FALSの臨床悪性度の判定方法
FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1および/またはその関連分子であるTRAPδまたはDvl1との結合能を評価して、FALSの臨床悪性度を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NEDL1およびその関連因子と、SOD1変異体との相互作用に基づく、FALSの判定方法、或いは治療薬(方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脊椎、運動皮質、脳幹の運動ニューロンの変性、脱落により筋萎縮を生じる、予後不良の神経変性疾患である。現在、家族性のALS(familial lateral sclerosis:以下、FALSという)は、ALS全体の5〜10%の頻度で認められるが、その一部の家系で原因遺伝子が、CU/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)遺伝子であることが判明しており、FALS全体の約20%がSOD1遺伝子変異を原因としている。SOD1は、好気性代謝の過程で細胞内に生じる活性酵素の一種であり、スーパーオキシドを不活性化する。近年、変異型SOD1(以下、SOD1変異体という)が細胞内で凝集体を形成し、細胞毒性を発揮するという凝集体仮説がFALSの病因として最も有力なものとされつつある(非特許文献1)。
【0003】
本発明者らは、以前予後良好な神経芽腫と予後不良な神経芽腫との比較において、予後良好な神経芽腫で発現が増強されているNEDL1と命名した新規なHECT型ユビキチンライゲースを見出した(特許文献1)。さらに、NEDL1はSOD1変異体をユビキチン化することも見出した。
【0004】
SOD1変異体の細胞内情報伝達経路については、不明な部分が多いがSOD1変異体のみと結合し、正常SOD1(野生型SOD1)とは結合しない蛋白因子として、小胞体トランスロコン成分であるTRAPδ(translocon−associated protein complex)が報告されている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0005】
このようにFALSの原因遺伝子であるSOD1変異体とその関連分子との間の相互作用については、解明されつつあるが、FALSの病理発生については、前記凝集体仮説が正しいとしてもそのメカニズムの全容の解明には程遠い現状である。
【特許文献1】国際公開WO 03/018842パンフレット
【非特許文献1】中野亮一、細胞工学、第20巻、第11号、1508−1512、2001
【非特許文献2】Ryen D.Fons,et al,The Journak of Cell Biology、Vol.160,No.4,2003(529−539)
【非特許文献3】Kunst C.B.,et al,Nat.Genet.15,91−94(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SOD1変異体とその関連分子との間の相互作用におけるNEDL1の役割について明らかにし、FALSの発症メカニズムの凝集体仮説を検証する。その過程において、各種分子間の結合、相互作用を評価すると、FALSの治療・診断につながる知見が得られる可能性がある。
【0007】
本発明は、SOD1変異体とその関連分子との結合、相互作用(NEDL1が介在するか、または介在しない)を遺伝子または蛋白レベルで解明することを1つの目的とする。さらに、本発明は、そこで得られた知見を臨床に応用すること、すなわちFALSの新たな治療剤(方法)、診断薬(方法)を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、NEDL1がTRAPδとが結合し、さらにこれらはSOD1変異体と複合体を形成して、該複合体における結合強度はFALSの臨床悪性度とほぼ比例することを見出した。さらに、同様にNEDL1がDishevell1(以下、Dvl1という)と結合し、さらにこれらはSOD1変異体と複合体を形成して、該複合体における結合強度はFALSの臨床悪性度とほぼ比例することを見出した。また、NEDL1とSOD1変異体との相互作用もFALSの臨床悪性度とほぼ比例することを見出した。
【0009】
特定的には、FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とTRAPδとの結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法が提供される。
【0010】
また、FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1およびDvl1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法も提供される。
【0011】
また、FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法も提供される。
【0012】
要するに、本発明はFALSの臨床悪性度の判定におけるNEDL1またはその基質の使用を提供する。具体的には、その判定において、単離SOD1変異体を用いることを特徴とする。ここで、好ましくは前記基質は、TRAPδまたはDvl1である。
【0013】
くわえて、SOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤が提供される。
【0014】
好ましくは、前記基質がTRAPδまたはDvl1である。
【0015】
また、神経細胞において、候補薬剤がSOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤であるか否かを決定することを特徴とする、FALSの治療において有用な薬剤をスクリーニングする方法も提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従えば、FALSの原因遺伝子であるSOD1変異体とその関連分子(TRAPδ、Dvl1等)との間にNEDL1が介在して、複合体が形成されることが明らかとなり、FALSの発症メカニズムとしての凝集体説が確かめられた。さらに、このような複合体におけるSOD1変異体と前記分子との結合能(NEDL1を介するか、介さないかして)がFALSの臨床悪性度に関連しているので、該結合能を評価することによって、FALSの臨床悪性度を判定することができる。
【0017】
また、上記の凝集体の形成を阻止することができれば、FALSの治療に繋がる。したがって、本発明に従えば、FALSの治療に有用であろう、SOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤が見出される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ヒトNEDL1(hNEDL1)とマウスNEDL1(mNEDL1)との間の保存的アミノ酸配列のアライメントを示す図である。図中、右欄番号は、イニシエーターであるメチオニンからの塩基数を表す。C2ドメイン、WWドメインおよびHECTドメインがそれぞれ示されている。
【図2】NEDL1とTRAP−δとの結合を示す免疫ブロットした電気泳動図(免疫ブロット図)である。
【図3】NEDL1と内因性TRAP−δとの結合を示す免疫ブロットした電気泳動図である。
【図4】NEDL1とSOD1変異体との結合を示す免疫ブロット図である。
【図5】NEDL1の野生型SOD1およびSOD1変異体に対するユビキチン化を示す免疫ブロット図である。
【図6】NEDL1の存在下、SOD1変異体および野生型SOD1の分解の経時変化を示す免疫ブロット図である。
【図7】SOD1変異体と外因性TRAPδとの結合を示す免疫ブロット図である。
【図8】NEDL1とDvl1との結合を示す免疫ブロット図である。
【図9】NEDL1のDvl1に対するユビキチン化を示す免疫ブロット図である。
【図10】NEDL1の存在下、Dvl1の分解の経時変化を示す免疫ブロット図である。
【図11】NEDL1の存在下、SOD1変異体とDvl1との結合を示す免疫ブロット図である。
【図12】FALS病理発生におけるSOD1変異体とその関連分子との間の相互作用の模式図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について、好適な実施の形態を参照して、詳細に説明する。
