説明

ERG遺伝子発現における前立腺癌特異的変化ならびにそれらの変化に基づく検出および治療方法

ERG遺伝子発現における変化が、前立腺癌患者において観察されうる。特異的なERGアイソフォームが前立腺癌に関連または関与している。これらのアイソフォームを含む組成物は、治療的有用性を提供し、前立腺癌を検出、診断、予後判定および治療するための方法において使用されうる。これらの組成物は、PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERG遺伝子の組み合わせの発現を検出する生物マーカーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌に関与または関連しているポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列に関する。本発明は更に、前立腺癌の治療用組成物ならびに前立腺癌の検出、診断および治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ETS関連遺伝子(ETS Related Gene)(ERG)はETS転写ファミリーのメンバーであり、1987年に最初に単離され記載された(Reddyら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:6131-35 (1987); Raoら, Science 237:635-39 (1987))。ETSファミリーの他のメンバーと同様に、それは、MAPK経路を含む主要細胞経路により伝達される細胞増殖シグナルの媒介において中心的な役割を果たしている。ETSファミリー内のタンパク質はヒト組織において多種多様な発現パターンを示す。ERGは内皮組織、造血細胞、腎臓および泌尿生殖路において発現される(Oikawaら, Gene 303: 11-34 (2003))。ERGの発現は、ごく一部の前立腺癌では間質の内皮細胞(微小血管)においても検出されている(Gavrilovら, Eur J Cancer 37: 1033-40 (2001))。
【0003】
ERGタンパク質は、5'-GGA(A/T)-3' コンセンサス配列を含むDNAおよびJun/Fosヘテロ二量体の両方に結合することにより、遺伝子発現の調節に関与する。これらの相互作用は、高度に保存されたETSドメインを介して生じる(Vergerら, J Biol Chem 276: 17181-89 (2001))。スプライス変異体が存在し、報告されている9種のうちのERG6およびERG9は、それらを非機能性にする可能性がある複数の終止コドンを有する(Owczarekら, Gene 324: 65-77 (2004))。ERG7およびERG8はエキソン16の非存在によりERG1-5から区別されうる(同誌)。また、ERG8転写産物は、それがエキソン12の後に3'配列(そのうちの一部はオープンリーディングフレームの一部分を形成する)を含む点で独特である(同誌)。ERG8は以前、全米バイオテクノロジー情報センター(「NCBI」)アクセッション番号AY204742で1460塩基対の直鎖mRNAとして記載された(Owczarekら, (2004))。
【0004】
ERGは、ETSファミリーの他のメンバーと同様に、トランスフォーム(形質転換)活性を有する原癌遺伝子である(Oikawaら, Gene 303:11-34 (2003); Hsuら, J Cell Biochem 91:896-903 (2004); Reddyら, Proc Natl Acad Sci USA, 84:6131-35 (1987); Hartら, Oncogene 10:1423-30 (1995); Sementchenkoら, Oncogene 17:2883-88 (1998))。ERGを含む染色体転座はユーイング肉腫、骨髄性白血病および子宮頸癌に関連づけられている(Oikawaら, Gene 303: 11-34 (2003))。ERG1は悪性前立腺組織において最も一般的に過剰発現される原癌遺伝子であることが最近示された(Petrovicsら, Oncogene 24: 3847-52 (2005))。それとは独立して、Tomlinsら, Science 310:644-48 (2005)は、ERG1過剰発現の少なくとも1つの可能なメカニズムを与えうる、アンドロゲン感受性遺伝子であるTMPRSS2およびERGを含む新規遺伝子融合体を記載している。さらに少なくとも2つの研究が前立腺癌におけるERG再編成を確認している(Sollerら, Genes Chromosomes Cancer 45:717-19 (2006); Yoshimotoら, Neoplasia 8:465-69 (2006))。
【0005】
前立腺癌は北米の男性における最も一般的な非皮膚癌であり、第3の癌死亡原因であるが(Jemalら, Cancer J Clin 56:106-30 (2005))、驚くべきことに、前立腺発癌における決定的に重要な事象についてはほとんど知られていない。ERG遺伝子座およびERG1過剰発現を伴う高頻度ゲノム再編成の最近の報告は興味深いものであるが、前立腺癌におけるERG遺伝子座の遺伝子発現産物を同定し特徴づけることが当技術分野で依然として必要とされている。癌由来転写産物、スプライス変異体転写産物、および転写産物間の発現比の変化は、癌発生の種々の段階を通じて癌の診断に使用されうる非常に特異的な手段である。また、これらの産物の標的化抑制もしくは活性化、および/または癌特異的プロモーターの直接的操作は、癌の原因因子を標的化する高度選択的治療法として用いられうる。したがって、前立腺癌に特異的な分子的変化の同定は診断および予後判定の最適化を可能にするだけでなく、該腫瘍の分子的プロファイルに合わせた個別化治療の確立を可能にするであろう。
【0006】
また、前立腺癌は益々早期に検出されてきているが、個々の患者の予後判定は依然として難題である。前立腺癌の進行性形態と緩慢性形態とを早期に区別しうる機能的に関連した経路を代表する分子生物マーカーの同定は、予後判定および治療決定の改善に著しい影響を及ぼすであろう。血清PSA以外には、現在、前立腺癌の臨床実施において利用可能な論理的な(腫瘍生物学に基づく)予後判定用または治療用分子生物マーカーは存在しない。
【0007】
前立腺癌患者の80%は手術、放射線療法または監視下待機に良好に反応するが、約20%は、患者にとってしばしば致命的となる転移を引き起こす。最初は、前立腺癌の発生はアンドロゲン受容体(AR)経路により駆動される(Heinleinら, Endocrine Rev 25:276-308 (2004); Linjaら, J Steroid Biochem Mol Biol 92: 255-64 (2004); Shafferら, Lancet Oncol 4:407-14 (2003); Chenら, Nat Med 10: 26-7 (2004))。しかし、特に転移疾患を伴う前立腺癌の進行中には、ARの構造および/または機能の頻繁な変化がよく認められている。これらの後期アンドロゲン非依存性腫瘍においてしばしば変化する他の遺伝的経路は、p53突然変異、BCL2過剰発現、およびPTENの突然変異または発現低下を含む(Shafferら, Lancet Oncol 4:407-14 (2003))。重要なことに、p53経路およびPTEN経路は共に、AR機能に影響を及ぼしうる。
【0008】
AR媒介シグナリングにおける欠陥は、前立腺癌の進行における潜在的な原因的役割に関して益々重要視されてきている(Heinleinら, Endocrine Rev 25:276-308 (2004); Dehmら, J Cell Biochem 99: 333-344 (2006))。AR突然変異、AR遺伝子増幅、AR mRNAまたはARタンパク質レベルの変化、コアクチベーター/コリプレッサーとのARの相互作用および増殖因子/サイトカインによるリガンド非依存性AR活性化における変化を含む種々のメカニズムによるAR機能の前立腺癌関連変化は全て、前立腺癌の進行に関与しうる(Gelmann, J Clin Oncol 20:3001-15 (2002); Grossmanら, J Natl Cancer Inst 93: 1687-97 (2001))。病理学的標本におけるAR機能不全の明確な知見の欠如のため、ARの機能不全を有する患者を特定することは困難である。
【0009】
後期前立腺癌に対する治療法の選択は全身アンドロゲン除去であるが、これは最終的にほとんどの患者において失敗している。したがって、アンドロゲン除去療法の失敗の前兆となるAR経路機能不全の知見は、新たに現れる治療戦略のための患者の層別に有意な影響を及ぼすであろう。
【0010】
治療決定および予後判定を行う際に原発性腫瘍におけるエストロゲン受容体タンパク質の状態が有効に用いられる乳癌とは異なり(Yamashitaら, Breast Cancer 13(1):74-83 (2006); Martinezら, Am J Surg 191(2):281-3 (2006); Giacintiら, Oncologist 11(1):1-8 (2006); Reganら, Breast 14(6):582-93(2005); Singhら, J Cell Biochem 96(3):490-505 (2005))、ARタンパク質の発現状態は前立腺癌においては有用でないようである。なぜなら、おそらく、ARタンパク質の発現レベル以外の多数の要因がAR活性に影響を及ぼしうるからである。AR発現は前立腺癌の進行の全体にわたって検出されうるが、それは不均一であり、時間と共に変化する。いくつかの研究は、より高いグリーソン・スコアを有する分化不良領域においてはAR発現が低下することを示している(Heinleinら, Endocrine Rev 25:276-308 (2004); Linjaら, J Steroid Biochem Mol Biol 92: 255-64 (2004); Shafferら, Lancet Oncol 4:407-14 (2003); Chenら, Nat Med 10: 26-7 (2004); Gelmann, J Clin Oncol 20:3001-15 (2002); Grossmanら, J Natl Cancer Inst 93:1687-97 (2001); Krishnanら, Clin Cancer Res 6:1922-30 (2000))。
【0011】
これとは対照的に、いくつかの最近の研究は、より高いAR発現が、より高い臨床期、より高いグリーソン・スコアおよび低下したPSA再発を伴わない生存と関連していることを見出した(Linjaら, Cancer Res 61:3550-55 (2001); Sweatら, J Urol 161:1229-32 (1999); Liら, Am J Surg Pathol 28:928-34 (2004))。この議論の理由の1つとして、前立腺におけるAR発現の固有の不均一性、および免疫組織化学的評価の半定量的性質が挙げられる(Krishnanら, Clin Cancer Res 6:1922-30 (2000))。近年、本発明者らの研究室は、アンドロゲンにより調節されるトランスクリプトームに関する新規洞察を確立し、前立腺癌におけるAR機能不全の役割を定めるのに有望な、ならびに前立腺癌の進行中の生物学に基づく新規マーカーおよび治療標的を提供するのに有望なAR標的を同定した(Xuら, Cancer Res. 63(15):4299-304 (2003); Segawaら, Oncogene 21(57):8749-58 (2002); Xuら, Int J Cancer 92(3):322-8 (2001); Xuら, Genomics 66(3): 257-263 (2000); Masudaら, J Mol Biol 353(4):763-71 (2005); Richterら, Prostate Cancer Prostatic Dis 10(2):114-8 (2007))。
【0012】
それでもやはり、前立腺癌の早期段階におけるAR欠損の機能評価を能率的にすることが尚も必要とされており、そして、疾患管理に対するこの知見の影響はより大きくなるであろう。本出願は、注意深く選択されたAR下流標的の発現の測定のリードアウト(測定結果)を提供することにより、この必要性を満足させるものである。このリードアウトは、前立腺癌細胞におけるARのin vivo機能状態に関する情報を提供し、これは、ARシグナルの大きさに基づいて患者を層別するのに役立ち、前立腺癌を予後判定するのを助け、これらの患者を管理および治療する新規方法を提供するために用いられうる。
【0013】
特に、ERG8原癌遺伝子および前立腺癌におけるその役割を更に特徴付ける必要がある。ERG8は、前立腺癌に適用できる診断剤、予後判定剤および治療剤の未利用の資源を提供する。
【0014】
本明細書における参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明の先行技術であると自認するものと解釈されるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Reddyら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:6131-35 (1987)
【非特許文献2】Raoら, Science 237:635-39 (1987)
【非特許文献3】Oikawaら, Gene 303: 11-34 (2003)
【非特許文献4】Gavrilovら, Eur J Cancer 37: 1033-40 (2001)
【非特許文献5】Vergerら, J Biol Chem 276: 17181-89 (2001)
【非特許文献6】Owczarekら, Gene 324: 65-77 (2004)
【非特許文献7】Hsuら, J Cell Biochem 91:896-903 (2004)
【非特許文献8】Hartら, Oncogene 10:1423-30 (1995)
【非特許文献9】Sementchenkoら, Oncogene 17:2883-88 (1998)
【非特許文献10】Petrovicsら, Oncogene 24: 3847-52 (2005)
【非特許文献11】Tomlinsら, Science 310:644-48 (2005)
【非特許文献12】Sollerら, Genes Chromosomes Cancer 45:717-19 (2006)
【非特許文献13】Yoshimotoら, Neoplasia 8:465-69 (2006)
【非特許文献14】Jemalら, Cancer J Clin 56:106-30 (2005)
【非特許文献15】Heinleinら, Endocrine Rev 25:276-308 (2004)
【非特許文献16】Linjaら, J Steroid Biochem Mol Biol 92: 255-64 (2004)
【非特許文献17】Shafferら, Lancet Oncol 4:407-14 (2003)
【非特許文献18】Chenら, Nat Med 10: 26-7 (2004)
【非特許文献19】Dehmら, J Cell Biochem 99: 333-344 (2006)
【非特許文献20】Gelmann, J Clin Oncol 20:3001-15 (2002)
【非特許文献21】Grossmanら, J Natl Cancer Inst 93: 1687-97 (2001)
【非特許文献22】Yamashitaら, Breast Cancer 13(1):74-83 (2006)
【非特許文献23】Martinezら, Am J Surg 191(2):281-3 (2006)
【非特許文献24】Giacintiら, Oncologist 11(1):1-8 (2006)
【非特許文献25】Reganら, Breast 14(6):582-93(2005)
【非特許文献26】Singhら, J Cell Biochem 96(3):490-505 (2005)
【非特許文献27】Krishnanら, Clin Cancer Res 6:1922-30 (2000)
【非特許文献28】Linjaら, Cancer Res 61:3550-55 (2001)
【非特許文献29】Sweatら, J Urol 161:1229-32 (1999)
【非特許文献30】Liら, Am J Surg Pathol 28:928-34 (2004)
【非特許文献31】Xuら, Cancer Res. 63(15):4299-304 (2003)
【非特許文献32】Segawaら, Oncogene 21(57):8749-58 (2002)
【非特許文献33】Xuら, Int J Cancer 92(3):322-8 (2001)
【非特許文献34】Xuら, Genomics 66(3): 257-263 (2000)
【非特許文献35】Masudaら, J Mol Biol 353(4):763-71 (2005)
【非特許文献36】Richterら, Prostate Cancer Prostatic Dis 10(2):114-8 (2007)
【発明の概要】
【0016】
ERG遺伝子の転写は、前立腺癌細胞においては、良性細胞と比べて変化する。本出願は、完全なERG8ヌクレオチド配列を初めて記載し、また、癌細胞におけるERG8アイソフォームの優勢(predominant)発現を記載するものである。本発明はまた、ERG遺伝子座の2つのユニークな癌特異的転写産物、すなわち、ERG前立腺癌特異的アイソフォーム1(EPC1)およびEPC2の配列および特徴づけを提供する。開示されているERGアイソフォームは、前立腺癌の生物マーカーとして、または治療的介入のための標的として、または治療剤を開発するために、単独でまたは組合せて使用されうる。また、本開示は、新規前立腺癌特異的ERGプロモーターを記載する。ERGプロモーターは、例えば細胞毒素のような治療用タンパク質の発現を前立腺癌細胞へと選択的に標的化するために使用されうる。この新規プロモーターから産生されたポリヌクレオチド転写産物も、前立腺癌の診断のための生物マーカーとして、または前立腺癌の予後判定を助けるために、検出されうる。
【0017】
1つの態様においては、本開示は、ERG8、EPC1およびEPC2を含む、ERG遺伝子座の癌特異的遺伝子転写産物の核酸配列およびコード化タンパク質配列を提供する。該コード化ポリペプチドに対する抗体、およびそれらのポリペプチドの断片に対する抗体も記載する。いくつかの実施形態においては、該抗体は、直鎖状である該ポリペプチドまたはポリペプチド断片のエピトープに結合し、他の実施形態においては、該エピトープは立体構造をとる(conformational)。いくつかの実施形態においては、該エピトープは、EPC1またはEPC2ポリペプチドのユニークなカルボキシ末端内に含有されているか、または該カルボキシ末端を含んでいる。また、EPC1またはEPC2のカルボキシ末端におけるエピトープに結合する抗体の幾つかは、それぞれのEPC1またはEPC2ポリペプチドに結合する。
【0018】
該開示は更に、前立腺癌を検出するためのキットを提供する。これらのキットは、前立腺癌マーカーとして役立つ核酸またはタンパク質を(定量的または定性的に)検出するために使用されうる。例えば、単独でまたは他の癌マーカーと組合せて被験体からの生物学的サンプルにおいて検出された、ERG遺伝子の前立腺癌特異的アイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2)の、または前立腺癌特異的プロモーターにより産生された転写産物の発現は、被験体における前立腺癌の存在または被験体のもつ前立腺癌を発生するより高い素因を示すために用いられうる。あるいはそれらは、前立腺癌の重症度または病期、例えば、該癌が高リスクの癌であるかまたは中等度のリスクの癌であるか、を予測するために使用されうる。
【0019】
いくつかの実施形態においては、該キットは、一定の条件下でERG配列にハイブリダイズする核酸プローブ(本開示において別の箇所に記載されているプローブなど)を含む。該核酸プローブは、配列番号1(ERG8)、配列番号3(EPC1)、配列番号5(EPC2)、配列番号30(ERG8)または配列番号46(ERG8)(あるいは配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号30または配列番号46に相補的な配列)にハイブリダイズしうる。あるいは、プローブの組合せを使用して、ERG8およびEPC1、ERG8およびEPC2、EPC1およびEPC2、またはERG8、EPC1およびEPC2にさえもハイブリダイズさせることができる。他の実施形態においては、該キットは、ERG8(配列番号1、30および46)、EPC1(配列番号3)またはEPC2(配列番号5)における非重複配列にハイブリダイズする第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーを含む。いくつかの実施形態においては、ERG8およびEPC1;ERG8およびEPC2;EPC1およびEPC2;またはERG8、EPC1およびEPC2にハイブリダイズするプライマーペアが、組合せて使用される。そのような場合、ERG8、EPC1またはEPC2プライマーの1以上が同一でありうる。
【0020】
該開示は更に、抗ERGアイソフォーム特異的抗体、例えば抗ERG8抗体、抗EPC1抗体または抗EPC2抗体を含む診断キットを記載する。1つの実施形態においては、該開示は、配列番号4のアミノ酸217-220を含むエピトープに結合する抗EPC1抗体を提供する。もう1つの実施形態においては、該抗体は、配列番号6のアミノ酸28-97内のまたは配列番号6のアミノ酸28-97を含むエピトープに結合する抗EPC2抗体である。それぞれの場合において、該エピトープは直鎖状エピトープまたは立体構造をとった(conformational)エピトープでありうる。いくつかの実施形態においては、該キット内に抗体の組合せが含まれうる。例えば、キットは、抗ERG8および抗EPC1抗体、抗ERG8および抗EPC2抗体、抗EPC1および抗EPC2抗体、または抗ERG8、抗EPC1および抗EPC2抗体を含みうる。該抗体は、場合によっては、検出可能な様態で標識されうる。
【0021】
ERGアイソフォームの発現は、前立腺癌を診断または予後判定するために使用されうる。したがって、該開示はまた、例えば前立腺組織、血液、血清、血漿、尿、唾液または前立腺液のような生物学的サンプル中のERG8、EPC1またはEPC2の1以上の発現を検出するための方法を提供する。例えば、いくつかの実施形態においては、該方法は、ハイブリダイゼーションに基づく技術を用いてERG8、EPC1またはEPC2の増幅産物を検出することを含む。他の実施形態においては、該検出方法の一部として、増幅産物をサイズ分離し、可視化する。前立腺癌を診断または予後判定する該方法は更に、ERG8、EPC1またはEPC2の発現レベル(例えば、mRNAまたはポリペプチド)を測定し、該ERGアイソフォームの発現レベルを被験体における前立腺癌の存在または前立腺癌を発生するより高い素因と、あるいは前立腺癌の重症度または病期段階(例えば、高リスクまたは中等度のリスクの前立腺癌)と相関させることを含みうる。
【0022】
いくつかの実施形態においては、該方法は、ERG8アイソフォームの発現を検出することを含む。他の実施形態においては、検出されるのはEPC1アイソフォームの発現である。さらに他の実施形態においては、EPC2アイソフォームを検出する。さらに他の実施形態においては、該方法は、ERG8およびEPC1アイソフォームの組合せ、ERG8およびEPC2アイソフォームの組合せ、EPC1およびEPC2アイソフォームの組合せ、またはERG8、EPC1およびEPC2アイソフォームの組合せを検出することを含む。それぞれの場合において、各ERGアイソフォームは、該転写産物を検出および/または測定することにより、あるいは対応ポリペプチドを検出および/または測定することにより検出および/または測定されうる。
【0023】
前立腺癌を治療する、および前立腺過増殖の障害を治療する治療方法も開示する。例えば、本開示は、前立腺癌細胞における前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物を不安定化することを含む、前立腺癌の治療方法を提供する。いくつかの実施形態においては、該方法は、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2および/またはERG3転写産物のうちの1つ、すべてまたは任意の組合せを不安定化して、その結果それらの転写産物の分解およびコード化ポリペプチドの発現の抑制を引き起こすことを含む。1つの実施形態においては、該不安定化はsiRNAを使用する。もう1つの実施形態においては、該方法は小ヘアピンRNA(shRNA)を使用する。さらにもう1つの実施形態においては、該転写産物を不安定化するために、アンチセンス分子を使用する。さらにもう1つの実施形態においては、不安定化を引き起こすために、リボザイムをを使用する。1以上のERGアイソフォームの発現を抑制するために、小分子インヒビターも使用されうる。本開示はまた、前立腺癌または前立腺過増殖の障害を治療するための、1以上のERGアイソフォームに対する抗体の使用方法を提供する。したがって、種々の実施形態において、本開示は、抗ERG8、抗EPC1、抗EPC2、抗ERG1および抗ERG2、抗ERG3抗体またはそれらの抗体の組合せを投与することを含む、前立腺癌または前立腺過増殖の障害の治療方法を提供する。いくつかの実施形態においては、単一抗体が、開示されているERGアイソフォームによりコードされる1以上のタンパク質に特異的でありうる。
【0024】
もう1つの実施形態においては、本出願は、前立腺癌に関する一連の生物マーカー、前立腺癌を診断および予後判定するためにそれらの生物マーカーを使用するための方法およびシステム、ならびに該生物マーカーを検出するために使用する試薬を含む診断および予後判定キットを提供する。1つの実施形態においては、該一連の生物マーカーは、6つのアンドロゲン誘導可能/同時調節型遺伝子(PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERG)のセットのうち2以上の組合せを含む。いくつかの実施形態においては、ERG遺伝子はEPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、ERG8またはそれらの組合せである。
【0025】
本出願はまた、2以上のアンドロゲン誘導可能/同時調節型遺伝子のレベルを検出または測定する予後判定用キットを提供する。該予後判定用キットは、in vivoアンドロゲン受容体シグナリングの機能状態を予測する方法において、あるいは前立腺癌の進行もしくは重症度を予測する、例えば、前立腺癌が中等度のリスクの前立腺癌であるか若しくは高リスクの前立腺癌であるかを予測する、または前立腺癌の段階を予測する(例えば、T病期分類系(pTX、pT0、PT1、pT2、pT3、pT4)またはWhitmore-Jewett系(A、B、C、D)を使用して)、または前立腺癌が進行性、退縮性もしくは寛解にあるかどうかを予測する方法において使用される。また、該予後判定用キットは、例えば前立腺切除後の0.2ng/ml以上の血清PSAレベルにより定められうる、前立腺切除後の、無病生存を予測するために使用されうる。いくつかの実施形態においては、該予後判定用パネルは以下の遺伝子の2以上を含む:PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERG。ある実施形態においては、ERG遺伝子はEPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、ERG8またはそれらの組合せである。したがって、該予後判定用キットを使用するアッセイはこれらの2以上の遺伝子のレベルを検出または測定しうる。例えば、予後判定用キットは、2、3、4、5、6または更にはより多数のアンドロゲン誘導可能/同時調節型遺伝子のレベルを測定するために使用されうる。
【0026】
ある実施形態においては、該予後判定用アッセイは更に、PSA、% PSA、PSA倍加時間、PSA速度、前立腺体積またはこれらの指標の組合せを検出または測定することを含む。
【0027】
予後判定の実施形態においては、前立腺癌の予後判定方法は、個体からの生物学的サンプルにおいて、PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERGから選ばれる2以上の遺伝子の発現を検出または測定し、検出または測定された各遺伝子の発現に関して、得られた結果を、対照サンプルにおける同じ遺伝子の発現と比較することを含みうる。
【0028】
予後判定方法においては、対照サンプルと比較した場合の患者のサンプルにおける2以上の遺伝子の発現の変化は疾患の重症度(例えば、中等度のリスクの前立腺癌または高リスクの前立腺癌)を予測するものである。発現の変化はまた、前立腺癌が進行性、退縮性または寛解にあるかどうかを予測するものでありうる。あるいは、対照サンプルとして、遺伝子発現の閾値が選択され、使用されうる。この場合、遺伝子発現レベルが閾値未満であれば、それは減少したとみなされる。該閾値は、公知技術を用いて決定されうる。例えば、該値はmRNAコピー数またはサイクル閾値から決定されうる。
【0029】
該予後判定方法においては、対照または閾値と比較して少なくとも10%の増加および減少が用いられうるが、他の値も用いられうる。例えば、該増加または減少は少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または更には500%でありうる。該増加または減少は統計的有意性によって表してもよく、その発現における統計的に有意な増加または減少(例えば、p< 0.05、p< 0.01、p< 0.005またはp< 0.001)が、前立腺癌の存在、または前立腺癌を発生するより高い素因、前立腺癌の進行性、または疾患重症度を示す。
【0030】
いくつかの予後判定的実施形態においては、アンドロゲン誘導可能/同時調節型遺伝子の発現レベルの減少を用いてアンドロゲン受容体シグナリングの減弱が予測され、それが次いで、高リスクまたは進行した段階の前立腺癌の存在または発生素因、あるいは前立腺切除後の無病生存期間の減少を予測するものとなる。
【0031】
