説明

ECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場発生装置及び方法

【課題】イオン源調整時においてもミラー磁場強度を変化させることができ、多価イオンの生成にも適するECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場発生技術を提供する。
【解決手段】 この出願の発明のミラー磁場発生装置は、ECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場を発生させるものであり、イオン源中心軸(X)方向に離間配置された一対の環状永久磁石(4)、(5)からなり、ミラー磁場を生成するミラー磁場生成部(2)と、ミラー磁場生成部(2)の一対の環状永久磁石(4)、(5)間に設けられ、複数の扇形状永久磁石を環状に配置して構成され、ミラー磁場生成部(2)が生成したミラー磁場を増幅するミラー磁場増幅部(3)と、ミラー磁場増幅部(3)を構成する各扇形状永久磁石をイオン源中心軸(X)に対して径方向に移動させる扇形状永久磁石移動手段(14)、(18)を備え、各扇形状永久状磁石の径方向の移動により、ミラー磁場強度を変化させることができることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、ECR(Electron Cyclotron Resonance)イオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場発生装置及び方法に関するものであり、詳しくはイオン源停止時のみならずイオン源調整時においてもミラー磁場強度を変化させることのできるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場発生装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
AVF(Azimuthally Varying Field)サイクロトロンなどの加速器において質の良い荷電粒子ビームを発生させるためには加速器の電圧安定性に加えてECRイオン源の安定性が重要な要素となる。ECRイオン源は、プラズマ閉じ込め用のミラー磁場とマイクロ波との相互作用によりイオンを生成させるものである。このプラズマ閉じ込め用のミラー磁場を発生させるためには、当初、電磁石が使用されてきた。ところが、電磁石は、大電流の投入が必要であり、また高電圧の印加のために大型の設備が必要となり、さらにミラー磁場発生用のソレノイドコイルの発熱により、イオン源から引き出される荷電粒子ビームに時間的な強度変動が生じるなどの問題があった。
【0003】
そのためECRイオン源のプラズマ閉じ込め磁場の発生には、電磁石を用いるよりも、通電による発熱がない小型の永久磁石を用いることが望ましい。
【0004】
一方、特定の価数、特に多価のイオン生成量を増加させることが必要になることが目的、用途に応じて多々ある。このような場合、従来の永久磁石型ECRイオン源では、イオン源を停止させて、マイクロ波電力量、位相、その他ガス供給量などを変化させ、その都度ミラー磁場強度を変化させていた。その理由は、ECRイオン源は使用上高電圧(数kV)が印加されているため、使用中に、すなわちイオン源調整をしながらイオン源に触れることができないためである。
【0005】
永久磁石を用いた従来のECRイオン源の構造例(特許文献1)について図9を参照して説明する。図9は、従来のECRイオン源の軸方向に沿った断面図であり、このイオン源は導波管(31)を備え、真空容器(32)が配置されている。真空容器(32)の断面は円形で、入力端部(33)と出力端部(34)を有し、イオン源中心軸(35)を中心に軸対称となっている。図中(36)はガス注入口、(37)は図示しない真空ポンプに接続される接続部、(38)はイオン抽出電極と真空容器(32)を保持する保持部材である。
【0006】
真空容器(32)の入力端部(33)側には環状の永久磁石(39)、(40)が配置され、出力端部(35)側には環状の永久磁石(41)、(42)が配置されている。また、永久磁石(39)、(40)と永久磁石(41)、(42)の間には内径がこれらの永久磁石より大きい環状の永久磁石(43)、(44)、(45)が設けられている。そしてこれらの永久磁石(43)、(44)、(45)の内側には六極磁石(46)が設けられている。また、(47)は永久磁石保持部で、永久磁石(43)と(44)を軸方向に移動可能に保持している。なお、(48)はイオン出力口である。
【0007】
このような構成において、永久磁石(39)、(40)と永久磁石(41)、(42)がミラー磁場生成の役割をし、永久磁石(43)〜(45)はミラー磁場を増幅(可変)する役割を行い、これらの永久磁石によりミラー磁場を真空容器(32)内に発生させる。
【0008】
