説明

DNA損傷抑制剤及びグルタチオン産生促進剤

【課題】安全性の高い天然物の中からDNA損傷抑制作用又はグルタチオン産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防及び/又は治療剤、並びにグルタチオン産生促進剤を提供する。
【解決手段】DNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防及び/もしくは治療剤、又はグルタチオン産生促進剤にテンニンカからの抽出物を含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA損傷抑制剤及びグルタチオン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地表に到達する太陽光中の紫外線が、皮膚に対して、短期的には日焼けによる炎症、長期的にはシワ、たるみ、色素沈着等の障害を引き起こすことが報告されている。
【0003】
紫外線が細胞に暴露されると、直接的に又は間接的にDNAに障害を及ぼすことが知られている。DNAに損傷が生じた細胞では、細胞内にp53と呼ばれる癌抑制遺伝子タンパク質が発現し、このタンパク質がDNA損傷の度合いによりDNAの修復や細胞周期の停止、アポトーシスを誘導することが知られている。皮膚中においてのアポトーシスの増加は、組織再生能の低下につながり皮膚老化を促進する原因となり得る(非特許文献1参照)。したがって、紫外線によって生じるDNAの損傷を予防することができれば皮膚の保湿能力や弾力性、バリア機能といった皮膚機能を維持することにもつながると考えられる。
【0004】
また、紫外線の慢性的な暴露は、皮膚の老化(光老化)を促進し、シミ、シワのみならず、皮膚癌の一因であることが知られている。その結果として、老化やシワが形成され皮膚機能が低下すると考えられている(非特許文献2参照)。したがって、紫外線によって誘発される皮膚の炎症反応やその後に生じるDNAの傷害を防止・改善することは、皮膚の老化を防止・改善することにもつながると考えられる。このような考えに基づき、DNA損傷抑制作用を有するものとして、ビタミンC誘導体(非特許文献3参照)が知られている。
【0005】
また従来、紫外線の皮膚への影響を防御する方法として、ベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤や酸化チタン、酸化亜鉛等の無機紫外線散乱剤を配合したサンスクリーン製品が用いられている(特許文献1〜3参照)。これらは高い紫外線防御効果が得られているものの、使用感の問題や、耐摩擦性、耐汗性等の物理的耐久性の限界から、継続的な予防効果は満足できるものでない上、紫外線吸収剤で炎症を起こす等、安全性の点でも問題となっていた。さらに紫外線に暴露された後に生じる炎症やその後に引き起こされる傷害等を予防・改善することのできる製剤も望まれている。
【0006】
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸からなるトリペプチドであり、細胞内の主要なシステイン残基を有する化合物である。細胞内におけるグルタチオンの役割としてはラジカルの捕捉、酸化還元による細胞機能の調節、各種酵素のSH供与体であり、抗酸化成分としても知られている。その作用発現はシステイン残基に由来すると考えられている。しかしながら、皮膚中のグルタチオン量は、加齢により低下することが知られており、このことが皮膚における酸化防御能を低下させ、細胞のDNA及びタンパク質等の構成成分にダメージを与える一因であると考えられている。
【0007】
すなわち、皮膚においてグルタチオンの産生を促進することは、加齢により衰える酸化ストレスに対する防御を高め、かつ紫外線による酸化ストレスに起因する皮膚の傷害を抑制することにつながり、皮膚の老化の予防、治療、又はシミ等の色素沈着に対する改善が期待できると考えられる。このような考えに基づき、グルタチオン産生促進作用を有するものとして、ビルベリー抽出物、ウォルナット抽出物(特許文献4参照)、クチナシ属植物の抽出物(特許文献5参照)等が知られている。
【0008】
なお、従来、テンニンカからの抽出物は、抗炎症作用、美白作用、抗老化作用及びスリミング作用を有し、各種炎症性疾患、皮膚色素沈着症やシミ、皮膚の老化及び肥満症の予防、治療又は改善に有効であることが知られているが(特許文献6参照)、テンニンカからの抽出物がDNA損傷抑制作用及びグルタチオン産生促進作用を有することは知られていなかった。
【特許文献1】特開平6−305949号公報
【特許文献2】特開平7−145029号公報
【特許文献3】特開平8−259419号公報
【特許文献4】特開2006−241062号公報
【特許文献5】特開2006−347934号公報
【特許文献6】特開2006−199678号公報
【非特許文献1】「フレグランスジャーナル」,2002年,Vol.7,p.57-61
【非特許文献2】「フレグランスジャーナル」,1992年,Vol.11,p.49-54
【非特許文献3】「フレグランスジャーナル」,2002年,Vol.9,p.83-88
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は第一に、安全性の高い天然物の中からDNA損傷抑制作用を有するものを見出し、それを有効成分とするDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防及び/又は治療剤を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は第二に、安全性の高い天然物の中からグルタチオン産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするグルタチオン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防及び/又は治療剤、並びにグルタチオン産生促進剤は、テンニンカからの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、天然物であるテンニンカからの抽出物を有効成分として含有し、安全性に優れたDNA損傷抑制剤抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防及び/又は治療剤、並びにグルタチオン産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のDNA損傷抑制剤抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防及び/もしくは治療剤、又はグルタチオン産生促進剤は、テンニンカからの抽出物を有効成分として含有する。
【0014】
本発明において、「テンニンカからの抽出物」には、テンニンカを抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
【0015】
本発明において使用する抽出原料は、テンニンカ(学名:Rhodomyrtus tomentosa (Ait.) Hassk.)である。テンニンカ(Rhodomyrtus tomentosa (Ait.) Hassk.)は、東南アジアの熱帯から亜熱帯域等の地域に分布しているフトモモ科に属する常緑低木であり、日本では沖縄等に自生しており、これらの地域から容易に入手することができる。テンニンカの果実は、生食されるほかジュースやジャムの原料にも使用されている。また中国では桃金娘と呼ばれ、果実は民間的に妊婦の貧血、止血剤として、また、葉や根も民間的に頭痛、腹痛等の治療等に使用されている。
