説明

FPDデバイス製造用マスクブランク、フォトマスク、及びFPDデバイス製造用マスクブランクの設計方法

【課題】FPD用大型マスクにおけるプロセス(描画方法やレジスト塗布方法)や異なる条件(レジストの種類やレジスト膜厚)に適したマスクブランク及びフォトマスクを提供する。
【解決手段】透光性基板上に、遮光性膜を少なくとも有し、前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜をスリットコータ装置で形成するためのFPDデバイス製造用マスクブランクであって、前記遮光性膜は、前記レーザ描画波長を含む350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動幅が2%未満の範囲となるように制御された膜であり、前記スリットコータ装置は、一方向に延びるレジスト液供給口を有するノズルからレジスト液を吐出させつつ、前記遮光性膜表面に対して前記一方向に交差する方向へノズルを相対移動させてレジスト膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク及びフォトマスクに関し、特に、FPDデバイスを製造するためのマスクブランク(フォトマスク用のブランク)、係るマスクブランクを用いて製造されたフォトマスク(転写マスク)等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型FPD用マスクの分野において、半透光性領域(いわゆるグレートーン部)を有するグレートーンマスクを用いてマスク枚数を削減する試みがなされている(非特許文献1)。
ここで、グレートーンマスクは、図6(1)及び図7(1)に示すように、透明基板上に、遮光部1と、透過部2と、半透光性領域であるグレートーン部3とを有する。グレートーン部3は、透過量を調整する機能を有し、例えば、図6(1)に示すようにグレートーンマスク用半透光性膜(ハーフ透光性膜)3a’を形成した領域、あるいは、図7(1)に示すようにグレートーンパターン(グレートーンマスクを使用する大型LCD用露光機の解像限界以下の微細遮光パターン3a及び微細透過部3b)を形成した領域であって、これらの領域を透過する光の透過量を低減しこの領域による照射量を低減して、係る領域に対応するフォトレジストの現像後の膜減りした膜厚を所望の値に制御することを目的として形成される。
大型グレートーンマスクを、ミラープロジェクション方式やレンズを使ったレンズプロジェクション方式の大型露光装置に搭載して使用する場合、グレートーン部3を通過した露光光は全体として露光量が足りなくなるため、このグレートーン部3を介して露光したポジ型フォトレジストは膜厚が薄くなるだけで基板上に残る。つまり、レジストは露光量の違いによって通常の遮光部1に対応する部分とグレートーン部3に対応する部分で現像液に対する溶解性に差ができるため、現像後のレジスト形状は、図6(2)及び図7(2)に示すように、通常の遮光部1に対応する部分1’が例えば約1μm、グレートーン部3に対応する部分3’が例えば約0.4〜0.5μm、透過部2に対応する部分はレジストのない部分2’となる。そして、レジストのない部分2’で被加工基板の第1のエッチングを行い、グレートーン部3に対応する薄い部分3’のレジストをアッシング等によって除去しこの部分で第2のエッチングを行うことによって、1枚のマスクで従来のマスク2枚分の工程を行い、マスク枚数を削減する。
【非特許文献1】月刊FPD Intelligence、p.31-35、1999年5月
【非特許文献2】「フォトマスク技術のはなし」、田辺功、法元盛久、竹花洋著、工業調査会刊、「第4章LCD用フォトマスクの実際」p.151-180
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、マイクロプロセッサ、半導体メモリ、システムLSIなどの半導体ディバイスを製造するためのLSI用マスクは、最大でも6インチ(132mm)角程度と相対的に小型であって、ステッパ(ショット−ステップ露光)方式による縮小投影露光装置に搭載されて使用されることが多い。また、LSI用マスク上に形成されるマスクパターンの最小線幅は0.26μm程度(ウエハ上に形成されるパターンの最小線幅は0.07μm程度)を実現している。
係るLSI用マスクの製造では、一般に上記の高精細パターン形成が必要であるため、マスクブランク上に電子線レジストを塗布し(レジスト膜厚Nは通常400〜500nmと相対的に小さい)、電子線描画を行って、レジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてマスクパターンを形成している。
さらに、LSI用マスクを製造するための小型マスクブランクにおいては、小型マスクブランクに対する塗布精度、量産性、コスト等を総合的に勘案し、スピンコートによってレジストが塗布される。
