説明

Al複合金属材料の製造方法及びAl複合金属製品の製造方法

【課題】炭素繊維の成形工程が不要であり、複合成形品を得ることができる製造技術を提供することを課題とする。
【解決手段】図(d)に示すように、所定量の炭素繊維12が添加されたら、撹拌機14の速度を第1の速度V1より高速の第2の速度V2に切り換える。数分間撹拌すると、(e)に示すように、撹拌物15の上層部分が炭素繊維を豊富に含む炭素繊維リッチの混合物16と、撹拌物15の下層部分が炭素繊維を殆ど含まない炭素繊維プアーの混合物17とに分離する。(f)に示すように、容器18に炭素繊維リッチの混合物16を移す。これで、炭素繊維リッチの混合物16だけを取り出すことができた。
【効果】成形処理を施していない炭素繊維を半溶融状態の金属材料に添加する。炭素繊維を成形する必要がないので成形工程を省くことができ、Al複合金属材料の製造コストを下げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al複合金属材料又はAl複合金属製品の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板にヒートシンクが付設される。このヒートシンクは、文字通り、放熱部品であるため、高い熱伝導率が求められる。
金属より炭素の熱伝導率が高いため、ヒートシンクとして、金属材料と炭素繊維との複合成形品が推奨され、それの製造技術は各種提案されている(例えば、特許文献1(図2)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図5は従来の技術の基本原理を説明する図であり、ダイ101に、炭素繊維成形体102を置き、溶融金属103を流し込む。次に、パンチ104で溶融金属103を加圧する。すると、溶融金属103が炭素繊維成形体102に浸み込む。これで、金属と炭素繊維との複合成形品が得られる。
【0004】
炭素繊維成形体102は、炭素繊維を型に入れ、圧縮することで得られる。すなわち、炭素繊維成形体を得るために、成形工程が必要となる。結果、複合成形品の製造コストが嵩む。
また、パンチ104で加圧する関係上、得られる複合成形品は、平板などの簡単な形状物に限定される。
【0005】
炭素繊維の成形工程が不要であり、且つ複雑な形状の複合成形品を得ることができる製造技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−58255公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、炭素繊維の成形工程が不要であり、且つ複雑な形状の複合成形品を得ることができる製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係るAl複合金属材料の製造方法は、アルミニウムをマトリックスとする金属材料及び強化材としての炭素繊維を準備する工程と、
前記金属材料を容器に入れ、半溶融状態に加熱した状態で、前記炭素繊維を少量ずつ添加しながら、撹拌手段により、前記炭素繊維が飛散しないような第1の速度で撹拌する第1撹拌工程と、
前記炭素繊維の添加が完了したら、前記撹拌手段の速度を、前記第1の速度より高速の第2の速度に切り換えて、前記撹拌物の上層部分が前記炭素繊維を豊富に含む炭素繊維リッチの混合物と、前記撹拌物の下層部分が前記炭素繊維を殆ど含まない炭素繊維プアーの混合物とに分離するように、前記撹拌物を所定時間撹拌する第2撹拌工程と、
Al複合金属製品の素材を得るために、前記容器から前記炭素繊維リッチの混合物を取り出す工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係るAl複合金属材料の製造方法では、Al複合金属材料は、15〜40質量%の炭素繊維と、残部の金属材料とからなることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係るAl複合金属材料の製造方法では、第1撹拌工程で添加する炭素繊維は、質量比で金属材料の3〜5%であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係るAl複合金属製品の製造方法は、請求項1、請求項2又は請求項3記載のAl複合金属材料の製造方法で得られた炭素繊維リッチの混合物を、直接金型成形機に供給し、金型のキャビティにより成形することでAl複合金属製品を得ることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係るAl複合金属製品の製造方法は、請求項1、請求項2又は請求項3記載のAl複合金属材料の製造方法で得られた炭素繊維リッチの混合物を、冷却して固体状態にし、次に、この固体状態の混合物を、半溶融状態又は完全溶融状態に加熱して、金型のキャビティにより成形することでAl複合金属製品を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、成形処理を施していない炭素繊維を、半溶融状態の金属材料に添加する。炭素繊維を成形する必要がないので成形工程を省くことができ、Al複合金属材料の製造コストを下げることができる。
