HDAC修飾因子の使用を通じて多能性遺伝子を誘導することによる細胞のリプログラミング
本発明は、細胞をリプログラミングする方法、組成物及びキットに関する。一実施形態において、本発明は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、この方法は、HDAC阻害剤によってHDACの活性を抑制するステップと、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップと、を具える。さらに別の実施形態において、本発明は、リプログラミングの方法であって、1よりも多い薬剤に細胞を暴露させて1つよりも多い調節タンパクを抑制するステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態において、本発明は、様々な分化細胞種に再分化又はトランス分化できるES様細胞の特性を有し得るリプログラミング細胞又はリプログラミング細胞の高密度集団に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連特許出願の相互参照]
本出願は、2006年8月1日に提出した米国特許出願第11/497,064号の一部継続出願である。この米国特許出願は、35U.S.C.第119条(e)に基づいて2005年8月1日に提出した米国仮出願60/704,465の利益を主張し、また、35U.S.C.第119条(e)に基づいて、2008年4月7日に提出した米国仮出願第61/042,890号;2008年4月7日に提出した米国仮出願第61/043,066号;2008年4月7日に提出した米国仮出願第61/042,995号;及び、2008年11月12日に提出した米国仮出願第61/113,971号の利益を主張する。これらの各文献はここで言及することによって全体が組み込まれている。
[技術分野]
本発明の実施形態は、細胞生物学、幹細胞、細胞分化、体細胞核移植及び細胞ベース治療の分野に関する。より詳細には、本発明の実施形態は、細胞リプログラミングのための方法、組成物及びキット並びに細胞ベース治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、多数のヒト疾患の治療として高い将来性があるが、低いクローン効率、潜在的多能性組織の供給不足、並びに、どのようにして細胞分化をコントロールするか、及び、選択した治療にどんな種類のES細胞を用いることができるかに関する全般的知識の欠如といったいくつかの困難な技術的課題が必然的に伴う。万能細胞は、並はずれた創造自在性を有しているが、未分化の万能細胞は、組織型が混在した奇形腫(良性腫瘍)を形成することがある。さらに、1つの源から別のところへの万能細胞の移植は、おそらく新たな細胞の拒絶を防止するための薬剤投与が必要である。
【0003】
胎児に由来しない組織から幹細胞を生成する新たな手段を確立する試みがなされてきる。1つのアプローチは、自己成体幹細胞の操作を含む。自己成体幹細胞を再生医療に用いる長所は、その細胞が同じ患者に由来し、同じ患者に戻されるので、従って、免疫媒介性拒絶反応を受けることがないという事実である。欠点は、これらの細胞が、万能細胞の創造自在性及び多分化能を充分には有しておらず、従って、潜在能力が不明であるということである。もう1つのアプローチは、成人組織に由来する体細胞をリプログラミングして、多能性ES様細胞を作成することを目的とする。しかしながら、多細胞生命体内の各細胞種は、細胞が分化するか又は細胞周期から逸脱すると固定されると考えられるユニークな後成的特徴を有しているので、このアプローチは困難であった。
【0004】
細胞内DNAは、通常、クロマチン形態、すなわち、核酸とタンパクとからなる複合体で存在する。実際に、ほとんどの細胞内RNA分子も、核タンパク複合体の形態で存在する。当業者に知られているように、クロマチンの核タンパク構造は、広く研究の対象とされてきた。一般に、染色体DNAは、ヌクレオソーム中にパッケージングされる。ヌクレオソームは、コア及びリンカーを含む。ヌクレオソームコアは、染色体DNAの約150塩基対で周囲を包まれたコアヒストン(H2A、H2B、H3及びH4の各2つ)の8量体を含む。さらに、約50塩基対のリンカーDNA部分は、リンカーヒストンH1に結合している。ヌクレオソームは、高次クロマチン繊維に組み立てられる。また、クロマチン繊維は、染色体に組み立てられる。例えば、Wolffe「Chromatin:Structure and Function」(3.sup.rd Ed.,Academic Press,サンディエゴ,1998年)を参照されたい。
【0005】
クロマチン構造は、不変ではないが、クロマチンリモデリングとしてまとめて知られているプロセスによる修飾を受ける。クロマチンリモデリングは、例えば、DNAの領域からヌクレオソームを取り除くこと;DNAの1つの領域から他の領域にヌクレオソームを移動させること;ヌクレオソーム間の間隔の変更;又は、染色体中のDNAの領域にヌクレオソームを加えるように機能できる。クロマチンリモデリングは、結果的に高次構造を変化させることができ、それによって、転写的活性クロマチン(開放クロマチン又はユークロマチン)と転写的不活性クロマチン(閉鎖クロマチン又はヘテロクロマチン)との間のバランスに影響する。
【0006】
染色体タンパクは、多数の種類の化学的修飾の対象である。これらのコアヒストンの翻訳後修飾の1つのメカニズムは、保存された高塩基性N末端リジン残基のイプシロンアミノ基の可逆的アセチル化である。ヒストンアセチル化の定常状態は、競合的ヒストンアセチルトランスフェラーゼと、本明細書中においてHDACと呼ばれるヒストンデアセチラーゼとの動的平衡によって確立される。
【0007】
HDACは、配列同一性及びドメイン構成に依存した少なくとも4つのクラス:クラスI:HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC8;クラスII:HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7A、HDAC9、HDAC10;クラスIII:哺乳動物のサーチュイン(SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、SIRT7);及び、クラスIV:HDAC11に分類される。クラスI HDACは、酵母転写調節因子RPD3に最も似ている。クラスII HDACは、酵母HDA1酵素に最も似ている。
【0008】
ヒストンのアセチル化及び脱アセチルは、長い間、転写調節に関連づけられていた。ヒストンの可逆的アセチル化は、クロマチンをリモデリングすることができるので、遺伝子転写のコントロール機構として作用し得る。一般に、ヒストンの高アセチル化は、遺伝子発現を容易にするが、ヒストン脱アセチルは、転写の抑制に関連している。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは、転写のコアクチベータとして作用することが示されているが、デアセチラーゼは、転写の抑制経路に属することがわかっている。
【0009】
ヒストンのアセチル化と脱アセチルとの動的平衡は、正常な細胞増殖に不可欠である。ヒストン脱アセチルの阻害は、細胞周期停止、細胞分化、アポトーシス、及び、変化した表現型の逆行を生じさせる。
【0010】
分化して特殊化した表現型への多能性細胞又は全能細胞の変化は、変化の間に発現される遺伝子群によって決定される。遺伝子発現は、ポジティブな制御又はネガティブな制御のいずれかを生じさせ得る遺伝子調節タンパクの配列特異的結合によって直接的に媒介される。しかしながら、直接的に遺伝子発現を媒介するこれらの調節タンパクの能力のすべては、細胞内DNA内のそれらの結合部位の接近容易性に少なくとも一部は依存する。上で論じられているように、細胞内DNA中の配列の接近容易性は、多くの場合、細胞内DNAがパッケージングされる細胞内クロマチンの構造に応じて変化する。
【0011】
従って、転写抑制に関与するHDACの活性を抑制することができる方法、組成物及びキットを含む、多分化能に必要な遺伝子の発現を誘導することができる方法、組成物及びキットを明らかにすることは有用であろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、細胞をリプログラミングするための方法、組成物及びキットに関する。本発明の実施形態は、多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、本発明は、リプログラミングされた細胞を生産するステップにも関する。本発明のさらに別の実施形態においては、HDAC阻害剤を使用することによって、少なくとも1つのHDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制するステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、本発明は、HDAC修飾因子を使用することによって、少なくとも1つのHDACの活性、発現、又は、活性及び発現を変化させるステップを具える方法に関する。この方法は、少なくとも1つの多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと、細胞をリプログラミングするステップとをさらに具える。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態は、細胞をリプログラミングする方法であって、細胞、細胞の集団、細胞培養液、細胞培養液から得た細胞の亜群、均一な細胞培養液、又は、不均一な細胞培養液を、HDAC修飾因子に接触させるステップと、少なくとも1つの多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと、細胞をリプログラミングするステップとを具える方法にも関する。この方法は、リプログラミングされた細胞を再分化させるステップをさらに具える。
【0014】
別の実施形態においては、本発明は、HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制するための薬剤の使用に関する。その薬剤は、HDACの発現、活性又は発現及び活性を抑制することができるあらゆる分子又は化合物であってもよい。限定されるものではないが、この薬剤には、HDAC阻害剤、小分子、核酸配列、DNA塩基配列、RNA配列、shRNA配列及びRNA干渉が含まれる。
【0015】
別の実施形態においては、本発明は、HDACの活性を抑制するタンパクの活性、発現、又は、活性及び発現を誘導するための薬剤の使用に関する。この薬剤は、HDACを抑制するタンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を誘導することができるあらゆる分子又は化合物であってもよい。限定されるものではないが、この薬剤には、小分子、核酸配列、DNA塩基配列、RNA配列、shRNA配列、及びRNA干渉が含まれる。
【0016】
HDAC阻害剤を用いて、HDACの活性を抑制することができる。限定されるものではないが、HDAC阻害剤には、TSA、ナトリウムブチレート、バルプロ酸、ボリノスタット、LBH−589、アピシジン、TPX−HA類似化合物、CI−994、MS−275、MGCD0103、及び、これらの誘導体又は類似化合物が含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態においては、少なくとも1つのHDAC阻害剤が少なくとも1つのHDACを抑制してもよい。さらに別の実施形態においては、1よりも多いHDAC阻害剤が、同時に又は連続的に少なくとも1つのHDACを抑制してもよい。HDAC阻害剤は、クラスIのHDAC、クラスIIのHDAC、クラスIIIのHDAC、クラスIVのHDAC、又は、未知若しくは未分類のHDACを対象としていてもよい。HDAC阻害剤は、1よりも多いクラスのHDAC又はすべてのクラスのHDACを対象としていてもよい。HDAC阻害剤の組合せは、1よりも多いHDACを抑制することができ、同時に又は連続的に用いることができる。
【0018】
別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞の集団を暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;多能性又は分化多能性の細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと;及び、前記選択した細胞を増殖させて細胞の集団を作るステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップとを具える方法に関する。
【0019】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する第1薬剤に細胞を暴露させるステップと;第2調節タンパクの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する第2薬剤に前記細胞を暴露させるステップであって、前記第2調節タンパクがHDACとは異なる機能を有しているステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;細胞を選択ステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップとを具える方法に関する。別の実施形態においては、細胞又は細胞の集団を、第1薬剤及び第2薬剤に同時に又は連続的に暴露させてもよい。
【0020】
さらに別の実施形態において、本発明は、少なくとも1つのHDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に第1表現型を有する細胞を暴露させるステップと、その細胞の第1表現型を、その細胞を前記薬剤に暴露させてリプログラミングされた細胞を選択した後に得られる表現型と比較するステップとを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、この方法は、細胞を前記薬剤に暴露させる前の細胞の遺伝子型を、前記細胞を前記薬剤に暴露させた後に得られる細胞の遺伝子型と比較するステップを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、少なくとも1つのHDACの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制する薬剤に細胞を暴露させる前の細胞の表現型及び遺伝子型を、その細胞を前記薬剤に暴露させた後の細胞の表現型及び遺伝子型と比較するステップを具える。
【0021】
他の実施形態において、この方法は、選択した細胞を培養するか又は増殖させて細胞の集団にするステップを含む。さらに別の実施形態においては、この方法は、多能性又は分化多能性の遺伝子によってコードされるタンパクに結合する抗体、又は、分化多能性マーカー又は多能性マーカーに結合する抗体を用いて細胞を分離するステップを具える。これらのマーカーは、限定されるものではないが、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81を含む。限定されるものではないが、蛍光細胞活性化分類装置、免疫組織化学及びELISAを含む細胞分離に効率的なあらゆる方法を用いて細胞を分離することができる。別の実施形態においては、この方法は、原細胞よりも未分化な状態の細胞を選択するステップを具える。
【0022】
さらに別の実施形態において、本発明は、前記薬剤に暴露させる前の多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造を、前記薬剤に暴露させた後に得られるクロマチン構造と比較するステップをさらに具える。
【0023】
別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:第1転写パターンを有する細胞を、HDACの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する薬剤に暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;その細胞の第1転写パターンを、前記薬剤に暴露させた後に得られる転写パターンと比較するステップと;及び、細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法に関する。
【0024】
さらに別の実施形態においては、細胞を選択するステップが、ES細胞の分析された転写パターンに少なくとも5%〜10%、10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、90%〜94%、95%又は95%〜99%類似する転写パターンをその細胞が有することを明らかにするステップを具える。ES細胞の全転写パターンの比較を行う必要はないが、行ってもよい。限定されるものではないが、代わりに、1〜5、5〜10、10〜25、25〜50、50〜100、100〜200、200〜500、500〜1,000、1,000〜2,000、2,000〜2,500、2,500〜5,000、5,000〜10,000、及び、10,000を超える遺伝子を含む胚性遺伝子の亜群を比較してもよい。二元的態様で転写パターンを比較してもよい。すなわち、その遺伝子が転写されるか否かを決定するように比較を行ってもよい。別の実施形態においては、各遺伝子又は遺伝子の亜群についての転写の速度及び/又は程度を比較してもよい。限定されるものではないが、RT−PCR、定量PCR、マイクロアレイ、サザンブロット、及び、ハイブリダイゼーションを含む当業界において知られているあらゆる方法を用いて転写パターンを測定することができる。
【0025】
本発明の実施形態は、本明細書に開示されている方法に従って生産したリプログラミング細胞を用いて様々な疾病を治療するステップを具える方法も含む。さらに別の実施形態においては、本発明は、リプログラミング細胞、及び、再分化したリプログラミング細胞の治療的使用にも関する。
【0026】
本発明の実施形態は、本発明の方法に従って生産されるリプログラミングされた細胞にも関する。リプログラミングされた細胞は、1つ以上の系統に再分化することができる。リプログラミングされた細胞は、分化多能性であってもよいし又は多能性であってもよい。
【0027】
さらに別の実施形態においては、本発明は、以下のステップ:細胞の集団を、ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;多能性又は分化多能性の細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと、及び、選択した前記細胞を増殖させて細胞の集団にするステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法によって生産されるリプログラミング細胞の濃縮された集団に関する。
【0028】
さらに別の実施形態においては、リプログラミングされた細胞が、多能性細胞を示す細胞表面マーカーを発現する。そのマーカーは、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択される。さらに別の実施形態においては、限定されるものではないが、リプログラミングされた細胞が、Oct−4、Sox−2及びNanogを含む多能性遺伝子を発現する。さらに別の実施形態においては、リプログラミングされた細胞が、細胞の高密度集団(enriched population)の少なくとも5%〜10%、10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、90%〜95%、96%〜98%、又は、少なくとも99%以上を占める。
【0029】
本発明の実施形態は、本発明の方法及び組成物を作成するためのキットにも関する。このキットは、特に、細胞をリプログラミングすること、及び、ES様細胞及び幹細胞様細胞を作成するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、バルプロ酸(VPA)で処理した初代ヒト肺細胞におけるOct−4のアップレギュレーションを報告する棒グラフである。
【図2】図2は、HDAC阻害剤(VPA)で処理した初代ヒト肺細胞における、幹細胞様特性を与えるいくつかの遺伝子のアップレギュレーションを報告する棒グラフである。
【図3】図3は、VPAで処理した細胞におけるOct−4の第1エクソン中の2個のシトシンの脱メチル化を報告する説明図である。
【図4】図4Aは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。図4Bは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。図4Cは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。
【図5】図5Aは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。図5Bは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。図5Cは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。
【図6】図6は、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Sox−2に対する効果を報告するグラフである。
【図7】図7は、HDAC7 shRNA干渉中のヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現によって測定された様々なHDAC及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図8】図8は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の、成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)、及び、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。
【図9】図9は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)、及び、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。
【図10】図10は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の、成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)、及び、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Sox−2に対する効果を報告するグラフである。