これに対し、FPD(フラットパネルディスプレイ)用大型マスクは、最小でも330mm×450mm程度(最大で1220mm×1400mm程度)と相対的に大型であって、ミラープロジェクション(スキャニング露光方式による、等倍投影露光)方式やレンズプロジェクション方式の露光装置に搭載されて使用される。また、FPD用大型マスクに形成されるパターンの最小線幅は1μm程度以下、被転写用大型ガラス基板上に形成されるパターンの最小線幅は共に2〜3μm程度であり、最先端LSIの最小線幅に比べ大きい。
係るFPD用大型マスクの製造では、マスクブランク上にフォトレジストを塗布し(レジスト膜厚Nは通常1000nmと相対的に大きい)、レーザ描画を行って、レジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてマスクパターンを形成している。 さらに、FPD用大型マスクを製造するための大型マスクブランクにおいては、大型マスクブランクに対する塗布精度、歩留まり等を総合的に勘案し、スリット状のノズルを基板上で走査してレジストを塗布するスリット式レジストコーター装置によってレジストが塗布される。
【0004】
以上のように、FPD用大型マスクブランク及びマスクでは、マスクサイズの相違等に基づき、LSI用マスクとは異なるプロセス(描画方法やレジスト塗布方法)や異なる条件(レジストの種類やレジスト膜厚)が適用され、これらのプロセスや条件をFPD用大型マスクブランク及びマスクに適用した場合に基板が大型であることに起因して生じる問題について検討する必要がある。
本願の目的は、FPD用大型マスクにおけるプロセス(描画方法やレジスト塗布方法)や異なる条件(レジストの種類やレジスト膜厚)に適したマスクブランク及びフォトマスクを案出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的の下、本発明者は、FPD用大型マスクブランク及びFPD用大型マスクに関し、鋭意研究、開発を行った。その結果、以下のことが判明した。
FPD用大型マスクブランク上に塗布されるレジスト膜厚は、レーザー描画波長による定在波が実質的に発生しないように、現状、約1000nmに設定している。しかし、上記スリット式レジストコーター装置を用いて形成されるレジスト膜の面内膜厚バラツキnは、比較的大きく、レジスト膜厚の面内膜厚バラツキ幅2nが、レーザー描画波長Lの半波長1/2Lと同程度になることがある。この場合、レジスト膜厚が半波長の整数倍となる膜厚箇所が面内で生じてしまい、係る半波長の整数倍となる膜厚箇所においては、レジスト膜に入射されレジスト膜を通過するレーザー描画光の入射光と、レジスト膜を通過し遮光性膜の膜面で反射されるレーザー描画光の反射光と、が干渉しあって相対的に振幅強度の小さい定在波が生じると共に、遮光性膜の膜面で反射されたレーザー描画光の反射光がレジスト膜を通過しレジスト膜の膜面で反射され、あたかも半波長の整数倍となる距離に相対する壁が存在する場合と同様となるので、反射を繰り返すたびに合成波として相対的に振幅強度の大きい定在波が生じ、共振ととらえられる現象が生ずる。このような特殊な定在波は基準共振モードと呼ばれる。
FPD用大型マスクブランクにおいては、レジスト膜厚が半波長の整数倍となる膜厚箇所で生じる基準共振モードの定在波は、基準共振モードの定在波の腹でおきるレジストの感光作用に基づいて、レジストパターンを平面視した時のレジストパターンエッジに凹凸(ギザ)を発生させることを本発明者らは突き止めた、そして、FPD用大型マスクブランクでは、レジストパターンをマスクとしてウェットエッチングにより次世代の規格である1μm以下のマスクパターン(例えば、大型FPD用露光機の解像限界以下に微細遮光パターン及び微細透過部からなるパターン)を形成しようとした際に、0.1μm超のギザが発生し、そしてこのギザは、FPDデバイスにおいて表示むらの原因となることが判明した。
また、FPD用大型マスクにおいても、パターンの微細化と、パターン精度の向上の点から、更なるレジスト膜厚の薄膜化が必要と考えるが、この場合においても、レジスト膜厚Nと面内膜厚バラツキの範囲で、レーザー描画波長の半波長の整数倍となる膜厚箇所において、基準共振モードの定在波によるレジストパターンエッジの凹凸(ギザ)が発生し、FPDデバイスにおいて表示むらの原因となる。
【0006】
そして、本発明者らは、上記課題解決のためには、前記遮光性膜は、基準共振モードの定在波の影響によるレジスト膜パターンに与える影響を実質的に回避し得るレーザー描画波長に対する膜面反射率とすることが有効であることを見出し本発明に至った。
【0007】
本発明方法は、以下の構成を有する。
(構成1)透光性基板上に、遮光性膜を少なくとも有し、前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜を形成するためのFPDデバイス製造用マスクブランクであって、
前記遮光性膜は、レーザ描画波長に対する膜面反射率が15%以下となるように制御された膜であることを特徴とするFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成2)
前記レーザ描画波長は、350nm〜500nmの波長範囲から選択された波長とすることを特徴とする構成1記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成3)
