説明

DGAT阻害剤

【課題】DGAT阻害剤又はTG合成抑制剤の提供。
【解決手段】ラズベリー若しくはその抽出物を有効成分とするDGAT阻害剤又はTG合成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防又は改善に有効なジアシルグリセロールアシル基転移酵素(以下、「DGAT」という。)阻害剤又はトリアシルグリセロール(以下、「TG」という。)合成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化に伴う恒常的な脂肪の過剰摂取により、高脂血症や肥満の発症率が増加している。高脂血症や肥満は、さらにインスリン抵抗性や糖尿病といった生活習慣病を合併するため、国民の健康維持・増進の観点において大きな社会問題となっている。
【0003】
高脂血症、とりわけ血中TG濃度上昇は、虚血性心疾患のリスクとしても問題視されている(非特許文献1〜3)。又、食後に血清脂質が異常な増加を示し、かつ、この増加が蔓延する状態は一般的に食後高脂血症と呼ばれるが、食後高脂血症者は、高血圧や、虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患の発症につながる危険性が高いことが指摘されている(非特許文献4及び5)。
【0004】
肥満、とりわけ内臓脂肪型肥満も、しばしば生活習慣病を合併し、動脈硬化性疾患の発症のリスクを高めることが示されている(非特許文献6及び7)。過剰に脂肪が蓄積した脂肪細胞では、インスリンの働きを高めるアディポネクチンの産生が低下し、動脈硬化性疾患の発症を促進するplasminogen activator inhibitor(PAI−1)やtumor necrosis factor(TNF−α)等の液性因子の産生が亢進し、このことが生活習慣病の合併や動脈硬化性疾患の発症と関連すると考えられている(非特許文献8)。
【0005】
インスリン抵抗性は、代謝症候群の中心的存在でインスリンが血液中に十分あるにも関わらず十分効果を発揮できない状態である。
インスリン抵抗性は、糖尿病の原因の1つと考えられている。さらに、インスリン抵抗性及び糖尿病は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、神経障害等を合併する原因となる上、高脂血症や高血圧を合併することにより、動脈硬化性疾患を発症するリスクが高まることが数多くの疫学的研究により示されている(非特許文献9及び10)。
【0006】
以上のことから、一般に高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病を予防及び/又は改善をすることは、健康な生活にとって重要なことであると考えられている。
【0007】
また、食事として摂取したTGは、小腸内でリパーゼの働きにより、2−モノアシルグリセロールと脂肪酸に分解された後、小腸上皮細胞に吸収されることが知られている。又、吸収された脂質は、小腸上皮細胞内で、モノアシルグリセロールアシル基質転移酵素(MGAT)やDGAT等の酵素の働きにより、TGに再合成される。さらに、合成されたTGは、小腸細胞が特異的に生成するアポ蛋白B48と会合することにより、カイロミクロン(CM)として血中に放出される。この様にDGATは小腸から体内へのTGの取り込みにおいて重要な役割を果たしているが、それに加え、DGATは肝臓における超低比重リポ蛋白(VLDL)の合成・分泌や脂肪組織のTG蓄積においても必要とされる酵素であるため、DGAT活性の阻害は高脂血症及び肥満の予防・改善の有効な手段となるものと考えられている。
【0008】
また、ノックアウトマウスを用いた研究により、DGAT欠損マウスでは、体重の減少が見られるのに加えて、血糖値の低下、インスリン感受性の向上、脂肪細胞におけるアディポネクチン発現増加等が認められることから、DGAT活性を阻害することは、インスリン抵抗性や糖尿病の予防・改善の良い手段ともなるものと考えられている(非特許文献
11)。
【0009】
以上のことから、DGAT活性を阻害することにより、TG合成抑制や高脂血症、肥満、インスリン抵抗性、及び糖尿病の予防・改善が可能となる。
【0010】
また、インスリン抵抗性は、血中の遊離脂肪酸濃度により直接的に影響を受けることが知られている。血中遊離脂肪酸の増加は、糖尿病患者や非糖尿病者において、インスリン抵抗性の原因となることの報告がなされており(非特許文献12及び13)、また、遊離脂肪酸が、インスリンシグナル伝達系を阻害し、インスリンによる骨格筋の糖取り込みを抑制することが明らかとなっている(非特許文献14)。従って、遊離脂肪酸濃度の上昇抑制作用もまた、インスリン抵抗性の改善に結果するものと期待される。
【0011】
従来の高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防・改善を目的としたアプローチの代表例として、食事療法や食欲抑制剤(非特許文献15及び16)、脂質代謝改善薬(非特許文献17及び18)を用いる方法が挙げられる。しかし、食事療法は長期的に実行するには非常に困難であり、食欲抑制剤や脂質代謝改善薬を長期服用する場合においては副作用が懸念される。
【0012】
一方、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防・改善を目的としDGAT活性を阻害する物質の探索が行われ、DGAT活性を阻害する食品素材として、これまでに柑橘類に多く含まれるフラボノイド、タンゲレチンがヒト肝臓由来HepG2細胞のDGAT活性を阻害することが報告されている(非特許文献19)。
また、ミカン科の植物ゴシュユ(呉茱萸、Evodia rutaecarpa)の果実に含まれるキノロンアルカロイドにも、DGAT阻害作用があると報告されている(非特許文献20)。しかしながら、これまでに見出されている食品素材は、その効果の面で十分満足のいくものではない。
【0013】
また、食品素材以外にもDGAT活性を阻害する化合物として、フェノキシアセトアミド誘導体やオキサジアゾール誘導体が開示されている(特許文献1及び2)。
【0014】
ところで、ラズベリー熱水抽出物にはリパーゼ阻害作用があること(特許文献3)、ラズベリー果汁に消臭作用があること(特許文献4)、ラズベリーの水及び/又はエタノール抽出物に抗アレルギー作用があること(特許文献5)が知られているが、ラズベリー又はその抽出物にDGAT活性阻害作用があることは知られていない。
