説明

DC/DCコンバータ

【課題】リアクトルの異常によりインダクタンスが低下した場合も、スイッチング素子の損傷を防止するとともに支障のない範囲で駆動を継続することができるDC/DCコンバータを提供する。
【解決手段】DC/DCコンバータ14は直流電圧の昇圧及び降圧を行うための変圧部を備えている。変圧部は、オン、オフ制御されるスイッチング素子Q1,Q2と、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチングに伴い電流が流れ、かつコアを有するリアクトル18と、リアクトル18に流れる電流を検出する電流センサ19とを備えている。また、電流センサ19の検出信号及びバッテリ12の電圧に基づいてリアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を変更する制御装置20を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC/DCコンバータに係り、詳しくはリアクトルとスイッチング素子とを備えるDC/DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のDC/DCコンバータでは、リアクトルのインダクタンスが低下すると、リップル電流が増加し、DC/DCコンバータの電流ピーク値が大きくなる。そして、電流ピーク値が大きくなると、スイッチング素子のオフサージが大きくなり、素子耐圧を超えてスイッチング素子の損傷を招いたり、DC/DCコンバータの過電流閾値を超えて、過電流検出装置が機能したりする状態になる。
【0003】
従来、リアクトルを含んで構成されたDC/DCコンバータにおいて、リアクトルのインダクタンスが所定の設計領域から外れて変動した故障を検知するDC/DCコンバータが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1のDC/DCコンバータは、リアクトルに印加された電圧を検出する電圧検出器と、リアクトルを通過するリアクトル電流を検出する電流検出器と、前記電圧検出器及び電流検出器の出力に基づいてリアクトルの故障を検知する制御回路とを備えている。制御回路は、リアクトルに印加された電圧とリアクトル電流の時間的変化とからリアクトルのインダクタンスを算出するとともに、算出したインダクタンスが予め定められた所定領域外であるときにリアクトルの故障を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−99518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リアクトルのインダクタンスが低下した場合であっても、直ちにDC/DCコンバータの駆動を停止するのではなく、支障のない範囲で駆動を継続したいという要望がある。
特許文献1では、リアクトルを含んで構成されたDC/DCコンバータにおいて、リアクトルのインダクタンスが予め定められた所定領域から外れた時にリアクトルの故障と検知することは開示されている。しかし、リアクトルのインダクタンスが低下した状態で支障なく、即ち少なくとも最低限度の機能を発揮する状態でDC/DCコンバータの駆動を継続することに関しては、何ら開示されていない。
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、リアクトルの異常によりインダクタンスが低下した場合も、スイッチング素子の損傷を防止するとともに支障のない範囲で駆動を継続することができるDC/DCコンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、直流電圧の昇圧及び降圧の少なくとも一方を行うための変圧部を備えたDC/DCコンバータである。そして、前記変圧部に備えられ、オン、オフ制御されることにより直流電圧の昇圧及び降圧の少なくとも一方を行うためのスイッチング素子と、前記スイッチング素子のスイッチングに伴い電流が流れるリアクトルと、前記リアクトルに流れる電流を検出する電流検出手段とを備えている。また、前記電流検出手段の検出信号及びバッテリの電圧に基づいて前記リアクトルに流れる電流の大きさが閾値を超えないように前記スイッチング素子のスイッチング時のオン時間を変更する制御手段を備えている。
【0008】
リアクトルの異常によりそのインダクタンスが低下した状態において、リアクトルが正常な状態におけるデューティ比でスイッチング素子のスイッチングを継続すると、リップル電流が増加してスイッチング素子のオフサージが大きくなり、素子耐圧を超える状態となって素子の損傷を招く。しかし、この発明では、リアクトルに流れる電流が電流検出手段により検出される。そして、制御手段は電流検出手段の検出信号及びバッテリの電圧に基づいてスイッチング素子のスイッチング時のオン時間を、リアクトルに流れる電流の大きさが閾値を超えないように変更する。したがって、リアクトルの異常によりそのインダクタンスが低下した場合も、スイッチング素子の損傷を防止するとともに支障のない範囲でDC/DCコンバータの駆動を継続することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、DC/DCコンバータは、前記スイッチング素子のオン時間と該オン時間に前記電流検出手段から検出される電流値と該オン時間に前記リアクトルに掛かる電圧とに基づいて前記リアクトルのインダクタンス値を推定するインダクタンス値推定手段を有する。