【図11】図11は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図12】図12は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図13】図13は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図14】図14Aは、成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7a及びHDAC11の発現に対するHDAC7a shRNAの効果を報告するグラフである。ピューロマイシンがない状態及びある状態の両方で培養した細胞のデータを報告する。図14Bは、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7a及びHDAC11の発現に対するHDAC7a shRNAの効果を報告するグラフである。ピューロマイシンがない状態及びある状態の両方で培養した細胞のデータを報告する。図14Cは、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7a及びHDAC11の発現に対するHDAC7a shRNAの効果を報告するグラフである。
【図15】図15Aは、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Bは、DNMT1 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Cは、HDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Dは、DNMT1及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Eは、DNMT1及びHDAC11 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Fは、HDAC11及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Gは、ヒトES細胞の写真である。
【図16】図16Aは、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Bは、DNMT1 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Cは、DNMT1及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。 図16Dは、DNMT1及びHDAC11 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Eは、HDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Fは、HDAC11及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Gは、ヒトES細胞の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[定義の詳細な説明]
この開示における数値範囲は近似のものであり、従って、別段の定めがない限り、数値範囲の外側の値を含んでいてもよい。任意の低い方の値と任意の高い方の値との間の少なくとも2単位が分離されていれば、数値範囲は、低い方の値と高い方の値との間で1単位ずつ増加させたすべての値を含み、その低い方の値及びその高い方の値を含む。一例として、例えば、分子量、粘度、メルトインデックスなどの組成的特性、物理的特性、その他の特性が100〜1,000であれば、100、101、102といったすべての個別値、及び、100〜144、155〜170、197〜200といったすべての部分的範囲が明示的に列挙されていることを意図する。1未満の値を含む範囲又は1よりも大きい小数部分(例えば1.1、1.5など)を含む範囲については、必要に応じて、1単位が0.0001、0.001、0.01又は0.1であるとみなす。10未満(例えば1〜5)の1桁の数を含む範囲については、1単位は通常0.1であるとみなす。これらは、特に意図されたものの一例に過ぎない。また、列挙されている最低値と列挙されている最高値との数値の可能な組合せは、この開示において明示的に記載されているとみなす。数値範囲は、特に、混合物中の成分の相対量、並びに、この方法に列挙されている様々な温度及びその他のパラメータの範囲のために、この開示において提供されている。
【0032】
「細胞(cell)」又は「細胞(cells)」には、別段の定めがない限り、あらゆる体細胞、胚幹(ES)細胞、成体幹細胞、器官特異的幹細胞、核移植(NT)ユニット及び幹様細胞が含まれる。細胞(cell)又は細胞(cells)をあらゆる器官又は組織から得ることができる。細胞(cell)又は細胞(cells)はヒト又はその他の動物であってもよい。例えば、細胞は、マウス、モルモット、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどであってもよい。細胞は、ヒト以外の霊長類から得てもよい。
【0033】
「培地」又は「増殖培地」は、細胞の増殖をサポートすることができる適切な媒体を意味する。
【0034】
「分化」は、胚発生中の細胞が構造的及び機能的に特殊化するプロセスを意味する。
【0035】
「後生遺伝」は、ヌクレオチド配列の変化を伴わずに引き継がれる機能変化に関するDNAの状態を意味する。後成的変化は、DNAのヌクレオチド配列の変化を伴わないメチル化及び脱メチル化などのDNAの修飾によって生じ得る。
【0036】
「ヒストン」は、DNAが核内に収容されるように十分にDNAを圧縮することに関与する染色体中にみられるタンパク分子のクラスを意味する。
【0037】
「ヒストンデアセチラーゼ阻害剤」及び「ヒストンデアセチラーゼの阻害剤」は、ヒストンデアセチラーゼと相互作用して、その酵素活性を抑制できる化合物を意味する。「ヒストンデアセチラーゼ活性を抑制する」とは、ヒストンデアセチラーゼがヒストン又はその他のタンパクなどの適切な基質からアセチル基を除去する能力を低下させることを意味する。ヒストンデアセチラーゼ活性のそのような低下は、いくつかの実施形態においては少なくとも約10%〜25%であり、別の実施形態においては少なくとも約50%であり、別の実施形態においては少なくとも約75%であり、また、別の実施形態においては少なくとも約90%である。さらに、ヒストンデアセチラーゼ活性は、さらに別の実施形態においては少なくとも95%低下し、他の実施形態においては少なくとも99%低下する。
【0038】
「ノックダウン」は、遺伝子特異的態様で遺伝子の発現を抑制することを意味する。1個又はそれ以上の遺伝子の「ノックダウン」を有する細胞を、「ノックダウン」生命体又は単に「ノックダウン」と呼ぶ。
【0039】
「多能性」は、3つの胚葉又は一次組織種の細胞種に分化できることを意味する。「多能性遺伝子」は、細胞が多能性であるのに寄与する遺伝子を意味する。「多能性細胞培養液」は、由来した元の胎児又は成人の分化細胞と明らかに相違した形態を示していれば、「実質的に未分化である」と考えられる。多能性細胞は、通常、核/細胞質の高い比、顕著な核小体、及び、識別可能性が低い細胞間結合による高密度コロニー形成を有しており、当業者によって容易に認識される。未分化細胞のコロニーは、周囲の分化細胞に囲まれ得ることがわかっている。しかしながら、適切な条件で培養すれば実質的に未分化のコロニーは生存し、培養細胞を分配するときに未分化細胞が増殖細胞の高い割合を構成する。この開示において記載されている有用な細胞集団は、これらの条件を満たす実質的に未分化の多能性細胞を任意の割合で含む。実質的に未分化の細胞培養液は、少なくとも約20%、少なくとも40%、少なくとも60%、又は、少なくとも80%もの未分化多能性細胞を含んでいてもよい(集団における全細胞のパーセンテージ)。
【0040】
「調節タンパク」は、ポジティブな制御及びネガティブな制御を含む生物学的プロセスを制御するあらゆるタンパクを意味する。調節タンパクは、生物学的プロセスに対する直接的効果又は間接的効果を有し、直接的に又は複合体に加わることを通じて作用を発揮することができる。
【0041】
「リプログラミング」は、核の後成的マーカーを除去し、その後に、異なる後成的マーカー群を確立することを意味する。異なる細胞及び組織は、多細胞生物の成長中に遺伝子発現の異なるプログラムを獲得する。これらの異なる遺伝子発現パターンは、DNAメチル化、ヒストン修飾及びその他のクロマチン結合タンパクなどの後成的修飾によって実質的に制御されていると考えられる。従って、多細胞生物内の各細胞型は、従来から、細胞が分化するか又は細胞周期から逸脱すると、「固定され」、かつ、不変になると考えられているユニークな後成的特性を有する。しかしながら、いくつかの細胞は、正常な成長又は特定の疾病状況において大規模な後成的「リプログラミング」を受ける。
【0042】
「分化全能性」は、完全な胚又は器官に成長できることを意味する。
【0043】
本発明の実施形態は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップを具える方法に関する。別の実施形態においては、本発明は、細胞が分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップを具える方法に関する。いくつかの実施形態において、この方法は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップと、少なくとも1系統への誘導された分化が可能なリプログラムされた細胞を生産するステップとを具える。
【0044】
本発明の実施形態は、クロマチン構造を修飾するステップと、多能性又は分化多能性となるように細胞をリプログラミングするステップとを具える方法にも関する。さらに別の実施形態において、クロマチン構造を修飾するステップは、HDACの活性を抑制するステップを具える。
【0045】
別の実施形態において、この方法は、HDACの活性を抑制するステップと、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップとを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、HDACの活性を抑制するステップと、リプログラミングされた細胞を生産するステップとを具える。
【0046】
さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞を暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;及び、細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法にも関する。多能性又は分化多能性の遺伝子は、限定されるものではないが、発現において0.25−0.5、0.5−1、1.0−2.5、2.5−5、5−10、10−15、15−20、20−40、40−50、50−100、100−200、200−500及び500超といったあらゆる倍率増加で誘導してもよい。別の実施形態においては、この方法は、分化細胞を平板培養するステップと、HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に前記分化細胞を暴露させるステップと、前記細胞を培養するステップと、リプログラミングされた細胞を識別するステップとを具える。
【0047】
別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、HDACの活性を抑制する調節タンパクの活性、発現、又は、活性及び発現を誘導する薬剤に細胞を暴露させるステップと、多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと、細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法に関する。調節タンパクの活性又は発現は、限定されるものではないが、1%〜5%、5%〜10%、10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、90%〜95%、95%〜99%、99%〜200%、200%〜300%、300%〜400%、400%〜500%及び500%以上といった任意の量で増加してもよい。
【0048】
さらに別の実施形態においては、この方法は、多能性又は分化多能性の遺伝子よってコードされるタンパク若しくはタンパク断片又は多能性表面マーカーに対する抗体を用いて細胞を選択するステップをさらに具える。モノクローナル抗体、ポリクローンナル抗体、抗体の断片、ペプチド疑似分子、活性領域に対する抗体、及び、タンパクの保存領域に対する抗体を含むあらゆる種類の抗体を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
さらに別の実施形態において、この方法は、多能性若しくは分化多能性の遺伝子又は多能性又は分化多能性の表面マーカーによって駆動されたリポーターを用いて細胞を選択するステップをさらに具える。蛍光タンパク、緑色蛍光タンパク、シアン蛍光タンパク(CFP)、黄色蛍光タンパク(YFP)、細菌ルシフェラーゼ、クラゲエクオリン、強化緑色蛍光タンパク、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、dsRED、β−ガラクトシダーゼ及びアルカリフォスファターゼを含むあらゆる種類のリポーターを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
さらに別の実施形態において、この方法は、抗生物質、殺真菌剤、ピューロマイシン、ヒグロマイシン、ジヒドロ葉酸還元酵素、チミジンキナーゼ、ネオマイシン抵抗性(neo)、G418抵抗性、ミコフェノール酸抵抗性(gpt)、ゼオシン抵抗性タンパク、及び、ストレプトマイシンに対する抵抗性を含む抵抗性を選択可能なマーカーとして用いて、細胞を選択するステップをさらに具える。抵抗性はこれらに限定されるものではない。
【0051】
さらに別の実施形態において、この方法は、HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に前記細胞を暴露させる前の細胞の多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造を、前記薬剤による処理後に得られる多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造と比較するステップをさらに具える。ユークロマチン、ヘテロクロマチン、ヒストンアセチル化、ヒストンメチル化、ヒストン又はヒストンの成分存在及び不存在、ヒストンの位置、ヒストンの配置、及び、クロマチンに関連した調節タンパク存在又は不存在といったクロマチン構造のあらゆる態様を比較することができるが、これらに限定されるものではない。エンハンサー因子、活性化因子、プロモータ、TATAボックス、転写開始部位の上流領域、転写開始部位の下流領域、エクソン及びイントロンといった任意の遺伝子領域のクロマチン構造を比較することができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
さらに別の実施形態において、この方法は、少なくとも1つのHDACの活性を抑制するステップと、CpGジヌクレオチド中の少なくとも1個のシトシンを脱メチル化するステップと、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現の誘導するステップと、を具える。
【0053】
さらに別の実施形態においては、この方法は、細胞をHDAC阻害剤に接触させるステップと;HDACの活性を抑制するステップと;及び、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップとを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、リプログラミングされた細胞を生産するステップをさらに具える。リプログラミングされた細胞は、多能性であってもよいし又は分化多能性であってもよい。
【0054】
この方法のHDAC阻害剤、本発明の組成物及びキットは、あらゆるHDACと相互作用してもよい。例えば、本発明のHDAC阻害剤は、4個の知られているクラスのHDACの1つに由来するHDACと相互作用してもよい。本発明のHDAC阻害剤は、クラスI、クラスII、クラスIII又はクラスIVのHDACと相互作用してもよい。HDAC阻害剤は、1つの特定のクラスのHDACと相互作用してもよいし、すべてのクラスのHDACと相互作用してもよいし、又は、限定されるものではないが、クラスI及びクラスII;クラスI及びクラスIII;クラスI及びクラスIV;クラスII及びクラスIII;クラスII及びクラスIV;クラスIII及びクラスIV;クラスI、II及びIII;クラスII、III及びIV;及びクラスI、II、III及びIVといった複数のクラスのHDACと相互作用してもよい。HDAC阻害剤は、公知のクラスのいずれにも当てはまらないHDACと相互作用してもよい。
【0055】
HDAC阻害剤は、不可逆的作用機構を有していてもよいし又は可逆的作用作用機構を有していてもよい。限定されるものではないが、HDAC阻害剤は、ミリモル(mM)、マイクロモル(μM)、ナノモル(nM)、ピコモル(pM)及びフェムトモル(fM)といったあらゆる結合親和性を有していてもよい。
【0056】
そのような阻害は特異的であることが好ましい。すなわち、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、その他の無関係な生物学的作用を生じさせるのに必要な阻害剤の濃度よりも低い濃度において、ヒストンデアセチラーゼがヒストンからアセチル基を除去する能力を低下させることが好ましい。ヒストンデアセチラーゼ抑制活性に必要な阻害剤の濃度は、無関係な生物学的作用を生じさせ得るのに必要な濃度と比べて、少なくとも2倍少ないことが好ましく、少なくとも5倍小さいことがより好ましく、少なくとも10倍小さいことがさらに好ましく、少なくとも20倍小さいことが最も好ましい。
【0057】
別の実施形態においては、HDAC阻害剤は、HDACの触媒ドメインを含む亜鉛に結合することによって作用してもよい。この作用機構を有するHDAC阻害剤は、いくつかのグループ:(i)トリコスタチンAなどのヒドロキサム酸;(ii)環状テトラペプチド;(iii)ベンズアミド;(iv)求電子性ケトン;及び(v)フェニルブチレート及びバルプロ酸などの脂肪酸化合物群に分類される。
【0058】
さらに別の実施形態においては、HDAC阻害剤は、サーチュインクラスIII HDACを対象としていてもよく、サーチュインクラスIII HDACは、NAD+依存性であり、限定されるものではないが、ニコチン酸アミド、NADの誘導体、ジヒドロクマリン、ナフトピラノン及び2−ヒドロキシナフトアルデヒドを含む。
【0059】
さらに別の実施形態においては、HDAC阻害剤は、非ヒストンエフェクター分子のアセチル化度を変えることによって遺伝子の転写を増加させることができる。本発明の方法、組成物及びキットのHDAC阻害剤は、単なるHDACの酵素抑制因子として作用するものとして考えるべきではない。限定されるものではないが、ACTR、cMyb、p300、CBP、E2F1、EKLF、FEN1、GATA、HNF−4、HSP90、Ku70、NFκB、PCNA、p53、RB、Runx、SF1 Sp3、STAT、TFIIE、TCF及びYY1といった様々な非ヒストン転写因子及び転写共調節因子は、アセチル化によって修飾されることがわかっている。アセチル化される転写の活性化に関与するあらゆる転写因子又はタンパクの活性を本発明の方法によって増大させることができる。
【0060】
表1は、HDAC阻害剤として機能し得る化合物の代表的リストを提供する。表1における「アイソタイプ」との表現は、化合物が特定のクラスのHDACに対する選択性を有しているかどうかに関する洞察を単に提供するように意図されている。HDACの特定のアイソタイプ又はクラスをリストに記載することは、化合物がそのアイソタイプ又はクラスに対する親和性を有していることを単に意味するように解釈してはならない。本発明のHDAC阻害剤には、本明細書中に記載されているすべてのHDAC阻害剤の誘導体及び類似化合物が含まれる。
【0061】
酪酸又は酪酸塩は確認された最初のHDAC阻害剤であった。しかしながら、ミリモル濃度において、酪酸塩は、HDACに対して特異的ではなく、核タンパクのリン酸化及びメチル化並びにDNAメチル化を抑制することもある。類似化合物(フェニルブチレート)は同じ態様で作用する。より特異的なものはトリコスタチンA(TSA)及びトラポキシン(TPX)である。TPX及びTSAはヒストンデアセチラーゼの阻害剤として知られるようになった。TSAはHDAC酵素を可逆的に抑制するが、TPXはHDAC酵素に不可逆的に結合して不活性化する。酪酸塩と異なり、その他の酵素系の非特異抑制は、TSA又はTPXについてまだ報告されていない。
【0062】
バルプロ酸もヒストンデアセチラーゼ活性を抑制する。VPAは、様々な分子の作用機構に依存した複数の生物活性を有する公知の薬剤である。VPAは抗てんかん剤である。VPAは催奇性である。VPAは、妊娠中に抗てんかん剤として用いたとき、生まれた子供の数パーセントにおいて先天性欠損(神経管閉鎖障害及びその他の奇形)を生じさせる可能性がある。マウスにおいては、適切に投薬すると、VPAは、大多数のマウス胚において催奇性である。VPAは核ホルモン受容体(PPARデルタ)を活性化する。
【0063】
表1 HDAC阻害剤として機能し得る化合物の代表的リスト
【0064】
様々なHDAC阻害剤は、Sigma Aldrich社(セントルイス、ミズーリ)から入手可能であり、限定されるものではないが、APHA化合物;アピシジン;デプデシン;スクリプタイド;シルチノール;及びトリコスタチンAを含む。また、さらなるHDAC阻害剤は、Vinci−Biochem社(Italy)から入手可能であり、限定されるものではないが、5−アザ−2’−デオキシシチジン;CAY10398;CAY10433;6−クロロ−2,3,4,9−テトラヒドロ−1H−カルバゾール−1−カルボキサミド;HC毒素;ITSA1;M344;MC1293;MS−275;オキサムフラチン;PXD101;SAHA;スクリプタイド;シルチノール;スプリトマイシンを含む。デクサメタゾンをあらゆるHDAC阻害剤と組み合わせて用いてもよい。例えば、5−アザ−2’−デオキシシチジンデクサメタゾンを含む組成物を、デクサメタゾンと組み合わせて用いることができる。
【0065】
限定されるものではないが、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11〜15個、16〜20個及び21〜25個のHDAC阻害剤といったHDAC阻害剤のあらゆる数、あらゆる組合せ及びあらゆる濃度を用いることができる。阻害タンパクの1つ又はそれ以上のファミリーが阻害されることもある。限定されるものではないが、小分子阻害剤、HDAC阻害剤、shRNA、RNA干渉及び小さい干渉RNAといった阻害の1つ又はそれ以上のメカニズムを用いてもよい。