炭素繊維は飛散しやすいが、本発明では低速度で半溶融金属材料を撹拌しながら、少量ずつ炭素繊維を添加するようにしたため、炭素繊維が飛散する心配はない。
また、金属材料は完全溶融させずに半溶融状態とした。半溶融状態であれば添加した炭素繊維の自由流動が妨げられる。結果、炭素繊維が凝集する心配はなく、金属材料中に炭素繊維が均等に分散される。
【0014】
請求項2に係る発明では、Al複合金属材料は、15〜40質量%の炭素繊維と、残部の金属材料とした。炭素繊維の添加割合が、15質量%を下回ると、Al複合金属材料は所望の熱伝導率が得られなくなる。また、炭素繊維の添加割合が、40質量%を越えると、Al複合金属材料は脆くなり、次に実施する成形及び製品化が困難になる。
【0015】
請求項3に係る発明では、第1撹拌工程で添加する炭素繊維は、質量比で金属材料の3〜5%とした。炭素繊維が金属材料の3%を下回ると、炭素繊維リッチの混合物と炭素繊維プアーの混合物との2つに分離させることが、困難になる。また、炭素繊維が金属材料の5%を超えると撹拌に要する時間が長くなり、生産性が低下する。
【0016】
請求項4に係る発明では、炭素繊維リッチの混合物を、直接金型成形機に供給し、金型のキャビティにより成形する。工程が連続しているため、Al複合金属製品の大量生産が可能となり、Al複合金属製品の製造コストを下げることができる。
金型のキャビティは複雑な形状にすることができ、複雑な形状のAl複合金属製品が容易に得られる。
【0017】
請求項5に係る発明では、炭素繊維リッチの混合物を、冷却して固形物にする。後に、加熱半溶解又完全溶解して、金型のキャビティにより成形する。
炭素繊維リッチの混合物を固形物の形態で、保存することができると共に移動することができる。固形物を必要な時期又は必要な場所で、鋳造に供することができるため、Al複合金属製品の生産計画が立てやすくなる。
金型のキャビティは複雑な形状にすることができ、複雑な形状のAl複合金属製品が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る準備工程から第2撹拌工程までを説明するフロー図である。
【図2】直接金型成形機によりAl複合金属製品を製造するフロー図である。
【図3】固体状態の混合物を用いてAl複合金属製品を製造するフロー図である。
【図4】炭素繊維含有率と熱伝導率との相関を示すグラフである。
【図5】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、金属材料としてのAl合金インゴット11と、カーボンファイバーと呼ばれる炭素繊維12とを準備する(準備工程)。
炭素繊維12は、繊維径が0.15〜20μm、繊維長さが10〜500μm、アスペクト比が5〜500のカーボンファイバーである。
【0021】
一方、炭素繊維に類似した材料としてカーボンナノ材料がある。
このカーボンナノ材は、繊維径が1.0nm(ナノメートル)〜150nm、すなわち、0.001〜0.15μmであり、サイズ的に炭素繊維12と異なる。
そこで、本発明では、炭素繊維12に、カーボンナノ材料を含めないことにする。
【0022】
(b)に示すように、容器(坩堝)13を用いて、Al合金インゴット11を半溶融状態に加熱する。半溶融状態は、液相と固相が混合した状態を意味する。
(c)に示すように、撹拌機14で撹拌物15を第1の速度V1で撹拌しながら、少量ずつ炭素繊維12を添加する。第1の速度V1は炭素繊維12が飛散しない程度の低速とする。所定量の炭素繊維12の全量を添加するまで、作業を続ける(第1撹拌工程)。
【0023】
金属材料は完全溶融させずに半溶融状態とした。半溶融状態であれば添加した炭素繊維12の自由流動が妨げられる。結果、炭素繊維12が凝集する心配はなく、金属材料中に炭素繊維12が均等に分散される。
【0024】
(d)に示すように、所定量の炭素繊維12が添加されたら、撹拌機14の速度を第1の速度V1より高速の第2の速度V2に切り換える。
