説明

GPS受信器

【課題】 各GPS衛星からの受信レベルの閾値と、衛星の相互関係に基づくDOPの閾値を適切に設定し、できる限り高精度の測位を行うことができるGPS受信器とする。
【解決手段】 測位計算部17ではオールインビュー方式でGPS衛星の信号を受信するGPS衛星信号受信部12からの各衛星の受信信号を入力し、所定の測位演算を行う。そのとき衛星の受信レベルが受信レベル閾値設定部24の設定閾値より低いため測位計算判別部20が測位を行うことができないと判別したとき、閾値変更処理部26が受信レベル閾値設定部24の閾値を徐々に緩和する。その結果測位計算ができたときには、測位計算を行った衛星の配置によってDOP値を求め、DOP閾値設定部25で設定した閾値と比較し、DOP値判別部22で閾値をクリアしていないと判別したときにはDOP閾値を徐々に緩和する。このようにして測位解が得られたときには、測位条件と共に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在位置を測定する際に、GPS衛星の信号を受信して正確に測位し、且つ確実に現在位置データを求めることができるようにしたGPS受信器及びGPS受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年車両に広く搭載されるようになっているナビゲーション装置においては、自車両の位置を測定するに際して、車速信号や加速度センサ等から移動距離を算出し、角速度センサ等の方位検出センサから車両の回転角度を求め、常時移動方向と移動量を加算していく自律航法と、GPS(Global Positiong System)衛星 からの電波を受信して現在位置を検出するGPS航法とを用い、いずれか一つによる測位方法、或いは両航法を組み合わせたハイブリッド航法が用いられている。
【0003】
ナビゲーション装置におけいては上記のようにして得られた現在地と走行方向を地図画面上に表示するため、ナビゲーション装置が備えているDVD−ROM等の地図データ記憶媒体から現在地近傍の地図データを読み出し、モニタ画面にその電子地図を表示し、その地図上に自車位置を重ね合わせて表示している。また自車位置を地図上に表示するには、地図上の道路データと比較し、適当と考えられる道路上に自車位置を修正して表示するマップマッチング機能を有している。このようなマップマッチング機能においては、移動体の位置が確定した時に、候補となる道路が複数個ある場合、例えば、経路案内中の路線の優先度を高くする等、その中で最も存在確率が高い道路を選択する。
【0004】
上記のようなナビゲーション装置において、現在位置を正確に測定することは極めて重要であり、特に主として用いられるデータがGPS衛星の受信データであるときには、受信するGPSデータ自体が正確なものでなければならず、また測位のために必要とするGPS衛星の配置が適切でなければならない。近年の受信器技術においては、可視衛星を全て測位計算に使用する通称「オールインビュー」方式が主流となっており、全ての可視衛星の中で適切な衛星を選択することが重要となる。
【0005】
なお、上記のようなGPS衛星の信号を受信して現在位置を測定するGPS受信器は、前記のような車両等に搭載するナビゲーション装置に限らず、パソコン、携帯情報端末、更には携帯電話等に用いられるようになっており、それぞれの分野において現在位置を正確に測定し、更に地図画面に現在位位置を表示するため広く利用される。
【0006】
GPS衛星を用いた上記のような現在位置の測量に際しては、受信するGPSデータを含んでいる受信信号が正確なものでなければならないのに対して、そのGPS衛星からの信号はGPS衛星との距離や上空の雲などの障害物によって生じる信号減衰や、周囲の建物等の影響によるマルチパスノイズ発生により劣化する。そのためGPS衛星の受信電波の電界強度が大きい方が正確に位置検出ができるので、GPS衛星から受信した電波の電界強度に関連したS/N値等を計測し、その値が所定値以下のGPSデータは、位置検出に用いないように閾値が設けられる。なお、信号精度が高いGPS衛星の信号のみを利用しようとしてこの閾値を高く設定すると、位置検出に用いることのできるGPS衛星の数が少なくなる。
【0007】
また、測量のために必要とするGPS衛星の配置の測量精度に対する影響は、DOP値(Dilution Of Precision:以下DOP値と略称する)で表される。このDOP値は現在位置の測定に用いた複数のGPS衛星の配置を数値化したものであり、例えば、3個以上のGPS衛星を用いて現在位置を検出した場合はその複数のGPS衛星が成す面積などによって数値化され、DOP値は小さい方が正確に位置検出ができる。
【0008】