【0066】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、代償的経路において機能する2つ以上の阻害タンパクを抑制するステップを具える方法に関する。別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、冗長経路において機能する2つ以上のタンパクを抑制するステップを含む方法に関する。さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、1つ又はそれ以上のHDACタンパクを抑制するステップと、抑制されたHDACを補うように機能する1つ又はそれ以上のタンパクを抑制するステップと、を具える方法に関する。1つの阻害タンパク、例えばHDACの抑制は、1つ又はそれ以上のその他の阻害タンパクの発現を増加させることがある。冗長的なタンパク、代償的なタンパク、又は、冗長的かつ代償的なタンパクの発現を抑制するステップは、shRNA、RNA干渉、HDAC阻害剤及び小分子阻害剤といった限定されないあらゆる適切な方法を用いて実行してもよい。
【0067】
さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法において、阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制するステップであって、前記阻害タンパクの抑制は、その他の阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性、の増加を生じさせないステップを具える方法に関する。
【0068】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法において、阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制するステップであって、前記阻害タンパクの抑制が、代償的タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性の増大を生じさせないステップを具える方法に関する。
【0069】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法において、阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制するステップであって、前記阻害タンパクの抑制が、冗長的タンパク発現、活性、又は、発現及び活性の増大を生じさせないステップを具える方法に関する。
【0070】
さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する1つよりも多い薬剤に細胞を暴露させるステップであって、前記調節タンパクが、同一のファミリー又は異なるタンパクファミリーであってもよいステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:第1調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する薬剤に細胞を暴露させるステップと;前記第1調節タンパクとは異なる機能を有する第2調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する第2薬剤に前記細胞を暴露させるステップと、を具える方法に関する。限定されるものではないが、第1調節タンパク及び第2調節タンパクは、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、トリコスタチンA、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン、及び、サーチュインアクチベータ、核レセプタ、オーファン核受容体、Esrrβ及びEsrrγといったタンパクの発現の制御又は変化に関与するあらゆるタンパクであってもよい。
【0071】
本発明の方法に従って生産されるリプログラミングされた細胞は、多能性であってもよいし又は分化多能性であってもよい。本発明の方法に従って生産されるリプログラミングされた細胞は、ES様細胞特性を含む様々な異なる特性を有し得る。例えば、リプログラミングされた細胞は、未分化状態で少なくとも10継代、少なくとも15継代、少なくとも20継代、又は、少なくとも30継代以上にわたって増殖することができる。その他の形態では、リプログラミングされた細胞は、分化せずに1年間以上にわたって増殖することができる。リプログラミングされた細胞は、増殖及び/又は分化しても正常核型を維持することもできる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、インビトロにおいて未分化状態で無限増殖の能力を有する細胞になり得る。いくつかのリプログラミングされた細胞は、長期的培養を通じて正常核型を維持することもできる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、長期的培養の後でさえも、3つの胚性胚葉のすべて(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)の誘導体に分化する能力を維持することができる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、生命体中のあらゆる細胞型を形成することもできる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、未分化増殖を維持しない媒体による増殖などの特定の条件下で胚様体を形成することができる。例えば、いくつかのリプログラミングされた細胞は、胚盤胞と融合することによってキメラを形成できる。
【0072】
リプログラミングされた細胞を様々なマーカーによって決定することができる。例えば、いくつかのリプログラミングされた細胞はアルカリフォスファターゼを発現する。いくつかのリプログラミングされた細胞はSSEA−1、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、及び/又は、TRA−1−81を発現する。いくつかのリプログラミングされた細胞は、Oct−4、Sox2及びNanogを発現する。例えば、細胞表面又は細胞内において、いくつかのリプログラミングされた細胞がmRNAのレベルでそれらを発現し、さらに他の細胞がタンパクレベルでそれらを発現することは理解されるであろう。
【0073】
リプログラミングされた細胞は、リプログラミングされたあらゆる細胞特性若しくはカテゴリと、本明細書に記載されている特性とのあらゆる組合せを有していてもよい。例えば、リプログラミングされた細胞は、アルカリフォスファターゼを発現し、SSEA−1を発現せず、少なくとも20継代わたって増殖し、あらゆる細胞種に分化することができる。もう1つのリプログラミングされた細胞は、例えば、細胞表面でSSEA−1を発現し、内胚葉、中胚葉及び外胚葉組織を形成することができ、分化せずに1年間以上培養することができる。
【0074】
リプログラミングされた細胞は、アルカリフォスファターゼ(AP)ポジティブ、SSEA−1ポジティブ及びSSEA−4ネガティブになりえる。リプログラミングされた細胞は、Nanogポジティブ、Sox2ポジティブ及びOct−4ポジティブにもなりえる。リプログラミングされた細胞はTellポジティブ及びTbx3ポジティブにもなりえる。リプログラミングされた細胞は、Criptoポジティブ、Stellarポジティブ及びDazlポジティブにもなりえる。リプログラミングされた細胞は、モノクローナル抗体TRA−1−60(ATCC HB−4783)及びTRA−1−81(ATCC HB−4784)の結合特異性を有する抗体と結合する細胞表面抗原を発現することができる。さらに、本明細書中に開示されているように、リプログラミングされた細胞は、支持細胞層を用いることなく、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20継代にわたって又は1年間以上維持することができる。
【0075】
リプログラミングされた細胞は、繊維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、内皮、間質、平滑筋、心筋、神経細胞、造血細胞、膵島、又は、身体の実質的にすべての細胞を含む異なる血統の種々様々な細胞種に分化する能力を有し得る。リプログラミングされた細胞は、すべての細胞系統に分化する能力を有していてもよい。リプログラミングされた細胞は、1種、2種、3種、4種、5種、6〜10種、11〜20種、21〜30種、及び、30種を超える系統を含むあらゆる数の系統に分化する能力を有していてもよい。
【0076】
細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与するあらゆる遺伝子は、本発明の方法によって誘導されてもよく、限定されるものではないが、グリシンN−メチルトランスフェラーゼ(Gnmt)、八量体−4(Oct−4)、Nanog、SRY(性別決定領域Y)−box2(Sox2としても知られている)、Myc、REX−1(Zfp−42としても知られている)、インテグリンα−6、Rox−1、LIF−R、TDGF1(CRIPTO)、フラジリス、SALL4(Sal様4)、GABRB3、LEFTB、NR6A1、PODXL、PTEN、白血球細胞由来ケモタキシン1(LECT1)、BUB1、並びに、Klf4及びKlf5などのクルッペル様因子(Klf)を含む。細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与するあらゆる数の遺伝子は、本発明の方法によって誘導することができる。この遺伝子は、限定されるものではないが、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11〜20個、21〜30個、31〜40個、41〜50個、及び、50個超の遺伝子を含む。
【0077】
さらに、Ramalho−Santos et al.(Science 298,597(2002))、Ivanova et al.(Science 298、601(2002))及びFortunel et al.(Science 302,393b(2003))はそれぞれ、3種類の幹細胞を比較し、幹細胞の機能的特性を付与するのに重要であると提案された一般に発現される「スターンネス(Sternness)」遺伝子のリストを明らかにした。前述の研究において明らかにされたあらゆる遺伝子を本発明の方法によって誘導してもよい。表2は、幹細胞の機能的特性の付与に関与すると考えられる遺伝子のリストを提供する。表2に一覧された遺伝子に加えて、公知の遺伝子との相同性がほとんど又は全くない93個の発現遺伝子配列断片(EST)集団は、Ramalho−Santos et al,及びIvanova et al,によって明らかにされており、本発明の方法に包含されている。
【0078】
表2 幹細胞特性の付与に関与する遺伝子
【0079】
本発明の実施形態は、細胞をリプログラミングする方法であって、遺伝子のクロマチン構造を修飾するステップと、前記遺伝子の発現を誘導するステップとを具える方法にも関する。別の実施形態において、この方法は、多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造を修飾するステップを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、ヒストンを修飾することによってそのクロマチン構造を修飾するステップをさらに具える。限定されるものではないが、ヒストンの修飾には、アセチル化;メチル化;脱メチル化;リン酸化;ユビキチン化;ユビキチン様タンパクによる修飾;ADPリボシル化;脱イミノ化及びプロリン異性化が含まれる。
【0080】
本発明の実施形態は、本明細書中において開示されている方法に従って生産されたリプログラミングされた細胞を用いて様々な疾病を治療する方法を含む。当業者は、本明細書中で与えられている開示に基づいて、心臓病、糖尿病、皮膚病及び皮膚移植、脊椎損傷、パーキンソン病、多発性硬化症並びにアルツハイマー病といったこれらに限定されない非常に多くの疾病の治療における再生医療の価値及び能力を理解するであろう。本発明は、新しく損傷されていない細胞の導入によっていくつかの形態の治療的効果が与えられる疾病を治療するために、ヒトを含む動物にリプログラミングされた細胞を投与する方法を含む。
【0081】
当業者は、リプログラミングされた細胞が、例えばニューロンなどの再分化細胞として動物に投与することができ、その動物の病気に冒された又は破損されたニューロンを置換するのに有用であることを容易に理解するであろう。さらに、リプログラミングされた細胞は、動物に投与可能であり、周辺環境からシグナル及び合図を受けると、近傍の細胞内環境によって指示された所望の細胞種に再分化することができる。代替的に、細胞は、インビトロにおいて再分化することができ、その分化細胞を必要性がある哺乳動物に投与することができる。
【0082】
リプログラミング細胞を移植のために調製して、インビボ環境における長期生存を確実にすることができる。例えば、細胞を、細胞の増殖及び維持のための前駆体媒体といった適切な培地中で増殖させて、コンフルエンスまで増殖させることができる。例えば、1mg/mlのグルコースを加えた0.05%トリプシンを含むホスフェート緩衝食塩水(PBS);0.1mg/mlのMgCl.sub.2、0.1mg/mlのCaCl.sub.2(完全なPBS)にトリプシンを不活性化するための5%の血清を加えたものなどの緩衝液を用いて細胞を培養基質から遊離させる。細胞を、遠心分離を用いてPBSによって洗浄することができ、次いで、トリプシンを含まない注入用に選択した濃度の完全なPBS中に再懸濁することができる。
【0083】
非経口投与に適した医薬品組成物の調合物は、滅菌水又は無菌等張食塩水などの薬学的に許容可能な担体と組み合わされた活性成分を含む。そのような調合物を調製し、パッケージし、又は、ボーラス投与又は連続投与に適した形態で販売することができる。注射可能な調合物を調製し、パッケージし、又は、アンプルなどの単位投薬形態で若しくは防腐剤を含む複数用量容器に入れて販売してもよい。限定されるものではないが、非経口投与用調合物には、懸濁液、溶液、油性又は水性媒質中のエマルション、パスタ剤、及び、徐放性又は生物分解性の移植可能な調合物が含まれる。限定されるものではないが、そのような調合物は、懸濁剤、安定化剤、又は、分散剤を含む1つ以上のさらなる成分をさらに含んでいてもよい。
【0084】
本発明は、CNS、PNS、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、膵臓などを含む身体内の疾病又は外傷を治療するその他の治療手段と組み合わせてリプログラミングされた細胞を移植するステップをも包含する。従って、本発明のリプログラミングされた細胞は、副腎から得たクロム親和性細胞、胎児脳組織細胞及び胎盤細胞などの、患者に有益な効果を与える遺伝子操作された細胞及び遺伝子操作されていない細胞といったその他の細胞と共に共移植してもよい。従って、本明細書で開示されている方法は、本明細書で提供されている教示を参照した当業者によって理解されるように、その他の治療手段と組み合わせることができる。
【0085】
本発明のリプログラミングされた細胞を、それぞれ本明細書に組み込まれている米国特許第5,082,670号及び第5,618,531号に記載されているような当業界で公知の技術を用いて患者に、又は、身体内のその他のあらゆる適切な部位に「裸」で移植することができる。
【0086】
リプログラミングされた細胞は、単一細胞からなる混合物/溶液、又は、細胞集団の懸濁液を含む溶液として移植することができる。そのような集団の直径は、およそ10〜500マイクロメートルであり、より好ましくはおよそ40〜50マイクロメートルである。リプログラミングされた細胞集団は、1球体当たりおよそ5〜100個の細胞を含んでいてもよく、より好ましくはおよそ5〜20個の細胞を含む。移植細胞の密度は、1マイクロリットル当たり細胞数で、およそ10,000〜1,000,000個まで変わってもよく、より好ましくは1マイクロリットル当たりおよそ25,000〜500,000個の細胞であってもよい。
【0087】
本発明のリプログラミングされた細胞の移植は、当業界において周知の技術及び今後開発される技術を用いて、実行することができる。本発明は、リプログラミングされた細胞を動物(好ましくはヒト)に、移植(transplanting)、移植(grafting)、注入、又は、さもなければその他の方法で導入する方法を含む。
【0088】
リプログラミングされた細胞を、マイクロカプセル化(例えば、本明細書に組み込まれている米国特許第4,352,883号;第4,353,888号;及び第5,084,350号参照)又はマクロカプセル化(例えば、本明細書に組み込まれている米国特許第5,284,761;第5,158,881;第4,976,859;及び第4,968,733;並びに国際公開WO92/19195;WO95/05452参照)を含む公知のカプセル化技術に従って、カプセル化して用いることによって生活性分子を送達してもよい。マクロカプセル化するためにそのデバイス中の細胞数を変えてもよく、各デバイスが、好ましくは約103個〜109個の細胞を含み、最も好ましくは約105個〜107個の細胞を含む。いくつかのマクロカプセル化デバイスを患者に移植してもよい。細胞のマクロカプセル化及び移植の方法は、当業界において周知であり、例えば米国特許第6,498,018号に記載されている。
【0089】
治療目的、又は、患者組織における統合及び分化を追跡する方法のために、本発明のリプログラミングされた細胞を用いて、非自己タンパク又は非自己分子を発現させることができる。従って、本発明は、例えば、Sambrook et al.(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク)、及び、Ausubel et al.(1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons、ニューヨーク)に記載されているようなリプログラミングされた細胞における外来性DNAの同時発現と共に、非自己DNAをリプログラミングされた細胞に導入するための発現ベクター及び方法を含む。
【0090】
本発明の実施形態は、本発明の方法によって生産された細胞を含む組成物にも関する。別の実施形態においては、本発明は、少なくとも1つのHDACの活性を抑制することによってリプログラミングされた細胞を含む組成物に関する。さらに別の実施形態において、本発明は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導することによってリプログラミングされた細胞を含む組成物に関する。
【0091】
本発明の実施形態は、細胞を少なくとも1つのHDAC阻害剤と接触させることによって生産されるリプログラミングされた細胞にも関する。
【0092】
本発明の実施形態は、本発明の方法及び組成物を準備するためのキットにも関する。このキットは、特に、リプログラミング細胞の生産、ES様細胞及び幹細胞様細胞の作成、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現の誘導、並びに、少なくとも1つのHDACの活性の阻害に使用することができる。このキットは、少なくとも1つのHDAC阻害剤を含んでいてもよい。このキットは、複数のHDAC阻害剤を含んでいてもよい。HDAC阻害剤を、単一の容器中に又は複数の容器中に提供することができる。
【0093】
このキットは、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する遺伝子の誘導について試験するための試剤、HDACの阻害について試験するための試剤、及び、クロマチン構造のリモデリングについて試験するための試剤といった、これらに限定されない細胞がリプログラミングされたかどうか判断するために必要な試剤を含んでいてもよい。
【0094】
このキットは、神経単位、骨芽細胞、筋細胞、上皮細胞及び肝細胞などを含む、これらに限定されない特定の系統又は複数の系統にリプログラミングされた細胞を分化させるために用いることができる試剤を含んでいてもよい。
【0095】
このキットは、キット中に提供されている成分の使用を記載した説明資料を含んでいてもよい。ここで用いられているように、「説明資料」は、出版物、録音、線図、又は、本発明の方法(特に分化細胞のリプログラミングに作用するため)の有用性を伝えるために用いることができるその他の表現の媒体をキット中に含む。選択的に又は代替的に、この資料は、本発明の細胞を再分化及び/又はトランス分化する1つ以上の方法を説明してもよい。本発明のキットの説明資料は、例えば、HDAC阻害剤を含む容器に貼付されていてもよい。代替的に、説明資料及びHDAC阻害剤又はその成分がレシピエントによって協調的に用いられることを意図して、説明資料を容器と別に発送してもよい。
【0096】
以下の実施例を参照して本発明を説明する。これらの実施例は説明のみを目的として提供されており、本発明は、いかなる態様においてもこれらの実施例に限定されるように解釈されないが、むしろ、ここに提供されている教示から明らかになる全ての変形を包含するように解釈されるべきである。米国特許、許可された米国特許出願又は公表された米国特許出願を含む、これらに限定されないすべての参考文献は、この明細書において参照することによってそれらの全体が組み込まれている。
【0097】
実施例
以下の実施例は例示的なものに過ぎず、請求項によって定義した本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【0098】
実施例1:
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、ヒストンタンパクをアセチル化し、また、DNAを脱メチル化し、それによって、少なくとも2つの経路でクロマチン構造を修飾することが示されている。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の存在下及び非存在下において、細胞が多能性であることに寄与する遺伝子の発現レベルを試験した。本実施例においては、バルプロ酸(VPA)を用いたが、あらゆるヒストンデアセチラーゼ阻害剤を用いてもよい。
【0099】
方法
細胞培養液
初代ヒト肺細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、10%のウシ胎児血清(FBS、Hyclone)及び0.5%のペニシリン及びストレプトマイシンを含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM、Hyclone)において、5%CO2、湿度95%、37℃で保持した。1mMのVPAの存在下、5mMのVPAの存在下、又は、VPAの非存在において細胞を3日間培養した。
