説明

ET−743治療のための予後分子マーカー

本発明は、ET-743化学療法の転帰に関連しているある種の分子マーカープロファイルを有するヒト患者におけるエクチナサイジン743の使用に関する。特に、本発明は、高発現レベルのXPG(ERCC5)mRNAもしくはタンパク質を有し、かつ/またはXPG遺伝子のAsp1104His SNPの「野生型」遺伝子型を有する患者におけるエクチナサイジン743の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクチナサイジン743(ET-743)の使用、とりわけ、ある種の分子マーカープロファイルを備えた腫瘍を有する、特に、高XPG mRNAもしくはタンパク質発現レベルを有するかつ/またはXPG遺伝子のAsp1104His SNPのSNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドを有するヒト患者におけるET-743の使用に関する。本発明は、前記腫瘍分子マーカーに基づいて癌患者に個別化されたET-743化学療法を与えるための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
身体の一部分の細胞が制御不能になり始めると癌が発現する。多くの種類の癌が存在するが、このすべてが異常な細胞の制御不能な増殖のせいで始まる。癌細胞は近接組織に浸潤することができ、血流およびリンパ系を通って身体の他の部分へと広がることができる。癌にはいくつかの主な種類がある。カルシノーマは、皮膚でまたは内臓器官を裏打ちするもしくは覆う組織で始まる癌である。上皮細胞は、器官および血管の裏層を含む身体の内部および外部表面を覆っているが、カルシノーマを引き起こすことがある。サルコーマは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、または他の結合もしくは支持組織で始まる癌である。白血病は、骨髄などの造血組織で始まり、多数の異常な血液細胞が産生されて血流に入る原因となる癌である。リンパ腫および多発性骨髄腫は、免疫系の細胞で始まる癌である。
【0003】
さらに、癌は浸潤性で新たな部位へ転移する傾向がある。癌は周辺組織内に直接広がり、リンパ系および循環系を通って播種されることもある。
【0004】
限局性疾患には手術および放射線、ならびに化学療法を含む多くの治療法が癌には利用可能である。しかし、多くの癌腫に対して利用可能な治療法の有効性は限られており、臨床的利点を示す新たな改良型の治療が必要とされている。このことは、進行型のおよび/または転移性疾患を示している患者に、ならびに、確立した治療法で以前治療を受けた後に、耐性獲得のせいでまたは関連毒性による治療実施の限界のせいで効果がなくなるか或いは忍容できなくなった、進行性疾患を再発する患者に特に当てはまる。
【0005】
1950年代以降、癌の化学療法的管理に著しい進歩が見られる。不運にも、全癌患者の50%以上が、初期治療に応答しない、または治療への初期応答の後再発する、または進行性の転移性疾患のために最終的に死亡している。したがって、新たな抗癌剤の設計および発見へ絶えず関与することが極めて重要である。
【0006】
化学療法は、その古典的な形では、DNA、RNAおよびタンパク質生合成を含む一般的な細胞代謝過程を標的にすることにより、急速に増殖する癌細胞を死滅させることに主に集中されてきた。化学療法薬は、それが癌細胞内の特定の化学物質にどのように影響するか、どの細胞活性または過程をその薬物が妨害するか、および細胞周期のどの特定の段階にその薬物が影響するかに基づいて、いくつかのグループに分けられる。最も一般的に使用される種類の化学療法薬には、DNAアルキル化剤(たとえば、シクロホスファミド、イホスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、ダカルバジン)、代謝拮抗剤(5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン、フルダラビン)、分裂抑制剤(たとえば、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン)、アントラサイクリン(たとえば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン)、トポイソメラーゼIおよびII阻害剤(たとえば、トポテカン、イリノテカン、エトポシド、テニポシド)、ならびにホルモン療法(たとえば、タモキシフェン、フルタミド)が挙げられる。
【0007】
理想的抗腫瘍薬であれば、癌細胞を選択的に死滅させ、非癌細胞に対するその毒性に関して広い指数を備えていると考えられ、その薬物に長期間曝した後でも癌細胞に対するその有効性も保持すると考えられる。不運にも、これらの薬剤を使用した現在の化学療法はどれも理想的なプロファイルを有していない。大半が、非常に狭い治療指数を有し、さらに、わずかに致死量以下の濃度の化学療法薬に曝される癌性細胞はそのような薬剤に対する耐性を発現し、頻繁に数種類の他の抗腫瘍薬に対する交差耐性を発現することがある。
【0008】
エクチナサイジン(本明細書ではETと略記される)は、海洋被嚢類であるエクテナシディアトゥラビナタ(Ecteinascidia turbinata)から単離された極めて強力な抗腫瘍薬である。数種類のエクチナサイジンがすでに特許および科学文献に報告されている。たとえば、熱帯海洋無脊椎動物であるエクテナシディアトゥラビナタから抽出され、その中でエクチナサイジン729、743、745、759A、759Bおよび770と命名された物質の新規化合物を記載している米国特許第5089273号を参照されたい。これらの化合物は、哺乳動物において抗菌および/または抗腫瘍薬として有用である。米国特許第5478932号は、カリブ海被嚢類であるエクテナシディアトゥラビナタから単離された他の新規エクチナサイジンを記載しており、これはP388リンパ腫、B16メラノーマ、M5076卵巣肉腫、ルイス肺癌、ならびにLX-1ヒト肺およびMX-1ヒト乳癌異種移植片に対するインビボ抗腫瘍活性を提供する。
【0009】
ETの1つであるエクチナサイジン743(ET-743)は、テトラヒドロイソキノリンアルカロイドであり、マウスおよびヒト腫瘍においてかなりのインビトロおよびインビボ抗腫瘍活性を有し、そして、メラノーマ、卵巣癌および乳癌を含む胸腺欠損マウスで増殖される種々のヒト腫瘍異種移植片に対しては強力な抗悪性腫瘍活性を有する。
【0010】
ET-743は以下の構造を有する天然化合物である。
【0011】
【化1】