また、前記制御手段は、前記スイッチング素子のオン時間と、前記インダクタンス値推定手段において推定された前記リアクトルのインダクタンス値と、前記オン時間に前記リアクトルに掛かる電圧とに基づいて前記リアクトルに流れる電流の大きさが閾値を超えないように前記スイッチング素子のスイッチング時のオン時間を変更する。この発明では、インダクタンス値推定手段により、リアクトルのインダクタンス値の低下異常を確認でき、スイッチング素子のスイッチング時のオン時間を、リアクトルに流れる電流の大きさが閾値を超えないようにより適切に変更することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リアクトルの異常によりそのインダクタンスが低下した場合も、スイッチング素子の損傷を防止するとともに支障のない範囲で駆動を継続することができるDC/DCコンバータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】DC/DCコンバータを備えた電源装置の回路図。
【図2】コアを有するリアクトルに流れる電流とインダクタンスとの関係を示すグラフ。
【図3】スイッチング素子Q2のオン時間Tonとリアクトル電流との関係を示すグラフ。
【図4】(a)はインダクタンス正常時のスイッチングに伴うリアクトル電流の変化を示す模式図、(b)はインダクタンス低下時のスイッチングに伴うリアクトル電流の変化を示す模式図。
【図5】インダクタンス異常低下有無判断及び対応処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をDC/DCコンバータとしての昇降圧コンバータを備えた電源装置に具体化した一実施形態を図1〜図5にしたがって説明する。
図1に示すように、電源装置11は、直流電源としてのバッテリ12と、平滑用コンデンサ13と、DC/DCコンバータ14と、インバータ15と、平滑用コンデンサ16とを備えている。インバータ15は、バッテリ12の出力電圧より高い電圧で駆動される交流モータ17に接続されている。このような構成は、例えば、交流モータ17が電気自動車の走行用モータの場合に対応する。
【0013】
平滑用コンデンサ13は、バッテリ12に並列に接続され、バッテリ12から供給される直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をDC/DCコンバータ14へ供給する。
【0014】
DC/DCコンバータ14は、コア(図示せず)を有するリアクトル18と、上アーム及び下アームを構成する2個のスイッチング素子Q1,Q2と、電流検出手段としての電流センサ19と、制御手段としての制御装置20とを備えている。スイッチング素子Q1,Q2及びリアクトル18が直流電圧の昇圧及び降圧の少なくとも一方を行うための変圧部を構成する。両スイッチング素子Q1,Q2にはIGBT(絶縁ゲートバイポーラ型トランジスタ)が使用されている。
【0015】
両スイッチング素子Q1,Q2のコレクタとエミッタ間には、ダイオードD1,D2がそれぞれ逆並列に、即ちカソードがコレクタにアノードがエミッタに対応する状態に接続されている。両スイッチング素子Q1,Q2は、スイッチング素子Q1のエミッタとスイッチング素子Q2のコレクタとが接続された状態で直列に接続され、スイッチング素子Q1のコレクタ及びスイッチング素子Q2のエミッタがそれぞれインバータ15の入力側に接続されている。また、スイッチング素子Q2のエミッタは、バッテリ12のマイナス端子に接続されている。
【0016】
平滑用コンデンサ16は、DC/DCコンバータ14の出力側、即ちインバータ15の入力側に、インバータ15に対して並列に接続されている。
リアクトル18は、一端がバッテリ12のプラス端子に接続され、他端が両スイッチング素子Q1,Q2の接続点に接続されている。
【0017】
電流センサ19は、両スイッチング素子Q1,Q2の接続点とリアクトル18の他端と
の間に設けられ、リアクトル18に流れる電流を検出して、その検出信号を制御装置20へ出力する。
【0018】
制御装置20は、バッテリ12の電力をインバータ15へ供給するときは、DC/DCコンバータ14がバッテリ12から供給される直流電圧を昇圧してインバータ15に供給する昇圧コンバータとして機能するように、スイッチング素子Q1,Q2のオン・オフを制御する。また、制御装置20は、交流モータ17の回生制動時には、DC/DCコンバータ14がインバータ15から供給される直流電圧を降圧してバッテリ12の充電電圧として供給する降圧コンバータとして機能するように、スイッチング素子Q1,Q2のオン・オフを制御する。なお、この実施形態では、バッテリ12の電圧を検出する電圧センサを設けずに、制御装置20がバッテリ12の放電及び充電経過からバッテリ12の電圧を演算するようになっている。
【0019】
