GPR54ノックアウト哺乳動物とそれを用いるスクリーニング方法
本発明は公知の受容体の新規な機能に関する。特に、本発明は、ガラニン様受容体および/またはそのリガンドの、下垂体ホルモン軸および生殖系の操作における使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は公知の受容体の新規な機能に関する。特に、本発明は、ガラニン様受容体および/またはそのリガンドの、下垂体ホルモン軸および生殖系の操作における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
GPR54をコードする遺伝子Harry Potterは、ヒト染色体19p13.3に位置する。
【0003】
GPR54のcDNAは1197bp長である。いくつかの研究は、GPR54がラットガラニン受容体GalR1、GalR2と45%、そしてGalR3と44%同一であることを示している。
【0004】
ガラニンは、神経ペプチドのいずれの既知ファミリーのメンバーでもない神経ペプチドである。ガラニンは中枢と末梢神経系の両方に発現して、学習と記憶、痛覚、摂食、神経伝達物質とホルモンの放出、および性行動を含む多様な生理学的プロセスを調節し、そしてアルツハイマー病の病因に関わると考えられる(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107)。しかし、ガラニンもガラニン様ペプチドもGPR54を活性化しないことが報じられている(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107;Ohtakiら, 2001 Nature 411:613-617)。
【0005】
諸報文はFMRFアミド関連ペプチド(FaRP)が効力の低いGPR54アゴニスト(マイクロモル範囲)であることを示唆する(Clementsら, 2001 Biochem Biophys Res Commun 284:1189-83)。FaRPは無脊椎動物に豊富に分布する神経ペプチドであり、神経伝達物質および神経調節物質として機能する。
【0006】
さらなる研究は、GPR54の天然リガンドは、Kiss-1遺伝子の産物であるキスペプチン(kisspeptin)(メタスチン(metastin)とも呼ばれる)であることを示す。共通のRF-アミドC端末をもつ3種のペプチドがKiss-1から誘導される。それらは54、14および13アミノ酸のキスペプチンである。それらのペプチドは全てGPR54と低ナノモル親和性で結合する。キスペプチン54はメタスチンとも呼ばれる。これらのGPR54リガンドはGPR54と低ナノモル親和性で結合する(Muirら, 2001 J Biol Chem 276:28969-75;Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-36)。
【0007】
いくつかの報告は、リガンドが結合したGPR54について様々な機能的役割を示唆している。例えば、Kiss-1は黒色腫および乳癌細胞の転移抑制遺伝子であると報じられている。しかし、諸研究は、Kiss-1遺伝子は腫瘍形成能に影響を与えないことを示唆する。メタスチンは細胞の接着表現型を過度に誘導することにより細胞移動性を減弱するという仮説が立てられている。黒色腫を足蹠に注入しておいたマウスでは、潅流によりメタスチンを投与すると転移が顕著に減少した(Ohtakiら, 2001 Nature 411:613-617)。同様に、メタスチンはGPR54受容体をトランスフェクトしたB16-L16黒色腫細胞の運動性を抑制するが、模擬(mock)トランスフェクトした細胞の運動性を抑制することはない。
【0008】
さらなる研究は、GPR54(メタスチン受容体とも呼ばれる)活性化はPIP2加水分解、カルシウム動員、アラキドン酸放出、ERK1/2およびp38 MAPキナーゼリン酸化、ならびにストレス繊維の形成を刺激するが、細胞増殖を抑制することを示した(Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-3)。興味深いことに、雌ラットにキスペプチン-10を静脈注射すると、オキシトシン分泌が刺激される(Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-3)。オキシトシンは性行動/精巣機能に関わり;オキシトシンアンタゴニストは雄交配行動を抑制することが示されている(Argiolasら, 1988 Eur J Pharmacol 149:389-92)。しかし、オキシトシンKOマウスは正常な性行動を示しかつ受精能を有する(Nishimoriら, 1996 Proc Natl Acad Sci USA 93:11699-704)。
【0009】
ラットにおいて、GPR54は次の組織中でノーザンブロットにより検出されている:脳(橋、中脳、視床、視床下部、海馬、扁桃体、皮質、前頭皮質および層)、および末梢器官(肝臓および腸)(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107)。
【0010】
ラット脳のin situ分析は、視床下部および類扁桃領域に最高発現を示した。この受容体は、不確帯(zona incerta)、腹側被蓋野(ventral tegmental area)、歯状回(dentate gyrus)、弓状核(arcuate nucleus)、背内側核(dorsomedial nucleus)、嗅覚皮質(olfactory cortex)、外側手綱核(lateral habenular nucleus)、視床下部外側野(lateral hypothalamus)、青斑核(locus coeruleus)、扁桃体の皮質および内側核(cortical and medial nuclei of amygdala)、上丘(superior colliculus)、視交差前、前および後視床下部(preoptic、anteriorおよびposterior hypothalamus)、中脳水道周囲灰白質(periaqueducal gray)、傍神経束視床核(parafascicular thalamic nucleus)、傍小脳脚核(parabrachial nucleus)および腹側乳頭体(ventral mamillary body)に高度に発現した。GPR54発現はガラニン受容体の発現に似ていることが見出された(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107)。
ヒト組織において、ノーザン分析は脳/神経系(皮質、被殻、髄質、脊髄における発現および海馬、視床における低発現)ならびに下垂体、心臓、骨格筋、腎臓、肝臓、胃、小腸、胸腺、肺、精巣および胎盤における発現を示す(Clementsら, 2001 Biochem Biophys Res Commun 284:1189-93;Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-36)。
【0011】
GPR54はまた、免疫細胞化学(ICC)により、ヒト脳における次の領域にも検出される:大脳皮質(感覚運動性皮質の層状層III中の錐体細胞およびその上行突起)、視床、橋延髄(縫線核(raphe)、下オリーブ(inverior olive)、舌下核(hypoglossal nuclei))、小脳(プルキンエ細胞細胞質(purkinje cells perikarya)とその上行尖端樹状突起)。
【0012】
しかし、GPR54が哺乳動物で全体的に、特に脳において果たす役割は、これまで従来技術において理解されていない。
【0013】
諸報告は、FaRP(マイクロモル範囲で機能する効力の低いGPR54アゴニスト)に対する脊椎動物受容体は、神経ペプチドY(NPY)に対する受容体とアミノ酸レベルでほとんど同様であることを示す(Clementsら, 2001 Biochem Biophys Res Commun 284:1189-93)。さらなる研究は、FaRPがゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)と共局在し、トノサマバッタ(locusta)では受精嚢(spermatheca)と共局在し、吸血虫では唾液腺と共局在することを示している。
【0014】
ショウジョウバエFMRFアミド遺伝子は、海洋軟体動物アメフラシ(marine snail Aplysia)で最初に配列決定された遺伝子との相同性により同定された。FMRFアミドは、心臓調節性テトラペプチドとしてハマグリの中枢神経系から初めて精製された。軟体動物において、FMRFアミドは心拍出とニューロンの作用の両方を調節するだけでなく、筋張力の惹起も調節する。ウシにおいては、関連ロブスターホルモンに対して免疫反応性のあるペプチド2種が同定されており;ウシタンパク質は抗鎮痛性を有する。
【0015】
FMRFアミドペプチドの役割は主に無脊椎動物で研究されているが、哺乳動物の脳のFmRFアミド免疫反応性を記載する3つの論文がある:すなわちウサギ、ラットおよびモルモットの1報(Duannら, 1995 Gaoxiong Yi Xue Ke Xue Za Zhi. 11:142-9)、ツバイ(tree shrew)の1報(Malz and Kuhn 2002 Dev Brain Res 135:39-44)、およびビッグブラウンコウモリ(big brown bat)の1報(Oelschlagerら, 1998 Brain Behav Evol 52:139-47)である。興味深いことに、これらの報文は全てFmRFアミド様およびGnRH免疫反応性の同時発現を記載している。コウモリとツバイにおいて、この発現は末端神経において記載されている。該末端神経は、鼻腔の化学感受性上皮を神経支配する前脳神経である。この神経の機能は不明であるが、神経調節性役割を有することが示唆されている。この神経の破壊は雄ハムスターの交配行動を損なう(WirsigおよびLeonard 1987 Brain Res 417:293-303)。
【0016】
Raffa(RaffaおよびStone 1988 Peptides 19: 1171-75)によると、FMRFアミド、またはFMRFアミド関連ペプチド(FaRP)は哺乳動物の中枢神経系および消化管に存在し、哺乳動物では心興奮性であり、モルヒネが誘導する抗侵害受容を抑制しかつモルヒネ-、挫折-および剥奪-誘導性摂食をブロックすることが示されている。これはまた、結腸の推進運動性を抑制し、くも膜下腔内に投与すると行動作用を誘導し、そしてげっ歯類では健忘作用を有すると報じられている。特に、FMRFアミドはマウスにおいて中枢神経が媒介する抗侵害受容を生じる(RaffaおよびStone 1998 Peptides 19: 1171-75、Guptaら, 1999 Peptides 20: 471-78)。
【0017】
従来の研究は、ガラニンノックアウトマウス(今まで受容体ノックアウトは記載されてない)は生存可能であって正常に成長し、繁殖可能であるが乳汁は産生しないことを示している。これらの損傷に対する感覚ニューロンの応答は損なわれ、末梢神経再生は低下し、かつ神経障害疼痛の発生は著しく低下する。DRGニューロンのサブセットはこの突然変異マウスで失われ、これは細胞生存におけるガラニンの役割を暗示する(Wynickら, 1998 Ann NY Acad Sci, 863:22-47)。
【0018】
研究の示すところでは、GPR54はまた、転移に役割を果たし、原発性の癌からの癌細胞の脱離、周囲組織への浸潤、循環を介する拡大、遠位器官における再浸潤および増殖を含む多段階ステップに関わる。しかし、本出願の時点でGPR54のさらなる役割はなにも同定されていない。
【0019】
従って当技術分野では、脳および他組織におけるリガンド結合型GPR54の機能を、治療および他の用途のために同定する必要性が依然として存在している。
【発明の開示】
【0020】
発明の概要
本発明者らは、GPR54のin vivoでの役割を研究する目的で、GPR54(Harry Potter)ノックアウトマウスを作製した。本発明者らは、かかるノックアウトマウスが非突然変異体とは生殖形態学および生理学に相違のあることを示し、性ホルモン軸の制御における、また、受胎能および性欲の制御などの生殖領域におけるGPR54の役割を提起した。さらに、かかる突然変異体の生理学および形態学は、ある特定の神経学的障害および他の症状(例えば、筋消耗および炎症)におけるGPR54の役割を示唆する。
【0021】
Harry Potterノックアウトマウスは、疾患モデルとして有用であり、また、治療用のGPR54アンタゴニストおよびアゴニストを同定する上で有用である。
【0022】
従って、第1の態様において、本発明は、GPR54ポリペプチドを機能的に不活性化した1以上の細胞を含有するGPR54ノックアウト哺乳動物を提供する。
【0023】
本発明者らは、上記の態様に従うGPR54ノックアウトマウスは、接触立ち直り反射の低下およびバーンズ(Barnes)迷路能力の低下、生殖ホルモンレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴を含む、複数の明確な特徴を示すことを見出した。
【0024】
以上述べたように、生殖器官の形態の変化は、生殖および関連器官の萎縮、胃および副上顎唾液腺の萎縮、筋量および褐色脂肪の萎縮からなる群から選択される変化の1以上を含む。
【0025】
ノックアウト哺乳動物の作製は当業者によく知られており、本明細書に記載の相同的組換えを含む標準的な実験室技術を利用する。
【0026】
好ましくは、トランスジェニック哺乳動物は、マウス、ラット、トガリネズミ(shrew)、スナネズミ(gerbil)、モルモット、サル、ハムスター、ネコおよびイヌからなる群から選択される哺乳動物のいずれかである。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。最も好ましい哺乳動物はマウスである。
【0027】
本明細書に用いる、相同的組換えにより「機能的に不活性化された」GPR54は、その自然環境で(すなわち、in vivo環境内で)機能しているときにGPR54ポリペプチドにより通常遂行される1以上の機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されたことを意味する。好都合なのは、用語「機能的に不活性化された」は、その自然環境で(すなわち、in vivo環境内で)機能しているときにGPR54ポリペプチドにより通常遂行される2以上の機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されたことを意味する。最も好都合なのは、本明細書に用いる用語「機能的に不活性化された」は、その自然環境で機能しているときにGPR54ポリペプチドにより通常遂行される全ての機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されたことを意味する。
【0028】
同様に、本明細書に定義する「機能的に不活性化された」GPR54核酸は、本明細書に定義した機能的に不活性なGPR54をコードする。
【0029】
上記の用語「有意に抑制された」GPR54機能は、抑制(上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞の少なくとも1つのGPR54機能の抑制)が好適な対照と比較して少なくとも20%抑制されたことを意味する。好適な対照の1例は、同じかまたは類似の環境における同じかまたは類似の細胞であって、GPR54が本明細書に記載の相同的組換えにより不活性化されていない上記細胞である。好都合なのは、上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞の「有意に抑制された」GPR54機能は、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%抑制されたことを意味する。最も好都合なのは、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して100%抑制されたことを意味する。
【0030】
さらなる態様において、本発明は1以上の機能的に不活性なGPR54遺伝子を含有する1以上の哺乳動物細胞を作製する方法であって、
(a)1以上の機能的に活性のある内因性GPR54遺伝子を含有する1以上の細胞を選択するステップ、
(b)ステップ(a)で選択した1以上の細胞に、相同的組換えにより1以上の内因性GPR54遺伝子と組換えることができる機能的に不活性なGPR54核酸をトランスフェクトするステップ、および
(c)1以上の内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸による相同的組換えを受けた1以上の細胞を選択するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0031】
好都合なのは、本発明による哺乳動物細胞を上に詳述した本発明の方法により作製する。本発明のこの態様の好ましい実施形態においては、哺乳動物細胞はその哺乳動物内に含まれる。すなわち、本発明の上記態様による細胞は好ましくは「ノックアウト」哺乳動物を構成しうる。好都合なのは、本発明によるノックアウト哺乳動物はマウスである。
【0032】
機能的に不活性なGPR54をもつこれらの1以上の細胞をトランスフェクトする方法は、標準的分子生物学技術の利用に関わり、本明細書に記載されている。同様に、1以上の内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸による相同的組換えを受けた1以上の細胞を選択する方法は、標準的な実験室技術を利用して実施され、本明細書に記載されている。
【0033】
さらなる態様においては、本発明は、宿主内の1以上の内因性GPR54遺伝子を機能的に不活性化するための好適な核酸構築物であって、
(a)非相同置換領域、
(b)非相同置換領域の上流に位置する第1相同領域、
(c)発現した時に機能的に活性なGPR54をコードしない突然変異型GPR54遺伝子、
(d)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、非相同置換領域の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子に対して少なくとも90%の同一性を示すヌクレオチド配列を有する第2相同領域、
を含んでなる上記核酸構築物を提供する。
【0034】
本発明者らはGPR54に関連する複数の機能を同定し、その結果、本発明者らはGPR54ポリペプチド、またはその1以上の結合タンパク質またはそれらをコードする核酸は治療上重要でありうると考える。
【0035】
従って、さらなる態様において、本発明はGPR54ポリペプチドもしくはその1以上の結合タンパク質またはそれらをコードする核酸、および製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含んでなる組成物を提供する。
【0036】
本発明の上記態様によれば、好都合なのは、組成物は1以上のGPR54ポリペプチド結合タンパク質を含んでなる。好ましくは、1以上のGPR54結合タンパク質はGPR54のアンタゴニストまたはアゴニストである。
【0037】
GPR54結合タンパク質は天然物であっても合成物であってもよい。天然の結合タンパク質は本明細書に規定した抗体などのポリペプチド、または核酸であってもよい。合成GPR54結合タンパク質は好都合なのは小分子であり、当業者に公知でありかつ本明細書に記載されたスクリーニング方法により選択することができる。
【0038】
本発明の別の実施形態においては、好ましくは、組成物はGPR54結合タンパク質をコードする核酸またはGPR54ポリペプチドをコードする核酸を含んでなる。
【0039】
本発明者らは、意外にも、GPR54ノックアウトマウスは正常な対照マウスと比較してニューロン機能の変化ならびに生殖系の変化を有することを見出した。さらに、GPR54ノックアウトマウスは他の形態学的および解剖学的異常も有する。GPR54ノックアウトマウスの欠陥はゴナドトロピン分泌細胞の産生における下垂体視床下部軸にある。従って、GPR54受容体は、ゴナドトロピン分泌細胞の下垂体視床下部分泌の制御を介してこの軸の制御に関与すると考えられる。本発明者らは、GPR54ノックアウトマウスにおいて以下の点を明らかにした:
(a)ゴナドトロピンが低いこと;
(b)少なくとも卵巣は外因性ゴナドトロピンの投与に応答し、これは卵巣が応答能力を保持することを示すこと;および
(c)GnRHの外因性投与はFSHとLHの分泌の少なくとも部分的応答を惹起し、これはGPR54が視床下部-下垂体におけるGnRH分泌の上流制御に関わりうることを示すこと。
【0040】
従って、本発明者らは、GPR54のアゴニストおよび/またはアンタゴニスト、あるいはそれらを含む組成物は、生殖ホルモンに関連した症状、神経学的症状、およびある種の他の症状の治療において特に使用しうると考える。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇のいずれかの1以上を含む。
【0041】
かかる生殖ホルモン関連症状は、受胎能の調節、避妊、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、ならびに閉経からなる群の1以上から成る。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストは、ホルモン置換療法(HRT)に有用でありうる。
【0042】
他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0043】
従って、さらなる態様において、本発明は、GPR54ポリペプチドの機能的活性を作動させる(agonise)1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つを潜在的に作動させる1以上の潜在的GPR54擬似体により処置するステップ、
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上の回復した特徴を有するか否かを確認するステップ、および
(d)ステップ(a)で選択したこれらの哺乳動物に、野生型哺乳動物の1以上の特徴を回復させる1以上のGPR54リガンド擬似体を選択するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0044】
本発明はさらに、GPR54ポリペプチドの機能的活性に拮抗する1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つに潜在的に拮抗する1以上の潜在的GPR54アンタゴニストにより処置するステップ、および
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上のモジュレートされた特徴を有するか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0045】
さらに本発明は、1以上の化合物の生物学的効果についてのアッセイにおけるトランスジェニックGPR54ノックアウト哺乳動物の使用を提供する。
【0046】
本発明の上記の態様によると、用語「アンタゴニスト」は好適な対照と比較して本明細書に規定したようにGPR54の1以上の機能を有意に抑制する分子を意味する。
【0047】
本発明はGPR54それ自体、そのアゴニストおよびアンタゴニスト、ならびにGPR54活性のモジュレーターを利用する。当業者は、様々な薬剤がGPR54の効果を増加または低下するように作用しうること、およびこれを達成する経路は変わりうることを理解するであろう。従って、アゴニストは活性化されたGPR54を模倣するか、またはGPR54と結合してその活性を増加しうる。GPR54活性の作動性モジュレーターは同じ作用をするか、またはGPR54の内因性アゴニストまたは内因性GPR54それ自体の産生を増加しうる。アンタゴニストおよび拮抗性モジュレーターも同様に作用しうるが、GPR54の生物学的効果を低下させるように作用する。
【0048】
本明細書に用いる用語「哺乳動物」はいずれの哺乳動物であってもよい。有利な哺乳動物は非ヒト哺乳動物である。好都合なのは、哺乳動物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、スナネズミ、ネコ、イヌおよびサルからなる群から選択される。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。
【0049】
本発明のこの態様によると、哺乳動物をGPR54の潜在的アンタゴニストを用いて「治療する(もしくは処置する)」とは、哺乳動物を構成する1以上の細胞を(GPR54の1以上の潜在的アンタゴニストと)接触させることを意味する。
【0050】
本発明の上記態様によると、異常な神経学的特徴の指標は、接触立ち直り反射の低下およびバーンズ(Barnes)迷路能力の低下からなる群から選択される指標のいずれかを含む。
【0051】
本発明の上記態様によると、用語「異常な生殖系および/または形態」は、その意味の範囲内に、好適な対照と比較して生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)のいずれかの変化、好適な対照と比較して生殖器官および関連器官の形態のいずれかの変化、および好適な対照と比較して性/生殖行動のいずれかの変化を含む。
【0052】
好都合なのは、本発明の上記の態様によると、好適な対照と比較して生殖器官の形態のいずれかの変化は、生殖および関連器官の萎縮、胃および副上顎唾液腺の萎縮、筋量および褐色脂肪の萎縮からなる群から選択されるいずれか1以上の変化を含む。
【0053】
異常な神経学的機能、異常な生殖系および異常な生殖形態についての試験は、標準的な実験室技術を利用し、当業者には周知であろう。
【0054】
好都合なのは、本発明の上記態様のステップ(c)は、これらの1以上の哺乳動物を試験し、これらの哺乳動物が、GPR54ノックアウトマウスにより示される異常な生殖系および/または形態である1以上の特徴を表すかどうかを確認することを含む。
【0055】
本発明の上記態様によると、好都合なのは、ステップ(a)で選択される1以上の哺乳動物はGPR54ノックアウトマウスである。好ましくは、それらを本明細書に記載の方法によって作製する。
【0056】
本明細書に用いる用語「機能的に不活性な」(GPR54)は、GPR54ポリペプチドが自然環境(すなわちin vivo環境内)で機能しているとき、GPR54ポリペプチドが通常遂行する1以上の機能が、GPR54が機能的に不活性でない対照と比較して、有意に抑制されることを意味する。好都合なのは、用語「機能的に不活性な」は、GPR54が自然環境(すなわちin vivo環境内)で機能しているとき、GPR54が通常遂行する2以上の機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されることを意味する。最も好都合なのは、用語「機能的に不活性な」は、GPR54が自然環境で機能しているとき、GPR54が通常遂行する全ての機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されることを意味する。
【0057】
同様に、本明細書に定義される「機能的に不活性な」GPR54核酸は、本明細書に定義される機能的に不活性なGPR54をコードする。
【0058】
上記の用語「有意に抑制された」(GPR54機能)は、(上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞の少なくとも1つのGPR54機能の)抑制が好適な対照と比較して少なくとも20%抑制されることを意味する。好適な対照の1例は、同一または同様の環境における同一または同様の細胞であって、GPR54が本明細書に記載の相同的組換えにより機能的に不活性化されていない上記細胞である。好都合なのは、用語「有意に抑制された」(上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞のGPR54機能)は、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%抑制されることを意味する。最も好都合なのは、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して100%抑制されることを意味する。
【0059】
本発明のこの態様によると、哺乳動物をGPR54の潜在的アンタゴニストを用いて「治療する(もしくは処置する)」とは、哺乳動物を構成する1以上の細胞を(GPR54の1以上の潜在的アンタゴニストと)接触させることを意味する。
【0060】
本発明の上記の態様によると、用語「野生型哺乳動物の1以上のモジュレートされた特徴」は、本明細書に定義した機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物と比較して、野生型哺乳動物が示す1以上の特徴のモジュレーションを意味する。好ましくはモジュレーションは欠損した機能の回復である。
【0061】
本明細書で意味するGPR54擬似体は、野生型GPR54の少なくとも1つの活性または機能を複製する。擬似体は活性型GPR54を模倣してもよく、または不活性GPR54を模倣して、それらが天然の不活性GPR54の不在下でそれら自体抑制される機能をさらに抑制するようにしてもよい。
【0062】
本発明者らは、1以上の治療効果を生み出す目的で、GPR54核酸または1以上のGPR54のアゴニストもしくはアンタゴニストをコードする核酸を哺乳動物中に挿入することができると考える。
【0063】
従って、さらなる態様において、本発明は、少なくともある割合の細胞内に、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニストおよびGPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニストからなる群から選択される1以上をコードする外因性核酸を含有するトランスジェニック動物を提供する。
【0064】
好都合なのは、トランスジェニック動物はマウス、ヒト、ブタ、ヤギ、シカ、サルおよびウシからなる群から選択される。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。
【0065】
本発明の上記態様によると、用語「外因性核酸」はその特定の動物に由来するものでない核酸を意味する。しかし、その同じ動物の種類または品種に由来するものでもよい。例えば、トランスジェニックマウスは細菌由来のGPRアゴニスト核酸を含有してもよい。
【0066】
好ましくは、トランスジェニック動物は、ある割合の細胞内に、GPR54の1以上のアゴニストまたは1以上のアンタゴニストをコードする外因性DNAを含有する。
【0067】
本明細書に記載の非ヒトトランスジェニック動物は、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコおよびブタからなる群から選択されるいずれの1以上の動物であってもよい。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。
【0068】
本発明により作製したGPR54ノックアウトマウスを用いる研究は、GPR54ポリペプチドがニューロン機能ならびに生殖機能(生殖周期)と関連するだけでなく、他の症状とも関連することを示した。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇のいずれかの1以上の症状を含む。かかる生殖ホルモンに関係する症状は、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病ならびに閉経のいずれかの1以上の症状からなる。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストは、ホルモン置換療法(HRT)に有用でありうる。他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0069】
従って、さらなる態様においては、本発明は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、ならびに
(b)これらの細胞サンプル中のGPR54ポリペプチドの発現レベルおよび/または機能的活性を、健康な個体からの1以上の対照サンプルと比較するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0070】
さらなる実施形態においては、Harry Potterまたはその天然リガンドの多形を用いて疾患を診断することができる。従って、本発明はアルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌、ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、ならびに
(b)上記細胞中の内因性核酸を分析して、内因性GPR54遺伝子またはGPR54の1以上の天然リガンドの1以上の多形を検出するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0071】
本発明の上記態様によると、健康な個体からの1以上の対照サンプルと比較して、GPR54の発現レベルおよび/または機能的活性が増加した、減少した、そうでなければ変化した、または、GPR54核酸もしくはGPR54リガンドをコードする核酸が1以上の多形を有するサンプルは、そのサンプルを採取した個体が上に掲げた疾患のいずれか1以上の疾患を有することを示す。
【0072】
本発明の上記の態様によって、患者からの細胞サンプルを、当業者に周知の標準的な実験室技術を用いて選択することができる。
【0073】
上記用語、GPR54ポリペプチドの「機能的活性」は、GPR54がその自然環境、すなわち、その細胞内で通常遂行しうる機能を意味する。
【0074】
従って、さらなる態様においては、本発明は、筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関連するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を治療する方法であって、1以上のGPR54のアンタゴニストまたはアゴニストの治療上有効な量を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法を提供する。
【0075】
さらなる態様においては、本発明は、筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関連するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を予防または治療するための医薬品の製造における、1以上のGPR54のアゴニストまたはアンタゴニストの使用を提供する。
【0076】
さらなる態様においては、本発明は、患者における性ホルモン軸を操作する方法であって、1以上のGPR54のアンタゴニストまたはアゴニストの治療上有効な量を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法を提供する。
【0077】
さらなる態様においては、本発明は動物における性ホルモン軸を操作するための医薬品の製造における、1以上のGPR54のアゴニストまたはアンタゴニストの使用を提供する。
【0078】
本発明の上記の2つの態様において、好ましくは、性ホルモン軸の操作は、受胎能、性欲、避妊および思春期早発からなる群から選択されるいずれか1以上の作用または症状の操作をもたらす。
【0079】
発明の詳細な説明
一般技術
本発明の実施は、特に断らない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の通常の技術を利用しうるのであって、これらは当業者の能力の範囲内にある。かかる技術は文献に記載されている。例えば、J. Sambrook, E.F. FritschおよびT. Maniatis, 1989, 「分子生物学:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」, 第2版, 1-3分冊, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F.M.ら, 1995および定期的追補版, 「分子生物学の現代プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, 第9、13および16章, John Wiley & Sons, New York, N.Y.;B. Roe, J. CrabtreeおよびA. Kahn, 1996, 「DNA単離と配列決定:必須技術(DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques)」, John Wiley & Sons;J.M. PolakおよびJames O'D. McGee, 1990, 「in situハイブリダイゼーション:原理と実施(In Situ Hybridization: Principles and Practice)」, Oxford University Press;M.J. Gait (編), 1984, 「オリゴヌクレオチド合成:実用的手法(Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach)」, Irl Press;ならびに、D.M.J. LilleyおよびJ.E. Dahlberg, 1992, 「酵素学の方法:DNA構造パートA:DNAの合成と物理分析(Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA)」, Methods in Enzymology, Academic Pressを参照されたい。これらの一般的教科書は本明細書に参照により組み入れられる。
【0080】
GPR54
疑義を避けるために、本明細書において用語「GPR54」は、関係するGenBank登録番号により同定される次の配列を意味するものとする:
NT_011255 ホモサピエンス(Homo sapiens)第19染色体ゲノムコンティグ;NM_053244 マウス(Mus musculus)Gタンパク質共役受容体54(Gpr54)、mRNA;BC016531 マウス(Mus musculus)Gタンパク質共役受容体54、mRNA(cDNAクローンMGC:27839 IMAGE:3488082)、完全cds;M_032551 ホモサピエンス(Homo sapiens)Gタンパク質共役受容体54(GPR54)、mRNA;NM_023992 ドブネズミ(Rattus norvegicus)Gタンパク質共役受容体54(Gpr54)、mRNA;NW_047773 ドブネズミ(Rattus norvegicus)第7染色体 WGSスーパーコンティグ;AK039628 マウス(Mus musculus)成熟雄脊髄cDNA、RIKEN 全長富化ライブラリー、クローン:A330075J02 産物:Gタンパク質共役受容体GPR54(Gタンパク質共役受容体54)、全インサート配列;NT_039496 マウス(Mus musculus)第10染色体ゲノムコンティグ、株C57BL/6J;AY029541 ホモサピエンス(Homo sapiens)推定Gタンパク質共役受容体mRNA、完全cds;AF343726 マウス(Mus musculus)Gタンパク質共役受容体GPR54(Gpr54)mRNA、完全cds;AF343725 ホモサピエンス(Homo sapiens)Gタンパク質共役受容体GPR54(GPR54)mRNA、完全cds;BE506644 db65f08.y1 Wellcome CRC pSK卵子アフリカツメガエル(Xenopus laevis)cDNAクローンIMAGE:3377895 5'、TR:Q9Z0T7 Q9Z0T7オーファンGタンパク質共役受容体GPR54と類似、mRNA配列;BB261471 BB261471 RIKEN全長富化、7日新生仔小脳マウス(Mus musculus)cDNAクローンA730098N23 3'、AF115516 ドブネズミ(Rattus norvegicus)オーファンGタンパク質共役受容体GPR54(GPR54)mRNAと類似、mRNA配列;AF115516 ドブネズミ(Rattus norvegicus)オーファンGタンパク質共役受容体GPR54(GPR54)mRNA、完全cds。