【0012】
ET-743は、属名トラベクテジンおよび登録商標Yondelis(登録商標)でも知られており、最近欧州では軟部肉腫の治療に承認されている。トラベクテジンの臨床開発は乳癌、卵巣癌および前立腺癌のフェーズII/III臨床試験で続いている。癌患者におけるET-743の臨床開発計画が、1時間、3時間、24時間、および72時間静脈内注射スケジュールおよび1日1時間×5(d×5)スケジュールを調査するフェーズI試験で開始された。サルコーマ、乳癌および卵巣癌の患者で有望な応答が観察された。したがって、この新薬は現在、種々の腫瘍性疾患をもつ癌患者のいくつかのフェーズII/III臨床試験で集中的に調査されている。単独で与えられたものであれ、組み合わせて与えられたものであれ、ヒト身体の癌の治療のためのET-743の用量、スケジュール、および投与に関する追加の情報が、WO 00/69441、WO 02/36135、WO 03/39571、WO 2004/105761、WO 2005/039584、WO 2005/049031、WO 2005/049030、WO 2005/049029、WO 2006/046080、WO 2006/005602およびPCT/US07/98727において提供されており、これらの特許文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれているものとする。
【0013】
ET-743、その化学、作用機序、ならびに前臨床および臨床開発の概説は、Kesteren、Ch. Vanら、Anti-Cancer Drugs、2003年、14(7)、487〜502頁:「ET-743(trabectedin、ET-743): the development of an anticancer agent of marine origin」、およびその中の参考文献に見られる。
【0014】
この30年間、腫瘍内科医は、癌患者の転帰を最適化することに集中してきており、現在利用できる新技術のおかげで、化学療法を目的に合わせるために癌患者の異なるグループでの所与の治療の影響を予想することを目的にした遺伝子多型、遺伝子発現レベルおよび遺伝子突然変異を調査することが可能になりつつある。代表例には、チミジル酸合成酵素(TS)mRNA発現と葉酸代謝拮抗薬に対する応答および生存との間の、ベータチューブリンIII mRNAレベルとチューブリン相互作用薬への応答との間の、PTEN遺伝子メチル化とCPT-11に対する耐性の間の、ならびにSTAT3過剰発現と上皮増殖因子(EGF)相互作用薬に対する耐性との間の関係が挙げられる。
【0015】
潜在的臨床的影響の分子観測は、ヌクレオチド除去修復(NER)経路の効率とET-743の細胞障害性の間の逆説的関係に関連している。実際に、このDNA修復経路の点で効率的である腫瘍細胞のほうがET-743により感受性であるように思われる。この証拠は、この修復経路の活性の欠如に高度に依存している白金を用いた治療計画で見られるパターンと対照的である(すなわち、ERCC1発現の増加は、白金を用いた抗癌治療に対する臨床的耐性に関連付けられてきた)。
【0016】
細胞系統におけるET-743の細胞障害性に対するNER経路の重要な役割に関する証拠が存在する。ET-743はDNAの副溝のG残基に結合して、DNAへリックス構造をゆがめる付加体を形成し、この付加体はNER機序により認識される(Pourquier、P.ら、2001年、「Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting」、第42巻、556頁、第92回Annual Meeting of the American Association for Cancer Research. New Orleans、LA、USA. 2001年3月24〜28日、ISSN:0197-016X)。Takebayasiら(Nature Medicine、2001年、7(8)、961〜966頁)は、転写遺伝子中にこれらのDNA付加体が存在すると、切断中間体を止め、致命的な一本鎖切断(SSB)を生み出すことにより転写共役NER(TC-NER)が遮断されると提案している。ET-743への曝露により形成されるDNA付加体は二本鎖DNA切断に転換されることはGrazziotinら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、104:13062〜13067頁)から分かっている。
【0017】
NERはET-743細胞障害性を媒介するという事実は、酵母サッカロミセスセレビシア(Saccharomyces cerevisae)でもGrazziotinら(Biochemical Pharmacology、2005年、70、59〜69頁)により、酵母シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)でもHerreroら(Cancer Res. 2006年、66(16)、8155〜8162頁)により発見されている。
【0018】
さらに、Buerenら(Proceedings AACR Annual Meeting 2007年、Abstract no.1965)は、ET-743がS期初期にDNAに二本鎖切断を誘導し、この切断が相同組換え修復(HRR)経路により検出され修復されることを明らかにしている。さらに、Erbaら(Eur. J. Cancer、2001年、37(1)、97〜105頁)およびBuerenら(Proceedings AACR Annual Meeting 2007年、Abstract no.1965)は、DNA-PK、ATMおよびATRなどの二本鎖切断検出に関係する遺伝子の、ならびにファンコニー貧血遺伝子、BRCA1、BRCA2およびRAD51などの相同組換え修復経路に関係する遺伝子の不活化/突然変異により、細胞はトラベクテジンに対してより感受性になることを明らかにしている。そのような独自の所見は、タキサンおよびビノレルビンなどの微小管毒の場合のような、従来のDNA相互作用薬を使用したパターンとは正反対である。
【0019】
最後に、先行して行われた薬理ゲノミクス研究では、腫瘍組織におけるNER遺伝子ERCC1およびXPDの発現が増加しても、ET-743を使用して治療した患者の転帰に影響を与えないことが実証されている。しかし、腫瘍組織におけるBRCA1の低発現はET-743を使用して治療した癌患者のより良好な転帰と関連付けられている。追加の情報はWO 2006/005602に見出せる。この特許文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれているものとする。
【0020】
3種のまれな常染色体劣性遺伝ヒト障害、すなわち、色素性乾皮症(XP)、コケイン症候群(CS)、および裂毛症はNER活性障害に関連している(Bootsmaら、「The Genetic Basis of Human Cancer」McGraw-Hill、1998年、245〜274頁)。XP患者は太陽光に対して極端な感受性を示し、高発生率で皮膚癌が生じる(Kraemerら、Arch. Dermatol. 123、241〜250頁、およびArch. Dermatol. 130、1018〜1021頁)。約20%のXP患者は、その皮膚障害に加えて神経的異常も発現する。これらの臨床所見は、UVの死滅効果および変異原性作用に対する過敏症、ならびにXP細胞がUV誘導DNA損傷を修復できないことを含む細胞欠陥に関連している(van Steegら、Mol. Med. Today、1999年、5、86〜94頁)。
【0021】
7つの別々の遺伝的XP相補性グループ(XPA〜XPG)を補正する7つの異なるNER遺伝子が同定されている(Bootsmaら、「The Genetic Basis of Human Cancer」McGraw-Hill、1998年、245〜274頁)。XPグループGの原因であるヒト遺伝子がERCC5として同定された(Mudgettら、Genomics、1990年、8、623〜633頁; O'Donovanら、Nature、1993年、363、185〜188頁;およびNouspikelら、Hum. Mol. Genet. 1994年、3、963〜967頁)。損傷部位の約5nt3'側で損傷DNAを切断しNER過程中XPF/ERCC1ヘテロダイマーによる引き続く5'切り込みにも非酵素的に必要とされる構造特異的エンドヌクレオアーゼをXPG遺伝子はコードしている(Aboussekhraら、Cell、1995年、80、859〜868頁; Muら、J. Biol. Chem. 1996年、271、8285〜8294頁;およびWakasugiら、J. Biol. Chem. 1997年、272、16030〜16034頁)。XPGは酸化的DNA損傷の転写共役修復にも関与していることを示唆する証拠もある(Le Pageら、Cell、101、159〜171頁)。
【0022】
Takebayashiら(Cancer Lett.、2001年、174:115〜125頁)は、卵巣癌、肺癌および結腸癌のかなりの割合の試料中で、ヘテロ接合性消失およびマイクロサテライト不安定性の増加を観察している。Le Moirvanら(Int. J. Cancer、2006年、119:1732〜1735頁)は、サルコーマ患者のXPG遺伝子中に遺伝子多型が存在することを記載している。Takebayashiら(「Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting」、2001年3月、第42巻、813頁、第92回Annual Meeting of the American Association for Cancer Research. New Orleans、LA、USA. 2001年3月24〜28日)から、NERシステムを欠損している細胞はET-743を使用した処置に耐性であること(Zewail-Foote, M.ら、2001年、Chemistry and Biology、8: 1033〜1049頁およびDamia, G.ら、2001年、Symposium AACR NCI EORTC)、ならびにET-743の抗増殖性効果は機能性XPG遺伝子を必要とすることも分かっている。
【0023】
癌は動物およびヒトの主な死亡原因であるために、癌に罹った患者に施す、活性があって安全な抗腫瘍治療法を得るために、これまでいくつかの試みが重ねられ、今もまだ行われている。したがって、癌の治療に有用な追加の抗腫瘍治療法を提供する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第5089273号
【特許文献2】米国特許第5478932号
【特許文献3】WO 00/69441
【特許文献4】WO 02/36135
【特許文献5】WO 03/39571
【特許文献6】WO 2004/105761
【特許文献7】WO 2005/039584
【特許文献8】WO 2005/049031
【特許文献9】WO 2005/049030
【特許文献10】WO 2005/049029
【特許文献11】WO 2006/046080
【特許文献12】WO 2006/005602
【特許文献13】PCT/US07/98727
【特許文献14】WO 00/69862
【特許文献15】WO 01/87895
【特許文献16】WO 2006/046079
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Kesteren, Ch. Vanら、Anti-Cancer Drugs、2003年、14 (7)、487〜502頁:「ET-743(trabectedin、ET-743): the development of an anticancer agent of marine origin」
【非特許文献2】Pourquier, P.ら、2001年、「Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting」、第42巻、556頁、第92回 Annual Meeting of the American Association for Cancer Research. New Orleans、LA、USA. 2001年3月24〜28日. ISSN: 0197-016X.
【非特許文献3】Takebayasiら、Nature Medicine、2001年、7(8)、961〜966頁
【非特許文献4】Grazziotinら、Proc.Natl.Acad.Sic.USA、104:13062〜13067頁
【非特許文献5】Grazziotinら、Biochemical Pharmacology、2005年、70、59〜69頁
【非特許文献6】Herreroら、Cancer Res. 2006年、66(16)、8155〜8162頁
【非特許文献7】Buerenら、Proceedings AACR Annual Meeting 2007年、Abstract no. 1965
【非特許文献8】Erbaら、Eur. J. Cancer、2001年、37(1)、97〜105頁
【非特許文献9】Bootsmaら、「The Genetic Basis of Human Cancer」McGraw-Hill、1998、245〜274頁
【非特許文献10】Kraemerら、Arch. Dermatol. 123、241〜250頁
【非特許文献11】Kraemerら、Arch. Dermatol. 130、1018〜1021頁
【非特許文献12】van Steegら、Mol. Med. Today、1999年、5、86〜94頁
【非特許文献13】Mudgettら、Genomics、1990年、8、623〜633頁
【非特許文献14】O'Donovanら、Nature、1993年、363、185〜188頁
【非特許文献15】Nouspikelら、Hum. Mol. Genet. 1994年、3、963〜967頁
【非特許文献16】Aboussekhraら、Cell、1995年、80、859〜868頁
【非特許文献17】Muら J. Biol.、Chem. 1996年、271、8285〜8294頁
【非特許文献18】Wakasugiら J. Biol.、Chem. 1997年、272、16030〜16034頁
【非特許文献19】Le Pageら、Cell、101、159〜171頁
【非特許文献20】Takebayashiら、Cancer Lett.、2001年、174:115〜125頁
【非特許文献21】Le Moirvanら、Int.J.Cancer、2006年、119:1732〜1735頁
【非特許文献22】Takebayashiら、「Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting」、2001年3月、第42巻、813頁, 第92回 Annual Meeting of the American Association for Cancer Research. New Orleans、LA、USA. 2001年3月24〜28日
【非特許文献23】Zewail-Foote、M.ら、2001年、Chemistry and Biology、8:1033〜1049頁
【非特許文献24】Damia、G.ら、2001年、Symposium AACR NCI EORTC
【非特許文献25】Sambrook、Fischer and Maniatis、「Molecular Cloning」、a laboratory manual、(第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York、(1989)
【非特許文献26】Specht K.らAm J Pathol、2001年、158、419〜429頁
【非特許文献27】Krafft AE.らMol Diagn. 1997、3、217〜230頁
【非特許文献28】Kononenら(1998).Nat.Med.1998年、4、844〜847頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0026】
第1の態様では、本発明は、ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)生体試料中のXPG mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値と比較する段階と
を含み、
XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す方法に関する。
【0027】
別の態様では、本発明は、ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)XPGタンパク質の発現レベルの決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と
を含み、
XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す方法に関する。
【0028】
別の態様では、本発明は、ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104HisSNPの遺伝子型を決定する段階を含み、SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療に対して肯定的な応答を示すことになることを示す方法に関する。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるXPG mRNAの発現レベルを、ヒト癌患者由来の生検試料中の腫瘍組織のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現レベルの中央値と比較する段階と、
c)前記XPG mRNAの発現レベルが、XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法に関する。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)(a)の下での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、
c)前記XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法に関する。
【0031】
別の態様では、本発明は、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、
b)SNP遺伝子座の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法に関する。
【0032】
別の態様では、本発明は、ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるXPG mRNAの発現レベルを、ヒト癌患者由来の生検試料中の腫瘍組織のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現レベルの中央値と比較する段階と、
c)XPG mRNAの発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値よりも低い場合は「低レベル」として、XPG mRNAの発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高い場合は「高レベル」として定義される2つのグループのうちの1つに患者を分類する段階と、
d)ET-743に基づく化学療法治療について「高レベル」グループに分類された前記患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法に関する。
【0033】
別の態様では、本発明は、ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)段階(a)での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、
c)ET-743に基づく化学療法治療について(2+)および(3+)グループに分類された前記患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法に関する。
【0034】
別の態様では、本発明は、ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、
b)SNP遺伝子座の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合は「野生(W)型」遺伝子型として、SNP遺伝子座の両方の対立遺伝子にGヌクレオチドが存在する場合は「ミュータント(M)」遺伝子型として、SNP遺伝子座の一方の対立遺伝子にCヌクレオチドが存在し、もう一方の対立遺伝子にGヌクレオチドが存在する場合は「ヘテロ接合性(H)」遺伝子型として定義される3つのグループのうちの1つに患者を分類する段階と、
c)ET-743を使用した治療について「野生(W)型」または「ヘテロ接合性(H)」グループに分類される前記患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法に関する。
【0035】
さらに別の態様では、本発明は、生体試料のコレクション中のXPG mRNAの発現の中央レベルに対して、XPG mRNA発現が高レベルの腫瘍を有するヒト患者の癌治療のためのET-743に関する。
【0036】
別の態様では、本発明は、XPGタンパク質発現が高レベルの腫瘍を有するヒト患者の癌治療のためのET-743に関する。
【0037】
別の態様では、本発明は、XPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPに「野生型」または「ヘテロ接合性(H)」遺伝子型のある腫瘍を有するヒト患者の癌治療のためのET-743に関する。
【0038】
追加の態様では、本発明は、ET-743を使用して効果的に治療されるヒト癌患者の選択のためのマーカーとしてのXPGタンパク質またはXPG mRNAの使用に関する。
【0039】
別の態様では、本発明は、ET-743を使用して効果的に治療されるヒト癌患者の選択のためのマーカーとしてのXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、研究に含めた患者の無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)のKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図2】図2は、腫瘍試料中のXPG mRNA発現レベルに従う患者のPFSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図3】図3は、腫瘍試料中のXPG mRNA発現レベルに従う患者のOSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図4】図4は、腫瘍試料中のXPGタンパク質発現レベルに従う患者のPFSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図5】図5は、腫瘍試料中のXPGタンパク質発現レベルに従う患者のOSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図6】図6は、腫瘍試料中のXPG mRNA発現レベルおよびBRCA1 mRNA発現レベルに従う患者のPFSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図7】図7は、腫瘍試料中のXPG mRNA発現レベルおよびBRCA1 mRNA発現レベルに従う患者のOSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図8】図8は、Table 5(表5)中のデータに従う168人の患者の無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)のKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図9】図9は、腫瘍試料中のXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従う患者のPFSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図10】図10は、腫瘍試料中のXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従う患者のOSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図11】図11は、腫瘍試料中のXPG mRNA発現レベルおよびXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従う患者のPFSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図12】図12は、腫瘍試料中のXPG mRNA発現レベルおよびXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従う患者のOSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図13】図13は、腫瘍試料中のXPGタンパク質発現レベルおよびXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従う患者のPFSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【図14】図14は、腫瘍試料中のXPGタンパク質発現レベルおよびXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従う患者のOSのKaplan-Meierプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法]
