説明

CD11d(α−d)インテグリンに特異的に結合する組成物を使用した慢性疼痛を処置する方法

本発明により、脊髄損傷からもたらされる続発性の障害を処置する、CD11dに特異的に結合するポリペプチド組成物を使用した方法が開示される。1つの実施形態において、本方法は、哺乳動物被験体において慢性疼痛を処置するための方法であって、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む、治療有効量の組成物を必要とする被験体に投与する工程を包含する。本発明は、α−dインテグリンサブユニット(すなわち、CD11d)に結合する抗体およびポリペプチド組成物を使用して、慢性疼痛を処置するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、インテグリンサブユニットα−d(α)(CD11dとしても公知)に特異的に結合する組成物を使用して慢性疼痛を処置または予防するための方法に関連する。本発明は、個体において慢性疼痛を相乗的に予防または緩和するために、既存の疼痛治療と併せて投与され得る、抗CD11d特異的ポリペプチド組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
インテグリンは、膜結合分子の1種であり、これは、細胞接着に活性的に関与する。インテグリンは、膜貫通ヘテロダイマーであり、βサブユニットに非共有結合するαサブユニットを含む。現在まで、少なくとも18個のαサブユニットおよび8個のβサブユニットが、同定されている[非特許文献1;非特許文献2;および非特許文献3において概説されている]。このβサブユニットは、概して、1つより多いαサブユニットと会合し得、そして共通のβサブユニットを共有するヘテロダイマーは、インテグリンの集団内のサブファミリーとして分類されてきた。
【0003】
白血球における発現に限定される、ヒトインテグリンの1種は、共通のβ2サブユニットによって特徴付けられる。この細胞特異的発現の結果として、これらのインテグリンは、一般的に、白血球インテグリン、Leu−CAM、またはロイコインテグリン(leukointegrin)と呼ばれる。この種の代替的な名称は、β2インテグリンである。このβ2サブユニット(CD18)は、4つの区別されるαサブユニット(CD11a、CD11b、CD11cまたはCD11d)の1つと関連して既に単離されている。ヒトCD18をコードするcDNAの単離は、非特許文献4に記載されている。公式WHO命名法において、このヘテロダイマータンパク質は、CD11a/CD18、CD11b/CD18、CD11c/CD18、およびCD11d/CD18と呼ばれる;一般の命名法において、これらは、それぞれ、LFA−1、Mac−1またはMol、p150、95またはLeuM5、およびαβと呼ばれる[非特許文献5;非特許文献6]。ヒトβ2インテグリンαサブユニット(CD11a、CD11b、CD11cおよびCD11d)をコードするDNAが、クローニングされてきた[CD11a、非特許文献7;CD1lb、非特許文献8;CD11c、非特許文献9;CD11d、非特許文献6]。分子量のおおよその類似性によって規定される、ヒトβ2インテグリンα鎖およびβ鎖の推定ホモログが、他の種(サルおよび他の霊長類[非特許文献10]、マウス[非特許文献11]、およびイヌ[非特許文献12;非特許文献13]が挙げられる)において様々に同定されてきた。
【0004】
ヒトにおいて、CD11a/CD18は、全ての白血球上で発現される。CD11b/CD18およびCD11c/CD18は、本質的に単球、顆粒球、マクロファージおよびナチュラルキラー(NK)細胞上での発現に制限されるが、CD11c/CD18はまた、いくつかのB細胞型上でも検出される。概して、CD11a/CD18はリンパ球上で、CD11b/CD18は顆粒球上で、そして、CD11c/CD18はマクロファージ上で優勢である[非特許文献14の概説を参照のこと]。CD11dは、主に好中球および単球/マクロファージ上で発現されるが、ナチュラルキラー細胞上でおよびB細胞およびT細胞のサブセット上でも見出される[非特許文献15]。しかし、α鎖の発現は、個々の細胞型の活性化および分化の状態に対して変わりやすい[非特許文献16の概説を参照のこと]。
【0005】
ヒトの免疫応答および炎症応答におけるβ2インテグリンの関与が、β2インテグリン関連細胞接着をブロッキングし得るモノクローナル抗体を使用して実証されてきた。例えば、CD11a/CD18、CD11b/CD18およびCD11c/CD18は、リンパ腫および腺癌細胞[非特許文献17]へのナチュラルキラー(NK)細胞結合に、顆粒球蓄積に[非特許文献18]、顆粒球独立性細胞質漏出に[非特許文献19]、刺激された白血球の化学走性応答[非特許文献19、前出]および血管内皮への白血球の接着[非特許文献20および非特許文献21]に活性的に関与する。
【0006】
興味深いことに、CD18に特異的な少なくとも1つの抗体が、インビトロでのヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)シンチシウム形成を阻害すると示されてきたが、この阻害の正確な機構は明確ではない[非特許文献22]。この観察は、CD11a/CD18の主なカウンターレセプター(counterreceptor)であるICAM−1がまた、主なライノウイルス血清型の群に対する表面レセプターでもあるという発見と一致する[非特許文献23]。
【0007】
白血球の接着および血管外遊出は、インテグリンによって媒介される。白血球の表面上のこのCD11/CD18インテグリンは、接着分子(例えば、内皮上の細胞間接着分子(ICAM)および血管細胞接着分子−1(VCAM−1))に結合する[非特許文献24]。これらのインテグリンは、白血球の輸送および食作用活性の活性化において重要な役割を果たすように見え、そして炎症の間、細胞−細胞相互作用を媒介する[非特許文献25;非特許文献26;非特許文献27]。このCD11dサブユニットは、ラットのVCAM−1およびヒトのICAM−3およびVCAM−lに結合する[非特許文献15;Van der Vierenら(1999);非特許文献6]。
【0008】
脊髄損傷後の急性治療はなお、慢性疼痛に結び付く、初期の炎症応答を制御する実効的な方法を提供しなければならない。メチルプレドニゾロン(MP)のような薬物は、満足のいく臨床結果を得ることに失敗した。これは、おそらく、有害な副作用[非特許文献28]が中程度の神経防御効果[非特許文献29]を上回っているからである。損傷の亜急性期に、活性化マクロファージを送達することによって、またはT−リンパ球を損傷脊髄に誘導するワクチン接種[非特許文献30;非特許文献31]によって人工的に増加する「活性免疫」は、臨床上の可能性を有するが、自己免疫障害に結び付き得る[非特許文献32]。
【非特許文献1】van der Flierら、「Cell Tissue Res.」2001年、305号:p.285−98
【非特許文献2】Takagiら、「Immunol Rev.」2002年、186号、p.141−63
【非特許文献3】Springer、「Nature」1990年、346号:p.425−434
【非特許文献4】Kishimotoら、「Cell」1987年、48号、p.681−690
【非特許文献5】Cobboldら、「Leukocyte Typing III」McMichael(編)、Oxford Press、1987年、p.788
【非特許文献6】Van der Vierenら、「Immunity」1995年、3号、p.683−690
【非特許文献7】Larsonら、「J.Cell Biol.」1989年、108号、p.703−712
【非特許文献8】Corbiら、「J.Biol.Chem.」1988年、263号、p.12403−12411
【非特許文献9】Corbiら、「EMBO J.」1987年、6号、p.4023−4028
【非特許文献10】Letvinら、「Blood」1983年、61号、p.408−410
【非特許文献11】Sanchez−Madridら、「J.Exp.Med.」1981年、154号、p.1517
【非特許文献12】Mooreら、「Tissue Antigens」1990年、36号、p.211−220
【非特許文献13】Danilenkoら、「J.Immunol.」1995年、155号、p.35−44
【非特許文献14】Arnaout、「Blood」1990年、75号、p.1037−1050
【非特許文献15】Graysonら、「J.Exp.Med.」1998年、188号、p.2187−91
【非特許文献16】LarsonおよびSpringer、「Immunol.Rev.」1990年、114号、p.181−217
【非特許文献17】Patarroyoら、「Immunol.Rev.」1990年、114号、p.67−108
【非特許文献18】Noursharghら、「J.Immunol.」1989年、142号、p.3193−3198
【非特許文献19】Arforsら、「Blood」1987年、69号、p.338−340
【非特許文献20】Priceら、「J.Immunol.」1987年、139号、p.4174−4177
【非特許文献21】Smithら、「J.Clin.Invest.」1989年、83号、p.2008−2017
【非特許文献22】Hildrethら、「Science」1989年、244号、p.1075−1078
【非特許文献23】Greveら、「Cell」1989年、56号、p.839
【非特許文献24】Bevilacquaら、「Ann.Rev.Immunol.」1993年、11号、p.7670−804
【非特許文献25】Pettyら、「Immunol.Res.」2002年、25号、p.75−95
【非特許文献26】Mirantiら、「Nat.Cell Biol.」2002年、4号、p.E83−E90
【非特許文献27】Schwartzら、「Nat.Cell Biol.」2002年、4号、p.E65−E68
【非特許文献28】Hurlbert、「Spine」2001年、26号、p.539−546
【非特許文献29】Bracken、「Spine」2001年、26号、p.547−854
【非特許文献30】Haubenら、「Lancet」2000年、355号、p.286−287
【非特許文献31】Schwartzら、「J.Neuroimmunol」2001年、113号:p.185−192
【非特許文献32】Jonesら、「J.Neurosci.」2002年、22号、p.2690−2700
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、当該分野において、有害な副作用を軽減し、そして全ての動物(例えば、ヒト)に作用する慢性疼痛障害を正確に標的にする、疼痛の処置のための方法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、脊髄への外傷からもたらされる続発性の損傷(secondary injury)および慢性疼痛のための改良された処置を提供する。本発明は、α−dインテグリンサブユニット(すなわち、CD11d)に結合する抗体およびポリペプチド組成物を使用して、慢性疼痛を処置するための方法を提供する。
【0011】
一局面において、本発明は、哺乳動物被験体において慢性疼痛を処置するための方法を提供し、この方法は、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む、治療有効量の組成物を、必要とする被験体に投与する工程を包含する。一実施形態において、この方法の組成物は、抗体を含む。別の実施形態において、上記組成物がモノクローナル抗体を含むように、方法は改変される。関連する実施形態において、この方法の組成物は、ハイブリドーマ217L(1999年4月30日に、American Type Culture Collection、Manassas、VA 20110に、登録番号:HB−12701として寄託された)、ハイブリドーマ226Hまたはハイブリドーマ236L(両方とも、1998年11月11日に、American Type Culture Collectionに、それぞれ、登録番号:HB−12592および登録番号:HB−12593として寄託された)によって分泌されるモノクローナル抗体を含む。
【0012】
本発明は、CD11dに特異的に結合する上記ポリペプチド組成物が、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されるモノクローナル抗体の軽鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドを含む、方法を企図する。さらに、本発明の組成物が、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されるモノクローナル抗体の重鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドを含むことが企図される。本発明はさらに、上記方法の組成物が、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されたモノクローナル抗体の重鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)、ならびに、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されたモノクローナル抗体の軽鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)を含むことを提供する。
【0013】
本発明の方法は、慢性疼痛の処置を提供し、ここで、上記投与される組成物は、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されたモノクローナル抗体によって認識されたCD11d上のエピトープを認識する、ポリペプチドを含む。上記方法の組成物が、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されたモノクローナル抗体と、CD11dへの結合について競合するポリペプチドを含むことが、さらに企図される。
【0014】
本発明は、上記組成物が、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されたモノクローナル抗体の、1つ、2つ、3つ、4つ、5つおよび/または6つの相補性決定領域を含むポリペプチドを含み、このポリペプチドは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、二官能性/二重特異性抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および相補性決定領域(CDR)−移植抗体およびペプチド抗体からなる群より選択される、方法を提供する。
【0015】
本発明の方法によって処置される哺乳動物被験体は、ヒト、ヒトの医療研究のための任意の非ヒト動物モデル、または家畜もしくはペットとして重要な動物(例えば、コンパニオンアニマル)であり得る。好ましいバリエーションにおいて、この被験体は、慢性疼痛の症状の回復もしくは除去の必要性、ならびに、CD11dに特異的に結合し、そして例えば疾患症状を軽減し、慢性疼痛の進行を遅らせ、その慢性疼痛を治癒し、またはそうでなければ臨床上の症状を改善することによって動物の状態の改善をもたらすポリペプチドを含む組成物の投与の必要性によって、特徴付けられる疾患または状態を有する。好ましい実施形態において、処置される被験体はヒトである。
【0016】
本発明の方法は、慢性疼痛のための処置を提供する。本発明は、上記慢性疼痛が触覚異痛症、神経障害性疼痛、痛覚過敏、痛覚異常鋭敏症、および炎症性疼痛からなる群より選択されることを企図する。好ましい実施形態において、処置されるこの慢性疼痛は、触覚異痛症である。
【0017】
さらに企図されるものは、カウザルギー、手術後疼痛、慢性腰痛、群発性頭痛、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛および断端痛、中枢性疼痛、歯痛、神経障害性疼痛、オピオイド耐性疼痛、内臓疼痛、手術疼痛、骨折疼痛、糖尿病性神経障害性疼痛、手術後神経障害性疼痛または外傷性神経障害性疼痛、末梢神経障害性疼痛、エントラップメント神経障害性疼痛、アルコール乱用によってもたらされる神経障害、HIV感染による疼痛、多発硬化症甲状腺機能不全または抗癌化学治療疼痛、分娩および出産中の疼痛、火傷(日焼けを含む)から生じる疼痛、分娩後疼痛、片頭痛、アンギナ疼痛、および尿生殖器管関連疼痛(膀胱炎を含む)の処置である。
【0018】
本発明の一局面において、上記慢性疼痛は、中枢神経系の外傷または脊髄への損傷からもたらされる。この外傷または損傷は、微生物感染(例えば、細菌、菌、ウイルス)、CNS中の癌細胞、他の水腫または脳障害からもたらされるような、中枢神経系における炎症から生じる続発性の損傷の結果であり得ることが企図される。炎症はCNS関連自己免疫疾患(例えば、多発硬化症)の影響からもたらされ得ることが、さらに企図される。
【0019】
