説明

ESD装置及びESD方法

【課題】本発明は、大面積に成膜形成が可能なESD装置及びESD方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、材料を溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧し、前記印加を前記処理対象を搭載する搭載部との間で行なうに際し、前記噴霧は前記溶液を有し噴霧口を有する複数のノズル部で行ない、前記印加は隣接するノズル部から噴霧される噴霧液間の静電反発を抑制するように制御されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電噴霧法(ESD法:Electrospray Deposition)による有機材料を成膜するESD装置及びESD方法に関わり、特に大面積の成膜に好適なESD装置及びESD方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の半導体の主流はシリコンであるが次世代の半導体として有機ELが脚光を浴びておりディスプレイや照明などへの実用化が着目されている。また、有機ELディスプレイの製造方法は低分子有機EL材料の真空蒸着が主流である。将来的には、低価格化のために、大気中(非真空中)で高分子有機EL材料を塗布(印刷)プロセスで製造することが期待されている。
【0003】
有機材料の非真空中での大面積成膜は、スピンコータやスリットコータが用いられていたが、積層時に下地を溶かしてしまうためミキシングが起きてしまう問題があった。この為、溶剤による影響の少ない非真空中の大面積成膜方法が待ち望まれていた。
【0004】
ESD法はこれに応える方法である。ESD法は非真空中の成膜方法の一つとして1880年頃の古くから研究されており、農薬噴霧、液体静電塗装機、薄膜形成などの分野で応用されている。最近では、ナノファイバに応用された技術が特許文献1に開示されている。特許文献1は一つのノズルに対して原料液(供給液)の極性を定期的に変えることで堆積される原料液が交互の極性を持ち互いに静電反発をすることなくうまく堆積される技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−13535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一つにノズル部から噴霧される面積には限りがあるので、タクトタイムを増加せずに、ESD法で大面積化を果たすためには隣接する複数ノズル部が必要である。隣接する複数ノズル部から供給液を噴射(噴霧)すると、後述するように単一ノズル部では処理対象に堆積するが、図13に示すように、隣接する複数のノズル部11間では、同じ極性を有する噴霧荷電粒子同士が静電反発し、中央部のノズルからの噴霧量は抑えられ、周辺のノズルの噴霧流は両側に流れてしまう。その結果、中央部には噴霧液12dが存在しないあるいは密度の薄い領域12nが形成され、成膜され難い領域12mが生じ、特にディスプレイなどの均一なパターンニングの必要な分野に適用できない課題がある。
【0007】
上記従来技術は上記のような課題について開示もなく、勿論この課題に対する解決策についての開示もない。この課題は基板が誘電体のときにさらに顕著になる。
本発明の目的は、上記の課題を鑑みてなされたもので、大面積に成膜形成が可能なESD装置及びESD方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するために、材料を溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧し、前記印加を前記処理対象を搭載する搭載部との間で行なうに際し、前記噴霧は前記溶液を有し噴霧口を有する複数のノズル部で行ない、前記印加は隣接するノズル部から噴霧される噴霧液間の静電反発を抑制するように制御されることを第1の特徴とする。
【0009】
また、本発明の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記制御は前記複数のノズル部において所定時間に発生する噴霧液の総電荷量が正負等しくなるように前記電圧を印加することを第2の特徴とする。