【0081】
GPR54ポリペプチド
本明細書に記載の用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合、すなわちペプチドイソスター(peptide isostere)によって互いに結合された2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を意味する。「ポリペプチド」は、通常、ペプチド、オリゴペプチドまたはオリゴマーと呼ばれる短鎖、および通常、タンパク質と呼ばれる長鎖の両方を意味する。ポリペプチドは、遺伝子によりコードされる20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含んでもよい。
【0082】
「ポリペプチド」は、翻訳後プロセシングなどの自然プロセスまたは当技術分野で周知の化学的修飾技術によって修飾されたアミノ酸配列を含む。かかる修飾は、基本的教科書およびさらに詳細な研究小論文ならびに研究大論文に十分記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含むポリペプチドのいずれの部位にあってもよい。同じ型の修飾が所与のポリペプチド中のいくつかの部位で同じまたは色々な程度で存在しうることは理解されよう。また、所与のポリペプチドは、多くの型の修飾を含んでもよい。
【0083】
ポリペプチドはユビキチン化の結果として分岐していてもよく、かつポリペプチドは環状であって分岐していても分岐していなくてもよい。環状、分岐、および分岐環状ポリペプチドは、天然の翻訳後プロセシングの結果であっても、合成法によって生成されてもよい。修飾には以下のものが含まれる:アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリスチル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化などのアミノ酸のタンパク質へのトランスファーRNA媒介付加、およびユビキチン化。例えば、T.E. Creighton編,「タンパク質−構造および分子的性質(Proteins - Structure and Molecular Properties)」, 第2版, W.H, Freeman and Company, New York, 1993;Wold, F., 「翻訳後タンパク質修飾:見込みと予想(Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects)」, pp.1-12, in 「タンパク質の翻訳後共有結合修飾(Posttranslational Covalent Modification of Proteins)」, B.C. Johnson編、Academic Press, New York, 1983;Seifterら、「タンパク質修飾および非タンパク質補因子の分析(Analysis for protein modifications and nonprotein cofactor)」、Meth Enzymol (1990) 182:626-646;ならびにRattanら、「タンパク質合成:翻訳後修飾およびエージング(Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging)」、Ann NY Acad Sci (1992) 663:48-62を参照のこと。
【0084】
本発明に関係する用語「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」は、配列からのまたは配列への1個以上のアミノ酸の任意の置換、変更、修飾、交換、欠失、または付加を含む。特に断らない限り、「GPR54」への言及は、GPR54のかかる変異体、相同体、誘導体、および断片を含む。
【0085】
GPR54などの受容体の「受容体活性」または「生物活性」について言及する場合、これらの用語は、GPR54受容体の代謝もしくは生理学的機能を意味するものであり、類似の活性もしくは改良された活性、または望ましくない副作用が減少したこれらの活性を含む。GPR54受容体の抗原活性および免疫原活性も含まれる。GPCR(Gタンパク質共役受容体)活性、ならびにこれらの活性をアッセイしかつ定量する方法は当技術分野で公知であり、本明細書中に詳細に記載されている。
【0086】
本明細書中で用いる「欠失」は、1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が存在しないそれぞれヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化として定義される。本明細書中で用いる「挿入」または「付加」は、天然に存在する物質と比較して1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の付加をそれぞれもたらしたヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化である。本明細書中で使用される「置換」は、1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸の、異なるヌクレオチドまたはアミノ酸による交換からそれぞれもたらされる。
【0087】
本発明によるGPR54ポリペプチドはまた、サイレントな変化を起こして機能的に同等なアミノ酸配列をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を有してもよい。計画的なアミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。例えば、負電荷アミノ酸はアスパラギン酸およびグルタミン酸を含み;正電荷アミノ酸はリシンおよびアルギニンを含み;そして類似の親水性値を有する無電荷極性ヘッド基をもつアミノ酸はロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンを含む。
【0088】
GPR54ヌクレオチドおよびポリヌクレオチド
「ポリヌクレオチド」は、一般的に、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを意味し、非改変のRNAもしくはDNAまたは改変したRNAもしくはDNAのいずれであってもよい。「ポリヌクレオチド」は、限定されるものでないが、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖と二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖、より典型的には、二本鎖または一本鎖と二本鎖領域の混合物であってもよいDNAおよびRNAを含んでなるハイブリッド分子を含む。さらに、「ポリヌクレオチド」は、RNAまたはDNAまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域も意味する。用語ポリヌクレオチドはまた、1個以上の修飾された塩基を含有するDNAまたはRNAおよび安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAも含む。「修飾された」塩基は、例えば、トリチル化塩基およびイノシンなどの特異な塩基を含む。種々の修飾がDNAおよびRNAに行われている;従って「ポリヌクレオチド」は、自然界で典型的に見出されるポリヌクレオチドの化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態だけでなく、ウイルスおよび細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学的形態も包含する。「ポリヌクレオチド」はまた、しばしばオリゴヌクレオチドと呼ばれる比較的短いポリヌクレオチドも包含する。
【0089】
遺伝暗号の縮重の結果として、無数のヌクレオチド配列が同じポリペプチドをコードしうることは当業者に理解されるところである。
【0090】
本明細書中で用いる用語「ヌクレオチド配列」は、ヌクレオチド配列、オリゴヌクレオチド配列、ポリヌクレオチド配列、ならびにその変異体、相同体、断片、および誘導体(その部分など)を意味する。ヌクレオチド配列はゲノムまたは合成または組換え起源のDNAまたはRNAであってもよく、センス鎖もしくはアンチセンス鎖またはその組み合わせである二本鎖または一本鎖であってもよい。用語「ヌクレオチド配列」は、組換えDNA技術の利用により調製することができる(例えば、組換えDNA)。
【0091】
好ましくは、用語「ヌクレオチド配列」は、DNAを意味する。
【0092】
本発明に関連する用語「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」には、GPR54ヌクレオチド配列からのまたはGPR54ヌクレオチド配列への1以上の核酸の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失、または付加を含む。特に断らない限り、「GPR54」への言及は、GPR54のかかる変異体、相同体、誘導体、および断片を含む。
【0093】
GPR54の発現アッセイ
GPR54関連疾患の治療に有用な治療薬を設計するためには、GPR54(野生型または特定の変異体のいずれにせよ)の発現プロファイルを確認することが有用である。そこで当技術分野で公知の方法を利用して、GPR54が発現される器官、組織、および細胞型(ならびに発生段階)を確認する。例えば、伝統的または「エレクトロニック」ノーザン分析を行うことができる。逆転写酵素PCR(RT-PCR)を用いて、GPR54遺伝子または突然変異体の発現をアッセイしてもよい。GPR54の発現プロファイルを調べるためのさらに高感度の方法は、当技術分野で公知のRNAアーゼプロテクションアッセイを含む。
【0094】
ノーザン分析は、遺伝子転写物の存在を検出するために使用する実験室技術であり、特定の細胞型または組織由来のRNAを結合させておいた膜への標識ヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションを含む(Sambrook、前掲、第7章およびAusubel, F.Mら、前掲、第4章および第16章)。BLASTを応用する類似のコンピュータ技術(「エレクトロニックノーザン」)を用いて、GenBankまたはLIFESEQデータベース(Incyte Pharmaceuticals)などのヌクレオチドデータベース中の同一または関連分子を検索することができる。このタイプの分析は、多数の膜ベースのハイブリダイゼーションより迅速でありうる点で有利である。さらに、コンピュータ検索の感度を変更して、どのような特定のマッチを正確または相同として分類するかを決定することができる。
【0095】
本明細書中の随所でさらに詳しく説明したように、上記プローブを含む本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、動物およびヒトの疾患の治療薬および診断薬の発見のための研究試薬および材料として利用することができる。
【0096】
GPR54ポリペプチドの発現
GPR54ポリペプチドの発現は、本明細書に記載のGPR54のアゴニストまたはアンタゴニストとして機能しうるGPR54抗体を作製するために必要である。
【0097】
生物学的に活性なGPR54を発現するためには、GPR54またはその相同体、変異体、もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を、適切な発現ベクター(すなわち、挿入したコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含むベクター)に挿入する。
【0098】
当業者に周知の方法を用いて、GPR54をコードする配列ならびに適切な転写および翻訳制御エレメントを含む発現ベクターを構築する。これらの方法は、in vitro組換えDNA技術、合成技術、およびin vivo遺伝子組換えを含む。このような技術は、Sambrook, J.ら(1989、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」、第4、8、16-17章、Cold Spring Harbor Press、Plainview,、N.Y.)およびAusubel, F.M.ら(1995および定期増補版、「分子生物学の現行プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、第9、13、および16章、John Wiley & Sons、New York、N.Y.)に記載されている。
【0099】
様々な発現ベクター/宿主系を利用して、GPR54をコードする配列を挿入しかつ発現させることができる。これらとしては、限定されるものでないが、組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換した細菌などの微生物;酵母発現ベクターを用いて形質転換した酵母;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)を用いて感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)またはタバコモザイクウイルス(TMV))または細菌発現ベクター(例えば、TiまたはpBR322プラスミド)を用いて形質転換した植物細胞系;または動物細胞系が挙げられる。本発明は利用する宿主細胞によって制限されない。
【0100】
「制御エレメント」または「調節配列」は、宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および翻訳を実施するベクターの非翻訳領域(すなわち、エンハンサー、プロモーター、ならびに5'および3'非翻訳領域)である。このようなエレメントは、その強度および特異性が様々である。利用するベクター系および宿主に依存して、任意の数の好適な転写および翻訳エレメント(構成および誘導プロモーターを含む)を使用することができる。例えば、細菌系にクローニングする場合、BLUESCRIPTファージミドのハイブリッドlacZプロモーター(Stratagene、La Jolla、Calif.)またはPSPorT1プラスミド(GIBCO/BRL)などの誘導プロモーターを利用することができる。バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターは昆虫細胞で利用することができる。植物細胞ゲノム由来(例えば、熱ショック、RUBISCO、および貯蔵タンパク質遺伝子)または植物ウイルス由来(例えば、ウイルスプロモーターまたはリーダー配列)のプロモーターまたはエンハンサーをベクターにクローニングすることができる。哺乳動物細胞系では、哺乳動物遺伝子由来または哺乳動物ウイルス由来のプロモーターが好ましい。GPR54をコードする配列の複数コピーを含有する細胞株を作製する必要があれば、SV40またはEBVに基づくベクターを適当な選択マーカーと共に利用することができる。
【0101】
細菌系では、多数の発現ベクターを、GPR54ポリペプチドの意図する用途に依存して選択することができる。例えば、抗体を誘導するために大量のGPR54ポリペプチドを必要とするときは、容易に精製される融合タンパク質の高レベル発現を指令するベクターを使用することができる。かかるベクターとしては、限定されるものでないが、多機能性の大腸菌(E. coli)クローニングおよび発現ベクター、例えば、BLUESCRIPT(Stratagene)(この場合、GPR54をコードする配列を、アミノ末端Metとこれに続くβガラクトシダーゼの7残基の配列とインフレームでベクター中にライゲートしてハイブリッドタンパク質を産生させる)、pINベクター(Van Heeke, G.およびS.M. Schuster(1989) J. Biol. Chem. 264:5503-5509)などが挙げられる。pGEXベクター(Promega、Madison、Wis.)を利用して、外来ポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させることもできる。一般的に、かかる融合タンパク質は可溶性であって、グルタチオン−アガロースビーズへの吸着および次いで遊離グルタチオンの存在下での溶出により溶解細胞から容易に精製することができる。かかる系で作製したタンパク質を、ヘパリン、トロンビン、または第XA因子プロテアーゼ切断部位を含むように設計して、クローニングした目的のポリペプチドを意のままにGST部分から切り離すことができる。
【0102】
酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)では、構成または誘導プロモーター、例えばα因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHを含有する多数のベクターを利用することができる。Ausubel(前掲)およびGrantら(1987; Methods Enzymol. 153:516-544)を参照のこと。
【0103】
植物発現ベクターを利用する場合は、GPR54をコードする配列の発現を、多数のプロモーターのいずれかにより駆動することができる。例えば、CaMVの35Sおよび19Sプロモーターなどのウイルスプロモーターを、単独でまたはTMV由来のωリーダー配列と組み合わせて使用することができる(Takamatsu, N. (1987) EMBO J. 6:307-311)。あるいは、RUBISCOの小サブユニットまたは熱ショックプロモーターなどの植物プロモーターを使用することができる(Coruzzi, G.ら, (1984) EMBO J. 3:1671-1680;Broglie, R.ら, (1984) Science 224:838-843;およびWinter, J.ら, (1991) Results Probl. Cell Differ. 17:85-105)。これらの構築物を、直接DNA形質転換または病原体媒介トランスフェクションによって植物細胞に導入することができる。かかる技術は、一般的に利用しうる多数の書籍に記載されている(例えば、Hobbs, S.またはMurry, L.E. in 「マグローヒル科学技術年鑑(McGraw Hill Yearbook of Science and Technology)」 (1992) McGraw Hill, New York, N.Y.; pp. 191-196を参照のこと)。
【0104】
昆虫系を使用して、GPR54を発現させることもできる。例えば、かかる系の1つでは、Autographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)をベクターとして使用し、Spodoptera frugiperda細胞またはTrichoplusia幼虫に外来遺伝子を発現させる。GPR54をコードする配列を、ポリヘドリン遺伝子などのウイルスの非必須領域にクローニングし、ポリへドリンプロモーターの制御下におくことができる。GPR54ポリペプチドの挿入に成功するとポリヘドリン遺伝子が不活化されて、コートタンパク質を欠く組換えウイルスが産生される。ついで、組換えウイルスを用いて、例えば、S. frugiperda細胞またはTrichoplusiaの幼虫に感染させ、そこでGPR54ポリペプチドを発現させることができる(Engelhard, E.K.ら, (1994) Proc. Nat. Acad. Sci. 91:3224-3227)。
【0105】
哺乳動物宿主細胞では、多数のウイルスに基づく発現系を利用することができる。発現ベクターとしてアデノウイルスを利用する場合は、GPR54をコードする配列を、後期プロモーターおよびトリパータイト(tripartite)リーダー配列からなるアデノウイルス転写/翻訳複合体にライゲートすることができる。ウイルスゲノムの非必須E1またはE3領域への挿入を利用して、感染宿主細胞でGPR54ポリペプチドを発現することができる生存ウイルスを得ることができる(Logan, J.およびT. Shenk (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:3655-3659)。さらに、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサーなどの転写エンハンサーを利用して、哺乳動物宿主細胞中の発現を増加させることもできる。
【0106】
ヒト人工染色体(HAC)を利用して、プラスミドに含有させて発現され得るDNAのより大きい断片を送達することもできる。治療のためには、約6kb〜10MbのHACを構築して、従来の送達方法(リポソーム、ポリカチオン性アミノポリマー、または小胞)により送達する。
【0107】
特定の開始シグナルを利用して、GPR54ポリペプチドをコードする配列のさらに有効な翻訳を達成することもできる。かかるシグナルはATG開始コドンおよび隣接配列を含む。GPR54ポリペプチドをコードする配列ならびにその開始コドンおよび上流配列を適当な発現ベクターに挿入する場合は、さらなる転写または翻訳調節シグナルを必要としない。しかし、コード配列またはその断片だけを挿入する場合は、ATG開始コドンを含む外因性翻訳調節シグナルを与えなければならない。さらに、開始コドンは、全インサートの翻訳を確実にするために、正しいリーディングフレームで存在しなければならない。外因性翻訳エレメントおよび開始コドンは、様々な起源(天然および合成の両方)のものであってよい。発現効率は、文献に記載のように、使用する特定の細胞系に適当なエンハンサーを含めることにより増強することができる(Scharf, Dら, (1994) Results Probl. Cell Differ. 20:125-162)。
【0108】
さらに、宿主細胞株は、挿入配列の発現をモジュレートする能力または発現したタンパク質を所望の様式でプロセシングする能力について選択することができる。このようなポリペプチドの修飾は、限定されるものでないが、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質付加、およびアシル化を含む。タンパク質の「プレプロ」形態を切断する翻訳後プロセシングを利用して、正しい挿入、折りたたみ、および/または機能を促進することもできる。翻訳後活性について特定の細胞機構および特徴的な機構を有する色々な宿主細胞(例えば、CHO、HeLa、MDCK、HEK293、及びWI38)が、American Type Culture Collection(ATCC、Bethesda、Md.)から利用可能であり、外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングを確実にするように選択することができる。
【0109】
組換えタンパク質の長期にわたる高収率の産生のためには、安定な発現が好ましい。例えば、GPR54 GPCRを安定して発現できる細胞株は、ウイルス複製起点および/または内因性発現エレメント、および選択マーカー遺伝子を同一または別個のベクター上に含有する発現ベクターを用いて形質転換することができる。ベクターの導入後、富化培地中で約1〜2日間細胞を増殖させ、その後選択培地に切り替えることができる。選択マーカーの目的は選択に対する耐性を付与することにあり、その存在によって導入した配列を成功裏に発現する細胞の増殖と回収が可能になる。安定して形質転換された細胞の耐性クローンを、その細胞型に適切な組織培養技術を用いて増殖することができる。
【0110】
多くの選択系を用いて、形質転換細胞株を回収することができる。これらは、限定されるものでないが、それぞれtk-またはapr-細胞中で使用することができる単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(Wigler, M.ら, (1977) Cell 11:223-32)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(Lowy, Iら, (1980) Cell 22:817-23)を含む。また、代謝拮抗物質、抗生物質、または除草剤耐性を、選択の基本として使用することができる。例えば、dhfrはメトトレキセート耐性を付与し(Wigler, M.ら (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. 77:3567-70);nptはアミノグリコシド類(ネオマイシンおよびG-418)耐性を付与し(Colbere-Garapin, F.ら, (1981) J. Mol. Biol. 150:1-14);そしてalsまたはpatはそれぞれクロルスルフロンおよびホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ耐性を付与する(Murry、前掲)。さらなる選択遺伝子、例えば、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用できるようにするtrpB、または細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用できるようにするhisDが記載されている(Hartman, S.C.およびR.C. Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:8047-51)。最近、アントシアニン、β−グルクロニダーゼとその基質GUS、およびルシフェラーゼとその基質ルシフェリンなどのマーカーを用いる、可視マーカーの使用が増加している。これらのマーカーは、形質転換体を同定するためだけでなく、特定のベクター系に起因しうる一過性または安定なタンパク質発現の量の定量にも使用することができる(Rhodes, C. A. ら, (1995) Methods Mol. Biol. 55:121-131)。
【0111】
マーカー遺伝子発現の存在/非存在は目的の遺伝子が存在することも示唆するが、遺伝子の存在および発現を確認する必要がありうる。例えば、GPR54ポリペプチドをコードする配列をマーカー遺伝子配列内に挿入すれば、GPR54ポリペプチドをコードする配列を含む形質転換細胞は、マーカー遺伝子機能の不在によって同定することができる。あるいは、マーカー遺伝子を、単一プロモーターの制御下でGPR54ポリペプチドをコードする配列とともに縦列に置くことができる。誘導または選択に応答するマーカー遺伝子の発現は、通常、縦列遺伝子の発現も示す。
【0112】
あるいは、GPR54ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでGPR54を発現する宿主細胞は、当業者に公知の様々な方法により同定することができる。これらの方法は、限定されるものでないが、DNA-DNAまたはDNA-RNAハイブリダイゼーションおよびタンパク質バイオアッセイまたはイムノアッセイ技術を含み、かつ核酸またはタンパク質配列を検出および/または定量するための膜、溶液、またはチップに基づく技術を含む。
【0113】
GPR54ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の存在は、GPR54をコードするポリヌクレオチドのプローブまたは断片を用いるDNA-DNAまたはDNA-RNAハイブリダイゼーションまたは増幅により検出することができる。核酸増幅に基づくアッセイは、GPR54ポリペプチドをコードする配列に基づくオリゴヌクレオチドまたはオリゴマーを用いて、GPR54をコードするDNAまたはRNAを含有する形質転換体を検出することを含む。
【0114】
タンパク質に特異的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれかを用いてGPR54の発現を検出しかつ測定する様々なプロトコルは、当技術分野で公知である。かかる技術の例は、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化セルソーティング(FACS)を含む。GPR54の2つの非干渉性エピトープと反応性のあるモノクローナル抗体を用いる2部位モノクローナル系イムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイを利用してもよい。これらおよび他のアッセイは、当技術分野では、例えば、Hampton, R.ら(1990, 「血清学的方法:実験室マニュアル(Serological Methods, a Laboratory Manual)」, Section IV, APS Press, St Paul, Minn.)およびMaddox, D.E.ら(1983, J. Exp. Med. 158:1211-1216)に十分記載されている。
【0115】
多様な標識およびコンジュゲーション技術が当業者に公知であり、種々の核酸およびアミノ酸アッセイに利用することができる。GPR54をコードするポリヌクレオチドに関連する配列を検出するための、標識されたハイブリダイゼーションまたはPCRプローブを作製する方法は、オリゴ標識化、ニックトランスレーション、末端標識化、または標識ヌクレオチドを用いるPCR増幅を含む。あるいは、GPR54をコードする配列またはその断片を、mRNAプローブ作製用のベクター中にクローニングしてもよい。かかるベクターは当技術分野で公知であり、市販されており、これを使用してT7、T3、またはSP6などの適切なRNAポリメラーゼおよび標識ヌクレオチドの添加によってin vitroでRNAプローブを合成することができる。これらの手順を、種々の市販キット、例えばPharmacia & Upjohn(Kalamazoo、Mich.)、Promega(Madison、Wis.)、およびU.S. Biochemical Corp.(Cleveland,Ohio)などから販売されるキットを用いて行うことができる。検出を容易にするために利用しうる適切なレポーター分子は、放射性核種、酵素、蛍光、化学発光、または発色剤、ならびに基質、補因子、インヒビター、磁性粒子などを含む。
【0116】
GPR54をコードするヌクレオチド配列を用いて形質転換した宿主細胞は、細胞培養からのタンパク質の発現および回収に好適な条件のもとで培養することができる。形質転換細胞により産生されたタンパク質は、使用した配列および/またはベクターに応じて、細胞膜に位置させるか、分泌させるか、または細胞内に含有させることができる。当業者は理解しうるように、GPR54をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターは、原核または真核細胞膜を介したGPR54の分泌を指令するシグナル配列を含有するように設計してもよい。他の構築物を用いて、GPR54をコードする配列を、可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に結合させてもよい。このような、精製を容易にするドメインには、限定されるものでないが、固定化金属上での精製を可能にするヒスチジン−トリプトファンモジュールなどの金属キレート化ペプチド、固定化免疫グロブリン上での精製を可能にするプロテインAドメイン、およびFLAGS伸長/アフィニティ精製システム(Immunex Corp.、Seattlw、Wash.)に利用されるドメインが含まれる。精製ドメインとGPR54をコードする配列の間に切断可能なリンカー配列(例えば、第XA因子またはエンテロキナーゼに特異的な配列(Invitrogen、San Diego、Calif.)を封入して精製を容易にすることができる。1つのかかる発現ベクターは、チオレドキシンまたはエンテロキナーゼ切断部位に先行する6個のヒスチジン残基をコードする核酸およびGPR54を含有する融合タンパク質の発現を供給する。ヒスチジン残基は、固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(Porath, Jら, (1992) Prot. Exp. Purif. 3: 263-281に記載のIMIAC)での精製を容易にし、エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパクからGPR54を精製する手段を与える。融合タンパク質を含むベクターの考察はKroll, D.J.ら(1993; DNA Cell Biol. 12:441-453)に記載されている。
【0117】
GPR54の断片は、組換えによる生産だけでなく、固相技術を用いる直接ペプチド合成によって調製することもできる(Merrifield J. (1963) J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154)。タンパク質合成は手動または自動によって実施することができる。自動合成は、例えば、Applied Biosystems 431Aペプチド合成機(Perkin Elmer)を用いて実施しうる。様々なGPR54断片を個別に合成し、その後、組み合わせて全長分子を作製することができる。
【0118】
トランスジェニック動物
ノックアウト
本発明のさらなる態様においては、GPR54ポリペプチドを機能的に不活性化した1以上の細胞を含んでなるGPR54ノックアウト哺乳動物を提供する。
【0119】
本発明のGPR54ノックアウトは、GPR54遺伝子またはこの遺伝子の任意の部分の機能的破壊の結果として生じうるのであって、GPR54遺伝子の1以上の機能的突然変異(欠失または置換を含む)を含む。突然変異は、単一の点突然変異を含み、GPR54のコード領域または非コード領域を標的としうる。
【0120】
好ましくは、かかるノックアウト動物は、ブタ、ヒツジ、またはげっ歯類などの非ヒト動物である。最も好ましくは、ノックアウト動物はマウスまたはラットである。かかるノックアウト動物をスクリーニング法に用いて、GPR54のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを同定するだけでなく、in vivoでの疾患治療薬としてのそれらの有効性を試験することができる。
【0121】
例えば、GPR54産生に欠陥があるように遺伝子操作されたノックアウト動物を、GPR54のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを同定するアッセイに利用することができる。1つのアッセイは、潜在的薬物(候補リガンドまたは化合物)を評価して、それがGPR54受容体の不在のもとで生理学的応答を生ずるかどうかを確認するように設計する。これは、上述したノックアウト動物に薬物を投与し、次いで、特定の応答について動物をアッセイすることにより実施することができる。このアッセイではいずれの生理学的パラメーターを測定してもよい。
【0122】
GPR54ノックアウト動物由来の組織を受容体結合アッセイに用いて、潜在的薬物(候補リガンドまたは化合物)がGPR54受容体に結合するかどうかを確認することができる。かかるアッセイは、GPR54受容体産生に欠陥があるように遺伝子操作されたノックアウト動物から第1受容体調製物を、そして任意の同定されたGPR54リガンドまたは化合物と結合することが知られる供給源から第2受容体調製物を得ることによって行うことができる。一般的に、第1および第2受容体調製物は、これらを得た供給源を除くと全ての点において類似している。例えば、ノックアウト動物(上記および下記の)由来の脳組織をアッセイで使用する場合は、正常な(野生型)動物由来の比較しうる脳組織を第2受容体調製物の供給源として使用する。それぞれの受容体調製物を、GPR54受容体に結合することが知られているリガンドとともに、単独でおよび候補リガンドまたは化合物の存在下で、インキュベートする。好ましくは、候補リガンドまたは化合物を、いくつかの異なる濃度で試験する。
【0123】
既知リガンドによる結合が試験化合物により置換される程度を、第1および第2の受容体調製物の両方について測定する。ノックアウト動物由来の組織をアッセイで直接使用してもよいし、組織を処理して膜または膜タンパク質を単離し、これら自体をアッセイで使用してもよい。好ましいノックアウト動物はマウスである。リガンドを、結合アッセイに適合しうる任意の手段で標識することができる。標識は、限定されるものでないが、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、または化学発光標識(ならびに、さらに詳しく上に記載したその他の標識技術)を含む。
【0124】
さらに、GPR54受容体のアンタゴニストは、候補化合物などを、機能性GPR54を発現する野生型動物、およびGPR54受容体機能の低下または消滅した発現に関連する表現型特性のいずれかを示すことが確認された動物に投与することにより、同定することができる。
【0125】
非ヒトノックアウト動物の詳細な作製方法を以下にさらに詳しく記載する。トランスジェニック遺伝子構築物を動物の生殖細胞系に導入して、トランスジェニック哺乳動物を作製することができる。例えば、1または数コピーの構築物を、標準的な遺伝子導入技術によって哺乳動物胚のゲノム中に組み込むことができる。
【0126】
代表的な実施形態においては、トランスジーンを非ヒト動物の生殖細胞系に導入することにより、本発明のノックアウト非ヒト動物を作出する。様々な発生段階の胚性標的細胞を使用してトランスジーンを導入することができる。胚性標的細胞の発生段階に応じて様々な方法が利用される。本発明を実施するために使用したいずれの動物の特定の系統も、良好な健康状態、良好な胚収率、胚内の前核の良好な視度、および良好な生殖適性について選択した。さらに、ハプロタイプが重要なファクターである。
【0127】
胚へのトランスジーンの導入は、当技術分野で公知の任意の手段(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはリポフェクション)によって行うことができる。例えば、構築物の哺乳動物受精卵前核へのマイクロインジェクションによりGPR54受容体トランスジーンを哺乳動物に導入し、構築物の1コピー以上を、発生しつつある哺乳動物の細胞内に保持させることができる。トランスジーン構築物の受精卵中への導入後、その卵をin vitroで様々な時間インキュベートするか、または代理宿主に再移植するか、またはその両方を行うことができる。成熟までのin vitroインキュベーションは本発明の範囲内である。一般的方法では、種に依存して胚を約1〜7日間in vitroでインキュベートし、次いでそれらを代理宿主に再移植する。
【0128】
遺伝子導入操作をした胚の子孫を、構築物の存在について、組織セグメントのサザンブロット分析により試験することができる。もしクローニングした外因性構築物の1コピー以上が、かかるノックアウト胚のゲノム中に安定に組み込まれたままであれば、遺伝子導入で加えた構築物を保持する永久的なノックアウト哺乳動物系統を樹立することが可能である。
【0129】
ノックアウト改変した哺乳動物の同腹仔を、出生後に子孫のゲノム中への構築物の組み込みについてアッセイすることができる。好ましくは、このアッセイは、所望の組換えタンパク質産物をコードするDNA配列またはそのセグメントに対応するプローブを、その子孫由来の染色体物質とハイブダイズさせることにより実施する。少なくとも1コピーの構築物をそのゲノム中に含むことが見出された哺乳動物子孫は、成熟するまで成長させる。
【0130】
