説明

Au−Sn合金蒸着用粒状材およびその製造方法

【課題】製造が簡便であり、各粒が所望の重量を有するAu−Sn合金蒸着材を提供する。
【解決手段】複数の凸曲面を滑らかに連続させてなる表面を有するAu−Sn合金蒸着用粒状材10を、所定量のAu材料とSn材料とを、凹曲面からなる底面21aと、円筒面21bとを有する成形穴21の中で所定温度まで加熱して溶融状態のAu−Sn合金を得た後、成形穴21の中で前記Au−Sn合金を徐冷して凝固させることにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Au−Sn合金蒸着用粒状材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着法による成膜の材料として、ペレット状に形成された蒸着材が用いられている。電子ビームを用いた真空蒸着においては、蒸着材の破損微粒子の飛び散り(スプラッシュ)による膜質特性の悪化や成膜速度の経時変化等を防止するために、ペレットをエッジのない球状または円板状に形成することが提案されている(たとえば特許文献1参照)。このような蒸着用ペレットの各粒を一定の重量にすることにより、蒸着材の自動計量が容易となる。
【0003】
一方、合金の小片を円形溝内で溶融および凝固させることにより、真球度の高い極小合金ボール材を形成する方法が提案されている(たとえば特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−187919号公報
【特許文献2】特開2003−268403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Au−Sn合金をペレット状に形成しようとする場合、たとえば鋳造されたAu−Sn合金圧延板を所定寸法に切断したり、Au−Sn合金ワイヤを所定長さに切断したりすることが考えられる。しかしながら、Au−Sn合金は硬く脆い材質であり、切断の際に欠けるなどしやすいため、小さな蒸着用ペレットを機械加工により精密に形成することは難しい。また、従来のように角のあるペレットは、脆いAu−Sn合金の場合は割れやすく、自動計量に用いることが難しい。
【0006】
特許文献1に記載の方法では、原料粉末を含むスラリーから造粒しているため、工程が多く、手間がかかる。また、特許文献2に記載の方法は、まず合金の小片を形成しなければならないため、加工の困難なAu−Sn合金に適用することは難しい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、製造が簡便であり、各粒が所望の重量を有するAu−Sn合金蒸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の凸曲面を滑らかに連続させてなる表面を有するAu−Sn合金蒸着用粒状材である。
このAu−Sn合金蒸着用粒状材によれば、凸曲面からなるので表面にエッジがなく、電子ビーム蒸着時のスプラッシュを防止できる。また、本発明のAu−Sn合金蒸着用粒状材は、エッジがなく欠けにくいので各粒が所望の重量に維持され、自動計量に好適である。
【0009】
また、本発明は、所定量のAu材料とSn材料とを、凹曲面からなる底面と、円筒面とを有する成形穴の中で所定温度まで加熱して溶融状態のAu−Sn合金を得た後、前記成形穴の中で前記Au−Sn合金を徐冷して凝固させることにより、複数の凸曲面を滑らかに連続させてなる表面を有する粒状材を製造するAu−Sn合金蒸着用粒状材の製造方法である。
この製造方法によれば、Au材料とSn材料とを合金化すると同時に粒状に成形するので、Au−Sn合金材を機械加工する必要がなく、容易にAu−Sn合金蒸着用粒状材を製造できる。また、溶融状態の合金を炉内で徐冷することにより、いびつでない滑らかな形状の粒材を製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のAu−Sn合金蒸着用粒状材によれば、エッジがなく欠けや割れが防止され、各粒が所定重量に維持されるので、成膜処理時のスプラッシュが生じにくく、蒸着材の自動計量が容易な蒸着処理が実現できる。また、本発明のAu−Sn合金蒸着用粒状材の製造方法によれば、機械加工を行わず容易に、各粒が所望の重量を有する合金粒状材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るAu−Sn合金蒸着用粒状材およびその製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るAu−Sn合金蒸着用粒状材およびその製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態のAu−Sn合金蒸着用粒状材(以下、「合金ペレット」)10は、複数の凸曲面を滑らかに連続させてなる表面を有している。この合金ペレット10は、各粒の重量が0.63gの場合、最大外径が6mm以上7mm以下とされている。
【0013】
この合金ペレット10は、図1(a)〜(c)に示すように、型板20に形成された成形穴21の中で製造される。成形穴21は、略円錐状の凹曲面からなる底面21aと、内径が6mmの円筒面21bとを有し、材料を保持するのに十分な深さで形成されている。型板20は、溶融状態のAu−Sn合金に対する成形穴21のぬれ性を低くするために、たとえばカーボンによって形成されている。なお、底面21aを構成する凹曲面は、略円錐状に限らず、たとえば半球面等の円弧面、異なる曲率の曲面を滑らかに連続させた曲面等であってもよい。
【0014】
図1(a)に示すように、直径0.1〜1mmのAu粉末を0.504g、および厚さ0.2mm以下のSn薄板片を0.126gの各材料を秤量し、成形穴21に投入する。なお、このときの各材料を所望量とすることにより、得られる合金を所望の組成とすることができる。本実施形態の場合、各材料の量を前述のようにすることにより、Sn量が20±1重量%の合金が得られる。
【0015】