本発明の筆者らは、XPGタンパク質およびXPG mRNAの腫瘍発現レベルが、ET-743を使用した癌の治療を受けているヒト患者のディファレンシャルな化学療法感受性を予測するのに重要な役割を果たすことができることを確証した。具体的には、実施例1に示されるように、タンパク質としてもmRNAとしても決定されるXPGが一定レベル発現されている腫瘍を有するヒト癌患者は、ET-743を使用した治療に特に感受性である。特に、腫瘍XPG mRNA発現レベルに従って、多数の患者コホートを2つのサブ母集団(「低」レベルの発現および「高」レベルの発現)へ細分化することにより、発現が増加したサブ母集団中でET-743の有効性が著しく増加する。すなわち、
他覚症状(完全寛解(CR)+部分応答(PR))については、10%から19%、
腫瘍制御(CR+PR+やや有効(MR)+安定(stable disease: SD)≧6カ月)については、36%から56%、
無憎悪生存期間(PFS)中央値については、2.5から7.1カ月、
6カ月(PFS6)より高いPFSの患者については、29.5%から52.1%、および
生存期間中央値については、9.3から19.1カ月であった。
【0042】
したがって、第1の態様では、本発明は、ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測するための方法(以下、本発明の第1の方法とする)であって、
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)生体試料中のXPG mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値を比較する段階と
を含み、XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す方法に関する。
【0043】
本発明の方法により、患者の臨床転帰の予測が可能になる。本明細書で使用する語句「臨床転帰」は、患者の進展を判定するのに有用であることが可能である任意のパラメータの決定に関係している。臨床転帰の判定は、腫瘍学で使用され当業者に既知である任意のエンドポイント測定を使用することにより実施することができる。疾患の進展を記述するための有用なエンドポイントパラメータには、他覚症状、腫瘍制御、無憎悪生存期間、6カ月よりも長い無憎悪生存期間および生存期間中央値が挙げられる。
【0044】
本発明において使用される「他覚症状」は、完全寛解または部分応答が観察される治療を受けた者の割合を記述する。
【0045】
「腫瘍制御」は、完全寛解、部分応答、やや有効または安定≧6カ月が観察される治療を受けた者の割合に関する。
【0046】
本明細書で使用される「無憎悪生存期間」またはPFSは、治療開始から癌増殖の最初の測定までの時間と定義されている。
【0047】
本明細書で使用される「6カ月無憎悪生存期間またはPFS6」率は、治療の開始後最初の6カ月無憎悪であるヒトの割合に関する。
【0048】
本明細書で使用される「生存期間中央値」は、研究に登録された患者の半数がまだ生存している時間に関する。
【0049】
本発明の第1の方法の段階(a)には、試料中のXPG mRNAの発現レベルの決定が必要である。遺伝子発現プロファイリングの技法(たとえば、RT-PCR、SAGE、DNAマイクロアレイ、またはTaqMan(登録商標))はすべて本発明の前述の態様を実施する際の使用に適しているが、遺伝子mRNA発現レベルは逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により決定されことが多い。好ましくは、決定は、TaqMan(登録商標)などの定量的(q-)RT-PCRにより実施される。検出は個々の試料においてまたは組織マイクロアレイにおいて実施することができる。
【0050】
異なる試料間のmRNA発現の値を規準化するために、試験試料中の対象のmRNAの発現レベルを、複数の細胞系統由来のRNA混合物の発現と比較することが可能である。前記RNA混合物(標準物質として使用されるRNA対照)は、ユニバーサルヒューマンリファレンスRNA(Stratagene)などの市販品、または分析される全試料からRNA調製物をプールすることにより作製される調製物が可能である。好ましい実施形態では、遺伝子発現の定量化は、内在性対照RNAを使用する比較Ct法により実施される。
【0051】
本明細書で使用される「内在性対照RNA」は、その発現レベルが、非腫瘍化細胞に対して腫瘍細胞中で変化しない、または限られた量のみ変化するRNAに関する。好ましくは、「内在性対照RNA」は、ハウスキーピング遺伝子に由来し、構成的に発現されて必須の細胞機能を実行するタンパク質をコードするmRNAである。本発明で使用するのに好ましいハウスキーピング遺伝子には、β-2-ミクログロブリン、ユビキチン、18-Sリボソームタンパク質、シクロフィリン、GAPDHおよびアクチンが挙げられる。好ましい実施形態では、対照RNAはβ-アクチンmRNAである。
【0052】
本発明は、生検試料、組織、細胞または体液(血清、唾液、精液、痰、脳脊髄液(CSF)、涙、粘液、汗、乳、脳抽出液など)などの患者由来のどんな種類の生体試料にも適用することができる。化学療法耐性に対する腫瘍感受性の試験では、腫瘍組織を試験するのが好ましい。好ましい実施形態では、腫瘍を入手する患者由来の正常組織の一部も試験される。好ましくは、これは化学療法に先立って実施される。
【0053】
本発明の方法を実施する際には、腫瘍細胞は、好ましくは、患者から単離される。腫瘍またはその一部は患者から外科的に摘除されるまたは所定の生検から得られる。凍結または新鮮な試料から単離されるRNAは、当技術分野で典型的な方法、たとえば、Sambrook、Fischer and Maniatis、「Molecular Cloning」、a laboratory manual、(第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York、(1989)のどれによっても細胞から抽出される。好ましくは、抽出過程中のRNAの分解を回避するよう注意が払われる。
【0054】
特定の実施形態では、発現レベルは、ホルマリン固定パラフィン包埋組織試料から得られるmRNAを使用して決定される。その入手可能性に応じて、生検または血液試料由来の新鮮なまたは凍結組織などの、他の組織試料が予想される。
【0055】
固定およびパラフィン包埋組織試料は、腫瘍学の分野で広く使用される貯蔵のきくまたは保存記録のある組織試料であるために、好ましい。mRNAは、先ず脱パラフィンされる保存記録のある病理学試料または生検試料から単離されてよい。例となる脱パラフィン化法は、パラフィン処理された試料を、たとえば、キシレンなどの有機溶剤を使って洗浄する。脱パラフィンされた試料は低級アルコールの水溶液を使用して再水和することができる。適切な低級アルコールには、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールが挙げられる。脱パラフィンされた試料は、たとえば、漸減濃度の低級アルコール溶液を使用した連続洗浄で再水和されてよい。代替的には、試料を同時に脱パラフィンおよび再水和させる。次に、試料は溶解されて、RNAが試料から抽出される。
【0056】
調査中の試料のXPG mRNAの発現レベルが決定されると、本発明の方法の段階(b)は、生体試料中のXPG mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値と比較することを含み、XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0057】
XPG mRNA発現レベルの決定に関して、XPG mRNA発現の「低」および「高」レベルを表す値は、再現性のある標準(基準レベル)(ET-743を使用した治療前に癌患者由来の生検試料中の腫瘍組織のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現レベルの中央値に対応してもよい)との比較により決定される。この中央値が確立したら、患者由来の腫瘍組織で発現されるこのマーカーのレベルは中央値と比較され、したがって、XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値よりも低い場合は「低」レベルに、またはXPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいもしくはそれよりも高い場合は「高」レベルに指定されることが可能である。
【0058】
調査中の被験者由来の試料中のレベルが中央値に対して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%以上増加している場合は、XPG mRNA発現レベルは高いと見なされる。好ましい実施形態では、1.5に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAレベルが非常に好ましく、さらに好ましい実施形態では、1.55に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAレベルである。
【0059】
相対的遺伝子発現の評価基準は、好ましくは、内在性対照としてβアクチンを使用することにより作成されるが、XPG mRNAの相対的レベルを試料に帰することができる限り、当技術分野で既知の他の方法を使用することが可能である。XPG mRNAのレベルを測定してXPG遺伝子発現の相対的レベルを得ることが可能である。当技術分野でよく知られている標準測定法が使用できる。
【0060】
基準レベルが導き出される試料のコレクションは、好ましくは、同一種類の癌に罹った患者から構成されることになる。コレクションは、たとえば、3人、4人、5人、10人、15人、20人、30人、40人、50人以上の個人由来の試料を含んでいてよい。たとえば、実施例に記載され統計的に代表的なコレクションはサルコーマ患者由来の160試料で構成されていた。いずれにせよ、コレクションは異なった数の試料を含有することが可能である。
【0061】
一実施形態では、相対的遺伝子発現定量化は、内在性対照としてβアクチンを、標準物質として市販のRNA対照を使用する比較Ct法に従って計算される。最終結果は、式2-(ΔCt sample-ΔCt calibrator)(式中、標準物質および試料のΔCT値は、βアクチン遺伝子の値から標的遺伝子のCT値を引くことにより決定される)に従って決定される。
【0062】
本発明の方法は幅広い種類の癌型に罹った患者の臨床転帰を予測するのに適している。非限定的例として、本発明により、ET-743を使用した化学療法に対する、サルコーマ、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳癌、メラノーマ、直腸結腸癌、中皮腫、腎癌、子宮内膜癌および肺癌に罹った患者の臨床応答を予測することが可能になる。
【0063】
本発明の筆者らは、ET-743治療後の臨床転帰についての予測の正確さの増加は、BRCA1 mRNAの発現レベルも測定することにより実現することができることも観察した。生体試料中のXPGおよびBRCA1 mRNAの発現レベルと、生体試料のコレクションで測定されるXPGおよびBRCA1 mRNAの発現の中央値の比較は、臨床転帰の決定のために利用することができる。なぜならば、XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルおよびBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルは、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示すからである。実際、Table 4(表4)では、高いXPG mRNA発現レベルおよび低いBRCA1 mRNA発現レベルにより特徴づけられる患者の63%が、6カ月無憎悪生存期間を示していることが示され、この値は、XPG mRNA発現のみに基づいて選択される場合の56%(Table 2(表2))と対照的であった。
【0064】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の第1の方法は、生体試料のコレクションで測定されるXPGおよびBRCA1 mRNAの発現の中央値とともに、生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階をさらに含み、XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルおよびBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0065】
BRCA1 mRNAのレベルを決定するための方法は当業者には既知であり、XPG mRNAの発現レベルの決定のための上記の同一方法を必須に含む。好ましい実施形態では、BRCA1 mRNAの発現レベルの決定は、WO 2006005602に記載されている手順を使用して実施され、この特許文献は参照により本明細書に組み込まれているものとする。
【0066】
本発明の筆者らは、XPG mRNA発現レベルとXPG遺伝子のAsp1104His SNPの遺伝子型の検出を組み合わせた解析により、癌患者におけるET-743治療の臨床転帰の予測の正確さが著しく増加することが可能であることも観察した。特に、本発明者らは、XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルおよびSNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在は、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すようになることを示すことを観察した。
【0067】
したがって、好ましい実施形態では、XPG mRNAレベルの、および随意に、BRCA1レベルの決定に基づく本発明の第1の方法は、XPG遺伝子の遺伝子座rs17655での遺伝子型の決定をさらに含み、(i)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいもしくはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベル、および(ii)SNP遺伝子座の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、または(i)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいもしくはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベル、(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルおよび(iii)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0068】
一定レベルのXPGタンパク質発現により、その腫瘍において高タンパク質発現レベル(IHC(2+)および(3+))を有する患者を、その腫瘍において低発現のXPGタンパク質レベル(IHC(0)および(1+))を有する患者と比較した場合、ET-743治療の臨床転帰に有意差が生じることも、本発明の筆者らにより見出された。実際、高いXPGタンパク質発現レベルにより、以下のようなET-743の有効性の著しい増加をもたらす:
他覚症状(CR+PR)については、13%から24%、
腫瘍制御(CR+PR+MR+SD≧6カ月)については、42%から60%、
中央値PFS については、3.7から7.1カ月、
PFS6については、39.9から55.6%、
生存期間中央値については、11.7から27.7カ月、および
1年間生存率については、45.5%から73.7%。
【0069】
したがって、追加の態様では、本発明は、
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)XPGタンパク質の発現レベル決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と
を含む、ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す方法に関する。
【0070】
段階(a)は、ET-743前に患者由来の試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する必要がある。この段階は、たとえば、ELISA、ウェスタンブロットまたは免疫蛍光などの当業者には既知の免疫学的技法を使用して実施することができる。ウェスタンブロットは、変性条件下でゲル電気泳動により前もって分離され、膜、一般にニトロセルロースに固定化されたタンパク質の、特異的な抗体を使用したインキュベーションおよび発現システム(たとえば、化学発光)による検出に基づいている。免疫蛍光による解析には、顕微鏡による発現および細胞内局在の解析のための標的タンパク質に特異的な抗体の使用が必要である。一般に、調査中の細胞は、パラホルムアルデヒドを使用して前もって固定化され、非イオン性界面活性剤を使用して透過処理される。ELISAは、標的抗原と標識化抗体間に形成されるコンジュゲートにより酵素的に活性な複合体が形成されるように、抗原または酵素で標識された抗体の使用に基づいている。成分の1つ(抗原または標識化抗体)が支持体上に固定化されているために、抗体抗原複合体は支持体上に固定化され、したがって、酵素により(たとえば、分光光度法または蛍光光度法により)検出可能である生成物に転換される基質を付加することによりその複合体を検出することができる。この技法では、標的タンパク質の正確な位置確認またはその分子量の決定は可能ではないが、種々の生体試料(血清、血漿、組織ホモジネート、後核上澄、腹水など)中の標的タンパク質の非常に特異的で高感度の検出は可能である。
【0071】
好ましい実施形態では、XPGタンパク質レベルの決定は、被膜スライド上に固定された生体試料の薄切片を使用する免疫組織化学(IHC)により実施される。切片は、パラフィン包埋組織試料に由来する場合は、抗原を回復するように脱パラフィンされ処理される。検出は個々の試料でまたは組織マイクロアレイで実施することができる。発現解析がIHCにより実施される場合、試料中のXPGタンパク質の発現レベルは、癌患者由来の生検試料中のXPG特異的抗体を使用した腫瘍細胞のそれぞれ無色(発現なしを意味する)、低、中程度および高染色に対応するそれぞれ半定量的カテゴリーの(0)、(1+)、(2+)または(3+)に割り振ってもよい。別の好ましい実施形態では、半定量的カテゴリー(0)、(1+)、(2+)または(3+)は、以下のように陽性細胞の数に基づいて与えられる:負すなわち(0)(陽性腫瘍性細胞なし)、低すなわち(1+)(1〜15%陽性腫瘍性細胞)、中程度すなわち(2+)(>15〜50%陽性腫瘍性細胞)および高すなわち(3+)(>50〜100%陽性腫瘍性細胞)である。この手順は、病理学者により主観的に決定されるが、IHC結果の測定の標準法であり、当技術分野ではよく知られている。
【0072】
標的タンパク質に高親和性で特異的に結合することが分かっているどんな抗体または試薬も、標的タンパク質の量を検出するために使用することが可能である。にもかかわらず、抗体、たとえば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマ上澄またはモノクローナル抗体、抗体フラグメントのFv、Fab、Fab' y F(ab')2、ScFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびヒト化抗体の使用は好ましい。好ましくは、モノクローナル抗体が使用される。標的タンパク質に特異的に結合する前記抗体または試薬は、蛍光、化学発光、同位体マーカー、等などの適切なマーカーで標識されることになる。
【0073】
好ましい実施形態では、XPGタンパク質発現レベルの決定は、集められた複数の患者の試料を含有する組織マイクロアレイ(TMA)を構築し、免疫組織化学技法(IHC)によりXPGタンパク質の発現レベルを決定することにより実施することができる。免疫染色強度は、方法の再現性を維持するために、2人の異なる病理学者により評価され、均一で明快なカットオフ基準を使用してスコアー化されることが可能である。食い違いがあれば同時再評価により解決することができる。手短に言えば、免疫染色の結果は、腫瘍細胞中の発現および特定のカットオフを考慮して、負の発現(0)対正の発現として、ならびに低発現(1+)対中程度(2+)および高(3+)発現として記録することができる。一般的基準として、再現性を促進するために、および可能な場合には、生物学的事象を解釈するために、カットオフが選択される。
【0074】
したがって、(0)、(1+)、(2+)または(3+)タンパク質発現の値は、IHC調製物の染色のレベルに従って病理学者が決定することが可能である。(0)、(1+)、(2+)または(3+)値は、ET-743を使用した治療前の、癌患者由来の生検試料中のXPG特異的抗体を使用した腫瘍細胞のそれぞれ無色(発現なしを意味する)、低、中程度および高染色に対応する。
【0075】
段階(b)では、段階(a)における決定結果は、上記の基準を使用して、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録される。段階(b)では、段階(a)において決定されたXPGタンパク質発現レベルは、基準値と比較される。発現レベルの表現は、その決定のために使用される方法論に依存することになることは理解されるであろう。したがって、XPGタンパク質レベルがELISAまたはRIAにより決定されるならば、「発現レベル」は光学的単位またはppmとして与えられることになる。この場合、「基準値」は、健康な対象から得られた細胞集団もしくは生体試料中の、または調査中の患者の組織の非腫瘍部分から得られた細胞集団由来のXPGタンパク質の発現レベルであることになる。さらに好ましくは、統計的に十分な集団が集められる場合には、集団の全試料中の発現レベルの中央値を基準値として使用することが可能である。調査中の試料を所与のカテゴリーに当てはめ、XPGタンパク質の中程度(2+)と高(3+)発現レベルの両方が「高発現」と見なされると、その試料が得られた患者は、ET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すと予測される。
【0076】
本発明の筆者らは、臨床転帰の予測の正確さの増加は、BRCA1 mRNAの発現レベルも測定することによって実現することができることも観察した。したがって、好ましい実施形態では、(i)基準値よりも高いXPGタンパク質の発現レベル、および(ii)XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベルが、患者がET-743を使用した治療に対して肯定的な応答を示すことになることを示し、前記中程度のまたは高発現レベルが上記のスコアリングシステムを使用して決定される、XPGタンパク質のレベルに基づく予測法は、BRCA1 mRNAの発現レベルの決定をさらに含む。
【0077】
XPGの発現レベルは、閾値レベルよりも上のXPGを発現している細胞の割合が15%よりも高い場合は、基準レベルよりも高いと見なされる(組織試料は(2+)または(3+)のスコアーを示す)。
【0078】
別の態様では、本発明は、
a)患者の生体試料中のXPGタンパク質およびBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)生体試料のコレクションでのBRCA1 mRNAの発現の中央値に対してBRCA1 mRNAの量を比較する段階と
を含むET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベルおよびBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す方法に関する。
【0079】
本発明の筆者らは、XPGタンパク質発現レベルとXPG遺伝子でのAsp1104His SNPの遺伝子型の同時検出により、癌患者におけるET-743治療の臨床転帰の予測の正確さの著しい増加が可能になることも観察した。したがって、好ましい実施形態では、XPGタンパク質レベルの、および随意にBRCA1レベルの決定に基づくET-743を使用して治療される癌患者の臨床転帰を予測するための方法は、XPG遺伝子の遺伝子座rs17655での遺伝子型の決定をさらに含み、(i)XPGタンパク質の中程度のもしくは高発現レベルが基準発現レベルよりも高い、および(ii)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、または(i)XPGタンパク質の中程度のもしくは高発現レベル、(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベル、および(iii)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0080】