本発明の目的にとって、接合体は本質的に完全な生物に発生することができる二倍体細胞の形成である。一般的に、接合体は配偶子由来の2つのハプロイド核の融合によって、自然にまたは人為的に形成された核を含有する卵から構成される。従って、配偶子の核は、自然に適合しうる(すなわち、分化して機能する生物に発育する生存接合体を生じうる)核でなければならない。一般的に、正倍数体の接合体が好ましい。異数体の接合体が得られる場合、染色体数はいずれかの配偶子が由来する生物の正倍数体の数に対して2以上変化してはならない。
【0131】
同様な生物学的考察事項に加えて、物理的考察事項も、接合体核にまたは接合体核の一部を形成する遺伝物質に加えうる外因性遺伝物質の量(例えば、体積)を支配する。遺伝物質が取り除かれない場合は、添加される外因性遺伝物質の量は、物理的に破壊されずに吸収されうる量により制限される。一般的に、挿入される外因性遺伝物質の体積は、約10ピコリットルを超えることはない。添加の物理的影響は接合体の生存を物理的に破壊するほど大きくてはいけない。DNA配列の数と種類の生物学的限度は個々の接合体と外因性遺伝物質の機能に応じて変化するが、このことは当業者には容易に明白となるであろう。何故なら、得られる接合体の遺伝物質(外因性遺伝物質を含む)は、接合体の機能性生物への分化と成長を開始させかつ維持する生物学的能力がなければならないからである。
【0132】
接合体に添加するトランスジーン構築物のコピー数は、添加する外因性遺伝物質の総量に依存するのであり、遺伝的形質転換を起こしうる量であろう。理論的には1コピーしか必要でない;しかし、一般的に、1コピーが機能的であることを確実にするために、トランスジーン構築物の多数コピー(例えば、1,000〜20,000コピー)を使用する。本発明については、それぞれの挿入する外因性DNA配列の2以上の機能性コピーを有することが、外因性DNA配列の表現型発現を増強するためにしばしば有利でありうる。
【0133】
その技術が細胞、核膜、または他の既存の細胞構造もしくは遺伝子構造を破壊しない限り、外因性遺伝物質を核遺伝物質中に加えることを可能にするいずれの技術を利用してもよい。外因性遺伝物質を、マイクロインジェクションによって、核の遺伝物質中に優先的に挿入することが好ましい。細胞および細胞構造のマイクロインジェクションは公知であり、当技術分野で使用されている。
【0134】
再移植は標準的な方法を用いて実施する。通常、代理宿主を麻酔し、卵管中に胚を挿入する。特定の宿主中に移植される胚の数は種によって変化するが、通常、その種が天然に産生する子孫の数に匹敵しうる数である。
【0135】
代理宿主のノックアウト子孫は、任意の適切な方法によってトランスジーンの存在および/または発現についてスクリーニングすることができる。スクリーニングは、しばしば、トランスジーンの少なくとも一部に相補的なプローブを使用して、サザンブロット分析またはノーザンブロット分析によって行う。トランスジーンがコードするタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析を、トランスジーン産物の存在をスクリーニングするための代替法または追加の方法として利用してもよい。典型的には、DNAを尾組織から調製し、そしてトランスジーンについてサザン分析またはPCRによって分析する。あるいは、最高レベルでトランスジーンを発現すると考えられる組織または細胞を、サザン分析またはPCRを用いてトランスジーンの存在および発現について試験するが、この分析にはいずれの組織または細胞型を使用してもよい。
【0136】
トランスジーンの存在を評価するための代わりのまたは追加の方法としては、限定されるものでないが、酵素および/または免疫学的アッセイなどの適切な生化学的アッセイ、特定のマーカーまたは酵素活性に対する組織学的染色、フローサイトメトリー分析などが挙げられる。血液の分析も、血液中のトランスジーン産物の存在を検出するために、ならびに様々な型の血液細胞および他の血液成分のレベルに対するトランスジーンの効果を評価するために有用でありうる。
【0137】
レトロウイルス感染を使用して、非ヒト動物にトランスジーンを導入することもできる。発生中の非ヒト胚を、胚盤胞期までin vitroで培養することができる。この間、卵割球をレトロウイルス感染の標的とすることができる(Jaenich, R. (1976) PNAS 73:1260-1264)。透明帯を除去する酵素処理によって卵割球の効率的な感染が得られる(「マウス胚の操作(Manipulating the Mouse Embryo)」、Hogan編、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1986)。トランスジーンを導入するために使用するウイルスベクター系は、典型的には、トランスジーンを保持する複製欠損レトロウイルスである(Jahnerら、(1985) PNAS 82:6927-6931;Van der Puttenら, (1985) PNAS 82:6148-6152)。トランスフェクションは、卵割球をウイルス産生細胞の単層上で培養することにより、容易に且つ有効に行われる(Van der Putten、前掲;Stewartら, (1987) EMBO J. 6:383-388)。あるいは、感染を後期に実施してもよい。ウイルスまたはウイルス産生細胞を胞胚腔に注入することができる(Jahnerら,(1982) Nature 298:623-628)。組み込みはトランスジェニック非ヒト動物を形成する細胞のサブセットにおいてのみ起こるので、ほとんどの創始動物(founder)はトランスジーンについてモザイクである。さらに、創始動物は、トランスジーンの様々なレトロウイルス挿入物を、一般的に子孫では分離しうるゲノム中の様々な位置に含みうる。さらに、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖細胞系にトランスジーンを導入することも可能である(Jahnerら(1982)、前掲)。
【0138】
トランスジーン導入のための第3の標的細胞型は胚性幹細胞(ES)である。ES細胞を着床前の胚から得て、in vitroで培養し、胚と融合させる(Evansら, 1981, Nature, 292, 154-156;Bradleyら, (1984), Nature, 309, 255-258;Gosslerら, (1986), PNAS, 83, 9065-9069;およびRobertsonら, (1986), Nature, 322, 445-448)。トランスジーンを、ES細胞中にDNAトランスフェクションまたはレトロウイルス媒介形質導入により有効に導入することができる。その後、かかる形質転換ES細胞を、非ヒト動物由来の芽細胞と組み合わせることができる。その後、ES細胞はコロニーを形成して胚となり、得られるキメラ動物の生殖細胞系に寄与する。Jaenisch, R. (1988) Science 240:1468-1474を参照のこと。
【0139】
本発明はまた、宿主細胞中のGPR54遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物に関する。核酸構築物は、(a)非相同置換部分;(b)非相同置換部分の上流に位置する第1相同領域であって、第1のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する上記第1相同領域;および(c)非相同置換部分の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する第2相同領域(ただし、第2のGPR54遺伝子配列は天然の内因性GPR54遺伝子中で上記第1のGPR54遺伝子配列より下流の位置にある)を含んでなる。さらに、第1および第2相同領域は、核酸分子を宿主細胞に導入したとき、宿主細胞中で核酸構築物と内因性GPR54遺伝子との間の相同組換えに十分な長さのものである。好ましい実施形態においては、非相同置換部分は発現レポーターを含み、好ましくはlacZおよびポジティブ選択の発現カセットを含み、好ましくは調節エレメントと機能しうる形で連結されたネオマイシン・ホスホトランスフェラーゼ遺伝子を含む。
【0140】
GPR54 GPCR欠損トランスジェニック動物は次のように作製することができる:
(a) GPR54遺伝子ターゲティングベクターの構築
マウスGPR54ゲノムクローンを、HGMP(Hinxton、UK)から得たマウス大インサートPACライブラリーから、推定マウスオープンリーディングフレームcDNA配列(配列番号4)の一部分から増幅したプローブ配列と標準技術を用いて単離する。次いで、単離したマウスGPR54ゲノムクローンを、小さいオリゴヌクレオチドプローブと標準技術を用いて、GPR54遺伝子の領域に制限マッピングする。
【0141】
ターゲティングベクター中にクローニングするための相同アームの設計を可能にするために、マウスゲノム遺伝子座を部分的に配列決定する。欠失すべきオープンリーディングフレームの領域の両側からの、典型的には1〜5kbの大きさの2つのDNA領域(いわゆる5'および3'相同アーム)をPCRにより増幅し、これらの断片をターゲティングベクター中にクローニングする。これらのアームの位置は、相同組換え事象が、少なくとも7回膜貫通領域を欠失することによりGPR54遺伝子を機能的に破壊するように選択する。ターゲティングベクターを作製するには、欠失されるGPR54配列を、GPR54遺伝子と同じ方向に配置された、(プロモーターと機能しうる形で連結された)ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子を含む選択カセットの上流に内因性遺伝子発現レポーター(フレームに依存しないlacZ遺伝子)を含む非相同配列と置換する。
【0142】
(b) 胚性幹細胞のトランスフェクションと分析
胚性幹細胞(EvansおよびKaufman, 1981)を、20%のウシ胎児血清、10%のウシ新生子血清、2mMのグルタミン、非必須アミノ酸類、100μMの2−メルカプトエタノール、および500u/mlの白血病阻害因子を補充したダルベッコ改変イーグル培地中で増殖させたネオマイシン耐性胚性線維芽細胞の支持細胞層上で培養する。培地を毎日交換し、ES細胞を3日毎に継代培養(subculture)する。エレクトロポレーション(25μF静電容量および400ボルト)により5×106個のES細胞に5μgの線状化プラスミドをトランスフェクトする。エレクトロポレーションの24時間後に、トランスフェクトした細胞を、200μg/mlのネオマイシンを含有する培地中で9日間培養する。クローンを96ウェルプレートに拾い、複製させて増やした後、PCRによりスクリーニングして、内因性GPR54遺伝子とターゲティング構築物の間で相同組換えが起こったクローンを同定する。ポジティブクローンは典型的には1〜5%の割合で同定される。これらのクローンを増やしてレプリカを凍結させ、十分に高品質のDNAを調製し、外部5'および3'プローブを用いてターゲティング事象をサザンブロットにより確認するが、これらは全て標準的な手法を用いて行う(Russら, Nature 2000 Mar 2; 404(6773):95-9)。
【0143】
(c) GPR54欠損マウスの作出
C57BL/6雌および雄マウスを交配させ、胚盤胞を妊娠3.5日目に単離する。胚盤胞1個あたり選択クローンから得た10〜12個の細胞を注入し、7〜8個の胚盤胞を偽妊娠F1雌の子宮に移植する。
【0144】
高レベル(最高100%)の縞模様(agouti)をもつ複数の雄(縞模様の毛の色が標的クローンの子孫である細胞の寄与を示す)を含むキメラな子の同腹仔が産まれる。この雄キメラを雌MF1および129マウスと交配させ、生殖細胞系列の伝達を、それぞれ縞模様の毛の色およびPCR遺伝子型判定により確認する。
【0145】
他の非ヒトトランスジェニック動物
本発明によれば、(好適な対照と比較して)GPR54受容体の過剰発現または該受容体の過小発現をもたらす非ヒトトランスジェニック動物も意図している。
【0146】
こうした動物は受容体機能のアゴニストおよびアンタゴニストを同定するために、そしてまた治療上にも有用である。
【0147】
抗体
本明細書に記載したように、抗体をGPR54ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストとして使用することができる。
【0148】
本発明の目的にとって、用語「抗体」は、特に断らない限り、限定するものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリーにより産生されるフラグメントを含む。かかるフラグメントは、標的物質に対する結合活性を保持する全抗体のフラグメント、Fv、F(ab')、およびF(ab')2フラグメント、ならびに、抗体の抗原結合部位を含有する一本鎖抗体(scFv)、融合タンパク質および他の合成タンパク質を含む。抗体およびそのフラグメントは、例えばEP-A-239400に記載の、ヒト化抗体であってもよい。さらに、例えば米国特許第5,545,807号および同第6,075,181号に記載の、完全にヒトの可変領域(またはそのフラグメント)をもつ抗体も使用することができる。中和抗体、すなわち、物質アミノ酸配列の生物学的活性を阻害する抗体は、診断および治療に特に好ましい。
【0149】
抗体は、標準的な技術によって、例えば、免疫化によりまたはファージディスプレイライブラリーの使用により産生することができる。
【0150】
本発明のポリペプチドまたはペプチドを用いて公知の技術により抗体を生成させることができる。かかる抗体はGPR54タンパク質または相同体、断片などと特異的に結合する能力をもつ可能性がある。
【0151】
もしポリクローナル抗体が所望であれば、選択した哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を、本発明のポリペプチドまたはペプチドを含む免疫原性組成物を用いて免疫感作する。宿主の種に応じて、様々なアジュバントを使用して、免疫応答を増加させることができる。かかるアジュバントは、限定されるものでないが、フロイント、ミネラルゲル(例えば、水酸化アルミニウム)、および界面活性剤(例えば、リゾレシチン)、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ならびにジニトロフェノールを含む。BCG(Bacilli Calmette-Guerin)およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)は、精製された物質アミノ酸配列を全身防御を刺激する目的で免疫無防備状態の個体に投与する場合に使用することができる、有用なヒトアジュバントでありうる。
【0152】
免疫感作した動物から血清を採取し、公知の手順で処理する。本発明のポリペプチドから得られるエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清が、他抗原に対する抗体を含有する場合には、ポリクローナル抗体を免疫親和性クロマトグラフィーにより精製することができる。ポリクローナル抗血清を産生させかつプロセシングする技術は、当技術分野で公知である。かかる抗体を作製することができるように、本発明はまた、動物またはヒトにおける免疫原として利用するための本発明のアミノ酸配列、または他のアミノ酸配列にハプテン化されたその断片も提供する。
【0153】
本発明のポリペプチドまたはペプチドから得られるエピトープに対するモノクローナル抗体も当業者により容易に産生されうる。ハイブリドーマによりモノクローナル抗体を作る一般的方法は周知である。不死性の抗体産生細胞株は細胞融合により作製することができ、また、他の技術、例えば腫瘍形成性DNAによるBリンパ球の直接形質転換、またはエプスタイン−バーウイルスによるトランスフェクションにより作製することができる。軌道上(orbit)のエピトープに対して産生されたモノクローナル抗体のパネルを、様々な特性(すなわち、イソ型およびエピトープ親和性)についてスクリーニングしてもよい。
【0154】
モノクローナル抗体は、連続培養細胞株が抗体分子を産生するいずれの技術を使用して調製してもよい。これらの技術としては、限定されるものでないが、KoehlerおよびMilstein(1975 Nature 256:495-497)に最初に記載されたハイブリドーマ技術、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosborら, (1983) Immunol Today 4:72;Coteら, (1983) Proc Natl Acad Sci 80:2026-2030)、およびEBV−ハイブリドーマ技術(Coleら, 「モノクローナル抗体と癌治療(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」, pp.77-96, Alan R. Liss, Inc., 1985)が挙げられる。
【0155】
さらに、「キメラ抗体」作製のために開発された技術(適当な抗原特異性および生物活性をもつ分子を得るための、マウス抗体遺伝子のヒト抗体遺伝子へのスプライシング)を利用することができる(Morrisonら, (1984) Proc Natl Acad Sci 81:6851-6855;Neubergerら, (1984) Nature 312:604-608;Takedaら, (1985) Nature 314:452-454)。あるいは、一本鎖抗体の作製について記載した技術(米国特許第4,946,779号)を応用して、物質特異的な一本鎖抗体を作製することができる。
【0156】
本発明のポリペプチドまたはペプチドから得られるエピトープに対する抗体(モノクローナルおよびポリクローナル共に)は、特に診断に有用であり、中和抗体は、受動免疫療法において有用である。特にモノクローナル抗体を使用して、抗イディオタイプ抗体を生成させることができる。抗イディオタイプ抗体は、物質および/または薬剤(それに対する保護が所望される)の「内部イメージ」を保持する免疫グロブリンである。抗イディオタイプ抗体を惹起させる技術は、当技術分野で公知である。これらの抗イディオタイプ抗体も治療に有用でありうる。
【0157】
抗体はまた、Orlandiら(1989, Proc Natl Acad Sci 86: 3833-3837)ならびにWinter GおよびMilstein C(1991, Nature 349:293-299)に開示されたように、リンパ球集団でのin vivo産生を誘導することにより、または組換え免疫グロブリンライブラリーもしくは高特異的結合試薬のパネルをスクリーニングすることにより得ることもできる。
【0158】
ポリペプチドまたはペプチドに対する特異的結合部位を含有する抗体フラグメントを作製することもできる。例えば、かかるフラグメントは、限定されるものでないが、抗体分子のペプシン消化により生成することができるF(ab')2フラグメント、およびF(ab')2フラグメントのジスルフィド結合の還元により作製することができるFabフラグメントを含む。あるいは、所望の特異性をもつモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にするようにFab発現ライブラリーを構築することもできる(Huse WDら, (1989) Science 256:1275-1281)。
【0159】
一本鎖抗体の作製技術(米国特許第4,946,778号)を応用して、本発明のポリペプチドに対する一本鎖抗体を作製することもできる。また、トランスジェニックマウスまたは他の生物(他の哺乳動物を含む)を用いて、ヒト化抗体を発現させることもできる。
【0160】
従って、本発明者らは、GPR54抗体またはそれを含んでなる組成物は神経学的、生殖ホルモン関連、および特定のその他の症状の治療において特に治療上有用であると考える。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経疾患および癲癇のいずれか1以上を含む。
【0161】
かかる生殖ホルモン関連症状は、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病ならびに閉経からなる群のいずれか1以上からなる。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストはホルモン置換療法(HRT)に有用でありうる。
【0162】
その他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0163】
診断アッセイ
さらなる態様においては、本発明は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断する患者から細胞サンプルを選択するステップ、ならびに
(b)これらの細胞サンプル中のGPR54ポリペプチドの発現レベルおよび/または機能的活性を、健康な個体からの1以上の対照サンプルと比較するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0164】
本発明はまた、診断試薬として診断にまたは遺伝分析に使用するための、GPR54ポリヌクレオチド、GPR54ペプチドリガンドをコードするポリヌクレオチドおよびポリペプチド(ならびにそれらの相同体、変異体および誘導体)の使用にも関する。GPR54核酸(相同体、変異体および誘導体を含む)と相補的なまたはハイブリダイズすることができる核酸、ならびにGPR54ポリペプチドおよびGPR54リガンドポリペプチドに対する抗体もこのアッセイに有用である。
【0165】
GPR54遺伝子、メタスチン遺伝子または他の天然リガンド遺伝子の機能障害に関連した突然変異型の検出は、GPR54もしくはその天然リガンドの過小発現、過剰発現または改変された発現の結果である疾患または該疾患への易罹患性の診断に追加したり、またはかかる診断を規定したりすることができる診断ツールを提供しうる。GPR54遺伝子(対照配列を含む)に突然変異を保持する個体は、DNAレベルで様々な技術により検出することができる。
【0166】
例えば、DNAを患者から単離し、GPR54またはメタスチンのDNA多形パターンを決定することができる。同定したパターンを、GPR54またはメタスチンの過剰、過小または異常発現に関連する疾患に罹っていることがわかっている患者の対照と比較する。そこで、GPR54もしくはメタスチン関連疾患に関連する遺伝的多形パターンを発現する患者を同定することができる。GPR54またはメタスチン遺伝子の遺伝分析は、当技術分野で公知の技術により実施することができる。例えば、GPR54またはメタスチン対立遺伝子のDNA配列をRFLPまたはSNP分析などで確認することにより、個体をスクリーニングしてもよい。GPR54またはメタスチンの過剰、過小または異常発現に関連する疾患に対する遺伝的素因を有する患者は、GPR54またはメタスチンの遺伝子配列またはその発現を制御するいずれかの配列中のDNA多形の存在を検出することにより同定することができる。
【0167】
次いでそのようにして同定した患者は、GPR54もしくはメタスチン関連疾患の発症を予防するために、またはさらに積極的にGPR54もしくはメタスチン関連疾患の初期段階で、疾患のさらなる発症または進展を防止するために処置することができる。GPR54もしくはメタスチン関連疾患は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌を含む。
【0168】
好ましい実施形態においては、GPR54もしくはメタスチン関連疾患は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満のいずれか1つを含む。好都合なのは、疾患または症状が性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0169】
本発明は、さらに、GPR54もしくはメタスチン関連疾患に関連する患者の遺伝的多型パターンを同定するためのキットを開示する。キットは、DNAサンプル採取手段および遺伝的多型パターン測定手段を含み、測定した多型パターンを次いで対照サンプルと比較してGPR54もしくはメタスチン関連疾患への患者の易罹患性を同定する。GPR54もしくはメタスチンポリペプチドおよび/またはかかるポリペプチドに対する抗体(またはそのフラグメント)を含んでなるGPR54もしくはメタスチン関連疾患診断用キットも提供する。
【0170】
診断用核酸は、被験者の細胞から、例えば血液、尿、唾液、組織生検または剖検材料から得ることができる。好ましい実施形態では、患者の指穿刺により吸収紙上に血液を回収して得られた血球からDNAを取得する。さらに好ましい実施形態では、AmpliCardTM(University of Sheffield, Department of Medicine and Pharmacology, Royal Hallamshire Hospital, Sheffield, England S10 2JF)で採血する。
【0171】
DNAは検出のために直接使用するか、または分析前にPCRまたは他の増幅技術を利用することにより酵素で増幅することができる。目的の遺伝子内の特定の多型DNA領域を標的とするオリゴヌクレオチドDNAプライマーを調製して、PCR反応で標的配列の増幅が達成されるようにする。RNAまたはcDNAを類似の様式でテンプレートとして用いてもよい。次いで、テンプレートDNAから増幅されたDNA配列を制限酵素により分析して、増幅配列中に存在する遺伝的多型を決定し、それにより患者の遺伝的多型プロファイルを得ることができる。制限断片の長さはゲル分析により同定することができる。これとは別に、またはそれと一緒に、SNP(一塩基多形)分析などの技術を使用してもよい。
【0172】
欠失および挿入は、正常な遺伝子型と比較した増幅産物のサイズの変化により検出することができる。点突然変異は、増幅DNAを、標識したGPR54もしくはメタスチンヌクレオチド配列とハイブリダイズさせることにより同定することができる。完全にマッチした配列は、RNアーゼ消化または融解温度の差によりミスマッチの二本鎖と区別することができる。DNA配列の相違はまた、変性剤を用いたまたは用いないゲル中のDNA断片の電気泳動移動度の変化により、または直接的なDNA配列決定により検出することもできる。例えば、Myersら, Science (1985) 230:1242を参照のこと。特定の位置での配列の変化はまた、RNアーゼおよびS1プロテクションなどのヌクレアーゼプロテクションアッセイにより、または化学的切断法により明らかにすることもできる。Cottonら, Proc Natl Acad Sci USA (1985) 85:4397-4401を参照のこと。他の実施形態においては、GPR54もしくはメタスチンヌクレオチド配列またはその断片を含有するオリゴヌクレオチドプローブのアレイを構築し、例えば遺伝子突然変異の、効率的なスクリーニングを実施できるようにしてもよい。アレイ技法は周知であり、一般的な適用可能性を有し、これを利用して遺伝子発現、遺伝的連鎖、および遺伝的変異性を含む分子遺伝学の様々な問題に取り組むことができる。(例えば、M. Cheeら, Science, Vol 274, pp 610-613 (1996)を参照のこと)。
【0173】
一本鎖コンフォメーション多形(SSCP)を使用して、突然変異型核酸と野生型核酸の間の電気泳動移動度の相違を検出することができる(Oritaら, (1989) Proc Natl. Acad. Sci USA: 86:2766、Cotton (1993) Mutat Res 285:125-144;およびHayashi (1992) Genet Anal Tech Appl 9:73-79も参照のこと)。サンプルおよび対照GPR54もしくはメタスチン核酸の一本鎖DNA断片は変性させて、再生させることができる。一本鎖核酸の二次構造は配列によって変化し、その結果生じる電気泳動移動度の変化により1塩基の変化ですら検出が可能になる。DNA断片を標識してもよいし、標識プローブを用いてDNA断片を検出してもよい。アッセイの感度は、(DNAよりもむしろ)二次構造が配列の変化に影響されやすいRNAを使用することで増強することができる。好ましい実施形態においては、本発明の方法はヘテロ二本鎖分析を使用して、二本鎖を形成したヘテロ二本鎖分子を電気泳動移動度の変化に基づいて分離する(Keenら, (1991) Trends Genet 7:5)。
【0174】
診断アッセイは、以下の疾患に対する易罹患性を、上記方法によるGPR54もしくはメタスチン遺伝子の突然変異の検出を介して、診断または判定する方法を提供する:細菌、真菌、原生動物およびウイルス感染症、特にHIV-1もしくはHIV-2が引き起こす感染症などの感染;疼痛;癌;糖尿病、肥満;摂食障害;過食症;喘息;パーキンソン病;血栓症;急性心不全;低血圧;高血圧;勃起機能障害;尿閉;骨粗鬆症および大理石骨病などの代謝性骨疾患;狭心症;心筋梗塞;潰瘍;喘息;アレルギー;慢性関節リウマチ;炎症性腸疾患;過敏性腸症候群;良性前立腺肥大;および不安、精神分裂病、躁欝病、譫妄、痴呆、重症精神遅滞、およびハンチントン病またはジル・ド・ラ・ツレット症候群などの運動障害を含む精神病性および神経学的障害。
【0175】
特に好ましい実施形態においては、診断アッセイは、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満への易罹患性を診断または判定するために用いられる。好都合には、前記疾患または症状は性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0176】
GPR54もしくはメタスチンポリペプチドおよび核酸の存在は、サンプルにおいて検出することができる。従って、上記の感染症および疾患は、被験者由来のサンプルからGPR54もしくはメタスチンポリペプチドまたはGPR54もしくはメタスチンmRNAのレベルの異常な減少または増加を同定するステップを含む方法によって診断することができる。サンプルは、GPR54もしくはメタスチンの発現レベルまたはパターンの空間的または時間的変化を含めて、GPR54もしくはメタスチン発現の増加、減少、そうでなければ異常に関連する疾患に罹っているか罹っていると疑われる生物由来の細胞または組織サンプルを含みうる。かかる疾患に罹っているか罹っていると疑われる生物におけるGPR54もしくはメタスチンの発現レベルまたはパターンは、疾患の診断手段として、正常な生物における発現レベルまたはパターンと有効に比較することができる。
【0177】
従って一般的に、本発明は、サンプル中にGPR54またはメタスチン核酸を含有する核酸の存在を検出する方法であって、サンプルを、上記核酸に特異的である少なくとも1つの核酸プローブと接触させ、該核酸の存在について上記サンプルをモニターすることによる上記方法を含む。例えば、核酸プローブをGPR54もしくはメタスチン核酸またはその一部と特異的に結合させて、二者間の結合を検出することができる。複合体自体の存在を検出してもよい。さらに、本発明は、GPR54もしくはメタスチンポリペプチドの存在を検出する方法であって、細胞サンプルを該ポリペプチドに結合することができる抗体と接触させ、該ポリペプチドの存在について上記サンプルをモニターすることによる上記方法を含む。これは、抗体とポリペプチドの間で形成された複合体の存在をモニターするか、またはポリペプチドと抗体の間の結合をモニターすることにより、好都合に行うことができる。二者間の結合を検出する方法は当技術分野で公知であり、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)、表面プラズモン共鳴などを含む。
【0178】
発現の減少または増加は、当技術分野で周知のいずれかのポリヌクレオチドの定量法(例えば、PCR、RT-PCR、RNアーゼプロテクション、ノーザンブロット、および他のハイブリダイゼーション法)を用いて、RNAレベルで測定することができる。宿主由来のサンプル中のタンパク質(例えば、GPR54もしくはメタスチン)のレベルを同定するために利用しうるアッセイ技術は当業者に周知である。かかるアッセイ方法は、ラジオイムノアッセイ、競合結合アッセイ、ウェスタンブロット分析、およびELISAアッセイを含む。
【0179】
本発明は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満のいずれか1つを含む疾患または疾患に対する易罹患性に対する診断キットに関する。好都合には、前記疾患または症状が性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0180】
特に好ましい診断キットは、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満のいずれかに対する疾患または易罹患性を検査または診断するために用いる。好都合には、前記疾患または症状が性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0181】
診断キットは、GPR54もしくはメタスチンポリヌクレオチドまたはその断片;相補的ヌクレオチド配列;GPR54もしくはメタスチンポリペプチドまたはその断片、またはGPR54もしくはメタスチンポリペプチドに対する抗体を含んでなる。
【0182】
予防および治療方法
本発明は、GPR54ポリペプチド活性の過剰と不足の両方に関係する異常な症状を治療する方法を提供するが、GPR54ポリペプチド、その結合タンパク質および/またはそれらをコードする核酸は、神経学的症状、生殖ホルモン関連症状、および特定の他の症状の治療に特に有用であると考えられる。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇のいずれかの1以上を含む。
【0183】
上記の生殖ホルモン関連症状は、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病および閉経からなる群のいずれかの1以上からなる。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストの使用はホルモン置換療法(HRT)に有用である。
【0184】
上記の他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0185】
もしGPR54の活性が過剰であれば、いくつかの手法が利用可能である。1つの方法は、被験者に、本明細書に上述したインヒビター化合物(アンタゴニスト)を製薬上許容される担体と共に、リガンドとGPR54との結合を遮断するかまたは第2のシグナルを抑制することにより活性化を阻止するのに有効な量で投与し、それにより異常な症状を軽減することを含む。
【0186】
他の方法では、内因性GPR54ポリペプチドと競合してリガンドとなおも結合することができるGPR54の可溶性形態を投与してもよい。かかる競合物質の典型的な実施形態は、GPR54ポリペプチドの断片を含む。
【0187】
さらに他の方法では、内因性GPR54ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を、発現遮断技術を用いて抑制してもよい。かかる公知の技術はアンチセンス配列の使用を含み、アンチセンス配列は内部的に生成されるか、または別個に投与される。例えば、O'Connor, J Neurochem (1991) 56:560、「遺伝子発現のアンチセンスインヒビターとしてのオリゴデオキシヌクレオチド(Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression)」, CRC Press, Boca Raton, Fla, 1988を参照のこと。あるいは、遺伝子と共に三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドを供給してもよい。例えば、Leeら, Nucleic Acids Res (1979) 6:3073;Cooneyら, Science (1988) 241:456;Dervanら, Science (1991) 251:1360を参照のこと。これらのオリゴマーは、それ自体を投与してもよいし、関連オリゴマーをin vivoで発現させてもよい。
【0188】
GPR54およびその活性の過小発現に関連する異常な症状を治療するために、いくつかの方法が利用可能である。1つの方法は、被験者に、リガンド結合型GPR54を模擬する化合物(すなわち、上記アゴニスト)の治療上有効な量を、製薬上許容される担体と組み合わせて投与し、それにより異常な症状を軽減するステップを含む。あるいは、遺伝子治療を利用して、被験者の関連細胞によるGPR54の内因的産生を促してもよい。例えば、本発明のポリヌクレオチドを、先に述べたように、複製欠損レトロウイルスベクターで発現するように操作することができる。次いで、レトロウイルス発現構築物を単離し、パッケージング細胞中に導入して本発明のポリペプチドをコードするRNAを含むレトロウイルスプラスミドベクターを用いて形質導入すると、パッケージング細胞は、以後、目的の遺伝子を含有する感染性ウイルス粒子を生産するようになる。このプロデューサー(ウイルス産生)細胞は、細胞をin vivo操作して、ポリペプチドをin vivo発現させるために、被験者に投与することができる。遺伝子治療の概説については、T StrachanおよびA P Read, 「ヒト分子遺伝学(Human Molecular Genetics)」, BIOS Scientific Publishers Ltd (1996)の第20章「遺伝子治療および他の分子遺伝学に基づく治療法(Gene Therapy and other Molecular Genetic-based Therapeutic Approaches)」(およびその引用文献)を参照のこと。
【0189】
製剤および投与
ペプチド(例えば、可溶性形態のGPR54ポリペプチド、アゴニストおよびアンタゴニストペプチド)または小分子は、好適な製薬上の担体と組み合わせて製剤化することができる。かかる製剤は、治療上有効な量のポリペプチドまたは化合物および製薬上許容される担体または賦形剤を含んでなる。かかる担体は、限定されるものでないが、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組み合わせを含む。製剤は投与様式に適合すべきであり、これは当業者に周知である。本発明は、さらに、本発明の上記の組成物の1以上の成分を充填した1以上の容器を含んでなる医薬用パックおよびキットに関する。
【0190】
本発明のポリペプチドおよび他の化合物は、単独でまたは治療用化合物などの他の化合物と組み合わせて、使用することができる。
【0191】
医薬組成物の全身投与の好ましい形態は、注射、典型的には静脈内注射を含む。皮下、筋肉内、または腹腔内などの他の注射経路を利用してもよい。全身投与に代わる手段は、胆汁酸塩もしくはフシジン酸などの浸透剤または他の界面活性剤を用いる経粘膜および経皮投与を含む。さらに、腸溶性またはカプセル化製剤として適切に製剤化されるのであれば、経口投与も可能である。これらの化合物を、軟膏、ペースト、ジェルなどの形態で外用および/または局部に投与してもよい。
【0192】
必要な投与量の範囲は、ペプチドの選択、投与経路、製剤の性質、患者の症状の性質、および主治医の判断に依存する。しかし、好適な投与量は、0.1〜100μg/kg(被験者の体重)の範囲である。しかし、利用可能な化合物の多様性および様々な投与経路の有効性の差異を考えると、必要な投与量は非常に変化すると予想される。例えば、経口投与は、静脈内注射による投与より多い投与量が必要であると予想される。これらの投与量レベルの変動は、最適化のための標準的な経験則を用いて調節することができ、これも当技術分野で十分に理解されている。
【0193】
治療に使用するポリペプチドはまた、上記の通り、しばしば「遺伝子治療」と呼ばれる治療様式で、被験者において内因的に生成させることもできる。従って、例えば、被験者由来の細胞を、ex vivoでポリペプチドをコードするように、例えばレトロウイルスプラスミドベクターを用いて、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチドを操作することができる。次いで細胞を被験者に導入する。