さらに、本発明の目的を達成するために、第1又は第2の特徴に加え、前記抑制は前記隣接するノズル部間に極性の異なる前記電圧を印加することを第3の特徴とする。
【0010】
また、本発明の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記抑制は隣接するノズル部間に位相のずれた交流電圧を印加することを第4の特徴とする。
さらに、本発明の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記複数のノズル部はM行N列(M,Nは1以上の整数)のマトリックス状に配置されたことを第5の特徴とする。
また、本発明の目的を達成するために、第5の特徴に加え、隣接する行または列(N、Mは2以上)のノズル部は互いに前記ノズル部間隔の1/2ずれていることを第6の特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の目的を達成するために、第1乃至第6のいずれかの特徴に加え、前記複数のノズル部毎に前記溶液を供給することを特徴とすることを第7の特徴とする。
また、本発明の目的を達成するために、第7の特徴に加え、前記供給は複数種類の溶液を供給することを第8の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大面積に成膜形成が可能なESD装置及びESD方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のESD装置の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の噴霧部の第1の実施形態を示す図である。
【図3】溶液への印加電圧として直流電圧を用いる第1の実施例を示す図である。
【図4】溶液への印加電圧として互いに180度位相がずれた交流電圧を用いる第2の実施例を示す図である。
【図5】溶液に印加電圧を与えた時に、溶液に発生する電荷量が多い場合の印加電圧の第3の実施例を示す図である。
【図6】溶液に印加電圧を与えた時に、極性で溶液のイオン化度が異なり発生する電荷量の割合が異なる場合の印加電圧の第4の実施例を示す図である。
【図7】溶液に印加電圧を与えた時に、極性で溶液に発生する電荷量が異なる場合の印加電圧の第5の実施例を示す図である。
【図8】本発明の噴霧部の第2の実施形態を示す図である。
【図9】バルクへテロジャンクションを形成する際に溶液への印加電圧の例を示す図である。
【図10】本発明の噴霧部の第3の実施形態を示す図である。
【図11】本発明の噴霧部の第4の実施形態を示す図である。
【図12】ESD法の原理を示す図である。
【図13】本発明の課題を示す図である。
【図14】図10(b)に示す隣接したノズル部10間に互いに2/3π位相がずれた正弦波の印加電圧V1、V2、V3を印加する例を示す図である。
【図15】隣接したノズル部間に互いに1/3π位相がずれた矩形波の印加電圧V1、V2、V3を印加する例を示す図である。
【図16】第3の実施形態におけるノズル部配置の他の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明のESD装置100の一実施形態を示した図である。
ESD装置は、大別して溶液を噴霧する噴霧部10、隣接した他の処理装置(図示せず)から搬送されてきた処理対象(表示基板、フィルム等。以下代表して表示基板Pで説明)を載置するステージ部20、表示基板の処理部を規定するマスク部30、各部に必要なものを供給する又は駆動する施設を有する施設部40、各部にあるセンサからの情報を受取り施設部等を制御する制御部50及び台座60を有する。
【0015】
噴霧部10は、材料(溶質)を溶媒に溶かした溶液12を内容するガラスキャピラリー11bの先端の噴霧口11aから溶液を噴霧するノズル部11、各ノズル部に設けられノズル部から電荷を有して噴霧された噴霧液12dの噴霧範囲を規定するガードリング13、ノズル部内の溶液の液量を計測する液量センサ14及びノズル部11から噴霧量を計測する噴霧量センサ15を有する。なお、ノズル部11は複雑さを避けるために図1では1本のみを記している。
【0016】
ステージ部20は接地され表示基板Pを載置する導電体で構成されたステージ21及び表示基板P上のアライメントマーク23を撮像する撮像手段22を有する。
【0017】