【0020】
本発明に係るNEDL1遺伝子は、全長6200塩基(コード領域4755塩基)を有する遺伝子であり、その塩基配列を配列表の配列番号2に示す。該遺伝子がコードするNEDL1タンパク質は、1585個のアミノ酸からなり、その全長を配列表の配列番号1に示す。なお、前記塩基配列およびアミノ酸配列は、GeneBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)に受理番号AB048365として登録されている。
【0021】
図1にヒトNEDL1(hNEDL1)とマウスNEDL1(mNEDL1)のアライメント(ホモロジー解析)を示す。NEDL−1タンパク質は、HECT型ユビキチンリガーゼの特徴である以下のドメインを有することが分かる。すなわち、(1)N末端にC2ドメイン(カルシウム依存的に膜脂質に結合する)、(2)中央部にWWドメイン(プロリンリッチ領域との結合に関与)、(3)C末端領域にHECTドメイン(ユビキチン結合酵素E2の結合部位)である。
【0022】
NEDL1の基質を同定するために、本発明者らは、前記WWドメイン(757−1114位)を用いて、yeast two hybridスクリーニングを行った。その結果、1つの基質としてTRAPδが見出された。
【0023】
TRAPδは、小胞体膜を横切るタンパク質のトランスロケーションに関連する因子である、トランスロコン(translocon−associated protein)複合体の構成タンパク質の1つのサブユニットである。TRAPδが野生型SODとは結合しないが、SOD1変異体と結合することは既に報告されている(Kunst C.B.ら、前掲)。そこで、本発明者らは、NEDL1、TRAPδ、およびSOD1間の相互作用を調べた。具体的には、COS7細胞をこれらの発現構築物で共トランスフェクトし、免疫ブロットおよび免疫沈降アッセイによって、解析した。
【0024】
NEDL1とTRAPδとの結合
上記の解析の結果、図2、3に示すように、NEDL1は、内因性および外因性のTRAPδと結合していることが確認される。この結合は、yeast two−hybridスクリーニングでも前記WWドメインを介していることが確認される。しかし、TRAPδは、NEDL1によってユビキチン化されない。
【0025】
NEDL1とSOD1との結合
上記の解析の結果、図4に示すように、NEDL1は、SOD1変異体と結合するが、野生型SOD1とは結合しないことが確認される。また、NEDL1と様々なSOD1変異体との結合能は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0026】
くわえて、NEDL1がSOD1変異体をユビキチン化することが確認され(図5)、そのユビキチン化の程度は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0027】
NEDL1の存在下、SOD1変異体の分解の経時変化を示したものが、図6であるが、ここでも臨床悪性度に比例して、SOD1変異体が分解していることが分かる。
【0028】
これらの結果から、SOD1変異体のユビキチン化を経由する分解には、NEDL1が介在し、臨床悪性度に比例して、分解が進行することが示される。
【0029】
TRAPδとSOD1との結合
上記の解析の結果、図7に示すように、外因性TRAPδは、SOD1変異体と結合するが、野生型SOD1とは結合しないことが確認される。また、NEDL1の場合と同様に、TRAPδと様々なSOD1変異体との結合能は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0030】
以上の結果および他の研究結果を総合して、FALSの病理発生におけるNEDL1の役割として、(1)NEDL1は、単独でまたはTRAPδと共にSOD1変異体をユビキチン化する(2)NEDL1とTRAPδは、SOD1変異体と凝集体を形成し、これがゴルジ装置の断片化を誘起、ニューロンのアポトーシスをもたらす(3)凝集体の形成は、NEDL1および/またはTRAPδの機能不全を引き起こし、それが運動ニューロン死に結びつく疾患となる(4)NEDL1/TRAP−δ/SOD1変異体の凝集体は、その正常な機能が運動ニューロンの生存に重要である分子シャペロンのような因子を取り込み、不活性化する、などであろう。
【0031】
次いで、ユビキチン化依存性蛋白分解時のNEDL1の基質を同定するために、本発明者らは、NEDL1のWWドメインを含む別のドメイン(382−1448位)を用いて、yeast two hybridスクリーニングを行った。その結果、Dvl1が基質として同定された。
【0032】
ヒトDVl1は、670個のアミノ酸からなるタンパク質で、以下のドメインを有する。すなわち、(1)カノニカルWnt/TCFシグナリングに必要とされるDIXドメイン、(2)PDZドメイン(Stbm、CKI結合の標的)、(3)DEPドメイン(PCPシグナリング中の膜局在化に関与)である(D.J.Sussman et al.,Dev.Biol.166,73−86(1994);A.Wodarz et al.,Cell Dev.Biol.14,59−88(1998);M.Boutros et al.,Cell,94,109−118(1998))であり、DEPドメインとNEDL1のWWドメインが結合するものと考えられる。
【0033】
TRAPδの場合と同様に、NEDL1、DVl1およびSOD1間の相互作用を調べた。具体的には、COS7細胞をこれらの発現構築物で共トランスフェクトし、免疫ブロットおよび免疫沈降アッセイによって、解析した。
【0034】
NEDL1とDvl1との結合
上記の解析の結果、図8に示すように、NEDL1は、Dvl1と結合していることが確認される。また、NEDL1は、Dvl1をユビキチン化することが確認され、(図9)さらにNEDL1の存在下、Dvl1の分解の経時変化を示したものが図10である。
【0035】
Dvl1とSOD1との結合
上記の解析の結果、図11に示すように、Dvl1は、SOD1とNEDL1の存在下結合することが確認される。また、Dvl1と様々なSOD1変異体との結合能は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0036】
ALS患者の運動ニューロンで細胞骨格異常が報告されており、NEDL1介在Dvl1分解に対する前記のSOD1変異体の影響が運動ニューロン死に関与していることは可能である(Luo,Z.G.et al.,Neuron 35,489−505(2002))。
【0037】
結論
神経細胞E3ユビキチンリガーゼであるNEDL1は、TRAPδと結合(相互作用)するが、Dvl1とも結合し、これをユビキチン化して分解する。NEDL1は、このようにSOD1変異体、DVl1、TRAPδと複合体を形成するので、特にユビキチン介在の分解を逃れたSOD1変異体と巨大な凝集体を形成する。標的タンパク質(基質)であるDVl1またはTRAPδの活性に影響を与えるNEDL1の機能は、SOD1変異体によって調節される。これら個々の相互作用がすべて、FALSの病理発生に関係しているようである。したがって、前記複合体もしくは巨大凝集体形成の分子メカニズムの解明は、ALSにおける運動ニューロン死を説明し、ひいてはALSに対する新たな治療薬・治療方法の展望を開くことになる。図12に、本発明において得られた知見に基づく、FALS病理発生におけるSOD1変異体とその関連分子との間の相互作用の模式図を示す。
【0038】
FALSの治療剤および治療方法
上記のような考察に基づいて、本発明によれば、SOD1変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤の開発が提供される。阻害剤としての候補薬剤は、核酸、タンパク質、低分子化合物(化学合成または天然由来)、タンパク質以外の高分子化合物などである。
【0039】