このような構造において、磁場強度を変える場合には、ECRイオン源を停止し、永久磁石保持部(47)により永久磁石(43)と(45)の位置を移動させることによりその調整を行っている。
【特許文献1】特開2001−338589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような従来のECRイオン源のミラー磁場強度変化方式では、イオン源停止時にのみ永久磁石の軸方向への移動が可能であり、イオン源調整時には移動を行うことができなかった。このため、イオン源調整時におけるマイクロ波電力量、位相、その他ガス供給量などの変化に即座に対応してミラー磁場強度を変化させることはできなかった。
【0010】
また、ECRイオン源は高磁場であればあるほど多価イオンの生成が可能になるが、現存する永久磁石の性能を考慮するとミラー磁場生成用永久磁石とミラー磁場増幅用永久磁石との隙間を密にしないと磁場強度を高くすることができない。ところが、図9のようなミラー磁場強度変化方式では、ミラー磁場生成用永久磁石とミラー磁場増幅用永久磁石との間にある程度の隙間を持たせなければ軸方向に移動ができないため、その結果、得られる最大磁場強度が減少してしまい、多価イオンの生成が困難になってしまう。
【0011】
この出願の発明は、このような従来技術の問題点を解消し、イオン源調整時においてもミラー磁場強度を変化させることができ、多価イオンの生成にも適するECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場発生装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この出願の発明は、上記課題を解決するため、第1には、ECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場を発生させる装置であって、イオン源中心軸方向に離間配置された一対の環状永久磁石からなり、ミラー磁場を生成するミラー磁場生成部と、ミラー磁場生成部の一対の環状永久磁石間に設けられ、複数の扇形状永久磁石を環状に配置して構成され、ミラー磁場生成部が生成したミラー磁場を増幅するミラー磁場増幅部と、ミラー磁場増幅部を構成する各扇形状永久磁石をイオン源中心軸に対して径方向に移動させる扇形状永久磁石移動手段を備え、各扇形状永久状磁石の径方向の移動により、ミラー磁場強度を変化させることができることを特徴とするミラー磁場発生装置を提供する。
【0013】
また、第2には、上記第1の発明において、ミラー磁場増幅部が、前部ミラー磁場増幅部と後部ミラー増幅部からなることを特徴とするミラー磁場発生装置を提供する。
【0014】
また、第3には、上記第2の発明において、ミラー磁場増幅部の扇形状永久磁石が環状構造を3つに分割したものからなり、前部ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石が、後部ミラー増幅部の各扇形状永久磁石に対してそれぞれ周方向に60度ずらして配置されていることを特徴とするミラー磁場発生装置を提供する。
【0015】
また、第4には、上記第1から第3の発明において、ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石が、扇形状磁石本体と、その周方向両側に設けられ、大きさが扇形状磁石本体の半分である扇形状非磁性部分とからなることを特徴とする請求項1から3のいずれかのミラー磁場発生装置を提供する。
【0016】
また、第5には、上記第1から第4のいずれかの発明のミラー磁場発生装置と、ミラー磁場増幅部の径方向内側に配置された環状の多極永久磁石を備えることを特徴とするECRイオン源を提供する。
【0017】
また、第6には、上記第5の発明において、多極永久磁石が六極永久磁石であることを特徴とするECRイオン源を提供する。
【0018】
また、第7には、ECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場を発生させる方法であって、ミラー磁場を生成させるためにイオン源中心軸方向に離間配置された一対のミラー磁場生成用環状永久磁石の間に、生成したミラー磁場を増幅させるためのミラー磁場増幅用永久磁石を設け、ミラー磁場増幅用永久磁石として、イオン源中心軸に対して径方向に移動可能な複数の扇形状永久磁石を環状に配置した構造のものを用い、各扇形状永久磁石をイオン源中心軸に対して径方向に移動させることにより、ミラー磁場強度を変化させることができることを特徴とするミラー磁場発生方法を提供する。
【0019】
また、第8には、上記第7の発明において、ミラー磁場増幅用永久磁石として、前部と後部の2つに分割されたものを用いることを特徴とするミラー磁場発生方法を提供する。
【0020】
また、第9には、上記第8の発明において、ミラー磁場増幅用永久磁石を構成する扇形状永久磁石として、環状構造を3つに分割したものであり、かつ前部の各扇形状永久磁石を、後部の扇形状永久磁石に対して周方向にそれぞれ60度ずらして配置させたものを用いることを特徴とするミラー磁場発生方法を提供する。