前記遮光性膜は、反射防止層と、その反射防止層の結晶性を制御する結晶性制御層を少なくとも有することを特徴とする構成1又は2記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成4)
前記遮光性膜の膜面反射率が最小となる最小反射率が350nm〜500nmの波長範囲内に存在することを特徴とする構成1乃至3記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成5)
前記遮光性膜の反射率曲線が下に凸の曲線を描くように構成されてなることを特徴とする構成1乃至4記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成6)
前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜を有することを特徴とする構成1乃至5記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成7)
前記レジスト膜の膜厚は、400〜1200nmであることを特徴とする構成6記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成8)
前記レジスト膜の膜厚は、400〜800nmであることを特徴とする構成6記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
(構成9)
構成6乃至8記載のマスクブランクを用い、前記レジスト膜に対してレーザ描画を行って、レジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてマスクパターンを形成して、製造されることを特徴とするFPDデバイスを製造するためのフォトマスク。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、FPD用大型マスクにおけるプロセス(描画方法やレジスト塗布方法)や異なる条件(レジストの種類やレジスト膜厚)に適したマスクブランク及びフォトマスクを提供できる。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のFPDデバイス製造用マスクブランクは、
透光性基板上に、遮光性膜を少なくとも有し、前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜を形成するためのFPDデバイス製造用マスクブランクであって、前記遮光性膜は、レーザ描画波長に対する膜面反射率が15%以下となるように制御された膜であることを特徴とする(構成1)。
【0010】
本発明において、レーザ描画波長に対する膜面反射率を15%以下とすることによって、基準共振モードの定在波によるレジストパターンエッジの凹凸(ギザ)が発生を防止することができる。これによって、レジストパターンをマスクとしてウェットエッチングにより次世代の規格である1μm以下のマスクパターン(例えば、大型FPD用露光機の解像限界以下の微細遮光パターン及び微細透過部からなるパターン)を形成しようとした際に、0.1μm超のギザが発生し、そしてこのギザによってFPDデバイスにおける表示むらが発生すること、を防止することができる。
また、パターンの微細化と、パターン精度の向上の点から、更なるレジスト膜の薄膜化(例えば、400nm〜800nm)が必要と考えるが、この場合においても、基準共振モードの定在波によるレジストパターンエッジの凹凸(ギザ)が発生し、そしてこのギザによるFPDデバイスにおける表示むらの発生を防止することができる。
本発明においては、前記遮光性膜は、レーザ描画波長に対する膜面反射率が12%以下、更には10%以下となるように制御された膜であることが更に好ましい。
【0011】
本発明においては、前記レーザ描画波長は、350nm〜500nmの波長範囲から選択される(構成2)。例えば、レーザ描画波長としては、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm、488nmが挙げられる。
また、本発明においては、前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜を有するレジスト膜付きのFPDデバイス製造用マスクブランクとする(構成3)。その際、本発明においては、前記レジスト膜の膜厚は、400〜1200nmであり(構成4)、パターンの微細化と、パターン精度の向上の点から好ましくは、400〜800nmであることが好ましい(構成5)。上述のように、FPD用大型マスクブランク上に、係る膜厚範囲の相対的に厚いレジスト膜(例えば、900nm〜1200nm)を形成する場合に、レジスト膜の膜厚の面内バラツキ幅2nが大きいことに起因して、基準共振モードの定在波によってレジスト膜パターンに影響を与える問題を生じるため、係る問題を生じないようにするためである。また、パターンの微細化と、パターン精度の向上の点からレジスト膜の薄膜化が必要と考えるが、このレジスト膜の薄膜化の場合において基準共振モードの定在波によってレジスト膜パターンに影響を与える問題を生じないようにするためであり、薄膜化の制約を解消するためである。