XPGタンパク質レベルを基準値よりも高いと割り振ることは、上記の方法を使用して試料をXPGタンパク質の中程度(2+)または高(3+)発現レベルとして記録することにより与えられる。
【0081】
XPG遺伝子のAsp1104His SNPの遺伝子型により、野生型(W)遺伝子型を有する患者をその腫瘍にミュータント(M)またはヘテロ接合性(H)遺伝子型を有する患者と比較した場合、ET-743治療の臨床転帰に有意差が生じることも、本出願の発明者らは見出した。特に、実施例2に示されるように、臨床転帰が最も好ましいサブ母集団は、W遺伝子型の存在により定義される。M遺伝子型を有するサブ母集団はET-743治療からの利益を示しておらず、Asp1104His SNPのヘテロ接合性遺伝子型に対応するサブ母集団は、中間の転帰を示す(腫瘍制御(CR+PR+MR+SD≧6)、他覚症状ならびに患者の生存(PFSおよびOS))。
【0082】
したがって、追加の態様では、本発明は、ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階を含むET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す方法に関する。
【0083】
XPG遺伝子のAsp1104His SNPの遺伝子型を同定することは、「アレル増幅アッセイ」、SNP決定のためのマイクロアレイ、直接塩基配列決定、ハイブリダイゼーションプローブ、その他などの、SNPヌクレオチドバリアントの検出のための当技術分野で既知の多くの解析手順により実施することができる。
【0084】
好ましい実施形態では、XPG遺伝子のAsp1104His SNPの遺伝子型を同定することは、抽出されたゲノムDNA由来の特定の配列のPCR増幅に続き、前述のSNP遺伝子座を含有する増幅された領域を横切って直接塩基配列決定することによる遺伝子型のRFLP解析および確認によって実施することができる(Le Morvanら、Int. J. Cancer: 119、1732〜1735頁(2006))。野生型(W)遺伝子型またはAsp/Aspは、XPGタンパク質の1104位のAspをコードするNCBI受託番号NM_000123(配列番号1)に記載されるXPG遺伝子のmRNAの3753位に対応する、SNP遺伝子座rs17655での両対立遺伝子におけるヌクレオチドCの存在により決定される。バリアント/ミュータント(M)遺伝子型は、SNP遺伝子座での両対立遺伝子におけるGヌクレオチドの存在により決定され、ヘテロ接合性(H)遺伝子型は、同一遺伝子座での一方の対立遺伝子におけるCヌクレオチドおよび他方の対立遺伝子におけるGの存在により決定される。
【0085】
特定の実施形態では、SNP遺伝子型は、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織試料から得られるゲノムDNAを使用して決定される。その入手可能性に応じて、生検由来の新鮮なもしくは凍結組織、スワプス(swaps)、血液または他の体液試料などの、他の組織試料が予想される。
【0086】
さらに、本発明の筆者らは、XPG Asp1104His SNP遺伝子型とBRCA1発現レベルの複合解析は、ET-743に対する免疫応答の予測の正確さをさらに増加させることができることも見出した。特に、XPGの高レベルの発現およびBRCA1の低レベルの発現を有するヒト患者は、ET-743を使用した治療に対しより感受性であることが見出されており、したがって、このサブ母集団では、ET-743の有効性の増加を我々は見出した。
【0087】
したがって、好ましい実施形態では、XPG遺伝子におけるAsp1104His SNP遺伝子型に基づくET-743に対する臨床応答を予測する方法は、ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、前記生体試料中のBRCA1 mRNAの発現量を生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較する段階とをさらに含み、(i)XPG遺伝子のSNP遺伝子座rs17655での両対立遺伝子におけるCヌクレオチドの存在、および(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0088】
XPGの高レベルの発現およびXPG遺伝子のAsp1104His SNPに野生型遺伝子型を有するヒト患者はET-743を使用した治療に対しより感受性であることも見出された。したがって、好ましい実施形態では、XPG遺伝子におけるAsp1104His SNP遺伝子型に基づくET-743に対する臨床応答を予測する方法は、ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、前記生体試料中のXPG mRNAの発現量を生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値と比較する段階とをさらに含み、(i)XPG遺伝子のSNP遺伝子座rs17655での両対立遺伝子におけるCヌクレオチドの存在、および(ii)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0089】
さらに別の実施形態では、XPG遺伝子におけるAsp1104His SNP遺伝子型に基づくET-743に対する臨床応答を予測する方法は、ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、(a)の下での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階とをさらに含み、(i)XPG遺伝子のSNP遺伝子座rs17655での両対立遺伝子におけるCヌクレオチドの存在、および(ii)上記のXPGタンパク質の中程度または高発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0090】
さらに別の実施形態では、ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法は、生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型の決定、XPG mRNAの発現レベルの決定、およびBRCA1の発現レベルの決定を含んでいてよく、(i)SNP遺伝子座での両対立遺伝子におけるCヌクレオチドの存在、(ii)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベル、および(iii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0091】
さらに別の実施形態では、ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法は、生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型の決定、XPGタンパク質の発現レベルの決定、およびBRCA1の発現レベルの決定を含んでいてよく、(i)XPG遺伝子のSNP遺伝子座rs17655での両対立遺伝子におけるCヌクレオチドの存在、(ii)XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベル、および(iii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す。
【0092】
[癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するための方法]
本発明の筆者らは、ET-743に基づく化学療法は、XPG mRNAもしくはタンパク質の発現の中央値に等しいかまたはそれよりも上のXPG mRNAもしくはタンパク質の発現レベルを有する腫瘍の患者に特に効果的であることも観察しており、このことは、XPGの高発現レベルのせいでシスプラチンまたはドキソルビシンに対し応答不良の患者においてET-743がその有効性を維持することを示唆するものである。
【0093】
したがって、別の態様では、本発明は、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるXPG mRNAの発現レベルを、ヒト癌患者由来の生検試料中の腫瘍組織のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現レベルの値と比較する段階と、
c)前記XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法を提供する。
【0094】
本発明の第2の方法の異なる要素(XPG mRNAレベルの決定、中央値の決定など)は、基本的に本発明の第1の方法で記載された通りに実施されることは理解されるであろう。
【0095】
さらに、ET-743に基づく化学療法が、XPG mRNA発現レベル中央値に等しいかまたはそれよりも大きいXPG mRNA発現レベルおよびBRCA1 mRNA発現レベル中央値よりも小さいBRCA1 mRNA発現レベルを示している患者において選択されるように、ET-743に基づく個別化された化学療法はBRCA1およびXPG mRNAの発現レベルの複合検出に基づいて決定することもできることも、本発明の筆者らは観察した。したがって、好ましい実施形態では、XPG mRNAの発現レベルを決定することに基づいて、癌に罹ったヒト患者の個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法は、得られたXPGおよびBRCA1 mRNAの発現レベルを、ヒト癌患者由来の生体標本中の腫瘍組織のコレクションで測定されるXPGおよびBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値と比較し、前記XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きく、BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも小さい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択することを含む。
【0096】
XPG mRNAのレベルに基づいて、および随意にBRCA1 mRNAの発現レベルの決定を含む、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のXPGの遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型の同時決定によりさらに改良されてもよい。
【0097】
したがって、好ましい実施形態では、XPG mRNAのレベルに基づく個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも上であり、(ii) SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0098】
追加の好ましい実施形態では、XPG mRNAのレベルに基づく個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも上であり、(ii) SNP遺伝子座での対立遺伝子の両方にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0099】
さらに別の実施形態では、XPG mRNAのレベルに基づく個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、BRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、(i)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも上であり、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低く、および(iii) SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0100】
追加の好ましい実施形態では、XPG mRNAのレベルに基づく個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、BRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、(i)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも上であり、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低く、(iii)SNP遺伝子座での対立遺伝子の両方にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0101】
追加の態様では、本発明は、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)(a)の下での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、
c)前記XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法を提供する。
【0102】
好ましい実施形態では、XPGタンパク質レベルの決定は免疫組織化学解析(ICH)により実施される。
【0103】
さらに、ET-743に基づく個別化された化学療法を設計するための方法は、基準値よりも高いXPGタンパク質発現レベル(好ましくは、(2+)および(3+)のIHCスコアー)ならびにBRCA1 mRNA発現レベル中央値よりも小さいBRCA1 mRNA発現レベルを示している患者にET-743に基づく化学療法が選択されるように、BRCA1 mRNAおよびXPGタンパク質の発現レベルの同時検出にも基づいて決定することができることも本発明の筆者らは観察した。
【0104】
したがって、好ましい実施形態では、XPGタンパク質の発現レベルを決定することに基づいて、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法は、前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質およびBRCA1 mRNAの発現レベルを決定し、XPGタンパク質の発現レベルを基準値と比較し、BRCA1 mRNAの発現レベルを生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較し、前記BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低く、XPGタンパク質発現が(2+)または(3+)の値を有する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択することを含む。
【0105】
XPGタンパク質の発現レベルに基づいて、および随意にBRCA1 mRNAの発現レベルを考慮して、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法は、前記患者由来の生体試料中のXPGの遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型の同時決定によりさらに改良されてよい。
【0106】
したがって、好ましい実施形態では、XPGタンパク質のレベルに基づいて個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPGタンパク質発現レベルが上記の方法を使用して決定される(2+)または(3+)であり、および(ii) SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0107】
さらに好ましい実施形態では、XPGタンパク質のレベルに基づいて個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPGタンパク質発現レベルが基準値よりも高い(好ましくは、発現スコアーが(2+)または(3+)である場合)、および(ii) SNP遺伝子座での対立遺伝子の両方にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0108】
さらに別の実施形態では、XPGタンパク質のレベルに基づいて個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のBRCA1 mRNA発現レベルおよびXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPGタンパク質発現レベルが上記の方法を使用して決定される(2+)または(3+)であり、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低く、および(iii) SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0109】
追加の好ましい実施形態では、XPGタンパク質のレベルに基づいて個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者由来の生体試料中のBRCA1 mRNA発現レベルおよびXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPGタンパク質発現レベルが基準値よりも高い(好ましくは、発現スコアーが(2+)または(3+)の値を有する場合)、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低く、および(iii) SNP遺伝子座での対立遺伝子の両方にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0110】
本発明の筆者らは、ET-743に基づく化学療法が、XPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPのSNP遺伝子座遺伝子型の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおいてCヌクレオチドを示している患者に特に有効であることも観察した。したがって、別の態様では、本発明は、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、
b)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法に関する。
【0111】
XPG遺伝子座における遺伝子型に従って個別の化学療法を設計するための方法は、決定の正確さを高める追加のパラメータの決定をさらに含んでいてよい。したがって、好ましい実施形態では、方法は、ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、前記生体試料中のBRCA1 mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較する段階と、(i)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在し、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低い場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0112】
さらに別の実施形態では、XPG遺伝子座における遺伝子型に従って個別の化学療法を設計するための方法は、ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、前記生体試料中のXPG mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値と比較する段階と、(i) SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在し、(ii)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0113】
さらに別の実施形態では、XPG遺伝子座における遺伝子型に従って個別の化学療法を設計するための方法は、前記患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、前記の基準を使用して決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、(i)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在し、(ii)XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む。
【0114】
追加の好ましい実施形態では、本発明は、癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、
b)SNP遺伝子座での対立遺伝子の両方にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法に関する。
【0115】
[ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するための方法]
追加の態様では、本発明は、ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるXPG mRNAの発現レベルを、ヒト癌患者由来の生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現レベルの中央値と比較する段階と、
c)XPG mRNAの発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値よりも低い場合は「低レベル」として、XPG mRNAの発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高い場合は「高レベル」として定義される2グループのうちの1つに患者を分類する段階と、
d)ET-743に基づく化学療法治療について「高レベル」グループに分類された前記患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法に関する。
【0116】
さらに別の態様では、本発明は、ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)段階(a)での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、
c)ET-743に基づく化学療法治療について(2+)および(3+)グループに分類される前記患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法に関する。
【0117】
好ましい実施形態では、XPGタンパク質の発現レベルの決定を伴うヒト患者を選択するためのスクリーニング法では、このタンパク質の発現レベルは免疫組織化学解析(IHC)により決定される。
【0118】
別の実施形態では、本発明は、ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、
b)SNP遺伝子座の両対立遺伝子にCヌクレオチドが存在する場合は「野生(W)型」遺伝子型として、SNP遺伝子座の両対立遺伝子にGヌクレオチドが存在する場合は「ミュータント(M)」遺伝子型として、SNP遺伝子座の一方の対立遺伝子にCヌクレオチドが存在し、もう一方の対立遺伝子にGヌクレオチドが存在する場合は「ヘテロ接合性(H)」遺伝子型として定義される3グループのうちの1つに患者を分類する段階と、
c)ET-743に基づく化学療法治療について「野生(W)型」グループまたは「ヘテロ接合性(H)」グループに分類される患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法に関する。
【0119】
癌に罹った患者におけるET-743を使用した治療に対する臨床応答を予測するための本発明の方法、ET-743に基づく化学療法のために患者を選択するための、または患者のためにET-743に基づく個別の化学療法を設計するための本発明の方法は、制限なく、肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳癌、メラノーマ、結腸直腸癌、中皮腫、腎癌、子宮内膜癌および肺癌、好ましくは、軟部肉腫、および最も好ましくは、平滑筋肉腫、脂肪肉腫または骨肉腫を含む多様な種類の癌に罹った患者に適用することができる。
【0120】
ET-743を使用した治療に対する癌に罹った患者の臨床応答を予測するための本発明の方法ですでに記載されているように、ET-743に基づく化学療法のために患者を選択するための、または患者のためにET-743に基づく個別の化学療法を設計するための本発明の方法は、生検試料、組織、細胞または体液(血清、唾液、精液、痰、脳脊髄液(CSF)、涙、粘液、汗、乳、脳抽出液など)などの患者由来のどんな種類の試料においても実施することができる。化学療法耐性に対する腫瘍感受性の試験のために、腫瘍組織を試験するのが好ましい。好ましい実施形態では、腫瘍を入手した患者由来の正常組織の一部も試験される。
