説明

EPDM組成物

【課題】耐熱性、シール性、耐塩素水性にすぐれ、特に高温高濃度の塩素含有水溶液接触シール材の加硫成形材料等として有効に用いられるEPDM組成物を提供する。
【解決手段】EPDM100重量部当りBET法比表面積(ASTM D1993-03準拠)が30〜150m2/gで、pHが9.0以下の微粒子状シリカを15〜70重量部、シランカップリング剤0.5〜5重量部および有機過酸化物1〜8重量部を含有してなる、塩素含有水溶液接触シール材の加硫成形材料として用いられるEPDM組成物。本発明に係るEPDM組成物から加硫成形して得られたシール材、例えばOリング、Dリング、Xリング、ガスケット、パッキン等は、耐熱性、シール性、耐塩素水性にすぐれ、特に高温高濃度の塩素含有水溶液接触シール材として、例えばガス給湯器、電気温水器、エコキュート等の水周り関連の器具シール材として有効に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EPDM組成物に関する。さらに詳しくは、塩素含有水溶液接触シール材の加硫成形材料等として有効に用いられるEPDM組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・プロピレン共重合ゴム(EPM)またはエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)であるエチレン・プロピレン系共重合ゴムは、それら本来が有するすぐれた耐熱性、低温特性、耐水性などにより、耐熱性あるいは耐水性のシール材の加硫成形材料等として幅広く用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
しかるに近年にあっては、水周り関連、例えばガス給湯器、電気温水器、エコキュート等の普及による水の高温化、あるいは水質悪化が原因となる塩素による殺菌力強化に伴う残留塩素の高濃度化などにより、従来のエチレン・プロピレン系共重合ゴム組成物では、耐水性、耐塩素水性、シール性など、特にシール性が不足するという新たな問題が提起されている。
【0004】
より具体的には、カーボンブラックの脱落により黒水化、ゴム表面の面荒れ、膨潤によるシール不具合、耐圧縮永久歪特性の低下によるシール性の悪化などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−353543号公報
【特許文献2】特開2001−146537号公報
【特許文献3】特開2007−137927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐熱性、シール性、耐塩素水性にすぐれ、特に高温高濃度の塩素含有水溶液接触シール材の加硫成形材料等として有効に用いられるEPDM組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、EPDM100重量部当りBET法比表面積(ASTM D1993-03準拠)が30〜150m2/gで、pHが9.0以下の微粒子状シリカを15〜70重量部、シランカップリング剤0.5〜5重量部および有機過酸化物1〜8重量部を含有してなる、塩素含有水溶液接触シール材の加硫成形材料として用いられるEPDM組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るEPDM組成物から加硫成形して得られたシール材、例えばOリング、Dリング、Xリング、ガスケット、パッキン等は、耐熱性、シール性、耐塩素水性にすぐれ、特に高温高濃度の塩素含有水溶液接触シール材として、例えばガス給湯器、電気温水器、エコキュート等の水周り関連の器具シール材として有効に用いられる。
【0009】
本出願人は先に、エチレン・プロピレン系共重合ゴム100重量部当り、比表面積が50〜200m2/gのホワイトカーボン20〜80重量部および有機過酸化物1〜8重量部を含有するエチレン・プロピレン系共重合ゴム組成物を提案しており、該組成物はシール材の成形材料として、具体的にはハイドロフルオロカーボンまたはそれに適用可能な冷凍機油(ポリアルキレングリコール、ポリカーボネート等)に接触するシール材の成形材料として、さらに具体的にはエアコン用スクイーズパッキンの成形材料として用いられるとされているが、高温高濃度の塩素含有水溶液接触シール材として用いることは意図されていない(特許文献2参照)。
【0010】
本出願人はまた、EPDMへの有機過酸化物促入れ工程において、粉塵が舞う不具合がなく、かつ促入れ時間が短縮され、さらにはマスターバッチ自体の加工性にもすぐれた有機過酸化物マスターバッチとして、有機過酸化物20〜60重量%、EPDM10〜15重量%および窒素BET法での比表面積が50〜130m2/gで、かつ平均二次粒子径が10〜20μmのシリカ10〜50重量%を含有してなるマスターバッチを提案しているが、この提案ではマスターバッチの調製にとどまっている(特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ポリマーとしては、耐熱性、耐水性、耐圧縮永久歪特性の点から、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等の任意のジエンを共重合させたEPDMが用いられる。ポリマー中にジエン成分を含まないEPMでは、耐熱性や耐水性にはすぐれているが、EPDMと比較して加硫速度が遅く、生産性に劣るばかりではなく、耐圧縮永久歪特性の点でも劣っている(後記比較例10参照)。
【0012】
補強材としては、一般的に用いられているカーボンブラックを用いるとそれの脱落により黒水化が生ずるので好ましくなく、微粒子状のシリカSiO2・nH2Oが用いられる。微粒子状のシリカとしては、BET法比表面積(ASTM D-1993-03準拠)が30〜150m2/g、好ましくは30〜50m2/gであり、pHが9.0以下、好ましくは5.0〜8.5のものが、EPDM100重量部当り約15〜70重量部、好ましくは約20〜60重量部の割合で用いられる。
【0013】
比表面積がこれよりも大きいシリカを用いると、ゴムコンパウンドの粘度上昇により混練加工性が悪化傾向となるばかりではなく、耐熱性、耐圧縮永久歪特性、耐塩素水性も悪化傾向となる(比較例1参照)。一方、これよりも小さい比表面積のシリカを用いると、補強性が低下するばかりではなく、耐熱性、耐塩素水性も低下するようになる(比較例3〜4参照)。また、比表面積が規定された範囲内にあっても、pH(2重量%水溶液として測定)が9.0を超えるシリカを用いると、耐塩素水性が悪化するようになる(比較例2参照)。
【0014】
また、シリカがこれ以上の配合割合で用いられると、ゴムコンパウンドの粘度上昇によって混練が困難となり、混練できても得られる加硫成形品は硬くなり、一方これよりも少ない割合で用いられると、強度、耐塩素水性の改善効果が得られない(比較例5〜6参照)。
【0015】
シランカップリング剤としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランやビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有アルコキシシランなどが用いられる。