【0194】
医薬組成物
本発明はまた、治療上有効な量の本発明によるGPR54ポリペプチド、その結合分子またはそれらをコードする核酸、および、場合によっては、製薬上許容される担体、希釈剤もしくは賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0195】
医薬組成物はヒトおよび動物用の医薬としてヒトまたは動物に使用することができ、典型的には、1以上の製薬上許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含む。許容される担体または希釈剤は製薬業界で周知であり、例えば、「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」, Mack Publishing Co.(A.R. Gennaro編, 1985)に記載されている。製薬上の担体、賦形剤、または希釈剤の選択は、意図する投与経路および標準的な製薬実務を考慮して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として、またはそれに加えて、任意の好適な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤を含有することができる。
【0196】
保存剤、安定剤、色素およびさらに香料を医薬組成物に加えてもよい。保存剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、およびp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。抗酸化剤および懸濁化剤も使用することができる。
【0197】
異なる送達系ごとに異なる組成/製剤化の要件が存在しうる。例として、本発明の医薬組成物は、ミニポンプを使用してまたは粘膜経路により、例えば、吸入用の鼻腔用スプレーもしくはエーロゾル、または経口摂取用溶液として、あるいは非経口的に(この場合には組成物が注射可能な形態に製剤化される)、例えば、静脈内、筋肉内、もしくは皮下経路により、送達されるように製剤化することができる。あるいは、製剤を両方の経路で送達するように設計することもできる。
【0198】
胃腸粘膜を介する粘膜経路で薬剤を送達する場合は、それが胃腸管を通過している間、安定した状態のままで存在する必要がある;例えば、薬剤はタンパク質分解に抵抗し、酸性pHで安定であり、かつ胆汁の界面活性効果に抵抗しなければならない。
【0199】
適当であれば、医薬組成物は、吸入により、座剤もしくはペッサリーの形態で、ローション、溶液、クリーム、軟膏、またはダスティングパウダーの形態で局所的に、皮膚パッチの使用により、デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤を含む錠剤の形態で経口的に、または、カプセルもしくは卵状容器(ovule)に単独もしくは賦形剤との混合物として入れて、または香料もしくは着色料を含有するエリキシル、溶液もしくは懸濁液の形態で投与するか、または、これらを非経口的に(例えば、静脈内、筋肉内、または皮下に)注射することができる。非経口投与用には、組成物を、他物質(例えば、血液と等張の溶液を作るために十分な塩または単糖類)を含有してもよい無菌水溶液の形態で使用するのが最良であろう。バッカルまたは舌下投与用には、組成物を、通常の方法で製剤化することができる錠剤またはロゼンジの形態で投与してもよい。
【0200】
投与
典型的には、医師は、個々の被験者に最も適切な実投与量を決定するが、これは特定の患者の年齢、体重および応答によって変化しうる。以下の投与量は、平均的な事例の例示である。勿論、より高いまたはより低い投与量範囲が有利である場合もある。
【0201】
本発明の医薬組成物は、直接注射により投与することができる。組成物を、非経口、粘膜、筋肉内、静脈内、皮下、眼内、または経皮投与用に製剤化してもよい。典型的には、それぞれのタンパク質を、0.01〜30mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重、より好ましくは0.1〜1mg/kg体重の用量で投与することができる。
【0202】
用語「投与される」には、ウイルスまたは非ウイルス技術による送達を含む。ウイルス送達機構は、限定されるものでないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターを含む。非ウイルス送達機構は、脂質が媒介するトランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクチン、カチオン性表面両親媒性物質(CFA)、およびそれらの組み合わせを含む。かかる送達機構の経路は、限定されるものでないが、粘膜、鼻腔内、経口、非経口、胃腸、局所、または舌下経路を含む。
【0203】
用語「投与される」は、限定されるものでないが、例えば吸入用の鼻腔用スプレーもしくはエーロゾルまたは経口摂取用溶液のような粘膜経路による送達;例えば静脈内、筋肉内、または皮下経路などの注射形態での送達である非経口経路による送達を含む。
【0204】
用語「共投与される」は、例えば、本発明のポリペプチドおよびアジュバントなどの追加物質のそれぞれの投与部位および投与時間が、免疫系の必要とされるモジュレーションを達成するようなものである、ことを意味する。従って、ポリペプチドおよびアジュバントを同時に且つ同一部位に投与しうる一方で、ポリペプチドをアジュバントと異なる時間および異なる部位に投与することが好都合な場合もありうる。ポリペプチドとアジュバントを同じ送達ビヒクルで送達することさえできるし、また、ポリペプチドおよび抗原を結合させてもさせなくてもよいし、および/または、遺伝的に結合させてもさせなくてもよい。
【0205】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ペプチド、ヌクレオチド、および場合によってはアジュバントは、宿主被験者に1回用量または複数回用量で、別個に投与してもよいし、共投与してもよい。
【0206】
本発明の医薬組成物は、注射(非経口、皮下、および筋肉内注射を含む)、鼻腔内、粘膜、経口、膣内、尿道、または眼内投与など、いくつかの異なる経路により投与することができる。
【0207】
本発明の医薬組成物は、慣用の方法で、非経口的に、注射により、例えば、皮下または筋肉内に投与することができる。他の投与様式に好適であるさらなる製剤には、座剤、およびいくつかの事例では経口製剤、が含まれる。座剤用の伝統的な結合剤および担体は、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含み;かかる座剤は、0.5%〜10%、例えば1%〜2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。経口製剤は、通常使用される賦形剤、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放製剤、または散剤の形態をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の活性成分を含む。ワクチン組成物を凍結乾燥する場合、凍結乾燥物は投与前に、例えば懸濁液として、用時調製することができる。用時調製は緩衝液中で行うことが好ましい。
【0208】
本発明について、特に実施例を挙げて以下に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0209】
実施例1 トランスジェニックGPR54ノックアウトマウス
GPR54遺伝子ターゲティングベクターの構築
マウスGPR54遺伝子は生物情報工学的に(bioinformatically)同定し、PACライブラリー由来の10.3kbゲノムコンティグ内に位置することを見出した。さらなる生物情報工学的研究によりこのコンティグを28kbまで広げた。このコンティグは、ターゲティングベクター中にクローニングするための相同アームの設計を可能にするのに十分なフランキング配列情報を与えた(利用したターゲティングベクターの、関係する制限酵素切断部位を含む構造を図3に示した)。
【0210】
マウスGPR54遺伝子は5個のコーディングエキソンを有する。ターゲティング計画は、7tmコーディングドメインの開始前の第1エキソンの一部、および第2の7tm含有エキソンの大部分、を欠失するように設計した。欠失すべき7tm含有エキソンに隣接する4.7kbの5'相同アームおよび1.0kbの3'相同アームをPCRにより増幅し、それらの断片をターゲティングベクター中にクローニングした。アームを増幅するために使用したそれぞれのオリゴヌクレオチドプライマーの5'末端は、レアカッティング(rare-cutting)制限酵素の異なる認識部位を含むように合成したが、該認識部位はベクターポリリンカーのクローニング部位と共存でき、かつアーム自体には含まれないものであった。GPR54の場合には、プライマーを、下記の表に掲げたように設計し、その際5'アームにAgeI/SpeIの酵素をクローニングし、3'アームにAscI/FseIの酵素をクローニングした。
【0211】
アームプライマー対(5'アーム5'1 (AgeI)/5'アーム3'(SpeI)および3'アーム5'末端AscI/3'アーム3'2 Fse)に加えて、GPR54遺伝子座に特異的なさらなるプライマーを、次の目的で設計した:5'および3'プローブプライマー対(5'プローブFII/5'プローブRIIおよび3'プローブF1/3'プローブR1)[それぞれのアームの外側にあって外方向へ延びる2つの非反復性ゲノムDNAの短い150〜300bp断片を増幅し、単離した推定上の標的クローン中の標的遺伝子座のサザン分析を可能にする];マウス遺伝子型決定プライマー対(hetFおよびhetR)[ベクター特異的プライマー(この場合はAsc403)を用いて多重PCRに用いると、野生型、ヘテロ接合体およびホモ接合マウスの間の区別を可能にする];および最後に、標的スクリーニングプライマー(3P3A)[3'アーム領域の末端の上流にアニーリングし、かつベクターの3'末端に特異的なプライマー(neo36)と対にしたとき、標的イベント特異的1.2kbアンプリマーをもたらす]。このアンプリマーは、所望のゲノム変化が起こった細胞由来の鋳型DNAのみから誘導することができ、無作為に組込まれたコピー数のベクターを含有するクローンのバックグラウンドから正しい標的細胞の同定を可能にする。ターゲティング計画に用いた上記のプライマー位置およびGPR54遺伝子座のゲノム構造を配列番号10に示す。
【表1】
【0212】
相同アームの位置は、7回膜貫通領域の最も5'側を欠失することによりGPR54遺伝子を機能的に破壊するように選ぶ。ターゲティングベクターを調製したが、該ターゲッティングベクターにおいては、欠失させたGPR54配列が、GPR54遺伝子と同じ方向に配置された、プロモーターと機能しうる形で連結されたネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子を含む選択カセットの上流に内因性遺伝子発現レポーター(フレームに依存しないlacZ遺伝子)を含む非相同配列と置換される。
【0213】
5'および3'相同アームをターゲティングベクターpTK4IBLMNL(図3を参照のこと)中にクローニングした後、大きな高純度DNA調製物を標準分子生物学技術を用いて作製する。内毒素を含まない新しく調製したDNA 20μgは別のレアカッティング制限酵素PmeIを用いて、ベクター骨格中のアンピシリン耐性遺伝子と細菌複製起点の間に存在するユニークな部位で切断した。次に線形化したDNAを沈降させ、リン酸緩衝化生理食塩水100μlに再懸濁してエレクトロポレーションに備えた。
【0214】
エレクトロポレーションの24時間後に、トランスフェクトした細胞を、200μg/mlのネオマイシンを含有する培地中で9日間培養した。クローンを96ウェルプレート中に拾い、複製させて増やした後、PCR(上述のようにプライマー3P3Aおよびneo36を使用)によりスクリーニングして、相同組換えが内因性GPR54遺伝子とターゲティング構築物との間で起こったクローンを同定した。ポジティブクローンを1〜5%の割合で同定することができた。全て標準の操作を用いて(Russら, Nature 2000 Mar 2; 404(6773):95-9)、これらのクローンを増やしてレプリカを凍結させ、また、上記の通り調製した外部5'および3'プローブを用いるターゲティング事象のサザンブロット確認のために、十分に高品質のDNAを調製した。検出用制限酵素を用いて消化したDNAのサザンブロットが外部プローブとハイブリダイズした場合は、相同的に標的とされたES細胞クローンを、突然変異バンドならびに不変の野生型バンドの存在により、証明する。例えば、5'プローブを用いた場合、BglII消化DNAは9kb野生型バンド、および14.5kb標的バンドを与え;HindIIIは15kb野生型バンド、および9.5kb標的バンドを与え;そしてXbalは15kb野生型バンド、および19.5kb標的バンドを与える。同様に、3'プローブを用いた場合、BamHIは7.5kb野生型バンド、および4kb標的バンドを与え;そしてEcoRIは7kb野生型バンド、および4.5kb標的バンドを与える。
【0215】
ノックアウト前のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を図1に記述する。ノックアウト後のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を図2に記述する。サザンブロット確認に関係する酵素切断部位を付した。
【0216】
GPR54 GPCR欠損マウスの作製
C57BL/6雌および雄マウスを交配させ、胚盤胞を妊娠3.5日目に単離する。胚盤胞1個当たり選択クローンから得た10〜12細胞を注入し、7〜8個の胚盤胞を偽妊娠F1雌の子宮に移植した。高レベル(最高100%)の縞模様(agouti)をもつ複数の雄(縞模様の毛の色が標的クローンの子孫である細胞の寄与を示す)を含むキメラの子の同腹仔が産まれた。これらの雄キメラを雌MF1および129マウスと交配させ、生殖細胞系列の伝達を、縞模様の毛の色およびPCR遺伝子型判定によりそれぞれ確認した。
【0217】
PCR遺伝子型判定は、尾から切り取った毛の溶解物で、プライマーhetFおよびhetR、ならびに第3のベクター特異的プライマー(Asc403)を用いて行った。この多重PCRは、217bpバンドを与えるプライマーhetFとhetRの組合わせにより、野生型遺伝子座(もし存在すれば)からの増幅を可能にした。hetFの部位はノックアウトマウスでは欠失されるので、この増幅は標的の対立遺伝子からは起こらない。しかし、Asc403プライマーは、3'アームのすぐ内側の領域にアニールするhetRプライマーとの組合わせにより、439bpバンドを標的の遺伝子座から増幅する。従って、この多重PCRは同腹仔の遺伝子型を次のように明らかにする:すなわち、野生型サンプルは単一の217bpバンドを示し;ヘテロ接合体DNAサンプルは2つのバンドを217bpおよび439bpに生じ;そしてホモ接合体サンプルは標的特異的439bpバンドのみを示す。
【0218】
実施例2
B)結果
I)遺伝子発現パターン
1)エレクトロニックノーザン
エレクトロニックノーザンを図16に示す。
【0219】
PCR結果。所与の組織における発現を次のように表わした:(-)検出不能、(+)低レベル発現の検出、(++)中レベル発現の検出、(+++)高レベル発現の検出。精巣+、筋肉-、卵巣+、前立腺-、小腸+、肺++、腎臓+、白血球+、肝臓-、脳+++、心臓+、脾臓+。
【0220】
【0221】
2)Lac Z染色構造のリスト
次の組織は、lacZアッセイにおいてlacZ発現の証拠を含んでいた:脳(以下のサブ領域を参照)、脊髄(感覚領域)、精巣。
【0222】
lacZ発現は、脳の個別の領域、例えば海馬(最も強い領域)、視交差上核、乳頭体、脳橋および小脳、ならびに脊髄の背側(感覚)部に見出された。
【0223】
ミクロトーム切片の観察
6匹の野生型マウスおよび6匹の突然変異GPR54ノックアウトマウスの脳を固定し、凍結ミクロトーム上で40マイクロメーターの切片にカットした。
【0224】
顕微鏡下で切片を観察すると、次の領域におけるLacZ染色の局在が明らかになった:
海馬
嗅球
視交差前の視床下部
室周囲の視床下部
手綱核
視床下部路
蝸牛核
乳頭上体
【0225】
3)Lac Z発現写真
図4a突然変異体の脳スライスおよび図4bヘテロ接合体および野生型の精巣を参照。
【0226】
II)解剖学的観察
Harry Potterノックアウトマウスは、いくつかの明白な解剖学的異常を表す:突然変異体は、全体的な生殖管の強い萎縮(雄における萎縮包皮腺、小陰茎、極小の精巣および精嚢/凝固腺(coagulatory glands))、減少した筋量、減少した褐色脂肪量、より小さい胃および上顎下唾液腺を有する。
【0227】
雌突然変異体は未発達の乳腺、萎縮した卵巣(図6)子宮および卵管を有する。
【0228】
肛門性器距離も、雄突然変異体は野生型と比較して著しく短く(cm単位で:突然変異体0.97 ± 0.03、野生型1.4 ± 0.3、p<0.001)、あまりに短いので飼育スタッフによる動物の雌雄鑑別に誤まりを生じたほどである。しかしながら雌においては相違が観察されなかった。
【0229】
子宮および卵巣(上段、野生型;下段、突然変異体)
III)行動
全ての動物を、食物と水に自由にアクセスできるようにして明所12時間/暗所12時間の明暗サイクルで午前7時に点灯して飼育した。
【0230】
マウスを8〜10週齢で試験し、試験はバーンズ(Bares)迷路と性行動の試験は午後15時〜17時の間に実施し、これを除く全ての実験は午前10時〜12時の間に実施した。
【0231】
突然変異体と野生型の間の相違を示す試験
a)バーンズ迷路
空間記憶の試験であるバーンズ迷路は、特定場所の識別を要求するように設計した白色円板プラットフォームである。この迷路は、外周沿いに18個の円形孔が均一に配置された円板プラットフォームから成る。そのうちの1個の孔の下に黒い逃走箱が存在する。バーンズ迷路は、げっ歯類が照明の当たる開放された表面を避けて暗所の囲まれた避難所を求める自然性向を利用する。
【0232】
動物を10日間にわたって訓練し、逃走箱に入るまでの待ち時間ならびにエラー数および探索計画を記録した。
【0233】
この試験において、雄突然変異体の能力はより低い傾向があった(図7)。
【0234】
b)交配行動
5匹の雄突然変異体および5匹の野生型同腹仔を、発情期の野生型雌(膣スメアにより評価)とともに新しいケージに入れて30分間観察した。両方とも雌に関心を示し(嗅ぐ動作をして)、観察時間内に交配した。
【0235】
突然変異体は雌に関心を示さずかつ観察時間内に交配しなかった。さらに、複数の雄および雌突然変異体マウスはケージを共有していても妊娠せず、GPR54ノックアウトマウスは生殖不能であることを示唆した。
【0236】
c)発情周期
6匹の突然変異体雌と6匹の野生型同腹仔を5連続日の間、スメア試験に供した。4匹の3週齢+/+雌も試験した。スライドをメチレンブルーを用いて染色した。全ての野生型は明白な発情周期の段階を示したが、突然変異体はいずれも示さなかった。-/-雌の膣スメアは3週齢野生型の膣スメアと類似した(図8)。
【0237】
d)生理学
いずれか一方の性のGPR54突然変異体とその反対の性の野生型マウスとを含む15の交配対を設けたが、いずれも仔を産まなかった。従って、雄および雌のGPR54突然変異体は両方とも生殖不能である。
【0238】
1)重量
a)器官重量
精巣(図9)、筋肉(図10)、副腎(図11a)および唾液腺(図11b)の重量を測定した。
【0239】
2)アッセイ
a)テストステロン、エストロゲンおよびGnRHアッセイ
6匹の雄突然変異体および6匹の野生型マウスのテストステロンを測定した。突然変異体は、野生型マウスと比較して、著しく低いレベルのテストステロン(P<0.05)を有する(図12)。
【0240】
突然変異体雌は、発情期における正常な雌と比較して、著しく低いレベルのエストロゲンを有し、発情周期の欠如と一致した。野生型の発情前、発情期、発情後期、および発情間期に測定したエストラジオールレベルは、正常な周期のレベルを示した(図13)。
【0241】
視床下部におけるGnRHのレベルは野生型動物と匹敵することが示された。これは、突然変異がノックアウト個体のGnRHの合成に影響を与えないことを示した(データは示してない)。
【0242】
b)LH/FSHアッセイ
突然変異体のFSHは野生型に比べ非常に低い(図14a:雌および図14b:雄)。LHレベルの差はない(データは示してない)。
【0243】
c)外因性ゴナドトロピン
PMS(妊馬血清−FSH様ゴナドトロピン)1000iuを投与し、続いて2日後にbHCG(βヒト絨毛性ゴナドトロピン)1000iuを投与したところ、突然変異体雌の50%(n=6)に成熟卵母細胞の排卵が起こり、末端器官が天然ゴナドトロピンに応答する能力を保持していることを示した。これは、GPR54受容体とリガンドが下垂体視床下部軸のレベルで作用していて末端器官のレベルで作用していないという仮説と一致する。
【0244】
3)外因性GnRHの投与ならびに下垂体からのFSHおよびLH分泌に与える影響
方法:GnRHペプチド25ngを4回、30分間隔で注射し、最後の注射の30分後に動物を犠牲にして血液および下垂体を採取した。全てのマウスは11am〜1pmの間に犠牲にした。
【0245】
動物グループ:WT(野生型)6匹にはPBSのみを注射し(対照)、WT6匹にはPBS中のGnRHを注射し、そしてHP(HP突然変異体)6匹にはGnRH/PBSを注射した。全てのWT動物は発情間期(LHおよびFSHの急上昇の終わり)に用いた。全てのマウスは2〜4ヶ月齢とした。これをLHおよびFSH測定のために繰返した。
【0246】
血清FSHアッセイ:GnRHを注射したWTの血清中のFSHは、PBSのみを注射したものと比較して1.9倍増加していた。HPのレベルは、PBSのみを注射したWTと比較して1.7倍の増加を示し、突然変異動物は少なくとも部分的にGnRHになおも応答性であることを示す。これは、GPR54の作用が視床下部におけるGnRH放出の制御下にあることを示唆する。
【0247】
血清LHアッセイ:GnRHを注射したWTの血清中のLHは、PBSのみを注射したものと比較して5倍増加していた。HPのレベルは、PBSのみを注射したWTと比較して5倍の増加を示した。これは、LHの放出が外因性GnRHにより刺激されることを示した(図15a)。
【0248】
外因性GnRHによる刺激後の下垂体中のLHレベルの枯渇を測定した。結果は、下垂体中のLHレベルの対応する枯渇を示し、突然変異体はなおGnRHに対して応答し、LHが下垂体から放出されたことを示した(図15b)。突然変異体中の該遺伝子をノックアウトすることの有害な影響はなかった。
【0249】
以上の明細書に記述した全ての刊行物は、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の範囲と精神から逸脱することのない本発明の記載された方法およびシステムの様々な改変および変法は当業者に明白であろう。本発明は特定の好ましい実施形態と関係付けて説明されているが、請求項に記載の本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものでないことは理解されなければならない。実際、生化学、分子生物学および生物工学または関連分野の業者に明白である記載した本発明を実施するための様式の様々な改変は、添付の特許請求の範囲内に入ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0250】
【図1】GPR54ノックアウト前のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を示す。
【図2】GPR54ノックアウト後のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を示す。
【図3】関係のある制限酵素切断部位を含む、GPR54の相同的組換えに用いたターゲティングベクターの構造を示す。
【図4】ノックアウトマウスの脳スライス(図4a)ならびにヘテロ接合体および野生型の精巣(図4b)を示す。
【図5】図5aは野生型および突然変異型マウスの精巣を示し、図5bは野生型マウスの、そして図5cは突然変異型マウスの包皮腺を示す。
【図6】野生型(上側)およびノックアウトマウス(下側)の卵巣を示す。
【図7】野生型およびノックアウトマウスの行動を比較する、バーンズ(Barnes)迷路試験の結果を示したグラフである。
【図8】ノックアウトマウスの膣スメアの写真を示す。
【図9】野生型およびノックアウトマウスの精巣の平均重量のグラフを示す。
【図10】野生型およびノックアウトマウスの筋肉の平均重量のグラフを示す。
【図11】野生型およびノックアウトマウスの副腎(図11a)および唾液(図11b)の平均重量のグラフを示す。
【図12】野生型マウスと比較した、雄および雌GPR54ノックアウトマウスからのテストステロンレベルのグラフを示す。
【図13】雌ノックアウトマウスのエストラジオールレベルのグラフを示す。
【図14】雌(図14a)および雄(図14b)ノックアウトマウスのFSHレベルのグラフを示す。
【図15】血清(図15a)および下垂体(図15b)のLHレベルのグラフを示す。
【図16】エレクトロニックノーザン(electronic Northern)の結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は公知の受容体の新規な機能に関する。特に、本発明は、ガラニン様受容体および/またはそのリガンドの、下垂体ホルモン軸および生殖系の操作における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
GPR54をコードする遺伝子Harry Potterは、ヒト染色体19p13.3に位置する。
【0003】
GPR54のcDNAは1197bp長である。いくつかの研究は、GPR54がラットガラニン受容体GalR1、GalR2と45%、そしてGalR3と44%同一であることを示している。
【0004】
ガラニンは、神経ペプチドのいずれの既知ファミリーのメンバーでもない神経ペプチドである。ガラニンは中枢と末梢神経系の両方に発現して、学習と記憶、痛覚、摂食、神経伝達物質とホルモンの放出、および性行動を含む多様な生理学的プロセスを調節し、そしてアルツハイマー病の病因に関わると考えられる(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107)。しかし、ガラニンもガラニン様ペプチドもGPR54を活性化しないことが報じられている(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107;Ohtakiら, 2001 Nature 411:613-617)。
【0005】
諸報文はFMRFアミド関連ペプチド(FaRP)が効力の低いGPR54アゴニスト(マイクロモル範囲)であることを示唆する(Clementsら, 2001 Biochem Biophys Res Commun 284:1189-83)。FaRPは無脊椎動物に豊富に分布する神経ペプチドであり、神経伝達物質および神経調節物質として機能する。
【0006】
さらなる研究は、GPR54の天然リガンドは、Kiss-1遺伝子の産物であるキスペプチン(kisspeptin)(メタスチン(metastin)とも呼ばれる)であることを示す。共通のRF-アミドC端末をもつ3種のペプチドがKiss-1から誘導される。それらは54、14および13アミノ酸のキスペプチンである。それらのペプチドは全てGPR54と低ナノモル親和性で結合する。キスペプチン54はメタスチンとも呼ばれる。これらのGPR54リガンドはGPR54と低ナノモル親和性で結合する(Muirら, 2001 J Biol Chem 276:28969-75;Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-36)。
【0007】
いくつかの報告は、リガンドが結合したGPR54について様々な機能的役割を示唆している。例えば、Kiss-1は黒色腫および乳癌細胞の転移抑制遺伝子であると報じられている。しかし、諸研究は、Kiss-1遺伝子は腫瘍形成能に影響を与えないことを示唆する。メタスチンは細胞の接着表現型を過度に誘導することにより細胞移動性を減弱するという仮説が立てられている。黒色腫を足蹠に注入しておいたマウスでは、潅流によりメタスチンを投与すると転移が顕著に減少した(Ohtakiら, 2001 Nature 411:613-617)。同様に、メタスチンはGPR54受容体をトランスフェクトしたB16-L16黒色腫細胞の運動性を抑制するが、模擬(mock)トランスフェクトした細胞の運動性を抑制することはない。
【0008】
さらなる研究は、GPR54(メタスチン受容体とも呼ばれる)活性化はPIP2加水分解、カルシウム動員、アラキドン酸放出、ERK1/2およびp38 MAPキナーゼリン酸化、ならびにストレス繊維の形成を刺激するが、細胞増殖を抑制することを示した(Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-3)。興味深いことに、雌ラットにキスペプチン-10を静脈注射すると、オキシトシン分泌が刺激される(Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-3)。オキシトシンは性行動/精巣機能に関わり;オキシトシンアンタゴニストは雄交配行動を抑制することが示されている(Argiolasら, 1988 Eur J Pharmacol 149:389-92)。しかし、オキシトシンKOマウスは正常な性行動を示しかつ受精能を有する(Nishimoriら, 1996 Proc Natl Acad Sci USA 93:11699-704)。
【0009】
ラットにおいて、GPR54は次の組織中でノーザンブロットにより検出されている:脳(橋、中脳、視床、視床下部、海馬、扁桃体、皮質、前頭皮質および層)、および末梢器官(肝臓および腸)(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107)。
【0010】
ラット脳のin situ分析は、視床下部および類扁桃領域に最高発現を示した。この受容体は、不確帯(zona incerta)、腹側被蓋野(ventral tegmental area)、歯状回(dentate gyrus)、弓状核(arcuate nucleus)、背内側核(dorsomedial nucleus)、嗅覚皮質(olfactory cortex)、外側手綱核(lateral habenular nucleus)、視床下部外側野(lateral hypothalamus)、青斑核(locus coeruleus)、扁桃体の皮質および内側核(cortical and medial nuclei of amygdala)、上丘(superior colliculus)、視交差前、前および後視床下部(preoptic、anteriorおよびposterior hypothalamus)、中脳水道周囲灰白質(periaqueducal gray)、傍神経束視床核(parafascicular thalamic nucleus)、傍小脳脚核(parabrachial nucleus)および腹側乳頭体(ventral mamillary body)に高度に発現した。GPR54発現はガラニン受容体の発現に似ていることが見出された(Leeら, 1999 FEBS lett 446:103-107)。
ヒト組織において、ノーザン分析は脳/神経系(皮質、被殻、髄質、脊髄における発現および海馬、視床における低発現)ならびに下垂体、心臓、骨格筋、腎臓、肝臓、胃、小腸、胸腺、肺、精巣および胎盤における発現を示す(Clementsら, 2001 Biochem Biophys Res Commun 284:1189-93;Kotaniら, 2001 J Biol Chem 276:34631-36)。
【0011】
GPR54はまた、免疫細胞化学(ICC)により、ヒト脳における次の領域にも検出される:大脳皮質(感覚運動性皮質の層状層III中の錐体細胞およびその上行突起)、視床、橋延髄(縫線核(raphe)、下オリーブ(inverior olive)、舌下核(hypoglossal nuclei))、小脳(プルキンエ細胞細胞質(purkinje cells perikarya)とその上行尖端樹状突起)。
【0012】
しかし、GPR54が哺乳動物で全体的に、特に脳において果たす役割は、これまで従来技術において理解されていない。
【0013】
諸報告は、FaRP(マイクロモル範囲で機能する効力の低いGPR54アゴニスト)に対する脊椎動物受容体は、神経ペプチドY(NPY)に対する受容体とアミノ酸レベルでほとんど同様であることを示す(Clementsら, 2001 Biochem Biophys Res Commun 284:1189-93)。さらなる研究は、FaRPがゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)と共局在し、トノサマバッタ(locusta)では受精嚢(spermatheca)と共局在し、吸血虫では唾液腺と共局在することを示している。
【0014】
ショウジョウバエFMRFアミド遺伝子は、海洋軟体動物アメフラシ(marine snail Aplysia)で最初に配列決定された遺伝子との相同性により同定された。FMRFアミドは、心臓調節性テトラペプチドとしてハマグリの中枢神経系から初めて精製された。軟体動物において、FMRFアミドは心拍出とニューロンの作用の両方を調節するだけでなく、筋張力の惹起も調節する。ウシにおいては、関連ロブスターホルモンに対して免疫反応性のあるペプチド2種が同定されており;ウシタンパク質は抗鎮痛性を有する。
【0015】
FMRFアミドペプチドの役割は主に無脊椎動物で研究されているが、哺乳動物の脳のFmRFアミド免疫反応性を記載する3つの論文がある:すなわちウサギ、ラットおよびモルモットの1報(Duannら, 1995 Gaoxiong Yi Xue Ke Xue Za Zhi. 11:142-9)、ツバイ(tree shrew)の1報(Malz and Kuhn 2002 Dev Brain Res 135:39-44)、およびビッグブラウンコウモリ(big brown bat)の1報(Oelschlagerら, 1998 Brain Behav Evol 52:139-47)である。興味深いことに、これらの報文は全てFmRFアミド様およびGnRH免疫反応性の同時発現を記載している。コウモリとツバイにおいて、この発現は末端神経において記載されている。該末端神経は、鼻腔の化学感受性上皮を神経支配する前脳神経である。この神経の機能は不明であるが、神経調節性役割を有することが示唆されている。この神経の破壊は雄ハムスターの交配行動を損なう(WirsigおよびLeonard 1987 Brain Res 417:293-303)。
【0016】
Raffa(RaffaおよびStone 1988 Peptides 19: 1171-75)によると、FMRFアミド、またはFMRFアミド関連ペプチド(FaRP)は哺乳動物の中枢神経系および消化管に存在し、哺乳動物では心興奮性であり、モルヒネが誘導する抗侵害受容を抑制しかつモルヒネ-、挫折-および剥奪-誘導性摂食をブロックすることが示されている。これはまた、結腸の推進運動性を抑制し、くも膜下腔内に投与すると行動作用を誘導し、そしてげっ歯類では健忘作用を有すると報じられている。特に、FMRFアミドはマウスにおいて中枢神経が媒介する抗侵害受容を生じる(RaffaおよびStone 1998 Peptides 19: 1171-75、Guptaら, 1999 Peptides 20: 471-78)。
【0017】
従来の研究は、ガラニンノックアウトマウス(今まで受容体ノックアウトは記載されてない)は生存可能であって正常に成長し、繁殖可能であるが乳汁は産生しないことを示している。これらの損傷に対する感覚ニューロンの応答は損なわれ、末梢神経再生は低下し、かつ神経障害疼痛の発生は著しく低下する。DRGニューロンのサブセットはこの突然変異マウスで失われ、これは細胞生存におけるガラニンの役割を暗示する(Wynickら, 1998 Ann NY Acad Sci, 863:22-47)。
【0018】
研究の示すところでは、GPR54はまた、転移に役割を果たし、原発性の癌からの癌細胞の脱離、周囲組織への浸潤、循環を介する拡大、遠位器官における再浸潤および増殖を含む多段階ステップに関わる。しかし、本出願の時点でGPR54のさらなる役割はなにも同定されていない。
【0019】
従って当技術分野では、脳および他組織におけるリガンド結合型GPR54の機能を、治療および他の用途のために同定する必要性が依然として存在している。
【発明の開示】
【0020】
発明の概要
本発明者らは、GPR54のin vivoでの役割を研究する目的で、GPR54(Harry Potter)ノックアウトマウスを作製した。本発明者らは、かかるノックアウトマウスが非突然変異体とは生殖形態学および生理学に相違のあることを示し、性ホルモン軸の制御における、また、受胎能および性欲の制御などの生殖領域におけるGPR54の役割を提起した。さらに、かかる突然変異体の生理学および形態学は、ある特定の神経学的障害および他の症状(例えば、筋消耗および炎症)におけるGPR54の役割を示唆する。
【0021】
Harry Potterノックアウトマウスは、疾患モデルとして有用であり、また、治療用のGPR54アンタゴニストおよびアゴニストを同定する上で有用である。
【0022】
従って、第1の態様において、本発明は、GPR54ポリペプチドを機能的に不活性化した1以上の細胞を含有するGPR54ノックアウト哺乳動物を提供する。
【0023】
本発明者らは、上記の態様に従うGPR54ノックアウトマウスは、接触立ち直り反射の低下およびバーンズ(Barnes)迷路能力の低下、生殖ホルモンレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴を含む、複数の明確な特徴を示すことを見出した。
【0024】
以上述べたように、生殖器官の形態の変化は、生殖および関連器官の萎縮、胃および副上顎唾液腺の萎縮、筋量および褐色脂肪の萎縮からなる群から選択される変化の1以上を含む。
【0025】
ノックアウト哺乳動物の作製は当業者によく知られており、本明細書に記載の相同的組換えを含む標準的な実験室技術を利用する。
【0026】
好ましくは、トランスジェニック哺乳動物は、マウス、ラット、トガリネズミ(shrew)、スナネズミ(gerbil)、モルモット、サル、ハムスター、ネコおよびイヌからなる群から選択される哺乳動物のいずれかである。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。最も好ましい哺乳動物はマウスである。
【0027】
本明細書に用いる、相同的組換えにより「機能的に不活性化された」GPR54は、その自然環境で(すなわち、in vivo環境内で)機能しているときにGPR54ポリペプチドにより通常遂行される1以上の機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されたことを意味する。好都合なのは、用語「機能的に不活性化された」は、その自然環境で(すなわち、in vivo環境内で)機能しているときにGPR54ポリペプチドにより通常遂行される2以上の機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されたことを意味する。最も好都合なのは、本明細書に用いる用語「機能的に不活性化された」は、その自然環境で機能しているときにGPR54ポリペプチドにより通常遂行される全ての機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されたことを意味する。
