説明

CVD装置

【課題】膜厚分布が均一な薄膜を形成可能なCVD装置を提供する。
【解決手段】本発明のCVD装置2では、排気口31が排気空間72に設けられており、成膜空間71と排気空間72とを接続する排気流路41の流入口44は、成膜空間71の高さ方向中央位置で成膜空間71を取り囲んでいる。真空排気装置33によって、成膜空間71内のガスを排気空間72と排気流路41とを介して排気口46から真空排気しながらシャワープレート20から原料ガスを放出すると、成膜空間71内のガスは主たる流線の方向が基板表面に平行に保たれたまま流入口44に流入し、基板14表面に均一な薄膜が形成される。排気流路41のコンダクタンスは排気空間72のコンダクタンスよりも小さくされており、流入口44のどの位置からでも均一に真空排気される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成の技術分野に係り、CVD成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図8の符号102は、従来技術のCVD装置を示している。CVD装置102は、真空槽111を有しており、真空槽111内部の天井側にはシャワーノズル120が配置され、真空槽111内部の底壁側には載置台113が配置されている。真空槽111には排気口131が設けられており、排気口131には真空排気装置133が接続されている。
【0003】
このCVD装置102を用いて薄膜を形成するためには、先ず、真空排気装置133を動作させ、真空槽111内部を真空排気して真空雰囲気を形成し、真空雰囲気を維持した状態で、真空槽111内に基板114を搬入し、載置台113上に配置し、載置台113に内蔵された加熱ヒータ118によって基板114を所定温度に昇温させる。
【0004】
シャワーノズル120の、載置台113の表面と対面する放出面125には、複数の放出孔123が設けられており、ガス供給系127からシャワーノズル120に原料ガスを供給し、放出孔123から基板114表面に向けて放出させ、基板114表面での原料ガスの化学反応によって、基板114表面に薄膜を形成する。
【0005】
排気口131は、真空槽111の底面下、載置台113と真空槽111底面の間の真空槽111壁面に設けられており、化学反応しなかった原料ガスや、化学反応によって生成された副生成物ガスは、載置台113と真空槽111壁面との間の隙間を通過して、排気口131から真空排気される。
【0006】
そのため、シャワーノズル120から供給された原料ガスは上方から基板114周辺方向に向かって下方に流れるため、載置台113と真空槽111との間の隙間へガスの流線が集中して原料ガスの濃度が高くなり、基板114周辺部分の膜厚が中心部分の膜厚よりも厚くなるという問題がある。
このようなガスの流れに於いて、基板114周辺で膜厚が増大する傾向は、供給律速条件下では薄膜を成長させる化学反応の内容に依らず一般に成り立つ傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−018680号公報
【特許文献2】特許第4606675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、膜厚分布が均一な薄膜を形成できるCVD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、真空槽内にシャワーノズルが配置され、前記真空槽に設けられた排気口から前記真空槽の内部を真空排気しながら、前記シャワーノズルの放出面に設けられた放出孔から前記真空槽の内部に原料ガスを放出し、載置台表面に配置された基板の表面に薄膜を形成するCVD装置であって、前記真空槽の内部に排気部材を配置して、前記真空槽の内部を前記放出孔が配置された成膜空間と、前記排気口が配置された排気空間とに分離させ、前記排気部材に設けられた筒状の排気流路の入口側の環状の流入口を前記成膜空間内に露出させ、出口側の環状の排出口を前記排気空間に露出させ、前記成膜空間内の気体を前記排気流路を通過させて前記排気空間に移動させ、前記排気口から真空排気するように構成し、前記流入口は、前記載置台表面よりも高く、前記放出面よりも下に配置されたCVD装置である。
また、本発明は、前記流入口は、前記載置台表面に基板を配置したときに、前記基板の表面よりも高く位置するように構成されたCVD装置である。
また、本発明は、前記流入口は、前記載置台表面から前記放出面までの距離のうち、40%以上60%以下の範囲内に配置されたCVD装置である。
