説明

Al材料の溶接方法

【課題】高強度の7000系Al合金からなるAl材料の複数にて構成される、構造部材や部品等の各種用途の部材において、その溶接割れ感受性を低減させると共に、強度特性に優れた溶接継手を実現する。
【解決手段】質量基準にて、Cu:0.01〜0.50%、Mg:0.5〜2.1%、並びにZn:4.0〜8.5%を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成の7000系Al合金からなるAl材料を溶融溶接するに際して、質量基準にて、Mg:5.5〜8.0%、Cr:0.05〜0.25%、Ti:0.25%以下、Si:0.4%以下、Fe:0.4%以下、Cu:0.1%以下、Zr:0.05%以下、及びZn:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するAl合金溶加材を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al材料の溶接方法に係り、特に、高強度の7000系アルミニウム(Al)合金からなるAl材料を溶融溶接する方法に関するものである。なお、ここで用いられる「7000」等の四桁の数字は、何れも、AA乃至JIS規格に規定されるAl合金を示すものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、産業用途を初め、建築、輸送、日用品、家庭用品等の各種用途において、構造部材や装置、部品等の軽量化を図るために、それを構成する材料(部材)として、アルミニウム(Al)材質のものが採用されてきている。そして、そのような用途において、引張強さで250MPa以上の高強度が必要とされる場合には、従来において、7003や7N01といった、上述のAA乃至JIS規格に規定されるAl−Zn−Mg系の7000系Al合金押出材が、用いられてきている。また、かかる用途における目的とする最終形状乃至は構造の少なくとも一部を与える部材は、その形状の複雑性等に応じて、複数のAl材料にて構成されて、それら複数のAl材料が、TIGやMIG等の溶接手法を用いて溶融溶接されて、一体的な構造の部材とされるのであるが、そのような溶融溶接に際して、4043や4047の如き、Al−Si系の4000系Al合金からなる溶加材を用いた場合にあっては、溶接金属の強度が低いために、低強度の溶接金属部位で破断するという問題があった。
【0003】
そこで、7000系Al合金からなるAl材料の溶融溶接において形成される溶接金属部位の強度を高めるべく、そのような溶融溶接に用いられる溶加材として、5554、5356、5183等の、Al−Mg系の5000系Al合金からなる溶加材が、「軽金属溶接」、Vol.45、No.10、第461〜470頁(2007)(非特許文献1)において、提案されている。しかしながら、目的とする部材の更なる軽量化のために、その薄肉高強度化を図るべく、そのような部材を構成するAl材料を与える7000系Al合金のMg量、Zn量、或いはCu量を増加させたりすると、上述の如き5000系Al合金からなる溶加材では、溶接割れ感受性を低減させるには不充分であり、母材熱影響部(HAZ)よりも溶接金属部位が低強度となってしまう問題が内在している。
【0004】
また、7000系Al合金は溶接割れ感受性に敏感であるところから、そのような溶接割れ感受性を低減させるために、特開平1−143791号公報(特許文献1)においては、Mg:6〜10wt%、Zr:0.25〜1.5wt%を含有するAl合金溶加材が提案されているが、そのような溶加材においても、各種の問題を内在するものであった。即ち、かかる溶加材は、Zr含有量が多いために、金属組織中において巨大晶出物を形成することとなるところから、1.6mmや2.4mm等の線径を有する溶加材を作製するに際して、その線引加工に悪影響をもたらし、線引加工途中で切断等の問題を惹起して、その生産性が悪化する問題に加えて、溶接金属中においても、多量のZrの存在により巨大晶出物を生じる恐れがあり、そのために、溶接継手の特性が安定しない恐れがある等という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−143791号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「軽金属溶接」、Vol.45、No.10、第461〜470頁(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、高強度の7000系Al合金からなるAl材料の複数にて構成される、構造部材や部品等の各種用途の接合部材において、その溶接割れ感受性を低減させると共に、強度特性に優れた溶接継手を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