【0028】
同様に、本明細書に定義する「機能的に不活性化された」GPR54核酸は、本明細書に定義した機能的に不活性なGPR54をコードする。
【0029】
上記の用語「有意に抑制された」GPR54機能は、抑制(上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞の少なくとも1つのGPR54機能の抑制)が好適な対照と比較して少なくとも20%抑制されたことを意味する。好適な対照の1例は、同じかまたは類似の環境における同じかまたは類似の細胞であって、GPR54が本明細書に記載の相同的組換えにより不活性化されていない上記細胞である。好都合なのは、上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞の「有意に抑制された」GPR54機能は、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%抑制されたことを意味する。最も好都合なのは、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して100%抑制されたことを意味する。
【0030】
さらなる態様において、本発明は1以上の機能的に不活性なGPR54遺伝子を含有する1以上の哺乳動物細胞を作製する方法であって、
(a)1以上の機能的に活性のある内因性GPR54遺伝子を含有する1以上の細胞を選択するステップ、
(b)ステップ(a)で選択した1以上の細胞に、相同的組換えにより1以上の内因性GPR54遺伝子と組換えることができる機能的に不活性なGPR54核酸をトランスフェクトするステップ、および
(c)1以上の内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸による相同的組換えを受けた1以上の細胞を選択するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0031】
好都合なのは、本発明による哺乳動物細胞を上に詳述した本発明の方法により作製する。本発明のこの態様の好ましい実施形態においては、哺乳動物細胞はその哺乳動物内に含まれる。すなわち、本発明の上記態様による細胞は好ましくは「ノックアウト」哺乳動物を構成しうる。好都合なのは、本発明によるノックアウト哺乳動物はマウスである。
【0032】
機能的に不活性なGPR54をもつこれらの1以上の細胞をトランスフェクトする方法は、標準的分子生物学技術の利用に関わり、本明細書に記載されている。同様に、1以上の内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸による相同的組換えを受けた1以上の細胞を選択する方法は、標準的な実験室技術を利用して実施され、本明細書に記載されている。
【0033】
さらなる態様においては、本発明は、宿主内の1以上の内因性GPR54遺伝子を機能的に不活性化するための好適な核酸構築物であって、
(a)非相同置換領域、
(b)非相同置換領域の上流に位置する第1相同領域、
(c)発現した時に機能的に活性なGPR54をコードしない突然変異型GPR54遺伝子、
(d)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、非相同置換領域の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子に対して少なくとも90%の同一性を示すヌクレオチド配列を有する第2相同領域、
を含んでなる上記核酸構築物を提供する。
【0034】
本発明者らはGPR54に関連する複数の機能を同定し、その結果、本発明者らはGPR54ポリペプチド、またはその1以上の結合タンパク質またはそれらをコードする核酸は治療上重要でありうると考える。
【0035】
従って、さらなる態様において、本発明はGPR54ポリペプチドもしくはその1以上の結合タンパク質またはそれらをコードする核酸、および製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含んでなる組成物を提供する。
【0036】
本発明の上記態様によれば、好都合なのは、組成物は1以上のGPR54ポリペプチド結合タンパク質を含んでなる。好ましくは、1以上のGPR54結合タンパク質はGPR54のアンタゴニストまたはアゴニストである。
【0037】
GPR54結合タンパク質は天然物であっても合成物であってもよい。天然の結合タンパク質は本明細書に規定した抗体などのポリペプチド、または核酸であってもよい。合成GPR54結合タンパク質は好都合なのは小分子であり、当業者に公知でありかつ本明細書に記載されたスクリーニング方法により選択することができる。
【0038】
本発明の別の実施形態においては、好ましくは、組成物はGPR54結合タンパク質をコードする核酸またはGPR54ポリペプチドをコードする核酸を含んでなる。
【0039】
本発明者らは、意外にも、GPR54ノックアウトマウスは正常な対照マウスと比較してニューロン機能の変化ならびに生殖系の変化を有することを見出した。さらに、GPR54ノックアウトマウスは他の形態学的および解剖学的異常も有する。GPR54ノックアウトマウスの欠陥はゴナドトロピン分泌細胞の産生における下垂体視床下部軸にある。従って、GPR54受容体は、ゴナドトロピン分泌細胞の下垂体視床下部分泌の制御を介してこの軸の制御に関与すると考えられる。本発明者らは、GPR54ノックアウトマウスにおいて以下の点を明らかにした:
(a)ゴナドトロピンが低いこと;
(b)少なくとも卵巣は外因性ゴナドトロピンの投与に応答し、これは卵巣が応答能力を保持することを示すこと;および
(c)GnRHの外因性投与はFSHとLHの分泌の少なくとも部分的応答を惹起し、これはGPR54が視床下部-下垂体におけるGnRH分泌の上流制御に関わりうることを示すこと。
【0040】
従って、本発明者らは、GPR54のアゴニストおよび/またはアンタゴニスト、あるいはそれらを含む組成物は、生殖ホルモンに関連した症状、神経学的症状、およびある種の他の症状の治療において特に使用しうると考える。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇のいずれかの1以上を含む。
【0041】
かかる生殖ホルモン関連症状は、受胎能の調節、避妊、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、ならびに閉経からなる群の1以上から成る。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストは、ホルモン置換療法(HRT)に有用でありうる。
【0042】
他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0043】
従って、さらなる態様において、本発明は、GPR54ポリペプチドの機能的活性を作動させる(agonise)1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つを潜在的に作動させる1以上の潜在的GPR54擬似体により処置するステップ、
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上の回復した特徴を有するか否かを確認するステップ、および
(d)ステップ(a)で選択したこれらの哺乳動物に、野生型哺乳動物の1以上の特徴を回復させる1以上のGPR54リガンド擬似体を選択するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0044】
本発明はさらに、GPR54ポリペプチドの機能的活性に拮抗する1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つに潜在的に拮抗する1以上の潜在的GPR54アンタゴニストにより処置するステップ、および
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上のモジュレートされた特徴を有するか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0045】
さらに本発明は、1以上の化合物の生物学的効果についてのアッセイにおけるトランスジェニックGPR54ノックアウト哺乳動物の使用を提供する。
【0046】
本発明の上記の態様によると、用語「アンタゴニスト」は好適な対照と比較して本明細書に規定したようにGPR54の1以上の機能を有意に抑制する分子を意味する。
【0047】
本発明はGPR54それ自体、そのアゴニストおよびアンタゴニスト、ならびにGPR54活性のモジュレーターを利用する。当業者は、様々な薬剤がGPR54の効果を増加または低下するように作用しうること、およびこれを達成する経路は変わりうることを理解するであろう。従って、アゴニストは活性化されたGPR54を模倣するか、またはGPR54と結合してその活性を増加しうる。GPR54活性の作動性モジュレーターは同じ作用をするか、またはGPR54の内因性アゴニストまたは内因性GPR54それ自体の産生を増加しうる。アンタゴニストおよび拮抗性モジュレーターも同様に作用しうるが、GPR54の生物学的効果を低下させるように作用する。
【0048】
本明細書に用いる用語「哺乳動物」はいずれの哺乳動物であってもよい。有利な哺乳動物は非ヒト哺乳動物である。好都合なのは、哺乳動物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、スナネズミ、ネコ、イヌおよびサルからなる群から選択される。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。
【0049】
本発明のこの態様によると、哺乳動物をGPR54の潜在的アンタゴニストを用いて「治療する(もしくは処置する)」とは、哺乳動物を構成する1以上の細胞を(GPR54の1以上の潜在的アンタゴニストと)接触させることを意味する。
【0050】
本発明の上記態様によると、異常な神経学的特徴の指標は、接触立ち直り反射の低下およびバーンズ(Barnes)迷路能力の低下からなる群から選択される指標のいずれかを含む。
【0051】
本発明の上記態様によると、用語「異常な生殖系および/または形態」は、その意味の範囲内に、好適な対照と比較して生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)のいずれかの変化、好適な対照と比較して生殖器官および関連器官の形態のいずれかの変化、および好適な対照と比較して性/生殖行動のいずれかの変化を含む。
【0052】
好都合なのは、本発明の上記の態様によると、好適な対照と比較して生殖器官の形態のいずれかの変化は、生殖および関連器官の萎縮、胃および副上顎唾液腺の萎縮、筋量および褐色脂肪の萎縮からなる群から選択されるいずれか1以上の変化を含む。
【0053】
異常な神経学的機能、異常な生殖系および異常な生殖形態についての試験は、標準的な実験室技術を利用し、当業者には周知であろう。
【0054】
好都合なのは、本発明の上記態様のステップ(c)は、これらの1以上の哺乳動物を試験し、これらの哺乳動物が、GPR54ノックアウトマウスにより示される異常な生殖系および/または形態である1以上の特徴を表すかどうかを確認することを含む。
【0055】
本発明の上記態様によると、好都合なのは、ステップ(a)で選択される1以上の哺乳動物はGPR54ノックアウトマウスである。好ましくは、それらを本明細書に記載の方法によって作製する。
【0056】
本明細書に用いる用語「機能的に不活性な」(GPR54)は、GPR54ポリペプチドが自然環境(すなわちin vivo環境内)で機能しているとき、GPR54ポリペプチドが通常遂行する1以上の機能が、GPR54が機能的に不活性でない対照と比較して、有意に抑制されることを意味する。好都合なのは、用語「機能的に不活性な」は、GPR54が自然環境(すなわちin vivo環境内)で機能しているとき、GPR54が通常遂行する2以上の機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されることを意味する。最も好都合なのは、用語「機能的に不活性な」は、GPR54が自然環境で機能しているとき、GPR54が通常遂行する全ての機能が、GPR54が機能的に不活性化されてない対照と比較して、有意に抑制されることを意味する。
【0057】
同様に、本明細書に定義される「機能的に不活性な」GPR54核酸は、本明細書に定義される機能的に不活性なGPR54をコードする。
【0058】
上記の用語「有意に抑制された」(GPR54機能)は、(上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞の少なくとも1つのGPR54機能の)抑制が好適な対照と比較して少なくとも20%抑制されることを意味する。好適な対照の1例は、同一または同様の環境における同一または同様の細胞であって、GPR54が本明細書に記載の相同的組換えにより機能的に不活性化されていない上記細胞である。好都合なのは、用語「有意に抑制された」(上記の相同的組換えによる哺乳動物細胞のGPR54機能)は、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%抑制されることを意味する。最も好都合なのは、少なくとも1つのGPR54機能が好適な対照と比較して100%抑制されることを意味する。
【0059】
本発明のこの態様によると、哺乳動物をGPR54の潜在的アンタゴニストを用いて「治療する(もしくは処置する)」とは、哺乳動物を構成する1以上の細胞を(GPR54の1以上の潜在的アンタゴニストと)接触させることを意味する。
【0060】
本発明の上記の態様によると、用語「野生型哺乳動物の1以上のモジュレートされた特徴」は、本明細書に定義した機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物と比較して、野生型哺乳動物が示す1以上の特徴のモジュレーションを意味する。好ましくはモジュレーションは欠損した機能の回復である。
【0061】
本明細書で意味するGPR54擬似体は、野生型GPR54の少なくとも1つの活性または機能を複製する。擬似体は活性型GPR54を模倣してもよく、または不活性GPR54を模倣して、それらが天然の不活性GPR54の不在下でそれら自体抑制される機能をさらに抑制するようにしてもよい。
【0062】
本発明者らは、1以上の治療効果を生み出す目的で、GPR54核酸または1以上のGPR54のアゴニストもしくはアンタゴニストをコードする核酸を哺乳動物中に挿入することができると考える。
【0063】
従って、さらなる態様において、本発明は、少なくともある割合の細胞内に、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニストおよびGPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニストからなる群から選択される1以上をコードする外因性核酸を含有するトランスジェニック動物を提供する。
【0064】
好都合なのは、トランスジェニック動物はマウス、ヒト、ブタ、ヤギ、シカ、サルおよびウシからなる群から選択される。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。
【0065】
本発明の上記態様によると、用語「外因性核酸」はその特定の動物に由来するものでない核酸を意味する。しかし、その同じ動物の種類または品種に由来するものでもよい。例えば、トランスジェニックマウスは細菌由来のGPRアゴニスト核酸を含有してもよい。
【0066】
好ましくは、トランスジェニック動物は、ある割合の細胞内に、GPR54の1以上のアゴニストまたは1以上のアンタゴニストをコードする外因性DNAを含有する。
【0067】
本明細書に記載の非ヒトトランスジェニック動物は、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコおよびブタからなる群から選択されるいずれの1以上の動物であってもよい。当業者はここに掲げたのは網羅するものでないことを理解するであろう。
【0068】
本発明により作製したGPR54ノックアウトマウスを用いる研究は、GPR54ポリペプチドがニューロン機能ならびに生殖機能(生殖周期)と関連するだけでなく、他の症状とも関連することを示した。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇のいずれかの1以上の症状を含む。かかる生殖ホルモンに関係する症状は、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病ならびに閉経のいずれかの1以上の症状からなる。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストは、ホルモン置換療法(HRT)に有用でありうる。他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0069】
従って、さらなる態様においては、本発明は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、ならびに
(b)これらの細胞サンプル中のGPR54ポリペプチドの発現レベルおよび/または機能的活性を、健康な個体からの1以上の対照サンプルと比較するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0070】
さらなる実施形態においては、Harry Potterまたはその天然リガンドの多形を用いて疾患を診断することができる。従って、本発明はアルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌、ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、ならびに
(b)上記細胞中の内因性核酸を分析して、内因性GPR54遺伝子またはGPR54の1以上の天然リガンドの1以上の多形を検出するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0071】
本発明の上記態様によると、健康な個体からの1以上の対照サンプルと比較して、GPR54の発現レベルおよび/または機能的活性が増加した、減少した、そうでなければ変化した、または、GPR54核酸もしくはGPR54リガンドをコードする核酸が1以上の多形を有するサンプルは、そのサンプルを採取した個体が上に掲げた疾患のいずれか1以上の疾患を有することを示す。
【0072】
本発明の上記の態様によって、患者からの細胞サンプルを、当業者に周知の標準的な実験室技術を用いて選択することができる。
【0073】
上記用語、GPR54ポリペプチドの「機能的活性」は、GPR54がその自然環境、すなわち、その細胞内で通常遂行しうる機能を意味する。
【0074】
従って、さらなる態様においては、本発明は、筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関連するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を治療する方法であって、1以上のGPR54のアンタゴニストまたはアゴニストの治療上有効な量を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法を提供する。
【0075】
さらなる態様においては、本発明は、筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関連するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を予防または治療するための医薬品の製造における、1以上のGPR54のアゴニストまたはアンタゴニストの使用を提供する。
【0076】
さらなる態様においては、本発明は、患者における性ホルモン軸を操作する方法であって、1以上のGPR54のアンタゴニストまたはアゴニストの治療上有効な量を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法を提供する。
【0077】
さらなる態様においては、本発明は動物における性ホルモン軸を操作するための医薬品の製造における、1以上のGPR54のアゴニストまたはアンタゴニストの使用を提供する。
【0078】
本発明の上記の2つの態様において、好ましくは、性ホルモン軸の操作は、受胎能、性欲、避妊および思春期早発からなる群から選択されるいずれか1以上の作用または症状の操作をもたらす。
【0079】
発明の詳細な説明
一般技術
本発明の実施は、特に断らない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の通常の技術を利用しうるのであって、これらは当業者の能力の範囲内にある。かかる技術は文献に記載されている。例えば、J. Sambrook, E.F. FritschおよびT. Maniatis, 1989, 「分子生物学:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」, 第2版, 1-3分冊, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F.M.ら, 1995および定期的追補版, 「分子生物学の現代プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, 第9、13および16章, John Wiley & Sons, New York, N.Y.;B. Roe, J. CrabtreeおよびA. Kahn, 1996, 「DNA単離と配列決定:必須技術(DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques)」, John Wiley & Sons;J.M. PolakおよびJames O'D. McGee, 1990, 「in situハイブリダイゼーション:原理と実施(In Situ Hybridization: Principles and Practice)」, Oxford University Press;M.J. Gait (編), 1984, 「オリゴヌクレオチド合成:実用的手法(Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach)」, Irl Press;ならびに、D.M.J. LilleyおよびJ.E. Dahlberg, 1992, 「酵素学の方法:DNA構造パートA:DNAの合成と物理分析(Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA)」, Methods in Enzymology, Academic Pressを参照されたい。これらの一般的教科書は本明細書に参照により組み入れられる。
【0080】
GPR54
疑義を避けるために、本明細書において用語「GPR54」は、関係するGenBank登録番号により同定される次の配列を意味するものとする:
NT_011255 ホモサピエンス(Homo sapiens)第19染色体ゲノムコンティグ;NM_053244 マウス(Mus musculus)Gタンパク質共役受容体54(Gpr54)、mRNA;BC016531 マウス(Mus musculus)Gタンパク質共役受容体54、mRNA(cDNAクローンMGC:27839 IMAGE:3488082)、完全cds;M_032551 ホモサピエンス(Homo sapiens)Gタンパク質共役受容体54(GPR54)、mRNA;NM_023992 ドブネズミ(Rattus norvegicus)Gタンパク質共役受容体54(Gpr54)、mRNA;NW_047773 ドブネズミ(Rattus norvegicus)第7染色体 WGSスーパーコンティグ;AK039628 マウス(Mus musculus)成熟雄脊髄cDNA、RIKEN 全長富化ライブラリー、クローン:A330075J02 産物:Gタンパク質共役受容体GPR54(Gタンパク質共役受容体54)、全インサート配列;NT_039496 マウス(Mus musculus)第10染色体ゲノムコンティグ、株C57BL/6J;AY029541 ホモサピエンス(Homo sapiens)推定Gタンパク質共役受容体mRNA、完全cds;AF343726 マウス(Mus musculus)Gタンパク質共役受容体GPR54(Gpr54)mRNA、完全cds;AF343725 ホモサピエンス(Homo sapiens)Gタンパク質共役受容体GPR54(GPR54)mRNA、完全cds;BE506644 db65f08.y1 Wellcome CRC pSK卵子アフリカツメガエル(Xenopus laevis)cDNAクローンIMAGE:3377895 5'、TR:Q9Z0T7 Q9Z0T7オーファンGタンパク質共役受容体GPR54と類似、mRNA配列;BB261471 BB261471 RIKEN全長富化、7日新生仔小脳マウス(Mus musculus)cDNAクローンA730098N23 3'、AF115516 ドブネズミ(Rattus norvegicus)オーファンGタンパク質共役受容体GPR54(GPR54)mRNAと類似、mRNA配列;AF115516 ドブネズミ(Rattus norvegicus)オーファンGタンパク質共役受容体GPR54(GPR54)mRNA、完全cds。
【0081】
GPR54ポリペプチド
本明細書に記載の用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合、すなわちペプチドイソスター(peptide isostere)によって互いに結合された2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を意味する。「ポリペプチド」は、通常、ペプチド、オリゴペプチドまたはオリゴマーと呼ばれる短鎖、および通常、タンパク質と呼ばれる長鎖の両方を意味する。ポリペプチドは、遺伝子によりコードされる20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含んでもよい。
【0082】
「ポリペプチド」は、翻訳後プロセシングなどの自然プロセスまたは当技術分野で周知の化学的修飾技術によって修飾されたアミノ酸配列を含む。かかる修飾は、基本的教科書およびさらに詳細な研究小論文ならびに研究大論文に十分記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含むポリペプチドのいずれの部位にあってもよい。同じ型の修飾が所与のポリペプチド中のいくつかの部位で同じまたは色々な程度で存在しうることは理解されよう。また、所与のポリペプチドは、多くの型の修飾を含んでもよい。
【0083】
ポリペプチドはユビキチン化の結果として分岐していてもよく、かつポリペプチドは環状であって分岐していても分岐していなくてもよい。環状、分岐、および分岐環状ポリペプチドは、天然の翻訳後プロセシングの結果であっても、合成法によって生成されてもよい。修飾には以下のものが含まれる:アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリスチル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化などのアミノ酸のタンパク質へのトランスファーRNA媒介付加、およびユビキチン化。例えば、T.E. Creighton編,「タンパク質−構造および分子的性質(Proteins - Structure and Molecular Properties)」, 第2版, W.H, Freeman and Company, New York, 1993;Wold, F., 「翻訳後タンパク質修飾:見込みと予想(Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects)」, pp.1-12, in 「タンパク質の翻訳後共有結合修飾(Posttranslational Covalent Modification of Proteins)」, B.C. Johnson編、Academic Press, New York, 1983;Seifterら、「タンパク質修飾および非タンパク質補因子の分析(Analysis for protein modifications and nonprotein cofactor)」、Meth Enzymol (1990) 182:626-646;ならびにRattanら、「タンパク質合成:翻訳後修飾およびエージング(Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging)」、Ann NY Acad Sci (1992) 663:48-62を参照のこと。
【0084】
本発明に関係する用語「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」は、配列からのまたは配列への1個以上のアミノ酸の任意の置換、変更、修飾、交換、欠失、または付加を含む。特に断らない限り、「GPR54」への言及は、GPR54のかかる変異体、相同体、誘導体、および断片を含む。
【0085】
GPR54などの受容体の「受容体活性」または「生物活性」について言及する場合、これらの用語は、GPR54受容体の代謝もしくは生理学的機能を意味するものであり、類似の活性もしくは改良された活性、または望ましくない副作用が減少したこれらの活性を含む。GPR54受容体の抗原活性および免疫原活性も含まれる。GPCR(Gタンパク質共役受容体)活性、ならびにこれらの活性をアッセイしかつ定量する方法は当技術分野で公知であり、本明細書中に詳細に記載されている。
【0086】
本明細書中で用いる「欠失」は、1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が存在しないそれぞれヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化として定義される。本明細書中で用いる「挿入」または「付加」は、天然に存在する物質と比較して1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の付加をそれぞれもたらしたヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化である。本明細書中で使用される「置換」は、1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸の、異なるヌクレオチドまたはアミノ酸による交換からそれぞれもたらされる。
【0087】
本発明によるGPR54ポリペプチドはまた、サイレントな変化を起こして機能的に同等なアミノ酸配列をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を有してもよい。計画的なアミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。例えば、負電荷アミノ酸はアスパラギン酸およびグルタミン酸を含み;正電荷アミノ酸はリシンおよびアルギニンを含み;そして類似の親水性値を有する無電荷極性ヘッド基をもつアミノ酸はロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンを含む。
【0088】
GPR54ヌクレオチドおよびポリヌクレオチド
「ポリヌクレオチド」は、一般的に、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを意味し、非改変のRNAもしくはDNAまたは改変したRNAもしくはDNAのいずれであってもよい。「ポリヌクレオチド」は、限定されるものでないが、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖と二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖、より典型的には、二本鎖または一本鎖と二本鎖領域の混合物であってもよいDNAおよびRNAを含んでなるハイブリッド分子を含む。さらに、「ポリヌクレオチド」は、RNAまたはDNAまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域も意味する。用語ポリヌクレオチドはまた、1個以上の修飾された塩基を含有するDNAまたはRNAおよび安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAも含む。「修飾された」塩基は、例えば、トリチル化塩基およびイノシンなどの特異な塩基を含む。種々の修飾がDNAおよびRNAに行われている;従って「ポリヌクレオチド」は、自然界で典型的に見出されるポリヌクレオチドの化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態だけでなく、ウイルスおよび細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学的形態も包含する。「ポリヌクレオチド」はまた、しばしばオリゴヌクレオチドと呼ばれる比較的短いポリヌクレオチドも包含する。
【0089】
遺伝暗号の縮重の結果として、無数のヌクレオチド配列が同じポリペプチドをコードしうることは当業者に理解されるところである。
【0090】
本明細書中で用いる用語「ヌクレオチド配列」は、ヌクレオチド配列、オリゴヌクレオチド配列、ポリヌクレオチド配列、ならびにその変異体、相同体、断片、および誘導体(その部分など)を意味する。ヌクレオチド配列はゲノムまたは合成または組換え起源のDNAまたはRNAであってもよく、センス鎖もしくはアンチセンス鎖またはその組み合わせである二本鎖または一本鎖であってもよい。用語「ヌクレオチド配列」は、組換えDNA技術の利用により調製することができる(例えば、組換えDNA)。
【0091】
好ましくは、用語「ヌクレオチド配列」は、DNAを意味する。
【0092】
本発明に関連する用語「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」には、GPR54ヌクレオチド配列からのまたはGPR54ヌクレオチド配列への1以上の核酸の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失、または付加を含む。特に断らない限り、「GPR54」への言及は、GPR54のかかる変異体、相同体、誘導体、および断片を含む。
【0093】
GPR54の発現アッセイ
GPR54関連疾患の治療に有用な治療薬を設計するためには、GPR54(野生型または特定の変異体のいずれにせよ)の発現プロファイルを確認することが有用である。そこで当技術分野で公知の方法を利用して、GPR54が発現される器官、組織、および細胞型(ならびに発生段階)を確認する。例えば、伝統的または「エレクトロニック」ノーザン分析を行うことができる。逆転写酵素PCR(RT-PCR)を用いて、GPR54遺伝子または突然変異体の発現をアッセイしてもよい。GPR54の発現プロファイルを調べるためのさらに高感度の方法は、当技術分野で公知のRNAアーゼプロテクションアッセイを含む。
【0094】
ノーザン分析は、遺伝子転写物の存在を検出するために使用する実験室技術であり、特定の細胞型または組織由来のRNAを結合させておいた膜への標識ヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションを含む(Sambrook、前掲、第7章およびAusubel, F.Mら、前掲、第4章および第16章)。BLASTを応用する類似のコンピュータ技術(「エレクトロニックノーザン」)を用いて、GenBankまたはLIFESEQデータベース(Incyte Pharmaceuticals)などのヌクレオチドデータベース中の同一または関連分子を検索することができる。このタイプの分析は、多数の膜ベースのハイブリダイゼーションより迅速でありうる点で有利である。さらに、コンピュータ検索の感度を変更して、どのような特定のマッチを正確または相同として分類するかを決定することができる。
【0095】
本明細書中の随所でさらに詳しく説明したように、上記プローブを含む本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、動物およびヒトの疾患の治療薬および診断薬の発見のための研究試薬および材料として利用することができる。
【0096】
GPR54ポリペプチドの発現
GPR54ポリペプチドの発現は、本明細書に記載のGPR54のアゴニストまたはアンタゴニストとして機能しうるGPR54抗体を作製するために必要である。
【0097】
生物学的に活性なGPR54を発現するためには、GPR54またはその相同体、変異体、もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を、適切な発現ベクター(すなわち、挿入したコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含むベクター)に挿入する。
【0098】
当業者に周知の方法を用いて、GPR54をコードする配列ならびに適切な転写および翻訳制御エレメントを含む発現ベクターを構築する。これらの方法は、in vitro組換えDNA技術、合成技術、およびin vivo遺伝子組換えを含む。このような技術は、Sambrook, J.ら(1989、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」、第4、8、16-17章、Cold Spring Harbor Press、Plainview,、N.Y.)およびAusubel, F.M.ら(1995および定期増補版、「分子生物学の現行プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、第9、13、および16章、John Wiley & Sons、New York、N.Y.)に記載されている。
【0099】
様々な発現ベクター/宿主系を利用して、GPR54をコードする配列を挿入しかつ発現させることができる。これらとしては、限定されるものでないが、組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換した細菌などの微生物;酵母発現ベクターを用いて形質転換した酵母;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)を用いて感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)またはタバコモザイクウイルス(TMV))または細菌発現ベクター(例えば、TiまたはpBR322プラスミド)を用いて形質転換した植物細胞系;または動物細胞系が挙げられる。本発明は利用する宿主細胞によって制限されない。
【0100】
「制御エレメント」または「調節配列」は、宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および翻訳を実施するベクターの非翻訳領域(すなわち、エンハンサー、プロモーター、ならびに5'および3'非翻訳領域)である。このようなエレメントは、その強度および特異性が様々である。利用するベクター系および宿主に依存して、任意の数の好適な転写および翻訳エレメント(構成および誘導プロモーターを含む)を使用することができる。例えば、細菌系にクローニングする場合、BLUESCRIPTファージミドのハイブリッドlacZプロモーター(Stratagene、La Jolla、Calif.)またはPSPorT1プラスミド(GIBCO/BRL)などの誘導プロモーターを利用することができる。バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターは昆虫細胞で利用することができる。植物細胞ゲノム由来(例えば、熱ショック、RUBISCO、および貯蔵タンパク質遺伝子)または植物ウイルス由来(例えば、ウイルスプロモーターまたはリーダー配列)のプロモーターまたはエンハンサーをベクターにクローニングすることができる。哺乳動物細胞系では、哺乳動物遺伝子由来または哺乳動物ウイルス由来のプロモーターが好ましい。GPR54をコードする配列の複数コピーを含有する細胞株を作製する必要があれば、SV40またはEBVに基づくベクターを適当な選択マーカーと共に利用することができる。