マスク部30は、ステージ21に載置された表示基板Pの所望の位置に成膜31bさせるためのマスク31、噴霧された溶液12をマスク31上の開口部31aに集束させるコリメータ32及び表示基板Pに余分な噴霧や成膜形成開始時の液ダレを防止する基板保護シャッタ33を有する。
【0018】
施設部40は、噴霧部10の各ノズル部11に溶液12を供給する溶液供給源12T、各ノズル部11の噴霧電圧を発生させる噴霧電圧発生源11D、ガードリング13に所定の電圧を発生させるガードリング電圧発生源13D、ステージ21を移動させる基板位置制御駆動部21K、マスク31の位置を調整するためのマスク位置駆動部31K、コリメータ32にかける電圧を発生させるコリメータ電圧発生源32D及び33基板保護シャッタを駆動する基板保護シャッタ駆動部33Kを有する。
【0019】
制御装置50は、制御部51と、計測結果や各部の正常、異常状態などのESD装置の稼動状態を記録する記録装置52Aやそれらを表示する表示装置52Bなどの周辺装置52とを有する。
制御部51は、各種制御プログラム53P、計測結果やESD装置の稼動状態などの情報53J及び各部を制御するためのデータ、条件等の制御データ53Dを内蔵するメモリ53、施設部40や周辺装置52や各種センサとの信号の授受をするインターフェイス54及びこれ等を管理するCPU55を有する。各制御手段は施設部の構成要素、その制御プログラム、制御データ及びこれを制御するCPU55から構成される。例えば、電圧印加制御手段は、噴霧電圧発生源11D、後述する噴霧量制御プログラム11P、噴霧量制御に必要な制御データ53D及びCPUから構成されている。溶液供給制御手段も同様な構成を有する。
【0020】
制御プログラムには、液量計測センサ14、噴霧量計側センサ15及び撮像手段22からの計測結果並びに制御データ53Dに内蔵され予め決められている条件等に基づいて、溶液供給源12Tを制御しノズル部11内の溶液量を管理する溶液供給プログラム12P、噴霧電圧発生源11Dを制御しノズル部11から溶液12を噴霧させる噴霧量制御プログラム11P、ガードリング電圧発生源13Dを制御し噴霧範囲を規定する噴霧範囲制御プログラム13P、基板位置制御駆動部21Kを制御しアライメントマーク23による位置決めや成膜するために表示基板Pを移動させる基板位置制御プログラム21P、マスク位置駆動部31Kを制御しマスク31の位置を調整するマスク位置調整プログラム31P、コリメータ電圧発生源32Dを制御し噴霧液12dを集束させる噴霧液集束プログラム32P及び基板保護シャッタ駆動部33Kを制御し表示基板Pに余分な噴霧や液ダレを防止する表示基板保護プログラム33Pを有する。
【0021】
図1に示す構成によって、ノズル部を表示基板幅に対応して列状に設け、表示基板Pを紙面表側から裏側に移動させて、溶液12を連続または間欠的に噴霧し、マスク31上の複数の開口部31aに規定されるパターンを表示基板上に成膜する。
【0022】
図12はESDの基本原理を示す図である。ノズル部11内の液体に数kVの電圧をかけると液体には表面張力や電荷を有する静電気力等が作用する。静電気力が増加し表面張力を超えると液体が円錐形(テイラーコーンという)12aに歪められる。テイラーコーンの先端部から発生する正電荷(印加電圧は負電圧)の液柱12bの不安定性によって液注が分裂し、そこから正電荷を有する液滴12cが発生する。液滴の溶媒が気化して電化密度が上昇し、液滴が静電(クーロン)反発で分裂を繰返す。乾燥した粒子は接地された導電体21a(図1のステージ21)に引き寄せられ導電体21a上の設けられたガラス製の表示基板Pに薄膜を形成する。なお、以下の説明では、テイラーコーン12a、液柱12b及び液滴12cを総称して噴霧液12dという。本図では液体に電圧を印加したが、ノズル部を導電体で形成しノズル部に電圧を印加してもよい。
ところが課題で図13を用いて説明したようにノズル部を隣接して複数本設けると表示基板Pの中央には噴霧液が存在しないあるいは密度の薄い領域12nが形成され、表示基板上に成膜され難い領域12mが生じ均一な成膜ができない。
【0023】