【0121】
[治療法]
本発明の筆者らは、驚くべきことに、XPGタンパク質としてまたはXPG mRNAとして測定されるXPGのある種の発現レベルを有するヒト癌患者におけるET-743の使用により、ヒトにおける抗腫瘍効果を増加することができることを見出した。
【0122】
したがって、別の態様では、本発明は、mRNA発現により検出される高レベルのXPG遺伝子発現を有するヒト患者における癌の治療のためのET-743の使用を対象とする。本発明は、前記患者由来の生体試料におけるXPG mRNAの発現レベルを決定し、前記XPG mRNA発現レベルが高ければET-743を使用して患者を治療することを含む、ヒト患者における癌を治療する方法に関する。
【0123】
1よりも高いXPG mRNAレベルのヒト癌患者の治療が好ましく、1.5に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAレベルのヒト癌患者の治療が非常に好ましく、1.55に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAレベルのヒト癌患者の治療が最も好ましい。
【0124】
本発明は、XPGタンパク質の高レベルの発現を有するヒト患者における癌の治療のためのET-743の使用にも関する。好ましくは、ET-743を使用して治療されるヒト癌患者は、基準値よりも高いXPGタンパク質発現レベルを示す。適切な基準値はすでに記載済みである。さらに好ましい実施形態では、患者の試料中のXPG発現は前述の負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録され、それによって治療される患者は、(1+)より高い、さらに好ましくは(2+)に等しいかまたはそれよりも高い発現レベルを示す患者である。本発明は、ヒト患者における癌を治療する方法であって、前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定し、前記XPGタンパク質発現レベルが基準レベルよりも高ければET-743を使用して患者を治療することを含む方法に関する。
【0125】
XPG mRNAまたはタンパク質のレベルに基づく本発明の治療法は、BRCA1 mRNAのレベルの決定をさらに含み、高発現レベルのXPG mRNAおよび/またはXPGタンパク質ならびに低発現レベルのBRCA1 mRNAを有する患者にET-743が使用される。したがって、本発明は、XPG mRNAおよび/またはXPGタンパク質の発現レベルが高い場合、およびBRCA1 mRNAの発現レベルが低い場合の患者における癌の治療で使用するためのET-743に関する。
【0126】
本発明は、XPG遺伝子の遺伝子座rs17655にAsp1104His SNPの「野生型」遺伝子型を有する患者の治療のための方法も提供する。好ましい実施形態では、XPG遺伝子の遺伝子座rs17655にAsp1104His SNPの「野生型」遺伝子型を、および低発現レベルのBRCA1を有する患者の治療のためにET-743は使用される。本発明は、患者がXPG遺伝子の遺伝子座rs17655にAsp1104His SNPの「野生型」遺伝子型を有し、随意に患者が低発現レベルのBRCA1を示す場合の、ET-743を使用した癌患者の治療のための方法にも関する。
【0127】
本発明の筆者らは、DNA修復遺伝子のXPD、ERCC1およびERCA1のmRNA発現レベルが、癌患者におけるET-743に対するなんらかのディファレンシャルな感受性を誘導するかどうかを以前評価した。XPDおよびERCC1は、たとえば、サルコーマ患者においてET-743に対してはいかなるディファレンシャルな感受性も誘導しないことが見出されたが、驚くべきことに、BRCA1はET-743を使用して治療された癌患者の臨床転帰と高い相関関係があることが見出された。したがって、別の態様では、本発明は、高発現レベルのXPG mRNAおよび低発現レベルのBRCA1 mRNAを有するヒト患者における癌の治療のためのET-743の使用にも関する。さらに別の態様では、本発明は、高発現レベルのXPGタンパク質および低発現レベルのBRCA1 mRNAを有するヒト患者における癌の治療のためのET-743の使用にも関する。1よりも高いXPG mRNAレベルおよび3よりも低いBRCA1 mRNAレベルを有するヒト癌患者における治療は好ましく、1.5に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAレベルおよび2.5に等しいかまたはそれよりも低いBRCA1 mRNAレベルを有するヒト癌患者における治療ははるかに好ましく、1.5に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAレベルおよび2に等しいかまたはそれよりも低いBRCA1 mRNAレベルを有するヒト癌患者における治療は非常に好ましく、1.55に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAレベルおよび2.36に等しいかまたはそれよりも低いBRCA1 mRNAレベルを有するヒト癌患者における治療は最も好ましい。さらに、(1+)よりも高いXPGタンパク質のスコアー発現および3よりも低いBRCA1 mRNAレベルを有するヒト癌患者における治療は好ましく、(2+)に等しいかまたはそれよりも高いXPGタンパク質のスコアー発現および2.5に等しいかまたはそれよりも低いBRCA1 mRNAレベルを有するヒト癌患者における治療ははるかに好ましく、(2+)に等しいかまたはそれよりも高いXPGタンパク質のスコアー発現および2に等しいかまたはそれよりも低いBRCA1 mRNAレベルを有するヒト癌患者における治療は最も好ましい。
【0128】
用語「ET-743」は、本明細書では、患者に投与すると、本明細書に記載する化合物を(直接的にまたは間接的に)与えることが可能な任意の薬剤的に許容可能な塩、エステル、溶媒和化合物、水和物または他の任意の化合物をも網羅することを目的とする。しかし、非薬剤的に許容可能な塩も本発明の範囲内に入ることは認識されるであろう。なぜならば、これらの塩は薬剤的に許容可能な塩の調製に有用である可能性があるからである。塩およびプロドラッグおよび誘導体の調製は、当技術分野で既知の方法によって実施することができる。本発明に従って使用するためのET-743は、入手可能な参考資料に記載されているエクテナシディアトゥラビナタからの単離および精製により天然物として入手してよい。代わりに、ET-743は半合成または合成工程により調製してよく、たとえばWO 00/69862およびWO 01/87895を参照されたい。これらの特許文献は両方とも参照により本明細書に組み込まれているものとする。
【0129】
ET-743は、治療上の使用に適した配合でET-743および賦形剤を含む無菌凍結乾燥製剤として供給し貯蔵してよい。特に、ET-743、ショ糖および適切なpHに緩衝されたリン酸塩を含有する配合は、本発明の目的に適している。他の適切な配合では、無菌凍結乾燥製剤の形のET-743は、マンニトールおよび適切なpHに緩衝されたリン酸塩と一緒に与えられる。ET-743配合に関する追加のガイダンスはWO 2006/046079に与えられており、この特許文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれているものとする。
【0130】
単剤として、ET-743は、通常療法に対し再発したサルコーマ、シスプラチンパクリタキセルに耐性のまたは再発した卵巣癌を宿す患者の小集団において、ならびにドキソルビシンにおよびタキサンに曝された乳癌患者において、持続的な寛解および腫瘍制御を誘導することが判明している。
【0131】
点滴によりET-743を投与するのが現在は好ましい。点滴段階は典型的には、必要に応じて、たとえば、1〜20サイクルにわたり繰り返してよい循環方式で繰り返される。サイクルには、ET-743を点滴する段階、および通常はET-743を点滴しない段階も含まれる。典型的には、サイクルは数週間で実現され、したがって、サイクルは通常、1または複数週間のET-743点滴段階とサイクルを完結するための1または複数週間を含む。3週間のサイクルが好ましいが、代わりに、サイクルは2〜6週間が可能である。点滴段階それ自体は、たとえば、1〜72時間、もっと一般的には約1、3もしくは24時間の各サイクルで単回投与、または、好ましくは1〜5時間、特に1もしくは3時間のサイクルの点滴段階で毎日の点滴、または、好ましくは1〜3時間、特に2もしくは3時間のサイクルの点滴段階で毎週の点滴が可能である。我々は現在、各サイクルの開始時の単回投与を好む。好ましくは、点滴時間は約1、3または24時間である。
【0132】
用量は、用量制限毒性に関する既存のデータを考慮して、服薬スケジュールに従って選択されることになり、このデータに関しては、たとえば、上記のWO 00/69441およびWO 03/39571特許明細書を参照されたい。Kesteren、Ch. Vanら、2003年、Anti-Cancer Drugs、14(7)、487〜502頁も参照されたい。この論文も具体的参照により本明細書にその全体を組み込まれているものとする。
【0133】
代表的スケジュールおよび用量は、たとえば、
a)約1.5mg/m2体表面積については、サイクル間に3週間の間隔をあけて24時間かけて静脈点滴として投与される、
b)約1.3mg/m2体表面積については、サイクル間に3週間の間隔をあけて3時間かけて静脈点滴として投与される、
c)約0.580 mg/m2体表面積については、3週間の間に3時間かけて静脈点滴として毎週投与され、1週間休止する
である。
【0134】
Kesteren、Ch. Vanらによる論文で注目されているように、ET-743とデキサメタゾンの組合せは思いがけない利点を与える。この組合せは肝臓予防に関与する。したがって、我々は、典型的にはET-743を点滴する前後に患者にデキサメタゾンを投与するほうを好む。たとえば、ET-743の前日に、および/またはET-743の翌日にデキサメタゾンを投与するほうを好む。デキサメタゾンの投与は、たとえば、ET-743に続いて2日以上まで延長することができる。特に、サイクルの1日目のET-743の単回投与に対して-1、2、3および4日目にデキサメタゾンを投与するほうを好む。
【0135】
本発明に従った使用において、化合物ET-743は他の薬物と一緒に使用して併用療法を提供してよい。他の薬物は同一組成物の一部を形成しても、同時にまたは別の時間に投与のため別々の組成物として提供してもよい。他の薬物の種類は特に制限されてはおらず、適切な候補には、a)抗有糸分裂効果のある薬物、特に、タキサン薬物(たとえば、パクリタキセル、タキソテール、ドセタキセル)、ポドフィロトキシンまたはビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン)などの微小管修飾薬を含む細胞骨格エレメントを標的する薬物、b)代謝拮抗薬(たとえば、5-フルオロウラシル、シタラビン、ゲムシタビン、ペントスタチン、メトトレキサートなどのプリン類似物)、c)アルキル化剤またはナイトロジェンマスタード(たとえば、ニトロソウレア、シクロホスファミドまたはイホスファミド)、d)アントラサイクリン薬物アドリアマイシン、ドキソルビシン、ファルモルビシンまたはエビルビシンなどのDNAを標的する薬物、e)エトポシドなどのトポイソレラーゼを標的する薬物;エストロゲン、抗エストロゲン剤(タモキシフェンおよび関連化合物)およびアンドロゲン、フルタミド、リュープロレリン、ゴセレリン、シプロテロンまたはオクトレオチドなどのホルモンならびにホルモンアゴニストまたはアンタゴニスト、g)ハーセプチンなどの抗体誘導体を含む腫瘍細胞におけるシグナル伝達を標的する薬物、h)白金薬(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、パラプラチン)またはニトロソウレアなどのアルキル化薬、i)マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害薬などの腫瘍の転移に潜在的に影響を与える薬物、j)遺伝子治療およびアンチセンス薬、k)抗体治療薬、l)海産物由来の他の生物活性化合物、特にアプリジンなどのジデムニン、m)ステロイド類似物、特にデキサメタゾン、n)非ステロイド薬(たとえば、アセトアミノフェンまたはイブプロフェン)またはステロイドおよびその誘導体、特にデキサメタゾンを含む抗炎症薬、ならびに0)5HT-3阻害薬(たとえば、パロノセトロン、グラニセトロンまたはオンダンセトロン)を含む制吐薬が挙げられる。
【0136】
腫瘍の種類および疾患の発生段階に応じて、本発明の治療法は、腫瘍退縮を促進するのに、腫瘍増殖を止めるのにおよび/または転移を防ぐのに有用である。特に、本発明の方法は、ヒト患者、特に以前の化学療法に対して再発しているまたは抵抗性である患者に適している。一次治療も予想される。
【0137】
用量のためのガイダンスは上に与えてあるが、化合物の正確な用量は、特定の配合、適用方式、ならびに処置されている特定の部位、宿主および腫瘍に応じて変わることになる。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄速度、宿主の状態、薬物組合せ、反応感受性および疾患の重症度のような他の要因を考慮に入れるものとする。投与は、最大耐量内で連続して、または周期的に実施することができる。
【0138】
本発明に従ったET-743の使用は、肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳癌、メラノーマ、結腸直腸癌、中皮腫、腎癌、子宮内膜癌および肺癌の治療に特に好ましく、好ましくは、軟部肉腫、および最も好ましくは、平滑筋肉腫、脂肪肉腫または骨肉腫である。
【0139】
さらに簡潔な説明をするために、本明細書で与えられる量的表現の一部は、用語「約」では適さない。用語「約」が明確に使用されていてもそうでなくても、本明細書に与えられるすべての量は実際の任意の値に言及するように意図されており、そして、そのような任意の値のための実験および/または測定条件のせいで、当技術分野の通常の技術に基づいて合理的に推測されるような任意の値の近似(同等量および近似値を含む)にも言及するように意図されていると理解されている。
【0140】
以下の実施例は本発明をさらに例証する。以下の実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0141】
(実施例1:試料および臨床データの収集)
本研究において、任意の化学療法剤での治療前の肉腫患者由来の160のパラフィン包埋腫瘍試料を評価した。
【0142】
患者の大多数を、1または数種の化学療法剤で先に治療し、その後ET-743で治療した。異なる患者に与えられたET-743の静脈内注入(IV)の投薬量は、1.650-1.0mg/m2の範囲内であった。スケジュールは、3週間のサイクル間間隔で、24時間または3時間のIV注入であった。サイクル数は、一部の患者では、1から44サイクルまでの範囲であった。
【0143】
患者由来の臨床データを、臨床データ収集形態で収集し、mRNAおよびタンパク質の発現レベル決定の完了後に分子データと一致させた(Table 1(表1))。
【0144】
(XPG mRNA発現レベルの定量)
本発明者らは、以前に記載されたように(Specht K.らAm J Pathol、2001年、158、419〜429頁およびKrafft AE.らMol Diagn. 1997、3、217〜230頁)、160人の患者由来のホルマリン固定したパラフィン包埋腫瘍検体におけるXPG遺伝子発現を試験した。キシレンおよびアルコールを使用した標準組織試料の脱パラフィン化後、試料をtris-クロライド、EDTA、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびプロテイナーゼKを含有する緩衝液中で溶解させた。次いで、RNAをフェノール-クロロホルム-イソアミルアルコールで抽出し、その後グリコーゲンおよび酢酸ナトリウムの存在下でイソプロパノールで沈殿させた。RNAをRNA保存溶液(Ambion Inc;Austin TX、USA)中に再懸濁し、DNAse Iで処理してDNA汚染を回避した。cDNAは、M-MLV逆転写酵素を使用して合成した。テンプレートcDNAを、各遺伝子に特異的なプライマーおよびプローブを含む20μlの反応物中のTaqman Universal Master Mix(AB;Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)に添加した。プライマーおよびプローブのセットは、Primer Express 2.0 Software(AB)を使用して設計した。遺伝子発現の定量は、ABI Prism 7900HT Sequence Detection System(AB)を使用して実施した。プライマーおよび5'標識蛍光レポーター色素(6FAM)プローブは以下の通りであった:β-アクチン:フォワード5' TGA GCG CGG CTA CAG CTT 3'(配列番号2)、リバース5' TCC TTA ATG TCA CGC ACG ATT T 3'(配列番号3)、プローブ5' ACC ACC ACG GCC GAG CGG 3'(配列番号4);XPG:フォワード5' GAA GCG CTG GAA GGG AAG AT 3'(配列番号5)、リバース5' GAC TCC TTT AAG TGC TTG GTT TAA CC 3'(配列番号6)、プローブ5' CTG GCT GTT GAT ATT AGC ATT 3'(配列番号7)。
【0145】
相対的遺伝子発現の定量は、β-アクチンを内在性対照として使用し、市販のRNA対照(Stratagene、La Jolla、CA)を標準物質として使用する比較Ct法に従って計算した。最終結果は以下のように決定した:2-(ΔCt試料-ΔCt-標準物質)(式中、標準物質および試料のΔCT値は、β-アクチン遺伝子のCT値から標的遺伝子のCT値を差し引くことによって決定される)。これを、製造業者(AB)が推奨するTechnical Bulletin #2に従って実施した。すべての実験において、Ct値<0.20の標準偏差(SD)を有する三つ組のみを許容した。さらに、分析した各試料について、逆転写酵素なしの対照を同じプレートで実施して、ゲノムDNA汚染がないことを確実にした。
【0146】
(XPGタンパク質発現レベルの定量)
XPG発現の免疫組織化学(IHC)分析を、研究した患者由来の腫瘍組織の組織円柱を含むTissue Micro-Arrays(TMA)で実施した。TMAは以下のように構成した:2つの1.5mm直径の組織円柱を、各保存記録のあるパラフィンブロックの代表的な領域から採取し、注文製の精密機器(Beecher Instruments、Silver Spring、MD)を用いて新たなレシピエントパラフィンブロックへと配列した(Kononenら(1998).Nat.Med.1998年、4、844〜847頁)。円柱コアのために選択した領域は、高い腫瘍細胞充実性を有した。各原発性腫瘍の最も活性な部分を評価するために、大きい病変中の腫瘍およびより小さい試料中のすべての腫瘍細胞の浸潤境界を選択した。さらに、正常組織(皮膚、扁桃腺、反応性リンパ組織)および公知の細胞周期の変化を有する3つの異なる株化細胞を、腫瘍組織に隣接して配置させて内部対照として機能させ、染色スライドの品質を保証した。最初の切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色して、病理組織学的知見を検証した。
【0147】
XPGタンパク質発現の特徴付けを、免疫組織化学分析(IHC)によって実施した。このとき、TMAブロック由来の3マイクロメートルの組織切片を切片化し、特別な免疫組織化学被覆スライド(Dako、Glostrup、Denmark)にアプライした。これらのスライドを、56℃のオーブン中で一晩ベーキングした。切片を20分間キシレン中で脱パラフィン化し、段階的エタノール系列で再水和し、リン酸塩緩衝化生理食塩水で洗浄した。抗原賦活化を、あらかじめ沸騰させておいた10mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)1Lを含む圧力釜中での2分間の加熱処理によって達成した。染色前に、内在性ペルオキシダーゼ活性を、メタノール中1.5%の過酸化水素で10分間クエンチした。免疫組織化学染色を、XPGタンパク質の検出のために、XPG/ERCC5 Ab-1(Clone 8H7)、Mouse Monoclonal Antibody、(Thermo Scientific、カタログ番号MS-674-P0)、(希釈倍率1/100)を使用してこれらの切片に対して実施した。インキュベーション後、核マーカーの場合、免疫検出を、製造業者の指示に従って3,3'-ジアミノベンジジン色素原を基質として使用して、LSAB Visualization System(Dako、Glostrup、Denmark)を用いて実施した。さらに、可能なときはいつでも、細胞質マーカーを、観察された反応性における内在性メラニンの役割の可能性を排除するために、ネオフクシン色素原を基質として使用して、アルカリホスファターゼ抗アルカリホスファターゼシステム(APAAPシステム、Dako、Glostrup、Denmark)を用いて可視化した。すべての切片をヘマトキシリンで対比染色した。陰性対照は、一次抗体を除外することによって得た。
【0148】
この方法の再現性を維持するために、免疫染色強度を、2人の異なる病理学者が評価し、均一かつ明確なカットオフ基準を使用してスコアー化した。矛盾は同時再評価によって解決した。簡潔に述べると、免疫染色の結果は、腫瘍細胞中の発現および具体的カットオフを考慮して、負の発現(0)対正の発現、および低い発現(1+)対中程度の発現(2+)および高い発現(3+)として記録した。一般的な基準として、カットオフは、再現性を促進するため、および可能な場合には生物学的事象を解釈するために、選択される。
【0149】
したがって、(0)、(1+)、(2+)または(3+)のタンパク質発現レベルに関する値を、IHC調製物の染色のレベルに従って病理学者が決定した。(0)、(1+)、(2+)または(3+)の値は、ET-743での治療前の、癌患者由来の生検試料中のXPG特異的抗体を用いた場合の、腫瘍細胞の、それぞれ無色(発現なしを意味する)、低い、中程度および高い染色に対応する。各場合を、陽性細胞の数に基づいて、以下のように半定量的カテゴリーに割り当てた:陰性、すなわち(0)(陽性の新生物細胞なし)、低い、すなわち(1+)(1〜15%の陽性の新生物細胞);中程度、すなわち(2+)(>15〜50%の陽性の新生物細胞)および高い、すなわち(3+)(>50〜100%の陽性の新生物細胞) 。この手順は、病理学者によって客観的に決定されるものではあるが、IHC結果の測定の標準的な方法であり、当技術分野で周知のものが使用される。
【0150】
(BRCA1 mRNA発現レベルの定量)
BRCA1 mRNA発現レベルを、WO 2006/005602中にすでに記載された手順に従って評価および定量した。
【0151】
(統計的方法)
SAS v8.2(統計ソフトウェア)を、すべての統計的分析に使用した。単変量、二変量および多変量変数のための統計的技術を、分析される変数の性質に従って選択した。すなわち、従属変数が打ち切り状態(センサーステータス:censor status)を有する一次変数である場合にはCox回帰を適用し、変数間の相関が計算される場合には、Pearsonおよび/またはSpearman測定を使用する。適切な95%信頼区間もまた提示される場合には、0.05未満のP値を、すべての試験において統計的に有意であると見なす。
【0152】
(患者コホート)
mRNAまたはタンパク質の発現についての評価可能な結果を提供する合計160のパラフィン包埋腫瘍試料を分析した。Table 1(表1)は、160人の患者の最も適切な臨床データおよび分子データを示す(CR:完全寛解;PR:部分応答;MR:やや有効;SD:安定;PD:進行性疾患;OS:全生存期間;PFS:無増悪生存期間)。これらの試料は、化学療法剤で治療する前の肉腫患者に由来した。
【0153】
ET-743での治療後、140人の評価可能な患者における奏効率(RR)は、完全寛解+部分応答を考慮した場合、16.4%であった((1 CR+22 PR)/140人の評価可能な患者)。さらに、7.1%の患者はやや有効(MR)であり(10 MR/140)、32.9%(46/140人の患者)は安定(SD)を有した。腫瘍制御率((CR+PR+MR+SD≧6mo)は、47.1%の患者(66/140)において達成され、58人の患者(41.4%)が、無増悪生存期間≧6カ月(PFS6)を達成した。応答の持続時間中央値(CR+PR+MR)は7.83カ月であり(47.4カ月から1.83カ月の範囲)、46のSDのうち33がPFS6を達成した。生存期間中央値は10カ月(0.4-65.9カ月)であったが、51人の患者がなお打ち切り例(censored)となっている。Kaplan-Meierプロットによれば、無増悪生存期間中央値は3.8カ月であり、PFS6率は42.1%であり、生存期間中央値は17.7カ月である(図1)。
【0154】
【表1A】

