説明

Gm−Cフィルタをチューニングする装置および方法

チューナブルGm−Cフィルタを制御する装置であって、出力増幅器(304)の帰還符号を切り換えることによって自励発振器として再構成することのできるフィルタと、キャリブレーション構成においてフィルタの出力を検知するディジタルコントローラ(42)と、フィルタを含む相互コンダクタンス増幅器(310、320)のgm入力にアナログ制御信号(48)を提供するDAC(44)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
参照データ
本出願は、2008年6月19日に出願された欧州特許出願第08158625号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明はGm−Cフィルタに関し、より詳細には、温度ドリフトおよび製造公差を補償するためにGm−Cを自動的にチューニング(tuning)する装置および方法を備えるシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
Gm−Cフィルタ(OTA−Cフィルタともいう)は、無線通信用途を含む多くの応用分野において使用される一般級のアナログ電子アクティブフィルタである。Gm−Cフィルタは特に、低電力消費と良好な速度とが組み合わさった完全集積化フィルタを提供し得るという点で魅力的である。Gm−Cフィルタは、中でも特に、最新のラジオ受信機においてますます多く使用されるようになっている。特にGPSまたはGNSS受信機では、1以上のGm−CフィルタがRFフロントエンドのIF段においてたいてい使用される。
【0004】
Gm−Cフィルタの主要構成要素は相互コンダクタンス増幅器である。理想的な演算相互コンダクタンス増幅器(OTA:operational transconductance amplifier)は一定の相互コンダクタンスgを有するもので、無限大の入力インピーダンスを持つと想定されるその入力端子間の電圧差に比例する電流を提供する電圧制御電流源である。Gm−Cフィルタは、コンデンサCに接続され、開ループ増幅器として使用される1以上の相互コンダクタンス増幅器を備える。
【0005】
図1に、コンデンサ30に接続された相互コンダクタンス段20からなる単純な一次Gm−Cフィルタを示す。増幅器331は、抵抗R=1/gを合成するためにローカル帰還ループとして接続されている。この構成は、伝達関数
【数1】

【0006】
を有する低域フィルタである。
【0007】
Gm−Cフィルタの重要な利点は、例えばトランジスタ段のバイアス電流を変更することで相互コンダクタンス値gを設定し得ることである。この相互コンダクタンス増幅器20は、カットオフ周波数を調整できる利得設定端子40を廃棄している。
【0008】
Gm−C技術に基づくフィルタは、これらの構造において使用されるトランジスタとコンデンサ両方の特性の絶対値に大きく依存する。しかし、ほとんどの工業用IC製造プロセスは、絶対的なトランジスタ利得やキャパシタンスの厳密な制御を許さない。すなわち、Gm−Cフィルタはたいてい、かなり大きな公差および温度依存性を呈する。
【0009】
当該技術分野では、図2に示すように、同一回路、好ましくは同一半導体ダイに整合レプリカGm−Cフィルタを設けることによりGm−Cフィルタを調整することが知られている。レプリカフィルタ26の出力と入力はチューニング回路によって相互に接続され、こうしてレプリカフィルタを発振させる正帰還をもたらしている。チューニング回路40はPLLとして働き、レプリカフィルタ26の発振を基準クロック50でロックするためにレプリカフィルタと主フィルタ両方のバイアスレベルを調節する。主フィルタのg値がレプリカフィルタのそれらと完全に一致するものと仮定すると、カットオフ周波数ωは基準クロックの周波数にロックされることになる。
【0010】
この解決策は必然的に面積および電力消費の増大をもたらす。これは、レプリカフィルタが総面積および電力収支のごくわずかな部分を代表するにすぎない複雑な回路では許容できるが、より単純な回路や、例えば携帯用GPSまたはGNSS受信機などのような電池式の携帯用装置といった、利用可能なエネルギーが非常に限られる場合においては厳しい制裁である。
【0011】
レプリカフィルタの使用は整合問題ももたらす。レプリカのパラメータだけがモニタされることから、チューニング精度がレプリカおよび主フィルタ回路間の不整合によって制限される。
【発明の概要】
【0012】
それゆえ、既知解決策の欠点を免れGm−Cフィルタをチューニングする装置を提供することが求められている。
【0013】
かかるフィルタを提供することが本発明の目的であり、特に、整合問題を免れて、より少ないシリコンスペースを占有し、より少ない電力を消費する、より小さなフィルタを提供することが本発明の目的である。
【0014】