【0021】
さらに、第10には、上記第7から第10のいずれかの発明において、ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石として、扇形状磁石本体とその周方向両側に設けられ、大きさが扇形状磁石本体の半分である扇形状非磁性部分とからなるものを用いることを特徴とするミラー磁場発生方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
この出願の第1から第4の発明及び第7から第10の発明によれば、永久磁石を用いたECRイオン源の停止時及び調整時においてもミラー磁場強度を変化させることができ、特定の価数、特に多価のイオンの生成量を増加させることが可能となる。
【0023】
したがって、ECRイオン源の安定性のみならずイオン生成量の制御が可能になるため、イオンをより安定にAVFサイクロトロンに入射できることから、加速器により加速された荷電粒子ビーム安定性に貢献できる。
【0024】
この出願の第5及び第6の発明によれば、第1から第4の発明のいずれかを用いているので、安定性が優れたECRイオン源が提供され、イオン生成量の効率的な制御を可能とし、イオンをより安定にAVFサイクロトロンに入射できることから、加速器により加速された荷電粒子ビーム安定性に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0026】
図1は、この出願の発明の実施形態である、ミラー磁場発生装置を含むECRイオン源の要部のイオン源中心軸方向に沿った断面図である。図2(a)、(b)は、それぞれミラー磁場発生装置(駆動部は図示せず)の正面図、側面図である。図3(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ図2(a)のA−A’断面図、B−B’線断面図、C−C’線断面図、D−D’線断面図である。図4は、図2(b)のE−E’線断面図である。
【0027】
ミラー磁場発生装置(1)は、ミラー磁場を生成するミラー磁場生成部(2)と、ミラー磁場生成部(2)で生成したミラー磁場を増幅するミラー磁場増幅部(3)を有する。ミラー磁場生成部(2)はイオン源中心軸(X)方向に離間配置された一対の環状永久磁石、すなわち前部環状永久磁石(4)と後部環状永久磁石(5)からなる。なお、この出願の明細書において「前部」とは、入力端側(イオン発生用ガス導入側)を意味し、「後部」とは、その反対側を意味する。前部環状永久磁石(4)と後部環状永久磁石(5)の間には、前部ミラー磁場増幅部(6)と後部ミラー磁場増幅部(7)からなるミラー磁場増幅部(3)が配置されている。前部ミラー磁場増幅部(6)は図3(b)に示すように3つの扇形状永久磁石(8)〔(8A)、(8B)、(8C)〕から構成され、径方向へ移動しない閉じた状態では全体として環状となっている。後部ミラー磁場増幅部(7)も図3(c)に示すように3つの扇形状永久磁石(9)〔(9A)、(9B)、(9C)〕から構成され、径方向に移動しない閉じた状態では全体として環状となっている。ミラー磁場増幅部(3)の内径はミラー磁場生成部(2)の内径より大きく設定され、その内側に六極永久磁石(10)が配置されている。
【0028】
ミラー磁場生成部(2)とミラー磁場増幅部(3)の周囲には鉄製ヨーク(11)が設けられている。また、図中(12)はアルミニウム製のケーシングである。
【0029】
ケーシング(12)の所要位置には、永久磁石の強力な吸引力に耐えうる架台(13)が各扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)、(9A)、(9B)、(9C)に対応して取り付けられ、架台(13)にはこれらの各扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)、(9A)、(9B)、(9C)を径方向に移動させる駆動部(14)が設置されている。この駆動部(14)は、たとえばステッピングモーター(15)及びその駆動軸(16)に取り付けられた傘歯車(17)から構成することができる。各扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)、(9A)、(9B)、(9C)の外側に設けられたヨーク(11)とケーシング(12)の部分は、ヨーク(11)とケーシング(12)の他の部分と分離しており、その外側には、各扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)、(9A)、(9B)、(9C)を径方向に移動させる際の支持部となり、傘歯車(17)と噛み合う部分を有するボールネジ(18)が取り付けられている。駆動部(14)により各扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)、(9A)、(9B)、(9C)を径方向に移動させる場合の最大移動距離はこれらの磁石のサイズによって決まるが、通常、50mm程度が適量である。各扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)、(9A)、(9B)、(9C)の径方向の移動は同期させて行ってもよいし、独立させて行ってもよい。