【0012】
本発明では、一方向に延びるレジスト液供給口を有するノズルからレジスト液を吐出させつつ、遮光性膜表面に対して当該一方向に交差する方向へノズルを相対移動させてレジスト膜を形成する、所謂、スリットコータ装置によって大面積の遮光性膜面上にレジストが塗布される場合に特に有益である。また、本発明では、前記スリットコータ装置は、下向きに保持した基板に対し、毛細状のノズルにより毛細管現象を用いて上昇したレジスト液をノズル先端を基板に対して走査させることによって、レジストを塗布する装置(例えば図3参照)である場合に特に有益である。これは、これらの場合に、遮光性膜の表面状態などによってレーザ描画波長Lの半波長1/2Lと同程度の面内膜厚バラツキ幅2nが存在し、レジスト膜パターンに影響を与える問題が生じる可能性が高いからである。
【0013】
尚、各種膜材料について検討した結果、以下のことがわかった。
(i)クロム酸化膜系の反射防止膜(例えばCrO膜単層など)だと、膜中にOを含むため(膜中のOが多いため)、レーザ描画波長(例えば、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm)の帯域、更には係る帯域を含むより広い帯域で分光反射率線のカーブ(傾き)がきつく、分光反射率の変動幅が大きくなる傾向があることが判明した。
(ii)クロム酸化膜系の反射防止膜に比べ、クロム酸窒化膜系の反射防止膜(例えばCrON)では、レーザ描画波長(例えば、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm)の帯域、更には係る帯域を含むより広い帯域で分光反射率線のカーブ(傾き)がゆるく、分光反射率の変動幅が小さくなるので好ましい。
ただし、レーザ描画波長に対する膜面反射率の下限の追求や、膜面の表面状態ばらつきによるスリットコータの面内バラツキによるパターンギザなどのレジスト膜パターンに影響を与える問題解決のためには、どのようなクロム酸窒化膜系の反射防止膜であっても係る目的の達成に適しているわけではなく、しかもクロム酸窒化膜系の反射防止膜の下層がどのような遮光性膜であってもかかる目的の達成に適しているわけではない。従って、係る目的の達成に適した所定の条件を満たす遮光性膜を見つけ出し使用することが好ましいことが判明した。
上記両目的を達成するには、前記クロム酸窒化膜系の反射防止膜の下層に、クロム窒化系膜(例えば、CrN)を形成することによって、その上層に形成される膜の結晶性が微細化、かつ、均一に膜形成されるため、遮光性膜の表面状態が安定し、スリットコータによりレジスト膜を形成する場合においても面内膜厚バラツキを抑えることができる。さらに、レーザ描画波長に対する膜面反射率の下限を追求でき、分光反射率の変動幅を小さくするできるので好ましい。
【0014】
本発明に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク及びマスクにおいては、透光性基板上に、少なくとも遮光性膜を有する態様が含まれる。具体的には、例えば、図4に示すように、透光性基板10上に遮光性膜12を形成し、これにパターニングを施して、グレートーンパターン12aと通常の遮光性膜パターン12bとを形成してなる態様が含まれる。
本発明に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク及びマスクにおいて、前記遮光性膜は、該遮光性膜の膜面反射率が最小となる最小反射率が350nm〜450nmの波長範囲となるように制御された膜であることが好ましい。
この理由は、遮光性膜の膜面反射率が最小となる最小反射率(即ちボトムピークの位置)が350nm〜450nmの波長範囲内に存在するように制御された膜は、FPDデバイスを製造するためのマスクを製造する際に一般的に使用されるレーザ描画波長に関して、プロセス変動などに伴う分光曲線の上下左右方向のシフトに対し分光反射率値が大きく変動することが少ないからである。
上記のような、プロセス変動などに伴う分光曲線の左右方向のシフトに対して反射率値が大きく変動することがない(シフトが少ない)遮光性膜としては、上層膜の結晶性を制御する結晶性制御層と、遮光機能を有する下層部と反射防止機能を有する上層部とで少なくとも構成される遮光性膜が好ましい。
ここで、結晶性制御層は、その上に形成される膜の結晶性を制御させる部分である。遮光機能を有する下層部は、遮光性能が高い部分であって要求される遮光性能の大部分又は全部を発現させる部分である。また、反射防止機能を有する上層部は、遮光機能を有する下層部の上に形成され、遮光機能を有する下層部の反射率を低減させ、反射防止機能を発現させる部分である。
【0015】