また、ラズベリー等の植物には、エラジタンニンが含まれていることが知られているものの(非特許文献21〜23)、エラジタンニン又はその誘導体に、DGAT活性阻害作用があることもこれまでには知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2006/082010号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/138304号パンフレット
【特許文献3】特開2005−8572号公報
【特許文献4】特開2000−279502号公報
【特許文献5】特開平10−236965号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Carlson L. A. et al. Acta Med. Scand., 218, 207-211 (1985)
【非特許文献2】Castelli W. P. Am.Heart J., 112, 432-437 (1986)
【非特許文献3】多田紀夫 臨床医薬 21, 215-224 (2005)
【非特許文献4】中村治雄 医学のあゆみ 157, 771-775 (1991)
【非特許文献5】新・高トリグリセライド血症ハンドブック,秦葭哉,医薬ジャーナル社 (1998)
【非特許文献6】Peiris A. N. et al. Ann. Intern. Med., 110, 867-872 (1989)
【非特許文献7】Matsuzawa Y. et al. Obes. Res. 3 Suppl. 2, 187S-194S (1995)
【非特許文献8】Chan J. C. et al. I. Int. J. Obes. Relat. Metab .Disord., 26, 994-1008 (2002)
【非特許文献9】Lyon C. J. and Hsueh W. A. Am. J. Med. 115 Suppl. 8A, 62S-68S (2003)
【非特許文献10】堀田喜久子 松澤佑次 日本臨床 59, 481-486 (2001)
【非特許文献11】Chen H. C. et al. J. Clin. Invest., 11, 1715-1722 (2003)
【非特許文献12】Boden, G. et al. J. Clin. Invest., 88, 960-966 (1991)
【非特許文献13】Roden, M. et al. J. Clin. Invest., 97, 2859-2865 (1996)
【非特許文献14】Dresner, A. et al. J. Clin. Invest., 103, 253-259 (1999)
【非特許文献15】Inoue S. et al. Am. J. Clin. Nutr., 55, 199S-202S(1992)
【非特許文献16】Ryan D. H. et al. Obes. Res., 3, 553S-559S(1995)
【非特許文献17】Monk, J. P. and Todd P. A. Drugs, 33, 539-576 (1987)
【非特許文献18】多田紀夫 Ther. Res., 21, 2320-2325 (2000). Carlson L. A. et al. Acta Med.Scand., 218, 207-211 (1985)
【非特許文献19】Kurowska E. M. et al. Lipids, 39, 143-151 (2004)
【非特許文献20】Ko J. S. et al. Planta Med., 68, 1131-1133 (2002)
【非特許文献21】Kahkonen M. P. et al. J.Agric. Food Chem., 49(8), 4076 (2001)
【非特許文献22】Yoshida T. et al. Chem. Pharm. Bull, 40(8), 1997 (1992)
【非特許文献23】Tanaka T. et al. Chem Pharm. Bull., 41(7), 1214 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防又は改善に有効なDGAT阻害剤等を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、DGAT活性阻害作用を有し、かつ安全性の高い物質について探索を行なった結果、食の経験が豊富なラズベリー又はその抽出物が優れたDGAT活性阻害作用及びTG合成抑制作用を有していることを見出し、特にラズベリーに含まれる下記式(1)で表される部分構造を有するエラジタンニン又はその誘導体(以下、「GOD型エラジタンニン又はその誘導体」とも云う)が薬理活性の主体であることを見出した。そして、本発明者らは、ラズベリー又はその抽出物を、DGAT活性阻害、TG合成抑制や高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防・改善を目的とした医薬品又は食品等として使用できることを見出した。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(11)に係るものである。
(1) ラズベリー又はその抽出物を有効成分とするDGAT阻害剤。
(2) 抽出物が、有機溶剤抽出物である前記(1)記載のDGAT阻害剤。
(3) 有機溶剤抽出物が、含水エタノール抽出物又は含水アセトン抽出物である前記(2)記載のDGAT阻害剤。
【0020】
(4) ラズベリー又はその抽出物を有効成分とするTG合成抑制剤。
(5) 抽出物が、エラジタンニン又はその誘導体を主成分とする前記(4)記載のTG合成抑制剤。
(6) 抽出物が、有機溶剤抽出物である前記(4)又は(5)記載のTG合成抑制剤。
(7) 有機溶剤抽出物が、含水エタノール抽出物又は含水アセトン抽出物である前記(6)記載のTG合成抑制剤。
【0021】
(8) ラズベリー又はその抽出物を有効成分とするインスリン抵抗性予防又は改善剤。
(9) ラズベリー又はその抽出物を有効成分とする糖尿病予防又は改善剤。
【0022】
(10) 分子内に式(1)
【0023】
【化1】