本発明のさらに企図される方法は、中枢神経系において発生する損傷の処置であり、この損傷としては、損傷の部位の近くの軸索プロセスおよび/または神経細胞体の変性をもたらす物理的損傷;(例えば、脳卒中由来の)虚血;神経毒(例えば、癌およびAIDS化学治療因子)への暴露;慢性代謝疾患(例えば、糖尿病または直腸機能不全);および特定のニューロン集団の変性をもたらす神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、および筋萎縮側索硬化症(ALS))が挙げられる。神経傷害に関与する状態は、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮側索硬化症、脳卒中、糖尿病性多発神経障害、毒性神経障害、グリア性瘢痕、ならびに、神経系への物理的損傷(脳および脊髄の物理的損傷(例えば、圧迫性損傷)、あるいは、脊髄、腕、手、または他の体の部分への挫滅または切断/裂傷損傷(脳卒中のような神経系の部分への血流の一時的または永久的停止を含む)によってもたらされるようなもの)が挙げられる。
【0020】
本発明の方法は、処置される被験体における慢性疼痛の症状を軽減および回復する組成物を伴う処置を提供する。一局面において、本明細書において記載されるこの組成物を伴う処置は、適切な軸索の増殖および/または再生の増加をもたらす。別の局面において、本明細書において記載されるこの組成物を伴う処置は、髄鞘形成の増加をもたらす。ミエリン密度および適切な軸索の増殖および/または再生における改善は、当該分野において周知の技術(磁気共鳴画像法(MRI)、患者の組織サンプルの生検、および神経学的試験への応答が挙げられる)によって測定される。さらなる局面において、この処置は、慢性疼痛に結び付く、損傷または炎症によって誘導された軸索の異常な増殖を減少させ得る。関連する局面において、例えば、Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs(LANSS)Pain Scaleによって評価されるような慢性疼痛の改善は、軸索および/もしくはミエリンの増殖および/もしくは再生を示す。
【0021】
本発明はさらに、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物が薬学的に受容可能な希釈液またはキャリア中にある方法を提供する。関連する局面において、この組成物は、他の疼痛軽減薬と併せて投与される。一局面において、この他の疼痛軽減薬は、非ステロイド抗炎症薬物(NSAID)、鎮痛剤、ステロイド、および抗癲癇薬からなる群より選択される。
【0022】
前述に加えて、本発明は、さらなる局面として、上に具体的に記載されたバリエーションよりも、どのような方法においても範囲が狭い本発明の全ての実施形態を含む。本出願人は、ここに添付した特許請求の全範囲を発明したが、ここに添付された特許請求の範囲は、他の先行技術の範囲内を包含するように意図されるものではない。それゆえ、特許庁または他の実体または個人によって、特許請求の範囲内の法定先行技術が、本出願人の注意を引く事象において、本出願人は、そのような特許請求の範囲からそのような法定先行技術をまたは法定先行技術の明白なバリエーションを具体的に排除するために、そのような特許請求の範囲の内容を再規定する適用可能な特許法の下、補正する権利を行使する権利を保有する。そのように補正される特許請求の範囲によって示された本発明のバリエーションもまた、本発明の局面として意図されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明の慢性疼痛のための処値のための方法は、脊髄の損傷からもたらされる中枢神経系における早期の、破壊期(destructive phase)の炎症の選択的抑制に対処する。この炎症応答の抑制は、その後の再生介入および創傷治癒応答のための機会を提供する。
【0024】
本発明がより完全に理解され得るために、いくつかの定義が設定されている。
【0025】
本明細書において使用される場合、用語「疼痛」とは、全ての種類の疼痛をいう。一局面において、この用語は、急性疼痛および慢性疼痛(例えば、カウザルギー、触覚異痛症、神経障害性疼痛、痛覚過敏、痛覚異常鋭敏症、炎症性疼痛、手術後疼痛、慢性腰痛、群発性頭痛、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛および断端痛、中枢性疼痛、歯痛、神経障害性疼痛、オピオイド耐性疼痛、内臓疼痛、手術疼痛、骨折疼痛、糖尿病性神経障害性疼痛、手術後神経障害性疼痛または外傷性神経障害性疼痛、末梢神経障害性疼痛、エントラップメント神経障害性疼痛、アルコール乱用によってもたらされる神経性障害、HIV感染由来の疼痛、多発硬化症甲状腺機能不全または抗癌化学治療疼痛、分娩および出産中の疼痛、火傷(日焼けを含む)から生じる疼痛、分娩後疼痛、片頭痛、アンギナ疼痛、および尿生殖管関連疼痛(膀胱炎を含む))をいう。
【0026】
「治療有効量」によって、単独で投与される場合に、少なくとも部分的にまたは完全に疼痛軽減を提供することに有効であるCD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物の量が意味される。「同時投与」、「組み合わせで投与される」または類似の成句は、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物ならびに疼痛軽減薬物が、処置される哺乳動物に同時に投与されることを意味する。「同時に」によって、それは、各成分が同時にか、または異なる時点において任意の順で連続して、投与され得ることを意味される。しかし、同時に投与されない場合、これらは処置効果の所望の相乗作用を提供するために、時間的に十分近接して投与されるべきである。そのような化合物を用いる適切な投与間隔および投与の順序は、当業者に容易に理解される。疼痛軽減薬物または他の第二因子(例えば、ステロイド)がまた、CD11dに特異的に結合するポリペプチドの投与の前に、投与され得ることもまた企図される。投与前とは、抗CD11d抗体/ポリペプチド処置の前の1週間から抗CD11dの投与の30分前までの範囲内の、疼痛軽減薬物または他の第二因子の投与をいう。CD11dに特異的に結合するポリペプチドの投与後に、この第二因子が投与されることが、さらに企図される。投与後とは、CD11dに特異的に結合するポリペプチドの投与後の30分から抗CD11d抗体/ポリペプチド処置の1週間後までの投与を説明することが意味される。
【0027】
本明細書において使用される場合、「ポリペプチド」または「抗CD11d抗体/ポリペプチド」とは、上記CD11d分子に特異的に結合しそして認識するポリペプチドをいう。本発明によって企図されるポリペプチドは、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、二官能性/二重特異性抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、単鎖抗体、CD11dインテグリンを特異的に認識する1つ以上のCDR配列を含む化合物を含む相補性決定領域(CDR)−移植抗体、ならびに、ペプチド抗体を含む。
【0028】
ポリペプチドが、CD11d分子に「特異的に結合する」または「CD11dに特異的」であるまたはCD11d「について特異的」であるとは、他のインテグリン(または他の抗原)ではなく、CD11dを認識しそして結合する結合因子の能力をいう。一局面において、本発明のCD11d結合ポリペプチド、またはフラグメント、改変体、またはそれらの誘導体は、他の種(すなわち、非ヒト)のCD11dに対する結合親和性と比較して、ヒトCD11dに対して強い親和性を有して結合するが、オルソログを認識しそして結合する結合ポリペプチドは、本発明の範囲内である。
【0029】
例えば、その同系の抗原「について特異的」な抗体であるポリペプチドは、その抗体の可変領域が、検出可能な嗜好性(すなわち、ファミリーメンバー間の局限化した配列の同一性、相同性、または類似性が存在し得るにもかかわらず、結合親和性の測定可能な違いによって同じファミリーの他の公知のポリペプチドから目的のポリペプチドを区別し得る)で、目的のポリペプチドを認識しそして結合することを示す。特異的な抗体もまた、その抗体の可変領域の外側の、および、特にその分子の定常領域における、配列との相互作用を介して、他のタンパク質(例えば、ELISA技術における、S.aureusタンパク質Aまたは他の抗体)と相互作用し得ることが理解される。本発明の方法における使用のための抗体の結合特異性を決定するためのスクリーニングアッセイは、周知であり、そして当該分野において日常的に実用されている。そのようなアッセイの包括的な考察については、Harlowら(編)、Antibodies A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory;Cold Spring Harbor、NY(1988年)、第6章、を参照のこと。本発明における使用のための抗体は、当該分野において公知の任意の方法を使用して産生され得る。
【0030】
用語「抗原結合ドメイン」または「抗原結合領域」とは、抗原と相互作用し、そしてその結合因子に、抗原についてのその特異性および親和性を与える、アミノ酸残基(または他の部分)を含む選択結合因子の部分をいう。
【0031】
用語「エピトープ」とは、1つ以上の抗原結合領域において選択結合因子によって認識され得、そして結合され得る任意の分子の部分をいう。通常エピトープは、化学的に活性な表面の分子の群(例えば、アミノ酸または炭水化物側鎖)からなり、そして特異的な三次元構造の特徴ならびに特異的な電荷の特徴を有する。本明細書において使用される場合、エピトープは、隣接してもよく、隣接していなくともよい。その上、エピトープは、模倣体(ミモトープ(mimotope))であり得、その中で、エピトープは、ペプチド抗体を産生するために使用されたエピトープに対して同一である三次元構造を含むが、そのペプチド抗体免疫応答を刺激するために使用されたCD11dにおいて見出されるアミノ酸残基は含まないか、またはそのいくつかのみを含む。本明細書において使用される場合、ミモトープは、選択結合因子によって結合されたエピトープと異なる抗原とは考えられていない;この選択結合因子は、同じ三次元構造のエピトープとミモトープを認識する。
【0032】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」とは、抗体の軽鎖および/または重鎖の部分をいい、代表的に、重鎖においてアミノ末端の約120〜130のアミノ酸、および軽鎖において約100〜110のアミノ酸を含み、これらは抗体間の配列において広範囲に異なり、そしてその特定の抗原についての特定の各抗体の結合および特異性を決定する。配列中の変異性は、相補性決定領域(CDR)中に集中するが、可変ドメインにおけるより高度な保存領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。軽鎖および重鎖のCDRは、その中に、抗原との抗体の直接の相互作用を広く担う、アミノ酸を含む。
【0033】
用語「ビヒクル」とは、分解を防ぎおよび/または半減期を増加させ、毒性を軽減させ、免疫原性を減少させ、またはポリペプチド組成物の生物学的活性を増加させる分子をいう。例示的なビヒクルとしては、Fcドメイン(これが好ましい)ならびに直鎖ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリリジン、デキストランなど);分枝鎖ポリマー(例えば、1981年9月15日に発行されたDenkenwalterらへの米国特許第4,289,872号;1993年7月20日に発行されたTamへの米国特許第5,229,490号;1993年10月28日に公開されたFrechetらへの国際公開第93/21259号パンフレットを参照のこと);脂質;コレステロール基(例えば、ステロイド);炭水化物またはオリゴ多糖類;あるいは、任意の天然タンパク質もしくは合成タンパク質、ポリペプチド、またはサルベージレセプター(salvage receptor)に結合するペプチドが挙げられる。
【0034】
さらなる定義が、本明細書において見出され、説明の関連部分の理解を補助する。
【0035】
(慢性疼痛)
本発明は、慢性疼痛を経験している被験者において生じる症状を緩和しそして処置するための方法を提供する。
【0036】
この疼痛の原因は、炎症、損傷、疾患、筋痙攣および神経性障害の事象または症状の開始が挙げられ得る。非効果的に処置された疼痛は、それを経験している人に対して、機能を制限し、可動性を減少させ、睡眠を困難にし、そして全般的な生活の質に介入することによって有害であり得る。
【0037】
炎症性疼痛は、外科手術からもたらされるように、あるいは有害な物理的事象、化学的事象もしくは熱事象または生物学的因子による感染に起因するように、組織が損傷される場合に、起こり得る。概して、炎症性疼痛は、可逆的であり、そして損傷した組織が修復されるか、またはその疼痛誘導刺激が除去される場合に治まるが、炎症性疼痛を処置するための現在の方法は、多くの欠点および不完全さを有する。
【0038】
神経障害性疼痛は、神経系、末梢神経、後根神経節または後根、または中枢神経系への損傷からもたらされ得る、持続疼痛症候群または慢性疼痛症候群である。神経障害性疼痛症候群としては、異痛症、または代表的には無毒な刺激に起因する疼痛、種々の神経痛(例えば、疱疹後神経痛および三叉神経痛)、幻想痛、および複合領域疼痛症候群(例えば、反射性交換神経性ジストロフィおよびカウザルギー)が挙げられるが、これらに限定されない。異痛症は、感覚(触覚、機械的、温度、または任意の他の種類であろうとなかろうと)の質における変化に関与する。刺激に対する患者の元々の応答は、疼痛それ自体に関与しないが、非常に感作された応答は、感覚様式の特異性の損失を示す。皮膚の異痛症は、正常な皮膚または頭皮への無害な刺激からもたらされる疼痛であり、そしてその皮膚から生じる情報を処理する中枢疼痛ニューロンの応答における一過性の増加によってもたらされると考えられる。
【0039】
神経痛は、感覚神経において発生する発作的疼痛として定義される。神経痛は、局所的な疼痛であり、大抵激しく、そして神経が通常感覚を伝達する体の表面において感じられる。しかし、それは、神経それ自身への損傷によってもたらされる疼痛であり、神経が働く体の一部にされる何かによってもたらされる疼痛ではない。
【0040】
複合領域疼痛症候群(CRPS)、または反射性交感神経性ジストロフィは、重度の火傷、骨および皮膚における病理学的変化、過剰の発汗、組織の腫脹、および接触への極度の感受性によって特徴付けられる慢性状態である。損傷部位の近くのCRPSの1つの視覚可能な徴候は、暖かく、照かりのある赤い皮膚であり、この皮膚は、その後冷たくなりそして青みがかる。
【0041】
カウザルギーは、痛覚過敏および異痛症と組み合わされた突発性の灼熱痛によって特徴付けられる。痛覚過敏は、疼痛性の刺激に対する極度の感受性によって特徴付けられる(Mellerら、Neuropharmacol.33:1471−8、1994)。この状態は、内臓において疼痛の感覚を生成する、内臓痛覚過敏を含み得る。神経障害性疼痛はまた、痛覚異常鋭敏症を含み、ここで、通常無害である刺激が長期間与えられる場合、重度の疼痛をもたらす。
【0042】
痙性または筋痙攣は、脊髄への外傷または脊髄内の損傷を生じる他の障害の重度の合併症であり得、そしてこの筋痙攣は多くの場合、疼痛をともなう。筋痙攣の間に経験する疼痛は、機械感覚性疼痛レセプターを刺激する筋痙攣の直接的効果からか、または血管を圧縮しそして虚血を引き起こすその痙攣の間接的効果からもたらされ得る。この痙攣事象は、その影響される筋組織における代謝の速さを増加させる。この相対的な虚血は大きくなり、それによって疼痛誘導物質の放出のための条件を生じる。
【0043】
慢性疼痛は、処置が難しい。なぜなら、疼痛軽減薬(例えば、オピオイド鎮痛剤または非オピオイド鎮痛剤)の予期される副作用を管理することが難しいからである。オピオイド鎮痛剤の場合、慢性疼痛、ならびに、呼吸低下および便秘を経験している患者において中毒になる高い危険が存在する。非オピオイド鎮痛剤(例えば、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、アセトアミノフェンまたはアスピリン)については、胃潰瘍の危険が、用量を制限し得る。それゆえ、本発明の方法は、副作用を制限することなしに慢性疼痛のための処置を改善する。
【0044】
(非オピオイド疼痛軽減薬)
慢性疼痛障害を示す被験者における疼痛を処置するために、本発明の方法が、他の処置と組み合わせて投与され得る。この処置は、本明細書において「第二因子」とも呼ばれ、慢性疼痛の症状を軽減するために使用される。これらの治療は、非オピオイド薬(例えば、NSAID、鎮痛剤、およびステロイド)を含み、これらは、神経性障害における治療法であると示されてきており、そして炎症応答を減少させるために使用される。
【0045】
本発明における使用のために企図された例示的なNSAIDは、イブプロフェン、ナプロキセン、Cox−1インヒビター、Cox−2インヒビター、およびサリチル酸塩からなる群より選択される。全ての公知のまたは後に発見されたNSAIDは、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物と併せて本発明の方法における投与のために有用であることが企図される。
【0046】
慢性疼痛状態を処置するために使用される鎮痛剤は、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物と組み合わせて本発明の方法における使用のために企図される。慢性疼痛と処置するために有用な公知のまたは後に発見された鎮痛剤はまた、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物と併せた投与のために有用であることが企図される。