そして、成形穴21に材料を投入された型板20を、不活性ガス(たとえばアルゴンガス)雰囲気に保たれた加熱炉内で280℃〜600℃で2分間保持する。これにより、図1(b)に示すようにAuおよびSnが溶融して合金化する。なお、各材料の形状は特に限定されないが、AuとSnとが接触した部分で合金化するので、粉末状、小片状等の材料を用いることにより、両材料が均一に混合されて互いに接触し、効率よく溶融状態の合金を得ることができる。
【0016】
次いで、加熱炉による加熱を停止し、型板20を加熱炉内で所定の冷却速度で炉冷(徐冷)する。すなわち、溶融状態のAu−Sn合金を、成形穴21内で200℃〜250℃まで10分間かけて冷却する。このとき、溶融状態のAu−Sn合金は、温度が低下するとともに表面張力が高まることにより成形穴21の内面に沿いながら球形に近づき、図1(c)に示すように、複数の凸曲面が滑らかに連続するペレット状に凝固する。その後、型板20を加熱炉内から取り出し、成形穴21から合金ペレット10を得る。
【0017】
このように製造された合金ペレット10によれば、エッジがないことから割れや欠けが防止されるので、成膜処理時のスプラッシュの発生が抑制され、高品質の成膜を実現する。また、合金ペレット10が所望の重量を有する粒状に製造され、割れや欠けによる重量の変化も抑制されるので、蒸着処理における材料の計量の自動化が容易である。また、成形穴21の中で各材料を配合するので、難加工材であるAu−Sn合金に機械加工を施す必要がなく、所望の組成の合金を容易に得ることができる。
【0018】
ここで、本発明に係る実施例および比較例について説明する。各実施例および比較例では、成形穴の形状およびサイズと冷却方法を異ならせ、以下の共通条件により合金ペレットを製造した。
〈材料〉
Au:直径0.1〜1mmの粉末、約50個〜50800個(0.500g〜0.508g)
Sn:厚さ0.2mm以下の薄板片(0.122g〜0.130g)
〈製造されたペレット〉
重量:0.63g(0.622g〜0.638g)
組成:Sn20±1%
〈加熱・冷却〉
成形穴:カーボン板にドリルまたはエンドミルで形成
加熱温度:280℃〜600℃
【0019】
〈実施例1〉
直径6mmのドリルで形成した略円錐形の底部を有する成形穴を用いて、材料を加熱溶融した。次いで、溶融状態の合金を成形穴の中で200℃〜250℃まで炉冷して凝固させた結果、成形穴の底部形状に沿った略円錐形状の凸曲面を含む複数の凸曲面からなり、凹みのない滑らかな表面を有する合金ペレットが得られた。
〈実施例2〉
直径7mmのドリルで形成した略円錐形の底部を有する成形穴を用いて、材料を加熱溶融した。次いで、溶融状態の合金を成形穴の中で200℃〜250℃まで炉冷して凝固させた結果、ほぼ略円錐形状の凸曲面を含む複数の凸曲面からなり、凹みのない滑らかな表面を有し、実施例1の合金ペレットよりも扁平な合金ペレットが得られた。
【0020】
〈比較例1〉
直径6mmのエンドミルで形成した半球状の底部を有する成形穴を用いて、材料を加熱溶融し、溶融状態の合金を大気中で急冷して凝固させた結果、表面に凹みのある、いびつな合金ペレットが得られた。
〈比較例2〉
直径10mmのエンドミルで形成した平坦な底部を有する成形穴を用いて、材料を加熱溶融した。この場合、成形穴径に対して材料が少なめとなった。次いで、溶融状態の合金を成形穴の中で200℃〜250℃まで炉冷して凝固させた結果、凹凸がなく平坦面を有する扁平な合金ペレットが得られた。
〈比較例3〉
直径4mmのエンドミルで形成した半球状の底部を有する成形穴を用いて、材料を加熱溶融した。この場合、成形穴径に対して材料が過剰となった。次いで、溶融状態の合金を成形穴の中で200℃〜250℃まで炉冷して凝固させた結果、いびつな合金ペレットが得られた。
【0021】
比較例1,3ではいびつな形状の合金ペレットが形成され、比較例2では平面を有する合金ペレットが形成された。いびつな形状の合金ペレットは、取り扱いの際に割れるおそれがあり、割れにより生成されたエッジが成膜時のスプラッシュの原因となったり、自動計量の妨げとなったりするので好ましくない。
【0022】
以上説明したように、本発明のAu−Sn合金蒸着用粒状材(合金ペレット)10によれば、エッジがなく表面が滑らかであるので成膜処理時のスプラッシュが防止されるとともに、割れや欠けによる重量のばらつきがなく各粒が所望の重量を有するので、材料の自動計量が容易であり、高品質の蒸着膜の形成を実現することができる。
また、本発明のAu−Sn合金蒸着用粒状材の製造方法によれば、所望量の各材料を成形穴の中で合金化するので、機械加工を伴わずに、所望の配合のAu−Sn合金を、所望の重量の粒状材に容易に形成することができる。
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0023】
10 Au−Sn合金蒸着用粒状材(合金ペレット)
20 型板
21 成形穴
21a 底面
21b 円筒面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凸曲面を滑らかに連続させてなる表面を有することを特徴とするAu−Sn合金蒸着用粒状材。
【請求項2】
所定量のAu材料とSn材料とを、凹曲面からなる底面と、円筒面とを有する成形穴の中で所定温度まで加熱して溶融状態のAu−Sn合金を得た後、前記成形穴の中で前記Au−Sn合金を徐冷して凝固させることにより、複数の凸曲面を滑らかに連続させてなる表面を有する粒状材を製造することを特徴とするAu−Sn合金蒸着用粒状材の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−261094(P2010−261094A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115004(P2009−115004)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】