本発明に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク及びマスクにおいて、前記遮光性膜は、結晶性を制御する窒化クロム系の結晶性制御層と、遮光機能を有するクロム又は炭化クロム系の下層部と反射防止機能を有する酸窒化クロム系の上層部とで構成され、前記結晶性制御層、下層部及び上層部は、上記要件を満たすべく光学設計され、作成されていることが好ましい。
この理由は、これらの材料系からなる膜(例えば、CrN結晶性制御層/CrC遮光性層(下層部)/CrON反射防止層(上層部)からなる膜、CrN結晶性制御層/CrCN遮光性層(下層部)/CrON反射防止層(上層部)からなる膜等)は、他の材料系の膜に比べ、膜組成の調整、製造条件、製造装置等の選定及び制御、これらによる膜質の制御、遮光性膜の材料等、ボトムピークの位置、膜構成、などによって、波長350nm〜450nmに渡る波長帯域において、遮光性膜の膜面反射率の変動幅が2%未満の範囲となるように制御された膜が得られやすく、これによって、プロセス変動などに伴う分光曲線の左右方向のシフトに対し分光反射率値が大きく変動することがない膜が得られるからである。また、係る構成の膜では、レーザ描画波長に対する膜面反射率の下限を追求が可能で、スリットコータによりレジスト膜を形成する場合においても面内膜厚バラツキを抑えることが可能である。
【0016】
本発明に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク及びマスクにおいては、上記遮光性膜をインライン型スパッタリング装置によって連続的に形成することが好ましい。インライン型スパッタリング装置によって連続的に成膜された上記結晶性制御層/遮光性層(下層部)/反射防止層(上層部)からなる膜において、各膜の界面に酸化層が形成されないので、光学特性(反射率等)を厳密に制御しやすくなる。
【0017】
本発明に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク及びマスクにおいては、グレートーンマスク用半透光性膜と遮光性膜とを透光性基板上に有する態様が含まれる。具体的には、例えば、図5に示すように、透光性基板10上にグレートーンマスク用半透光性膜11と遮光性膜12とをこの順で形成し、これらの膜のパターニングを施して、グレートーンマスク用半透光性膜パターンと遮光性膜パターンとを形成してなる半透光性膜下置き(先付け)タイプのグレートーンマスクなどの態様が含まれる。
ここで、半透光性膜の材料としては、MoとSiとを含有するMoSi系材料や、金属及びシリコン(MSi、M:Mo、Ni、W、Zr、Ti、Cr、Ta等の遷移金属)、酸化窒化された金属及びシリコン(MSiON)、酸化炭化された金属及びシリコン(MoSiCO)、酸化窒化炭化された金属及びシリコン(MSiCON)、酸化された金属及びシリコン(MSiO)、窒化された金属及びシリコン(MoSiN)などが挙げられる。
【0018】
本発明において、透光性基板の材料としては、合成石英、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどが挙げられる。
本発明において、レーザ描画用レジストとしては、ノボラック系のフォトレジストなどが挙げられる。
本発明において、FPDデバイス製造用マスクブランクは、レーザ描画用のレジスト膜を形成前の、透光性基板上に少なくとも遮光性膜を有するマスクブランクが含まれる。
【0019】
本発明において、FPDデバイスを製造するためのマスクブランク及びマスクとしては、LCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPDデバイスを製造するためのマスクブランク及びマスクが挙げられる。
ここで、LCD製造用マスクには、LCDの製造に必要なすべてのマスクが含まれ、例えば、TFT(薄膜トランジスタ)、特にTFTチャンネル部やコンタクトホール部、低温ポリシリコンTFT、カラーフィルタ、反射板(ブラックマトリックス)、などを形成するためのマスクが含まれる。他の表示デバイス製造用マスクには、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの製造に必要なすべてのマスクが含まれる。
【0020】
本発明に係るFPDデバイスを製造するためのフォトマスクは、上記本発明に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランクを用い、マスクブランクに形成されているレジスト膜に対してレーザ描画を行って、レジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして遮光性膜パターンからなるマスクパターンを形成して、製造されることを特徴とする(構成6)。
【0021】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)