【0047】
神経性障害における治療法であると示され、そしていくつかの例において非特異的に炎症を軽減させる、ステロイドは、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物と組み合わせて本発明の方法における使用のために企図される。本発明における使用のために企図されるステロイドとしては、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲスタゲン、21−アミノステロイド、グルココルチコイド、ステロイド神経伝達物質(神経活性ステロイド)および当該分野において公知の他のステロイドホルモンが挙げられるが、これらに限定されない。慢性疼痛の処置のために有用な、公知のまたは後に発見されたステロイド(例えば、グルココルチコイド)は、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物と併せた投与のために有用であることが企図される。
【0048】
(本発明の方法における使用のためのポリペプチド組成物)
ヒトCD11dインテグリンサブユニットのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列番号1および配列番号2において記載される。上記CD11d分子に特異的に結合する、本明細書において記載される任意の数のポリペプチド組成物が、本発明の方法における使用のために企図される。
【0049】
例えば、CD11dタンパク質またはそのフラグエメントを検出するために有用な抗体は、当該分野において周知の技術を使用して産生される。したがって、本発明は、抗体(例えば、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、二官能性/二重特異性抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および本発明の方法における使用のためのCD11dインテグリンを特異的に認識するCDR配列を含む化合物を含む相補性決定領域(CDR)−移植抗体)の使用を企図する。好ましい抗体は、ヒト抗体であり、これは、国際公開第93/11236号パンフレット中(これは、その全体が参考として本明細書において援用されている)に記載される方法に従って産生されそして同定される。抗体フラグメント(Fab、Fab’、F(ab’)、およびFvを含む)および短鎖抗体もまた、本発明の方法の下に企図される。
【0050】
当該分野において公知の種々の手順が、CD11dを含むペプチド抗体に対するポリクローナル抗体の産生のために使用され得る。抗体の産生のために、種々の宿主動物(ウサギ、マウス、ラット、ハムスターなどが挙げられるが、これらに限定されない)が、CD11dタンパク質またはペプチド(適切な免疫原のフラグメント)を用いた注入によって免疫化される。種々のアジュバントが、宿主種に依存して、免疫応答を増加させるために使用され得、このアジュバントとしては、フロイント(完全および不完全)アジュバント、ミネラルゲル(mineral gel)(例えば、水酸化アルミニウム)、表面活性物質(例えば、リゾレシチン、プルロニック(pluronic)ポリオール、多価陰イオン、油エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール)および潜在的に有用なヒトアジュバント(例えば、BCG(Bacille Calmette−Guerin)およびCorynebacterium parvum)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
CD11dに対するモノクローナル抗体が、培養中の連続した細胞株による抗体分子の産生を提供する任意の技術を使用することによって調製され得る。これらの技術としては、初めにKoehlerら、Nature、256:495−497(1975)によって記載されたハイブリドーマ技術、およびより最近のヒトB−細胞ハイブリドーマ技術[Kosborら、Immunology Today、4:72(1983)]、EBVハイブリドーマ技術[Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R Liss、Inc.、pp.77−96(1985)、全て具体的に参考として本明細書中において援用されている]が挙げられるが、これらに限定されない。CD11dに対する抗体はまた、クローニングされた免疫グロブリンcDNA由来の細菌中に産生され得る。組換え型ファージ抗体系の使用によって、細菌培養中の抗体をすばやく産生しそして選択することが、およびそれらの構造を遺伝子操作することが可能であり得る。抗CD11dモノクローナル抗体の調製が、米国特許第6,432,404号中に例示されている。
【0052】
上記ハイブリドーマ技術が使用される場合、骨髄腫細胞株が使用され得る。ハイブリドーマ産生融合手順における使用のために適合されたそのような細胞株は、好ましくは、抗体を産生せず、高い融合効率性を有し、そして酵素欠損症を示し、これは、所望の融合細胞(ハイブリドーマ)の増殖のみを支持する、特定の選択培地においてその細胞株を増殖し得なくさせる。例えば、免疫された動物がマウスである場合、当業者は、ハイブリドーマ(このようなハイブリドーマとしては、P3−X63/Ag8、P3−X63−Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210−Ag14、FO、NSO/U、MPC−11、MPC11−X45−GTG 1.7およびS194/5XX0 Bulが挙げられるが、これらに限定されない)を使用し得る;ラットについては、当業者は、細胞融合と関連して、ハイブリドーマ(このようなハイブリドーマとしては、R210.RCY3、Y3−Ag 1.2.3、IR983Fおよび4B210;およびU−266、GM1500−GRG2、LICR−LON−HMy2およびUC729−6が挙げられるが、これらに限定されない)を使用し得る。
【0053】
モノクローナル抗体の産生に加えて、「キメラ抗体」の産生のために開発された技術(適切な抗原特異性および生物学的活性を有する分子を得るためのヒト抗体遺伝子へのマウス抗体遺伝子のスプライシング)が、使用され得る[Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.81:6851−6855(1984);Neubergerら、Nature 312:604−608(1984);Takedaら、Nature 314:452−454(1985)]。あるいは、短鎖抗体の産生のために記載された技術(米国特許第4,946,778号)が、CD11d特異的短鎖抗体を産生するために適合され得る。
【0054】
分子のイディオタイプを含む抗体フラグメントが、公知の技術によって産生され得る。例えば、そのようなフラグメントとしては、抗体分子のペプシン消化によって産生され得るF(ab’)フラグメント;F(ab’)フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって産生され得るFab’フラグメント、ならびに、パパインおよび還元因子で抗体分子を処置することによって産生され得る2つのFabフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
非ヒト抗体は、当該分野において公知の任意の方法によってヒト化され得る。好ましい「ヒト化抗体」は、ヒト定常領域を有するが、その抗体の可変領域、もしくは少なくともCDRは、非ヒト種に由来される。非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該分野において周知である(米国特許第5,585,089号、および同第5,693,762号を参照のこと)。概して、ヒト化抗体は、非ヒトからの供給源由来のフレームワーク領域中に導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。ヒト化は、例えば、当該分野において記載される方法を使用し[例えば、Jonesら、Nature 321:522−525(1986)、Riechmannら、Nature 332:323−327(1988)およびVerhoeyenら、Science 239:1534−1536(1988)]、少なくとも一部のげっ歯類の相補性決定領域をヒト抗体の対応する領域で置換することによって実行され得る。遺伝子操作された抗体を調製するための多数の方法が当該分野において説明されている[例えば、Owensら、J.Immunol.Meth.168:149−165、(1994)]。次いで、さらなる変化が、抗体フレームワークに導入され、親和性または免疫原性を調節し得る。
【0056】
同様に、当該分野において公知のCDRを単離するための技術を使用して、CDRを含む組成物が生成される。CDRは、6つのポリペプチドループ(重鎖可変領域または軽鎖可変領域のおのおのについて3つのループ)によって特徴付けされる。CDR中のアミノ酸位は、本明細書において参考として援用されている、Kabatら、“Sequences of Proteins of Immunological Interest、”U.S.Department of Health and Human Services(1983)によって規定されている。例えば、超可変領域は、重鎖可変領域の49〜59からおよび軽鎖可変領域の92〜103からの、残基28〜35において見出されるようにおおよそ規定される[JanewayおよびTravers、Immunobiology、第2版、Garland Publishing、New York(1996)]。CDR領域が、上に設定されたこれらの近似した残基のいくつかのアミノ酸内に見出され得ることが当該分野において理解される。免疫グロブリン可変領域はまた、CDRを取り囲んでいる「フレームワーク」領域からなる。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種の内で高度に保存される。
【0057】
モノクローナル抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域の、1つ、2つ、および/または3つのCDRを含む、ポリペプチド組成物が、生成される。例えば、ハイブリドーマ217Lによって分泌されたモノクローナル抗体を使用して、217Lの単離されたCDRを含むポリペプチド組成物が生成される。ハイブリドーマ217Lによって分泌されたモノクローナル抗体の、1つ、2つ、3つ、4つ、5つおよび/または6つの相補性決定領域を含むポリペプチド組成物もまた、企図される。これらのCDRを取り囲んでいる保存的フレームワーク配列を使用して、これらのコンセンサス配列に相補的であるPCRプライマー核が生成され、このプライマー領域の間に位置する217L CDR配列が増幅される。ヌクレオチド配列およびポリペプチド配列をクローニングしそして発現するための技術が、当該分野においてよく確立されている[例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor、New York(1989)を参照のこと]。この増幅されたCDR配列は、適切なプラスミドの中へ連結される。1つ、2つ、3つ、4つ、5つおよび/または6つのクローニングされたCDRを含むプラスミドは、必要に応じて、このCDRに連結した領域をコードするさらなるポリペプチドを含む。
【0058】
ハイブリドーマ217Lによって分泌された重鎖および/または軽鎖のモノクローナル抗体の、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、および/または6つのCDRを含む改変ポリペプチド組成物が、生成され、ここで、CDRは、CD11d分子への増加した特異性または親和性を提供するように変更されることが企図される。217Lモノクローナル抗体CDR中の位置における部位は、代表的に、連続して、例えば、第一に、保存的選択(例えば、同一でない疎水性アミノ酸で置換された疎水性アミノ酸)で置換され、次いでさらに類似しない選択(例えば、荷電したアミノ酸で置換された疎水性アミノ酸)で置換されることによって改変され、次いで欠失または挿入が標的部位にてなされ得る。217L抗体との関連で考察されたこのCDR組成物もまた、226Hおよび236Lモノクローナル抗体由来のCDRまたは他の抗CD11d抗体由来のCDRを使用して、生成され得ることが企図される。
【0059】
「保存的」アミノ酸置換は、極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性、および/または関与した残基の両親媒性の性質における類似性を基礎としてなされる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン(Ala、A)、ロイシン(Leu、L)、イソロイシン(Ile、I)、バリン(Val、V)、プロリン(Pro、P)、フェニルアラニン(Phe、F)、トリプトファン(Trp、W)、およびメチオニン(Met、M)が挙げられる;極を持った中性アミノ酸としては、グリシン(Gly、G)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、システイン(Cys、C)、チロシン(Tyr、Y)、アスパラギン(Asn、N)、およびグルタミン(Gln、Q)が挙げられる;正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン(Arg、R)、リジン(Lys、K)、およびヒスチジン(His、H)が挙げられる;そして負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、アルパラギン酸(Asp、D)およびグルタミン酸(Glu、E)が挙げられる。「挿入」または「欠失」は、好ましくは、約1〜20のアミノ酸、より好ましくは1〜10のアミノ酸の範囲である。バリエーションが、組換えDNA技術を使用し、そして、生じる組換え型改変体を活性についてアッセイして、ポリペプチド分子中のアミノ酸の置換を系統的に行うことによって導入され得る。核酸の変更が、異なる種由来の核酸において異なる部位においてか(可変位置)、または高度に保存的な領域(定常領域)において異なる部位において行われ得る。本発明において有用なポリペプチド組成物を発現するための方法が、以下により詳細に記載される。
【0060】
抗体を産生するための急速で、大規模な組換え方法が、使用され得る(例えば、ファージディスプレイ法[Hoogenboomら、J.Mol.Biol.227:381、(1991);Marksら、J.Mol.Biol.222:581、(1991)]またはリボソームディスプレイ法方法、必要に応じてアフィニティーマチュレーションが後に続く[例えば、Ouwehandら、Vox Sang 74(補遺2):223−232(1998);Raderら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:8910−8915(1998);Dall’Acquaら、Curr.Opin.Struct.Biol.8:443−450(1998)を参照のこと])。ファージディスプレイ法プロセスは、糸状バクテリオファージの表面上の抗体レパートリーの表示を通じて免疫選択を模倣し、そして最適な抗原へのそれらの結合によってファージのその後の選択を模倣する。1つのそのような技術が、国際公開第99/10494号パンフレット中に記載され、これは、そのようなアプローチを使用した、MPLおよびmskレセプターに対する高親和性および機能的アゴニスト抗体の単離を記載する。
【0061】
二重特異性抗体は、モノクローナル抗体、好ましくはヒト抗体またはヒト化抗体であり、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する。二重特異性が、標準的な手順を使用して、産生、単離、そして試験され、この手順は、文献中に記載されている。例えば、Pluckthunら、Immunotechnology、3:83−105(1997);Carterら、J.Hematotherapy 4:463−470(1995);RennerおよびPfreundschuh、Immunological Reviews 145:179−209(1995);Pfreundschuh 米国特許第5,643,759号;Segalら、J.Hematotherapy 4:377−382(1995);Segalら、Immunobiology、185:390−402(1992);ならびにBolhuisら、Cancer Immunol.Immunother.34:1−8(1991)(これらの全ては、参考として本明細書において援用されている)を参照のこと。
【0062】
用語「二重特異性抗体」とは、2つの異なる抗原結合部位(可変領域)を有する1つの二価抗体をいう。以下に記載されるように、この二重特異性結合因子は、概して、抗体、抗体フラグメント、または抗体可変領域由来の、少なくとも1つの相補性決定領域を含む抗体のアナログから作製される。これらは、従来の二重特異性抗体であり得、この抗体は、種々の方法[Holligerら、Curr.Opin.Biotechnol.4:446−449(1993)]で製造され得、例えば、ハイブリッドハイブリドーマを使用し、そのような二重特異性抗体のコード配列をベクター中に配置し、そして組換え型ペプチドを産生することによってか、またはファージディスプレイ法によって化学的に調製される。この二重特異性抗体はまた、任意の二重特異性抗体フラグメントであり得る。
