説明

CDMA通信システムにおける移動加入者局の位置特定方法およびシステム

【課題】既存のCDMAシステムで利用可能なデータを用いて移動加入者局の現在位置を高精度で特定するシステムを提供する。
【解決方法】この発明はCDMA通信システムの中で加入者局ユニットの地理的位置を特定する。少なくとも一つの基地局からその基地局に特有のチップ符号系列によるスペクトラム拡散信号を送信する。加入者局ユニットはその基地局からの信号を受信し、その基地局信号の前記チップ符号系列と同期した特有のチップ符号系列によるスペクトラム拡散信号を送信する。基地局はその加入者局ユニットからの信号を受信し、その加入者局ユニット信号のチップ符号系列を基地局送信のチップ符号系列と比較して加入者局ユニットの位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は概括的にはスペクトラム拡散符号分割多元接続(CDMA)通信システムに関する。より詳細に言うと、この発明はCDMA通信システム内にある加入者局の地理的位置を算定するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加入者局の位置を特定できる無線システムは既に周知である。無線による一つの手法では衛星測位システム(GPS)を用いる。GPSでは、24基のNAVSTAR衛星から継続的に送信されるデータをハンドセットで受信する。各衛星はその衛星の識別情報および位置並びに情報送出時刻を表すデータを送信する。ハンドセットは各信号の受信時刻と送信時刻とを比較して各衛星までの距離を算定する。衛星までの距離の算定値と各衛星の位置とに基づいてハンドセットは三角測量により自分の位置を特定し基地局にその情報を供給できる。しかし、加入者局ユニットの中にGPSを組み入れるとコスト上昇を招く。
【0003】
加入者局位置特定のもう一つの手法は米国特許第5,732,354号に開示されている。時分割多元接続(TDMA)を無線インタフェースとして用いた移動電話ユニットを複数の基地局の稼働範囲内に位置づける。移動電話ユニットはこれら基地局の各々からの受信信号の信号強度を測定し、それら信号強度測定値を基地局にそれぞれ送信する。基地局の送信したそれら信号強度測定値を移動加入者局の電話交換センターで比較して信号処理する。その結果、移動電話ユニットと各基地局との間の距離が算出される。これらの距離の値から移動電話ユニットの位置を算出する。
【0004】
スペクトラム拡散変調技術を用いた無線通信システムが普及してきた。符号分割多元接続(CDMA)通信システムでは、擬似ランダムチップ符号系列でデータを変調することにより、広い帯域(拡散スペクトラム)を用いてデータを伝送する。それに伴う利点は、CDMAシステムが従来型の時分割多元接続(TDMA)手法や周波数分割多元接続(FDMA)手法による通信システムよりも伝送経路における信号歪および干渉を生じにくいことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP 0 865 223
【特許文献2】US 5 736 964
【特許文献3】US 5 600 706
【特許文献4】WO 98 18018
【特許文献5】WO 97 47148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存のCDMA通信システムで既に利用可能になっているデータを用いた高精度の加入者局位置特定システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明はCDMA通信システム内の加入者局の地理的位置を算定する。少なくとも一つの基地局からその基地局に特有のチップ符号系列でスペクトラム拡散した信号を送信する。その基地局からの信号を加入者局で受信し、その受信信号のチップ符号系列と同期した特有のチップ符号系列でスペクトラム拡散した信号を送信する。基地局はその加入者局信号を受信してその受信した加入者局信号のチップ符号系列を基地局からのチップ符号系列と比較して加入者局の位置を算定する。
【発明の効果】
【0008】
