCH(プロピオニル)、−C(=O)C(CH(ブチリル)、および−C(=O)Ph(ベンゾイル、フェノン)が挙げられる。
【0057】
カルボキシ(カルボン酸):−COOH。
【0058】
エステル(カルボキシレート、カルボン酸エステル、オキシカルボニル):−C(=O)OR、ここでRはエステル置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基であり、好ましくはC1−7アルキル基である。エステル基の例としては、限定はされないが、−C(=O)OCH、−C(=O)OCHCH、−C(=O)OC(CH、および−C(=O)OPhが挙げられる。
【0059】
アシルオキシ(リバースエステル):−OC(=O)R、ここでRはアシルオキシ置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基であり、好ましくはC1−7アルキル基である。アシルオキシ基の例としては、限定はされないが、−OC(=O)CH(アセトキシ)、−OC(=O)CHCH、−OC(=O)C(CH、−OC(=O)Ph、および−OC(=O)CHPhが挙げられる。
【0060】
アミド(カルバモイル、カルバミル、アミノカルボニル、カルボキサミド):−C(=O)NR、ここでRおよびRは独立に、アミノ基の場合に定義されているような、アミノ置換基である。アミド基の例としては、限定はされないが、−C(=O)NH、−C(=O)NHCH、−C(=O)N(CH、−C(=O)NHCHCH、および−C(=O)N(CHCH、ならびにRおよびRは、それらが結合している窒素原子と共に、例えば、ピペリジノカルボニル、モルホリノカルボニル、チオモルホリノカルボニル、およびピペラジノカルボニルのように複素環構造を形成しているアミド基が挙げられる。
【0061】
アシルアミド(アシルアミノ):−NRC(=O)R、ここでRはアミド置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくは水素またはC1−7アルキル基であり、Rはアシル置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくは、水素またはC1−7アルキル基である。アシルアミド基の例としては、限定はされないが、−NHC(=O)CH、−NHC(=O)CHCH、および−NHC(=O)Phが挙げられる。RおよびRは、例えば、スクシニミジル、マレイミジル、およびフタルイミジルのように、一緒に環状構造を形成していてもよい:
【化2】

【0062】
チオアミド(チオカルバミル):−C(=S)NR、ここでRおよびRは独立に、アミノ基の場合に定義されているような、アミノ置換基である。アミド基の例としては、限定はされないが、−C(=S)NH、−C(=S)NHCH、−C(=S)N(CH、および−C(=S)NHCHCHが挙げられる。
【0063】
テトラゾリル:4個の窒素原子と1個の炭素原子を有する5員の芳香環である。
【化3】

【0064】
アミノ:−NR、ここでRおよびRは独立にアミノ置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基(C1−7アルキルアミノまたはジ−C1−7アルキルアミノとも呼ばれる)、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはHまたはC1−7アルキル基であり、あるいは「環状」アミノ基の場合、RおよびRは、それらが結合している窒素原子と一緒になって、4から8個の環原子を有する複素環を形成している。アミノ基の例としては、限定はされないが、−NH、−NHCH、−NHC(CH、−N(CH、−N(CHCH、および−NHPhが挙げられる。環状アミノ基の例としては、限定はされないが、アジリジノ、アゼチジノ、ピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノ、モルホリノ、およびチオモルホリノが挙げられる。
【0065】
イミノ:=NR、ここでRはイミノ置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはHまたはC1−7アルキル基である。
【0066】
アミジン:−C(=NR)NR、ここでRは各々アミジン置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはHまたはC1−7アルキル基である。アミジン基の一例は−C(=NH)NHである。
【0067】
ニトロ:−NO
【0068】
ニトロソ:−NO。
【0069】
アジド:−N
【0070】
シアノ(ニトリル、カルボニトリル):−CN。
【0071】
イソシアノ:−NC。
【0072】
シアナート:−OCN。
【0073】
イソシアナート:−NCO。
【0074】
チオシアノ(チオシアナート):−SCN。
【0075】
イソチオシアノ(イソチオシアナート):−NCS。
【0076】
スルフヒドリル(チオール、メルカプト):−SH。
【0077】
チオエーテル(スルフィド):−SR、ここでRはチオエーテル置換基、例えば、C1−7アルキル基(C1−7アルキルチオ基とも呼ばれる)、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。C1−7アルキルチオ基の例としては、限定はされないが、−SCHおよび−SCHCHが挙げられる。
【0078】
ジスルフィド:−SS−R、ここでRはジスルフィド置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基(本明細書ではC1−7アルキルジスルフィドとも呼ぶ)である。C1−7アルキルジスルフィド基の例としては、限定はされないが、−SSCHおよび−SSCHCHが挙げられる。
【0079】
スルホン(スルホニル):−S(=O)R、ここでRはスルホン置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。スルホン基の例としては、限定はされないが、−S(=O)CH(メタンスルホニル、メシル)、−S(=O)CF(トリフリル)、−S(=O)CHCH、−S(=O)(ノナフリル)、−S(=O)CHCF(トレシル)、−S(=O)Ph(フェニルスルホニル)、4−メチルフェニルスルホニル(トシル)、4−ブロモフェニルスルホニル(ブロシル)、および4−ニトロフェニル(ノシル)が挙げられる。
【0080】
スルフィン(スルフィニル、スルホキシド):−S(=O)R、ここでRはスルフィン置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。スルフィン基の例としては、限定はされないが、−S(=O)CHおよび−S(=O)CHCHが挙げられる。
【0081】
スルホニルオキシ:−OS(=O)R、ここでRはスルホニルオキシ置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。スルホニルオキシ基の例としては、限定はされないが、−OS(=O)CHおよび−OS(=O)CHCHが挙げられる。
【0082】
スルフィニルオキシ:−OS(=O)R、ここでRはスルフィニルオキシ置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。スルフィニルオキシ基の例としては、限定はされないが、−OS(=O)CHおよび−OS(=O)CHCHが挙げられる。
【0083】
スルフアミノ:−NRS(=O)OH、ここでRは、アミノ基の場合に定義されているような、アミノ置換基である。スルフアミノ基の例としては、限定はされないが、−NHS(=O)OHおよび−N(CH)S(=O)OHが挙げられる。
【0084】
スルホンアミノ:−NRS(=O)R、ここでRは、アミノ基の場合に定義されているような、アミノ置換基であり、Rはスルホンアミノ置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。スルホンアミノ基の例としては、限定はされないが、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)が挙げられる。
【0085】
スルフィンアミノ:−NRS(=O)R、ここでRは、アミノ基の場合に定義されているような、アミノ置換基であり、Rはスルフィンアミノ置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。スルフィンアミノ基の例としては、限定はされないが、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)Cが挙げられる。