【0063】
1つの方法において、二重特異性抗体フラグメントは、タンパク質分解により抗体全体を(単一特異性)F(ab’)分子中へ変換することによって、これらのフラグメントをFab’分子中へ分解することによって、ならびに、異なる特異性を有するFab’分子の、二重特異性F(ab’)分子への組換えによって構築される(例えば、米国特許第5,798,229号を参照のこと)。
【0064】
二重特異性抗体は、2つの異なるモノクローナル抗体の酵素性変換によって産生され得、これらの抗体の各々は、2つの同一のL(軽鎖)−H(重鎖)の半分の分子を含み、そして1つ以上のジスルフィド結合によって連結される。各モノクローナル抗体は、2つのF(ab’)分子に変換され、還元条件の下で、Fab’チオールへ各F(ab’)分子に分解する。各抗体のFab’分子の1つが、チオール活性化因子によって活性化され、そしてこの活性Fab’分子が組み合わされ、ここで、所望の二重特異性抗体F(ab’)フラグメントを得るために、1つの特異性を保有する活性化Fab’分子が、第二の特異性を保有する非活性化Fab’分子と連結されるか、また逆もまた同じである。
【0065】
二重特異性抗体を産生するための別の方法は、既に示されたように、ハイブリッドハイブリドーマを形成するために2つのハイブリドーマの融合による。現在の標準的な技術を使用して、2つの抗体産生ハイブリドーマが融合され、娘細胞を生じ、次いで、両方の組のクローン型免疫グロブリン遺伝子の発現を維持してきたそれらの娘細胞が選択される。
【0066】
上記二重特異性抗体を同定するために、標準的な方法(例えば、ELISA)が使用され、ここで、マイクロタイタープレートのウェルが、親ハイブリドーマ抗体の1つと特異的に相互作用し、そして両方の抗体との交差反応性を欠く試薬でコーティングされる。さらに、FACS、免疫蛍光染色、抗体特異性イディオタイプ、抗原結合競合アッセイ、および抗体の特徴付けの分野において共通の他の方法が、好ましいハイブリッドハイブリドーマを同定するために、本発明と併せて使用され得る。
【0067】
また、本発明における使用のために企図されるものは、ペプチド抗体である。ペプチド抗体とは、CD11dと単独で相互作用する、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質由来の少なくとも1つのアミノ酸を含むか、あるいは免疫グロブリンアミノ酸配列(好ましくは、免疫グロブリンの定常領域(Fc))、または本明細書中に記載された他のポリペプチドキャリアまたはビヒクルの全てもしくは一部に融合される、特異的結合タンパク質をいう。ペプチド抗体を作製する際の使用のためのペプチドフラグメントは、約2〜40のアミノ酸であり得、3〜20のアミノ酸分子が好ましく、そして6〜15のアミノ酸分子が最も好ましい。ペプチド抗体は、ベクターの上流またはFc領域の下流中に、CD11dへ特異的に結合する同定されたペプチド配列またはペプチドフラグメントを挿入することによって作製され、それによって、融合生成物を作製する。概して、ペプチド抗体の生成は、本明細書において参考として援用される、PCT公報国際公開第00/24782号中に記載されている。
【0068】
CD11dに結合する任意の数のペプチドが、本発明と併せて使用され得る。特に、ファージディスプレイ法は、ランダムなペプチドのライブラリーからの親和性選択が、任意の遺伝子産物の任意の部位に対するペプチドリガンドを同定するために使用され得ることが示されたように[Dedmanら、J.Biol.Chem.268:23025−30(1993)]、本発明における使用のためのペプチドを生成する際に有用である。
【0069】
CD11dに特異的に結合するペプチド抗体を作製する際の使用のためのペプチドを生成するために、さらなる方法が使用される。ペプチドライブラリーは、lacレプレッサのカルボキシル末端に融合され得、そしてE.coli中に発現される。別のE.coliベースの方法が、ペプチドグリカン関連リポタンパク質(PAL)との融合によってその細胞の外膜上の表示を可能にする。これらの方法および関連する方法は、集合的に「E.coliディスプレイ法」と呼ばれる。別の方法において、ランダムRNAの翻訳は、リボソーム放出の前に停止され、会合したRNAがいまだ付着した状態のポリペプチドのライブラリーをもたらす。この方法および関連する方法は、集合的に「リボソームディスプレイ法」と呼ばれる。他の方法は、RNAへのペプチドの化学的連結を使用する。例えば、RobertsおよびSzostak、Proc.Natl Acad.Sci.USA 94:12297−303(1997)を参照のこと。
【0070】
本発明の方法における使用のために調製されるペプチド抗体組成物において、上記ペプチドが、そのペプチドのN末端もしくはC末端またはアミノ酸残基の1つの側鎖を通じてFcドメインまたは他のポリペプチドキャリアまたはビヒクルへ付着され得る。複数のビヒクルがまた使用され得る;例えば、各末端におけるFcドメインまたは末端のFcおよびその他の末端もしくは側鎖におけるPEG基。Fcドメインは、好ましいビヒクルである。このFcドメインは、ペプチドのN末端もしくはC末端に、またはN末端とC末端との両方において融合され得る。
【0071】
ペプチド抗体組成物または、「リンカー基」を含み得る。このリンカーの化学的構造は、重要ではない。なぜなら、それは主にスペーサーとして働くからである。このリンカーは、好ましくは、ペプチド結合によってともに連結されたアミノ酸からなる。したがって、一実施形態において、リンカーは、ペプチド結合によって連結された1〜20のアミノ酸からなり、ここで、このアミノ酸は、20個の天然に存在するアミノ酸から選択される。1以上のこれらのアミノ酸は、当業者によってよく理解されるように、グリコシル化され得る。より好ましい実施形態において、この1〜20個のアミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、およびリジンから選択される。さらにより好ましくは、リンカーは、立体的に制約されていない大多数のアミノ酸(例えば、グリシンおよびアラニン)からなる。したがって、好ましいリンカーは、ポリグリシン(特に、(Gly)、(Gly))、ポリ(Gly−Ala)、およびポリアラニンである。GlyおよびAlaの組み合わせもまた、好ましい。
【0072】
非ペプチドリンカーもまた可能である。例えば、アルキルリンカー(例えば、−NH−(CH)s−C(O)−)が使用され得、ここで、sは、2〜20までの数字である。これらのアルキルリンカーがさらに、任意の立体的に制約されていない基(例えば、低級アルキル(例えば、C〜C)低級アシル;ハロゲン(例えば、Cl、Br)、CN、NH、フェニルなど)によって置換され得る。例示的な非ペプチドリンカーは、PEGリンカーであり、そして100〜5000kDaの分子量、好ましくは100〜500kDaの分子量を有する。
【0073】
組換え型抗体フラグメント(例えば、単鎖Fvフラグメント(「scFv」フラグメント)がまた、異なる標的抗原に対する高結合アビディティおよび特異性を有する安定的な多量体のオリゴマーへ集合するように遺伝子操作され得る。そのような二重特異性抗体(diabody)(ダイマー)、三重特異性抗体(triabody)(トリマー)または四重特異性抗体(tetrabody)(テトラマー)は、当該分野において周知である。例えば、Korttら、Biomol.Eng.18:95−108(2001)およびTodorovskaら、J.Immunol.Methods.248:47−66(2001)を参照のこと。
【0074】
(発現ベクターおよび宿主細胞)
本発明において使用されるポリペプチド組成物をコードするヌクレオチド配列が、発現ベクターに作動可能に連結され、そしてポリペプチド生成物の発現のために適切な宿主細胞中にトランスフェクトされる。適切な発現ベクターおよび宿主細胞は、当該分野において公知である。有用なベクターとしては、例えば、当該分野において周知である、プラスミド、コスミド、ウイルス(例えば、λファージおよびその誘導体)、ファージミド、人工染色体などが挙げられる。哺乳動物発現ベクターは、複製起点、適切なプロモーター、そしてまた任意の重要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー部位および/またはアクセプター部位、転写終止配列、および5’隣接非転写配列を含み得る。SV40ウイルスゲノム由来のDNA配列(例えば、SV40起源、早期プロモーター、エンハンサー、スプライス、およびポリアデニル化部位)が、必要な発現制御エレメントを提供するために使用され得る。例示的な真核生物ベクターとしては、pcDNA3、pWLneo、pSV2cat、pOG44、PXTI、pSG(Stratagene)pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
任意の宿主/ベクター系は、本発明において有用なポリペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを発現するために使用され得る。タンパク質が、哺乳動物細胞、酵母、細菌または他の細胞中に適切なプロモーターの制御下で発現され得る。原核生物宿主および真核生物宿主を用いた使用のための適切なクローニングベクターおよび発現ベクターが、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor、New York(1989)中にSambrookらによって記載され、この開示は、本明細書において参考として援用されている。哺乳動物宿主細胞としては、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト腎臓HEK293細胞、ヒト表皮A431細胞、ヒトColo205細胞、3T3細胞、CV−1細胞、他の転換された霊長類細胞株、正常の二倍体細胞、一次組織と一次外植片のインビトロ培養由来の細胞系統、HeLa細胞、マウスL細胞、BHK、HL−60、U937、HaKまたはJurkat細胞が挙げられるが、これらに限定されない。キメラポリペプチドを発現するための宿主細胞としての使用のために企図されるものはまた、昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)である。任意の公知のウイルス発現系はまた、キメラポリペプチド(アデノウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルス[Summersら、Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No.1555(1987)中に記載される]、およびウイルスバクテリオファージ(例えば、M13またはλファージが具体的に企図される)が挙げられるが、これらに限定されない))を産生するために使用され得る。
【0076】
(薬学的化合物の処方)
CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物が、1つ以上の薬学的に受容可能なキャリアを有する組成物中で、被験体に投与されることが企図される。
【0077】
本明細書において記載されるポリペプチド組成物を含む薬学的組成物が企図され、そして一局面において、この化合物は、薬学的に受容可能な希釈液、アジュバンド、賦形剤、および/またはキャリアとともに処方される。語句「薬学的に受容可能なまたは薬理学的に受容可能な」とは、例えば、経口的に、局所的に、経皮的に、非経口的に、吸入スプレーによって、膣内に、直腸に、または頭蓋内注射によって、動物またはヒトに投与される場合に、有害な反応、アレルギー反応、または他の都合の悪い反応を生成しない、分子実体および組成物をいう。本明細書において使用される場合、用語、非経口的とは、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、槽内注射、または注入技術を含む。静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射、乳房内注射、腹腔内注射、鞘内注射、球後注射、肺内注射による投与および/または特定の部位における外科的移植もまた、企図される。概して、調製された組成物は、ヒトまたは動物に対して有害でありえる、発熱因子、および、他の不純物が本質的にない。用語「薬学的に受容可能なキャリア」とは、任意のおよび全ての溶媒、分散媒質、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤などを含む。薬学的活性物質のためのそのような媒体および因子の使用は、当該分野において周知である。
【0078】
本方法における使用のために上に記載された薬学的組成物は、経口使用のために適切な形態(例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水溶懸濁液、または油性懸濁液、分散可能な粉末、または分散可能な顆粒、エマルジョン、ハードカプセルまたはソフトカプセル、またはシロップまたはエリキシルとして)であり得る。経口使用のために意図された組成物は、任意の公知の方法に従って調製され得、そしてそのような組成物は、薬学的に巧妙でそして口当たりのよい調製物を提供するために甘味剤、矯味矯臭剤、着色剤、および保存剤からなる群より選択される1つ以上の因子を含み得る。錠剤は、錠剤の製造について適している無毒な薬学的に受容可能な賦形剤との混合物中に活性成分を含み得る。これらの賦形剤は、例えば、不活性な希釈液(例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム);顆粒化剤および崩壊剤(例えば、コーンスターチ、またはアルギン酸);結合剤(例えば、デンプン、ゼラチンまたはアカシア);および潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸または滑石)であり得る。この錠剤は、コーティングされていないか、またはこれらは公知の技術によってコーティングされ得、胃腸管における分解および吸収を遅らせ、それによって長期間にわたって持続した作用を提供し得る。例えば、時間遅延物質(例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリル)が使用され得る。これらはまた、米国特許第4,256,108号;同第4,166,452号;および同第4,265,874号中に記載されている技術によってコーティングされ得、制御された放出のための浸透性治療錠剤を形成し得る。
【0079】
経口使用のための処方物はまた、その活性成分が、不活性な固形希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリン)と混合され、ハードゼラチンカプセルとして提示され得るか、あるいは、この処方物はまた、その活性成分が、水または油媒体(例えば、ピーナッツ油、液体パラフィン、もしくはオリーブ油)と混合され、ソフトゼラチンカプセルとして提示され得る。
【0080】
水溶懸濁液は、水溶懸濁液の製造について適している賦形剤との混合物中に活性化合物を含み得る。そのような賦形剤は、懸濁剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴム)である;分散剤または湿潤剤は、天然に存在しているホスファチド(例えば、レシチン)、または脂肪酸とのアルキレンオキシドの縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、または長鎖脂肪族アルコールとのエチレンオキシドの縮合生成物(例えば、へプタデカエチレンエンオキシセタノール)、または脂肪酸由来の部分エステルおよびへキシトールとのエチレンオキシドの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール)、または脂肪酸由来の部分エステルおよび無水へキシトールとのエチレンオキシドの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリエチレンソルビタン)であり得る。水溶懸濁液はまた、1つ以上の保存剤(例えば、エチル、またはn−プロピル、p−ヒドロキシベンゾエート)、1つ以上の着色剤、1つ以上の矯味矯臭剤および1つ以上の甘味剤(例えば、スクロースまたはサッカリン)を含み得る。
【0081】
油性懸濁液は、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナッツ油)中にまたは鉱油(例えば、液体パラフィン)中に活性成分を懸濁することによって処方され得る。この油性懸濁液は、増粘剤(例えば、蜜蝋、固形パラフィンまたはセチルアルコール)を含み得る。甘味剤(例えば、上に示されたもの)、および矯味矯臭剤が添加され、口当たりのよい経口調製物を提供し得る。これらの組成物は、抗酸化剤(例えば、アルコルビン酸)の添加によって保存され得る。
【0082】
水の添加による水溶懸濁液の調製に適している分散可能な粉末および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1つ以上の保存剤との混合物中に活性化合物を提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、既に上に記述された試薬によって例示されている。さらなる賦形剤(例えば、甘味剤、矯味矯臭剤、および着色剤)もまた、存在し得る。
【0083】