このような阻害剤のスクリーニング方法としては、Two−Hybrid System(例えば、Gyuris,J.Cell,1993,75,791−803;Golemis,E.A.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sions,Inc.)1996,Ch.20.0−20.1)が挙げられる。また、免疫学的手法で、阻害剤のスクリーニング法を実施することもできる。具体的には、細胞(神経細胞)内でSOD1変異体(特に、臨床悪性度の高いもの)とNEDL1および/またはその基質を発現させ、一定時間候補薬剤と共に培養した後、細胞を粉砕して細胞溶解液を調製する。一方の分子に対する抗体で免疫沈降させ、沈殿中に含まれる他方の分子(それ以外)を免疫学的手法(免疫ブロット等)で検出ないし、定量することで、候補薬剤の各分子の相互作用に及ぼす影響を検出できる。ここで、上記培養系に適当なアゴニストと候補薬剤とを同時に添加して、上記アッセイを行い、候補薬剤を含まない細胞からの免疫沈降物と比較することで阻害剤のスクリーニングが可能である。
【0040】
上記のスクリーニング方法で同定されたSOD1変異体とNEDL1および/またはその基質における阻害剤であるタンパク質等は、FALSを患う患者またはその可能性のある患者に経口的に、または非経口的に投与する。この目的で、そのタンパク質を薬学的組成物として調製する。これは、有効量の該結合阻害を薬学的に許容される担体、もしくは希釈剤と混合して、適当な剤形とする。投与に適した剤形は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、坐剤、注射剤等である。
【実施例】
【0041】
(方法)
(ヒトNEDL1 cDNAのクローニング)
ヒトNEDL1 cDNAのクローニングについては、国際公開WO 03/018842パンフレット(PCT/JP02/08524)に詳述してあるが、本発明では、以下のようにして、実施した。すなわち、フォワード・プライマー(5’−GGTTTTTAGGCCTGGCCGCC−3’、配列番号3)およびリバース・プライマー(5’−CAATGAGGTACATGCCAATCC−3’、配列番号4)を使用し、ヒト胎児脳(Stratagene社製)をテンプレートとして、NEDL1cDNA(ヒト神経芽細胞種からのcDNAライブラリー)の5’部分を増幅した。全長ヒトNEDL1cDNAは、PCR増幅断片(ヌクレオチド1位(翻訳開始部位)〜68位)とKIAA0322 cDNA((財)かずさDNA研究所、T.Nagase氏より寄贈)と融合させて、作成した。
【0042】
(細胞培養およびトランスフェクション)
細胞は、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Life Technologies,Inc.)、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したRPMI1640培地で増殖した。COS7およびNeuro2a細胞は、10%熱不活性化ウシ胎児血清とペニシリン(100IU/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle medium:DMEM)に維持した。細胞は、空気中水飽和5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で培養し。各発現プラスミドの共トランスンスフェクションは、製造者の指示書に従い、リポフェクトアミン(LipofectAMINE、Life Technologies,Inc.社製)を用いて実施した。ある種の実験では、トランスフェクトした細胞をMG−132を用いて、終濃度40μMで30分間処理した。
【0043】
(Yeast Two−Hybrid Screening)
スクリーニングは、ヒト胎児脳(1次スクリーニング)およびヒト成人脳(2次スクリーニング)から得られたcDNAライブラリーを用いる、Gal4−based matchmaker two−hybrid system(Clonetech社製)を使用して実行した。Saccharomyces cereviciae CG1945細胞をpAS2−1−NEDL1−1(757−1114位、1次スクリーニング)またはpAS2−1−NEDL1−2(382−1448位、2次スクリーニング)で形質転換した。これらの発現ベクターは共にLacZの転写のみを活性化しない。形質転換体をさらに前記cDNAライブラリーで形質転換した。LacZ陽性コロニーを選択した。これら陽性コロニーからプラスミドDNAを抽出して、その核酸配列を決定した。
【0044】
(インビトロユビキチン化アッセイ)
インビトロユビキチン化アッセイは、以下のように実施した。0.5μgの精製GST融合蛋白0.25μg酵母E1(Boston Biochem社製)、E2sを発現するE.coliからの粗細胞溶解物1μlおよび10μgウシUb(Sigma社製)を250mM Tris−HCl(pH7.6)、1.2M NaCl、50mM ATP、10mM MgCl2、および30mMジチオスレイトール中でインキュベートした。30℃で2時間後、SDSサンプルバッファを添加して、反応を停止した。試料をSDS−PAGEで分析し、メンブランに移し、抗ユビキチンモノクローナル抗体(Medial Biological Laboratories社製)で免疫ブロットした。
【0045】
(発現構築物)
ヘマグルチニンタグおよび(His6)タグされたユビキチンの哺乳動物用発現プラスミドは、D.Bohmann氏より寄贈された。全長NEDL1 cDNAを哺乳動物用発現プラスミドpEF1/His(Invitrogen社製)またはpIRESpuro2(Clontech社製)に導入した。野生型または変異型のSOD1をコードするcDNAをFLAGもしくはMycエピトープタグ配列のカルボキシ末端に接合し、pIRESpuro2にサブクロニーングした。同様に、FLAGもしくはMycエピトープタグをTRAPδのカルボキシ末端に接合した。さらに、FLAGもしくはMycエピトープタグをDvl1のアミノ末端に接合した。コード配列は、自動DNA塩基配列決定によって確認した。
【0046】
(免疫沈降およびウエスタンブロット分析)
ウサギでNEDL1オリゴペペチド(460−482位)とTRAPδオリゴペプチド(93−126位)に対して、それぞれ抗NEDL1抗体と抗TRAPδ抗体を作成した。免疫沈降実験では、COS7細胞またはNeuro2a細胞を様々な組合わせで、発現プラスミドを用いて共トラスフェクトした。48時間後、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma社製)を追加したTNEバッファ(10mM Tris−HCl pH7.8、150mM NaCl、1%NP−40、1mM EDTA、1mM PMSF)中で細胞溶解した。全細胞溶解物を抗NEDL1抗体、抗FLAG抗体(M2、Sigma社製)または抗Myc抗体(9B11、Cell Signaling Technology社製)を用いて、免疫沈降させた。免疫複合体をGTP結合タンパク質セファロースビーズ上で回収し、Laemmliサンプルバッファ中で沸騰させて溶出し、SDSポリアミドゲルで電気泳動し、エレクトロブロットによりポリビニリデンジフルオリドメンブラン(Immobilon、Millipore社製)に移した。ユビキチン化実験では、細胞溶解をRIPAバッファ(10mM Tris−HCl pH7.4、150mM NaCl、1%NP−40、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、1mM EDTA)中で実施し、その後強力な超音波処理を行った。メンブレンを第1抗体でプローブし、それからホースラディシュペルオキシダーゼ(Jackson Immuno Research Laboratories/Southern Biotechnology Associates,Inc.製)で標識した二次抗体とともにインキュベートした。免疫反応性のバンドをECL増強化学発光法(Amersham Pharmacia Biotech社)によって検出した。タンパク質分解実験では、Neuro2細胞を所定の発現プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞をシクロヘキシミド(Sigma社製)の50μg/ml濃度で所定時間処理した。その後、全細胞溶解物の等量(50μg)をウエスタンブロットにかけ、続いてIntelligent Quantifier software(Bio Image社製)を用いて、定量した。
【0047】
(実施例1)NEDL1とTRAPδとの結合