【0086】
スルファミル:−S(=O)NR、ここでRおよびRは独立に、アミノ基の場合に定義されているような、アミノ置換基である。スルファミル基の例としては、限定はされないが、−S(=O)NH、−S(=O)NH(CH)、−S(=O)N(CH、−S(=O)NH(CHCH)、−S(=O)N(CHCH、および−S(=O)NHPhが挙げられる。
【0087】
スルホンアミノ:−NRS(=O)R、ここでRは、アミノ基の場合に定義されているような、アミノ置換基であり、Rはスルホンアミノ置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である。スルホンアミノ基の例としては、限定はされないが、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)が挙げられる。スルホンアミノ基の特別なクラスのものは、スルタム由来のもので、それらの基ではRおよびRのうちの1つはC5−20アリール基、好ましくはフェニルであり、他方、RおよびRのうちのもう一方はC1−7アルキル基由来の二座の基などの、C5−20アリール基と結合した二座の基である。そのような基の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されることはない:
【化4】

【0088】
2,3−ジヒドロ−ベンゾ[d]イソチアゾール−1,1−ジオキシド−2−イル;
【化5】

【0089】
1,3−ジヒドロ−ベンゾ[c]イソチアゾール−2,2−ジオキシド−1−イル;
【化6】

【0090】
3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾ[e][1,2]チアジン−1,1−ジオキシド−2−イル。
【0091】
ホスホルアミダイト:−OP(OR)−NR、ここでRおよびRはホスホルアミダイト置換基、例えば、−H、(置換されていてもよい)C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくは−H、C1−7アルキル基、またはC5−20アリール基である。ホスホルアミダイト基の例としては、限定はされないが、−OP(OCHCH)−N(CH、−OP(OCHCH)−N(i−Pr)、および−OP(OCHCHCN)−N(i−Pr)が挙げられる。
【0092】
ホスホルアミデート:−OP(=O)(OR)−NR、ここでRおよびRはホスホルアミデート置換基、例えば、−H、(置換されていてもよい)C1−7アルキル基、C3−20ヘテロシクリル基、またはC5−20アリール基、好ましくは−H、C1−7アルキル基、またはC5−20アリール基である。ホスホルアミデート基の例としては、限定はされないが、−OP(=O)(OCHCH)−N(CH、−OP(=O)(OCHCH)−N(i−Pr)、および−OP(=O)(OCHCHCN)−N(i−Pr)が挙げられる。
【0093】
多くの場合、置換基はそれ自体が置換されていてもよい。例えば、C1−7アルコキシ基は、例えば、C1−7アルキルで置換され(C1−7アルキル−C1−7アルコキシ基とも呼ばれる)、例えば、シクロヘキシルメトキシであってもよく、C3−20ヘテロシクリル基で置換され(C5−20アリール−C1−7アルコキシ基とも呼ばれる)、例えば、フタルイミドエトキシであってもよく、またはC5−20アリール基で置換され(C5−20アリール−C1−7アルコキシ基とも呼ばれる)、例えば、ベンジルオキシであってもよい。
【0094】
その他の形態で含まれるもの
上記には、これらの置換基の周知のイオン形態、塩形態、溶媒和物形態、および保護形態が含まれる。例えば、カルボン酸(−COOH)について述べる場合には、陰イオン(カルボキシラート)の形態(−COO)、その塩または溶媒和物、および従来から知られている保護形態も含まれる。同様にして、アミノ基について述べる場合には、プロトン付加された形態(−NHR)、そのアミノ基の塩または溶媒和物、例えば、塩酸塩、および従来から知られているアミノ基の保護形態が含まれる。同様にして、ヒドロキシル基について述べる場合には、陰イオンの形態(−O)、その塩または溶媒和物、および従来から知られている、ヒドロキシル基の保護形態も含まれる。
【0095】
異性体、塩、溶媒和物、保護形態、およびプロドラッグ
ある種の化合物は、1種以上の特定の幾何異性体、光学異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、エピマー、立体異性体、互変異性体、配座異性体、またはアノマーの形態で存在することができ、そのようなものとしては、限定はされないが、シス−およびトランス−形;E−およびZ−形;c−、t−、およびr−形;エンドおよびエキソ形;R−、S−、およびメソ−形;D−およびL−形;d−およびl−形;(+)および(−)形;ケト−、エノール−、およびエノラート−形;シン−およびアンチ−形;シンクリナル−およびアンチクリナル−形;α−およびβ−形;アキシアルおよびエカトリアル形;舟形、いす形、ねじれ形、エンベロープ形、および半いす形;ならびにこれらの組み合わせが含まれ、以後これらをまとめて「異性体」と呼ぶ。
【0096】
互変異性体について下記で述べることを除いて、本明細書において用いられる「異性体」という用語からは構造的(または構成的)異性体(すなわち、原子の空間的位置のみが異なっているのではなく、原子間の結合状態が異なっている異性体)は特に除外されることに留意されたい。例えば、メトキシ基、−OCH、について述べる場合、その構造異性体であるヒドロキシメチル基、−CHOH、はその意味の中に含まれない。同様に、オルトクロロフェニルについて述べる場合にはその構造異性体であるメタクロロフェニルはその意味の中に含まれない。しかしあるクラスの構造について述べる場合、そのクラスに分類される、構造異性体を含めることはできる(例えば、C1−7アルキルにはn−プロピルおよびイソプロピルが含まれ;ブチルにはn−、iso−、sec−、およびtert−ブチルが含まれ;メトキシフェニルにはオルト−、メタ−、およびパラ−メトキシフェニルが含まれる)。
【0097】
上記の除外には、例えば、下記の互変異性体のペア:ケト/エノール(下記に図示している)、イミン/エナミン、アミド/イミノアルコール、アミジン/アミジン、ニトロソ/オキシム、チオケトン/エネチオール、N−ニトロソ/ヒドロキシアゾ(hyroxyazo)、およびニトロ/aci−ニトロなどにおけるような、例えば、ケト形、エノール形、およびエノラート形などの互変異性体は関係しない。
【化7】

【0098】
「異性体」という用語には1個以上の同位体置換を有する化合物が特に含まれることに留意されたい。例えば、HはH、H(D)、およびH(T)を含めて、どのような同位体の形態でもよい;Cは12C、13C、および14Cを含めて、どのような同位体の形態でもよい;Oは16Oおよび18Oを含めて、どのような同位体の形態でもよいなど。
【0099】
特別の定めのない限り、特定の化合物に対する言及は、その(全体的にまたは部分的に)ラセミ体のおよびその他の混合物を含めて、そのような全ての異性体を含む。そのような異性体の調製(例えば、不斉合成)および分離(例えば、分別結晶およびクロマトグラフ手段)の方法は、当技術分野において公知であり、または本明細書において教示される方法、もしくは公知の方法を、公知の様式で適合させることによって容易に得られる。
【0100】
特別の定めのない限り、ある特定の化合物に対する言及は同様に、例えば、以下に論じられるように、そのイオン形態、塩形態、溶媒和物形態、および保護形態を含む。
【0101】
活性化合物の対応する塩、例えば、製薬上許容される塩を調製し、精製し、および/または取り扱うことが都合の良いまたは望ましい場合がある。製薬上許容される塩の例は、Berge ら, 1977,「Pharmaceutically Acceptable Salts」, J. Pharm. Sci., Vol. 66, pp. 1-19に論じられている。
【0102】
