説明

CDK阻害剤によって調節される遺伝子発現を同定及び調節するための試薬及び方法

【課題】サイクリン依存性キナーゼ阻害剤によって誘導される遺伝子である、癌及び老化関連疾病に関与する遺伝子の誘導を阻害する化合物を同定するための方法及び試薬を提供する。
【解決手段】サイクリン依存性キナーゼ阻害剤によって誘導される哺乳動物遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結された、レポーター遺伝子をコードする組み換え発現構築物。当該組み換え発現構築物を含む哺乳動物細胞。当該哺乳動物細胞を用いたサイクリン依存性キナーゼ阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を阻害する化合物の同定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本願は2001年2月1日に提出された米国仮出願番号60/265,840、および2001年5月21日に提出された米国特許出願番号09/861,925に基づく優先権を主張する。
【0002】
本願は国立衛生研究所(National Institutes of Health)からの助成金(No.R01CA62099)による支援を受けた。政府は本発明における一定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、細胞老化ならびに老化に伴う細胞性遺伝子発現の変化に関する。とりわけ、本発明は、老化の開始時に細胞内で誘導されるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤と呼ばれるクラスの細胞性遺伝子産物によって発現が調節される遺伝子の同定に関する。より詳細には、本発明は上記のようなCDK阻害剤によって発現が誘導される遺伝子である細胞老化のマーカーを提供する。本発明は、細胞老化の病的結果を阻害する化合物の存在下において、CDK阻害剤による上記マーカー遺伝子の誘導の阻害を検出することにより、当該化合物を同定するための方法を提供する。また、実験的に誘導可能なp21、p16またはp27などの様々な細胞性CDK阻害剤をコードする組み換え発現構築物を含む組み換え哺乳動物細胞である試薬、ならびに、内在性または外来性の実験的に誘導可能なCDK阻害剤によってその発現が誘導される遺伝子に対するプロモーターの転写制御下においてレポーター遺伝子を発現する組み換え発現構築物を含む組み換え哺乳動物細胞も提供される。
【背景技術】
【0004】
(関連技術の概要)
細胞周期の進行は、サイクリン依存性キナーゼ(CDKs)として知られる一組のセリン/トレオニンキナーゼによって大いに調節されている。CDK阻害剤として知られる特定の蛋白質群は、CDKと相互作用してこれを阻害することにより、様々な生理学的状況において細胞周期の停止を引き起こす(Sieleckiら,2000年,J.Med.Chem.第43巻:1〜18頁、及びその中の参考文献を参照)。CDK阻害剤には2つのファミリーが存在する。Cip/Kipとして知られる1つ目のファミリーには、p21Waf1/Cip1/Sdi1,p27Kip1及びp57Kip2が含まれる。2つ目のファミリーであるInk4には、p16Ink4A,p15Ink4b,p18Ink4c及びp19Ink4dが含まれる。特定のCDK阻害剤の発現は、様々な因子によって活性化される。例えば、接触阻害はp27及びp16発現を誘導し(Dietrichら,1997年,Oncogene 第15巻:2743〜2747頁)、TGFαなどの細胞外抗分裂促進因子はp15発現を誘導し(Reynisdottirら,1995年,Genes Dev.第9巻:1831〜1845頁)、血清欠乏はp27発現を誘導し(Polyakら,1994年,Genes Dev.第8巻:9〜22頁)、紫外線照射はp16発現を誘導する(Wangら,1996年,Cancer Res.第56巻:2510〜2514頁)。さらに、上述のすべての処理は、様々な形態のDNA損傷とともに、既知のCDK阻害剤の中でも最も多面発現性のあるp21の発現を誘導する(Dotto,2000年,BBA Rev.Cancer 第1471巻:M43−M56)。
【0005】
本発明の分野で特に重要なことは、CDK阻害剤のうちp21とp16の2つが、哺乳動物細胞における老化の進行に密接に関与しているということである。複製老化(Alcortaら、1996年,Proc.Natl,Acad.Sci.USA 第93巻:13742〜13747頁)、及び損傷によって誘導され加速される老化(Robles&Adami,1998年,Oncogene 第16巻:1113〜1123頁)の開始時には、p21誘導によって細胞の増殖が停止する。しかしながら、このp21発現の急増は一時的なものであり、次にp16の安定した活性化が起こり、このことが老化細胞における増殖停止の維持を担っていると考えられる。p21のノックアウト(Brownら,1997年,Science、第277巻:831〜834頁)またはp16のノックアウト(Serranoら,1996年,Cell 第85巻:27〜37頁)により、老化の開始が遅延または阻害される。さらに、p21またはp16のいずれかの異所性過剰発現は、正常細胞及び腫瘍細胞の両方において老化の表現型マーカーを伴う増殖停止を誘導する(Vogtら,1998年,Cell Growth Differ.第9巻、139〜146頁;McConnellら,1998年,Curr.Biol.第8巻:351〜354頁;Fangら,1999年,Oncogene 第18巻:2789〜2797頁)。
【0006】
p21は、CDKと結合してこれを阻害する蛋白質として(Harperら,1993年,Cell 第75巻:805〜816頁)、野生型p53によって上方制御される遺伝子として(el−Deiryら,1993年,Cancer Res.第55巻:2910〜2919頁)、及び老化線維芽細胞において過剰発現される増殖阻害遺伝子として(Nodaら,1994年,Exp.Cell.Res.第211巻:90〜98頁)、当該技術分野において別々に同定されている。p53によって制御される増殖の停止において極めて重要な役割を有することから、p21は通常は腫瘍サプレッサーと見なされている。それにもかかわらず、ヒトの癌においてp21変異が見られることは稀であり(Hall&Peters,1996年、Adv.Cancer Res.第68巻:67〜108頁)、p21ノックアウトマウスは正常に発育し、腫瘍形成速度の増加を見せることはない(Dengら、1995年,Cell 第82巻、675〜684頁)。
【0007】
p21の細胞レベルは、DNA損傷剤や分化剤を含む様々な刺激に反応して増大する。これらの反応のいくつかは、p53によるp21遺伝子の転写活性化を介するが、p21は様々なp53非依存性因子によっても制御される(GartelとTyner,1999年、Exp.Cell Res. 第227巻:171〜181頁に概説されている)。
【0008】
p21の一過性誘導は、細胞によるDNA損傷の修復を可能にする一過性停止、ならびに、DNA損傷または発癌性RAS(Serranoら,1997年,Cell 第88巻:593〜602頁)によって正常な線維芽細胞(DiLeonardoら,1994年,Genes Develop.第8巻:2540〜2551頁;Robles&Adami,1998年,Oncogene 第16巻:1113〜1123頁)及び腫瘍細胞(Changら,l999年,Cancer Res.第59巻:3761〜3767頁)において誘導される永久的増殖停止(「加速された老化」とも呼ばれる)を含む様々な形の損傷誘導性増殖停止を媒介する。p21発現の急増は、老化線維芽細胞の複製老化の間の最終増殖停止(Nodaら、1994年,同書中;Alcortaら,1996年,Proc.Natl.Acad.Sci USA 第93巻:13742〜13747頁;Steinら,1999年,Mol.Cell.Biol.第19巻:2109〜2117頁)ならびに有糸分裂後細胞の最終分化(El−Deiryら,1995年,同書中;Gartelら,1996年,Exp.Cell Res.第246巻:280〜289頁)の開始と同時にも起こる。
【0009】
p21自体は転写因子ではないものの、細胞遺伝子発現に対して、細胞機能における役割を果たしうるという間接的な効果を有している(Dotto,2000年,BBA Rev.Cancer 第1471巻:M43〜M56及びその中の参考文献)。p21によるCDK阻害の結果の1つにRbの脱リン酸化があり、この脱リン酸化により、DNA複製及び細胞周期の進行に関与する多くの遺伝子を制御するE2F転写因子が阻害される(Nevins,1998年,Cell Growth Differ.第9巻:585〜593頁)。p21発現細胞(p21+/+)とp21非発現細胞(p21−/−)との比較から、p21が細胞周期進行に関与するいくつかの遺伝子の照射誘導性阻害に関係していると見なされてきた(de Toledoら,1998年,Cell Growth Differ.第9巻:887〜896頁)。p21によるCDK阻害の別の結果としては、NFκBを含む多くの誘導可能な転写因子を増強する、転写補因子ヒストンアセチルトランスフェラーゼp300の刺激があげられる(Perkinsら,1988年,Science 第275巻:523〜527頁)。p300の活性化は、遺伝子発現に対して多面発現的な効果を有し得る(Snowden&Perkins,l988年,Biochem.Pharmacol.第55巻:1947〜1954頁)。p21は、CDK以外の多くの転写調節因子及び補調節因子、例えばJNKキナーゼ類、アポトーシスシグナル調節キナーゼ1、Myc等との相互作用を介して遺伝子発現に影響を及ぼし得る(Dotto,2000年,BBA Rev.Cancer 1471:M43−M56)。上記相互作用は、対応する経路によって制御される遺伝子の発現に影響を及ぼし得る。
【0010】
本発明に特に関係する別のCDK阻害剤としては、Serranoらによって記載されているヒトの蛋白質であるp16INK4Aがあげられる(1993年,Nature 366巻:704〜707頁)。上述のように、p16は哺乳動物細胞における老化に不可欠な調節因子である。これは真正(bona fide)腫瘍サプレッサーであるとともに、ヒト癌において最もよく変異する遺伝子の1つである(Hall&Peters,1996年,Adv.Cancer.Res.第68巻:67〜108頁)。p16はCDK4及びCDK6を直接的に阻害することが知られており、CDK2もまた同様に間接的に阻害し得る(McConnellら,1999年,Molec.Cell.Biol.第19巻:198l〜1989頁)。
【0011】
本発明に特に関連する別のCDK阻害剤として、p27Kip1があげられる。p27は当初、TGF−βまたはロバスタチンとの接触阻害によって増殖が停止された細胞内において、CDK2の阻害剤として同定された(Hengstら、1994年,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第91巻:5291〜5295頁;Polyakら,1994年,Cell 第78巻:59〜66頁)。p27は、分化、血清欠乏、浮遊状態での増殖、及び他の因子に応答して、細胞増殖停止を媒介する。ヒト癌におけるp27発現のレベルは、正常な組織と比較して、頻繁に変化(増加および減少の両方)する(Philipp−Staheliら,2001年,Exp.Cell Res.第264巻:148〜161頁)。p27は、老化をもたらす経路の1つにおいて、腫瘍サプレッサーPTENと協働作用することが示唆されてきた(BringoldとSerrano,2000年,Exp.Gerontol.第35巻:317〜329頁)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本技術分野においては、p21、p16またはp27などのCDK阻害剤遺伝子の誘導によって発現が制御される遺伝子を同定する必要性が残されている。本技術分野においては、細胞老化、発癌、及び老化に関連する疾病に対する化合物の効果を調べるためのターゲットを開発する必要性もある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の概要)
本発明はCDK阻害剤遺伝子発現の誘導によって発現が制御される遺伝子を同定するための試薬及び方法を提供する。本発明は、発癌や老化関連疾病などの細胞老化の病原性結果を防止するための合理的ドラッグデザインにおける第1段階として、細胞遺伝子発現に対するp21、p27及びp16などのCDK阻害剤の効果を阻害する化合物を同定するための試薬及び方法も提供する。
【0014】
第1の態様において、本発明は誘導可能なCDK阻害剤遺伝子を含む哺乳動物細胞を提供する。好ましい実施形態において、CDK阻害剤遺伝子はp21、p16またはp27をコードする。好ましい実施形態において、哺乳動物細胞は、誘導可能なp21遺伝子または誘導可能なp16遺伝子または誘導可能はp27遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含んでいる。より好ましくは、前記構築物は、誘導可能なプロモーターの転写制御下にある、p21、最も好ましくはヒトp21をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。代替実施形態において、本構築物は、CDK結合ドメインを含む、より好ましくはp21のアミノ酸配列の1〜78のアミノ酸を含むアミノ末端部分をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。さらなる実施形態において、本構築物は、誘導可能なプロモーターの転写制御下にある、p16、最も好ましくはヒトp16をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。さらなる実施形態において、本構築物は、誘導可能なプロモーターの転写制御下にある、p27、好ましくはヒトp27またはマウスp27をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。好ましい実施形態において、上記のような構築物内の誘導可能なプロモーターの誘導は、誘導可能なプロモーターから転写を誘導する、誘導剤、最も好ましくは生理学的に中立の誘導剤に細胞を接触させること、あるいは上記プロモーターからの転写を阻害する物質を除去することによって行うことができる。好ましい細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞があげられる。特に好ましい実施形態においては、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。
【0015】
本発明の第1の態様の他の実施形態において、組み換え発現構築物を含む組み換え哺乳動物細胞が提供され、この組み換え発現構築物においては、レポーター遺伝子が、CDK阻害剤、最も好ましくはp21、p16またはp27によって発現が調節される細胞遺伝子から取り出したプロモーターの転写制御下におかれている。好ましい実施形態において、プロモーターはp21、p16またはp27などのCDK阻害剤によって発現が誘導される細胞遺伝子から得られる。上記の実施形態において、プロモーターは最も好ましくは表II内に示される遺伝子に由来するものであるが、当業者であればCDK阻害剤によって発現が誘導される遺伝子であればどんな遺伝子に由来するプロモーターでも上記構築物において有益に使用できることを認識するであろう。最も好ましくは、プロモーターは、血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、結合組織増殖因子(配列番号:3)、インテグリンβ−3(配列番号:4)、アクチビンA(配列番号:5)、ナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、プロサポシン(配列番号:7)、Mac2結合蛋白質(配列番号:8)、ガレクチン−3(配列番号:9)、スーパーオキシドジスムターゼ2(配列番号:10)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、p66shc(配列番号:12)、カテプシンB(配列番号:14)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)から得られる。本発明の組み換え発現構築物を含む好ましいレポーター遺伝子としては、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光蛋白質またはアルカリホスファターゼが挙げられる。
【0016】
さらなる好ましい実施形態において、本発明は、CDK阻害剤、最も好ましくはp21、p16またはp27によってその発現が調節される哺乳動物遺伝子に対するプロモーターの転写制御下にある、レポーター遺伝子をコードする第1の組み換え発現構築物と、哺乳動物のCDK阻害剤遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物とを含む哺乳動物細胞を提供し、この哺乳動物細胞において、CDK阻害剤の発現は哺乳動物細胞内で実験的に誘導される。好ましい実施形態において、CDK阻害剤遺伝子はp21、p16またはp27である。好ましい実施形態において、哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする組み換え発現構築物は、誘導可能な異種プロモーターの転写制御下にあり、組み換え発現構築物からのCDK阻害剤の発現は、組み換え細胞を、誘導可能なプロモーターからの転写を誘導する誘導剤に接触させることにより媒介されるか、あるいは、そのようなプロモーターからの転写を阻害する物質を除去することにより媒介される。好ましくは、前記構築物は、p21、最も好ましくはヒトp21をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。他の実施形態において、前記構築物は、CDK結合ドメインを含む、より好ましくはp21のアミノ酸配列の1〜78のアミノ酸を含むアミノ末端部分をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。代替の好ましい実施形態において、前記構築物は、p16、最も好ましくはヒトp16をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。代替の好ましい実施形態において、前記構築物は、p27、好ましくはヒトp27またはマウスp27をコードするヌクレオチド配列を含んでいる。レポーター遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物の好ましい実施形態において、プロモーターは、p21、p16またはp27などのCDK阻害剤によって発現が制御される細胞遺伝子に由来する。これらの実施形態において、プロモーターは最も好ましくは表IIに示された遺伝子に由来する。本発明の第2の組み換え発現構築物を含む好ましいレポーター遺伝子としては、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光蛋白質またはアルカリホスファターゼが挙げられる。特に好ましい実施形態においては、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。レポーター遺伝子またはCDK阻害剤によって誘導される内在性遺伝子の産物は、免疫学的試薬を用いて、遺伝子産物の活性をアッセイすることによって検出されるか、または相補的核酸へのハイブリダイゼーションによって検出されることが好ましい。
【0017】
第2の態様において、本発明は、哺乳動物細胞における分裂促進因子または抗アポトーシス因子のCDK阻害剤誘導性発現を阻害する化合物を同定するためのスクリーニング方法を提供する。好ましい実施形態において、本方法は、化合物の存在下または非存在下の細胞において、CDK阻害剤、最も好ましくはp21、p16またはp27の発現を誘導する工程と、馴化培地中で分裂促進因子または抗アポトーシス化合物、またはそれらの複数の物質の発現を比較する工程とを含む。CDK阻害剤の阻害剤効果は、馴化培地中で当該化合物の非存在下よりも存在下での方が分裂促進因子または抗アポトーシス化合物またはそれらの複数の物質の量が少なくなっていることによって確認する。本発明の本態様において提供される方法において、あらゆるCDK阻害剤発現細胞が有用であるが、p21、p16またはp27を発現する細胞が最も好ましく、そのような細胞内でのp21、p16またはp27の発現は、内在性p21,p16またはp27を誘導するか、あるいは、本発明のp21、p16またはp27をコードする誘導可能な発現構築物を含む細胞を用いることによって達成することができる。好ましい細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞が挙げられる。特に好ましい実施形態においては、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。分裂促進因子または抗アポトーシス化合物の発現は、免疫学的試薬を用いて、遺伝子産物の活性をアッセイすることによって検出されるか、または相補的核酸へのハイブリダイゼーションによって検出される。
【0018】
