説明

ECG監視システムにおける信号品質指示及び誤警報低減のためのシステム及び方法

【課題】ECG監視システムにおける信号品質指示及び誤警報低減のためのシステム及び方法を提供する。
【解決手段】心電図(ECG)監視システム(10)は、その各々がECGリードの信号品質レベルを示す1組のインジケータからなる指標(102)を決定するように構成されている。さらにECG監視システム(10)は、1組のインジケータからの第1のインジケータ(108、156)を第1のECGリード信号に割り当てると共に該第1のインジケータ(108、158)をユーザに伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的には心電図(ECG)監視システムに関し、またさらに詳細には、ECG信号の品質の決定及び指示に関する。
【背景技術】
【0002】
ECG監視システムは、患者の医学的状態並びに装置の故障及び/または適正動作の不可を指示する警報を発生させるように設計されることがある。ECG監視システムは、患者の医学的問題に由来しないが、多くの場合に内部の信号処理におけるエラーやリード外れやリード不良に基づくような「誤った警報」を発生させることがある。誤った危機警報があると、看護及び緊急スタッフはその貴重なリソースを別の患者から逸らさせることになるような不必要な迅速応答を要するため、誤った危機警報は特に看護及び緊急スタッフの貴重なリソースを消耗させる。多くのECGシステムはリード不良やリード外れを高信頼性に検出することが可能であり、警報によってこのリード外れやリード不良を操作者に通知することが多い。さらに、多くのECGシステムは、1つまたは複数のECG波形が一時的に処理不可能であることの指示を提供する。こうした指示のことは、アーチファクト警報(artifact alarm)と呼ぶのが一般的である。
【0003】
装置リード及びアーチファクト警報は優先順位が低くまたアーチファクトが終了すれば止まることが多いが、これらは表示クラッターを発生させる可能性があると共に、一般には実行可能な情報を提供しない。しかしながら、警報は監視担当者によってなお調査されるべきである。さらに、信号問題は主要な観察チャンネル以外のチャンネル上で発生することが多く、またモニター上に表示されたデフォルト画面はどのチャンネルがその警報に関連するのかの特定を可能とさせる情報を包含しないことが多い。したがって、操作者はそのアーチファクトを評定するために適正な画面を探索しなければならないことが多い。適正な画面が見つかるまでに、誤警報イベントを生じさせた問題がすでに経過済みであることも多い。したがって、こうした誤警報は医療担当者にとって注意を逸らすものとなる。
【0004】
こうした誤警報による注意散逸の影響を最小化するために、幾つかの技法が実現されてきた。技法の1つは、リード不良に由来する警報など重要度がより低い警報による撹乱を軽減することを含む。すなわち、例えば音響ノイズレベルを比例してより低くするか視覚インジケータの注意散逸を比例してより低くすることによって、重要度がより低い警報に関連する表示及び音響刺激が、操作者及び患者に対するその撹乱レベルを最小化するような方式で設計されている。介護提供者は「狼少年(cry wolf)」効果のために信号品質問題が存在していることに気付かないことがある。すなわち一連の装置または信号関連の警報のために操作者は、別の警報があったときにその警報も信号品質や装置に関連すると想定したためにこの別の警報の調査を怠ることがある。警報を無視した結果、監視の効力を無くさせることになったり、重篤な状態に対する感受性を低下させることになりない。
【0005】
ECG監視の誤警報問題に対処するための別の方針は、医療スタッフに対して必要なときにだけ警報を知らせることである。この方針を実現するために、特別の担当者がECG信号の監視に携わるような監視箇所が作られてきた。すなわち、モニターをベッドサイドや看護ステーションに配置させるのではなく、遠隔の監視箇所で複数の患者からのECG信号を監視し、多くの患者が発生させる警報を人間の観察者(多くの場合、テレテクニシャン(tele−technician)と呼ぶ)が事前スクリーニングする。警報が出ると、テレテクニシャンは適正な画面を評定し、看護士、医師、緊急応答チームなどの医療担当者に知らせるべきか否かを判定する。しかしこうした環境は、作業の重複に由来する注意散逸を生じさせることがある。例えばテレテクニシャンは第1の患者の病歴をより詳細に確認するように表示を調整してある一方、同時に別の患者により重大な警報が記録されることがある。こうした状況では、この重大な警報のためにテレテクニシャンが第1の患者の病歴をより詳細に見るという作業を忘れることがある。このため、テレテクニシャンの唯一の担当内容は信号を監視することではあるもの、たまたま数人を超える患者に同時に重大な警報が生じた場合、テレテクニシャンは容易に警報に圧倒される状態になりかねない。さらにその警報が重大な信号を鳴動通知することがあるが、それが誤警報であることもあり、こうなると状況はさらに悪くなる。
【0006】
遠隔の箇所で監視がなされるために通信の問題が生じる。例えばテレテクニシャンは病室と密な通信状態にないことがあり、このためにテレテクニシャンは病院スタッフとの連絡に困難をきたすことがある。したがって通信に関する問題及び注意散逸のために、専門のテレテクニシャンが警報を監視している場合であっても正当な警報が失われることがあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5421342号
【特許文献2】米国特許第5469856号
【特許文献3】米国特許第5490515号
【特許文献4】米国特許第5660184号
【特許文献5】米国特許第6117074号
【特許文献6】米国特許第6135952号
【特許文献7】米国特許第6206830号
【特許文献8】米国特許第6266624号
【特許文献9】米国特許第6801802号
【特許文献10】米国特許第7079035号
【特許文献11】米国特許出願第20030069511号
【特許文献12】WO第2005/020120号
【特許文献13】WO第2005/070289号
【特許文献14】WO第2005/071600号
【特許文献15】WO第2005/076187号
【特許文献16】WO第2005/101229号
【非特許文献1】CLIFFORD、「Signal Processing Methods for Heart Rate Variability」(2002)
【非特許文献2】HENRIQUESら、「Searching for Similarities in Nearly Periodic Signals With Application to ECG Data Compression」(ICPR、2006)
【非特許文献3】ZHANG、「Wavelet Approach for ECG Baseline Wander Correction and Noise Reduction」(IEEE、2005年9月、1212〜1215頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、波形データの表示と無関係に信号品質を表示しかつこの信号品質値を用いてECG監視システムの誤警報を最小化することが可能なシステムを設計することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、心電図(ECG)監視システムは、その各々がECGリードにおける信号品質レベルを指示している1組のインジケータからなる指標を決定するように構成される。さらにECG監視システムは、1組のインジケータからの第1のインジケータを第1のECGリード信号に割り当てると共に該第1のインジケータをユーザに伝達する。