大型ガラス基板(合成石英(QZ)10mm厚、サイズ850mm×1200mm)上に、大型インライン型スパッタリング装置を使用し、結晶性制御層と、遮光機能を有する下層部と、反射防止機能を有する上層部とで構成される遮光性膜の成膜を行った。成膜は、大型インライン型スパッタリング装置内に基板搬送方向に対して連続して配置された各スペース(スパッタ室)にCrターゲットを各々配置し、まずArガスとNガスをスパッタリングガスとしてCrN層(その後に形成する膜の結晶性を制御することを目的とした膜)を150オングストローム、次いで、ArガスとCHガスをスパッタリングガスとしてCrC層(遮光機能を有する下層部)を650オングストローム、次いで、ArガスとNOガスをスパッタリングガスとしてCrON層(反射防止機能を有する上層部)を250オングストローム、連続成膜して、マスクブランクを作製した。尚、各膜はそれぞれ組成傾斜膜であった。また、CrC層(遮光機能を有する下層部)は、CrN層やCrON層(反射防止機能を有する上層部)の成膜の際に使用したNガスやNOガスによりN(窒素)が含まれており、上記CrN層、CrC層(遮光機能を有する下層部)、CrON層(反射防止機能を有する上層部)の全てにCrとNが含まれていた。
上記マスクブランクの分光反射率線を図1に示す。尚、分光反射率は分光光度計により測定した。
図1に示す分光反射率線においては、FPD用大型マスクを製造する際に使用されるレーザ描画波長(例えば、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm)を含むレーザ描画波長帯域(350nm〜500nm)において、遮光性膜の膜面反射率は15%以下であった。また、上記レーザ描画波長帯域を含む波長350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動が2%未満の範囲内(波長365nm〜450nmに渡る波長帯域において膜面反射率の変動が1%未満の範囲内)であった。
上記で作製したマスクブランクを用い、図3に示すスリットコータを用いてノボラック系のレーザ描画用フォトレジストを塗布し、(レジスト膜厚範囲:1000nm±100nm)、レジスト膜にレーザ描画でパターン描画し、現像によってレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、3層構造の膜(CrN層、CrC層、CrON層)を一体的にウェットエッチングでパターニングして、5μm幅の通常パターン12b及び1μm幅のグレートーンパターン(大型FPD用露光機の解像限界以下の微細遮光パターン及び微細透過部からなるパターン)12aを有するFPD用大型マスクを作製した(図4参照)。
上記工程において、走査型電子顕微鏡(SEM)で、レジストパターン、マスクパターンの双方について、通常パターン、グレートーンパターンの双方を観察したところ、パターンを平面視した時のパターンエッジの凹凸(いわゆるギザ)は0.1μm未満と良好であった。
得られたFPD用大型マスクを使用して製造されたFPDデバイスも表示むらがなく良好であった。
【0022】
(実施例2)
上記実施例1において、ArガスとNOガスをスパッタリングガスとしてCrON層(反射防止機能を有する上層部)を250オングストロームの厚さで形成した以外は実施例1と同様にして、レジストパターンを形成し、FPD用大型マスクを作製した。
図2に示す分光反射率線においては、FPD用大型マスクを製造する際に使用されるレーザ描画波長(例えば、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm)を含むレーザ描画波長帯域(365nm〜450nm)において、遮光性膜の膜面反射率は12%以下であった。また、上記レーザ描画波長帯域を含む波長350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動が2%未満の範囲内(波長365nm〜450nmに渡る波長帯域において膜面反射率の変動が1%未満の範囲内)であった。
走査型電子顕微鏡(SEM)により、レジストパターン、マスクパターンの双方について観察したところ、パターンエッジの凹凸(いわゆるギザ)は実施例1と同様に0.1μm未満と良好であった。
【0023】
(実施例3)
上記実施例1において、ArガスとNOガスをスパッタリングガスとしてCrON層(反射防止機能を有する上層部)を320オングストロームの厚さで形成した以外は実施例1と同様にして、レジストパターンを形成し、FPD用大型マスクを作製した。
図2に示す分光反射率線においては、FPD用大型マスクを製造する際に使用されるレーザ描画波長(例えば、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm)を含むレーザ描画波長帯域(365nm〜450nm)において、遮光性膜の膜面反射率は11%以下であった。また、上記レーザ描画波長帯域を含む波長350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動が2%未満の範囲内(波長365nm〜450nmに渡る波長帯域において膜面反射率の変動が1%未満の範囲内)であった。
走査型電子顕微鏡(SEM)により、レジストパターン、マスクパターンの双方について観察したところ、パターンエッジの凹凸(いわゆるギザ)は実施例1と同様に0.1μm未満と良好であった。