また、本発明は、前記排気部材は、前記真空槽と前記シャワーノズルに接触され、前記成膜空間と前記排気空間とが分離されたCVD装置である。
また、本発明は、前記排気口は、前記真空槽の側壁面に設けられ、前記排気口と、前記排気口から最遠の位置の前記排出口の部分との間の気体コンダクタンスは、最遠の位置の前記排出口から排出される気体が通る部分の前記排気流路の気体コンダクタンスよりも小さくされたCVD装置である。
また、本発明は、前記排気流路は、第一、第二の溝の底面が接続して構成され、前記排気空間は円柱形状であり、前記第一、第二の溝の幅h1、h2と、前記第一、第二の溝の深さλ1、λ2と、前記排出口と前記排気口との間の前記排気空間の幅Lと高さHと、の間が下記不等式、λ1/h13+λ2/h23 ≧ 50L/H3を満たすCVD装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板表面の原料ガス濃度が均一であり、基板表面に均一な膜厚の薄膜を形成できる。
本発明によれば、排気流路のコンダクタンスは排気空間のコンダクタンスより小さくされており、排気口の位置は、基板表面の薄膜の膜厚に影響をあたえないようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一例のCVD装置の内部を説明するための図
【図2】そのCVD装置の内部に基板が配置された状態を説明するための図
【図3】排気部材の一部を示す斜視図
【図4】各放出孔から真空排気装置までの反応性ガスの流れのシミュレーション結果 (a):排気口が上下方向中央に位置するCVD装置 (b):下部に位置するCVD装置 (c):上部に位置するCVD装置
【図5】各放出孔から真空排気装置までの反応性ガスの濃度のシミュレーション結果 (a):排気口が上下方向中央に位置するCVD装置 (b):下部に位置するCVD装置 (c):上部に位置するCVD装置
【図6】基板表面に形成される膜厚分布のシミュレーション結果
【図7】本発明の排気流路と排気空間のコンダクタンスを算出するためのモデルを説明するための図
【図8】従来のCVD装置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<CVD装置>
図1を参照し、符号2は、本発明のCVD装置を示している。
このCVD装置2は、真空槽11と、環状の排気部材40とを有している。
ここでは、真空槽11は上部槽15と下部槽17に分離可能に構成されており、真空槽11の上部槽15と下部槽17の端面が、オーリング19を介して排気部材40の表面と裏面に接触し、排気部材40を介して接触された上部槽15と下部槽17とで構成される真空槽11の内部が気密になるように構成されている。
【0013】
ここでは、真空槽11の上部槽15と下部槽17の端面は環状であり、上部槽15と排気部材40との接触面と、下部槽17と排気部材40との接触面が環状になるようにされており、真空槽11の上部槽15と下部槽17とは、排気部材40を介して気密にされて、真空槽11の内部は真空排気可能にされている。
【0014】
真空槽11の内部には、シャワーノズル20が配置されている。
シャワーノズル20は円板状の中空部材21であり、排気部材40も円形リングである。シャワーノズル20は排気部材40の内側に配置され、接触部分53が環状になるように、シャワーノズル20と排気部材40とは接触されている。
【0015】
シャワーノズル20の表面と裏面とは、真空槽11の壁面から離間して配置されており、真空槽11の内部空間は、シャワーノズル20によって二分されている。
シャワーノズル20の表面には内部中空部分22に接続された放出孔23が複数設けられており、放出孔23が位置する表面を放出面25とし、真空槽11内部が二分された空間のうち、放出面25が露出する空間を成膜空間71とし、反対側の空間を排気空間72とすると、排気空間72が成膜空間71の上方に位置している。
【0016】
成膜空間71の内部では、放出面25と対面する位置に、載置台13が配置されている。
載置台13を貫通するように設けられたホイスト機構(図示せず)を介して基板を搬出入する。
【0017】
図2は、搬出入孔から基板14を真空槽11内に搬入して載置台13上に配置した状態であり、基板14の成膜面16は、シャワーノズル20の放出面25と対面している。
真空槽11の排気空間72を構成する壁面には、排気口31が設けられ、排気口31には真空排気装置33が接続されている。真空排気装置33を動作させると、排気空間72内のガスは、排気口31から真空排気される。