既存のCDMA通信システムによる高精度の加入者位置特定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】単純化した従来技術によるCDMA通信システムの説明図。
【図2】従来技術によるCDMA通信システムの説明図。
【図3】従来技術によるCDMA通信システムの中の主な構成部分のブロック図。
【図4】従来技術によるCDMA通信システムの中の構成部分のブロック図。
【図5】基地局と加入者局ユニットとの間で授受されているグローバルパイロット信号および割当てパイロット信号の説明図。
【図6】少なくとも三つの基地局を用いたこの発明の第1の実施例のブロック図。
【図7】少なくとも三つの基地局によるこの発明の第1の実施例を用いた加入者局ユニットの位置特定の説明図。
【図8】加入者局ユニット内構成部分を示すこの発明の第2の実施例のブロック図。
【図9】二つの基地局によるこの発明の第2の実施例を用いた加入者局ユニットの位置特定の説明図。
【図10】三つ以上の基地局によるこの発明の第2の実施例を用いた加入者局ユニットの位置特定の説明図。
【図11】複数アンテナ付きの基地局によるこの発明の第3の実施例の詳細な説明図。
【図12】複数アンテナ付きの基地局による第3の実施例の説明図。
【図13】第3の実施例に用いた構成部分のブロック図。
【図14】マルチパスの説明図。
【図15】マルチパス成分の通常のインパルス応答特性図。
【図16】マルチパス補正用の第4の実施例の構成部分のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
同じ構成要素には全図を通じて同じ参照数字を付けて示した図面を参照してこの発明の好ましい実施例を説明する。
【0011】
単純化したCDMAシステムを図1に示す。所定の帯域幅を有するデータ信号を擬似ランダムチップ符号系列発生器からの拡散符号と混合してディジタルスペクトラム拡散信号を生ずる。受信側で、データの送信に用いたものと同じ擬似ランダムチップ符号系列と相関をとってデータを再生する。伝送帯域幅の中で逆拡散されつつある信号にとって、同帯域幅の中の他の信号はすべて雑音となる。
【0012】
受信機との同期をとるために送信機の各々に非変調パイロット信号が必要になる。このパイロット信号はそれぞれの受信機が所定の送信機と同期をとることを可能にし、その受信機におけるトラフィック信号の逆拡散を可能にする。
【0013】
通常のCDMAシステムでは、基地局はグローバルパイロット信号をその交信範囲内の加入者局に送って順方向送信を同期させる。また、例えばB−CDMAシステムなどのCDMAシステムでは、各加入者局が自局特有の割当てパイロット信号を送って逆方向送信を同期させる。
【0014】
図2はCDMA通信システム30を示す。この通信システム30は複数の基地局36、36、・・・、36を含む。これら基地局36、36、・・・、36の各々は固定式または移動式の複数の加入者局ユニット40、40、・・・、40と交信する。加入者局ユニット40、40、…、40の各々は最寄りの基地局36または通信信号強度最大の基地局361と交信する。基地局36、36、・・・、36の各々は、図3に示すとおり、通信システム30内の他の構成部分と交信する。
【0015】
通信システム30の中心には市内交換機32があり、複数の網インタフェースユニット(NIU)34、34、・・・、34と信号授受する。これらNIUの各々は複数の無線搬送波局(RCS)38、38、・・・、38または基地局36、36、・・・、36と信号授受する、RCS38、38、・・・、38または基地局36、36、…、36の各々は各々の交信範囲内の複数の加入者局ユニット40、40、…、40と交信する。
【0016】
図4は既存のスペクトラム拡散CDMA通信システムの本発明関連部分のブロック図である。個々の基地局36、36、…、36の各々は、グローバルパイロットチップ符号発生手段42およびスペクトラム拡散処理手段44を用いて、その基地局に特有のグローバルパイロット信号を発生する。グローバルパイロットチップ符号発生手段42は特有の擬似ランダムチップ符号系列を発生する。この特有の擬似ランダムチップ符号系列は、B−CDMA無線インタフェースの場合のように帯域幅15MHzまで信号スペクトラムを拡散するのに用いられる。上記スペクトラム拡散処理手段はグローバルパイロットチップ符号系列で所望の中心周波数を変調する。このグローバルパイロット信号による被変調信号は基地局の送信機46によりすべての加入者局40に送信される。