数分間撹拌すると、(e)に示すように、撹拌物15の上層部分が炭素繊維を豊富に含む炭素繊維リッチの混合物16となり、残部(撹拌物15の下層部分)が炭素繊維を殆ど含まない炭素繊維プアーの混合物17となるように、撹拌物15は上下に分離する(第2撹拌工程)。
【0025】
Alの比重が約2.7、炭素の比重が約2.3である。マトリックスであるAl合金より、炭素繊維が軽いため、マトリックスの上部に炭素繊維が集まることから、混合物16と混合物17とに分離すると推定される。
【0026】
(f)に示すように、適当な容器(例えば柄杓(ひしゃく))18に炭素繊維リッチの混合物16を移す(取り出し工程)。これで、炭素繊維リッチの混合物16だけを取り出すことができた。
【0027】
取り出した炭素繊維リッチの混合物16の用途を、図2、図3に基づいて説明する。
図2(a)に示すように、混合物16を、直接金属成形機21へ供給する。金属成形機21で金型22、22のキャビティ23へ注湯する。金型22、22を開くことで、(b)に示すように、Al複合金属製品24を得ることができる。
さらには、Al複合金属製品24に、熱間圧延加工や熱間押出し加工を施すことで、金属組織の微細化を行い、機械的特性や熱的特性を向上させることができる。
【0028】
図1、図2の工程が連続しているため、Al複合金属製品の大量生産が可能となり、Al複合金属製品の製造コストを下げることができる。
金型22のキャビティ23は複雑な形状にすることができ、複雑な形状のAl複合金属製品24が容易に得られる。
【0029】
又は、図3(a)に示すように、鋳造型25に混合物16を鋳込み、(b)に示すような固形物(固体状態の混合物)26を得る。この固形物26であれば、保存することや遠隔地まで運搬することができる。
【0030】
必要なとき又は必要な場所で、(c)に示すように、加熱容器27により固形物26を半溶融又は完全溶融状態の溶湯28にする。(d)に示すように、溶湯28を、金属成形機21へ供給する。金属成形機21で金型22、22のキャビティ23へ注湯する。金型22、22を開くことで、(e)に示すように、Al複合金属製品24を得ることができる。
さらには、Al複合金属製品24に、熱間圧延加工や熱間押出し加工を、施すことで、金属組織の微細化を行い、機械的特性や熱的特性を向上させることができる。
【0031】
金属材料と炭素繊維の混合割合、撹拌に係る第1の速度及び第2の速度を検証するために、実験を行った。その実験の詳細を次に説明する。
【0032】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
【0033】
○準備工程:
1000gのアルミニウム合金(JIS AC2B)と、50g又は110gの炭素繊維(繊維径8μm、繊維長さ約200μm)と、参考までに50gのカーボンナノ材料(繊維径0.15μm、繊維長さ約15μm)とを準備した。
【0034】
○第1撹拌工程:
・1000gのアルミニウム合金を、750℃の黒鉛るつぼ中で溶解する。
・その後、溶湯を585℃まで下げて半溶融状態にする。
・毎分350回転(第1の速度)で回転する窒化珪素製撹拌羽根で、半溶融状態の溶湯を撹拌する。
・この撹拌中に、溶湯に少量(量は表1に示す。)の炭素繊維を添加する。
・所定量(量は表1に示す。)の添加が完了するまで続ける。
【0035】
○第2撹拌工程:
・毎分500回転(第2の速度)で回転する窒化珪素製撹拌羽根で、半溶融状態の溶湯を所定時間(時間は表1に示す。)撹拌する。
・所定時間が経過すると、撹拌物の上部に炭素繊維リッチの混合部が分離形成される。
【0036】
○取り出し工程:
・容器の温度を700℃に高める。
・炭素繊維リッチの混合物をすくい取る。
【0037】
○鋳造工程:
・炭素繊維リッチの混合物を高圧鋳造機に供給し、Al複合金属製品を得る。
○熱伝導率測定:
・得られたAl複合金属製品の熱伝導率を測定した。
・参照指標は、炭素繊維が含まれていないアルミニウム合金(JIS AC2B)の熱伝導率とする。この熱伝導率は、144W/mKである。
【0038】
【表1】

【0039】
・試料1:1000gのアルミニウム合金に毎分1.8gの速度で110gの炭素繊維を添加した。全量添加に約61分を要した。第2撹拌は実施しなかった。第1撹拌のみで得た混合物を高圧鋳造することで、試料を作製した。この試料の炭素繊維含有率は10質量%で、熱伝導率は138W/mKであった。なお、炭素繊維有率は、(炭素繊維/(金属材料+炭素繊維))の百分率で算出される。
【0040】