【0024】
(実施例4)
上記実施例1において、ArガスとNOガスをスパッタリングガスとしてCrON層(反射防止機能を有する上層部)を200オングストロームの厚さで形成した以外は実施例1と同様にして、レジストパターンを形成し、FPD用大型マスクを作製した。
図2に示す分光反射率線においては、FPD用大型マスクを製造する際に使用されるレーザ描画波長(例えば、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm)を含むレーザ描画波長帯域(365nm〜450nm)において、遮光性膜の膜面反射率は14%以下であった。また、上記レーザ描画波長帯域を含む波長350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動が2%未満の範囲内(波長365nm〜450nmに渡る波長帯域において膜面反射率の変動が1%未満の範囲内)であった。
走査型電子顕微鏡(SEM)により、レジストパターン、マスクパターンの双方について観察したところ、パターンエッジの凹凸(いわゆるギザ)は実施例1と同様に0.1μm未満と良好であった。
【0025】
(実施例5)
上記実施例1において、レジスト膜の膜厚を400nm〜800nmまで複数膜厚のレジスト膜を形成した以外は実施例1と同様にして、レジストパターンを形成し、FPD用大型マスクを作製した。
走査型電子顕微鏡(SEM)によるレジストパターン、マスクパターンの双方について観察したところ、パターンエッジの凹凸(いわゆるギザ)は実施例1と同様に0.1μm未満と良好であった。
【0026】
(比較例)
大型ガラス基板(合成石英(QZ)10mm厚、サイズ850mm×1200mm)上に、スパッタリング装置を使用し、遮光性膜の成膜を行った。成膜は、2つのスパッタ室内に各々Crターゲットを配置し、まず、ArガスをスパッタリングガスとしてCr膜(遮光膜)を900オングストローム、次いで、ArガスとOガスをスパッタリングガスとしてCrO膜(反射防止膜)を300オングストローム成膜してマスクブランクを作製した。
その結果、FPD用大型マスクを製造する際に使用されるレーザ描画波長(例えば、365nm、405nm、413nm、436nm、442nm)を含むレーザ描画波長帯域(350nm〜500nm)において、遮光性膜の膜面反射率は15%超(18.3%)であった。また、上記レーザ描画波長帯域を含む波長350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動が2%超(4.2%)であった。
上記で作製したマスクブランクを用い、実施例1と同様にして遮光性膜上にレジスト膜を形成し、レジスト膜にレーザ描画でパターン描画し、現像によってレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、2層構造の膜(Cr膜、CrO膜)を一体的にウェットエッチングでパターニングして、5μm幅の通常パターン12b及び1μm幅のグレートーンパターン(大型FPD用露光機の解像限界以下の微細遮光パターン及び微細透過部からなるパターン)12aを有するFPD用大型マスクを作製した。
上記工程において、走査型電子顕微鏡(SEM)で、レジストパターン、マスクパターンの双方について、通常パターン、グレートーンパターンの双方を観察したところ、パターンを平面視した時のパターンエッジの凹凸(いわゆるギザ)は0.1μm超(0.3μm)であった。
得られたFPD用大型マスクを使用して製造されたFPDデバイスは表示むらが発生した。
【0027】
以上、好ましい実施例を掲げて本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例で作成した反射防止機能を有する遮光性膜の分光透過率を示す図である。
【図2】実施例で作成した反射防止機能を有する遮光性膜の分光透過率を示す図である。
【図3】実施例及び比較例で使用したスリットコータ装置を説明するための模式図である。
【図4】FPD用大型マスクの態様を説明するための図である。
【図5】FPD用大型マスクの他の態様を説明するための図である。
【図6】半透光性膜を有するグレートーンマスクを説明するための図であり、(1)は部分平面図、(2)は部分断面図である。
【図7】解像限界以下の微細遮光パターンを有するグレートーンマスクを説明するための図であり、(1)は部分平面図、(2)は部分断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 遮光部
2 透過部
3 グレートーン部
3a 微細遮光パターン
3b 微細透過部
3a’ 半透光性膜
10 透光性基板
11 半透光性膜
12 遮光性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、遮光性膜を少なくとも有し、前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜をスリットコータ装置で形成するためのFPDデバイス製造用マスクブランクであって、