、質量基準にて、Cu:0.01〜0.50%、Mg:0.5〜2.1%、並びにZn:4.0〜8.5%を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成の7000系Al合金からなるAl材料を溶融溶接するに際して、質量基準にて、Mg:5.5〜8.0%、Cr:0.05〜0.25%、Ti:0.25%以下、Si:0.4%以下、Fe:0.4%以下、Cu:0.1%以下、Zr:0.05%以下、及びZn:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するAl合金溶加材を用いることを特徴とするAl材料の溶接方法を、その要旨とするものである。
【0009】
なお、このような本発明に従うAl材料の溶接方法の望ましい態様の一つによれば、前記溶加材は、更に、0.5〜1.0質量%のMnを含有しており、これによって、溶接金属部位の高靭性化が、有利に図られ得ることとなる。
【0010】
また、本発明にあっては、前記した7000系Al合金におけるMg含有量が、1.0〜2.1質量%であることが望ましく、更には、そのようなMg含有量が1.2〜2.1質量%であり、且つZn含有量が5.0〜8.5質量%であることが、より望ましいのである。
【0011】
特に、本発明にあっては、前記した7000系Al合金におけるMg含有量は、1.2〜2.1質量%であり、且つZn含有量が6.0〜8.5質量%であることが望ましく、中でも、かかるMn含有量は1.3〜2.1質量%であり、そしてZn含有量が7.5〜8.5質量%であることが、より一層望ましいのである。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明に従うAl材料の溶接方法にあっては、溶融溶接されるAl材料を与える7000系Al合金が、その合金組成において、Cu、Mg及びZnの含有量が規定されていることによって、母材としての強度を効果的に高め得たものとなっているのであり、以て、溶融溶接して得られる接合体全体としての高強度特性が、有利に確保され得ているのである。
【0013】
そして、そのような高強度特性の付与された母材(Al材料)の複数を溶接により一体化するに際して、溶加材として、特定量のMg、Zr、Si、Fe、Cu、Cr、Zn及びTiを含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる合金組成のものを用いることによって、それらAl材料の連結部(溶接部位乃至は溶接金属部位)における強度や伸び等の特性を効果的に高め、また、溶接割れ感受性を有利に低減せしめて、高強度で健全な溶接継手を安定的に実現せしめ得ることとなったのである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ところで、本発明は、各種用途における構造部材や部品或いは製品等を得るべく、その少なくとも一部を構成する部材の製造に適用されるものであって、複数のAl材料が溶接により一体化せしめられるに際して、適用されることとなる。そして、そのようなAl材料が、本発明においては、特定量のCu、Mg及びZnを含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成の7000系Al合金からなるものとされているのである。
【0015】
この本発明に従うAl材料を与える7000系Al合金において、合金成分の一つであるCu(銅)は、Al材料の強度の向上と耐応力腐食割れ性を改善する効果を有し、その含有量が0.01%(質量基準、以下同じ)未満では、それらの効果が充分でないところから、少なくとも0.01%以上の割合において、含有せしめられることとなる。また、Cuの含有量が多くなると、Al材料の押出成形性を悪化せしめると共に、Al材料の焼入れ感受性が高くなり、押出直後の急冷であっても、焼入れに遅れが生じたりするため、T4調質やT6調質を行なっても充分な強度が得られなくなるところから、かかるCu含有量の上限は、0.50%とする必要がある。
【0016】
また、Mg(マグネシウム)は、Al合金の強度を高める主要な元素であるため、それによる効果を充分に発揮させるには、0.5%以上の割合において含有せしめる必要がある。一方、このMg含有量が多くなり過ぎると、強度は高くなるものの、伸びが低下し、加工性が悪化するようになると共に、Al材料の押出成形時において押出圧力が増大し、押出操作が困難となるところから、Mg含有量の上限は、2.1%とする必要がある。なお、そのようなMgの含有による優れた効果を有利に発揮させる上において、Mg含有量としては、好ましくは1.0〜2.1%、更に好ましくは1.2〜2.1%、特に1.3〜2.1%の割合が、有利に採用されることとなる。