【0016】
シランカップリング剤は、EPDM100重量部当り約0.5〜5重量部、好ましくは約0.5〜2重量部の割合で用いられる。この使用割合がこれよりも少ないと、耐圧縮永久歪特性や耐塩素水性が劣るようになり(比較例9参照)、一方これよりも多く使用しても、耐圧縮永久歪特性は向上せず、生地のスコーチやコストアップの問題を生ずる。
【0017】
加硫剤としては、有機過酸化物、例えば第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が用いられる。
【0018】
これらの有機過酸化物は、EPDM100重量部当り約1〜8重量部、好ましくは約2〜7重量部の割合で用いられる。これ以下の配合割合では、十分な架橋密度が得られず、耐熱性や耐圧縮永久歪特性、耐塩素水性が劣るようになり、一方これ以上の割合で用いられると、発泡により加硫成形品が得られなくなる(比較例7〜8参照)。また、加硫系を硫黄系にした場合には、圧縮永久歪が非常に悪くなり、長期のシール性に問題が生じるようになる(比較例11参照)。
【0019】
また、加硫特性を向上させるため、有機過酸化物と共に、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N′-m-フェニレンジマレイミド等の共架橋剤(多官能性不飽和化合物)を約0.5〜5重量部の範囲で併用することが好ましく、共架橋剤が用いられない場合には、加硫速度の低下により生産効率の悪化や、加硫が十分に行われないことから、ジエン成分中の二重結合が多く残り、耐塩素水性や耐圧縮永久歪特性の悪化などの問題が生じることがある。
【0020】
組成物中には、以上の各成分以外に、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の2価金属の酸化物または水酸化物、ハイドロタルサイトなどの受酸剤、可塑剤、老化防止剤など、ゴム工業で一般的に用いられている配合剤が、物性を損ねない範囲で適宜添加されて用いられる。
【0021】
ゴム組成物の調製は、インターミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機またはオープンロールなどを用いて混練することによって行われ、それの加硫は加硫プレス、圧縮成形機、射出成形機等を用いて、一般に約150〜220℃に約1〜60分間程度加熱することによって行われる。さらに必要に応じて、約120〜200℃で約1〜24時間オーブン加硫(二次加硫)することも行われる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
実施例1
EPDM(JSR製品EP33;エチレン含量52重量%、ENB含量8.1重量%) 100重量部
シリカ(東ソーシリカ製品ニップシールE74P; 35 〃
BET法比表面積30〜50m2/g、pH6〜8)
紫色顔料(レジノカラー工業製品NST-5944) 1.6 〃
酸化亜鉛 5.0 〃
ステアリン酸 0.5 〃
老化防止剤(ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ 1.5 〃
第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕)
老化防止剤(2-メルカプトベンツイミダゾール) 1.0 〃
ビニル系シランカップリング剤(モメンティブ製品A172) 1.0 〃
パラフィン系プロセスオイル(出光興産製品PW380) 5.0 〃
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品タイク) 1.0 〃
ジクミルパーオキサイド 3.0 〃
以上の各成分の内、ジクミルパーオキサイドおよびトリアリルイソシアヌレートを除く各成分を加圧ニーダで混練した後、ゴムコンパウンドを排出し、オープンロールを用いてジクミルパーオキサイドおよびトリアリルイソシアヌレートを混合し、EPDM組成物を調製した。
【0024】
このEPDM組成物について、180℃、6分間のプレス加硫および150℃、15時間のオーブン加硫(二次加硫)を行い、テストピース(150×150×2mm)およびOリング(線径3.1mm)を作製した。これらを用い、次の各項目の測定または評価を行った。
常態物性:JIS K6253、6251準拠
また、テストピースの状態を目視で観察し、良好なものを○と評価した
圧縮永久歪:Oリングについて、150℃、70時間の値を測定
空気加熱老化試験:150℃、70時間後の硬さ変化を測定
耐塩素水性試験:塩素濃度200ppmまたは1000ppm、80℃の次亜塩素酸ナトリウム
水溶液中に500時間浸せきした後の硬さ変化および体積変化率を
測定
なお、水溶液は1日毎に液交換を行った
また、浸せき後の状態を目視で観察し、良好なものを○、面荒れ
ありを×と評価
【0025】
実施例2
実施例1において、シリカとして東ソーシリカ製品ニップシールER(BET法比表面積70〜110m2/g、pH7.5〜9)30重量部が用いられた。
【0026】
比較例1
実施例1において、シリカとして東ソーシリカ製品ニップシールLP(BET法比表面積170〜220m2/g、pH5.5〜6.5)30重量部が用いられた。混練性には、悪化傾向がみられた。
【0027】
比較例2
実施例1において、シリカとして塩野義製薬製品カープレックス1120(BET法比表面積150m2/g、pH10.6)30重量部が用いられた。
【0028】
比較例3
実施例1において、シリカの代りに炭酸カルシウム(白石工業製品白艶華CC;BET法比表面積23〜29m2/g、pH8.5〜9.5)が55重量部用いられた。
【0029】
比較例4
実施例1において、シリカの代りにカオリンクレー(ケンタッキー・テネシィ クレイ社製品ニューロック321;BET法比表面積22〜26m2/g、pH7〜8)が50重量部用いられた。
【0030】
比較例5
実施例1において、シリカ量が10重量部に変更された。
【0031】
比較例6
実施例1において、シリカ量が90重量部に変更された。混練性は、悪であった。
【0032】
比較例7
実施例1において、ジクミルパーオキサイド量が0.5重量部に変更された。
【0033】
比較例8
実施例1において、ジクミルパーオキサイド量が9.0重量部に変更された。成形時に発泡し、成形できなかった。
【0034】
比較例9
実施例1において、ビニル系シランカップリング剤が用いられなかった。
【0035】
比較例10
実施例1において、EPDMの代りにEPM(JSR製品EP11;エチレン含量52重量%)100重量部が用いられ、それのプレス加硫時間が10分間に変更された。
【0036】
比較例11
実施例1において、ジクミルパーオキサイド-トリアリルイソシアヌレートよりなるパーオキサイド加硫系の代りに、硫黄1.5重量部、チウラム系促進剤TMTD 1.0重量部およびチアゾール系促進剤MBT 0.5重量部よりなる硫黄加硫系が用いられた。
【0037】
以上の各実施例および比較例(比較例8を除く)における測定結果または評価結果は、次の表に示される。