本発明によればこれら目的は、対応カテゴリにおける独立請求項、本発明の好ましいオプション態様に関する従属クレームに従ったシステムおよび方法によって達成される。特にこれら目的は、相互コンダクタンス増幅器(transconductance amplifier)、チューニング端子、およびチューニング端子上に存在する電気的値(electric value)に依存する相互コンダクタンス利得(transconductance gain)を持つ1またはいくつかの相互接続Gm−Cセル(interconnected Gm-C cells)を含むGm−Cフィルタであって、このGm−Cフィルタをキャリブレーション構成(calibration configuration)およびフィルタリング構成(filtering configuration)に構成させる1以上のスイッチング素子を含むGm−Cフィルタと、前記キャリブレーション構成において前記Gm−Cフィルタの応答を測定し、この応答に依存するディジタルチューニング値(digital tuning value)を生成するように動作可能に構成されたディジタルコントローラと、前記ディジタルチューニング値を、前記Gm−Cセルのチューニング端子に供給されるアナログチューニング信号(analogue tuning signal)に変換するデジタル−アナログ変換器とを備えた、Gm−Cフィルタをチューニングする装置であって、ここで前記装置は前記キャリブレーション構成において規定の応答に収束するように動作可能に構成され、前記デジタル−アナログ変換器は前記フィルタリング構成において結果のチューニング信号を維持するように動作可能に構成されている、前記Gm−Cフィルタをチューニングする装置により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明は、例として与えられ図で示す一実施形態の記載の支援を得てより良く理解されるであろう。
【図1】既知タイプのGm−C積分器を概略的に示す図である。
【図2】チューナブルGm−Cフィルタの既知構造を概略的に示す図である。
【図3】本発明の一態様によるGm−Cフィルタの全体的構造(global architecture)を概略的に表す図である。
【図4】回路がフィルタリング構成およびチューニング構成に構成可能である本発明の一実施形態をより詳細に示す図である。
【図5】回路がフィルタリング構成およびチューニング構成に構成可能である本発明の一実施形態をより詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図3は、本発明の第1の態様に従うGm−Cフィルタを概略的に表す。このシステムは、チューナブルGm−Cフィルタ35、チューニングコントローラ47、およびスイッチ51を備える。図3が本発明のフィルタの簡略化表現であり、その一般構造をハイレベル機能ブロックとして説明することを目的とするもので、詳細な回路図ではないことを理解されたい。
【0017】
スイッチ51は2つの動作状態を許容する。図に表される最初の状態(フィルタリング状態)では、フィルタ35の入力が入力端子10に接続され、チューニングコントローラ47により生成されるチューニング信号48は静止している。回路35は、チューニング信号48の値で決まる周波数応答でフィルタとして動作する。
【0018】
チューニングの調節が必要とされると、スイッチ51が状態を変化させる。チューニング状態では、フィルタ47の入力がフィルタ35の出力信号12から導かれた信号を持つチューニングコントローラ47の出力に接続され、これによってフィルタを自己持続的発振状態にする正帰還がもたらされる。フィルタ35はこの状態においてチューニング端子が制御役を務めるVCOとして動作する。
【0019】
キャリブレーション状態における発振の周波数は、フィルタリング状態におけるフィルタの周波数応答に関係する。ディジタルチューニングコントローラは、クロック信号50を基準とする発振の周期を測定し、事前プログラムされた較正方式(pre-programmed calibration scheme)に従ってディジタルチューニング値を生成して、発振周期を所望値にもっていくディジタル回路を含む。このディジタルチューニング値はDACによってチューニング信号48に変換され、チューニング信号48はフィルタ35のチューニング入力に供給される。こうして発振周期は短い過渡後に所望値に収束する。このキャリブレーションサイクルが完了すると、システムはフィルタリング状態に戻る。ディジタルチューニング値は通常のフィルタリングの間レジスタに保持されるので、このチューニング値は無期限に維持可能である。
【0020】
本発明は、中断可能で、フィルタの連続動作を必要としないシステムにおいて、レプリカフィルタを完全になくせる可能性を提供する。チューニングコントローラは、一般にほんの数ミリ秒間にすぎないキャリブレーションサイクルのあいだのみアクティブであり、通常動作においてスイッチオフでき、ほとんど電力消費をもたらさない。キャリブレーションサイクルの頻度は所望の安定性および予期される温度勾配に従って選択され、一般に数秒ごとに1回のキャリブレーションである。
【0021】
本発明の一変形例によれば、チューニングコントローラ47は、キャリブレーションモードにおいて、フィルタ35の入力に信号を送り、フィルタ35の伝搬遅延を測定する。チューニング信号48は、この後、所望の周波数応答に対応する目標遅延値を得るように補正される。
【0022】