【0017】
加入者局ユニット40の中の受信機48は複数の基地局36、36、…、36から利用可能な信号を受信する。図5に示すとおり、グローバルパイロット信号50は基地局36から加入者局ユニット40に伝搬し、その伝搬に要する時間τは、
τ=d/c (式1)
で与えられる。ここでdは基地局36と加入者局ユニット40との間の距離、cは光速である。
【0018】
図4を参照すると、加入者局ユニット40の中のグローバルパイロットチップ符号再生手段54は、複数の基地局36、36、…、36からグローバルパイロットチップ符号系列を受信できる。加入者局ユニット40はグローバルパイロットチップ符号系列のレプリカを発生し、その発生したレプリカを受信グローバルパイロット50と同期させる。加入者局ユニット40はそのユニットの多数の分析機能の達成のためにプロセッサ82も併せ備える。
【0019】
加入者局40は割当てパイロットチップ符号発生手段56およびスペクトラム拡散処理手段58を用いて割当てパイロット信号52を発生する。割当てパイロットチップ符号発生器56は再生グローバルパイロット符号系列と同期した擬似ランダムチップ符号系列を発生する。その結果、割当てパイロットチップ符号系列は基地局36、36、…、36についてτだけ遅延を受ける。スペクトラム拡散プロセス手段58は所望の中心周波数を割当てパイロットチップ符号系列で変調して、割当てパイロット信号52による被変調信号を発生する。この割当てパイロット信号52により被変調信号を交信範囲内のすべての基地局36、36、…、36に送信する。
【0020】
基地局36は自局の受信機62で上記割当てパイロット信号52による被変調搬送波を受信する。受信したこのパイロット信号52による被変調搬送波は図5に示すとおりグローバルパイロット信号50による被変調搬送波と同じ距離dを伝搬する。したがって、受信した割当てパイロット信号は、移動加入者局ユニット40についてはτだけ遅延を受け、基地局36発生のグローバルパイロット信号50については2τだけ遅延を受ける。
【0021】
基地局36で受信した割当てパイロット信号52のチップ符号系列は、基地局36発生のグローバルパイロット信号50のチップ符号系列に対して2τだけ遅延を受けているので、往復伝搬遅延2τは上記二つのチップ符号系列のタイミングの比較によって算定できる。上記往復伝搬遅延2τを用いて基地局36と加入者局ユニット40との間の距離40は、
=c・2τ/2 (式2)
で与えられる。チップ区間少なくとも80nsの拡散系列を用い、通信システムの追跡分解能がチップ区間の1/16である場合は、距離dは2メートル以下の精度で測定できる。
【0022】
図6はこの発明の第1の実施例のブロック図である。加入者ユニット40には追加のハードウェアは不要である。必要な変更は加入者局ユニットのプロセッサ82並びに基地局36、NIU34または市内交換機32、警察分署74、74、…、74および救急車急派所76の中のソフトウェアの変更によって導入する。
【0023】
加入者局ユニット40は、緊急呼出911発呼があったことを表示し加入者局位置特定プロトコルの起動を指示する信号を基地局36から受ける。加入者局40は、この信号を受けると、自局の送信チップ符号系列を少なくとも三つの基地局のチップ符号系列と逐次同期させる。加入者局ユニットの通常の交信範囲の外側にある基地局36、36、…、36に受信できるように、これらの送信は適応型送信電力制御アルゴリズムを一時的に中断させて通常よりも高い送信電力レベルで行う。
【0024】
基地局36、36、…、36の各々の中のプロセッサ66は割当てパイロットチップ符号再生手段64およびグローバルパイロットチップ符号発生器42に接続する。プロセッサ66はこれら二つのチップ符号系列を比較して加入者局ユニット40と基地局36、36、…、36それぞれとの間の往復伝搬遅延τ、τ、…、τおよび距離d、d、…、dを算定する。
