説明

CO2吸収剤およびCO2回収方法

【課題】本発明は、従来使用されていたCO吸収剤よりも、効率的かつ低いエネルギー消費量でガス中のCOを吸収及び脱離して、COを回収することができるCO吸収剤を提供し、さらに、その吸収剤を用いて効率的かつ経済的にガス中のCOを回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】COを含むガスからCOを回収するための吸収剤が、少なくとも1種類の第3級アミンと、特定の構造を有する少なくとも1種類の金属錯体を含む水溶液であることを特徴とするCO吸収剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中のCO(二酸化炭素)を回収するために使用されるCO吸収剤、およびガス中のCOを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、深刻化する地球温暖化現象の原因の一つとして、COによる温室効果が指摘され、地球環境を守る上でその対策が急務となっている。COの分離回収技術には、化学吸収法、物理吸着法、膜分離法などがあるが、製鐵所や発電所など大規模プラントへの適用が比較的容易であることから、化学吸収法が最も現実的な方法として認識されている。
【0003】
化学吸収法においては、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)などのアルカノールアミンの水溶液を吸収剤として使用することは早くから知られている。MEA水溶液は、COの吸収性能は優れているが、COの脱離量が少なく、また、COを脱離するために大きなエネルギーを必要とする。脱離量が少ないと、吸収剤単位量あたりのCO回収量も少なくなるため、その欠点を克服するために、2−アミノ−2−メチルプロパノール(AMP)などの立体障害アミンを用いることが提案されている。
【0004】
しかし、COを脱離する際に大きなエネルギーを必要とするのは、MEAに限らず、一般に第1級アミンおよび第2級アミンに共通の性質であるため、それらのアミンを含有する吸収剤を用いる限り、エネルギー効率良くCOを回収することは困難であり、実際、そのような高エネルギー消費がCO吸収、回収設備の実用化を阻む大きな要因となっている。
【0005】
それに対し、MDEAなどの第3級アミンを成分とする吸収剤は、第1級アミンや第2級アミンを含有する吸収剤との比較において、より小さなエネルギーでCOを脱離できることが知られている。しかし、第3級アミンは、第1級アミンや第2級アミンと比較して、COの吸収速度が非常に低いのが欠点である。従って、第1級アミンや第2級アミン、またはそれらの混合物からなる吸収促進剤を第3級アミン水溶液へ添加することにより、吸収速度を高める検討が多くなされてきた。その一例として、特許文献1には、ピペラジンとMDEAの組み合わせが記載されている。しかし、そのような吸収促進剤を添加した水溶液は、COの脱離に要するエネルギーが第3級アミン水溶液より必然的に高くなり、CO回収に要するエネルギーの削減に課題が残る。
【0006】
一方、遷移金属酸化物などの触媒を添加することにより、第3級アミン水溶液のCO吸収速度を高める検討が非特許文献1で報告されている。しかし、それらの触媒効果はあまり顕著ではなく、アミン系吸収促進剤を用いる方が、CO吸収速度をより高くできると記載されている。
【0007】
特許文献2には、銅(II)−アルカノールアミン錯体を有機溶媒に溶解させたCO吸収剤が記載されている。有機溶媒は取り扱いが比較的難しく、コスト増にもなることから、より一般的な溶媒である水を用いることが好ましい。しかしながら、特許文献2には、当該錯体を水に溶解させた場合のCO吸収性能は示されておらず、当該錯体の触媒機能の有無についても一切言及されていない。
【0008】
以上のように、COの回収効率を改良しようとする多くの試みがなされている。しかし、さらに単位量あたりのCO回収量およびCO吸収速度が大きく、かつ、CO脱離に必要なエネルギーが低いCO吸収剤の開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】米国特許第4336233号
【特許文献2】特開昭62−240691号広報
【非特許文献1】財団法人地球環境産業技術研究機構 平成17年度 二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業成果報告書 平成18年3月
【非特許文献2】X. Zhang, R. van Eldik, Inorg. Chem., Vol. 34, p. 5606 (1995)
【非特許文献3】E. Kimura, T. Shiota, T. Koike, M. Shiro, M. Kodama, J. Am. Chem. Soc., Vol. 112, p. 5805 (1990)
【非特許文献4】J. E. Richman, T. J. Atkins, J. Am. Chem. Soc., Vol. 96, p. 2268 (1974)
【非特許文献5】F. Chavez, A. D. Sherry, J. Org. Chem., Vol. 54, p. 2990 (1989)
【非特許文献6】R. H. Prince, D. A. Stotter, P. R. Woolley, Inorg. Chim. Acta, Vol. 9, p. 51 (1974)
【非特許文献7】X. Zhang, R. van Eldik, T. Koike, E. Kimura, Inorg. Chem., Vol. 32, p. 5749 (1993)
【非特許文献8】P. Woolley, Nature(London), Vol. 258, p. 677 (1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みて、取り扱いが比較的容易でコストも低い水を溶媒として用い、吸収剤単位量あたりのCO回収量およびCO吸収速度が大きく、かつガス中から吸収したCOを低いエネルギー消費量で脱離して、COを回収することができるCO吸収剤を提供し、さらに、その吸収剤を用いて効率的かつ低いエネルギー消費量でガス中のCOを回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑み、生体内で行われているCOとHCO(重炭酸イオン)との相互変換速度を飛躍的に向上させる炭酸脱水酵素の機能に着目し、当該酵素の活性中心を模倣した金属錯体を第3級アミン水溶液へのCO吸収の際の触媒として適用できるのではないかと考え、鋭意検討した結果、前記化学構造式[I]〜[III]で表わされる金属錯体が、第3級アミン水溶液中においても高い触媒作用を発揮することを見出したことに加え、1モル/リットル以上と実用上十分に高濃度な第3級アミン水溶液中においても高い触媒作用を発揮することを見出し、そのままではCO吸収速度が低い第3級アミン水溶液であっても十分実用可能なCO吸収能力を発揮することを見出して、本発明を為すに到った。なお、特許文献1においては、金属錯体を用いることについては一切言及が無く、その有効性についても示されていない。
【0012】
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1) COを含むガスからCOを回収するためのCO吸収剤であって、少なくとも1種類の第3級アミンと、下記化学構造式[I]〜[III]で表わされる少なくとも1種類の金属錯体と、を含む水溶液であることを特徴とするCO吸収剤。
【0013】
【化1】