前記遮光性膜は、前記レーザ描画波長を含む350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動幅が2%未満の範囲となるように制御された膜であり、
前記スリットコータ装置は、一方向に延びるレジスト液供給口を有するノズルからレジスト液を吐出させつつ、前記遮光性膜表面に対して前記一方向に交差する方向へノズルを相対移動させてレジスト膜を形成することを特徴とするFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項2】
前記遮光性膜は、前記レーザ描画波長を含む365nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動幅が1%未満の範囲となるように制御された膜であることを特徴とするFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項3】
前記遮光性膜の反射率曲線が下に凸の曲線を描くように構成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項4】
前記遮光性膜は、少なくとも上層膜の結晶性を制御する結晶性制御層と、遮光機能を有する下層部と、反射防止機能を有する上層部とで構成することを特徴とする請求項1乃至3記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項5】
前記結晶性制御層は窒化クロム系膜であることを特徴とする請求項1乃至4記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項6】
前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜を有することを特徴とする請求項1乃至5記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項7】
前記レジスト膜の膜厚は、1200nm以下であることを特徴とする請求項6記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項8】
前記レジスト膜の膜厚は、400nm以上であることを特徴とする請求項6記載のFPDデバイス製造用マスクブランク。
【請求項9】
請求項6乃至8記載のマスクブランクを用い、前記レジスト膜に対してレーザ描画を行って、レジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてマスクパターンを形成して、製造されることを特徴とするFPDデバイスを製造するためのフォトマスク。
【請求項10】
透光性基板上に、遮光性膜を少なくとも有し、前記遮光性膜上にレーザ描画用のレジスト膜をスリットコータ装置で形成するためのFPDデバイス製造用マスクブランクの設計方法であって、
前記遮光性膜は、前記レーザ描画波長を含む350nm〜450nmに渡る波長帯域において、膜面反射率の変動幅が2%未満の範囲となるように設計し、
前記スリットコータ装置は、一方向に延びるレジスト液供給口を有するノズルからレジスト液を吐出させつつ、前記遮光性膜表面に対して前記一方向に交差する方向へノズルを相対移動させてレジスト膜を形成するものであることを特徴とするFPDデバイス製造用マスクブランクの設計方法。
【請求項11】
前記遮光性膜は、少なくとも上層膜の結晶性を制御する結晶性制御層と、遮光機能を有する下層部と、反射防止機能を有する上層部とで構成することを特徴とする請求項10記載のFPDデバイス製造用マスクブランクの設計方法。
【請求項12】
前記結晶性制御層は窒化クロム系膜であることを特徴とする請求項10又は11記載のFPDデバイス製造用マスクブランクの設計方法。
【請求項13】
前記遮光性膜上に形成されるレジスト膜の膜厚が1200nm以下から選択されるように設計することを特徴とする請求項10乃至12記載のFPDデバイス製造用マスクブランクの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−155334(P2012−155334A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88097(P2012−88097)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【分割の表示】特願2007−124185(P2007−124185)の分割
【原出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(506107689)ホーヤ エレクトロニクス マレーシア センドリアン ベルハッド (16)
【氏名又は名称原語表記】HOYA ELECTRONICS MALAYSIA SENDIRIAN BERHAD
【住所又は居所原語表記】Lot28&29,Phasel,Jalan Hi−Tech 4,Kulim Hi−Tech Park,09000 Kulim,Kedah,Malaysia
【Fターム(参考)】