本開示はまた、前立腺組織または体液、例えば血液、血清、血漿、尿、唾液もしくは前立腺液のような生物学的サンプル中のPSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERG(EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3またはERG8を含む)のうち2以上の発現を検出する方法を提供する。例えば、いくつかの実施形態においては、該方法は、ハイブリダイゼーションに基づく技術を用いてPSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERGの増幅産物を検出することを含む。他の実施形態においては、該検出方法の一部として、増幅産物をサイズ分離し、可視化する。前立腺癌を予後判定する該方法はまた、抗体を使用して、PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERGによりコードされるタンパク質の発現レベルを測定することを含みうる。
【0032】
追加的な目的は、ある程度は以下の説明において記載され、ある程度は該説明から理解され、あるいは本発明の実施により認識されうる。前記の全般的な説明および後記の詳細な説明は共に、例示的で解説的なものであるに過ぎず、特許請求されている本発明を限定するものではないと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】図1は完全なERG8遺伝子(配列番号30)のヌクレオチド配列をNCBI AY204742(配列番号48)の部分的な遺伝子配列とアラインメントして示す。
【図1B】図1は完全なERG8遺伝子(配列番号30)のヌクレオチド配列をNCBI AY204742(配列番号48)の部分的な遺伝子配列とアラインメントして示す。
【図1C】図1は完全なERG8遺伝子(配列番号30)のヌクレオチド配列をNCBI AY204742(配列番号48)の部分的な遺伝子配列とアラインメントして示す。
【図1D】図1は完全なERG8遺伝子(配列番号30)のヌクレオチド配列をNCBI AY204742(配列番号48)の部分的な遺伝子配列とアラインメントして示す。
【図2】図2は正常前立腺組織(NP)および前立腺癌細胞系VCaPにおけるERG1、ERG2、ERG3およびERG8転写産物のPCR増幅ゲルを表す。
【図3】図3は腫瘍細胞(T)および良性上皮細胞(N)(8人の患者からのもの)におけるERG8転写産物発現に関するPCR増幅結果を示す。
【図4】図4は腫瘍細胞(T)および良性上皮細胞(N)(5人の患者からのもの)におけるEPC1転写産物発現に関するPCR増幅結果を示す。
【図5A】図5はERGアイソフォームのコピー数を示す。図5AはEPC1、ERG8およびERG1&2特異的プライマーのプライマー位置の概要図を示す。
【図5B】図5はERGアイソフォームのコピー数を示す。図5BはVCaP細胞におけるERG1&2、ERG8およびEPC1のコピー数を示す。
【図5C】図5はERGアイソフォームのコピー数を示す。図5Cは、10人の前立腺癌患者の顕微解剖腫瘍細胞を使用した場合のERG8およびERG1&2のコピー数を示す。
【図6】図6は、ERGエキソン9(配列番号7のヌクレオチド486-532)における選択的転写開始部位の地図を示す。
【図7】図7は、LNCaP細胞系と比較した場合のVCaP細胞系におけるルシフェラーゼレポート構築物の発現を支持する前立腺癌特異的ERGプロモーターの3つのセグメントの能力をグラフに示したものである。
【図8】図8は、腫瘍組織におけるERG1、AR、PSA、PMEPA1およびLTF発現とのTMPRSS2-ERG融合体A転写産物発現のピアソン相関分析の結果を示す。
【図9A】図9Aは、ERGのダウンレギュレーションがアンドロゲン受容体応答性遺伝子の発現を増加させることを示す。上のパネルは、2つの異なるsiRNAによるERGの抑制がアンドロゲン誘導性PSAおよびNKX3.1転写産物の発現の増加をもたらすことを実証するゲルを示す。下のパネルは、ERGがsiRNAにより抑制される場合、VCaP細胞の培養上清においてもPSAレベルが増加することを示す。
【図9B】図9Bは、in vitroアッセイおよびin vivo SCIDマウス腫瘍原性アッセイの両方において、ERGノックダウンが前立腺腫瘍細胞増殖を抑制することを示す。左上のパネルは、50 nM ERG siRNAまたは対照(「NT」)RNAでトランスフェクトされたVCaP細胞の形態を示す。右上のパネルは、VCaP細胞増殖に対するERG siRNA(濃灰色の棒グラフ)の抑制効果を、対照RNA(淡灰色の棒グラフ)と比較して示す。左下のパネルは、S期にある細胞の数に対するERG siRNA(濃灰色の棒グラフ)の抑制効果を、対照RNA(淡灰色の棒グラフ)と比較して示す細胞周期解析を示す。表は、FACS解析によって測定した、ERG siRNA処理の結果としてのG1、SおよびG2+M期にある細胞の数の再分布を示す。右下のパネルは、in vivo腫瘍体積に対するERG siRNA(濃灰色の棒グラフ)の抑制効果を、対照RNA(淡灰色の棒グラフ)と比較して示す。
【図9C】図9Cは、50 nMのERG siGLOまたはNT siGLO(共にDharmacon Research, Lafayette, COから入手)でトランスフェクトされ、2日間培養したVCaP細胞のトランスフェクション効率はほぼ100%であったことを示す。
【図10】図10は、ERG発現がアンドロゲン受容体応答性遺伝子PSAおよびNKX3.1の抑制をもたらし、それにより細胞分化を抑制しうることを示す図である。
【図11】図11は、VCaP前立腺癌細胞におけるERG発現のsiRNA抑制の結果を示す。図11Aは対照VCaP細胞の顕微鏡視野を示し、図11Bは、siRNA-1(配列番号28)で処理された細胞の顕微鏡視野を示す。
【図12】図12は、腫瘍および対応する良性細胞(40人の前立腺癌患者からのもの)におけるアンドロゲン調節型遺伝子PSA/KLK3、NKX3.1、PMEPA1、ODC1、AMD1およびERGの遺伝子発現の強度を比較している。Zスコア正規化GeneChip由来発現強度が、階層的クラスタリング後の高-低尺度での熱地図により図示されている。該熱地図の上に患者の番号(N=40)が記載されている。対応する腫瘍および良性試料が、同じ順序で列挙されている。
【図13】図13は、前立腺組織切片から顕微解剖した細胞における前立腺癌関連遺伝子ERG、AMACR、DD3、PSGRおよびPCGEM1の遺伝子発現の強度を比較する熱地図表示を示す。
【図14】図14は、QRT-PCRを用いた場合の、TMPRSS2-ERG融合体を持つ前立腺癌患者の腫瘍細胞におけるERG発現とのアンドロゲン調節型PSA/KLK3およびPMEPA1遺伝子の相関を示す。
【図15】図15は、ERG発現が前立腺癌組織におけるアンドロゲンシグナリングを反映することを示す。TMPRSS2-ERG融合体(左パネル)およびPSA/KLK3(右パネル)転写産物レベルを、定量的PCRにより、pT3およびpT2期の腫瘍の前立腺癌細胞において比較した。Y軸目盛は、GAPDHハウスキーピング遺伝子の発現に対する組織発現レベルの変化倍率を表す。
【図16】図16は、前立腺癌(CaP)患者の腫瘍細胞における生化学的再発および組織PSA/KLK3 mRNA発現の分布を示す。垂直の棒グラフにより表されている、腫瘍細胞におけるPSA/KLK3 mRNAの相対発現は、log2スケールで示されている。黒塗の棒グラフは、生化学的再発を伴う患者を示す。
【図17】図17は、2〜10 ng/mlの血清PSAを有する患者における腫瘍組織PSA/KLK3 mRNA五分位による、PSA再発を伴わない生存時間に対するKaplan-Meier生存評価曲線を示す。五分位は、漸減する順序で示されており、第1五分位は最も高い、そして第5五分位は最も低い、PSA/KLK3発現を示す(N=79)。前立腺腫瘍細胞におけるより低い組織PSA/KLK3 mRNA発現は、生化学的再発のより高いリスクと相関する。
【図18】図18は、ERGによる癌遺伝子C-MYCの活性化を示す。左のパネルは、ERG siRNAで処理したVCaP細胞のRT-PCR解析の結果を示す。右上のパネルは、対照(「NT」)、ERG siRNA、MYC siRNAおよびERG siRNAとMYC siRNAの両方による処理の8日後におけるVCaP細胞の形態を示す。右下のパネルは、VCaP細胞におけるC-MYC発現に対するERG siRNAの影響のウエスタンブロット解析を示す。さらに、顕微解剖したヒト前立腺腫瘍におけるERG発現とMYC発現との相関も示す。
【図19】図19は、VCaP細胞の密度および形態に対するERG siRNAの影響を、NT対照細胞と比較して示す。
【図20】図20は、ERGを発現しているヒト前立腺腫瘍における遺伝子ネットワークを示す。ERGを過剰発現する7つの十分に分化した前立腺腫瘍をBibliosphereソフトウェアで解析した。赤(中程度の灰色)および黄色(淡灰色)の枠はアップレギュレーションを示し、青い色調(濃灰色)はダウンレギュレーションを示す。
【図21】図21は、VCaP細胞においてERGノックダウンに応答して影響を受ける遺伝子ネットワークを示す。
【図22】図22は、一過的なERG発現に応答して、PSAタンパク質レベルが低下し、ARのPSA AREIIIエンハンサーへの動員が減少することを示すウエスタンブロットを示す。図22Aおよび22Bは、アデノウイルスERG(「Ad-ERG」)またはアデノウイルス対照(「対照」)ベクターを感染させた、VCaPおよびLNCaP細胞をそれぞれ示す。感染の24、48および72時間後に調製した細胞溶解物を、抗ERG、抗PSAおよび抗チューブリン抗体を用いて免疫ブロットによって解析した。図22Cおよび22Dは、アデノウイルスAd-ERGまたは対照ベクターによるERGの一過的な発現に応答した、VCaPおよびLVCaP細胞におけるKLK3/PSA遺伝子AREIIIエンハンサーへのAR動員のChIP評価を示す。「インプット」は対照ゲノムDNAアンプリコンを示す。
【図23】図23は、前立腺分化遺伝子のERGによる抑制を示す。左上のパネルは、VCaP細胞のERG siRNAトランスフェクションによって生じる、QRT-PCRによって測定したPSA mRNA発現の増加を示す。上部中央のパネルは、ウエスタンブロットによって測定した、対応するPSAタンパク質発現の増加を示す。左下のパネルは、ChIPアッセイによって測定した、PSAエンハンサー(「ARE」)へのAR結合の増加および重複するETSコグネート要素へのERG動員の減少を示す。右のパネルは、ERG siRNA処理後9日目におけるVCaP細胞の免疫蛍光顕微鏡写真を示す。細胞をサイトケラチン(「CK8/18」)またはPSAに対する抗体で染色するか、あるいはDNAを染色した;右のパネルは、重ね合わせた像を比較している。スケールバーは25ミクロンを表す。
【図24】図24は、ERG siRNAでのトランスフェクションによって生じたVCaP細胞におけるプロステイン(prostein)(「SLC45A3」)発現の増加を示す。左上のパネルは、SLC45A3およびチューブリン(対照)に対する抗体を用いたウエスタンブロットを示す。左下のパネルは、SLC45A3プロモーター上流AREおよびETS要素へのARおよびERGの動員をChIPアッセイによって評価する。右のパネルは、SLC45A3に対する抗体で調べた、26の前立腺腫瘍から得られた免疫染色のマトリックスを示す。「CN」は腫瘍組織の症例番号を示す。「TM-ERG」は、腫瘍におけるTMPRSS2-ERG遺伝子融合体の存在(黒棒)または非存在(白棒)を示す。「SLC」はSLC45A3に対する抗体を用いた強い(濃灰色の棒)または弱い(淡灰色の棒)免疫組織化学染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
「ERG」なる語は、ERG遺伝子ならびに本開示に記載されている種々のERG cDNAおよびmRNAを意味する。特定のアイソフォームまたはアイソフォームのサブセットが指定されていない限り、ERGなる語はERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC1、EPC2、および本明細書に記載されている前立腺癌特異的プロモーターの活性化から生じる末端切断型(truncated)ERG転写産物を含む。1以上の具体的に挙げられているERGアイソフォーム「以外のERG」なる語は、必ずしも全てではないが幾つかの異なるERGアイソフォームが想定される実施形態において用いられうる。ERG1遺伝子のcDNA配列はアクセッション番号M21535としてGenBankにおいて公開されている。ERG2遺伝子のcDNA配列はアクセッション番号M17254としてGenBankにおいて公開されている。「ERG8」なる語は、例えば配列番号1、配列番号30および配列番号46によって記載されるアイソフォームを意味する。ERGアイソフォーム1〜9のエキソン使用はOwczarekら, Gene 324: 65-77 (2004)に示されている。文脈が明らかに除外していない場合には、ERGは、種々のアイソフォームによりコードされる種々のERGポリペプチドをも意味する。さらに、斜体文字は一般には核酸を示すために用いられるが、斜体文字の使用は、コードされるポリペプチドを排除するものと解釈されるべきではない。
【0035】
1以上の転写産物の「不安定化」は、コードされるポリペプチドの発現が抑制またはノックダウンされるよう、その/それらの転写産物の分解を引き起こすことを意味する。サイレント干渉性RNA(siRNA)、小ヘアピンRNA(shRNA)(例えば、Paddisonら, Genes Dev 16(8):948-58 (2002)に記載されているもの)、アンチセンス分子、リボザイムおよびこれらのアプローチの組合せが、転写産物の不安定化の方法において用いられうる。
【0036】
「中等度のリスク」の前立腺癌は、患者が例えばPSA無再発、6〜7のグリーソン・スコア、T2a〜T3b期、精嚢無浸潤および十分なまたは中等度に分化した腫瘍を有する癌である。
【0037】
「高リスク」の前立腺癌は、患者が例えばPSA再発、8〜9のグリーソン・スコア、T3c期、精嚢浸潤および乏しい腫瘍分化を有する癌である。
【0038】
「変化した発現(発現の変化)」なる語は、定性的相違(すなわち、その遺伝子またはタンパク質発現が検出可能または検出不能である)および定量的相違(すなわち、遺伝子またはタンパク質発現の測定レベルでの相違)の両方を意味する。
【0039】
「単離(された)」なる語は、その天然環境を実質的に伴わない分子を意味する。いずれかの操作(例えば、過剰発現、部分精製など)により、天然に生じるレベルより上昇した、その分子のいずれかの量が、該定義内に含まれる。部分精製組成物の場合にのみ、該用語は、少なくとも50〜70%、70〜90%、90〜95%(w/w)またはそれ以上純粋である単離された化合物を意味する。
【0040】
「実質的に同一」または「記載されているのと実質的に同じ」なる表現は、関連配列が、与えられた配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97、98または99%同一であることを意味する。例えば、そのような配列は対立遺伝子変異体、種々の種に由来する配列であることが可能であり、あるいはそれらは、与えられた配列から、末端切断、欠失、アミノ酸の置換または付加により誘導されうる。ポリペプチドの場合、比較配列の長さは一般には少なくとも20、30、50、100アミノ酸またはそれ以上である。核酸の場合、比較配列の長さは一般には少なくとも50、100、150、300ヌクレオチドまたはそれ以上である。2つの配列の間の同一性(%)は、例えばAltschulら, J Mol Biol 215:403-410 (1990)に記載のBasic Local Alignment Tool (BLAST)、Needlemanら, J Mol Biol 48:444-453 (1970)のアルゴリズム、またはMeyersら, Comput Appl Biosci 4:11-17 (1988)のアルゴリズムのような標準的なアライメントアルゴリズムにより決定される。
【0041】
「タンパク質」は、「ペプチド」および「ポリペプチド」なる語と互換的に用いられ、長さまたは翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)または起源(例えば、種)には無関係に、任意のアミノ酸鎖を意味する。
【0042】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「DNA」なる語は本明細書において互換的に用いられ、デオキシリボ核酸(DNA)、および適当な場合にはリボ核酸(RNA)を意味する。また、該用語は、ヌクレオチド類似体および一本鎖または二本鎖ポリヌクレオチドを含むと理解されるべきである。ポリヌクレオチドの具体例には、プラスミドDNAまたはその断片、ウイルスDNAまたはRNA、アンチセンスRNAなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。「プラスミドDNA」なる語は、環状である二本鎖DNAを意味する。
【0043】
本明細書中で用いる「所定(defined)条件下のハイブリダイゼーション」または「所定条件下でハイブリダイズさせる」なる語は、お互いに対して有意に同一または相同であるヌクレオチド配列がお互いに結合したままとなる、ハイブリダイゼーションおよび洗浄のための条件を示すと意図される。該条件は、少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、より一層好ましくは少なくとも約85〜90%同一である少なくとも約6ヌクレオチド長以上、好ましくは少なくとも約20、30、40、50、100、150、300ヌクレオチド長またはそれ以上の配列がお互いに結合したままとなるような条件である。同一性(%)は、Altschulら, Nucleic Acids Res 25:3389-3402 (1997)に記載されているとおりに決定されうる。適当なハイブリダイゼーション条件は、Ausubelら, Current Protocols in Molec Biol, John Wiley & Sons (2004)に例示されているとおりの最低限の実験により当業者により選択されうる。また、ストリンジェントな条件はSambrookら, Molec Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)に記載されている。
【0044】
低ストリンジェンシーの所定条件の非限定的な一例は以下のとおりである。DNAを含有するフィルターを、35% ホルミアミド、5×SSC、50mM Tris-HCl (pH 7.5)、5mM EDTA、0.1% PVP、0.1% フィコール(Ficoll)、1% BSAおよび500μg/ml 変性サケ精子DNAを含有する溶液中、40℃で6時間、前処理する。以下の変更を伴う同じ溶液中でハイブリダイゼーションを行う:0.02% PVP、0.02% フィコール、0.2% BSA、100μg/ml サケ精子DNA、10% (wt/vol) 硫酸デキストラン、および5〜20×106 cpm 32P標識プローブを使用する。フィルターを該ハイブリダイゼーション混合物中、40℃で18〜20時間インキュベートし、ついで2×SSC、25mM Tris-HCl(pH 7.4)、5mM EDTAおよび0.1% SDSを含有する溶液中、55℃で1.5時間洗浄する。該洗浄溶液を新鮮な溶液と交換し、60℃で更に1.5時間インキュベートする。フィルターから液体を吸収して乾燥させ、オートラジオグラフィーにさらす。当技術分野でよく知られている低ストリンジェンシーの他の条件(例えば、異種間ハイブリダイゼーションで利用されているもの)も用いられうる。
【0045】
高ストリンジェンシーの所定条件の非限定的な一例は以下のとおりである。DNAを含有するフィルターのプレハイブリダイゼーションを、6×SSC、50mM Tris-HCl (pH 7.5)、1mM EDTA、0.02% PVP、0.02%フィコール、0.02% BSAおよび500μg/ml変性サケ精子DNAから構成されるバッファー中、65℃で8時間〜一晩行う。100μg/ml変性サケ精子DNAおよび5〜20×106 cpmの32P標識プローブを含有するプレハイブリダイゼーション混合物中、フィルターを65℃で48時間ハイブリダイズさせる。フィルターを、2×SSC、0.01% PVP、0.01% フィコールおよび0.01% BSAを含有する溶液中、37℃で1時間洗浄する。この後、0.1×SSC中、50℃で45分間洗浄を行う。高ストリンジェンシーの所定条件のもう1つの非限定的な一例は以下のとおりである。DNAを含有するフィルターのプレハイブリダイゼーションを、6×SSC、50mM Tris-HCl (pH 7.5)、1mM EDTA、0.02% PVP、0.02%フィコール、0.02% BSAおよび500μg/ml変性サケ精子DNAから構成されるバッファー中、65℃で8時間〜一晩行う。100μg/ml変性サケ精子DNAおよび5〜20×106 cpmの32P標識プローブを含有するプレハイブリダイゼーション混合物中、フィルターを65℃で12時間ハイブリダイズさせる。フィルターを、2×SSC、0.01% PVP、0.01% フィコールおよび0.01% BSAを含有する溶液中、37℃で1時間洗浄する。この後、0.1×SSC中、50℃で45分間洗浄を行う。当技術分野でよく知られている、高ストリンジェンシーの他の条件が用いられうる。オリゴヌクレオチドは、高ストリンジェンシーの条件下、標的配列に特異的にハイブリダイズする。
【0046】
「プライマー」または「オリゴヌクレオチドプライマー」なる語は、標的核酸の領域またはその相補鎖に結合し標的核酸の核酸増幅を促進しうるオリゴヌクレオチドを意味する。一般に、プライマーは、核酸ポリメラーゼにより伸長されうる遊離3'末端を有する。また、プライマーは、一般に、直接的に標的核酸の少なくとも1つの鎖または標的配列に相補的な鎖と相補的塩基相互作用によりハイブリダイズしうる塩基配列を含む。プライマーは標的特異的配列を、および場合によっては、標的配列に非相補的な他の配列を含みうる。これらの非相補的配列は、例えば、プロモーター配列または制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含みうる。
【0047】
「固体支持体」なる語は、オリゴヌクレオチドまたは核酸を結合させるために利用可能な遊離化学基を含む、アッセイ方法の溶媒および温度条件下で実質的に不溶性である物質を意味する。好ましくは、固体支持体は、標的核酸に直接的または間接的に結合するよう設計されたオリゴヌクレオチドに共有結合している。標的核酸がmRNAである場合、固体支持体に結合したオリゴヌクレオチドは、好ましくは、ポリT配列である。好ましい固体支持体は粒子、例えばミクロンまたはサブミクロンのサイズのビーズまたは球状体である。種々の固体支持体物質、例えばシリカ、ポリアクリラート、ポリアクリルアミド、金属、ポリスチレン、ラテックス、ニトロセルロース、ポリプロピレン、ナイロンまたはそれらの組合せが想定される。いくつかの実施形態においては、固体支持体は、例えば磁鉄鉱コアを有する固体支持体のように、磁場によりいずれかの位置に引き付けられうる。
【0048】
「検出する」または「検出」なる語は、核酸またはタンパク質の存在を決定するための、当技術分野で公知の種々の方法のいずれかを意味する。例えば、標識プローブを核酸の一部分にハイブリダイズさせることは、その核酸を検出するための1つの方法である。直接的または間接的に標識されている抗体を、関心のあるタンパク質へ結合させることは、そのタンパク質を検出する方法の一例である。核酸および抗体(および他のタンパク質)を標識するための方法は当技術分野でよく知られている。標識は、検出可能または機能的な標識であることが可能であり、放射標識(例えば、131I、125I、35Sおよび99Tc)、酵素標識(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、化学発光標識、および他の化学的部分(例えば、ビオチン)を包含する。標識プローブは、別の配列に特異的に結合するオリゴヌクレオチドであり、それは、例えば蛍光部分、化学発光部分(例えば、(米国特許第5,283,174号に記載のとおりに)適当な条件下で化学発光により検出されうるアクリジニウムエステル(AE)部分)、放射性同位体、ビオチン、アビジン、酵素、酵素基質または他の反応性基でありうる検出可能な基を含有する。他のよく知られた検出技術には、例えば、ゲル濾過、ゲル電気泳動、および例えば臭化エチジウムでの染色によるアンプリコンの可視化、および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が含まれる。抗体に基づく検出方法には、ELISA、ウエスタンブロット法、放射免疫測定(RIA)、免疫組織化学、および当技術分野でよく知られている他の技術が含まれる。本明細書の全体にわたって用いられている「検出する」または「検出」なる語は、定性的または定量的検出を含む。
【0049】
「治療」なる語は、本明細書においては、「治療方法」なる語と互換的に用いられ、治療的処置および予防的手段の両方を意味する。治療を要するものには、特定の医学的障害を既に有する個体、および最終的に該障害を獲得しうる個体が含まれうる。
【0050】
「有効用量」または「有効量」なる語は、患者における症状の改善または所望の生物学的結果、例えば細胞増殖の抑制をもたらす、該化合物の量を意味する。有効量は、後記の節に記載されているとおりに決定されうる。
【0051】
「モジュレーション性化合物」なる語は「治療(用)」と互換的に用いられ、本明細書中で用いられる場合には、転写、翻訳または翻訳後レベルで前立腺癌特異的遺伝子発現を「モジュレーション」しうる、または前立腺癌特異的ポリペプチドの生物活性をモジュレーションしうる任意の化合物を意味する。「モジュレーション」なる語およびその同族語は、化合物が或る反応または活性のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用しうることを意味する。したがって、モジュレーションなる語は「活性化」および「抑制」なる語を含む。「活性化」なる語は、例えば、モジュレーション性化合物の存在下の前立腺癌特異的遺伝子の発現または前立腺癌特異的ポリペプチドの活性が、同じ化合物の非存在下の該遺伝子または該ポリペプチドの活性と比較して増加することを意味する。該発現レベルまたは該活性の増加は、好ましくは、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより高い。同様に、「抑制」なる語は、モジュレーション性化合物の存在下の前立腺癌特異的遺伝子の発現または前立腺癌特異的ポリペプチドの活性が、同じ化合物の非存在下の該遺伝子または該ポリペプチドの活性と比較して減少することを意味する。該発現レベルまたは該活性の減少は、好ましくは、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより高い。前立腺癌特異的遺伝子の発現レベルまたは前立腺癌特異的ポリペプチドの活性は、本明細書に記載されているとおりに、または当技術分野で一般に公知の技術により測定されうる。
【0052】
「抗体」は免疫グロブリンまたはそのフラグメントを意味し、抗原結合性フラグメントまたは抗原結合性ドメインを含む任意のポリペプチドを含む。該用語は、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、多重特異性、ヒト化、ヒト、一本鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、突然変異、グラフト化、およびin vitro生成抗体を含むが、これらに限定されるものではない。「無傷」なる語が先行しない限り、「抗体」なる語は、抗体フラグメント、例えばFab、F(ab')2、Fv、scFv、Fd、dAb、および抗原結合機能を保有する他の抗体フラグメントを含む。特に示さない限り、抗体は、必ずしも、いずれかの特定の起源に由来するわけではなく、また、それはいずれかの特定の方法により産生されるわけでもない。
【0053】
「特異的相互作用」、「特異的結合」などの語は、2つの分子が、生理的条件下で相対的に安定な複合体を形成することを意味する。該用語はまた、例えば、抗原結合ドメインが、多数の抗原により担持される特定のエピトープに特異的である場合に適用可能であり、この場合、該抗原結合ドメインを担持する特異的結合メンバーは、該エピトープを担持する種々の抗原に結合しうるであろう。特異的結合は、高い親和性(アフィニティ)かつ低ないし中等度の容量により特徴づけられる。非特異的結合は、通常、中等度ないし高い容量と共に、低い親和性を有する。典型的には、親和定数Kaが106 M-1より高い場合、より好ましくは、107 M-1より高い場合、最も好ましくは、108 M-1である場合に、該結合は特異的とみなされる。必要に応じて、特異的結合に実質的に影響を及ぼすことなく、結合条件を変化させることにより、非特異的結合を減少させることが可能である。そのような条件は当技術分野で公知であり、当業者は、通常の技術を用いて、適当な条件を選択することが可能である。該条件は、通常、抗体の濃度、溶液のイオン強度、結合のために許容される、温度、時間、非関連分子(例えば、血清アルブミン、乳カゼイン)の濃度などにおいて定められる。
【0054】
前立腺癌特異的ERG核酸
本開示は、前立腺癌特異的ERGアイソフォーム核酸、特にERG8、EPC1、EPC2、およびERG遺伝子のエキソン9内に位置する前立腺癌特異的プロモーターを記載する。ERG8の場合、ERG遺伝子の部分長のスプライス変異体が記載されているが(Owczarekら, (2004))、完全なERG8ヌクレオチド配列および前立腺癌の場合のERG8の過剰発現は従前公知ではなかった。本明細書において、ERG8は2441ヌクレオチドを含むことを報告する。ERG8は、前立腺腫瘍の60〜75%で過剰発現され、そのため、前立腺癌の検出、予後判定および治療の標的を提供する。
【0055】
ERG8によりコードされるタンパク質は、ERG1およびERG2において見出されるDNA結合ドメインを欠くが、全タンパク質-タンパク質相互作用ドメインを保持する。したがって、ERG8の発現はERG1およびERG2のタンパク質相互作用相手の機能的無効化を引き起こして、それによりドミナントネガティブ効果をもたらしうる。
【0056】
本開示はまた、ERG8とTMPRSS2との間で融合体が生じることを示す。TMPRSS2-ERG8融合転写産物の一例として、以下のものが挙げられる:

(配列番号1)。ヌクレオチド1-75のTMPRSS2由来配列が太字で示されている。エキソン結合部が灰色の枠内に示されている。開始コドンおよび終止コドンが太字斜体で示されている。ヌクレオチド803-1168のユニークな3'配列も太字で示されている。ERG8のアミノ酸配列は以下のとおりである:

(配列番号2)。ERG8のユニークなカルボキシ末端が太字で示されている。
【0057】
本発明は、配列番号1、配列番号30または配列番号46のポリヌクレオチド配列、あるいはこれらのうちいずれかの相補鎖を有する核酸分子を含む、単離された二本鎖核酸分子を提供する。ERG8/TMPRSS融合分子の全ヌクレオチド配列は以下のとおりである:

(配列番号30)。配列番号1は配列番号30のヌクレオチド1-1168と同一である。配列番号1でも示されているように、TMPRSS2由来配列は太字で示され、開始コドンおよび終止コドンは太字斜体で示されている。配列番号48の灰色の領域は、配列番号30のヌクレオチド1300-1310に対応するアデノシンリッチ領域を特定している。それは以下のようにAY204742の3’末端とアラインメントされる:

2つの太字のヌクレオチド、すなわち配列番号30のT1305およびC1309は共にAY204742配列のアデノシンに対応しており、このことは、AY204742がこの部位にポリA尾部を有すると以前誤って考えられていた可能性を示唆する。
【0058】
ヌクレオチド802-2415はERG8に特異的な領域を含む。この領域は、以下に示すように、ユニークなカルボキシ末端をコードし、また、非コード3’領域を含む:

(配列番号46)。コードされるポリペプチドのERG8特異的カルボキシル末端は以下のとおりである:

(配列番号47)。
【0059】
EPC1は、癌性前立腺細胞において選択的に発現されるERGアイソフォームである。EPC1の核酸配列は以下のとおりである:

(配列番号3)。該配列においては、TMPRSS2由来配列が太字で示されている。エキソン結合部が灰色の枠内に示されている。開始コドンおよび終止コドンが太字斜体で示されている。EPC1転写産物の3'末端は全ての公知ERGアイソフォームとは異なる。このユニークな配列は太字で示されている。EPC1のアミノ酸配列は以下のとおりである:

(配列番号4)。EPC1は、その3'末端に、EPC1タンパク質のカルボキシ末端の4つのユニークなアミノ酸をコードする追加的なヌクレオチドを含む。配列番号4において、これらの4つのユニークなアミノ酸は下線で示されている。EPC1は、ERG8と同様に、DNA結合ドメインのコード配列を欠くため、それもドミネントネガティブ効果をもたらしうる。
【0060】
EPC2も、癌性前立腺細胞において選択的に発現される。EPC2の核酸配列は以下のとおりである:

(配列番号5)。開始コドンおよび終止コドンが太字斜体で示されている。エキソン結合部が灰色の枠内に示されている。ユニークな3'配列が太字で示されている。EPC2のアミノ酸配列は以下のとおりである:

(配列番号6)。配列番号6において、EPC2のユニークなカルボキシ末端が太字で示されている。
【0061】
本開示はまた、前立腺癌細胞におけるプロモーターの活性化を記載する。このプロモーターの活性化は、野生型ERGのN末端タンパク質-タンパク質相互作用ドメインを欠くERGアイソフォームをコードする転写産物を生成する。したがって、前立腺癌細胞におけるこのプロモーター配列の発現産物はドミナントネガティブまたは機能獲得(gain-of-function)分子として作用すると思われる。該プロモーターはERG遺伝子のエキソン9からの以下の配列内に位置する:

(配列番号7)。該配列においては、最も3'側の転写開始部位が太字で示されており、灰色の枠内に示されている。配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650を含む配列はプロモーター活性を保持する。
【0062】
診断用組成物および方法
ERG8、EPC1、EPC2、および前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物は、それぞれ、前立腺癌と関連づけられているため、ERGアイソフォーム核酸、それらがコードするポリペプチド、およびそれらのポリペプチドに対する抗体は、前立腺癌の種々の診断および予後判定用途において使用されうる。
【0063】
したがって、本開示は、生物学的サンプルにおいて前立腺癌を検出するための方法であって、
ハイブリダイズする条件下、該生物学的サンプルに少なくとも第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーを混ぜ、ここで、第1オリゴヌクレオチドプライマーは、ERG8、EPC1、EPC2、または前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物由来の標的配列内の第1配列にハイブリダイズする配列を含み、第2オリゴヌクレオチドプライマーは、該標的配列に相補的な核酸鎖内の第2配列にハイブリダイズする配列を含み、第1配列は第2配列と重複しておらず;
該生物学的サンプル中に該標的配列が存在する場合には、第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーを含有する該生物学的サンプルに少なくとも1つのポリメラーゼ活性を加えることにより、複数の増幅産物を増幅し;
その複数の増幅産物を固体支持体上に固定化し;
その固定化された複数の増幅産物にオリゴヌクレオチドプローブを混ぜ、それにより、該プローブを少なくとも1つの固定化増幅産物にハイブリダイズさせ;
該オリゴヌクレオチドプローブと少なくとも1つの増幅産物との間のハイブリダイゼーションからシグナルが生じるかどうかを検出すること、ここで、該シグナルの検出が、該生物学的サンプルにおけるERG8、EPC1、EPC2、または前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物の発現および前立腺癌の存在を示す、
を含んでなる方法を提供する。該オリゴヌクレオチドプローブと少なくとも1つの該増幅産物との間のハイブリダイゼーションから生じるシグナルの検出は、前立腺癌を診断または予後判定するために用いられうる。
【0064】
ERGアイソフォームがTMPRSS2と融合している幾つかの実施形態においては、第1オリゴヌクレオチドプライマーは、TMPRSS2からの標的配列内の第1配列にハイブリダイズする配列を含み、第2オリゴヌクレオチドプライマーは、ERG8、EPC1、EPC2、または前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物由来の標的配列に相補的な核酸鎖内の第2配列にハイブリダイズする配列を含む。
【0065】
したがって、本開示は、標的配列が配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号30、または配列番号46の全部または一部を含む、生物学的サンプル中の前立腺癌を検出するための方法を提供する。他の実施形態においては、標的配列は配列番号1のヌクレオチド75-1168、配列番号1のヌクレオチド803-1168、配列番号3のヌクレオチド61-1019、配列番号3の788-1019、配列番号5を含む核酸分子、配列番号5のヌクレオチド127-807、配列番号46のヌクレオチド992-1096、配列番号46のヌクレオチド1335-1424、または配列番号46のヌクレオチド1501-1591を含む。
【0066】
いくつかの実施形態においては、場合によっては、増幅産物ではなく該オリゴヌクレオチドプローブが固体支持体に固定されうる。
【0067】
さらに他の実施形態においては、固定化とそれに続く工程が省略され、サイズ分離およびそれに続く、DNAを検出する試薬(例えば、臭化エチジウム)での染色により、複数の増幅産物が検出される。この実施形態は、場合によっては更に、結果を保存するために、染色されたDNAを写真撮影することを含みうる。これらの実施形態においては、増幅産物の検出も、前立腺癌を診断または予後判定するために用いられうる。
【0068】
生物学的サンプル中のERGアイソフォーム発現を検出する場合には、該オリゴヌクレオチドプローブ、第1オリゴヌクレオチドプライマーおよび第2オリゴヌクレオチドプライマーはそれぞれ、所定条件下(例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下、例えば、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーション、およびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄)でERGアイソフォームの核酸配列にハイブリダイズできる核酸配列を含む。したがって、該オリゴヌクレオチドプローブ、第1オリゴヌクレオチドプライマーおよび第2オリゴヌクレオチドプライマーは、例えば、ERGアイソフォームの核酸配列、例えば配列番号1(ERG8)、配列番号3(EPC1)、配列番号5(EPC2)、配列番号30(ERG8)、配列番号46(ERG8)、前立腺癌特異的プロモーター(配列番号7)からの転写産物、またはそれらの断片を含む核酸分子、またはそれらに相補的な配列を含む。該オリゴヌクレオチドプローブ、第1オリゴヌクレオチドプライマーまたは第2オリゴヌクレオチドプライマーは、ERG8、EPC1、EPC2、もしくは前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物の核酸配列またはそれらに相補的な配列の少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約30、少なくとも約40または少なくとも約50個連続したヌクレオチドを含む断片でありうる。
【0069】
いくつかの実施形態においては、該方法は、ERG8アイソフォームの発現を検出することを含む。他の実施形態においては、EPC1アイソフォームの発現を検出する。さらに他の実施形態においては、EPC2アイソフォームの発現を検出する。いくつかの実施形態においては、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物を検出する。さらに他の実施形態においては、該方法は、ERG8およびEPC1アイソフォームの組合せ、ERG8およびEPC2アイソフォームの組合せ、EPC1およびEPC2アイソフォームの組合せ、またはERG8、EPC1およびEPC2アイソフォームの組合せを検出することを含む。他の実施形態においては、該方法は、前立腺癌特異的プロモーターからの1以上の転写産物を、単独で、またはERG8、EPC1もしくはEPC2のうち1以上と組合せて検出することを含む。いくつかの実施形態においては、該方法は更に、他の前立腺癌特異的マーカー、例えばERG1、ERG2、PSA、DD3、AMAR、LTF、NPY、SPOCK、CRISP3、PLA2G7、TMEFF2、F5、SMOC、ACPP、TGM4、MSMB、WIF1、OLFM4、PI15、PDGFD、CHGA、CAV1、RLN1、IGFBP7、BGN、FMOD、AGR2、SERPINA3、AZGP1、FAM3B、CD164、またはTMPRSS-ERG融合体の存在を検出することを含む。
【0070】
ERG8、EPC1またはEPC2によりコードされるポリペプチドも、生物学的サンプルにおいて検出および/または測定されうる。例えば、よく知られた技術、例えばELISAを用いて、各ポリペプチドを検出するために、抗体、場合によっては標識されている抗体が使用されうる。該生物学的サンプルは、例えば、前立腺組織、血液、血清、血漿、尿、唾液または前立腺液でありうる。
【0071】
もう1つの態様においては、本開示は、
ERG8、EPC1、EPC2、または前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物の発現レベル(例えば、mRNAまたはポリペプチド)を測定し;さらに
ERGアイソフォームの発現レベルを、被験体における前立腺癌の存在または前立腺癌を発生するより高い素因と相関させること、
を含んでなる、前立腺癌を診断または予後判定する方法を提供する。
【0072】
ERG8、EPC1、EPC2、または前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物の発現レベルまたは発現パターンを前立腺癌の存在または前立腺癌発生のより高い素因と相関させる方法は、当業者に理解されるであろう。例えば、対照サンプルまたは他の標準化された値もしくは数的範囲と比較した場合の発現レベルの増加または減少が前立腺癌の存在または前立腺癌発生のより高い素因を示すよう、該発現レベルを定量することが可能である。
【0073】
発現レベルの増加または減少は、例えば同じ被験体からの良性前立腺上皮細胞のような正常かつ対応する組織におけるERG8、EPC1、EPC2、もしくは前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、または対応ポリペプチドの発現レベルと比較して測定されうる。あるいは、ERG8、EPC1、EPC2、もしくは前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、または対応ポリペプチドの発現レベルは、被験体からの他の非癌性サンプルにおける、または癌を有さない個体から得られたサンプルにおける遺伝子またはポリペプチドの発現と比較して測定されうる。また、遺伝子または対応ポリペプチドの発現は、それを他の癌特異的マーカーの発現と比較することによっても正規化されうる。例えば、ERG8、EPC1、EPC2、もしくは前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、または対応ポリペプチドの発現レベルを比較および/または正規化するための対照として、前立腺特異的マーカー、例えばPSAまたはTMPRSS2-ERGが使用されうる。
【0074】
例えば、前立腺癌の診断または予後判定方法は、ERG8、EPC1、EPC2、もしくは前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、アイソフォーム、またはそれらの任意の組合せの発現レベルを測定すること、および前立腺癌を診断または予後判定することを含みうる。ここで、対照サンプルと比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%またはそれ以上増加したERG8、EPC1またはEPC2の発現レベルは、前立腺癌の存在または被験体における、前立腺癌発生のより高い素因を示し、または前立腺癌の重症度もしくは段階(例えば、該癌が高リスクの前立腺癌であるかまたは中等度のリスクの前立腺癌であるか)を示す。
【0075】
ERG8、EPC1、EPC2、または前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物(例えば、mRNAまたはポリペプチドの発現)の発現レベルは、本明細書に記載されている方法に従い、または免疫組織化学的方法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、ウエスタンブロット法、ELISAおよび核酸増幅法[PCR、転写媒介増幅(transcription-mediated amplification)(TMA)、核酸配列に基づく増幅(nucleic acid sequence-based amplification)(NASBA)、セルフ・サステインド配列複製(self-sustained sequence replication)(3SR)、リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction)(LCR)、鎖置換増幅(strand displacement amplification)(SDR)およびループ媒介等温増幅(loop-mediated isothermal amplification)(LAMP)を含むが、これらに限定されるものではない]を含む(これらに限定されるものではない)任意の他の公知検出方法を用いて検出されうる。
【0076】
また、前立腺癌を検出するための核酸をも提供し、これらの核酸の1以上は、場合によっては、キットの一部として提供されうる。いくつかの実施形態においては、該核酸は、前立腺癌特異的転写産物にハイブリダイズする核酸プローブ、例えば、本開示の他の箇所で記載されているプローブである。例えば、1つの実施形態においては、該プローブは、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下(例えば、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーション、およびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄)、所望の配列にハイブリダイズしうる。該プローブは、配列番号1、配列番号30もしくは配列番号46自体、または配列番号1、配列番号30もしくは配列番号46の少なくとも約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150もしくは200個連続したヌクレオチドを含む配列番号1、配列番号30もしくは配列番号46の断片、またはそれらに相補的な配列を含みうる。1つの実施形態においては、該断片は配列番号1のヌクレオチド75-1168の全部または一部を含む。例えば、該断片は、配列番号1のヌクレオチド801-1168、または配列番号1のヌクレオチド801-1168のうち少なくとも約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150もしくは200個連続したヌクレオチドを含む核酸分子を含みうる。また例えば、該断片は配列番号46のヌクレオチド992-1096、配列番号46のヌクレオチド1335-1424、または配列番号46のヌクレオチド1501-1591を含みうる。
【0077】
いくつかの実施形態においては、該プローブはERG8アイソフォームには選択的にハイブリダイズするが、所定条件(例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を含む)下、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG9、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない。該プローブの長さは、例えば、ハイブリダイゼーション条件、および標的配列と該プローブとの同一性(%)に応じて変動することがあり得、したがって、約6、10、20、30、40、50、100、150、200、300、400または500ヌクレオチド長まででありうる。
【0078】
したがって、いくつかの実施形態においては、本開示は、配列番号1のヌクレオチド801-1168のうち少なくとも約15個連続したヌクレオチドを含んでなる単離された核酸を提供し、ここで、該核酸は、高ストリンジェンシーの条件下、配列番号1またはその相補鎖にはハイブリダイズしうるが、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG9、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない。いくつかの実施形態においては、該核酸は約50ヌクレオチド長までである。他の実施形態においては、該プローブは、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄を含む高ストリンジェンシーの条件下、所望の配列にハイブリダイズしうる。
【0079】
もう1つの実施形態においては、該プローブは、所定ハイブリダイゼーション条件下、配列番号3、または配列番号3(EPC1)のヌクレオチド61-1019もしくは788-1068内の配列、またはそれらの相補鎖にハイブリダイズする。例えば、1つの実施形態においては、該プローブは、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下(例えば、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄)、所望の配列にハイブリダイズしうる。該プローブは、配列番号3自体、または配列番号3の少なくとも約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150もしくは200個連続したヌクレオチドを含む配列番号3の断片、またはそれらに相補的な配列を含みうる。1つの実施形態においては、該断片は配列番号3のヌクレオチド61-1019の全部または一部を含む。例えば、該断片は、配列番号3のヌクレオチド788-1019、または配列番号3のヌクレオチド788-1019のうち少なくとも約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150もしくは200個連続したヌクレオチドを含む核酸分子を含みうる。いくつかの実施形態においては、該プローブはEPC1には選択的にハイブリダイズするが、所定条件(例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を含む)下、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない。該プローブの長さは、例えば、ハイブリダイゼーション条件、および標的配列と該プローブとの同一性(%)に応じて変動することがあり得、したがって、約6、10、20、30、40、50、100、150、200、300、400または500ヌクレオチド長まででありうる。
【0080】
したがって、いくつかの実施形態においては、本開示は、配列番号3のヌクレオチド788-1019のうち少なくとも約15個連続したヌクレオチドを含んでなる単離された核酸を提供し、ここで、該核酸は、高ストリンジェンシーの条件下、配列番号3またはその相補鎖にはハイブリダイズしうるが、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない。いくつかの実施形態においては、該核酸は約50ヌクレオチド長までである。他の実施形態においては、該プローブは、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄を含む高ストリンジェンシーの条件下、所望の配列にハイブリダイズできる。
【0081】
更なる実施形態においては、該プローブは、所定ハイブリダイゼーション条件下、配列番号5(EPC2)、または配列番号5のヌクレオチド127-807、またはそれらの相補鎖にハイブリダイズする。例えば、1つの実施形態においては、該プローブは、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下(例えば、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄)、所望の配列にハイブリダイズしうる。該プローブは、配列番号5自体、または配列番号5の少なくとも約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150もしくは200個連続したヌクレオチドを含む配列番号5の断片、またはそれらに相補的な配列を含みうる。1つの実施形態においては、該断片は配列番号5のヌクレオチド127-807の全部または一部を含む。例えば、該断片は、配列番号5のヌクレオチド127-807、または配列番号5のヌクレオチド127-807のうち少なくとも約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150もしくは200個連続したヌクレオチドを含む核酸分子を含みうる。いくつかの実施形態においては、該プローブはEPC2には選択的にハイブリダイズするが、所定条件(例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を含む)下、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC1、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない。該プローブの長さは、例えば、ハイブリダイゼーション条件、および標的配列と該プローブとの同一性(%)に応じて変動することがあり得、したがって、約6、10、20、30、40、50、100、150、200、300、400または500ヌクレオチド長まででありうる。
【0082】
したがって、いくつかの実施形態においては、本開示は、配列番号5のヌクレオチド127-807のうち少なくとも約15個連続したヌクレオチドを含んでなる単離された核酸を提供し、ここで、該核酸は、高ストリンジェンシーの条件下、配列番号5またはその相補鎖にはハイブリダイズしうるが、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない。いくつかの実施形態においては、該核酸は約50ヌクレオチド長までである。他の実施形態においては、該プローブは、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄を含む高ストリンジェンシーの条件下、所望の配列にハイブリダイズしうる。
【0083】
したがって、いくつかの実施形態においては、本開示は、配列番号46のヌクレオチド992-1096、1335-1424、または1501-1591のうち少なくとも約15個連続したヌクレオチドを含んでなる単離された核酸を提供し、ここで、該核酸は、高ストリンジェンシーの条件下、配列番号46またはその相補鎖にはハイブリダイズしうるが、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG9、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない。いくつかの実施形態においては、該核酸は約50ヌクレオチド長までである。他の実施形態においては、該プローブは、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄を含む高ストリンジェンシーの条件下、所望の配列にハイブリダイズしうる。
【0084】
核酸プローブは、場合によっては、固体支持体に固定されうる。
【0085】
他の実施形態においては、該核酸はオリゴヌクレオチドプライマーである。本開示は、多数のオリゴヌクレオチドプライマーおよびプライマーペア(例えば、実施例に記載されているもの)を提供する。いくつかの実施形態においては、オリゴヌクレオチドプライマーペアは第1オリゴヌクレオチドプライマーおよび第2オリゴヌクレオチドプライマーを含み、ここで、第1オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号1、配列番号30および/または配列番号46における第1配列にハイブリダイズする配列を含有し、第2オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号1、配列番号30および/または配列番号46に相補的な核酸鎖中の第2配列にハイブリダイズする配列を含有し、ここで、第1配列は第2配列と重複していない。第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーは、ERG8における関心のある標的配列を増幅しうる。したがって、いくつかの実施形態においては、該プライマーペアは、配列番号1のヌクレオチド75-1168の全部もしくは一部、配列番号1のヌクレオチド801-1168の全部もしくは一部、配列番号46のヌクレオチド992-1096の全部もしくは一部、配列番号46のヌクレオチド1335-1424の全部もしくは一部、または配列番号46のヌクレオチド1501-1591の全部もしくは一部を含む標的配列を増幅する。他の実施形態においては、標的配列は、配列番号1のヌクレオチド75-1168、配列番号1のヌクレオチド801-1168、あるいは配列番号46のヌクレオチド992-1096、配列番号46のヌクレオチド1335-1424、または配列番号46のヌクレオチド1501-1591内の核酸分子を含む。
【0086】
いくつかの実施形態においては、該プライマーペアは、ERG8アイソフォームには選択的にハイブリダイズするが所定条件(例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、例えば、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄)下でERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG9、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない標的配列を増幅する。
【0087】
さらに他の実施形態においては、オリゴヌクレオチドプライマーペアは第1オリゴヌクレオチドプライマーおよび第2オリゴヌクレオチドプライマーを含み、ここで、第1オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号3における第1配列にハイブリダイズする配列を含有し、第2オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号3に相補的な核酸鎖における第2配列にハイブリダイズする配列を含有し、ここで、第1配列は第2配列と重複していない。第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーは、EPC1における関心のある標的配列を増幅しうる。したがって、いくつかの実施形態においては、該プライマーペアは、配列番号3のヌクレオチド61-1019の全部もしくは一部または配列番号3のヌクレオチド788-1019の全部もしくは一部を含む標的配列を増幅する。他の実施形態においては、標的配列は、配列番号3のヌクレオチド61-1019または配列番号3のヌクレオチド788-1019内の核酸分子を含む。いくつかの実施形態においては、該プライマーペアは、EPC1アイソフォームには選択的にハイブリダイズするが所定条件(例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、例えば、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄)下でERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない標的配列を増幅する。
【0088】
さらに他の実施形態においては、オリゴヌクレオチドプライマーペアは第1オリゴヌクレオチドプライマーおよび第2オリゴヌクレオチドプライマーを含み、ここで、第1オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号5における第1配列にハイブリダイズする配列を含有し、第2オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号5に相補的な核酸鎖における第2配列にハイブリダイズする配列を含有し、ここで、第1配列は第2配列と重複していない。第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーは、EPC2における関心のある標的配列を増幅しうる。したがって、いくつかの実施形態においては、該プライマーペアは、配列番号5の全部もしくは一部または配列番号5のヌクレオチド127-807の全部もしくは一部を含む標的配列を増幅する。他の実施形態においては、標的配列は、配列番号5または配列番号5のヌクレオチド127-807内の核酸分子を含む。いくつかの実施形態においては、該プライマーペアは、EPC2アイソフォームには選択的にハイブリダイズするが所定条件(例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、例えば、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄)下でERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC1、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物またはTMPRSS2にはハイブリダイズしない標的配列を増幅する。
【0089】
該オリゴヌクレオチドプライマーおよびプライマーペアはキット形態で提供されうる。いくつかの実施形態においては、該キットは、ERG8における関心のある標的配列を増幅しうるオリゴヌクレオチドプライマーのペア(例えば、本開示に記載されているもの)、EPC1における関心のある標的配列を増幅しうるオリゴヌクレオチドプライマーのペア(例えば、本開示に記載されているもの)、および/またはEPC2における関心のある標的配列を増幅しうるオリゴヌクレオチドプライマーのペア(例えば、本開示に記載されているもの)を含む。この及び他の実施形態においては、該オリゴヌクレオチドプライマーが全て、異なる配列を有する必要はない。例えば、ERG8にユニークなヌクレオチド配列またはその相補鎖にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、EPC1にユニークなヌクレオチド配列またはその相補鎖にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、EPC2にユニークなヌクレオチド配列またはその相補鎖にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物にユニークなヌクレオチド配列またはその相補鎖にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、およびERG8、EPC1およびEPC2により共有されるヌクレオチド配列またはその相補鎖にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを選択することにより、ERG8、EPC1、EPC2、または前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物のそれぞれに特異的な標的配列を増幅することが可能である。したがって、僅か4種のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ERG8、EPC1およびEPC2のそれぞれにおいて標的配列を選択的に増幅することが可能である。例えばERG8およびEPC1、ERG8およびEPC2、EPC1およびEPC2、またはそれらのアイソフォームの1以上と前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物との組合せを増幅するために、他の組合せのプライマーが選択されうる。
【0090】
本開示はまた、抗ERGアイソフォーム特異的抗体、例えば抗ERG8抗体、抗EPC1抗体または抗EPC2抗体を含む診断キットを記載する。1つの実施形態においては、本開示は、配列番号4のアミノ酸217-220を含むエピトープに結合する抗EPC1抗体を提供する。もう1つの実施形態においては、該抗体は、配列番号6のアミノ酸28-97内のまたはそれを含むエピトープに結合する抗EPC2抗体である。いずれの場合も、該エピトープは直鎖状エピトープまたは立体構造エピトープである。いくつかの実施形態においては、抗体の組合せが該キットに含まれうる。例えば、キットは、抗ERG8および抗EPC1抗体、抗ERG8および抗EPC2抗体、抗EPC1および抗EPC2抗体、または抗ERG8、抗EPC1および抗EPC2抗体を含みうる。該抗体は、場合によっては、検出可能な様態で標識されうる。核酸プローブおよびプライマーに関して記載されているのと同様に、該抗体は診断および予後判定用途に使用されうる。
【0091】
前立腺癌を診断および予後判定するのに使用する核酸、ポリペプチドおよび抗体は、一般に、製薬上許容される担体とともに製剤化される。核酸、ポリペプチドまたは抗体がキットの一部である場合には、所望により、微生物の増殖を軽減または抑制する物質、例えばアジ化ナトリウムが、該製剤中で加えられうる。
【0092】
治療用組成物および方法
ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸、それらがコードするポリペプチド、およびそれらのポリペプチドに対する抗体は、適当な医薬担体と混合されうる。得られた医薬組成物は、種々の用途、例えば、既に記載されている診断用途、および治療用途においても使用されうる。該用途が治療である場合には、該組成物は、該核酸、ポリペプチドまたは抗体の治療的有効量、および製薬上許容される担体または賦形剤を含む。そのような担体には、塩類液(食塩水)、緩衝塩類液、デキストロース、水、グリセロール、エタノールおよびそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。該製剤は投与方式に適したものであるべきである。
【0093】
治療用途においては、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸、ポリペプチド、不安定化に使用される化合物、小分子インヒビターおよび抗体組成物は、個々の被験体の臨床状態、送達部位、投与方法、投与計画および実施者に公知の他の要因を考慮して、医学実施基準(good medical practice)に合致した様態で製剤化され投与される。したがって、この場合の目的のためのERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸、ポリペプチド、不安定化に使用される化合物、小分子インヒビターおよび抗体組成物の有効量は、そのような考慮事項により決定される。
【0094】
本開示はまた、記載されている医薬組成物の成分の1以上で満たされた1以上の容器を含む医薬パックまたはキットを提供する。そのような容器には、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関により定められた形態の通知書が付随しうる。該通知書は、ヒトへの投与に関する、製造、使用または販売の該機関による承認を表すものである。また、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸、ポリペプチド、不安定化に使用される化合物、小分子インヒビターおよび抗体組成物は、他の治療用化合物と共に使用されうる。
【0095】
該医薬組成物は、簡便な方法で、例えば、経口、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、鼻腔内または皮内経路により投与されうる。該医薬組成物は、具体的な適応症の治療および/または予防に有効な量で投与される。一般に、それらは、少なくとも約10マイクログラム/kg体重の量で投与され、ほとんどの場合、それらは、1日当たり約8ミリグラム/kg体重を超えない量で投与される。
【0096】
医薬剤形において、開示されている組成物はそれらの製薬上許容される塩の形態で投与されうる。あるいは、それらはまた、単独で、または他の薬学的に活性な化合物と適切に関連づけて及び組合せて使用されうる。本組成物は、潜在的な投与方式に従い製剤化される。該物質の投与は、経口、バッカル、鼻腔内、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、皮下、静脈内、動脈内、心臓内、心室内、頭蓋内、気管内および鞘内投与など、または移植もしくは吸入を含む種々の方法により達成されうる。したがって、本組成物は、固体、半固体、液体または気体形態の製剤、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、水剤(溶液剤)、坐剤、浣腸剤、注射剤、吸入剤およびエアゾール剤に製剤化されうる。本開示に記載されている方法および賦形剤は単なる例示に過ぎず、何ら限定的なものではない。
【0097】
経口投与用の組成物は、水剤(溶液剤)、懸濁剤、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、徐放製剤、口洗剤または散剤を形成しうる。経口製剤の場合、該物質、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、単独で、または適当な添加剤、例えば通常の添加剤、例えばラクトース、マンニトール、コーンスターチまたはジャガイモデンプン;結合剤、例えば結晶性セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチまたはゼラチン;崩壊剤、例えばコーンスターチ、ジャガイモデンプンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウム;滑沢剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウム;および所望により、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤および香味剤と組合せて使用されうる。
【0098】
ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸、ポリペプチド、不安定化に使用される化合物、小分子インヒビターおよび抗体組成物は、それらを水性または非水性溶媒、例えば植物性または他の同様の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステルに、所望により、通常の添加物、例えば可溶化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤および保存剤と共に溶解、懸濁または乳化することにより、注射用製剤に製剤化されうる。当技術分野で通常の、経口または非経口送達用の他の製剤も使用されうる。
【0099】
また、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸、ポリペプチド、不安定化に使用される化合物、小分子インヒビターおよび抗体組成物は、他の経路、例えばウイルス感染、マイクロインジェクションまたは小胞融合により、組織または宿主細胞内に導入されうる。例えば、本明細書に記載されているとおり、細胞内に核酸組成物を導入するために、発現ベクターが使用されうる。さらに、筋肉内投与のために、ジェット注射が用いられうる(Furthら, Anal Biochem 205:365-368 (1992))。該DNAは金微粒子上に被覆され、粒子射入装置、または文献に記載されている「遺伝子銃」(Tangら, Nature 356:152-154 (1992))により皮内送達されることが可能であり、この場合、金微小発射体が該DNAで被覆され、ついで皮膚細胞内に射入される。
【0100】
いくつかの実施形態においては、遺伝子治療により、ERG機能を促進するために、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)タンパク質またはその機能的誘導体をコードする配列を含む核酸を投与する。あるいは、ERGの発現または機能に拮抗させるために、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3配列のsiRNA、shRNAまたはアンチセンスを含む核酸を投与する。当技術分野で利用可能な遺伝子治療の任意の方法が用いられうる。具体的なプロトコールに関しては、Morgan, Gene Therapy Protocols, 2nd ed., Humana Press (2001)を参照されたい。遺伝子治療の方法の総説としては、Goldspielら, Clin Pharmacy 12:488-505 (1993); Wuら, Biotherapy 3:87-95 (1991); Tolstoshev, Ann Rev Pharmacol Toxicol 32:573-596 (1993); Mulligan, Science 260:926-932 (1993); Morganら, Ann Rev Biochem 62:191-217 (1993);およびMay, TIBTECH 11(5):155-215 (1993)を参照されたい。用いられうる、組換えDNA技術の分野で一般に公知の方法は、Ausebelら編, Current Protocols in Molec Biol, John Wiley & Sons, NY (2004); およびKriegler, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY (1990)に記載されている。
【0101】
いくつかの実施形態においては、該治療剤は、ERGアイソフォーム、例えばERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2もしくはERG3、またはこれらのERGアイソフォームの1以上のアンチセンスを含む。該核酸は、該ERGアイソフォームコード領域またはアンチセンス分子に機能的に連結された例えばプロモーターのような調節配列を有するベクターの一部であり、該プロモーターは誘導性または構成的であり、場合によっては組織特異的である。もう1つの実施形態においては、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)コード配列および任意の他の所望の配列が、ゲノム内の所望の部位において相同組換えを促進する領域に隣接しており、それによりERGアイソフォームの染色体内発現をもたらす、核酸分子が使用される(Kollerら, Proc Natl Acad Sci USA 86:8932-8935 (1989); Zijlstraら, Nature 342:435-438 (1989))。
【0102】
いくつかの実施形態においては、遺伝子治療の目的のために導入される核酸は、該核酸の発現が転写の適当な誘導因子により制御されうるよう、所望の核酸に機能的に連結された誘導性プロモーターを含む。
【0103】
患者内への該核酸の送達は、直接的(この場合、該患者は該核酸または核酸担持ベクターに直接的にさらされる)または間接的(この場合、まず、細胞を該核酸でin vitroで形質転換し、ついで該患者内に移植する)でありうる。これらの2つのアプローチは、それぞれ、in vivoまたはex vivo遺伝子治療として公知である。
【0104】
特定の実施形態においては、核酸がin vivoで直接投与され、この場合、それが発現されて、コード化産物を産生する。これは、当技術分野で公知の多数の方法のいずれかにより達成されることが可能であり、例えば、適当な核酸発現ベクターの一部としてそれを構築し、それが細胞内物となるよう、それを投与することにより達成されうる。該投与は、例えば、欠損または弱毒化レトロウイルスまたは他のウイルスベクターを使用する感染により(参照により本明細書に組み入れる米国特許第4,980,286号を参照されたい)、あるいは裸DNAの直接注射により、あるいは微粒子射入(例えば、遺伝子銃; Biolistic, DuPont)または脂質もしくは細胞表面受容体での被覆またはトランスフェクト化剤、リポソーム、微粒子もしくはマイクロカプセル内への封入の利用、あるいは核内に進入することが知られているペプチドに連結してそれを投与することにより、あるいは受容体媒介エンドサイトーシスを受けるリガンドに連結してそれを投与することにより(例えば、Wuら, J Biol Chem 262:4429-4432 (1987)を参照されたい)行われうる。もう1つの実施形態においては、核酸-リガンド複合体が形成されることが可能であり、この場合、該リガンドは、該核酸がリソソーム分解を回避することが可能となるようエンドソームを破壊する融合誘導性ウイルスペプチドを含む。さらにもう1つの実施形態においては、該核酸は、特異的受容体を標的化することにより、細胞特異的取り込み及び発現のためにin vivoで標的化されうる(例えば、PCT公開WO 92/06180; WO 92/22635; WO92/20316; WO93/14188; WO 93/20221を参照されたい)。あるいは、該核酸は細胞内に導入され、相同組換えにより、発現のために宿主細胞DNA内に取り込まれうる(Kollerら, Proc Natl Acad Sci USA 86:8932-8935 (1989); Zijlstraら, Nature 342:435-438 (1989))。
【0105】
いくつかの実施形態においては、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸またはアンチセンス核酸を含有するウイルスベクターが使用される。例えば、レトロウイルスベクターが使用されうる(Millerら, Meth Enzymol 217:581-599 (1993))。これらのレトロウイルスベクターは、ウイルスゲノムのパッケージングおよび宿主細胞DNA内への組込みに必要でないレトロウイルス配列を欠失させるように改変されている。遺伝子治療において使用されるERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物、ERG1、ERG2またはERG3)核酸が該ベクター内にクローニングされ、それは患者内への該遺伝子の送達を促進する。レトロウイルスベクターに関する更なる詳細はBoesenら, Biotherapy 6:291-302 (1994)において見出されうる。該文献は、造血幹細胞を化学療法に対して、より抵抗性にするために、MDRL遺伝子を造血幹細胞に送達するためのレトロウイルスベクターの使用を記載している。遺伝子治療におけるレトロウイルスベクターの使用を例示している他の参考文献として以下のものが挙げられる:Clowesら, J Clin Invest 93:644-651 (1994); Kiemら, Blood 83:1467-1473 (1994); Salmonsら, Hum Gene Ther 4:129-141 (1993); およびGrossmanら, Curr Opin Gen Devel 3:110-114 (1993)。
【0106】
遺伝子治療において使用されうる他のウイルスベクターには、非分裂細胞に感染しうるアデノウイルスが含まれる。Kozarskyら, Curr Opin Gen Devel 3:499-503 (1993)は、アデノウイルスに基づく遺伝子治療の総説を記載している。Boutら, Hum Gene Ther 5:3-10 (1994)は、アカゲザルの呼吸上皮に遺伝子を導入するための、アデノウイルスベクターの使用を示した。遺伝子治療におけるアデノウイルスの使用の他の例は、Rosenfeldら, Science 252:431-434 (1991); Rosenfeldら, Cell 68:143-155 (1992); およびMastrangeliら, J Clin Invest 91:225-234 (1993)において見出されうる。遺伝子治療における使用に関して、アデノ随伴ウイルス(AAV)も提示されている(Walshら, Proc Soc Exp Biol Med 204:289-300 (1993))。
【0107】
遺伝子治療に対するもう1つのアプローチは、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクションまたはウイルス感染のような方法により、組織培養内の細胞内に遺伝子を導入することを含む。通常、該導入方法は該細胞への選択マーカーの導入を含む。ついで該細胞を、取り込まれており導入遺伝子を発現している細胞を単離するための選択下に配置する。ついでそれらの細胞を患者に送達する。この実施形態においては、生じる組換え細胞のin vivo投与の前に、細胞内に核酸を導入する。そのような導入は、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、該核酸配列を含有するウイルスまたはバクテリオファージベクターの感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子導入、マイクロセル媒介遺伝子導入、スフェロプラスト融合などを含む(これらに限定されるものではない)当技術分野で公知の任意の方法により行われうる。細胞内への外来遺伝子の導入のための多数の技術が当技術分野で公知であり(例えば、Loefflerら, Meth Enzymol 217:599-618 (1993); Cohenら, Meth Enzymol 217:618-644 (1993); Cline, Pharmac Ther 29:69-92 (1985)を参照されたい)、受容細胞の、必要な発生的および生理的機能が破壊されない限り、本発明において用いられうる。該技術は、該核酸が該細胞により発現可能となるよう、好ましくは、その細胞後代により遺伝可能かつ発現可能となるよう、該細胞への該核酸の安定な導入をもたらすべきである。生じた組換え細胞は、当技術分野で公知の種々の方法により患者に送達されうる。
【0108】
前立腺癌特異的転写産物は、癌細胞の発生に直接的または間接的に関与すると考えられるタンパク質産物をコードする。したがって、これらの転写産物を不安定化する方法を用いて、コード化タンパク質産物の発現を軽減または阻止し、それにより、該細胞を非癌状態に維持し、または該細胞を非癌表現型に復帰させるために用いられうる。したがって、いくつかの実施形態においては、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター(例えば、配列番号7)から開始される転写産物もしくはそれらの断片(例えば、配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650を含む断片)によりコードされるアイソフォームに対応する核酸を使用して、それらの対応転写産物の産生または翻訳を妨げる。いくつかの場合には、該核酸は該転写産物配列の相補鎖である。これらの場合、該核酸は、例えばERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーターから開始される転写産物によりコードされるアイソフォームのようなERGアイソフォームをコードする核酸の機能をモジュレーションし、それにより該コード化アイソフォームの発現を改変するため、該核酸は治療用である。
【0109】