【0024】
で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の各症状の予防若しくは改善剤、又はTG合成抑制剤。
(11) エラジタンニン又はその誘導体は、サンギインH−6及びランベルチアニンCから選ばれる1種以上である前記(12)記載の高脂血症、肥満、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の各症状の予防若しくは改善剤、又はTG合成抑制剤。
【発明の効果】
【0025】
本発明のDGAT阻害剤、TG合成抑制剤、高脂血症予防・改善剤、肥満予防・改善剤、インスリン抵抗性予防・改善剤、又は糖尿病予防・改善剤は、優れたDGAT阻害作用等を有するので、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防・改善をするための医薬品又は食品等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】HP−20分画品、固液分画品、ランベルチアニンC精製品、サンギインH−6精製品のHPLC分析を行なった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
後記実施例に示すように、ラズベリー又はその抽出物は優れたDGAT阻害作用、血中TG上昇抑制作用及び血中FFA上昇抑制作用(以下、「DGAT阻害作用等」とする)を有する。しかも、ラズベリーは古くから食経験の豊富なものであるため、ラズベリー又はその抽出物を長期間摂取しても安全性は極めて高い。
ここで、DGAT活性の阻害は、TG合成抑制、高脂血症予防若しくは改善、肥満予防若しくは改善、またインスリン抵抗性予防若しくは改善、又は糖尿病予防若しくは改善の有効な手段である(非特許文献11)。また、TG上昇の抑制は、高脂血症とりわけ食後高脂血症の抑制の有効な手段であり、血中FFA上昇の抑制は、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防又は改善の有効な手段である(非特許文献12−14)。
従って、本発明のラズベリー又はその抽出物は、DGAT阻害剤、TG合成抑制剤、高脂血症予防若しくは改善剤、肥満予防若しくは改善剤、またインスリン抵抗性予防若しくは改善剤、又は糖尿病予防若しくは改善剤(以下、「DGAT阻害剤等」と云う)として使用でき、さらにこれら製剤を製造するために使用することができる。このとき、当該DGAT阻害剤等では、当該ラズベリー又はその抽出物を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
【0028】
ここで、本発明におけるラズベリーとは、バラ科のRubus idaeusを意味する。
本発明におけるラズベリーは、その植物の種子及び/又は果実等をそのままの状態で、又は圧搾や粉砕、乾燥等の処理をし、汁や粉末等として使用できる。このうち、果実を使用するのが好ましい。
【0029】
本発明における抽出物は、上記ラズベリーを室温(例えば、4〜50℃)又は加温(室温〜溶媒沸点)下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出すること等の公知の抽出手段により得られるものである。その形態は、特に限定されず、各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液、そのペースト又はその乾燥末等の何れの形態でもよい。
【0030】
本発明のラズベリー抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれも使用することができる。
抽出溶剤の具体例としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;超臨界二酸化炭素;ピリジン類;油脂、ワックス等その他オイル類等の有機溶剤が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
この抽出溶剤のうち、ラズベリー抽出物のDGAT阻害作用等を向上させる点から、有機溶剤を用いるのが好ましい。
有機溶剤のうち、ラズベリー抽出物のDGAT阻害作用等を向上させる点から、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類等から選ばれる1種以上のものを用いるのが好ましい。このうち、炭素数1〜4のアルコール類、よりエタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数2〜4の低級アルコール類;炭素数3〜5のケトン類、よりアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の水溶性有機溶剤から選ばれる1種以上のものを用いるのが好ましく、エタノール及びアセトンから選ばれる1種以上のものを用いるのがより更に好ましい。
なお、これら有機溶剤には、水が含まれていても良い(以下、「水が含まれているもの」を「含水有機溶剤」と云う)。
更に、これら有機溶剤のうち、含水有機溶剤が好ましく、含水水溶性有機溶剤がより好ましく、含水エタノール及び含水アセトンが更に好ましい。
【0032】
有機溶剤と水との配合割合(容量比)としては、0.001〜100:99.999〜0が好ましく、5〜95:95〜5がより好ましく、20〜80:80〜20が更に好ましく、30〜70:70〜30がより更に好ましく、40〜60:60〜40がより好ましい。含水アルコール類の場合、アルコール類濃度が40〜60容量%であることが好ましく、また、含水アセトンの場合、アセトン濃度が40〜80容量%であることが好ましい。
【0033】
溶剤の使用量としては、ラズベリー(乾燥質量換算)1gに対して1〜100mLが好ましく、抽出時間としては、1分間〜100日間が好ましく、1分間〜10日間がより好ましい。このときの抽出温度としては、0℃〜溶媒沸点、より5〜80℃、更に5〜50℃、より更に10〜40℃が好ましい。
【0034】
ラズベリー抽出物を得る抽出手段は、具体的には、固液抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の手段を用いることができる。
例えば、浸漬の好適な一例として、4〜50℃で、5時間〜10日間の浸漬が挙げられる。
また、抽出時間を短縮する場合には、攪拌を伴う固液抽出が望ましい。この固液抽出の好適な条件の一例としては、10〜100℃(好ましくは10〜50℃)下、1000〜5000rpmで1〜30分間の攪拌が挙げられる。
抽出物の酸化を防止するため、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する手段を併用してもよい。
更に、ラズベリー抽出物の薬理活性を向上させる点から、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去するため、クロマトグラフィーや液々分配等の分離技術を用いてもよい。
【0035】
また、ラズベリー又はその抽出物から水溶性の不活性な夾雑物を除去するため、ラズベリー又はその抽出物を水洗するのが好ましい。また、ラズベリーの新鮮果実より果汁を圧搾抽出した残渣を、上述の有機溶剤で抽出する方法も有効である。
水洗の一例として、ラズベリーを、ホモジナイズや粉砕し、適宜乾燥等の前処理を行なった後、水洗して、遠心分離やろ過等の分離手段により得られたラズベリー残査を予め調製し、次いで上述の有機溶剤で抽出する方法が挙げられる。
水洗の際に、浸漬、超音波、マイクロ波、攪拌、振とう等の物理的手段を用いることができる。このうち攪拌が好ましく、このときの回転数は、1000〜5000rpm程度であればよい。
水洗の際の処理時間としては、1〜60分間が好ましく、1〜30分間がより好ましく、水洗の際の処理温度としては、4〜100℃が好ましく、抽出物の変質を抑制する場合には、4〜50℃が望ましい。
このときの水の使用量としては、ラズベリー又はその抽出物(乾燥質量換算)1gに対して、1〜100mLが好ましい。
なお、ラズベリー残査から上述の有機溶剤で抽出する方法としては、4〜80℃下で、当該残渣と有機溶剤とを1〜30分間混合攪拌(1000〜5000rpm程度)して抽出する方法が好ましい。
【0036】
また、ラズベリー又はその抽出物(好ましくは有機溶剤抽出物)をクロマトグラフィーに付すのが、ラズベリー抽出物のDGAT阻害作用等を向上させる点から、好ましい。
クロマトグラフィーに用いる固定相としては、例えば、強・弱酸性イオン交換樹脂又は強・弱塩基性イオン交換樹脂;オクタデシル化シリカゲル、オクチル化シリカゲル、ブチル化シリカゲル、トリメチルシリル化シリカゲル等の逆相樹脂;シリカゲル、フロリジール、アルミナ等の順相樹脂;スチレン−ジビニルベンゼン系、メタクリル酸エステル系等の芳香族系合成樹脂;修飾デキストラン系(例えば、Sephadex(登録商標) LH−20等)、親水性ビニルポリマー系(例えば、トヨパール HW−40等)等のゲルろ過クロマトグラフィー用充填剤;活性炭等が挙げられるが、このうち、逆相樹脂及び芳香族系合成樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー用充填剤等好ましい。
【0037】
ラズベリー又はその抽出物(好ましくはラズベリー有機溶剤抽出物)をクロマトグラフィーに付してDGAT阻害作用を有する溶出画分(以下、「活性画分」又は「DGAT活性画分」とも云う)を得る方法の一例として、以下の方法が挙げられる。このとき、活性画分を検出する際の波長としては、260〜300nm、より270〜290nmが好ましい。
【0038】
ラズベリー又はその抽出物を、逆相樹脂を用いた中・高圧クロマトグラフィーに付した後、溶出溶媒をグラジュエントして、活性画分を得る。
このときの溶出溶媒としては、ぎ酸:水:アセトニトリル=0〜5:100〜0:0〜100、より0.01〜2:95〜10:5〜90のグラジュエントが好ましい。カラム温度としては、20〜50℃、より30〜40℃が好ましい。また、流速としては、1〜40mL/分、より15〜25mL/分が好ましい。活性画分を分取する際の保持時間は、5〜100分、より20〜50分が好ましい。
【0039】
また、ラズベリー又はその抽出物を、芳香族系合成樹脂を用いた中・高圧クロマトグラフィーに付して吸着後、樹脂体積の100〜1000容量%(好ましくは300〜600容量%)の水で洗浄し、次いで樹脂体積の100〜1000容量%(好ましくは300〜600容量%)の有機溶剤又は含水有機溶剤で溶出させ、活性画分を得る。用いる有機溶剤又は含水有機溶剤は上述と同様のものを用いればよい。
【0040】
更に、上述の逆相樹脂を用いたクロマトグラフィーと芳香族系合成樹脂を用いたクロマトグラフィーとを併用してもよく、ラズベリー又はその抽出物を付す際の順序としてはいずれが先でもよいが、ラズベリー又はその抽出物を芳香族系合成樹脂を用いたクロマトグラフィーに付して活性画分を得、次いで得られた活性画分を逆相樹脂を用いたクラマトグラフィーに付して更に薬理活性が向上した活性画分を得るのが好ましい。
【0041】
更に、後記実施例に示すように、ラズベリー又はその抽出物から、クロマトグラフィーによりDGAT活性画分を分取し、更にDGAT活性画分に下記に示すサンギインH−6及びランベルチアニンCが含まれる。そして、このサンギインH−6及びランベルチアニンCは、ラズベリー抽出物よりも更に優れたDGAT阻害作用等を有する。斯様なことから、サンギインH−6及びランベルチアニンC、すなわちエラジタンニン又はその誘導体が、ラズベリー又はその抽出物におけるDGAT阻害作用等の薬理活性の主成分と考えられる。
【0042】
【化2】