【0018】
ここでは、真空槽11の真上位置には他の装置28が配置されており、排気口31をシャワーノズル20と対面する真空槽11の天井部分に配置すると、真空排気装置33と排気口31を接続する排気管34を設けることが困難になるため、一般的に、CVD装置2では排気口31は壁面のうち、排気空間72の側壁面に設けられている。
【0019】
排気部材40には、排気空間72と成膜空間71とを接続し、気体が流れる排気流路41が設けられており、成膜空間71内の気体は排気流路41を通って排気空間72内に移動し、排気口31から真空排気装置33によって真空排気されるようになっている。
真空槽11の外部には、原料ガスが配置されたガス供給装置27が配置されており、シャワーノズル20は、ガス供給装置27に接続され、原料ガスが供給されるように構成されている。
【0020】
基板14表面に薄膜を形成する際には、真空排気装置33によって排気空間72を真空排気することで、成膜空間71の内部を真空排気しながら、ガス供給装置27から薄膜の原料ガスをシャワーノズル20に供給し、原料ガスを放出孔23から成膜空間71内に放出する。
【0021】
放出孔23から放出された原料ガスは、載置台13方向に流れ、基板14表面で化学反応して反応生成物を生成すると、反応生成物から成る薄膜が基板14表面に形成される。
ここでは、載置台13に設けられた加熱装置18によって、載置台13上の基板14を加熱しながら成膜空間71内に原料ガスが放出されており、化学反応は加熱装置18の熱によって進行される。
【0022】
成膜空間71には、シャワーノズル20から供給されても化学反応をしなかった原料ガスと、化学反応に伴って生成された副生成物のガス等が大気圧よりも低い圧力で存しており、成膜空間71内に存するガスは、排気部材40の排気流路41を通って排気空間72に移動し、真空排気される。
【0023】
排気流路41の形状を説明すると、排気流路41は、排気部材40の円筒形状の内周と外周の間に円筒形形状に形成されており、排気流路41の一端のリング状の流入口44は、排気部材40の内周面に配置され、載置台13の中央を取り囲んで成膜空間71内に環状に露出されている。
【0024】
排気流路41の他端の排出口46は、排気部材40の上端に配置され、シャワーノズル20の中央部分を取り囲んで排気空間72に環状に露出されている。
ここでは、排気流路41は、開口が排出口46にされ、排気部材40内で鉛直に配置された第一の溝47の底面と、開口が流入口44にされ、排気部材40内で水平に配置された第二の溝48の底面とが、排気部材40内で接続されて構成されており、排気流路41よりも内周側に位置し、排気部材40の内周面を形成する側壁は、流入口44に立設された柱で支持されている。
【0025】
図3は、排気部材40の一部を拡大して示しており、図3の符号54は、柱を示している。この柱54は細く、流入口44に入るガスの流れに対する影響は無視できる。同図符号49a、49bは、真空槽11の上部槽15と排気部材40との間のオーリング19と、真空槽11の下部槽17と排気部材40との間のオーリング19が配置される溝である。
【0026】
第一の溝47の排出口46は、シャワーノズル20の裏面と同程度の高さに位置し、シャワーノズル20を取り囲んでおり、第二の溝48の流入口44は成膜空間71を取り囲んでいる。
流入口44は、載置台13に配置された基板14の成膜面16よりも上方に位置しており、流入口44の下端と上端とは、載置台13の表面12から放出面25までの間の距離の、40%以上60%以下の範囲内に位置するように配置され、成膜空間71内のガスは、上下方向の略中央位置から排気されるようになっている。
【0027】
また、流入口44はシャワーノズル20の放出面25よりも低い位置に配置されており、ここでは、流入口44は、成膜空間71の上下方向の略中央位置に配置されている。
このように、流入口44が、載置台13上の基板14表面と放出面25との間に位置する場合と、載置台13の表面12と同じ高さに位置する場合と、放出面25と同じ高さに位置する場合とでは、基板14表面に形成される薄膜の、基板14の中央部分の膜厚と周辺部分の膜厚との間の厚薄関係が異なっており、実験によると、流入口44の位置が、載置台13の表面12と同じ高さにあると周辺部分の方が厚く、放出面25と同じ高さにあると周辺部分の方が薄くなる。