COS7細胞を図2に示した発現プラスミド(NEDL1およびFLAG−TRAPδ)で共トランスフェクトした。全細胞溶解物を抗FLAG抗体(第1パネル)または抗NEDL1抗体(第2パネル)で免疫沈降(IP)させた。免疫沈降物を図に示した抗体を用いて免疫ブロット(IB)した。全細胞溶解物を各タンパク質の発現レベルについて、免疫ブロット解析した(第3パネル、第4パネル)。検出は、ホースラディシュペルオキシダーゼ共役された二次抗体を用いて行った。COS7細胞をxpress−NEDL1発現プラスミドでトランスフェクトし、同様の実験を行った(図3)。これらの結果から、NEDL1とTRAPδとの結合が外因性TRAPδについて確認された。
【0048】
(実施例2)NEDL1とSOD1変異体との結合
NEDL1およびFLAGタグSOD1変異体または野生型SOD1を過剰発現するCOS7細胞からの全細胞溶解物を抗FLAG抗体(第1パネル)または抗NEDL1抗体(第2パネル)を用いて、免疫沈降させ、それから抗NEDL1抗体または抗FLAG抗体を用いて、免疫ブロットした。NEDL1またはFLAGタグSOD1変異体の発現を抗NEDL1抗体(第3パネル)または抗FLAG抗体(第4パネル)を用いて、それぞれ解析した(図4)。発症後、急速な臨床経過を辿り、患者が1.5年以内に死亡するSOD1変異体(C6F、A4V)は、NEDL1と強く結合していることが分かる(図4、レーン3、4)。一方、発症後緩徐な臨床経過を示す、SOD1変異体(L126S、H46R、D90A)は、ほとんどNEDL1と結合をしていないことが分かる(図4、レーン11〜13)。発症後特異な神経症状を示す変異である、SOD1変異体(G93A)は、NEDL1と中程度の結合をしていることが分かる。また、野生型SOD1とNEDL1は結合しない(共沈しない)ことも分かる(レーン2)。
【0049】
(実施例3)TRAPδとSOD1変異体との結合
COS7細胞をFLAGタグTRAPδおよびMycタグSOD1変異体またはMycタグ野生型SOD1をコードする発現プラスミドで一過的に共トランスフェクトした。全細胞溶解物を抗Myc抗体(第1パネル)または抗FLAG抗体(第2パネル)を用いて、免疫沈降させ、それから抗FLAG抗体または抗Myc抗体を用いて、免疫ブロットした(図7)。FLAGタグTRAPδまたはMycタグSOD1変異体の発現を抗FLAG抗体(第3パネル)または抗Myc抗体(第4パネル)を用いて、それぞれ解析した。発症後、急速な臨床経過を辿り、患者が1.5年以内に死亡するSOD1変異体(A4V)は、TRAPδと強く結合していることが分かる(図7、レーン4)。一方、発症後緩徐な臨床経過を示す、SOD1変異体(H46R)は、ほとんどTRAPδと結合をしていないことが分かる(レーン6)。また、野生型SOD1とTRAPδは結合しない(共沈しない)ことも分かる(レーン3)。
【0050】
(実施例4)NEDL1依存性ユビキチン化
NEDL1は、SOD1変異体をSOD1のタイプに依存する様式でユビキチン化した。
COS7細胞を図5に示した発現プラスミドを用いて、一過的に共トランスフェクトした。トランスフェクトしたCOS7細胞からの全細胞溶解物を抗Myc抗体で免疫沈降させて、抗ユビキチン抗体を用いて免疫ブロットした(上部パネル)。ユビキチン化の程度は、ほぼFALSの臨床重症度(A4V>G93A>H46R)に比例した。全細胞溶解物を抗NEDL1抗体で免疫ブロットし、トランスフェクトしたNEDL1の発現を確認した(下部パネル)。図中、矢印は、ユビキチン化されていないSOD1の位置を示し、左側に分子量マーカーの位置を示してある。
【0051】
(実施例5)NEDL1の存在下、または不在下の野生型SOD1およびSOD1変異体の半減期
シクロヘキシジンを添加後(終濃度50μg/ml)、図6に示したような異なる時点で回収した、空ベクターまたはNEDL1発現プラスミドでトランスフェクトしたNeuro2a細胞の溶解物を抗FLAG抗体で免疫ブロットして、SOD1蛋白レベルを分析した。SOD1変異体は、野生型SOD1より迅速に分解された。NEDL1は、野生型SOD1の分解に影響を及ぼさなかった。SOD1変異体タンパク質の分解は、促進され、NEDL1の存在下、SOD1変異体タンパク質の半減期は、ほぼFALSの重症度(A4V>G93A>H46R)に比例して減少してゆくことが分かる。
【0052】
(実施例6)NEDL1とDvl1との結合
COS7細胞中、MycタグDvl1をNEDL1とともに過剰発現させた。全細胞溶解物を抗NEDL1抗体で免疫沈降させ、続いて抗Myc抗体を用いて免疫ブロットした(図8の上部パネル)。MycタグDvl1の発現レベルを抗Myc抗体を用いて、免疫ブロットし解析した(下部パネル)
【0053】
(実施例7)Dvl1のNEDL1依存性ユビキチン化
NEDL1は、COS7細胞中Dvl1をユビキチン化した。COS7細胞を図9に示した発現プラスミドを用いて、一過的に共トランスフェクトした。トランスフェクトしたCOS7細胞からの全細胞溶解物を抗Myc抗体で免疫沈降させて、抗ユビキチン抗体を用いて免疫ブロットした(上部パネル)。全細胞溶解物を抗xpress−NEDL1抗体(中段パネル)または抗Myc抗体(下段パネル)で免疫ブロットし、トランスフェクトしたNEDL1またはMyc−Dvl1の発現を確認した。
【0054】
(実施例8)NEDL1によるDvl1の分解
Neuro2a細胞をFLAGタグDvl1用の発現プラスミドを用いて、NEDL1発現プラスミドの存在下、または不在のもとでトランスフェクトした。トランスフェクト細胞をシクロヘキシジン添加後(終濃度50μg/ml)、図10に示したような異なる時点で回収した。
Neuro2a細胞溶解物を抗FLAG抗体で免疫ブロットして、Dvl1蛋白レベルを分析した。NEDL1の存在下、FLAG−Dvl1の半減期は、顕著に減少した。
【0055】
(実施例9)Dvl1とSOD1変異体との結合
COS7細胞を図11に示した発現プラスミドで一過的に共トランスフェクトした。全細胞溶解物を抗Myc抗体で、免疫沈降させ、それから抗FLAG抗体または抗Myc抗体を用いて、免疫ブロットした。NEDL1の存在下、Dvl1とSOD1変異体との結合が強まっていることが分かる(図11、レーン4)。結合能は、ほぼFALSの重症度(A4V>G93A>H46R)に比例して減少してゆくことも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、NEDL1とSOD1変異体との結合能、或いはNEDL1存在下、または非存在下でのNEDL1関連因子とSOD1変異体との結合能を評価することによって、前記SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度の判定を可能にし、FALSの診断に役に立つ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、NEDL1およびその関連因子と、SOD1変異体との相互作用に基づく、FALSの判定方法、或いは治療薬(方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脊椎、運動皮質、脳幹の運動ニューロンの変性、脱落により筋萎縮を生じる、予後不良の神経変性疾患である。現在、家族性のALS(familial lateral sclerosis:以下、FALSという)は、ALS全体の5〜10%の頻度で認められるが、その一部の家系で原因遺伝子が、CU/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)遺伝子であることが判明しており、FALS全体の約20%がSOD1遺伝子変異を原因としている。SOD1は、好気性代謝の過程で細胞内に生じる活性酵素の一種であり、スーパーオキシドを不活性化する。近年、変異型SOD1(以下、SOD1変異体という)が細胞内で凝集体を形成し、細胞毒性を発揮するという凝集体仮説がFALSの病因として最も有力なものとされつつある(非特許文献1)。
【0003】
本発明者らは、以前予後良好な神経芽腫と予後不良な神経芽腫との比較において、予後良好な神経芽腫で発現が増強されているNEDL1と命名した新規なHECT型ユビキチンライゲースを見出した(特許文献1)。さらに、NEDL1はSOD1変異体をユビキチン化することも見出した。
【0004】
SOD1変異体の細胞内情報伝達経路については、不明な部分が多いがSOD1変異体のみと結合し、正常SOD1(野生型SOD1)とは結合しない蛋白因子として、小胞体トランスロコン成分であるTRAPδ(translocon−associated protein complex)が報告されている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0005】