制御装置20は、リアクトル18のインダクタンス低下異常の有無を判断し、インダクタンス低下異常と判断した場合は、リアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにDC/DCコンバータ14の出力を、正常時の出力に対して予め設定された割合(例えば、50%)に絞るようにスイッチング素子Q1,Q2を制御する。詳述すると、制御装置20は、電流センサ19の検出信号及びバッテリ12の電圧に基づいて、リアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2をスイッチングさせる際のデューティ比を変更することによりスイッチング素子Q1,Q2のオン時間を変更する。制御装置20は、リアクトル18に流れる電流の平均値に基づいてスイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を変更する。制御装置20は、電流センサ19の検出信号に基づいてリアクトル18に流れる電流の平均値を演算する。
【0020】
次に前記のように構成された電源装置11の作用を説明する。
バッテリ12を電源として交流モータ17を駆動する場合は、制御装置20は、DC/DCコンバータ14を昇圧コンバータとして機能させるようにスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2を交互にオン・オフ制御する。また、交流モータ17を要求出力で駆動させるようにインバータ15を制御する。
【0021】
また、交流モータ17の回生制動時には、交流モータ17が発電機として発電動作を行うので、交流モータ17で発電された交流電力をインバータ15で直流電圧に変換してDC/DCコンバータ14に供給する。そして、DC/DCコンバータ14で降圧された直流電圧でバッテリ12の充電が行われる。制御装置20は、DC/DCコンバータ14から出力される電圧がバッテリ12の電圧に適した充電電圧となるように、スイッチング素子Q1のデューティ比を演算して、そのデューティ比でスイッチング素子Q1のオン・オフ制御を行う。
【0022】
次にリアクトル18のインダクタンスの低下異常時における制御装置20の制御について説明する。
一般にコアを有するリアクトルに流れる電流とインダクタンスとの関係は、図2に示すようになる。即ち、電流がある大きさI1になるまでは、インダクタンスは一定(L1)で、I1を超えると電流の増大に伴ってインダクタンスが低下し、電流がI2以上になるとインダクタンスは再び一定(L2)になる。インダクタンスがL2の状態はコアがない(空芯)状態と同じになる。そのため、リアクトル18は、流れる電流がI1以下で使用されるのが好ましい。
【0023】
また、DC/DCコンバータ14を昇圧コンバータとして使用する場合、スイッチング素子Q2のオン時間Tonとリアクトル18に流れる電流ILとの関係は図3に示すようになる。即ち、オン時間Tonに比例して電流ILは増加し、途中でその傾きが急になる。また、インダクタンス正常時に比べてインダクタンス低下時には、オン時間Tonに対する電流ILの増加割合が大きくなる。そして、インダクタンス正常時及びインダクタンス低下時におけるスイッチング素子Q2の同じ周波数でのスイッチングに伴う電流ILの変化を模式的に示すと、図4(a)(インダクタンス正常時)及び図4(b)(インダクタンス低下時)に示すようになる。
【0024】
したがって、リアクトル18の異常によりそのインダクタンスが低下した状態において、リアクトル18が正常な状態におけるデューティ比でスイッチング素子Q1,Q2のスイッチングを継続すると、リップル電流が増加してスイッチング素子Q2のオフサージが大きくなる。その結果、オフサージ電圧が素子耐圧を超える状態となって素子の損傷を招いたり、過電流検出装置が作動してDC/DCコンバータ14の駆動が停止されたりする事態になる。
【0025】
リアクトル18のインダクタンスが低下した場合、DC/DCコンバータ14の駆動を停止して、リアクトル18の異常の修復を行った後、DC/DCコンバータ14の駆動を再開すれば、素子の損傷や過電流検出装置の作動によるDC/DCコンバータ14の駆動停止を回避することはできる。しかし、リアクトル18のインダクタンスが低下した場合でも、DC/DCコンバータ14の駆動を継続できれば便利である。
【0026】
インダクタンスが低下するリアクトル18の異常原因としては、リアクトル18のコアが割れたり、コアのギャップが変化したりする等の物理的、機械的な損傷が主である。そのため、異常の程度によっては、正常状態と同様な条件でDC/DCコンバータ14を駆動することはできなくても、例えば、最低限度の機能を発揮する状態でDC/DCコンバータの駆動を継続しても支障がない。
【0027】
制御装置20は、リアクトル18のインダクタンスが低下した場合に直ちにDC/DCコンバータ14の駆動を停止するのではなく、支障のない範囲でDC/DCコンバータの駆動を継続する処理を実行する。制御装置20は、図5のフローチャートにしたがってインダクタンス低下異常有無判断及び対応処理を所定周期(例えば、10ミリ秒)で実行する。
【0028】
制御装置20は、ステップS1で電流センサ19の検出信号からリアクトル18に流れている電流値を読み込み、ステップS2でリアクトル18のインダクタンスを推定する。このとき制御装置20はインダクタンス値推定手段として機能する。インダクタンスLの推定は、電流センサ19で検出される電流の最大値と最小値の差Ip−pと、リアクトル18に印加される電圧、即ちバッテリ電圧VB、インダクタンスL及びスイッチング素子Q2のオン時間Tonの関係を示す次式を用いて行われる。
【0029】
Ip−p=(VB/L)Ton・・・(1)