実施例 比較例
測定・評価項目 10 11
常態物性
硬さ (Duro A) 63 64 67 61 60 62 53 97 54 57 60 63
引張強さ (MPa) 13.6 11.6 13.5 9.9 7.6 8.8 4.2 12.3 6.7 11 12 11
伸び (%) 220 260 200 300 280 260 170 40 780 380 280 480
テストピース状態 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 高 未加 ○ ○ ○
硬度 硫気味
圧縮永久歪
150℃、70hrs (%) 10 18 20 17 37 26 21 45 58 38 24 88
空気加熱老化試験
硬さ変化(ポイント) 0 +1 +3 +1 +6 +2 +3 +4 +5 +5 0 6
耐塩素水性試験
硬さ変化(ポイント)
塩素200ppm -3 -2 -2 -1 -4 -6 -2 / -3 -3 -2 -5
〃 1000ppm -2 -1 -2 -1 -4 -7 -2 / -2 -4 -1 -6
体積変化率 (%)
塩素200ppm +0.7 +1.8 +2.8 +6.7 +2.5 +4.9 +4.1 / +3.4 +1.3 +1.3 +3.4
〃 1000ppm +1.7 +3.7 +4.8+12.7 +8.8 +8.5 +5.3 / +5.7 +2.8 +2.4+10.7
外観
塩素200ppm ○ ○ × × × × × / × × ○ ×
〃 1000ppm ○ ○ × × × × × / × × ○ ×

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EPDM100重量部当りBET法比表面積(ASTM D1993-03準拠)が30〜150m2/gで、pHが9.0以下の微粒子状シリカを15〜70重量部、シランカップリング剤0.5〜5重量部および有機過酸化物1〜8重量部を含有してなる、塩素含有水溶液接触シール材の加硫成形材料として用いられるEPDM組成物。
【請求項2】
カーボンブラックを含有しない請求項1記載のEPDM組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のEPDM組成物を加硫成形して得られた、塩素含有水溶液接触用途に用いられるシール材。
【請求項4】
Oリング形状での150℃、70時間後における圧縮永久歪が20%以下である請求項3記載のシール材。

【公開番号】特開2010−180260(P2010−180260A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22167(P2009−22167)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】