1以上のERGアイソフォームの機能をモジュレーションする1つの方法は、例えば、該ERGアイソフォームに対するsiRNAまたはshRNAを使用するRNA干渉によるものである。該siRNAは、標的の領域に相補的なヌクレオチド配列を含む約18〜25ヌクレオチドの短い二本鎖RNA分子である。それは、例えば発現プラスミドを使用して、標的細胞または組織内に導入されることが可能であり、ここで、それはERGアイソフォーム、例えばERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7(またはその断片)から開始される転写産物によりコードされるアイソフォームの翻訳を妨げる。RNA干渉技術は、例えば、公開されている米国特許出願20060058255、20040192626、20040181821および20030148519(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている公知方法を用いて行われうる。
【0110】
1以上のERGアイソフォームをコードする核酸分子の機能をモジュレーションして、産生されるERGアイソフォームの量をモジュレーションするために使用される本開示により提供されるもう1つのクラスの核酸として、アンチセンス化合物が挙げられる。これは、ERGアイソフォームをコードする1以上の核酸にハイブリダイズするアンチセンス化合物を、例えば遺伝子治療技術を用いて細胞に供与することにより達成される。該核酸は、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7から開始される転写産物によりコードされるアイソフォーム)をコードするDNA、そのようなDNAから転写されるRNA(プレmRNAおよびmRNAを含む)であることが可能であり、また、そのようなRNAに由来するcDNAでありうる。アンチセンス化合物の、その標的核酸へのハイブリダイゼーションは、該核酸の正常な機能を妨げる。このような干渉は、該DNAの複製または転写、タンパク質翻訳の部位への該RNAのトランスロケーション、該RNAからのタンパク質の翻訳、1以上のmRNA種を与える該RNAのスプライシング、または該RNAが関わりうる若しくは促進しうる触媒活性のレベルで作用しうる。標的核酸機能に対するそのような干渉の全体的な効果は、ERGアイソフォーム、例えばERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7(またはその断片、例えば、配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650を含む断片)から開始される転写産物によりコードされるアイソフォームの発現のモジュレーションである。
【0111】
アンチセンスオリゴヌクレオチドはアンチセンス化合物の一形態である。これらは、しばしば、約8〜約30核酸塩基(すなわち、約8〜約30個の連結ヌクレオシド)を含む。いくつかの場合には、該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約12〜約25、約15〜約22、または約18〜約20核酸塩基を含む。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、修飾されたバックボーンまたは非天然ヌクレオシド間結合をも含みうる。ヌクレオシド間バックボーン内にリン原子を有しない修飾オリゴヌクレオチドもオリゴヌクレオチドとみなされる。修飾オリゴヌクレオチドバックボーンの具体例には、例えば、ホスホロチオアート、キラルホスホロチオアート、ホスホロジチオアート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよび他のアルキルホスホナート、例えば3'-アルキレンホスホナートおよびキラルホスホンジット、ホスフィナート、ホスホルアミダート、例えば3'-アミノホスピリオルアミダートおよびアミノアルキルホスホルアミダート、チオノホスホイアミダート、チオノアルキルホスホナート、チオノアルキルホスホトリエステル、ボラノホスファート(通常の3'-5'結合を有するもの)、これらの2'-5'結合類似体、ならびにヌクレオシド単位の隣接ペアが3'-5'から5'-3'へまたは2'-5'から5'-2'へ結合している逆の方向性、およびモルホリノ結合により形成されたバックボーンを有するものが含まれる。
【0112】
ペプチド核酸(PNA)化合物もアンチセンス化合物である。しかし、PNA化合物においては、オリゴヌクレオチドの糖-バックボーンがアミノエチルグリシンバックボーンで置換されている。核酸塩基は保持され、該バックボーンのアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している。
【0113】
アンチセンス化合物、それらの製造方法および核酸機能を妨げるためのそれらの使用は当技術分野でよく知られている。例えば、米国特許第6,054,316号(これを参照により本明細書に組み入れる)は、Ets-2をコードする核酸に対するアンチセンス化合物の製造、およびこれらのアンチセンス化合物の使用方法を記載している。これらの同じ方法が、ERGアイソフォーム、例えばERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3もしくは前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7(またはその断片、例えば、配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650を含む断片)から開始される転写産物によりコードされるアイソフォームをコードする核酸に対するアンチセンス化合物の製造に適用されうる。
【0114】
ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7から開始される転写産物によりコードされるアイソフォーム)の発現の抑制に関連した治療用途に加えて、アンチセンス化合物は、診断および予後判定方法においても有用でありうる。なぜなら、これらの化合物は、ERGアイソフォームをコードする核酸にハイブリダイズし、当技術分野で認識されている技術(例えば、該アンチセンス化合物への酵素の結合、該アンチセンス化合物の放射標識、または任意の他の適当な検出方法)を用いて検出されうるからである。該アンチセンス化合物と、サンプル中のそれを検出するための手段とを含むキットも、全般的にオリゴヌクレオチドプローブを含むキットに関して記載されているとおりに製造されうる。
【0115】
ERGアイソフォーム発現のアンチセンスモジュレーションは、当技術分野で公知の種々の方法によりアッセイされうる。例えば、mRNAレベルは、例えばノーザンブロット分析、競合ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはリアルタイムPCR(RT-PCR)により定量されうる。RNA分析は全細胞RNAまたはポリ(A)+ mRNA上で行われうる。その代わりにまたはそれに加えて、当技術分野でよく知られた種々の方法、例えば免疫沈降、ウエスタンブロット分析(免疫ブロット法)、ELISAまたは蛍光活性化細胞分取法(FACS)により、コード化タンパク質のレベルが定量されうる。
【0116】
また、例えば配列番号7に記載されているプロモーター配列のような前立腺癌特異的プロモーターの制御下で発現される細胞毒性遺伝子産物または細胞増殖抑制遺伝子産物を前立腺癌細胞に送達することにより、前立腺癌細胞を殺し、またはその増殖(成長)を遅延させることが可能である。配列番号7に記載されているヌクレオチド配列の末端切断体および変異体も、それらが、機能的に連結されたレポーター遺伝子の、前立腺癌細胞内での発現を支持するのに十分である限り、使用可能である。具体例には、配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650、404-650、または138-650を含むプロモーター配列が含まれる。細胞毒性または細胞増殖抑制タンパク質をコードする核酸に機能的に連結された前立腺癌特異的プロモーターを含むベクターを前立腺癌細胞内に導入するために、遺伝子治療が用いられうる。そのような遺伝子治療方法は本明細書に記載されている。しかし、該遺伝子治療ベクターにおいて前立腺癌特異的プロモーターを使用する場合、該遺伝子治療ベクターの細胞範囲に無関係に、該細胞毒性または細胞増殖抑制タンパク質が前立腺癌細胞内でのみ発現されるよう、該プロモーターは前立腺癌細胞内でのみ活性である。
【0117】
前立腺癌特異的プロモーターの制御下に異種遺伝子を配置することにより発現されうる多数の異なる細胞毒性または細胞増殖抑制タンパク質が存在する。そのような遺伝子の具体例には、細菌毒素、例えばジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素およびPE40をコードする遺伝子;腫瘍抑制遺伝子、例えばAPC、CYLD、HIN-1、KRAS2b、p16、p19、p21、p27、p27mt、p53、p57、p73、PTEN、Rb、ウテログロビン(Uteroglobin)、Skp2、BRCA-1、BRCA-2、CHK2、CDKN2A、DCC、DPC4、MADR2/JV18、MEN1、MEN2、MTS1、NF1、NF2、VHL、WRN、WT1、CFTR、C-CAM、CTS-1、zac1、scFV、MMAC1、FCC、MCC、Gene 26 (CACNA2D2)、PL6、Beta* (BLU)、Luca-1 (HYAL1)、Luca-2 (HYAL2)、123F2 (RASSF1)、101F6およびGene 21 (NPRL2);アポトーシス誘導タンパク質、例えばCD95、カスパーゼ-3、Bax、Bag-1、CRADD、TSSC3、bax、hid、Bak、MKP-7、PERP、bad、bcl-2、MST1、bbc3、Sax、BIK、BIDおよびmda7をコードする遺伝子;ならびにプロドラッグを細胞毒性産物に変換する薬物代謝酵素、例えばチミジンキナーゼ(単純ヘルペスまたは水痘・帯状疱疹ウイルス由来)、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、シトクロムp-450 2B1、チミジンホスホリラーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、カルボキシペプチダーゼAおよびG2、リナメラーゼ、β-ラクタマーゼおよびキサンチンオキシダーゼをコードする遺伝子が含まれる。
【0118】
したがって、本開示は、配列番号7を含むプロモーター配列、または機能的に連結されたレポーター遺伝子の前立腺癌細胞内発現を支持するのに十分な配列番号7に記載のヌクレオチド配列の断片(例えば、配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650を含む配列を含む)に機能的に連結された、細胞毒性または細胞増殖抑制遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを、前立腺癌の治療を要する被験体に投与することを含んでなる、前立腺癌の治療方法を提供する。もう1つの実施形態においては、本開示は、配列番号7を含むプロモーター配列、または機能的に連結されたレポーター遺伝子の前立腺癌細胞内発現を支持するのに十分な配列番号7に記載のヌクレオチド配列の断片(例えば、配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650を含む配列を含む)に機能的に連結された、細胞毒性または細胞増殖抑制遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを前立腺癌細胞に投与することを含んでなる、前立腺癌細胞の増殖(成長)を軽減する方法を提供する。いずれの実施形態においても、該細胞毒性または細胞増殖抑制遺伝子産物は、細菌毒素、腫瘍抑制遺伝子産物、アポトーシス誘導タンパク質、およびプロドラッグを細胞毒性産物に変換する薬物代謝酵素から選ばれる。
【0119】
前立腺癌細胞を殺しまたはその増殖を抑制もしくは遅延させるためのもう1つの方法は、該細胞内のタンパク質の活性をモジュレーションすることによるものである。例えば、ERGアイソフォームによりコードされるタンパク質に結合する抗体が、そのタンパク質の機能を抑制または刺激するために使用されうる。いくつかの実施形態においては、該抗体は、2以上のERGアイソフォームによりコードされるタンパク質内に存在するエピトープに結合する。他の実施形態は、特定のERGアイソフォーム、例えばERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7(またはその断片、例えば、配列番号7の少なくともヌクレオチド521-650を含む断片)から開始される転写産物によりコードされるアイソフォームによりコードされるタンパク質に結合する抗体を含む。したがって、1つの実施形態においては、本開示は、配列番号4のアミノ酸残基217-220を含むエピトープに結合する抗体を提供する。もう1つの実施形態においては、該抗体は、配列番号6のアミノ酸28-97内のまたはそれを含むエピトープに結合する。該抗体または抗体の組合せは、本明細書に記載されている遺伝子治療を用いて、細胞内で発現されうる。もう1つの例においては、該抗体は、配列番号6のアミノ酸28-97内のまたはそれを含むエピトープに結合し、それは、配列番号6よりなるタンパク質にも結合する。
【0120】
これらの種々の抗体は、当技術分野で公知の技術を用いて製造されうる。例えば、1以上のERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7から開始される転写産物によりコードされるアイソフォーム)によりコードされるタンパク質を免疫原として使用し、ついで所望の特異性および機能特性を有する1以上の抗体を選択することが可能である。そのような抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体および抗体フラグメントが含まれるが、これらに限定されるものではない。該抗体は、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ラマ、ヒトまたは他の種に由来するものでありうる。
【0121】
分泌タンパク質の1以上のエピトープに対するポリクローナル抗体の製造のためには、当技術分野で公知の種々の方法が用いられうる。ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、ラマなどを該天然タンパク質、該タンパク質の合成物または該タンパク質の誘導体(例えば、断片)で免疫化することが可能である。宿主種に応じて、免疫応答を増強するために、種々のアジュバントが使用されうる。アジュバントの具体例には、フロイント(完全および不完全)、無機ゲル、例えば水酸化アルミニウム、界面活性物質、例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルション、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノールおよび潜在的に有用なヒトアジュバント、例えばBCG(bacille Calmette-Guerin)およびコリネバクテリウム・パルブム(corynebacterium parvum)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
モノクローナル抗体の製造のためには、当技術分野で認識されている多数の技術のいずれかが用いられうる。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術(Kohlerら, Nature 256:495-97 (1975); および以下のものに記載されているとおり: Harlowら編, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, (1988); Colliganら編, Current Protocols in Immunology, Chpt. 2, John Wiley & Sons, Inc. (2006))を用いて製造されうる。抗体はまた、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号)またはファージ提示抗体ライブラリー(例えば、Clacksonら, Nature 352: 624-28 (1991); Marksら, J Mol Biol 222: 581-97 (1991))を用いて製造されうる。所望により、当技術分野で公知の方法(例えば、Morrisonら, Proc Natl Acad Sci USA 81:6851-55 (1994); Neubergerら, Nature 312:604-08 (1984); Takedaら, Nature 314:452-54 (1985))を用いて、キメラ抗体が製造されうる。一本鎖抗体も製造されうる(例えば、米国特許第4,946,778号)。ヒト抗体は、ヒトハイブリドーマを使用して(Coteら, Proc Natl Acad Sci USA 80:2026-30 (1983))、またはEBVウイルスでヒトB細胞をin vitroで形質転換することにより(Coleら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, pp. 77-96 (1985))、または1以上のヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物からハイブリドーマを調製することにより(例えば、米国特許第5,939,598号)製造されうる。モノクローナル抗体は、そのコードDNA配列を使用して容易に発現されることが可能であり、遺伝子治療方法を含むそのような発現のための方法は当技術分野でよく知られている。
【0123】
公知技術を用いて、抗体フラグメントも作製されうる。フラグメントには、抗体分子のペプシン消化により産生されるF(ab')2フラグメント、F(ab')2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することにより作製されうるFab'フラグメント、抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することにより作製されうるFabフラグメント、および一本鎖Fv(scFv)フラグメントを含むFvフラグメントが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
例えばハイブリドーマ技術による抗体の製造の後、所望の抗体のスクリーニングを、当技術分野で公知の技術、例えばELISAにより達成することが可能であり、それは通常の技術(例えば、Harlowら編, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, (1988); Colliganら編, Current Protocols in Immunology, Chpt. 2, John Wiley & Sons, Inc., 2006)を用いて行うに過ぎない。したがって、直鎖状エピトープまたは立体構造エピトープに結合する抗体が選択されうる。また、抗体は、大きなタンパク質のポリペプチドフラグメントおよび無傷(例えば、完全長または野生型)タンパク質の両方への結合の特性に関しても選択されうる。
【0125】
ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7から開始される転写産物によりコードされるアイソフォーム)によりコードされるタンパク質に対する抗体を製造することが必要な場合には、標準的な技術を用いて該タンパク質、その断片または他の誘導体が製造されうる。タンパク質を発現させるために核酸を操作する方法は当技術分野でよく知られており、Molec Cloning, A Laboratory Manual (2nd Ed., Sambrook, FritschおよびManiatis, Cold Spring Harbor) およびCurrent Protocols in Molec Biol (Ausubel, Brent, Kingston, More, Feidman, SmithおよびStuhl編, Greene Publ. Assoc., Wiley-Interscience, N.Y., NY, (1992))に記載されている方法を包含する。
【0126】
一般に、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7から開始される転写産物によりコードされるアイソフォーム)によりコードされるタンパク質を発現させるためには、公知調節配列の制御下でそのタンパク質をコードするDNA配列で適当な細胞系を形質転換する。形質転換された宿主細胞を培養し、該タンパク質を回収し、培地から単離する。単離された発現タンパク質は、それと共に産生される他のタンパク質および他の混入物を実質的に含有しない。適当な細胞または細胞系は、哺乳類細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、サル腎COS-1細胞系または哺乳類CV-1細胞でありうる。適当な哺乳類宿主細胞の選択、ならびに形質転換、培養、増幅、スクリーニング、産物製造および精製のための方法は、当技術分野で公知である(例えば、GethingおよびSambrook, Nature 293:620-625 (1981); Kaufmanら, Mol Cell Biol 5(7):1750-1759 (1985); Howleyら, 米国特許第4,419,446号を参照されたい)。
【0127】
分泌タンパク質の発現のための適当な宿主として、細菌細胞も使用されうる。例えば、大腸菌(E. coli)(例えば、HB101、MC1061)の種々の株がバイオテクノロジーの分野における宿主細胞としてよく知られている。B. subtilis、Pseudomonas、他の桿菌などの種々の株も使用されうる。細菌細胞内でのタンパク質の発現のためには、該プロペプチドをコードするDNAは一般には必要でない。
【0128】
当業者に公知の酵母細胞の多数の株も、分泌タンパク質生物マーカーの発現のための宿主細胞として利用可能でありうる。また、所望により、本発明の方法における宿主細胞として、昆虫細胞が使用されうる。例えば、Millerら, Genetic Engineering 8:277-298, Plenum Press (1986)を参照されたい。
【0129】
いくつかの実施形態においては、ERGアイソフォーム(例えば、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7から開始される転写産物によりコードされるアイソフォーム)によりコードされるタンパク質は、該タンパク質をコードする完全長DNA配列と適当な発現制御配列とを含有するベクターを使用して発現される。そのようなベクターのための発現制御配列は当業者に公知であり、宿主細胞に応じて選択されうる。そのような選択は常套的なものである。他の実施形態においては、該分泌タンパク質生物マーカーは、該生物マーカーのタンパク質配列と、例えば生じる融合タンパク質を安定化するためのまたは該分泌タンパク質生物マーカーの精製を単純化するためのタグとを含む融合タンパク質として発現される。そのようなタグは当技術分野で公知である。代表例には、一連のヒスチジン残基、エピトープタグFLAG、単純ヘルペス糖タンパク質D、ベータ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、ストレプトアビジンタグまたはグルタチオンS-トランスフェラーゼをコードする配列が含まれる。
【0130】
したがって、いくつかの実施形態においては、ERG8、EPC1、EPC2、ERG1、ERG2、ERG3、または前立腺癌特異的プロモーター、例えば配列番号7から開始される転写産物によりコードされるアイソフォームのタンパク質発現は、完全にin vitro法によるものであることが望ましい。もちろん、既に記載されているとおり、他の実施形態においては、該タンパク質発現はin vivoで生じさせることが望ましい。
【0131】
本発明の更なる目的および利点は、ある程度は後記の説明において記載され、ある程度は該説明から理解され、あるいは本発明の実施により認識されうる。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲において特に示されている要素および組合せにより認識され達成されるであろう。さらに、本明細書の本文に記載されている利点は、特許請求の範囲に含まれていない場合であっても、それ自体が、特許請求されている本発明を限定するものではない。
【0132】
前記の全般的な説明および後記の詳細な説明は共に、例示的で解説的なものであるに過ぎず、特許請求されている本発明を限定するものではないと理解されるべきである。さらに、本発明は、記載されている個々の実施形態に限定されるものではなく、したがって勿論、様々に変更されうると理解されなければならない。さらに、個々の実施形態を説明するために用いられている用語は限定的ではないと意図される。なぜなら、本発明の範囲は、その特許請求の範囲のみにより限定されるからである。特許請求の範囲は公共財産における実施形態を含まない。
【0133】
値の範囲に関しては、文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明は、下限の単位の少なくとも10分の1までの、該範囲の上限と下限との間のそれぞれの中間的な値を含む。さらに、本発明は、任意の他の示されている中間的な値を含む。さらに、本発明は、示されている範囲から特に除外されていない限り、該範囲の上限および下限の一方または両方を除外した範囲をも含む。
【0134】
特に示されていない限り、本明細書中で用いられている全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されているものである。また、本発明を実施または試験するために、本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料が用いられうる、と当業者は理解するであろう。さらに、本明細書に挙げられている全ての刊行物の全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0135】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる単数表現は、文脈と明らかに矛盾しない限り、複数指示物を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「本ポリペプチド」に対する言及は複数のそのようなポリペプチドを含み、「物質」に対する言及は、当業者に公知の1以上の物質およびその均等物に対する言及を含む。
【0136】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において用いられている、成分、反応条件、純度(%)、ポリペプチドおよびポリヌクレオチド長などの量を表す全ての数字は、特に示さない限り、「約」なる語により修飾される。したがって、本明細書および特許請求の範囲に記載されている数的パラメーターは、本発明の所望の特性に応じて変動しうる近似値である。少なくとも、そして、特許請求の範囲に対する均等論の適用の限定を意図したものではないが、各数的パラメーターは、少なくとも、通常の丸めの技術を適用して、報告されている有効数字の数を考慮して解釈されるべきである。それにもかかわらず、具体的な実施例に記載されている数値は、可能な限り厳密に報告されている。しかし、いずれの数値も、本来、その実験測定の標準偏差からの或る誤差を含む。
【0137】
本明細書は、本明細書中に引用されている参考文献を参照することにより、十分に理解される。これらの参考文献のそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【実施例】
【0138】
前立腺癌組織および細胞系におけるERGアイソフォームの同定および発現
実施例1:ERG8の同定
ERG1は、悪性前立腺組織において最も一般的に過剰発現される原癌遺伝子である(Petrovicsら, Oncogene 24: 3847-52 (2005))。この過剰発現はTMPRSS2遺伝子と該ERG遺伝子との融合によるものである可能性がある(Tomlinsら, Science 310:644-48 (2005))。選択的スプライシングは複数のERGアイソフォームを生成する(Owczarekら, Gene 324:65-77 (2004))。したがって、前立腺癌においてERGの他のアイソフォームも過剰発現され、あるいは選択的に発現されることが起こり得る。
【0139】
初期実験において、本発明者らは、レーザー顕微解剖(LCM)した前立腺腫瘍細胞から得られたcDNAにおいてERG8アイソフォームを検出することを試みた。TMPRSS2遺伝子のエキソン1のゲノム配列由来(プライマーp2178: 5'-TAGGCGCGAGCTAAGCAGGAG-3'-配列番号8)およびERGコード配列由来(プライマーp2220: 5'-CCAGGATGCCTTCTTTGCCCATC-3'-配列番号9)のプライマーペアを使用して、該cDNAを増幅した。前立腺癌においては、TMPRSS2遺伝子は、しばしば、ERG遺伝子と融合している。p2718プライマーは配列番号1のヌクレオチド1-21に対応し、p2220は配列番号1のヌクレオチド1042-1062の逆相補鎖に対応する。このプライマーペアはPCR産物を与え、配列決定により、それがERG8であることを確認した。
【0140】
ERG8 cDNAは、配列番号30および配列番号46のERG8特異的領域に対するプライマーペアを用いても増幅されうる。例えば、以下のプライマーペア
Mid-E8N-F: 5'-GGCATTTCCCAGAAGGGTAT-3' (配列番号35)
Mid-E8N-R: 5'-CATCAGCTGTGAGGCTGGTA-3' (配列番号36)
は配列番号30のヌクレオチド1744-1848および配列番号46のヌクレオチド992-1096を増幅する。以下のプライマーペア
Down-E8N-F: 5'-AGTGACTTCAGGCTGGCAAT-3' (配列番号37)
Down-E8N-R: 5'-GCTAAGCCTTTCCATCATGC-3' (配列番号38)
は配列番号30のヌクレオチド2087-2176および配列番号46のヌクレオチド1335-1424を増幅する。以下のプライマーペア
PoA-E8N-F: 5'-ACCCAGTGCCTAGAGTCTGC-3' (配列番号39)
PoA-E8N-R: 5'-AAGCTTGAGTCAAACATGAATTTCT-3' (配列番号40)
は配列番号30のヌクレオチド2253-2343および配列番号46のヌクレオチド1501-1591を増幅する。
【0141】
本発明の新規完全長ERG8 cDNAは、前立腺癌患者の前立腺組織から単離された全RNAから得られた。ERGおよびTMPRSS2陽性cDNAクローンは、CPDRヒト前立腺癌ラムダZAPファージcDNAライブラリーから増幅された。該クローンを増幅するために、12μlの2×PfuI酵素/バッファー混合物(Stratagene, La Jolla, CA)を、7μlのHPLCグレード水、2μl(5 pmol)のT3プライマー、2μl(5 pmol)のT7プライマー(両プライマーはLofstrand Labs, Bendigo, Australiaから入手)、および1μlの該ライブラリーから同定されたERG陽性ラムダファージクローンと混合した。反応条件は以下のとおりであった:94℃で1分、50℃で1分、および72℃で4分を35サイクル。該熱サイクルに続き、72℃で7分間インキュベーションし、4℃で保存した。この反応のPCR産物をPerforma Spin Columns-33617 (Edge Biosystems, Gaithersburg, MD)を用いて精製した。
【0142】
BigDye Sequencing法(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いたプライマー伸長によってヌクレオチド配列決定を行った。4μlのBigDye Terminator、2μlの5×Sequencing Buffer、2μl(5 pmol)のT7シークエンシングプライマー、2μlのPCR産物(鋳型)、および10μlの水を加え、全反応体積20μlとした。該混合物を96℃で60秒間インキュベートし、続いて96℃で10秒、50℃で5秒および60℃で4分の25サイクルで反応させた。ついで、該DNAシークエンシング反応混合物をABI 3700 Sequence Analyzerで解析した。得られたDNA配列を、cDNA配列および発現配列タグ(EST)に対する一致を検索してNCBIデータベースと比較した。解析によって、同定されたクローンとNCBI AY204742 ERG8 cDNAとの重複する領域が100%一致することが明らかとなった。
【0143】
その配列を以下の内部プライマーで確認した:
5’-GAGCGCCGCCTGGAGCGCGGCAG-3’ (配列番号31)
5’-TTCAGAAAGACAGATGGGC-3’ (配列番号32)
5’-CACGGATGGTATGATGGTG-3’ (配列番号33)。
【0144】
シークエンシングの結果は、同定された前立腺癌cDNAクローンのDNA配列がAY204742 ERG8配列の3’末端を越えて伸びていることを示した。該cDNA配列の3’末端をカバーし、ラムダZAPポリクローニング配列に達するように、以下のプライマー
5’-AGCAATACAGGGCGTAGGAG-3’ (配列番号34)
を設計した。
【0145】
ERG8全体のヌクレオチド配列を図1に配列番号30として示す。その配列は、AY204742においてヌクレオチド1455位および1459位に同定されたアデノシン残基が、本明細書においては1455位でチミジンおよび1459位でシトシンとして同定されることを除いて、NCBIアクセッション番号AY204742のヌクレオチド150-1460に一致する。配列番号30のERG8配列は、ヌクレオチド2416-2435に20塩基長のポリA尾部を含む(図1)。
【0146】
実施例2:ERG8は前立腺癌組織において選択的に発現される
ついで、本発明者らは、正常前立腺細胞と前立腺癌由来細胞系VCaP(American Type Culture Collection (「ATCC」), Rockville, MD)におけるERG1、ERG2、ERG3およびERG8アイソフォームの発現比の、より徹底した検査を行った。11人の正常前立腺および前立腺癌由来VCaP細胞から、それぞれ、mRNAを単離した。該mRNAをcDNAに変換した後、半定量的マルチプレックスPCR法においてアイソフォーム特異的PCR産物のその強度を比較することにより、ERGアイソフォーム比を評価した。図2は該マルチプレックスPCR分析の結果を示す。該PCRに使用したERGプライマーは以下のとおりであった:p2192 (エキソン9): 5'-ACCGTTGGGATGAACTACGGCA-3' (配列番号10, これは配列番号1のヌクレオチド352-373に対応する); p2220: (ERG8特異的): 5'-CCAGGATGCCTTCTTTGCCCATC-3' (配列番号11, これは配列番号1のヌクレオチド1042-1064の逆相補鎖に対応する); p2207: (エキソン16): 5'-CCCTCCCAAGAGTCTTTGGATCTC-3 (配列番号12); p2197: (エキソン15): 5'-CCTGGATTTGCAAGGCGGCTACT-3' (配列番号13); およびp2198: (エキソン11): 5'-CTCTCCACGGTTAATGCATGCTAG-3' (配列番号14, これは配列番号1のヌクレオチド699-722に対応する)。
【0147】
ERG8が存在する場合には、プライマーペアp2192-p2220は713bpのPCR産物を与える。プライマーp2192およびp2207の組合せは、ERGアイソフォーム1、2および3に相当する約1300bpの産物群を増幅する。p2192(エキソン9)がプライマーp2197(エキソン15)とペアになっている場合には、そのプライマーの組合せはERGアイソフォーム1、2および3のうち1以上を増幅する。また、プライマーペアp2198-p2220はERG8アイソフォームに特異的であり、ERG8が存在する場合には、このプライマーペアは366bpのPCR産物を増幅する。p2198(エキソン11)とp2207(エキソン16)との組合せは、ERGアイソフォーム1、2および3を検出する959bpの産物を与え、一方、p2198-p2197の組合せは279bp(アイソフォーム3)および207bp(アイソフォーム1および2)の産物を与える。
【0148】
図2においては、正常前立腺サンプルが「NP」と表示されており、一方、VCaP細胞を使用したサンプルは「VC」と表示されている。ERG8は、VCaP細胞において検出される優勢なアイソフォームである(図2、右側の写真、上側の矢印)。それは正常前立腺においてもERG1およびERG2より高いレベルで存在するが、正常前立腺におけるそのレベルはERG3のレベルと同等である。
【0149】
本発明者らはまた、14人の前立腺癌患者の、レーザー顕微解剖(LCM)した腫瘍および良性上皮細胞から抽出されたRNA試料におけるERG8転写産物の発現をアッセイした。ERG8アイソフォームを特異的に認識するプライマー(p2198-p2220)を、同じRT-PCR反応チューブ中で内部対照としてのGAPDHプライマーと共に使用した。図3は、該患者のうちの8人に関するデータと共に、PCRゲルの写真を示す。腫瘍細胞サンプルは「T」と表示されており、一方、各患者からの良性上皮細胞サンプルは「N」と表示されている。試験した14人の前立腺癌患者のうちの11人の腫瘍細胞サンプルにおいて、ERG8の発現が検出された。このコホートのいずれの患者の良性細胞においても、ERG8発現は検出されなかった。すなわち、ERG8アイソフォームの検出は、癌表現型を有する細胞の存在を示す。図3において、上皮細胞のみを含む正常サンプルにおいては、ERG8のレベルは検出限界より低い。したがって、図2と図3とのERG8検出の間の相違は、図2の分析に使用したプールされた前立腺組織に含まれるその他の細胞型(例えば、ストローマおよび内皮細胞)の存在により説明されうる。
【0150】
興味深いことに、ERG8転写産物(配列番号1、配列番号30および配列番号46)はTMPRSS2とERG8との融合体である。しかし、そのオープンリーディングフレームは、完全にERG8配列(配列番号1および配列番号30のヌクレオチド75-1168)によりコードされている。したがって、コード化タンパク質(配列番号2)はTMPRSS2からのいかなるアミノ酸配列をも含有しない。
【0151】
癌細胞は、細胞増殖促進遺伝子を活性化し細胞増殖の抑制遺伝子をサイレンシングすることにより、増殖優位性を獲得する。これらの細胞成長または増殖の経路内の特定の遺伝子は、天然転写産物の機能に拮抗作用する選択的転写産物を産生しうる。ERG8の場合、そのコード化タンパク質産物は、例えばERG1およびERG2のDNA結合ドメインを欠くが、それはタンパク質-タンパク質相互作用ドメイン全体を保持する。したがって、前立腺癌の場合のERG8の過剰発現は、ERG1およびERG2のタンパク質相互作用相手の機能的無効化を引き起こして、ドミナントネガティブ効果をもたらす可能性がある。また、ERG8は発癌性「機能獲得」アイソフォームに相当するであろう。
【0152】
前立腺癌細胞においてERG8が選択的に発現されるという知見は、治療のための有力な選択肢をもたらす。なぜなら、この発癌性ERG8産物は、その独特の3'配列を通じた選択的標的化により抑制されうるからである。癌治療のためのこの選択的標的化は、siRNA、shRNA、またはERG8特異的配列を標的化しうる、核酸に基づく他の産物を使用して達成されうる。タンパク質レベルでは、ERG8により産生されるタンパク質の活性を抑制するために、またはそのタンパク質を分解へと導くために、抗体および小分子抑制性ペプチドのような治療用物質が使用されうる。さらに、ERG8は、前立腺試料における正常上皮細胞から腫瘍細胞を分化させうる。したがって、例えば増幅プライマーまたはハイブリダイゼーションに基づく方法を用いるERG8の検出も、前立腺癌を診断および予後判定するために用いられうる。
【0153】
実施例3:EPC1およびEPC2は、前立腺癌組織において選択的に発現される新規に同定された転写産物である
腫瘍特異的ERG転写産物を同定するために、本発明者らは6人の患者からの前立腺腫瘍組織サンプルをプールし、全RNAを抽出した。ついでポリアデニル化RNA(mRNA)を単離し、cDNAに変換し、ラムダZap発現系(Stratagene)内にパッケージングして、バクテリオファージライブラリーを得た。放射標識されたERG2プローブのハイブリダイゼーションにより、ファージプラークをスクリーニングした。ERG2配列は、すべての他のERGアイソフォームにより用いられるエキソンを含む。したがって、それは一般的ERGプローブとして使用されうる。ハイブリダイゼーション溶液1ml当たり1×106 cpmの32P放射標識ヒトERG2 cDNAを使用して、65℃で一晩、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後、メンブレンを、0.1% SDSを添加した2×SSC、ついで、0.1% SDSを添加した0.2×SSCで65℃で順次洗浄した。配列決定のためにDNAを単離する前に、ハイブリダイゼーション陽性クローンを更に2ラウンドのプラークスクリーニングに付して、単プラークを得た。
【0154】
2個のクローンが新規ERGアイソフォーム転写産物を与えた。各クローンはユニーク(特有)な3'配列を有する。これらのERG転写産物は前立腺癌組織において観察されているに過ぎないため、本発明者らは、これらのクローンを、ERG Prostate Cancer-Specific Isoform 1および2(ERG前立腺癌特異的アイソフォーム1および2)にちなんで、「EPC1」および「EPC2」と命名した。
【0155】
EPC1クローンの核酸配列を配列番号3に記載する。この転写産物も、ERGとTMPRSS2のエキソンの間の融合体である。該TMPRSS2由来配列は開始メチオニン(配列番号3の140-142のATG)の上流の5'末端に見出される。EPC1アミノ酸配列(配列番号4)の最後の4個のカルボキシ末端アミノ酸はいずれのERGエキソンにおいても見出されず、それらはERGイントロン配列に由来するものと思われる。EPC1のユニークな3'末端は配列番号3のヌクレオチド788-1019に対応し、それは、試料および生体液中の癌細胞または前癌細胞の検出のための、核酸検出方法(例えば、増幅およびハイブリダイゼーションに基づく)およびタンパク質検出方法(例えば、抗体に基づく)の両方において使用されうる。
【0156】
EPC2クローンの核酸配列を配列番号5に記載する。EPC2のアミノ酸配列を配列番号6に記載する。ユニークな3'配列は配列番号5のヌクレオチド127-807に対応する。5'末端はERGエキソン10内の配列に対応し、該配列は、スプライシング無しで、隣接する3'エキソンへと続くようであり、ユニークな転写産物配列を与える。
【0157】
つぎに、RT-PCRを用いて、14人の前立腺癌患者のレーザー顕微解剖(LCM)した腫瘍および良性上皮細胞から抽出されたRNA試料におけるEPC1転写産物の発現を調べた。EPC1アイソフォームを特異的に認識するプライマー(p2301-p2302)を選択し、同じ反応チューブ中で内部対照としてのGAPDHプライマー(p2135-p2144)と共にそれらを使用した。EPC1プライマー配列は以下のとおりであった:p2302: 5'-CAGAAAGCAGCCTTCCCTTA-3' (配列番号15, これは、配列番号3のヌクレオチド820-839に対応する); およびp2301: 5'-TTGATAATAGAGCATCAGACTTCCA-3 (配列番号16, これは配列番号3のヌクレオチド953-977の逆相補鎖に対応する)。
【0158】
図4は、それらの14人の患者のうちの5人のデータと共に、PCRゲルの写真を示す。腫瘍細胞サンプルは「T」と表示されており、一方、各患者の良性上皮細胞サンプルは「N」と表示されている。対照遺伝子GAPDHと共に、EPC1発現を測定した。試験した14人の前立腺癌患者のうちの11人の腫瘍細胞においてEPC1発現が検出された。7人の患者においては、彼らの前立腺腫瘍細胞においてのみEPC1発現が検出可能であったが、4人の患者においては、彼らの腫瘍細胞および良性上皮細胞の両方においてEPC1発現が検出可能であった。腫瘍細胞および良性上皮細胞の両方においてEPC1が検出された場合、EPC1発現は、良性上皮細胞と比較して腫瘍細胞において高かった。
【0159】
EPC1およびEPC2は、癌性前立腺において特有に発現されるERGアイソフォームである。転写産物レベルでは、各転写産物の3'末端がユニーク(特有)であり、すべての公知ERGアイソフォームと異なる。EPC1および/またはEPC2 mRNAを(例えば、siRNAまたはshRNAを使用して)分解すること、あるいはそれぞれの特有のC末端領域に対して産生された抗体を使用してEPC1および/またはEPC2タンパク質を抑制することは、治療上有益でありうる。
【0160】
実施例4:ERG8およびEPC1アイソフォームは豊富に発現される
ERG8およびEPC1アイソフォームの相対存在量をERG1のそれと比較するために、前立腺癌由来VCaP細胞から、および前立腺癌患者由来の顕微解剖した腫瘍細胞からサンプルを調製した。ついで、EPC1、ERG8に対し、およびERG1とERG2との間で共通の配列に対し特異的なプライマーペアを使用して、そのコピー数を決定するために定量的PCRを用いた。種々のプライマーの位置およびERGアイソフォームのドメイン構造を図5Aに示す。この概要図においては、「TM」はTMPRSS2を示し、8〜16の番号が付けられた枠はエキソンに対応し、その番号はOwczarekら, Gene 324:65-77 (2004)に従ったものである。ERG8特異的プライマーおよびプローブは以下のとおりであった:
ERG8フォワードプライマー: TTCAGAAAGACAGATGGGCAAA (配列番号17);
ERG8リバースプライマー: GTTCAAAAGTCGGCCTATTCCTAA (配列番号18);
ERG8プローブ: AAGGCATCCTGGATGCCTGGCA (配列番号19);
EPC1フォワードプライマー: GCACTTCTGCCAAGCATATGAGT (配列番号20);
EPC1リバースプライマー: CGCTGATCATTTCAACACCCT (配列番号21);
EPC1プローブ: TGCCTTGAAGATCAAAGTCAAAGAGAAATGGA (配列番号22);
ERG1/2 Ex 11-13フォワードプライマー: TTCAGATGATGTTGATAAAGCCTTACA (配列番号23);
ERG1/2 Ex11-13リバースプライマー: TCCAGGCTGATCTCCTGGG (配列番号24);
ERG1/2 Ex 11-13プローブ: ATGCATGCTAGAAACACAGATTTACCAT (配列番号25)。
【0161】
図5Aに示す特異的プライマーおよびプローブを使用するTaqMan QRT-PCRにより、VCaP細胞において、種々のERGアイソフォームのコピー数を決定した。その結果を図5Bに示す。標的遺伝子(種々のERGアイソフォーム)インサートを含むプラスミド構築物を使用して、希釈系列におけるプラスミドのコピー数が判明している標準希釈系列を作製した。Ct値を標的遺伝子コピー数と相関させるために、標準曲線から式を導き出した。この式および標準曲線を用いて、サンプル中の標的遺伝子のコピー数を計算した。図5Bに示すとおり、VCaP細胞において、ERG8およびEPC1の両方のコピー数はERG1とERG2との組合せのコピー数より2倍以上多い。また、10人の前立腺癌患者のうちの9人の顕微解剖腫瘍細胞は、ERG1とERG2との組合せより高いERG8コピー数を示した(図5C)。これらのデータは、ERG8およびEPC1アイソフォームが豊富に発現され、したがって、診断および予後判定用途における標的となりうることを示している。
【0162】
実施例5:ERG8およびEPC1の組合せ検出は、検査された全てのTMPRSS2-ERG融合体を含み、前立腺癌に関する頑強な検出系をもたらす
前立腺癌においてERG8が過剰発現され、前立腺癌組織においてEPC1が選択的に発現されるという本発明者らの知見は、これらの2つの遺伝子がユニーク(特有)な3'末端を有することから、特に診断および予後判定の頑強なアッセイを開発するために用いられうる。mRNA転写産物の3'末端は、分解に対して、その5'末端と比べて比較的、抵抗性であり、このことは、仮にそれが該配列の5'末端付近に位置していれば検出困難となりうる、臨床サンプルにおける3'末端付近の配列を検出することを可能にする。したがって、ERG8、EPC1およびEPC2の過剰発現または選択的発現の1つのメカニズムはTMPRSS2の5'への融合を伴いうるが、ERG8、EPC1およびEPC2配列の3'部分は、臨床サンプルにおいて、5' TMPRSS2配列よりも安定で、より容易に検出可能なはずである。その結果、ERG8、EPC1およびEPC2転写産物の3'末端の検出は、TMPRSS2-ERG融合転写産物中の5' TMPRSS2配列のような5'配列の検出と比べて偽陰性を減少させることができる。また、入手はより容易かつより安上がりであるがmRNA分解をより受けやすい尿、血清、血漿、唾液および前立腺液のような生体液が、ERG8、EPC1およびEPC2の3'配列を検出するために使用されうる。
【0163】
したがって、本発明者らは、任意のタイプのERG融合事象による異常発現を検出する簡便なPCRアッセイを開発した。本発明者らは、3つのペアのPCRプライマーを使用するアッセイを試験した。すなわち、本発明者らは、EPC1を検出するためにp2302(配列番号15)およびp2301(配列番号16)を使用し、ERG8を検出するためにp2220(配列番号11)およびp2198(配列番号14)を使用し、そしてERG1/2の3' UTRを検出するために、Petrovicsら, Oncogene 24:3847-3852 (2005)に記載されているp2236およびp2237を使用した。これらのプライマーの組合せは、例えばTMPRSS2の任意の5'融合後に保持されており分解に対して比較的抵抗性である3'末端中の配列を、検出する。
【0164】
本発明者らは、これらの3つのプライマーペアを使用し、LCMで選択された前立腺癌細胞におけるERGアイソフォームの存在または非存在を試験した。TMPRSS2-ERG融合転写産物を検出可能であるかどうかに基づいて、該サンプルを2つの群に分類した。表1はその結果を示す。
【表1】