図4および図5は、本発明の一実施形態に従うシステムのフィルタリング状態およびキャリブレーション状態を示す。図4は、2つの積分器段を提供するために、コンデンサ311、312を負荷とする2つの相互コンダクタンス増幅器310、320を持つバイカッド(biquad)Gm−Cフィルタを示す。第3の相互コンダクタンス増幅器304の出力は、フィルタのQを設定する負荷抵抗R=1/gを合成するために、これの入力に負帰還される。このフィルタは、第1の相互コンダクタンス増幅器310の入力に入力信号を送る低域通過(low-pass)モード、および第1の相互コンダクタンス増幅器310と第2の相互コンダクタンス増幅器320の間で入力信号を送る帯域通過(band-pass)モードの両方で使用できる。増幅器301、312は、それぞれ、帯域通過(band-pass)入力および低域通過(low-pass)入力のための入力バッファである。
【0023】
図4の回路は、例えば、GNSS受信機などで、RF受信機の中間周波数段におけるIFフィルタなどとして利用することのできる比較的単純なフィルタである。本発明は、しかしながら、特定のフィルタ構成に限定されるものではなく、任意のGm−Cチューナブルフィルタに適用可能である。
【0024】
図5には、同一回路がキャリブレーション構成として示されている。キャリブレーション状態はディジタルコントローラ42の「チューン」入力421上のコマンド信号を受領し、これがスイッチ510a、510b、510c、510dを切り換えることに伴って入るものである。この構成では、出力相互コンダクタンス増幅器304上の帰還が正になり、このためにこのセルが負の抵抗を合成し、フィルタ回路全体が発振器として再構成される。発振器の共振周波数は先行要素310、320、311、および312のg値およびC値によって決定される。これは、フィルタとして動作する回路の共振周波数が、自励発振器として再構成される回路の共振周波数と同じであり、相互コンダクタンス増幅器310、320のチューニングが等しいことを意味する。フィルタおよび発振器を構成する構成要素が全く同じであり、レプリカではないという事実は、全ての整合問題をなくす。また、複数のノードにおける浮遊容量は構成が切り換わるときに変化しないため、発振器の発振周波数またはフィルタの中心周波数におけるこれらの影響も同じである。
【0025】
発振の振幅が飽和状態または非線形動作ゾーンにおいてフィルタを駆動すべきでないことも重要である。キャリブレーション構成では、回路が振幅レギュレーションループ(amplitude regulation loop)を含む。相互コンダクタンス増幅器304のg入力は他のものに接続されず、振幅が増加するときに最終段の利得を低減する振幅レギュレーション回路(amplitude regulation circuit)350によって、スイッチ510dを介して別に駆動される。発振周波数は前の段310、320によって決定されるため、出力段の利得はキャリブレーションに影響せず独立に変更され得る。回路は、動的限界を超えることなく、これの線形範囲内の動作点において安定する。発振波形は正弦曲線である。
【0026】
振幅調節回路は、図に示すように、ピーク検出器構成として、または他の任意の等価回路として接続されたダイオードおよびコンデンサを含むこともできる。
【0027】
発振信号は、これの周波数を都合のよい値にするためにプリスケーラ41によって分周され、この後ディジタルコントローラ42によって処理される。ディジタルコントローラは、基準クロック信号50を参照して、分周された発振信号の周期または周波数を測定し、測定された周期または周波数に基づいてディジタルチューニング値43を生成する。DAC44を使用して、相互コンダクタンス増幅器310、320のg制御入力に印加されるアナログチューニング信号48が提供され、制御ループが閉じる。
【0028】
本発明の一つの特定実施形態では、本発明のフィルタがGPS RFフロントエンドにおいて中間周波数フィルタとして使用される。IF信号は90〜100MHzの搬送周波数を有し、これは図5のキャリブレーション構成における回路の発振の周波数でもある。プリスケーラ41は、例えば倍率128や256でこの周波数を分周し、コントローラ42は10MHzのクロック信号によって提供されるタイムベースで周期を測定する。しかし、他の応用も可能である。
【0029】
相互コンダクタンス増幅器310、320のgは一般にgセルのトランジスタバイアス電流によって制御される。DAC44は好ましくは、複数の重み付き電流源を使用して実現される。複数のPTAT(Proportional To Absolute Temperature(絶対温度に比例))源を使用することにより温度においてほぼ完全に回路を補償できるため、フィルタキャリブレーションは主としてプロセス変動(process spread)を扱えばよい。このようにして、補正値43の変動(dynamics)が低減され、結果的にバイアスソースの数、論理およびバス幅が低減されることになり、連続するキャリブレーション間の時間をより長くできる。
【0030】