【0025】
NIU34または市内交換機32の内部でプロセッサ68は基地局36、36、…、36すべての内部のプロセッサ66、66、…、66からの距離d、d、…、dを受ける。プロセッサ68は距離d、d、…、dを用いて加入者局40の位置を次のとおり算定する。
【0026】
三つの基地局36、36、36の既知の緯度および経度並びに距離d、d、dを用いて、それぞれ半径80、80、80の三つの円78、78、78を描く。これら円78、78、78は基地局36、36、36をそれぞれ中心とする。これら三つの円78、78、78の交線は加入者局ユニット40の位置にある。
【0027】
デカルト座標を用いると、基地局36、36、…、36の各々と対応する経度および緯度はそれぞれXおよびYで表される。加入者局ユニット40の位置をX、Yで表すと、距離の式により次式が成立する。
【0028】
(X−X)+(Y−Y)=d (式3)
(X−X)+(Y−Y)=d (式4)
(X−X)+(Y−Y)=d (式5)
距離d、d、dの計算に伴う微小な誤差のために、実際にはこれら式3、式4および式5は慣用の算術では解けない。それら誤差を補正するために、位置の算定に最尤推定法を周知のとおり用いる。精度を上げるために、追加の基地局36、36、…、36を推定分析用の追加の距離の計算に用いることができる。
【0029】
加入者局ユニットの位置を通信システム30経由で少なくとも一つの警察分署74、74、…、74および救急車急派所76に送る。これら警察分署74、74、…、74および救急車急派所76の各々の中のプロセッサ70は緊急呼911発呼加入者局ユニットの位置を表すデータを受け、慣用のコンピュータモニタ72にそのデータを表示する。この表示は緊急呼911すべてと所番地とを地図上にリストしたものを含む。
【0030】
代替の手法では、通信システム30経由で未加工データを送りそれら未加工データを単一の地点で処理することによってプロセッサの数を減らす。
【0031】
図8はこの発明の第2の実施例を示す。少なくとも二つの基地局36、36、…、36を互いに同期させて配置し、それら基地局からグローバルパイロット信号52、52、…、52を互いに同期したチップ符号系列で送る。しかし、受信したグローバルパイロット信号52、52、…、52は同期してない。第1の基地局36からのグローバルパイロット信号52は伝搬距離dでありτだけ遅延を受ける。第2の基地局36からのグローバルパイロット52の伝搬距離はdでありτだけ遅延を受ける。加入者局ユニット40は基地局の各々からのグローバルパイロットチップ符号系列をグローバルパイロットチップ符号再生手段54により再生する。加入者局40の中のプロセッサ82はグローバルパイロットチップ符号再生手段54、54、…、54の各々に接続する。プロセッサ82はパイロットチップ符号系列の各対のチップ符号系列を比較し、これら系列相互間の時間差Δt、Δt、…、Δtを次のとおり計算する。
【0032】
加入者局ユニット40の中で、基地局36、36、…、36の各々の用いたチップ符号系列を蓄積する。基地局36パイロット符号と同期させたあと、プロセッサ82は系列同期達成の時点で蓄積する。このプロセスを他の基地局36、36、…、36についても反復する。同期プロセスは逐次的に進めることができ(第1の基地局のチップ符号系列への同期、次に第2の基地局の…、以下同様)、同時並行的に進めることもできる(全基地局についての同期を同時に達成)。
【0033】
τ、τ、…、τの間の相対的時間差および各基地局のチップ符号系列を用い、各基地局パイロット信号の発信の同期を既知とすると、基地局二つについての時間差は次式で算出される。
【0034】
Δt=τ−τ (式6)
Δt=τ−τ (式7)
これら時間差Δt、Δt、…、Δtを少なくとも一つ基地局36に送信する。
【0035】
少なくとも一つの基地局36は時間差再生手段84を用いて受信信号から時間差データを再生する。この時間差データを距離データdとともに通信システム経由でプロセッサ68に送る。プロセッサ68は時間差データΔt、Δt、…、Δtおよび距離データd、d、…、dを用いて加入者局ユニット40の位置を次に述べるとおり算定する。