流入口44が載置台13上の基板14表面と放出面25との間に位置する場合は、それら厚薄の中間になり、中央部分の膜厚と、周辺部分の膜厚とが同じになる。
【0028】
図4(a)〜(c)は、シャワーノズル20の複数の放出孔23から成膜空間71内に放出された原料ガスの流れのシミュレーション結果であり、図5(a)〜(c)は、その原料ガスの成膜空間71内の濃度分布のシミュレーション結果である。成膜空間71と、成膜空間71内に配置されたシャワーノズル20等の部材は軸対称なので、右側断面のみを図示した。(図で左側が対称軸)
図4(a)〜(c)の曲線Kが、同じ放出孔23から供給された原料ガスの流れを示す流線であり、図5(a)〜(c)の曲線Mが、成膜空間71内の同じ原料ガス濃度の点を結んだ等濃度線である。
【0029】
図4(a)、図5(a)は、流入口44の中心位置をシャワーノズル20の放出面25と載置台13の間の中央位置に配置した場合のシミュレーション結果であり、図4(b)、図5(b)は、載置台13の外周と真空槽11との間の空間を流入口64aとして、流入口64aの高さを載置台13の表面12の高さと一致させたときのシミュレーション結果であり、図4(c)、図5(c)は、シャワーノズル20の外周と真空槽11との間を流入口64bとして、流入口64bをシャワーノズル20の放出面25の高さと一致させたときのシミュレーション結果である。符号61a、61bは排気流路を示し、符号66a、66bは排出口を示している。
【0030】
図4(b)、(c)、図5(b)、(c)から分かるように、流入口64aが載置台13の表面12と同じ高さにあるときは、基板14の周辺部分では流線が基板14表面に接近し、周辺部分の濃度が中央部分よりも高くなっており、流入口64bが放出面25と同じ高さにあるときは、基板14の周辺部分では流線が基板14の周辺部分から離れ、周辺部分の濃度が低くなっている。
【0031】
図6は、横軸を基板14の中心からの距離とし、縦軸を膜厚(任意単位)としたときの、距離と膜厚の関係を示すグラフであり、曲線A1、A2、A3は、流入口44、64a、64bを、放出面25と載置台13の間の中央位置に配置したときと、放出面25と同じ高さに配置したときと、載置台13の表面12と同じ高さに配置したときの膜厚計算結果であり、流入口44を、放出面25と載置台13の間の中央位置に配置したときが均一な膜厚が得られており、放出面25や載置台13の表面12と同じ高さの流入口64a、64bの場合は、中央と周辺との膜厚は大きく相違してしまうから、少なくとも、流入口は、載置台13の表面12と、放出面25との間に配置する必要があることが分かる。
【0032】
なお、基板14の厚みは、多くの場合載置台13表面と放出面25との間の高さの1/100程度であり、載置台表面12に設けられた基板厚み深さの堀り込み溝(図示せず)内部に置かれることも多いので、通常、流入口44の位置に対する基板14の厚みは無視することができる。
【0033】
次に、排気流路41の、流入口44から排出口46までの間のコンダクタンスを説明すると、真空排気装置33によって、成膜中は排気口31から排気空間72内が真空排気されており、成膜空間71内の原料ガスや副生成物ガスは、流入口44から排気流路41内に流入し、最短経路を通過して排出口46に到達するようになっており、流入口44のどの位置から流入したガスでも、同じコンダクタンスで排気流路41内部を通過して排気空間72に移動し、排気口31から真空排気される。
【0034】
このように、成膜空間71内のガスが排気流路41を流れる際には、ガスが流れる排気流路41の流入口44から排出口46までの間のコンダクタンスは、流入口44のどの位置から排出口46に流れても等しくなるようにされている。
それに対し、排気口31は真空槽11の天井ではなく、上述したように排気空間72を取り囲む壁面のうちの側壁面に配置されているため、リング状の排出口46には、排気口31に近い部分と遠い部分が発生する。
【0035】
従って、排気空間72内の排気口31と排出口46との間のコンダクタンスは、排気口31に近い部分では高く、遠い部分では小さくなる。
排気口31から最も遠い位置の排出口46を通過するガスの質量流量を最小QAとし、最も近い位置の排出口46を通過するガスの質量流量を最大流量QBとすると、QB>QAであるが、最大流量QBと最小流量QAとの差が大きすぎると、成膜空間71内に原料ガスの分布の偏りが生じ、膜厚分布に影響を与える。
【0036】
<流量差の計算>
そこで、最大流量QBと最小流量QAの差と和との比を許容差s(%)として、下記(1)式、
【0037】
【数1】