【0100】
量的RT−PCR
Oct−4及びNanogの発現を、各培養条件(0mMのVPA、1mMのVPA及び5mMのVPA)についてリアルタイムRT−PCRによって測定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。Oct−4及びNanogの発現レベルをGAPDに対して標準化した。
【0101】
胚性タックマン低密度配列分析
細胞が多能性であることに寄与するいくつかの遺伝子(「スターンネス遺伝子」)の発現レベルを、ヒト胚性タックマン低密度配列分析(TLDA)を用いて決定した。いくつかのスターンネス遺伝子:GABRB3、LEFTB、NR6A1、PODXL及びPTENを分析した。さらに、DNAメチル基転移酵素DNMT3Bの発現レベルを決定した。90個のES細胞並びに発生遺伝子及び6個の内因性制御遺伝子を含むApplied Biosystems社のヒト胚性TLDAを、相対的発現レベルを測定するための量的リアルタイムRT−PCR(Applied Biosystems社、フォスターシティ、カリフォルニア)のために用いた。簡潔に言えば、ABI高容量cDNA逆転写キット(ABI;フォスターシティ、カリフォルニア)を用いたRNAの逆転写の後に、150ngのサンプルcDNAを含む50μlのl核酸分解酵素非含有水+ユニバーサルタックマン2×PCRマスター混合物を、TLDAマイクロ流体カードの各ポートにピペットで移し、ABI7900HTファストリアルタイムPCRシステムによって分析した。ΔΔCT方法を用いて、処理を行っていないコントロール細胞に対する、処理を行った細胞の遺伝子発現レベルにおける相対量(倍率変化)を算出した。処理を行った細胞を連邦政府が承認したヒトES細胞と比較してもよい。
【0102】
重亜硫酸塩シークエンシング
重亜硫酸塩シークエンシングは、メチル化のパターンを決定するためのDNAの重亜硫酸塩処理の使用である。重亜硫酸塩シークエンシングは、重亜硫酸塩によるDNAの処理がシトシン残基をウラシルに変換するが、5−メチルシトシン残基には作用しないという事実に基づいている。従って、重亜硫酸塩処理は、個々のシトシン残基のメチル化状態に依存するDNA塩基配列に特定の変化を導入し、DNAの一部分のメチル化状態に関する非常に分解能が高い情報を与える。
【0103】
多能性遺伝子プロモータのメチル化を重亜硫酸塩シークエンシングによって分析した。簡潔に、フェノールクロロホルム−イソアミルアルコール抽出によってDNAを精製した。重亜硫酸塩変換は、製造社のプロトコル(Zymo Research社;オレンジ、カリフォルニア)に従って、EZ DNAメチル化キットを用いて行った。非CpGジヌクレオチド中の全シトシンのウラシルへの転換率は、100%であった。変換されたDNAを、ヒトOct−3/4、Nanog及びSOX2用プライマーを用いたPCRによって増幅させた。PCR産物をTOPO TAクローニングキット(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)によって大腸菌中にクローンした。各サンプルの10クローンをSP6及びT7のプライマーを用いた配列決定によって確認した。対象とされる各プロモータについての全体メチル化パーセンテージ、及び、既知のCpGについてのメチル化されたシトシンの数を、細胞集団間で比較した。
【0104】
結果
図1に示すように、Oct−4の発現は、5mMのVPAで処理した初代ヒト肺細胞において、コントロール細胞(MC)と比較してアップレギュレートされた(〜2.7倍;p<0.01)。これらの結果は、HDAC阻害剤が、細胞が多能性であることに寄与する遺伝子の誘導又は発現増加を生じさせ得ることを実証する。
【0105】
5mMのVPA中で3日間培養した細胞を用いて、いくつかの「スターンネス」遺伝子の発現レベルを分析した。図2に示すように、胚性タックマン低密度配列分析は、以下のスターンネス遺伝子のアップレギュレーション:GABRB3(p<0.05);LEFTB(p<0.05);NR6A1(p<0.03);PODXL(p<0.05);PTEN(p<0.01)(1グループ当たりn=3の重複測定)を明らかにした。さらに、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNMT3Bはダウンレギュレートされた。FOXD3、NR5A2、ターシャリ、LIFR、SFRP2、TFCP2L1、LIN28、SOX2及びXISTといった、コントロール細胞において検出されなかったその他のいくつかのスターンネス関連遺伝子は、VPA処理を行った細胞において誘導された。
【0106】
重亜硫酸塩シークエンシングによってOct−4遺伝子の第1エクソンを分析した。重亜硫酸塩シークエンシングによって、未処理(−)及び処理(+)細胞においてOct−4から上流においてメチル化されたシトシンが明らかになった(3F−3R)(図3参照)。さらに、処理を行った細胞のOct−4のプロモータ/第1エクソン領域中のCpGジヌクレオチド中の2個のシトシンが脱メチル化されていた(図3参照)。これらのパターンは、いくつかのクローンにおいて一致していた(データは示されていない)。
【0107】
HDAC阻害剤が、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する遺伝子の発現を誘導することができ、DNAメチル基転移酵素の発現を減少させることができ、及び、DNA中のシトシンを脱メチル化することは、これらの結果によって実証されている。さらに、HDAC阻害剤は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する遺伝子のプロモータ領域中のシトシンの脱メチル化を生じさせることができる。
【0108】
実施例2:
HDAC7 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4、Nanog及びSox2のmRNA発現のレベルに対する影響を試験した。さらに、独立した試験群において、HDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4、Nanog及びSox2のmRNA発現のレベルに対する影響を試験した。3種類のヒト皮膚繊維芽細胞:成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)及び胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)を用いた。
【0109】
方法
ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa、HDFn及びHDFf)にshRNAレンチウイルスを感染させてHDAC7を阻害した。独立した試験群において、ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa、HDFn及びHDFf)にshRNAレンチウイルス感染させてHDAC11を阻害した。RNAをHDF(ピューロマイシン選択を含む)から分離し、RT−PCRを適用してターゲット遺伝子(例えばOct−4、Nanog、Sox2、様々なHDAC、及び、様々なSIRT遺伝子)の発現を分析した。shRNA構築物は、shRNAのトランスフェクションが成功した細胞を選択する方法としてピューロマイシン(抗生物質)耐性を含んでいた。トランスフェクション後に、ピューロマイシンを培地に加えると、抵抗性を示さない(従ってトランスフェクトされていない)細胞が死滅し、それによって、トランスフェクトされた細胞のみが培地に残る。
【0110】
細胞培養液
ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃、及び5%CO2で保持した。
【0111】
レンチウイルス感染
ヒト皮膚繊維芽細胞にshRNA構築物を感染させた。shRNA構築物はDharmacon社から入手した。shRNA構築物は、HDAC7aを対象としており、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0112】
配列番号2:AGCGAGACTTCATGGACGAの配列を有するshRNA構築物はHDAC11を対象としていた。
【0113】
さらに、配列番号3:TGGTGGTATACAATGCAGGの配列を有するshRNA構築物はHDAC11を対象としていた。
【0114】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。これらの試験群においては、HDAC7又はHDAC11のいずれかを対象とするshRNA構築物を細胞に感染させた。
【0115】
量的RT−PCR
Oct−3/4及びNanogの発現をリアルタイムRT−PCRによって決定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)を、オリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。グリセルアルデヒド3−ホスフェート−デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対してOct−3/4及びNanogの発現レベルを標準化した。
【0116】
結果
HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるNanog遺伝子のmRNAレベルに対する影響を、図4A(HDFa)、図4B(HDFn)及び図4C(HDFf)に示す。3種類の細胞すべてについて、HDAC7及びHDAC11ノックダウンの両方は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下の両方において、Nanog遺伝子のmRNAレベルが増加した(成人及び新生児のヒト皮膚繊維芽細胞について示す)。細胞種HDFa及びHDFnについては、少なくとも6倍の時間にわたってNanogの発現が増加した。ピューロマイシン選択を行っても行わなくてもNanog mRNAレベルの増加がみられた。図4Aに報告するように、HDAC11に対する干渉と比較して、HDAC7に対する干渉は、NanogのmRNA発現の迅速な増加をもたらした。しかしながら、さらに時間が経過すると、Nanog遺伝子のmRNAレベルの増加は、HDAC7又はHDAC11のいずれが干渉されているかにかかわらず、同程度であった。Nanog遺伝子のmRNAレベルの増加は、HDFfにおいてもみられたが、HDFa及びHDFnについてみられたほど強いものではなかった。
【0117】
HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4遺伝子のmRNAレベルに対する影響を、図5A(HDFa)、図5B(HDFn)及び図5C(HDFf)に示す。HDAC7及びHDAC11ノックダウンの両方は、細胞種HDFa及びHDFnにおいて、Nanog遺伝子のmRNAレベルを増加させた。Oct−4の発現の増加は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下の両方においてみられた(図5A及び図5B)。Nanog遺伝子と比較して、Oct−4遺伝子のmRNAレベルのより緩やかな増加がみられた。
【0118】
図6は、HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染による、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるSox−2のmRNAレベルに対する影響を報告する。Sox−2遺伝子のmRNAレベルの誘導はみられなかった。
【0119】
図7は、HDAC7 shRNAレンチウイルス感染による様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子のmRNA発現レベルに対する影響を報告する。図7に示すように、HDAC9、HDAC5及びHDAC11 mRNAの発現は、HDAC7 shRNA感染の3日後に誘導された。HDAC7 mRNAのレベルは、レンチウイルス感染の3日後に基礎レベルの約50%に低下した。
【0120】
1つのHDACの阻害(この場合はHDAC7)は、その他のいくつかのHDAC遺伝子の発現を増加させた。HDACは密接に関連しており、おそらくは、冗長的機能又は少なくとも同様の機能を有するように発達してきた。1つのファミリーが抑制されると、その抑制されたメンバーを補うように、その他のファミリーメンバーの発現が増加することがある。HDACが重大な役割を果たしており、従って、冗長的及び/又は代償的な経路が発達したのかもしれない。細胞をリプログラミングする1つの機構は、冗長的及び/又は代償的な経路を担うための複数のファミリーメンバーを同時に又は連続的にターゲットにするものであってもよい。細胞をリプログラミングするその他のメカニズムは、同じファミリーの阻害タンパクを同時に又は連続的にターゲットにすること、又は、調節タンパクの異なるファミリーの阻害タンパクをターゲットにするものであってもよい。
【0121】
実施例4:
HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4、Nanog及びSox2のmRNA発現レベルに対する影響を試験した。同じ試験において、HDAC7及びHDAC11を干渉し、様々な遺伝子の発現に対する効果を決定した。3種類のヒト皮膚繊維芽細胞:成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)及び胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)を用いた。
【0122】
方法
ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa、HDFn及びHDFf)にshRNAレンチウイルスを感染させてHDAC7及びHDAC11を阻害した。RNAを、HDF(ピューロマイシン選択を含む)から分離し、RT−PCRを適用して例えばOct−4、Nanog、Sox2、様々なHDAC、及び、様々なSIRT遺伝子といったターゲット遺伝子の発現を分析した。shRNA構築物は、shRNAのトランスフェクションが成功した細胞を選択する方法としてピューロマイシン(抗生物質)耐性を含んでいた。トランスフェクション後に、ピューロマイシンを培地に加えると、抵抗性を示さない(従ってトランスフェクトされていない)細胞が死滅し、それによって、トランスフェクトされた細胞のみが培地に残る。
【0123】
細胞培養液
ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃及び5%CO2で保持した。
【0124】
レンチウイルス感染
ヒト皮膚繊維芽細胞にshRNA構築物を感染させた。shRNA構築物をDharmacon社から入手した。このshRNA構築物は、HDAC7aを対象としており、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0125】
配列番号2:AGCGAGACTTCATGGACGAの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0126】
さらに、配列番号3:TGGTGGTATACAATGCAGGの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0127】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology社、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。
【0128】
量的RT−PCR
Oct−3/4及びNanogの発現をリアルタイムRT−PCRによって決定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)を、オリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。Oct−3/4、Nanog及びSox−2の発現レベルを、グリセルアルデヒド3−ホスフェート−デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0129】
結果
図8に報告するように、Nanog発現は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下において、細胞種HDFf及びHDFnの両方について、HDAC7及びHDAC11のダブルノックダウンによって増加した。Nanog発現は、細胞種HDFfにおいて急速に増加し、第5日まで一致した反応がみられた。細胞種HDFaにおいては穏やか効果がみられた。
【0130】
図9は、HDAC7及びHDAC11の二重又は同時的shRNA干渉中におけるOct−4のmRNA発現に対する効果を報告する。Oct−4発現の増加は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下の両方においてみられた。細胞種HDFnについて強い効果がみられ、そのmRNA発現は、HDAC7又はHDAC11のいずれかのシングルノックダウンと比較して、Oct−4について増加した。
【0131】
図10に報告するように、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞においてSox−2発現が常に生じていた。Sox−2の発現は、HDAC7及びHDAC11のダブルノックダウンによって維持された。
【0132】
図11は、HDAC7及びHDAC11の二重shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞における様々なHDAC遺伝子のmRNA発現に対する効果を報告する。HDAC9の発現の強い増加がみられた。HDAC5の発現も増加した。その他の遺伝子において穏やかな効果がみられた(図11参照)。
【0133】
図12は、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7及びHDAC11の二重shRNA干渉中の様々なHDAC遺伝子のmRNA発現に対する効果を報告する。第7日にピューロマイシン選択によってHDAC9発現の強い増加がみられた。第7日にピューロマイシン選択によってその他の様々なHDAC遺伝子の発現が低下した(図12参照)。
【0134】
図13は、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7及びHDAC11の二重shRNA干渉中の様々なHDAC遺伝子のmRNA発現に対する効果を報告する。ピューロマイシン選択を行っていない日及びピューロマイシン選択を行った第5日にもHDAC9の発現の強い増加が見られた。HDAC5の発現も増加した。その他の遺伝子において穏やかな効果がみられた(図13参照)。
【0135】
これらの結果は、shRNA構築物が、HDACをコードする遺伝子の発現を抑制するために用いられることができ、また、細胞のリプログラミングに関与する2つの遺伝子であるOct−4及びNanogなどの多能性遺伝子の発現を誘導することができることを実証している。さらに、これらの結果は、細胞に分化能力を取り戻させることにおいてHDACの阻害が必須の役割を果たすことを実証している。本発明の方法を用いて、あらゆるHDAC又はHDAC関連タンパクを構造的に又は機能的に阻害することができる。
【0136】
代償的経路、冗長的経路、又は、代償性かつ冗長的経路のすべてを説明するために、1つ以上のHDAC、又は、多分化能遺伝子のサイレンシングに関与するその他のあらゆるタンパクを抑制してもよい。阻害タンパクの同じファミリーの1つ以上のタンパク、又は、阻害タンパクの2つの異なるファミリーの2つ以上のタンパクを抑制してもよい。細胞をリプログラミングするための効率的な1つの機構は、冗長的な経路、代償的な経路、又は、冗長的かつ代償的な経路内の複数のタンパクを抑制することであってもよい。この抑制経路内で機能するタンパクを、shRNA、HDAC阻害剤、小分子阻害剤、又は、上に列挙されているものの任意の組合せによって抑制してもよい。
【0137】
実施例5:
HDAC7 shRNAレンチウイルス感染によるHDAC11の発現に対する影響を試験した。3種類のヒト皮膚繊維芽細胞:成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)及び胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)を用いた。
【0138】
方法
細胞培養液
ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃、及び、5%CO2で保持した。
【0139】
レンチウイルス感染
ヒト皮膚繊維芽細胞にshRNA構築物を感染させた。shRNA構築物をDharmacon社から入手した。このshRNA構築物は、HDAC7aを対象としており、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0140】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology社、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。
【0141】
量的RT−PCR
HDAC7a及びHDAC11の発現をリアルタイムRT−PCRによって決定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)を、オリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。HDAC7a及びHDAC11の発現レベルを、グリセルアルデヒド3−ホスフェート−デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0142】
結果
HDAC7a shRNAを感染させた胎児ヒト膚線維芽細胞においては、HDAC7aの発現は減少したが、HDAC11の発現が増加した(図14A)。新生児ヒト膚線維芽細胞(図14B)及び胎児ヒト膚線維芽細胞(図14C)において同様の結果が得られた。この発現の増加は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下のいずれにおいてもみられた。HDAC11発現は、試験を行った3つの細胞種のすべてにおいて代償的態様でアップレギュレートされた。多能性遺伝子の発現を低下させることに関与する調節タンパクをコードする遺伝子の発現を阻害することは、調節タンパクをコードするその他の遺伝子の発現を増加させることがある。調節タンパクの1つのファミリー又は調節タンパクの複数のファミリーを対象とする複数の薬剤は、細胞をリプログラミングする効率的な手段であることもある。その薬剤には、小分子阻害剤及びshRNA構築物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0143】