したがって、可視衛星の中でDOP値が最小となる組み合わせを選択するに際し、その最小値の組み合わせであっても所定値よりも大きい場合は正確な位置データが得られないので、所定の閾値より大きい場合はそのデータを使用しないようにしている。そのため、この閾値を小さく設定すると精度の良いデータを用いることができるのに対して、その閾値をクリアする衛星の組み合わせが得られない場合が多くなり、その際にはGPS衛星による現在位置の検出を行うことができない場合が多くなってしまう。
【0009】
なお、上記のようなDOP値を考慮して適切な位置検出を行う技術としては種々のものが提案されているが、その一つの手法として特許文献1に記載されているような技術がある。この技術においては、所定個数の可視衛星の各組合せについてそれぞれDOP値を所定の算出タイミングで算出し、DOP値が最小の組合せを選択して、選択した組合せからなる各衛星の受信データに基づき測位計算を実行するに際して、DOP値の限界値を予め設定しておき、DOP値の算出タイミングにおけるDOP値がそれまで選択していた組合せ以外の組合せについて最小となった場合には、それまで選択していた組合せに係るDOP値が設定された限界値を越えない限り、測位計算に係る衛星の組合せを維持させるようにして、測位計算に用いる衛星の組み合わせが短時間で変化することによるデータの変化を防止し、測位計算により得られる現在位置の航跡をより滑らかにしている。
【特許文献1】特開平6−18644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のようにナビゲーションシステム、更にはパソコン、携帯情報端末、携帯電話等に用いるGPS受信器は、現在位置を正確に確定することが重要であり、GPS受信システムに対しては、高品質の信号を用いることにより高精度で位置測位を行い、かつ衛星を用いた測位を行うことができる確率が高くなるようにする、という要求がある。しかしながら、ノイズの影響や、伝搬路障害物やマルチパスの影響による劣化信号受信により、受信信号にエラー成分を含み測位位置誤差が増大する問題がある。
【0011】
また一方では、受信信号のレベルが低い為に測位演算に使用できないことや、測位計算時の衛星配置状況によるDOP値が大きな値となり測位計算結果の信憑性が低く、測位解を利用できない事象が発生する事がある。
【0012】
上記の2つの現象には相反する特性があり、高精度測位を目指して「信号の品位を高めるために信号の採用基準を厳しくする」、「測位解採用基準として、DOP値を厳しく設定する」ことを実施すれば測位確率が劣化し、それに対して測位確率を上げるために信号の品質基準を落とし、DOP値の基準を大きく取れば測位確率の向上と引き換えに測位精度が劣化するという、相反する問題がある。
【0013】
これらの状態は図3に示される。即ち、図3において車両Cに搭載しているGPSシステムにおいて、現在受信可能なGPS衛星はS1〜S8であり、各GPS衛星との距離がr1〜r8であって、GPS衛星S1は近くの建築物Bの影響を受け、GPS衛星S5〜S8は森林Fの影響を受けて受信信号が劣化し、GPS衛星S2〜S4の3個の衛星の信号のみが予め設定した閾値をクリアしている結果、この3個のGPS信号のみで測位を行うか、或いは3個のGPS信号では適切な測位が行われないため、車両が更に移動して4個のGPS衛星の信号が各々閾値をクリアすることができるまでGPS衛星による測位を行わないようにすることとなる。このように、GPS衛星からの受信信号に対する閾値を正確な位置測定のために高くすると、それをクリアできるGPS衛星の数が少なくなり、GPS衛星による位置測定を行うことができないことが多くなる。
【0014】
このことは前記のような各GPS衛星からの受信信号のレベル以外に、前記のような各受信GPS衛星の位置関係に基づくDOP値について、予め設定した閾値を超えたGPS衛星の位置関係を持つもののみを選択する場合においても、その閾値を高くするとそれをクリアすることができる場合が少なくなる点において同様である。
【0015】
このように従来のGPS受信機では、GPS衛星の信号を受信して測位を行う際の適切なGPS衛星を選択するに際して、各GPS衛星からの受信信号レベルについて設定する閾値が固定され、また衛星の相互関係に基づくDOP値について設定する閾値も固定されていたため、それらの閾値のレベルを上げて測位精度を向上しようとすると、GPS衛星による測位を行うことができない場合が多くなる問題があった。特に近年のGPS受信器においては、携帯電話にこれを適用することも考慮し、高感度で高精度の測位を行うことが特に求められるようになっている。
【0016】