このようにFALSの原因遺伝子であるSOD1変異体とその関連分子との間の相互作用については、解明されつつあるが、FALSの病理発生については、前記凝集体仮説が正しいとしてもそのメカニズムの全容の解明には程遠い現状である。
【特許文献1】国際公開WO 03/018842パンフレット
【非特許文献1】中野亮一、細胞工学、第20巻、第11号、1508−1512、2001
【非特許文献2】Ryen D.Fons,et al,The Journak of Cell Biology、Vol.160,No.4,2003(529−539)
【非特許文献3】Kunst C.B.,et al,Nat.Genet.15,91−94(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SOD1変異体とその関連分子との間の相互作用におけるNEDL1の役割について明らかにし、FALSの発症メカニズムの凝集体仮説を検証する。その過程において、各種分子間の結合、相互作用を評価すると、FALSの治療・診断につながる知見が得られる可能性がある。
【0007】
本発明は、SOD1変異体とその関連分子との結合、相互作用(NEDL1が介在するか、または介在しない)を遺伝子または蛋白レベルで解明することを1つの目的とする。さらに、本発明は、そこで得られた知見を臨床に応用すること、すなわちFALSの新たな治療剤(方法)、診断薬(方法)を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、NEDL1がTRAPδとが結合し、さらにこれらはSOD1変異体と複合体を形成して、該複合体における結合強度はFALSの臨床悪性度とほぼ比例することを見出した。さらに、同様にNEDL1がDishevell1(以下、Dvl1という)と結合し、さらにこれらはSOD1変異体と複合体を形成して、該複合体における結合強度はFALSの臨床悪性度とほぼ比例することを見出した。また、NEDL1とSOD1変異体との相互作用もFALSの臨床悪性度とほぼ比例することを見出した。
【0009】
特定的には、FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とTRAPδとの結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法が提供される。
【0010】
また、FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1およびDvl1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法も提供される。
【0011】
また、FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法も提供される。
【0012】
要するに、本発明はFALSの臨床悪性度の判定におけるNEDL1またはその基質の使用を提供する。具体的には、その判定において、単離SOD1変異体を用いることを特徴とする。ここで、好ましくは前記基質は、TRAPδまたはDvl1である。
【0013】
くわえて、SOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤が提供される。
【0014】
好ましくは、前記基質がTRAPδまたはDvl1である。
【0015】
また、神経細胞において、候補薬剤がSOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤であるか否かを決定することを特徴とする、FALSの治療において有用な薬剤をスクリーニングする方法も提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従えば、FALSの原因遺伝子であるSOD1変異体とその関連分子(TRAPδ、Dvl1等)との間にNEDL1が介在して、複合体が形成されることが明らかとなり、FALSの発症メカニズムとしての凝集体説が確かめられた。さらに、このような複合体におけるSOD1変異体と前記分子との結合能(NEDL1を介するか、介さないかして)がFALSの臨床悪性度に関連しているので、該結合能を評価することによって、FALSの臨床悪性度を判定することができる。
【0017】
また、上記の凝集体の形成を阻止することができれば、FALSの治療に繋がる。したがって、本発明に従えば、FALSの治療に有用であろう、SOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤が見出される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ヒトNEDL1(hNEDL1)とマウスNEDL1(mNEDL1)との間の保存的アミノ酸配列のアライメントを示す図である。図中、右欄番号は、イニシエーターであるメチオニンからの塩基数を表す。C2ドメイン、WWドメインおよびHECTドメインがそれぞれ示されている。
【図2】NEDL1とTRAP−δとの結合を示す免疫ブロットした電気泳動図(免疫ブロット図)である。
【図3】NEDL1と内因性TRAP−δとの結合を示す免疫ブロットした電気泳動図である。
【図4】NEDL1とSOD1変異体との結合を示す免疫ブロット図である。
【図5】NEDL1の野生型SOD1およびSOD1変異体に対するユビキチン化を示す免疫ブロット図である。
【図6】NEDL1の存在下、SOD1変異体および野生型SOD1の分解の経時変化を示す免疫ブロット図である。
【図7】SOD1変異体と外因性TRAPδとの結合を示す免疫ブロット図である。
【図8】NEDL1とDvl1との結合を示す免疫ブロット図である。
【図9】NEDL1のDvl1に対するユビキチン化を示す免疫ブロット図である。
【図10】NEDL1の存在下、Dvl1の分解の経時変化を示す免疫ブロット図である。
【図11】NEDL1の存在下、SOD1変異体とDvl1との結合を示す免疫ブロット図である。
【図12】FALS病理発生におけるSOD1変異体とその関連分子との間の相互作用の模式図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について、好適な実施の形態を参照して、詳細に説明する。
【0020】
本発明に係るNEDL1遺伝子は、全長6200塩基(コード領域4755塩基)を有する遺伝子であり、その塩基配列を配列表の配列番号2に示す。該遺伝子がコードするNEDL1タンパク質は、1585個のアミノ酸からなり、その全長を配列表の配列番号1に示す。なお、前記塩基配列およびアミノ酸配列は、GeneBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)に受理番号AB048365として登録されている。
【0021】
図1にヒトNEDL1(hNEDL1)とマウスNEDL1(mNEDL1)のアライメント(ホモロジー解析)を示す。NEDL−1タンパク質は、HECT型ユビキチンリガーゼの特徴である以下のドメインを有することが分かる。すなわち、(1)N末端にC2ドメイン(カルシウム依存的に膜脂質に結合する)、(2)中央部にWWドメイン(プロリンリッチ領域との結合に関与)、(3)C末端領域にHECTドメイン(ユビキチン結合酵素E2の結合部位)である。
【0022】
NEDL1の基質を同定するために、本発明者らは、前記WWドメイン(757−1114位)を用いて、yeast two hybridスクリーニングを行った。その結果、1つの基質としてTRAPδが見出された。
【0023】
TRAPδは、小胞体膜を横切るタンパク質のトランスロケーションに関連する因子である、トランスロコン(translocon−associated protein)複合体の構成タンパク質の1つのサブユニットである。TRAPδが野生型SODとは結合しないが、SOD1変異体と結合することは既に報告されている(Kunst C.B.ら、前掲)。そこで、本発明者らは、NEDL1、TRAPδ、およびSOD1間の相互作用を調べた。具体的には、COS7細胞をこれらの発現構築物で共トランスフェクトし、免疫ブロットおよび免疫沈降アッセイによって、解析した。
【0024】
NEDL1とTRAPδとの結合