実施例6
HDAC7、HDAC11又はDNMT1を対象とするレンチウイルスshRNAに感染した細胞を、多能性遺伝子の発現に関して染色及び視覚化を行った。この実施例においてはOct−4及びSox−2のタンパク発現を分析したが、本発明の方法を用いて細胞のリプログラミング又は細胞に分化能力を取り戻させることに関与するあらゆる遺伝子の発現を増加させることができることは、当業者に理解されるであろう。
【0144】
方法
細胞培養液
胎児ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃、及び、5%CO2で保持した。
【0145】
レンチウイルス感染
胎児ヒト皮膚繊維芽細胞に以下の組成物:(1)DNMT1を対象とするshRNAレンチウイルス;(2)HDAC7を対象とするshRNAレンチウイルス;(3)DNMT1及びHDAC7を対象とするshRNAレンチウイルス;及び(4)HDAC7a及びHDAC11を対象とするshRNAレンチウイルスの1つを感染させた。shRNA構築物をDharmacon社から入手した。HDAC7aを対象とするshRNA構築物は、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0146】
配列番号2:AGCGAGACTTCATGGACGAの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0147】
さらに、配列番号3:TGGTGGTATACAATGCAGGの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0148】
DNMT1を対象とするshRNA構築物は、配列番号4:GTCTACCAGATCTTCGATAの配列を有していた。
【0149】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology社、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。
【0150】
免疫組織化学
免疫組織化学的検査のために、ターゲットshRNAに感染した細胞及びコントロール細胞をチャンバスライド(LabTek社、ネーパービル、イリノイ)において増殖させた。次いで、細胞を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、製造社のプロトコルに従って、多分化能マーカOct−3/4(Abcam社、ケンブリッジ、マサチューセッツ)を対象とする特異的抗体と共にインキュベートした。Oct−3/4の染色を赤色で視覚化した。核をDAPI染色(Vectorshield社)で視覚化すると青色に見えた。
【0151】
結果
Oct−4タンパク発現は、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)においてshRNA干渉によって増加した。図15Aは、感染させていないHDFf(ネガティブコントロール)の写真である。図15Gは、ヒトES細胞(ポジティブコントロール)の写真である。ネガティブコントロール細胞において、Oct−4タンパクの発現はほとんど検出されなかった。図15Bは、DNMT1を対象とするshRNAに感染したHDFf細胞の写真である。細胞がDNMT1shRNAに暴露されると、Oct−4タンパク発現が明らかに増加する。HDAC7shRNAを感染させたHDFf細胞においては、最小限のOct−4タンパクが検出された(図15C)。これは、この特定のサンプルの処理によるものであるかもしれない。
【0152】
DNMT1shRNA及びHDAC7 shRNAに感染した細胞は、Oct−4タンパクの発現の劇的な増加を示した(図15D)。DNMT1shRNA及びHDAC7 shRNAの両方で処理した細胞は、ヒトES細胞(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア)に非常に類似した発現パターンをもたらす(図15E)。これらのデータは、Oct−4遺伝子発現の増加がOct−4タンパク発現の増加に至るというここで与えられているデータを確証付ける。DNMT及びHDAC11は、転写の活性化の制御及びクロマチンリモデリングに関して別個の機能を有している。2つの独立した調節グループのメンバーの阻害は、Oct−4の発現を劇的に増加させた。DNMT1及びHDAC11に感染した細胞においてもOct−4タンパク発現が増加した(図15E)。DNMT1及び複数のHDACの阻害は、結果的にOct−4タンパクの発現を増加させた。
【0153】
HDAC7及びHDAC11 shRNAに感染した細胞においては、Oct−4の発現に検出可能な増加はみられなかった(図15F)。これは実験系の限界のせいであるかもしれない。代替的に、この結果は、多能性遺伝子の発現を最適に増加させるためには、複数の経路を抑制すべきであることを示唆している可能性もある。別個の調節性複合体において機能するタンパクをコードする遺伝子の発現を阻害することによって、多能性遺伝子のより高い発現レベルをもたらす可能性がある。あらゆる調節性複合体のあらゆるメンバーを抑制してもよい。
【0154】
Sox−2タンパク発現は、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)においてshRNA干渉によって増加した。図16Aは、感染していないHDFf(ネガティブコントロール)の写真である。図16Gは、ヒトES細胞(図16G)の写真である。ネガティブコントロール細胞においては、Sox−2タンパクの発現がほとんど検出されなかった。図16Bは、DNMT1を対象とするshRNAに感染したHDFf細胞の写真である。核染色がみられたが、わずかな量のSox−2タンパクが検出された。HDAC7shRNA及びDNMT1shRNAに感染したHDFf細胞においては、最小限のSox−2タンパクが検出された(図16C)。これは、この特定のサンプルの処理のせいである可能性がある。
【0155】
DNMT1shRNA及びHDAC11 shRNAに感染した細胞は、Sox−2タンパクの発現の劇的な増加を示した(図16D)。2つの独立した調節グループのメンバーの阻害によって、Sox−2の発現が劇的に増加した。HDAC7 shRNAに感染した細胞は、最小限のSox−2のタンパク発現を示した(図16E)。Sox−2タンパク発現は、HDAC7及びHDAC11に感染した細胞においても増加した(図16F)。DNMT1及び複数のHDACの阻害は、Sox−2タンパクの発現を増加させた。
【0156】
これらの結果は、ヒストンデアセチラーゼ及びDNAメチル基転移酵素の阻害が、細胞のリプログラミングに関与する多能性遺伝子の発現を増加させたことを実証している。2つの別個のshRNA構築物は、2つの独立した調節タンパクをターゲットにしており、その結果、Oct−4及びSox−2タンパクの発現が劇的に増加した。多能性遺伝子の転写の阻害又は抑制に関与する1つよりも多い調節タンパクを阻害することは、細胞をリプログラミングし、細胞に分化能を取り戻させる効率的なメカニズムである可能性がある。
【0157】
ヒストンデアセチラーゼ及び関連ファミリーメンバーの阻害を用いて、多能性遺伝子の発現を増加させることができ、また、分化細胞をリプログラミングすることができる。これらのリプログラミング方法は、卵子、胚又はES細胞に無関係である。更に、これらの方法は、悪影響を与え得るウイルスベクターに無関係である。また、これらの方法は、c−myc及びKlf4などの腫瘍誘発遺伝子にも無関係である。
【0158】
さらに、本発明の方法を用いて体細胞核移植(SCNT)を用いずに分化細胞をリプログラミングすることができる。SCNTは非常に非能率的であり、リプログラミング分野に重大な限定が課される。本方法はSCNTの必要性を軽減する。
【0159】
本方法は、強いリポーター因子を有する人工ベクターに対する効果の測定とは対称的に、多能性の内因性遺伝子及びタンパクの発現の増加を実証した。人工ベクターは、内因性遺伝子と同じクロマチン構造を有しておらず、また、その他の遺伝子及びゲノムの環境を作り出すプロモータ因子を有していない。人工ベクターは、天然ゲノムの環境を再現するために必要な天然因子の多くを有していない。ここで与えられている結果は、ヒト細胞の処理及び内因性遺伝子に対する効果の測定から得られた効果を表している。
【0160】
最後に、ここで与えられているデータは、ヒストンデアセチラーゼの機能を抑制又は変更することが、分化細胞のリプログラミング及び分化能力の回復に関与する1つのステップであることを実証している。
【0161】
本明細書中においては特定の実施形態を図示及び説明したが、示されている特定の実施形態に代えて同じ目的を達成するように意図されたあらゆる配置を用いてもよいことは当業者に理解されるであろう。本出願は、記載されている本発明の原理に従って機能するあらゆる脚色又は変形を包含するように意図されている。従って、本発明は、特許請求の範囲及びその均等物のみによって限定されるように意図されている。本出願において引用されている特許、参考文献及び刊行物の開示は、参照することによって本明細書中に組み込まれている。
【技術分野】
【0001】
[関連特許出願の相互参照]
本出願は、2006年8月1日に提出した米国特許出願第11/497,064号の一部継続出願である。この米国特許出願は、35U.S.C.第119条(e)に基づいて2005年8月1日に提出した米国仮出願60/704,465の利益を主張し、また、35U.S.C.第119条(e)に基づいて、2008年4月7日に提出した米国仮出願第61/042,890号;2008年4月7日に提出した米国仮出願第61/043,066号;2008年4月7日に提出した米国仮出願第61/042,995号;及び、2008年11月12日に提出した米国仮出願第61/113,971号の利益を主張する。これらの各文献はここで言及することによって全体が組み込まれている。
[技術分野]
本発明の実施形態は、細胞生物学、幹細胞、細胞分化、体細胞核移植及び細胞ベース治療の分野に関する。より詳細には、本発明の実施形態は、細胞リプログラミングのための方法、組成物及びキット並びに細胞ベース治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、多数のヒト疾患の治療として高い将来性があるが、低いクローン効率、潜在的多能性組織の供給不足、並びに、どのようにして細胞分化をコントロールするか、及び、選択した治療にどんな種類のES細胞を用いることができるかに関する全般的知識の欠如といったいくつかの困難な技術的課題が必然的に伴う。万能細胞は、並はずれた創造自在性を有しているが、未分化の万能細胞は、組織型が混在した奇形腫(良性腫瘍)を形成することがある。さらに、1つの源から別のところへの万能細胞の移植は、おそらく新たな細胞の拒絶を防止するための薬剤投与が必要である。
【0003】
胎児に由来しない組織から幹細胞を生成する新たな手段を確立する試みがなされてきる。1つのアプローチは、自己成体幹細胞の操作を含む。自己成体幹細胞を再生医療に用いる長所は、その細胞が同じ患者に由来し、同じ患者に戻されるので、従って、免疫媒介性拒絶反応を受けることがないという事実である。欠点は、これらの細胞が、万能細胞の創造自在性及び多分化能を充分には有しておらず、従って、潜在能力が不明であるということである。もう1つのアプローチは、成人組織に由来する体細胞をリプログラミングして、多能性ES様細胞を作成することを目的とする。しかしながら、多細胞生命体内の各細胞種は、細胞が分化するか又は細胞周期から逸脱すると固定されると考えられるユニークな後成的特徴を有しているので、このアプローチは困難であった。
【0004】
細胞内DNAは、通常、クロマチン形態、すなわち、核酸とタンパクとからなる複合体で存在する。実際に、ほとんどの細胞内RNA分子も、核タンパク複合体の形態で存在する。当業者に知られているように、クロマチンの核タンパク構造は、広く研究の対象とされてきた。一般に、染色体DNAは、ヌクレオソーム中にパッケージングされる。ヌクレオソームは、コア及びリンカーを含む。ヌクレオソームコアは、染色体DNAの約150塩基対で周囲を包まれたコアヒストン(H2A、H2B、H3及びH4の各2つ)の8量体を含む。さらに、約50塩基対のリンカーDNA部分は、リンカーヒストンH1に結合している。ヌクレオソームは、高次クロマチン繊維に組み立てられる。また、クロマチン繊維は、染色体に組み立てられる。例えば、Wolffe「Chromatin:Structure and Function」(3.sup.rd Ed.,Academic Press,サンディエゴ,1998年)を参照されたい。
【0005】
クロマチン構造は、不変ではないが、クロマチンリモデリングとしてまとめて知られているプロセスによる修飾を受ける。クロマチンリモデリングは、例えば、DNAの領域からヌクレオソームを取り除くこと;DNAの1つの領域から他の領域にヌクレオソームを移動させること;ヌクレオソーム間の間隔の変更;又は、染色体中のDNAの領域にヌクレオソームを加えるように機能できる。クロマチンリモデリングは、結果的に高次構造を変化させることができ、それによって、転写的活性クロマチン(開放クロマチン又はユークロマチン)と転写的不活性クロマチン(閉鎖クロマチン又はヘテロクロマチン)との間のバランスに影響する。
【0006】
染色体タンパクは、多数の種類の化学的修飾の対象である。これらのコアヒストンの翻訳後修飾の1つのメカニズムは、保存された高塩基性N末端リジン残基のイプシロンアミノ基の可逆的アセチル化である。ヒストンアセチル化の定常状態は、競合的ヒストンアセチルトランスフェラーゼと、本明細書中においてHDACと呼ばれるヒストンデアセチラーゼとの動的平衡によって確立される。
【0007】
HDACは、配列同一性及びドメイン構成に依存した少なくとも4つのクラス:クラスI:HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC8;クラスII:HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7A、HDAC9、HDAC10;クラスIII:哺乳動物のサーチュイン(SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、SIRT7);及び、クラスIV:HDAC11に分類される。クラスI HDACは、酵母転写調節因子RPD3に最も似ている。クラスII HDACは、酵母HDA1酵素に最も似ている。
【0008】
ヒストンのアセチル化及び脱アセチルは、長い間、転写調節に関連づけられていた。ヒストンの可逆的アセチル化は、クロマチンをリモデリングすることができるので、遺伝子転写のコントロール機構として作用し得る。一般に、ヒストンの高アセチル化は、遺伝子発現を容易にするが、ヒストン脱アセチルは、転写の抑制に関連している。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは、転写のコアクチベータとして作用することが示されているが、デアセチラーゼは、転写の抑制経路に属することがわかっている。
【0009】
ヒストンのアセチル化と脱アセチルとの動的平衡は、正常な細胞増殖に不可欠である。ヒストン脱アセチルの阻害は、細胞周期停止、細胞分化、アポトーシス、及び、変化した表現型の逆行を生じさせる。
【0010】
分化して特殊化した表現型への多能性細胞又は全能細胞の変化は、変化の間に発現される遺伝子群によって決定される。遺伝子発現は、ポジティブな制御又はネガティブな制御のいずれかを生じさせ得る遺伝子調節タンパクの配列特異的結合によって直接的に媒介される。しかしながら、直接的に遺伝子発現を媒介するこれらの調節タンパクの能力のすべては、細胞内DNA内のそれらの結合部位の接近容易性に少なくとも一部は依存する。上で論じられているように、細胞内DNA中の配列の接近容易性は、多くの場合、細胞内DNAがパッケージングされる細胞内クロマチンの構造に応じて変化する。
【0011】
従って、転写抑制に関与するHDACの活性を抑制することができる方法、組成物及びキットを含む、多分化能に必要な遺伝子の発現を誘導することができる方法、組成物及びキットを明らかにすることは有用であろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、細胞をリプログラミングするための方法、組成物及びキットに関する。本発明の実施形態は、多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、本発明は、リプログラミングされた細胞を生産するステップにも関する。本発明のさらに別の実施形態においては、HDAC阻害剤を使用することによって、少なくとも1つのHDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制するステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、本発明は、HDAC修飾因子を使用することによって、少なくとも1つのHDACの活性、発現、又は、活性及び発現を変化させるステップを具える方法に関する。この方法は、少なくとも1つの多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと、細胞をリプログラミングするステップとをさらに具える。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態は、細胞をリプログラミングする方法であって、細胞、細胞の集団、細胞培養液、細胞培養液から得た細胞の亜群、均一な細胞培養液、又は、不均一な細胞培養液を、HDAC修飾因子に接触させるステップと、少なくとも1つの多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと、細胞をリプログラミングするステップとを具える方法にも関する。この方法は、リプログラミングされた細胞を再分化させるステップをさらに具える。
【0014】
別の実施形態においては、本発明は、HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制するための薬剤の使用に関する。その薬剤は、HDACの発現、活性又は発現及び活性を抑制することができるあらゆる分子又は化合物であってもよい。限定されるものではないが、この薬剤には、HDAC阻害剤、小分子、核酸配列、DNA塩基配列、RNA配列、shRNA配列及びRNA干渉が含まれる。
【0015】
別の実施形態においては、本発明は、HDACの活性を抑制するタンパクの活性、発現、又は、活性及び発現を誘導するための薬剤の使用に関する。この薬剤は、HDACを抑制するタンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を誘導することができるあらゆる分子又は化合物であってもよい。限定されるものではないが、この薬剤には、小分子、核酸配列、DNA塩基配列、RNA配列、shRNA配列、及びRNA干渉が含まれる。
【0016】
HDAC阻害剤を用いて、HDACの活性を抑制することができる。限定されるものではないが、HDAC阻害剤には、TSA、ナトリウムブチレート、バルプロ酸、ボリノスタット、LBH−589、アピシジン、TPX−HA類似化合物、CI−994、MS−275、MGCD0103、及び、これらの誘導体又は類似化合物が含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態においては、少なくとも1つのHDAC阻害剤が少なくとも1つのHDACを抑制してもよい。さらに別の実施形態においては、1よりも多いHDAC阻害剤が、同時に又は連続的に少なくとも1つのHDACを抑制してもよい。HDAC阻害剤は、クラスIのHDAC、クラスIIのHDAC、クラスIIIのHDAC、クラスIVのHDAC、又は、未知若しくは未分類のHDACを対象としていてもよい。HDAC阻害剤は、1よりも多いクラスのHDAC又はすべてのクラスのHDACを対象としていてもよい。HDAC阻害剤の組合せは、1よりも多いHDACを抑制することができ、同時に又は連続的に用いることができる。
【0018】
別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞の集団を暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;多能性又は分化多能性の細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと;及び、前記選択した細胞を増殖させて細胞の集団を作るステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップとを具える方法に関する。
【0019】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する第1薬剤に細胞を暴露させるステップと;第2調節タンパクの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する第2薬剤に前記細胞を暴露させるステップであって、前記第2調節タンパクがHDACとは異なる機能を有しているステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;細胞を選択ステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップとを具える方法に関する。別の実施形態においては、細胞又は細胞の集団を、第1薬剤及び第2薬剤に同時に又は連続的に暴露させてもよい。
【0020】
さらに別の実施形態において、本発明は、少なくとも1つのHDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に第1表現型を有する細胞を暴露させるステップと、その細胞の第1表現型を、その細胞を前記薬剤に暴露させてリプログラミングされた細胞を選択した後に得られる表現型と比較するステップとを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、この方法は、細胞を前記薬剤に暴露させる前の細胞の遺伝子型を、前記細胞を前記薬剤に暴露させた後に得られる細胞の遺伝子型と比較するステップを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、少なくとも1つのHDACの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制する薬剤に細胞を暴露させる前の細胞の表現型及び遺伝子型を、その細胞を前記薬剤に暴露させた後の細胞の表現型及び遺伝子型と比較するステップを具える。
【0021】