制御装置20は、ステップS3でインダクタンスが低下異常か否かを判断する。インダクタンスが低下異常か否かの判断は、予め試験等で求めてメモリに記憶されているインダクタンスの正常時におけるリアクトル18に流れる電流の最大値と最小値の差Ip−p、バッテリ電圧VB、スイッチング素子Q2のオン時間Tonと、インダクタンスLとの関係を示すマップに基づいて行われる。制御装置20は、例えば、ステップS2で推定されたインダクタンスLの値と、同じ条件において求められるインダクタンスの正常時におけるインダクタンスLの値とのズレ量が、予め設定された設定値より大きければ低下異常と判断する。
【0030】
制御装置20は、ステップS3で低下異常と判断すればステップS4に進み、ステップS4でインダクタンス低下異常判断回数をカウントするカウンタC1のカウント値に1を加えるとともに、インダクタンス正常判断回数をカウントするカウンタC2のカウント値から1を引く。
【0031】
次に制御装置20は、ステップS5でカウンタC1のカウント値が設定値より大きいか否かを判断し、設定値より大きければステップS6に進み、設定値以下であれば処理を終了する。制御装置20は、ステップS6でDC/DCコンバータ14の出力制限処理を行う。制御装置20は、出力制限処理としてスイッチング素子Q2のデューティ比、即ち1回のオン・オフのスイッチングにおけるオン時間Ton(オンデューティ)をリアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないように変更する。本実施の形態では、制御装置20は、リアクトル18に流れる電流の最大値と最小値の差Ip−pが目標の値となるように、ステップS2で推定したインダクタンスLの値と、バッテリ12の電圧とに基づいてスイッチング素子Q2のデューティ比を変更する。
【0032】
制御装置20は、出力制限処理を行う場合、図示しない報知装置に異常報知指令信号を出力し、報知装置よりインダクタンス低下異常の報知を行う。報知装置は、目視による確認可能な表示装置が好ましいが、聴覚により確認可能な音声による報知装置等であってもよい。
【0033】
また、制御装置20は、ステップS3で低下異常でないと判断すればステップS7に進み、ステップS7でインダクタンス正常判断回数をカウントするカウンタC2のカウント値に1を加える。次に制御装置20は、ステップS8でカウンタC2のカウント値が設定値より大きいか否かを判断し、設定値より大きければステップS9に進んでDC/DCコンバータ14の出力制限処理を解除し、設定値以下であれば処理を終了する。制御装置20は、ステップS9で出力制限解除処理を行う場合、報知装置によるインダクタンス低下異常の報知解除指令を行う。その結果、報知装置によるインダクタンス低下異常の報知が解除される。また、ステップS9で出力制限解除処理が行われると、カウンタC1,C2はリセットされる。
【0034】
ステップS4、ステップS5、ステップS7及びステップS8を省略して、制御装置20がステップS3でインダクタンスの低下異常と判断した場合に、ただちにステップS6へ進んで出力制限処理を行い、ステップS3でインダクタンスの低下異常でなければステップS9へ進んで出力制限解除処理を行う構成としてもよい。しかし、その場合は、ノイズ等の影響でインダクタンスが異常低下と判断された場合に不要なデューティ比の変更が繰り返されることになるため、この実施形態ではステップS4,S5,S7,S8が設けられている。ステップS5のインダクタンス低下異常判断回数をカウントするカウンタC1のカウント値の比較対象となる設定値(異常判定設定値)は、例えば、数回に設定される。
【0035】
また、ステップS8のインダクタンス正常判断回数をカウントするカウンタC2のカウント値の比較対象となる設定値(正常判定設定値)は、異常判定設定値より大きな値、例えば、100以上の値に設定される。インダクタンス低下異常有無判断及び対応処理の実行周期は10ミリ秒程度であるため、正常判定設定値が異常判定設定値の100倍の値に設定されても、時間にすれば数秒となる。したがって、ノイズの影響で出力制限処理が実行されてもそれが継続される時間は数秒であるため、支障はない。
【0036】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)DC/DCコンバータ14は、オン、オフ制御されることにより直流電圧の昇圧及び降圧の少なくとも一方を行うためのスイッチング素子Q1,Q2と、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチングに伴い電流が流れるリアクトル18と、リアクトル18に流れる電流を検出する電流センサ19とを備えている。また、電流センサ19の検出信号及びバッテリ12の電圧に基づいてリアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング時のオン時間を変更する制御装置20を備えている。したがって、リアクトル18の異常によりそのインダクタンスが低下した場合も、スイッチング素子Q2の損傷を防止するとともに支障のない範囲でDC/DCコンバータ14の駆動を継続することができる。また、インバータ15に過大な電流が供給されてインバータ15が故障することを防止することができる。
【0037】