【0101】
細菌系では、多数の発現ベクターを、GPR54ポリペプチドの意図する用途に依存して選択することができる。例えば、抗体を誘導するために大量のGPR54ポリペプチドを必要とするときは、容易に精製される融合タンパク質の高レベル発現を指令するベクターを使用することができる。かかるベクターとしては、限定されるものでないが、多機能性の大腸菌(E. coli)クローニングおよび発現ベクター、例えば、BLUESCRIPT(Stratagene)(この場合、GPR54をコードする配列を、アミノ末端Metとこれに続くβガラクトシダーゼの7残基の配列とインフレームでベクター中にライゲートしてハイブリッドタンパク質を産生させる)、pINベクター(Van Heeke, G.およびS.M. Schuster(1989) J. Biol. Chem. 264:5503-5509)などが挙げられる。pGEXベクター(Promega、Madison、Wis.)を利用して、外来ポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させることもできる。一般的に、かかる融合タンパク質は可溶性であって、グルタチオン−アガロースビーズへの吸着および次いで遊離グルタチオンの存在下での溶出により溶解細胞から容易に精製することができる。かかる系で作製したタンパク質を、ヘパリン、トロンビン、または第XA因子プロテアーゼ切断部位を含むように設計して、クローニングした目的のポリペプチドを意のままにGST部分から切り離すことができる。
【0102】
酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)では、構成または誘導プロモーター、例えばα因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHを含有する多数のベクターを利用することができる。Ausubel(前掲)およびGrantら(1987; Methods Enzymol. 153:516-544)を参照のこと。
【0103】
植物発現ベクターを利用する場合は、GPR54をコードする配列の発現を、多数のプロモーターのいずれかにより駆動することができる。例えば、CaMVの35Sおよび19Sプロモーターなどのウイルスプロモーターを、単独でまたはTMV由来のωリーダー配列と組み合わせて使用することができる(Takamatsu, N. (1987) EMBO J. 6:307-311)。あるいは、RUBISCOの小サブユニットまたは熱ショックプロモーターなどの植物プロモーターを使用することができる(Coruzzi, G.ら, (1984) EMBO J. 3:1671-1680;Broglie, R.ら, (1984) Science 224:838-843;およびWinter, J.ら, (1991) Results Probl. Cell Differ. 17:85-105)。これらの構築物を、直接DNA形質転換または病原体媒介トランスフェクションによって植物細胞に導入することができる。かかる技術は、一般的に利用しうる多数の書籍に記載されている(例えば、Hobbs, S.またはMurry, L.E. in 「マグローヒル科学技術年鑑(McGraw Hill Yearbook of Science and Technology)」 (1992) McGraw Hill, New York, N.Y.; pp. 191-196を参照のこと)。
【0104】
昆虫系を使用して、GPR54を発現させることもできる。例えば、かかる系の1つでは、Autographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)をベクターとして使用し、Spodoptera frugiperda細胞またはTrichoplusia幼虫に外来遺伝子を発現させる。GPR54をコードする配列を、ポリヘドリン遺伝子などのウイルスの非必須領域にクローニングし、ポリへドリンプロモーターの制御下におくことができる。GPR54ポリペプチドの挿入に成功するとポリヘドリン遺伝子が不活化されて、コートタンパク質を欠く組換えウイルスが産生される。ついで、組換えウイルスを用いて、例えば、S. frugiperda細胞またはTrichoplusiaの幼虫に感染させ、そこでGPR54ポリペプチドを発現させることができる(Engelhard, E.K.ら, (1994) Proc. Nat. Acad. Sci. 91:3224-3227)。
【0105】
哺乳動物宿主細胞では、多数のウイルスに基づく発現系を利用することができる。発現ベクターとしてアデノウイルスを利用する場合は、GPR54をコードする配列を、後期プロモーターおよびトリパータイト(tripartite)リーダー配列からなるアデノウイルス転写/翻訳複合体にライゲートすることができる。ウイルスゲノムの非必須E1またはE3領域への挿入を利用して、感染宿主細胞でGPR54ポリペプチドを発現することができる生存ウイルスを得ることができる(Logan, J.およびT. Shenk (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:3655-3659)。さらに、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサーなどの転写エンハンサーを利用して、哺乳動物宿主細胞中の発現を増加させることもできる。
【0106】
ヒト人工染色体(HAC)を利用して、プラスミドに含有させて発現され得るDNAのより大きい断片を送達することもできる。治療のためには、約6kb〜10MbのHACを構築して、従来の送達方法(リポソーム、ポリカチオン性アミノポリマー、または小胞)により送達する。
【0107】
特定の開始シグナルを利用して、GPR54ポリペプチドをコードする配列のさらに有効な翻訳を達成することもできる。かかるシグナルはATG開始コドンおよび隣接配列を含む。GPR54ポリペプチドをコードする配列ならびにその開始コドンおよび上流配列を適当な発現ベクターに挿入する場合は、さらなる転写または翻訳調節シグナルを必要としない。しかし、コード配列またはその断片だけを挿入する場合は、ATG開始コドンを含む外因性翻訳調節シグナルを与えなければならない。さらに、開始コドンは、全インサートの翻訳を確実にするために、正しいリーディングフレームで存在しなければならない。外因性翻訳エレメントおよび開始コドンは、様々な起源(天然および合成の両方)のものであってよい。発現効率は、文献に記載のように、使用する特定の細胞系に適当なエンハンサーを含めることにより増強することができる(Scharf, Dら, (1994) Results Probl. Cell Differ. 20:125-162)。
【0108】
さらに、宿主細胞株は、挿入配列の発現をモジュレートする能力または発現したタンパク質を所望の様式でプロセシングする能力について選択することができる。このようなポリペプチドの修飾は、限定されるものでないが、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質付加、およびアシル化を含む。タンパク質の「プレプロ」形態を切断する翻訳後プロセシングを利用して、正しい挿入、折りたたみ、および/または機能を促進することもできる。翻訳後活性について特定の細胞機構および特徴的な機構を有する色々な宿主細胞(例えば、CHO、HeLa、MDCK、HEK293、及びWI38)が、American Type Culture Collection(ATCC、Bethesda、Md.)から利用可能であり、外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングを確実にするように選択することができる。
【0109】
組換えタンパク質の長期にわたる高収率の産生のためには、安定な発現が好ましい。例えば、GPR54 GPCRを安定して発現できる細胞株は、ウイルス複製起点および/または内因性発現エレメント、および選択マーカー遺伝子を同一または別個のベクター上に含有する発現ベクターを用いて形質転換することができる。ベクターの導入後、富化培地中で約1〜2日間細胞を増殖させ、その後選択培地に切り替えることができる。選択マーカーの目的は選択に対する耐性を付与することにあり、その存在によって導入した配列を成功裏に発現する細胞の増殖と回収が可能になる。安定して形質転換された細胞の耐性クローンを、その細胞型に適切な組織培養技術を用いて増殖することができる。
【0110】
多くの選択系を用いて、形質転換細胞株を回収することができる。これらは、限定されるものでないが、それぞれtk-またはapr-細胞中で使用することができる単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(Wigler, M.ら, (1977) Cell 11:223-32)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(Lowy, Iら, (1980) Cell 22:817-23)を含む。また、代謝拮抗物質、抗生物質、または除草剤耐性を、選択の基本として使用することができる。例えば、dhfrはメトトレキセート耐性を付与し(Wigler, M.ら (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. 77:3567-70);nptはアミノグリコシド類(ネオマイシンおよびG-418)耐性を付与し(Colbere-Garapin, F.ら, (1981) J. Mol. Biol. 150:1-14);そしてalsまたはpatはそれぞれクロルスルフロンおよびホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ耐性を付与する(Murry、前掲)。さらなる選択遺伝子、例えば、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用できるようにするtrpB、または細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用できるようにするhisDが記載されている(Hartman, S.C.およびR.C. Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:8047-51)。最近、アントシアニン、β−グルクロニダーゼとその基質GUS、およびルシフェラーゼとその基質ルシフェリンなどのマーカーを用いる、可視マーカーの使用が増加している。これらのマーカーは、形質転換体を同定するためだけでなく、特定のベクター系に起因しうる一過性または安定なタンパク質発現の量の定量にも使用することができる(Rhodes, C. A. ら, (1995) Methods Mol. Biol. 55:121-131)。
【0111】
マーカー遺伝子発現の存在/非存在は目的の遺伝子が存在することも示唆するが、遺伝子の存在および発現を確認する必要がありうる。例えば、GPR54ポリペプチドをコードする配列をマーカー遺伝子配列内に挿入すれば、GPR54ポリペプチドをコードする配列を含む形質転換細胞は、マーカー遺伝子機能の不在によって同定することができる。あるいは、マーカー遺伝子を、単一プロモーターの制御下でGPR54ポリペプチドをコードする配列とともに縦列に置くことができる。誘導または選択に応答するマーカー遺伝子の発現は、通常、縦列遺伝子の発現も示す。
【0112】
あるいは、GPR54ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでGPR54を発現する宿主細胞は、当業者に公知の様々な方法により同定することができる。これらの方法は、限定されるものでないが、DNA-DNAまたはDNA-RNAハイブリダイゼーションおよびタンパク質バイオアッセイまたはイムノアッセイ技術を含み、かつ核酸またはタンパク質配列を検出および/または定量するための膜、溶液、またはチップに基づく技術を含む。
【0113】
GPR54ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の存在は、GPR54をコードするポリヌクレオチドのプローブまたは断片を用いるDNA-DNAまたはDNA-RNAハイブリダイゼーションまたは増幅により検出することができる。核酸増幅に基づくアッセイは、GPR54ポリペプチドをコードする配列に基づくオリゴヌクレオチドまたはオリゴマーを用いて、GPR54をコードするDNAまたはRNAを含有する形質転換体を検出することを含む。
【0114】
タンパク質に特異的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれかを用いてGPR54の発現を検出しかつ測定する様々なプロトコルは、当技術分野で公知である。かかる技術の例は、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化セルソーティング(FACS)を含む。GPR54の2つの非干渉性エピトープと反応性のあるモノクローナル抗体を用いる2部位モノクローナル系イムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイを利用してもよい。これらおよび他のアッセイは、当技術分野では、例えば、Hampton, R.ら(1990, 「血清学的方法:実験室マニュアル(Serological Methods, a Laboratory Manual)」, Section IV, APS Press, St Paul, Minn.)およびMaddox, D.E.ら(1983, J. Exp. Med. 158:1211-1216)に十分記載されている。
【0115】
多様な標識およびコンジュゲーション技術が当業者に公知であり、種々の核酸およびアミノ酸アッセイに利用することができる。GPR54をコードするポリヌクレオチドに関連する配列を検出するための、標識されたハイブリダイゼーションまたはPCRプローブを作製する方法は、オリゴ標識化、ニックトランスレーション、末端標識化、または標識ヌクレオチドを用いるPCR増幅を含む。あるいは、GPR54をコードする配列またはその断片を、mRNAプローブ作製用のベクター中にクローニングしてもよい。かかるベクターは当技術分野で公知であり、市販されており、これを使用してT7、T3、またはSP6などの適切なRNAポリメラーゼおよび標識ヌクレオチドの添加によってin vitroでRNAプローブを合成することができる。これらの手順を、種々の市販キット、例えばPharmacia & Upjohn(Kalamazoo、Mich.)、Promega(Madison、Wis.)、およびU.S. Biochemical Corp.(Cleveland,Ohio)などから販売されるキットを用いて行うことができる。検出を容易にするために利用しうる適切なレポーター分子は、放射性核種、酵素、蛍光、化学発光、または発色剤、ならびに基質、補因子、インヒビター、磁性粒子などを含む。
【0116】
GPR54をコードするヌクレオチド配列を用いて形質転換した宿主細胞は、細胞培養からのタンパク質の発現および回収に好適な条件のもとで培養することができる。形質転換細胞により産生されたタンパク質は、使用した配列および/またはベクターに応じて、細胞膜に位置させるか、分泌させるか、または細胞内に含有させることができる。当業者は理解しうるように、GPR54をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターは、原核または真核細胞膜を介したGPR54の分泌を指令するシグナル配列を含有するように設計してもよい。他の構築物を用いて、GPR54をコードする配列を、可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に結合させてもよい。このような、精製を容易にするドメインには、限定されるものでないが、固定化金属上での精製を可能にするヒスチジン−トリプトファンモジュールなどの金属キレート化ペプチド、固定化免疫グロブリン上での精製を可能にするプロテインAドメイン、およびFLAGS伸長/アフィニティ精製システム(Immunex Corp.、Seattlw、Wash.)に利用されるドメインが含まれる。精製ドメインとGPR54をコードする配列の間に切断可能なリンカー配列(例えば、第XA因子またはエンテロキナーゼに特異的な配列(Invitrogen、San Diego、Calif.)を封入して精製を容易にすることができる。1つのかかる発現ベクターは、チオレドキシンまたはエンテロキナーゼ切断部位に先行する6個のヒスチジン残基をコードする核酸およびGPR54を含有する融合タンパク質の発現を供給する。ヒスチジン残基は、固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(Porath, Jら, (1992) Prot. Exp. Purif. 3: 263-281に記載のIMIAC)での精製を容易にし、エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパクからGPR54を精製する手段を与える。融合タンパク質を含むベクターの考察はKroll, D.J.ら(1993; DNA Cell Biol. 12:441-453)に記載されている。
【0117】
GPR54の断片は、組換えによる生産だけでなく、固相技術を用いる直接ペプチド合成によって調製することもできる(Merrifield J. (1963) J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154)。タンパク質合成は手動または自動によって実施することができる。自動合成は、例えば、Applied Biosystems 431Aペプチド合成機(Perkin Elmer)を用いて実施しうる。様々なGPR54断片を個別に合成し、その後、組み合わせて全長分子を作製することができる。
【0118】
トランスジェニック動物
ノックアウト
本発明のさらなる態様においては、GPR54ポリペプチドを機能的に不活性化した1以上の細胞を含んでなるGPR54ノックアウト哺乳動物を提供する。
【0119】
本発明のGPR54ノックアウトは、GPR54遺伝子またはこの遺伝子の任意の部分の機能的破壊の結果として生じうるのであって、GPR54遺伝子の1以上の機能的突然変異(欠失または置換を含む)を含む。突然変異は、単一の点突然変異を含み、GPR54のコード領域または非コード領域を標的としうる。
【0120】
好ましくは、かかるノックアウト動物は、ブタ、ヒツジ、またはげっ歯類などの非ヒト動物である。最も好ましくは、ノックアウト動物はマウスまたはラットである。かかるノックアウト動物をスクリーニング法に用いて、GPR54のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを同定するだけでなく、in vivoでの疾患治療薬としてのそれらの有効性を試験することができる。
【0121】
例えば、GPR54産生に欠陥があるように遺伝子操作されたノックアウト動物を、GPR54のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを同定するアッセイに利用することができる。1つのアッセイは、潜在的薬物(候補リガンドまたは化合物)を評価して、それがGPR54受容体の不在のもとで生理学的応答を生ずるかどうかを確認するように設計する。これは、上述したノックアウト動物に薬物を投与し、次いで、特定の応答について動物をアッセイすることにより実施することができる。このアッセイではいずれの生理学的パラメーターを測定してもよい。
【0122】
GPR54ノックアウト動物由来の組織を受容体結合アッセイに用いて、潜在的薬物(候補リガンドまたは化合物)がGPR54受容体に結合するかどうかを確認することができる。かかるアッセイは、GPR54受容体産生に欠陥があるように遺伝子操作されたノックアウト動物から第1受容体調製物を、そして任意の同定されたGPR54リガンドまたは化合物と結合することが知られる供給源から第2受容体調製物を得ることによって行うことができる。一般的に、第1および第2受容体調製物は、これらを得た供給源を除くと全ての点において類似している。例えば、ノックアウト動物(上記および下記の)由来の脳組織をアッセイで使用する場合は、正常な(野生型)動物由来の比較しうる脳組織を第2受容体調製物の供給源として使用する。それぞれの受容体調製物を、GPR54受容体に結合することが知られているリガンドとともに、単独でおよび候補リガンドまたは化合物の存在下で、インキュベートする。好ましくは、候補リガンドまたは化合物を、いくつかの異なる濃度で試験する。
【0123】
既知リガンドによる結合が試験化合物により置換される程度を、第1および第2の受容体調製物の両方について測定する。ノックアウト動物由来の組織をアッセイで直接使用してもよいし、組織を処理して膜または膜タンパク質を単離し、これら自体をアッセイで使用してもよい。好ましいノックアウト動物はマウスである。リガンドを、結合アッセイに適合しうる任意の手段で標識することができる。標識は、限定されるものでないが、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、または化学発光標識(ならびに、さらに詳しく上に記載したその他の標識技術)を含む。
【0124】
さらに、GPR54受容体のアンタゴニストは、候補化合物などを、機能性GPR54を発現する野生型動物、およびGPR54受容体機能の低下または消滅した発現に関連する表現型特性のいずれかを示すことが確認された動物に投与することにより、同定することができる。
【0125】
非ヒトノックアウト動物の詳細な作製方法を以下にさらに詳しく記載する。トランスジェニック遺伝子構築物を動物の生殖細胞系に導入して、トランスジェニック哺乳動物を作製することができる。例えば、1または数コピーの構築物を、標準的な遺伝子導入技術によって哺乳動物胚のゲノム中に組み込むことができる。
【0126】
代表的な実施形態においては、トランスジーンを非ヒト動物の生殖細胞系に導入することにより、本発明のノックアウト非ヒト動物を作出する。様々な発生段階の胚性標的細胞を使用してトランスジーンを導入することができる。胚性標的細胞の発生段階に応じて様々な方法が利用される。本発明を実施するために使用したいずれの動物の特定の系統も、良好な健康状態、良好な胚収率、胚内の前核の良好な視度、および良好な生殖適性について選択した。さらに、ハプロタイプが重要なファクターである。
【0127】
胚へのトランスジーンの導入は、当技術分野で公知の任意の手段(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはリポフェクション)によって行うことができる。例えば、構築物の哺乳動物受精卵前核へのマイクロインジェクションによりGPR54受容体トランスジーンを哺乳動物に導入し、構築物の1コピー以上を、発生しつつある哺乳動物の細胞内に保持させることができる。トランスジーン構築物の受精卵中への導入後、その卵をin vitroで様々な時間インキュベートするか、または代理宿主に再移植するか、またはその両方を行うことができる。成熟までのin vitroインキュベーションは本発明の範囲内である。一般的方法では、種に依存して胚を約1〜7日間in vitroでインキュベートし、次いでそれらを代理宿主に再移植する。
【0128】
遺伝子導入操作をした胚の子孫を、構築物の存在について、組織セグメントのサザンブロット分析により試験することができる。もしクローニングした外因性構築物の1コピー以上が、かかるノックアウト胚のゲノム中に安定に組み込まれたままであれば、遺伝子導入で加えた構築物を保持する永久的なノックアウト哺乳動物系統を樹立することが可能である。
【0129】
ノックアウト改変した哺乳動物の同腹仔を、出生後に子孫のゲノム中への構築物の組み込みについてアッセイすることができる。好ましくは、このアッセイは、所望の組換えタンパク質産物をコードするDNA配列またはそのセグメントに対応するプローブを、その子孫由来の染色体物質とハイブダイズさせることにより実施する。少なくとも1コピーの構築物をそのゲノム中に含むことが見出された哺乳動物子孫は、成熟するまで成長させる。
【0130】
本発明の目的にとって、接合体は本質的に完全な生物に発生することができる二倍体細胞の形成である。一般的に、接合体は配偶子由来の2つのハプロイド核の融合によって、自然にまたは人為的に形成された核を含有する卵から構成される。従って、配偶子の核は、自然に適合しうる(すなわち、分化して機能する生物に発育する生存接合体を生じうる)核でなければならない。一般的に、正倍数体の接合体が好ましい。異数体の接合体が得られる場合、染色体数はいずれかの配偶子が由来する生物の正倍数体の数に対して2以上変化してはならない。
【0131】
同様な生物学的考察事項に加えて、物理的考察事項も、接合体核にまたは接合体核の一部を形成する遺伝物質に加えうる外因性遺伝物質の量(例えば、体積)を支配する。遺伝物質が取り除かれない場合は、添加される外因性遺伝物質の量は、物理的に破壊されずに吸収されうる量により制限される。一般的に、挿入される外因性遺伝物質の体積は、約10ピコリットルを超えることはない。添加の物理的影響は接合体の生存を物理的に破壊するほど大きくてはいけない。DNA配列の数と種類の生物学的限度は個々の接合体と外因性遺伝物質の機能に応じて変化するが、このことは当業者には容易に明白となるであろう。何故なら、得られる接合体の遺伝物質(外因性遺伝物質を含む)は、接合体の機能性生物への分化と成長を開始させかつ維持する生物学的能力がなければならないからである。
【0132】
接合体に添加するトランスジーン構築物のコピー数は、添加する外因性遺伝物質の総量に依存するのであり、遺伝的形質転換を起こしうる量であろう。理論的には1コピーしか必要でない;しかし、一般的に、1コピーが機能的であることを確実にするために、トランスジーン構築物の多数コピー(例えば、1,000〜20,000コピー)を使用する。本発明については、それぞれの挿入する外因性DNA配列の2以上の機能性コピーを有することが、外因性DNA配列の表現型発現を増強するためにしばしば有利でありうる。
【0133】
その技術が細胞、核膜、または他の既存の細胞構造もしくは遺伝子構造を破壊しない限り、外因性遺伝物質を核遺伝物質中に加えることを可能にするいずれの技術を利用してもよい。外因性遺伝物質を、マイクロインジェクションによって、核の遺伝物質中に優先的に挿入することが好ましい。細胞および細胞構造のマイクロインジェクションは公知であり、当技術分野で使用されている。
【0134】
再移植は標準的な方法を用いて実施する。通常、代理宿主を麻酔し、卵管中に胚を挿入する。特定の宿主中に移植される胚の数は種によって変化するが、通常、その種が天然に産生する子孫の数に匹敵しうる数である。
【0135】
代理宿主のノックアウト子孫は、任意の適切な方法によってトランスジーンの存在および/または発現についてスクリーニングすることができる。スクリーニングは、しばしば、トランスジーンの少なくとも一部に相補的なプローブを使用して、サザンブロット分析またはノーザンブロット分析によって行う。トランスジーンがコードするタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析を、トランスジーン産物の存在をスクリーニングするための代替法または追加の方法として利用してもよい。典型的には、DNAを尾組織から調製し、そしてトランスジーンについてサザン分析またはPCRによって分析する。あるいは、最高レベルでトランスジーンを発現すると考えられる組織または細胞を、サザン分析またはPCRを用いてトランスジーンの存在および発現について試験するが、この分析にはいずれの組織または細胞型を使用してもよい。
【0136】
トランスジーンの存在を評価するための代わりのまたは追加の方法としては、限定されるものでないが、酵素および/または免疫学的アッセイなどの適切な生化学的アッセイ、特定のマーカーまたは酵素活性に対する組織学的染色、フローサイトメトリー分析などが挙げられる。血液の分析も、血液中のトランスジーン産物の存在を検出するために、ならびに様々な型の血液細胞および他の血液成分のレベルに対するトランスジーンの効果を評価するために有用でありうる。
【0137】
レトロウイルス感染を使用して、非ヒト動物にトランスジーンを導入することもできる。発生中の非ヒト胚を、胚盤胞期までin vitroで培養することができる。この間、卵割球をレトロウイルス感染の標的とすることができる(Jaenich, R. (1976) PNAS 73:1260-1264)。透明帯を除去する酵素処理によって卵割球の効率的な感染が得られる(「マウス胚の操作(Manipulating the Mouse Embryo)」、Hogan編、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1986)。トランスジーンを導入するために使用するウイルスベクター系は、典型的には、トランスジーンを保持する複製欠損レトロウイルスである(Jahnerら、(1985) PNAS 82:6927-6931;Van der Puttenら, (1985) PNAS 82:6148-6152)。トランスフェクションは、卵割球をウイルス産生細胞の単層上で培養することにより、容易に且つ有効に行われる(Van der Putten、前掲;Stewartら, (1987) EMBO J. 6:383-388)。あるいは、感染を後期に実施してもよい。ウイルスまたはウイルス産生細胞を胞胚腔に注入することができる(Jahnerら,(1982) Nature 298:623-628)。組み込みはトランスジェニック非ヒト動物を形成する細胞のサブセットにおいてのみ起こるので、ほとんどの創始動物(founder)はトランスジーンについてモザイクである。さらに、創始動物は、トランスジーンの様々なレトロウイルス挿入物を、一般的に子孫では分離しうるゲノム中の様々な位置に含みうる。さらに、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖細胞系にトランスジーンを導入することも可能である(Jahnerら(1982)、前掲)。
【0138】
トランスジーン導入のための第3の標的細胞型は胚性幹細胞(ES)である。ES細胞を着床前の胚から得て、in vitroで培養し、胚と融合させる(Evansら, 1981, Nature, 292, 154-156;Bradleyら, (1984), Nature, 309, 255-258;Gosslerら, (1986), PNAS, 83, 9065-9069;およびRobertsonら, (1986), Nature, 322, 445-448)。トランスジーンを、ES細胞中にDNAトランスフェクションまたはレトロウイルス媒介形質導入により有効に導入することができる。その後、かかる形質転換ES細胞を、非ヒト動物由来の芽細胞と組み合わせることができる。その後、ES細胞はコロニーを形成して胚となり、得られるキメラ動物の生殖細胞系に寄与する。Jaenisch, R. (1988) Science 240:1468-1474を参照のこと。
【0139】
本発明はまた、宿主細胞中のGPR54遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物に関する。核酸構築物は、(a)非相同置換部分;(b)非相同置換部分の上流に位置する第1相同領域であって、第1のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する上記第1相同領域;および(c)非相同置換部分の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する第2相同領域(ただし、第2のGPR54遺伝子配列は天然の内因性GPR54遺伝子中で上記第1のGPR54遺伝子配列より下流の位置にある)を含んでなる。さらに、第1および第2相同領域は、核酸分子を宿主細胞に導入したとき、宿主細胞中で核酸構築物と内因性GPR54遺伝子との間の相同組換えに十分な長さのものである。好ましい実施形態においては、非相同置換部分は発現レポーターを含み、好ましくはlacZおよびポジティブ選択の発現カセットを含み、好ましくは調節エレメントと機能しうる形で連結されたネオマイシン・ホスホトランスフェラーゼ遺伝子を含む。
【0140】
GPR54 GPCR欠損トランスジェニック動物は次のように作製することができる:
(a) GPR54遺伝子ターゲティングベクターの構築
マウスGPR54ゲノムクローンを、HGMP(Hinxton、UK)から得たマウス大インサートPACライブラリーから、推定マウスオープンリーディングフレームcDNA配列(配列番号4)の一部分から増幅したプローブ配列と標準技術を用いて単離する。次いで、単離したマウスGPR54ゲノムクローンを、小さいオリゴヌクレオチドプローブと標準技術を用いて、GPR54遺伝子の領域に制限マッピングする。
【0141】
ターゲティングベクター中にクローニングするための相同アームの設計を可能にするために、マウスゲノム遺伝子座を部分的に配列決定する。欠失すべきオープンリーディングフレームの領域の両側からの、典型的には1〜5kbの大きさの2つのDNA領域(いわゆる5'および3'相同アーム)をPCRにより増幅し、これらの断片をターゲティングベクター中にクローニングする。これらのアームの位置は、相同組換え事象が、少なくとも7回膜貫通領域を欠失することによりGPR54遺伝子を機能的に破壊するように選択する。ターゲティングベクターを作製するには、欠失されるGPR54配列を、GPR54遺伝子と同じ方向に配置された、(プロモーターと機能しうる形で連結された)ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子を含む選択カセットの上流に内因性遺伝子発現レポーター(フレームに依存しないlacZ遺伝子)を含む非相同配列と置換する。
【0142】
(b) 胚性幹細胞のトランスフェクションと分析
胚性幹細胞(EvansおよびKaufman, 1981)を、20%のウシ胎児血清、10%のウシ新生子血清、2mMのグルタミン、非必須アミノ酸類、100μMの2−メルカプトエタノール、および500u/mlの白血病阻害因子を補充したダルベッコ改変イーグル培地中で増殖させたネオマイシン耐性胚性線維芽細胞の支持細胞層上で培養する。培地を毎日交換し、ES細胞を3日毎に継代培養(subculture)する。エレクトロポレーション(25μF静電容量および400ボルト)により5×106個のES細胞に5μgの線状化プラスミドをトランスフェクトする。エレクトロポレーションの24時間後に、トランスフェクトした細胞を、200μg/mlのネオマイシンを含有する培地中で9日間培養する。クローンを96ウェルプレートに拾い、複製させて増やした後、PCRによりスクリーニングして、内因性GPR54遺伝子とターゲティング構築物の間で相同組換えが起こったクローンを同定する。ポジティブクローンは典型的には1〜5%の割合で同定される。これらのクローンを増やしてレプリカを凍結させ、十分に高品質のDNAを調製し、外部5'および3'プローブを用いてターゲティング事象をサザンブロットにより確認するが、これらは全て標準的な手法を用いて行う(Russら, Nature 2000 Mar 2; 404(6773):95-9)。
【0143】
(c) GPR54欠損マウスの作出
C57BL/6雌および雄マウスを交配させ、胚盤胞を妊娠3.5日目に単離する。胚盤胞1個あたり選択クローンから得た10〜12個の細胞を注入し、7〜8個の胚盤胞を偽妊娠F1雌の子宮に移植する。
【0144】
高レベル(最高100%)の縞模様(agouti)をもつ複数の雄(縞模様の毛の色が標的クローンの子孫である細胞の寄与を示す)を含むキメラな子の同腹仔が産まれる。この雄キメラを雌MF1および129マウスと交配させ、生殖細胞系列の伝達を、それぞれ縞模様の毛の色およびPCR遺伝子型判定により確認する。
【0145】
他の非ヒトトランスジェニック動物
本発明によれば、(好適な対照と比較して)GPR54受容体の過剰発現または該受容体の過小発現をもたらす非ヒトトランスジェニック動物も意図している。
【0146】
こうした動物は受容体機能のアゴニストおよびアンタゴニストを同定するために、そしてまた治療上にも有用である。
【0147】
抗体
本明細書に記載したように、抗体をGPR54ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストとして使用することができる。
【0148】
本発明の目的にとって、用語「抗体」は、特に断らない限り、限定するものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリーにより産生されるフラグメントを含む。かかるフラグメントは、標的物質に対する結合活性を保持する全抗体のフラグメント、Fv、F(ab')、およびF(ab')2フラグメント、ならびに、抗体の抗原結合部位を含有する一本鎖抗体(scFv)、融合タンパク質および他の合成タンパク質を含む。抗体およびそのフラグメントは、例えばEP-A-239400に記載の、ヒト化抗体であってもよい。さらに、例えば米国特許第5,545,807号および同第6,075,181号に記載の、完全にヒトの可変領域(またはそのフラグメント)をもつ抗体も使用することができる。中和抗体、すなわち、物質アミノ酸配列の生物学的活性を阻害する抗体は、診断および治療に特に好ましい。
【0149】
抗体は、標準的な技術によって、例えば、免疫化によりまたはファージディスプレイライブラリーの使用により産生することができる。
【0150】
本発明のポリペプチドまたはペプチドを用いて公知の技術により抗体を生成させることができる。かかる抗体はGPR54タンパク質または相同体、断片などと特異的に結合する能力をもつ可能性がある。
【0151】
もしポリクローナル抗体が所望であれば、選択した哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を、本発明のポリペプチドまたはペプチドを含む免疫原性組成物を用いて免疫感作する。宿主の種に応じて、様々なアジュバントを使用して、免疫応答を増加させることができる。かかるアジュバントは、限定されるものでないが、フロイント、ミネラルゲル(例えば、水酸化アルミニウム)、および界面活性剤(例えば、リゾレシチン)、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ならびにジニトロフェノールを含む。BCG(Bacilli Calmette-Guerin)およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)は、精製された物質アミノ酸配列を全身防御を刺激する目的で免疫無防備状態の個体に投与する場合に使用することができる、有用なヒトアジュバントでありうる。
【0152】
免疫感作した動物から血清を採取し、公知の手順で処理する。本発明のポリペプチドから得られるエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清が、他抗原に対する抗体を含有する場合には、ポリクローナル抗体を免疫親和性クロマトグラフィーにより精製することができる。ポリクローナル抗血清を産生させかつプロセシングする技術は、当技術分野で公知である。かかる抗体を作製することができるように、本発明はまた、動物またはヒトにおける免疫原として利用するための本発明のアミノ酸配列、または他のアミノ酸配列にハプテン化されたその断片も提供する。