代替実施形態において、本発明は、哺乳動物細胞において分裂促進因子または抗アポトーシス因子のCDK阻害剤誘導性発現を阻害する化合物を同定するための方法を提供し、この哺乳動物細胞は、p21、p16またはp27などのCDK阻害剤によって誘導される分裂促進因子または抗アポトーシス因子をコードする細胞遺伝子のプロモーターの転写制御下にある、レポーター遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含んでいる。好ましい実施形態において、プロモーターとしては、結合組織増殖因子(CTGF;配列番号:3)、アクチビンA(配列番号:5)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、ガレクチン−3(配列番号:9)、プロサポシン(配列番号:7)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)に対するプロモーターが挙げられる。好ましいレポーター遺伝子としては、特に限定されないが、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、及び緑色蛍光蛋白質が挙げられる。これらの実施形態において、レポーター遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導の阻害を用いて、CDK阻害剤発現細胞における分裂促進因子または抗アポトーシス因子の誘導を阻害する化合物を同定する。
【0019】
この態様において、本発明は、哺乳動物細胞において、分裂促進因子もしくは化合物または抗アポトーシス因子もしくは化合物の産生を阻害するための方法であって、分裂促進因子または抗アポトーシス因子に細胞を接触させる工程を含む方法を提供し、この方法において、上記化合物は本発明の本態様の前述の方法によって同定される。好ましい実施形態において、分裂促進因子または抗アポトーシス因子の産生が阻害されている、阻害性化合物と接触された哺乳動物細胞は線維芽細胞であり、最も好ましくは間質線維芽細胞である。好ましい実施形態において、上記化合物は核因子κ−B(NFκB)の活性または発現の阻害剤である。
【0020】
第3の態様において、本発明は、細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害する化合物を同定するための方法を提供する。これらの方法は、哺乳動物細胞内でCDK阻害剤遺伝子の発現を誘導もしくは生み出す工程と、CDK阻害剤によって発現が誘導される細胞遺伝子の発現に変化をもたらすための化合物の存在下で細胞をアッセイする工程と、当該化合物の非存在下よりも当該化合物の存在下での方が細胞遺伝子発現の変化の度合いが少ない場合に、細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害する化合物を同定する工程とを含む。好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましい実施形態において、細胞遺伝子はCDK阻害剤によって誘導され、細胞遺伝子発現の誘導を阻害する化合物は、CDK阻害剤を当該化合物の非存在下で発現させた場合に検出されるよりも低いレベルで遺伝子が発現していることを検出することにより検出される。本発明の方法の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましい実施形態において、上記遺伝子は表IIに示されている。さらなる代替実施形態において、本方法は、CDK阻害剤によって発現が誘導される遺伝子から得られるプロモーターの転写制御下、レポーター遺伝子を含む組み換え哺乳動物細胞を用いて実施される。CDK阻害剤によって誘導される遺伝子に由来するプロモーターを含む構築物を用いる場合、化合物がCDK阻害剤媒介性遺伝子発現制御を阻害もしくは妨害する時には、レポーター遺伝子産物は当該化合物の非存在下よりも存在下での方が低いレベルで産生される。本発明方法の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。これらの実施形態において、プロモーターは最も好ましくは、表IIに示される遺伝子に由来する。最も好ましくは、プロモーターは、血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、結合組織増殖因子(配列番号:3)、インテグリンβ−3(配列番号:4)、アクチビンA(配列番号:5)、ナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、プロサポシン(配列番号:7)、Mac2結合蛋白質(配列番号:8)、ガレクチン−3(配列番号:9)、スーパーオキシドジスムターゼ2(配列番号:10)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、p66shc(配列番号:12)、カテプシンB(配列番号:14)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)から得られる。本発明の組み換え発現構築物を含む好ましいレポーター遺伝子としては、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光蛋白質またはアルカリホスファターゼが挙げられる。他の好ましい実施形態において、細胞は、CDK阻害剤によって発現が制御される哺乳動物遺伝子に対するプロモーターの転写制御下にある、レポーター遺伝子をコードする第1の組み換え発現構築物と、哺乳動物のCDK阻害剤遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物とを含み、CDK阻害剤の発現は哺乳動物細胞内で実験的に誘導される。レポーター遺伝子またはCDK阻害剤によって誘導される内在性遺伝子の産物は、免疫学的試薬を用いて、遺伝子産物の活性をアッセイすることによって検出されるか、相補的核酸へのハイブリダイゼーションによって検出されることが好ましい。
【0021】
第4の態様において、本発明は、哺乳動物細胞における老化の病原性結果を阻害する化合物を同定するための方法を提供し、この方法において、この病原性結果は少なくとも部分的に、CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の発現によって媒介される。これらの方法は、化合物の存在下で哺乳動物細胞を試薬で処理するか、CDK阻害剤遺伝子発現を誘導する条件下で哺乳動物細胞を培養する工程と、CDK阻害剤によって誘導された遺伝子の誘導について哺乳動物細胞をアッセイする工程と、CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の発現が化合物の非存在下よりも化合物の存在下に誘導の程度が小さい場合に、当該化合物を老化または老化の病原性結果の阻害剤と同定する工程とを含む。本発明の方法の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましい実施形態において、遺伝子は表IIに示されている。さらなる代替実施形態において、本方法は、CDK阻害剤によって発現が調節される遺伝子に由来するプロモーターの転写制御下にあるレポーター遺伝子を含む組み換え哺乳動物細胞を用いて実施される。これらの実施形態において、CDK阻害剤によって誘導される遺伝子に由来するプロモーターを含む構築物を用いて、化合物の非存在下よりも存在下でのほうがレポーター遺伝子の産物が低いレベルで産生されることは、当該化合物が細胞老化の病原性結果の阻害剤である場合に検出される。本発明方法の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。プロモーターは好ましくは、表IIに示される遺伝子に由来する。プロモーターは最も好ましくは、血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、結合組織増殖因子(配列番号:3)、インテグリンβ−3(配列番号:4)、アクチビンA(配列番号:5)、ナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、プロサポシン(配列番号:7)、Mac2結合蛋白質(配列番号:8)、ガレクチン−3(配列番号:9)、スーパーオキシドジスムターゼ2(配列番号:10)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、p66shc(配列番号:12)、カテプシンB(配列番号:14)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)に由来する。他の好ましい実施形態において、細胞は、CDK阻害剤によって発現が制御される哺乳動物遺伝子に対するプロモーターの転写制御下にある、レポーター遺伝子をコードする第1の組み換え発現構築物と、哺乳動物のCDK阻害剤遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物とを含み、CDK阻害剤の発現は哺乳動物細胞内で実験的に誘導される。本発明の方法の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。特に好ましい実施形態においては、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。レポーター遺伝子またはCDK阻害剤によって誘導される内在性遺伝子の産物は、免疫学的試薬を用いて、遺伝子産物の活性をアッセイすることによって検出されるか、相補的核酸へのハイブリダイゼーションによって検出されることが好ましい。
【0022】
第5の態様において、本発明は、発癌または老化関連疾病などの細胞老化の病原性結果を阻害するための方法を提供し、本方法は、細胞を、本発明の上記態様において提供される方法を用いて判定される老化または老化の病原性結果を防止する化合物と接触させる工程を含む。
【0023】
第6の態様において、本発明は本明細書に開示される本発明の方法のいずれかを用いて同定される化合物を提供する。
【0024】
第7の態様において、本発明はCDK阻害剤による遺伝子発現の誘導を阻害または防止するための方法を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、細胞を、CDK阻害剤による遺伝子発現の誘導を阻害または防止する化合物を同定するための新奇の方法によって同定される化合物と接触させる工程を含む。好ましい実施形態において有効量の化合物が、薬学的に許容される担体または他の薬剤を用いて医薬組成物中に調合され、動物、最も好ましくはCDK阻害剤誘導性遺伝子発現によって引き起こされる疾病に罹った動物に投与される。好ましい実施形態において、疾病は、癌、アルツハイマー病、腎臓病、関節炎、またはアテローム性動脈硬化症である。好ましい実施形態において、本方法はNFκB阻害剤である化合物を利用する。
【0025】
本発明の具体的な好ましい実施形態については、以下の特定の実施形態のより詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(好ましい実施例の詳細な説明)
本発明は、CDK阻害剤誘導性細胞老化及び老化の病原性結果の媒介に関与する遺伝子を同定するための試薬及び方法、ならびに、哺乳動物細胞内において老化及び老化の病原性結果を阻害することのできる化合物を提供する。とりわけ、細胞老化に関与し、CDK阻害剤p21,p27またはp16によって誘導される遺伝子を同定するための試薬及び方法の実施形態が提供される。
【0027】
本発明の目的のために、用語「CDK阻害剤」は、サイクリン依存性キナーゼ阻害の生化学的活性を有する哺乳動物遺伝子のファミリーのメンバーを包含するものとする。この定義内に明白に含まれるものとしては、CDK阻害剤p15、p14、p18、また特にp21、p16またはp27が挙げられ、後の3つは本発明の試薬及び方法の特に好ましい実施形態である。
【0028】
本発明の目的のために、「細胞(単数)」または「細胞(複数)」は同義であるものとし、特に、当技術分野において知られているように培養され維持された哺乳動物細胞のインビトロ培養物を包含するものとする。
【0029】
本発明の目的のために、「細胞遺伝子」を複数形で記載する場合、これは2つ以上の遺伝子のみならず単一の遺伝子も包含するものとする。細胞遺伝子発現の調節の影響、または、細胞遺伝子に由来するプロモーターの転写制御下にあるレポーター構築物が、第1の遺伝子において検出され、その影響を第2の遺伝子もしくはレポーター遺伝子構築物または任意の数のさらなる遺伝子もしくはレポーター遺伝子構築物を試験することにより再現することができることは、当業者によって理解されるであろう。あるいは、2つまたはそれ以上の遺伝子またはレポーター遺伝子構築物の発現を本発明の範囲内において同時にアッセイすることができる。
【0030】
本明細書において、「馴化培地」という用語は、分裂促進因子または抗アポトーシス因子を含むCDK阻害剤発現細胞の増殖によって馴化された細胞培養培地を包含するものとする。馴化培地は、哺乳動物細胞培養培地中で、最も好ましくは血清添加剤を含まない合成培地中でCDK阻害剤発現細胞を培養することにより、好ましい実施形態において作製される。任意のCDK阻害剤発現細胞を上記馴化培地の生産に有用に用いることができ、そのような細胞内でのCDK阻害剤発現は内在性CDK阻害剤を誘導することによって(たとえばDNA損傷剤による処理、電離放射線照射もしくは紫外線照射、または接触阻害)、あるいは、本発明による誘導可能なCDK阻害剤発現構築物を含む細胞を用いて、生理学的に中立な誘導剤中で細胞を培養することによって達成することができる。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましい細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞があげられる。特に好ましい実施形態においては、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。
【0031】
本発明の目的にために、「老化」という用語は、正常細胞の増殖寿命の最後に起こるか、あるいは細胞毒性薬物、DNA損傷もしくは他の細胞傷害に応答して正常細胞または腫瘍細胞内で起こるような、増殖因子によって回復されないDNA複製及び細胞増殖の永久的中止を含むものと理解される。
【0032】
老化は、哺乳動物細胞内で多数の方法で誘導することができる。1つめは、インビボまたはインビトロのいずれかにおける正常な細胞の増殖の正常な結果である。正常な細胞が老化する前に経験する細胞分裂、継代、世代の数は限られている。正確な数は、細胞の型と起源の種類によって異なる(HayflickとMoorhead、1961年、Exp.Cell Res.第25巻:585〜621頁)。任意の細胞型において老化を誘導するための別の方法としては、殆どの抗癌剤、照射、及び細胞分化剤などの細胞毒性薬剤での処理がある。Changら、1999年,Cancer Res.第59巻:3761〜3767頁を参照のこと。老化は、当該細胞内に腫瘍サプレッサー遺伝子を形質導入することによりあらゆる哺乳動物細胞(p53、p21、p16またはRb等)において即座に誘導することができる。Sugrueら、1997年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第94巻:9648〜9653頁;Uhrbomら、1997年、Oncogene 第15巻:505〜514頁;Xuら、1997年、Oncogene 第15巻:2589〜2596頁;Vogtら、1998年、Cell Growth Differ.第9巻:139〜146頁を参照のこと。
【0033】
本発明の目的のために、「老化の病原性結果」という用語は、癌、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、アミロイドーシス、腎臓病、及び関節炎などの疾病を包含するものとする。
【0034】
本発明の試薬には、CDK阻害剤遺伝子、最も好ましくはp21、p16またはp27の発現を誘導することのできる、任意の哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウス細胞及び最も好ましくはヒト細胞が含まれ、そのような遺伝子は遺伝子工学によって導入された内在性遺伝子または外来性遺伝子のいずれかである。本実施例では、誘導可能なp21、p27及びp16遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含む組み換え哺乳動物細胞を開示しているが、これらの実施形態は実験上の設計の選択と便宜の問題にすぎず、本発明はp21、p27またはp16などの内在性CDK阻害剤遺伝子の誘導も完全に包含するものと理解されたい。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明は、誘導可能な哺乳動物p21遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含む哺乳動物細胞を提供する。好ましい実施形態において、p21遺伝子は、引用により本願に組み込まれる米国特許第5,424,400号に記載のヌクレオチド及びアミノ酸配列を有するヒトp21である。代替実施形態において、p21遺伝子は、好ましくは(参照により本願に組み込まれる米国特許第5,807,692号に開示されるように)天然のヒトp21蛋白質のアミノ酸残基1〜78を含み、より好ましくは天然のヒトp21蛋白質のアミノ酸21〜71からなるCDK結合ドメインを含む(Nakanishiら、1995年、EMBO J.第14巻:555〜563頁)ヒトp21遺伝子のアミノ末端部分である。好ましい宿主細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞があげられる。特に好ましい実施形態は、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。最も好ましい細胞系列は、2000年4月6日にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号PTA1664として寄託された、HT1080 p21−9として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。
【0036】
代替の好ましい実施形態において、本発明は誘導可能な哺乳動物p16遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含む哺乳動物細胞を提供する。好ましい実施形態において、p16遺伝子は、NCBI RefSeq NM_000077及びNP_000068に記載されるヌクレオチド及びアミノ酸配列を有するヒトp16である。好ましい宿主細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞があげられる。特に好ましい実施形態は、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。最も好ましい細胞系列は、2002年1月31日にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号_______として寄託された、HT1080 p16−5として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。
【0037】
代替の好ましい実施形態において、本発明は誘導可能な哺乳動物p27遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含む哺乳動物細胞を提供する。好ましい実施形態において、p27遺伝子は、NCBI RefSeq NM_004064及びNP 004055に記載されるヌクレオチド及びアミノ酸配列を有するヒトp27またはNCBI RefSeq NM_009875及びNP 034005に記載されるヌクレオチド及びアミノ酸配列を有するマウスp16である。好ましい宿主細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞があげられる。特に好ましい実施形態は、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。最も好ましい細胞系列は、2002年1月31日にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号_______として寄託された、HT1080 p27−2として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。
【0038】
組み換え発現構築物は、当業者によって理解されるように適当な哺乳動物細胞内へ導入することができる。前記構築物の好ましい実施形態は、当技術分野において知られているように、伝達性ベクター、より好ましくはウィルスベクター、最も好ましくはレトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ関連ウィルスベクター、及びワクシニアウィルスベクターにおいて産生される。一般的には、MOLECULAR VIROLOGY:A PRACTICAL APPROACH、(DavisonとElliott編)、オックスフォード大学出版局:ニューヨーク、1993年を参照のこと。
【0039】