本発明において有用な薬学的組成物はまた、油中水エマルジョンの形態でもあり得る。この油相は、植物油(例えば、オリーブ油もしくは落花生油)、または鉱油(例えば、液体パラフィン)またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤は、天然に存在するゴム(例えば、アカシアゴムまたはトラガカントゴム)、天然に存在するホスファチド(例えば、ダイズ、レシチン、およびエステルまたは脂肪酸由来の部分エステル)および無水へキシトール(例えば、モノオレイン酸ソルビタン)、およびエチレンオキシドとの上記部分エステルの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)であり得る。この乳化剤はまたは、甘味剤および矯味矯臭剤を含み得る。
【0084】
シロップおよびエリキシルは、甘味剤(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロース)とともに処方され得る。そのような処方物はまた、粘滑剤、保存剤、および矯味矯臭剤および/または着色剤を含み得る。薬学的組成物は、無菌の注射可能な水溶懸濁液または無菌の注射可能な油性懸濁液の形態であり得る。この懸濁液は、公知の技術に従い、上に記述された適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して処方され得る。無菌の注射可能な調製物はまた、無毒の非経口的に受容可能な希釈液もしくは溶媒(例えば、1,3−ブタンジオール溶液のような)中の無菌の注射可能な溶液もしくは懸濁液であり得る。使用され得る受容可能なビヒクルおよび溶媒としては、水、リンガー溶液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、無菌の不揮発性油は、慣用的に、溶媒または懸濁媒体として使用される。この目的のために、任意の刺激の少ない不揮発性油(合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含む)が、使用され得る。さらに、脂肪酸(例えば、オレイン酸)は、注射液の調製における使用を見出す。
【0085】
上記組成物はまた、抗体の直腸投与のために座剤の形態であり得る。これらの組成物は、適切な無刺激賦形剤と薬物を混合することによって調製され得、この無刺激賦形剤は、常温において固体であるが、直腸の温度においては液体であり、それゆえ、直腸において溶け、この薬物を放出する。そのような物質は、例えば、ココアバターおよびポリエチレングリコールである。
【0086】
注射可能な使用のために適切な薬学的形態としては、無菌の水溶液もしくは分散液および、無菌の注射溶液もしくは分散液の即時の調製のための無菌の粉末が挙げられる。全ての場合において、この形態は無菌でなければならず、そして容易に注入が可能な程度において液体でなければならない。それはまた、製造および保存の条件下において安定していなければならず、そして微生物(例えば、細菌および真菌)の汚染作用に対して保存されなければならない。このキャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒質であり得る。適切な流動性が、例えば、コーティング(例えば、レシチン)の使用によって、分散の場合における必要とされる粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン(paraben)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなど)によって行われ得る。多くの場合、等張剤(例えば、糖または塩化ナトリウム)を含めることが好ましい。注射可能な組成物の長期の吸収は、遅延吸収剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)の組成物中の使用によって行われ得る。
【0087】
(投与および用量)
疼痛の症状を処置するための代表的な鎮痛剤薬物の経口投与、非経口投与または局所的投与は、この薬物の広範囲の全身的分布および望ましくない副作用をもたらし得る。それゆえ、本方法は、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物を使用して疼痛を処置する改善された方法を提供する。
【0088】
本発明は、本明細書において記載される組成物がヒトまたは動物に投与されることを企図する。本発明における使用のためのポリペプチド組成物は、適切な薬学的に受容可能なビヒクル(例えば、薬学的に受容可能な希釈液、アジュバント、賦形剤またはキャリア)を使用して、任意の適切な様式において投与され得る。本発明の方法に従って投与される組成物は、好ましくは、薬学的に受容可能なキャリア溶液(例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝化食塩水)、グルコース、または治療剤もしくは画像化剤(imaging agent)を送達するために慣用的に使用される他のキャリアを含む。
【0089】
本発明に従って実行される「投与」は、治療薬を直接的にまたは間接的に哺乳動物被験体中に導入するための、任意の医療的に受容された手段を使用して実行され得、この手段としては、注射(例えば、静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、頭蓋内注射またはカテーテル注射);経口摂取;鼻内投与または局所的投与;などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、上記組成物の投与は、直接注射によって病変部位中にまたは持続した送達または、内部に上記処方物を送達し得る持続した放出機構を介した処置を必要としている病変または罹患した組織の部位において実行される。例えば、生分解ミクロスフェアまたはカプセルまたは組成物(例えば、可溶性ポリペプチド、抗体または低分子)の持続した送達をし得る他の生分解ポリマー構造が、病変の近くに移植された本発明の方法における使用のための処方物中に含まれ得る。
【0090】
別の実施形態において、上記ポリペプチド組成物は、被験者の鞘内に投与される。鞘内薬物投与は、経口的に摂取された場合の、いくつかの薬物の不活性化、ならびに、経口投与または静脈投与の全身効果を回避し得る。さらに、鞘内投与は、経口投与または非経口投与によって必要とされる効果用量の一部分でしかない、有効用量の使用を可能にする。その上、鞘内腔は、概して、小さなカテーテルを収容するのに十分に広く、それによって長期にわたる薬物送達系を可能にしている。
【0091】
CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物の鞘内投与によって慢性疼痛および痙性を処置することは可能である。慢性疼痛の鞘内処置のための1つの現在の方法は、鞘内ポンプ(例えば、Medtronic,Inc.(Minneapolis、MN)から入手可能なプログラム可能な移植されたポンプであるSYNCHROMED(登録商標)Infusion System)の使用による。このポンプは、患者の腹腔の皮膚の下に外科手術によって配置される。カテーテルの一端はこのポンプに接続され、そしてこのカテーテルの他端は患者の脊髄中のクモ膜下腔または鞘内腔に満たされたCSF中へ糸でつながれる。この移植されたポンプは、鞘内配置されたカテーテルを通じてポリペプチド組成物の連続したまたは断続的な注入についてプログラムされ得る。
【0092】
本発明における使用のための組成物の脊髄内投与が、鞘内投与(例えば、中枢神経系の頭部領域、頚部領域、胸部領域、腰部領域、仙骨領域または尾骨領域への鞘内投与)によって実行され、そしてこの投与工程は、哺乳動物の中枢神経系のクモ膜下腔にアクセスする工程、クモ膜下腔中にCD11dポリペプチド組成物を注入する工程を包含し得る。このアクセス工程は、脊椎穿刺によって実行され得る。
【0093】
あるいは、脊髄内投与工程は、哺乳動物の中枢神経系のクモ膜下腔のカテーテル法工程、その後のカテーテル法工程によってクモ膜下腔中へ挿入されたカテーテルを通じた本発明における使用のための抗CD11d mAbまたは他のCD11d特異的ポリペプチド組成物の注入工程を包含し得る。注入工程前に、哺乳動物において哺乳動物中にその哺乳動物の中枢神経系へCD11d特異的ポリペプチド組成物を投与するための投与手段を取り付ける工程、または移植する工程が存在し得ることに注意すること。
【0094】
上記投与工程が、被験体によって経験された(癌、痙攣などからもたらされた炎症、神経性障害、誘導された損傷の)事象または症候群の開始前、または発生後に実行され得ることに注意することが重要である。一局面において、投与工程は、損傷事象の開始の0.5時間前から約14日前の間に実行され得る。別の局面において、中枢神経系の外傷または損傷後の上記組成物の投与は、任意の適切な時間において(例えば、中枢神経系の外傷または損傷のすぐ後またはその24時間、48時間、もしくは72時間後まで)実行され得る。上記ポリペプチド組成物は、その被験体が処置の必要がある限り、1週間に1回、2週間に1回または1日1回を基礎として、投与され得ることがさらに企図される。適切な処置レジメンは、処置をする医師によって決定され得る。
【0095】
本発明における使用のための治療組成物は、複数の部位において患者に送達され得る。この複数の投与は、同時に与えられ得るか、または数時間にわたって投与され得る。特定の場合、連続した流れで治療組成物を提供することが有益であり得る。さらなる治療が、例えば、1日1回、1週間に1回、1ヶ月に1回の期間を基礎として投与され得る。
【0096】
投与のためのポリペプチドまたは抗体が、それらの有効性を増加させるために、取り込みエンハンサーまたは吸収エンハンサーを用いて処方され得る。そのようなエンハンサーとしては、例えば、サリチル酸、グリココール酸/リノール酸、グリコール酸、アプロチニン、バシトラシン、SDSカプリン酸などが挙げられる[例えば、Fix、J.Pharm.Sci.85:1282−1285(1996)ならびにOliyaiおよびStella、Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:521−544(1993)を参照のこと]。
【0097】
所定の用量中の薬学的抗体組成物の量は、治療が施される個体の大きさ、ならびに、処置される障害の特徴に従って変動する。例示的な処置において、約50mg/日、75mg/日、100mg/日、150mg/日、200mg/日、250mg/日、500mg/日または1000mg/日を投与することが必要であり得る。これらの用量はまた、患者の体重(mg/kg/日)を基礎にして投与され得る。例えば、用量は、0.5mg/kg/日、1mg/kg/日、2mg/kg/日にて投与され得るか、または処置をする医師によって適切と思われるだけ投与され得る。これらの濃度は、一回の用量の形態で投与され得るか、または複数の用量で投与され得る。まずは動物モデルにおいて、次いで臨床試験における標準的な用量応答研究は、特定の疾患状態および患者の集団のための最適な投与量を解明する。
【0098】
伝統的な治療が、本発明の下に使用されるCD11d特異的ポリペプチド組成物と組み合わせて施される場合、投薬は改変されるべきであることもまた明白である。例えば、CD11d特異的ポリペプチド組成物と組み合わせた、伝統的な鎮痛剤、NSAID、またはステロイド(例えば、エストロゲン、21−アミノステロイド、グルココルチコイド)を使用して、触覚異痛症および関連する疼痛障害を処置することが本発明の下企図される。
【0099】
(キット)
さらなる局面として、本発明は、1つ以上の化合物または組成物を含むキットを含み、このキットは、本発明の方法を実施するためにそれらの使用を促進する様式でパッケージ化されている。最も単純な実施形態において、そのようなキットは、容器(例えば、密閉されたボトルまたは器)中にパッケージ化された本発明の方法の実施のために有用であるように本明細書において記載されている化合物または組成物(例えば、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物)を含み、その容器に添付されているか、またはパッケージ中に含まれているラベルは、本発明の方法を実施するための化合物または組成物の用途を記載している。好ましくは、この化合物または組成物は、単位投与形態においてパッケージ化されている。このキットはさらに、好ましい投与の経路に従った組成物の投与のためにか、またはスクリーニングアッセイを実施するために適しているデバイスを含み得る。好ましくは、このキットは、本発明(例えば、中枢神経系の外傷(例えば、脊髄損傷)と関連する慢性疼痛の処置のための抗CD11 mAbの使用)に従ったCD11d特異的ポリペプチドの承認された用途を記載するラベルを含む。
【0100】
本発明のさらなる局面および詳細は、以下の実施例から明白であり、この実施例は、限定するよりもむしろ例示することが意図される。実施例1は、脊髄損傷後の運動機能が、メチルプレドニソンではなく、抗CD11d mAb処置によって改善されたことを開示する。実施例2は、触覚異痛症の進行が、抗CD11d mAb処置によって軽減されたことを記載する。実施例3は、抗CD11d mAb処置を受けている動物において、脊髄損傷後の密集したミエリンの領域が増加することを開示する。実施例4は、抗CD11d mAb処置を受けている動物において、脊髄損傷後の無傷な神経フィラメントの領域が増加することを開示する。実施例5は、脊髄損傷(「SCI」)後に抗CD11dと組み合わせたメチルプレドニソンを用いた処置を記載する。実施例6は、損傷した脊髄のセロトニンの神経支配に対する、CD11dに対するモノクローナル抗体を用いた処置の効果を記載する。実施例7は、疾患のラットモデルにおけるCD11dに対するモノクローナル抗体を用いた炎症性疼痛の処置を記載する。実施例8は、抗CD11d mAbを使用した、ヒト患者における慢性疼痛の処置を記載する。
【実施例】
【0101】
(実施例1)
(脊髄損傷後の運動機能を、メチルプレドニソンによってではなく、抗CD11d mAbによって改善した)
中枢神経系(CNS)の外傷後、免疫応答は、侵入する好中菌、ナチュラルキラー細胞および食作用単球/マクロファージの混合物に関与する[Meansら、J.Neuropathol.& Exp.Neurol.42:707−719(1983)]。この応答は、炎症性伝達物質の放出、反応性小グリア細胞の誘導、血小板の浸透、増大した血管透過性および水腫の成長による内皮の損傷を含む。最近の観察は、脊髄内の外傷後の炎症は、部分的に髄鞘脱落を通じてかまたはニューロンおよび軸索へのより直接的な損傷を通じて、慢性CNS欠損に寄与することを示唆する[Blight、Central Nervous System Trauma 2:299−315(1985)]。
【0102】
好中球とマクロファージ食作用残屑との両方が、活性酸素発生を誘導し、活性酸素種(例えば、一酸化窒素(NO)およびスーパーオキシド(O2−))の産生をもたらし、この活性酸素種は、周囲の健康な組織における損傷に結び付き得る。証拠は、マクロファージの毒素(シリカ)を使用して、CNS中への好中球またはマクロファージの浸潤を遮断することが、脳卒中または脊髄損傷後の、損傷の程度の減少に結び付くことを示す[Blight、Neuroscience、60:263−273(1994)]。最近の研究は、CD11dサブユニットに結合しそして遮断するモノクローナル抗体を用いた動物の処置[Van der Vierenら、(1999)、前出;Graysonら、Int.Arch.Allergy Immunol.118:263−264、1999]が、脊髄損傷部位において好中球およびマクロファージの数を実質的に減少させた[Mabonら、Exp.Neurol.166:52−64(2000);Savilleら、J.NeuroImmunology 156:42−57(2004);米国特許第6,432,404号]ことを実証した。
【0103】
SCIのための最近の処置は、始めの外傷後の続発性の合併症(例えば、慢性疼痛または自律神経反射異常(dysreflexia))を引き起こすプロセスを効果的に対処しなかった。慢性疼痛の症状を減少するCD11dモノクローナル抗体の効果を評価するために、脊髄損傷を示すラットを、抗CD11d抗体を用いて処置した。
【0104】
全ての動物手順を、Canadian Guide to Care and Use of Experimental Animalsに従って実行した。雄性のWistarラット(Harlan Bioproducts、Indianapolis、Indiana)を、触覚異痛症(慢性疼痛)を研究するために使用し、対で飼育した。ラットを、既に記載されたように[Weaverら、J.Neurotrauma 18:1107−1119(2001)]麻酔した。T4またはT12脊髄セグメントを、背面椎弓切除によって暴露し、そして60秒間のクリップ圧迫によって、硬膜を崩壊させることなしに損傷した[Weaverら、前出]。50gの目盛りを定めたクリップ(Toronto Western Research Institute、University of Toronto)をT4に使用し、重篤な損傷を誘導し、そして35gのクリップをT12に使用し、より重篤でない損傷を誘導し、それぞれ、自律神経反射異常および触覚異痛症のモデルを産生した[Bruceら、Exp.Neurol.178:33−48(2002);Weaverら、前出]。手術後の介護(例えば、食物、水、抗生物質の投与)を、Weaverら[前出]中に記載されるように提供した。
【0105】