【0030】
ミラー磁場生成部(2)を構成する前部環状永久磁石(4)と後部環状永久磁石(5)は、たとえば図3(a)、(d)に示すような着磁方向を持つ12個の扇形永久磁石を組み合わせて一体化したものとすることができる。前部環状永久磁石(4)と後部環状永久磁石(5)の着磁方向は互いに反対方向になっている。
【0031】
ミラー磁場増幅部(3)のうち前部ミラー磁場増幅部(6)は、図3(b)に示すように、円周角が120度の3つの扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)から構成されている。扇形状永久磁石(8A)は、円周方向中央側の扇形状の永久磁石本体(8a1)、(8a2)と、その円周方向両側に設けられた扇形状の非磁性部(8a3)、(8a4)とからなる。同様に、扇形状永久磁石(8B)は、円周方向中央側の扇形状の永久磁石本体(8b1)、(8b2)と、その円周方向両側に設けられた扇形状の非磁性部(8b3)、(8b4)とからなり、扇形状永久磁石(8C)は、円周方向中央側の扇形状の永久磁石本体(8c1)、(8c2)と、その円周方向両側に設けられた扇形状の非磁性部(8c3)、(8c4)とからなる。扇形状の永久磁石本体(8a1)、(8a2);(8b1)、(8b2);(8c1)、(8c2)の着磁方向は図示のように外側向きとなっている。扇形状の非磁性部(8a3)、(8a4);(8b3)、(8b4);(8c3)、(8c4)はリングスペーサとして設けられ、たとえば非磁性のステンレス鋼(SUS316)等の材料からなるものが用いられる。
【0032】
同様に、ミラー磁場増幅部3のうち後部ミラー磁場増幅部(7)は、図3(c)に示すように、円周角が120度の3つの扇形状永久磁石(9A)、(9B)、(9C)から構成されている。扇形状永久磁石(9A)は、円周方向中央側の扇形状の永久磁石本体(9a1)、(9a2)と、その円周方向両側に設けられた扇形状の非磁性部(9a3)、(9a4)とからなり、扇形状永久磁石(8B)は、円周方向中央側の扇形状の永久磁石本体(9b1)、(9b2)と、その円周方向両側に設けられた扇形状の非磁性部(9b3)、(9b4)とからなり、扇形状永久磁石(9C)は、円周方向中央側の扇形状の永久磁石本体(9c1)、(9c2)と、その円周方向両側に設けられた扇形状の非磁性部(9c3)、(9c4)とからなる。扇形状の永久磁石本体(9a1)、(9a2);(9b1)、(9b2);(9c1)、(9c2)の着磁方向は図示のように内側向きとなっている。扇形状の非磁性部(9a3)、(9a4);(9b3)、(9b4);(9c3)、(9c4)はリングスペーサとして設けられ、たとえば非磁性のステンレス鋼(SUS316)等の材料からなるものが用いられる。
【0033】
図3(b)、(c)に示すように、前部ミラー磁場増幅部(6)の扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)は、後部ミラー磁場増幅部(7)の扇形状永久磁石(9A)、(9B)、(9C)に対して、それぞれ円周方向に60度ずつずれた位置関係となっている。
【0034】
上記のようにミラー磁場増幅部(3)を前部と後部に分けた理由は、着磁方向を異ならせる必要があるからである。このような着磁方向の関係にすると、磁力線を密集させて大きな磁場強度を得ることができる。なお、前部ミラー磁場増幅部(4)と後部ミラー磁場増幅部(5)との間には、厚さ3mm程度の環状のフッ素樹脂(テフロン(登録商標))板を取り付けてあり、このようにすることで、前部及び後部ミラー磁場増幅部(4)、(5)の磁石同士が擦れ合うことが防止され、スムーズな駆動ができるようになる。もちろん、フッ素樹脂板がなくても駆動は可能である。
【0035】
また、この出願の発明の実施形態である、ミラー磁場発生装置(1)を含むECRイオン源において設けられる六極永久磁石(10)は、たとえば図5に示すような着磁方向を持つ12個の扇形永久磁石を組み合わせて一体化したものとすることができる。着磁方向の詳細な関係は図6に示す。この六極永久磁石(10)の全体としての着磁方向は図5に示すように内向きの3つ(内1、内2、内3)と外向きの3つ(外1、外2、外3)がある。このため、前部及び後部ミラー磁場増幅部(6)、(7)では、図3(b)、(c)に示すように、六極永久磁石(10)の着磁方向と同じ方向になる部分のみに扇形状の永久磁石本体(8a1)、(8a2);(8b1)、(8b2);(8c1)、(8c2)及び(9a1)、(9a2);(9b1)、(9b2);(9c1)、(9c2)を設置し、それ以外の部分には扇形状の非磁性部(8a3)、(8a4);(8b3)、(8b4);(8c3)、(8c4)及び(9a3)、(9a4);(9b3)、(9b4);(9c3)、(9c4)をリングスペーサとして設置している。