さらなる好ましい実施形態において、本発明の組み換え細胞は、誘導可能なCDK阻害剤遺伝子をコードする構築物を含んでおり、この遺伝子は誘導可能なプロモーターの転写制御下にある。より好ましい実施形態において、誘導可能なプロモーターは、誘導剤によって効果の調節が可能なトランス作用因子に対して反応性である。この誘導剤は、温度及び最も好ましくは誘導剤の有無などを含む、実験的に操作されることのできるいかなる因子であってもよい。好ましくは、誘導剤は化学的化合物、最も好ましくはトランス作用因子に特異的な生理学的に中立の化合物である。本願に開示されるような誘導可能なプロモーターを含む構築物の使用時には、組み換え発現構築物からのCDK阻害剤の発現は、組み換え細胞を、誘導可能なプロモーターからの転写を誘導する誘導剤と接触させることによって媒介されるか、あるいはそのようなプロモーターからの転写を阻害する物質を除去することによって媒介される。本発明方法の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p27またはp16である。細胞培養の温度を上昇させることによって活性化することができる熱ショックプロモーター、ならびに、より好ましくはtetプロモーターとその同起源のtetリプレッサーなどのプロモーター/因子対、及びその哺乳動物転写因子との融合物(米国特許第5,654,168号,第5,851,796号、及び第5,968,773号に開示されるような)、ならびにラクトースオペロンの細菌lacプロモーターとその同起源のlacリプレッサー蛋白質を含む、様々な誘導可能なプロモーター及び同起源のトランス作用因子が先行技術において知られている。好ましい実施形態において、組み換え細胞は、lacIリプレッサー蛋白質と、1つまたは複数のlac応答要素を含むプロモーターの制御下にあるヒトp21をコードする組み換え発現構築物とを発現し、p21の発現は、細胞を生理学的に中立な誘導剤であるイソプロピルチオ−β−ガラクトシドと接触させることにより誘導することができる。この好ましい実施形態において、lacIリプレッサーは、3’SS(Stratagene,カリフォルニア州ラホーヤから市販)として識別される組み換え発現構築物によってコードされる。代替の好ましい実施形態において、組み換え細胞はlacIリプレッサー蛋白質と、1つまたは複数のlac応答要素を含むプロモーターの制御下にあるヒトp16をコードする組み換え発現構築物とを発現し、p16の発現は、細胞を生理学的に中立な誘導剤であるイソプロピルチオ−β−ガラクトシドと接触させることにより誘導することができる。lacIリプレッサーは、3’SS組み換え発現構築物(Stratagene)によってコードされる。代替の好ましい実施形態において、組み換え細胞はlacIリプレッサー蛋白質と、1つまたは複数のlac応答要素を含むプロモーターの制御下にあるヒトp27をコードする組み換え発現構築物とを発現し、p27の発現は、細胞を生理学的に中立な誘導剤であるイソプロピルチオ−β−ガラクトシドと接触させることにより誘導することができる。lacIリプレッサーは、3’SS組み換え発現構築物(Stratagene)によってコードされる。
【0040】
本発明は、レポーター遺伝子がp21、p16またはp27などのCDK阻害剤によって発現が調節されるプロモーターの転写制御下にある、組み換え発現構築物も提供する。これらは、CDK阻害剤によって発現が誘導される遺伝子を含む。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましい実施形態において、プロモーターはCDK阻害剤発現によって発現が誘導または増大される遺伝子に由来し、これらのプロモーターは表IIに示されている。最も好ましくは、プロモーターは血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、結合組織増殖因子(配列番号:3)、インテグリンβ−3(配列番号:4)、アクチビンA(配列番号:5)、ナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、プロサポシン(配列番号:7)、Mac2結合蛋白質(配列番号:8)、ガレクチン−3(配列番号:9)、スーパーオキシドジスムターゼ2(配列番号:10)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、p66shc(配列番号:12)、カテプシンB(配列番号:14)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)から得られる。これらのレポーター遺伝子は、CDK阻害剤遺伝子発現の効果に対する感受性が高く便利な指示薬として用いられ、哺乳動物細胞内でCDK阻害剤発現の効果を阻害する化合物を容易に同定することを可能にする。これらの構築物に対する宿主細胞としては、細胞内でCDK阻害剤遺伝子発現の誘導が可能であればどのような細胞でもよいが、上述のような誘導可能なCDK阻害剤遺伝子を含む組み換え発現構築物も含んだ細胞が好ましい。本発明の本態様の実施において有用なレポーター遺伝子としては、特に限定されないが、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光蛋白質またはアルカリホスファターゼが挙げられる。特に好ましい実施形態は、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。最も好ましい細胞系列は、2001年5月17日にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号PTA−3381として寄託された、HT1080/LUNK4p21として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。
【0041】
好ましい実施形態において、本発明による細胞は、CDK阻害剤によって発現が調節される哺乳動物遺伝子に対するプロモーターの転写制御下にあるレポーター遺伝子をコードする第1の組み換え発現構築物と、哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物との両方を含み、これによりCDK阻害剤の発現は哺乳動物細胞内において実験的に誘導可能である。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。代替実施形態において、本発明は、CDK阻害剤によって発現が調節される哺乳動物遺伝子に対するプロモーターの転写制御下にあるレポーター遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含む哺乳動物細胞を提供し、プロモーターは、血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、結合組織増殖因子(配列番号:3)、インテグリンβ−3(配列番号:4)、アクチビンA(配列番号:5)、ナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、プロサポシン(配列番号:7)、Mac2結合蛋白質(配列番号:8)、ガレクチン−3(配列番号:9)、スーパーオキシドジスムターゼ2(配列番号:10)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、p66shc(配列番号:12)、カテプシンB(配列番号:14)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)をコードする遺伝子から得られる。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。
【0042】
本発明は、哺乳動物細胞における分裂促進因子または抗アポトーシス因子のCDK阻害剤誘導性発現を阻害する化合物を同定するためのスクリーニング方法を提供する。好ましい実施形態において、分裂促進因子または抗アポトーシス因子のCDK阻害剤誘導性発現の阻害剤であることを同定しようとしている化合物の存在下または非存在下、哺乳動物細胞培養内でCDK阻害剤発現が誘導される。化合物は、細胞内でCDK阻害剤の発現を誘導し、分裂促進因子もしくは抗アポトーシス因子またはそれらの複数の因子の発現の程度をこの化合物の存在下と非存在下とにおいて比較することにより阻害剤として同定され、そして、阻害剤は、この化合物の存在下において分裂促進因子もしくは抗アポトーシス因子またはそれらの複数の因子の発現の量が減っている場合の化合物として同定される。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。上記馴化培地を作成するためにはあらゆるCDK阻害剤発現細胞が有用であり、そのような細胞内でのCDK阻害剤発現は、内在性CDK阻害剤を(DNA損傷剤や他の細胞毒性化合物での処理、電離放射線照射もしくは紫外線照射、または接触阻害などにより)誘導することにより、あるいは本発明による誘導可能なCDK阻害剤発現構築物を含む細胞を用いて、この細胞を生理学的に中立な誘導剤中で培養することによって達成される。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましい細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞があげられる。特に好ましい実施形態は、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。本発明の特に好ましい実施形態に従う例示的細胞系列は、2000年4月6日にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号PTA1664として寄託された、HT1080 p21−9として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。例示的細胞集団は、2000年10月10日にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号PTA−2580として寄託された、HT1080/LNp16RO2として識別されるヒトHT1080線維肉腫類縁体である。本発明のこの特定の好ましい実施形態による他の例示的細胞系列は、___にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号____として寄託された、HT1080 p16−5として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。本発明のこの特定の好ましい実施形態による他の例示的細胞系列は、___にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号____として寄託された、HT1080 p27−2として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。
【0043】
代替実施形態において、本発明は、哺乳動物細胞において分裂促進因子または抗アポトーシス因子のCDK阻害剤誘導性発現を阻害する化合物を同定するための方法を提供し、この哺乳動物細胞は、CDK阻害剤によって誘導される分裂促進因子または抗アポトーシス因子をコードする細胞遺伝子のプロモーターの転写制御下、レポーター遺伝子をコードする組み換え発現構築物を含んでいる。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましいプロモーターとしては、結合組織増殖因子(CTGF;配列番号:3)、アクチビンA(配列番号:5)、エピテリン/グラニュリン(配列番号:11)、ガレクチン−3(配列番号:9)、プロサポシン(配列番号:7)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼの組織阻害剤(配列番号:20)に対するプロモーターが挙げられる。好ましいレポーター遺伝子としては、特に限定されないが、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、及び緑色蛍光蛋白質が挙げられ、これらすべては市販されている。これらの実施形態においては、細胞内でCDK阻害剤の発現が誘導され、レポーター遺伝子の発現の程度が、化合物が存在する場合と存在しない場合とで比較される。阻害剤は、当該化合物の非存在下よりも当該化合物の存在下での方がレポーター遺伝子の発現量が減るような化合物であるとみなされる。本発明の本態様においてはあらゆるCDK阻害剤発現細胞が有用であり、そのような細胞内でのCDK阻害剤発現は、内在性CDK阻害剤を(DNA損傷剤や他の細胞毒性化合物での処理、電離放射線照射もしくはUV照射、または接触阻害などにより)誘導することにより、あるいは本発明による誘導可能なCDK阻害剤発現構築物を含む細胞を用いて、この細胞を生理学的に中立な誘導剤中で培養することによって達成される。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。好ましい細胞としては、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、より好ましくはマウスまたはヒト細胞があげられる。特に好ましい実施形態は、線維肉腫細胞、より好ましくはヒト線維肉腫細胞、最も好ましくはヒトHT1080線維肉腫細胞系列の細胞及びその類縁体である。最も好ましい細胞系列は、2001年5月17日にAmerican Type Culture Collection(在米国バージニア州マナサス)に受託番号PTA―3381として寄託された、HT1080/LUNK4p21として識別されるHT1080線維肉腫細胞系列類縁体である。
【0044】
本発明は、細胞老化の病原性結果を阻害する化合物を同定するための方法を提供し、この方法により、化合物がCDK阻害剤によって発現が誘導される遺伝子の誘導を阻害するかどうかを判定することによって当該化合物の効果がアッセイされる。本発明の方法の実施にあたっては、CDK阻害剤を誘導することのできる培養哺乳動物細胞が、例えば電離放射線照射もしくは紫外線照射、または接触阻害処理、または細胞毒性薬剤による処理、あるいはCDK阻害剤をコードする伝達性ベクターによる形質導入により、阻害剤遺伝子を誘導するように処理される。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。より好ましくは、細胞をIPTGに接触させることによりp21を誘導することのできるHT1080 p21−9細胞(2000年4月6日に受託番号PTA1664として、American Type Culture Collection,在米国バージニア州マナサスに寄託)、または、IPTGによってp16を誘導することができるHT1080 p16−5細胞(2002年1月31日に受託番号____として、American Type Culture Collection,在米国バージニア州マナサスに寄託)、またはIPTGによってp27を誘導することのできるHT1080 p27−2細胞(2002年1月31日に受託番号____として、American Type Culture Collection,在米国バージニア州マナサスに寄託)が用いられる。典型的には、細胞は適当な培養培地(例えば、HT1080類縁体に対しては、10%ウシ胎仔血清(FCS)を添加したDMEM)中で培養される。HT1080 p21−9、HT1080 p16−5またはHT1080 p27−2細胞においては、CDK阻害剤遺伝子発現は、IPTGを約50μMの濃度で培養培地に添加することにより誘導される。典型的には、CDK阻害剤は、本発明の方法に従って試験される化合物の存在下または非存在下にて上記細胞内において誘導される。次にCDK阻害剤が誘導されている細胞からmRNAを単離し、CDK阻害剤によって調節されている遺伝子の発現を分析する。化合物の存在下でCDK阻害剤が誘導されている細胞における発現と、化合物の非存在下でCDK阻害剤が誘導されている細胞における発現とを比較し、この差異を用いて、本願に記載の方法に従って細胞遺伝子発現に影響を及ぼしている化合物を同定する。ある実施形態においては、細胞遺伝子発現は、(例えば、Genome Systems,Inc.,在ミズーリ州セントルイスから)市販されているようなオリゴヌクレオチドまたは細胞cDNAのマイクロアレイを用いて分析される。代替の実施形態において、CDK阻害剤によって誘導されることが知られている遺伝子をアッセイする。遺伝子発現は、CDK阻害剤によって調節される遺伝子の1つまたは複数について、細胞mRNAまたは蛋白質のいずれかを分析することによってアッセイすることができる。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤はp21、p16またはp27である。最も好ましくは、これらのアッセイに用いられる遺伝子は、表IIに示されている遺伝子である。
【0045】
代替実施形態において、そのような化合物は、CDK阻害剤指向性の実験的操作とは無関係に同定された。そのようなアッセイにおいて、細胞は、特に限定されないが、細胞毒性薬物による処理、照射もしくは細胞分化剤、または腫瘍サプレッサー遺伝子の導入を含む上記に開示した任意の方法で老化を誘導するように処理される。CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の発現を、試験化合物の存在下または非存在下において分析した。最も好ましくは、遺伝子発現分析のために上記で検討したmRNA及び蛋白質アッセイのタイプを用い、これらのアッセイでは表IIに示される遺伝子を用いる。
【0046】
代替実施形態において、CDK阻害剤が誘導される細胞は、CDK阻害剤によって誘導される細胞遺伝子のプロモーターの転写制御下にあるレポーター遺伝子をコードする組み換え発現構築物をさらに含む。本発明の本態様の好ましい実施形態において、CDK阻害剤は、p21、p16またはp27である。好ましい実施形態において、細胞遺伝子は、CDK阻害剤によって誘導される遺伝子であり、プロモーターは、表IIに示される遺伝子に由来するものである。そのような遺伝子に対するプロモータとしては、例えば、血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、結合組織増殖因子(配列番号:3)、インテグリンβ−3(配列番号:4)、アクチビンA(配列番号:5)、ナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、プロサポシン(配列番号:7)、Mac2結合蛋白質(配列番号:8)、ガレクチン−3(配列番号:9)、スーパーオキシドジスムターゼ2(配列番号:10)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、p66shc(配列番号:12)、カテプシンB(配列番号:14)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)が知られている。好ましいレポーター遺伝子としては、特に限定されないが、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、及び緑色蛍光蛋白質が挙げられ、これらすべては市販されている。
【0047】
本発明は、細胞老化及び老化の病原性結果に関連する遺伝子、またはCDK阻害剤によって誘導される細胞老化の作用を媒介する遺伝子を同定するための方法も提供する。CDK阻害剤の誘導は、老化、最終分化、及び細胞損傷に対する応答に伴う細胞増殖停止の不可欠な部分であることが分かっている。後述の実施例において記載するように、cDNAアレイハイブリダイゼーションからは、これらの効果が遺伝子発現におけるp21誘導性変化であることが示された。p21は細胞老化及び老化に関連するか、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、アミロイドーシス、腎臓病、及び関節炎を含む老化関連疾病に関与していた遺伝子を選択的に誘導した。これらの知見は、生物体内でのp21誘導の累積的効果が、癌及び老化関連疾病の病原性に寄与し得ることを示唆する。さらに、多数のp21によって活性化される遺伝子は、細胞増殖及びアポトーシスに対して潜在的なパラクリンを有する分泌蛋白質をコードしている。この見解と一致して、p21によって誘導される細胞からの馴化培地は分裂促進活性及び抗アポトーシス活性を示した。
【0048】
さらに、以下の実施例において示される結果からは、p16またはp27の誘導発現がp21遺伝子発現とよく似ていること、またp21遺伝子発現によって発現が調節される同様の遺伝子は、p16またはp27遺伝子発現によっても調節されることが実証された(図6を参照のこと)。したがって、本発明の方法は、内在性のp16またはp27遺伝子の誘導によって、あるいはp16またはp27をコードする誘導可能な発現構築物を含む組み換え細胞において、p16またはp27遺伝子発現が誘導される細胞も含むように拡張された。
【0049】
観察されたCDK阻害剤誘導、特に遺伝子発現に対するp21、p16及びp27誘導の効果は、細胞老化及び生物体の老化に伴う変化と多くの相関性を示した。これらの相関性のいくつかは、CDK阻害剤によって阻害される遺伝子の解析から得られる。老化線維芽細胞は、p21誘導時に観察されたように、低いレベルのRbを発現することが報告されている(Steinら、1999年、Mol.Cell.Biol.第19巻:2109〜2117頁)。また、CDK阻害剤によって阻害された3つの遺伝子CHL1、CDC21及びRAD54は、ヘリカーゼファミリーのメンバーをコードしていることも興味深い。ヘリカーゼ群の別の蛋白質における欠失が、早期老化に関連する臨床状態であるウェルナー症候群の原因であり、細胞レベルでは、培養物中の細胞の老化が加速されていることが確認されている(Grayら、1997年、Nature Genet.第17巻:100〜103頁)。