【0038】
で定義し、許容差sを所望の値に設定したときの、排気流路41の寸法や、排気空間72の大きさを求める関係式を導出する。
【0039】
先ず、排出口46が排気口31から遠い場合は、流入口44から排気口31までのガス流れの抵抗値は、排気流路41の抵抗値C0-1と、排気空間72内の抵抗値C1-1とを合計した直列抵抗値であるから、最小流量QAの値は、下記式(2)に示すように、成膜空間71内の流入口44の位置の圧力と、排気空間72内の排気口31の位置の圧力との間の圧力差Δpに、直列抵抗の逆数であるコンダクタンスの値を乗算した値に等しい。
【0040】
【数2】

【0041】
他方、排出口46が排気口31に近い場合は、排出口46と排気口31とが近接しており、その間の抵抗値は、数式上ゼロと置けるので、最大流量QBは、排気流路41のコンダクタンスC0と圧力差Δpを使用して、下記(3)式のように、コンダクタンスC0と圧力差Δpの積の値に等しくなる。
【0042】
【数3】

【0043】
上記(2)式と(3)式で表された最小流量QAと最大流量QBを用いて(1)式を書き替えると、下記(4)式が得られる。
【0044】
【数4】

【0045】
許容差sと排気流路41のコンダクタンスC0が与えられたときに、排気空間72のコンダクタンスC1の最小値を求める場合は、排気空間72のコンダクタンスC1は、上記(4)式を簡略化した下記(5)式、
【0046】
【数5】

【0047】
が満たされれば良いとすることができる。
【0048】
排気流路41の寸法から、排気流路41のコンダクタンスC0の値を求めるために、排気流路41を構成するリング形状の第一、第二の溝47、48のうち、どちらの溝も、リング形状の中心軸線を含む平面で切断すると、切断断面は、図7のように表される。
【0049】
リング形状の第一、第二の溝は、図7の切断断面図では、内部を流れるガスの上流側を紙面左方にされ、下流側が紙面右方にされており、リング状の円周方向は、紙面奥行き方向にされている。
【0050】
排気流路41を構成する第一、第二の溝47、48は、一定の幅hで壁面によって挟まれているものとし、計算上、幅hの中央を通り、紙面左方から右方に向けて伸びる方向を流れ方向であるx軸とし、幅hの中央位置を原点として幅hと平行な方向をz軸とすると、ガスの圧力pと流速uとは、下記(6)式の関係にある。下記(6)式のμはガスの粘性係数である。
【0051】
【数6】