【0010】
本発明の別の態様のコンピュータ読み取り可能記憶媒体は、コンピュータデバイスによって実行させたときに該コンピュータデバイスに対して、第1の心電図(ECG)リード信号内のノイズを評価すること、該評価済みのノイズに対して品質指標からの第1の値を割り当てること、並びに該第1の値をユーザに指示すること、を行わせる命令を含んだコンピュータプログラムをその上に保存して有する。
【0011】
本発明のさらに別の態様の方法は、ECGリードの状態を決定する工程と、該ECGリードの状態を指示する記号を割り当てる工程と、該記号に基づいてECGシステムからの警報を評定する工程と、を含む。
【0012】
本発明に関する別の様々な特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面から明らかとなろう。
【0013】
添付の図面は、本発明を実施するように目下のところ企図される幾つかの実施形態を図示している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態で使用するための例示的なECG監視システムの概要図である。
【図2】本発明の一実施形態による一技法を表した流れ図である。
【図3】ECGリード信号の指標付け及び表示を表した一実施形態のグラフィック表示である。
【図4】図3の帯域内処理を表した一実施形態のグラフィック表示である。
【図5】図4に示した新たな信号テンプレートの決定の一実施形態を表した流れ図である。
【図6】図4に示したフィデューシャル点の検出の一実施形態を表した流れ図である。
【図7】図3に示したペースメーカーノイズの除去の一実施形態を表した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ECGリード信号内のノイズを決定するためのシステム及び方法を提供する。1つまたは複数のECGリード信号には、その内部のノイズを示す指標から1つの値が割り当てられ、これにより操作者はその警報が信号関連または装置関連か否かを決定するために警報を評定することができる。
【0016】
図1を参照すると、本発明の一実施形態によるECG監視システムを表している。本実施形態ではそのECGシステム10は、対象に取り付けられた1組の電極12と、様々な電極12から出力されたECG波形データを受け取りかつ保存するデータ収集システム14と、収集したECG波形データを処理するためのデータプロセッサ16と、品質解析のための品質プロセッサ18と、を含んでいる(これらについては、図2〜7に関連してより十分に説明することにする)。さらに、ECG監視システム10は裁決器19も含むことが企図される(これについては、図2に関連してより十分に説明することにする)。システム操作者は、オペレータインタフェース20への入力を介してプロセッサの動作モードを選択することが可能である。一実施形態では、プロセッサ16からのECG解析及び品質プロセッサ18からの品質解析の結果が1つまたは複数の出力デバイス22(例えば、表示モニター、プリンタ及び/または記憶媒体)に送られる。別の実施形態では、プロセッサ16からのECG解析及び品質プロセッサ18からの品質解析の結果は裁決器19に送られる。こうした実施形態では裁決器19は、品質プロセッサ18からの解析情報を用いてプロセッサ16から送られた警報を遮断またはログ記録することがある。ログ記録された警報は1つまたは複数の出力デバイス22に送られることがあることが企図される。例えばログ記録された警報が記憶媒体のログファイル内に保存されることがあり、かつ/またはその遮断を表示モニター内に記録することがある。ECGシステム監視10の品質プロセッサ18と裁決器19はいずれもECG監視システム10内に組み入れて製作することができ、あるいはこれらをECG監視システム10に対する1つまたは複数の追加装置とすることがある。
【0017】
本実施形態では5つの電極12をもつECG監視システム10を示しているが、本発明の実施形態は電極の数が5つを超えるまたは5つ未満の別のECG監視システムと共に使用することもできる。さらに図示した電極はワイヤ接続の電極であるが、ワイヤ接続のデータ収集コンポーネントに代えてあるいはこれと連携してワイヤレス式データ収集コンポーネントを使用することもあることが企図される。
【0018】
ECG監視システム10の電極12は、対象の心臓が発生させた電気信号を検出するように対象の皮膚に取り付けかつ位置決めされる。電極には、対象の皮膚に接触させかつ皮膚に現れた電気信号を電極に伝達させる電気伝導性ジェルを付着させている。対象の心臓は、ECG波形と呼ぶ電気信号を発生させる。標準的な名称では、P波、QRS群、T波及びU波と区別している。
【0019】
単一の拍動に関するECG波形のことはPQRST群と呼ぶのが典型的である。P波は拍動の開始時点に現れ、心房の活動に対応する、一方QRST群はP波に続いており心室の活動に対応する。QRS成分は心室の電気的活性化を表しており、一方、T波はその電気的回復を表している。STセグメントは比較的静かな期間である。様々な形態の心臓疾患や障害を有する患者では、これらの波のうちの1つまたは幾つかが歪むことや、存在しなくなることもある。患者はときに非常に大きなR波を包含する心室性期外収縮(PVC)と呼ぶ拍動の歪みを示すことが多い。こうした生理学由来の心臓波形を信号品質の変動と見誤らないようにすべきである。
【0020】
ECG監視システム10のデータ収集コンポーネント14から収集した情報がECGリード信号の作成に使用される。例えば一実施形態では、データ収集コンポーネント14は、5つの電極12から4つのECGリード信号を決定することがある。すなわち電極対12間の電位差(あるいは、これらの差の線形合成)を用いて、出力22に表示または指示することができる一意のECGリード信号を作成することがある。すなわち、2つ以上の電極より収集したデータから1つまたは複数のECGリード信号が導出されることが多い。こうしたECGリード信号を導出リード(derived lead)と呼ぶことが多い。このため導出リードに関しては、各ECGリード信号に関連して存在する電極は一意の1つだけでないことが多い。したがって、電極数より多くのECGリード信号が存在することがある。本発明の実施形態は導出リードを利用するECGシステムと共に使用することができる。
【0021】
図2を参照すると、本発明の一実施形態によるECG信号品質指示技法100を流れ図で表している。技法100は、ECG監視システムと関連付けされた1つまたは複数のリードに関する信号品質の決定及び表示を提供する。技法100はさらに、ECG監視システムと関連付けされた複数のリードに関する全般信号品質指標の決定及び表示を提供する。さらに操作者に対して各品質(すなわち、1つまたは複数のリードの信号品質と全般信号品質)のトレンドを決定し表示することができる。こうしたトレンドは、障害発生前に電極を再付着または交換できるように電極障害を予測するために信号品質を時間の経過に伴った指示または表示を可能にする。こうしたインジケータ(すなわち、信号品質、複数のリードの全般品質、またはトレンド)を用いてECG監視システムが発した警報を評価をすることが可能である。すなわち、ECGシステムの警報が起動したとき、1つまたは複数のECGリード信号と関連付けされた信号品質、あるいはこれらから取得したトレンドを用いて、その警報が即座の対処を必要としないような信号品質または装置関連の警報であるか否かを判定することができる。他方、1つまたは複数のECGリード信号と関連付けされた信号品質、あるいはこれらから取得したトレンドを用いて、その警報が信号品質関連のものでないため即座の対処を必要とすると判定されることがある。