【0050】
しかしながら、老化の表現型との最も強い相関性は、CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の同定から得られ、その多くが複製老化または生物体老化の間にそのレベルを増加させることが知られている。細胞外基質(ECM)蛋白質の過剰発現は、複製老化のよく知られた顕著な特徴であり、このグループ内の2つのCDK阻害剤誘導性遺伝子である、フィブロネクチン1及びプラスミノーゲン活性化因子阻害剤1(PAI−1)が、細胞老化に頻繁に関与している(CrisofaloとPignolo、1996年、Exp.Gerontol.第31巻:111〜123頁に概説)。老化線維芽細胞内で過剰発現されていると報告された他のCDK阻害剤誘導性遺伝子としては、組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA;Westら、1996年、Exp.Gerontol.第31巻:175〜193頁)、カテプシンB(diPaoloら、1992年、Exp.Cell Res.第201巻:500〜505頁)、インテグリンβ3(Hashimotoら、1997年、Biochem.Biophys.Res.Commun.第240巻:88〜92頁)及びAPP(Adlerら、1991年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第88巻:16〜20頁)が挙げられる。t−PA及びPAI−1(Hashimotoら、1987年、Thromb.Res.第46巻:625〜633頁)、カテプシンB(Bernsteinら、1990年、Brain Res.Bull.第24巻:43〜549頁)アクチビンA(Loriaら、1998年、Eur.J.Endocrinol.第139巻:487〜492頁)、プロサポシン(Mathurら、1994年、Biochem.Mol.Biol.Int.第34巻:1063〜1071頁)、APP(Ogomoriら、1988年、J.Gerontol.第43巻:B157〜B162)、SAA(RosenthalとFranklin、1975年、J.Clin.Invest.第55巻:746〜753頁)、及びt−TGアーゼ(Singhalら、1997年、J.Investig.Med.第45巻:567〜575頁)を含む、いくつかのCDK阻害剤誘導性蛋白質の発現は、生物体の老化と相関性があることが示されている。
【0051】
最も一般的に用いられている細胞老化のマーカーはSA−β―gal活性(Dimriら、1995年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第92巻:9363〜9367頁)である。この遺伝子は、IPTG処理したHT1080 p21−9細胞において強く高められる(Changら、1999年、Oncogene 第18巻:4808〜4818頁)。SA−β−galは、リソソームβ−ガラクトシダーゼの活性の増加と局在性の変化とを見せると示唆されていたが(Dimriら、1995年、同書中)、他の研究では、老化細胞内でリソソーム活性が高まると記述されている(CristofaloとKabakijan、1975年、Mech.Aging Dev.第4巻:19〜28頁)。N−アセチルガラクトサミン−6−硫酸スルファターゼ(GALNS)、カテプシンB、酸α−グルコシダーゼ、酸リパーゼA、及びリソソームペプスタチン非感受性プロテアーゼを含む5つのリソソーム酵素が表IIに示されている。p21は、ミトコンドリア蛋白質SOD2、メタジン、及び2,4−ジエノイル−CoAレダクターゼに対する遺伝子も上方制御したが、これは、老化細胞において過剰発現される様々なミトコンドリア遺伝子の報告と相関する(Doggettら、1992年、Mech.Aging Dev.第65巻:239〜255頁;Kodamaら、1995年、Exp.Cell Res.第219巻:82〜86頁;Kumazakiら、1998年、Mech.Aging Dev.第101巻:91〜99)。
【0052】
際立っていることに、本発明者らがp21、p16またはp27によって誘導されることを見つけた多くの遺伝子の産物は、アルツハイマー病、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、及び関節炎と関連していた。たとえば、APPはアルツハイマーのアミロイド斑の主成分であるβ−アミロイドペプチドになる。補体C3(Veerhuisら、1995年、Virchows Arch.第426巻:603〜610)及びAMPデアミナーゼ(Simsら、1998年、Neurobiol.Aging 第19巻:385〜391頁)もまた、アルツハイマー病において役割を果たすことが示唆されていた。また、p21によって最も迅速に誘導され、細胞分化、発癌、アポトーシス、及び老化の多面発現的メディエーターであることが記載されている(Parkら、1999年、J.Gerontol.A Biol.Sci.第54巻:B78〜B83)。t−TGアーゼが、アルツハイマー病とアミロイドーシスの両方に付随するプラークの形成に関与していること(DudekとJohnson、1994年、Brain Res.第651巻:129〜133頁)は特に興味深いことである。アミロイドーシスは、アテローム性動脈硬化症、変形性関節症及び関節リウマチにも関与していると見なされる、別のCDK阻害剤誘導性遺伝子産物であるSAAの沈着によるものである(JensenとWhitehead、1998年、Biochem.J.第334巻:489〜503頁)。CDK阻害剤によって上方制御された他の2つの分泌蛋白質、CTGF及びガレクチン3は、アテローム性動脈硬化症に関与している(Oemarら、1997年、Circulation 第95巻:831〜839頁;Nachtigalら、1998年、Am.J.Pathol.第152巻:1199〜1208頁)。さらに、カテプシンB(Howieら、1985年、J.Pathol.第145巻:307〜314頁)、PAI−1(Cerinicら、1998年、Life Sci.第63巻:441〜453頁)、フィブロネクチン(Chevalier、1993年、Semin.Arthritis Rheum.第22巻:307〜318頁)、GALNS及びMac−2結合蛋白質(Sekiら、1998年、Arthritis Rheum.第41巻:1356〜1364頁)は、変形性関節症及び/または関節リウマチに関与している。さらに、ECM蛋白質における老化に関係する変化、例えばPAI−1発現の増加などは、皮膚及び他の組織の構造に年齢特異的な劣化をもたらすと提唱されている(Campisi、1998年、J.Investig.Dermatol.Symp.Proc.第3巻:1〜5頁)。老化細胞によるフィブロネクチン産生の増加は、ECMフィブロネクチン網目構造の密度を増大させて、これが老化した個体における損傷の治癒を遅らせる原因になっていると示唆されている(Albiniら、1988年、Coll Relat.Res.第8巻:23〜37頁)。
【0053】
p21及びp21誘導可能な遺伝子は、糖尿病性腎症及び慢性腎不全にも関与している。Kuanら(1998年、J.Am、Soc.Nephrol.第9巻:986〜993頁)は、p21が、糖尿病性腎症のインビトロモデルであるグルコース誘導性メサンギウム細胞肥大の条件下で誘導されることを発見した。Megyesiら(1996年、Am.J.Physiol.第271巻:F1211〜1216)は、p21がいくつかの急性腎不全の動物モデルにおいて、インビボで誘導され、このp21の誘導がp53に依存しないことを実証した。この病原性プロセスにおけるp21の機能的役割は、p21(−/−)マウスが実験的糖尿病の条件下で糸球体肥大を発症しないことを発見したA1−Douahjiら(1999年、Kidny Int.第56巻:1691〜1699頁)、及び、p21(−/−)マウスが腎臓の部分切除後にも慢性腎不全を発症しないことを示したMegyesiら(1999年、Proc Natl Acad Sci USA.第96巻:10830〜10835頁)によって実証されている。際立ったものとしては、Murphyら(1999年、J.Biol.Chem.第274巻:5830〜5834頁)は、Kuanら(1998年、J.Am.Soc.Nephrol.第9巻:986〜993頁)によって用いられたものと同じインビトロモデルを用いて研究を行い、メサンギウム細胞の肥大には、本明細書においてp21によって誘導されることが示されたいくつかの遺伝子の上方制御が関与していることを報告した。これらには、CTGF、フィブロネクチン及びプラスミノーゲン活性化因子阻害剤1が含まれる。後者の研究は、CTGFが、モデル系におけるメサンギウム基質の蓄積において機能的役割を果たすことも示した(Murphyら、1999年、J.Biol.Chem.第274巻:5830〜5834頁)。これらの結果は、腎不全の病原性において、p21及びp21によって媒介される遺伝子発現の誘導が関与していることを示す。
【0054】
特に興味深いのは、最近になって酸化的損傷を増強することが分かった遺伝子であるp66shcの発現がp21によって誘導され、p66(−/−)マウスがストレス耐性の増加と顕著な寿命の延長をみせた(Migliaccioら、1999年、Nature 第402巻:309〜313頁)。これらの知見は、遺伝子発現に対するp21の影響が複数の疾病の病原性及び哺乳動物の寿命の全般的制限に寄与しているかもしれないことを示唆する。
【0055】
治験を実施中の抗癌剤の主要な新しいクラスは、血管形成阻害剤である。これらの薬剤は腫瘍細胞ではなく、腫瘍によって分泌される血管形成因子により刺激される間質毛細管の増殖をターゲットとしている(最近の概説としては、Kerbel、2000年、Carcinogenesis 第21巻:505〜515頁を参照のこと)。しかしながら、脈管系は腫瘍増殖に必要とされるただ一つの間質成分ではない。複数の研究において、間質線維芽細胞もまたインビトロ及びインビボにおいて腫瘍細胞の増殖を支持すること、及び、正常及び不死化線維芽細胞が、腫瘍形成を促進し癌細胞の死を阻害するパラクリンを分泌することが示されている(GregoireとLieubeau、1995年、Cancer Metastasis Rev.第14巻:339〜350頁;Campsら、1990年、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 第87巻:75〜79頁;Noelら、1998年,Int.J.Cancer 第76巻:267〜273頁;Olumiら、l998年、Cancer Res.第58巻:4525〜4530頁)。上記のような因子は、線維芽細胞馴化培地中において(Chung、1991年、Cancer Metastasis Rev 第10巻:263〜74頁)、及び共培養の研究において同定された。特に、Olumiら(1998年、Cancer Res.第58巻:4525〜4530頁)は、前立腺癌細胞を正常な前立腺線維芽細胞と共培養すると、癌細胞死が強力に低下し、異種移植片腫瘍形成が促進されることを示した。線維芽細胞のパラクリン効果もまた、初期の前立腺上皮細胞発癌において実証されているのと同様に、腫瘍促進活性を有している(Olumiら、1999年、Cancer Res.第59巻:5002〜5011頁)。これらの結果にも拘わらず、腫瘍関連線維芽細胞のパラクリン発癌性及び腫瘍刺激活性は、薬理学的介入に対するターゲットとして利用されたことはなかった。本発明は、そのような間質線維芽細胞からの分裂促進因子の産生を阻害することができ、腫瘍細胞の増殖を阻害する手だてを与える化合物を検出及び同定するための方法を提供する。
【0056】
最近になって、このパラクリン腫瘍促進活性は、p21及びp16の誘導を伴うプロセスである、正常なヒト線維芽細胞の複製老化の間に選択的に高められることが示された(Krtolicaら、2000年、Proc.Amer.Assoc.Can.Res.第41巻、Abs.448)。間質組織の腫瘍促進効果は、間質線維芽細胞において高レベルのp21を産生する処理(Meyerら、1999年、Oncogene 第18巻:5795〜5805頁)である、電離放射線照射(Barcellos−Hoff及びRavani、2000年、Cancer Res.第60巻:1254〜60頁)によって、マウスの哺乳動物発癌モデルにおいても誘導されることが示された。これらの結果は、p21過剰発現細胞の馴化培地において、本明細書に開示されるパラクリン抗アポトーシス活性及び分裂促進活性が、同様の生物学的現象を示す可能性が非常に高いことを示している。
【0057】
本願において開示される結果は、CDK阻害剤誘導が癌または老化関連疾病の発症の可能性を増大させ得る様式で、細胞遺伝子発現に影響を及ぼすことを示している。CDK阻害剤発現の急増は、正常な複製老化においてのみならず、細胞損傷に応答しても起こり、いずれの場合も、CDK阻害剤誘導の好ましくない効果が年齢依存的に蓄積すると予想される。
【0058】
したがって、本発明は細胞老化の病原性結果に伴う遺伝子の誘導を阻害することのできる化合物、特に老化の間に誘導される遺伝子、及び特にCDK阻害剤発現によって誘導される遺伝子を同定する方法を提供する。そのような化合物は、遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導に対する当該化合物の効果によって老化関連疾病を防止する能力、遅延させる能力、または逆行させる能力を示すと予想される。
【0059】
本発明の1つの実施形態は、p21、p16またはp27などのCDK阻害剤によって誘導される遺伝子発現を阻害するための方法を提供する。好ましい実施形態において、そのような阻害は、細胞を、核因子κ−B(NFκB)の活性、発現または核転座を阻害する有効量の化合物と接触させることによって達成される。当業者であれば、NFκB活性を以下の少なくとも3つの様式で阻害できることを理解するであろう。第1に、NFκBヘテロダイマーを構成している遺伝子のいずれかの転写、プロセッシング及び/または翻訳を下方制御または阻害すること、第2には、細胞内でのIκBの発現及び/または活性の不活性化を阻害することに依存する可能性のある、細胞質から核へのNFκBの転座を阻害すること、第3には、NFκBそのもの活性を阻害することである。本発明は、NFκB活性を阻害することにより、これらのいずれかまたはすべての様式でCDK阻害剤による遺伝子の誘導を阻害する方法も包含する。当技術分野において知られているNFκB阻害剤の例としては、N−複素環カルボキシイミド誘導体(例えば、国際出願公開WO01/02359に開示される);アニリド化合物(例えば、国際出願公開WO01/15603に開示される);4−ピリミジノアミノインダン誘導体(例えば、国際出願公開WO00/05234に開示される);4H−1−ベンゾピラン−4−オン誘導体(例えば、日本出願JP11193231に開示される);キサンチン誘導体(例えば、日本出願JP9227561に開示される);カルボキシアルケニルベンゾキノン及びカルボキシアルケニルナフトール誘導体(例えば、日本出願JP7291860に開示される);ジスルフィド及びその誘導体(例えば、国際出願公開WO99/40907に開示される);プロテアーゼ阻害剤(例えば、欧州出願公開EP652290に開示される);フルルビプロフェン、タリドミド、デキサメタゾン、ピロリジンジチオカルバメート、ジメチルフマル酸、メサリジン、ピモベンダン、スルファサラジン、クロロゲン酸メチル、クロロメチルケトン、コハク酸α−トコフェロール、テポキサリン、ならびに、アスピリン、サリチル酸ナトリウム及びスリンダクを含むある種の非ステロイド抗炎症剤(NSAID)が挙げられる。
【0060】
以下の実施例は、本発明の特定の好ましい実施形態をさらに説明することを意図しており、本質的に限定するものではない。
【実施例1】
【0061】
誘導可能なp21遺伝子を含む哺乳動物細胞の作製
ヒト繊維肉腫細胞系列HT1080 p21−9の組み換え類縁体を、基本的にChangら(1999年、Oncogene 第18巻:4808〜4818頁、参照により本願に組み込まれる)に従って生産した。この細胞系列は、イソプロピル−β−チオガラクトシド(IPTG)によって調節されるプロモーターの転写制御下にあるp21コード配列を含むものとした。上記細胞を十分な量のIPTGの存在下で培養して、内在性p21遺伝子の誘導が誘発され得るあらゆる付加的効果の非存在下において、研究対象とするp21発現が連続して起こるようにすることにより、p21の発現を誘導することができる。この細胞系列は、2000年4月6日にAmerican Type Culture Collection(A.T.C.C:在米国バージニア州マナサス)に受託番号PTA1664として寄託されている。
【0062】
簡単に説明すると、マウス狭宿主性レトロウィルス受容体及びプラスミド3’SS(Stratagene)によってコードされる改変細菌lacIリプレッサーを発現するHT1080のサブ系列(ChangとRoninson、1996年、Gene 第33巻:703〜709頁、参照により本願に組み込まれる)を、図1に構造が示されている組み換えレトロウィルスLNp21CO3を含むレトロウィルス粒子に感染させた。このレトロウィルスベクターは、レトロウィルスの長い末端反復プロモーターの転写制御下にある細菌ネオマイシン耐性遺伝子(neo)を含んでいる。p21をコードする配列をneo遺伝子の転写方向とは逆向きに、かつ改変ヒトサイトメガロウィルスプロモーターの制御下にクローン化した。詳細には、CMVプロモーターは、細胞内で発現されるlacIリプレッサーに感受性のプロモーターからの発現を行う細菌lacオペレータ配列を3回反復して含んでいる。LNp21CO3は、p21をコードする配列を含む492bpのDNA断片を、親ベクターLNXCO3のNotI及びBglII部位にクローニングすることにより構築した(ChangとRoninson、同書中、に開示)。
【0063】
感染後、LNp21CO3Xベクターに感染した細胞は、400μg/mLのG418(BRL−GBCO,在メリーランド州ガイザースバーグ)の存在下で細胞を培養することにより選択した。クローン系列HT1080 p21−9は、LNp21CO3によって変換されたG418耐性細胞系列から、クローン細胞系列が得られるまでの終点希釈によって得た。
【実施例2】
【0064】
細胞増殖アッセイ
実施例1のようにして生産したHT1080 p21−9を用いて、細胞内でp21が発現された場合に細胞増殖にどのような変化が起こるかを調べるための細胞増殖アッセイを行った。
【0065】
HT1080 p21−9細胞におけるLNp21CO3ベクターからのp21の発現は、細胞を10%ウシ胎仔血清(Hyclone、在ユタ州ローガン)及びIPTGを含有するDMEM培地中で培養することによって誘導した。上記アッセイの結果が図2A及び図2Bに示されている。図2Aは、50μMのIPTGの存在下で培養した細胞におけるp21蛋白質産生の経時変化を示している。p21遺伝子の発現は、培養培地にIPTGを導入してから6〜12時間の間は増加し、導入後約24時間で発現はピークに達した。細胞をIPTG含有培地から除去すると、p21の発現は上昇時とほぼ同程度に迅速に低下し、IPTGの除去から約24時間後に導入前のレベルに戻った(図2B)。
【0066】
IPTGの存在下における細胞増殖は、以下の3つの方法でアッセイした。H−チミジン取り込み(「ラベリング指標」とよぶ)の測定;顕微鏡による培養中の分裂細胞の数の観察(「分裂指標」とよぶ);及び細胞周期の異なる部分における培養細胞の分布の判定(「細胞周期分布」とよぶ)。
【0067】
H−チミジン取り込みアッセイは、実質的に、Dimriら(1995年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第92巻:9363〜9367頁)に記載されているようにして実施した。細胞をH−チミジンの存在下で3時間培養し、オートラジオグラフィーによって分析した。DNAの複製は、培養培地にIPTGを添加してから9時間までに完全に停止していることが、オートラジオグラフィーによって確認された。分裂指標は、5μg/mLの4,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)で染色した後、顕微鏡観察して分裂中の細胞を計算することによって決定し、画像はLeica DMIRB蛍光顕微鏡及びVaytek(在アイオワ州フェアフィールド)イメージングシステムによって収集した。顕微鏡によって検出可能な分裂細胞は、14時間のIPTG処理によって上記培養から消失した。
【0068】
細胞周期分布は、Becton Dickinson FACSortを用いて、Jordanら(1996年、Cancer Res.第56巻:816〜825頁)に記載されているように、ヨウ化プロピジウムで染色した後、DNA含量のFACS分析を用いて判定した。細胞周期分布は、IPTG処理の24時間後に安定した。この時間までに、IPTG処理細胞の42〜43%が、それぞれG1及びG2において進行が停止され、約15%の細胞が、S期DNA含有物を伴って進行が停止されていた。IPTG処理したHT1080 p21−9細胞もまた、SA−β−gal活性(Changら、1999年、同書中)だけでなく、形態的老化マーカー(大きくなって平坦になり、粒度が増大)を示した。これらの結果は、p21の誘導発現が、細胞周期の停止と細胞老化に特徴的な他の様々な変化のどちらをも生み出すことを示している。