【0036】
図9に示すとおり、二つの基地局36および36からの情報に基づき、プロセッサは距離d、dを用いて二つの円78、78を描く。また、時間差tを用いると双曲線86を描くことができる。
【0037】
双曲線86沿いの点はすべて、互いに同期した基地局36、36から同一の時間差tでグローバルパイロット信号52、52を受ける。この時間差Δtは、式1のtにΔtを、dにΔdをそれぞれ代入することによって距離差Δdに変換できる。この距離の式を用いると、加入者局ユニット40の位置X,Yは次式で表される。
【0038】
【数1】

【0039】
式3および式4を式8とともに最尤値推定法に用いると、加入者局ユニット40の位置を算定できる。この加入者局ユニット位置情報を最寄りの警察分署74、74、…、74および救急車急派所76に送る。
【0040】
精度を上げるには、追加の基地局を用いる。図10は三つの基地局36、36、36を用いた場合を示す。三つの距離d、d、dを用いて三つの円を描く。二つの時間差t1、t2を用いて二つの互いに交叉する双曲線86、86を描く。二つの双曲線86、86および三つの円78、78、78を用いた最尤値推定法によってより高い精度が得られる。
【0041】
図8に示すとおり、加入者局ユニット40は時間差Δt、Δt、…、Δtの算定のために各グローバルパイロットチップ符号系列を信号処理する必要がある。代替の手法では加入者局ユニット40からこの処理を除去する。
【0042】
図6を参照すると、加入者局ユニット40は遅延τの最寄りの基地局36など一つの基地局のグローバルパイロットチップ符号系列に割当てパイロット信号を同期させる。この割当てパイロット信号50をすべての基地局36、36、…、36に送信する。この割当てパイロット信号50はそれぞれの基地局に遅延τ+τ、τ+τ、τ+τで受信される。基地局36、36、…、36の各々は遅延チップ符号系列と算出ずみ距離とをNIU34または市内交換機32の中のプロセッサ68に送る。プロセッサ68は受信した割当てパイロットチップ符号系列の相互比較により時間差Δt、Δt、…、Δtを算出する。受信した割当てパイロットチップ符号系列はすべてτだけ遅延を受けているので、このτの遅延は時間差Δt、Δt、…、Δtの算出結果では打ち消されている。したがって、上述のとおり双曲線86、86を用いて加入者局ユニット40の位置を特定できる。
【0043】
図11、12、13に示したもう一つの実施例は複数のアンテナ88、88、…、88付きの基地局36を用いる。それらアンテナのうち二つ88、88を図11に示すとおり既知の間隔だけ隔てて中心線92沿いに配置する。これらアンテナ88、88は加入者局ユニット40から割当てパイロット信号90、90を受信する。しかし、加入者局ユニット40から遠い方のアンテナ88は、僅かに長い距離d’経由で近い方のアンテナ88に対し僅かな遅延を伴って信号を受信する。この遅延は図13に示した各アンテナ受信信号間の搬送波位相差φの原因となる。この搬送波位相差および各割当てパイロットチップ符号再生手段96、96、…、96による再生チップ符号系列を用いてプロセッサ66は次のとおり加入者局ユニット40の位置を算定できる。
【0044】
図12に示すとおり、加入者局ユニット40はアンテナ88、88の中心線から距離d、角度αの点に位置している。図12に示した尺度から理解されるとおり、受信した二つの割当てパイロット信号90、90は見かけ上一致する。しかし、図11に示すとおり、これら受信した割当てパイロット信号90、90は僅かに隔たっている。第1のアンテナ88に戻る割当てパイロット信号90は距離dを伝搬する。第2のアンテナ88に戻る割当てパイロット信号90は僅かに長い距離d’を伝搬する。図11に示すとおり、これら二つの距離d、d’の差は距離mである。
【0045】
アンテナ88、88と加入者局ユニット40との間の距離d、d’は両アンテナ88、88の間の距離よりもずっと大きいので、受信した割当てパイロット信号90、90はほぼ平行な経路をたどる。図11に示すとおり、加入者局ユニット40から距離dの点94で直角三角形を形成すると、角度αは次式で算定できる。