図2は上記課題を解決する噴霧部10の第1の実施形態を示す。図2(a)は図1の紙面表面側から見たときの噴霧部の構成を示し、図2(b)は装置の上部から見たときのノズル部11の配置を示す。図2(a)に示すように噴霧部10は、ノズル部11を表示基板Pの幅Wに対応して複数(本実施例では6個)行方向に列状に配置し、その列状配置を列方向に複数列(本実施例では4列)配置し、全体として計24個マトリックス状に配置している。後述の説明のために、行方向の列状配置に上から順にA1、A2・・の符号を付している。
図2(a)はA1列の状態を示す。
【0024】
また、図2(b)で示す白丸印は印加電圧V1、黒丸印は印加電圧V2で印加されているノズル部11を示す。なお、溶液12はA1からA4の列単位に設けられた供給配管12hにより矢印12k方向に供給される。なお、行方向の列数は本実施例では4列にしたが1列でもよいし、場合によっては更に列数を増やしてもよい。
【0025】
本実施形態における電圧印加制御手段は印加電圧V1と印加電圧V2は常に異なる極性に印加する手段である。即ち、隣接するノズル部11間は異なる極性を示す電圧を印加することにより、それぞれの隣接するノズル部から噴霧される噴霧液12dは異なる極性を持ち互いに静電反発を起すことはない。従って、各ノズル部から一定のプロファイルを持つ噴霧液12dを安定して得ることができる。なお、図2では印加電圧V1に負電圧を、印加電圧V2に正電圧を印加した状態を示す。電圧印加制御手段は図1で説明した制御データで構成されている。
【0026】
図2(a)、図2(b)に示すように、噴霧液はその中心付近の濃度が濃く周辺に行くほど薄くなるプロファイルを有する。しかしながら、表示基板Pの移動方向Pvに対しては表示基板には平均化された一様な濃度の膜が形成される。また、移動方向に垂直な方向(紙面左右方向)に対しては、ノズル部11間で均一でない部分が生じる場合は、表示基板Pをノズル部間隔の1/2ずらして再び反対方向に移動させて噴霧することにより、基板表面全体に一様な噴霧液を与えることができる。
【0027】
この結果、本実施形態ではマスク31(図1参照)によるパターンを持つ一様な膜を形成できる。
また、各ノズル部に設けたガードリング13に与えるガードリング印加電圧V3,V4より各ノズル部の噴霧範囲を制御することで前記成膜の一様性を保つように制御することができる。なお、印加電圧V3は印加電圧V1と、印加電圧V4は印加電圧V2と同じ極性を待つように定める。
さらに、上記した実施形態ではA1からA4の4列の例を示した。列が多いほど表示基板の移動速度を上げることができるが、A1だけの1列だけでもよい。
【0028】
次に、上記した一様な成膜形成する溶液への印加電圧V1、V2の実施例を図3乃至図7を用いて説明する。これ等の波形データはデータ図1に示す制御データ53Dとして格納されており、処理内容により作業員が表示装置52B等を介して条件を入力することにより形成される。
図3は印加電圧V1,V2として一定の波高値を有する直流電圧を用いる第1の実施例を示す図である。図3(a)は印加電圧V1、V2の極性が異なったパルス状の直流電圧Vを有する例を示す。図3(b)は印加電圧V1、V2の極性が異なった連続した直流電圧Vを有する例を示す。
【0029】
図4は印加電圧V1,V2として互いに180度位相がずれた一定の波高値を有する交流電圧を用いる第2の実施例を示す図である。図4(a)は印加電圧V1、V2が一定の波高値を有する矩形波電圧Vである例を示し、図4(b)は印加電圧V1、V2が一定の波高値を有する正弦波電圧である例を示す。また、交流電圧を用いると、静電反発を防止できるだけではなく、異なる極性を有する噴霧液が交互にくるので互いに反発することなく中和しながら堆積するので厚膜を形成できる。交流周波数は低周波が望ましい。数百Hz以上では自己中性化して付着力を失う傾向がある。好ましくは60Hz以下とする。
【0030】
図5は溶液12に印加電圧V1,V2を与えた時に、溶液に発生する電荷量が多い場合の印加電圧の第3の実施例を示す図である。この場合は、第1の実施例の図3(a)及び第2の実施例において再結合を抑制するためにインターバルを持たせる。図5は第2の実施例の図4(a)の印加電圧V1を示す。
【0031】
図6は溶液12に印加電圧V1,V2を与えた時に、溶液の極性に応じてイオン化度が異なり発生する電荷量の割合が異なる場合の印加電圧の第4の実施例を示す図である。この場合は、第2、第3の実施例では直流バイアスを与える。図6は第3の実施例の印加電圧V1を示す。
【0032】