上記の解析の結果、図2、3に示すように、NEDL1は、内因性および外因性のTRAPδと結合していることが確認される。この結合は、yeast two−hybridスクリーニングでも前記WWドメインを介していることが確認される。しかし、TRAPδは、NEDL1によってユビキチン化されない。
【0025】
NEDL1とSOD1との結合
上記の解析の結果、図4に示すように、NEDL1は、SOD1変異体と結合するが、野生型SOD1とは結合しないことが確認される。また、NEDL1と様々なSOD1変異体との結合能は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0026】
くわえて、NEDL1がSOD1変異体をユビキチン化することが確認され(図5)、そのユビキチン化の程度は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0027】
NEDL1の存在下、SOD1変異体の分解の経時変化を示したものが、図6であるが、ここでも臨床悪性度に比例して、SOD1変異体が分解していることが分かる。
【0028】
これらの結果から、SOD1変異体のユビキチン化を経由する分解には、NEDL1が介在し、臨床悪性度に比例して、分解が進行することが示される。
【0029】
TRAPδとSOD1との結合
上記の解析の結果、図7に示すように、外因性TRAPδは、SOD1変異体と結合するが、野生型SOD1とは結合しないことが確認される。また、NEDL1の場合と同様に、TRAPδと様々なSOD1変異体との結合能は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0030】
以上の結果および他の研究結果を総合して、FALSの病理発生におけるNEDL1の役割として、(1)NEDL1は、単独でまたはTRAPδと共にSOD1変異体をユビキチン化する(2)NEDL1とTRAPδは、SOD1変異体と凝集体を形成し、これがゴルジ装置の断片化を誘起、ニューロンのアポトーシスをもたらす(3)凝集体の形成は、NEDL1および/またはTRAPδの機能不全を引き起こし、それが運動ニューロン死に結びつく疾患となる(4)NEDL1/TRAP−δ/SOD1変異体の凝集体は、その正常な機能が運動ニューロンの生存に重要である分子シャペロンのような因子を取り込み、不活性化する、などであろう。
【0031】
次いで、ユビキチン化依存性蛋白分解時のNEDL1の基質を同定するために、本発明者らは、NEDL1のWWドメインを含む別のドメイン(382−1448位)を用いて、yeast two hybridスクリーニングを行った。その結果、Dvl1が基質として同定された。
【0032】
ヒトDVl1は、670個のアミノ酸からなるタンパク質で、以下のドメインを有する。すなわち、(1)カノニカルWnt/TCFシグナリングに必要とされるDIXドメイン、(2)PDZドメイン(Stbm、CKI結合の標的)、(3)DEPドメイン(PCPシグナリング中の膜局在化に関与)である(D.J.Sussman et al.,Dev.Biol.166,73−86(1994);A.Wodarz et al.,Cell Dev.Biol.14,59−88(1998);M.Boutros et al.,Cell,94,109−118(1998))であり、DEPドメインとNEDL1のWWドメインが結合するものと考えられる。
【0033】
TRAPδの場合と同様に、NEDL1、DVl1およびSOD1間の相互作用を調べた。具体的には、COS7細胞をこれらの発現構築物で共トランスフェクトし、免疫ブロットおよび免疫沈降アッセイによって、解析した。
【0034】
NEDL1とDvl1との結合
上記の解析の結果、図8に示すように、NEDL1は、Dvl1と結合していることが確認される。また、NEDL1は、Dvl1をユビキチン化することが確認され、(図9)さらにNEDL1の存在下、Dvl1の分解の経時変化を示したものが図10である。
【0035】
Dvl1とSOD1との結合
上記の解析の結果、図11に示すように、Dvl1は、SOD1とNEDL1の存在下結合することが確認される。また、Dvl1と様々なSOD1変異体との結合能は、SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度とほぼ比例することが分かる。
【0036】
ALS患者の運動ニューロンで細胞骨格異常が報告されており、NEDL1介在Dvl1分解に対する前記のSOD1変異体の影響が運動ニューロン死に関与していることは可能である(Luo,Z.G.et al.,Neuron 35,489−505(2002))。
【0037】
結論
神経細胞E3ユビキチンリガーゼであるNEDL1は、TRAPδと結合(相互作用)するが、Dvl1とも結合し、これをユビキチン化して分解する。NEDL1は、このようにSOD1変異体、DVl1、TRAPδと複合体を形成するので、特にユビキチン介在の分解を逃れたSOD1変異体と巨大な凝集体を形成する。標的タンパク質(基質)であるDVl1またはTRAPδの活性に影響を与えるNEDL1の機能は、SOD1変異体によって調節される。これら個々の相互作用がすべて、FALSの病理発生に関係しているようである。したがって、前記複合体もしくは巨大凝集体形成の分子メカニズムの解明は、ALSにおける運動ニューロン死を説明し、ひいてはALSに対する新たな治療薬・治療方法の展望を開くことになる。図12に、本発明において得られた知見に基づく、FALS病理発生におけるSOD1変異体とその関連分子との間の相互作用の模式図を示す。
【0038】
FALSの治療剤および治療方法
上記のような考察に基づいて、本発明によれば、SOD1変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤の開発が提供される。阻害剤としての候補薬剤は、核酸、タンパク質、低分子化合物(化学合成または天然由来)、タンパク質以外の高分子化合物などである。
【0039】
このような阻害剤のスクリーニング方法としては、Two−Hybrid System(例えば、Gyuris,J.Cell,1993,75,791−803;Golemis,E.A.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sions,Inc.)1996,Ch.20.0−20.1)が挙げられる。また、免疫学的手法で、阻害剤のスクリーニング法を実施することもできる。具体的には、細胞(神経細胞)内でSOD1変異体(特に、臨床悪性度の高いもの)とNEDL1および/またはその基質を発現させ、一定時間候補薬剤と共に培養した後、細胞を粉砕して細胞溶解液を調製する。一方の分子に対する抗体で免疫沈降させ、沈殿中に含まれる他方の分子(それ以外)を免疫学的手法(免疫ブロット等)で検出ないし、定量することで、候補薬剤の各分子の相互作用に及ぼす影響を検出できる。ここで、上記培養系に適当なアゴニストと候補薬剤とを同時に添加して、上記アッセイを行い、候補薬剤を含まない細胞からの免疫沈降物と比較することで阻害剤のスクリーニングが可能である。
【0040】
上記のスクリーニング方法で同定されたSOD1変異体とNEDL1および/またはその基質における阻害剤であるタンパク質等は、FALSを患う患者またはその可能性のある患者に経口的に、または非経口的に投与する。この目的で、そのタンパク質を薬学的組成物として調製する。これは、有効量の該結合阻害を薬学的に許容される担体、もしくは希釈剤と混合して、適当な剤形とする。投与に適した剤形は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤、坐剤、注射剤等である。
【実施例】
【0041】
(方法)
(ヒトNEDL1 cDNAのクローニング)
ヒトNEDL1 cDNAのクローニングについては、国際公開WO 03/018842パンフレット(PCT/JP02/08524)に詳述してあるが、本発明では、以下のようにして、実施した。すなわち、フォワード・プライマー(5’−GGTTTTTAGGCCTGGCCGCC−3’、配列番号3)およびリバース・プライマー(5’−CAATGAGGTACATGCCAATCC−3’、配列番号4)を使用し、ヒト胎児脳(Stratagene社製)をテンプレートとして、NEDL1cDNA(ヒト神経芽細胞種からのcDNAライブラリー)の5’部分を増幅した。全長ヒトNEDL1cDNAは、PCR増幅断片(ヌクレオチド1位(翻訳開始部位)〜68位)とKIAA0322 cDNA((財)かずさDNA研究所、T.Nagase氏より寄贈)と融合させて、作成した。