【0155】
【表1B】

【0156】
【表1C】

【0157】
【表1D】

【0158】
【表1E】

【0159】
(XPG mRNA発現レベルとET-743治療転帰との相関)
β-アクチン(内部対照)に対するXPG mRNAの量を、116の試料中で決定した。この量は、0.26から8.68の範囲であり、最小値から最大値まで33.4倍の差異であった。発現中央値は1.55であった。
【0160】
XPG mRNAの発現レベルと、ET-743で治療した患者の臨床転帰との間の関連をTable 2(表2)に示す。
【0161】
【表2】

【0162】
Table 2(表2)は、他覚症状および腫瘍制御についての割合が、コホートの中央値(1.55)を上回るXPG mRNAの発現値を有する患者においてより高いことを示す。10%の他覚症状および36%の腫瘍制御を示した、低い発現レベルのXPG mRNAを有する患者と比較して、高い発現レベルのXPG mRNAを有するこれらの患者の他覚症状は19%であり、腫瘍制御は56%である。
【0163】
同様に、PFS6に到達する確率は、高いXPG mRNA発現を有する患者において、統計的に有意により高い。実際、KMプロットに従えば、高いXPG mRNA発現を有する患者の52.1%がPFS6エンドポイントに到達したが、一方で、低い発現を有する患者の29.5%のみがPFS6に到達した。臨床応答およびPFS6との相関が有意であるという事実は、XPG mRNA発現レベルが、ET-743での治療に関するマーカーであるが、腫瘍侵襲性のマーカーではないことを示している。
【0164】
このことは、XPG mRNA発現に従って、多数の患者コホートを2つの等価なサブ母集団へ細分化することにより、対象とするサブ母集団におけるET-743効力の増加:他覚症状における10%(6/59)から19%(11/57)への増加(1.9倍の増加)および腫瘍制御率における36%(21/59)から56%(32/57)への増加(1.6倍の増加)が生じることを意味する。
【0165】
図2および図3のKaplan-Meierプロットは、中央値(1.55)を下回るXPG発現を有する患者に対して、それぞれPFSにおける統計的に有意な差異[p=0.0021]および生存における傾向[p=0.2367]を示す。生存期間中央値は、高い発現患者について19.1カ月であり、低い発現患者について9.3カ月であった。さらに、PFS中央値は、高い発現患者について7.1カ月であり、低い発現患者について2.5カ月であった。PFS6を有する患者の割合は、それぞれ29.5%および52.1%であった。これらの差異は、それぞれ[p=0.0021]および[p=0.0107]で統計的に有意である。最後に、12カ月での生存は、高いXPG mRNA発現を有する患者について61.9%であり、低いXPG mRNA発現を有する患者について46.2%であった[p=0.1034]。
【0166】
(XPGタンパク質発現レベルとET-743治療転帰との相関)
XPGタンパク質の量を、ET-743で治療した肉腫患者由来のパラフィン包埋腫瘍組織92試料において決定した。発現のスコアーは、0(XPGタンパク質の発現なし)、1+(低い発現)、2+(中程度の発現)および3+(高い発現)として決定した。各発現スコアー化群中の試料数は、それぞれ58(60.0%)、9(9.5%)、20(21.7%)および5(5.4%)であった。
【0167】
XPGタンパク質の発現レベルとET-743で治療した患者の臨床転帰との間の関連を試験するために、患者を2つのサブ母集団にグループ分けした:XPGタンパク質の発現が低いかまたは発現のない低い発現者(スコアー0および1+:67人の患者)ならびに中間および高い発現を有する高い発現者(スコアー2+および3+:25人の患者)。これら2つのサブ母集団における臨床転帰の相関をTable 3(表3)中に示す。
【0168】
【表3】