【0043】
従って、本願発明は、分子内に下記式(1)
【0044】
【化3】

【0045】
で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)又は(2)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とするDGAT阻害剤を提供するものである。
【0046】
このため、ラズベリー又はその抽出物を、上記抽出・分離技術及び適宜公知の精製技術により、GOD型エラジタンニン又はその誘導体を含むラズベリー抽出物(画分)、更にGOD型エラジタンニン又はその誘導体を主成分とするラズベリー抽出物(画分)にするのが、薬理活性を向上させる点から、好ましい。
このときのラズベリー抽出物(画分)中のGOD型エラジタンニン又はその誘導体の含有量は、乾燥質量換算で、0.01質量%以上、より0.5質量%以上、更に15質量%以上、より更に95質量%以上であるのが、薬理活性向上の点から、好ましい。
【0047】
なお、ラズベリー又はその抽出物は、そのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、あるいは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0048】
本発明において、エラジタンニンとは、ヘキサヒドロジフェノイル基を有し、かつ、加水分解して脱水環化することにより、エラグ酸を生成するタンニンの総称を意味する。
【0049】
ここで、ラズベリー又はその抽出物に含まれているエラジタンニン又は誘導体とは、少なくとも下記式(1)
【0050】
【化4】

【0051】
で表される部分構造を有するエラジタンニン関連加水分解性タンニンをいう。
このうち、薬理活性の向上の点から、好適なエラジタンニン誘導体としては、上記式(1)で表される部分構造に、さらにグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に上記式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したものが挙げられる。
【0052】
GOD型エラジタンニン又はその誘導体のうち、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0053】
【化5】