【実施例3】
【0069】
p21遺伝子発現によって調節される遺伝子発現の解析
実施例2に開示した結果は、p21誘導の形態学的結果及び細胞周期の結果は、遺伝子発現における複数の変化を反映していることを示唆した。細胞遺伝子発現に対するp21誘導の効果は、以下のようにして調べた。
【0070】
未処理のHT1080 p21−9細胞及び50μmのIPTGで3日間処理した細胞から、ポリ(A)RNAを単離した。poly(A)RNAからcDNAを調製し、そして、cDNAは、4,000個を超える配列を変えた既知のヒト遺伝子と3,000個のESTとを含むヒトUniGEM V cDNAマイクロアレイを用いた(Genome System,Inc.(在ミズーリ州セントルイス)によって実施されるように)分別ハイブリダイゼーションのためのプローブとして用いた。2,500個を超える遺伝子とESTは、未処理HT1080 p21−9細胞及びIPTG処理したHT1080 p21−9細胞の両方から得たプローブについて、測定可能なハイブリダイゼーションシグナルを示した。発現量差(≧2.5)で下方制御された遺伝子または発現量差が≦2.0で上方制御された遺伝子をそれぞれ表I及びIIに示す。
【0071】
これらの遺伝子のうちの69個の発現は、RT−PCRまたはノーザンハイブリダイゼーションによって個々に調べた。RT−PCRは基本的にNoonanら(1990年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第87巻:7160〜7164頁)に記載されるようにして実施した。ノーザンハイブリダイゼーションのためのプローブは、マイクロアレイ内に存在するcDNAクローンのインサートから取り出し、当該cDNAはGenome Systems,Inc.より入手した。さらに、p21によって調節されたいくつかの遺伝子産物の発現の変化は、イムノブロッティングによって解析した。イムノブロッティングのためには以下の一次抗体を用いた。Cdc2に対するマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz)、サイクリンA(NeoMarkers)、Plk1(Zymed)及びRb(PharMingen);MAD2に対するウサギポリクローナル抗体(BadCo)、p107(Santa Cruz)、CTGF(Fisp−12;Dr.L.Lauより寄贈)、Prc1(Dr.W.JiangとDr.T.Hunterより寄贈)及びトポイソメラーゼIIα(Ab0284;Dr.W.T.Beckより寄贈)、及びSOD2に対するヒツジモノクローナル抗体(Calbiochem)。使用したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)複合化二次抗体は、ヤギ抗マウス及びヤギ抗ウサギIgG(Santa Cruz)及びウサギ抗ヒツジIgG(KPL)である。すべての試料中の蛋白質濃度は、BioRad蛋白質アッセイキットによる測定後、均一にした。イムノブロッティングは、標準的な手法によって実施し、シグナルはLumiGlo(KPL)を用いて化学発光により検出した。
【0072】
これらの結果は図3A〜図3Cに示されている。38/39下方制御遺伝子及び27/30上方制御遺伝子について、上述のマイクロアレイアッセイによって予測される遺伝子発現の変化を確認した。被験遺伝子の殆どに対してノーザンハイブリダイゼーションまたはRT−PCR観察されたシグナルの差異(図3A〜図3C)は、cDNAアレイから判定された発現量差の値よりも高いようであった(表I及びII)。このことは、cDNAアレイハイブリダイゼーションが遺伝子発現に対するp21の効果の大きさを過小評価する傾向にあることを示唆している。6個の下方制御された遺伝子及び4個の上方制御された遺伝子の発現の変化については、イムノブロッティング(図3B)またはザイモグラフィー(図示せず)によって蛋白質レベルでも試験し、すべての被験ケースについて確認を行った。
【0073】
遺伝子発現におけるp21によって媒介される変化は、短期効果と、p21によって誘導される細胞増殖の停止に続く長期効果とからなることを認めた。この目的にために、IPTGの添加及び除去後の、p21によって阻害された(図3B)及びp21によって誘導された遺伝子(図3C)のサブセットのRNAレベルの経時変化を調べた。イムノブロッティングは、Rbリン酸化(電気泳動度によって示される)のp21によって誘導された経時変化、及びRbとcDNAアレイによりp21によって阻害されたいくつかの蛋白質との細胞レベルについてのp21によって誘導された経時変化を解析するために、用いた。これらの結果は図3Bに示されている。RbはIPTGの添加後6時間で早くも脱リン酸化されていることが分かった。さらに、Rb蛋白質レベルは、12〜24時間の間に急激に減少したが(図3Bに示される)、RB mRNAレベルには顕著な変化は全く見られなかった(図示せず)。同様の減少がRb関連蛋白質p107に対しても観察された(図3Aに示される)。
【0074】
1.p21によって阻害される遺伝子発現
p21によって阻害されたすべて被験遺伝子は、p21誘導及び放出に対して迅速な反応を示した。これらの遺伝子のうちの5個(トポイソメラーゼIIα、ORC1、PLK1、PRC1及びXRCC9)は、RNA及び蛋白質レベルの両方に、IPTGの添加後4〜8時間の間に顕著な阻害を示した(図3B)。このパターンは、細胞増殖の停止と脱リン酸化の動態と平行しており、「即時反応」と呼ばれる。他のp21によって阻害された遺伝子(CDC2またはCHFRなど)は、DNA複製及び分裂の停止より僅かに遅れて「早期反応」を示し、mRNAレベルの大きな増加はIPTGを添加してから12時間後にしか検出されなかった。すべてのp21によって阻害された遺伝子は、細胞がまだ増殖停止されており、DNA複製及び分裂の再開前である、IPTGの除去から12〜16時間後に発現を一時停止した(図3B)。この分析は、p21によって阻害された遺伝子の発現の変化が、p21誘導及び放出の短期効果であり、細胞増殖の停止及び回復の結果ではないことを実証した。
【0075】
まとめると、69個の遺伝子と3個のESTが、p21誘導性細胞において2.5〜12.6の発現量差で下方制御されることをcDNAマイクロアレイによって確認した(表IA)。細胞周期の進行に関与し、本発明者らの個別のアッセイによってIPTG処理細胞において下方制御されることが確認されているさらに5個の遺伝子が、表IBに挙げられている。cDNAアレイによって同定された下方制御された遺伝子は高い割合で(69のうち43)、分裂、DNA複製、分離及び修復、及びクロマチン構築が伴い、このことはp21によって媒介される遺伝子発現の阻害が高度に選択的な性質を有していることを示している。
【0076】
p21によって下方制御された遺伝子の最大のグループは、分裂のシグナリング、実行、及び制御に関与していた。いくつかのp21によって阻害された遺伝子は、DNA複製及び分離、クロマチン構築及びDNA修復に関与している。これらの遺伝子のいくつかは、ヌクレオチド生合成に関与する酵素をコードし、他の蛋白質はDNA複製に関与している。いくつかのp21によって阻害される遺伝子は、DNA修復に関係している。これらの結果は、治療的介入に対するターゲットになり得る、p21誘導性の増殖停止の細胞プログラムの成分を発見する機会を示唆するものである。
【0077】
2.p21によって誘導される遺伝子発現
p21発現によって抑制される遺伝子に加えて、上述のアッセイではp21によって誘導される遺伝子も検出した。p21によって誘導される遺伝子の遺伝子発現のパターンは図3Cに示されている。p21によって阻害される遺伝子とは対照的に、p21によって上方制御される遺伝子は、IPTGの添加から48時間後、すなわちすべての細胞において増殖の停止が起こった後においてのみ発現の増大を示した。1つの被験遺伝子、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ)のみが、IPTGの添加から12時間後に検出可能な増加を示したが、その発現が最大に達したのは48時間であった(図3Cに示されるように)。さらに、すべての被験遺伝子(t−TGアーゼ以外)の発現の増大は、IPTGからの遊離後少なくとも3日間は持続し、細胞周期の回復後の持続していた(図示せず)。この「遅延反応」動態は、このような遺伝子のp21誘導が、p21によって媒介される増殖進行の停止に対して遅れた効果であることを示した。
【0078】
48個の既知の遺伝子及び6個のESTまたは未知の機能を有する遺伝子が、p21によって誘導された細胞において、2.0〜7.8の発現量差で上方制御されることが確認された(表II)。このグループに同定可能な遺伝子は非常に高い割合で(20/48)、細胞外基質(ECM)成分(例えば、フィブロネクチン1、ラミニンα2、Mac−2結合蛋白質)、他の分泌蛋白質(例えば、アクチンA、結合組織増殖因子、血清アミロイドA)、またはECM受容体(インテグリンβ3など)をコードしている。これらの分泌蛋白質のうちのいくつかは、p21によって誘導される細胞内蛋白質の大きなグループとともに(表II)、様々な形のストレス反応において誘導されるか、あるいはストレス関連の信号伝達において役割を果たすことが知られている。顕著なものとしては、本発明者らがp21によって誘導されることを見いだした多くの遺伝子は、細胞老化、生物体の老化、または様々な老化関連疾病においても上方制御され、このことから、p21媒介性遺伝子誘導の抑制が、そのような疾病の発症を防止する手だてを与えうることが示された。下記の実施例5に開示するように、いくつかのp21によって誘導される遺伝子は、パラクリン抗アポトーシス活性及び分裂促進活性を有する分泌因子をコードし、p21によって誘導される細胞からの馴化培地は、p21によって上方制御される遺伝子の性質によって予測される2つの生物学的効果、すなわち細胞増殖の刺激とアポトーシスの抑制を示す。この発見は、p21の「パラクリン」効果が、隣接細胞に対する腫瘍促進効果を介して発癌に寄与している可能性を示唆するものである。このことは、p21媒介性遺伝子誘導の抑制が、抗発癌効果を達成する手だてを与え得るという可能性をもたらす。
【実施例4】
【0079】
IPTG処理したHT1080 p21−9細胞と血清欠乏HT1080 p21−9細胞との比較による、p21誘導の特異性の同定
細胞増殖の停止の結果である可能性の高い細胞遺伝子発現におけるp21誘導性変化の正体を、以下のようにして確かめた。
【0080】
血清を含まない培地中で細胞を4日間培養することによって生み出した血清欠乏状態により、HT1080 p21−9細胞において増殖の停止(静止)を誘導した。IPTG処理したHT1080 p21−9細胞とは異なり、血清欠乏細胞においては、細胞は老化形態をみせず、非常に弱いSA−β−gal発現しか示さなかった。血清欠乏細胞におけるp21レベルは、IPTG処理細胞で見られる15〜20倍の増加とは対照的に、約2倍にしか増加しなかった。図3Dは、血清を含まない培地中で4日間後、または50μM IPTG存在下で3日間後に増殖が阻害されたHP1080p21−9細胞における、p21によって阻害された遺伝子とp21によって誘導された遺伝子の発現を上述のようにしてRT−PCR解析した結果を示している。培養培地が50μM IPTGを含んでいた場合にHT1080 p21−9細胞において完全に阻害された遺伝子は、血清欠乏細胞においても阻害されたが、これらの遺伝子の大半はIPTG処理細胞におけるよりも受けた阻害の程度は小さかった。
【0081】
p21によって発現が誘導される遺伝子は、3つの明確に区別できるパターンを見せた。第1のグループは、発現が静止細胞においても老化細胞と同様に強く誘導される遺伝子である。これらにはガレクチン−3、スーパーオキシドジスムターゼ2、補体C3、及びプロサポシンが含まれ、これらの誘導が細胞増殖の停止の結果であったこと、または上記遺伝子がわずかに高められたp21レベルに対して極めて敏感であったことが示される。第2のグループは、静止細胞においては上方制御されたが、老化細胞においてはそれほど強く上方制御されなかった遺伝子である。これらの遺伝子には、フィブロネクチン−1、Mac2結合蛋白質、及びアルツハイマー前駆体蛋白質血清アミロイドAが含まれる。第3のグループは、静止細胞においては検出可能に誘導されることはないが、老化細胞においては強く誘導された遺伝子である。これらの遺伝子には、CTGF、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、組織トランスグルタミナーゼまたはナチュラルキラー細胞マーカー蛋白質NK4、インテグリンβ3及びアクチビンAが含まれる。
【0082】
血清欠乏による静止状態の誘導に対するある遺伝子の反応と、p21のIPTG誘導性過剰発現を介した細胞老化との間の差異から、これらの遺伝子が老化の診断マーカーであると同定された。さらに、p21発現細胞と静止細胞との間での発現を比較することにより、新規の老化マーカーを同定することもできる。
【実施例5】
【0083】
分裂促進因子を含む馴化培地の生産と分裂促進活性アッセイ
p21によって上方制御された数個の遺伝子(表II)は、CTGF(Bradhamら、1991年、J.Cell Biol.第114巻:1285〜1294頁)、アクチビンA(Sakuraiら、1994年、J.Biol.Chem.第269巻:14118〜14122頁)、エピテリン/グラニュリン(Shoyabら、1990年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第87巻:7912〜7916頁)及びガラクチン−3(Inoharaら、1998年、Exp Cell Res.第245巻:294〜302頁)を含む増殖因子として作用する分泌蛋白質をコードする。さらに、ガレクチン−3(Akahaniら、1997年、Cancer Res.第57巻:5272〜5276頁)及びプロサポシン(Hiraiwaら、1997年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第94巻:4778〜4781頁)は、抗アポトーシス活性を有することが示されている。パラクリン抗アポトーシス活性または分裂促進活性は、cDNAマイクロアレイハイブリダイゼーションにおける発現量差値が1.8〜1.9であったために表IIに挙げられていない、いくつかのp21誘導可能な遺伝子産物に対しても報告されている。上記の値は、この表に含めるために、あるいはRT−PCRによる検証のために用いた、任意に選んだ最小値2.0を下回っている。上記の蛋白質は、クラステリン(Koch−BrandtとMorgans、1996年、Prog.Mol.Subcell.Biol.第16巻:130〜149頁)、プロスタサイクリン刺激因子(PSF)(Yamauchiら、1994年、Biochem.J.第303巻:591〜598頁)、血管内皮細胞増殖因子−C(VEGF−C)(Joukovら、1996年、EMBO J.第15巻:290〜298頁)、ゲルソリン(Ohtsuら、1996年、EMBO J 第16巻:4650〜4656頁)及びメタロプロテアーゼ1の組織阻害剤(TIMP−1)(Liら、1999年、Cancer Res.第59巻:6267〜6275頁)である。
【0084】
分泌された分裂促進因子及び抗アポトーシス因子のp21による誘導を検証するために、IPTG処理したHT1080 p21−9細胞からの馴化培地を試験して、これらが細胞増殖及びアポトーシスに対して効果を有するかどうかを調べた。これらの実験において、馴化培地は、DMEM/10%FCSを含む15cmのプレートあたり10個のHT1080 p21−9細胞を播種することにより調製した。翌日、IPTGを最終濃度が50μMとなるように添加し、3日後にこの培地を、0.5%FCS及び50μM IPTGを添加したDMEMに交換した。2日後(IPTG処理して3〜5日目)、この馴化培地を回収し、使用時まで4℃で最長15日間まで保存した。対照培地は、IPTGを含まないDMEM/0.5%FCSを、IPTG処理細胞と同じ密度まで増殖させた未処理細胞に添加し、その2日後に培地を回収することにより調製した。
【0085】
遅く増殖するヒト線維肉腫細胞系列HS15.Tを用いて、馴化培地内の分裂促進活性を検出した。分裂促進活性アッセイのためには両方のタイプの馴化培地、ならびに、分裂促進活性をテストするためには新鮮な培地、及び馴化培地と新鮮培地の1:1混合物を用いた。これらの実験において、馴化培地には1%または2%FCSを添加した。簡単に述べると、HS15.T細胞を12ウェルプレートに1ウェルあたり15,000細胞となるように播種した。2日後、これらの細胞を異なるタイプの培地中で培養した。細胞は馴化培地中で60時間増殖させ、H−チミジンを3.13μCi/mLの濃度で添加して24時間インキュベーションした。その後、細胞を回収して、H−チミジン取り込みをMoscaら(1992年、Mol.Cell.Biol、第12巻:4375〜4383頁)に記載されるようにして決定した。
【0086】
このアッセイにおいて新鮮培地にIPTGを添加しても全く効果はなかった。新鮮培地とHT1080 p21−9細胞からの馴化培地との間に、細胞増殖についての有意な差異はみられなかった。これに対し、IPTG処理細胞からの馴化培地では、H−チミジンの取り込みが3倍にも上昇していた。IPTG処理細胞からの馴化培地によるHS15.Tの増殖刺激は、メチレンブルー染色によっても検出可能である。
【0087】
アポトーシスに対するこの馴化培地の効果も調べた。これらの実験では、E1Aで不死化したマウス胚線維芽細胞系列C8を用いた。この細胞系列は、様々な刺激によってアポトーシスの誘導を非常に受けやすい(Loweら、1994年、Science 第266巻:807〜810頁;Nikiforovら、1996年、Oncogene第13巻:1709〜1719頁)。上記の様々な刺激としては、血清欠乏状態(Loweら、1994年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第91巻:2026〜2030頁)が含まれる。アポトーシスは、6cmのプレートにつき3×10個のC8細胞を播種し、翌日に培地を、0.4%血清を添加した新鮮培地または馴化培地(新鮮な血清を添加していない)に交換することにより分析した。DNA含量分析及びDAPI染色は、24時間後及び48時間後に実施し、低血清培地において48時間後に相対細胞数をメチレンブルー染色によって測定した(Perryら、1992年、Mutat.Res.第276巻:189〜197頁)。
【0088】
低血清新鮮培地または、IPTG処理細胞または未処理細胞からの馴化培地の添加によって、C8細胞におけるアポトーシスが迅速に誘導された。このことはDAPI染色後の大多数の細胞において検出可能な細胞脱離とアポトーシス形態とによって(図示せず)証明された。しかしながら、48時間後にまだ付着したままの細胞のメチレンブルー染色によって測定されたように、IPTG処理細胞からの馴化培地は、新鮮培地及び未処理細胞からの馴化培地に比較して、細胞の生存率を強力に高めていた。p21誘導性細胞からの馴化培地の効果は、培地交換から24時間後及び48時間後の付着及び浮遊C8細胞混合物に対して実施した、細胞DNA含有物のFACS分析においてさらに明らかであった。他の多くの細胞系列とは違って、C8細胞のアポトーシスでは、DNAの量が減少(サブ−G1)した細胞はわずかしか生産されず、このことはG2/M DNA含有物を有した細胞の選択的消失によって特徴づけられる(Nikiforovら、1996年、同書中)。IPTG処理細胞からの馴化培地における血清欠乏細胞は、G2/M画分を維持しており、血清富化培地中で増殖している対照細胞に類似した細胞周期プロファイルを見せた。IPTGを単独で添加した場合、C8細胞におけるアポトーシスに対して全く効果を有しなかった。したがって、HT1080細胞におけるp21の誘導は、p21によって調節されなかった遺伝子の性質によって予測されるように、分裂促進因子及び抗アポトーシス因子の分泌をもたらす。
【実施例6】
【0089】
誘導可能なp16Ink4Aまたはp27Kip1遺伝子を含む哺乳動物細胞の生産
誘導可能なCDK阻害剤p16Ink4A(CDK4/6を優先的に阻害する;Serranoら、Nature 第16巻、704〜707頁、1993年)またはp27Kip1(CDK2を優先的に阻害する;B1ainら、J.Biol.Chem.第272巻、25863〜25872頁、1997年)を含む哺乳動物細胞系列を、誘導可能なp21含有細胞系列の作製に関して実施例1に記載したようにして作製した。細菌lacI遺伝子をコードし、マウス狭宿主性レトロウィルス受容体を発現する組み換え発現構築物を含む、ヒトHT1080線維肉腫細胞系列の組み換え類縁体(HT1080 3’SS6;ChangとRoninson、1996年、Gene 第183巻:137〜142頁)を用いて、誘導可能な系列を作製した。p16の誘導可能発現のために、ヒトp16の471bpコード配列を含むDNA断片(参照により本願に組み込む、米国特許第5,889,169号に記載されるように)をIPTGによって調節されるレトロウィルスベクターLNXRO2(ChangとRoninson、1996年、Gene 第183巻:137〜142頁)中にクローン化した。このレトロウィルスベクターは、レトロウィルスの長い末端反復プロモーターの転写制御下にある細菌のネオマイシン耐性遺伝子(neo)を含み、G418(BRL−GIBCO)を用いた選択が可能である。結果として得られるLNp16RO2と呼ぶ構築物が図4に模式的に描かれている。p27の誘導可能発現のために、同一のLNXR02ベクター内にマウスp27cDNAを保有するベクターLNp27RO2(NCBI RefSeq NM_009875)が開発され、Kokontisら(1998年、Mol.Endocrinol.第12巻、941〜953頁)によって記載されている。このベクターはDr.N.Hay(イリノイ大学、シカゴ)から提供された。