【0017】
さらに、Zn(亜鉛)は、Mgと共存してAl合金に時効性を与え、所定の時効処理により強度を向上させる作用を発揮する元素であって、その効果を充分に発揮させるべく、4.0%以上の含有量において用いられることとなる。尤も、このZnも、その含有量が多くなると、強度は高くなるものの、伸びが低下するようになり、加工性が悪化する問題を生じると共に、押出時の割れが発生し易くなるところから、Zn含有量は、8.5%以下に止める必要がある。なお、このZn含有量は、好ましくは5.0〜8.5%であり、更に好ましくは6.0〜8.5%、特に7.5〜8.5%の範囲が、有利に採用されるのである。
【0018】
そして、かくの如き合金組成の7000系Al合金からなるAl材料は、そのようなAl合金を用いて得られたビレット等から、押出成形、鍛造成形、鋳造成形等の公知の成形手法によって、中実構造、中空構造や、形材、厚板等の形状の、公知の各種の形態において製造され、本発明に従うAl材料として、目的とする用途の部材の形成に用いられることとなる。
【0019】
本発明にあっては、上記の如くして得られるAl材料の複数を用いて、それらを、目的とする用途の部材を与えるように、溶接により一体化せしめるに際して、特定の合金組成を有する溶加材を用いた溶接操作が採用され、それによって生じた溶接継手にて、それら複数のAl材料が一体化されることによって、目的とする構造の部材が、優れた特性を保持して形成されるのである。
【0020】
ところで、この本発明で用いられる特定の溶加材は、Mg:5.5〜8.0%、Cr:0.05〜0.25%、Ti:0.25%以下、Si:0.4%以下、Fe:0.4%以下、Cu:0.1%以下、Zr:0.05%以下、及びZn:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる合金組成を有するものであって、それら元素の規定量を外れた含有量においては、各種の問題が惹起されるようになる。
【0021】
すなわち、Mg(マグネシウム)は、溶接金属の高強度化を図り、割れ感受性の低減に寄与せしめる上において必須の添加元素であって、その有効な添加効果を得る上においては、5.5%以上の含有量とする必要があるが、その含有量が8.0%を超えるようになると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、金属組織中にMg−Si系脆化層が形成されるようになり、そのため、ワイヤに抽伸加工することが困難となって、目的とする線径の溶加材を得ることが出来なくなる。
【0022】
また、Cr(クロム)は、溶接割れ感受性の低減に効果があり、そのために、0.05%以上の割合において、含有せしめられることとなるが、その含有量が0.25%を超えるようになると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、金属組織中に粗大なAl−Cr系晶出物(金属間化合物)を生成して、溶加材としてのワイヤを得るための抽伸加工操作が困難となる問題を惹起する。
【0023】
さらに、Ti(チタン)は、金属組織の微細化効果があり、そのために、0.25%を超えない割合において、含有せしめられることとなる。なお、このTi含有量が多くなり過ぎると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、金属組織中にAl−Ti系の粗大な晶出物(金属間化合物)を生成して、抽伸加工操作が困難となる問題を惹起する。
【0024】
更にまた、Si(ケイ素)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Zr(ジルコニウム)及びZn(亜鉛)は、何れも、不純物元素であって、それぞれ、上記で規定される含有量以下となるように制御される必要がある。Si含有量が多くなると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、Mg−Si系脆化層を形成して、母材と溶接金属部との境界部位であるボンド部の強度が低下する問題が惹起されるからであり、また、Fe含有量が多くなると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、粗大なAl−Fe系晶出物(金属間化合物)を生成して、抽伸加工操作が困難となる問題を生じ、更に、Cu含有量が多くなり過ぎると、溶接金属部の溶接割れ感受性が高くなる問題が惹起されるからであり、Zr含有量が多くなり過ぎると、巨大晶出物を生成して、抽伸操作が困難となる問題を生じ、加えて、Zn含有量が多くなり過ぎると、溶接金属部にMg−Zn系脆化層が形成され、これが、溶接継手部位の特性、中でも強度を低下せしめる問題が生じるからである。
【0025】