【0169】
Table 3(表3)は、他覚症状および腫瘍制御についての比率が、2+および3+のXPGタンパク質の発現スコアーを有する患者においてより高いことを示している。13%の他覚症状および42%の腫瘍制御を示した、0および1+の発現スコアーを有する患者と比較して、2+および3+の発現スコアーを有するこれらの患者の他覚症状は24%であり、腫瘍制御は60%である。
【0170】
同様に、PFS6に到達する確率は、高いXPGタンパク質発現を有する患者において、より高い。実際、高いXPG発現(発現スコアー2+および3+)を有する患者の55.6%がPFS6エンドポイントに到達したが、一方で、低い発現(発現スコアー0および1+)を有する患者の39.9%のみがPFS6に到達した。
【0171】
XPGタンパク質発現に従って、多数の患者コホートを2つの等価なサブ母集団へ細分化することにより、対象とするサブ母集団におけるET-743効力の増加:他覚症状における13%(8/64)から24%(6/25)への増加(1.85倍の増加)および腫瘍制御率における42%(27/64)から60%(15/25)への増加(1.43倍の増加)が生じる。
【0172】
図4および図5のKaplan-Meierプロットは、高いXPGタンパク質発現を有する患者に対して、それぞれPFSにおける統計的に有意な差異[p=0.0411]および生存における傾向[p=0.107]を示す。生存期間中央値は、高い発現患者について27.7カ月であり、低い発現患者について11.7カ月であった。さらに、PFS中央値は、高い発現患者について7.1カ月であり、低い発現患者について3.7カ月であった。PFS6を有する患者の割合は、それぞれ55.6%および39.9%であった。PFS中央値における差異は、統計的に有意であり[p=0.0411]、PFS6および生存期間中央値は、それぞれ[p=0.184]および[p=0.107]で、高いXPGタンパク質発現患者に対するより良い転帰の明らかな傾向を示した。最後に、12カ月での生存は、低いXPGタンパク質発現を有する患者について45.5%であり、高いXPG mRNA発現を有する患者について73.7%であった(統計的に有意な差異[p=0.0299])。
【0173】
(XPG mRNAおよびBRCA1 mRNAの発現レベルとET-743治療転帰との相関)
β-アクチン(内部対照)に対するXPG mRNAの量を、106の試料において決定した。この量は、0.26から8.68の範囲であり、最小値から最大値まで33.4倍の差異であった。発現中央値は1.55であった。これらの試料において、β-アクチン(内部対照)に対するBRCA1 mRNAの量は、0.17から17.13の範囲であり、見出された最小値から最大値まで100.1倍の差異であった。発現中央値は2.36であった。
【0174】
XPG mRNAおよびBRCA1 mRNAの合わせた発現レベルと、ET-743で治療した106人の患者の臨床転帰との間の関連を、Table 4(表4)中に示す。
【0175】
【表4】

【0176】
総患者集団を、BRCA1 mRNAおよびXPG mRNAの合わせた発現に従って、4つのサブ母集団に分割した。Table 4(表4)は、低い発現レベルのBRCA1(2.36より低い中央値)および高い発現レベルのXPG(1.55を超える中央値)を有するサブ母集団が、ET-743での治療後の最良の転帰を有することを示している。同様に、これら2つの遺伝子の反対の発現(高い発現レベルのBRCA1(2.36を超える中央値)および低い発現レベルのXPG(1.55より低い中央値))を有するサブ母集団は、最悪の転帰を有した。残り2つのサブ母集団は、未選択の集団の転帰と匹敵する、中間の転帰を有する。
【0177】
実際、低いBRCA1発現および高いXPG発現のサブ母集団(好ましいサブ母集団)は、反対のサブ母集団よりも、PFS中央値(7.3カ月対2.5カ月、p=0.023)およびPFS>6率(55.7%対22.2%、p=0.023)に関して、良好な転帰を有する。
【0178】
これは、BRCA1 mRNAおよびXPG mRNAの合わせた発現に従って、多数の患者コホートを4つのサブ母集団へ細分化することにより、ET-743治療後の転帰に従って3つの異なるサブ母集団を区別することを意味する(図6および図7)。7.3カ月のPFS中央値、PFS6率55.7%およびOS中央値15.4カ月を有する、低いBRCA1発現および高いXPG発現を有する好ましいサブ母集団;2.5カ月のPFS中央値、PFS6率22.2%およびOS中央値6.6カ月を有する、高いBRCA1発現および低いXPG発現を有する好ましくないサブ母集団;ならびに2.8カ月のPFS中央値、PFS6率36.6%およびOS中央値13.6カ月を有する、ET-743に対する応答の中間の予後を有するサブ母集団(高いBRCA1発現および高いXPG発現、または低いBRCA1発現および低いXPG発現)。
【0179】
結論として、mRNAまたはタンパク質の発現の両方に関して、XPGの発現は、ET-743で治療した癌患者の臨床転帰と相関するバイオマーカーである。実際、XPG mRNA発現レベルまたはXPGタンパク質発現レベルに従って、多数の患者コホートを2つのサブ母集団へ細分化することにより、他覚症状、PFSおよび生存に関して、対象とするサブ母集団におけるET-743効力の顕著な増加が生じる。さらに、XPG mRNAの発現をBRCA1遺伝子の発現と合わせると、応答の予測を精緻化することができる。
【0180】
(実施例2:試料および臨床データの収集)
本研究において、任意の化学療法剤での治療前の肉腫患者由来の168のパラフィン包埋腫瘍試料を評価した。
【0181】
患者の大多数を、1または数種の化学療法剤で先に治療し、その後ET-743で治療した。異なる患者に与えられたET-743の静脈内注入(IV)の投薬量は、1.650-1.0mg/m2の範囲内であった。スケジュールは、3週間のサイクル間間隔で、24時間または3時間のIV注入であった。サイクル数は、一部の患者では、1から44サイクルまでの範囲であった。
【0182】
患者由来の臨床データを、臨床データ収集形態で収集し、分子データと一致させた(Table 5(表5))。
【0183】
XPGのmRNAおよびタンパク質の発現レベルの定量ならびにBRCA1 mRNA発現レベルの定量を、実施例1に記載したように実施した。
【0184】
(XPG遺伝子におけるAsp1104His SNPの遺伝子型同定)
パラフィン包埋腫瘍試料におけるXPGの一塩基多型(SNP)の遺伝子型同定を、抽出したゲノムDNAのPCR増幅後のRFLP分析と、その後の、以前に記載されたように(Le Morvanら.、Int.J.Cancer:119、1732-1735(2006))、SNP遺伝子座を含む増幅領域に亘る直接塩基配列決定によって実施した。簡潔に述べると、PCR産物を、20mMのTris-HCl、50mMのKCl、2.0mMのMgCl2、0.11mMの各dNTP、0.3mMのフォワードプライマーTGG ATT TTT GGG GGA GAC CT(配列番号8)および0.3mMのリバースプライマーCGG GAG CTT CCT TCA CTG AGT(配列番号9)ならびに0.3UのTaq DNAポリメラーゼを含む反応容積10ml中、10ngのゲノムDNAを使用して生成した。PCRのための温度条件は、94℃で30秒間の変性、57℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長、および72℃で5分間の最終伸長として設定した。増幅フラグメントを、Hsp92II制限エンドヌクレアーゼで消化した。消化したPCR産物を、10%ポリアクリルアミドゲルで分解し、エチジウムブロマイドでの染色後にUV光の下で可視化した。遺伝子型結果は、増幅フラグメントの直接DNA塩基配列決定によって定期的に確認した。
【0185】
したがって、野生型(W)遺伝子型すなわちAsp/Aspを、SNP遺伝子座rs 17655での両対立遺伝子におけるヌクレオチドC(XPGタンパク質の1104位のAspをコードするXPG遺伝子のmRNAの3753位に対応する)の存在により決定した。バリアント/ミュータント(M)遺伝子型は、このSNP遺伝子座での両対立遺伝子におけるGヌクレオチドの存在によって決定し、ヘテロ接合性(H)遺伝子型は、同一遺伝子座での一方の対立遺伝子におけるCヌクレオチドの存在および他方の対立遺伝子におけるGヌクレオチドの存在によって決定した。
【0186】
(患者コホート)
少なくとも1つのバイオマーカー(XPG mRNA、XPGタンパク質、XPG Asp1104HisまたはBRCA1 mRNA)について評価可能な結果を提供する合計168のパラフィン包埋腫瘍試料を分析した。Table 5(表5)は、168人の患者の最も適切な臨床データおよび分子データ(CR:完全寛解;PR:部分応答;MR:やや有効;SD:安定;PD:進行性疾患;OS:全生存期間;PFS:無増悪生存期間)を示す。
【0187】
【表5A】

【0188】
【表5B】

【0189】
【表5C】

【0190】
【表5D】

【0191】
ET-743での治療後、147人の評価可能な患者(未知の応答を有するまたは評価可能な応答を有さない21人の患者(12.5%))における奏効率(RR)は、完全寛解+部分応答を考慮した場合、15.6%であった((1 CR+22 PR)/147人の評価可能な患者)。さらに、6.8%の患者はやや有効(MR)であり(10 MR/147)、31.29%(46/147人の患者)は安定(SD)を有した。腫瘍制御率((CR+PR+MR+SD≧6mo)が、44.9%の患者(66/147)において達成され、58人の患者(39.5%)は無増悪生存期間≧6カ月(PFS6)を達成した。応答の持続時間中央値(CR+PR+MR)は、7.83カ月(47.4カ月から1.83カ月の範囲)であり、46のSDのうち33がPFS6に到達した。生存期間中央値は、9.6カ月(0.4-65.9カ月)であったが、51人の患者がなお打ち切り例(censored)となっている。Kaplan-Meierプロット(図8)によれば、無増悪生存期間中央値は3.4カ月であり、PFS6率は40.2%であり、生存期間中央値は15.4カ月であり、治療後1年および2年の時点での生存患者は5.34%および34.0%であった。
【0192】
(XPG SNP Asp1104His遺伝子型とET-743治療転帰との相関)
XPG SNP Asp1104Hisの遺伝子型を、Table 5(表5)中に記載したように、ET-743で治療した肉腫患者由来のパラフィン包埋腫瘍組織87試料において決定した。
【0193】
遺伝子型を、SNP遺伝子座rs 17655での両対立遺伝子におけるヌクレオチドC(XPGタンパク質の1104位のAspをコードするXPG遺伝子のmRNA(配列番号1)の3753位に対応する)の存在によって、野生型(W)すなわちAsp/Aspと命名した。バリアント/ミュータント(M)遺伝子型を、このSNP遺伝子座での両対立遺伝子におけるGヌクレオチドの存在によって決定した。ヘテロ接合性(H)遺伝子型を、同遺伝子座での一方の対立遺伝子におけるCヌクレオチドの存在および他方の対立遺伝子におけるGヌクレオチドの存在として決定した。3つの遺伝子型W、MおよびHとET-743で治療した患者の臨床転帰との間の関連を、Table 6(表6)中に示す。
【0194】
【表6】

【0195】
Table 6(表6)は、他覚症状および腫瘍制御についての最高の割合(16%および53%)が、H遺伝子型における17%および38%と比較して、XPG SNP Asp1104HisのW遺伝子型を有する患者において見出されたことを示す。M遺伝子型を有する患者は、ET-743治療に対して応答しなかった。
【0196】
同様に、PFS6に到達する確率は、W遺伝子型を有する患者において最も高い。特に、W遺伝子型を有する患者の49%はPFS6エンドポイントに到達したが、一方で、H遺伝子型を有する患者の35%のみがPFS6に到達し、M遺伝子型を有する患者はPFS6に到達しなかった。
【0197】
図9および図10のKaplan-Meierプロットは、H遺伝子型およびM遺伝子型と比較して、W遺伝子型を有する患者に対して、それぞれPFSにおける統計的に有意な差異[p=0.0010]および生存における傾向[p=0.0743]を示す。生存期間中央値は、W遺伝子型を有する患者について19.9カ月であり、H遺伝子型を有する患者およびM遺伝子型を有する患者について6.9カ月および9.1カ月であった。さらに、PFS中央値は、W遺伝子型を有する患者について6.4カ月であり、H遺伝子型を有する患者およびM遺伝子型を有する患者について3.4カ月および1.6カ月であり、W遺伝子型、H遺伝子型およびM遺伝子型についてそれぞれ、50.8%、34.6%および0%のPFS6率であった。最後に、12カ月での生存は、W遺伝子型を有する患者について54%であり、H遺伝子型を有する患者およびM遺伝子型を有する患者について34.6%および31.3%であった。
【0198】
このことは、XPG遺伝子のAsp1104His SNPに関する遺伝子型に従って、多数の患者コホートを3つのサブ母集団へ細分化することにより、ET-743治療後の転帰に従って3つの異なるサブ母集団を区別することを意味する。W遺伝子型の存在によって規定される、最も好ましい臨床転帰を有するサブ母集団;M遺伝子型によって規定される、ET-743治療からの利益を示さないサブ母集団;およびAsp1104His SNPに関してヘテロ接合体の患者に対応する、中間の転帰の第三のサブ母集団。
【0199】
Asp1104His遺伝子型を含む、引き続いて行ったバイオマーカー関連研究において、目的がET-743治療から最も高い利益を得るサブ母集団を同定することであることも念頭において、H+M遺伝子型をグループ分けし、より明確な分析のために下位群の数を最小化した。
【0200】
(合わせたXPG mRNAレベルおよびXPG SNP Asp1104His遺伝子型と、ET-743治療に対する応答との相関)
β-アクチン(内部対照)に対するXPG mRNAの量を、Table 5(表5)に記載したように、106の試料において決定した。この量は、0.26から8.68の範囲であり、最小値から最大値まで、33.4倍の差異であった。発現中央値は1.55であった。
【0201】
合わせたXPG mRNA発現レベルおよびXPG SNP Asp1104Hisの遺伝子型と、ET-743で治療した65人の患者の臨床転帰との間の関連を、Table 7(表7)中に示す。
【0202】
【表7】