(2)DC/DCコンバータ14は、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間と該オン時間に電流検出手段(電流センサ19)から検出される電流値と該オン時間にリアクトル18に掛かる電圧とに基づいてリアクトル18のインダクタンス値を推定するインダクタンス値推定手段を有する。制御手段(制御装置20)は、スイッチング素子Q1,Q2のオン時間と、インダクタンス値推定手段において推定されたリアクトル18のインダクタンス値と、前記オン時間にリアクトル18に掛かる電圧とに基づいてリアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング時のオン時間を変更する。したがって、インダクタンス値推定手段により、リアクトルのインダクタンス値の低下異常を確認でき、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング時のオン時間を、リアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにより適切に変更することができる。
【0038】
(3)制御装置20は、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を変更することによりスイッチング素子Q1,Q2のオン時間を変更する。したがって、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数を変更することによりスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング時のオン時間を変更する構成に比べて、制御が容易になる。
【0039】
(4)制御装置20は、リアクトル18のインダクタンスが低下した場合、DC/DCコンバータ14の出力を正常時の出力に対して予め設定された割合(例えば、50%)に絞るように制御するため、制御が簡単になる。
【0040】
(5)DC/DCコンバータ14は、2個のスイッチング素子Q1,Q2の直列回路が高圧側であるインバータ15に接続された状態で双方向の昇降圧コンバータとして機能可能に構成されている。したがって、バッテリ12より高電圧で駆動される交流モータ17の回生制動時に、回生電力でバッテリ12を充電することが可能になり、バッテリ12が放電のみを行う構成に比べて、バッテリ12の電力が有効に利用される。
【0041】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 制御装置20は、電流センサ19の検出信号及びバッテリ12の電圧に基づいてリアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を変更する場合、直接デューティ比を変更する構成に限らない。例えば、DC/DCコンバータ14の出力をフィードバック制御(例えば、PI制御)する場合の比例ゲインや積分ゲインを変更することにより、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を変更するようにしてもよい。
【0042】
○ インダクタンスの低下異常が発生した場合、制御装置20は、リアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を変更すればよい。例えば、インダクタンスの低下割合に拘らず、DC/DCコンバータ14の出力が必要最低限度の値となるようにスイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を設定してもよい。
【0043】
○ インダクタンスの低下異常が発生した場合、DC/DCコンバータ14の出力を正常時の出力に対して予め設定された割合(例えば、50%)に絞るように制御するのではなく、低下後のインダクタンスの値に対応して、リアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えない範囲で、絞る割合を段階的に変更するように制御してもよい。
【0044】
○ 制御装置20は、リアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング時のオン時間を変更する方法として、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を変更せずに、スイッチング周波数を変更してもよい。この場合も1回のスイッチング時におけるスイッチング素子Q1,Q2のオン時間を変更することができる。また、スイッチング周波数及びデューティ比の両方を変更してもよい。
【0045】
○ 制御装置20は、インダクタンス低下異常有無判断及び対応処理を実行する場合、電流センサ19で検出されたリアクトル18に流れる電流値に基づく判断を複数回行って最終的にインダクタンスの低下異常と判断するのではなく、1回の判断でインダクタンスの低下異常の有無判断を行ってもよい。
【0046】
○ 制御装置20がバッテリ12の電圧をバッテリ12の使用状態(放電及び充電経過)から演算するのではなく、バッテリ12の電圧を検出する電圧センサを設け、制御装置20が電圧センサの検出信号からバッテリ12の電圧を確認する構成にしてもよい。
【0047】