例えば、化合物が陰イオン性であるなら、または陰イオン性となりうる官能基を有しているなら(例えば、−COOHは−COOとなりうる)、適当な陽イオンと塩を形成することができる。適当な無機陽イオンの例としては、限定はされないが、NaおよびKなどのアルカリ金属イオン、Ca2+およびMg2+などのアルカリ土類の陽イオン、ならびにAl3+などのその他の陽イオンが挙げられる。適当な有機陽イオンの例としては、限定はされないが、アンモニウムイオン(すなわち、NH)および置換されたアンモニウムイオン(例えば、NH、NH、NHR、NR)が挙げられる。いくつかの適当な置換されたアンモニウムイオンの例は、次に由来するものである:エチルアミン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、およびトロメタミン、ならびにリジンおよびアルギニンなどの、アミノ酸。一般的な第四級アンモニウムイオンの例はN(CHである。
【0103】
化合物が陽イオン性であるなら、または陽イオンとなりうる官能基を有しているなら(例えば、−NHは−NHとなりうる)、適当な陰イオンと塩を形成させることができる。適当な無機陰イオンの例としては、限定はされないが、次の無機酸に由来するものが挙げられる:塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、および亜リン酸。適当な有機陰イオンの例としては、限定はされないが、次の有機酸に由来するものが挙げられる:酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、乳酸、リンゴ酸、パモ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、フェニルスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、パントテン酸、イセチオン酸、吉草酸、ラクトビオン酸、およびグルコン酸。適当なポリマー性陰イオンの例としては、限定はされないが、次のポリマー酸(polymeric acid)に由来するものが挙げられる:タンニン酸、カルボキシメチルセルロース。
【0104】
活性化合物の対応する溶媒和物を調製し、精製し、および/または取り扱うことが都合の良いまたは望ましい場合がある。「溶媒和物」という用語は、溶質(例えば、活性化合物、活性化合物の塩)と溶媒との複合体をいうよう従来の意味で本明細書において用いられる。溶媒が水である場合、溶媒和物は便宜上、水和物、例えば、一水和物、二水和物、三水和物などと呼ぶことができる。
【0105】
活性化合物を化学的に保護された形態で調製し、精製し、および/または取り扱うことが都合の良いまたは望ましい場合がある。本明細書において用いられる「化学的に保護された形態」という用語は、1つ以上の反応性の官能基が望ましくない化学反応から保護されている、すなわち、被保護基もしくは保護基(被マスク基もしくはマスキング基または被ブロック基もしくはブロッキング基とも呼ばれる)の形態である、化合物に関する。反応性の官能基を保護することにより、その他の保護されていない反応性の官能基の関与する反応を、被保護基に影響を与えることなく行うことができる:保護基は、通常、その後のステップで、分子の残部に実質的に影響を与えることなく除去することができる。例えば、Protective Groups in Organic Synthesis (T. GreenとP. Wuts, Wiley, 1999)を参照されたい。
【0106】
例えば、ヒドロキシ基はエーテル(−OR)またはエステル(−OC(=O)R)として、例えば:t−ブチルエーテル;ベンジル、ベンズヒドリル(ジフェニルメチル)もしくはトリチル(トリフェニルメチル)エーテル;トリメチルシリルもしくはt−ブチルジメチルシリルエーテル;またはアセチルエステル(−OC(=O)CH、−OAc)として保護することができる。
【0107】
例えば、アルデヒド基またはケトン基は、それぞれ、アセタールまたはケタールとして保護することができ、この場合にカルボニル基(>C=O)は、例えば、第一級アルコールとの反応によりジエーテル(>C(OR))に変換される。このアルデヒド基またはケトン基は、酸の存在下で大過剰の水を用いた加水分解により容易に再生される。
【0108】
例えば、アミン基は、例えば、アミドまたはウレタンとして、例えば:メチルアミド(−NHCO−CH);ベンジルオキシアミド(−NHCO−OCH、−NH−Cbz);t−ブトキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Boc);2−ビフェニル−2−プロポキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Bpoc)として、9−フルオレニルメトキシアミド(−NH−Fmoc)として、6−ニトロベラトリルオキシアミド(−NH−Nvoc)として、2−トリメチルシリルエチルオキシアミド(−NH−Teoc)として、2,2,2−トリクロロエチルオキシアミド(−NH−Troc)として、アリルオキシアミド(−NH−Alloc)として、2(−フェニルスルホニル)エチルオキシアミド(−NH−Psec)として;または、適当な場合には、N−オキシド(>NO・)として保護することができる。
【0109】
例えば、カルボン酸基はエステルとして、例えば:C1−7アルキルエステル(例えば、メチルエステル;t−ブチルエステル);C1−7ハロアルキルエステル(例えば、C1−7トリハロアルキルエステル);トリC1−7アルキルシリル−C1−7アルキルエステル;もしくはC5−20アリール−C1−7アルキルエステル(例えば、ベンジルエステル;ニトロベンジルエステル)として;またはアミドとして、例えば、メチルアミドとして保護することができる。
【0110】
例えば、チオール基はチオエーテル(−SR)として、例えば:ベンジルチオエーテル;アセタミドメチルエーテル(−S−CHNHC(=O)CH)として保護することができる。
【0111】
活性化合物をプロドラッグの形態で調製し、精製し、および/または取り扱うことが都合の良いまたは望ましい場合がある。本明細書において用いられる「プロドラッグ」という用語は、代謝時に(例えば、インビボで)所望の活性化合物をもたらす化合物に関する。典型的には、プロドラッグは不活性であり、または活性化合物よりも低い活性であるが、しかし有利な取り扱い、投与、または代謝特性を供与することができる。
【0112】
例えば、プロドラッグのいくつかのものは活性化合物のエステル(例えば、生理学的に許容される、代謝的に不安定なエステル)である。代謝の間に、エステル基(−C(=O)OR)が切断されて活性の薬物をもたらす。そのようなエステルは、例えば、親化合物のカルボン酸基(−C(=O)OH)のいずれかのエステル化、適切な場合には、親化合物に存在するその他任意の反応基の事前保護とともに、引き続き必要に応じて脱保護により形成させることができる。そのような代謝的に不安定なエステルの例としては、RがC1−7アルキル(例えば、−Me、−Et);C1−7アミノアルキル(例えば、アミノエチル;2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル;2−(4−モルホリノ)エチル);ならびにアシルオキシ−C1−7アルキル(例えば、アシルオキシメチル;アシルオキシエチル;例えば、ピバロイルオキシメチル;アセトキシメチル;1−アセトキシエチル;1−(1−メトキシ−1−メチル)エチル−カルボニルオキシエチル(carbonxyloxyethyl);1−(ベンゾイルオキシ)エチル;イソプロポキシ−カルボニルオキシメチル;1−イソプロポキシ−カルボニルオキシエチル;シクロヘキシル−カルボニルオキシメチル;1−シクロヘキシル−カルボニルオキシエチル;シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシメチル;1−シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシエチル;(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシメチル;1−(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシエチル;(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシメチル;および1−(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシエチル)であるものが挙げられる。
【0113】
同様に、プロドラッグのなかには酵素的に活性化されて、活性化合物をもたらす、または、さらなる化学反応によって、活性化合物をもたらす化合物をもたらすものもある。例えば、プロドラッグは糖誘導体またはその他のグリコシド抱合体であってもよく、あるいはアミノ酸エステル誘導体であってもよい。