【0090】
従来のレトロウィルス感染方法を用いて、LNp16RO2及びLNp27RO2構築物を個別にHT1080 3’SS細胞に導入した。細胞を400μg/mL G418(BRL−GIBCOより入手)の存在下で培養することにより、感染細胞を選択した。G418によって選択されたLNp16RO2形質導入細胞の集団をHT1080/LNp16RO2と名付けた。この細胞集団は、2000年10月10日にAmerican Type Culture Collection(A.T.C.C;バージニア州マナサス)に寄託されており、受託番号PTA−2580が与えられている。
【0091】
この細胞集団をサブクローン化し、20個のクローン細胞系列を単離し、IPTG誘導可能増殖阻害について調べた。最も強い増殖阻害を示した細胞系列をHT1080 p16−5と名付けた。この細胞系列は、2002年1月31日にAmerican Type Culture Collection(A.T.C.C;バージニア州マナサス)に寄託されており、受託番号_____が与えられている。図5Aは、50μM IPTGを添加したときの、HT1080 p16−5細胞の細胞周期分布の変化を示したものである。異なる細胞周期にある細胞画分は、Becton Dickinson FACSortを用いて、Jordanら(1996年、Cancer Res.第56巻:816〜825頁)に記載されるように、ヨウ化プロピジウムによる染色の後、DNA含有物のFACS分析を用いて決定した。細胞周期分布はIPTG処理から24時間後に安定した。この時間までにIPTG処理細胞の93%がG1において停止していた。このようなG1停止は、p16によるCDK4/6の阻害によるものと予想される。
【0092】
同様に、G418によって選択されたLNp27RO2形質導入細胞の集団をサブクローン化し、38個のクローン細胞系列を単離し、IPTG誘導可能な増殖阻害について調べた。最も強い増殖阻害を示した細胞系列をHT1080 p27−2と名付けた。この細胞系列は、2002年1月31日にAmerican Type Culture Collection(A.T.C.C;バージニア州マナサス)に寄託されており、受託番号_____が与えられている。図5Bは、50μM IPTGを添加したときの、HT1080 p27−2細胞の細胞周期分布の変化を示したものである。細胞周期分布はIPTG処理から24時間後に安定した。この時間までにIPTG処理細胞の89%がG1において停止していた。このようなG1停止は、p16によるCDK4/6の阻害によるものと予想される。
【実施例7】
【0093】
p21誘導可能遺伝子の発現に対するp16及びp27の効果
実施例6に記載されるようにIPTGによって誘導可能なp16またはp27遺伝子を保持する、HT1080類縁体、HT1080 p16−5及びHT1080 p27−2を用いて、以下のように遺伝子発現アッセイを行った。
【0094】
50μM IPTGの存在下または非存在下で3日間培養したこれらの細胞系列からRNAを得た。次にこれらのRNA試料を用いてRT−PCRアッセイを行った。このRT−PCRアッセイは、標準化のためにβ−ミクログロビンではなくβ−アクチンを用いたことを除いては、基本的に上述の実施例3に記載されるようにして実施した。p21によって誘導されることが示された上述の18個の遺伝子について、これらの細胞のIPTG処理によって誘導されたp16またはp27遺伝子発現の効果を調べた。試験対象遺伝子としては、アルツハイマー病、アミロイドーシス、関節炎、アテローム性動脈硬化症、及び誘導されたp21発現に関して上述したようなパラクリンアポトーシス効果及び分裂促進効果に関与している遺伝子を含めた。p16に対する結果は図6Aに、p27に対する結果は図6Bに示されている。p21によって誘導されるすべての被験遺伝子は、IPTG誘導性p16発現によっても誘導され、試験対象遺伝子の殆どすべて(t−PA及びCTGF以外)が、p27によっても誘導された。図6に示される結果は、P16またはp27発現がp21発現に対して検出可能な効果を一切有しなかったことも示している。
【実施例8】
【0095】
p21応答性プロモーターによって発現されたレポーター遺伝子を含む組み換え発現構築物の作製
プロモーター - レポーター構築物は、以下のようなNK4、SAA、補体C3(CC3)、プロサポシン、βAPP及びt−TGアーゼを含む、いくつかのp21誘導可能ヒト遺伝子のプロモーターから調製した。CC3遺伝子のプロモーター領域は、ヒトゲノム配列において(NCBI受託番号M63423.1)CC3 cDNAの5’末端に隣接していることが確認された(Vikら、1991年、Biochemistry 第30巻:1080〜1085頁)。NK4遺伝子のプロモーター領域は、ヒトゲノム配列(受託番号AJ003147)において、NK4 cDNA(受託番号M59807)の5末端に隣接していることが確認された。以前に説明したSAA遺伝子(Edbrookeら、1989年、Mol.Cell.Biol.第9巻:1908〜1916頁)のプロモーターは、ヒトゲノム配列(受託番号M26698)内で確認された。βAPP遺伝子のプロモーター領域は、ヒトゲノム配列(受託番号Xl2751)において、βAPP cDNA(受託番号XM009710)の5’末端に隣接することが確認された。t−TGアーゼ遺伝子のプロモーター領域は、ヒトゲノム配列(受託番号Z46905)において、t−TGアーゼcDNA(受託番号M55153)の5’末端に隣接することが確認された。プロモーター特異的DNAのポリメラーゼ鎖長延長反応(PCR)増幅は、HT1080 p21−9細胞からのゲノムDNAを鋳型に用いて実施した。PCRは、PfuTurbo DNAポリメラーゼ(Stratagene)及び表IIIaにあげたプライマーセットを用いて実施した。それぞれのプライマーセットに対するPCR条件は、表IIIbに記載されている。本実施例に開示されるような使用遺伝子プロモーターを含む、プロモーターCDK阻害剤によって誘導されるいくつかの遺伝子からのプロモーター配列の増幅のためのプライマーセットは、表IIIcに挙げられている。
【0096】
得られたPCR産物はTOPO TAクローニングベクターpCR2.1/TOPO(SAA,CC3,βAPP及びt−TGアーゼに対して)、またはpCRII/TOPO(NK4に対して)にクローン化した。これらの構築物をシーケンシングによって確認し、プロモーターを正しい向きで含んだKpnI−XhoI断片を、標準的な組み換え遺伝子技術(Sambrookら、同書中)を用いて、ホタルルシフェラーゼ−レポーターベクターpGL2ベーシック(Promega,在ウィスコンシン州マディソン)のKpnI及びXhoI部位に挿入した。プロサポシンプロモーターの480bp配列を含み、ホタルルシフェラーゼ発現を駆動するクローンは、Sunら(1999年、Gene 第218巻、37〜47頁)に記載されており、Dr.Grabowski(子供病院医療センター、在オハイオ州シンシナティ)より提供された。
【0097】
それぞれのプロモーター構築物に対するプラスミドクローンについては、一過性トランスフェクションアッセイによってp21調節を調べた。HT1080 p21−9細胞の一過性トランスフェクションは、本質的にBio−Radプロトコールに記載されているようにして、エレクトロポーレーションによって実施した。それぞれのエレクトロポーレーションに対して、HT1080 p21−9細胞は、10%FC2血清を添加し、ペニシリン、ストレプトマイシン及びグルタミンを含有したDMEMを用いて15cmプレートに95%の集密になるまで増殖させた。次に細胞をトリプシン処理し、DMEMまたはOpti−MEM培地(GibcoBRL)に再懸濁し、IEC HN−SII遠心分離器中、10分間、1,000rpmでスピンダウンした。遠心分離に続いて、培地を吸引して、細胞を1mLあたり1800万〜2000万細胞の濃度になるように、再度Opti−MEMに懸濁した。400μLの細胞懸濁液(約700万〜800万細胞)を4cm溝のエレクトロポーレーションキュベット(Bio−Rad)に移した。10〜20μgのプロモータ−ルシフェラーゼ構築物を細胞に加えた。いくつかの実験においては、標準化のために、CMVプロモーターから細菌β−ガラクトシダーゼを発現する対照プラスミドpCMVbgalを、1:10の比率で混合液に加えた。他の実験においては、CMVプロモーターからウミシイタケルシフェラーゼを発現するベクターpRL−CMVを1:20のモル比で加えることによって標準化を行い、ホタルルシフェラーゼ及びウミシイタケルシフェラーゼの活性は、二重ルシフェラーゼEssayキット(Promega)を用いて同一試料中で測定した。エレクトロポーレーションは、960μFDにセットされたキャパシタンス拡張器を備え、27〜30のτ値を与える、0.22ボルトのBio−Rad Gene Pulserを用いて実施した。予備実験において、エレクトロポーレーション後の細胞の生存率及び付着は約33%であると測定された。細胞は、12ウェルプレート内に1ウェルあたり約50,000付着細胞の初期密度となるように播種した(同一のものを3つ作成)。細胞を3〜6時間静置した後、培地を吸引して、50μM IPTGを含むかまたは含まない新鮮培地に交換した。2〜4日後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、300μLの1×Passive Lysis BufferまたはReporter Lysis Buffer(Promega)中に回収した。溶解物を10,000gで簡単に遠心してペレットデブリスとし、50μLのアリコートをホタルルシフェラーゼアッセイ(Promega)で用いるために新鮮なチューブに移した。ルシフェラーゼ活性は、52.1%の感度のTurner20/20照度計を用いて、遅延時間5秒、第2積分時間10〜l5秒として測定した。
【0098】
図7は代表的な実験の結果を示したものである。トランスフェクション細胞におけるp21誘導の2〜4日後、p21によって誘導された遺伝子のプロモーター構築物からの発現は、NK4に対しては約7.0倍、SAAに対しては3.7倍、CC3に対しては12.5倍、プロサポシンに対しては3.0倍、βAPPに対しては2.6倍、t−TGアーゼに対しては2.3倍増加していた。これらの結果は、p21がこれらの遺伝子の発現を、当該遺伝子のプロモーターを調節することにより上方制御すること、及びそのような遺伝子のプロモーター構築物が遺伝子発現のp21によって媒介される調節に対するアッセイに使用可能であることを示した。そうしたアッセイは、下記実施例9に記載するように、p21によって媒介される遺伝子活性化を阻害する化合物を同定するのに用いることができる。
【表1】

【表2】

【表3】

【実施例9】
【0099】
p21誘導可能なレポーター構築物で安定的にトランスフェクションされた細胞の作製
p21によって調節されるルシフェラーゼ発現を有する安定的にトランスフェクションされた細胞系列を開発するために、実施例8に記載し、pLuNK4と名付けたNK4プロモーター - ルシフェラーゼ構築物を、IPTG誘導可能p21を保持するHT1080 p21−9細胞に、選択可能なマーカーとしてのプロマイシンN−アセチルトランスフェラーゼを保持するpBabePuroとのコトランスフェクションにより導入した。トランスフェクションは、LIPOFECTAMINE 2000(Life Technologies,Inc.在メリーランド州ガイザースバーグ)を用い、pLuNK4とpBabePuroとの比を10:1として実施した。安定な形質転換体を1μg/mLのプロマイシンを用いて5日間かけて選択した。54個のプロマイシン耐性細胞系列を単離し、50μM IPTGの存在下及び非存在下における、ルシフェラーゼ活性を調べた(Luciferase Assay System、Promegaを使用)。
【0100】
このアッセイは以下のようにして実施した。細胞を12ウェルプレートに、ペニシリン/ストレプトマイシン、グルタミン、及び10%ウシ胎仔血清(FCS)を含有する培地1mLあたり、40,000個/ウェルの密度で播種した。付着後、細胞を、時間を変えながら、50μM IPTGで処理するか、または未処理のままにした。次に、ルシフェラーゼ活性を上述の実施例8に記載されるようにして測定した。さらに、別のアリコートを細胞溶解物から取り出し、Bio−Rad蛋白質アッセイキット(Bradfordアッセイ)を用いて蛋白質濃度を測定した。各試料に対するルシフェラーゼ活性は、蛋白質含量に正規化し、ルシフェラーゼ活性/1μg蛋白質として表現した。すべてのアッセイは3回ずつ行い、その平均と標準偏差が示されている。
【0101】
54個の被験細胞系列のうちの21個が、測定可能なルシフェラーゼ活性を示したが、HT1080 LuNK4p21と名付けたわずか1個の細胞系列だけが、IPTG非存在下よりもIPTG存在下でより高いルシフェラーゼ発現を示した。p21LuNK4細胞系列を用いて実施したアッセイの結果が図8A及び図8Bに示されている。図8Aは、24時間のIPTG処理後のルシフェラーゼ発現のIPTG用量依存性を示し、図8Bは50μM IPTGを添加時のルシフェラーゼ発現の経時変化を示している。この分析から、殆どの誘導はわずか5μMのIPTGとわずか17時間の処理時間を用いて達成できることが分かった。
【0102】
これらの結果は、レポーター遺伝子転写のp21誘導に関与する安定的にトランスフェクションされた細胞系列を作製するために、pLuNK4レポーター構築物を使用できることを実証した。このような構築物及び細胞は、p21によって媒介される遺伝子活性化を阻害する化合物を同定するためのスクリーニングアッセイの基礎を与える。ルシフェラーゼ誘導に必要とされる比較的短い時間(約17時間)、ならびにIPTG処理細胞におけるルシフェラーゼレベルの顕著な増加(約3倍)は、LuNK4921細胞系列を、p21の誘導効果を阻害する化合物の高処理能スクリーニングに適したものにするに違いない。同様の(潜在的にはより良好な)誘導性を有する他の細胞系列もまた、LuNK4p21を得るために用いた本明細書に開示の方法によって開発することができる。実施例8に記載した結果は、同様のタイプのスクリーニングが、安定的にトランスフェクションされた細胞系列ではなくp21誘導可能遺伝子のプロモーター構築物を用いた一過性トランスフェクションアッセイを用いても行えることを実証している。ルシフェラーゼ発現に基づく高処理能スクリーニングのための方法は、当技術分野においてよく知られている(一過性トランスフェクションに基づくアッセイの最近の例としては、Storzら、1999年、Analyt.Biochem.第276巻:97〜104頁を参照。また安定的にトランスフェクションされる細胞系列に基づくスクリーニングの例としては、Roosら、2000年、Virology 第273巻.307〜315頁を参照のこと)。これらの細胞及びアッセイを用いて同定された化合物は、老化関連遺伝子のp21によって媒介される誘導を阻害または防止する治療剤を開発するために有用である。
【実施例10】
【0103】
一過性トランスフェクションアッセイにおいてp21媒介性誘導を阻害するための、NFκB及びp300/CBP阻害剤の利用
p21誘導可能遺伝子のプロモーター配列を調べたところ、NK4を含むこれらのプロモーターの多くが、既知または潜在的なNFκB結合部位を含んでいることが判明した。いくつかのp21によって誘導された遺伝子が、NFκBによって正に調節されることが知られている。このような遺伝子としては、スーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)(Jonesら、1997年、Mol.Cell.Biol.第17巻:6970〜6981頁)、t−TGアーゼ(Mirzaら、1997年、Amer.J.Physiol.第272巻:G281〜G288)、アルツハイマーβ−アミロイド前駆体蛋白質(APP)(Grilliら、1996年、J.Biol.Chem.第271巻:15002〜15007頁)、及び炎症性蛋白質血清アミロイドA(SAA)(JensenとWhitehead、1998年、Biochem J.第334巻:489〜503)が挙げられる。p21は以前に一過性コトランスフェクション実験によって、NFκB依存性転写を活性化することが示されている(Perkinsら、1997年、Science第275巻:523〜527頁)。このp21の効果は、転写補因子p300及びCBPの刺激によるものであることが示されており(Perkinsら、1997年、Science 第275巻:523〜527頁)、p300/CBPまたは関連する転写補因子の活性化が、上方制御される遺伝子のいくつかに対してp21の効果に関与している可能性がある。したがって、NFκBまたはp300/CBPは、p21による転写の誘導を潜在的に阻害し得る。
【0104】
HT1080 p21−9細胞におけるIPTG誘導可能なp21発現が、NFκBの転写活性を刺激するかどうかを判定するために、本発明者らは、一過性トランスフェクションアッセイを用いて、Stratageneより市販されているプラスミドpNFκB−Lucからのルシフェラーゼ発現のp21誘導の効果を調べた。このプラスミドは、5つのNFκBコンセンサス配列を含む人工プロモーターからホタルルシフェラーゼを発現する。pNFκB−Lucからのルシフェラーゼ発現に対するNFκBの遺伝子阻害剤の効果を評価するために、20μgのpNFκB−Lucプラスミド(モル比1:2)を、NFκBを選択的に阻害するIκBキナーゼ(DiDonatoら、1996年、Mol.Cell.Biol.第16巻:1295〜1304頁)の優性変異体を発現するプラスミドMAD3(a.k.a、PRC/βアクチン−HA−IKKα)(Dr.M.Karin、カリフォルニア大学サンディエゴ校より提供)と混合した。以後このプラスミドはIKKと呼ぶ。pNFkB−Lucからのルシフェラーゼ発現に対するp300/CBP阻害の効果を判定するために、プラスミドpNFkB−Lucを、別のアッセイにおいて、C末端を欠失したアデノウィルスE1A蛋白質{ΔCR2(120−140)}に対する欠失遺伝子を発現するベクターと混合した。C末端を欠失したE1A(E1AΔCR2と呼ばれる)は、p300/CBP及び関連する因子(PCAFなど)を阻害するが、E1AのC末端ドメインのターゲットであるRbは阻害しないことが知られている(Chakravartiら、1999年、Cell 第96巻:393〜403頁)。負の対照として、pNFκB−Lucを、E1AΔN/ΔCR2と呼ばれ、C末端とN末端の両方に欠失を有した{ΔN(2−36)}機能的に不活性な形のE1Aと混合した。E1AΔCR2及びE1AΔN/ΔCR2構築物は、Dr.V.Ogryzko(NICHHD,NIH)より提供された。pNFkB−LucとIKK、E1AΔCR2またはE1AΔN/ΔCR2との混合物は、実施例8に記載されるように、エレクトロポーレーションによってHT1080 p21−9細胞にトランスフェクションした(標準化のためのpRL−CMVプラスミドをさらに加えて)。エレクトロポーレーション後、同数のトランスフェクション細胞を50μM IPTGで処理するか、未処理のまま3日間おいた(同一実験につき3回実施)。ホタルルシフェラーゼ活性を測定し、それぞれのトランスフェクション試料において、(IPTGの非存在下で)測定されたウミシイタケルシフェラーゼ活性に対して標準化した。
【0105】
この分析の結果が図9Aに示されている。負の対照(E1AΔN/ΔCR2)と混合したpNFkB−Lucは、IPTGの存在下において最大15倍もの誘導を示し、HT1080 p21−9細胞におけるNFκB転写活性の増加が実証された。pNFkB−Lucを阻害剤と混合すると、IPTG処理細胞または未処理細胞においてルシフェラーゼの発現がほぼ完全に停止し、この阻害剤の有効性が実証された。E1AΔCR2は、IKKよりと同様でではあるがより弱い効果しか有しておらず、HT1080 p2l−9細胞におけるNFκB活性に対するp300/CBPの必要性が示唆された(図9A)。
【0106】