【0022】
技法100は工程102における信号品質指標の決定で開始される。この指標は、1つまたは複数のECGリード信号の信号品質または状態を指示する1組のインジケータまたは記号を含む。換言するとインジケータは、ECGリード信号内のノイズのタイプ及び/または大きさを指示する。品質は、1組の数値インジケータ、1組の色相、音響信号その他として表示されることがある。例えば一実施形態では、指標は0から1までの範囲にある1組の連続した実数を含むことがある。こうした実施形態では、0が低品質を指示することがあり、1が高品質を指示することがあり、またこれらの間の実数が品質の増分を指示することがある。別の実施形態では、指標の値が色相である。例えば赤が低信号品質を指示しまた緑が高信号品質を指示するようにして、赤から緑までの範囲の色相を使用することが可能である。さらに別の実施形態ではその品質指標は、低ノイズ音調(すなわち、低周波数音調)が低品質かつ高ノイズを指示しまた高音調が高品質を指示するようなある領域の音調またはサウンドを含む。信号品質指標を決定した後に工程104において、図1のECG監視システム10などのECG監視システムによって対象が監視される。
【0023】
図2は、図示のようにECGシステムによる対象の監視前に工程102で決定した信号品質指標(すなわち、「指標(index)」)を示している。例えば、その指標はECG監視システム(例えば、図1の10)内に工場出荷時設定で固定設定することが可能である。しかし指標は、工程104における対象の監視後に決定することも可能であることが企図される。したがって、信号品質指標を決定する順序によらず、工程106において1つまたは複数のECGリード信号に品質が評価または決定される。換言すると工程106では、1つまたは複数のECGリード信号内のノイズの大きさ及び/またはタイプが評価または決定される。ECGリード信号を評価する方式並びに決定されるその品質については、図3〜7に関連して以下でさらに検討することにする。
【0024】
さらに図2を参照すると言及したように、工程106において1つまたは複数のECGリード信号内のノイズが評価され、またこの品質の決定または評価の後に工程108において、ECGリード信号品質を指示する1つのインジケータまたは値が1つまたは複数のリード信号の各々に割り当てられると共に、さらにユーザに対して各値が指示される。こうした値はコンピュータ画面(例えば、図1の出力22参照)を介して指示または表示されることがある。例えば、5つのリードが評価される一実施形態では、その各々が信号品質を指示している5つの値がコンピュータメモリ内に保存されると共に、上述の方式のうちの1つまたは幾つかによってユーザに対して後であるいは即座に指示される。したがってECG監視システム(例えば、図1の監視システム10)が警報を示していれば、ユーザはその警報をそれに関連して指示または伝達された信号品質に照らして評価することがある。例えば第3のリード信号に割り当てられた値が信号品質が低いことを指示した場合に、ユーザはそれに関連する警報が信号または装置関連の警報である確率が高いと判定すること、したがってその警報は誤りであると判定することができる。別法としてその値によって第3のリードの信号品質が高いと指示されている場合、ユーザは第3リードの警報が信号品質に関連する警報ではなくかつ対処が必要であると判定することがある。さらに、各ECGリード信号がそれぞれの品質インジケータと関連付けされるような複数のリードと関連付けされた複数の警報が同様に評定されることがある。したがって、低品質指標と関連付けされた1つまたは複数の警報がこれにより誤りであるあるいは信号品質に関連すると判定されることがある。他方、高品質指標と関連付けされた1つまたは複数の警報がこれにより誤りでない、したがって対処を必要とすると判定されることがある。
【0025】
ここでもECGリード信号は複数の電極と関連付けされることがあることに留意されたい。複数リードのインジケータを評定することによって、電極に障害があるとの判定、あるいは1つまたは複数のECGリード信号が微弱であるとの操作者による判定が可能となり得る。例証のため、その各々が微弱信号指標と関連付けされた2つのECGリード信号(I及びII)を取り上げることにする。さらに例証を目的として、ECGリード信号I及びIIは、リード信号Iが電極A及びBと関連付けされておりかつリード信号IIが電極A及びCと関連付けされているような派生リードとして取り上げることにする。各リードのリード信号インジケータが微弱であれば、操作者は電極Aが障害しているために指標が微弱であると判定することがある。すなわち、電極Aが各ECGリード信号に対して共通であるため電極Aが障害しているまたはその信号が微弱であると判定することがある。電極は多種多様な原因で障害状態となることがある。例えば電極自体が誤作動することや、電極−患者間の接触または配置が不良であるために電極が障害状態となっていることがある。
【0026】
工程110においてさらに、複数のリードの全般品質を示す値が割り当てられユーザに対して指示されることがある。すなわち、複数のリードに対して単一の信号品質インジケータまたは値が割り当てられ、これによってその合成された全般信号品質を指示することがあることが企図される。この全般信号品質インジケータはその一部が、全般信号品質と関連付けされたこれらECGリードと関連付けされた個々の信号品質から決定されることになる。一実施形態では、ECG監視システムと関連付けされた各ECGリードの全般信号品質を指示する1つの値がユーザに対して表示されることがある。したがって操作者は、対象と関連付けされた各インジケータの信号品質を観察するのではなく、単に対象と関連付けされた幾つかまたはすべてのECGリードからなる合成全般品質を観察するだけであることがある。全般信号品質が高ければ、操作者はECG監視システムと関連付けされた起動警報はすべて信号関連ではない(したがって、誤警報でない)と判定することがある。他方、全般信号品質が低くかつ警報が起動されていれば、操作者はその全般微弱信号品質から、その警報が信号関連である確率が高く、誤りでありかつ迅速な注目を要しないと判定することがある。さらに操作者は次いで、個々のECGリードの信号品質をさらに調査して、1つまたは複数のECGリードのどれが全般信号品質を微弱にさせているかを判定することがある。対象と関連付けされたすべてのリードに関する全般信号品質を決定し指示することが好ましいが、全ECGリード信号に満たない信号からなる全般信号品質を決定し指示することも可能であることが企図される。
【0027】