【0114】
さらなる好適な形態
下記の好ましい形態は、本発明の異なる態様では異なってもよく、ともに組み合わされてもよい。
【0115】
およびR
およびRは、それらが結合している窒素原子と共に、4から8個の原子を有する複素環を形成している。これは上記に定義されるC4−20ヘテロシクリル基の一部を形成することがあり(ただし最小の4個の環原子を有する場合を除く)、それには少なくとも1個の窒素環原子が含まれていなければならない。RおよびRは、それらが結合している窒素原子と共に、5、6、または7個の原子、より好ましくは6個の環原子を有する複素環を形成していることが好ましい。
【0116】
窒素原子を1個持っている単環としては、アゼチジン、ピロリジン(テトラヒドロピロール)、ピロリン(例えば、3−ピロリン、2,5−ジヒドロピロール(dihydropyrroe))、2H−ピロールもしくは3H−ピロール(イソピロール、イソアゾール)、ピペリジン、ジヒドロピリジン、テトラヒドロピリジン、およびアゼピンが挙げられ;窒素原子を2個持っているものとしては、イミダゾリジン、ピラゾリジン(ジアゾリジン)、イミダゾリン、ピラゾリン(ジヒドロピラゾール)、およびピペラジンが挙げられ;1個の窒素と1個の酸素を持っているものとしては、テトラヒドロオキサゾール、ジヒドロオキサゾール、テトラヒドロイソキサゾール、ジヒドロイソキサゾール、モルホリン、テトラヒドロオキサジン、ジヒドロオキサジン、およびオキサジンが挙げられ;1個の窒素と1個の硫黄を持っているものとしてはチアゾリン、チアゾリジン、およびチオモルホリンが挙げられる。
【0117】
好ましい環は窒素以外に1個のヘテロ原子を含有しているものであり、特に、好ましいヘテロ原子は酸素および硫黄である。従って、好ましい基としては、モルホリノ、チオモルホリノ、チアゾリニル基が挙げられる。さらに別のヘテロ原子は含んでいない、好ましい基としては、ピロリジノ基が挙げられる。
【0118】
最も好ましい基はモルホリノ基およびチオモルホリノ基である。
【0119】
上述のとおり、これらのヘテロシクリル基はそれ自体が置換されてもよく:好ましい置換基のクラスはC1−7アルキル基である。ヘテロシクリル基がモルホリノ基である場合、1つまたは複数の置換基はメチルまたはエチルであることが好ましく、より好ましいのはメチルである。2位にメチル置換基が1つのみあることが最も好ましい。
【0120】
上述の単一環の基と同様に、架橋のある環も意図されている。そのようなタイプの環でその基に窒素原子1個および酸素原子1個を含んでいるものの例は以下である:
【化8】

【0121】
これらは、それぞれ、8−オキサ−3−アザ−ビシクロ[3.2.1]オクタ−3−イル、6−オキサ−3−アザ−ビシクロ[3.1.0]へキサ−3−イル、2−オキサ−5−アザ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−イル、および7−オキサ−3−アザ−ビシクロ[4.1.0]ヘプタ−3−イルと名付けられている。
【0122】

が−NRN1N2であるなら、RN1およびRN2は、好ましくは、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基から独立に選択されまたは、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を一緒に形成している。
【0123】
N1およびRN2の一方が置換されていてもよいC1−7アルキル基であるなら、他方は同様に、置換されていてもよいC1−7アルキル基であることが好ましい。置換されていてもよいC1−7アルキル基は、置換されていてもよいC1−4アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル)であることが好ましい。任意選択の置換基は、ヒドロキシ、C1−7アルコキシ(例えば、メトキシ)、アミノ(より好ましくはジ−C1−7アルキルアミノ、例えば、ジメチルアミノ)、C3−20ヘテロシクリル(heterocylyl)(より好ましくは、例えば、イミダゾリジノンに由来するC5−7ヘテロシクリル(heterocylyl))およびC5−20アリール(より好ましくはC5−7アリール)から選択されることが好ましく、アミノ(より好ましくはジ−C1−7アルキルアミノ、例えば、ジメチルアミノ)、C1−7アルコキシ(例えば、メトキシ)およびC3−20ヘテロシクリル(heterocylyl)(より好ましくは、例えば、イミダゾリジノンに由来するC5−7ヘテロシクリル(heterocylyl))から選択されることがより好ましい。
【0124】
N1およびRN2が一緒になってそれらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成しているなら、この環は6または7個の環原子を有することが好ましく、ピペリジン、ピペラジン、ホモピペラジンおよびモルホリノから選択されることがより好ましい。複素環がピペラジンまたはホモピペラジンである場合、その他の窒素環原子は、例えば、置換されていてもよいC1−7アルキル基、置換されていてもよいC3−20ヘテロシクリル基、置換されていてもよいC5−20アリール基、アシル基、エステル基またはアミド基によって置換されていてもよい。これらの可能な置換基のうちで、置換されていてもよいC1−7アルキル基(例えば、メチル、プロピル)および置換されていてもよいC5−20アリール基(例えば、フェニル、ピリミジン−2−イル)が最も好ましい。複素環がモルホリノである場合、これらは、上記に論じられているように、置換されていてもよい。好ましい置換基のクラスはC1−7アルキル基、より好ましくはメチルまたはエチル、および最も好ましくはメチルである。特に好ましい実施形態では2個のメチル置換基を有し、これらは、例えば、同じ配向で環にともに結合されてもよい。
【0125】
頭文字語
便宜上、多数の化学的部分は、メチル(Me)、エチル(Et)、n−プロピル(nPr)、イソプロピル(iPr)、n−ブチル(nBu)、tert−ブチル(tBu)、n−ヘキシル(nHex)、シクロヘキシル(cHex)、フェニル(Ph)、ビフェニル(biPh)、ベンジル(Bn)、ナフチル(naph)、メトキシ(MeO)、エトキシ(EtO)、ベンゾイル(Bz)、アセチル(Ac)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppf)を含むがこれらに限定されない、周知の略号を用いて示されている。
【0126】
便宜上、多数の化合物は、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、イソプロパノール(i−PrOH)、メチルエチルケトン(MEK)、エーテルまたはジエチルエーテル(EtO)、酢酸(AcOH)、ジクロロメタン(塩化メチレン、DCM)、トリフルオロ酢酸(TFA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)を含むがこれらに限定されない、周知の略号を用いて示されている。
【0127】
合成経路
がアミン基である本発明の化合物は、炭酸カリウムなどの、塩基の存在下、式HNRN1N2の適切なアミンとの2−(7−ブロモメチル−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オン(4)のカップリングによって合成することができる。
【0128】
本発明の化合物の使用
本発明は活性な化合物、具体的には、活性な2−アリール−6−アミノ−ピラン−4−オンを提供する。
【0129】
本明細書において用いられる「活性」という用語は、ATM活性を阻害することのできる化合物に関し、具体的には、固有の活性を有する化合物(薬物)とそのような化合物のプロドラッグの両方を含んでおり、このプロドラッグはそれ自体で固有の活性をほとんどまたは全く示しえない。
【0130】
ある特定の化合物によって示されるATMの阻害を評価するのに用いることのできる一アッセイ法が以下の例に記述されている。
【0131】
本発明はさらに、細胞を活性化合物の有効量と、好ましくは製薬上許容される組成物の形態で接触させる段階を含む、細胞中でのATMを阻害する方法を提供する。そのような方法はインビトロでまたはインビボで実践することができる。
【0132】
例えば、細胞のサンプル(例えば、腫瘍由来)をインビトロで増殖させ、公知の治療効果を有する薬剤とともに活性化合物をその細胞と接触させ、それらの細胞に及ぼす化合物の治療効果の増強を観察することができる。
【0133】