したがって本発明は、上記のような問題を解決し、各GPS衛星からの受信信号レベルの閾値と、衛星の相互関係に基づくDOP値の閾値を適切に設定し、できる限り精度の良いGPS衛星の信号を利用した測位を行うことができるGPS受信器を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記のように、現行のGPS受信器においては高感度オールインビュータイプのものを採用しており、「如何に多くの信号を受信し、測位演算を収束させるか」との思想があるが、マルチパス波や、伝送路障害により減衰又はデータ欠けを発生した信号、ノイズの影響を受けた信号も測位計算に使用しているために、エラー信号の影響を受け、測位計算に誤差を含む場合が多くあった。それに対し本発明においては、若干の余裕度は持たせてある正規に受信すべき受信レベル以下の信号を排除する事により、上述のマルチパス波や、伝送路障害により減衰又はデータ欠けを発生した信号、ノイズの影響を受けた信号の影響を受けることなく、良好な精度を持つ測位結果を得るように初期設定する。
【0018】
しかしながら、受信レベルをあまりにも重視すると、測位に必要な数の衛星信号が確保できないが、又は良好な衛星配置を得る事が出来ずに、DOP値の影響を受けて測位位置誤差が大きくなる場合がある。それに対して本発明においては、受信レベルとDOPの閾値を徐々に緩和することにより初めて測位解を得られた条件が、その環境下における最適な測位条件であって、最良の測位解を得る事が可能となる。それによりオールインビューに対し、出来るだけエラー信号を排除し、かつ信号エラーの増加に合わせてDOPの閾値を緩和することにより、両条件の中庸をとることができるようになる。
【0019】
更に、オールインビュータイプを含む一般的な車載用受信機では、受信レベル、DOPの閾値は固定であり、この条件を満足できなければ「非測位」状態となり測位解を得る事が不可能になるが、受信レベルとDOPの閾値を緩和する事により,何らかの測位解を得ることが出来る可能性が高くなる。その際、測位誤差が大きくなる事が予想されるが、測位条件をホスト側に送信する事により、ホスト側では測位情報の信憑性を検定し、相応の活用を行う事により、効率的なシステムが実現可能とする。
【0020】
上記のような機能を行う本発明について、より具体的には次のような手段を採用する。即ち、本発明によるGPS受信器は、GPS衛星の信号を受信するGPS衛星信号受信手段と、受信した衛星の受信レベルが所定の受信レベル閾値以上か否かを判別する受信レベル判別手段と、受信した複数のGPS衛星の信号を用いて測位計算を行う測位計算手段と、前記測位計算手段で所定の測位計算が行われたか否かを判別する測位計算判別手段と、前記測位計算手段で行った計算が予め設定したDOP閾値をクリアしたものであるか否かを判別するDOP値判別手段と、前記測位計算判別手段及びDOP値判別手段のいずれかをクリアしていないと判別したとき、受信レベル閾値とDOP閾値のいずれかを選択してその閾値を緩和するように徐々に変更する閾値変更処理手段と、前記測位計算判別手段で前記両閾値をクリアしたと判別したとき前記測位計算手段で計算した結果を出力するデータ出力手段を備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明による他のGPS受信器は前記GPS受信器において、前記閾値変更手段では、DOP閾値の変更と受信レベル閾値の変更を交互に行うことを特徴とする。
【0022】
また、本発明による他のGPS受信器は前記GPS受信器において、前記閾値変更手段は、前記DOP閾値判別手段でDOP閾値をクリアしたものではないと判別したとき、最初にDOP閾値の変更を行うことを特徴とする。
【0023】
また、本発明による他のGPS受信器は前記GPS受信器において、受信レベル閾値とDOP閾値には予め高精度側の値である初期閾値を設定していることを特徴とする。
【0024】
また、本発明による他のGPS受信器は前記GPS受信器において、前記データ出力手段は、測位計算によって得られた測位解と、該測位解が得られた測位条件とを出力することを特徴とする。
【0025】
また、本発明による他のGPS受信器は前記GPS受信器において、前記測位条件は、受信レベル閾値、DOP閾値、測位計算に用いた衛星の個数の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0026】
また、本発明による他のGPS受信器は前記GPS受信器において、前記受信レベル閾値は、受信衛星毎に異なった所定の値を設定することを特徴とする。
【0027】