【0052】
二壁面の表面のz軸座標上の位置は±h/2であり、壁面表面の流速uはゼロであるとすると(6)式は、下記(7)式に書き替えられる。
【0053】
【数7】

【0054】
幅hの壁面間の排気流路41の溝内を流れるガスの質量流量Qは、上記(7)式の幅方向の積分値と、流れるガスの質量密度ρとの積であり、積分値を計算すると、質量流量Qは下記(8)式で表される。
【0055】
【数8】

【0056】
但し、気体の状態方程式p=nkT=ρRT(nは気体の数密度、kはボルツマン定数、Tは気体の絶対温度、Rは気体定数である)を用いて、(8)式の第3項では、積分式の質量密度ρを、消去してある。
長さλの溝の一端の圧力p0と他端の圧力p1と、更に、両端の圧力p0、p1の平均値Paveと、両端の圧力p0、p1の圧力差Δpとから、上記右辺の微分係数は下記(9)式のように書き替えられる。
【0057】
【数9】

【0058】
コンダクタンスCは、流束Q/圧力差Δpであるから、上記(8)、(9)式から、コンダクタンスCを表す下記(10)式が得られる。排気流路41を構成する溝のコンダクタンスは、h3/λに比例することになる。
【0059】
【数10】

【0060】
上述したように、上記(10)式のコンダクタンスCは、幅h、長さλの一個の溝のコンダクタンスを表す式であり、排気流路41は、幅がh1、長さがλ1の第一の溝47と、幅がh2、長さがλ2の第二の溝48とが、底面が接続されて構成されているから、第一、第二の溝47、48を直列接続した排気流路41のコンダクタンスC0は、第一、第二の溝47、48内の両端の平均圧力をPave1、Pave2として下記(11)式のように表すことができる。
【0061】
【数11】

【0062】
(11)式により、(5)式の右辺のコンダクタンスC0が求められた。
【0063】
次に、(5)式の左辺は、排気口31と最遠の排出口46と間のコンダクタンスC1であり、排気口31と最遠の排出口46と間は、排気空間72によって接続されている。
【0064】
排気空間72は、幅が底面と天井との間の高さHであり、流れる距離が排気空間72の幅Lの流路である。奥行きは、高さHよりも充分に大きいから、排気空間72である流路のコンダクタンスC1には、(10)式が使用でき、排気口31と最遠の排出口46と間は、幅が高さH、流れる距離が幅Lの流路であるから、排気空間72内の平均圧力をPave3とすると、その流路のコンダクタンスは、下記(12)式になる。
【0065】
【数12】

【0066】
(5)式に(11)、(12)式を代入する際に、流速が音速よりも十分小さい(Ma<0.1)通常のCVD装置においては、真空槽内到る所でほぼ等圧とみなしてよいから、Pave1〜Pave2〜Pave3として平均圧力項を落とす。(5)式の左辺で表される流量差を1%であるとすると(s=1)、排気流路41又は排気空間72の長さλ1、λ2、Lと、幅h1、h2、Hとの間には、下記(13)式である不等号が成立すればよいことになる。
【0067】
【数13】