他の実施形態において、この方法は、選択した細胞を培養するか又は増殖させて細胞の集団にするステップを含む。さらに別の実施形態においては、この方法は、多能性又は分化多能性の遺伝子によってコードされるタンパクに結合する抗体、又は、分化多能性マーカー又は多能性マーカーに結合する抗体を用いて細胞を分離するステップを具える。これらのマーカーは、限定されるものではないが、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81を含む。限定されるものではないが、蛍光細胞活性化分類装置、免疫組織化学及びELISAを含む細胞分離に効率的なあらゆる方法を用いて細胞を分離することができる。別の実施形態においては、この方法は、原細胞よりも未分化な状態の細胞を選択するステップを具える。
【0022】
さらに別の実施形態において、本発明は、前記薬剤に暴露させる前の多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造を、前記薬剤に暴露させた後に得られるクロマチン構造と比較するステップをさらに具える。
【0023】
別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:第1転写パターンを有する細胞を、HDACの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する薬剤に暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;その細胞の第1転写パターンを、前記薬剤に暴露させた後に得られる転写パターンと比較するステップと;及び、細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法に関する。
【0024】
さらに別の実施形態においては、細胞を選択するステップが、ES細胞の分析された転写パターンに少なくとも5%〜10%、10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、90%〜94%、95%又は95%〜99%類似する転写パターンをその細胞が有することを明らかにするステップを具える。ES細胞の全転写パターンの比較を行う必要はないが、行ってもよい。限定されるものではないが、代わりに、1〜5、5〜10、10〜25、25〜50、50〜100、100〜200、200〜500、500〜1,000、1,000〜2,000、2,000〜2,500、2,500〜5,000、5,000〜10,000、及び、10,000を超える遺伝子を含む胚性遺伝子の亜群を比較してもよい。二元的態様で転写パターンを比較してもよい。すなわち、その遺伝子が転写されるか否かを決定するように比較を行ってもよい。別の実施形態においては、各遺伝子又は遺伝子の亜群についての転写の速度及び/又は程度を比較してもよい。限定されるものではないが、RT−PCR、定量PCR、マイクロアレイ、サザンブロット、及び、ハイブリダイゼーションを含む当業界において知られているあらゆる方法を用いて転写パターンを測定することができる。
【0025】
本発明の実施形態は、本明細書に開示されている方法に従って生産したリプログラミング細胞を用いて様々な疾病を治療するステップを具える方法も含む。さらに別の実施形態においては、本発明は、リプログラミング細胞、及び、再分化したリプログラミング細胞の治療的使用にも関する。
【0026】
本発明の実施形態は、本発明の方法に従って生産されるリプログラミングされた細胞にも関する。リプログラミングされた細胞は、1つ以上の系統に再分化することができる。リプログラミングされた細胞は、分化多能性であってもよいし又は多能性であってもよい。
【0027】
さらに別の実施形態においては、本発明は、以下のステップ:細胞の集団を、ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;多能性又は分化多能性の細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと、及び、選択した前記細胞を増殖させて細胞の集団にするステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法によって生産されるリプログラミング細胞の濃縮された集団に関する。
【0028】
さらに別の実施形態においては、リプログラミングされた細胞が、多能性細胞を示す細胞表面マーカーを発現する。そのマーカーは、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択される。さらに別の実施形態においては、限定されるものではないが、リプログラミングされた細胞が、Oct−4、Sox−2及びNanogを含む多能性遺伝子を発現する。さらに別の実施形態においては、リプログラミングされた細胞が、細胞の高密度集団(enriched population)の少なくとも5%〜10%、10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、90%〜95%、96%〜98%、又は、少なくとも99%以上を占める。
【0029】
本発明の実施形態は、本発明の方法及び組成物を作成するためのキットにも関する。このキットは、特に、細胞をリプログラミングすること、及び、ES様細胞及び幹細胞様細胞を作成するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、バルプロ酸(VPA)で処理した初代ヒト肺細胞におけるOct−4のアップレギュレーションを報告する棒グラフである。
【図2】図2は、HDAC阻害剤(VPA)で処理した初代ヒト肺細胞における、幹細胞様特性を与えるいくつかの遺伝子のアップレギュレーションを報告する棒グラフである。
【図3】図3は、VPAで処理した細胞におけるOct−4の第1エクソン中の2個のシトシンの脱メチル化を報告する説明図である。
【図4】図4Aは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。図4Bは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。図4Cは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。
【図5】図5Aは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。図5Bは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。図5Cは、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。
【図6】図6は、HDAC7又はHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Sox−2に対する効果を報告するグラフである。
【図7】図7は、HDAC7 shRNA干渉中のヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現によって測定された様々なHDAC及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図8】図8は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の、成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)、及び、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Nanogに対する効果を報告するグラフである。
【図9】図9は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)、及び、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Oct−4に対する効果を報告するグラフである。
【図10】図10は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の、成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)、及び、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された遺伝子Sox−2に対する効果を報告するグラフである。
【図11】図11は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図12】図12は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図13】図13は、二重のHDAC7及びHDAC11 shRNA干渉中の新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるmRNA発現の倍率変化によって測定された様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子に対する効果を報告するグラフである。
【図14】図14Aは、成人ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7a及びHDAC11の発現に対するHDAC7a shRNAの効果を報告するグラフである。ピューロマイシンがない状態及びある状態の両方で培養した細胞のデータを報告する。図14Bは、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7a及びHDAC11の発現に対するHDAC7a shRNAの効果を報告するグラフである。ピューロマイシンがない状態及びある状態の両方で培養した細胞のデータを報告する。図14Cは、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7a及びHDAC11の発現に対するHDAC7a shRNAの効果を報告するグラフである。
【図15】図15Aは、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Bは、DNMT1 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Cは、HDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Dは、DNMT1及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Eは、DNMT1及びHDAC11 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Fは、HDAC11及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図15Gは、ヒトES細胞の写真である。
【図16】図16Aは、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Bは、DNMT1 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Cは、DNMT1及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。 図16Dは、DNMT1及びHDAC11 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Eは、HDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Fは、HDAC11及びHDAC7 shRNAで影響された胎児ヒト皮膚繊維芽細胞の写真である。図16Gは、ヒトES細胞の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[定義の詳細な説明]
この開示における数値範囲は近似のものであり、従って、別段の定めがない限り、数値範囲の外側の値を含んでいてもよい。任意の低い方の値と任意の高い方の値との間の少なくとも2単位が分離されていれば、数値範囲は、低い方の値と高い方の値との間で1単位ずつ増加させたすべての値を含み、その低い方の値及びその高い方の値を含む。一例として、例えば、分子量、粘度、メルトインデックスなどの組成的特性、物理的特性、その他の特性が100〜1,000であれば、100、101、102といったすべての個別値、及び、100〜144、155〜170、197〜200といったすべての部分的範囲が明示的に列挙されていることを意図する。1未満の値を含む範囲又は1よりも大きい小数部分(例えば1.1、1.5など)を含む範囲については、必要に応じて、1単位が0.0001、0.001、0.01又は0.1であるとみなす。10未満(例えば1〜5)の1桁の数を含む範囲については、1単位は通常0.1であるとみなす。これらは、特に意図されたものの一例に過ぎない。また、列挙されている最低値と列挙されている最高値との数値の可能な組合せは、この開示において明示的に記載されているとみなす。数値範囲は、特に、混合物中の成分の相対量、並びに、この方法に列挙されている様々な温度及びその他のパラメータの範囲のために、この開示において提供されている。
【0032】
「細胞(cell)」又は「細胞(cells)」には、別段の定めがない限り、あらゆる体細胞、胚幹(ES)細胞、成体幹細胞、器官特異的幹細胞、核移植(NT)ユニット及び幹様細胞が含まれる。細胞(cell)又は細胞(cells)をあらゆる器官又は組織から得ることができる。細胞(cell)又は細胞(cells)はヒト又はその他の動物であってもよい。例えば、細胞は、マウス、モルモット、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどであってもよい。細胞は、ヒト以外の霊長類から得てもよい。
【0033】
「培地」又は「増殖培地」は、細胞の増殖をサポートすることができる適切な媒体を意味する。
【0034】
「分化」は、胚発生中の細胞が構造的及び機能的に特殊化するプロセスを意味する。
【0035】
「後生遺伝」は、ヌクレオチド配列の変化を伴わずに引き継がれる機能変化に関するDNAの状態を意味する。後成的変化は、DNAのヌクレオチド配列の変化を伴わないメチル化及び脱メチル化などのDNAの修飾によって生じ得る。
【0036】
「ヒストン」は、DNAが核内に収容されるように十分にDNAを圧縮することに関与する染色体中にみられるタンパク分子のクラスを意味する。
【0037】
「ヒストンデアセチラーゼ阻害剤」及び「ヒストンデアセチラーゼの阻害剤」は、ヒストンデアセチラーゼと相互作用して、その酵素活性を抑制できる化合物を意味する。「ヒストンデアセチラーゼ活性を抑制する」とは、ヒストンデアセチラーゼがヒストン又はその他のタンパクなどの適切な基質からアセチル基を除去する能力を低下させることを意味する。ヒストンデアセチラーゼ活性のそのような低下は、いくつかの実施形態においては少なくとも約10%〜25%であり、別の実施形態においては少なくとも約50%であり、別の実施形態においては少なくとも約75%であり、また、別の実施形態においては少なくとも約90%である。さらに、ヒストンデアセチラーゼ活性は、さらに別の実施形態においては少なくとも95%低下し、他の実施形態においては少なくとも99%低下する。
【0038】
「ノックダウン」は、遺伝子特異的態様で遺伝子の発現を抑制することを意味する。1個又はそれ以上の遺伝子の「ノックダウン」を有する細胞を、「ノックダウン」生命体又は単に「ノックダウン」と呼ぶ。
【0039】
「多能性」は、3つの胚葉又は一次組織種の細胞種に分化できることを意味する。「多能性遺伝子」は、細胞が多能性であるのに寄与する遺伝子を意味する。「多能性細胞培養液」は、由来した元の胎児又は成人の分化細胞と明らかに相違した形態を示していれば、「実質的に未分化である」と考えられる。多能性細胞は、通常、核/細胞質の高い比、顕著な核小体、及び、識別可能性が低い細胞間結合による高密度コロニー形成を有しており、当業者によって容易に認識される。未分化細胞のコロニーは、周囲の分化細胞に囲まれ得ることがわかっている。しかしながら、適切な条件で培養すれば実質的に未分化のコロニーは生存し、培養細胞を分配するときに未分化細胞が増殖細胞の高い割合を構成する。この開示において記載されている有用な細胞集団は、これらの条件を満たす実質的に未分化の多能性細胞を任意の割合で含む。実質的に未分化の細胞培養液は、少なくとも約20%、少なくとも40%、少なくとも60%、又は、少なくとも80%もの未分化多能性細胞を含んでいてもよい(集団における全細胞のパーセンテージ)。
【0040】
「調節タンパク」は、ポジティブな制御及びネガティブな制御を含む生物学的プロセスを制御するあらゆるタンパクを意味する。調節タンパクは、生物学的プロセスに対する直接的効果又は間接的効果を有し、直接的に又は複合体に加わることを通じて作用を発揮することができる。
【0041】
「リプログラミング」は、核の後成的マーカーを除去し、その後に、異なる後成的マーカー群を確立することを意味する。異なる細胞及び組織は、多細胞生物の成長中に遺伝子発現の異なるプログラムを獲得する。これらの異なる遺伝子発現パターンは、DNAメチル化、ヒストン修飾及びその他のクロマチン結合タンパクなどの後成的修飾によって実質的に制御されていると考えられる。従って、多細胞生物内の各細胞型は、従来から、細胞が分化するか又は細胞周期から逸脱すると、「固定され」、かつ、不変になると考えられているユニークな後成的特性を有する。しかしながら、いくつかの細胞は、正常な成長又は特定の疾病状況において大規模な後成的「リプログラミング」を受ける。
【0042】
「分化全能性」は、完全な胚又は器官に成長できることを意味する。
【0043】
本発明の実施形態は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップを具える方法に関する。別の実施形態においては、本発明は、細胞が分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップを具える方法に関する。いくつかの実施形態において、この方法は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップと、少なくとも1系統への誘導された分化が可能なリプログラムされた細胞を生産するステップとを具える。
【0044】
本発明の実施形態は、クロマチン構造を修飾するステップと、多能性又は分化多能性となるように細胞をリプログラミングするステップとを具える方法にも関する。さらに別の実施形態において、クロマチン構造を修飾するステップは、HDACの活性を抑制するステップを具える。
【0045】
別の実施形態において、この方法は、HDACの活性を抑制するステップと、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップとを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、HDACの活性を抑制するステップと、リプログラミングされた細胞を生産するステップとを具える。
【0046】
さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞を暴露させるステップと;多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと;及び、細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法にも関する。多能性又は分化多能性の遺伝子は、限定されるものではないが、発現において0.25−0.5、0.5−1、1.0−2.5、2.5−5、5−10、10−15、15−20、20−40、40−50、50−100、100−200、200−500及び500超といったあらゆる倍率増加で誘導してもよい。別の実施形態においては、この方法は、分化細胞を平板培養するステップと、HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に前記分化細胞を暴露させるステップと、前記細胞を培養するステップと、リプログラミングされた細胞を識別するステップとを具える。
【0047】
別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、HDACの活性を抑制する調節タンパクの活性、発現、又は、活性及び発現を誘導する薬剤に細胞を暴露させるステップと、多能性又は分化多能性の遺伝子の発現を誘導するステップと、細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法に関する。調節タンパクの活性又は発現は、限定されるものではないが、1%〜5%、5%〜10%、10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、90%〜95%、95%〜99%、99%〜200%、200%〜300%、300%〜400%、400%〜500%及び500%以上といった任意の量で増加してもよい。
【0048】
さらに別の実施形態においては、この方法は、多能性又は分化多能性の遺伝子よってコードされるタンパク若しくはタンパク断片又は多能性表面マーカーに対する抗体を用いて細胞を選択するステップをさらに具える。モノクローナル抗体、ポリクローンナル抗体、抗体の断片、ペプチド疑似分子、活性領域に対する抗体、及び、タンパクの保存領域に対する抗体を含むあらゆる種類の抗体を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
さらに別の実施形態において、この方法は、多能性若しくは分化多能性の遺伝子又は多能性又は分化多能性の表面マーカーによって駆動されたリポーターを用いて細胞を選択するステップをさらに具える。蛍光タンパク、緑色蛍光タンパク、シアン蛍光タンパク(CFP)、黄色蛍光タンパク(YFP)、細菌ルシフェラーゼ、クラゲエクオリン、強化緑色蛍光タンパク、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、dsRED、β−ガラクトシダーゼ及びアルカリフォスファターゼを含むあらゆる種類のリポーターを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
さらに別の実施形態において、この方法は、抗生物質、殺真菌剤、ピューロマイシン、ヒグロマイシン、ジヒドロ葉酸還元酵素、チミジンキナーゼ、ネオマイシン抵抗性(neo)、G418抵抗性、ミコフェノール酸抵抗性(gpt)、ゼオシン抵抗性タンパク、及び、ストレプトマイシンに対する抵抗性を含む抵抗性を選択可能なマーカーとして用いて、細胞を選択するステップをさらに具える。抵抗性はこれらに限定されるものではない。
【0051】