また、本発明による他のGPS受信器は前記GPS受信器において、前記測位計算判別手段には測位解が得られたか否かを判別する測位計算判別手段を備え、該測位計算判別手段で測位解が得られたと判別したとき、前記DOP値判別手段で判別を行うことを特徴とする。
【0028】
また、本発明によるGPS受信方法は、複数のGPS衛星信号を受信して受信した衛星の受信レベルが所定の受信レベル閾値以上のGPS衛星の信号により測位を行い、測位時のDOP値が予め設定したDOP閾値をクリアしていないときには受信レベルとDOP閾値とを徐々に緩和する設定をし、前記DOP閾値をクリアしたときにはそのときの測位データを出力することを特徴とする。
【0029】
また、本発明によるGPS受信方法は前記GPS受信方法において、前記閾値の変更は、DOP閾値の変更と受信レベル閾値の変更を交互に行うことを特徴とする。
【0030】
また、本発明によるGPS受信方法は前記GPS受信方法において、受信レベル閾値とDOP閾値には予め高精度側の値である初期閾値を設定していることを特徴とする。
【0031】
また、本発明によるGPS受信方法は前記GPS受信方法において、前記DOP閾値をクリアしたときにはそのときの測位データと共に、測位条件とを出力することを特徴とする。
【0032】
また、本発明によるGPS受信方法は前記GPS受信方法において、前記測位条件は、受信レベル閾値、DOP閾値、測位計算に用いた衛星の個数の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0033】
また、本発明によるGPS受信方法は前記GPS受信方法において、前記受信レベル閾値は、受信衛星毎に異なった所定の値を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明は上記のように信号の受信レベルに予め高く設定した初期閾値を設けることにより、マルチパスや伝送路障害、ノイズ等によるエラー成分を含んだGPS衛星信号の利用を防ぐことができ、測位計算結果の精度が高くなり、測位データの振れも少なくなる。更に、DOP値も考慮するので、一層の高精度測位解を得る事が可能となる。
【0035】
特に初期閾値を従来のものよりも充分高精度の方向にセットしておいても、その初期閾値をクリアすることができない状況では、その後の閾値を徐々に緩和することにより、円滑に適切な測位解を求めることができるので、このような初期閾値を充分高精度方向に設定しておくことが可能となる。
【0036】
また、従来の予め固定した所定の閾値に基づいて測位解を求めるか否かを決定するものにおいては、そのときの測位解が必要な場合であっても、受信レベル条件やDOP閾値をクリアできなければ、とりあえず何らかの測位解を欲しいときにもその測位解自体を得ることができないが、本発明においては受信レベルとDOP値の規定値を徐々に下げて行き、測位できた場合にはその状況における最適な測位解を得ることが可能となる。
【0037】
更に上記のような受信レベルの閾値を徐々に緩和すると共に、DOP閾値も徐々に緩和して行く手法を採用しているので、受信レベルとDOP値の両条件を両立した、その状況における実質的に最適な高精度測位解を得ることが可能となる。
【0038】
しかも、測位計算出力条件を緩和した際には、測位情報に測位条件を付加してホスト側に提供する事により、ホスト側は測位情報の信憑性を考慮した上で入力した測位データを適宜活用する事が可能となる。そのため高精度測位解と、精度の信頼性が低い場合等をホスト側に伝える事により、測位情報の利用価値を高めることができる。また、上記の手法の採用により、測位精度は犠牲となるものの、測位確率を向上させることが出来るので、測位条件を考慮してこのデータを取り扱うことにより、利用性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明は、GPS受信器において、各GPS衛星からの受信レベルの閾値と、衛星の相互関係に基づくDOPの閾値を適切に設定し、できる限り高精度の測位を行うことができるようにするという課題を、GPS衛星の信号を受信するGPS衛星信号受信手段と、受信した衛星の受信レベルが所定値以上か否かを判別する受信レベル判別手段と、受信した複数のGPS衛星の信号を用いて測位計算を行う測位計算手段と、前記測位計算手段で行った計算が予め設定したDOP閾値をクリアしたものであるか否かを判別するDOP値判別手段と、前記測位計算判別手段及びDOP値判別手段のいずれかで閾値をクリアしていないと判別したとき、受信レベル閾値とDOP閾値のいずれかを選択してその閾値を緩和するように徐々に変更する閾値変更処理手段と、前記測位計算判別手段で前記両閾値をクリアしたと判別したとき前記測位計算手段で計算した結果を出力するデータ出力手段を備えるGPS受信器により、更に、複数のGPS衛星信号を受信して受信レベルが所定値以上のGPS衛星の信号により測位を行い、測位時のDOP値が予め設定したDOP閾値をクリアしていないときには受信レベルとDOP閾値とを徐々に緩和する設定をし、前記DOP閾値をクリアしたときにはそのときの測位データを出力することにより実現した。