【0042】
(細胞培養およびトランスフェクション)
細胞は、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Life Technologies,Inc.)、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したRPMI1640培地で増殖した。COS7およびNeuro2a細胞は、10%熱不活性化ウシ胎児血清とペニシリン(100IU/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle medium:DMEM)に維持した。細胞は、空気中水飽和5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で培養し。各発現プラスミドの共トランスンスフェクションは、製造者の指示書に従い、リポフェクトアミン(LipofectAMINE、Life Technologies,Inc.社製)を用いて実施した。ある種の実験では、トランスフェクトした細胞をMG−132を用いて、終濃度40μMで30分間処理した。
【0043】
(Yeast Two−Hybrid Screening)
スクリーニングは、ヒト胎児脳(1次スクリーニング)およびヒト成人脳(2次スクリーニング)から得られたcDNAライブラリーを用いる、Gal4−based matchmaker two−hybrid system(Clonetech社製)を使用して実行した。Saccharomyces cereviciae CG1945細胞をpAS2−1−NEDL1−1(757−1114位、1次スクリーニング)またはpAS2−1−NEDL1−2(382−1448位、2次スクリーニング)で形質転換した。これらの発現ベクターは共にLacZの転写のみを活性化しない。形質転換体をさらに前記cDNAライブラリーで形質転換した。LacZ陽性コロニーを選択した。これら陽性コロニーからプラスミドDNAを抽出して、その核酸配列を決定した。
【0044】
(インビトロユビキチン化アッセイ)
インビトロユビキチン化アッセイは、以下のように実施した。0.5μgの精製GST融合蛋白0.25μg酵母E1(Boston Biochem社製)、E2sを発現するE.coliからの粗細胞溶解物1μlおよび10μgウシUb(Sigma社製)を250mM Tris−HCl(pH7.6)、1.2M NaCl、50mM ATP、10mM MgCl2、および30mMジチオスレイトール中でインキュベートした。30℃で2時間後、SDSサンプルバッファを添加して、反応を停止した。試料をSDS−PAGEで分析し、メンブランに移し、抗ユビキチンモノクローナル抗体(Medial Biological Laboratories社製)で免疫ブロットした。
【0045】
(発現構築物)
ヘマグルチニンタグおよび(His6)タグされたユビキチンの哺乳動物用発現プラスミドは、D.Bohmann氏より寄贈された。全長NEDL1 cDNAを哺乳動物用発現プラスミドpEF1/His(Invitrogen社製)またはpIRESpuro2(Clontech社製)に導入した。野生型または変異型のSOD1をコードするcDNAをFLAGもしくはMycエピトープタグ配列のカルボキシ末端に接合し、pIRESpuro2にサブクロニーングした。同様に、FLAGもしくはMycエピトープタグをTRAPδのカルボキシ末端に接合した。さらに、FLAGもしくはMycエピトープタグをDvl1のアミノ末端に接合した。コード配列は、自動DNA塩基配列決定によって確認した。
【0046】
(免疫沈降およびウエスタンブロット分析)
ウサギでNEDL1オリゴペペチド(460−482位)とTRAPδオリゴペプチド(93−126位)に対して、それぞれ抗NEDL1抗体と抗TRAPδ抗体を作成した。免疫沈降実験では、COS7細胞またはNeuro2a細胞を様々な組合わせで、発現プラスミドを用いて共トラスフェクトした。48時間後、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma社製)を追加したTNEバッファ(10mM Tris−HCl pH7.8、150mM NaCl、1%NP−40、1mM EDTA、1mM PMSF)中で細胞溶解した。全細胞溶解物を抗NEDL1抗体、抗FLAG抗体(M2、Sigma社製)または抗Myc抗体(9B11、Cell Signaling Technology社製)を用いて、免疫沈降させた。免疫複合体をGTP結合タンパク質セファロースビーズ上で回収し、Laemmliサンプルバッファ中で沸騰させて溶出し、SDSポリアミドゲルで電気泳動し、エレクトロブロットによりポリビニリデンジフルオリドメンブラン(Immobilon、Millipore社製)に移した。ユビキチン化実験では、細胞溶解をRIPAバッファ(10mM Tris−HCl pH7.4、150mM NaCl、1%NP−40、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、1mM EDTA)中で実施し、その後強力な超音波処理を行った。メンブレンを第1抗体でプローブし、それからホースラディシュペルオキシダーゼ(Jackson Immuno Research Laboratories/Southern Biotechnology Associates,Inc.製)で標識した二次抗体とともにインキュベートした。免疫反応性のバンドをECL増強化学発光法(Amersham Pharmacia Biotech社)によって検出した。タンパク質分解実験では、Neuro2細胞を所定の発現プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞をシクロヘキシミド(Sigma社製)の50μg/ml濃度で所定時間処理した。その後、全細胞溶解物の等量(50μg)をウエスタンブロットにかけ、続いてIntelligent Quantifier software(Bio Image社製)を用いて、定量した。
【0047】
(実施例1)NEDL1とTRAPδとの結合
COS7細胞を図2に示した発現プラスミド(NEDL1およびFLAG−TRAPδ)で共トランスフェクトした。全細胞溶解物を抗FLAG抗体(第1パネル)または抗NEDL1抗体(第2パネル)で免疫沈降(IP)させた。免疫沈降物を図に示した抗体を用いて免疫ブロット(IB)した。全細胞溶解物を各タンパク質の発現レベルについて、免疫ブロット解析した(第3パネル、第4パネル)。検出は、ホースラディシュペルオキシダーゼ共役された二次抗体を用いて行った。COS7細胞をxpress−NEDL1発現プラスミドでトランスフェクトし、同様の実験を行った(図3)。これらの結果から、NEDL1とTRAPδとの結合が外因性TRAPδについて確認された。
【0048】
(実施例2)NEDL1とSOD1変異体との結合
NEDL1およびFLAGタグSOD1変異体または野生型SOD1を過剰発現するCOS7細胞からの全細胞溶解物を抗FLAG抗体(第1パネル)または抗NEDL1抗体(第2パネル)を用いて、免疫沈降させ、それから抗NEDL1抗体または抗FLAG抗体を用いて、免疫ブロットした。NEDL1またはFLAGタグSOD1変異体の発現を抗NEDL1抗体(第3パネル)または抗FLAG抗体(第4パネル)を用いて、それぞれ解析した(図4)。発症後、急速な臨床経過を辿り、患者が1.5年以内に死亡するSOD1変異体(C6F、A4V)は、NEDL1と強く結合していることが分かる(図4、レーン3、4)。一方、発症後緩徐な臨床経過を示す、SOD1変異体(L126S、H46R、D90A)は、ほとんどNEDL1と結合をしていないことが分かる(図4、レーン11〜13)。発症後特異な神経症状を示す変異である、SOD1変異体(G93A)は、NEDL1と中程度の結合をしていることが分かる。また、野生型SOD1とNEDL1は結合しない(共沈しない)ことも分かる(レーン2)。
【0049】
(実施例3)TRAPδとSOD1変異体との結合