本発明はさらに、ATM活性を阻害する活性化合物およびインビトロまたはインビボにかかわらず、活性化合物の有効量と細胞を接触させる段階を含む、ATM活性を阻害する方法を提供する。
【0134】
本発明はさらに、ヒトまたは動物体の処置方法で用いる活性化合物を提供する。そのような方法は、好ましくは医薬組成物の形態で、活性化合物の治療的有効量をそのような被験体に投与する段階を含むことができる。
【0135】
ある状態の処置との関連で本明細書において用いられる「処置」という用語は、通常、ヒトまたは動物(例えば、獣医学的用途において)にかかわらず、ある所望の治療的効果、例えば、その状態の進行の阻害が達成される、処置および治療に関し、進行の速度の低減、進行の速度の休止、その状態の改善、およびその状態の治癒を含む。予防策としての処置(すなわち、予防)も含まれる。
【0136】
本明細書において用いられる「治療的有効量」という用語は、妥当な便益/危険比で、何らかの所望の治療効果をもたらすのに有効な、活性化合物、または活性化合物を含む材料、組成物もしくは投与剤形のその量に関する。
【0137】
本明細書において用いられる「補助剤(adjunct)」という用語は、公知の治療手段と組み合わせた活性化合物の使用に関するものである。そのような手段には、各種癌の処置で用いられる薬物の細胞傷害的な使用法および/または電離放射線などがある。特に、活性化合物は、いくつかの癌化学療法処置の作用を増強することが知られており、それらはトポイソメラーゼ類の毒物および癌の処置で用いられるDNA二本鎖切断を誘発するような任意の化学療法剤を含むが、これらに限定されることはない。本発明の化合物と併用できるトポイソメラーゼI阻害剤には、カンプトテシン化合物、例えばトポテカン(ハイカムチン)、イリノテカン(CPT11−カンプトサール)、ルビテカンおよびエキサテカンが含まれる。本発明の化合物と併用できるトポイソメラーゼIおよびII二重阻害剤には、ベンゾフェナインス(benzophenainse)、XR11576/MLN 576およびベンゾピリドインドール類が含まれる。本発明の化合物と併用できるトポイソメラーゼII阻害剤には、挿入剤およびDNA結合剤ドキソルビシン、ダノルビシン、およびその他のルビシン類、アクリジン類(アムサクリン、m−AMSA)に加えて、ミトキサントロンおよびAQ4が含まれる。トポイソメラーゼII阻害剤である非挿入剤には、エトプシドおよびテニポシド(エピポドフィロトキシン類)が含まれる。
【0138】
本発明の化合物に類似した構造のATM阻害化合物が、1段階の、細胞に基づく組込みアッセイ(LUCIAと称される)においてレトロウイルスベクター形質導入を効率的に抑制し、マイクロモル以下の濃度で4日間の複製アッセイにおいてHIV−1感染を阻害しうることを以前に開示している(国際公開公報第03/070726号)。さらに、レトロウイルスの組込みに及ぼすATMの効果は、DNA−PK−欠損のバックグラウンドで見られるにすぎないであろうと結論づけているDanielらの所見とは対照的に、この効果は機能的なDNA−PK活性の存在下で発揮される。
【0139】
宿主細胞染色体DNAとの直鎖状レトロウイルスDNAの最初の連結は、ウイルスインテグラーゼ(IN)によって触媒され、付着の部位で宿主細胞DNAに短い互い違いのDNA鎖切断をもたらす(Brown, P.O. (1990) Integration of retroviral DNA. Curr Top Microbiol Immunol, 157, 19-48)。これらのギャップDNA中間体は、宿主細胞によりDNA損傷の部位として感知され、ATM経路により修復されて組込みのプロセスを完了し、増殖感染を起こしうることが明らかにされている。本発明の化合物は、ATM経路によるギャップDNA中間体の修復を阻止し、従って宿主ゲノムへのレトロウイルスDNAの完全な組込みを阻止することができると考えられる。
【0140】
上記のように、本発明は、レトロウイルス感染の治療で用いる本発明の第1の態様に定義の化合物、およびレトロウイルス感染の治療で用いる医薬の製造でのそのような化合物の使用を提供する。
【0141】
同様に本発明によって提供されるのは、本発明の第1の態様に定義の化合物をその必要性がある個体に投与する段階を含む、レトロウイルス感染の処置方法である。
【0142】
上記のように治療されうるレトロウイルス媒介性の疾患としては、HIV感染および後天性免疫不全症候群(AIDS)ならびにヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)感染およびその関連疾患である成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)および熱帯性痙性不全対麻痺/HTLV−1関連脊髄症(TSP/HAM)が挙げられる。
【0143】
本発明の化合物は、ウイルス複製を抑制するその他のレトロウイルス療法と併用で、例えば「高活性抗レトロウイルス療法」またはHAART処置で用いることができる。
【0144】
本発明は、本明細書に記載の化合物および1種以上のその他の抗レトロウイルス剤を含む医薬組成物を提供する。
【0145】
本発明は同様に、レトロウイルス感染の処置のための本発明の第1〜第9の態様に定義される化合物と1種以上のその他の抗レトロウイルス剤とを含む組成物、およびレトロウイルス感染の処置で用いる医薬の製造でのそのような組成物の使用を提供する。
【0146】
レトロウイルス複製を阻害する適当な抗レトロウイルス剤には、例えば、セキナビル、インジナビル、リトナビルおよびネルフィナビルなどのレトロウイルスプロテアーゼ阻害剤(PI)、3′−アジド−3′−デオキシチミジン(AZT;ジドブジン)、2′,3′−ジデオキシシトシン(ddC;ザルシタビン)、2′,3′−ジデオキシイノシン(ddI;ジダノシン)および3TC(ラミブジン)などのヌクレオシド系レトロウイルス逆転写酵素阻害剤、ならびにネビラピン、デラビルジンおよびエファビレンツなどの非ヌクレオシド系レトロウイルス逆転写酵素阻害剤がある。
【0147】
投与
活性化合物または活性化合物を含む医薬組成物は被験体に、全身的/末梢的にであれまたは所望の作用部位にであれ、経口の(例えば、摂取による)投与経路;局所の投与経路(例えば経皮の、鼻腔内の、眼内の、口腔の、および舌下の投与経路を含む);肺の(例えばエアロゾルを用いての、例えば口または鼻を通じた、例えば吸入または通気療法による)投与経路;直腸の投与経路;経膣の投与経路;例えば、皮下の、皮内の、筋肉内の、静脈内の、動脈内の、心臓内の、髄腔内の、脊髄内の、嚢内の、嚢下の、眼窩内の、腹腔内の、気管内の、表皮下の、関節内の、くも膜下の、および胸骨内の注射を含め、注射による非経口の投与経路を含むがこれらに限定されない、任意の好都合な投与経路により;デポー剤のインプラントにより、例えば、皮下にまたは筋肉内に投与することができる。
【0148】
被験体は真核生物、動物、脊椎動物、哺乳類、げっ歯類(例えば、モルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ類(例えば、マウス)、イヌ類(例えば、イヌ)、ネコ類(例えば、ネコ)、ウマ類(例えば、ウマ)、霊長類、類人猿(例えば、小型サルもしくは大型サル)、サル類(例えば、マーモセット、ヒヒ)、大型サル(例えば、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)、またはヒトとすることができる。
【0149】
製剤
活性化合物を単独で投与することは可能であるが、その化合物を、1種以上の製薬上許容される担体、佐剤、賦形剤、希釈剤、増量剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、滑沢剤、または当業者に周知のその他の材料および任意でその他の治療薬または予防薬と共に、上記に定義される、少なくとも1種の活性化合物を含む医薬組成物(例えば、製剤)として提供することが好ましい。
【0150】
従って、本発明はさらに、上記に定義される医薬組成物、および1種以上の製薬上許容される担体、賦形剤、緩衝剤、佐剤、安定化剤、または本明細書において記述されるその他の材料と共に、上記に定義される少なくとも1種の活性化合物を混合する段階を含む、医薬組成物の製造方法を提供する。
【0151】
本明細書において用いられる「製薬上許容される」という用語は、健全な医学的判断の範囲内にあって、過剰な毒性、刺激性、アレルギー反応、またはその他の問題もしくは合併症なく被験体(例えばヒト)の組織と接触させて用いるのに適しており、妥当な便益/危険比に見合う化合物、材料、組成物、および/または投与剤形に関する。各々の担体、賦形剤などは同様に、製剤のその他の成分と適合するという意味で「許容され」なければならない。