【実施例1】
【0040】
本発明の実施例を図面に沿って説明する。図1は本発明によるGPS受信器において各種機能を行う機能ブロックとそれらの相互関係を示した機能ブロック図である。なお、これらの機能を行う機能部は、それぞれ各機能を行う手段ということもできる。
【0041】
図1におけるGPS受信器1の例においては、GPS衛星信号受信部12でGPS衛星サーチ部13によって指示されたGPS衛星を、可視衛星を全て受信するオールインビュー方式でサーチして受信する。受信された信号は受信信号処理部14におけるトラッキング処理部15、データ復調部16等で処理され、処理された信号は測位計算部17に出力する。
【0042】
測位計算部17では、オールインビュー方式で受信されたGPS衛星の中から受信レベルが、後述する測位条件設定部23の受信レベル閾値設定部24において設定された閾値を基準にして、測位計算が可能となったものをGPS衛星選択部18で選択し、それらのGPS衛星の受信信号を用いて測位計算を行う。測位計算判別部20では、この測位計算部17内で測位計算が可能であったか否かを判別する。その判別の結果測位計算ができないと判別したときには、閾値変更処理部26に対して閾値変更処理の指示を行い、閾値変更処理部26では、予め設定している受信レベル閾値の変化分だけ閾値を緩和する閾値変更処理を行い、それにより測位条件設定部23における受信レベル閾値設定部24では閾値が徐々に緩和設定される。
【0043】
DOP値判別部22では、測位計算部17で計算したときのGPS衛星の位置関係により得られるDOP値が、測位条件設定部23におけるDOP閾値設定部25で設定されている所定のDOP閾値をクリアするか否かを判別する。その判別の結果クリアしないと判別したときには、閾値変更処理部26で受信レベル閾値またはDOP閾値を予め設定した分だけ緩和する処理を行い、それにより測位条件設定部23における受信レベル閾値設定部24またはDOP閾値設定部25では、それらの閾値が徐々に緩和設定される。
【0044】
測位計算部17において上記のような閾値の緩和処理がなされた結果、その閾値をクリアした測位解が得られたときには、そのときの測位解をデータ出力部における測位解出力部28からナビゲーション装置等に出力する。また、このようにして測位解が得られたときには測位条件設定部23から最終的に設定された測位条件やDOP値等を取り込み、測位解を利用するナビゲーション装置内における各種データ処理部での測位解利用時の参考データ等として、測位条件出力部29からこれを出力する。なお、このとき出力する測位条件としては、受信レベル閾値、DOP閾値、測位計算に用いた衛星の個数の少なくとも一つを含み、これらの全てを出力しても良く、更にはこれらの値に適宜の係数を付与して所定の計算を行った値を出力するようにしても良い。更にこのような測位条件の出力データは、このデータを使用する各処理部において適宜の計算処理を行って利用するようにしても良い。
【0045】
上記のような機能構成からなる本発明のGPS受信器は、例えば図2に示す作動フローによって順に作動させることができる。以下に図2の作動フローを、前記図1の機能ブロック図、図3のGPS信号受信状況例、図4のGPS信号受信レベル規定値緩和例、図5のGPS衛星配置例等を参照しつつ説明する。本発明においては最初測位条件の設定として、前記のようなGPS衛星の配置の測量精度に対する影響を示すDOP値の閾値について初期設定を行い、また、信号を受信できるGPS衛星の内、測位に使用するのに適した受信信号の強度のレベルについて閾値を設定する(ステップS1)。この閾値については、各GPS衛星に共通の値を使用するほか、各衛星個々に設定しても良い。これらの閾値は図1の測位条件設定部23における受信レベル閾値設定部24及びDOP閾値設定部25において設定される。
【0046】
次いで受信できる衛星のサーチを行い、受信できた全てのGPS衛星について、受信した信号のトラッキング、および信号の復調を行う(ステップS2)。これらの処理は図1のGPS衛星信号受信部12における各処理部の作動によって行われる。その後上記のようにして得られた復調信号から受信レベルを求め、前記ステップS1で設定した受信レベル閾値の初期設定値をクリアする衛星のみによって測位計算を実施する(ステップS3)。このようにして予め設定した閾値以上の衛星の選択を行い(ステップS4)、その閾値をクリアすることができた衛星の信号のみを採用して測位計算を実施する(ステップS5)。このような処理を行うことにより、GPSの劣化信号をより確実に排除することができる。なお、これらの測位計算は図1における測位計算部17において、GPS衛星信号受信部12の信号を取り込み、測位条件設定部23の受信レベル閾値設定部24で設定された閾値を参照して処理を行う。