図7は溶液12に印加電圧V1,V2を与えた時に、極性で溶液に発生する電荷量が異なる場合の印加電圧の第5の実施例を示す図である。この場合は、第1の実施例では極性に応じて波高値を変える。第2、第3の実施例では印加時間の割合を変える。図7は第3の実施例の印加電圧V1を示す。
【0033】
図5から図7に示すように、複数のノズル部において所定時間に発生する噴霧液の総電荷量が正負等しくなるように前記電圧を印加することが望ましい。図3、図4及び後述する他の印加方法でも基本的には同じである。このことによって、表示基板に一方の電荷が蓄積されずにバイアスを持つことがないので安定して成膜をすることができる。
【0034】
次に、噴霧部10の第2の実施形態を図8に示す。第2の実施形態は基本的な構成において第1の実施形態と同じであるので、図8は異なる点の説明に必要な第1の実施形態の示す図2(b)に対応する図のみを示す。第1の実施形態と異なる第1の点は成膜に必要な溶液が複数になったことである。本実施形態では必要な溶液が2種類の例を示す。そのために、1列おきに溶液12A、溶液12Bを、即ちA1列、A3列に溶液12AをA2列、A4列に溶液12Bを供給する。成膜に必要な複数の溶液を混合させることなく別々に噴霧して、複数の溶液からの成膜、所謂バルクへテロジャンクションを形成することができる。
【0035】
バルクへテロジャンクションを形成する際に、図9に示すように溶液12Aと溶液12Bへの各印加電圧V1間、V2間の位相をそれぞれ90度ずらす。その結果、異なる溶液の噴霧量のピークがずれて噴霧でき、膜厚が均一な成膜ができる。但し、隣接する列間とのノズル部11間に同じ極性状態が発生するので静電反発が発生する場合がある。その静電反発が成膜の一様性に影響を与えるものであれば、列間の距離を多少変えるなどの対策が必要である。
【0036】
第1の実施形態と異なる第2の点は、バルクヘテロシャンクションを形成するペア(以下、単にバルクペアと略す)である(A3列、A4列)をバルクペア(A1列、A2列)に対して紙面横方向(表示基板Pの移動方向に対して垂直方向)にノズル部間隔の1/2ずらして配置していることである。この結果、第1の実施形態のように表示基板Pを反対方向に移動させることなく、表示基板全体に一様に成膜することができる。この場合、第1の異なる点と同様に、バルクペア間であるA2列、A3列の隣接するノズル部11間に同じ極性状態が発生するので静電反発が発生する場合がある。その静電反発成膜の一様性に影響を与えるものであれば、バルクペア間の距離を変えるなどの対策が必要である。
なお、第1の実施形態で説明した印加電圧V1,V2についても第2の実施形態に応用できる。また、第2の実施形態では2種類の溶液を用いているので、第1の実施形態同様A1、A2の2列だけでもよい。
【0037】
以上説明した第2の実施形態においては、成膜に複数の異なる溶液が必要な場合であっても大面積に成膜を形成でき、またマスク31を用いて一様なパターンを持つ膜も形成できる。
【0038】
次に、噴霧部10の第3の実施形態を図10に示す。第1及び第2の実施形態では溶液に印加する電圧として2相交流印加電圧V1、V2の例を示したが、第3の実施形態では3相交流印加電圧V1、V2、V3を用いた例を示す。図10(a)は図1の紙面表面側から見たときの後述するA1列の噴霧部10の構成を示し、図10(b)は装置の上部から見たときのノズル部11の配置を示す。ノズル部配置における列の符号の付け方は図2と同一である。ノズル部11を示す丸印の横の数字は図10(a)の印加電圧V2の位相を基準とした時の各ノズル部への印加電圧の位相関係を示す。即ち、図10(b)は黒丸印で示すノズル部11の印加電圧V2の位相を基準として、白丸印で示すノズル部11はV2に対し2/3π位相が進んでいる印加電圧V1が印加され、二重丸で示すノズル部11はV2に対し2/3π位相が遅れている印加電圧V3が印加された状態を示す。
【0039】