ラットを、3つの群の1つに盲目的に割り当てた。以下の処置の1つを、尾の血管を介して、SCIの2時間後、24時間後、および48時間後における3回の連続した用量において静脈投与した。コントロール群は、通常の生理食塩水(2週間の研究)またはアイソタイプに適合する関連性のない抗体(1B7、1mg/kg、6週間および12週間の研究)を受け、第二群は、抗CD11d mAb(抗体217L、1.0mg/kg)を受け、第三群はメチルプレドニソン(MP)(2時間後において30mg/kgおよび24時間後および48時間後において15mg/kg、SOLU−MEDROL(登録商標)、Pharmacia、Peapack、New Jersey)を受けた。MPの投薬レジメンを選択したのは、それが抗CD11d mAbの脊髄内白血球浸潤に対する効果と類似する効果を有していたからである。この試験およびデータ分析の全ての局面を、盲的実験設計(blinded experimental design)を使用して行った。
【0106】
T12におけるクリップSCI後の運動能力を、21点Basso、Beattie and Bresnahan(BBB)測定法(twenty−one point Basso、Beattie and Bresnahan(BBB)scale)[Bassoら、J.Neurotrauma 12:1−21(1995)]を使用して、12週間評価した。上記動物の運動機能を、SCIの1日後から12週間後においてBBBオープンフィールド運動スコア(BBB open field locomotor score)を使用して、2つの独立した観察者によって評価した。さらに、T12における損傷後の運動試験は、傾斜面試験(inclined plane test)および格子歩行(grid−walking)を含んでいた[Rivlinら、J.Neurosurg.47:577−581(1977);Kunkel−Bagdenら、Exp.Neurol.119:153−64(1993)]。1〜7のBBBスコアは、3つの後肢の関節の運動の増加を示す。スコアの8は、体重を支えない後肢のさっとした動き(sweeping)を示し、そしてスコアの10は、一貫して体重を支える足底の歩行を含む、より複雑な運動制御の発達を示す。傾斜面試験は、前肢および後肢による傾斜面上の位置を保つラットの能力を決定する。
【0107】
T12の不完全な損傷後、運動の改善は、コントロールラットにおいて急速で、そしてBBBスコアは、約2週間で安定化し、最大8±0.2点に到達した。対照的に、抗CD11dで処置されたラットのBBBスコアは、この時間後にも改善を続け、そして約5週間目に安定化し、10±0.5点に到達した。4週間目に始まったこのmAbを処置されたラットの有意なより高いスコアは注目すべきであった。なぜなら、これらは体重を支える歩行をし得たが、他方で、コントロールラットは、それらの後足でさっと動かすことしかし得なかったからである。MPで処置されたラットのBBBスコアは、アイソタイプに適合した関連性のない抗体を与えられたコントロールラットのスコアとほとんど同一であった。
【0108】
傾斜面試験において、この抗CD11dで処置されたラットは、コントロールラットよりも有意により急な傾斜の傾いたプラットフォーム上でそれらの位置を維持し得た。SCIの5週間後に、mAbで処置されたラットは、約42度の傾斜で維持し得たが、MPで処理された動物とコントロール動物との両方は、自身を約37度の角度まで維持しただけだった。処置の経過の全体を通して、MPで処置されたラットは、アイソタイプに適合した関連性のない抗体コントロールと一貫して異ならなかった。
【0109】
T12のSCIの6〜12週間後において、上記ラットを、4cm空間の30cmの長さの格子上における格子歩行作業[Kunkel−Bagdenら、前出]によって試験した。7匹のコントロールマウスの全てが、この作業を実行し得ず、そしてその格子にわたって後肢をひきずった。SCI後の8〜12週間、9匹の抗CD11d mAbで処置されたラットのうちの3匹が、その格子の棒上にそれらの後足を正確に置き、1回の試行につき5±1の歩行の平均スコアを得た。7匹のMPで処置されたラットのうちの1匹のみが、1回の試行につき7±0の歩行でこの作業を実行し得た。
【0110】
T4における脊髄損傷は、より遅い回復の経過を伴う、より重篤の麻痺をもたらした。損傷の1週間後において始まって、この抗CD11d mAbで処置されたラットは、MPで処置されたラット(スコア=2)よりも高いBBBスコア(スコア=約3)を実証し、これらは、5週後および6週後の研究において、コントロールまたはMPで処置されたラットよりも高いスコアを有していた。抗CD11d mAbで処置されたラットは、5週間後に、8.4±0.3のスコアで能力のプラトーに到達し、このラットが、その後足でさっと動く動きを行い得たことを示し、他方で、コントロールおよびMPで処置されたラットは、それぞれ、7.4±0.3および7.0±0.3のスコアに到達し、そしてそれらの後足をさっと動かし得なかったことを示す。
【0111】
これらの結果は、抗CD11d抗体を用いた処置は、脊髄損傷の特徴である重篤な運動の損傷を緩和し、そして脊髄外傷に関連する続発性の損傷の重篤性を減少する可能性があることを示す。
【0112】
(実施例2)
(触覚異痛症の進行を、抗CD11d mAb処置によって減少した)
続発性の脊髄損傷を減少させ、そしてこの損傷に関連する神経病理学的状態を緩和する抗CD11dモノクローナル抗体の有効性を決定するために、慢性疼痛のラットモデルを使用した。
【0113】
触覚異痛症を、SCI前およびT12におけるSCIの2〜12週間後において、背側の体幹および後足に関して評価した。15mN改変Semmes Weinsteinモノフィラメントを使用して、Bruceら[前出]中に記載されたように、ラットを、その背側体幹領域の触覚刺激に対する応答について1週間に1度、そしてその後足の刺激に対して2週間毎に試験した。使用されたモノフィラメントは、一本の糸状のナイロンであり、これは表面上で曲げられた場合に特徴的な下向きの力を生成する特性を有する。
【0114】
水準において(at−level)、分節性の疼痛を、概して病変部位に対して吻側の2〜4の脊髄セグメントの一群内の、正常の感覚と感覚の損失との間の移行圏において発生しているものとして規定する[Siddallら、Spinal Cord 39:63−73(2001)]。水準の疼痛を誘導しそして評価するために、15mNの無害の力を生成するように目盛りを定められた改変Semmes−Weinsteinフィラメントを、9番目から11番目の胸部の脊髄セグメントに対応する皮膚節の領域を刺激するために使用した。ラットを、20分間、開いているかごの環境に馴化させ、次いで、背側の体幹領域内のランダムな点において10回刺激した。各刺激を3秒間続け、そして5秒間の合間によって分離した。次いで、10回の刺激から誘発された回避応答の数を、一覧表にした。損傷の7日後に試験を再開し、その後の損傷後4週間の間は1週間につき2回のテスト期間が続いた。
【0115】
水準以下の疼痛を、後足の肢底表面上で試験した。SCI前に、ラットを、プラスチック、メッシュの壁および高く作られたメッシュの床からなるPlexiglasチャンバ(8×3、5×3、5インチ)に馴化させた。背側の体幹試験に類似して、試験期間は、後足の足底表面への10回の刺激からなっていた。1つの後足の試験に続いて、2分間の合間を、二番目の後足を試験する前に、経過させた。各後足について引き込ませる(withdrawal)応答の数を一覧表にし、そして両方の後足の中の引き込ませた平均数を計算した。損傷後の4週間の間に、1週間につき2つの足試験期間を有する試験を、損傷7日後に再開した。これらの試験期間は、1日交替で行われ、動物を同じ日に2度試験しないことを確実にした。
【0116】
たじろぎ、逃避、足の引き込みおよび/または舐めること、鳴くことおよびフィラメントに噛みつくことは、ラットが上記刺激を不快なものとして知覚したことを示した。
【0117】
SCI前に、ラットは、フィラメントによる刺激に対して回避応答を滅多に示さなかった。SCI後、コントロールラットは、各々、背側の体幹(損傷のすぐ吻側)または足へ適用された10回の刺激に対する回避応答の数の増加を示し、触覚異痛症の進行と一致していた(Bruceら、前出)。損傷後2週間、アイソタイプに適合した関連性のない抗体を受けたコントロール動物は、mAbで処置された動物の頻度の約2倍(すなわち、処置された動物についての<2/10の刺激と比較して、コントロール動物については約4/10の刺激)の体幹の刺激の間、回避応答を示した。損傷後12週間までに、CD11d mAbで処置された動物はなお、10回の刺激につき約2〜3.5の回避応答を示したが、コントロール動物は、回避応答の、10回の刺激につき約6〜8回の回避応答を示した。抗CD11d mAb処置は、これらの回避応答が発生した頻度を有意に減少させ、研究の期間の間の触覚異痛症を減少させた。体幹および足の刺激への応答に対するMPの処置効果は、一致していなかったが、概して、抗CD11d mAb処置よりも触覚異痛症の低い軽減を実証した。
【0118】
(実施例3)
(SCI後の密集したミエリンの面積は、抗CD11d mAb処置においてより大きい)
CD11d mAbで処置された動物の改善した運動機能は、その処置レジメンが、ニューロンおよびニューロン細胞機能および、ミエリン鞘のためのミエリンを産生する、グリアと希突起膠細胞との完全性に影響し得ることを示す。ニューロンの完全性を評価するために、ミエリンおよび神経フィラメントのレベルを、損傷部位および損傷の周囲の領域において評価した。
【0119】
SCIの2週間後、6週間後または12週間後において、上記ラットを、4%のホルムアルデヒドで灌流し、そして脊髄を除去した。この脊髄を、横断面を20μmの切片に、クリオスタットで切片化し、そして連続的に1つおきのスライド上に解凍マウントした(thaw−mounted)。1組の切片を、Luxol Fast Blue(2週間研究)染色またはソロクローム(solochrome)シアニン(6週間および12週間研究)染色のために処理し、きつく詰め込まれたミエリンを同定し[Weaverら、前出;Pageら、J.Med.Lab.Tech.22:224(1965)]、そして2番目の、隣接した組を神経フィラメント200で染色するために免疫処理し、軸索の完全性を評価した[Bruceら、前出]。
【0120】
スライド上の8枚毎の切片のデジタル化した画像を集め、そしてImage Pro Plusソフトウェアの目盛り機能を使用して、その染色面積を定量化した。5つの切片の平均面積を計算し、そしてその脊髄に沿った0.4mmの長さのサンプルとしてプロットした。最小平均面積を、病変の発生源としてみなした。初めに、T4またはT12脊髄神経後根の3mm吻側および尾側の脊髄断面積が、無傷な脊髄中で均一であることを確立した後、このデータを以下に記載されるように正規化した。
【0121】
T12またはT4のSCI後、コントロールラットの病変発生源における密集したミエリンは、ほとんど検出可能ではなかった。T4におけるSCIの6週間後の脊髄切片のサンプル中に示されるように、病変発生源におけるミエリンは、軸索を取り囲み得た濃青色染色の小さな斑状の面積として現れた。T4またはT12における損傷の1.5〜2.0mm尾側において、この濃青色ミエリン染色は、多くの白質を取り囲んでいた。アイソタイプに適合したコントロールラットと比較して、多くのミエリンが、抗CD11d mAbで処置されたラット中の病変発生源から始まって1.0〜1.5mm視覚可能であった。この違いは、病変の中心からの距離に伴って存続しそして増加した。この違いは、SCIの2週、4週、6週、および12週後に評価した場合に、有意であった。
【0122】
染色面積を、定量的形態計測によって決定し、そして各ラットにおけるその面積を、損傷の発生源の3〜4mm吻側にサンプルされた比較的無傷な胸索の全断面積の割合として表した。抗CD11d mAbで処置された動物中のミエリンの面積は、T12またはT4損傷部位から3.2mmまでのほとんどの脊髄レベルにおいて、コントロールラット中のそれよりも有意に大きかった。T12損傷後、およびT4損傷の6週間後において、MP処置もまた、より広いミエリンの面積を導いた。
【0123】
これらの結果は、抗CD11d mAbでの処理が、損傷した動物において、ミエリンの節約(sparing)または再生を促進することを実証する。ニューロンの髄鞘形成におけるこの増加は、より効果的なニューロンシグナル伝達を促進し、そして抗CD11d mAb処置が、ニューロン伝達の処置のための効果的治療を提示し、そして慢性疼痛の症状を減少させることを示唆する。
【0124】
(実施例4)
(SCI後の無傷な神経フィラメント繊維の面積は、抗CD11dmAb処置においてより大きい)
ミエリンについて染色された切片に隣接した脊髄の連続切片を、ミエリンのより広い面積が、無傷な軸索を含むより大きな面積によって対応されるか否かを決定するために、神経フィラメント200免疫応答タンパク質について処理した。
【0125】
T4のSCIの6週間後における脊髄切片中に、病変発生源における神経フィラメントの束を、白質および灰白質中に不規則に配置し、そして神経網の単離された領域が、無傷であるように見えた。染色の斑状の面積は、断面における軸索の束を現した。病変内において、神経フィラメント繊維を、ほとんどの場合、アイソタイプに適合した関連性のない抗体コントロールおよびCD11d mAbで処置されたラットにおいてまとまりを欠いたパターンで配置したが、無傷の神経フィラメントの面積を、より頻繁にmAbで処置されたラット中に見出した。病変部位および抗CD11d mAbで処置されたラットの病変発生源から1.0mm〜2.0mmの切片は、コントロールラットよりも、規則的に分散された白質の軸索の束を伴う多くの面積を有し、そして無傷の神経フィラメントのレベルを有意に増加した。
【0126】
T12におけるSCIの12週間後において、その発生源の2mm以内の脊髄を、顕著に損傷した。神経フィラメントの染色は、T4部位においてよりも、T12損傷部位において大きく、長い空洞化を確認した。抗CD11d処置後のT12領域中のより多くのミエリンとは対照的に、無傷の神経フィラメントの面積は、全ての面積においてコントロールラットのその面積と異ならなかった。しかし、神経フィラメント面積は、病変発生源においておよびその中心から1.0mmおよび2.0mmにおいて、抗CD11d mAbで処置されたラット中で有意に広かった。より離れた距離においては、評価を行わなかった。神経フィラメント節約に対するMPの効果は、MPが、SCI後の12週間後においてT12病変発生源における神経フィラメントに対する有意な効果を有しなかった例外を除いて、抗CD11d mAbの効果と類似する。MP処置の後、T12病変発生源における神経フィラメントの面積は、コントロールラットの面積よりも有意に小さかった。対照的に、T4損傷の6週間後において、病変発生源における、および病変発生源の尾部の無傷の神経フィラメントの面積は、コントロールラット中よりも、抗CD11d mAb処置後の方が有意に広かった。MPで処置されたラット中の無傷な神経フィラメントの面積は、コントロールラット中のその面積と異ならなかった。
【0127】
抗CD11dで処置された、損傷した動物における神経フィラメント密度の増加は、CD11dを遮断することが、軸索の再生または成長を促進し、および/または変性を防ぎ、ふたたびニューロンのシグナル伝達を改善することを示す。したがって、ミエリン沈積物と軸索フィラメントの成長との両方の増加および/または抗CD11d mAbで処置された脊髄を損傷した被験体の神経系における完全性は、抗CD11d mAb処置が、ニューロンの損傷に由来する慢性疼痛の症状を緩和するための効果的治療法であることを示唆する。
【0128】
(実施例5)
(抗CD11dとの組み合わせたメチルプレドニソンでの処置は、抗CD11d処置の正の神経学的利益を破壊する)
メチルプレドニソンは、かなり強力な免疫抑制剤であり、そして脊髄損傷の処置に効果的であると示されてきたので[Bracken、Spine.26(24補遺):S47−54(2001)]、MP処置を抗CD11d抗体処置と組み合わせる効果を試験する研究を行った。
【0129】
動物を、アイソタイプに適合した関連性のない抗体(1B7 mAb、1mg/kg)、抗CD11d mAb(1.0mg/kg)またはMPのいずれかで、上に記載されたSCIの2時間後、24時間後および48時間後における注入スケジュールに従って処置した。MP(SOLU−MEDROL(登録商標)、Upjohn、Peapack、NJ)を、SCIの2時間後(30mg/kg)、24時間後および48時間後(15mg/kg)において与えた。組み合わせ処置群は、上に記載されたプロトコルに従って、同時に送達された、抗CD11d mAbとMPとの両方を受けた。抗CD11d mAbおよびMPを、カルシウムおよびマグネシウムを欠くリン酸緩衝食塩水、pH7.2(Invitrogen、Burlington、ON、CA)中で、最終体積の100〜180μLまで希釈した。抗CD11d mAbおよびMPの組み合わせた送達のために、濃度を、200μL注入体積を可能にするように調節した。この試験およびデータ分析の全ての局面を、盲実験設計を使用して行った。
【0130】