【0165】
表1において、左列における「FP」番号は、コード化された試料番号である。示されている最初の21個のサンプルは、本発明者らが「A型」TMPRSS2-ERG融合転写産物を検出できたものである。ERG融合体Aは、最も頻繁な融合体であり(全融合転写産物の95%)、ERGエキソン8とのTMPRSS2の第1エキソンの融合を含む。「ERG融合体A」と表示された1番目の列中の数値は、定量的RT-PCR分析における、GAPDHに対して正規化された閾値サイクル数を示す。22個のサンプルにおいてはERG融合体Aを検出することはできなかったが、2個のサンプル(FP488およびFP575)において、ERG融合体Cを検出した。融合体「C」は、TMPRSS2エキソン1とERGエキソン9との間の稀な融合体である。EPC1、ERG8およびERG1の列において、「T」は腫瘍細胞における検出を示し、「N」は正常上皮細胞における検出を示し、「無し」は、シグナルが検出されなかったことを示す。「組合せシグナル」の列には、ERG産物の累積的検出をまとめている(「有り」= アイソフォームEPC1、ERG8またはERG1のいずれかの発現)。
【0166】
この組合せシグナルアプローチを用いることにより、本発明者らは、ERG融合体を含有する全サンプルにおいて増幅産物を検出することができた。さらに、EPC1は検出されたがERG8は検出されなかったサンプル(例えば、FP480)において、尚も組合せシグナルを得た。該アッセイの妥当性を実証するために幾つかのサンプルにおいてERG1発現を調べたが、結果は、該分析にERG1を含める必要がないことを示している。代わりに、EPC1およびERG8からの組合せシグナルが、全ての融合事象を検出するために必要とされた全てであった。したがって、該組合せシグナルアプローチは、特定のERG転写産物のみを調べることにより、生じうる偽陰性を最小にするのに役立つ。また、本発明者らは、より5'側のTMPRSS2-ERG融合事象に対するプライマーと共に使用するのが不適切な、生体液のような臨床サンプルにおいて、該組合せアプローチが容易に用いられうると予想する。
【0167】
実施例6:新規ERGプロモーターは前立腺癌において活性化される
前立腺癌におけるERG遺伝子座において生じる追加的な変化が存在するかどうかを判定するために、本発明者らは、5'オリゴキャッピング法を用いて、ERG遺伝子座内の転写開始部位を体系的に評価した。この情報を用いて、癌特異的ERG選択的転写開始部位を位置決定した。確認されたERG遺伝子再編成を伴う6人の患者の前立腺癌組織から全RNAを単離し、該RNAをプールし、ついでそれをデホスファターゼで処理して非キャップ化RNA分子を分解し、それにより、5'キャップ保護mRNA分子を富化した。RNAオリゴヌクレオチドアダプターを連結して該5'キャッピング構造を置換し、逆転写によりcDNAを得た。ついで該オリゴキャップアダプターおよび内部プライマー(ERGエキソン10からのもの)を使用して、5' ERG配列を増幅した。第1増幅においては、ERGプライマーp2181: 5'-GGCGTTGTAGCTGGGGGTGAG-3' (配列番号26)を使用した。第2増幅においては、ERGプライマーp2268: 5'-CAATGAATTCGTCTGTACTCCATAGCGTAGGA-3' (配列番号27)を使用した。得られたPCR産物をpUC19ベクター内にクローニングし、ついで配列決定した。腫瘍組織におけるERG配列からの転写開始部位を示すDNA配列をERG遺伝子座に合致させ、該遺伝子座内の個々の転写開始部位の頻度を表すスコアを得ることにより分析した。ERG遺伝子転写産物の5'キャッピング頻度地図(CapMap)を図6に示す。配列決定した152個のクローンのうち、137個の5'キャッピングクローンが、23bpのERGエキソン9領域内に新規の前立腺癌特異的転写開始部位を有していた。
【0168】
別のオリゴキャッピング実験において、前立腺癌陰性の診断を受けた11人の個体から集めた正常前立腺からのRNA(AMBION)において5'キャップ部位を評価した。この実験では、産物が均一であったため、30クローン後に本発明者らの分析を終了した。結果は、正常前立腺における転写開始が一様にERGエキソン5において生じることを示した。これは、本発明者らが腫瘍試料において観察した、複数のエキソン9開始部位とは著しく対照的である。ERGエキソン5における転写開始は、ERGアイソフォーム3が正常前立腺において発現されることを示している。また、本発明者らの結果は、ERGアイソフォーム1、2、5、6、7、8および9が正常前立腺においては発現されないか、またはそれらが低レベルで存在することを示唆している。
【0169】
前立腺癌サンプルにおいて検出された転写開始部位は、ERGエキソン9の中央セグメントが癌特異的プロモーター部位であることを示した。該プロモーター領域は、該位置決定実験において検出された最も3'側の転写開始部位を基準として、-520bp〜+130bpの領域として定められる。該プロモーター配列を以下に示す。
【0170】