全般信号品質を決定する方式は全般信号品質と関連付けされたリードの総数及びタイプにより影響される。例証のために、例えば4つのリード信号(リード信号I、リード信号II、リード信号V1及びリード信号V2)からなる全般品質の決定を取り上げることにする。さらに、0が微弱信号品質を意味しかつ1が良好な信号品質を意味するように0から1までの範囲とした全般信号品質指標を取り上げることにする。4つのリストしたリード信号の全般品質を決定するためには、個々のリード信号品質を重み付けしたのち足し合わせることがある。例えばリード信号V1及びV2が導出信号(すなわち、派生リード)であれば、これらには非導出のリード信号(例えば、この例ではリード信号I及びII)と比べてより小さい重みが割り当てられることがある。このため、リード信号I及びIIのそれぞれは、これらのそれぞれの信号品質値に例えば0.4を乗算することによって重み付けされることがある。他方、リード信号V1及びV2は、これに応じた0.1をこれらのそれぞれの各信号品質値に乗算することによって重み付けされることがある。したがってこの例では、リード信号I、II、V1及びV2からなる全般リード信号値はしたがってそのそれぞれの重み付け信号品質値の和となる。
【0028】
一実施形態では、プロセス制御は信号関連の警報または誤警報を判定しふるい落とすための工程112(破線で示す)に進むことが企図される。工程112において、裁決器(例えば、図1の裁決器19)は図1に示したシステム10などECG監視システムが発生させた警報が信号関連の警報であると自動判定することがあり、またこれに従って信号関連の警報をふるい落とすことがある。すなわち、警報が微弱信号品質指標またはインジケータを有する1つまたは複数のECGリード信号と関連付けされる場合、裁決器はその警報が信号関連であるまたは誤りであると判定し、その警報を多種多様な方法でふるい落とすことがある。例えば裁決器は図2の工程112において、信号関連と判定済みの警報をログファイル内にログ記録することによって音響警戒信号を鳴動させることなくその警報をふるい落とすことがある。別の例では裁決器は、警報がユーザに対して表示される前にその警報を遮断することによってふるい落とすことがある。このため、信号関連の警報はユーザに伝達されることがない。したがってユーザは、その警報が信号関連であるか否かを判定する必要がない。こうした例では、信号関連の警報の遮断もログファイル内に記録されること、かつ/または警報が遮断されたことをユーザにディスプレイを介して知らせることもあり得る。工程112において信号関連の警報と判定されふるい落される微弱指標またはインジケータを何にするかの認定は、ECG監視システムまたはその追加装置コンポーネント内に工場出荷時設定されることや、ユーザがどのレンジの値を微弱指標またはインジケータと認定するかを手作業で決定し事前構成することがある。
【0029】
さらに工程114において破線で示すように、1つまたは複数のリードに関する時間の経過に伴う信号品質を示すトレンドを決定し指示することもあることが企図される。例えば一実施形態では、ECGリードの信号品質が時間の経過に伴って複数回評価されたことがあれば、時間の経過に伴ったリード信号品質を指示するようなトレンドを提示することができる。同様に、時間の経過に伴った複数のリードの全般信号品質を指示するようなトレンドを提示することができる。すなわち、信号品質(または、全般信号品質)が時間の経過に伴って低下していること、時間の経過に伴って一定に維持されていること、あるいは時間の経過に伴って増加していることをトレンドによってユーザに指示することができる。こうした指示は、その関連する警報が信号関連であるか否か、あるいは今後の電極障害を予期させるものであるかを評定する際のユーザに対する値とすることができる。例えばトレンドによって信号品質が時間の経過に伴って低下していることが指示された場合、ユーザはある具体的なリードが将来障害となる可能性が高いと判定することができる。このためトレンドによってユーザに対して、あるECGリード信号と関連付けされた電極を交換または再付着させる必要があると警告することができる。このため一実施形態では、リード不良イベントを予期または予測するためにトレンドを用いることがある。
【0030】
別の実施形態では、複数のリードに関する時間の経過に伴う信号品質を指示するようなトレンドが表示される。例えば、5つのリードに対してある1つの全般値が割り当てられておりかつこの5つのリードが再評価済みであり、このために別の5リード全般信号品質値が割り当てられて表示されている場合、工程114においてこうした値からなるトレンドが決定されて指示されることがある。もちろん、3つ以上の信号値を用いて評価及び後続の再評価から決定された1組の値など時間の経過に伴った信号品質のトレンドが決定されることもあることが企図される。上記の例におけるトレンドは、5つのリードからなる時間の経過に伴う全般信号品質を指示することになる。したがって、ユーザがそのトレンドから5つのリードの全般品質が低下していると判定すれば、ユーザは1つまたは複数のリードの品質が低下しているために全般品質を低下させたと推論することができ、これによりユーザは後続の警報が不正確であることを予期することが可能となる。このため、各リード信号の表示は典型的には主要な観察画面上に見出せないことがあるので、ユーザは観察画面をすべて眺め通して1つまたは複数のリードのどれが低信号品質となっているかを判定することができる。ここでも、3つ以上の信号値を用いて時間の経過に伴った信号品質のトレンドが決定されることがあることが企図される。
【0031】
トレンドを決定するか否かによらずにプロセス制御は、監視が完了したか否かを判定する判断工程116に進む。監視が終了していなければ(118)、プロセス制御は工程106に戻り、その後で1つまたは複数のリード内の信号品質が評価または再評価される。他方、監視が完了していると判定(120)されれば、プロセス制御は122の終了に進む。したがって技法100によれば、信号品質及びこれに関連付けされたトレンドを決定し指示することによって個々のまたは複数のECGリード信号を監視することが可能となる。このため技法100はユーザに対して、ECGリード信号品質を評定し、警報がノイズ関連であるか否か(したがって、それが誤警報であるか否か)を判定することを可能にする。
【0032】
ECGリード信号の品質は、図3に示すような技法138に従い、かつ図2の工程106及び108における実行に従って判定されて表示されることがある。技法138に示した実施形態では、プロセス制御はECGリード信号140で開始される。図示した実施形態ではECGリード信号140は、2つ以上の電極(図1に示した1つまたは複数の電極12など)から決定された信号である。一実施形態では、ECGリード信号140内に現れることがあるペースメーカー拍動が工程142(破線で示す)において除去されることがある。すなわち、監視対象がペースメーカーを有していれば、信号品質の評定を支援するように工程142においてこれに関連する信号が除去されることがある(これについては以下で説明することにする)。ペースメーカー拍動の除去を図示した一実施形態については図7に関連してさらに説明することにする。
【0033】
工程142においてペースメーカーノイズをECGリード信号140から除去するか否かによらず、ECGリード信号140またはその表出形は3つの準備コンポーネント144、146、148を通過させ、その信号を解析または評価できるように準備することがある。1つの準備コンポーネントは低周波数帯域通過フィルタ144である。一例では、次数n=1のChebyshev Type Iフィルタなどの低周波数帯域通過フィルタが使用される。こうした低周波数帯域通過フィルタ144はそれぞれ0.1及び0.7HZの低遮断周波数及び高遮断周波数と、通過帯域0.5dBにあるピーク対ピークリップルと、を有することがある。こうした遮断周波数によって、ECG波のDC成分並びに当技術分野で周知のような心QRS群と関連付けされた「P」波及び「T」波をフィルタ除去することが可能となる。このため、ECGリード信号140内部でフィルタが通過させる周波数レンジ域内にあるノイズはその内部に留められることになる。換言すると指定した周波数レンジ内にあるノイズが低周波数帯域通過フィルタ144からの出力として捕捉または抽出される。