【0153】
本発明のポリペプチドまたはペプチドから得られるエピトープに対するモノクローナル抗体も当業者により容易に産生されうる。ハイブリドーマによりモノクローナル抗体を作る一般的方法は周知である。不死性の抗体産生細胞株は細胞融合により作製することができ、また、他の技術、例えば腫瘍形成性DNAによるBリンパ球の直接形質転換、またはエプスタイン−バーウイルスによるトランスフェクションにより作製することができる。軌道上(orbit)のエピトープに対して産生されたモノクローナル抗体のパネルを、様々な特性(すなわち、イソ型およびエピトープ親和性)についてスクリーニングしてもよい。
【0154】
モノクローナル抗体は、連続培養細胞株が抗体分子を産生するいずれの技術を使用して調製してもよい。これらの技術としては、限定されるものでないが、KoehlerおよびMilstein(1975 Nature 256:495-497)に最初に記載されたハイブリドーマ技術、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosborら, (1983) Immunol Today 4:72;Coteら, (1983) Proc Natl Acad Sci 80:2026-2030)、およびEBV−ハイブリドーマ技術(Coleら, 「モノクローナル抗体と癌治療(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」, pp.77-96, Alan R. Liss, Inc., 1985)が挙げられる。
【0155】
さらに、「キメラ抗体」作製のために開発された技術(適当な抗原特異性および生物活性をもつ分子を得るための、マウス抗体遺伝子のヒト抗体遺伝子へのスプライシング)を利用することができる(Morrisonら, (1984) Proc Natl Acad Sci 81:6851-6855;Neubergerら, (1984) Nature 312:604-608;Takedaら, (1985) Nature 314:452-454)。あるいは、一本鎖抗体の作製について記載した技術(米国特許第4,946,779号)を応用して、物質特異的な一本鎖抗体を作製することができる。
【0156】
本発明のポリペプチドまたはペプチドから得られるエピトープに対する抗体(モノクローナルおよびポリクローナル共に)は、特に診断に有用であり、中和抗体は、受動免疫療法において有用である。特にモノクローナル抗体を使用して、抗イディオタイプ抗体を生成させることができる。抗イディオタイプ抗体は、物質および/または薬剤(それに対する保護が所望される)の「内部イメージ」を保持する免疫グロブリンである。抗イディオタイプ抗体を惹起させる技術は、当技術分野で公知である。これらの抗イディオタイプ抗体も治療に有用でありうる。
【0157】
抗体はまた、Orlandiら(1989, Proc Natl Acad Sci 86: 3833-3837)ならびにWinter GおよびMilstein C(1991, Nature 349:293-299)に開示されたように、リンパ球集団でのin vivo産生を誘導することにより、または組換え免疫グロブリンライブラリーもしくは高特異的結合試薬のパネルをスクリーニングすることにより得ることもできる。
【0158】
ポリペプチドまたはペプチドに対する特異的結合部位を含有する抗体フラグメントを作製することもできる。例えば、かかるフラグメントは、限定されるものでないが、抗体分子のペプシン消化により生成することができるF(ab')2フラグメント、およびF(ab')2フラグメントのジスルフィド結合の還元により作製することができるFabフラグメントを含む。あるいは、所望の特異性をもつモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にするようにFab発現ライブラリーを構築することもできる(Huse WDら, (1989) Science 256:1275-1281)。
【0159】
一本鎖抗体の作製技術(米国特許第4,946,778号)を応用して、本発明のポリペプチドに対する一本鎖抗体を作製することもできる。また、トランスジェニックマウスまたは他の生物(他の哺乳動物を含む)を用いて、ヒト化抗体を発現させることもできる。
【0160】
従って、本発明者らは、GPR54抗体またはそれを含んでなる組成物は神経学的、生殖ホルモン関連、および特定のその他の症状の治療において特に治療上有用であると考える。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経疾患および癲癇のいずれか1以上を含む。
【0161】
かかる生殖ホルモン関連症状は、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病ならびに閉経からなる群のいずれか1以上からなる。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストはホルモン置換療法(HRT)に有用でありうる。
【0162】
その他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0163】
診断アッセイ
さらなる態様においては、本発明は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断する患者から細胞サンプルを選択するステップ、ならびに
(b)これらの細胞サンプル中のGPR54ポリペプチドの発現レベルおよび/または機能的活性を、健康な個体からの1以上の対照サンプルと比較するステップ、
を含んでなる上記方法を提供する。
【0164】
本発明はまた、診断試薬として診断にまたは遺伝分析に使用するための、GPR54ポリヌクレオチド、GPR54ペプチドリガンドをコードするポリヌクレオチドおよびポリペプチド(ならびにそれらの相同体、変異体および誘導体)の使用にも関する。GPR54核酸(相同体、変異体および誘導体を含む)と相補的なまたはハイブリダイズすることができる核酸、ならびにGPR54ポリペプチドおよびGPR54リガンドポリペプチドに対する抗体もこのアッセイに有用である。
【0165】
GPR54遺伝子、メタスチン遺伝子または他の天然リガンド遺伝子の機能障害に関連した突然変異型の検出は、GPR54もしくはその天然リガンドの過小発現、過剰発現または改変された発現の結果である疾患または該疾患への易罹患性の診断に追加したり、またはかかる診断を規定したりすることができる診断ツールを提供しうる。GPR54遺伝子(対照配列を含む)に突然変異を保持する個体は、DNAレベルで様々な技術により検出することができる。
【0166】
例えば、DNAを患者から単離し、GPR54またはメタスチンのDNA多形パターンを決定することができる。同定したパターンを、GPR54またはメタスチンの過剰、過小または異常発現に関連する疾患に罹っていることがわかっている患者の対照と比較する。そこで、GPR54もしくはメタスチン関連疾患に関連する遺伝的多形パターンを発現する患者を同定することができる。GPR54またはメタスチン遺伝子の遺伝分析は、当技術分野で公知の技術により実施することができる。例えば、GPR54またはメタスチン対立遺伝子のDNA配列をRFLPまたはSNP分析などで確認することにより、個体をスクリーニングしてもよい。GPR54またはメタスチンの過剰、過小または異常発現に関連する疾患に対する遺伝的素因を有する患者は、GPR54またはメタスチンの遺伝子配列またはその発現を制御するいずれかの配列中のDNA多形の存在を検出することにより同定することができる。
【0167】
次いでそのようにして同定した患者は、GPR54もしくはメタスチン関連疾患の発症を予防するために、またはさらに積極的にGPR54もしくはメタスチン関連疾患の初期段階で、疾患のさらなる発症または進展を防止するために処置することができる。GPR54もしくはメタスチン関連疾患は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌を含む。
【0168】
好ましい実施形態においては、GPR54もしくはメタスチン関連疾患は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満のいずれか1つを含む。好都合なのは、疾患または症状が性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0169】
本発明は、さらに、GPR54もしくはメタスチン関連疾患に関連する患者の遺伝的多型パターンを同定するためのキットを開示する。キットは、DNAサンプル採取手段および遺伝的多型パターン測定手段を含み、測定した多型パターンを次いで対照サンプルと比較してGPR54もしくはメタスチン関連疾患への患者の易罹患性を同定する。GPR54もしくはメタスチンポリペプチドおよび/またはかかるポリペプチドに対する抗体(またはそのフラグメント)を含んでなるGPR54もしくはメタスチン関連疾患診断用キットも提供する。
【0170】
診断用核酸は、被験者の細胞から、例えば血液、尿、唾液、組織生検または剖検材料から得ることができる。好ましい実施形態では、患者の指穿刺により吸収紙上に血液を回収して得られた血球からDNAを取得する。さらに好ましい実施形態では、AmpliCardTM(University of Sheffield, Department of Medicine and Pharmacology, Royal Hallamshire Hospital, Sheffield, England S10 2JF)で採血する。
【0171】
DNAは検出のために直接使用するか、または分析前にPCRまたは他の増幅技術を利用することにより酵素で増幅することができる。目的の遺伝子内の特定の多型DNA領域を標的とするオリゴヌクレオチドDNAプライマーを調製して、PCR反応で標的配列の増幅が達成されるようにする。RNAまたはcDNAを類似の様式でテンプレートとして用いてもよい。次いで、テンプレートDNAから増幅されたDNA配列を制限酵素により分析して、増幅配列中に存在する遺伝的多型を決定し、それにより患者の遺伝的多型プロファイルを得ることができる。制限断片の長さはゲル分析により同定することができる。これとは別に、またはそれと一緒に、SNP(一塩基多形)分析などの技術を使用してもよい。
【0172】
欠失および挿入は、正常な遺伝子型と比較した増幅産物のサイズの変化により検出することができる。点突然変異は、増幅DNAを、標識したGPR54もしくはメタスチンヌクレオチド配列とハイブリダイズさせることにより同定することができる。完全にマッチした配列は、RNアーゼ消化または融解温度の差によりミスマッチの二本鎖と区別することができる。DNA配列の相違はまた、変性剤を用いたまたは用いないゲル中のDNA断片の電気泳動移動度の変化により、または直接的なDNA配列決定により検出することもできる。例えば、Myersら, Science (1985) 230:1242を参照のこと。特定の位置での配列の変化はまた、RNアーゼおよびS1プロテクションなどのヌクレアーゼプロテクションアッセイにより、または化学的切断法により明らかにすることもできる。Cottonら, Proc Natl Acad Sci USA (1985) 85:4397-4401を参照のこと。他の実施形態においては、GPR54もしくはメタスチンヌクレオチド配列またはその断片を含有するオリゴヌクレオチドプローブのアレイを構築し、例えば遺伝子突然変異の、効率的なスクリーニングを実施できるようにしてもよい。アレイ技法は周知であり、一般的な適用可能性を有し、これを利用して遺伝子発現、遺伝的連鎖、および遺伝的変異性を含む分子遺伝学の様々な問題に取り組むことができる。(例えば、M. Cheeら, Science, Vol 274, pp 610-613 (1996)を参照のこと)。
【0173】
一本鎖コンフォメーション多形(SSCP)を使用して、突然変異型核酸と野生型核酸の間の電気泳動移動度の相違を検出することができる(Oritaら, (1989) Proc Natl. Acad. Sci USA: 86:2766、Cotton (1993) Mutat Res 285:125-144;およびHayashi (1992) Genet Anal Tech Appl 9:73-79も参照のこと)。サンプルおよび対照GPR54もしくはメタスチン核酸の一本鎖DNA断片は変性させて、再生させることができる。一本鎖核酸の二次構造は配列によって変化し、その結果生じる電気泳動移動度の変化により1塩基の変化ですら検出が可能になる。DNA断片を標識してもよいし、標識プローブを用いてDNA断片を検出してもよい。アッセイの感度は、(DNAよりもむしろ)二次構造が配列の変化に影響されやすいRNAを使用することで増強することができる。好ましい実施形態においては、本発明の方法はヘテロ二本鎖分析を使用して、二本鎖を形成したヘテロ二本鎖分子を電気泳動移動度の変化に基づいて分離する(Keenら, (1991) Trends Genet 7:5)。
【0174】
診断アッセイは、以下の疾患に対する易罹患性を、上記方法によるGPR54もしくはメタスチン遺伝子の突然変異の検出を介して、診断または判定する方法を提供する:細菌、真菌、原生動物およびウイルス感染症、特にHIV-1もしくはHIV-2が引き起こす感染症などの感染;疼痛;癌;糖尿病、肥満;摂食障害;過食症;喘息;パーキンソン病;血栓症;急性心不全;低血圧;高血圧;勃起機能障害;尿閉;骨粗鬆症および大理石骨病などの代謝性骨疾患;狭心症;心筋梗塞;潰瘍;喘息;アレルギー;慢性関節リウマチ;炎症性腸疾患;過敏性腸症候群;良性前立腺肥大;および不安、精神分裂病、躁欝病、譫妄、痴呆、重症精神遅滞、およびハンチントン病またはジル・ド・ラ・ツレット症候群などの運動障害を含む精神病性および神経学的障害。
【0175】
特に好ましい実施形態においては、診断アッセイは、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満への易罹患性を診断または判定するために用いられる。好都合には、前記疾患または症状は性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0176】
GPR54もしくはメタスチンポリペプチドおよび核酸の存在は、サンプルにおいて検出することができる。従って、上記の感染症および疾患は、被験者由来のサンプルからGPR54もしくはメタスチンポリペプチドまたはGPR54もしくはメタスチンmRNAのレベルの異常な減少または増加を同定するステップを含む方法によって診断することができる。サンプルは、GPR54もしくはメタスチンの発現レベルまたはパターンの空間的または時間的変化を含めて、GPR54もしくはメタスチン発現の増加、減少、そうでなければ異常に関連する疾患に罹っているか罹っていると疑われる生物由来の細胞または組織サンプルを含みうる。かかる疾患に罹っているか罹っていると疑われる生物におけるGPR54もしくはメタスチンの発現レベルまたはパターンは、疾患の診断手段として、正常な生物における発現レベルまたはパターンと有効に比較することができる。
【0177】
従って一般的に、本発明は、サンプル中にGPR54またはメタスチン核酸を含有する核酸の存在を検出する方法であって、サンプルを、上記核酸に特異的である少なくとも1つの核酸プローブと接触させ、該核酸の存在について上記サンプルをモニターすることによる上記方法を含む。例えば、核酸プローブをGPR54もしくはメタスチン核酸またはその一部と特異的に結合させて、二者間の結合を検出することができる。複合体自体の存在を検出してもよい。さらに、本発明は、GPR54もしくはメタスチンポリペプチドの存在を検出する方法であって、細胞サンプルを該ポリペプチドに結合することができる抗体と接触させ、該ポリペプチドの存在について上記サンプルをモニターすることによる上記方法を含む。これは、抗体とポリペプチドの間で形成された複合体の存在をモニターするか、またはポリペプチドと抗体の間の結合をモニターすることにより、好都合に行うことができる。二者間の結合を検出する方法は当技術分野で公知であり、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)、表面プラズモン共鳴などを含む。
【0178】
発現の減少または増加は、当技術分野で周知のいずれかのポリヌクレオチドの定量法(例えば、PCR、RT-PCR、RNアーゼプロテクション、ノーザンブロット、および他のハイブリダイゼーション法)を用いて、RNAレベルで測定することができる。宿主由来のサンプル中のタンパク質(例えば、GPR54もしくはメタスチン)のレベルを同定するために利用しうるアッセイ技術は当業者に周知である。かかるアッセイ方法は、ラジオイムノアッセイ、競合結合アッセイ、ウェスタンブロット分析、およびELISAアッセイを含む。
【0179】
本発明は、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満のいずれか1つを含む疾患または疾患に対する易罹患性に対する診断キットに関する。好都合には、前記疾患または症状が性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0180】
特に好ましい診断キットは、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満のいずれかに対する疾患または易罹患性を検査または診断するために用いる。好都合には、前記疾患または症状が性ステロイドホルモン軸の調節に関係する。
【0181】
診断キットは、GPR54もしくはメタスチンポリヌクレオチドまたはその断片;相補的ヌクレオチド配列;GPR54もしくはメタスチンポリペプチドまたはその断片、またはGPR54もしくはメタスチンポリペプチドに対する抗体を含んでなる。
【0182】
予防および治療方法
本発明は、GPR54ポリペプチド活性の過剰と不足の両方に関係する異常な症状を治療する方法を提供するが、GPR54ポリペプチド、その結合タンパク質および/またはそれらをコードする核酸は、神経学的症状、生殖ホルモン関連症状、および特定の他の症状の治療に特に有用であると考えられる。かかる神経学的症状は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇のいずれかの1以上を含む。
【0183】
上記の生殖ホルモン関連症状は、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病および閉経からなる群のいずれかの1以上からなる。さらに、GPR54アゴニストまたはアンタゴニストの使用はホルモン置換療法(HRT)に有用である。
【0184】
上記の他の症状は、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌および肥満を含む。
【0185】
もしGPR54の活性が過剰であれば、いくつかの手法が利用可能である。1つの方法は、被験者に、本明細書に上述したインヒビター化合物(アンタゴニスト)を製薬上許容される担体と共に、リガンドとGPR54との結合を遮断するかまたは第2のシグナルを抑制することにより活性化を阻止するのに有効な量で投与し、それにより異常な症状を軽減することを含む。
【0186】
他の方法では、内因性GPR54ポリペプチドと競合してリガンドとなおも結合することができるGPR54の可溶性形態を投与してもよい。かかる競合物質の典型的な実施形態は、GPR54ポリペプチドの断片を含む。
【0187】
さらに他の方法では、内因性GPR54ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を、発現遮断技術を用いて抑制してもよい。かかる公知の技術はアンチセンス配列の使用を含み、アンチセンス配列は内部的に生成されるか、または別個に投与される。例えば、O'Connor, J Neurochem (1991) 56:560、「遺伝子発現のアンチセンスインヒビターとしてのオリゴデオキシヌクレオチド(Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression)」, CRC Press, Boca Raton, Fla, 1988を参照のこと。あるいは、遺伝子と共に三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドを供給してもよい。例えば、Leeら, Nucleic Acids Res (1979) 6:3073;Cooneyら, Science (1988) 241:456;Dervanら, Science (1991) 251:1360を参照のこと。これらのオリゴマーは、それ自体を投与してもよいし、関連オリゴマーをin vivoで発現させてもよい。
【0188】
GPR54およびその活性の過小発現に関連する異常な症状を治療するために、いくつかの方法が利用可能である。1つの方法は、被験者に、リガンド結合型GPR54を模擬する化合物(すなわち、上記アゴニスト)の治療上有効な量を、製薬上許容される担体と組み合わせて投与し、それにより異常な症状を軽減するステップを含む。あるいは、遺伝子治療を利用して、被験者の関連細胞によるGPR54の内因的産生を促してもよい。例えば、本発明のポリヌクレオチドを、先に述べたように、複製欠損レトロウイルスベクターで発現するように操作することができる。次いで、レトロウイルス発現構築物を単離し、パッケージング細胞中に導入して本発明のポリペプチドをコードするRNAを含むレトロウイルスプラスミドベクターを用いて形質導入すると、パッケージング細胞は、以後、目的の遺伝子を含有する感染性ウイルス粒子を生産するようになる。このプロデューサー(ウイルス産生)細胞は、細胞をin vivo操作して、ポリペプチドをin vivo発現させるために、被験者に投与することができる。遺伝子治療の概説については、T StrachanおよびA P Read, 「ヒト分子遺伝学(Human Molecular Genetics)」, BIOS Scientific Publishers Ltd (1996)の第20章「遺伝子治療および他の分子遺伝学に基づく治療法(Gene Therapy and other Molecular Genetic-based Therapeutic Approaches)」(およびその引用文献)を参照のこと。
【0189】
製剤および投与
ペプチド(例えば、可溶性形態のGPR54ポリペプチド、アゴニストおよびアンタゴニストペプチド)または小分子は、好適な製薬上の担体と組み合わせて製剤化することができる。かかる製剤は、治療上有効な量のポリペプチドまたは化合物および製薬上許容される担体または賦形剤を含んでなる。かかる担体は、限定されるものでないが、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組み合わせを含む。製剤は投与様式に適合すべきであり、これは当業者に周知である。本発明は、さらに、本発明の上記の組成物の1以上の成分を充填した1以上の容器を含んでなる医薬用パックおよびキットに関する。
【0190】
本発明のポリペプチドおよび他の化合物は、単独でまたは治療用化合物などの他の化合物と組み合わせて、使用することができる。
【0191】
医薬組成物の全身投与の好ましい形態は、注射、典型的には静脈内注射を含む。皮下、筋肉内、または腹腔内などの他の注射経路を利用してもよい。全身投与に代わる手段は、胆汁酸塩もしくはフシジン酸などの浸透剤または他の界面活性剤を用いる経粘膜および経皮投与を含む。さらに、腸溶性またはカプセル化製剤として適切に製剤化されるのであれば、経口投与も可能である。これらの化合物を、軟膏、ペースト、ジェルなどの形態で外用および/または局部に投与してもよい。
【0192】
必要な投与量の範囲は、ペプチドの選択、投与経路、製剤の性質、患者の症状の性質、および主治医の判断に依存する。しかし、好適な投与量は、0.1〜100μg/kg(被験者の体重)の範囲である。しかし、利用可能な化合物の多様性および様々な投与経路の有効性の差異を考えると、必要な投与量は非常に変化すると予想される。例えば、経口投与は、静脈内注射による投与より多い投与量が必要であると予想される。これらの投与量レベルの変動は、最適化のための標準的な経験則を用いて調節することができ、これも当技術分野で十分に理解されている。
【0193】
治療に使用するポリペプチドはまた、上記の通り、しばしば「遺伝子治療」と呼ばれる治療様式で、被験者において内因的に生成させることもできる。従って、例えば、被験者由来の細胞を、ex vivoでポリペプチドをコードするように、例えばレトロウイルスプラスミドベクターを用いて、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチドを操作することができる。次いで細胞を被験者に導入する。
【0194】
医薬組成物
本発明はまた、治療上有効な量の本発明によるGPR54ポリペプチド、その結合分子またはそれらをコードする核酸、および、場合によっては、製薬上許容される担体、希釈剤もしくは賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0195】
医薬組成物はヒトおよび動物用の医薬としてヒトまたは動物に使用することができ、典型的には、1以上の製薬上許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含む。許容される担体または希釈剤は製薬業界で周知であり、例えば、「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」, Mack Publishing Co.(A.R. Gennaro編, 1985)に記載されている。製薬上の担体、賦形剤、または希釈剤の選択は、意図する投与経路および標準的な製薬実務を考慮して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として、またはそれに加えて、任意の好適な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤を含有することができる。
【0196】
保存剤、安定剤、色素およびさらに香料を医薬組成物に加えてもよい。保存剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、およびp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。抗酸化剤および懸濁化剤も使用することができる。
【0197】
異なる送達系ごとに異なる組成/製剤化の要件が存在しうる。例として、本発明の医薬組成物は、ミニポンプを使用してまたは粘膜経路により、例えば、吸入用の鼻腔用スプレーもしくはエーロゾル、または経口摂取用溶液として、あるいは非経口的に(この場合には組成物が注射可能な形態に製剤化される)、例えば、静脈内、筋肉内、もしくは皮下経路により、送達されるように製剤化することができる。あるいは、製剤を両方の経路で送達するように設計することもできる。
【0198】
胃腸粘膜を介する粘膜経路で薬剤を送達する場合は、それが胃腸管を通過している間、安定した状態のままで存在する必要がある;例えば、薬剤はタンパク質分解に抵抗し、酸性pHで安定であり、かつ胆汁の界面活性効果に抵抗しなければならない。
【0199】
適当であれば、医薬組成物は、吸入により、座剤もしくはペッサリーの形態で、ローション、溶液、クリーム、軟膏、またはダスティングパウダーの形態で局所的に、皮膚パッチの使用により、デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤を含む錠剤の形態で経口的に、または、カプセルもしくは卵状容器(ovule)に単独もしくは賦形剤との混合物として入れて、または香料もしくは着色料を含有するエリキシル、溶液もしくは懸濁液の形態で投与するか、または、これらを非経口的に(例えば、静脈内、筋肉内、または皮下に)注射することができる。非経口投与用には、組成物を、他物質(例えば、血液と等張の溶液を作るために十分な塩または単糖類)を含有してもよい無菌水溶液の形態で使用するのが最良であろう。バッカルまたは舌下投与用には、組成物を、通常の方法で製剤化することができる錠剤またはロゼンジの形態で投与してもよい。
【0200】
投与
典型的には、医師は、個々の被験者に最も適切な実投与量を決定するが、これは特定の患者の年齢、体重および応答によって変化しうる。以下の投与量は、平均的な事例の例示である。勿論、より高いまたはより低い投与量範囲が有利である場合もある。
【0201】
本発明の医薬組成物は、直接注射により投与することができる。組成物を、非経口、粘膜、筋肉内、静脈内、皮下、眼内、または経皮投与用に製剤化してもよい。典型的には、それぞれのタンパク質を、0.01〜30mg/kg体重、好ましくは0.1〜10mg/kg体重、より好ましくは0.1〜1mg/kg体重の用量で投与することができる。
【0202】
用語「投与される」には、ウイルスまたは非ウイルス技術による送達を含む。ウイルス送達機構は、限定されるものでないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターを含む。非ウイルス送達機構は、脂質が媒介するトランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクチン、カチオン性表面両親媒性物質(CFA)、およびそれらの組み合わせを含む。かかる送達機構の経路は、限定されるものでないが、粘膜、鼻腔内、経口、非経口、胃腸、局所、または舌下経路を含む。
【0203】
用語「投与される」は、限定されるものでないが、例えば吸入用の鼻腔用スプレーもしくはエーロゾルまたは経口摂取用溶液のような粘膜経路による送達;例えば静脈内、筋肉内、または皮下経路などの注射形態での送達である非経口経路による送達を含む。
【0204】
用語「共投与される」は、例えば、本発明のポリペプチドおよびアジュバントなどの追加物質のそれぞれの投与部位および投与時間が、免疫系の必要とされるモジュレーションを達成するようなものである、ことを意味する。従って、ポリペプチドおよびアジュバントを同時に且つ同一部位に投与しうる一方で、ポリペプチドをアジュバントと異なる時間および異なる部位に投与することが好都合な場合もありうる。ポリペプチドとアジュバントを同じ送達ビヒクルで送達することさえできるし、また、ポリペプチドおよび抗原を結合させてもさせなくてもよいし、および/または、遺伝的に結合させてもさせなくてもよい。
【0205】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ペプチド、ヌクレオチド、および場合によってはアジュバントは、宿主被験者に1回用量または複数回用量で、別個に投与してもよいし、共投与してもよい。
【0206】
本発明の医薬組成物は、注射(非経口、皮下、および筋肉内注射を含む)、鼻腔内、粘膜、経口、膣内、尿道、または眼内投与など、いくつかの異なる経路により投与することができる。
【0207】
本発明の医薬組成物は、慣用の方法で、非経口的に、注射により、例えば、皮下または筋肉内に投与することができる。他の投与様式に好適であるさらなる製剤には、座剤、およびいくつかの事例では経口製剤、が含まれる。座剤用の伝統的な結合剤および担体は、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含み;かかる座剤は、0.5%〜10%、例えば1%〜2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。経口製剤は、通常使用される賦形剤、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放製剤、または散剤の形態をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の活性成分を含む。ワクチン組成物を凍結乾燥する場合、凍結乾燥物は投与前に、例えば懸濁液として、用時調製することができる。用時調製は緩衝液中で行うことが好ましい。
【0208】
本発明について、特に実施例を挙げて以下に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0209】
実施例1 トランスジェニックGPR54ノックアウトマウス
GPR54遺伝子ターゲティングベクターの構築
マウスGPR54遺伝子は生物情報工学的に(bioinformatically)同定し、PACライブラリー由来の10.3kbゲノムコンティグ内に位置することを見出した。さらなる生物情報工学的研究によりこのコンティグを28kbまで広げた。このコンティグは、ターゲティングベクター中にクローニングするための相同アームの設計を可能にするのに十分なフランキング配列情報を与えた(利用したターゲティングベクターの、関係する制限酵素切断部位を含む構造を図3に示した)。
【0210】
マウスGPR54遺伝子は5個のコーディングエキソンを有する。ターゲティング計画は、7tmコーディングドメインの開始前の第1エキソンの一部、および第2の7tm含有エキソンの大部分、を欠失するように設計した。欠失すべき7tm含有エキソンに隣接する4.7kbの5'相同アームおよび1.0kbの3'相同アームをPCRにより増幅し、それらの断片をターゲティングベクター中にクローニングした。アームを増幅するために使用したそれぞれのオリゴヌクレオチドプライマーの5'末端は、レアカッティング(rare-cutting)制限酵素の異なる認識部位を含むように合成したが、該認識部位はベクターポリリンカーのクローニング部位と共存でき、かつアーム自体には含まれないものであった。GPR54の場合には、プライマーを、下記の表に掲げたように設計し、その際5'アームにAgeI/SpeIの酵素をクローニングし、3'アームにAscI/FseIの酵素をクローニングした。
【0211】
アームプライマー対(5'アーム5'1 (AgeI)/5'アーム3'(SpeI)および3'アーム5'末端AscI/3'アーム3'2 Fse)に加えて、GPR54遺伝子座に特異的なさらなるプライマーを、次の目的で設計した:5'および3'プローブプライマー対(5'プローブFII/5'プローブRIIおよび3'プローブF1/3'プローブR1)[それぞれのアームの外側にあって外方向へ延びる2つの非反復性ゲノムDNAの短い150〜300bp断片を増幅し、単離した推定上の標的クローン中の標的遺伝子座のサザン分析を可能にする];マウス遺伝子型決定プライマー対(hetFおよびhetR)[ベクター特異的プライマー(この場合はAsc403)を用いて多重PCRに用いると、野生型、ヘテロ接合体およびホモ接合マウスの間の区別を可能にする];および最後に、標的スクリーニングプライマー(3P3A)[3'アーム領域の末端の上流にアニーリングし、かつベクターの3'末端に特異的なプライマー(neo36)と対にしたとき、標的イベント特異的1.2kbアンプリマーをもたらす]。このアンプリマーは、所望のゲノム変化が起こった細胞由来の鋳型DNAのみから誘導することができ、無作為に組込まれたコピー数のベクターを含有するクローンのバックグラウンドから正しい標的細胞の同定を可能にする。ターゲティング計画に用いた上記のプライマー位置およびGPR54遺伝子座のゲノム構造を配列番号10に示す。
【表1】
【0212】
相同アームの位置は、7回膜貫通領域の最も5'側を欠失することによりGPR54遺伝子を機能的に破壊するように選ぶ。ターゲティングベクターを調製したが、該ターゲッティングベクターにおいては、欠失させたGPR54配列が、GPR54遺伝子と同じ方向に配置された、プロモーターと機能しうる形で連結されたネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子を含む選択カセットの上流に内因性遺伝子発現レポーター(フレームに依存しないlacZ遺伝子)を含む非相同配列と置換される。
【0213】
5'および3'相同アームをターゲティングベクターpTK4IBLMNL(図3を参照のこと)中にクローニングした後、大きな高純度DNA調製物を標準分子生物学技術を用いて作製する。内毒素を含まない新しく調製したDNA 20μgは別のレアカッティング制限酵素PmeIを用いて、ベクター骨格中のアンピシリン耐性遺伝子と細菌複製起点の間に存在するユニークな部位で切断した。次に線形化したDNAを沈降させ、リン酸緩衝化生理食塩水100μlに再懸濁してエレクトロポレーションに備えた。
【0214】
エレクトロポレーションの24時間後に、トランスフェクトした細胞を、200μg/mlのネオマイシンを含有する培地中で9日間培養した。クローンを96ウェルプレート中に拾い、複製させて増やした後、PCR(上述のようにプライマー3P3Aおよびneo36を使用)によりスクリーニングして、相同組換えが内因性GPR54遺伝子とターゲティング構築物との間で起こったクローンを同定した。ポジティブクローンを1〜5%の割合で同定することができた。全て標準の操作を用いて(Russら, Nature 2000 Mar 2; 404(6773):95-9)、これらのクローンを増やしてレプリカを凍結させ、また、上記の通り調製した外部5'および3'プローブを用いるターゲティング事象のサザンブロット確認のために、十分に高品質のDNAを調製した。検出用制限酵素を用いて消化したDNAのサザンブロットが外部プローブとハイブリダイズした場合は、相同的に標的とされたES細胞クローンを、突然変異バンドならびに不変の野生型バンドの存在により、証明する。例えば、5'プローブを用いた場合、BglII消化DNAは9kb野生型バンド、および14.5kb標的バンドを与え;HindIIIは15kb野生型バンド、および9.5kb標的バンドを与え;そしてXbalは15kb野生型バンド、および19.5kb標的バンドを与える。同様に、3'プローブを用いた場合、BamHIは7.5kb野生型バンド、および4kb標的バンドを与え;そしてEcoRIは7kb野生型バンド、および4.5kb標的バンドを与える。
【0215】
ノックアウト前のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を図1に記述する。ノックアウト後のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を図2に記述する。サザンブロット確認に関係する酵素切断部位を付した。
【0216】
GPR54 GPCR欠損マウスの作製
C57BL/6雌および雄マウスを交配させ、胚盤胞を妊娠3.5日目に単離する。胚盤胞1個当たり選択クローンから得た10〜12細胞を注入し、7〜8個の胚盤胞を偽妊娠F1雌の子宮に移植した。高レベル(最高100%)の縞模様(agouti)をもつ複数の雄(縞模様の毛の色が標的クローンの子孫である細胞の寄与を示す)を含むキメラの子の同腹仔が産まれた。これらの雄キメラを雌MF1および129マウスと交配させ、生殖細胞系列の伝達を、縞模様の毛の色およびPCR遺伝子型判定によりそれぞれ確認した。
【0217】
PCR遺伝子型判定は、尾から切り取った毛の溶解物で、プライマーhetFおよびhetR、ならびに第3のベクター特異的プライマー(Asc403)を用いて行った。この多重PCRは、217bpバンドを与えるプライマーhetFとhetRの組合わせにより、野生型遺伝子座(もし存在すれば)からの増幅を可能にした。hetFの部位はノックアウトマウスでは欠失されるので、この増幅は標的の対立遺伝子からは起こらない。しかし、Asc403プライマーは、3'アームのすぐ内側の領域にアニールするhetRプライマーとの組合わせにより、439bpバンドを標的の遺伝子座から増幅する。従って、この多重PCRは同腹仔の遺伝子型を次のように明らかにする:すなわち、野生型サンプルは単一の217bpバンドを示し;ヘテロ接合体DNAサンプルは2つのバンドを217bpおよび439bpに生じ;そしてホモ接合体サンプルは標的特異的439bpバンドのみを示す。