仮に六極永久磁石(10)の着磁方向と相反する着磁方向の永久磁石を設置した場合、永久磁石の特性上、六極永久磁石(10)の減磁温度が低下する。ECRイオン源では一番プラズマに近い六極永久磁石(10)の温度が一番上昇しやすいと予測できるため、減磁温度の高い六極永久磁石(10)が使用上望まれる。ところが六極永久磁石(10)が減磁すると、再度製作、交換を余儀なくされ、その場合、現時点で数百万円のコストが必要になってしまう。また、減磁温度は保磁力との関係で決まるが、永久磁石の保磁力と磁場強度はおよそ反比例の関係にあり、保磁力の強い(減磁温度が高い)磁石は残留磁束密度が弱いことから、安易に保磁力だけでは六極磁石は選定できない。そのためミラー磁場の強度をミラー磁場増幅用の扇形状永久磁石(8)、(9)により強くするとともに、六極永久磁石(10)の減磁温度を低下させないようにするため、ミラー磁場増幅用の扇形状永久磁石(8)、(9)と六極永久磁石(10)の着磁方向の関係を図3(b)、(c)のようにしてある。なお、図3(b)、(c)、図5の(21)は六極永久磁石(10)がバラバラにならないように固定する層であり、たとえばステンレス鋼(SUS316等)などで形成することができる。また、図1の(22)は六極永久磁石(10)の層(図5の21)とミラー磁場生成部(2)をまとめているケーシング(12)とを接続させるヨークであり、たとえばアルミニウムなどで形成することができる。
【0036】
上記の実施形態によれば、ミラー磁場のイオン源調整時にミラー磁場の強度を変化させる場合、図示しない操作部における操作により駆動部(14)のステッピングモータ(15)を駆動させ、ボールネジ(18)との噛み合いを利用して図7に示すように扇形状永久磁石(8A)、(8B)、(8C)及び(9A)、(9B)、(9C)を径方向の所要距離だけ移動させることができる。これにより、イオン源調整時におけるミラー磁場強度の可変が可能となる。もちろん、イオン源停止時に同様な操作ができることはいうまでもない。
【実施例】
【0037】
次に、この出願の発明の実施例を述べるが、これはこの出願の発明を限定するものではない。
【0038】
全長260mm、外径262mmの図1に示すような構造のミラー磁場発生装置を作製した。各寸法は下記のとおりである。また、ミラー磁場生成用永久磁石及びミラー磁場増幅用永久磁石としては、ネオジウム系永久磁石(NdFeB)である信越化学工業株式会社製N48Hを用い、六極永久磁石としては、同じくネオジウム系永久磁石(NdFeB)である信越化学工業株式会社製N44MHを用いた。また、扇形状永久磁石の非磁性部にはステンレス鋼(SUS316)を用い、鉄製ヨークにはSS400を用い、アルミニウム製ケーシングにはA5054を用い、ミラー磁場生成用永久磁石と六極永久磁石を接続させるヨークにはアルミニウム(A2017)を用いた。
【0039】
プラズマチェンバー 内径 32mm、外径 39mm、長さ260mm
六極永久磁石 内径 41mm、外径102mm、長さ120mm
ミラー磁場生成用
永久磁石(前後) 内径 41mm、外径182mm、長さ 60mm
ミラー磁場増幅用
永久磁石(前後) 内径116mm、外径182mm、長さ 55mm
鉄製ヨーク 内径182mm、外径222mm
アルミニウム製ヨーク 内径222mm、外径262mm
上記のような構成で、6つのミラー磁場増幅用永久磁石(扇形状)を、図7に示すように、イオン源中心軸から径方向に等距離に50mm移動させることができた。径方向に50mm移動させた場合の移動に伴うミラー磁場強度比のデータを図8に示す。
【0040】
以上、この出願の発明の実施形態及び実施例を述べたが、この出願の発明はこれらに限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0041】
たとえば、ミラー磁場増幅用永久磁石の分割数やその径方向駆動させる手段については上記以外の適宜の数、駆動機構を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この出願の発明の実施形態である、ミラー磁場発生装置を含むECRイオン源の要部のイオン源中心軸に沿った断面図である。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれミラー磁場発生装置の正面図及び側面図である。
【図3】(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ図2(a)のA−A’断面図、B−B’線断面図、C−C’線断面図、D−D’線断面図である。
【図4】図2(b)のE−E’線断面図である。