また、本発明にあっては、上記の溶加材の合金組成に加えて、更に、Mn(マンガン)の0.05〜1.0%が、有利に含有せしめられることとなる。この追加の合金成分たるMnは、溶接金属の高靭性化に寄与する成分であって、その添加効果を充分に発揮させるためには、0.05%以上の割合で含有せしめる必要があるが、その含有量が多くなり過ぎると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、粗大なAl−Mn系晶出物(金属間化合物)を生成して、抽伸加工が困難となる等の問題を惹起するようになる。
【0026】
そして、本発明に従う溶加材は、上記した合金成分を有するAl合金を用いて作製されるものであって、一般的には、JIS−Z−3232に規定される径及び許容差の溶接棒や電極ワイヤとして、使用されることとなる。
【0027】
また、かかる溶加材を用いた、前記Al材料の複数の溶接に際しては、MIG溶接、TIG溶接等のアーク溶接や、レーザ溶接、電子ビーム溶接等の公知の溶融溶接手法が、適宜に採用されて、それら複数のAl材料が、前記した溶加材によって形成される溶接継手を介して一体的に接合されて、目的とする形状乃至は構造の部材を与える接合体が形成されるのである。
【0028】
そして、そのようにして得られた、本発明に従うAl材料の複数が接合されてなる接合体は、T4調質やT6調質が施されてなる状態において、目的とする用途の部材に仕上げられることとなるのである。ここで、かかるT4調質やT6調質は、溶体化処理と自然時効処理又は人工時効処理とを、従来と同様に施すことによって、実施され得るものであって、上記の溶接して得られた接合体が、所定の溶体化処理と自然時効処理又は人工時効処理の履歴を有するように、公知の各種の手法に従って、行なわれることとなる。具体的には、一般に、溶接される前のAl材料に対して、所定の溶体化処理を施し、次いで、そのようなAl材料の複数を、本発明に従う溶融溶接手法によって形成される溶接継手にて一体的に接合せしめた後、その得られた接合体に対して、自然時効処理や人工時効処理を施し、全体としてT4調質やT6調質が施されるようにして、目的とする用途の部材を得ることが出来る。
【0029】
なお、そのようなT4調質やT6調質において、溶体化処理条件としては、一般に、450〜520℃の温度において、0.5〜10時間保持することからなる処理条件が採用され、また、T6調質における人工時効処理にあっても、一般に、90〜210℃の温度において、3〜24時間保持する処理条件が、採用されることとなる。
【0030】
そして、このようにして得られたAl材料の接合体にあっては、それを構成する複数のAl材料が、高強度の特定の7000系Al合金にて形成され、しかも、それら複数のAl材料が、特定の溶加材を用いて形成される溶接継手にて接合せしめられて、一体化されているところから、かかる溶接継手部分においても、優れた強度特性を発揮し、しかも、溶接割れ感受性も低減されたものとなっていることによって、母材強度が250MPa以上であり、また、継手強度も200MPa以上となり、更に、継手伸びも4%以上の、優れた特性を有する部材として得ることが出来るのであり、以て、各種用途の構造部材や部品、製品等の少なくとも一部を構成する部材として、有利に用いられ得るのである。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0032】
先ず、下記表1〜表3に示される、各種合金組成の7000系Al合金を溶製して、通常のDC鋳造法により、各種ビレットを製造した。次いで、この得られたビレットを、均質化処理した後、それぞれ、常法に従って直接押出して、板厚が3mmの平板状の各種Al材料を得た。また、それら各種のAl材料には、それぞれ、460℃×1時間の溶体化処理を施して、後述する溶接試験のための各種供試母材を作製した。更に、それら溶体化処理して得られた各種母材の一部を用いて、それぞれ、150℃×8時間の時効処理を施すことにより、T6調質材としたものについて、それぞれ、引張強度を測定し、その結果を表1〜表3に併せて示した。
【0033】
一方、溶加材についても、下記表4〜表6に示される、各種合金組成からなるAl合金を溶製した後、上記と同様にしてビレットを作製し、均質化処理の後、更に直接押出して、抽伸用素材を得た。その後、線径が1.6mmである溶接ワイヤとして、従来と同様な抽伸加工にて、目的とする各種の溶加材を作製した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
次いで、上記表1〜表3に示される、各種Al材料からなる母材の各2つを用い、それぞれの押出方向の端部を突き合わせて、上記表4〜表6に示される溶加材の、同じ番号のものを用いて、MIG溶接することからなる各種溶接試験を、下記表7〜表9に示される如く実施した。なお、MIG溶接条件は、電流:210A、溶接速度:80cm/分、シールドガス:Ar、シールドガス流量:10〜15L/分なる条件を採用した。