【0047】
次いでその測位計算はできたか否かを判別し(ステップS5)、受信レベル閾値以上の衛星の数が少ない等の理由により測位計算ができないときにはステップS11に進み、前記ステップS1で行った受信レベルの初期設定値を変更するため、受信レベルの緩和処理を行う。また、このステップS5で前記初期設定された閾値をクリアできた衛星信号によって測位がなされる場合は、前記のようにその初期設定閾値を予め小さく設定しているので高精度で安定した測位データを得ることができ、次いでステップS6に進む。
【0048】
前記ステップS5において測位計算が完了しないと判別した後の処理であるステップS11においては、図4に示すように、前記初期設定された受信レベルの閾値が規定レベル−X0dBmであるとき、それよりも緩い規定レベルである−X1dBmに受信レベル閾値の緩和処理を行う。この緩和処理は図1の測位計算判別部20で測位計算ができたか否かを判別し、測位計算ができないと判別したときに閾値変更処理部26において、受信レベル閾値設定部24の閾値を緩和することによって行われる。その後、ステップS3において前記と同様に、受信レベル閾値をクリアするGPS衛星を選択し、次いで選択した衛星によって測位計算を実施し、ステップS5において再び測位計算は完了したか否かの判別を行う。
【0049】
その判別の結果、未だその計算が完了できないと判別したときには再度同様の処理を行い、図4に示す規定レベルを再度下げる緩和処理を行う。このようにして順に規定レベルを下げることによって測位ができたときにはステップS6に進む。このような処理の結果、例えば図3に示す例において、初期設定による規定値をクリアしたGPS衛星が衛星S2、衛星S3、衛星S4のみであり、所定の測位を行うことができる4個のGPS衛星が確保できなかったとき、閾値としての規定レベルの緩和処理によってGPS衛星S5のデータも測位計算に含めることができるようになり、この状態で図2のステップS5において測位計算が完了したと判別することができる。
【0050】
上記のような方式で測位計算を行うと、測位位置精度の向上は図られるが、使用可能な衛星数が減少し、測位衛星数の不足によって衛星の位置関係の良好なものが得られず、DOP値の劣化が発生し、結果的に非測位扱いとなってしまう場合が多く発生し、測位解が必要なときに使用できない場合がある。
【0051】
そのため本発明では、ステップS5で測位計算が完了したと判別したときには、衛星配置に基づく値であるDOP値がステップS1で初期設定したDOP閾値をクリアするものであるか否かを判別し(ステップS6)、クリアしていないと判別したときには、DOP値と受信レベルの閾値の内いずれの方の緩和処理を行うか、即ちDOP値を緩和するか否かを判別し(ステップS8)、DOP閾値の方を緩和すると判別したときにはDOP閾値の緩和処理を行う(ステップS9)。この処理は図1のDOP値判別部22が測位条件設定部23におけるDOP閾値設定部25で設定された閾値をクリアしているか否かを判別し、クリアしていないときには閾値変更処理部26がDOP閾値設定部25の閾値を緩和することによって行われる。また、前記ステップS8でDOP閾値を緩和しない、即ち受信レベルの閾値の方を緩和すると判別したときには、ステップS11に進んで前記と同様の処理を繰り返す。
【0052】
ステップS9でDOP閾値の緩和処理を行ったときには、前記のように受信レベルの閾値をクリアしたGPS衛星の中で各種衛星の組み合わせで測位計算を行った結果が、緩和したDOP閾値をクリアしているか否かを再度判別する(ステップS10)。その判別の結果、現在の受信レベルの閾値をクリアしたGPS衛星の組み合わせではDOP閾値を未だクリアすることができないときにはステップS11に進み、受信レベル閾値の緩和処理を行う。この緩和処理は前記図4に示すように予め定められた値に順に緩和していく。その後の処理は前記と同様であり、その結果DOP閾値をクリアするか否かを判別する衛星の組み合わせ数が増加し、ほとんどの場合は受信レベル閾値の緩和処理と、DOP閾値の緩和処理を繰り返す内にステップS8においてDOP値が閾値をクリアすることとなる。
【0053】
