説明

FIB自動加工時のドリフト補正方法及び装置

【課題】 本発明はFIB自動加工時のドリフト補正方法及び装置に関し、試料の位置決めとFIB加工を速やかに行なうことができるFIB自動加工時のドリフト補正方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 試料上へのFIB加工時において、試料上に大小1つずつの参照画像をもつ少なくとも1つの参照画像領域を設定する参照画像設定手段と、FIB加工時に前記参照画像領域の画像を読み込む画像読み込み手段20と、FIB加工時に、前記読み込んだ画像からイオンビーム照射前と照射後の画像のずれの方向と量を求める演算制御手段30と、該演算制御手段30の出力を受けて画像のずれの方向と量とに基づいて画像のずれを補正してビーム偏向系の補正を行なうビーム偏向系調整手段とを具備して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFIB自動加工時のドリフト補正方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FIB装置(集束イオンビーム装置)により、試料面を微細加工するためビーム照射を行なう場合、ビーム照射時間が長くなると、試料が載置されるステージ系や電気系が時間と共にドリフトすることにより、正確なビーム描画が得られないことがある。特に半導体デバイスのデザインルールの縮小下により微細加工で必要とされる位置精度は100nm以下になってきている。このような位置精度を実現するためには微細加工中に照射位置が動いてしまうドリフト量はその1/10位の10nm以下が必要になってきている。このため、試料上に固有のマークを付けて、このマークの位置ずれを基にドリフトによるビーム照射補正を行なうことが行われる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、作成する試料断面と平行な方向に直線形状加工を行ない、加工中にこの直線形状加工領域を参照して直線に対して垂直方向に限定した直線位置をドリフト補正のための計測値として加工位置を補正する技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
従来のこの種のFIB装置においては、高精度のパルスモータを用いたり、ステージ用マークを利用したステージ移動を実施している。そこでステージ位置を決定後、加工が開始され、位置補正がされる。つまり、ドリフト補正は加工開始後からなる。
【特許文献1】特開平9−274879号公報(段落0009〜段落0011、図1)
【特許文献2】特開2003−331775号公報(段落0017〜段落0031、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の技術では、イオンビームの位置において、ステージの移動を伴う自動加工を実施する場合、あるマークによるステージの移動を補正しているのが現状である。FIB装置では、試料を自動加工することが目的であるが、加工位置を複数加工するため、ステージ位置を機械的精度により正確に再現することは困難であった。このため、ステージの機械的精度を上げたり、固有のマークをつけてステージ移動で補正をして再現させていた。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、試料の位置決めとFIB加工を速やかに行なうことができるFIB自動加工時のドリフト補正方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)請求項1記載の発明は、試料上へのFIB加工時において、試料上に大小1つずつの参照画像をもつ少なくとも1つの参照画像領域を設けるステップと、前記参照画像領域のイオンビーム照射前と照射後の画像から画像のずれの方向と量を演算により求めるステップと、前記演算により求めた画像のずれの方向と量とに基づいて画像のずれを補正してビーム偏向系の調整を行なうステップとにより構成されるFIB自動加工時のドリフト補正方法であって、先ず、加工開始前のステージ移動には、前記大きい方の参照画像を用いて位置補正を行ない、イオンビーム加工時には前記小さい方の参照画像を用いて位置補正を行なうことを特徴とする。
【0008】
(2)請求項2記載の発明は、前記参照用画像のイオンビーム照射前と照射後の画像から画像のずれの方向と量を求める手段としてフーリエ変換を用いることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記参照用画像として特定の形状のマークを付したものを用いることを特徴とする。
【0009】
(4)請求項4記載の発明は、前記イオンビーム照射前と照射後の画像からフーリエ変換以外の画像処理を用いて画像のずれの方向と量を求めることを特徴とする。