SCIの2週間後において、組み合わせ処置群(n=4)におけるBBB運動スコアは、コントロール群(n=4)と有意に異ならなかった。抗CD11d mAbで処置された群のBBBスコアは約6であったが、MPで処置された群はスコアの約3を有した。SCIの6週間後において、自律神経反射異常に対する効果を評価した。結腸の拡張によってもたらされた動脈圧の増加は、コントロール群においては約30mmHg、抗CD11d mAbで処置された群においては約22mmHg、MPで処置された群においては24mmHg、ならびに、mAbおよびMPで処置された群においては30mmHgであった。SCIの2週間後において、損傷発生源の尾部のミエリンの面積は、抗CD11d mAb処置群において有意により広かった。MPおよび組み合わせ処置群におけるこれらの面積は、コントロール群のものとほとんど同一であった。
【0131】
これらの発見は、MPと抗CD11d mAb処置の組み合わせが、抗CD11dモノクローナル抗体の正の処置効果の損失に結び付くことを実証する。
【0132】
(実施例6)
(CD11dに対するモノクローナル抗体を用いた処置は、損傷した脊髄のセロトニン神経支配を調節し、そして回復を改善する)
SCIからもたらされる感覚障害、運動障害、および自律神経障害は、病変部位を取り囲むセロトニン(5−HT)繊維の密度および分布における規定の変更と対応する[Bruceら、Exp.Neurol.178:33−48(2002);Hainsら、Exp.Neurol.175:347−362(2002)]。脊髄損傷(SCI)は、脊髄ニューロンのいくつかの集団の下方性セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン;5−HT)制御の損失を導く。後角中の脳幹シナプス由来の脊髄セロトニン突出部は、刺激されたレセプターに依存して、疼痛シグナル伝達の阻害または促進をもたらす[Calejesanら、Brain Res.798:46−54(1998);Bardinら、Eur.J.Pharmacol.409:37−43(2000)]。セロトニンニューロンはまた、中間外側細胞柱(IML)中の交感神経節前のニューロンを標的にし、自律神経の調節に寄与する[Allenら、J.Comp Neurol.350:357−366(1994);Jacobsら、Brain Res.Rev.40:45−52(2002)]。下方性セロトニン軸索はまた、興奮性の入力を前角α−運動ニューロンに提供する[Saruhashiら、Exp.Neurol.139:203−213(1996)]。したがって、病変部位の尾部の(下の)下方性セロトニン入力の損失は、脊髄損傷後の神経障害性疼痛および運動機能障害に寄与する[Saruhashiら、前出;Hainsら、前出]。
【0133】
病変レベル以下のセロトニン軸索の損失に加えて、セロトニン免疫反応性(5−HT−Ir)の領域における顕著な増加が、損傷のすぐ吻側の(上の)脊髄セグメントの後角において発生する[Bruceら、前出;Inmanら、J.Comp.Neurol.462:431−449(2003)]。損傷のすぐ吻側の(上の)これらのセグメントは、皮膚節に対応し、この中で、触覚/機械的異痛症の一群が多くの場合発症する[Tasker R.、The Management of Pain、(Bonica JJ、編)、pp264−283.Philadelphia:Lea & Febiger(1990);Vierck、Jr.ら、Pain 89:1−5(2000)]。この水準の疼痛は、それが5−HTレセプターアンタゴニスト−オンダンセトロンによって遮断されるように、セロトニンの増加が原因であると考えられ得る[Oatwayら、Pain 110:259−268(2004)]。対照的に、SCIの尾部の神経障害性疼痛は、5−HTおよび5−HTレセプター上のセロトニン作用の損失に起因し得る[Hamonら、Novel Aspects of Pain Management:Opioids and Beyond(Sawynok J、Cowan A、編)、pp203−228、Wiley−Liss,Inc.(1999);Hainsら、前出]。それゆえ、損傷上の下方性セロトニン繊維の可塑性、および損傷下のそれらの損失、その両方が、脊髄損傷後の神経障害性疼痛に寄与する。
【0134】
(抗CD11d mAb処置は、病変の吻側のおよび尾部の、後角セロトニン繊維密度を調節する)
抗CD11d mAb処置が、慢性疼痛を減少させ、そして運動機能および自律神経機能を、それぞれ、部分的に、中程度のSCIの吻側のおよび尾部のニューロンへのセロトニン入力における増加および減少を予防することによって改善すると考えられている。この仮説を確証するために、後角、中間質(intermediate horn)、および前角中の5−HT−免疫反応性繊維の密度および分布を、シャム損傷処置ラット、ビヒクル処置ラットおよび抗CD11d処置ラットにおいて評価した。
【0135】
この繊維免疫反応性の密度および分布を評価するために、ランダムに選択された移動性横断面(T9−11、L2−4)を、スライド上にマウントし、そしてLeica顕微鏡(Leica、Canada)を使用して、光学顕微鏡検査法および蛍光顕微鏡検査法によって観察した。明るいフィールド画像についてはDAGEビデオカメラ(MTI、Michigan City、IN)を使用して、そして蛍光画像についてはRetiga 1300カメラ(Q Imaging、Burnaby、BC)を使用して、デジタル化した画像を収集し、そしてImage Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics、Silver Spring、MD)を使用して処理した。画像プロセシングソフトウェアを、全ての画像を共通のピクセル強度の範囲に標準化するために使用し、既に記載されたように[Bruceら、前出]、均一化された比較を提供した。
【0136】
後角5−HT−Irの定量化を、各個々の画像について層I−IVを取り囲む目的の領域を視覚的に選択することによって実行した。目的の全面積は、T9−11セグメント内の切片について136mmであり、L2−4切片については272mmあった。各セグメントについては、1匹の動物につき20〜25の切片を、スライド上の8列につき1切片をランダムに選択することによって定量化した。
【0137】
T12におけるSCIの4週間後に、侵害受容情報が中枢神経系中で処理され始め、後角の層I−IV内の5−HT−繊維の分布および密度を、病変部位のすぐ吻側(T9−T11)および尾部(L2−L4)との両方で調査した。
【0138】
シャム損傷動物の層I−IV内の5−HT−Irは、主にその表層内で点状の繊維からなっていた。シャム損傷ラットにおいて、T9−11セグメント中の5−HT−Irの面積は、4984±841μm(n=6)であった。5−HT−Irの面積は、ビヒクルで処置されたSCI群(n=5、P<0.05)中の吻側セグメント(T9−11)において17761±1014μmまで有意に増加した。この約4倍の増加は、表層内で最も明らかであり、そして層IIIおよび層IVの全体に広がった繊維の数の増加を伴った。抗CD11d mAb処置の後、T9−11における5−HT繊維分布は、表層内で標準化したように見えた。抗CD11d処置後のT9−11における5−HT−Irの面積(7884±516μm(n=6))は、ビヒクル処置群の面積よりも有意に小さかった。
【0139】
シャム損傷群における損傷(L2−4)の尾部のセグメント中の5−HT−Irの分布は、T9−11中の分布と類似した。この群における層I−IV中の5−HT−Irの面積は、14000±756μm(n=5)であった。大部分の場合において、ビヒクル処置SCIラットにおけるそのSCIの尾部の5−HT−Irは完全に損失し、これらの動物においてL2−4中の検出可能な免疫活性は、589±159μmまで有意に減少した(n=5、P<0.05)。抗CD11d mAbによる処置後に、蛇行性の点状繊維は、浅層全体にランダムに分布した。ラットのこの群において、ビヒクルでの処置後の面積と比較した場合(P<0.05)、抗CD11d mAb処置後に、L2−4中の5−HT−Irの面積は(3842±1190μm、n=5)、有意に増加した。
【0140】
これらの結果は、損傷の吻側の繊維密度が、抗CD11dで処置されたラットにおける正常レベルと類似し、そして抗CD11d処置後の病変の尾部のこれらの繊維の密度が、増加され、それぞれ、損傷部におけるおよび損傷部の下の機械的異痛症の減少と一致していたことを実証する。
【0141】
(抗CD11d mAb処置は、病変の尾部の中間外側細胞柱におけるセロトニン繊維の分布を増加させる)
抗CD11d mAb処置後の後角において観察された5−HT繊維の密度および分布の調節が同じセグメント内の他の層全体において一貫しているか否か調査するために、5−HT−Irの面積を、中間外側細胞柱(IML)において定量化した。繊維密度の評価を、後角について上に記載されたように実行した。T9−11およびL2−4切片におけるIMLについて定量化された目的の全面積は、208mmであった。
【0142】
シャム損傷動物のT9−11セグメントにおいて、5−HT−Irは、IML中に集められた長くそして結節状構造の繊維中に現れ、そして内側に、そして外側に広がっているように見え、その面積は、3331±495μm(n=6)であった。病変部位の吻側のセグメント中の免疫活性の面積は、ビヒクル処置後も(3944±797μm、n=5)、抗CD11d mAb処置後も(4662±324μm、n=6)有意に変更されなかった。ビヒクル処置群およびmAb処置群において、5−HT−Ir繊維の分布および形態は、シャム損傷動物において観察されたものと類似していた。
【0143】
病変の尾部のセグメントにおいて(L2−4)、シャム損傷ラットの5−HT−Ir繊維の分布は、胸部セグメントについて記載されたものと類似していた。シャム損傷ラットにおける5−HT−Irの面積は、2891±683μm(n=6)であった。対照的に、SCIの4週間後に、L2−4における5−HT−Irを、ほぼ完全にビヒクルで処置された動物において除去され、そして310±125μm(n=5、P<0.05)まで有意に減少した。抗CD11d mAb処置後、IML内の5−HT−Irの増加は、明白に認識できた。L2−4における5−HT−Irの面積は(5848±1373μm、n=6)、シャム損傷群とビヒクル処置群との両方と比較した場合、有意に増加した(P<0.05)。
【0144】
SCI動物におけるCD11d炎症シグナルの遮断は、損傷の尾部のIMLにおける5−HT−Ir繊維密度の増加を導き、自律神経の回復の増加に寄与した。これらの結果は、抗CD11d抗体を用いた脊髄損傷の処置は、セロトニン反応性の回復を有意に増大し、そして脊髄損傷後にシグナルを伝達するニューロンの能力を増大することを示す。
【0145】
(抗CD11d mAb処置は、損傷の尾部の前角におけるセロトニン繊維分布を防護する)
下行性セロトニン軸索は、前角α−運動ニューロンへの興奮性入力を提供する[Saruhashiら、前出]。前角に対する抗CD11d処置の効果を決定するために、繊維密度の評価を、後角およびIMLについて上に記載されたように実行した。L2−4セグメントにおける前角について定量化された目的の全面積は、290mmであった。目的の前角領域は、層VII−IXを取り囲み、そして過剰な定量化を回避するために、IMLから任意の繊維を除去するように注意を払った。
【0146】
IMLにおいて見出したように、病変の吻側の前角における小数の運動ニューロンの周りの5−HT−Ir繊維の分布および密度は、SCIの4週間後において、SCIによってかまたは抗CD11d mAb処置によって著しくは変更しなかった。対照的に、SCIの尾部の前角5−HT−Irにおける顕著な変化は、明白であった。シャム損傷群において、多数の5−HT免疫反応性繊維を、前角全体において観察した。免疫反応生成物はまた、特にシャム損傷動物および抗CD11d mAb処置動物中の、運動ニューロンの細胞体を取り囲んでいる末端ボタン内に見られた。
【0147】
シャム損傷動物のセグメントL2−4中の前角5−HT−Irの面積は、18565±2019μm(n=5)であった。損傷後4週間、5−HTに対して免疫反応するビーズ状の結節状構造の繊維は、ビヒクルで処置されたラット中の前角全体にまばらに分布した。ビヒクルで処置された動物中の5−HT−Irの面積は(1255±363μm;n=6、P<0.05)、シャム損傷動物におけるものよりも有意に小さかった。SCI後の5−HT−Ir繊維のこの減少を、抗CD11d mAb処置によって部分的に逆にした。5−HT−Ir繊維の面積の定量化は、ビヒクル処置動物と比較して、抗CD11d処置後の有意な10倍の増加(11882±1220μm)(P<0.05)を明らかにした。
【0148】
この処置は、損傷の尾部の前角における5−HT−Ir繊維密度の増加を導いた。それゆえ、抗CD11d mAb処置後の、損傷部位の尾部の、腰部の前角内の5−HT繊維密度の増加を、α運動ニューロンおよび中枢パターンの発生回路への調節された興奮性入力を介した回復した運動と直接的に関連する。これらの変化は、自律神経の回復を提供し、そして改善された運動機能と相関する。
【0149】
(病変部位の尾部の5−HT−Ir繊維は、抗CD11d mAb処置に従って予備の軸索から生じるようである)
これまでの研究は、より大きな軸索の成長が、損傷の部位に隣接する灰白質および白質の節約と関連し得ることを示してきた[Grisら、J.Neurosci.24:4043−4051(2004)]。無傷な灰白質の増加は、より多数の脱神経されたニューロンの標的を提供し、損傷部位以下の領域中への軸索の成長を誘発する[Polistinaら、J.Comp.Neurol.299:349−363(1990)]。
【0150】
損傷内のおよび損傷の周囲の5−HT繊維の成長をより良く可視化し、そして比較するために、損傷全体を取り囲んでいる継断面を分析した。組織の完全性に基づいて、損傷部位の吻側のおよび尾部の境界を、容易に同定した。損傷部位内の嚢形成は、ビヒクル処置動物と抗CD11d mAb処置動物の両方における特徴であった。ビヒクル処置ラットにおいて、蛇行性5−HT−Ir繊維の濃い蓄積が、損傷部位の吻側で発生した。これらの繊維は、損傷部位の境界を通って貫通しなかった。5−HT−Ir繊維の群は、損傷部位の外側の端上の脊髄の軟膜下縁に沿った進路を進み、尾部の境界を通るまで続いた。少数の個々の5−HT−Ir繊維は、損傷部位の尾部の灰白質内でランダムなパターンでまばらに分散した。
【0151】
抗CD11d mAb処置後、下行性5−HT−Ir繊維はいまだ、損傷部位の吻側境界(上に)において蓄積した。しかし、5−HT−Ir繊維の群は、損傷部位の吻側の境界と尾部の境界との両方を通っている脊髄の外側の端に沿って伸張した。損傷の吻側部分に隣接して、脊髄の側面上のこれらの繊維の束が、ビヒクル処置ラットよりも抗CD11d処置ラットにおいて厚いようであった。損傷部位の尾部において(下で)、このビーズ状の5−HT−Ir繊維は、軟膜下の縁における脊髄の片側面に沿って続き、そして灰白質−白質の境界に向かって白質を通じて内側に側副枝を送るようであり、ここで、大部分の5−HT−Ir繊維はIML内で分布した。抗CD11d mAbで処置されたラットの、損傷におけるまたは損傷に隣接する軟膜下の縁における5−HT−Irの面積は、ビヒクルで処置されたラットにおける面積よりも10倍広かった。これは、部分的には、損傷の吻側部分の軟膜下に沿って進んでいる、より厚い束に起因し得る。
【0152】
これらの結果は、延髄脊髄の軸索から成長している側副枝の数が、増大した脊柱上の結合性を提供し得る抗CD11d mAb処置の後に増大することを実証する。
【0153】
(抗CD11d mAb処置は、損傷部位を横切っている縫線核脊髄軸索の数を増加させない)
大縫線核(raphe magnus)(NRM)からの脊髄セロトニン突出部は、疼痛シグナル伝達の阻害または促進をもたらすが[Calejesanら、前出;Bardinら、前出]、不確縫線核(nuclei raphe obscurus(NRO))および淡蒼縫線核(nuclei raphe pallidus(NRP))内のセロトニンニューロンは、中間外側細胞柱(IML)交感神経節前のニューロンを標的にし、自律神経の調節に寄与している[AllenおよびCechetto、前出;Jacobsら、前出]。損傷部位の尾部の下行性セロトニン入力の損失は、SCI後の神経障害性疼痛および運動機能障害に[Saruhashiら、前出;Hainsら、前出]、そして自律神経機能傷害に寄与する可能性がある。さらに、横切開SCI後の5−HT放出胚性縫線細胞の移植は、運動改善を導き[Ribottaら、J Neurosci 20:5144−5152(2000)]、これらの細胞が中枢神経系において重要な役割を果たすことを暗示している。
【0154】
クリップ圧迫後の縫線核脊髄軸索に対する抗CD11d mAbの効果を評価するために、逆行して(retrogradely)輸送されたFLUOROGOLD(登録商標)を、中程度のクリップ圧迫損傷の4週間後に、その発生源を通って突出しており、そして脊髄病変部位の尾部の、縫線核脊髄軸索の完全性を評価するために使用した。縫線核内の細胞体を標識するために使用した逆行追跡法(retrograde tracing method)は、既に記載されている[Fehlingsら、Exp.Neurol.132:220−228(1995);Joshiら、J Neurotrauruma 19:191−203(2002)]。7.5μlの4%のFLUOROGOLD(登録商標)(ヒドロキシスチルバミジン;Fluorochrome Inc.、Englewood、CO)を吸収するために、3mm×3mm Gelfoam外科用綿撤糸(Pharmacia、Mississauga、ON)を、使用した。このGelfoam外科用綿撤糸を、脊髄の隣接面末端に対する横切開部位に配置した。FLUOROGOLD(登録商標)の分散を、ワセリンを横切開部位にわたって添付することによって最小限にした。ラットは、トレーサーを髄質へ輸送することを可能にするための横切開後、7日間、生存した。このFLUOROGOLD(登録商標)が、脳脊髄液を通じた受動分散によってではなく、病変部位を通じてそして逆行軸索輸送を介して髄質へ進んだことを確実にために、圧迫するのではなく、脊髄を12番目および13番目の胸セグメント接合部にて横切開した、コントロールを使用した(n=3)。次いで、このトレーサーを、既に記載されたように、4番目の腰セグメントに適用した。