【0034】
第2の準備コンポーネント146は帯域内処理ロジックを含む。低周波数帯域通過フィルタ144の場合と同様に、ECGリード信号140またはその表出形は帯域内処理146に通される。ECGリード信号140を帯域内処理146に通した結果、帯域内処理146の出力内のノイズが捕捉または抽出される。帯域内処理146に関するさらなる詳細については、図4〜6に関連して以下でより十分に説明することにする。
【0035】
第3の準備コンポーネント148は高域フィルタ148を含む。例えば一実施形態では、遮断周波数が40HZでありかつ0.5dBの通過帯域内にピーク対ピークリップルがある次数がn=4のChebyshev Type Iフィルタなどの高域フィルタが利用される。このフィルタは次数がn=4であるため、阻止帯内における高速のロールオフ(roll−off)が可能である。これ以外のコンポーネント144、146の場合と同様に、ECGリード信号140またはその表出形を第3のコンポーネント148を通すことが許容される。非ペースメーカーQRS群は一般に40Hzを超える周波数を有さないため、第3のコンポーネント148の出力からノイズ外乱が捕捉または抽出される。
【0036】
本発明と矛盾しない方式で別の準備コンポーネントも使用できることが企図される。本実施形態で使用した準備コンポーネントは、ECGリード信号から特定のノイズ成分を抽出できるように選択した。これらのノイズ成分は解析されることになる(これについては以下で説明することにする)。アプリオリのデータ組に基づいて、この特定のノイズ成分の解析を用いてECGリード信号の信号品質を有効に決定できると判断された。しかし、同じまたは異なるデータ組(複数のこともある)から別の結果が決定される可能性もあることが企図される。すなわち、リストしたものと異なるパラメータを有する準備コンポーネントが本発明と矛盾しない方式で用いられる可能性があると判断することができる。
【0037】
3つの準備コンポーネント144〜148のそれぞれからの出力は、それぞれの解析ステップ150〜154で個別に解析され、その信号品質に対する寄与が決定される。例えば一実施形態では、第1の準備コンポーネント144からの出力は指数しきい値関数非線形性を利用して信号を0と1の間の実数にマッピングするような工程150の第1の解析を通すことが許容される。この0から1までの範囲にある実数によって、ECGリード信号のうち工程150の解析と関連付けされる部分の信号品質が指示される。一実施形態では、ソフトな(soft)しきい値を有する次の指数関数を利用することがある。
【0038】
【数1】

【0039】
(式1)
この工程150の第1の解析に関しては、しきい値0.3mVを利用することができる。本実施形態では、200msec範囲内のしきい値バイオレーションが加算または合成される。こうしたバイオレーションの合成によって、ある状態の永続的な影響を捕捉することができる。例えば患者の歯磨きに起因する周期的アーチファクトによって、例えばある短い時間期間にわたってECG信号内に幾つかのバイオレーションが生ずることがある。したがって、互いから200msecの範囲内で発生するバイオレーションを合成することによって、歯磨きの期間にわたる信号品質を劣化させることがある。この指数関数(式1)はソフトしきい値を有するため、解析対象の信号の成分に対して0から1までの値がマッピングされることがある。例えば、非常に雑音性の信号はそれに対して0がマッピングされることがあり、一方クリーンな信号ではそれに対して1がマッピングされることがある。ソフトしきい値が実現されているため、信号に0と1の間の値もマッピングされることがある。
【0040】
同様の方式により、第2の準備コンポーネント146からの出力は、同じくソフトしきい値を有する指数しきい値関数を利用できるような工程152の第2の解析を通すことが許容され、この関数によって信号に対して0から1までの実数がマッピングされる。ここでも実数0、1あるいはこれらの間の増分値によって、ECGリード信号のうち帯域内処理コンポーネント146の解析ステップ152と関連付けされた部分の信号品質が指示される。一実施形態では、次の指数関数を利用することができる。
【0041】
【数2】

【0042】
(式2)
工程152の第2の解析に関しては、0.2mVのしきい値を利用することができる。本実施形態では、状態効果の永続を反映するために、互いから200msecの範囲内にあるしきい値バイオレーションが加算または合成されることがある。
【0043】
第3の準備コンポーネント148からの出力に関しては、信号に対して0から1までの実数をマッピングする別の指数しきい値関数を利用する工程154の第3の解析を通すことが許容される。0と等しいかこれより大きくかつ1と等しいかこれより小さい実数によって、ECGリード信号のうち工程154の第3の解析と関連付けされた部分の品質を表している。一実施形態では、次の指数関数のしきい値を利用することができる。
【0044】
【数3】

【0045】
(式3)
工程154の第3の解析に関しては、0.025mVのしきい値を利用することができる。ここでも本実施形態では、状態効果の永続を反映するために、互いから200msecの範囲内にあるしきい値バイオレーションが加算または合成される。
【0046】
3つの準備コンポーネント144〜148を通過するように捕捉されたまたは許容されたノイズはそれぞれ、図示したように工程150〜154におけるそれぞれの解析に通される。本実施形態における工程150〜154の解析の間に利用される指数関数は例示的なものである。これらの関数は、大きな個体群からの波形情報を含んだアプリオリのデータ組に対する解析から取得した知見と一致するように選択した。しかし、本発明と矛盾しない方式で別の関数も利用可能であることが企図される。すなわち、これらの関数は好ましい結果に適合するように調整することができる。一例として、ソフトしきい値ではなくハードな(hard)しきい値を利用することも可能である。こうした例では、例えば解析された信号に対して0か1だけがマッピングされることになる。すなわち、0と1の間にある値が解析された信号にマッピングされることはない。このため、例えば値0はECGリード信号が微弱であることを指示し、また値1はECGリード信号がクリーンである(または、少なくとも比較的クリーンである)ことを指示することがある。
【0047】
別の指数関数を利用することがあることが企図されるのみならず、ECGリード信号ノイズの別のまたは異なる成分が準備され解析されることがあることも企図される。例えば、ECGリード信号ノイズの準備のために3つのコンポーネント144〜148を利用するのではなく、3つより多いまたはこれより少ない準備コンポーネントも利用することが可能である。このためECGリード信号の品質を決定するために、ECGリード信号ノイズに関して3つ未満または3つを超える周波数帯域が準備されて解析されることがある。
【0048】