【0046】
α=cos−1(m/) (式9)
距離mは受信した二つの信号90、90の間の搬送波位相差φにより次式で与えられる。
【0047】
m=φ・λ/2π (式10)
すなわち、距離mは上記二つの信号の搬送波位相差φ(ラジアン)とその信号の波長λとの積を2πで除算した値である。波長λは割当てパイロット信号の既知の周波数fから次式で与えられる。
【0048】
λ=c/f (式11)
プロセッサ68はグローバルパイロット信号発生手段42からのチップ符号系列を図6に示すとおり割当てパイロットチップ符号系列と比較して距離dを算定する。プロセッサ66は角度αおよび距離dの両方を用いて単純な幾何学から加入者局ユニット401の位置を特定する。アンテナ88、88に伴う位置特定の曖昧さの消去には多様な手法が当業者に周知である。それら周知の手法の一つはセクタ化に基づくアンテナを用いる。加入者局ユニット位置情報を警察分署74、74、…、74および救急車急派所76に送る。システムの精度を高めるために追加のアンテナを用いることもできる。
【0049】
代替の実施例では二つ以上の基地局36、36、…、36を用いる。NIU34または市内交換機32の内部に配置したプロセッサ68は二つ以上の基地局36、36、…、36から距離情報、角度情報およびそれら基地局相互間の時間差Δt、Δt、…、Δtを収集する。プロセッサ68は最尤値推定法を用いて加入者ユニット40の位置をより高精度で特定する。
【0050】
第4の実施例はマルチパルスについて補正を行う。図14はマルチパスを図解する。グローバルパイロット信号などの信号を基地局36から送信する。その信号は基地局36と加入者局ユニット40との間で多数の経路98、98、…、98を辿る。
【0051】
図13は受信信号のマルチパス成分のインパルス応答特性を示す。これらマルチパス成分の各々は独特の経路を辿るので経路98、98、…、98の長さで定まる伝搬遅延を受けて受信機に到達する。インパルス応答特性106は多様な伝搬遅延を受けて受信されたマルチパス成分全部の信号強度の総和を表す。
【0052】
上述の加入者局ユニット位置特定手法は、伝搬距離dの見通し線マルチパス成分98と加入者局ユニット40が同期しているものとした。しかし、加入者局ユニットが見通し線成分以外のマルチパス成分98、98、…、98と同期する場合は、図15に示す遅延MDによって距離計算に誤差を生ずる。
【0053】
図16はマルチパスに起因する誤差の補正のためのシステムを示す。グローバルパイロット信号50を基地局36から加入者局ユニット40に送る。加入者局ユニット40は、ここに引用してこの明細書にその内容を組み入れるLompほか名義の米国特許出願第08/669,769号記載の受信機のようなマルチパス受信機102により、マルチパス伝搬成分すべてを収集する。加入者局ユニット40の中のプロセッサ82で受信グローバルパイロット信号50のインパルス応答特性100を分析する。
【0054】
見通し線経路伝搬成分98は最短距離の伝搬経路を辿るので、その成分が第1の受信成分98となる。見通し線経路伝搬成分が受信されない場合は、第1の受信成分98は見通し線経路伝搬成分に最も近い、すなわち推算値の中の最良の値となる。プロセッサ82はこの第1の受信成分98のチップ符号系列を割当てパイロットチップ符号系列の同期に用いたチップ符号系列と比較する。この比較によってマルチパスに伴う遅延MDを算定する。マルチパス遅延MDを基地局36に送る。
【0055】
基地局36の中のプロセッサ66およびマルチパス受信機104は受信した割当てパイロット信号について同じ分析を行う。その結果、割当てパイロット信号のマルチパス遅延MDが算定される。また、マルチパス遅延再生手段106でプロセッサ66用のグロ−バルパイロット信号マルチパス遅延MDを再生する。プロセッサ66はこの発生したグローバルパイロットチップ符号系列と再生した割当てパイロットチップ符号系列とを比較して往復伝搬遅延2τを算定する。マルチパスについて補正するために、プロセッサ66はグローバルパイロット信号のマルチパス遅延MDと割当てパイロット信号マルチパス遅延MDとを往復伝搬遅延算出値2τから減算する。この補正ずみの往復伝搬遅延を上述のとおり加入者局ユニット位置特定手法の一つで用いる。