(5)請求項5記載の発明は、試料上へのFIB加工時において、試料上に大小1つずつの参照画像をもつ少なくとも1つの参照画像領域を設定する参照画像設定手段と、FIB加工時に前記参照画像領域の画像を読み込む画像読み込み手段と、FIB加工時に、前記読み込んだ画像からイオンビーム照射前と照射後の画像のずれの方向と量を求める演算制御手段と、該演算制御手段の出力を受けて画像のずれの方向と量とに基づいて画像のずれを補正してビーム偏向系の補正を行なうビーム偏向系調整手段とを具備し、先ず、加工開始前のステージ移動には、前記大きい方の参照画像を用いて位置補正を行ない、イオンビーム加工時には前記小さい方の参照画像を用いてドリフト補正を行なうように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)請求項1記載の発明によれば、ビーム加工開始前のステージ移動には、大きい方の参照画像を用いてステージ位置決めを行ない、ビーム加工時には小さい方の参照画像を用いてドリフト補正を行なうようにしているので、試料の位置決めとFIB加工を速やかに行なうことができる。
【0011】
(2)請求項2記載の発明によれば、小さな参照画像を用いてイオンビーム照射前と照射後の画像から画像のずれの方向と量をフーリエ変換を用いて求めることができ、速やかなドリフト補正を行なうことができる。
【0012】
(3)請求項3記載の発明によれば、小さな参照用画像として特定のマークを付したものを用いることによりフーリエ変換による画像のずれの方向と量をより正確に求めることができる。
【0013】
(4)請求項4記載の発明によれば、小さな参照用画像からフーリエ変換以外の画像処理を用いて画像のずれの方向と量を求めることができる。
(5)請求項5記載の発明によれば、ビーム加工開始前のステージ移動には、大きい方の参照画像を用いてステージ位置決めを行ない、ビーム加工時には小さい方の参照画像を用いてドリフト補正を行なうようにしているので、試料の位置決めとFIB加工を速やかに行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の要部の一実施の形態例を示す構成図である。図において、1はイオンを出射するイオン源、2はイオン源1から出射されたイオンビームを収束させる光学系、3はイオンビームを偏向するビーム偏向系調整手段としての偏向器である。10は加工領域と参照画像領域とからなる加工設定画面である。該加工設定画面10において、11は参照画像領域、12は第1の加工領域(加工1領域)、13は第2の加工領域(加工2領域)である。
【0015】
図2は加工設定画面を示す図である。図に示す加工設定画面は、イオンビームでスキャンされる試料の領域に対応しており、図では、加工設定画面を10Aと10Bの2個設けた場合を示しているが、これに限るものではない。これら加工設定画面は参照画像設定手段(図示せず)により与えられる。参照画像領域11A,11Bのうち、1A,1Bは大きい方の参照画像、2A,2Bは小さい方の参照画像である。大きい方の参照画像1A,1Bは、加工開始前のステージ移動による位置決めを行なうために用いられ、小さい方の参照画像2A,2BはFIB加工時のドリフト補正のために用いられる。なお、この参照画像1A,2A,1B,2Bは、何らかの構造が含まれるものであればよい。
【0016】
第1の加工領域(加工1領域)12A,12Bと第2の加工領域(加工2領域)13A,13Bは、実際にイオンビームを照射してエッチング等の加工を行なう領域である。14A,14Bは加工1領域と加工2領域により挟まれた領域であり、薄膜となる。つまり、試料を加工1領域と加工2領域とに分けてエッチングすることにより、これら2つの領域に挟まれた領域を形成せしめ、薄膜として利用するものである。この薄膜14A,14BをSEM(走査電子顕微鏡)やTEM(透過電子顕微鏡)で観察する。
【0017】
再び、図1の説明に戻る。20は参照画像領域11A,11Bの画像を読み込む画像読み込み手段である。具体的には、イオンビームで参照画像領域11A,11Bをスキャンして該参照画像領域から反射される反射粒子信号を検出器で検出して電気信号に変換する。該画像読み込み手段20としては、例えばPMTが用いられる。21はドリフト前の画像、22はドリフト後の画像である。30は画像読み込み手段20から読み込んだ画像情報を受けて、イオンビーム照射前と照射後の画像から画像のずれの方向と量を求める演算制御手段である。該演算制御手段30としては、例えばコンピュータが用いられる。
【0018】
演算制御手段30は、前記ずれの方向と量とから位置補正量を求め、偏向器3に偏向補正量として与える。具体的には、演算制御手段30から出力されるx方向、及びy方向の補正量信号は、増幅器4,5を介してこれら増幅器4,5で増幅された後、偏向器3に与えられる。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0019】