ここで、l、m、n、pは2または3、R、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【化2】

ここで、l、m、nはl + m + n ≦ 12を満たす2〜5の整数、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【化3】

ここで、l、mは3または4、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
(2) 前記金属錯体が、下記化学構造式[IV]〜[VI]で表わされる少なくとも1種類の金属錯体である上記(1)に記載のCO吸収剤。
【化4】

【化5】

【化6】

(3) 前記第3級アミン成分のモル濃度の和が、1モル/リットル以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のCO吸収剤。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかに記載のCO吸収剤を用いたCOの回収方法であって、COを含むガスを前記CO吸収剤に接触させて、前記吸収剤にCOを吸収させるCO吸収工程、及び前記CO吸収工程で得られたCOが吸収された吸収剤を加熱して、COを脱離するCO脱離工程を経て、COを回収することを特徴とするCOの回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶媒として水を用いたCO吸収剤において、従来使用されていたCO吸収剤に比べて、COの回収効率がより高く(吸収剤単位量あたりのCO回収量およびCO吸収速度が大きく)、且つ、ガス中から吸収したCOをより低いエネルギー消費量で脱離して、効率的かつ経済的にガス中のCOを回収することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0016】
まず、本発明で使用される第3級アミンと金属錯体の混合水溶液からなるCO吸収剤によるCO吸収の反応機構について説明する。
【0017】
本発明に係る金属錯体の中心金属原子に吸着した水分子は、酸性度が高められており、(1)式で示されるように、水溶液中に共存する第3級アミン(A)へプロトン(H)が移動し、金属原子に吸着したOHイオンが生成する。
LMOH + A → LMOH + HA (1)
ここで、LMは金属錯体を表わし、Lが配位子、Mが金属原子を表わす。
【0018】
金属原子に吸着したOHイオンはCOと容易に反応し、(2)式で示されるように、金属錯体に吸着したHCOイオンが生成する。
CO + LMOH → LMHCO (2)
【0019】
この反応は、第3級アミン水溶液によるCO吸収反応より高速である。また、この反応の逆反応も、正反応ほど顕著ではないが、第3級アミン水溶液によるCO脱離反応より高速である。
【0020】
さらに、本発明で使用する金属錯体の場合には、(3)式で示されるように、HCOイオンと水分子の交換反応が進行する。
LMHCO + HO → LMOH + HCO (3)
【0021】
(3)式の反応が進行すると、(1)式左辺のLMOHが復元され、金属錯体は触媒として機能することになる。その場合、(1)+(2)+(3)で表わされるトータルのCO吸収反応は、(4)式で示される第3級アミン水溶液によるCO吸収反応と一致し、逆反応であるCO脱離反応に要するエネルギーも第3級アミン水溶液の場合と同じである。
CO + HO + A → HCO + HA (4)
【0022】
以上より、本発明で使用する金属錯体と第3級アミンの混合水溶液からなるCO吸収剤は、第3級アミン水溶液と比較して、より高速にCOを吸収及び脱離し、同等の低いエネルギーでCOを脱離することが可能である。
【0023】
本発明で使用される金属錯体は、前記触媒機能を有する金属錯体であり、化学構造式[I]〜[III]で表わされる金属錯体である。
【化7】