ディジタルコントローラの使用は、無期限限に制御値を記憶することを可能にする。アナログ的実現も可能であるが、この値をリフレッシュするためにより頻繁なチューニング動作が必要になるはずである。好ましくは、補正値が2つの連続するキャリブレーション間においてレジスタ440に記憶され、これによりDAC44が一定のチューニング信号を生成できるようにする。フィルタリング構成では、プリスケーラ41が好ましくは停止され、コントローラ42がスイッチオフされ、または低電力モードに置かれる。こうして制御回路は、電力消費およびスイッチングノイズをほとんどもたらさない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互コンダクタンス増幅器(310、320)、チューニング端子、およびチューニング端子上に存在する電気的値に依存する相互コンダクタンス利得(gm)を持つ1またはいくつかの相互接続Gm−Cセル(310、311;320、312)を含むGm−Cフィルタであって、このGm−Cフィルタをキャリブレーション構成およびフィルタリング構成に構成させる1以上のスイッチング素子(510a、510b、510c、510d)を含むGm−Cフィルタと、
前記キャリブレーション構成において前記Gm−Cフィルタの応答を測定し、この応答に依存するディジタルチューニング値(42)を生成するように動作可能に構成されたディジタルコントローラ(42)と、
前記ディジタルチューニング値を、前記Gm−Cセルのチューニング端子に供給されるアナログチューニング信号(48)に変換するデジタル−アナログ変換器(44)とを備えた、Gm−Cフィルタをチューニングする装置であって、
ここで前記装置は前記キャリブレーション構成において規定の応答に収束するように動作可能に構成され、前記デジタル−アナログ変換器(44)は前記フィルタリング構成において結果のチューニング信号を維持するように動作可能に構成されている、前記Gm−Cフィルタをチューニングする装置。
【請求項2】
前記Gm−Cフィルタの前記キャリブレーション構成は自励発振器であり、
前記ディジタルコントローラ(42)は、前記キャリブレーション構成において前記Gm−Cフィルタの発振の周期または周波数を測定し、前記測定された周期または周波数に依存するディジタルチューニング値(43)を生成するように動作可能に構成される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ディジタルコントローラは、前記Gm−Cフィルタにおけるキャリブレーション信号の伝搬遅延を測定し、前記測定された遅延に基づいてディジタルチューニング値(43)を生成するように動作可能に構成される請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記フィルタは、前記Gm−Cフィルタが前記キャリブレーション構成であるときに、発振振幅を前記Gm−Cフィルタの線形動作範囲内に維持するために順方向利得を制限するように動作可能に構成された振幅レギュレーションユニット(350)を備える請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記Gm−Cフィルタはローカル帰還ループにおいて出力増幅器(304)を含み、前記ローカル帰還は前記フィルタリング構成および前記キャリブレーション構成において逆の符号を有するものである請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記出力増幅器(304)は、前記フィルタリング構成において正の抵抗として、前記キャリブレーション構成において負の抵抗として構成される請求項5に記載の装置。
【請求項7】
振幅レギュレーションループにおいて前記Gm−Cフィルタの出力増幅器(304)の前記相互コンダクタンスを変更するように配置された振幅レギュレーションユニット(350)をさらに備える請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記デジタル−アナログ変換器(44)は複数のPTAT重み付き電流源を備える請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記フィルタリング構成において前記ディジタルチューニング値(43)を記憶するように動作可能に構成されたレジスタ(440)を備える請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記キャリブレーション構成において与えられた倍率で前記Gm−Cフィルタの発振の周波数を分周するように動作可能に構成されたプリスケーラ(41)をさらに備える請求項2に記載の装置。
【請求項11】
前記ディジタルコントローラ(42)は、前記フィルタが前記フィルタリング構成であるときに、電源オフモードまたは低電力モードに入るように動作可能に構成される請求項1に記載の装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項の装置を備えるGNSS受信機のためのRFプロセッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−525080(P2011−525080A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514001(P2011−514001)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057236
【国際公開番号】WO2009/153211
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(595020643)クゥアルコム・インコーポレイテッド (7,166)
【氏名又は名称原語表記】QUALCOMM INCORPORATED
【Fターム(参考)】