○ 制御装置20は、リアクトル18のインダクタンスを推定せずに、電流センサ19の検出信号及びバッテリ12の電圧に基づいてリアクトル18に流れる電流の大きさが閾値を超えないようにスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング時のオン時間を変更するようにしてもよい。このとき、閾値は予め試験等によりインダクタンスの低下異常時における電流値を基に設定する。したがって、インダクタンスを推定せずに、電流センサ19の検出信号及びバッテリ12の電圧に基づいてスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング時のオン時間を変更するようにしても支障はない。
【0048】
○ リアクトル18は、コアを有するリアクトルに限らず、コアがないリアクトル(空芯リアクトル)であってもよい。コアがない場合でも、導線を被覆しているエナメルが溶けて隣り合うコイルがショートすることにより、インダクタンスが低下する場合もあるので、リアクトル18が空芯リアクトルであっても、この発明を適用することができる。
【0049】
○ 直流電源はバッテリ12に限らず、交流電源から入力された交流を直流に変換して出力するものであってもよい。
○ DC/DCコンバータ14は、車両に搭載されて使用される電源装置11に限らず、他の機器の電源装置に適用してもよい。
【0050】
○ スイッチング素子Q1,Q2としてIGBTに代えて、パワーバイポーラトランジスタやMOSFETを使用してもよい。MOSEFTを使用した場合は、MOSFETが寄生ダイオードを有するため、スイッチング素子Q1,Q2として寄生ダイオードを有しないIGBTやバイポーラトランジスタを使用した場合と異なり、ダイオードD1,D2を接続する手間が不要になり、構成も簡単になる。
【0051】
○ DC/DCコンバータ14は、直流電源であるバッテリ12から供給される直流電源を昇圧する機能と、インバータ15から供給される直流電圧を降圧する機能とを備えた双方向の昇降圧コンバータに限らない。例えば、直流電源から供給される直流電圧を昇圧する機能のみを備えた昇圧コンバータや、直流電源から供給される直流電圧を降圧する機能のみを備えた降圧コンバータあるいは直流電源から供給される直流電圧を昇圧して出力すること及び降圧して出力することが可能な昇降圧コンバータであってもよい。
【0052】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1に記載の発明において、前記制御手段は前記スイッチング素子のデューティ比を変更することにより前記オン時間を変更する。
【0053】
(2)請求項1に記載の発明において、前記制御手段は前記スイッチング素子のスイッチング周波数を変更することにより前記オン時間を変更する。
(3)請求項1、請求項2、前記技術的思想(1)及び(2)のいずれか一項に記載の発明において、前記変圧部は、上アーム及び下アームを構成する直列接続された2個のスイッチング素子を有し、前記リアクトルは、一端が前記2個のスイッチング素子の接続点に接続され、他端が前記バッテリに接続されており、前記2個のスイッチング素子の直列回路が高圧側に接続された状態で双方向の昇降圧コンバータとして機能可能に構成されている。
【符号の説明】
【0054】
Q1,Q2…スイッチング素子、12…バッテリ、14…DC/DCコンバータ、18…リアクトル、19…電流検出手段としての電流センサ、20…インダクタンス値推定手段を構成するとともに制御手段としての制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧の昇圧及び降圧の少なくとも一方を行うための変圧部を備えたDC/DCコンバータであって、
前記変圧部に備えられ、オン、オフ制御されることにより直流電圧の昇圧及び降圧の少なくとも一方を行うためのスイッチング素子と、
前記スイッチング素子のスイッチングに伴い電流が流れるリアクトルと、
前記リアクトルに流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段の検出信号及びバッテリの電圧に基づいて前記リアクトルに流れる電流の大きさが閾値を超えないように前記スイッチング素子のスイッチング時のオン時間を変更する制御手段と
を備えていることを特徴とするDC/DCコンバータ。
【請求項2】
前記スイッチング素子のオン時間と該オン時間に前記電流検出手段から検出される電流値と該オン時間に前記リアクトルに掛かる電圧とに基づいて前記リアクトルのインダクタンス値を推定するインダクタンス値推定手段を有し、
前記制御手段は、前記スイッチング素子のオン時間と、前記インダクタンス値推定手段において推定された前記リアクトルのインダクタンス値と、前記オン時間に前記リアクトルに掛かる電圧とに基づいて前記リアクトルに流れる電流の大きさが閾値を超えないように前記スイッチング素子のスイッチング時のオン時間を変更することを備えていることを特徴とする請求項1に記載のDC/DCコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−200078(P2011−200078A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66418(P2010−66418)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】