図14は図10(b)に示すように隣接したノズル部10間に互いに2/3π位相がずれた3相交流の正弦波の印加電圧V1、V2、V3を印加する例を示す。一方、図15は、隣接したノズル部間に互いに1/3π位相がずれた3相交流の矩形波の印加電圧V1、V2、V3を印加する例を示す。さらに静電反発をさけるために、図15(a)は隣接したノズル間で同時に噴霧しないようにした印加する例であり、図15(b)は隣接したノズル部間に常時逆の極性を有するように印加する例で、V2の波形は図15(a)におけるV2の波形の±を反転したものとなる。また図15(b)は、成膜した荷電粒子によるチャージアップを次の噴霧で打ち消すことができ、噴霧対象の基板の電位が零になるように電荷バランスを優先した例である。なお、図14、15図において、4相交流ならば隣接したノズル部間において互いに矩形波で1/4π、正弦波で1/2π位相がずれる。また、n相交流ならば隣接したノズル部間において互いに矩形波で1/nπ、正弦波で2/nπ位相がずれる。
このように、隣接するノズル部11に位相ズレを有するように配置することにより静電反発の影響が少なく均等にし、一様な成膜できるようにしている。
【0040】
また、各列は互いに紙面横方向にノズル部間隔の1/2ずらした配置とし、2種類の溶液12A,12BのうちA1列、A4列に溶液12Aを、A2列、A3に溶液12Bを供給し、バルクペア(A1列、A4列)、(A2列、A3列)を形成し、互いにノズル部間隔の1/2ずれた領域を担当する。この結果、表示基板全体に一様に膜を形成できる。勿論、第2の実施形態と同様に、(A1列、A2列) (A3列、A4列)でそれぞれバルクペアを形成し、バルクペア単位で紙面横方向にノズル部間隔の1/2ずらした配置としてもよい。
【0041】
図16は第3の実施形態におけるノズル部配置の他の方法を示す。図16においては白丸印がノズル部11を示す。図16(a)はノズル部の数は異なるが基本的には図10(b)に示す配置を示す。これに対し図16(b)は、静電反発の影響を避けるためにノズル部間を離して、行及び列に対し1段飛びに配置している。
【0042】
また、第3の実施形態の印加電圧の波形は第1の実施形態を示した、図4(A)、図5乃至図7に示したものを用いることは可能である。
【0043】
第3の実施形態においても、第1又は第2の実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0044】
最後に、図11に噴霧部10の第4の実施形態を図10に示す。第1の実施形態ではノズル部11の1個おきに極性を反転していたが、第4の実施形態では2個又は2列おきに極性を反転している。静電反発はノズル部間の距離が短いほど、印加電圧が高いほど発生し易いが、成膜の一様性が許容範囲内程度に距離も長くとれ、あるいは印加電圧を低く設定できる場合はこのように配列することも可能である。第4の実施形態では、前述した条件を満たせば、第1乃至第3のいずれかの実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0045】
本発明は表示装置の製造装置の他、有機薄膜太陽電池、有機EL照明、デジタル・サイネージ、有機センサなどの製造装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
10:噴霧部 11:ノズル部
11D:噴霧電圧発生部 12:溶液
12a:テイラーコーン 12b:液柱
12c:液滴 12d:噴霧液
12h:供給配管 12T:溶液供給部
13:ガードリング 13D:ガードリング電圧発生部
14:液量センサ 15:噴霧量センサ
20:ステージ部 21:ステージ
21K:基板位置制御駆動部 22:アライメントマーク撮像手段
23:アライメントマーク 30:マスク部
31:マスク 31a:マスクの開口部
31K:マスク位置駆動部 32:コリメータ
32D:コリメータ電圧発生部 33:基板保護シャッタ
33K:基板保護シャッタ駆動部 40:施設部
50:制御装置 51:制御部
52:周辺装置 52A:記録装置
52B:表示装置 53:メモリ
53D:各部を制御するためのデータ、条件等の制御データ
53P:制御プログラム
53J:計測結果やESD装置の稼動状態などの情報
54:インターフェイス 55:CPU
60:台座 100:ESD装置
A1、A2・・:ノズル部の列番号 P:表示基板
V1,V2、V3:溶液への印加電圧 V4,V5、V6:ガードリング印加電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧する噴霧部と、前記処理対象を搭載する搭載部とを有するESD装置において、
前記噴霧部は前記溶液を有し噴霧口を有するノズル部を複数有し、前記複数のノズル部から噴霧される噴霧液間の静電反発を抑制するように前記電圧を印加する電圧印加制御手段を有することを特徴とするESD装置。