・試料2:1000gのアルミニウム合金に毎分5gの速度で50gの炭素繊維を添加した。全量添加に10分を要した。500rpmでの第2撹拌は1分間実施した。第2撹拌で得た250gの炭素繊維リッチの混合物を高圧鋳造することで、試料を作製した。この試料の炭素繊維含有率は10質量%で、熱伝導率は144W/mKであった。
【0041】
・試料3:1000gのアルミニウム合金に毎分5gの速度で50gの炭素繊維を添加した。全量添加に10分を要した。500rpmでの第2撹拌は2分間実施した。第2撹拌で得た炭素繊維リッチの混合物を高圧鋳造することで、試料を作製した。この試料の炭素繊維含有率は15質量%で、熱伝導率は155W/mKであった。
【0042】
・試料4:1000gのアルミニウム合金に毎分5gの速度で50gの炭素繊維を添加した。全量添加に10分を要した。500rpmでの第2撹拌は3分間実施した。第2撹拌で得た炭素繊維リッチの混合物を高圧鋳造することで、試料を作製した。この試料の炭素繊維含有率は20質量%で、熱伝導率は172W/mKであった。
【0043】
・試料5:2000gのアルミニウム合金に毎分5gの速度で100gの炭素繊維を添加した。全量添加に20分を要した。500rpmでの第2撹拌は5分間実施した。第2撹拌で得た炭素繊維リッチの混合物を高圧鋳造することで、試料を作製した。この試料の炭素繊維含有率は40質量%で、熱伝導率は180W/mKであった。
【0044】
・試料6:2000gのアルミニウム合金に毎分2.1gの速度で150gの炭素繊維を添加した。全量添加に70分を要した。500rpmでの第2撹拌は5分間実施した。第2撹拌で得た炭素繊維リッチの混合物は、脆弱で、次の鋳造に移すことができなかった。そのため、熱伝導率の測定は実施しなかった。
【0045】
・試料7:1000gのアルミニウム合金に毎分2gの速度で50gのカーボンナノ材料を添加した。全量添加に25分を要した。500rpmでの第2撹拌は3分間実施した。第2撹拌で得た炭素繊維リッチの混合物を高圧鋳造することで、試料を作製した。この試料の炭素繊維含有率は20質量%で、熱伝導率は130W/mKであった。
【0046】
表1に記載されている、炭素繊維含有率を横軸に取り、熱伝導率を縦軸に取ることで、炭素繊維含有率と熱伝導率との相関を調べた。
図4に示すように、右肩上がりの曲線を得ることができる。
炭素繊維を含めないアルミニウム合金(AC2B)の熱伝導率は、144W/mKである。すると、試料7(カーボンナノ材料使用)は、熱伝導率が低すぎて採用できない。また、試料2は、炭素繊維が含まれていないアルミニウム合金(AC2B)と同じ熱伝導率であるため、炭素繊維を添加した意味がない。
試料3、4、5は、高い熱伝導率が得られる。そこで、好適な炭素繊維含有率は、15質量%〜40質量%の範囲であることが確かめられた。
【0047】
ところで、表1では、第1撹拌での所要時間は、10分〜70分であった。この第1撹拌の時間は、長いほど生産時間が延びて生産性が低下する。
そこで、第1撹拌での所要時間に着目して、追加実験を実施することにした。この実験の内容と結果を表2で説明する。
【0048】
【表2】

【0049】
・試料8:1000gのアルミニウム合金に毎分5gの速度で10gの炭素繊維を添加した。強化材/金属材料(百分率)は、1%となる。全量添加に2分を要し、第1撹拌での分散状態は良好であった。次に、500rpmで第2撹拌を3分間実施した。しかし、炭素繊維リッチの混合物が、炭素繊維プアーの混合物から分離しなかった。そのため、評価は×とした。
【0050】
・試料9:試料8に対して炭素繊維を20gに増量した。強化材は金属部材の2%となる。しかし、炭素繊維リッチの混合物が、炭素繊維プアーの混合物から分離しなかった。そのため、評価は×とした。
【0051】
・試料10:試料8に対して炭素繊維を30gに増量した。強化材は金属部材の3%となる。第1撹拌の所要時間は6分であり、目標時間(20分未満)より短い。第2撹拌により、炭素繊維リッチの混合物が炭素繊維プアーの混合物から良好に分離した。そのため、評価は○とした。
・試料11:試料8に対して炭素繊維を50gに増量した。強化材は金属部材の5%となる。第1撹拌の所要時間は10分であり、目標時間(20分未満)より短い。第2撹拌により、炭素繊維リッチの混合物と炭素繊維プアーの混合物とに分離した。そのため、評価は○とした。
【0052】
・試料12:試料8に対して炭素繊維を60gに増量し、添加速度は3g/分に変更した。強化材は金属部材の6%となる。第1撹拌の所要時間は20分であり、目標時間(20未満)をやや超えた。そのため、評価は△とした。
【0053】