ここで、l、m、n、pは2または3、R、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【化8】

ここで、l、m、nはl + m + n ≦ 12を満たす2〜5の整数、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【化9】

ここで、l、mは3または4、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【0024】
化学構造式[I]で表わされる金属錯体において、R、R、R、Rは水素またはアルキル基である。アルキル基としては、該金属錯体の水溶性を阻害しない程度の分子量であることが好ましく、特にメチル基またはエチル基が好ましい。水溶性を阻害しないかどうかは、実際に水に溶解して確認すれば良い。MはZn2+、Cu2+、またはCo3+であり、本発明者らの検討によれば、触媒活性が特に高いという観点から、特にZn2+が好ましい。l、m、n、pは2または3であり、具体的には以下の金属錯体を例示できる。
【0025】
【化10】

【0026】
化学構造式[II]で表わされる金属錯体において、R、R、Rは水素またはアルキル基である。アルキル基としては、該金属錯体の水溶性を阻害しない程度の分子量であることが好ましく、特にメチル基またはエチル基が好ましい。MはZn2+、Cu2+、またはCo3+であり、本発明者らの検討によれば、特にZn2+が好ましい。l、m、nはl + m + n ≦ 12を満たす2〜5の整数であり、l、m、nがこの範囲を超えて大きくなると、化学構造式[II]で表わされる3配位キレート構造をとることが次第に困難となる。化学構造式[II]で表わされる金属錯体として、具体的には以下の金属錯体を例示できる。
【0027】
【化11】

【0028】
一般式[I]及び[II]で表わされる金属錯体は、非特許文献2及び3に記載されている方法により、それらの配位子とZn(ClOなどの金属塩をエタノール等の溶媒中で混合し、沈殿生成物を精製することで、容易に合成できる。
【0029】
配位子である大環状ポリアミンは、当分野において知られている種々の市販の供給源から購入することができる。または、アミノ基を適切な保護基にて保護したポリアミンと脂肪族ハロゲン化アルキルを反応させて環化させ(非特許文献4、非特許文献5)、その後に脱保護するなどの方法により、各種の大環状ポリアミンを容易に合成できる。
【0030】
化学構造式[III]で表わされる金属錯体において、R、R、Rは水素またはアルキル基である。アルキル基としては、該金属錯体の水溶性を阻害しない程度の分子量であることが好ましく、特にメチル基またはエチル基が好ましい。MはZn2+、Cu2+、またはCo3+であり、本発明者らの検討によれば、特にZn2+が好ましい。l、mは3または4である。l、mが2の場合は配位子の合成が困難であり、l、mが5以上になると化学構造式[III]で表わされる4配位キレート構造をとることが次第に困難となる。化学構造式[III]で表わされる金属錯体として、具体的には以下の金属錯体を例示できる。
【0031】
【化12】