【図5】六極永久磁石の着磁方向を示す断面図である。
【図6】六極永久磁石の着磁方向を詳細に示す断面図である。
【図7】前部及び後部ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石の駆動前後の様子を示す軸方向に垂直な断面図である。
【図8】実施例において前部及び後部ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石を径方向に50mm移動させた場合の移動に伴うミラー磁場強度比のデータを示す図である。
【図9】従来のECRイオン源の構造を示す軸方向に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ミラー磁場発生装置
2 ミラー磁場生成部
3 ミラー磁場増幅部
4 前部環状永久磁石
5 後部環状永久磁石
6 前部ミラー磁場増幅部
7 後部ミラー磁場増幅部
8(8A、8B、8C) 扇形状永久磁石
9(9A、9B、9C) 扇形状永久磁石
10 六極永久磁石
11 ヨーク
12 ケーシング
13 架台
14 駆動部
15 ステッピングモーター
17 傘歯車
18 ボールネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場を発生させる装置であって、
イオン源中心軸方向に離間配置された一対の環状永久磁石からなり、ミラー磁場を生成するミラー磁場生成部と、
ミラー磁場生成部の一対の環状永久磁石間に設けられ、複数の扇形状永久磁石を環状に配置して構成され、ミラー磁場生成部が生成したミラー磁場を増幅するミラー磁場増幅部と、
ミラー磁場増幅部を構成する各扇形状永久磁石をイオン源中心軸に対して径方向に移動させる扇形状永久磁石移動手段を備え、
各扇形状永久状磁石の径方向の移動により、ミラー磁場強度を変化させることができることを特徴とするミラー磁場発生装置。
【請求項2】
ミラー磁場増幅部が、前部ミラー磁場増幅部と後部ミラー磁場増幅部からなることを特徴とする請求項1記載のミラー磁場発生装置。
【請求項3】
ミラー磁場増幅部の扇形状永久磁石が環状構造を3つに分割したものからなり、前部ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石が、後部ミラー増幅部の各扇形状永久磁石に対してそれぞれ周方向に60度ずらして配置されていることを特徴とする請求項2記載のミラー磁場発生装置。
【請求項4】
ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石が、扇形状磁石本体と、その周方向両側に設けられ、大きさが扇形状磁石本体の半分である扇形状非磁性部分とからなることを特徴とする請求項1から3のいずれかのミラー磁場発生装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のミラー磁場発生装置と、
ミラー磁場増幅部の径方向内側に配置された環状の多極永久磁石を備えることを特徴とするECRイオン源。
【請求項6】
多極永久磁石が六極永久磁石であることを特徴とする請求項5記載のECRイオン源。
【請求項7】
ECRイオン源に用いられるプラズマ閉じ込め用のミラー磁場を発生させる方法であって、
ミラー磁場を生成させるためにイオン源中心軸方向に離間配置された一対のミラー磁場生成用環状永久磁石の間に、生成したミラー磁場を増幅させるためのミラー磁場増幅用永久磁石を設け、
ミラー磁場増幅用永久磁石として、イオン源中心軸に対して径方向に移動可能な複数の扇形状永久磁石を環状に配置した構造のものを用い、
各扇形状永久磁石をイオン源中心軸に対して径方向に移動させることにより、ミラー磁場強度を変化させることができることを特徴とするミラー磁場発生方法。
【請求項8】
ミラー磁場増幅用永久磁石として、前部と後部の2つに分割されたものを用いることを特徴とする請求項7記載のミラー磁場発生方法。
【請求項9】
ミラー磁場増幅用永久磁石を構成する扇形状永久磁石として、環状構造を3つに分割したものであり、かつ前部の各扇形状永久磁石を、後部の扇形状永久磁石に対して周方向にそれぞれ60度ずらして配置させたものを用いることを特徴とする請求項8記載のミラー磁場発生方法。
【請求項10】
ミラー磁場増幅部の各扇形状永久磁石として、扇形状磁石本体とその周方向両側に設けられ、大きさが扇形状磁石本体の半分である扇形状非磁性部分とからなるものを用いることを特徴とする請求項7から10のいずれかのミラー磁場発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−49020(P2006−49020A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226135(P2004−226135)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】