【0054】
式(2)中、R1は、水素原子又はガロイル基を表す。式(2)中、「〜OR1」は、α型及び/又はβ型の存在を表す。
式(2)中、R2及びR3は、同一又は異なって水素原子又はガロイル基を表すか、又は一緒になってヘキサヒドロキシジフェノイル基を表す。
式(2)中、R4は、
【0055】
【化6】

【0056】
〔式中、R5及びR6は、同一又は異なって水素原子又はガロイル基を表す。〕を表す。
式(2)中、mは0〜2(好ましくは0又は1)を表す。
【0057】
【化7】

【0058】
GOD型エラジタンニン又はその誘導体としては、可食植物に存在し、安全性が高い点から、好適には、サンギインH−2、サンギインH−3、サンギインH−6、サンギインH−7、サンギインH−8、サンギインH−9、サンギインH−10及びサンギインH−11等のサンギイン;ランベルチアニンA,ランベルチアニンB、ランベルチアニンC、ランベルチアニンD等のランベルチアニン;ロシェニンA、ロシェニンB、ロシェニンC、ロシェニンD、ロシェニンE等のロシェニン等が例示できる。
この例示物のうち、DGAT阻害活性の点から、サンギインH−6及びランベルチアニンCが好ましい。
【0059】
【化8】

【0060】
【化9】

【0061】
【化10】

【0062】
本発明のエラジタンニン又はその誘導体には、公知の化学合成法により得られるものや、エラジタンニン又はその誘導体を主成分とする植物抽出物(例えば、非特許文献21〜23参照)又はその精製物等も包含される。このとき、薬理活性の向上の点から、エラジタンニン又はその誘導体を主成分とする植物抽出物中に、乾燥物換算で、エラジタンニン又はその誘導体が、0.5質量%以上、より15質量%以上含まれていることが好ましい。
例えば、サンギイン及び/又はランベルチアニンとしては、ラズベリー(Rubus ideus)の果実から抽出、又はその抽出物を濃縮もしくは精製したものを使用することができる。
なお、本発明のエラジタンニン又はその誘導体を植物から抽出・分離・精製する際には、上述のラズベリーからの抽出・分離・精製手段を適用すればよい。
また、得られたエラジタンニン又はその誘導体が含まれる抽出物や画分は、上述のラズベリー抽出物や画分の形態と同じく好適な形態にして適宜用いてもよい。
【0063】
本発明のエラジタンニン又はその誘導体は、DGAT阻害作用等を有することから、前述のとおり、DGAT阻害剤等として使用でき、さらにこれら製剤を製造するために使用することができる。このとき、当該DGAT阻害剤等では、当該エラジタンニン又はその誘導体を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
【0064】
従って、本発明のラズベリー若しくはその抽出物、又はエラジタンニン若しくはその誘導体を有効成分とするDGAT阻害剤等は、DGAT阻害活性;TG合成抑制;高脂血症、肥満、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の各症状の予防、改善又は治療等の各効果を発揮する、ヒト若しくは動物(非ヒト)用の医薬品、医薬部外品、食品、機能性食品又は飼料等の有効成分として配合して使用可能である。また、当該DGAT阻害剤等は、DGAT阻害活性;TG合成抑制;高脂血症、肥満、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の各症状の予防、改善又は治療等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。
【0065】
本発明のDGAT阻害剤等を医薬品の有効成分として用いた場合、当該医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、経口、経腸、経粘膜、注射等が挙げられる。経口投与のための製剤の剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口投与としては、静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
【0066】
また、斯かる製剤では、本発明のDGAT阻害剤等を単独で、又は他の薬学的に許容される担体とを組み合わせて使用してもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤等が挙げられる。
【0067】
これらの投与形態のうち、経口投与が好ましく、経口投与用製剤の有効成分として用いる場合の該製剤中の、ラズベリー又はその抽出物の含有量は、乾燥物換算で、通常、製剤全質量の0.04〜100質量%であり、2.0〜80質量%であるのが好ましい。また、有効成分エラジタンニン又はその誘導体の含有量は、通常、製剤全質量の0.01〜80質量%であり、0.5〜80質量%であるのが好ましい。
【0068】
上記製剤の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人(60kg)当たりの1日の投与量は、ラズベリー又はその抽出物(乾燥物換算)を有効成分として、通常、4〜8000mg、より40〜8000mg、更に200〜2000mgが好ましい。また、当該成人1人当たりの1日の投与量は、通常、エラジタンニン又はその誘導体を有効成分として1〜2000mg、より10〜2000mg、更に10〜1000mg、より更に50〜500mgが好ましい。
また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0069】
本発明のDGAT阻害剤等を食品の有効成分として用いた場合、当該食品の形態は、固形、半固形または液状であり得る。食品の例としては、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、およびそれらの原料が挙げられる。また、上記の経口投与製剤と同様、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。
種々の形態の食品を調製するには、DGAT阻害剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0070】
食品中におけるラズベリー又はその抽出物の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、飲料の形態では、通常0.004〜8質量%であり、0.008〜4質量%、より0.04〜2質量%であるのが好ましい。また、錠剤や加工食品などの固形食品形態では、通常0.04〜80質量%であり、0.08〜40質量%、より0.4〜20質量%であるのが好ましい。
また、食品中における有効成分エラジタンニン又はその誘導体の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、飲料の形態では、通常0.001〜2質量%であり、0.002〜1質量%、より0.01〜0.5質量%であるのが好ましい。また、錠剤や加工食品などの固形食品形態では、通常0.01〜20質量%であり、0.02〜10質量%、より0.1〜5質量%であるのが好ましい。
【0071】
また、本発明のDGAT阻害剤等を飼料の有効成分として用いた場合には、当該飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
尚、飼料を製造する場合には、DGAT阻害剤等を単独で、又はこの他に、牛、豚、羊等の肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、更に一般的に飼料に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等を必要に応じて配合し、常法により当該飼料を加工製造することがきできる。
【0072】
飼料中におけるまた、ラズベリー又はその抽出物の含有量は、その使用形態により異なるが、乾燥物換算で、通常0.04〜80質量%であり、0.08〜40質量%、より0.4〜20質量%であるのが好ましい。
また、飼料中における有効成分エラジタンニン又はその誘導体の含有量は、その使用形態により異なるが、通常0.01〜20質量%であり、0.02〜10質量%、より0.1〜5質量%であるのが好ましい。
【0073】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0074】
製造例1:ラズベリー50%エタノール抽出物の調製
ラズベリー(Rubus idaeus L.)果実の凍結乾燥粉末(FDラズベリーパウダー、協立物産より入手)100gを、10倍量(1L)の50容量%(以下、「%」とする)エタノール水(エタノール濃度50容量%)に室温(20〜30℃)で15時間浸漬し、不溶物を濾別後、減圧濃縮し抽出物を得た(固形分59g)。
なお、GOD型エラジタンニンの含有量及び同定を以下の方法にて求めた。
エラジタンニンの定量及び同定方法
<HPLC分析条件>
カラム:Inertsil ODS−3(オクタデシル化シリカゲル、GLサイエンス社製、4.6 x 250mm, 5mm)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
検出:UV280nm
溶離液:A液 1%ぎ酸水溶液、B液 アセトニトリル
A/B=(0分)90/10→90/10(10分)→80/20(70分)→90/10(71分)→90/10(80分)
【0075】
ラズベリー50%エタノール抽出物〔固形分〕(乾燥質量換算)中のGOD型エラジタンニンの総含有量は、1.0質量%であった。エラジタンニンとして、HPLC分析にてサンギインH−6,ランベルチアニンCが同定された。
【0076】
製造例2:ラズベリー70%アセトン抽出物の調製
ラズベリー(Rubus idaeus L.)果実の凍結乾燥粉末(FDラズベリーパウダー、協立物産より入手)1gを、10倍量(10mL)の70%アセトン水(アセトン濃度70容量%)に室温(20〜30℃)で7日間浸漬し、不溶物を濾別後、減圧濃縮し抽出物を得た(固形分0.3g)。
ラズベリー70%アセトン抽出物〔固形分〕(乾燥質量換算)中のGOD型エラジタンニンの総含有量は、0.7質量%であった。また、エラジタンニンとして、HPLC分析にて、サンギインH−6,ランベルチアニンCが同定された。
【0077】
実施例1:DGAT活性阻害試験
50μgの肝臓ミクロソーム画分を、表中に示した被験物質をエラジタンニンが最終濃度0.1質量%で含む200μLのDGAT活性測定バッファー(250mM Sucrose, 10mM Tris-HCl (pH7.5), 10 mM MgCl2, 0.8 mM EDTA, 0.1% Bovine Serum Albumin, 100μM Oleoyl-CoA (0.05μCi/200μL、55mCi/mmol), 1.2 mM 1,2-diolein)中で、37℃、20分間インキュベートした。
各被験物質の存在下でのDGAT活性を、表1に示す。DGAT活性は、溶媒コントロールのDGAT活性を100とした相対値で表す。
【0078】
【表1】