さらに別の実施形態において、この方法は、HDACの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に前記細胞を暴露させる前の細胞の多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造を、前記薬剤による処理後に得られる多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造と比較するステップをさらに具える。ユークロマチン、ヘテロクロマチン、ヒストンアセチル化、ヒストンメチル化、ヒストン又はヒストンの成分存在及び不存在、ヒストンの位置、ヒストンの配置、及び、クロマチンに関連した調節タンパク存在又は不存在といったクロマチン構造のあらゆる態様を比較することができるが、これらに限定されるものではない。エンハンサー因子、活性化因子、プロモータ、TATAボックス、転写開始部位の上流領域、転写開始部位の下流領域、エクソン及びイントロンといった任意の遺伝子領域のクロマチン構造を比較することができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
さらに別の実施形態において、この方法は、少なくとも1つのHDACの活性を抑制するステップと、CpGジヌクレオチド中の少なくとも1個のシトシンを脱メチル化するステップと、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現の誘導するステップと、を具える。
【0053】
さらに別の実施形態においては、この方法は、細胞をHDAC阻害剤に接触させるステップと;HDACの活性を抑制するステップと;及び、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導するステップとを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、リプログラミングされた細胞を生産するステップをさらに具える。リプログラミングされた細胞は、多能性であってもよいし又は分化多能性であってもよい。
【0054】
この方法のHDAC阻害剤、本発明の組成物及びキットは、あらゆるHDACと相互作用してもよい。例えば、本発明のHDAC阻害剤は、4個の知られているクラスのHDACの1つに由来するHDACと相互作用してもよい。本発明のHDAC阻害剤は、クラスI、クラスII、クラスIII又はクラスIVのHDACと相互作用してもよい。HDAC阻害剤は、1つの特定のクラスのHDACと相互作用してもよいし、すべてのクラスのHDACと相互作用してもよいし、又は、限定されるものではないが、クラスI及びクラスII;クラスI及びクラスIII;クラスI及びクラスIV;クラスII及びクラスIII;クラスII及びクラスIV;クラスIII及びクラスIV;クラスI、II及びIII;クラスII、III及びIV;及びクラスI、II、III及びIVといった複数のクラスのHDACと相互作用してもよい。HDAC阻害剤は、公知のクラスのいずれにも当てはまらないHDACと相互作用してもよい。
【0055】
HDAC阻害剤は、不可逆的作用機構を有していてもよいし又は可逆的作用作用機構を有していてもよい。限定されるものではないが、HDAC阻害剤は、ミリモル(mM)、マイクロモル(μM)、ナノモル(nM)、ピコモル(pM)及びフェムトモル(fM)といったあらゆる結合親和性を有していてもよい。
【0056】
そのような阻害は特異的であることが好ましい。すなわち、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、その他の無関係な生物学的作用を生じさせるのに必要な阻害剤の濃度よりも低い濃度において、ヒストンデアセチラーゼがヒストンからアセチル基を除去する能力を低下させることが好ましい。ヒストンデアセチラーゼ抑制活性に必要な阻害剤の濃度は、無関係な生物学的作用を生じさせ得るのに必要な濃度と比べて、少なくとも2倍少ないことが好ましく、少なくとも5倍小さいことがより好ましく、少なくとも10倍小さいことがさらに好ましく、少なくとも20倍小さいことが最も好ましい。
【0057】
別の実施形態においては、HDAC阻害剤は、HDACの触媒ドメインを含む亜鉛に結合することによって作用してもよい。この作用機構を有するHDAC阻害剤は、いくつかのグループ:(i)トリコスタチンAなどのヒドロキサム酸;(ii)環状テトラペプチド;(iii)ベンズアミド;(iv)求電子性ケトン;及び(v)フェニルブチレート及びバルプロ酸などの脂肪酸化合物群に分類される。
【0058】
さらに別の実施形態においては、HDAC阻害剤は、サーチュインクラスIII HDACを対象としていてもよく、サーチュインクラスIII HDACは、NAD+依存性であり、限定されるものではないが、ニコチン酸アミド、NADの誘導体、ジヒドロクマリン、ナフトピラノン及び2−ヒドロキシナフトアルデヒドを含む。
【0059】
さらに別の実施形態においては、HDAC阻害剤は、非ヒストンエフェクター分子のアセチル化度を変えることによって遺伝子の転写を増加させることができる。本発明の方法、組成物及びキットのHDAC阻害剤は、単なるHDACの酵素抑制因子として作用するものとして考えるべきではない。限定されるものではないが、ACTR、cMyb、p300、CBP、E2F1、EKLF、FEN1、GATA、HNF−4、HSP90、Ku70、NFκB、PCNA、p53、RB、Runx、SF1 Sp3、STAT、TFIIE、TCF及びYY1といった様々な非ヒストン転写因子及び転写共調節因子は、アセチル化によって修飾されることがわかっている。アセチル化される転写の活性化に関与するあらゆる転写因子又はタンパクの活性を本発明の方法によって増大させることができる。
【0060】
表1は、HDAC阻害剤として機能し得る化合物の代表的リストを提供する。表1における「アイソタイプ」との表現は、化合物が特定のクラスのHDACに対する選択性を有しているかどうかに関する洞察を単に提供するように意図されている。HDACの特定のアイソタイプ又はクラスをリストに記載することは、化合物がそのアイソタイプ又はクラスに対する親和性を有していることを単に意味するように解釈してはならない。本発明のHDAC阻害剤には、本明細書中に記載されているすべてのHDAC阻害剤の誘導体及び類似化合物が含まれる。
【0061】
酪酸又は酪酸塩は確認された最初のHDAC阻害剤であった。しかしながら、ミリモル濃度において、酪酸塩は、HDACに対して特異的ではなく、核タンパクのリン酸化及びメチル化並びにDNAメチル化を抑制することもある。類似化合物(フェニルブチレート)は同じ態様で作用する。より特異的なものはトリコスタチンA(TSA)及びトラポキシン(TPX)である。TPX及びTSAはヒストンデアセチラーゼの阻害剤として知られるようになった。TSAはHDAC酵素を可逆的に抑制するが、TPXはHDAC酵素に不可逆的に結合して不活性化する。酪酸塩と異なり、その他の酵素系の非特異抑制は、TSA又はTPXについてまだ報告されていない。
【0062】
バルプロ酸もヒストンデアセチラーゼ活性を抑制する。VPAは、様々な分子の作用機構に依存した複数の生物活性を有する公知の薬剤である。VPAは抗てんかん剤である。VPAは催奇性である。VPAは、妊娠中に抗てんかん剤として用いたとき、生まれた子供の数パーセントにおいて先天性欠損(神経管閉鎖障害及びその他の奇形)を生じさせる可能性がある。マウスにおいては、適切に投薬すると、VPAは、大多数のマウス胚において催奇性である。VPAは核ホルモン受容体(PPARデルタ)を活性化する。
【0063】
表1 HDAC阻害剤として機能し得る化合物の代表的リスト
【0064】
様々なHDAC阻害剤は、Sigma Aldrich社(セントルイス、ミズーリ)から入手可能であり、限定されるものではないが、APHA化合物;アピシジン;デプデシン;スクリプタイド;シルチノール;及びトリコスタチンAを含む。また、さらなるHDAC阻害剤は、Vinci−Biochem社(Italy)から入手可能であり、限定されるものではないが、5−アザ−2’−デオキシシチジン;CAY10398;CAY10433;6−クロロ−2,3,4,9−テトラヒドロ−1H−カルバゾール−1−カルボキサミド;HC毒素;ITSA1;M344;MC1293;MS−275;オキサムフラチン;PXD101;SAHA;スクリプタイド;シルチノール;スプリトマイシンを含む。デクサメタゾンをあらゆるHDAC阻害剤と組み合わせて用いてもよい。例えば、5−アザ−2’−デオキシシチジンデクサメタゾンを含む組成物を、デクサメタゾンと組み合わせて用いることができる。
【0065】
限定されるものではないが、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11〜15個、16〜20個及び21〜25個のHDAC阻害剤といったHDAC阻害剤のあらゆる数、あらゆる組合せ及びあらゆる濃度を用いることができる。阻害タンパクの1つ又はそれ以上のファミリーが阻害されることもある。限定されるものではないが、小分子阻害剤、HDAC阻害剤、shRNA、RNA干渉及び小さい干渉RNAといった阻害の1つ又はそれ以上のメカニズムを用いてもよい。
【0066】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、代償的経路において機能する2つ以上の阻害タンパクを抑制するステップを具える方法に関する。別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、冗長経路において機能する2つ以上のタンパクを抑制するステップを含む方法に関する。さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、1つ又はそれ以上のHDACタンパクを抑制するステップと、抑制されたHDACを補うように機能する1つ又はそれ以上のタンパクを抑制するステップと、を具える方法に関する。1つの阻害タンパク、例えばHDACの抑制は、1つ又はそれ以上のその他の阻害タンパクの発現を増加させることがある。冗長的なタンパク、代償的なタンパク、又は、冗長的かつ代償的なタンパクの発現を抑制するステップは、shRNA、RNA干渉、HDAC阻害剤及び小分子阻害剤といった限定されないあらゆる適切な方法を用いて実行してもよい。
【0067】
さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法において、阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制するステップであって、前記阻害タンパクの抑制は、その他の阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性、の増加を生じさせないステップを具える方法に関する。
【0068】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法において、阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制するステップであって、前記阻害タンパクの抑制が、代償的タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性の増大を生じさせないステップを具える方法に関する。
【0069】
さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法において、阻害タンパクの発現、活性、又は、発現及び活性を抑制するステップであって、前記阻害タンパクの抑制が、冗長的タンパク発現、活性、又は、発現及び活性の増大を生じさせないステップを具える方法に関する。
【0070】
さらに別の実施形態において、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって、調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する1つよりも多い薬剤に細胞を暴露させるステップであって、前記調節タンパクが、同一のファミリー又は異なるタンパクファミリーであってもよいステップを具える方法に関する。さらに別の実施形態においては、本発明は、細胞をリプログラミングする方法であって:第1調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する薬剤に細胞を暴露させるステップと;前記第1調節タンパクとは異なる機能を有する第2調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する第2薬剤に前記細胞を暴露させるステップと、を具える方法に関する。限定されるものではないが、第1調節タンパク及び第2調節タンパクは、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、トリコスタチンA、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン、及び、サーチュインアクチベータ、核レセプタ、オーファン核受容体、Esrrβ及びEsrrγといったタンパクの発現の制御又は変化に関与するあらゆるタンパクであってもよい。
【0071】
本発明の方法に従って生産されるリプログラミングされた細胞は、多能性であってもよいし又は分化多能性であってもよい。本発明の方法に従って生産されるリプログラミングされた細胞は、ES様細胞特性を含む様々な異なる特性を有し得る。例えば、リプログラミングされた細胞は、未分化状態で少なくとも10継代、少なくとも15継代、少なくとも20継代、又は、少なくとも30継代以上にわたって増殖することができる。その他の形態では、リプログラミングされた細胞は、分化せずに1年間以上にわたって増殖することができる。リプログラミングされた細胞は、増殖及び/又は分化しても正常核型を維持することもできる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、インビトロにおいて未分化状態で無限増殖の能力を有する細胞になり得る。いくつかのリプログラミングされた細胞は、長期的培養を通じて正常核型を維持することもできる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、長期的培養の後でさえも、3つの胚性胚葉のすべて(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)の誘導体に分化する能力を維持することができる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、生命体中のあらゆる細胞型を形成することもできる。いくつかのリプログラミングされた細胞は、未分化増殖を維持しない媒体による増殖などの特定の条件下で胚様体を形成することができる。例えば、いくつかのリプログラミングされた細胞は、胚盤胞と融合することによってキメラを形成できる。
【0072】
リプログラミングされた細胞を様々なマーカーによって決定することができる。例えば、いくつかのリプログラミングされた細胞はアルカリフォスファターゼを発現する。いくつかのリプログラミングされた細胞はSSEA−1、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、及び/又は、TRA−1−81を発現する。いくつかのリプログラミングされた細胞は、Oct−4、Sox2及びNanogを発現する。例えば、細胞表面又は細胞内において、いくつかのリプログラミングされた細胞がmRNAのレベルでそれらを発現し、さらに他の細胞がタンパクレベルでそれらを発現することは理解されるであろう。
【0073】
リプログラミングされた細胞は、リプログラミングされたあらゆる細胞特性若しくはカテゴリと、本明細書に記載されている特性とのあらゆる組合せを有していてもよい。例えば、リプログラミングされた細胞は、アルカリフォスファターゼを発現し、SSEA−1を発現せず、少なくとも20継代わたって増殖し、あらゆる細胞種に分化することができる。もう1つのリプログラミングされた細胞は、例えば、細胞表面でSSEA−1を発現し、内胚葉、中胚葉及び外胚葉組織を形成することができ、分化せずに1年間以上培養することができる。
【0074】
リプログラミングされた細胞は、アルカリフォスファターゼ(AP)ポジティブ、SSEA−1ポジティブ及びSSEA−4ネガティブになりえる。リプログラミングされた細胞は、Nanogポジティブ、Sox2ポジティブ及びOct−4ポジティブにもなりえる。リプログラミングされた細胞はTellポジティブ及びTbx3ポジティブにもなりえる。リプログラミングされた細胞は、Criptoポジティブ、Stellarポジティブ及びDazlポジティブにもなりえる。リプログラミングされた細胞は、モノクローナル抗体TRA−1−60(ATCC HB−4783)及びTRA−1−81(ATCC HB−4784)の結合特異性を有する抗体と結合する細胞表面抗原を発現することができる。さらに、本明細書中に開示されているように、リプログラミングされた細胞は、支持細胞層を用いることなく、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20継代にわたって又は1年間以上維持することができる。
【0075】
リプログラミングされた細胞は、繊維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、内皮、間質、平滑筋、心筋、神経細胞、造血細胞、膵島、又は、身体の実質的にすべての細胞を含む異なる血統の種々様々な細胞種に分化する能力を有し得る。リプログラミングされた細胞は、すべての細胞系統に分化する能力を有していてもよい。リプログラミングされた細胞は、1種、2種、3種、4種、5種、6〜10種、11〜20種、21〜30種、及び、30種を超える系統を含むあらゆる数の系統に分化する能力を有していてもよい。
【0076】
細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与するあらゆる遺伝子は、本発明の方法によって誘導されてもよく、限定されるものではないが、グリシンN−メチルトランスフェラーゼ(Gnmt)、八量体−4(Oct−4)、Nanog、SRY(性別決定領域Y)−box2(Sox2としても知られている)、Myc、REX−1(Zfp−42としても知られている)、インテグリンα−6、Rox−1、LIF−R、TDGF1(CRIPTO)、フラジリス、SALL4(Sal様4)、GABRB3、LEFTB、NR6A1、PODXL、PTEN、白血球細胞由来ケモタキシン1(LECT1)、BUB1、並びに、Klf4及びKlf5などのクルッペル様因子(Klf)を含む。細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与するあらゆる数の遺伝子は、本発明の方法によって誘導することができる。この遺伝子は、限定されるものではないが、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11〜20個、21〜30個、31〜40個、41〜50個、及び、50個超の遺伝子を含む。
【0077】
さらに、Ramalho−Santos et al.(Science 298,597(2002))、Ivanova et al.(Science 298、601(2002))及びFortunel et al.(Science 302,393b(2003))はそれぞれ、3種類の幹細胞を比較し、幹細胞の機能的特性を付与するのに重要であると提案された一般に発現される「スターンネス(Sternness)」遺伝子のリストを明らかにした。前述の研究において明らかにされたあらゆる遺伝子を本発明の方法によって誘導してもよい。表2は、幹細胞の機能的特性の付与に関与すると考えられる遺伝子のリストを提供する。表2に一覧された遺伝子に加えて、公知の遺伝子との相同性がほとんど又は全くない93個の発現遺伝子配列断片(EST)集団は、Ramalho−Santos et al,及びIvanova et al,によって明らかにされており、本発明の方法に包含されている。
【0078】
表2 幹細胞特性の付与に関与する遺伝子
【0079】
本発明の実施形態は、細胞をリプログラミングする方法であって、遺伝子のクロマチン構造を修飾するステップと、前記遺伝子の発現を誘導するステップとを具える方法にも関する。別の実施形態において、この方法は、多能性又は分化多能性の遺伝子のクロマチン構造を修飾するステップを具える。さらに別の実施形態において、この方法は、ヒストンを修飾することによってそのクロマチン構造を修飾するステップをさらに具える。限定されるものではないが、ヒストンの修飾には、アセチル化;メチル化;脱メチル化;リン酸化;ユビキチン化;ユビキチン様タンパクによる修飾;ADPリボシル化;脱イミノ化及びプロリン異性化が含まれる。
【0080】
本発明の実施形態は、本明細書中において開示されている方法に従って生産されたリプログラミングされた細胞を用いて様々な疾病を治療する方法を含む。当業者は、本明細書中で与えられている開示に基づいて、心臓病、糖尿病、皮膚病及び皮膚移植、脊椎損傷、パーキンソン病、多発性硬化症並びにアルツハイマー病といったこれらに限定されない非常に多くの疾病の治療における再生医療の価値及び能力を理解するであろう。本発明は、新しく損傷されていない細胞の導入によっていくつかの形態の治療的効果が与えられる疾病を治療するために、ヒトを含む動物にリプログラミングされた細胞を投与する方法を含む。
【0081】
当業者は、リプログラミングされた細胞が、例えばニューロンなどの再分化細胞として動物に投与することができ、その動物の病気に冒された又は破損されたニューロンを置換するのに有用であることを容易に理解するであろう。さらに、リプログラミングされた細胞は、動物に投与可能であり、周辺環境からシグナル及び合図を受けると、近傍の細胞内環境によって指示された所望の細胞種に再分化することができる。代替的に、細胞は、インビトロにおいて再分化することができ、その分化細胞を必要性がある哺乳動物に投与することができる。
【0082】
リプログラミング細胞を移植のために調製して、インビボ環境における長期生存を確実にすることができる。例えば、細胞を、細胞の増殖及び維持のための前駆体媒体といった適切な培地中で増殖させて、コンフルエンスまで増殖させることができる。例えば、1mg/mlのグルコースを加えた0.05%トリプシンを含むホスフェート緩衝食塩水(PBS);0.1mg/mlのMgCl.sub.2、0.1mg/mlのCaCl.sub.2(完全なPBS)にトリプシンを不活性化するための5%の血清を加えたものなどの緩衝液を用いて細胞を培養基質から遊離させる。細胞を、遠心分離を用いてPBSによって洗浄することができ、次いで、トリプシンを含まない注入用に選択した濃度の完全なPBS中に再懸濁することができる。
【0083】
非経口投与に適した医薬品組成物の調合物は、滅菌水又は無菌等張食塩水などの薬学的に許容可能な担体と組み合わされた活性成分を含む。そのような調合物を調製し、パッケージし、又は、ボーラス投与又は連続投与に適した形態で販売することができる。注射可能な調合物を調製し、パッケージし、又は、アンプルなどの単位投薬形態で若しくは防腐剤を含む複数用量容器に入れて販売してもよい。限定されるものではないが、非経口投与用調合物には、懸濁液、溶液、油性又は水性媒質中のエマルション、パスタ剤、及び、徐放性又は生物分解性の移植可能な調合物が含まれる。限定されるものではないが、そのような調合物は、懸濁剤、安定化剤、又は、分散剤を含む1つ以上のさらなる成分をさらに含んでいてもよい。
【0084】