【0032】
化学構造式[III]で表わされる金属錯体は、非特許文献6に記載されている方法により、配位子の原料であるジケトンとトリアミンを金属塩の共存下で縮合させることにより合成できる。
【0033】
本発明に用いるアミンは第3級アミンに限定され、第1級アミンや第2級アミンは使用されない。なぜなら、第1級アミンや第2級アミンは、COと直接反応して安定なカルバメートを生成するため、COの脱離に要するエネルギーが高くなってしまうからである。
【0034】
第3級アミンの中では特に限定はされないが、塩基性度が低い方がCOの脱離に要するエネルギーが低くなるため好ましい。ただし、塩基性度が低すぎると、前記(1)式の反応が進みにくくなるため、適度の塩基性が必要である。以上の点を考慮すると、特に好適な第3級アミンとしては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−イソプロピルジエタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジイソプロピルアミノエタノール、N,N’−ジ−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、N,N’−ジ−(3−ヒドロキシプロピル)ピペラジン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)−1,6−ヘキサンジアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)−1,6−ヘキサンジアミン、トリエタノールアミンなどを例示できる。また、これらを混合して使用しても構わない。
【0035】
本発明で用いるCO吸収剤に含まれる第3級アミン成分の濃度の和は、好ましくはモル濃度(溶液1リットルあたりの溶質のモル数、M)として1〜6 M程度であり、より好ましくはモル濃度として2〜5 M程度である。
アミン成分の濃度が高い方が、単位吸収剤容量あたりのCOの吸収量及び放散量が大きく、プラント設備の大きさや効率の点で望ましいことから、1 M以上が好ましく、2 M以上がより好ましい。
【0036】
ただし、アミン成分の濃度がモル濃度として6 Mを超える場合、アミン成分が水と均一に混合しない、粘度が上昇する等の問題が生じることもあることから、6M以下が好ましく、粘度上昇程度のばらつきを考慮すると更に好ましくは5M以下である。
本発明で用いるCO吸収剤に含まれる金属錯体成分のモル濃度の和Mは、好ましくは前記第3級アミン成分のモル濃度の和Mに対し、M/Mが0.001〜1.0の範囲、より好ましくはM/Mが0.01〜1.0の範囲である。
【0037】
金属錯体の濃度が高い方が、単位吸収剤容量あたりのCOの吸収速度が大きく、プラント設備の大きさや効率の点で望ましく、M/Mが0.001以上、更には0.01以上が好ましい。
【0038】
ただし、本発明の金属錯体は触媒として機能するため、金属錯体成分のモル濃度をアミン成分のモル濃度以上にする必要はないことから、M/Mは1.0以下が好ましい。
本発明で使用するCO吸収剤の第3級アミン成分及び金属錯体成分の濃度は、CO吸収剤として使用する前に、配合量を計算して前記の規定範囲に調整すれば良い。
【0039】
本発明の式[IV]、式[V]、及び式[VI]で示される好ましい金属錯体については、COをHCOイオンへ変換する反応の触媒作用が、非特許文献2、非特許文献7、及び非特許文献8にそれぞれ記載されている。しかし、これらの論文では前記金属錯体を、アミン成分が微量添加された水中での炭酸脱水酵素のモデルとして検討しており、CO吸収剤としての利用については全く想定されていない。実際、記載されているアミン成分のモル濃度は極めて低く0.1 Mであり、このような低濃度のアミン溶液ではCO吸収能は非常に小さい。
【0040】
また、本発明の吸収剤中には、設備の腐食を防止するためにリン酸系などの防食剤や、アミン成分や金属錯体の劣化防止のための酸化防止剤等を加えてもよい。
【0041】
さらに、本発明の吸収剤には、第1級または第2級アミノ基を持たないスルホラン等の非水性溶媒が含まれていても構わない。
【0042】
COを含むガスとしては、例えば、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、コークスで酸化鉄を還元する製鉄所の高炉や、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する同じく製鉄所の転炉等からの排ガスが挙げられ、該ガス中のCO濃度は、通常5〜30体積%程度、特に10〜20程度であればよい。かかるCO濃度範囲では、本発明の作用効果が好適に発揮される。
【0043】
本発明に係るCOの回収方法は、一般的なアミン系吸収剤を用いた場合のCO回収方法を用いることができる。すなわち、COを含むガスを本発明のCO吸収剤に接触させて、その吸収剤にCOを吸収させるCO吸収工程と、このCO吸収工程で得られたCOが吸収された吸収剤を加熱して、COを脱離するCO脱離工程を経て、C02を回収することができる。
【0044】
COを含むガスを、本発明の吸収剤に接触させる方法は特に限定はない。例えば、該吸収剤にCOを含むガスをバブリングさせて吸収する方法、COを含むガス気流中に該吸収剤を霧状に降らす方法、あるいは磁製や金属網製の充填材の入った吸収塔内でCOを含むガスと該吸収剤を向流接触させる方法などによって行われる。
【0045】
COを含むガスを水溶液に吸収させる時の液温度は、通常室温から60℃以下で行われ、好ましくは50℃以下、より好ましくは20〜45℃程度で行われる。温度が低いほど吸収量は増加するが、どこまで温度を下げるかはプロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定される。CO吸収時の圧力は通常大気圧下で行われる。吸収性能を高めるため、より高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0046】
COを吸収した水溶液からCOを脱離し、高濃度のCOを回収する方法としては、蒸留と同じく水溶液を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段塔、スプレー塔、磁製や金属網製の充填材の入った脱離塔内で液界面を広げて加熱する方法などが挙げられる。
【0047】