【0079】
製造例3:ラズベリー固液(50%エタノール)分画品の調製
ラズベリー(Rubus idaeus L.)果実の凍結乾燥粉末(FDラズベリーパウダー、協立物産より入手)40gに、10倍量(400mL)のイオン交換水を加え、TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)により、室温(20〜30℃)下3000rpmで10分間攪拌した。その後、遠心分離(3000rpm、20分)し、上澄を除去した。本操作の水洗を3回繰り返し、水溶性成分を除去した後、残渣を50%エタノール水で抽出した。抽出は50%エタノール水400mLを用い、TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)により、室温下3000rpmで10分間攪拌、その後、遠心分離(3000rpm、20分)により、上澄みを得るといった方法で行った。本抽出操作も3回繰り返し、得られる3回分の上澄を併せ、減圧濃縮し固液分画品を得た(1.3g)。
固液分画(乾燥質量換算)中のGOD型エラジタンニンの総含有量は、23.9質量%であった。エラジタンニンとして、HPLC分析にて、サンギインH−6,ランベルチアニンCが同定された(図1参照)。
【0080】
実施例2:高脂血症抑制試験
実験動物は、チャールスリバージャパンから購入したC57BL/6マウス(7週齢)を約1週間馴化した後使用した。トリアシルグリセロール合成抑制剤としては、製造例3で調製したラズベリー抽出物(固液分画品)を用いた。試験群及び対照群につき、一群9匹のマウスを用いた。脂質負荷は、体重1g当たり40μLの脂質エマルジョン(10%トリアシルグリセロール油、1%卵黄レシチン、4%ウシ血清アルブミン)を、胃ゾンデを用いて経口投与することで行った。試験群に与える脂質エマルジョンにはさらにラズベリー抽出エキスを終濃度1%となる様に添加して用いた。投与1、2、4、6時間後に採血を行い、血漿中のトリアシルグリセロール濃度およびFFA濃度を測定した。TG濃度の測定は、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて、グリセリン消去法により行った。FFA濃度の測定は、NEFA C−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて、アシル−CoAシンターゼ・アシル−CoAオキシダーゼ法により行った。反応は、96ウエルプレート中で行い、バイオラド社マイクロプレートリーダーMODEL550を用いて、TG濃度はOD595nm、FFA濃度はOD550nmの吸光度を測定した。TG濃度は、キット付属のグリセリン標準液を用いて作製した検量線より、血漿に含まれるトリアシルグリセロール濃度を求めた。FFA濃度は、キット付属のオレイン酸標準液を用いて作製した検量線より、血漿に含まれるFFA濃度を求めた。TG濃度の変化及び変化量(Δ)の結果を、それぞれ表2と表3に示す。FFA濃度の変化及び変化量(Δ)の結果を、それぞれ表4と5示す。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
表2に示す様に、脂質エマルジョンの経口投与を行ったところ、投与1〜2時間後をピークとした血漿TG濃度の上昇が認められたが、試験群では、脂質負荷後の血漿TG濃度の低下が確認された。投与2時間後のTGレベルにおいては、試験群において、対照群と比較して、血漿TG濃度が23.8%低下していた。また、表3に示す様に、試験群では、脂質エマルジョン経口投与後の血漿TG濃度の変化量においても、対照群と比較して、TG濃度増加の抑制が確認された。血漿TG濃度の変化量は、試験群において、対照群と比較して、37.1%の低下であった。従って、ラズベリー抽出物は高脂血症、とりわけ食後高脂血症の抑制に有効であると考えられる。
さらに、表4に示す様に、脂質エマルジョン投与後のFFAレベルは、TGレベルと同様、脂質エマルジョンの経口投与1〜2時間後をピークとして上昇が認められたが、試験群では、脂質負荷後の血漿FFA濃度の低下が確認された。投与2時間後のFFAレベルは、試験群において、対照群と比較して、血漿FFA濃度が23.0%低下していた。また、表5に示す様に、試験群では、脂質エマルジョン経口投与後の血漿FFA濃度の変化量においても、対照群と比較して、FFA濃度増加の抑制が確認された。血漿FFA濃度の変化量は、試験群において、対照群と比較して、81.9%の低下であった。従って、ラズベリー抽出物はFFA濃度の減少を介して、インスリン抵抗性および糖尿病の予防又は改善に有効であると考えられる。
【0086】
製造例5:ラズベリーからの被験物質(サンギインH−6,ランベルチアニンC)の調製
(1)ラズベリー50%エタノール抽出物の調製
製造例1の抽出物を用いた。
(2)ラズベリーHP−20分画品(以下、「分画物」とも云う)の調製
上記(1)の抽出物のうち20gを水に再溶解した後、スチレン−ジビニルベンゼン系の芳香族合成吸着剤であるダイヤイオンHP−20(1000mL)に吸着させた。HP−20は水4Lで洗浄した後、50%エタノール水4Lで溶出した。得られた溶出液は減圧にて濃縮し、HP−20分画物1.21gを得た。
HP−20分画品(乾燥質量換算)中のGOD型エラジタンニンの総含有量は、17.9質量%であった。
(3)サンギインH−6精製品、ランベルチアニンC精製品の調製
上記(2)で得られた分画物のうち400mgを用い、さらにHPLCで分画することにより、サンギインH−6(43mg)、ランベルチアニンC(16mg)を単離し、ピーク保持時間はそれぞれ、38〜41分、36〜38分であった(図1参照)。
<分画条件>
カラム:Inertsil ODS−3(オクタデシル化シリカゲル、20x250mm、GLサイエンス)
溶媒:A液 1%ぎ酸水溶液、B液 アセトニトリル
A/B=(0分)90/10→90/10(10分)→80/20(40分)→90/10(41分)→90/10(45分)
温度:40℃、流速:18.9mL/分、検出:UV=280nm
サンプル400mgを20mLの10%エタノールに溶解後、1mLづつ23回チャージ
得られたサンギインH−6精製品およびランベルチアニンC精製品の1H および13C NMRスペクトルは、非特許文献22および23記載のサンギインH−6およびランベルチアニンCの1H および13C NMRスペクトルのデータと一致した。
よって、ラズベリーから抽出された、製造例3の固液分画品及び製造例3のHP−20分画品を、少なくとも保持時間31〜46分で分取する(図1参照)と、薬理活性の主体であるGOD型エラジタンニン又はその誘導体を更に精製できると共に、得られた活性画分の薬理作用を高めることができる。
【0087】
実施例3:ラズベリー抽出物より単離したサンギインH−6及びランベルチアニンCのDGAT活性阻害評価
被験物質として、上記製造例5でラズベリー抽出物より単離したサンギインH−6及びランベルチアニンCと、EGCG(エピガロカテキンガレート:入手先:長良サイエンス)を用いた。
マウス肝臓より、ミクロソーム画分を下記の様に調製し、DGAT活性測定に使用した。C57BL/6Jマウス(雄性、6週齢)の肝臓をSucrose Buffer (250mM Sucrose, 1mM EDTA, 10mM Tris-HCl (pH7.5))中でホモジナイズし、4℃、12,500 x g、15分間遠心し上清を回収した。上清をさらに4℃、100,000 x g、60分間遠心し、沈殿をSucrose Bufferに再懸濁し、肝臓ミクロソーム画分として使用した。
50μgの肝臓ミクロソーム画分を、表中に示した濃度の各被験物質を含む200μLのDGAT活性測定バッファー(250mM Sucrose, 10mM Tris-HCl (pH7.5), 10 mM MgCl2, 0.8 mM EDTA, 0.1% Bovine Serum Albumin, 100μM Oleoyl-CoA (0.05μCi/200μL、55mCi/mmol), 1.2 mM 1,2-Diolein)中で、37℃、20分間インキュベートした。1.5mLのクロロホルム/メタノール(1:1)を添加することで反応を止めた。次に、250μLのPBSを加えて攪拌し、遠心分離により水層と油層に分離(脂質抽出)した。下層であるクロロホルム層を回収し、窒素ガスで乾燥、クロロホルムに再溶解した。
クロロホルムに溶解した脂質の一部を液体シンチレーションカウンター(Perkin Elmer)に供し、放射活性を測定した。約2000dpmの抽出脂質の一部をHPTLCプレート(20 x 10 cm Silica gel 60, Merk)を用いて分画した。展開溶媒には、ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(80:20:1)を使用した。BAS2500(富士フィルム)を用いてフルオログラフィー及び定量解析を行った。抽出脂質に取り込まれた総放射活性に対するTGに取り込まれた放射活性の割合をDGAT活性とした。
各被験物質の存在下でのDGAT活性を、表6に示す。DGAT活性は、溶媒コントロールのDGAT活性を100とした相対値で表す。
表6に示される様に、サンギインH-6、及びランベルチアニンCは、DGAT活性に対し有意な阻害を示した。
この様に、ラズベリーより単離されたエラジタンニンはDGAT活性について優れた阻害作用を示すことから、DGAT阻害の他、TG合成抑制剤、高脂血症予防・改善剤、肥満予防・改善剤、インスリン抵抗性予防・改善剤、及び糖尿病予防・改善剤として有用であると考えられる。
【0088】
【表6】