6個のp21誘導可能遺伝子に対して、プロモーター - ルシフェラーゼ構築物を用いて同様の分析を行った。SAAに対する結果は図9Bに、プロサポシンに対する結果は図9Cに、βAPPに対する結果は図9Dに、t−TGアーゼに対する結果は図9Eに、補体Cに対する結果は図9Fに、NK4に対する結果は図9Gに示されている。IKKとE1AΔCR2のいずれもが、IPTGの存在下においてすべての被験プロモーターの誘導を阻害したことから、p21によるこれらのプロモーターの調節が、部分的にp300/CBP及びNFκBを介していることが分かった。しかしながら、定量的には、これらの阻害剤の効果はプロモーター間で異なっていた。SAA(図9B)及びNK4(図9G)のプロモーターの基底発現及びIPTG刺激性発現はいずれも、NFκBと殆ど同等の強さでIKK及びE1AΔCR2によっても阻害された。これとは対照的に、上記阻害剤は、プロサポシン(図9C)、βAPP(図9D)、t−TGアーゼ(図9E)または補体C3(図9F)のプロモーターからの基底発現に対して、殆どまたは全く効果を示さなかったが、IPTGの存在下ではこれらのプロモーターの誘導を阻害した。これらの結果は、p300/CBPとNFκBがすべての被験プロモーターのp21による誘導に関与していることを示す。
【実施例11】
【0107】
p21媒介性遺伝子誘導を阻害するための非ステロイド抗炎症剤の使用
臨床用途において最も研究の進んでいるNFκB阻害剤は、アスピリン、サリチル酸ナトリウム及びスリンダクなどの、ある種の非ステロイド抗炎症剤(NSAID)である。(KoppとGhosh、1994年、Science 第265間:956〜959頁;Yinら、1998年、Nature 第396巻:77〜80頁;Yamamotoら、1999年、J.Biol.Chem.第274巻:27307〜27314頁)。上記実施例9に記載のLuNK4p21細胞系列を用いて、これらの細胞系列におけるp21によるルシフェラーゼ活性の誘導を、NFκB阻害活性を有するNSAIDによって阻害することができるかどうかを調べた。
【0108】
ルシフェラーゼ活性アッセイは、実質的に実施例9に記載されるように実施した。ルシフェラーゼ活性は、50μM IPTGの存在下または非存在下で16時間インキュベーションし、20mMサリチル酸ナトリウム、1mMスリンダク、または10mMアスピリンの存在下または非存在下でさらに20時間処理した後に測定した。さらに、NFκBを阻害しない2つのNSAID、すなわちインドメタシンとイブプロフェン(それぞれ25μMで)についても試験した(Yamamotoら、1999年、同書中)。NSAID濃度は、これらの薬剤が抗炎症特性に必要とする、患者の血清中の当該薬剤の薬理学的濃度に基づいたものとした(Yinら、1998年、同書中)。
【0109】
これらのアッセイの結果が図10に示されている。IPTGは、NSAIDの非存在下においてルシフェラーゼ活性を約3〜4倍増加させたが、この誘導はサリチル酸塩、スリンダクまたはアスピリンの存在下ではほぼ完全に無効化されていた。これとは対照的に、インドメタシン及びイブプロフェンは、IPTGによるルシフェラーゼの誘導に顕著な違いを与えなかった。
【0110】
NFκB阻害性NSAIDが、NK4プロモーターからの転写の誘導だけでなく、内在性のp21誘導可能な遺伝子のRNA発現も阻害したかどうかを確かめるために、LuK4p21細胞を6ウェルプレートに1ウェルあたり125,000細胞となるように播種し、250μM、500μMまたは1mM濃度のスリンダクの存在下または非存在下にて、50μM IPTG処理するか、または未処理のまま48時間(p21誘導可能遺伝子の最大刺激に必要とされる時間;Changら、2000年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第97巻:4291〜4296頁)おいた。このインキュベーション後、Qiagen RNeasy Mini Kitを用いて細胞からRNAを抽出し、そして、いくつかのp21誘導可能遺伝子の相対RNAレベルは、cDNA標準化のためにβ−ミクログロビンではなくβアクチンを用いたことを除いては基本的にNoonanら(1990年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第87巻:7160〜7164頁)に記載されるようにして、逆転写−PCR(RT−PCR)によって決定した。被験遺伝子のそれぞれに対するPCRプライマーの配列が表IVaに示されている。PCRサイクルは以下の通りである。1サイクル目は、変性のための3分間と、アニーリングのための30秒間と、伸長のための2分間とからなり、残りのサイクルは、変性のための30秒間と、アニーリングのための30秒間と、伸長のための1分間からなるものとした。PCRサイクルの温度条件及びPCR産物のサイズは、表IVbに示されている。
【0111】
RT−PCR分析の結果が図11に示されている。NK4(このNK4のプロモーターは、LuNK4p21細胞においてルシフェラーゼ発現を駆動するために用いられた)に対しては、スリンダクの添加はIPTG非存在下における遺伝子発現に僅かな効果しか与えなかったが、すべてのスリンダク濃度で、IPTG存在下におけるNK4RNAレベルの用量依存性低下が見られた。非常によく似た結果がt−TGアーゼRNAを用いた場合にも得られた。他のすべての被験遺伝子を用いた場合に、スリンダクはIPTG非存在下において遺伝子発現の用量依存性低下を与えた。この効果の結果として、スリンダクの最高試験用量(1mM)では、IPTG存在下における遺伝子発現が低下しなかったが、それより低いスリンダク用量においてはIPTG効果に顕著な低下が見られた。特に、IPTGの効果は、APP遺伝子については250及び500μMスリンダクによって減少したが、p66Shc、CTGF及びMac2結合蛋白質(Mac2−BP)については、250μMスリンダクによる場合のみ減少した。どの被験スリンダク濃度も、プロサポシンまたはスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)のIPTG誘導性RNAレベルに顕著な低下を与えなかった。プロサポシンに対するスリンダク効果の欠如は、プロサポシンプロモーターに対するIKK阻害剤の穏やかな効果と一致するものである(上記実施例10を参照)。したがって、スリンダクの中用量(250μM)では、被験遺伝子の殆どに対してp21の転写誘導能が阻害される。
【表4】

【表5】

【0112】
上記の結果から、p21誘導可能な遺伝子のプロモーターからのレポーター発現のp21媒介性誘導の阻害アッセイによって、発癌及び老化関連疾病に伴う遺伝子のp21媒介性誘導を阻害する物質を同定することができることが実証された。特に、LuNK4p21細胞系列を用いたプロモーターに基づくアッセイにおいて有効な阻害剤であると初めて同定された物質(スリンダク)は、いくつかの老化関連遺伝子のp21による誘導を阻害することが発見された。これらの結果は、さらに、NFκB阻害剤として有効なNSAIDが、CDK阻害剤による老化関連疾病の誘導を防止することができることを実証した。
【0113】
CDK阻害剤による転写の誘導を阻害する物質は、アルツハイマー病、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、及び関節炎を含む老化関連疾病の化学的予防または発症の遅延に対して臨床的に有用であり得る。さらに、そのような化合物は、当該化合物の有する分泌増殖因子(CTGFなど)の発現に対する効果により、癌の治療または予防における有用性を有し得る。実際に、NFκB阻害活性を有するNSAIDについての入手可能な臨床データは、この範囲の用途を支持している。したがって、スリンダク、アスピリン、及びサリチル酸塩を含むいくつかのNSAIDが、大腸癌や様々な種類の癌における化学的予防価値を有することが示され、大腸ポリープの消失を促進した(「CANCER.PRINCIPLES&PRACTICE OF ONCOLOGY」、DeVitaら編、Lippincott−Raven:フィラデルフィア、599〜607頁の中の、Leeら、1997年、「アスピリンとその他の非ステロイド性抗炎症薬の使用と癌発生の危険性」)。また、アスピリン及び他のNSAIDを使用して、アルツハイマー病の危険性が低下することが示されている(Stewartら、1997年、Neurology、第48巻:626〜632頁)。長期のアスピリン治療によって、アテローム性動脈硬化症の発生率が低下するという報告もある(Sloop、1998年、Angiology第49巻:827〜832頁)。最後に、スリンダクは、関節炎の治療において臨床効果が証明されている最も一般的に用いられている薬剤の1つである(Brogdenら、1978年、Drugs第16巻:97〜114頁)。NSAIDのこれらの有益な効果のいくつかが、それらの持つシクロオキシゲナーゼ2阻害剤としての活性によるものであることが示されているが(Pennisi,1998年、Science 第280巻:1191〜1192頁)、本明細書に開示した結果は、これらの臨床活性が、おそらくは上記化合物のNFκB阻害活性を介した、p21によって誘導される遺伝子発現の阻害によるのではないかという可能性を示唆する。本発明によって提供されるアッセイ系及びスクリーニング系により、当業者は、この活性の向上のために様々なNSAID誘導体を試験することができるようになる。さらに、これらの結果は、NFκB及びp300/CBP阻害剤の一般的なカテゴリーを、癌及び老化関連疾病の化学的予防または治療のための物質として用いることの基礎を提供する。
【実施例12】
【0114】
p16及びp27によるp21誘導可能遺伝子のプロモーターの刺激
実施例7において実証したように、p21誘導可能遺伝子の発現は、他のCDK阻害剤、p16Ink4A及びp27Kip1によっても上方制御される。p21誘導可能な遺伝子のプロモーターが、これらのCDK阻害剤によって刺激されるかどうかを判定するために、実施例8に記載のpNFκB−Luc及びプロモーター - ルシフェラーゼ構築物を、実施例6に記載されている、p16のIPTG誘導可能発現を有するか(PT1080p16−5)またはp27のIPTG誘導可能発現を有する(PT1080p27−2)HT1080類縁体にトランスフェクションした。次にこれらのプロモーターの発現に対するIPTGの効果を、実施例8のp21−誘導可能系列に対して記載したようにして分析した。
【0115】
pNFκB−LucからのNFκB−依存性発現は、p16(図12A)またはp27(図13A)の誘導によって強く刺激された。p27の場合、NFκBに対して観察された誘導の特異性は、基底発現及びIPTG誘導発現の両方を強く阻害したIKK阻害剤とのコトランスフェクションによっても実証された(図13A)。これらの結果は、p21のような上記CDK阻害剤がNFκB活性を刺激することを実証する。さらに、p21誘導可能遺伝子のすべての被験プロモーターは、p16またはp27によっても上方制御された。特に、IPTGによって誘導されるp16発現は、補体C3(図12B)、SAA(図12C)、t−TGアーゼ(図12D)及びNK4(図12E)のプロモーターからのレポーター発現の誘導も導いた。IPTGによって誘導されるp27発現は、補体C3(図13B)、βAPP(図13C)、t−TGase(図13D)及びNK4(図13E)のプロモーターを強く誘導した。これらの発見は、p21誘導可能なプロモーターが、p21によってだけでなく、p16やp27などの他のCDK阻害剤によっても活性化されることを示している。
【0116】
上記開示は本発明のある特定の実施形態を強調するものであって、これらに対するすべての変更または代替は、添付の請求項に記載される本発明の精神及び範囲に含まれると理解すべきである。
【表6】


【表7】


【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1は、ヒトHP1080線維肉腫細胞系列変種HT1080 p21−9を生産するために用いたIPTGによって調節されるレトロウィルスベクターLNp21CO3の模式図である。
【図2】図2Aは、50μM IPTGを添加した後の、p21誘導の経時変化を示したグラフであり、p21のレベルはELISAによって測定されている。図2Bは、IPTG除去後のp21減衰の経時変化を示したグラフである。
【図3A】図3Aは、RT−PCR実験(左)、細胞mRNA発現のノーザンブロット分析(中央)、及び表示された遺伝子の発現のIPTG誘導性変化に対するイムノブロッティングアッセイ(右)のゲル電気泳動パターンの写真であり、「C」は対照の未処理HT1080 p21−9細胞であり、「I」は50μM IPTGで3日間処理した細胞である。β2−ミクログロブリン(β2−M)をRT−PCRに対する標準化対照として用い、S14リボソーム蛋白質をノーザンハイブリダイゼーションのために用いた。
【図3B】図3Bは、IPTGを添加及び除去した場合の表示したp21によって阻害される遺伝子の発現における経時変化を示す、RG−PCR実験(左)及びイムノブロッティング分析(右)のゲル電気泳動の写真である。
【図3C】図3Cは、IPTGを添加及び除去した場合の表示したp21によって阻害される遺伝子の発現における経時変化を示す、RG−PCR実験(左)及びイムノブロッティング分析(右)のゲル電気泳動の写真である。
【図3D】図3Dは、未処理の対照HT1080 p21−9細胞(C)、血清不足静止細胞(Q)及びIPTG処理老化細胞(I)の間での遺伝子発現の比較である。
【図4】図4は、ヒトHP1080線維肉腫細胞系列変種HT1080/LNp16RO2を生産するために用いたIPTGによって調節されるレトロウィルスベクターLNp16RO2の模式図である。
【図5】図5Aおよび5Bは、50μM IPTGを添加時の、HT1080 p16−5(図5A)またはHT1080 p27−2(図5B)細胞の細胞周期分布の変化を示した模式図である。
【図6】図6Aおよび6Bは、HT1080 p16−5細胞におけるp16(図6A)またはHT1080 p27−2細胞におけるp27(図6B)のIPTG誘導性発現時における、表示された遺伝子の発現のIPTG誘導性変化を検出するためのRT−PCR実験のゲル電気泳動パターンの写真であり、「−」は対照細胞であり、「+」は50μM IPTGで3日間処理した細胞である。β−アクチンをRT−PCRのための標準化対照として用いた。
【図7】図7は、HT1080 p21−9細胞におけるp21誘導の、示されたp21誘導可能遺伝子のプロモーターによって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現に対する影響を示した図である。50μM IPTGの存在下または非存在下で2日間(プロサポシンプロモーターの場合)または3日間(他のすべてのプロモーターの場合)培養した後、一過性トランスフェクションの後に、アッセイを実施した。アッセイは、3回(プロサポシンの場合)または4回(他のすべてのプロモーターの場合)実施した。
【図8】図8Aおよび8Bは、24時間のIPTG処理後のLuNK4p21細胞系列におけるルシフェラーゼ発現のIPTG用量依存性と(図8A)、50μM IPTG添加時のルシフェラーゼ発現の経時変化(図8B)とを示すグラフである。
【図9】図9A〜9Gは、NFκB依存性プロモーター(図9A)または表示したp21誘導可能遺伝子のプロモーター(図9B〜図9G)によって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現に対する、HT1080 p21−9細胞内のp21誘導の影響を示している。プロモーター - レポーター構築物は、NFκBの優勢な阻害剤(IKK)、p300/CBPを阻害するC欠失E1A変異体(E1AΔCR2)、またはE1Aの非機能性N及びC欠失変異体(E1AΔN/ΔCR2)を発現するベクターと、1:2のモル比で混合した。ルシフェラーゼレベルは、IPTGの存在下または非存在下において3日後に測定し、コトランスフェクションされたpRL−CMVプラスミドから発現されたウミシイタケルシフェラーゼのレベル(図9C)または細胞蛋白質のレベルのいずれかによって標準化した。実験は3回実施した。
【図10】図10は、IPTGの存在下及び非存在下で様々な量のNSAIDとともにインキュベーションしたLuNK4p21細胞におけるルシフェラーゼ活性の棒グラフを示す。
【図11】図11は、様々な量のスリンダクによる表示された遺伝子の発現におけるIPTGに誘導性変化の阻害を検出するための、LuNK4p21を用いたRT−PCR実験のゲル電気泳動パターンの写真である。β−アクチンをRT−PCRのための標準化対照として用いた。
【図12】図12A〜12Eは、HT1080 p16−5細胞における、NFκB依存性プロモーター(図12A)または表示したp21誘導可能な遺伝子のプロモーター(図12B〜12E)によって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現に対する、p16誘導の影響を示す図を示す。ルシフェラーゼレベルは、IPTGの存在下または非存在下において3日後に測定し、コトランスフェクションされたpRL−CMVプラスミドから発現されたウミシイタケルシフェラーゼのレベルによって標準化した。図12A及び図12Eの実験は3回ずつ実施し、図12B、12C及び12Dは1点のみで実施した。
【図13】図13A〜13Eは、HT1080 p27−2細胞における、NFκB依存性プロモーター(図13A)または表示したp21誘導可能な遺伝子のプロモーター(図13B〜13E)によって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現に対する、p27誘導の影響を示す図を示す。図13Aにおいて、プロモーター - レポーター構築物は、NFκBの優勢な阻害剤(IKK)を発現するベクターと、1:2のモル比で混合した。ルシフェラーゼレベルは、IPTGの存在下または非存在下において3日後に測定し、コトランスフェクションされたpRL−CMVプラスミドから発現されたウミシイタケルシフェラーゼのレベルによって標準化した。すべての実験は3回実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクリン依存性キナーゼ阻害剤によって誘導される哺乳動物遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結された、レポーター遺伝子をコードする組み換え発現構築物。
【請求項2】
レポーター遺伝子が、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光蛋白質、またはアルカリホスファターゼをコードすることを特徴とする、請求項1に記載の組み換え発現構築物。
【請求項3】
プロモーターが、CDK阻害剤によって誘導されるヒト遺伝子に由来するプロモーターであることを特徴とする、請求項1に記載の組み換え発現構築物。
【請求項4】
プロモーターが、表IIに示されるヒト遺伝子に由来するプロモーターであることを特徴とする、請求項3に記載の組み換え発現構築物。
【請求項5】
プロモーターが、血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、結合組織増殖因子(配列番号:3)、インテグリンβ−3(配列番号:4)、アクチビンA(配列番号:5)、ナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、プロサポシン(配列番号:7)、Mac2結合蛋白質(配列番号:8)、ガレクチン−3(配列番号:9)、スーパーオキシドジスムターゼ2(配列番号:10)、グラニュリン/エピテリン(配列番号:11)、p66shc(配列番号:12)、カテプシンB(配列番号:14)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、クラステリン(配列番号:17)、プロスタサイクリン刺激因子(配列番号:18)、血管内皮細胞増殖因子−C(配列番号:19)、及びメタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤(配列番号:20)に由来するプロモーターであることを特徴とする、請求項4に記載の組み換え発現構築物。
【請求項6】
プロモーターが、ヒトナチュラルキラー細胞蛋白質4(配列番号:6)、血清アミロイドA(配列番号:1)、補体C3(配列番号:2)、組織トランスグルタミナーゼ(t−TGアーゼ;配列番号:16)、β−アミロイド前駆体蛋白質(配列番号:15)、またはプロサポシン(配列番号:7)に由来するプロモーターであることを特徴とする、請求項4に記載の組み換え発現構築物。
【請求項7】
組み換え発現構築物はpLuNK4であることを特徴とする、請求項4に記載の組み換え発現構築物。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7に記載の組み換え発現構築物を含む哺乳動物細胞。
【請求項9】
A.T.C.C受託番号PTA3381(HT1080 LuNK4921)で識別される、請求項8の哺乳動物細胞。
【請求項10】
組み換え発現構築物の発現がNFκBによって調節されることを特徴とする、請求項8に記載の哺乳動物細胞。
【請求項11】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の哺乳動物細胞。
【請求項12】
CDK阻害剤の発現が前記哺乳動物細胞内で実験的に誘導されることを特徴とする、請求項11に記載の哺乳動物細胞。
【請求項13】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする組み換え発現構築物が、誘導可能なプロモーターの転写制御下にあり、組み換え発現構築物からのCDK阻害剤の発現が、組み換え細胞と誘導可能なプロモーターからの転写を誘導する誘導剤とを接触させることによって媒介されるか、あるいは当該プロモーターからの転写を阻害する物質を除去することによって媒介されることを特徴とする、請求項11に記載の哺乳動物細胞。