COS7細胞をFLAGタグTRAPδおよびMycタグSOD1変異体またはMycタグ野生型SOD1をコードする発現プラスミドで一過的に共トランスフェクトした。全細胞溶解物を抗Myc抗体(第1パネル)または抗FLAG抗体(第2パネル)を用いて、免疫沈降させ、それから抗FLAG抗体または抗Myc抗体を用いて、免疫ブロットした(図7)。FLAGタグTRAPδまたはMycタグSOD1変異体の発現を抗FLAG抗体(第3パネル)または抗Myc抗体(第4パネル)を用いて、それぞれ解析した。発症後、急速な臨床経過を辿り、患者が1.5年以内に死亡するSOD1変異体(A4V)は、TRAPδと強く結合していることが分かる(図7、レーン4)。一方、発症後緩徐な臨床経過を示す、SOD1変異体(H46R)は、ほとんどTRAPδと結合をしていないことが分かる(レーン6)。また、野生型SOD1とTRAPδは結合しない(共沈しない)ことも分かる(レーン3)。
【0050】
(実施例4)NEDL1依存性ユビキチン化
NEDL1は、SOD1変異体をSOD1のタイプに依存する様式でユビキチン化した。
COS7細胞を図5に示した発現プラスミドを用いて、一過的に共トランスフェクトした。トランスフェクトしたCOS7細胞からの全細胞溶解物を抗Myc抗体で免疫沈降させて、抗ユビキチン抗体を用いて免疫ブロットした(上部パネル)。ユビキチン化の程度は、ほぼFALSの臨床重症度(A4V>G93A>H46R)に比例した。全細胞溶解物を抗NEDL1抗体で免疫ブロットし、トランスフェクトしたNEDL1の発現を確認した(下部パネル)。図中、矢印は、ユビキチン化されていないSOD1の位置を示し、左側に分子量マーカーの位置を示してある。
【0051】
(実施例5)NEDL1の存在下、または不在下の野生型SOD1およびSOD1変異体の半減期
シクロヘキシジンを添加後(終濃度50μg/ml)、図6に示したような異なる時点で回収した、空ベクターまたはNEDL1発現プラスミドでトランスフェクトしたNeuro2a細胞の溶解物を抗FLAG抗体で免疫ブロットして、SOD1蛋白レベルを分析した。SOD1変異体は、野生型SOD1より迅速に分解された。NEDL1は、野生型SOD1の分解に影響を及ぼさなかった。SOD1変異体タンパク質の分解は、促進され、NEDL1の存在下、SOD1変異体タンパク質の半減期は、ほぼFALSの重症度(A4V>G93A>H46R)に比例して減少してゆくことが分かる。
【0052】
(実施例6)NEDL1とDvl1との結合
COS7細胞中、MycタグDvl1をNEDL1とともに過剰発現させた。全細胞溶解物を抗NEDL1抗体で免疫沈降させ、続いて抗Myc抗体を用いて免疫ブロットした(図8の上部パネル)。MycタグDvl1の発現レベルを抗Myc抗体を用いて、免疫ブロットし解析した(下部パネル)
【0053】
(実施例7)Dvl1のNEDL1依存性ユビキチン化
NEDL1は、COS7細胞中Dvl1をユビキチン化した。COS7細胞を図9に示した発現プラスミドを用いて、一過的に共トランスフェクトした。トランスフェクトしたCOS7細胞からの全細胞溶解物を抗Myc抗体で免疫沈降させて、抗ユビキチン抗体を用いて免疫ブロットした(上部パネル)。全細胞溶解物を抗xpress−NEDL1抗体(中段パネル)または抗Myc抗体(下段パネル)で免疫ブロットし、トランスフェクトしたNEDL1またはMyc−Dvl1の発現を確認した。
【0054】
(実施例8)NEDL1によるDvl1の分解
Neuro2a細胞をFLAGタグDvl1用の発現プラスミドを用いて、NEDL1発現プラスミドの存在下、または不在のもとでトランスフェクトした。トランスフェクト細胞をシクロヘキシジン添加後(終濃度50μg/ml)、図10に示したような異なる時点で回収した。
Neuro2a細胞溶解物を抗FLAG抗体で免疫ブロットして、Dvl1蛋白レベルを分析した。NEDL1の存在下、FLAG−Dvl1の半減期は、顕著に減少した。
【0055】
(実施例9)Dvl1とSOD1変異体との結合
COS7細胞を図11に示した発現プラスミドで一過的に共トランスフェクトした。全細胞溶解物を抗Myc抗体で、免疫沈降させ、それから抗FLAG抗体または抗Myc抗体を用いて、免疫ブロットした。NEDL1の存在下、Dvl1とSOD1変異体との結合が強まっていることが分かる(図11、レーン4)。結合能は、ほぼFALSの重症度(A4V>G93A>H46R)に比例して減少してゆくことも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、NEDL1とSOD1変異体との結合能、或いはNEDL1存在下、または非存在下でのNEDL1関連因子とSOD1変異体との結合能を評価することによって、前記SOD1変異体が単離されたFALS患者の臨床悪性度の判定を可能にし、FALSの診断に役に立つ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とTRAPδとの結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法。
【請求項2】
FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1およびDvl1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法。
【請求項3】
FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法。
【請求項4】
FALSの臨床悪性度の判定におけるNEDL1またはその基質の使用。
【請求項5】
単離SOD1変異体を用いることを特徴とする請求項4に記載のNEDL1の使用。
【請求項6】
前記基質がTRAPδまたはDvl1であることを特徴とする請求項5に記載のNEDL1の使用。
【請求項7】
SOD1変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤。
【請求項8】
前記基質がTRAPδまたはDvl1であることを特徴とする請求項7に記載の阻害剤。
【請求項9】
神経細胞において、候補薬剤がSOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤であるか否かを決定することを特徴とする、FALSの治療において有用な薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項1】
FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とTRAPδとの結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法。
【請求項2】
FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1およびDvl1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法。
【請求項3】
FALS患者由来の被検体からSOD1変異体を単離し、該SOD1変異体とNEDL1との結合能を評価することを特徴とする、FALSの臨床悪性度の判定方法。
【請求項4】
FALSの臨床悪性度の判定におけるNEDL1またはその基質の使用。
【請求項5】
単離SOD1変異体を用いることを特徴とする請求項4に記載のNEDL1の使用。
【請求項6】
前記基質がTRAPδまたはDvl1であることを特徴とする請求項5に記載のNEDL1の使用。
【請求項7】
SOD1変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤。
【請求項8】
前記基質がTRAPδまたはDvl1であることを特徴とする請求項7に記載の阻害剤。
【請求項9】
神経細胞において、候補薬剤がSOD変異体とNEDL1および/またはその基質との相互作用における阻害剤であるか否かを決定することを特徴とする、FALSの治療において有用な薬剤をスクリーニングする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【国際公開番号】WO2005/056822
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516178(P2005−516178)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018410
【国際出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/018410
【国際出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】
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