【0068】
<成膜方法>
次に、本発明のCVD装置2を用いて、基板14表面に薄膜を形成する工程について説明する。
【0069】
先ず、真空排気装置33を動作させ、真空槽11内部(排気空間72、排気流路41、成膜空間71)を排気口31から真空排気し、成膜空間71と排気流路41と排気空間72に真空雰囲気を形成する。
真空槽11内部を真空排気しながら基板14を真空槽11内部に搬入し、シャワーノズル20の放出面25と対面する載置台13の表面12に基板14を密着させて配置する。
【0070】
載置台13の内部には、加熱装置18が設けられており、真空槽11外部に配置された電源(不図示)を動作させて加熱装置18に通電すると、加熱装置18が発熱又は発光し、載置台13が加熱される。基板14は加熱された載置台13からの熱伝導によって加熱され、昇温する。
【0071】
基板14が所定温度以上に昇温されたた後、ガス供給装置27から、シャワーノズル20の内部に原料ガスが導入されると内部に原料ガスが充満し、シャワーノズル20の放出孔23から真空槽11内の成膜空間71に原料が放出される。
上述したように、流入口44は、成膜空間71を取り囲む環状に形成されており、基板14の成膜面16とシャワーノズル20の放出面25との間に配置されている。
【0072】
成膜空間71内の余分な原料ガスや副生成物ガスが、流入口44から排気される際、成膜空間71内では、流入口44の高さにガス流線が集中し、基板14の周辺部分の膜厚が増大しないようになっている。
【0073】
特に、流入口44の中央位置を載置台13の表面12と放出面25との中央位置に配置すると、原料ガスは、上記シミュレーション結果の通り流れ、基板14表面の原料ガス濃度が中央部分と周辺部分とで同程度になって均一な膜厚の薄膜が基板14表面に形成される。
【0074】
なお、流入口44の幅hは流入口44の高さであり、放出面25と基板14表面との間の距離Dより短くされており、流入口44が位置する平面は、載置台13の表面12に対して垂直にされている。
【符号の説明】
【0075】
2……CVD装置
11……真空槽
13……載置台
14……基板
20……シャワーノズル
23……放出孔
25……放出面
31……排気口
40……排気部材
41……排気流路
44……流入口
46……排出口
71……成膜空間
72……排気空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内にシャワーノズルが配置され、
前記真空槽に設けられた排気口から前記真空槽の内部を真空排気しながら、前記シャワーノズルの放出面に設けられた放出孔から前記真空槽の内部に原料ガスを放出し、載置台表面に配置された基板の表面に薄膜を形成するCVD装置であって、
前記真空槽の内部に排気部材を配置して、前記真空槽の内部を前記放出孔が配置された成膜空間と、前記排気口が配置された排気空間とに分離させ、
前記排気部材に設けられた筒状の排気流路の入口側の環状の流入口を前記成膜空間内に露出させ、出口側の環状の排出口を前記排気空間に露出させ、前記成膜空間内の気体を前記排気流路を通過させて前記排気空間に移動させ、前記排気口から真空排気するように構成し、
前記流入口は、前記載置台表面よりも高く、前記放出面よりも下に配置されたCVD装置。
【請求項2】
前記流入口は、前記載置台表面に基板を配置したときに、前記基板の表面よりも高く位置するように構成された請求項1記載のCVD装置。
【請求項3】
前記流入口は、前記載置台表面から前記放出面までの距離のうち、40%以上60%以下の範囲内に配置された請求項1又は請求項2記載のCVD装置。
【請求項4】
前記排気部材は、前記真空槽と前記シャワーノズルに接触され、前記成膜空間と前記排気空間とが分離された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のCVD装置。
【請求項5】
前記排気口は、前記真空槽の側壁面に設けられ、
前記排気口と、前記排気口から最遠の位置の前記排出口の部分との間の気体コンダクタンスは、最遠の位置の前記排出口から排出される気体が通る部分の前記排気流路の気体コンダクタンスよりも小さくされた請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のCVD装置。
【請求項6】
前記排気流路は、第一、第二の溝の底面が接続して構成され、
前記排気空間は円柱形状であり、
前記第一、第二の溝の幅h1、h2と、
前記第一、第二の溝の深さλ1、λ2と、
前記排出口と前記排気口との間の前記排気空間の幅Lと高さHと、の間が下記不等式、
λ1/h13+λ2/h23 ≧ 50L/H3
を満たす請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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