【0016】
抽出原料として使用し得るテンニンカの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、花部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは果実部である。
【0017】
テンニンカからの抽出物に含有されるDNA損傷抑制作用又はグルタチオン産生促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、テンニンカからこれらの作用を有する抽出物を得ることができる。
【0018】
例えば、上記植物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出による抽出に供することにより、DNA損傷抑制作用又はグルタチオン産生促進作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、テンニンカの極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0019】
抽出溶媒としては、極性溶媒を用いるのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0020】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0021】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0022】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール10〜90質量部を混合することが好ましい。
【0023】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0024】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでもDNA損傷抑制剤抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防・治療剤、又はグルタチオン産生促進剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0025】
テンニンカからの抽出物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚化粧料等に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0026】
以上のようにして得られるテンニンカからの抽出物は、DNA損傷抑制作用又はグルタチオン産生促進作用を有しているため、それぞれの作用を利用してDNA損傷抑制剤又はグルタチオン産生促進剤の有効成分として用いることができる。また、テンニンカからの抽出物は、DNA損傷抑制作用を有していることから、かかる作用を利用して、DNA損傷に起因する疾患の予防・治療剤の有効成分として用いることもできる。
【0027】
本発明のDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防・治療剤、グルタチオン産生促進剤は、テンニンカからの抽出物のみからなるものであってもよいし、上記抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0028】
テンニンカからの抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。テンニンカからの抽出物は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0029】
なお、本発明のDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防・治療剤、グルタチオン産生促進剤は、必要に応じて、DNA損傷抑制作用又はグルタチオン産生促進作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。
【0030】
本発明のDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防・治療剤、又はグルタチオン産生促進剤の投与方法としては、一般に経皮投与が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防・治療剤、グルタチオン産生促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0031】
本発明のDNA損傷抑制剤は、テンニンカからの抽出物が有するDNA損傷抑制作用を通じて、紫外線の照射等による皮膚の老化(例えば、シワ形成等)や皮膚の炎症を予防、治療又は改善することができるとともに、皮膚の保湿能力、弾力性、バリア機能等の皮膚機能を維持することもできる。ただし、本発明のDNA損傷抑制剤は、これらの用途以外にもDNA損傷抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0032】
本発明のグルタチオン産生促進剤は、テンニンカからの抽出物が有するグルタチオン産生促進作用を通じて、紫外線の照射等による酸化ストレスに起因する皮膚の老化、シミ等の色素沈着症等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のグルタチオン産生促進剤は、これらの用途以外にもグルタチオン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0033】
本発明のDNA損傷に起因する疾患の予防及び/又は治療剤は、テンニンカからの抽出物が有するDNA損傷抑制作用を通じて、紫外線の照射等によるDNA損傷に起因する疾患(例えば、紫外線の照射等により皮膚の細胞のDNAの突然変異(DNA損傷)等により引き起こされる皮膚ガン等)を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のDNA損傷に起因する疾患の予防及び/又は治療剤は、これらの用途以外にもDNA損傷抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0034】
なお、本発明のDNA損傷抑制剤、DNA損傷に起因する疾患の予防・治療剤、又はグルタチオン産生促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0035】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0036】
〔製造例1〕テンニンカ果実部抽出物の製造
細切りにしたテンニンカの果実部の乾燥物200gに抽出溶媒2000mLを加え、還流抽出器で80℃、2時間加熱抽出し、熱時濾過した。残渣についてさらに同様の抽出処理を行った。得られた各抽出液を合わせて減圧下に濃縮し、さらに乾燥してテンニンカ抽出物を得た。抽出溶媒として、水、50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)、80質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:4)を用いた時の各抽出物の収率を表1に示す。