【請求項2】
前記電圧印加制御手段は前記複数のノズル部において所定時間に発生する噴霧液の総電荷量が正負等しくなるように前記電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のESD装置。
【請求項3】
前記電圧印加制御手段は隣接するノズル部間に極性の異なる電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のESD装置。
【請求項4】
前記電圧印加制御手段は前記複数のノズル部において少なくとも1つのノズル部に他のノズル部と極性の異なる電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のESD装置。
【請求項5】
前記電圧印加制御手段は隣接するノズル部間に位相のずれた交流電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のESD装置。
【請求項6】
前記電圧印加制御手段は隣接する少なくとも一組のノズル部間で位相のずれた交流電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2或いは4に記載のESD装置。
【請求項7】
前記複数のノズル部はM行N列(M,Nは1以上の整数)のマトリックス状に配置されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のESD装置。
【請求項8】
隣接する行または列(N、Mは2以上)間のノズル部は互いに前記ノズル部間隔の1/2ずれていることを特徴とする請求項7に記載のESD装置。
【請求項9】
前記複数のノズル部に前記溶液を供給する溶液供給制御手段を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のESD装置。
【請求項10】
前記溶液供給制御手段は複数種類の溶液を供給することを特徴とする請求項9に記載のESD装置。
【請求項11】
前記電圧の印加によって生じる前記溶液の極性に応じて印加時間を変えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のESD装置。
【請求項12】
材料を溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧し、前記印加を前記処理対象を搭載する搭載部との間で行なうことを有するESD方法において、
前記噴霧は前記溶液を有し噴霧口を有する複数のノズル部で行ない、前記印加は隣接するノズル部から噴霧される噴霧液間の静電反発を抑制するように制御されることを特徴とするESD方法。
【請求項13】
前記制御は前記複数のノズル部において所定時間に発生する噴霧液の総電荷量が正負等しくなるように前記電圧を印加することを特徴とする請求項12に記載のESD方法。
【請求項14】
前記抑制は前記隣接するノズル部間に極性の異なる前記電圧を印加することを特徴とする請求項12又は13に記載のESD方法。
【請求項15】
前記抑制は隣接するノズル部間に位相のずれた交流電圧を印加することを特徴とする請求項12又は14に記載のESD方法。
【請求項16】
前記複数のノズル部はM行N列(M,Nは1以上の整数)のマトリックス状に配置されたことを特徴とする請求項12に記載のESD方法。
【請求項17】
隣接する行または列(N、Mは2以上)間のノズル部は互いに前記ノズル部間隔の1/2ずれていることを特徴とする請求項16に記載のESD方法。
【請求項18】
前記複数のノズル部毎に前記溶液を供給することを特徴とする請求項12乃至17のいずれかに記載のESD方法。
【請求項19】
前記供給は複数種類の溶液を供給することを特徴とする請求項18に記載のESD方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−173085(P2011−173085A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40268(P2010−40268)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】