【0155】
抗CD11dmAb処置群中ならびにビヒクル群中の両方の大縫線核と淡蒼縫線核のニューロン数の間の比較を行った。両方の処置群におけるFLUOROGOLD(登録商標)標識化ニューロンは、物理的構造において類似しており、そして約15−30μmの大きさの三角形または楕円形の、多極性細胞体として現れた。多くのFLUOROGOLD(登録商標)標識化縫線ニューロンは、5−HTに対して免疫反応性であった。細胞計数は、抗CD11d mAb処置群(n=6)と生理食塩水処置群との縫線核内の標識されたニューロンの平均数の間の有意な違いを明らかにしなかった。このmAb処理群は、生理食塩水処置群よりも有意に大きな分散を有しており(P<0.05)、これは、何匹かの抗CD11d処理ラットにおける多くの細胞数に起因した。
【0156】
抗CD11dを用いた処置は、病変を通って横切っている索軸の数も有意な増加よりもむしろ、損傷部位の尾部の節約された軸索の側副枝の成長を改善するようであった。総合的に、これらの結果は、抗CD11d mAbを用いた早期の処置の後の、改善した運動および感覚の回復が、SCI病変部位の吻側と尾部の両方の5−HTセロトニン繊維の分布のより正常なパターンと、ならびに病変発生源におけるおよびこの発生源の近くの組織の節約と関連することを実証する。
【0157】
疼痛および運動機能に対するこの複雑なセロトニンの影響は、SCIによって非常に混乱される。この抗炎症方針は、脊髄損傷の傷害効果を逆行するための有意なおよび効果的な方法を提供する。これらの結果は、SCI後の早期炎症カスケードを標的にすることによってもたらされた組織の節約が、慢性疼痛の感覚における改善と関連する、損傷の吻側のおよび尾部のセロトニンのより特徴的な分布をもたらすことを実証した。
【0158】
(実施例7)
(CD11dに対するモノクローナル抗体を用いた炎症性疼痛の処置)
上記実施例において記載された結果は、抗CD11dモノクローナル抗体が、触覚異痛症(慢性疼痛の1つの形態)の症状を緩和するための有効な手段を提供したことを実証した。慢性疼痛のいくつかの他の供給源が存在するので、抗CD11d治療を、炎症性疼痛における使用のために企図する。
【0159】
炎症性疼痛における抗CD11dの治療効果を評価するために、ラットカラゲナン足モデルを使用する。カラゲナンは、海草から得られた水に抽出可能な多糖類である。足底の足、または膝関節へのλカラゲナン(ゲルを形成しない親水コロイド)の注入は、体重の支点の減少、罹患した肢節の防御、および痛覚過敏に結び付く局所的炎症をもたらす(米国特許第6,489,356号を参照のこと)。カラゲナン誘導痛覚過敏は、一次求心性侵害受容器、強い刺激のみに応答する皮膚および他の組織における症神経末端、および脊髄に内因性ニューロン可塑性の感作の結果として発生すると考えられる。
【0160】
動物に、カラゲナンの適切な用量(例えば、0.85%生理食塩水中の0.1mlの1%溶液、または適切な緩衝液中の2mg〜6mgの範囲のカラゲナン[Coulthardら、J.Neurosci.Methods 128:95−102(2003)])の注射によって投与する。熱刺激に対する後足引き込み潜伏時間の基線測定を、Hargreaves装置によって得た。動物は、適切になるように0.5〜40μgの範囲にわたる抗CD11dの1回の注射を例えば、鞘内(IT)、静脈内または腹腔内または任意の他の適切な経路を介して受ける。引き込み閾値を、Hargreaves装置によって30分毎に3時間、測定する。
【0161】
抗CD11d処置動物におけるプレカラゲナンレベルに対する炎症を起こした足への過敏症の減少は、CD11d mAbが炎症性疼痛および炎症性痛覚過敏に対する効果的な処置であることを示す。
【0162】
(実施例8)
(ヒト被験体における慢性疼痛の処置)
CD11dサブユニットに対するモノクローナル抗体を用いた処置は、ラットにおける脊髄損傷と関連した広範囲の続発性の損傷を減少させることについて効果的であることを証明した。脊髄外傷または他の慢性疼痛の供給源のいずれかからもたらされる慢性疼痛を罹患するヒト被験体の処置を、抗CD11d抗体、抗CD11d抗体を含む薬学的組成物、またはCD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物を用いて処置し得ることを企図する。
【0163】
CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物を、処置をする医師によって適切と思われる任意の経路によって、慢性疼痛に苦しむ被験体に投与する。一局面において、抗CD11d抗体/ポリペプチド治療を静脈投与することを企図する。慢性疼痛を罹患する患者に投与されるCD11dに特異的に結合する本発明のポリペプチドの用量は、患者ごとに変動し、そして1mg/kg/日〜100mg/kg/日までのいずれかの量であり得ることを、当業者は認識する。本発明のポリペプチドを、当該分野において公知かまたは容易に決定されるように、患者の大きさ、性別、および体重について適切な用量において投与する。このポリペプチドのその後の用量は、患者の治療への特定の応答に対処するために増加または減少し得る。
【0164】
CD11dに特異的に結合するポリペプチドを、当該分野において認識される任意の処方物において与え、この組成物が、血流または組織部位(例えば、水溶液または油性懸濁液)中へ拡散することを可能にする。慢性疼痛を処置することに有用な他の因子を、抗CD11d抗体として同じ処方物中に投与し、そして同時に与えることを企図する。あるいは、この因子をまた、別の処方物中に投与し得、そしてさらに、抗CD11d抗体と同時に投与し得る。第二の因子をまた、CD11dに特異的に結合するポリペプチドの投与の前に投与し得る。投与前とは、抗CD11d抗体/ポリペプチド処置の1週間前からCD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物の投与の30分前までの範囲内の上記因子の投与をいう。第二因子を、CD11dに特異的に結合するポリペプチドの投与後に投与することをさらに企図する。投与後とは、CD11dに特異的に結合するポリペプチドの投与の30分後から抗CD11d抗体/ポリペプチド処置の1週間後までの投与を記載することを意味する。
【0165】
抗CD11d抗体またはCD11dに結合するポリペプチドを、脊髄への損傷後の2〜72時間以内に投与することを企図する。さらに、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを、当業者によって決定し得るように、毎日、毎週、2週間毎、または他の効果的な頻度において投与し得る。
【0166】
いくつかの例において、ヒト患者における慢性疼痛の処置を、概して、米国特許第6,372,226号中に記載されるように実行し得る。急性炎症性疼痛、神経障害性疼痛、痙性状態、または損傷(例えば、脊髄損傷)由来の他の慢性疼痛を経験している患者を、本発明の方法における使用のために、本明細書において記載される組成物の適切な用量を用いて、鞘内投与によって(例えば、腰部領域への脊髄穿刺によって)処置する。その特定の用量および注射の部位、および投与の頻度は、処置をする医師の技術の範囲内の種々の要因に依存する。投与後の1〜7日の範囲内において、その患者の疼痛を実質的に緩和する。疼痛軽減の有効性およびタイミングは、各患者で異なり、そして治療組成物の投与の7日後以降に現れ得ることを企図する。
【0167】
本明細書において記載される組成物を、異なる脊髄レベルにて注射し、体中の種々の部位における疼痛を処置し得る。さらに、カテーテルを、Tuohyニードルを使用し、椎骨レベルのL3−4またはL4−5の腰部穿刺を介して、鞘内腔中に経皮的に挿入し得る。このカテーテルを、異なる椎骨位置に調節し、そして/または異なる用量濃度において使用し、異なる種類の疼痛および/または痙攣を処置し得る。
【0168】
慢性疼痛を、目的の測定試験(例えば、Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs(LANSS)Pain Scale[Bennett,M.Pain.92:147−157(2001)])によって評価する。CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む組成物を用いた処置後の疼痛刺激に対する過敏性の減少は、CD11dインテグリンサブユニットの正常の活性に干渉することは、慢性疼痛に関連する症状を緩和することを示す。本発明の別の局面において、本明細書において記載される組成物を、上に記載されたような別の疼痛薬剤と併せて投与し、ここで、この治療は、慢性疼痛の症状を軽減する相乗効果を提供する。
【0169】
上の例示的実施例において示されたような本発明における多数の改変およびバリエーションが、当業者によって行われることが予想される。結果的に、添付された特許請求の範囲において現れるそのような制限のみが、本発明に設定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体において慢性疼痛を処置するための方法であって、該方法は、CD11dに特異的に結合するポリペプチドを含む、治療有効量の組成物を必要とする被験体に投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、モノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、ハイブリドーマ217L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12701)、ハイブリドーマ226H(American Type Culture Collection登録番号:HB−12592)またはハイブリドーマ236L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12593)によって分泌されるモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリペプチドが、ハイブリドーマ217L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12701)、ハイブリドーマ226H(American Type Culture Collection登録番号:HB−12592)またはハイブリドーマ236L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12593)によって分泌されるモノクローナル抗体の軽鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、ハイブリドーマ217L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12701)、ハイブリドーマ226H(American Type Culture Collection登録番号:HB−12592)またはハイブリドーマ236L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12593)によって分泌されるモノクローナル抗体の重鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリペプチドが、ハイブリドーマ217L、226Hまたは236Lによって分泌されたモノクローナル抗体の重鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)、ならびに、ハイブリドーマ217L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12701)、ハイブリドーマ226H(American Type Culture Collection登録番号:HB−12592)またはハイブリドーマ236L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12593)によって分泌されたモノクローナル抗体の軽鎖の、1つ、2つ、および/または3つの相補性決定領域(CDR)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリペプチドが、ハイブリドーマ217L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12701)、ハイブリドーマ226H(American Type Culture Collection登録番号:HB−12592)またはハイブリドーマ236L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12593)によって分泌されたモノクローナル抗体によって認識されたCD11d上のエピトープを認識する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、ハイブリドーマ217L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12701)、ハイブリドーマ226H(American Type Culture Collection登録番号:HB−12592)またはハイブリドーマ236L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12593)によって分泌されたモノクローナル抗体と、CD11dへの結合について競合する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記ポリペプチドが、ハイブリドーマ217L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12701)、ハイブリドーマ226H(American Type Culture Collection登録番号:HB−12592)またはハイブリドーマ236L(American Type Culture Collection登録番号:HB−12593)によって分泌されたモノクローナル抗体の、1つ、2つ、3つ、4つ、5つおよび/または6つの相補性決定領域を含み、該ポリペプチドは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、二官能性/二重特異性抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および相補性決定領域(CDR)−移植抗体およびペプチド抗体からなる群より選択される、方法。
【請求項11】
前記哺乳動物が、ヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記慢性疼痛が、触覚異痛症、神経障害性疼痛、痛覚過敏、痛覚異常鋭敏症、および炎症性疼痛からなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記慢性疼痛が、触覚異痛症である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記慢性疼痛が、中枢神経系の外傷または脊髄損傷からもたらされる、請求項1〜10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記脊髄損傷が、該脊髄の圧縮である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物の投与が、軸索の再生および/または増殖の増加をもたらす、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物の投与が、ミエリン再生の増加をもたらす、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、さらに、薬学的に受容可能な希釈液またはキャリアを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、他の疼痛軽減薬物と併せて投与される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記他の疼痛軽減薬物が、NSAID、鎮痛剤、ステロイド、および抗癲癇薬物からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2007−510738(P2007−510738A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539721(P2006−539721)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/037245
【国際公開番号】WO2005/046723
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(504158043)アイコス、コーポレーション (5)
【氏名又は名称原語表記】ICOS CORPORATION
【Fターム(参考)】