【0089】
実施例4:ラズベリー抽出物より単離したサンギインH−6及びランベルチアニンCの他の酵素活性阻害評価
被験物質として、上記実施例3で用いたものを使用した。
上記実施例3で示した様に調製したマウス肝臓ミクロソーム画分を用いて、グルコース6リン酸脱リン酸化酵素(G6Pase)活性測定、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A(HMG−CoA)還元酵素活性の測定を行った。
G6Pase活性測定は、マウス肝臓ミクロソーム画分(50μg)を、表中に示した濃度の被験物質の存在下で、100μLの反応液(50 mM HEPES buffer (pH7.2)、100 mM KCl、2.5 mM EDTA、2.5 mM MgCl2、1mMDTT、10 mM glucose-6-phosphate、2 mM EDTA)中で37℃、30分間インキュベートした。次に、400μLの反応停止液(0.42% ammononium molybdate tetrahydrate in 1N H2SO4、10%SDS、10% ascorbic acidの6:2:1 混合液)を添加し、50℃、30分間インキュベートした。生じた青色色素を吸光度測定(OD820)し、無機リン酸溶液を用いて作製した標準曲線より、生じたリン酸濃度を算出することによりG6Pase活性を算出した。
HMG−CoA還元酵素活性は、マウス肝臓ミクロソーム画分(50μg)を、表中に示した濃度の被験物質の存在下で、14C標識HMG−CoAを含む反応液(0.128 mM HMG-CoA (14C-HMG-CoA, 72 MBq/mmol), 1mM NADPH、10mM DTT、10mM EDTA in 0.12mM phosphate buffer(pH7.2))中で、37℃、30 分間インキュベートした。次に、10分の1容量(20μL)の5N HClを添加し、さらに30分間インキュベート(酸性処理)した。内部標準として4−14C−testosterone(0.08nCi)を加えた後、酸性処理によりHMG−CoAの反応産物メバロン酸から変換、生成するメバロノラクトンを等量の酢酸エチルで抽出した。抽出物の一部を展開溶媒には、ベンゼン−アセトン(1:1)を用いてTLC分画した。BAS2500(富士フィルム)を用いてフルオログラフィー及び定量解析を行い、メバロノラクトンに含まれる放射活性よりHMG−CoA還元酵素活性を算出した。
各被験物質の存在下でのHMG−CoA還元酵素活性、及びG6Pase活性を、それぞれ、表7、及び表8に示す。これら酵素活性は、溶媒コントロールの酵素活性を100とした相対値で表す。
【0090】
表7、及び表8に示される様に、いずれのラズベリー由来のエラジタンニンもHMG−CoA還元酵素活性、及びG6Pase活性に対して阻害作用を示さなかった。
この様に、ラズベリー由来のエラジタンニンはDGAT活性について優れた阻害作用を示す一方で、その他の酵素活性には阻害作用を示さないことから、DGAT活性に対する特異性が高い化合物であることが示された。このことは、ラズベリー由来のエラジタンニンが副作用の少ない化合物であることを意味するものと考えることができる。
【0091】
【表7】