【0171】
(配列番号7)。該配列において、頻繁に用いられる最も3'側の転写開始部位が太字および枠内に示されている。
【0172】
推定TATA非含有プロモーターは、該転写開始部位から-20、-40bpに位置すると推定される。興味深いことに、+130領域にMED(Multiple Elements of Initiation Downstream)も存在し、これは、本発明者らが観察した複数の開始部位を説明しうるものである。本発明者らは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子に機能的に連結することにより、このプロモーターが機能的であることを確認している。図7は、前立腺癌特異的プロモーターが、TMPRSS2-ERG融合体を含有する前立腺癌由来VCaP細胞(淡灰色の棒グラフ)においてはルシフェラーゼタンパク質の発現を誘導できるが、LNCaP細胞(濃灰色の棒グラフ)においては誘導できないことを示している。該ルシフェラーゼアッセイにおいては、-117〜+130のプロモーター断片(配列番号7のヌクレオチド404-650)が最大発現レベルを与え、続いて+1〜+130断片(配列番号7のヌクレオチド521-650)、次いで-383〜+130断片(配列番号7のヌクレオチド138-650)の順であった。
【0173】
ERG遺伝子座内の休眠プロモーターの癌特異的活性化は、N末端欠失突然変異体をコードする転写産物を与える。該コード化タンパク質産物は野生型ERGのタンパク質-タンパク質相互作用ドメインを欠く。したがって、この休眠プロモーターの発現産物はドミナントネガティブまたは機能獲得(gain-of-function)分子として作用しうる。したがって、このプロモーターの活性を操作する、核酸またはタンパク質に基づく産物は、前立腺癌治療に使用されうる。また、このプロモーターの前立腺特異的発現は、毒素または他の細胞増殖インヒビターをコードする遺伝子に該プロモーターが機能的に連結されている発現ベクターが、前立腺癌細胞においてコード化タンパク質を選択的に発現させるために使用されうることを意味する。
【0174】
実施例7:ERGとアンドロゲン受容体との間に調節ループが存在する
アンドロゲン受容体により調節されるTMPRSS2遺伝子プロモーターとERGとの融合を伴う遺伝子再編成が前立腺癌においては高頻度(約60%)で生じ、該遺伝子再編成が前立腺細胞トランスフォーメーションの直接原因である可能性が高いが、ゲノム変化が前立腺癌を招くメカニズムは現在不明である。このゲノム変化が、前立腺癌におけるERG1の過剰発現を引き起こす、または少なくともそれに関与するものと思われる。また、アンドロゲン受容体機能は正常前立腺の発達および分化の中核をなすことが公知である。さらに、アンドロゲン受容体機能不全は前立腺癌細胞の増殖および生存を助け、前立腺癌の進行に役割を果たしていると思われる。しかし、これらの変化がどのように相互作用して前立腺癌を引き起こすのかは不明である。
【0175】
ERGタンパク質が、アンドロゲン受容体シグナリングを妨げることにより前立腺癌に関与するのかどうかを調べるために、本発明者らは、TMPRSS2-ERG融合転写産物の発現をERG1、アンドロゲン受容体(AR)、PSAおよびアンドロゲン調節型遺伝子PMEPA1と相関させた。陰性対照として、LTFも分析した。この分析の結果を図8に示す。この図においては、TMPRSS2-ERG融合体に関する定量的RT-PCRデータが、ERG(「ERG1」)の3'非翻訳領域を増幅することにより得た定量的RT-PCRデータと比較されている。
【0176】
次に、本発明者らは、アンドロゲン受容体の転写標的に対するERG発現の効果を調べた。本発明者らは、2つの異なるERG siRNAをVCaP前立腺癌細胞系に導入した。該siRNAの配列は、エキソン11を標的とするsiRNA-1 (p2094): TGATGTTGATAAAGCCTTA (配列番号28)、およびエキソン10を標的とするsiRNA-2 (p2095): CGACATCCTTCTCTCACAT (配列番号29)である。VCaP細胞はTMPRSS2-ERG融合体を含有し、ERGを過剰発現する。これらの実験の結果を図9Aに示す。いずれのsiRNAの導入もNKX3.1およびPSA/KLK3のアップレギュレーションを招いた(図9A、上のパネル)。VCaP培養上清においても、PSA/KLK3のアップレギュレーションがPSAレベルの上昇として検出可能であった(図9A、下のパネル)。
【0177】
ERGノックダウンはin vitroおよびin vivoにおいて前立腺腫瘍細胞増殖も抑制した。図9Bは、50 nM ERG siRNAでトランスフェクトしたVCaP細胞の形態を、対照(「NT」)と比較して示す。実験を三回行い、トランスフェクションの1、4、6および8日後に細胞形態をモニターした(図9B、左上のパネル)。
【0178】
ERG siRNAはVCaP細胞増殖を抑制し、対照RNAで処理した細胞に比べ、培養物中にある細胞数を減少させた(図9B、右上のパネル)。トランスフェクションの1、2、4、6、8および10日後に、ERG siRNAでトランスフェクトした細胞を3回数え、対照細胞より遅い速度で増殖することが観察された(p=0.001)。
【0179】
細胞周期の蛍光活性化細胞分取(「FACS」)解析により、対照RNAと比較して、S期にある細胞の数に対するERG siRNAの抑制効果が示された。S期にある細胞の集団ならびにG1、SおよびG2+M期にある細胞の分布を、示された時点において細胞を解析することによって、3回の独立した実験から評価した。全Rbに対するホスホ-Rbの比率を4日目にウエスタンブロットアッセイによって測定した。ERG siRNAはG1、SおよびG2+M期にある細胞の数の再分布を誘導し、S期にある細胞数を有意に増加させた。
【0180】
ERG siRNAを用いたERG発現の抑制は、重症複合型免疫不全(「SCID」)マウスに注入されたVCaP細胞の増殖を劇的に低下させた。無菌フィルターでキャップしたケージで飼育され、自由に餌と水を与えられた、4〜6週齢かつ体重18〜20 gのオスのSCIDマウス(Harlan Sprague-Dawley, National Cancer Institute, Frederick, MD)にVCaP細胞を皮下注入した。全ての動物実験は、NIH承認のプロトコールに従いGuide for the Care and Use of Laboratory Animals(実験動物の管理と使用に関する指針)に従って実施した。
【0181】
注入されたVCaP細胞はERG siRNAまたはNT対照RNAで処理され、トリプシン処理され、洗浄され、0.2 ml体積中の細胞300万個がSCIDマウスの脇腹に注入された。腫瘍形成を7週まで隔週(bi-weekly)で評価した。Polverinoら, Cancer Res 66:8715-21に記載されているようにして、腫瘍体積(LW2/2)を測定することによって腫瘍増殖解析を行った。ここでLおよびWは腫瘍の長さおよび幅を表す。
【0182】
図9B、右下のパネルは、35日目(p= 0.0072)および42日目(p= 0.0072)における腫瘍増殖を示す。42日目における標準偏差(SD)および平均腫瘍体積(AVG)を表に示す。ERG siRNAで処理した全ての動物は、対照動物に比べ腫瘍量の減少を示し、腫瘍量が全く無いものもあった(図9B、右下のパネル)。
【0183】
ERGノックダウンは完全培地中におけるVCaP細胞増殖を抑制した。10% cFBS含有培地中で10 cm組織培養皿に播種したVCaP細胞を3日間培養し、その後ERG siRNAまたは対照RNAで処理した。図19に示すように、3回の実験から得られた細胞を1、4、6および8日目に顕微鏡で調べた。
【0184】
これらのデータは、TMPRSS2-ERGまたはERGのin vivo発現と、例えばPSA/KLK3およびNKX3.1のような他のアンドロゲン調節型遺伝子の発現との間の関連性を示す。ERG発現のダウンレギュレーションはNKX3.1およびPSA/KLK3の発現の上昇と相関するため、これは、これらのアンドロゲン調節型遺伝子が異所性ERG発現によりダウンレギュレーションされることを示している。NKX3.1は腫瘍抑制遺伝子であり、アンドロゲン受容体の転写標的でもある。したがって、前立腺癌細胞におけるERGの過剰発現によるNKX3.1の抑制は、アンドロゲン受容体媒介細胞分化および細胞増殖の負の調節を妨げる。このモデルの概要図を図10に示す。
【0185】
分解のためにERG遺伝子座の転写産物の標的化において抑制性分子を使用する適用の一例として、本発明者らは、VCaP前立腺癌細胞におけるERG発現を抑制するために、siRNA-1を使用した。記載されているとおり、siRNA-1は、ERG1、ERG2、ERG3、ERG8、EPC1およびEPC2転写産物において並びに選択的内部プロモーターの推定産物において見出されるエキソン11を標的とする。VCaP細胞はアンドロゲンホルモン処理に応答し、したがって、細胞増殖に対するERG抑制の効果は、該細胞をアンドロゲンホルモンで刺激することにより試験されうる。
【0186】
siRNA抑制を行うために、まず、細胞を、100mm細胞培養皿内で、30%コンフルエントとなるようにプレーティングした。該細胞をホルモン枯渇血清(cFBS)含有培地内で3日間インキュベートすることにより、増殖を同調させた。ついで、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して、該細胞をsiRNA-1および標的無し(NT)対照siRNAでトランスフェクトした。トランスフェクション後、0.1nMのR1881合成アンドロゲン(New England Nuclear, Boston, MA)を該培地に加えた。培地を3日ごとに交換しながら、該細胞を9日間インキュベートした。ついで細胞培養物を写真撮影し、100倍の倍率の代表的視野を取り込んだ。
【0187】
VCaP細胞の顕微鏡画像を図11に示す。対照NT siRNAで処理された細胞を図11Aに示し、一方、図11Bは、siRNA-1で処理された細胞を示す。siRNA-1で処理されたVCaP細胞は、細胞数における確固たる減少を示した。また、細胞形態における顕著な変化も明らかであった。したがって、本発明者らは、siRNA-1処理がVCaP細胞のアンドロゲン刺激増殖を抑制することを示すことができた。
【0188】
総合すると、これらのデータは、ERGとアンドロゲン受容体との間に調節ループが存在すること、およびERGによるアンドロゲン受容体の負の調節が前立腺腫瘍形成に関与しうることを示唆している。したがって、TMPRSS2-ERG融合体またはERG過剰発現を有する早期前立腺癌(例えば、十分ないし中等度に分化した腫瘍)において適用されうる幾つかの治療的介入が存在する。例えば、ポスト(post)PSAスクリーニング時代において同定される前立腺癌の最も一般的な段階である早期前立腺癌におけるERG発現を減少させるために、ERG-siRNA、shRNAまたは他の小分子が使用されうる。その代わりにまたはそれに加えて、アンドロゲン受容体が、有益な効果を伴って、選択的に抑制されうる。
【0189】
ここでもまた、文脈によりまたは1以上の当該アイソフォームの明示的な除外により特に示されていない限り、治療的介入の文脈における「ERG」に対するいずれの言及も、ERG8、EPC1、ECP2、および本明細書に記載されている前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物だけでなく、ERG1、ERG2およびERG3ならびにそれらの組合せをも含むことに留意すべきである。したがって、本発明者らは、ERG1、ERG2、ERG3、ERG8、EPC1およびEPC2転写産物により共有されるエキソン11に特異的なsiRNAでのアンドロゲン刺激増殖の抑制を例示しているが、それらのアイソフォームの1つのみまたは2以上の任意の組合せに標的化されるsiRNA、shRNAまたは他の小分子インヒビターも使用されうる。ERG1、ERG2、ERG3、ERG8、EPC1、EPC2、もしくは前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物の1つのみに特異的であるかまたはそれらのアイソフォームの組合せを抑制するそのようなsiRNA、shRNAまたは他のインヒビターは、実施例において提供されている配列データを使用して設計することが可能であり、記載されている種々のプライマーおよびプローブ配列を含みうる。
【0190】
例えば、ERG8遺伝子発現は、ERG8特異的ヌクレオチド配列を阻害性核酸で標的化することによって阻害されうる。標的化に適したセンス鎖特異的部位の例を以下に示す。
【0191】
5’-GGAACCACTTCTAGCAATA-3’ (配列番号41)
5’-CGAATAATGAGCAGGGAGA-3’ (配列番号42)
5’-CCAGGGAGCTAAAGAGAAT-3’ (配列番号43)
5’-CTGGGAAGCATGATGGAAA-3’ (配列番号44)
5’-GACTCAAGCTTTAGAGATT-3’ (配列番号45)
配列番号41は配列番号30のヌクレオチド1595-1613に対応し、配列番号42は配列番号30のヌクレオチド1722-1740に対応し、配列番号43は配列番号30のヌクレオチド2013-2031に対応し、配列番号44は配列番号30のヌクレオチド2150-2168に対応し、配列番号45は配列番号30のヌクレオチド2334-2352に対応する。
【0192】
ERGを発現しないか、またはERGを低レベルで発現するに過ぎない進行性腫瘍は、無傷アンドロゲン受容体シグナリングネットワークからの逸脱を反映している。これらの腫瘍は、ERGとアンドロゲン受容体との間のフィードバック調節の保護成分を回復させるよう、アンドロゲン調節型遺伝子(例えば、腫瘍サプレッサーまたは細胞分化および増殖インヒビター、例えば、NKX3.1およびPMEPA1)の選択的アップレギュレーションにより治療されうる。
【0193】
実施例8:アンドロゲン受容体機能指標
アンドロゲン受容体(「AR」)により調節される遺伝子のリードアウト(読み出し)は、究極的には、原発性前立腺癌組織におけるin vivo AR機能(ARF)の状態を反映し、その結果、予後判定および合理的治療決定に関する重要な情報を伝える。前立腺癌サンプルにおけるAR機能の状態の評価はアンドロゲン非依存性の早期警告徴候を与えうる(van Gilsら, Eur Urol 48(6):1031-41 (2005))。前立腺癌生物マーカー遺伝子を特定し実証するためのハイスループットスクリーニングにおいて、CPDR Biospecimen Bankから得た十分に特徴づけられアノテーションされ保管されているヒト組織(長期追跡データを伴う)を使用した。
【0194】
近年、本発明者らは、顕微解剖した対応する腫瘍細胞および良性前立腺上皮細胞からの細胞型特異的遺伝子発現を分析してきた。本発明者らは、前立腺癌の進行と共にアンドロゲン調節型遺伝子発現が全般的に低下することを見出した(Petrovicsら, Oncogene 24:3847-52 (2005))。また、他の研究者は最近、後期段階、特に、ヒト試料の転移性前立腺癌(Tomlinsら, Nat Genet 39(1):41-51 (2007))および異種移植片モデル系(Hendriksenら, Cancer Res 66(10):5012-20 (2006))におけるAR機能の低下の徴候を認めた。12遺伝子パネルの一部として、侵襲性前立腺癌においてはPSAが過少発現されることが判明した(Bismarら, Neoplasia 8(1):59-68 (2006))。しかし、いくつかの研究室は、後期段階の転移性前立腺癌における、高いAR発現、増幅または活性を報告していることに注目すべきである(Heinleinら, Endocrine Rev 25:276-308 (2004); Chenら, Nat Med 10:26-7 (2004); Dehmら, J Cell Biochem 99:333-344 (2006); Linjaら, Cancer Res 61:3550-55 (2001); Liら, Am J Surg Pathol 28:928-34 (2004))。これらの異なる知見は、後期段階の、特に、アンドロゲン非依存性転移性前立腺癌の、異質性を強調するものである(Shahら, Cancer Res. 64(24):9209-16 (2004))。
【0195】
前立腺癌細胞におけるAR機能状態のin vivoリードアウトを開発するために、本発明者らは、実施例8に示すとおり、200個を超える試料の注意深く単離された良性および腫瘍細胞における、種々のAR調節型遺伝子の並行定量的測定を追求してきている。2000を超えるデータ点を表す、mRNAレベルでのアンドロゲン調節型遺伝子(例えば、PSA/KLK3、PMEPA1、PCA3)およびアンドロゲン非依存性遺伝子(AMACR、LTF)の定量的発現分析は、PSA/KLK3および他のアンドロゲン調節型遺伝子がARのin vivo機能状態を反映すること、ならびにそれらの発現レベルが、例えばグリーソンの腫瘍分類、病理学的病期および/または生化学的再発により定められる前立腺癌の侵襲性との正または負の相関を測定するために用いられうることを示唆している。最初に、本発明者らは、PSA/KLK3 mRNAに焦点を絞ることを選択した。なぜなら、それは、ARの最も確固たる直接的な転写標的の1つであり、前立腺癌細胞において容易に検出可能だからである(Kimら, J Cell Biochem 93(2):233-41 (2004))。
【0196】
本発明者らの最も最近のデータは、原発性前立腺癌における一連のAR調節型遺伝子の定量的遺伝子発現パターンが予後を示すフィンガープリント(fingerprint)を与えることを示している。ハイスループットアッセイおよび論理的候補遺伝子戦略を用いて、本発明者らは6個のアンドロゲン誘導性/同時調節型遺伝子(PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERG)の組合せを定めた。これらの6個の遺伝子またはそれらのアイソフォームのうちの2以上の様々な組合せが、前立腺癌試料におけるin vivo AR機能の定量的尺度、すなわち、アンドロゲン受容体機能指標、すなわち、ARF指標(ARFI)を得るために用いられうる。これらの遺伝子の発現レベルを測定するためにはリアルタイム定量的PCR(QRT-PCR)を用いたが、当技術分野で公知の他の技術、例えば免疫組織化学法を用いてRNAまたはタンパク質レベルを検出することもできる。
【0197】
ARFIリードアウトは、全体的なin vivo AR活性を表す単一の数値指標に変換することが可能であり、それは次に、例えば、根治的前立腺切除術後の前立腺癌再発の10年確率を予測する上でのPSA、グリーソン和、被膜外浸潤(extra-capsular extension)、切除縁、精嚢浸潤、リンパ節転移、治療年数および補助放射線療法の重要性を実証したKattanらにより作成されたもののようなノモグラムに組み込まれうる。該ノモグラムは、このエンドポイントを予測する確立された臨床および病理学的特徴と組み合わせた、前立腺癌の進行の予測を含む時間対事象データをモデル化するために使用されうる。ARFIを含める際のモデルフィットにおける改善を評価するために、一致指数Cが用いられうる(Harrellら, JAMA 247(18):2543-6 (1982))。手術後のPSA再発のような結果を予測し、侵襲的手法に先立つ治療決定を補助するために、測定可能な患者因子を使用する試みにおいて、現行のノモグラム計算図表はそのような測定可能な患者因子を組み込んでいる。
【0198】
ARFI遺伝子群はARの直接的な標的であるか、またはARにより厳重に調節されており、そして前立腺癌においてARにより調節される主要な生物学的機能を担う。その遺伝子セットは5個のアンドロゲン調節型遺伝子およびERGを含む。本発明者らによる前立腺癌におけるERGの特定のアイソフォームの頻繁な過剰発現の最初の観察(Foleyら, Endocr Relat Cancer 11(3):477-88 (2004))、およびAR調節型TMPRSS2遺伝子プロモーターを介したERG発現の活性化を招く一般的な染色体再編成を示す後続の独立した研究(Tomlinsら, Science 310(5748):644-8 (2005))は、前立腺癌に特異的な異常AR活性化遺伝子としてのERGにスポットを当てている。したがって、ERG発現の定量的評価がARFIに統合されている。ERGリードアウトは、前立腺癌患者の60%以上を占めるTMPRSS2-ERG陽性腫瘍に適用されうる(同誌)。
【0199】
以下の実施例はモデルERGアイソフォームとしてERG1を使用しているが、実施例5に記載されている前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物と同様にERG2、ERG3、ERG8、EPC1、EPC2およびそれらのERGアイソフォームの組合せも使用されうる。したがって、文脈によりまたは1以上の当該アイソフォームの明示的な除外により特に断られていない限り、ARFIリードアウトに関する「ERG」に対するいずれの言及も、ERG1だけでなく、ERG2、ERG3、ERG8、EPC1、EPC2および本明細書に記載されている前立腺癌特異的プロモーターからの転写産物ならびにそれらの組合せをも含む。例えば、ARFIリードアウトは、ERG1でもERG2でもないERG遺伝子を使用しうる。同様に、いくつかの実施形態においては、リードアウトにERG8、EPC1またはEPC2を含めるが、ERG1もERG2も含めないことが望ましいかもしれない。
【0200】
実施例9:ARFI遺伝子の同時調節はARシグナリングに対する頑健なin vivo機能的関連を反映している
本発明者らは最近、40人の患者の根治的前立腺切除試料からの顕微解剖した前立腺癌細胞および対応する良性上皮細胞の包括的な遺伝子発現分析(80個のGeneChip)を完了した(Petrovicsら, Oncogene 24:3847-52 (2005))。該GeneChipデータセットをアンドロゲン調節型遺伝子発現に関して評価した。ERG(これは、大多数の患者において、TMPRSS2プロモーターとの融合により前立腺癌細胞においてアンドロゲン調節型となりうる)と共にPSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1およびAMD1が、それらの広いダイナミックレンジの発現およびアンドロゲン刺激に対するそれらの報告されている応答により(Heinleinら, Endocrine Rev 25:276-308 (2004); Linjaら, J Steroid Biochem Mol Biol 92:255-64 (2004); Shafferら, Lancet Oncol 4:407-14 (2003); Chenら, Nat Med 10:26-7 (2004); Dehmら, J Cell Biochem 99:333-344 (2006); Segawaら, Oncogene 21(57):8749-58 (2002); Xuら, Int J Cancer 92(3):322-8 (2001))、選択された。さらに、これらの遺伝子の幾つか(NKX3.1、ERG、PMEPA1)は前立腺癌の発生に因果的に関連づけられうる。
【0201】
この遺伝子パネル(ARFI)の協調発現はin vivo AR活性の機能状態を反映するものである。正規化された発現強度値が熱地図形態で示されている(図12)。非監視下(non-supervised)階層型クラスター解析(TIGR, Gaithersburg, MDからのソフトウェア)を患者毎に及び遺伝子毎に行い、それは前立腺癌患者の腫瘍細胞におけるARFI遺伝子の頑健なin vivo同時調節を示し、これは活性なまたは機能不全のARのいずれかを反映している(図12)。2つの緊密な遺伝子サブクラスターが出現した:PSA/KLK3、NKX3.1、PMEPA1、およびODC1、AMD1(ポリアミン経路)(これらは、中央12患者クラスターにおける発現のみで異なり、これは、異なる下流AR経路を表す一連のARFI遺伝子を使用する重要性を強調するものである)。その他の2つの大きな患者クラスターは、活性なAR(左の17患者クラスター)または機能不全AR(右の11患者クラスター)を反映する全てのARFI遺伝子の緊密な同時調節を示す(図12)。また、大多数の前立腺癌患者の腫瘍細胞においては、ERGは、緊密に他のARFI遺伝子と共に同時調節され、ここで、ERGは、アンドロゲン調節型TMPRSS2プロモーターと融合されて高度特異的腫瘍細胞マーカーをもたらしているようである。
【0202】
また、本発明者らは、ERGが、アンドロゲン調節型ではない他の前立腺癌関連遺伝子と共に、多遺伝子パネルの一部として使用されうることを示している。図13は、ERG、AMACR、DD3、PSGRおよびPCGEM1を含む多遺伝子パネルに関する熱地図を示す。該熱地図は、前立腺組織切片からの顕微解剖細胞サンプルのTaqMan QRT-PCR分析から得られた腫瘍対正常遺伝子発現比の非監視下階層型クラスタリングである。該多遺伝子パネルにおいて非AR遺伝子を使用した場合に、本発明者らは、異なるが重複している患者サブセットにおける種々のマーカー遺伝子の強力な過剰発現を見出した。
【0203】
実施例10:QRT-PCRによるARFI遺伝子のin vivo同時調節の検証
QRT-PCRを用いて、本発明者らは、TMPRSS2−ERG融合体を有する患者の前立腺癌細胞において、ERG転写産物の発現を、アンドロゲン調節型遺伝子PSA/KLK3およびPMEPA1(Dehmら, J Cell Biochem 99:333-344 (2006); Xuら, Cancer Res 63(15):4299-304 (2003))の発現との関係に関して評価した。非アンドロゲン調節型制御遺伝子であるLTF(Wardら, Cell Mol Life Sci 62(22):2540-8 (2005))を同じ腫瘍細胞においてアッセイした(図14)。この図においては、有意な相関(R > 0.5)が黒塗の棒グラフで示されている。非アンドロゲン調節型遺伝子であるLTFは、陰性対照として使用した。棒グラフの上にピアソン相関係数(R)が示されている。P値、および該実験において評価された患者の数(n)が、棒グラフの下に示されている。
【0204】
前立腺癌細胞における検出可能なTMPRSS2-ERG融合転写産物を有する65人の患者をこの研究のために選択した。検出可能なTMPRSS2-ERG転写産物を有する患者におけるERG、組織PSA/KLK3(p<0.0001)およびPMEPA1(p<0.0001)の発現レベルの間で顕著な同時調節が観察された。該同時調節は、TMPRSS2-ERG融合転写産物の発現レベルが中央値より高いこれらの患者のサブセット(「高融合転写産物」、図14の右パネル)において、より一層強力である。これらのデータは、ARFI遺伝子(TMPRSS2-ERGを含む)内の同時調節のレベルが前立腺癌細胞におけるARの全体的な機能状態を反映すること、および低下したARFI遺伝子発現が、前立腺腫瘍細胞における、低下または減少したアンドロゲン受容体シグナリングと相関することを示している。さらに、該データは、進行した前立腺癌、例えばpT3期の前立腺癌においては、ARFI遺伝子の発現レベルが減少することを示している。
【0205】
実施例11:PSA/KLK3およびTMPRSS2-ERGは前立腺癌の進行の際にin vivo AR活性の減少を示す
PSA/KLK3およびERG mRNA発現を、前立腺癌の進行とのそれらの関係に関して、より大きな患者コホートにおいて更に分析した。図15に示すとおり、pT3前立腺癌(被膜の外側へと成長している局所浸潤性腫瘍)を有する患者は、pT2期疾患(器官限局性)を有する患者と比べて有意(p=0.0098)に低い、PSA/KLK3転写産物レベルの発現を示した。さらに、pT3患者の前立腺癌細胞におけるTMPRSS2-ERG融合転写産物レベルの低下も明らかであった(p=0.0275)。
【0206】
中間的な血清PSAレベルを有する患者を研究するために、更なる分析を、2〜10ng/mLの血清PSAを有する患者(n = 79)に限定した。血清PSAレベルに基づけば、これらの患者は不明確な予後判定を有する。図16は、生化学的再発を伴う前立腺癌患者の腫瘍細胞におけるPSA/KLK3 mRNA発現レベルの分布を示す。
【0207】
図16に示されている該データの統計分析は、生化学的再発を伴わない患者の腫瘍細胞における組織PSA/KLK3 mRNAの発現が、生化学的再発を伴う患者の場合より、有意に高かったことを示している(p=0.0062, スチューデントt検定)。良性上皮細胞におけるPSA/KLK3 mRNA発現はそのような相関を示さなかった。この前立腺癌患者コホートを、腫瘍細胞における組織PSA/KLK3 mRNA発現レベルに基づいて五分位に分け、生化学的再発までの時間に関して比較した。図17に示されるとおり、無調整Kaplan-Meier分析は、最も高い組織PSA/KLK3 mRNA発現を示す患者に関する生化学的生存の改善を実証している(第1および第2五分位)(p = 0.0229)。したがって、前立腺癌患者の腫瘍細胞におけるPSA/KLK3 mRNA発現は疾患再発と逆相関する。腫瘍PSA/KLK3 mRNAの高い発現レベルは、生化学的再発を伴わない生存と相関し、一方、PSA/KLK3 mRNAの低い発現レベルは、前立腺切除後の腫瘍再発の可能性の増大を招く、腫瘍細胞微小環境中のARシグナリングの変化を反映している。
【0208】
実施例12:ERGは、前立腺癌におけるERGの中心的な標的C-MYCを活性化する
ERGの抑制は、C-MYC発現を低下させ、前立腺分化マーカー遺伝子PSAおよびタンパク質をアップレギュレートした。さらに、C-MYCの抑制は、ERG siRNAの表現型を再現した。抑制性ERGおよびC-MYC siRNA分子の50-50%用量を用いたERGおよびC-MYCの二重ノックダウンは、前立腺癌細胞において細胞増殖を効率的に制御し、その分化プログラムをレスキュー(救出)した(図18)。C-MYC発現は、ヒト前立腺腫瘍細胞においてERG発現と著しく相関していた(図18)。
【0209】
ERG機能を妨げるように設計された低分子干渉RNA(「siRNA」)オリゴ二重鎖は、NCBI遺伝子座ID GXL_163565およびアクセッション番号NM_004440を有するヒトERGを基にした。ERG siRNA 5’-CGACATCCTTCTCTCACAT-3’(配列番号29)はDharmacon, Lafayette, COから購入した。ヒトC-MYCに対するsiRNAプール(L-003282-00)(遺伝子座ID: GXL_67312, アクセッション: NM_002467)および標的無し(「NT」)siRNA二重鎖(D-001206-13-20)はともにDharmacon, Lafayette, COから購入した。
【0210】