【0152】
適当な担体、賦形剤などは標準的な製薬テキスト、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第18版, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1990の中で見出すことができる。
【0153】
製剤は単位投与剤形で好都合に提供することができ、製薬の技術分野において周知の任意の方法によって調製することができる。そのような方法は、1種以上の副成分を構成する担体と活性化合物を結び付けるステップを含む。一般的に、製剤は、活性化合物を液体担体もしくは微粉化した固体担体、またはその両方と均一にかつ密接に結び付け、次に必要に応じて生成物を成形することで調製される。
【0154】
製剤は液体、溶液、懸濁液、乳液、エリキシル、シロップ、錠剤、薬用ドロップ、顆粒剤、散剤、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、坐剤、膣坐剤、軟膏、ゲル、ペースト、クリーム、スプレー、ミスト、フォーム、ローション、オイル、ボーラス剤、舐剤、またはエアロゾルの形態とすることができる。
【0155】
経口投与(例えば摂取による)に適した製剤は、各々が所定の量の活性化合物を含有している、カプセル剤、カシェ剤もしくは錠剤などの別個の単位として;散剤もしくは顆粒剤として;水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液として;または水中油型の乳液もしくは油中水型の乳液として;ボーラス剤として;舐剤として;またはペーストとして供与することができる。
【0156】
錠剤は、任意で1種以上の副成分とともに、従来の手段、例えば、圧縮または成形によって作製することができる。圧縮錠剤は、任意で1種以上の結合剤(例えば、ポビドン、ゼラチン、アラビアゴム、ソルビトール、トラガカント、ヒドロキシプロピルメチルセルロース);増量剤もしくは希釈剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース、リン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ);崩壊剤(例えば、グリコール酸ナトリウムデンプン、架橋ポビドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム);界面活性剤または分散剤または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム);および保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸)と混合された、粉末または顆粒などの自由流動体状の活性化合物を適当な機械中で圧縮することによって調製することができる。成形錠剤は、不活性の液体希釈剤で湿潤化された粉末状化合物の混合物を適当な機械中で成形することによって作製することができる。錠剤は任意で被覆されてもまたは切れ目を入れられてもよく、錠剤中の活性化合物の持続放出または制御放出をもたらすため、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを様々な割合で用いて、所望の放出プロファイルをもたらすよう処方することができる。錠剤に腸溶性コーティングを施して、胃以外の腸の部分で放出をもたらすようにしてもよい。
【0157】
局所(例えば、経皮、鼻腔内、眼内、口腔、および舌下)投与に適した製剤は、軟膏、クリーム、懸濁剤、ローション、散剤、溶液、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル、またはオイルとして処方することができる。あるいは、製剤は、活性化合物および任意で1種以上の賦形剤または希釈剤をしみこませた帯具または絆創膏などのパッチまたは包帯を含むことができる。
【0158】
口腔内の局所投与に適した製剤としては、フレーバーベース、通常、スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカント中に活性化合物を含む薬用ドロップ;ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムなどの不活性ベース中に活性化合物を含むトローチ剤;ならびに適当な液体担体中に活性化合物を含む含嗽剤が挙げられる。
【0159】
眼への局所投与に適した製剤としては同様に、活性化合物に適した担体、特に水性溶媒に活性化合物が溶解または懸濁されている点眼剤が挙げられる。
【0160】
担体が固体である、経鼻投与に適した製剤としては、例えば、約20から約500ミクロンの範囲の粒径を有する粗粉末が挙げられ、これは鼻から吸い込む様式で、すなわち鼻のすぐ近くに保持された粉末容器からの鼻道を通じた急速な吸入によって投与される。担体が液体である、例えば、鼻スプレー、点鼻剤としての投与、または噴霧器でのエアロゾル投与による投与に適した製剤としては、活性化合物の水性または油性溶液が挙げられる。
【0161】
吸入による投与に適した製剤としては、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ(dichoro)テトラフルオロエタン、二酸化炭素、またはその他の適当な気体などの、適当な高圧ガスを用いて、加圧パックからエアロゾルスプレーとして供与されるものが挙げられる。
【0162】
皮膚を介した局所投与に適した製剤としては、軟膏、クリーム、および乳液が挙げられる。軟膏中に処方される場合、活性化合物は、任意でパラフィン性または水混和性の軟膏基剤とともに利用されてもよい。あるいは、活性化合物は水中油型のクリーム基剤とともにクリームに処方されてもよい。必要に応じて、クリーム基剤の水相は、例えば、少なくとも約30% w/wの多価アルコール、すなわち、プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロールおよびポリエチレングリコールならびにそれらの混合物などの2つ以上のヒドロキシル基を有するアルコールを含むことができる。局所用製剤は、望ましくは、皮膚またはその他の患部を通じた活性化合物の吸収または浸透を増強する化合物を含むことができる。そのような皮膚浸透増強剤の例としては、ジメチルスルホキシドおよび関連の類似体が挙げられる。
【0163】
局所用乳液として処方される場合、油相には任意で乳化剤(別名エマルジェント(emulgent)とも呼ばれる)しか含まれなくてもよく、またはそれは脂肪もしくは油とのまたは脂肪と油の両方との少なくとも1種の乳化剤の混合物を含むことができる。親水性乳化剤が、安定剤として作用する親油性乳化剤と共に含まれることが好ましい。油と脂肪の両方を含むことも好ましい。同時に、安定剤の有無にかかわらず乳化剤はいわゆる乳化ワックスを作出し、このワックスは油および/または脂肪と共にいわゆる乳化軟膏基剤を作出し、これがクリーム製剤の油性分散層を成す。
【0164】
適当なエマルジェントおよび乳液安定剤としては、Tween 60、Span 80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリルおよびラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。製剤に適した油または脂肪の選択は、所望の化粧特性の達成に基づいている。これは、医薬乳液製剤に用いられる可能性の高い大部分の油中における活性化合物の溶解性が非常に低いことがあるからである。従って、クリームは、好ましくは、チューブまたはその他の容器からの漏出を回避するのに適した粘稠度を有する、油っこくない、非染色性かつ洗浄可能な生成物でなければならない。直鎖または分枝鎖の、一塩基または二塩基アルキルエステル、例えば、ジイソアジペート、ステアリン酸イソセチル、ココナッツ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシルまたはCrodamol CAPとして知られている分枝鎖エステルの混合物を用いることができ、最後の3つのものが好ましいエステルである。これらは、必要とされる特性に応じて単独でまたは併用で用いることができる。
【0165】
あるいは、白色軟パラフィンおよび/もしくは液状パラフィンなどの高融点の脂質、またはその他の鉱油を用いることができる。