【0092】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラズベリー又はその抽出物を有効成分とするDGAT阻害剤。
【請求項2】
抽出物が、有機溶剤抽出物である請求項1記載のDGAT阻害剤。
【請求項3】
有機溶剤抽出物が、含水エタノール抽出物又は含水アセトン抽出物である請求項2記載のDGAT阻害剤。
【請求項4】
ラズベリー又はその抽出物を有効成分とするTG合成抑制剤。
【請求項5】
抽出物が、エラジタンニン又はその誘導体を主成分とする請求項4記載のTG合成抑制剤。
【請求項6】
抽出物が、有機溶剤抽出物である請求項4又は5記載のTG合成抑制剤。
【請求項7】
有機溶剤抽出物が、含水エタノール抽出物又は含水アセトン抽出物である請求項6記載のTG合成抑制剤。
【請求項8】
ラズベリー又はその抽出物を有効成分とするインスリン抵抗性予防又は改善剤。
【請求項9】
ラズベリー又はその抽出物を有効成分とする糖尿病予防又は改善剤。
【請求項10】
分子内に式(1)
【化1】

で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の各症状の予防若しくは改善剤、又はTG合成抑制剤。
【請求項11】
エラジタンニン又はその誘導体は、サンギインH−6及びランベルチアニンCから選ばれる1種以上である請求項12記載の高脂血症、肥満、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の各症状の予防若しくは改善剤、又はTG合成抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−37720(P2011−37720A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183644(P2009−183644)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】