この状態は例えば図5に示すように行われる。即ち、図5に示す例においては受信レベルの閾値の緩和処理を含めて結果的に受信レベル閾値を超えたGPS衛星が衛星S2、衛星S3、衛星S4であるとき、更に受信レベル閾値を緩和することにより、衛星S5を測位に利用することができるようになり、この衛星S5を含んだGPS衛星の組み合わせによってDOP閾値を満足でき、測位を行うことができるようになった例を示している。
【0054】
このようにして最初にDOP閾値をクリアした状態において、ここでは既に前記のように受信レベルの閾値もクリアしているので、その測位解を採用する。このように測位計算を行った状態の受信レベル緩和値と、DOP値の緩和値を前記測位解とセットでホスト側に提供し(ステップS6)、一連の処理を終了する(ステップS12)。これらの出力処理は、図1におけるデータ出力部27において、測位解出力部28から測位解を出力し、測位条件出力部29からは更にその測位解が得られた上記のような測位条件を出力することにより行われる。
【0055】
上記のような一連の処理についてより具体的には図6に示すように行われる。即ち、同図(a)には可視衛星についてその衛星番号と受信レベル(dBm)の例を示し、(b)には受信レベル閾値及びDOP閾値の緩和により測位使用衛星が選択され、且つ測位解が得られ、最終的な高精度測位解が得られていく状態を示している。
【0056】
最初に受信レベル閾値が図6(b)に示すように−123dBmであったとき、これをクリアできる衛星は番号11の衛星のみであり、これでは測位することができない。したがってこのときの測位解出力はNGとなり出力されない。次いで受信レベル閾値を先の−123dBmを−3dBm緩和し−126dBmにした結果、番号25の衛星も測位に使用可能となる。しかしながら測位使用衛星が2個の場合は通常の測位はできないため測位解は得られなず、高精度測位解も当然NGとなる。
【0057】
ここで更に受信レベル閾値を−3dBm緩和して−129dBmにすると、番号7の衛星も使用可能となり測位可能衛星が3個となるため、この例においてはこれらの衛星によって測位可能となり、測位解が得られる。ただし、このときの衛星の配置状態ではこの測位解に対するDOP値が3.1のため、このときに設定している高精度用のDOP値である1.5をクリアしておらず、高精度測位解としての出力はNGとなる。そのため測位解を次の所定の閾値である3.0に緩和すると、これでも前記測位解に対するDOP値3.1はクリアできていない。そのため、測位解は得られても所望の高精度測位解はNGとなる。
【0058】
次いで受信レベルを更に−3dBm緩和して−132dBmとすると、この例においては更に番号31の衛星が測位使用可能となるため、衛星配置の状態が向上しDOP値が2.7となって、前記DOP閾値3.0をクリアすることとなる。ここで得られた4個の衛星を使用して得られた測位解が高精度測位解となって出力ができるようになり、OKとなる。なお、図6に示す例においては、受信レベル閾値の緩和条件を更に−132、−135、−138と順に設定しており、またDOP閾値を5.0、10.0、20.0と用意していて、受信レベル閾値とDOP閾値が交互に緩和できるように設定している。
【0059】
なお、前記実施例においては上記のように受信レベル閾値をクリアした衛星が3個になったとき測位解が得られるようにした例を示したが、特別の条件においては2個の衛星が測位使用可能となったとき測位解が得られたものと設定することもでき、更に4個の衛星が測位使用可能となったとき測位解が得られたものとして処理を行うように設定することもできる。また、測位解が得られるまで単に受信レベルを緩和するだけでなく、受信レベルの緩和に合わせて適宜DOP閾値も低下させるように設定しても良い。
【0060】
本発明はこのようにしてGPS衛星の受信データを利用した測位を確実に行うことができ、その際に測位条件のデータに基づく測位解の信頼性指標の出力を行い、GPSの測位解を利用するナビゲーション装置等の演算部においてこの測位解を利用する際に、測位解とセットで送られてくるこの信頼性指標を利用することができるため、それぞれの演算分野でこの指標を利用して適切な演算処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によるGPS受信器は、現在車両に広く搭載されている車両用ナビゲーション装置のほか、携帯用パソコン、携帯情報端末に搭載して現在位置を測位するために用いることができ、更に近年実用化されている携帯電話に搭載して現在位置を正確に知るために用いる等、広範囲の分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例の機能ブロック図である。
【図2】同実施例を作動する作動フロー図である。
【図3】GPS信号の受信状況を説明する模式図である。