【0166】
直腸投与に適した製剤は、例えば、カカオ脂またはサリチル酸塩を含む適当な基剤とともに坐剤として供与することができる。
【0167】
経膣投与に適した製剤は、活性化合物に加えて、当技術分野において適切であることが知られているような担体を含有する膣坐剤、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤として供与することができる。
【0168】
非経口投与(例えば、皮膚の、皮下の、筋肉内の、静脈内のおよび皮内の注射を含めて、注射による)に適した製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、保存剤、安定化剤、静菌剤、および製剤を対象とするレシピエントの血液と等張にさせる溶質を含みうる水性および非水性で、等張性の、発熱物質を含まない、無菌注射液;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含みうる水性および非水性の無菌懸濁液、ならびに化合物を血液成分もしくは1つ以上の器官に標的化するようデザインされているリポソームまたはその他の微粒子系が挙げられる。このような製剤で用いるのに適した等張媒体の例としては、注射用塩化ナトリウム水溶液、リンゲル液、または乳酸加リンゲル注射液が挙げられる。典型的には、溶液中の活性化合物の濃度は、約1ng/mlから約10μg/ml、例えば約10ng/mlから約1μg/mlである。製剤は単位用量または複数用量の密封容器、例えば、アンプルおよびバイアル中で供与されてもよく、使用の直前に、無菌の液体担体、例えば注射用蒸留水の添加が必要なだけの凍結乾燥状態で保存されてもよい。すぐに用いることのできる注射用溶液および懸濁液は無菌の粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。製剤は、活性化合物を血液成分もしくは1つ以上の器官に標的化するようデザインされているリポソームまたはその他の微粒子系の形態とすることができる。
【0169】
投与量
活性化合物、および活性化合物を含む組成物の適切な投与量は、患者毎に異なりうることを理解されたい。最適な投与量の判定には、通常、本発明の処置の何らかの危険性または有毒な副作用に対する治療的有用度のバランシングが必要になろう。選択される投与量レベルは、特定の化合物の活性、投与経路、投与時間、化合物の排泄速度、処置の期間、併用で用いられるその他の薬物、化合物、および/または材料、ならびに患者の年齢、性別、体重、体調、一般的健康状態、および病歴を含むが、これらに限定されない、様々な要因に依存するであろう。一般的に投与量は作用部位で有害なまたは有毒な副作用を実質的に引き起こさずに所望の効果を達成する局所濃度を達成しなければならないが、化合物の量および投与経路は最終的に医師の裁量によるであろう。
【0170】
インビボ投与は1回の用量で、処置過程を通じて連続的にまたは断続的に(例えば、適切な間隔にて分割用量で)達成することができる。最も効果的な投与の手段および投与量を判定する方法は、当業者に周知であり、治療に使われる製剤、治療の目的、処理される標的細胞、および処置される被験体によって異なるであろう。単回または複数回の投与は、処置医師によって選択された用量レベルおよびパターンで行うことができる。
【0171】
一般に、活性化合物の適当な用量は、1日につき被験体の体重1kg当たり約100μgから約250mgの範囲である。活性化合物が塩、エステル、プロドラッグなどである場合、投与される量は、親化合物に基づいて計算されるので、使われる実際の重量は比例的に増加する。
【実施例】
【0172】
以下の例は本発明を単に説明するため示されており、本明細書において記述される、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0173】
A)化学的実施例
一般的実験方法
化合物はGilson LCユニットにて精製した。
【0174】
移動相A−0.1% TFA水溶液、移動相B−アセトニトリル、流速6ml/分、勾配−典型的には、90% A/10% Bを1分間から開始して15分後に97% Bまで上昇させ、そこで2分間保持し、次いで開始時の条件に戻す。カラム:Jones Chromatography Genesis 4μ C18カラム、10mm×250mm。ピーク捕捉は254nmでのUVの検出に基づいて行う。
【0175】
質量スペクトルはFinnegan LCQ装置にて、陽イオンモードで記録した。
【0176】
実施例1
【化9】

【0177】
2−(7−アミノ−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オン(1)は、国際公開公報第03/070726号(化合物20)に記述されているように合成した。
【0178】
5−(6−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−ピラン−2−イル)−9H−チオキサンテン−2−カルボキサルデヒド(2)
室温で2−(7−アミノ−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オン(1)(0.50g,1.27mmol)のエタノール(4mL)懸濁液に、テトラフルオロホウ酸(tetrafluorboric acid)(ジエチルエーテル中54wt %として供給、0.35mL,2.54mmol)を加えた。次いで、溶液を0℃まで冷却し、この時点で亜硝酸t−ブチル(750μL,6.33mmol)を加えた。1時間後、反応液をジエチルエーテル(10mL)で希釈し、20分後に沈殿物をろ過し、ジエチルエーテルで洗浄した。次いで、橙色の塩をMeCN:EtO(1:1)(15mL)に溶解し、この時点でトリイソプロピルシラン(222mg,1.40mmol)およびPd(OAc)(5.47g,24.37mmol)を連続的に加えた。次いで、10atmのCO圧力を10分間適用し、その後、反応液をろ過した。有機層を飽和NaHCO、次に塩水で洗浄し、MgSOで乾燥し、ろ過し、真空で濃縮した。得られた黄/橙色の固形物を50℃にて真空下で乾燥して、表題の粗化合物(0.392g,75%,2ステップ)を得、これをさらには精製せずに用いた。m/z(LC−MS,ESP)、RT=3.40分、(M+1)=406.3。
【0179】
2−(7−ヒドロキシメチル−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オン(3)
室温で5−(6−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−ピラン−2−イル)−9H−チオキサンテン−2−カルバルデヒド(2)(0.392g,0.97mmol)のエタノール(7mL)懸濁液に、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(121mg,1.93mmol)を加え、引き続いて酢酸(1mL)の添加を行った。5時間後、酢酸(1mL)の2回目の添加を行った。さらに12時間後、過剰なホウ化水素をアセトンでクエンチした。真空で蒸発後、飽和NaHCOを加え、その後ジクロロメタンの中に抽出した。合わせた有機層をMgSOで乾燥し、ろ過し、真空で濃縮した。褐色の固形物を50℃にて真空下で乾燥して、表題の粗化合物(0.332g,84%)を得、これをさらには精製せずに用いた。m/z(LC−MS,ESP)、RT=3.09分、(M+1)=408.3。
【0180】
2−(7−ブロモメチル−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オン(4)
2−(7−ヒドロキシメチル−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オン(3)(240mg,0.59mmol)のクロロホルム(10mL)溶液を臭化水素で、溶液が濁ってくるまで臭化水素ガスを反応混合液にバブリングすることにより飽和した。18時間後、臭化水素ガスを再度、反応混合液にバブリングした。反応混合液を飽和NaHCOおよび水で洗浄した。有機層をMgSOで乾燥し、ろ過し、真空で濃縮した。褐色の固形物を50℃にて真空下で乾燥して、表題の粗化合物(想定100%)を得、これをさらには精製せずに用いた。m/z(LC−MS,ESP):470.2[M+H](1:1、臭素同位体の存在比)、R/T=3.86分。
【0181】