CO脱離時の液温度は通常70℃以上で行われ、好ましくは80℃〜120℃程度で行われる。温度が高いほど脱離量及び脱離速度は向上するが、温度を上げると吸収剤の昇温に要するエネルギーが増すため、その温度はプロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定される。
【0048】
後述する実施例に示す通り、本発明の吸収剤は比較的低温である70℃においても、良好なCO脱離量及びCO脱離速度を示すため、CO脱離時の液温度を従来の吸収剤を使用する場合より低めに設定でき、その結果、吸収剤の昇温に要するエネルギーを削減できる。
【0049】
また、本発明の吸収剤は、第3級アミンのみを使用しているため、反応熱(COの脱離に要するエネルギー)が低い点でも有利であり、前記昇温エネルギーとあわせて、CO脱離時に投入するトータルのエネルギーを削減することが可能である。
【0050】
CO脱離時の圧力は通常大気圧下で行われる。脱離性能を高めるため、より低い圧力まで減圧することもできるが、減圧のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0051】
CO脱離工程でCOを脱離した後のCO吸収剤は、再びCO吸収工程に送られ循環使用(リサイクル)される。また、CO吸収の際に生じた熱は、一般的には水溶液のリサイクル過程において脱離塔に注入される水溶液の予熱のために熱交換器で熱交換されて冷却される。
【0052】
このようにして回収されたCOの純度は、通常95〜99体積%程度(残りは、ガスに含まれていたCO以外の成分であり、それらはガスの種類により異なる)と極めて高いものである。この高濃度のCOは、化学品、あるいは高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等として用いられる。その他、回収したCOを、現在技術開発されつつある地下等へ隔離貯留することも可能である。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0054】
(金属錯体の合成方法)
金属錯体1の合成:非特許文献2に記載の方法により、前記式[IV]で示される金属錯体1を合成した。
すなわち、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンのエタノール溶液5ミリリットル(濃度0.87ミリモル/リットル)に、Zn(ClO・6HOのエタノール溶液5ミリリットル(濃度0.87ミリモル/リットル)を、50〜60℃に保ちながら1.5時間かけてゆっくりと加えた。該混合液を室温まで冷却し、生成した白色沈殿を濾別して、エタノールで数回洗浄した後、24時間かけて乾燥し、金属錯体1を約24%の収率で得た。
【0055】
金属錯体2の合成:非特許文献3に記載の方法により、前記式[V]で示される金属錯体2を合成した。
すなわち、1,5,9−トリアザシクロドデカンのエタノール溶液10ミリリットル(濃度0.88ミリモル/リットル)を、Zn(ClO・6HOのエタノール溶液10ミリリットル(濃度0.88ミリモル/リットル)に室温で加え、30分後に、生成した白色沈殿を濾別し、水から再結晶を行い、金属錯体2を約40%の収率で得た。
【0056】
金属錯体3の合成:非特許文献6に記載の方法により、前記式[VI]で示される金属錯体3を合成した。
すなわち、2,6−ジアセチルピリジン(0.2モル/リットル)、3,3’−ジアミノ−ジ−n−プロピルアミン(0.2モル/リットル)、及びZn(ClO・6HO(0.2モル/リットル)を、水性エタノール(50% v/v)中で6時間加熱還流した後、エタノールを除去して金属錯体3を得た。
【0057】
(試験方法)
液の温度が40℃になるように設定した恒温水槽内に、ガラス製のサンプル瓶を浸し、これにN−メチルジエタノールアミン(MDEA)若しくは2−ジメチルアミノエタノール(DMAE)と金属錯体1〜3(実施例)を含む水溶液50 ml(CO吸収剤)、または、アミンのみ(比較例)を含む水溶液50 ml(CO吸収剤)を充填した。この液の中に、大気圧、0.7リットル/分で、COを20体積%及びNを80体積%を含む混合ガスを連続して吹き込み、吸収させた。
【0058】
吸収液前及び吸収液出口のガス中のCO濃度を、赤外線式のCO計で連続的に測定して、吸収液入口及び吸収液出口のCO流量の差からCO吸収量を測定した。飽和吸収量は、吸収液出口のCO濃度が入口のCO濃度に一致する時点における量とした。CO吸収剤の性能比較に用いる吸収速度は、飽和吸収量の3/4を吸収した時点における単位液量及び単位時間あたりのCO吸収量の増分とした。
【0059】
CO吸収後、同じガス気流中で液温を数分にて70℃に上げて、液からのCO脱離量と脱離速度を測定した。CO吸収剤の性能比較に用いる脱離速度は、昇温開始から10分までの平均脱離速度とした。
【0060】
CO吸収における反応熱の測定は、示差熱型の反応熱量計を用いて40℃で実施した。この反応熱はCO脱離に要するエネルギーに等しい。
【0061】
以上の結果を表1に示す。
【0062】
実施例1〜3と比較例1との比較、及び実施例4〜6と比較例2との比較より、金属錯体1〜3がCO吸収反応及びCO脱離反応に対する触媒作用を示すことが分かる。
【0063】
アミンの濃度を非特許文献2及び7に記載されている濃度と同程度にした実施例8では、実施例1〜6と比較して単位液量あたりの吸収及び脱離性能が劣ることが分かる。
【0064】
ただし、実施例8と比較例3の比較より、アミンが低濃度であっても本発明の金属錯体は触媒効果を示すことが分かる。
【0065】
金属錯体1と金属錯体2を混合した実施例9は、それぞれを単独に用いた実施例4及び実施例5の、ほぼ平均的な性能であることが分かる。
【0066】
比較例4は標準的濃度(30質量%)のモノエタノールアミン(MEA)水溶液(1級アミンのCO吸収剤)である。比較例4との比較において、実施例1〜7では、CO吸収速度及びCO脱離速度がより高いにもかかわらず、反応熱は約40%減少している。さらに、実施例4〜6では、CO脱離量も比較例4の約2倍であり、CO飽和吸収量を除く全ての特性においてMEA水溶液より優れていることが分かる。
【0067】
これらの結果より、本発明の第3級アミンと金属錯体の混合水溶液を用いることにより、従来使用されていたアミン水溶液を用いる場合よりも、効率的かつ低いエネルギー消費量でガス中のCOを回収することができることが判る。
【0068】
【表1】