VCaP細胞を、10% 木炭処理ウシ胎仔血清(「cFBS」)(Gemini Bio-Products, Calabasas, CA)含有培地中で10 cm組織培養皿に播種し3日間培養した。該細胞を、50 nM NT、50 nM ERG siRNA、50 nM MYC siRNA、または25 nM ERG siRNAおよび25 nM MYC siRNAの組み合わせでトランスフェクトした。HEK293細胞についてメーカーが記載するようにして、リポフェクタミン2000(Invitrogen, Carlsbad, CA)でsiRNAおよびプラスミドの同時トランスフェクションを行った。
【0211】
ERG(NM_004440)のコード領域を、内部リボソーム侵入部位(「IRES」)を含み、緑色蛍光タンパク質(「GFP」)がIRES翻訳開始配列から発現される(「IRES-GFP」)アデノウイルス・トランスファー・ベクターにサブクローニングした。組換えアデノウイルスプラスミドの生成および組換えアデノウイルスの生成はSunら, Oncogene 25, 3905-13 (2006)に記載されるとおりに行った。GFPアッセイおよびプラーク形成アッセイによって、アデノウイルス力価を測定した。VCaPおよびLNCaP細胞をAd-ERGまたはAd-対照ベクターで感染させ、タンパク質をウエスタンブロットによって検出した。ヒト正常前立腺cDNAライブラリー(カタログ番号AM 3337, Ambion, Austin, TX)から、プライマー5’-GGCTTTGATGAAAGCTCTAAACAAC-3’(配列番号50)およびTCAAAAGTGCCTCAAGAGGA-3’ (配列番号51)でコード配列を増幅することによって、野生型ERG3(NCBIアクセッション番号NM_182918)発現ベクター(pIRES-EGFP-ERG3)を生成し、DNAシークエンシングによって確認した。HEK293細胞を野生型ERG3またはTM-ERG3-発現ベクターでトランスフェクトし、そのタンパク質をウエスタンブロットによって検出した。
【0212】
siRNAでのトランスフェクションの12時間後、細胞を100 pM R1881で処理し、続く解析のために処理した。異所性ERGタンパク質をノックダウンするため、以下のプライマー5’-TAGGCGCGAGCTAAGCAGGAG-3’(配列番号8)および5’-CCCTCCCAAGAGTCTTTGGATCTC-3’(配列番号12)を用いたヒトTMPRESS2およびERG cDNAのPCR増幅によって、TMPRSS2-ERG2およびTMPRSS2-ERG3プラスミド(pIRES-EGFP, Clontech, Palo Alto, CA)を生成し、配列をDNAシークエンシングによって確認した。HEK293細胞についてメーカーが記載するように、リポフェクタミン2000(Invitrogen, Carlsbad, CA)でsiRNAおよびプラスミドの同時トランスフェクションを行った。
【0213】
ERG siRNAによる抑制に応答したC-MYC発現を、QRT-PCRおよびウエスタンブロットによって測定した。QRT-PCR解析では、VCaP細胞をsiRNAでトランスフェクトし、トランスフェクションの2または4日後に回収した。全RNA調製およびRT-PCRを、Gaoら, Clin Can Res 9:2545-50 (2003)に記載されているとおりに行った。ERG siRNAによるERGノックダウンについて、各RNA試料を、3回のRT-PCR反応および逆転写酵素の非存在下で行う1回の対照反応で評価した。ERG PCRフォワードプライマー5’-ACCGTTGGGATGAACTACGGCA -3’(配列番号10)およびリバースプライマー5’- TGGAGATGTGAGAGAAGGATGTCG -3’(配列番号53)を反応に使用した。GAPDH遺伝子発現を、フォワードプライマー5’- GAGCCACATCGCCTCAGACACC -3’(配列番号54)およびリバースプライマー5’- GTTCTCAGCTTGACGGTGCC-3’(配列番号55)を用いて検出した。RT-PCRで得られたERGまたはGAPDH断片をTrisホウ酸EDTA-1%アガロースゲルで電気泳動によって分離し、臭化エチジウム染色によって可視化した。バンド密度をQuantity One(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)で定量し、ERG発現をGAPDHレベルに正規化した。
【0214】
ウエスタンブロット解析では、プロテアーゼおよびホスファターゼ・インヒビター・カクテル(Sigma, St. Louis, MO)を添加したM-PER哺乳類タンパク質抽出試薬(Pierce, Rockford, IL)中で細胞を溶解した。例えばNuPAGE Bis-Trisゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)を抗体でプローブすること等の標準的な手順に従って免疫ブロットアッセイを行った。ウエスタンブロット実験で使用する抗体には、アミノ酸配列DFHGIAQALQPHPPESSLYKYPSDLPYMGSYHAHPQKMNFVAPHPPAL(配列番号52)を有するペプチドに対して本発明者の研究室で調製したイムノアフィニティー精製抗ERGペプチドポリクローナル抗体、抗PSA(Dako, Carpinteria, CA)、抗MYC(Upstate Biotechnology, Lake Placid, NY)、抗SLC45A3(Dako, Carpinteria, CA)または抗GAPDH抗体(SantaCruz, Santa Cruz, CA)が含まれる。VCaP細胞において内在性ERGタンパク質を検出するために、80μgの細胞溶解物をゲルの各レーンにロードした。
【0215】
ERGの、MYC P2プロモーター下流ETS要素への動員の低下を、抗ERG抗体を用いたクロマチン免疫沈降(「ChIP」)アッセイによってトランスフェクション48時間後に評価した(図18、左下のパネル)。IgGおよび対照ゲノムDNAアンプリコン(「インプット」)を対照として使用した。
【0216】
Masudaら J Mol Biol 353:763-71 (2005)に従ってChIPアッセイを行った。特異的なChIP産物を検出するために、38回の増幅サイクルを実施した。標的領域内のETS結合部位を、GEMS Launcherソフトウェア(Genomatix GmbH, Munich, Germany)を用いたマトリックスマッチ解析によって同定した。ERGタンパク質を、ポリクローナル抗ERG抗体sc-353(SantaCruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)で検出した。NCBIアクセッション番号GLX_67312/NM_002467に対するプロモーターはヒトC-MYC遺伝子を増幅した。Meulia ら, Mol Biol Cell 12:4590-600に記載されているようにして、ETS結合部位V$ETSF/PDEF0.1 P2下流プロモーター5’-GCCCCTTGCATCCTGAGCTCC-3’(配列番号56)に対するプライマーペア5’-GGTCGGACATTCCTGCTTTA-3’(配列番号57)および5’-ACCCAACACCACGTCCTAAC-3’(配列番号58)を使用した。アンドロゲン受容体(「AR」)を抗AR抗体で免疫沈降させ、PSA(KLK3) AREIIIエンハンサー標的領域を記載されているようにして増幅した(Masudaら J Mol Biol 353:763-71 (2005))。領域(5’-AGAGCACAGAAAGGCTGCCCTGG AAGTGGCTG GGCATCCTGTCAGCT-3’)(配列番号59)を含む、SLC45A3遺伝子(NCBIアクセッション番号GXL_151340/XM_001490454)プロモーター上流ARE(V$GREF_ARE0.2)およびETS(V$ETSF_PDEF0.1)結合部位を、5’-TGTGGGACTTCTCTGCTGAA-3’(配列番号60)および5’-CAACGTTCAAGGGGAAGAAA-3’(配列番号61)プライマーによって増幅した。
【0217】
細胞形態も調べた。8日目におけるVCaP細胞の顕微鏡写真を図18の右上のパネルに示す。PSA mRNAおよびタンパク質発現もそれぞれQRT-PCRおよびウエスタンブロットアッセイによって測定し、図18の下のパネルに示す。細胞溶解物を調製し、抗C-MYC、抗PSAまたは抗SLC45A3(タンパク質)抗体を用いたウエスタンブロットによってアッセイした。チューブリンを対照として使用した。
【0218】
37個のレーザー・キャプチャー顕微解剖したヒト腫瘍由来の、C-MYCおよびERGまたはC-MYCおよびPCA3の定量的遺伝子発現データを評価することによって、ERG-MYC相関解析を行った。図18の右下のパネルの表に示すように、結果をRおよびP-値として表した。ERGとC-MYCとの相関は極めて有意である;R=0.5548、p=0.0004。
【0219】
実施例13:GeneChip(登録商標)データ解析
VCaP細胞を10% cFBS(Gemini Bio-Products, Calabasas, CA)含有培地にプレーティングし3日間培養した。50 nMのsiERGまたは50 nMの対照NTで細胞をトランスフェクトし、FBS含有培地中で24または48時間増殖させた。全RNAを単離し、各VCaPトランスフェクタントから5μgのRNAをビオチン標識し、標識したプローブでGeneChip(登録商標)HG U133 Plus 2.0チップをハイブリダイズした。発現データをRobust Multi-array Averages(RMA)によって正規化し、ERGsi/NT(24時間)およびERGsi/NT(48時間)処理群における倍率変化を計算した。機能的共引用ベースの解析機能(functional co-citation-based analysis function)(Genomatix GmbH, Munich, Germany)(Scherfら, Brief Bioinform 6:287-97 (2005))を用いたBibliosphere Softwareによるその後の経路解析に2倍カットオフ基準を適用した。Shaheduzzamenら, Can Biol Ther 6:(2007, 印刷前の電子公開)に記載されているように、ヒト前立腺試料からの全RNAを、レーザー・キャプチャー顕微解剖した腫瘍および良性上皮細胞から単離した。Petrovicsら, Oncogene 24:3847-52 (2005)に記載されているように、RNAを定量し、増幅し、ビオチン化し、高密度オリゴヌクレオチドヒトゲノムアレイHG U133A(Affymetrix, Santa Clara, CA)にハイブリダイズさせ、正規化した。腫瘍/正常ERG発現比を十分に分化した前立腺腫瘍に由来するデータセットにおいて評価した。ERG発現が19〜38倍上昇した7つのデータセットにおいて遺伝子発現変化を平均化した。Bibliosphere Software(Genomatix GmbH, Munich, Germany)を用いた更なる経路解析に2倍カットオフ基準を適用した。正規化したヒトERG過剰発現腫瘍データを48時間ERG siRNA処理遺伝子発現データと比較した。Bibliosphere Softwareによるその後のネットワーク解析のために共通の遺伝子を選択した。
【0220】
図20は、ERGを発現しているヒト前立腺腫瘍における遺伝子ネットワークを示す。19〜38倍のERG過剰発現を示す7つの十分に分化した前立腺腫瘍の正規化した(腫瘍/正常)遺伝子発現データをBibliosphere softwareによって解析した(Shaheduzzamenら, Can Biol Ther 6:(2007, 印刷前の電子公開))。赤(中程度の灰色)および黄色(淡灰色)の枠はアップレギュレーションを示し、青い色調(濃灰色)はダウンレギュレーションを示す。機能的な関係を図20の挿入部分に開示する。
【0221】
VCaP細胞においてERGノックダウンに応答して影響を受けた遺伝子のネットワークが図21に示されている。細胞を50nMのERG siRNAまたは50 nMのNTでトランスフェクトし、24時間(左側のコード)または48時間(右側のコード)インキュベートした。プローブの標識化について、全RNAを該細胞から単離し、ハイブリダイゼーションのために標識化した。GeneChip(登録商標)HG U133 Plus 2.0チップを標識化プローブでハイブリダイズした。ERG si/NT発現比を計算し、Bibliosphere Softwareによる続く経路解析に2倍カットオフ基準を適用した。枠内の遺伝子シンボルは遺伝子発現の変化を示す(図21)。
【0222】
一過的なERG発現はPSAタンパク質レベルを低下させ、ARのPSA AREIIIエンハンサーへの動員を減少させた。VCaPおよびLNCaP細胞をアデノウイルスERG(Ad-ERG)またはAd-対照(対照)ベクターで感染させた。感染の24、48および72時間後に調製した細胞溶解物を、抗ERG、抗PSAおよび抗チューブリン抗体を用いた免疫ブロットアッセイで解析した。アデノウイルスAd-ERGまたは対照ベクターによるERGの一過的な発現に応答した、VCaPおよびLNCaP細胞における、KLK3/PSA遺伝子AREIIIエンハンサーへのAR動員のChIP評価(図22)。
【0223】
実施例14:前立腺分化遺伝子はERGによって抑制される
ERG siRNA処理は、アンドロゲン受容体の、PSA AREIIIエンハンサーへの動員を引き起こした(図23)。PSA mRNAおよびタンパク質発現を、それぞれQRT-PCRおよびウエスタンブロットアッセイによって測定した。PSAエンハンサー(ARE)へのAR結合の増加および重複するETSコグネイト(cognate)要素へのERG動員の減少を、トランスフェクション48時間後にChIPアッセイによって測定した。ERG siRNA処理の9日後、VCaP細胞をサイトケラチンCK8/18、PSAおよびDNAについて染色した(図23)。
【0224】
ERG siRNA処理は、アンドロゲン受容体の、プロステイン(SLC45A3)遺伝子上流エンハンサーへの動員も引き起こした。ヒト試料において、TMPRSS2-ERGの発現はプロステイン(SLC45A3)発現と負に相関した(図24)。ERG siRNAトランスフェクトVCaP細胞におけるSLC45A3(プロステイン)発現をウエスタンブロットによって測定した。ARおよびERGの、SLC45A3プロモーター上流AREおよびETS要素への動員を、トランスフェクション48時間後にChIPアッセイによって評価した。26人の患者の前立腺腫瘍のTMPRSS2-ERG発現およびSLC45A3免疫染色のマトリックス表示は、ERG siRNA処理とプロステイン発現との相関を示した。根治的前立腺切除全載試料の切片を、抗SLC45A3(SLC)抗体を用いた免疫組織化学によって評価した。
【0225】
26人の患者の根治的前立腺切除試料を10%緩衝ホルマリン中で固定し、パラフィンに全載として包埋した。各前立腺を、前立腺後面の長軸に対して垂直な横断面で0.22 cm間隔で切断し、全載として完全に包埋した。各腫瘍の体積を、3次元(頂点から基部、右から左、および前部から後部)で、各方向において最も大きい次元を用いて指標腫瘍(index tumor)を決定して計算した。指標腫瘍を、Furusatoら, Mod Pathol 21(2):67-75 (2008)に記載されているとおりに、TMPRSS2-ERG融合転写産物の有無について、ならびに全載ブロックの隣接する4ミクロン切片のプロステイン免疫組織化学染色について解析した。スライドを1:160希釈した抗SLC45A3抗体(Dako North America, Carpinteria, CA)と共にインキュベートした。Vector VIP(紫)を発色基質として使用し(Vector Laboratories, Burlingame, CA)、スライドをヘマトキシリンで対比染色した。SLC45A3発現を、免疫陽性細胞の量と強度の両方に基づいて評価した。染色されない場合は「0」、弱く染色される場合は「1」、そして強く染色される場合は「2」として強度を記録した。陽性に染色された領域の割合も見積もり、25%未満の領域が陽性に染色される場合は「1」、25〜50%が陽性に染色される場合は「2」、51〜75%が陽性に染色される場合は「3」、そして75%を超える領域が陽性に染色される場合は「4」として記録した。強度スコアと陽性に染色された領域の割合を乗算して、最終的なスコアを決定した。
【0226】
VCaP細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、シラン処理スライド(Sigma, St. Louis, MO)上でサイトスピン(cytospin)遠心機で遠心した。細胞を抗サイトケラチン8/18および抗PSA(共にDako, Carpinteria, CAから入手)、続いてヤギ抗マウスAlexa-488およびヤギ抗ウサギAlexa-594二次抗体(Invitrogen, Carlsbad, CA)で免疫染色した。Leica DMLB正立顕微鏡の40X/0.65 N-Plan対物レンズと、OpenLabソフトウェア(Improvision, Lexington, MA )で制御されるQImaging Retiga-EX CCDカメラ(Burnaby, BC, Canada)を使用して画像を撮影した。画像をカラーに変換し、Adobe Photoshopを使用して重ね合わせた。
【0227】
本発明は、参照により本明細書に組み入れられる本明細書中で引用されている文献の教示に照らして十分に理解される。本明細書中の実施形態は本発明の実施形態の例示であり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。多数の他の実施形態が本発明に含まれることが当業者により容易に認識される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的サンプルにおいて前立腺癌を検出するための方法であって、
(a)ハイブリダイズする条件下、該生物学的サンプルに少なくとも第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーを混ぜ、ここで、第1オリゴヌクレオチドプライマーは、ERG8、EPC1またはEPC2由来の標的配列内の第1配列にハイブリダイズする配列を含み、第2オリゴヌクレオチドプライマーは、該標的配列に相補的な核酸鎖内の第2配列にハイブリダイズする配列を含み、第1配列は第2配列と重複しておらず、
(b)該生物学的サンプル中に該標的配列が存在する場合には、第1および第2オリゴヌクレオチドプライマーを含有する該生物学的サンプルに少なくとも1つのポリメラーゼ活性を加えることにより、複数の増幅産物を増幅し、
(c)その複数の増幅産物を固定化し、
(d)その固定化された複数の増幅産物にオリゴヌクレオチドプローブを混ぜ、それにより、該プローブを少なくとも1つの固定化増幅産物にハイブリダイズさせ、
(e)該オリゴヌクレオチドプローブと少なくとも1つの増幅産物との間のハイブリダイゼーションからシグナルが生じるかどうかを検出するが、ここで該シグナルの検出が、該生物学的サンプルにおけるERG8、EPC1またはEPC2の発現および前立腺癌の存在を示す、
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
該標的配列が、配列番号1のヌクレオチド75-1168、配列番号3のヌクレオチド61-1019、または配列番号5を含む核酸分子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該標的配列が配列番号1のヌクレオチド75-1168を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該標的配列が配列番号1のヌクレオチド803-1168を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
該標的配列が配列番号3のヌクレオチド61-1019を含む、請求項2記載の方法。
【請求項6】
該標的配列が配列番号3のヌクレオチド788-1019を含む、請求項2記載の方法。
【請求項7】
該標的配列が、配列番号5を含む核酸分子である、請求項2記載の方法。
【請求項8】
該標的配列が配列番号5のヌクレオチド127-807を含む、請求項2記載の方法。
【請求項9】
該標的配列が配列番号46のヌクレオチド992-1096を含む、請求項2記載の方法。
【請求項10】
該標的配列が配列番号46のヌクレオチド1335-1424を含む、請求項2記載の方法。
【請求項11】
該標的配列が配列番号46のヌクレオチド1501-1591を含む、請求項2記載の方法。
【請求項12】
配列番号46、生物学的に活性なその断片、またはその相補鎖を含む単離された核酸分子。
【請求項13】
配列番号4記載のアミノ酸配列(EPC1)をコードする単離された核酸、またはその相補鎖。
【請求項14】
配列番号4記載のアミノ酸配列(EPC1)を含んでなる単離されたポリペプチド。
【請求項15】
請求項14記載のポリペプチドに結合する単離された抗体。
【請求項16】
該抗体が、配列番号4のアミノ酸217-220を含むエピトープに結合する、請求項15記載の抗体。
【請求項17】
配列番号6記載のアミノ酸配列(EPC2)をコードする単離された核酸、またはその相補鎖。
【請求項18】
配列番号6記載のアミノ酸配列(EPC2)を含んでなる単離されたポリペプチド。
【請求項19】
請求項18記載のポリペプチドに結合する単離された抗体。
【請求項20】
該抗体が、配列番号6のアミノ酸28-97を含むエピトープに結合する、請求項19記載の抗体。
【請求項21】
前立腺癌細胞における前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物を不安定化することを含んでなる、前立腺癌の治療方法。
【請求項22】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号1のヌクレオチド75-1168を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号1のヌクレオチド803-1168を含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号3のヌクレオチド61-1019を含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号3のヌクレオチド788-1019を含む、請求項21記載の方法。
【請求項26】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号5を含む、請求項21記載の方法。
【請求項27】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号5のヌクレオチド127-807を含む、請求項21記載の方法。
【請求項28】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号46のヌクレオチド843-861を含む、請求項21記載の方法。
【請求項29】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号46のヌクレオチド970-988を含む、請求項21記載の方法。
【請求項30】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号46のヌクレオチド1261-1279を含む、請求項21記載の方法。
【請求項31】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号46のヌクレオチド1398-1416を含む、請求項21記載の方法。
【請求項32】
該前立腺癌特異的ERG遺伝子転写産物が配列番号46のヌクレオチド1581-1599を含む、請求項21記載の方法。
【請求項33】
該不安定化が、干渉性RNAを投与することを含む、請求項21〜32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
該不安定化が、アンチセンス核酸を投与することを含む、請求項21〜32のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
配列番号7を含むプロモーター配列、または機能的に連結されたレポーター遺伝子の前立腺癌細胞での発現を支持するのに十分な配列番号7に記載のヌクレオチド配列の断片に機能的に連結された、細胞毒性遺伝子産物または細胞増殖抑制遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを、前立腺癌の治療を要する被験体に投与することを含んでなる、前立腺癌の治療方法。
【請求項36】
配列番号7を含むプロモーター配列、または機能的に連結されたレポーター遺伝子の前立腺癌細胞での発現を支持するのに十分な配列番号7に記載のヌクレオチド配列の断片に機能的に連結された、細胞毒性遺伝子産物または細胞増殖抑制遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを前立腺癌細胞に投与することを含んでなる、前立腺癌細胞の増殖を減少させる方法。
【請求項37】
該細胞毒性遺伝子産物または細胞増殖抑制遺伝子産物が、細菌毒素、腫瘍抑制遺伝子産物、アポトーシス誘導タンパク質、および、プロドラッグを細胞毒性産物に変換する薬物代謝酵素から選ばれる、請求項35または36記載の方法。
【請求項38】
配列番号3のヌクレオチド788-1019のうち少なくとも約15個連続したヌクレオチドを含んでなり、高ストリンジェンシーの条件下、配列番号3またはその相補鎖にはハイブリダイズできるが、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC2またはTMPRSS2にはハイブリダイズできない、単離された核酸。
【請求項39】
該核酸が約50ヌクレオチド長までである、請求項38記載の単離された核酸。
【請求項40】
高ストリンジェンシーの条件が、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄を含む、請求項38記載の単離された核酸。
【請求項41】
配列番号5のヌクレオチド127-807のうち少なくとも約15個連続したヌクレオチドを含んでなり、高ストリンジェンシーの条件下、配列番号5またはその相補鎖にはハイブリダイズできるが、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG8、ERG9、EPC1またはTMPRSS2にはハイブリダイズできない、単離された核酸。
【請求項42】
該核酸が約50ヌクレオチド長までである、請求項41記載の単離された核酸。
【請求項43】
高ストリンジェンシーの条件が、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄を含む、請求項41記載の単離された核酸。
【請求項44】
配列番号46のうち少なくとも約15個連続したヌクレオチドを含んでなり、高ストリンジェンシーの条件下、配列番号46またはその相補鎖にはハイブリダイズできるが、ERG1、ERG2、ERG3、ERG4、ERG5、ERG6、ERG7、ERG9、EPC1、EPC2またはTMPRSS2にはハイブリダイズできない、単離された核酸分子。
【請求項45】
該核酸が約50ヌクレオチド長までである、請求項44記載の単離された核酸。
【請求項46】
高ストリンジェンシーの条件が、6×SSC中、65℃で12時間のハイブリダイゼーションおよびそれに続く、0.1×SSC中、50℃で45分間の洗浄を含む、請求項44記載の単離された核酸。
【請求項47】
(a)PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERGから選ばれる2以上の遺伝子の発現を個体からの生物学的サンプルにおいて検出または測定し、
(b)(a)において検出または測定された各遺伝子の発現に関して、(a)において得られた結果を、対照サンプルにおける同じ遺伝子の発現と比較すること
を含んでなる、前立腺癌の予後判定方法。
【請求項48】
該生物学的サンプルが、血清、血漿、全血、尿および前立腺液から選ばれる、請求項47記載の方法。
【請求項49】
(a)において検出または測定された遺伝子の発現の低下が、該個体における前立腺切除後の、無病生存時間の減少を示す、請求項47記載の方法。
【請求項50】
前立腺切除後の0.2 ng/mlに等しいかまたはそれより高い血清PSAレベルが疾患の再発を示す、請求項49記載の方法。
【請求項51】
(a)において検出または測定された遺伝子の発現の低下が、該個体における進行した前立腺癌の素因または存在を示す、請求項49記載の方法。
【請求項52】
進行した前立腺癌が病期pT3またはそれより高い、請求項51記載の方法。
【請求項53】
該遺伝子がPSA/KLK3、PMEPA1およびERGを含む、請求項47記載の方法。
【請求項54】
(a)PSA/KLK3、PMEPA1、NKX3.1、ODC1、AMD1およびERGから選ばれる2以上の遺伝子の発現を、前立腺細胞を含む生物学的サンプルにおいて検出または測定し、
(b)(a)において検出または測定された各遺伝子の発現に関して、(a)において得られた結果を、対照サンプルにおける同じ遺伝子の発現と比較すること
を含んでなる、in vivoでのアンドロゲン受容体シグナリングの状態の評価方法。
【請求項55】
(a)において検出または測定された遺伝子の発現の低下が、該前立腺細胞におけるアンドロゲン受容体シグナリングの減弱を示す、請求項54記載の方法。
【請求項56】
該生物学的サンプルが、血清、血漿、全血、尿および前立腺液から選ばれる、請求項55記載の方法。
【請求項57】
該遺伝子がPSA/KLK3、PMEPA1およびERGを含む、請求項54記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2011−518552(P2011−518552A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503948(P2011−503948)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/004580
【国際公開番号】WO2009/126122
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(508019975)ザ ヘンリー エム.ジャクソン ファウンデーション フォー ザ アドバンスメント オブ ミリタリー メディスン,インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】