【0218】
実施例2
B)結果
I)遺伝子発現パターン
1)エレクトロニックノーザン
エレクトロニックノーザンを図16に示す。
【0219】
PCR結果。所与の組織における発現を次のように表わした:(-)検出不能、(+)低レベル発現の検出、(++)中レベル発現の検出、(+++)高レベル発現の検出。精巣+、筋肉-、卵巣+、前立腺-、小腸+、肺++、腎臓+、白血球+、肝臓-、脳+++、心臓+、脾臓+。
【0220】
【0221】
2)Lac Z染色構造のリスト
次の組織は、lacZアッセイにおいてlacZ発現の証拠を含んでいた:脳(以下のサブ領域を参照)、脊髄(感覚領域)、精巣。
【0222】
lacZ発現は、脳の個別の領域、例えば海馬(最も強い領域)、視交差上核、乳頭体、脳橋および小脳、ならびに脊髄の背側(感覚)部に見出された。
【0223】
ミクロトーム切片の観察
6匹の野生型マウスおよび6匹の突然変異GPR54ノックアウトマウスの脳を固定し、凍結ミクロトーム上で40マイクロメーターの切片にカットした。
【0224】
顕微鏡下で切片を観察すると、次の領域におけるLacZ染色の局在が明らかになった:
海馬
嗅球
視交差前の視床下部
室周囲の視床下部
手綱核
視床下部路
蝸牛核
乳頭上体
【0225】
3)Lac Z発現写真
図4a突然変異体の脳スライスおよび図4bヘテロ接合体および野生型の精巣を参照。
【0226】
II)解剖学的観察
Harry Potterノックアウトマウスは、いくつかの明白な解剖学的異常を表す:突然変異体は、全体的な生殖管の強い萎縮(雄における萎縮包皮腺、小陰茎、極小の精巣および精嚢/凝固腺(coagulatory glands))、減少した筋量、減少した褐色脂肪量、より小さい胃および上顎下唾液腺を有する。
【0227】
雌突然変異体は未発達の乳腺、萎縮した卵巣(図6)子宮および卵管を有する。
【0228】
肛門性器距離も、雄突然変異体は野生型と比較して著しく短く(cm単位で:突然変異体0.97 ± 0.03、野生型1.4 ± 0.3、p<0.001)、あまりに短いので飼育スタッフによる動物の雌雄鑑別に誤まりを生じたほどである。しかしながら雌においては相違が観察されなかった。
【0229】
子宮および卵巣(上段、野生型;下段、突然変異体)
III)行動
全ての動物を、食物と水に自由にアクセスできるようにして明所12時間/暗所12時間の明暗サイクルで午前7時に点灯して飼育した。
【0230】
マウスを8〜10週齢で試験し、試験はバーンズ(Bares)迷路と性行動の試験は午後15時〜17時の間に実施し、これを除く全ての実験は午前10時〜12時の間に実施した。
【0231】
突然変異体と野生型の間の相違を示す試験
a)バーンズ迷路
空間記憶の試験であるバーンズ迷路は、特定場所の識別を要求するように設計した白色円板プラットフォームである。この迷路は、外周沿いに18個の円形孔が均一に配置された円板プラットフォームから成る。そのうちの1個の孔の下に黒い逃走箱が存在する。バーンズ迷路は、げっ歯類が照明の当たる開放された表面を避けて暗所の囲まれた避難所を求める自然性向を利用する。
【0232】
動物を10日間にわたって訓練し、逃走箱に入るまでの待ち時間ならびにエラー数および探索計画を記録した。
【0233】
この試験において、雄突然変異体の能力はより低い傾向があった(図7)。
【0234】
b)交配行動
5匹の雄突然変異体および5匹の野生型同腹仔を、発情期の野生型雌(膣スメアにより評価)とともに新しいケージに入れて30分間観察した。両方とも雌に関心を示し(嗅ぐ動作をして)、観察時間内に交配した。
【0235】
突然変異体は雌に関心を示さずかつ観察時間内に交配しなかった。さらに、複数の雄および雌突然変異体マウスはケージを共有していても妊娠せず、GPR54ノックアウトマウスは生殖不能であることを示唆した。
【0236】
c)発情周期
6匹の突然変異体雌と6匹の野生型同腹仔を5連続日の間、スメア試験に供した。4匹の3週齢+/+雌も試験した。スライドをメチレンブルーを用いて染色した。全ての野生型は明白な発情周期の段階を示したが、突然変異体はいずれも示さなかった。-/-雌の膣スメアは3週齢野生型の膣スメアと類似した(図8)。
【0237】
d)生理学
いずれか一方の性のGPR54突然変異体とその反対の性の野生型マウスとを含む15の交配対を設けたが、いずれも仔を産まなかった。従って、雄および雌のGPR54突然変異体は両方とも生殖不能である。
【0238】
1)重量
a)器官重量
精巣(図9)、筋肉(図10)、副腎(図11a)および唾液腺(図11b)の重量を測定した。
【0239】
2)アッセイ
a)テストステロン、エストロゲンおよびGnRHアッセイ
6匹の雄突然変異体および6匹の野生型マウスのテストステロンを測定した。突然変異体は、野生型マウスと比較して、著しく低いレベルのテストステロン(P<0.05)を有する(図12)。
【0240】
突然変異体雌は、発情期における正常な雌と比較して、著しく低いレベルのエストロゲンを有し、発情周期の欠如と一致した。野生型の発情前、発情期、発情後期、および発情間期に測定したエストラジオールレベルは、正常な周期のレベルを示した(図13)。
【0241】
視床下部におけるGnRHのレベルは野生型動物と匹敵することが示された。これは、突然変異がノックアウト個体のGnRHの合成に影響を与えないことを示した(データは示してない)。
【0242】
b)LH/FSHアッセイ
突然変異体のFSHは野生型に比べ非常に低い(図14a:雌および図14b:雄)。LHレベルの差はない(データは示してない)。
【0243】
c)外因性ゴナドトロピン
PMS(妊馬血清−FSH様ゴナドトロピン)1000iuを投与し、続いて2日後にbHCG(βヒト絨毛性ゴナドトロピン)1000iuを投与したところ、突然変異体雌の50%(n=6)に成熟卵母細胞の排卵が起こり、末端器官が天然ゴナドトロピンに応答する能力を保持していることを示した。これは、GPR54受容体とリガンドが下垂体視床下部軸のレベルで作用していて末端器官のレベルで作用していないという仮説と一致する。
【0244】
3)外因性GnRHの投与ならびに下垂体からのFSHおよびLH分泌に与える影響
方法:GnRHペプチド25ngを4回、30分間隔で注射し、最後の注射の30分後に動物を犠牲にして血液および下垂体を採取した。全てのマウスは11am〜1pmの間に犠牲にした。
【0245】
動物グループ:WT(野生型)6匹にはPBSのみを注射し(対照)、WT6匹にはPBS中のGnRHを注射し、そしてHP(HP突然変異体)6匹にはGnRH/PBSを注射した。全てのWT動物は発情間期(LHおよびFSHの急上昇の終わり)に用いた。全てのマウスは2〜4ヶ月齢とした。これをLHおよびFSH測定のために繰返した。
【0246】
血清FSHアッセイ:GnRHを注射したWTの血清中のFSHは、PBSのみを注射したものと比較して1.9倍増加していた。HPのレベルは、PBSのみを注射したWTと比較して1.7倍の増加を示し、突然変異動物は少なくとも部分的にGnRHになおも応答性であることを示す。これは、GPR54の作用が視床下部におけるGnRH放出の制御下にあることを示唆する。
【0247】
血清LHアッセイ:GnRHを注射したWTの血清中のLHは、PBSのみを注射したものと比較して5倍増加していた。HPのレベルは、PBSのみを注射したWTと比較して5倍の増加を示した。これは、LHの放出が外因性GnRHにより刺激されることを示した(図15a)。
【0248】
外因性GnRHによる刺激後の下垂体中のLHレベルの枯渇を測定した。結果は、下垂体中のLHレベルの対応する枯渇を示し、突然変異体はなおGnRHに対して応答し、LHが下垂体から放出されたことを示した(図15b)。突然変異体中の該遺伝子をノックアウトすることの有害な影響はなかった。
【0249】
以上の明細書に記述した全ての刊行物は、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の範囲と精神から逸脱することのない本発明の記載された方法およびシステムの様々な改変および変法は当業者に明白であろう。本発明は特定の好ましい実施形態と関係付けて説明されているが、請求項に記載の本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものでないことは理解されなければならない。実際、生化学、分子生物学および生物工学または関連分野の業者に明白である記載した本発明を実施するための様式の様々な改変は、添付の特許請求の範囲内に入ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0250】
【図1】GPR54ノックアウト前のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を示す。
【図2】GPR54ノックアウト後のマウスGPR54のゲノム遺伝子座の構造を示す。
【図3】関係のある制限酵素切断部位を含む、GPR54の相同的組換えに用いたターゲティングベクターの構造を示す。
【図4】ノックアウトマウスの脳スライス(図4a)ならびにヘテロ接合体および野生型の精巣(図4b)を示す。
【図5】図5aは野生型および突然変異型マウスの精巣を示し、図5bは野生型マウスの、そして図5cは突然変異型マウスの包皮腺を示す。
【図6】野生型(上側)およびノックアウトマウス(下側)の卵巣を示す。
【図7】野生型およびノックアウトマウスの行動を比較する、バーンズ(Barnes)迷路試験の結果を示したグラフである。
【図8】ノックアウトマウスの膣スメアの写真を示す。
【図9】野生型およびノックアウトマウスの精巣の平均重量のグラフを示す。
【図10】野生型およびノックアウトマウスの筋肉の平均重量のグラフを示す。
【図11】野生型およびノックアウトマウスの副腎(図11a)および唾液(図11b)の平均重量のグラフを示す。
【図12】野生型マウスと比較した、雄および雌GPR54ノックアウトマウスからのテストステロンレベルのグラフを示す。
【図13】雌ノックアウトマウスのエストラジオールレベルのグラフを示す。
【図14】雌(図14a)および雄(図14b)ノックアウトマウスのFSHレベルのグラフを示す。
【図15】血清(図15a)および下垂体(図15b)のLHレベルのグラフを示す。
【図16】エレクトロニックノーザン(electronic Northern)の結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPR54ポリペプチドが機能的に不活性化された1以上の細胞を含んでなるGPR54ノックアウト哺乳動物。
【請求項2】
野生型対照マウスと比較して、接触立ち直り反射の低下およびバーンズ(Barnes)迷路能力の低下、生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴のいずれか1以上を有する、請求項1に記載のGPR54ノックアウトマウス。
【請求項3】
生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、および性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴を有する、請求項2に記載のGPR54ノックアウトマウス。
【請求項4】
1以上の機能的に不活性なGPR54遺伝子を含む1以上の哺乳動物細胞を作製する方法であって、
(a)1以上の機能的に活性な内因性GPR54遺伝子を含む1以上の細胞を選択するステップ、
(b)ステップ(a)で選択した1以上の細胞に、相同的組換えにより1以上の内因性GPR54遺伝子と組換えることができる機能的に不活性なGPR54核酸をトランスフェクトするステップ、および
(c)1以上の内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸との相同的組換えを受けた1以上の細胞を選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項5】
宿主細胞中の1以上の内因性GPR54遺伝子を機能的に不活性化するための核酸構築物であって、
(a)非相同置換領域、
(b)非相同置換領域の上流に位置する第1相同領域、
(c)発現したときに機能的に活性なGPR54をコードしない突然変異型GPR54遺伝子、
(d)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、非相同置換領域の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子に対して少なくとも90%の同一性を示すヌクレオチド配列を有する上記第2相同領域、
を含んでなる上記核酸構築物。
【請求項6】
GPR54ポリペプチドもしくはその1以上の結合タンパク質またはそれらをコードする核酸、および製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含んでなる組成物。
【請求項7】
GPR54ポリペプチドの機能的活性の1以上のアンタゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物をGPR54ポリペプチドの1以上の潜在的アンタゴニストにより処置するステップ、
(c)これらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの哺乳動物がGPR54ノックアウトマウスにより示される異常な神経学的特徴ならびに異常な生殖系および/または形態からなる群から選択される1以上の特徴を示すか否かを確認するステップ、
(d)ステップ(c)で確認した特徴の1以上を示す1以上のアンタゴニストを選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項8】
ステップ(c)が、これらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの哺乳動物が生殖系および/または形態の異常を示すか否かを確認することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
GPR54ポリペプチドの機能的活性を作動させる1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つを潜在的に作動させる1以上の潜在的GPR54擬似体により処置するステップ、
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上の回復した特徴を有するか否かを確認するステップ、および
(d)ステップ(a)で選択したこれらの哺乳動物に、野生型哺乳動物の1以上の特徴を回復させる1以上のGPR54リガンド擬似体を選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項10】
GPR54ポリペプチドの機能的活性に拮抗する1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つに潜在的に拮抗する1以上の潜在的GPR54アンタゴニストにより処置するステップ、および
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上のモジュレートされた特徴を有するか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項11】
1以上の化合物の生物学的効果についてのアッセイにおける、トランスジェニックGPR54ノックアウト哺乳動物の使用。
【請求項12】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、
(b)これらの細胞サンプル中のGPR54ポリペプチドの発現レベルおよび/または機能的活性を健常な個体からの1以上の対照サンプルと比較するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項13】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、
(b)これらの細胞からの核酸を試験し、GPR54遺伝子の1以上の多形を検出するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項14】
少なくともある割合の細胞中に、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上をコードする外因性核酸を含有する、トランスジェニック動物。
【請求項15】
筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を治療する方法であって、治療上有効な量のGPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法。
【請求項16】
GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、GPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上の化合物の、筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を予防または治療する医薬品の製造における使用。
【請求項17】
患者の性ホルモン軸を操作する方法であって、治療上有効な量のGPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法。
【請求項18】
GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される化合物の、動物の性ホルモン軸を操作する医薬品の製造における使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPR54ポリペプチドが機能的に不活性化された細胞を含んでなる哺乳動物。
【請求項2】
野生型対照マウスと比較して、接触立ち直り反射の低下、より低いバーンズ(Barnes)迷路能力、生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴を有する、請求項1に記載の哺乳動物。
【請求項3】
機能的に不活性なGPR54遺伝子を含む細胞の作製方法であって、
(a)機能的に活性な内因性GPR54遺伝子を含む細胞を選択するステップ、
(b)該細胞に、相同的組換えにより内因性GPR54遺伝子と組換えることができる機能的に不活性なGPR54核酸をトランスフェクトするステップ、および
(c)内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸との相同的組換えを受けた細胞を選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項4】
宿主細胞中のGPR54遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物であって、
(a)非相同置換部分、
(b)非相同置換部分の上流に位置し、第1のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する第1相同領域、および
(c)非相同置換部分の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する第2相同領域(ただし、第2のGPR54遺伝子配列は天然の内因性GPR54遺伝子中で上記第1のGPR54遺伝子配列より下流の位置にある)、
を含んでなる上記核酸構築物。
【請求項5】
GPR54ポリペプチド、そのための結合タンパク質、または該結合タンパク質をコードしうる核酸を、製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤と共に含有する組成物。
【請求項6】
GPR54ポリペプチドのアンタゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物を選択するステップ、
(b)該哺乳動物をGPR54ポリペプチドの潜在的アンタゴニストで処置するステップ、
(c)該哺乳動物を試験して、該哺乳動物が異常な神経学的特徴ならびに異常な生殖系および/または形態からなる群から選択される1以上の特徴を示すか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項7】
ステップ(c)が、前記哺乳動物を検査して、該哺乳動物が生殖系および/または形態の異常を示すか否かを確認することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
GPR54ポリペプチドのアゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物を選択するステップ、
(b)該哺乳動物をGPR54ポリペプチドの潜在的アゴニストで処置するステップ、
(c)該哺乳動物を試験して、該哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して、回復した特徴を示すか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項9】
GPR54ポリペプチドのアンタゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物を選択するステップ、
(b)該哺乳動物をGPR54ポリペプチドの潜在的GPR54アンタゴニストで処置するステップ、
(c)ステップ(b)で処置した該哺乳動物を試験して、処置した該哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して、モジュレートされた特徴を示すか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項10】
1以上の化合物の生物学的効果についてのアッセイにおける、トランスジェニックGPR54ノックアウト哺乳動物の使用。
【請求項11】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状の診断に有用な指標を提供する方法であって、
(a)個体由来の細胞を用意するステップ、および
(b)該細胞中のGPR54ポリペプチドの発現レベルまたは機能的活性を、健康な個体由来の細胞と比較するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項12】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状の診断に有用な指標を提供する方法であって、
(a)個体由来の細胞を用意するステップ、および
(b)該細胞のGPR54遺伝子の多形を検出するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項13】
少なくともある割合の細胞中に、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上をコードする外因性核酸を含有する、トランスジェニック動物。
【請求項14】
筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される症状を治療する方法において使用するための、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーター。
【請求項15】
筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される症状を予防または治療する医薬品の製造における、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーターの使用。
【請求項16】
個体の性ホルモン軸を操作する方法において使用するための、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーター。
【請求項17】
動物の性ホルモン軸を操作する医薬品の製造における、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーターの使用。
【請求項1】
GPR54ポリペプチドが機能的に不活性化された1以上の細胞を含んでなるGPR54ノックアウト哺乳動物。
【請求項2】
野生型対照マウスと比較して、接触立ち直り反射の低下およびバーンズ(Barnes)迷路能力の低下、生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴のいずれか1以上を有する、請求項1に記載のGPR54ノックアウトマウス。
【請求項3】
生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、および性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴を有する、請求項2に記載のGPR54ノックアウトマウス。
【請求項4】
1以上の機能的に不活性なGPR54遺伝子を含む1以上の哺乳動物細胞を作製する方法であって、
(a)1以上の機能的に活性な内因性GPR54遺伝子を含む1以上の細胞を選択するステップ、
(b)ステップ(a)で選択した1以上の細胞に、相同的組換えにより1以上の内因性GPR54遺伝子と組換えることができる機能的に不活性なGPR54核酸をトランスフェクトするステップ、および
(c)1以上の内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸との相同的組換えを受けた1以上の細胞を選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項5】
宿主細胞中の1以上の内因性GPR54遺伝子を機能的に不活性化するための核酸構築物であって、
(a)非相同置換領域、
(b)非相同置換領域の上流に位置する第1相同領域、
(c)発現したときに機能的に活性なGPR54をコードしない突然変異型GPR54遺伝子、
(d)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、非相同置換領域の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子に対して少なくとも90%の同一性を示すヌクレオチド配列を有する上記第2相同領域、
を含んでなる上記核酸構築物。
【請求項6】
GPR54ポリペプチドもしくはその1以上の結合タンパク質またはそれらをコードする核酸、および製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含んでなる組成物。
【請求項7】
GPR54ポリペプチドの機能的活性の1以上のアンタゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物をGPR54ポリペプチドの1以上の潜在的アンタゴニストにより処置するステップ、
(c)これらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの哺乳動物がGPR54ノックアウトマウスにより示される異常な神経学的特徴ならびに異常な生殖系および/または形態からなる群から選択される1以上の特徴を示すか否かを確認するステップ、
(d)ステップ(c)で確認した特徴の1以上を示す1以上のアンタゴニストを選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項8】
ステップ(c)が、これらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの哺乳動物が生殖系および/または形態の異常を示すか否かを確認することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
GPR54ポリペプチドの機能的活性を作動させる1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つを潜在的に作動させる1以上の潜在的GPR54擬似体により処置するステップ、
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上の回復した特徴を有するか否かを確認するステップ、および
(d)ステップ(a)で選択したこれらの哺乳動物に、野生型哺乳動物の1以上の特徴を回復させる1以上のGPR54リガンド擬似体を選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項10】
GPR54ポリペプチドの機能的活性に拮抗する1以上の分子を同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する1以上の哺乳動物を選択するステップ、
(b)これらの1以上の哺乳動物を、GPR54活性の少なくとも1つに潜在的に拮抗する1以上の潜在的GPR54アンタゴニストにより処置するステップ、および
(c)ステップ(b)で処置したこれらの1以上の哺乳動物を試験して、これらの処置した哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して1以上のモジュレートされた特徴を有するか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項11】
1以上の化合物の生物学的効果についてのアッセイにおける、トランスジェニックGPR54ノックアウト哺乳動物の使用。
【請求項12】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、
(b)これらの細胞サンプル中のGPR54ポリペプチドの発現レベルおよび/または機能的活性を健常な個体からの1以上の対照サンプルと比較するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項13】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状を診断する方法であって、
(a)診断すべき患者から細胞サンプルを選択するステップ、
(b)これらの細胞からの核酸を試験し、GPR54遺伝子の1以上の多形を検出するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項14】
少なくともある割合の細胞中に、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上をコードする外因性核酸を含有する、トランスジェニック動物。
【請求項15】
筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を治療する方法であって、治療上有効な量のGPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法。
【請求項16】
GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、GPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上の化合物の、筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される患者の症状を予防または治療する医薬品の製造における使用。
【請求項17】
患者の性ホルモン軸を操作する方法であって、治療上有効な量のGPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上を用いて患者を治療するステップを含んでなる上記方法。
【請求項18】
GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される化合物の、動物の性ホルモン軸を操作する医薬品の製造における使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPR54ポリペプチドが機能的に不活性化された細胞を含んでなる哺乳動物。
【請求項2】
野生型対照マウスと比較して、接触立ち直り反射の低下、より低いバーンズ(Barnes)迷路能力、生殖ホルモンのレベルおよび/またはパターン(周期を含む)の変化、生殖器官および関連器官の形態の変化、性/生殖行動の変化からなる群から選択される特徴を有する、請求項1に記載の哺乳動物。
【請求項3】
機能的に不活性なGPR54遺伝子を含む細胞の作製方法であって、
(a)機能的に活性な内因性GPR54遺伝子を含む細胞を選択するステップ、
(b)該細胞に、相同的組換えにより内因性GPR54遺伝子と組換えることができる機能的に不活性なGPR54核酸をトランスフェクトするステップ、および
(c)内因性GPR54遺伝子が機能的に不活性なGPR54核酸との相同的組換えを受けた細胞を選択するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項4】
宿主細胞中のGPR54遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物であって、
(a)非相同置換部分、
(b)非相同置換部分の上流に位置し、第1のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する第1相同領域、および
(c)非相同置換部分の下流に位置し、第2のGPR54遺伝子配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する第2相同領域(ただし、第2のGPR54遺伝子配列は天然の内因性GPR54遺伝子中で上記第1のGPR54遺伝子配列より下流の位置にある)、
を含んでなる上記核酸構築物。
【請求項5】
GPR54ポリペプチド、そのための結合タンパク質、または該結合タンパク質をコードしうる核酸を、製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤と共に含有する組成物。
【請求項6】
GPR54ポリペプチドのアンタゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物を選択するステップ、
(b)該哺乳動物をGPR54ポリペプチドの潜在的アンタゴニストで処置するステップ、
(c)該哺乳動物を試験して、該哺乳動物が異常な神経学的特徴ならびに異常な生殖系および/または形態からなる群から選択される1以上の特徴を示すか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項7】
ステップ(c)が、前記哺乳動物を検査して、該哺乳動物が生殖系および/または形態の異常を示すか否かを確認することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
GPR54ポリペプチドのアゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に不活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物を選択するステップ、
(b)該哺乳動物をGPR54ポリペプチドの潜在的アゴニストで処置するステップ、
(c)該哺乳動物を試験して、該哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して、回復した特徴を示すか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項9】
GPR54ポリペプチドのアンタゴニストを同定する方法であって、
(a)機能的に活性なGPR54ポリペプチドを含有する哺乳動物を選択するステップ、
(b)該哺乳動物をGPR54ポリペプチドの潜在的GPR54アンタゴニストで処置するステップ、
(c)ステップ(b)で処置した該哺乳動物を試験して、処置した該哺乳動物が、ステップ(a)で選択した哺乳動物と比較して、モジュレートされた特徴を示すか否かを確認するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項10】
1以上の化合物の生物学的効果についてのアッセイにおける、トランスジェニックGPR54ノックアウト哺乳動物の使用。
【請求項11】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状の診断に有用な指標を提供する方法であって、
(a)個体由来の細胞を用意するステップ、および
(b)該細胞中のGPR54ポリペプチドの発現レベルまたは機能的活性を、健康な個体由来の細胞と比較するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項12】
アルツハイマー病、感覚神経障害および癲癇、受胎能の調節、性欲および思春期の開始、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経、筋消耗性疾患、疼痛、ホルモン依存性癌ならびに肥満からなる群から選択される疾患または症状の診断に有用な指標を提供する方法であって、
(a)個体由来の細胞を用意するステップ、および
(b)該細胞のGPR54遺伝子の多形を検出するステップ、
を含んでなる上記方法。
【請求項13】
少なくともある割合の細胞中に、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドの1以上のアゴニスト、GPR54ポリペプチドの1以上のアンタゴニスト、およびGPR54活性の1以上のモジュレーターからなる群から選択される1以上をコードする外因性核酸を含有する、トランスジェニック動物。
【請求項14】
筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される症状を治療する方法において使用するための、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーター。
【請求項15】
筋消耗性疾患、疼痛、炎症、ホルモン依存性癌、乳汁分泌、骨粗鬆症/大理石骨病、閉経に関係するホルモン不均衡、ならびに肥満からなる群から選択される症状を予防または治療する医薬品の製造における、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーターの使用。
【請求項16】
個体の性ホルモン軸を操作する方法において使用するための、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーター。
【請求項17】
動物の性ホルモン軸を操作する医薬品の製造における、GPR54ポリペプチド、GPR54ポリペプチドのアゴニスト、GPR54ポリペプチドのアンタゴニスト、またはGPR54活性のモジュレーターの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2006−513723(P2006−513723A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501543(P2005−501543)
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004479
【国際公開番号】WO2004/038021
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(505185721)パラダイム・セラピューティクス・リミテッド (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004479
【国際公開番号】WO2004/038021
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(505185721)パラダイム・セラピューティクス・リミテッド (5)
【Fターム(参考)】
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