2−(7−アミノメチル−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オンN−アミド誘導体
小試験管に、2−(7−ブロモメチル−9H−チオキサンテン−4−イル)−6−モルホリン−4−イル−ピラン−4−オン(4)(23mg,0.05mmol)、乾燥ジメチルアセトアミド(1mL)、炭酸カリウム(137mg,0.10mmol)および所望のアミン(0.10mmol)を加えた。室温で終夜撹拌後、反応混合液を分取HPLCにより精製して、以下に示される、所望の生成物を得た。
【表1】


【0182】
B)生物学的実施例
材料と方法
インビトロATM阻害アッセイ
インビトロでATMに対する化合物の阻害作用を評価するため、以下のアッセイを用いてIC50値を求めた。
【0183】
ATMタンパク質は、ヒトATMタンパク質のC末端およそ500アミノ酸残基に対して作製されたウサギポリクローナル抗血清を用いてHeLa細胞核抽出物から免疫沈降させた。免疫沈降法はBanin,S.ら(1998)により記述されている方法論に従って行った。緩衝液C(50mM Hepes,pH7.4、6mM MgCl、150mM NaCl、0.1mMオルトバナジン酸ナトリウム、4mM MnCl、0.1mMジチオスレイトール、10%グリセロール)中の免疫沈降ATM 10μlをV底96ウェルポリプロピレンプレート中にて、ATM基質GSTp53N66 1μgを含有する緩衝液C 32.5μlに加えた。GSTp53N66基質は、グルタチオンS−トランスフェラーゼに融合させたヒト野生型p53のアミノ末端の66アミノ酸残基である。ATMはp53をその残基番号セリン15にてリン酸化する(Banin,S.ら(1998))。次いで、様々な濃度の阻害剤を加えた。全ての化合物をDMSOに希釈して、100μM〜0.1nMの最終アッセイ濃度をもたらし、DMSOは1%の最終濃度とした。37℃で10分のインキュベーション後、反応を500μM Na−ATP 5μlの添加によって開始した。37℃で振盪しながら1時間後に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)150μlを反応液に加え、プレートを1500rpmで10分間遠心した。次いで反応液5μlを、PBS 45μlを含有する96ウェルの乳白色プレートに移してGSTp53N66基質をプレートのウェルに結合させた。プレートをカバーし、振盪しながら1時間室温でインキュベートした後に、内容物を棄てた。プレートのウェルを3%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)のPBS液の添加前にPBSの添加によって2回洗浄した。プレートを振盪しながら1時間室温でインキュベートした後に、内容物を棄て、PBSで2回洗浄した。このウエルに、10,000分の1希釈のホスホセリン−15一次抗体(Cell Signaling Technology, #9284L)の3% BSA/PBS液50μlを加えて、ATMキナーゼにより誘発されたp53のセリン15残基でのリン酸化事象を検出した。振盪しながら室温で1時間のインキュベーション後に、ウェルをPBSで4回洗浄してから、室温で1時間振盪しながら抗ウサギHRP結合二次抗体(Pierce, 31462)を加えておいた。次いで、化学発光試薬(NEN Renaissance, NEL105)の添加前に、ウェルをPBSで4回洗浄した。次に、プレートを手短に振盪し、透明なプレートシールでカバーし、化学発光の計測のためTopCount NXTに移した。1秒間のカウント時間の後、1秒当たりのカウント数を各反応液について記録した。
【0184】
各化合物の酵素活性を次に、下記の式を用いて計算した:
%阻害率=100−((未知物質のcpm−陰性対照の平均cpm)×100/(陽性対照の平均cpm−陰性対照の平均cpm))
結果
インビトロATMアッセイ
上述の方法を用いて化合物のATM阻害活性をアッセイした。この結果をIC50値(酵素活性の50%が阻害される濃度)として以下に詳述する。これらは種々の濃度、通常は100μMから0.1nMの範囲で測定したものである。このIC50値は、化合物の効力が強いものを特定するため比較値として用いられる。
【0185】
試験された化合物は全て200nM未満のIC50値を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(式中:
およびRは一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい窒素含有複素環を形成しており;ならびに
はヒドロキシおよび−NRN1N2から選択され、ここでRN1およびRN2は、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、置換されていてもよいC3−20ヘテロシクリル基および置換されていてもよいC5−20アリール基から独立に選択され、または一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい窒素含有複素環を形成している。)
で表される化合物またはその異性体、塩、溶媒和物、化学的に保護された形態、もしくはプロドラッグ。
【請求項2】
およびRが、それらが結合している窒素原子と共に、6個の環原子を有する複素環を形成している、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
およびRが、それらが結合している窒素原子と共に、モルホリン環を形成している、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
が−NRN1N2であり、RN1およびRN2は、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基から独立に選択され、または一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
N1およびRN2が独立に、置換されていてもよいC1−7アルキル基である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
N1およびRN2が一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、6または7個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成している、請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
N1およびRN2が一緒に、それらが結合している窒素原子と共に、ピペリジン、ピペラジン、ホモピペラジンおよびモルホリノから選択される環を形成している、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物および製薬上許容される担体または希釈剤を含む組成物。
【請求項9】
治療方法における請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項10】
ATMの活性を阻害する医薬の調製における請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
癌治療での補助剤として用いる医薬、または電離放射線もしくは化学療法剤を用いた処置に対して腫瘍細胞を感受性化する医薬の調製における請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項12】
後天性免疫不全症候群を含む、レトロウイルス媒介性の疾患またはATMの阻害によって改善される疾患の処置のための医薬の調製における請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物の使用。

【公表番号】特表2008−529995(P2008−529995A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553711(P2007−553711)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000437
【国際公開番号】WO2006/085067
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(507205830)クドス ファーマシューティカルズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】