先ず、加工設定画面10A,10Bの設定を行なう。この加工設定画面10A,10Bの設定は、オペレータが試料の適当な領域を設定することで行なう。加工設定画面10A,10Bが設定されると、オペレータは、参照画像設定手段(図示せず)を用いて参照画像領域11A,11Bの何れかを決定する。この参照画像領域11A,11Bは、イオンビーム照射前と照射後における画像のずれの方向と量を算出するのに最も適当な部分が用いられる。また、この参照画像領域は、1つあれば、画像のずれの方向と量とを求めることができる。
【0020】
次に、加工1領域12A,12Bと加工2領域13A,13Bとを決定する。加工1領域12A,12Bと加工2領域,13A,13Bとは、TEM等で観察する薄片14A,14Bを作成するために必要な領域である。このことから、イオンビームによりエッチングされる面積と加工1領域12A,13Aと加工2領域12B,13B間の距離が決定される。加工1領域12A,12Bと加工2領域13A,13B間の距離はとりもなおさず薄片14A,14Bの厚さとなる。このようにして決定された参照画像領域11A,11Bと加工1領域12A,13A,加工2領域13A,13B領域の画像読み込み手段20で読み取った画像は演算制御手段30に付属のメモリ(図示せず)に格納される。
【0021】
このようにして参照画像領域11A,11Bと加工1領域12A,12Bと加工2領域13A,13Bとが決定されたら、オペレータは、装置の動作をスタートさせる。演算制御手段30は、付属のメモリに格納された参照画像領域11A,11Bの画像データに基づいて参照画像領域11A,11Bを偏向器3によりスキャンし、ドリフト前の画像データ21を読み込む。読み込まれた画像データ21は、演算制御手段30に付属のメモリに格納される。
【0022】
ここで、ステージ移動により加工設定画面10Aを所定の位置にステージ移動させる場合、演算制御手段30は、大きい方の参照画像1Aを用いて、ステージの位置決めを行なう。具体的には、加工設定画面10Aを画像読み込み手段20により読み込み、予めメモリに記憶されている画像との間で演算制御手段30を用いてフーリエ変換を行ない、位置補正のための画像のずれと量とを求める。そして、画像のずれと量とから画像のずれがなくなる方向へステージ移動を行なう。このように、本発明はステージの位置決めが行われていない場合には、大きい方の画像である参照画像1Aを用いてステージの位置決めを行なうことができる。
【0023】
この位置決めは、加工設定画面10Aから加工設定画面10Bにステージ移動を行なう際にも用いることができる。
このようにして試料の位置決めが終了したら、今度は小さい方の参照画像2Aを用いてドリフトによる画像のずれと量とを算出してドリフト補正を行なう。先ず、演算制御手段30は偏向器3を走査して加工1領域をスキャンする。このスキャンは試料が所定の深さまでエッチングされるまで繰り返される。例えば、加工1領域の全面スキャンを5回行なうと、装置のスキャン動作を停止させて、画像のずれの補正操作を行なう。具体的には、参照画像2Aをスキャンして画像情報を得る。そして、このようにして得られた画像情報と、前記メモリに格納されていたドリフト前の画像情報との間でフーリエ変換を行なうことにより、画像のずれの方向と量を検出する。具体的には、演算制御手段30がドリフト前の画像情報と、5回スキャンした後の画像情報との間でフーリエ変換を行なうことにより画像のずれと量の変化量を検出する。フーリエ変換を用いて画像のずれを求める技術は周知である(例えば、特開平9−43173号公報参照)。フーリエ変換を用いれば、画像のずれの方向と量を正確に求めることができる。なお、前記したスキャンの回数5は、これに限るものではなく、任意の数を設定することができる。
【0024】
このようにして、画像のドリフト補正量が求まったら、演算制御手段30は、その回転補正量を増幅器4,5で増幅した後、偏向器3に加えて第1の加工領域12Aをスキャンする。そして、同じ回転補正量で5回全面スキャンしたら、また装置の動作を停止して、回転の補正を行なう。このような操作を繰り返していくと、加工1領域はだんだんけずられ(エッチングされ)、凹部の深さが深くなっていく。
【0025】
所定の深さまで加工1領域がエッチングされたら、今度は装置を操作して加工領域2のスキャンを行なう。その場合でも、参照画像領域11Aのスキャン画像を得て、得られたスキャン画像と、ドリフト前の画像情報とから演算制御手段30で画像のずれと量を求め、該画像のずれと量に基づく補正量を増幅器4,5で増幅した後、偏向器3に加える。このようにして、回転が補正された状態で加工2領域のスキャンを行なう。
【0026】