工程150〜154において準備構成要素またはコンポーネント144〜148からの出力をそれぞれの解析に通した後、工程150〜154の解析からの出力信号は工程156の品質ロジックに通される。一実施形態ではその品質ロジックは、工程150〜154の解析からの出力を均等に合成する。すなわち、工程150〜154の3つの解析の出力の各々に3分の1を掛け算した後、これを加え合わせる。このため、ECGリード信号140に対して単一のインジケータを割り当てるように、ECGリード信号140の低周波数、帯域内及び高周波数のノイズ成分に関する信号品質が合成される。別の実施形態では、工程150〜154の3つの解析からの出力の各々が先ず加え合わされた後、この和に3分の1が乗算されることもあり得る。工程156の品質ロジックからの出力は次いで、例えば6秒の移動平均フィルタ(図示せず)に通され、また工程158において1つの指標値が決定されかつ指示または表示される。このためこの値は、ECGリード信号140の品質に関するインジケータとなる。検討したように本実施形態では、工程152〜156の解析からの出力は均等に合成されている。しかし代替的な実施形態では、解析ステップの出力が均等に合成されないことがあることが企図される。例えば、低周波数ノイズが帯域内成分や高周波数成分のそれぞれと比べた信号品質に対する影響がより少ないと判定されることがある。このため、低周波数ノイズの解析からの出力が帯域内及び高周波数のノイズ解析のそれぞれからの出力と比べてより小さい重み付けを受けることがある。
【0049】
ここで図4を参照すると、図3の工程146の帯域内処理をグラフィックで表している。図のようにECGリード信号140は、帯域内処理コンポーネントの工程170の帯域内フィルタ、並びにそれに付属するロジック146に通すことが許容される。工程170の帯域内フィルタは、例えば0.7Hzと40Hzの遮断周波数を有することがある。すなわち、0.7Hz〜40Hzの周波数は工程170の帯域内フィルタを通過することが許容されることになる。次いで工程172において、工程170の帯域内フィルタの出力内に存在するフィデューシャル点が検出される。フィデューシャル点はECGリード信号が最大のエネルギーを有する時間点を意味している。このため、ECGリード信号140内に表現された各心臓拍動に対応した単一のフィデューシャル点または時間点が存在する。したがって、また以下でさらに説明するように、信号の整列及び/または心臓拍動の特定のために検出されたフィデューシャル点140を用いることができる。
【0050】
図4ではECGリード信号140を工程170において帯域内フィルタに通した後でフィデューシャル点が検出されるように図示しているが、ECGリード信号140が工程170の帯域内フィルタを通ることを許容される前にフィデューシャル点を検出することも可能であることが企図される。フィデューシャル点を検出する方式については図6に関連して記載することにする。
【0051】
さらに図4を参照すると、工程172で検出されたフィデューシャル点を用いることによって、工程170の帯域内フィルタの出力から工程174において単一拍動が抽出される。すなわち工程174では、これらの時間点(すなわち、工程172から検出したフィデューシャル点)を用いて単一拍動を特定し抽出する。次いで工程176において、新たな信号テンプレートまたはQRS群テンプレートが決定される。
【0052】
拍動テンプレートは、設計上アーチファクト起因のノイズを包含しないようにした最新の拍動を意味している。他方、信号テンプレートは、理論的にアーチファクト起因のノイズを含むことがない一連の拍動を意味している。工程176において新たな信号テンプレートを決定する方式については図5に関連してより十分に説明することにする。工程178では、工程176で決定された新たな信号テンプレートと工程170の帯域内フィルタの出力179を、工程172において検出されたフィデューシャル点を用いて整列させている。さらに整列が済んだ後でさらに、工程176で決定した信号テンプレートと帯域内フィルタ出力179内に存在する一連の拍動との差が工程178において決定される。したがって、工程176において決定された新たな信号テンプレートはノイズを伴わない拍動情報を包含することが好ましくまた帯域内フィルタからの出力179はノイズを包含することがある拍動情報を包含しているため、工程178において決定された差は工程170の帯域内フィルタの出力179内に存在していた可能性がある任意のノイズを表すノイズだけを包含した出力180となる。出力180はノイズ情報のみを包含することが好ましいが、実際上は、拍動情報がわずかな量だけ出力180内に残ることがあることが企図される。工程178において差分信号を決定し終えた後、図3に関連して上述したように工程152において出力180が解析される。
【0053】
図5を参照すると、一実施形態による図4の新たな信号テンプレート176の決定に使用されるロジックをグラフィックで表している。帯域内フィルタ(図4の170参照)の出力並びに検出されたフィデューシャル点(図4の工程172参照)を用いて抽出(図4の工程174参照)された単一拍動200は、工程202の低周波数帯域通過フィルタ、工程204の中間周波数帯域通過フィルタ、さらに工程206の高周波数帯域通過フィルタという工程202〜206の3つのフィルタを並列に通るように許容される。一実施形態では、工程202〜206のフィルタのそれぞれは、次数がn=4でありかつピーク対ピークリップルが0.5dbであるChebyshev Type Iフィルタである。工程202の低周波数帯域通過フィルタは0.7Hz及び5Hzのカットオフを有することがある。工程204の中間周波数帯域通過フィルタは5Hz及び25Hzのカットオフを有することがある。次に工程206の高周波数帯域通過フィルタは、25Hz及び40Hzのカットオフを有することがある。判断工程208では、工程202〜206におけるこれらフィルタからの出力を使用して、単一拍動200が雑音性であるか否かが判定される。下に示した真理値表は、判断工程208における拍動が雑音性であるか否かの判定で使用し得るロジックを表している。
(表1)
【0054】
【表1】

【0055】
表1において用語「Y」は、適当な周波数成分に対して統計振幅バイオレーションが生じたことを意味している。例えば「Y」は、それぞれの周波数成分の平均及び標準偏差が適当なしきい値に対してバイオレーションとなったことを意味することがある。表1の用語「N」は、適当な周波数成分に対して統計振幅バイオレーションが生じなかったことを意味している。用語「X」は、適当な周波数成分に対して周波数バイオレーションが生じたか生じなかったかが関係ない(すなわち、「懸念を要しない」)ことを意味している。例えば表1に示したように、帯域内高周波数バイオレーション「Y」が生じた場合、低周波数及び中間周波数で振幅バイオレーションが生じているかどうかによらず、その拍動は雑音性でないと判定される。「拍動が雑音性でない」との判定に関連する頭字語PVC及びVEBは、これに関連する限界超過状態が、心室性期外収縮(PVC)及び/または心室異所性拍動(VEB)に由来する可能性が高いことを示している。PVC及びVEBは、正常な拍動変化形であり、微弱信号品質と関連付けさせない。さらに、表1でさらに表した一実施形態では、高周波数バイオレーションは存在しないが中間周波数バイオレーションは存在する場合に、その拍動は低周波数バイオレーションが存在しているか否かによらず雑音性でないと見なされることに留意されたい。こうした例では、中間周波数バイオレーションが対象がPVCやVEBなどの不整なまたは歪んだ心拍動を有することの結果であり、対象の心拍動がバイオレーションをトリップするのに十分なノイズを包含している結果ではないことを前提としている。このため、低周波数バイオレーションが存在しているか否かによらずに拍動が雑音性でないと見なしている。