【0041】
そして、それぞれの溶接試験において得られた接合体に対して、150℃×8時間の人工時効処理を実施することにより、T6調質された、目的とする部材の各種のものを製造した。
【0042】
かくして得られた各種の接合部材について、その溶接継手部位に割れが発生しているか、どうか、当該溶接継手部位の断面を顕微鏡観察することにより評価する一方、それぞれの溶接継手部位について、引張試験を行ない、それぞれの継手の強度及び伸びについて測定すると共に、破断位置を調べた。なお、各継手の引張試験は、JIS−Z−2201に規定される5号引張試験片を、その長さ方向が母材の押出方向となるように、且つ試験片の中央部位に溶接金属部が位置するようにして、それぞれの溶接接合体から切り出し、余盛を付けたままにおいて、JIS−Z−2241に準拠して、引張試験を実施した。また、破断位置の評価においては、破断が、溶接金属部位において発生したか、或いは、溶接金属部位と母材部との境界部位(ボンド部)において発生したか、または、母材部の熱影響部(HAZ)において発生したか、の何れかにおいて、評価した。
【0043】
そして、上記の試験・評価の結果を、下記表7〜表9に、併せて示した。
【0044】
【表7】

【0045】
【表8】

【0046】
【表9】

【0047】
かかる表7〜表9の結果から明らかな如く、本発明に従う合金組成の7000系Al合金からなるAl材料である母材(No.1〜27)を用い、それを、本発明に従う合金組成の溶加材(No.1〜27)にてMIG溶接した、溶接試験1〜27においては、強度及び伸び等の物性に優れた溶接継手が得られると共に、割れ感受性にも優れており、しかも、破断位置が熱影響部(HAZ)となって、優れた破断特性を示す溶接継手構造体を得ることが出来ることが認められる。
【0048】
これに対して、溶接されるAl材料の合金組成が本発明の範囲外となったり(使用母材No.58〜64)、或いは、溶加材を与える合金組成が本発明の範囲外となったり(使用溶加材No.31〜57,65〜72)した場合における、溶接試験31〜72にあっては、伸びが低下したり、強度が不足したり、破断位置がボンド部や溶接金属部となったり、溶接時に割れが発生したり、溶加材の抽伸加工時に割れが発生する等の問題を惹起して、目的とする部材としての使用に少なからぬ問題があることが、明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量基準にて、Cu:0.01〜0.50%、Mg:0.5〜2.1%、並びにZn:4.0〜8.5%を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成の7000系Al合金からなるAl材料を溶融溶接するに際して、
質量基準にて、Mg:5.5〜8.0%、Cr:0.05〜0.25%、Ti:0.25%以下、Si:0.4%以下、Fe:0.4%以下、Cu:0.1%以下、Zr:0.05%以下、及びZn:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するAl合金溶加材を用いることを特徴とするAl材料の溶接方法。
【請求項2】
前記溶加材が、更に、0.5〜1.0質量%のMnを含んでいる請求項1に記載のAl材料の溶接方法。
【請求項3】
前記7000系Al合金におけるMg含有量が、1.0〜2.1質量%である請求項1又は請求項2に記載のAl材料の溶接方法。
【請求項4】
前記7000系Al合金におけるMg含有量が1.2〜2.1質量%であり、且つZn含有量が5.0〜8.5質量%である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のAl材料の溶接方法。
【請求項5】
前記7000系Al合金におけるMg含有量が1.2〜2.1質量%であり、且つZn含有量が6.0〜8.5質量%である請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のAl材料の溶接方法。
【請求項6】
前記7000系Al合金におけるMg含有量が1.3〜2.1質量%であり、且つZn含有量が7.5〜8.5質量%である請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のAl材料の溶接方法。


【公開番号】特開2010−279981(P2010−279981A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136483(P2009−136483)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】