【図4】同実施例のGPS信号受信レベル規定値を緩和する例を示す図である。
【図5】同実施例のGPS衛星配置例を示す図である。
【図6】同実施例において受信レベル及びDOPの各閾値の緩和と測位状態を示す表である。
【符号の説明】
【0063】
11 GPS受信器
12 GPS衛星信号受信部
13 GPS衛星サーチ部
14 受信信号処理部
15 トラッキング処理部
16 データ復調部
17 測位計算部
18 GPS衛星選択部
20 測位計算判別部
21 DOP値検出部
22 DOP値判別部
23 測位条件設定部
24 受信レベル閾値設定部
25 DOP閾値設定部
26 閾値変更処理部
27 データ出力部
28 測位解出力部
29 測位条件出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS衛星の信号を受信するGPS衛星信号受信手段と、
受信した衛星の受信レベルが所定の受信レベル閾値以上か否かを判別する受信レベル判別手段と、
受信した複数のGPS衛星の信号を用いて測位計算を行う測位計算手段と、
前記測位計算手段で所定の測位計算が行われたか否かを判別する測位計算判別手段と、
前記測位計算手段で行った計算が予め設定したDOP閾値をクリアしたものであるか否かを判別するDOP値判別手段と、
前記測位計算判別手段及びDOP値判別手段のいずれかをクリアしていないと判別したとき、受信レベル閾値とDOP閾値のいずれかを選択してその閾値を緩和するように徐々に変更する閾値変更処理手段と、
前記測位計算判別手段で前記両閾値をクリアしたと判別したとき前記測位計算手段で計算した結果を出力するデータ出力手段を備えたことを特徴とするGPS受信器。
【請求項2】
前記閾値変更手段は、DOP閾値の変更と受信レベル閾値の変更を交互に行うことを特徴とする請求項1記載のGPS受信器。
【請求項3】
前記閾値変更手段は、前記DOP閾値判別手段でDOP閾値をクリアしたものではないと判別したとき、最初にDOP閾値の変更を行うことを特徴とする請求項2記載のGPS受信器。
【請求項4】
受信レベル閾値とDOP閾値には予め高精度側の値である初期閾値を設定していることを特徴とする請求項1記載のGPS受信器。
【請求項5】
前記データ出力手段は、測位計算によって得られた測位解と、該測位解が得られた測位条件とを出力することを特徴とする請求項1記載のGPS受信器。
【請求項6】
前記測位条件は、受信レベル閾値、DOP閾値、測位計算に用いた衛星の個数の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項5記載のGPS受信器。
【請求項7】
前記受信レベル閾値は、受信衛星毎に異なった所定の値を設定可能とすることを特徴とする請求項1記載のGPS受信器。
【請求項8】
前記測位計算判別手段には測位解が得られたか否かを判別する測位計算判別手段を備え、該測位計算判別手段で測位解が得られたと判別したとき、前記DOP値判別手段で判別を行うことを特徴とする請求項1記載のGPS受信器。
【請求項9】
複数のGPS衛星信号を受信して受信した衛星の受信レベルが所定の受信レベル閾値以上のGPS衛星の信号により測位を行い、
測位時のDOP値が予め設定したDOP閾値をクリアしていないときには受信レベルとDOP閾値とを徐々に緩和する設定をし、
前記DOP閾値をクリアしたときにはそのときの測位データを出力することを特徴とするGPS受信方法。
【請求項10】
前記閾値の変更は、DOP閾値の変更と受信レベル閾値の変更を交互に行うことを特徴とする請求項9記載のGPS受信方法。
【請求項11】
受信レベル閾値とDOP閾値には予め高精度側の値である初期閾値を設定していることを特徴とする請求項9記載のGPS受信方法。
【請求項12】
前記DOP閾値をクリアしたときにはそのときの測位データと共に、測位条件とを出力することを特徴とする請求項9記載のGPS受信方法。
【請求項13】
前記測位条件は、受信レベル閾値、DOP閾値、測位計算に用いた衛星の個数の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項12記載のGPS受信方法。
【請求項14】
前記受信レベル閾値は、受信衛星毎に異なった所定の値を設定することを特徴とする請求項9記載のGPS受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−138682(P2006−138682A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327127(P2004−327127)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】