【0056】
特定の実施例を詳細に参照してこの発明を上に述べてきたが、これら詳細な点は例示のために示したものであって限定的なものではない。ここに記載した発明の範囲を逸脱することなくこの発明の構成および動作の態様に多数の変形が可能であることは当業者に認識されよう。
【符号の説明】
【0057】
30 CDMA通信システム
36 基地局
40 加入者局ユニット
32 市内交換機
34 網インタフェースユニット(NIU)
38 無線搬送波局(RCS)
42 グローバルパイロットチップ符号発生手段
44,58 スペクトラム拡散処理手段
46 基地局送信機
48 加入者局ユニット受信機
50 グローバルパイロット信号
54 グローバルパイロットチップ符号再生手段
52 割当てパイロット信号
56 割当てパイロットチップ符号発生手段
62 基地局受信機
82 加入者局ユニットプロセッサ
66,68,70 基地局プロセッサ
74 警察分署
76 救急車急派所
64,96 割当てパイロットチップ符号再生手段
88 アンテナ
98 伝搬経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル内の加入者局(SU)の物理的位置を算定するように構成された通信システムであって、
指定された基地局から第1の符号系列を有する第1のスペクトラム拡散信号を送信し、
加入者局で第1の遅延を有した前記第1のスペクトラム拡散信号を受信し、
第nの基地局(BS)で第1の遅延と第nの遅延との和の遅延時間を有する前記第1のスペクトラム拡散信号を受信し、
前記第nの基地局(BS)で前記加入者局と前記第nの基地局との間の距離を計算し、
ネットワークのプロセッサへ前記第nの基地局(BS)から第2の信号を送信し、前記第2の信号が前記計算された距離を含み、前記遅延したスペクトラム拡散信号が符号系列を有し、
前記第1の信号と前記第2の信号との間のタイミング差に基づいて、前記ネットワークのプロセッサでタイミング差パラメータΔtを計算し、
前記計算されたタイミング差パラメータに基づいて前記ネットワークのプロセッサで前記加入者局の位置を計算する、通信システム。
【請求項2】
前記加入者局の位置は、X1およびY1をデカルト座標において経度および緯度で表される前記指定された基地局の物理的位置、X2およびY2をデカルト座標において経度および緯度で表される前記第nの基地局(BS)の物理的位置、Δdを距離差とし、以下の式を使用して最尤推定法として計算される、請求項1記載の通信システム。
【数1】

【請求項3】
各基地局の物理的位置は、経度および緯度で表され、衛星を使用して精確に決定され、各基地局に予めプログラムされている、請求項1記載の通信システム。
【請求項4】
前記第1のスペクトラム拡散信号がパイロット信号である、請求項1記載の通信システム。
【請求項5】
前記加入者局の位置は前記タイミング差パラメータに光速を乗じることによって決定される、請求項1記載の通信システム。
【請求項6】
前記第1のスペクトラム拡散信号のチップ速度が少なくとも80nsであり、前記タイミング差をチップの少なくとも16分の1の精度で検出する請求項1記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−2459(P2011−2459A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163411(P2010−163411)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【分割の表示】特願2005−287696(P2005−287696)の分割
【原出願日】平成11年9月3日(1999.9.3)
【出願人】(596008622)インターデイジタル テクノロジー コーポレーション (871)
【Fターム(参考)】