・試料13:試料8に対して炭素繊維を100gに増量し、添加速度は1.7g/分に変更した。強化材は金属部材の10%となる。第1撹拌の所要時間は60分であり、目標時間(20未満)を遙かに超えた。そのため、評価は×とした。
・試料14:試料8に対して炭素繊維を110gに増量し、添加速度は1.6g/分に変更した。強化材は金属部材の11%となる。第1撹拌の所要時間は70分であり、目標時間(20未満)を遙かに超えた。そのため、評価は×とした。
【0054】
・試料15:試料8に対して炭素繊維を120gに増量し、添加速度は1.5g/分に変更した。強化材は金属部材の12%となる。第1撹拌の所要時間は80分であり、目標時間(20未満)を遙かに超えた。加えて、炭素繊維過剰で分散しなかった。そのため、評価は×とした。
【0055】
第1撹拌での好ましい所要時間を、10分以内とすれば、試料10、11が該当し、強化材は、質量比で金属部材の3〜5%が好適範囲となる。すなわち、第1撹拌工程で添加する炭素繊維は、質量比で金属材料の3〜5%とした。炭素繊維が金属材料の3%を下回ると、炭素繊維リッチの混合物と炭素繊維プアーの混合物との2つに分離させることが、困難になり、また、炭素繊維が金属材料の5%を超えると撹拌に要する時間が長くなり、生産性が低下するが、これらの不具合は3〜5%の範囲にすることで解消される。
【0056】
なお、第1撹拌での好ましい所要時間を、20分以内とすれば、試料10、11、12が該当し、強化材は、質量比で金属部材の3〜6%となる。
【0057】
尚、金属材料としてのAlは、アルミニウム、アルミニウム合金であれば、種類は限定しない。また、Al複合金属製品の鋳造法は、ダイカスト、高圧鋳造、低圧鋳造、金型鋳造、砂型鋳造など各種の方法が適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、アルミニウムと炭素繊維とからなるAl複合金属製品の製造に好適である。
【符号の説明】
【0059】
11…金属材料(Al合金インゴット)、12…炭素繊維、13…容器(るつぼ)、14…撹拌機、15…撹拌物、16…炭素繊維リッチの混合物(Al複合金属材料)、17…炭素繊維プアーの混合物、21…金属成形機、22…金型、23…キャビティ、24…Al複合金属製品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムをマトリックスとする金属材料及び強化材としての炭素繊維を準備する工程と、
前記金属材料を容器に入れ、半溶融状態に加熱した状態で、前記炭素繊維を少量ずつ添加しながら、撹拌手段により、前記炭素繊維が飛散しないような第1の速度で撹拌する第1撹拌工程と、
前記炭素繊維の添加が完了したら、前記撹拌手段の速度を、前記第1の速度より高速の第2の速度に切り換えて、前記撹拌物の上層部分が前記炭素繊維を豊富に含む炭素繊維リッチの混合物と、前記撹拌物の下層部分が前記炭素繊維を殆ど含まない炭素繊維プアーの混合物とに分離するように、前記撹拌物を所定時間撹拌する第2撹拌工程と、
Al複合金属製品の素材を得るために、前記容器から前記炭素繊維リッチの混合物を取り出す工程と、からなることを特徴とするAl複合金属材料の製造方法。
【請求項2】
前記Al複合金属材料は、15〜40質量%の前記炭素繊維と、残部の前記金属材料とからなることを特徴とする請求項1記載のAl複合金属材料料の製造方法。
【請求項3】
前記第1撹拌工程で添加する前記炭素繊維は、質量比で前記金属材料の3〜5量%であることを特徴とする請求項1記載のAl複合金属材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3記載のAl複合金属材料の製造方法で得られた前記炭素繊維リッチの混合物を、直接金型成形機に供給し、金型のキャビティにより成形することでAl複合金属製品を得ることを特徴とするAl複合金属製品の製造方法。
【請求項5】
請求項1、請求項2又は請求項3記載のAl複合金属材料の製造方法で得られた前記炭素繊維リッチの混合物を、冷却して固体状態にし、次に、この固体状態の混合物を、半溶融状態又は完全溶融状態に加熱して、金型のキャビティにより成形することでAl複合金属製品を得ることを特徴とするAl複合金属製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−231374(P2011−231374A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103223(P2010−103223)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】