【請求項14】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子が、ヒトp21またはそのCDK結合断片であることを特徴とする、請求項13に記載の哺乳動物細胞。
【請求項15】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子が、ヒトp16またはそのCDK結合断片であることを特徴とする、請求項13に記載の哺乳動物細胞。
【請求項16】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子が、マウスまたはヒトのp27遺伝子またはそのCDK結合断片であることを特徴とする、請求項13に記載の哺乳動物細胞。
【請求項17】
細菌ラクトースリプレッサーをコードする組み換え発現構築物をさらに含み、その転写が哺乳動物プロモーターによって制御され、哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする組み換え発現構築物がラクトースリプレッサー応答プロモーター要素を含み、CDK阻害剤遺伝子の転写が前記ラクトースリプレッサー応答プロモーター要素によって制御され、及び、組み換え発現構築物からのCDK阻害剤遺伝子の発現が組み換え細胞をラクトースリプレッサー特異的誘導剤と接触させることによって媒介されることを特徴とする、請求項13に記載の哺乳動物細胞。
【請求項18】
細胞がヒトHT1080線維肉腫細胞であることを特徴とする、請求項8に記載の哺乳動物細胞。
【請求項19】
細胞がヒトHT1080線維肉腫細胞であることを特徴とする、請求項11に記載の哺乳動物細胞。
【請求項20】
細胞がヒトHT1080線維肉腫細胞であることを特徴とする、請求項17に記載の哺乳動物細胞。
【請求項21】
第2の発現構築物がLNp21CO3であることを特徴とする、請求項11に記載の哺乳動物細胞。
【請求項22】
A.T.C.C受託番号PTA1664(HT1080 p21−9)で識別される、請求項21に記載の哺乳動物細胞。
【請求項23】
第2の発現構築物がLNp16RO2であることを特徴とする、請求項11に記載の哺乳動物細胞。
【請求項24】
A.T.C.C受託番号_____(HT1080 p16−5)で識別される、請求項23に記載の哺乳動物細胞。
【請求項25】
第2の発現構築物がLNp27RO2であることを特徴とする、請求項11に記載の哺乳動物細胞。
【請求項26】
A.T.C.C受託番号_____(HT1080 p27−2)で識別される、請求項25に記載の哺乳動物細胞。
【請求項27】
ラクトースリプレッサー特異的誘導剤がβ−ガラクトシドであることを特徴とする、請求項17に記載の哺乳動物細胞。
【請求項28】
哺乳動物細胞内でCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を阻害する化合物の同定方法であって、以下の工程:
(a)請求項8に記載の組み換え哺乳動物細胞を、当該化合物の存在下または非存在下において哺乳動物細胞内でCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の発現を誘導する条件下で培養する工程と;
(b)化合物の存在下での前記細胞におけるレポーター遺伝子の発現と、化合物の非存在下での前記細胞におけるレポーター遺伝子の発現とを比較する工程;および
(c)化合物の非存在下よりも化合物の存在下においてレポーター遺伝子発現が低い場合に、当該化合物がCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を阻害すると同定する工程;
を含む方法。
【請求項29】
前記細胞内でCDK阻害剤の発現を誘導する条件下で、細胞が培養されることを特徴とする、請求項28の方法。
【請求項30】
CDK阻害剤がp21、p27、もしくはp16、またはそのCDK結合断片であることを特徴とする、請求項29の方法。
【請求項31】
細胞が哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物をさらに含むことを特徴とする、請求項28の方法。
【請求項32】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする第2の組み換え発現構築物は誘導可能なプロモーターの転写制御下にあり、組み換え発現構築物からのCDK阻害剤の発現が、組み換え細胞と誘導可能なプロモーターからの転写を誘導する誘導剤とを接触させることによって媒介されるか、あるいは当該プロモーターからの転写を阻害する物質を除去することによって媒介されることを特徴とする、請求項31の方法。
【請求項33】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子がヒトp21またはそのCDK結合断片であることを特徴とする、請求項32の方法。
【請求項34】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子がヒトp16またはそのCDK結合断片であることを特徴とする、請求項32の方法。
【請求項35】
哺乳動物CDK阻害剤遺伝子がヒトp27遺伝子またはそのCDK結合断片であることを特徴とする、請求項32の哺乳動物細胞。
【請求項36】
細胞がヒトHT1080線維肉腫細胞であることを特徴とする、請求項32の方法。
【請求項37】
細菌ラクトースリプレッサーをコードする組み換え発現構築物をさらに含み、その転写が哺乳動物プロモーターによって制御され、哺乳動物CDK阻害剤遺伝子をコードする組み換え発現構築物がラクトースリプレッサー応答プロモーター要素を含み、CDK阻害剤遺伝子の転写が前記ラクトースリプレッサー応答プロモーター要素によって制御され、及び、組み換え発現構築物からのCDK阻害剤遺伝子の発現が組み換え細胞をラクトースリプレッサー特異的誘導剤と接触させることによって媒介されることを特徴とする、請求項32の方法。
【請求項38】
細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害する化合物を同定するため方法であって、以下の工程:
(a)哺乳動物細胞においてCDK阻害剤の発現を生み出す工程;
(b)化合物の存在下において、該細胞について、CDK阻害剤によって発現が調節される細胞遺伝子の発現におけるアッセイする工程;および
(c)工程(b)の細胞遺伝子発現の変化の程度が化合物の存在下での方が小さい場合に、その化合物を、細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性調節の阻害剤として同定する工程;
を含む方法。
【請求項39】
CDK阻害剤がp16,p27またはp21であることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項40】
哺乳動物細胞が誘導可能な異種プロモーターの転写制御下にある哺乳動物CDK阻害剤をコードする組み換え発現構築物を含み、組み換え発現構築物からのCDK阻害剤の発現が、組み換え細胞と誘導可能プロモーターからの転写を誘導する誘導剤とを接触させることによって媒介されるか、あるいはそのようなプロモーターからの転写を阻害する物質を除去することによって媒介されることを特徴とする、請求項39の方法。
【請求項41】
CDK阻害剤がp16であることを特徴とする、請求項40の方法。
【請求項42】
CDK阻害剤がp21あることを特徴とする、請求項40の方法。
【請求項43】
CDK阻害剤がp27であることを特徴とする、請求項40の方法。
【請求項44】
細胞遺伝子の発現がp21によって誘導されることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項45】
細胞遺伝子の発現がp16によって誘導されることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項46】
細胞遺伝子の発現がp27によって誘導されることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項47】
細胞遺伝子が表IIに示されることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項48】
細胞遺伝子が表IIに示されることを特徴とする、請求項40の方法。
【請求項49】
細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬を用いて検出されることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項50】
細胞遺伝子の発現が、細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出されることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項51】
細胞遺伝子の発現が、相補的核酸へのハイブリダイゼーションによって検出されることを特徴とする、請求項38の方法。
【請求項52】
哺乳動物細胞において細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害する化合物を同定するための方法であって、以下の工程:
(a)哺乳動物細胞を化合物の存在下または非存在下において試薬で処理するか、あるいは哺乳動物細胞を、老化を誘導する条件下で培養する工程;
(b)哺乳動物細胞について、CDK阻害剤遺伝子発現によって誘導される遺伝子の誘導をアッセイする工程;および
(c)CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導の程度が、化合物の非存在下よりも化合物の存在下での方が小さければ、当該化合物を、細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導の阻害剤と同定する工程;
を含む方法。
【請求項53】
CDK阻害剤がp21、p16またはp27であることを特徴とする、請求項52の方法。
【請求項54】
遺伝子が表IIに示されていることを特徴とする、請求項52の方法。
【請求項55】
細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬を用いて検出されることを特徴とする、請求項52の方法。
【請求項56】
細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることによって検出されることを特徴とする、請求項52の方法。
【請求項57】
細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションによって検出されることを特徴とする、請求項52の方法。
【請求項58】
哺乳動物細胞において細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害する化合物を同定する方法であって、以下の工程:
(a)化合物の存在下または非存在下において哺乳動物細胞を試薬に接触させるか、あるいは哺乳動物細胞を、老化を誘導する条件下で培養する工程であって、細胞はCDK阻害剤によって発現が調節される哺乳動物遺伝子に対するプロモーターの転写制御下にあるレポーター遺伝子を含む工程;
(b)細胞について、レポーター遺伝子の発現の変化をアッセイする工程;および
(c)レポーター遺伝子発現の変化の程度が、化合物の非存在下よりも化合物の存在下で小さい場合に、その化合物を細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導の阻害剤として同定する工程;
を含む方法。
【請求項59】
CDK阻害剤がp21、p16またはp27であることを特徴とする、請求項58の方法。
【請求項60】
遺伝子が表IIに示されていることを特徴とする、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬を用いて検出されることを特徴とする、請求項58の方法。
【請求項62】
細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることによって検出されることを特徴とする、請求項58の方法。
【請求項63】
細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションによって検出されることを特徴とする、請求項58の方法。
【請求項64】
細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害するための方法であって、細胞を、請求項28に記載の方法に従って得られた化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項65】
細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害するための方法であって、細胞を、請求項38に記載の方法に従って得られた化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項66】
細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害するための方法であって、細胞を、請求項52に記載の方法に従って得られた化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項67】
細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害するための方法であって、細胞を、請求項58に記載の方法に従って得られた化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項68】
細胞遺伝子発現のCDK阻害剤媒介性誘導を阻害するための方法であって、細胞を、有効量のNFκB活性を阻害する化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項69】
CDK阻害剤によって誘導される遺伝子誘導を伴う動物における疾病を治療するための方法であって、動物に、NFκB活性を阻害する有効量の非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)を投与する工程を含む方法。
【請求項70】
疾病が大腸癌以外の癌であることを特徴とする、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
疾病が腎不全であることを特徴とする、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
疾病はアルツハイマー病であり、NSAIDはアスピリンまたはサリチル酸塩以外であることを特徴とする請求項69に記載の方法。
【請求項73】
疾病はアテローム性動脈硬化症であり、NSAIDはアスピリン以外であることを特徴とする請求項69に記載の方法。
【請求項74】
疾病は関節炎であり、NSAIDはアスピリン、スリンダクまたはサリチル酸塩以外であることを特徴とする請求項69に記載の方法。
【請求項75】
哺乳動物細胞における老化の病原性結果に関与する遺伝子を阻害する化合物であって、前記化合物が、
(a)哺乳動物細胞を化合物の存在下において試薬で処理するか、あるいは哺乳動物細胞を、老化を誘導する条件下で培養する工程;
(b)哺乳動物細胞について、CDK阻害剤遺伝子発現によって誘導される遺伝子の誘導をアッセイする工程;および
(c)CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導の程度が化合物の存在下での方が小さいならば、その化合物を老化の阻害剤と同定する工程;
を含む方法によって得られることを特徴とする化合物。
【請求項76】
CDK阻害剤がp21、p16またはp27であることを特徴とする、請求項69の化合物。
【請求項77】
哺乳動物細胞におけるCDK阻害剤によって誘導される遺伝子産物の産生を阻害する化合物であって、前記化合物が、
(a)哺乳動物細胞を化合物の存在下において試薬で処理するか、あるいは哺乳動物細胞をCDK阻害剤の発現を誘導する条件下で培養する工程;
(b)哺乳動物細胞について、CDK阻害剤遺伝子発現によって誘導される遺伝子の誘導をアッセイする工程;
(c)CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導の程度が化合物の存在下での方が小さいならば、その化合物をCDK阻害剤誘導の阻害剤と同定する工程;
を含む方法によって得られることを特徴とする化合物。
【請求項78】
CDK阻害剤はp21、p16またはp27であることを特徴とする、請求項77の化合物。
【請求項79】
哺乳動物細胞において抗アポトーシス因子または分裂促進因子の産生を阻害するための方法であって、細胞を、CDK阻害剤による遺伝子発現の誘導を阻害する化合物と接触させる工程を含む方法。
【請求項80】
哺乳動物細胞が間質線維芽細胞であることを特徴とする、請求項79の方法。
【請求項81】
化合物がNFκB阻害剤またはp300/CPB阻害剤であることを特徴とする、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
CDK阻害剤によって誘導される遺伝子発現に伴う疾病の影響を防止または改善するために動物を治療するための方法であって、これを必要とする動物に、請求項28、38、52または58の方法に従って同定される化合物の医薬組成物を、治療上有効な用量で投与する工程を含む方法。
【請求項83】
哺乳動物細胞においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の発現を阻害または防止する方法であって、哺乳動物細胞と、請求項28、38、52または58の方法に従って同定される、CDK阻害剤によって誘導される遺伝子の発現を阻害または防止するのに有効な量の化合物とを、接触させる工程を含む方法。
【請求項84】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、当該治療が必要な動物にNFκBを投与することを含む方法。
【請求項85】
NFκB阻害剤が非ステロイド系抗炎症化合物であることを特徴とする、請求項84の方法。
【請求項86】
動物がヒトであることを特徴とする、請求項85の方法。
【請求項87】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、動物に請求項28の方法によって得られる化合物を投与することを含む方法。
【請求項88】
動物がヒトであることを特徴とする、請求項87の方法。
【請求項89】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、動物に請求項38の方法によって得られる化合物を投与することを含む方法。
【請求項90】
動物はヒトであることを特徴とする、請求項89の方法。
【請求項91】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、動物に請求項52の方法によって得られる化合物を投与することを含む方法。
【請求項92】
動物はヒトであることを特徴とする、請求項91の方法。
【請求項93】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、動物に請求項58の方法によって得られる化合物を投与することを含む方法。
【請求項94】
動物がヒトであることを特徴とする、請求項93の方法。
【請求項95】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、動物に請求項75の方法によって得られる化合物を投与することを含む方法。
【請求項96】
動物がヒトであることを特徴とする、請求項95の方法。
【請求項97】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、動物に請求項28、38、52または58の方法によって得られる化合物を投与することを含む方法。
【請求項98】
動物がヒトであることを特徴とする、請求項97の方法。
【請求項99】
動物においてCDK阻害剤によって誘導される遺伝子の誘導を選択的に阻害するための方法であって、動物に請求項77に記載の化合物を投与することを含む方法。
【請求項100】
動物がヒトであることを特徴とする、請求項99の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A.B】
image rotate

【図9C.D】
image rotate

【図9E.F】
image rotate

【図9G】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−77705(P2009−77705A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−188258(P2008−188258)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【分割の表示】特願2002−566385(P2002−566385)の分割
【原出願日】平成14年2月1日(2002.2.1)
【出願人】(503060525)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (25)
【Fターム(参考)】