【0056】
一実施形態では高周波数バイオレーションは、工程206の高周波数帯域通過フィルタからの出力の(目下の拍動期間にわたって計算された)標準偏差が0.1mVを超えるときに生じる。他方、低周波数及び中間周波数バイオレーションに対応するしきい値は、工程202、204において適当なフィルタから出力された直前の5つの拍動にわたる平均及び標準偏差の100パーセントと50パーセントに設定されることがある。すなわち、この5つの拍動は現在の拍動200に先行している。表1のロジックに記載したように、正常な対象と医学的に異常な対象の両者からのPVC及びVEBなど正常な生理学的に変化形の心拍動は、正常な拍動として扱われる。これらの生理学的に変化形の心拍動はアーチファクト源に起因しないため、これらは差分信号出力180内に現れないか実質的に現れないように図4の工程178の間に除去される、あるいは少なくとも実質的に除去されることになる。表1のロジックは拍動検出の基準が、元にある波形適正性並びに最新の心拍動に関する正常な拍動対拍動の変動及び患者対患者振幅の変動に適応しているため、このロジックはある対象から別の対象に移っても有効であり、また心拍動振幅に正常な長期的ECG振幅変動(例えば、日周変動)を有する単一の対象についても有効である。このため、ある患者から別の患者になってもシステムの再構成が不要である。
【0057】
図5の工程216で生成される新たな拍動テンプレートは差分信号(すなわち、図4に示した出力180)の決定に使用されることになる。例えば一実施形態では、当初の拍動テンプレートは非雑音性の10個の対象拍動の平均である。工程146(図3参照)において追加的な拍動を帯域内処理コンポーネントに通すと、差分信号180の決定に使用される新たな拍動テンプレートが生成されまたは決定されることがある。例えば、判断工程208においてその拍動200が雑音性でないと判定された場合(210)、工程212において現在の拍動200の乗数は0.9に設定されまた拍動テンプレートの乗数は0.1に設定される。次いで工程214において、現在の拍動200及び拍動テンプレートがそのそれぞれの乗数と乗算される。したがって、工程216において現在の拍動200とその乗数(例えば、0.9)の積と拍動テンプレートとその乗数(例えば、0.1)の積とを加え合わせることによって新たな拍動テンプレートが形成される。
【0058】
他方、判断工程208においてその拍動200が雑音性であると判定された場合(218)、工程220において現在の拍動200の乗数は0.0に設定されまた拍動テンプレートの乗数は1.0に設定される。次いで工程214において、現在の拍動200及び拍動テンプレートがそれぞれの乗数と乗算される。換言すると、現在の拍動は新たな拍動テンプレートの生成で使用するには雑音性が大き過ぎると判明したため、工程216において生成される新たな拍動テンプレートは以前の拍動テンプレートからなる。拍動テンプレートは対象自体のECG波形を用いて形成されるため、拍動テンプレートは母集団全体にわたるECG波形の変動の影響をより受けにくい、ただし対象自体の波形の域内の変動から受ける影響は大きいことがある。したがって、現在の拍動に対する重みを増加させることによって、拍動対拍動の変動に対する感受性を最小化させることがある。したがって技法176は対象対対象の分散に対する考慮が可能である。
【0059】
工程216において新たな拍動テンプレートを生成した後、プロセス制御は判断工程222に進む。判断工程222では、別の拍動に関して拍動テンプレート生成を反復すべきか否かが判定される。一実施形態では、図4の工程178において差分信号を決定するために入力される新たな信号テンプレートは一連の拍動を含む。このため出力180にあたる差分信号は一連の拍動にわたるノイズを含む。したがって、一連の新たな拍動テンプレートが生成されない場合(224)、プロセス制御は工程200〜216において別の新たな拍動テンプレートの生成を反復する。この反復は、一連の拍動テンプレートが決定されるまで継続される。一連の拍動テンプレートを有するために必要となる拍動の量は、操作者によりまたは工場出荷時にECG装置に設定されることがある。続いて判断工程222において一連の拍動テンプレートを決定し終えたと判定した場合(226)、プロセス制御は工程176における新たな信号テンプレートを生成するまたは決定するためにこれら一連の新たな拍動テンプレートを互いに連結している工程228に進む。上で検討したように、工程228で生成されたこの信号テンプレートを用いて図4にあるような差分信号出力180が生成される。一方、出力180は図3及び4に示すように工程152において解析される。
【0060】
図4に関連して検討したように、帯域内処理のロジックはフィデューシャル点の検出(図4の工程172参照)を含む。図6では、一実施形態に従って工程172においてフィデューシャル点を検出するための一技法を表している。工程170の帯域内フィルタの出力(図4参照)に関する技法240は、工程242において10HZ及び30Hzの遮断を有する帯域通過フィルタに通される。一例では、次数が4でありかつ通過帯域内のピーク対ピークリップルが0.5dBであるChebyshev Type Iフィルタが用いられる。工程244では、工程242のフィルタからの出力が微分されて2乗される。第1次微分によって基線からの変化が増幅され、2乗によって高周波数成分(すなわち、ピーク)が強調される。微分されて2乗された出力は工程246において、長さが例えば50msecの移動ウィンドウの内部に組み入れられる。工程246は、短い時間内における信号のエネルギー分布に対する1つの尺度を提供する。このため工程248は、組み入れた信号のピークを時間点として出力する。当業者には周知のように、これらのピーク点が潜在的なQRS群である。しかし幾つかの対象はQRS群をマスクするような大きな振幅を備えたT波を有しており、このためT波をQRS群であると間違って特定する結果となる。したがって工程250において、微調整ロジックが実施される。工程250では、2つのQRS群の間隔が例えば少なくとも200msecであると仮定している。仮定したこの離間は、心拍数の上側限界に当たる毎分300拍動より大きいものである。したがってこの仮定によって拍動が排除されることがない。さらに工程250では、1secのウィンドウの範囲内に、拍動の一方がもう一方と比べて10倍以上大きいような2つの拍動が全く存在しないと仮定している。したがって、工程250によりフィデューシャル点が出力される。換言すると工程250は、拍動の検出に使用することができるようなECG信号内の高エネルギー点に対応する時間点を出力する。
【0061】
ここで図7を参照すると、図3の工程142における一実施形態によるペースメーカー除去コンポーネントのロジックを表している。図示したように、ECGリード信号140は工程270において例えば40ヘルツの遮断周波数を有する低域通過フィルタに通過することが許容される。次いで工程272において工程270の低域通過フィルタの出力が微分されて2乗される。工程274では、この微分され2乗された信号が50msecの例示的な長さを有することがある移動ウィンドウ内に組み込まれる。次いで工程276において、組み込まれた信号のピークが決定される。工程270〜276によって、工程278においてペースメーカー拍動の狭幅の矩形波を検出し除去することが可能である。