そして、5回の全面スキャンが終了したら、装置を止めて、再び回転補正を行ない、また5回の全面スキャンを行なう。このような処理を繰り返して試料の凹部の深さが加工1領域の深さと同じになったら、装置の動作を停止させる。この結果、図2の14Aに示すような薄膜が形成されるので、この薄膜を用いてTEM等により試料の観察を行なわせるようにすることができる。以上の操作は、加工設定画面10B側についても全く同様である。
【0027】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、ビーム加工開始前のステージ移動には、大きい方の参照画像を用いてステージ位置決めを行ない、ビーム加工時には小さい方の参照画像を用いてドリフト補正を行なうようにしているので、試料の位置決めとFIB加工を速やかに行なうことができる。
【0028】
以上の説明において、参照画像としては、試料中に存在する何らかの構造が存在する領域を用いる場合を例にとった。しかしながら、試料によっては構造がほとんどないものもあるので、そのような場合には、特定のマークを用いる必要がある。以下、マークの形成について説明する。図3はマークの形成方法の説明図である。図において、10は加工設定画面である。15は蒸着領域(デポ領域)、16は蒸着領域15の中心近傍にエッチングにより形成された穴である。
【0029】
マークを形成する場合、先ず蒸着領域15を形成し、次に蒸着領域15の中央部にエッチングにより穴16を形成する。このようにすれば、参照画像として画像の構造が明確なものを作成することができる。このようなマークを含む領域を参照画像として用いると、画像のずれと量とをより正確に求めることができる。
【0030】
上述の実施の形態例では、画像のずれの方向と量を求めるのにフーリエ変換を用いた場合を例にとった。しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、画像のずれの方向と量とが求まるものであれば、フーリエ変換以外の画像処理技術を用いて、画像のずれの方向と量とを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の要部の一実施の形態例を示す構成図である。
【図2】加工設定画面を示す図である。
【図3】マークの形成方法の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 イオン銃
2 光学系
3 偏向器
4 増幅器
5 増幅器
10 加工設定画面
11 参照画像領域
12 加工領域
13 加工領域
20 画像読み込み手段
21 ドリフト前画像
22 ドリフト後画像
30 演算制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上へのFIB加工時において、試料上に大小1つずつの参照画像をもつ少なくとも1つの参照画像領域を設けるステップと、
前記参照画像領域のイオンビーム照射前と照射後の画像から画像のずれの方向と量を演算により求めるステップと、
前記演算により求めた画像のずれの方向と量とに基づいて画像のずれを補正してビーム偏向系の調整を行なうステップと、
により構成されるFIB自動加工時のドリフト補正方法であって、
先ず、加工開始前のステージ移動には、前記大きい方の参照画像を用いて位置補正を行ない、イオンビーム加工時には前記小さい方の参照画像を用いて位置補正を行なう
ことを特徴とするFIB自動加工時のドリフト補正方法。
【請求項2】
前記参照用画像のイオンビーム照射前と照射後の画像から画像のずれの方向と量を求める手段としてフーリエ変換を用いることを特徴とする請求項1記載のFIB自動加工時のドリフト補正方法。
【請求項3】
前記参照用画像として特定の形状のマークを付したものを用いることを特徴とする請求項1記載のFIB自動加工時のドリフト補正方法。
【請求項4】
前記イオンビーム照射前と照射後の画像からフーリエ変換以外の画像処理を用いて画像のずれの方向と量を求めることを特徴とする請求項1記載のFIB自動加工時のドリフト補正方法。
【請求項5】
試料上へのFIB加工時において、試料上に大小1つずつの参照画像をもつ少なくとも1つの参照画像領域を設定する参照画像設定手段と、
FIB加工時に前記参照画像領域の画像を読み込む画像読み込み手段と、
FIB加工時に、前記読み込んだ画像からイオンビーム照射前と照射後の画像のずれの方向と量を求める演算制御手段と、
該演算制御手段の出力を受けて画像のずれの方向と量とに基づいて画像のずれを補正してビーム偏向系の補正を行なうビーム偏向系調整手段と、
を具備し、
先ず、加工開始前のステージ移動には、前記大きい方の参照画像を用いて位置補正を行ない、イオンビーム加工時には前記小さい方の参照画像を用いてドリフト補正を行なう
ように構成されたことを特徴とするFIB自動加工時のドリフト補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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