【0203】
総患者集団を、合わせたXPG発現およびXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従って、4つのサブ母集団に分割した。Asp1104His SNP遺伝子型に関する結果の解釈をより容易にするために、遺伝子型HおよびM(対立遺伝子の少なくとも一方にミューテーション(変異)を保有する)を一緒にグループ分けし、W遺伝子型と比較した。Table 7(表7)は、W遺伝子型と一緒に高い発現レベルのXPG mRNA(中央値1.55を上回る)を有するサブ母集団が、ET-743での治療後に最良の転帰を有することを示す。
【0204】
特に、高い発現のXPG mRNAおよびW遺伝子型を有するサブ母集団(好ましいサブ母集団)は、他のサブ母集団(M+H遺伝子型および低いXPG mRNA発現、M+H遺伝子型および高いXPG mRNA発現、ならびにW遺伝子型および低いXPG mRNA発現)よりも、PFS中央値(17.1対それぞれ3.3カ月、2.9カ月および1.8カ月、p=0.0011)およびPFS>6率(82.4%対それぞれ31.3%、15.4%および26.3%、P=0.0011)に関して、良い転帰を有した。OS中央値もまた、OS中央値に関して同様の値を示した他の3つのサブ母集団と比較して、高いXPG mRNA発現およびW遺伝子型を有するサブ母集団において、統計的により良好であった(それぞれ9.0カ月、5.0カ月および8.6カ月と比較して、好ましいサブ母集団について27.7カ月、p=0.0053)。同様に、1年後の生存率(83.7%対39.1%、36.9%および28.9%)および2年後の生存率(66.9%対39.1%、0%および28.9%)も、高いXPG mRNA発現およびW遺伝子型について、有意に(p=0.0053)好ましかった。
【0205】
このことは、合わせたXPG mRNAの発現およびAsp1104His SNPに関する遺伝子型に従って、多数の患者コホートを4つの群へ細分化することにより、ET-743治療後の転帰に従って2つの異なるサブ母集団(すなわち、より良いまたはより悪い応答者)を区別することを意味する(図11および図12)。高いXPG mRNA発現およびW遺伝子型を有する、最も好ましいサブ母集団は、他の3つの群(それぞれ、合わせたM+H遺伝子型および低いXPG mRNA発現、M+H遺伝子型および高いXPG mRNA発現、ならびにW遺伝子型および低いXPG mRNA発現として規定される)に属する患者を含む、あまり好ましくないサブ母集団と比較して、より良い臨床転帰を明らかに有する。
【0206】
(XPGタンパク質発現レベルおよびXPGのSNP Asp1104Hisにおける遺伝子型と、ET-743治療転帰との相関)
XPGタンパク質の量を、ET-743で治療した肉腫患者由来のパラフィン包埋腫瘍組織92試料において決定した。発現のスコアーを、0(XPGタンパク質の発現なし)、1+(低い発現)、2+(中程度の発現)および3+(高い発現)として決定した。各発現スコアー化群中の試料数は、それぞれ58(60.0%)、9(9.5%)、20(21.7%)および5(5.4%)であった。
【0207】
XPGタンパク質の発現レベルと、ET-743で治療した患者の臨床転帰との間の関連を試験するために、患者を2つのサブ母集団にグループ分けした:XPGタンパク質の発現が低いかまたは発現がない低い発現者(スコアー0および1+:67人の患者)、ならびに中間および高い発現を有する高い発現者(スコアー2+および3+:25人の患者)。
【0208】
XPG SNP Asp1104Hisの遺伝子型を、ET-743で治療する前の肉腫患者由来のパラフィン包埋腫瘍組織87試料において決定した。XPGタンパク質発現とXPG SNP Asp1104His遺伝子型との相関を共に、Table 5(表5)に記載したように、66の組織試料において決定した。
【0209】
総患者集団を、合わせたXPGタンパク質発現およびXPG SNP Asp1104His遺伝子型に従って、4つのサブ母集団に分割した。より容易な解釈のために、XPGタンパク質発現を2つの群に分割した;XPGタンパク質の発現が低いかまたは発現がない低い発現者(スコアー0および1+)、ならびに中間および高い発現を有する高い発現者(スコアー2+および3+:25人の患者)。同様に、XPG SNP Asp1104Hisに関して、遺伝子型HおよびMを一緒にグループ分けし、W遺伝子型と比較した。
【0210】
合わせたXPGタンパク質発現レベルおよびXPG SNP Asp1104His遺伝子型と、ET-743で治療した患者の臨床転帰との間の関連を、Table 8(表8)中に示す。
【0211】
【表8】

【0212】
高い発現レベルのXPGタンパク質(2+および3+)およびW遺伝子型を有するサブ母集団は、PFSおよびPFS6率(p=0.0628)ならびにOS中央値および1年目および2年目の生存(p=0.0697)に関して、ET-743での治療後のより良い転帰に向かう、非常に明白な傾向(p=0.0628)を示す。他のサブ母集団は、XPGタンパク質発現とは独立して、H遺伝子型およびM遺伝子型を有する患者に対して、明らかにより悪い、類似の転帰を有する。
【0213】
実際、高いXPGタンパク質発現およびW遺伝子型を有するサブ母集団(好ましいサブ母集団)は、他の3つのサブ母集団(M+H遺伝子型および低いXPGタンパク質発現、M+H遺伝子型および高いXPGタンパク質発現、ならびにW遺伝子型および低いXPGタンパク質発現)よりも、PFS中央値(8.0対3.3カ月、3.4カ月および2.9カ月、p=0.0628)およびPFS>6率(71.1%対26.3%、27.3%および44%、p=0.0628)に関して、良好な臨床転帰を有する。増加したOS(27.7カ月対他の3つのサブ母集団について6.2カ月、12.2カ月および11.7カ月)、ならびに増加した1年生存率(好ましい集団について90%対他の3つのサブ母集団について23.7%、52.6%および41.7%)および2年生存率(90%対0%、0%および40.4%)を有して、同じ差異が生存パラメータに関して示される。
【0214】
このことは、合わせたXPGタンパク質発現およびAsp1104His SNPに関する遺伝子型にしたがって、多数の患者コホートを4つの群へ細分化することにより、ET-743治療後の転帰に従って2つの異なるサブ母集団(すなわち、より良いまたはより悪い応答者)を区別することを意味する(図12および図13)。高いXPGタンパク質発現およびW遺伝子型を有する最も好ましいサブ母集団は、他の3つの群(それぞれ、合わせたM+H遺伝子型および低いXPGタンパク質発現、M+H遺伝子型および高いXPGタンパク質発現、ならびにW遺伝子型および低いXPGタンパク質発現として規定される)に属する患者を含む、あまり好ましくないサブ母集団と比較して、より良い臨床転帰を明らかに有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測するための方法であって、
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)前記生体試料中のXPG mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値と比較する段階と
を含み、
XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療に対して肯定的な応答を示すことになることを示す方法。
【請求項2】
a)ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)前記生体試料中のBRCA1 mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較する段階と
をさらに含み、
(i)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベル、および(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療に対して肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階をさらに含み、
(i)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベル、および(ii)SNP遺伝子座rs17655の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療に対して肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階をさらに含み、
(i)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベル、(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベル、および(iii)SNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療に対して肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)XPGタンパク質の発現レベルの決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と
を含み、
XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す方法。
【請求項6】
a)ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)前記生体試料中のBRCA1 mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較する段階と
をさらに含み、
(i)XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベル、および(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階をさらに含み、
(i)XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベル、および(ii)SNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階をさらに含み、
(i)XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベル、(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベル、および(iii)SNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ET-743化学療法に対する癌患者の臨床応答を予測する方法であって、ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階を含み、
SNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在が、患者がET-743を使用した治療に対して肯定的な応答を示すことになることを示す方法。
【請求項10】
a)ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)前記生体試料中のBRCA1 mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較する段階と
をさらに含み、
(i)XPG遺伝子のSNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在、および(ii)BRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも低いBRCA1 mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)前記生体試料中のXPG mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値と比較する段階と
をさらに含み、
(i)XPG遺伝子のSNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在、および(ii)XPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高いXPG mRNAの発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)(a)の下での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と
をさらに含み、
(i)XPG遺伝子のSNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにおけるCヌクレオチドの存在、および(ii)XPGタンパク質の中程度のまたは高発現レベルが、患者がET-743を使用した治療後に肯定的な応答を示すことになることを示す、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
XPGタンパク質の発現レベルの決定が免疫組織化学解析(IHC)により実施される、請求項5から8または12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
肯定的な臨床応答を予測するパラメータが、他覚症状、腫瘍制御、無憎悪生存期間、6カ月より長い無憎悪生存期間および生存期間中央値の群から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるXPG mRNAの発現レベルを、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現レベルの中央値と比較する段階と、
c)前記XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法。
【請求項16】
a)前記患者由来の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるBRCA1 mRNAの発現レベルを、生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値と比較する段階と、
c)(i)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きく、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも小さい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きく、(ii)SNP遺伝子座rs17655での少なくとも1つの対立遺伝子にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きく、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも小さく、(iii)SNP遺伝子座rs17655での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)(a)の下での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、
c)前記XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法。
【請求項20】
a)前記患者由来の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるBRCA1 mRNAの発現レベルを、生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較する段階と、
c)(i)XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有し、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも小さい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有し、(ii)SNP遺伝子座rs17655での少なくとも1つの対立遺伝子にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、(i)XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有し、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも小さく、(iii)SNP遺伝子座rs17655での少なくとも1つの対立遺伝子にCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階とをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
癌に罹ったヒト患者のための個別の化学療法を設計するためのインビトロ方法であって、
a)前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、
b)前記SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
を含むインビトロ方法。
【請求項24】
a)ET-743化学療法の前に前記患者の生体試料中のBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)前記生体試料中のBRCA1 mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるBRCA1 mRNAの発現の中央値と比較する段階と、
c)(i)前記SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在し、(ii)BRCA1 mRNA発現レベルがBRCA1 mRNAの発現レベルの中央値よりも小さい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
a)ET-743化学療法の前に患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)前記生体試料中のXPG mRNAの発現量を、生体試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現の中央値と比較する段階と、
c)(i)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在し、(ii)XPG mRNA発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも大きい場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
a)前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)(a)の下での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、
c)(i)SNP遺伝子座での対立遺伝子のうちの少なくとも1つにCヌクレオチドが存在し、(ii)XPGタンパク質発現レベルが(2+)または(3+)の値を有する場合、ET-743に基づく化学療法治療を選択する段階と
をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
XPGタンパク質の発現レベルが免疫組織化学解析(IHC)により決定される、請求項19から22または26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、
b)a)で得られるXPG mRNAの発現レベルを、ヒト癌患者由来の生検試料のコレクションで測定されるXPG mRNAの発現レベルの中央値と比較する段階と、
c)XPG mRNAの発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値よりも低い場合は「低レベル」として、XPG mRNAの発現レベルがXPG mRNAの発現レベルの中央値に等しいかまたはそれよりも高い場合は「高レベル」として定義される2グループのうちの1つに患者を分類する段階と、
d)ET-743に基づく化学療法治療について「高レベル」グループに分類される前記患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法。
【請求項29】
ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPGタンパク質の発現レベルを決定する段階と、
b)段階(a)での決定結果を、負の発現(0)、低発現(1+)、中程度の発現(2+)、または高発現(3+)として記録する段階と、
c)ET-743に基づく化学療法治療について(2+)および(3+)グループに分類される前記患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法。
【請求項30】
XPGタンパク質の発現レベルが免疫組織化学解析(IHC)により決定される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ET-743を使用した治療について癌に罹ったヒト患者を選択するためのスクリーニング法であって、
a)患者の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、
b)SNP遺伝子座の両方の対立遺伝子にCヌクレオチドが存在する場合は「野生(W)型」遺伝子型として、SNP遺伝子座の両方の対立遺伝子にGヌクレオチドが存在する場合は「ミュータント(M)」遺伝子型として、SNP遺伝子座の一方の対立遺伝子にCヌクレオチドが存在し、もう一方の対立遺伝子にGヌクレオチドが存在する場合は「ヘテロ接合性(H)」遺伝子型として定義される3グループのうちの1つに患者を分類する段階と、
c)ET-743に基づく化学療法治療について「野生(W)型」グループにまたは「ヘテロ接合性(H)」グループに分類される患者を選択する段階と
を含むスクリーニング法。
【請求項32】
患者が罹った癌が、肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳癌、メラノーマ、結腸直腸癌、中皮腫、腎癌、子宮内膜癌および肺癌から選択される、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
生体試料が腫瘍生検、組織生検および体液の群から選択される、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
生体試料のコレクション中のXPG mRNAの発現の中央レベルに対して、高レベルのXPG mRNA発現を有するヒト患者における癌の治療のためのET-743。
【請求項35】
高レベルのXPGタンパク質発現を有するヒト患者における癌の治療のためのET-743。
【請求項36】
XPG遺伝子の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにAsp1104His SNP遺伝子型を有するヒト患者における癌の治療のためのET-743。
【請求項37】
患者がXPG遺伝子の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにAsp1104His SNP遺伝子型を有する、請求項34または35に記載のET-743。
【請求項38】
患者が低発現レベルのBRCA1を有する、請求項34から37のいずれか一項に記載のET-743。
【請求項39】
ET-743を使用して効果的に治療されるヒト癌患者の選択のためのマーカーとしてのXPGタンパク質またはXPG mRNAの使用。
【請求項40】
ET-743を使用して効果的に治療されるヒト癌患者の選択のためのマーカーとしてのXPG遺伝子の遺伝子座rs17655でのAsp1104His SNPの使用。
【請求項41】
治療される癌が、肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳癌、メラノーマ、結腸直腸癌、中皮腫、腎癌、子宮内膜癌および肺癌から選択される、請求項34から40のいずれか一項に記載の使用。
【請求項42】
ヒト患者において癌を治療する方法であって、前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質またはXPG mRNAの発現レベルを決定する段階と、前記発現レベルが高ければ、患者をET-743を使用して治療する段階とを含む、方法。
【請求項43】
ヒト患者において癌を治療する方法であって、前記患者由来の生体試料中のXPGタンパク質またはXPG mRNAの発現レベルおよびBRCA1 mRNAの発現レベルを決定する段階と、XPG mRNAまたはタンパク質の発現レベルが高ければ、およびBRCA1 mRNAの発現レベルが低ければ、ET-743を使用して患者を治療する段階とを含む、方法。
【請求項44】
ヒト患者において癌を治療する方法であって、前記患者由来の生体試料中のXPG遺伝子の遺伝子座17655でのAsp1104His SNPの遺伝子型を決定する段階と、患者がXPG遺伝子の対立遺伝子のうちの少なくとも1つにAsp1104His SNP遺伝子型を有するならば、ET-743を使用して患者を治療する段階とを含む、方法。
【請求項45】
治療される癌が、肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳癌、メラノーマ、結腸直腸癌、中皮腫、腎癌、子宮内膜癌および肺癌から選択される、請求項42から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
生体試料が、腫瘍生検、組織生検および体液の群から選択される、請求項42から45のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−500046(P2011−500046A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529413(P2010−529413)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064156
【国際公開番号】WO2009/050303
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(501440835)ファルマ・マール・ソシエダード・アノニマ (30)
【Fターム(参考)】