【0037】
[表1]
試 料 抽出溶媒 抽出物収率(%)
1 水 4.6
2 50%エタノール 5.8
3 80%エタノール 4.6
【0038】
〔試験例1〕DNA損傷抑制作用試験(コメットアッセイ)
製造例1にて得られた試料3について、下記の方法によりDNA損傷抑制作用の試験を行った。
【0039】
ヒト正常新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を、ヒト正常新生児表皮角化細胞用培地(KGM)を用いてサブコンフルエントになるまで培養した後、KGMからヒドロコルチゾンを抜いた培地(KGM−hyd)に交換し、さらに1日培養した。培養後、トリプシン処理により細胞を回収し、1.5×10cells/mLの細胞密度になるようにKGM−hyd培地で希釈した後、φ35mmシャーレに2mLずつ播種し、一晩培養した。
【0040】
培養終了後、培地を抜き、KGM−hyd培地で溶解した試料(試料濃度は下記表2を参照)を各シャーレに2mL添加して24時間培養した。培養終了後、培地をHank’s(+)バッファーに交換し、紫外線UV−Bを100mJ/cm照射した。KGM−hyd培地に交換し、4時間培養後、トリプシン処理により細胞を回収した。また、同時に、紫外線UV−Bを照射しない細胞及び紫外線を照射し被験試料を添加しない細胞についても同様に処理した。
【0041】
低ゲル化アガロースゲル中に回収した細胞を分散させ、あらかじめアガロースゲルでコートしたスライドグラス上に薄く広げて固めた。Lysis溶液(2.5MのNaCl、100mMのEDTA、10mMのTrisを蒸留水に溶解し、NaOHでpH10〜12に調整し、これに、1%N−laurylsarcosineを添加し、使用時に1%Triton−X、10%DMSOを加えた。)にスライドグラスを浸し、4℃にて1時間静置し、細胞膜を溶解した。Electrophoresis溶液(300mMのNaOH,1mMのEDTA)を満たした水平型電気泳動槽中にスライドグラスを浸し、300mA、25Vで1時間電気泳動を行った。電気泳動終了後、Neutralization溶液(400mMのTris−hydrochloride,pH7.5)にスライドグラスを浸し、アルカリの中和処理を行った(4℃、5分を3回)。中和処理後、SYBR Green溶液にスライドグラスを浸し、4℃にて20分静置し、DNAを染色した。染色後、冷却蒸留水にて4℃にて10分静置し、過剰な染色液を洗浄した。
【0042】
染色したDNAを蛍光顕微鏡(OLYMPUS社製)で観察し、デジタルカメラにてコンピューターに画像を取り込んだ。取り込んだ画像をNIH−imageにて解析し、DNA移動度(length)を計測して評価し、下記式に基づいてDNA損傷抑制率(%)を算出した。なお、当該抑制率が大きいほど紫外線照射によるDNA損傷抑制効果が大きいと判断した。
【0043】
DNA損傷抑制率(%)={(B−A)−(C−A)}/(B−A)×100
上記式において、Aは「紫外線を照射しない細胞でのDNA移動度(length)」を、Bは「紫外線を照射し、被験試料を添加しない細胞でのDNA移動度(length)」を、Cは「紫外線を照射し、被験試料を添加した細胞でのDNA移動度(length)」を表す。
上記試験結果を表2に示す。
【0044】
[表2]
試料濃度(μg/mL) DNA損傷抑制率(%)
10 102.3%
1 98.5%
0.1 26.0%
【0045】
表2に示すように、テンニンカ果実部抽出物は、優れた紫外線UV−Bの照射によるDNA損傷抑制作用を有することが確認された。また、テンニンカ果実部抽出物が有するDNA損傷抑制作用の程度は、テンニンカ果実部抽出物の濃度に依存することが確認された。
【0046】
〔試験例2〕グルタチオン産生促進作用試験
製造例1にて得られた試料3について、下記の方法によりグルタチオン産生促進作用の試験を行った。
【0047】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を10%FBS含有α−MEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有α−MEMで希釈した後、48ウェルプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。培養後、1%FBS含有D−MEMで溶解した試料(試料濃度は下記表3を参照)を各ウェルに200μLずつ添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS(−)にて洗浄後、150μLのM−PER(PIERCE社)を用いて細胞を溶解し、下記のようにして総グルタチオンの定量を行った。
【0048】
すなわち、96ウェルプレートに細胞溶解液100μL、0.1Mリン酸緩衝液50μL、2mMのNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mMの5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオンを用いて作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式に基づいてグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0049】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
上記式において、Aは「被験試料を添加しない細胞中におけるグルタチオン量」を、Bは「被験試料を添加した細胞中におけるグルタチオン量」を表す。
上記試験結果を表3に示す。
【0050】
[表3]
試料濃度(μg/mL) グルタチオン産生促進率(%)
200 152.7%
100 109.1%
【0051】
表3に示すように、テンニンカ果実部抽出物は、優れたグルタチオン産生促進作用を有することが確認された。また、テンニンカ果実部抽出物が有するグルタチオン産生促進作用は、テンニンカ果実部抽出物の濃度に依存することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のDNA損傷抑制剤及びグルタチオン産生促進剤は、紫外線によって引き起こされるDNA損傷を抑制し、細胞内抗酸化物質であるグルタチオンの産生を促進させることにより、しわ等の皮膚老化症状の予防・改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンニンカからの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするDNA損傷抑制剤。
【請求項2】
テンニンカからの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするDNA損傷に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
テンニンカからの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするグルタチオン産生促進剤。

【公開番号】特開2008−285422(P2008−285422A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129919(P2007−129919)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】