【0062】
開示した方法及び装置の技術的寄与は、プロセッサ実現式のECGリード信号の品質決定及び指示を提供できることである。
【0063】
一実施形態では、心電図(ECG)監視システムは、その各々がECGリードにおける信号品質レベルを指示している1組のインジケータからなる指標を決定するように構成される。さらにECG監視システムは、1組のインジケータからの第1のインジケータを第1のECGリード信号に割り当てると共に該第1のインジケータをユーザに伝達する。
【0064】
別の実施形態のコンピュータ読み取り可能記憶媒体は、コンピュータデバイスによって実行させたときに該コンピュータデバイスに対して、第1の心電図(ECG)リード信号内のノイズを評価すること、該評価済みのノイズに対して品質指標からの第1の値を割り当てること、並びに該第1の値をユーザに指示すること、を行わせる命令を含んだコンピュータプログラムをその上に保存して有する。
【0065】
さらに別の実施形態の方法は、ECGリードの状態を決定する工程と、該ECGリードの状態を指示する記号を割り当てる工程と、該記号に基づいてECGシステムからの警報を評定する工程と、を含む。
【0066】
本発明を好ましい実施形態に関して記載してきたが、明示的に記述した以外に等価、代替及び修正が可能であり、これらも添付の特許請求の範囲の域内にあることを理解されたい。
【符号の説明】
【0067】
10 ECGシステム
12 電極
14 データ収集システム
16 データプロセッサ
18 品質プロセッサ
19 裁決器
20 オペレータインタフェース
22 1つまたは複数の出力デバイス
100 ECG監視システムと関連付けされた複数のリードからなる全般信号品質指標を決定及び表示するための技法
102 信号品質指標を決定する
104 ECG監視システムによって対象を監視する
106 1つまたは複数のECGリード信号内のノイズを評価する
108 各ECGリード信号内のノイズを示す1つまたは複数のECGリード信号のそれぞれに対して1つの値を割り当てて指示する
110 複数のECGリード信号からなる全般品質の値を決定し表示する
112 信号関連の警報を判定しふるい落とす
114 ECGリード信号品質のトレンドを表示する
116 監視が完了したか否かを判定する
118 No
120 Yes
122 終了
138 ECGリード信号の品質を決定し表示するための技法
140 ECG信号
142 ペースメーカーノイズを除去する
144 低周波数帯域通過フィルタ
146 帯域内処理
148 高周波数帯域通過フィルタ
150 解析
152 解析
154 解析
156 品質ロジック
158 値を表示する
170 帯域内フィルタ
172 フィデューシャル点を検出する
174 単一拍動を抽出する
176 新たな信号テンプレートを決定する
178 差分信号を整列させかつ決定する
180 出力
200 単一拍動
202 帯域内低周波数帯域通過フィルタ
204 帯域内中間周波数帯域通過フィルタ
206 帯域内高周波数帯域通過フィルタ
208 帯域内ECGリード信号が雑音性であるか否かを判定する
210 No、帯域内ECGリード信号は雑音性でない
212 現在の拍動の乗数を0.9に設定しかつテンプレート拍動の乗数を0.1に設定する
214 現在の拍動及びテンプレート拍動にそれぞれの乗数を乗算する
216 足し合わせて新たな拍動テンプレートを生成する
218 Yes、帯域内ECGリード信号が雑音性である
220 現在の拍動の乗数を0.0に設定しかつテンプレート拍動の乗数を1.0に設定する
222 一連の拍動テンプレートが生成されたかどうかを判定する
224 No、一連の拍動テンプレートが生成されていない
226 Yes、一連の拍動テンプレートが生成されている
228 一連の拍動から新たな信号テンプレートを生成する
240 フィデューシャル点を検出するための技法
242 帯域通過フィルタ
244 信号を微分して2乗する
246 移動ウィンドウ内に組み入れる
248 組み入れた信号のピークを決定する
250 QRS群ピークを特定するように微調整ロジックを実施する
270 低域通過フィルタ
272 信号を微分して2乗する
274 移動ウィンドウ内に組み入れる
276 組み入れた信号のピークを決定する
278 ペースメーカー拍動を検出し除去する

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その各々がECGリードからの信号の信号品質レベルを指示する1組のインジケータを含む指標(102)を決定すること、
前記1組のインジケータからの第1のインジケータ(108、156)を第1のECGリード信号に割り当てること、
前記第1のインジケータ(108、158)をユーザに伝達すること、
を行うように構成された心電図(ECG)監視システム(10)。
【請求項2】
前記1組のインジケータは、数値スケール、色相スペクトル及び音響信号のうちの1つである、請求項1に記載のECG監視システム(10)。
【請求項3】
複数のECGリード信号に対して前記1組のインジケータからの該複数のECGリードからなる全般品質を指示する第2のインジケータ(110)を割り当てること、
前記第2のインジケータ(10)をユーザに伝達すること、
を行うように構成された請求項1に記載のECG監視システム(10)。
【請求項4】
さらに、前記第1のECGリード信号(140)からペースメーカー誘導の信号を除去する(278)ように構成されている請求項1に記載のECG監視システム(10)。
【請求項5】
さらに、前記第1のECGリード信号(140)からノイズを抽出する(144、146、148)ように構成されており、かつ前記第1のインジケータ(108、156)の割り当ては該抽出されたノイズに基づいている(150、152、154)、請求項1に記載のECG監視システム(10)。
【請求項6】
前記抽出されたノイズは単一対象の正常ECG振幅分散寄与が実質的にない(172、228)、請求項5に記載のECG監視システム(10)。
【請求項7】
さらに、対象対対象の分散を考慮に入れる(172、228)ように構成されており、かつ前記抽出されたノイズは心室性期外収縮及び心室異所性拍動からの信号寄与が実質的にない(172、228)、請求項5に記載のECG監視システム(10)。
【請求項8】
さらに、時間の経過に伴って信号品質レベルを示す信号品質のトレンド(114)をユーザに伝達するように構成されている請求項1に記載のECG監視システム(10)。
【請求項9】
さらに、前記信号品質のトレンドに基づいてリード不良イベント(112)が発生する可能性が高いことをユーザに伝達するように構成されている請求項8に記載のECG監視システム(10)。
【請求項10】
さらに、ECG監視システムが発生させた警報が誤警報であると判定する(112)ように構成されており、警報が誤警報であるとの該判定は前記第1のインジケータに基づいている、請求項1に記載のECG監視システム(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−29656(P2010−29656A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170689(P2009−170689)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】