【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
COを含むガスからCOを回収するためのCO吸収剤であって、
少なくとも1種類の第3級アミンと、下記化学構造式[I]〜[III]で表わされる少なくとも1種類の金属錯体と、を含む水溶液であることを特徴とするCO吸収剤。
【化1】

ここで、l、m、n、pは2または3、R、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【化2】

ここで、l、m、nはl + m + n ≦ 12を満たす2〜5の整数、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【化3】

ここで、l、mは3または4、R、R、Rは水素またはアルキル基、MはZn2+、Cu2+、またはCo3+である。
【請求項2】
前記金属錯体が、下記化学構造式[IV]〜[VI]で表わされる少なくとも1種類の金属錯体である請求項1に記載のCO吸収剤。
【化4】

【化5】

【化6】

【請求項3】
前記第3級アミン成分のモル濃度の和が、1モル/リットル以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のCO吸収剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のCO吸収剤を用いたCOの回収方法であって、
COを含むガスを前記CO吸収剤に接触させて、前記吸収剤にCOを吸収させるCO吸収工程、及び、前記CO吸収工程で得られたCOが吸収された吸収剤を加熱してCOを脱離するCO脱離工程を経て、COを回収することを特徴とするCOの回収方法。



【公開番号】特開2009−226251(P2009−226251A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71423(P2008−71423)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】