本発明は、CNS、PNS、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、膵臓などを含む身体内の疾病又は外傷を治療するその他の治療手段と組み合わせてリプログラミングされた細胞を移植するステップをも包含する。従って、本発明のリプログラミングされた細胞は、副腎から得たクロム親和性細胞、胎児脳組織細胞及び胎盤細胞などの、患者に有益な効果を与える遺伝子操作された細胞及び遺伝子操作されていない細胞といったその他の細胞と共に共移植してもよい。従って、本明細書で開示されている方法は、本明細書で提供されている教示を参照した当業者によって理解されるように、その他の治療手段と組み合わせることができる。
【0085】
本発明のリプログラミングされた細胞を、それぞれ本明細書に組み込まれている米国特許第5,082,670号及び第5,618,531号に記載されているような当業界で公知の技術を用いて患者に、又は、身体内のその他のあらゆる適切な部位に「裸」で移植することができる。
【0086】
リプログラミングされた細胞は、単一細胞からなる混合物/溶液、又は、細胞集団の懸濁液を含む溶液として移植することができる。そのような集団の直径は、およそ10〜500マイクロメートルであり、より好ましくはおよそ40〜50マイクロメートルである。リプログラミングされた細胞集団は、1球体当たりおよそ5〜100個の細胞を含んでいてもよく、より好ましくはおよそ5〜20個の細胞を含む。移植細胞の密度は、1マイクロリットル当たり細胞数で、およそ10,000〜1,000,000個まで変わってもよく、より好ましくは1マイクロリットル当たりおよそ25,000〜500,000個の細胞であってもよい。
【0087】
本発明のリプログラミングされた細胞の移植は、当業界において周知の技術及び今後開発される技術を用いて、実行することができる。本発明は、リプログラミングされた細胞を動物(好ましくはヒト)に、移植(transplanting)、移植(grafting)、注入、又は、さもなければその他の方法で導入する方法を含む。
【0088】
リプログラミングされた細胞を、マイクロカプセル化(例えば、本明細書に組み込まれている米国特許第4,352,883号;第4,353,888号;及び第5,084,350号参照)又はマクロカプセル化(例えば、本明細書に組み込まれている米国特許第5,284,761;第5,158,881;第4,976,859;及び第4,968,733;並びに国際公開WO92/19195;WO95/05452参照)を含む公知のカプセル化技術に従って、カプセル化して用いることによって生活性分子を送達してもよい。マクロカプセル化するためにそのデバイス中の細胞数を変えてもよく、各デバイスが、好ましくは約103個〜109個の細胞を含み、最も好ましくは約105個〜107個の細胞を含む。いくつかのマクロカプセル化デバイスを患者に移植してもよい。細胞のマクロカプセル化及び移植の方法は、当業界において周知であり、例えば米国特許第6,498,018号に記載されている。
【0089】
治療目的、又は、患者組織における統合及び分化を追跡する方法のために、本発明のリプログラミングされた細胞を用いて、非自己タンパク又は非自己分子を発現させることができる。従って、本発明は、例えば、Sambrook et al.(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク)、及び、Ausubel et al.(1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons、ニューヨーク)に記載されているようなリプログラミングされた細胞における外来性DNAの同時発現と共に、非自己DNAをリプログラミングされた細胞に導入するための発現ベクター及び方法を含む。
【0090】
本発明の実施形態は、本発明の方法によって生産された細胞を含む組成物にも関する。別の実施形態においては、本発明は、少なくとも1つのHDACの活性を抑制することによってリプログラミングされた細胞を含む組成物に関する。さらに別の実施形態において、本発明は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘導することによってリプログラミングされた細胞を含む組成物に関する。
【0091】
本発明の実施形態は、細胞を少なくとも1つのHDAC阻害剤と接触させることによって生産されるリプログラミングされた細胞にも関する。
【0092】
本発明の実施形態は、本発明の方法及び組成物を準備するためのキットにも関する。このキットは、特に、リプログラミング細胞の生産、ES様細胞及び幹細胞様細胞の作成、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現の誘導、並びに、少なくとも1つのHDACの活性の阻害に使用することができる。このキットは、少なくとも1つのHDAC阻害剤を含んでいてもよい。このキットは、複数のHDAC阻害剤を含んでいてもよい。HDAC阻害剤を、単一の容器中に又は複数の容器中に提供することができる。
【0093】
このキットは、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する遺伝子の誘導について試験するための試剤、HDACの阻害について試験するための試剤、及び、クロマチン構造のリモデリングについて試験するための試剤といった、これらに限定されない細胞がリプログラミングされたかどうか判断するために必要な試剤を含んでいてもよい。
【0094】
このキットは、神経単位、骨芽細胞、筋細胞、上皮細胞及び肝細胞などを含む、これらに限定されない特定の系統又は複数の系統にリプログラミングされた細胞を分化させるために用いることができる試剤を含んでいてもよい。
【0095】
このキットは、キット中に提供されている成分の使用を記載した説明資料を含んでいてもよい。ここで用いられているように、「説明資料」は、出版物、録音、線図、又は、本発明の方法(特に分化細胞のリプログラミングに作用するため)の有用性を伝えるために用いることができるその他の表現の媒体をキット中に含む。選択的に又は代替的に、この資料は、本発明の細胞を再分化及び/又はトランス分化する1つ以上の方法を説明してもよい。本発明のキットの説明資料は、例えば、HDAC阻害剤を含む容器に貼付されていてもよい。代替的に、説明資料及びHDAC阻害剤又はその成分がレシピエントによって協調的に用いられることを意図して、説明資料を容器と別に発送してもよい。
【0096】
以下の実施例を参照して本発明を説明する。これらの実施例は説明のみを目的として提供されており、本発明は、いかなる態様においてもこれらの実施例に限定されるように解釈されないが、むしろ、ここに提供されている教示から明らかになる全ての変形を包含するように解釈されるべきである。米国特許、許可された米国特許出願又は公表された米国特許出願を含む、これらに限定されないすべての参考文献は、この明細書において参照することによってそれらの全体が組み込まれている。
【0097】
実施例
以下の実施例は例示的なものに過ぎず、請求項によって定義した本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【0098】
実施例1:
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、ヒストンタンパクをアセチル化し、また、DNAを脱メチル化し、それによって、少なくとも2つの経路でクロマチン構造を修飾することが示されている。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の存在下及び非存在下において、細胞が多能性であることに寄与する遺伝子の発現レベルを試験した。本実施例においては、バルプロ酸(VPA)を用いたが、あらゆるヒストンデアセチラーゼ阻害剤を用いてもよい。
【0099】
方法
細胞培養液
初代ヒト肺細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、10%のウシ胎児血清(FBS、Hyclone)及び0.5%のペニシリン及びストレプトマイシンを含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM、Hyclone)において、5%CO2、湿度95%、37℃で保持した。1mMのVPAの存在下、5mMのVPAの存在下、又は、VPAの非存在において細胞を3日間培養した。
【0100】
量的RT−PCR
Oct−4及びNanogの発現を、各培養条件(0mMのVPA、1mMのVPA及び5mMのVPA)についてリアルタイムRT−PCRによって測定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。Oct−4及びNanogの発現レベルをGAPDに対して標準化した。
【0101】
胚性タックマン低密度配列分析
細胞が多能性であることに寄与するいくつかの遺伝子(「スターンネス遺伝子」)の発現レベルを、ヒト胚性タックマン低密度配列分析(TLDA)を用いて決定した。いくつかのスターンネス遺伝子:GABRB3、LEFTB、NR6A1、PODXL及びPTENを分析した。さらに、DNAメチル基転移酵素DNMT3Bの発現レベルを決定した。90個のES細胞並びに発生遺伝子及び6個の内因性制御遺伝子を含むApplied Biosystems社のヒト胚性TLDAを、相対的発現レベルを測定するための量的リアルタイムRT−PCR(Applied Biosystems社、フォスターシティ、カリフォルニア)のために用いた。簡潔に言えば、ABI高容量cDNA逆転写キット(ABI;フォスターシティ、カリフォルニア)を用いたRNAの逆転写の後に、150ngのサンプルcDNAを含む50μlのl核酸分解酵素非含有水+ユニバーサルタックマン2×PCRマスター混合物を、TLDAマイクロ流体カードの各ポートにピペットで移し、ABI7900HTファストリアルタイムPCRシステムによって分析した。ΔΔCT方法を用いて、処理を行っていないコントロール細胞に対する、処理を行った細胞の遺伝子発現レベルにおける相対量(倍率変化)を算出した。処理を行った細胞を連邦政府が承認したヒトES細胞と比較してもよい。
【0102】
重亜硫酸塩シークエンシング
重亜硫酸塩シークエンシングは、メチル化のパターンを決定するためのDNAの重亜硫酸塩処理の使用である。重亜硫酸塩シークエンシングは、重亜硫酸塩によるDNAの処理がシトシン残基をウラシルに変換するが、5−メチルシトシン残基には作用しないという事実に基づいている。従って、重亜硫酸塩処理は、個々のシトシン残基のメチル化状態に依存するDNA塩基配列に特定の変化を導入し、DNAの一部分のメチル化状態に関する非常に分解能が高い情報を与える。
【0103】
多能性遺伝子プロモータのメチル化を重亜硫酸塩シークエンシングによって分析した。簡潔に、フェノールクロロホルム−イソアミルアルコール抽出によってDNAを精製した。重亜硫酸塩変換は、製造社のプロトコル(Zymo Research社;オレンジ、カリフォルニア)に従って、EZ DNAメチル化キットを用いて行った。非CpGジヌクレオチド中の全シトシンのウラシルへの転換率は、100%であった。変換されたDNAを、ヒトOct−3/4、Nanog及びSOX2用プライマーを用いたPCRによって増幅させた。PCR産物をTOPO TAクローニングキット(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)によって大腸菌中にクローンした。各サンプルの10クローンをSP6及びT7のプライマーを用いた配列決定によって確認した。対象とされる各プロモータについての全体メチル化パーセンテージ、及び、既知のCpGについてのメチル化されたシトシンの数を、細胞集団間で比較した。
【0104】
結果
図1に示すように、Oct−4の発現は、5mMのVPAで処理した初代ヒト肺細胞において、コントロール細胞(MC)と比較してアップレギュレートされた(〜2.7倍;p<0.01)。これらの結果は、HDAC阻害剤が、細胞が多能性であることに寄与する遺伝子の誘導又は発現増加を生じさせ得ることを実証する。
【0105】
5mMのVPA中で3日間培養した細胞を用いて、いくつかの「スターンネス」遺伝子の発現レベルを分析した。図2に示すように、胚性タックマン低密度配列分析は、以下のスターンネス遺伝子のアップレギュレーション:GABRB3(p<0.05);LEFTB(p<0.05);NR6A1(p<0.03);PODXL(p<0.05);PTEN(p<0.01)(1グループ当たりn=3の重複測定)を明らかにした。さらに、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNMT3Bはダウンレギュレートされた。FOXD3、NR5A2、ターシャリ、LIFR、SFRP2、TFCP2L1、LIN28、SOX2及びXISTといった、コントロール細胞において検出されなかったその他のいくつかのスターンネス関連遺伝子は、VPA処理を行った細胞において誘導された。
【0106】
重亜硫酸塩シークエンシングによってOct−4遺伝子の第1エクソンを分析した。重亜硫酸塩シークエンシングによって、未処理(−)及び処理(+)細胞においてOct−4から上流においてメチル化されたシトシンが明らかになった(3F−3R)(図3参照)。さらに、処理を行った細胞のOct−4のプロモータ/第1エクソン領域中のCpGジヌクレオチド中の2個のシトシンが脱メチル化されていた(図3参照)。これらのパターンは、いくつかのクローンにおいて一致していた(データは示されていない)。
【0107】
HDAC阻害剤が、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する遺伝子の発現を誘導することができ、DNAメチル基転移酵素の発現を減少させることができ、及び、DNA中のシトシンを脱メチル化することは、これらの結果によって実証されている。さらに、HDAC阻害剤は、細胞が多能性又は分化多能性であることに寄与する遺伝子のプロモータ領域中のシトシンの脱メチル化を生じさせることができる。
【0108】
実施例2:
HDAC7 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4、Nanog及びSox2のmRNA発現のレベルに対する影響を試験した。さらに、独立した試験群において、HDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4、Nanog及びSox2のmRNA発現のレベルに対する影響を試験した。3種類のヒト皮膚繊維芽細胞:成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)及び胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)を用いた。
【0109】
方法
ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa、HDFn及びHDFf)にshRNAレンチウイルスを感染させてHDAC7を阻害した。独立した試験群において、ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa、HDFn及びHDFf)にshRNAレンチウイルス感染させてHDAC11を阻害した。RNAをHDF(ピューロマイシン選択を含む)から分離し、RT−PCRを適用してターゲット遺伝子(例えばOct−4、Nanog、Sox2、様々なHDAC、及び、様々なSIRT遺伝子)の発現を分析した。shRNA構築物は、shRNAのトランスフェクションが成功した細胞を選択する方法としてピューロマイシン(抗生物質)耐性を含んでいた。トランスフェクション後に、ピューロマイシンを培地に加えると、抵抗性を示さない(従ってトランスフェクトされていない)細胞が死滅し、それによって、トランスフェクトされた細胞のみが培地に残る。
【0110】
細胞培養液
ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃、及び5%CO2で保持した。
【0111】
レンチウイルス感染
ヒト皮膚繊維芽細胞にshRNA構築物を感染させた。shRNA構築物はDharmacon社から入手した。shRNA構築物は、HDAC7aを対象としており、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0112】
配列番号2:AGCGAGACTTCATGGACGAの配列を有するshRNA構築物はHDAC11を対象としていた。
【0113】
さらに、配列番号3:TGGTGGTATACAATGCAGGの配列を有するshRNA構築物はHDAC11を対象としていた。
【0114】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。これらの試験群においては、HDAC7又はHDAC11のいずれかを対象とするshRNA構築物を細胞に感染させた。
【0115】
量的RT−PCR
Oct−3/4及びNanogの発現をリアルタイムRT−PCRによって決定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)を、オリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。グリセルアルデヒド3−ホスフェート−デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対してOct−3/4及びNanogの発現レベルを標準化した。
【0116】
結果
HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるNanog遺伝子のmRNAレベルに対する影響を、図4A(HDFa)、図4B(HDFn)及び図4C(HDFf)に示す。3種類の細胞すべてについて、HDAC7及びHDAC11ノックダウンの両方は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下の両方において、Nanog遺伝子のmRNAレベルが増加した(成人及び新生児のヒト皮膚繊維芽細胞について示す)。細胞種HDFa及びHDFnについては、少なくとも6倍の時間にわたってNanogの発現が増加した。ピューロマイシン選択を行っても行わなくてもNanog mRNAレベルの増加がみられた。図4Aに報告するように、HDAC11に対する干渉と比較して、HDAC7に対する干渉は、NanogのmRNA発現の迅速な増加をもたらした。しかしながら、さらに時間が経過すると、Nanog遺伝子のmRNAレベルの増加は、HDAC7又はHDAC11のいずれが干渉されているかにかかわらず、同程度であった。Nanog遺伝子のmRNAレベルの増加は、HDFfにおいてもみられたが、HDFa及びHDFnについてみられたほど強いものではなかった。
【0117】
HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4遺伝子のmRNAレベルに対する影響を、図5A(HDFa)、図5B(HDFn)及び図5C(HDFf)に示す。HDAC7及びHDAC11ノックダウンの両方は、細胞種HDFa及びHDFnにおいて、Nanog遺伝子のmRNAレベルを増加させた。Oct−4の発現の増加は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下の両方においてみられた(図5A及び図5B)。Nanog遺伝子と比較して、Oct−4遺伝子のmRNAレベルのより緩やかな増加がみられた。
【0118】
図6は、HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染による、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるSox−2のmRNAレベルに対する影響を報告する。Sox−2遺伝子のmRNAレベルの誘導はみられなかった。
【0119】
図7は、HDAC7 shRNAレンチウイルス感染による様々なHDAC遺伝子及びSIRT遺伝子のmRNA発現レベルに対する影響を報告する。図7に示すように、HDAC9、HDAC5及びHDAC11 mRNAの発現は、HDAC7 shRNA感染の3日後に誘導された。HDAC7 mRNAのレベルは、レンチウイルス感染の3日後に基礎レベルの約50%に低下した。
【0120】
1つのHDACの阻害(この場合はHDAC7)は、その他のいくつかのHDAC遺伝子の発現を増加させた。HDACは密接に関連しており、おそらくは、冗長的機能又は少なくとも同様の機能を有するように発達してきた。1つのファミリーが抑制されると、その抑制されたメンバーを補うように、その他のファミリーメンバーの発現が増加することがある。HDACが重大な役割を果たしており、従って、冗長的及び/又は代償的な経路が発達したのかもしれない。細胞をリプログラミングする1つの機構は、冗長的及び/又は代償的な経路を担うための複数のファミリーメンバーを同時に又は連続的にターゲットにするものであってもよい。細胞をリプログラミングするその他のメカニズムは、同じファミリーの阻害タンパクを同時に又は連続的にターゲットにすること、又は、調節タンパクの異なるファミリーの阻害タンパクをターゲットにするものであってもよい。
【0121】
実施例4:
HDAC7及びHDAC11 shRNAレンチウイルス感染によるOct−4、Nanog及びSox2のmRNA発現レベルに対する影響を試験した。同じ試験において、HDAC7及びHDAC11を干渉し、様々な遺伝子の発現に対する効果を決定した。3種類のヒト皮膚繊維芽細胞:成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)及び胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)を用いた。
【0122】
方法
ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa、HDFn及びHDFf)にshRNAレンチウイルスを感染させてHDAC7及びHDAC11を阻害した。RNAを、HDF(ピューロマイシン選択を含む)から分離し、RT−PCRを適用して例えばOct−4、Nanog、Sox2、様々なHDAC、及び、様々なSIRT遺伝子といったターゲット遺伝子の発現を分析した。shRNA構築物は、shRNAのトランスフェクションが成功した細胞を選択する方法としてピューロマイシン(抗生物質)耐性を含んでいた。トランスフェクション後に、ピューロマイシンを培地に加えると、抵抗性を示さない(従ってトランスフェクトされていない)細胞が死滅し、それによって、トランスフェクトされた細胞のみが培地に残る。
【0123】
細胞培養液
ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃及び5%CO2で保持した。
【0124】
レンチウイルス感染
ヒト皮膚繊維芽細胞にshRNA構築物を感染させた。shRNA構築物をDharmacon社から入手した。このshRNA構築物は、HDAC7aを対象としており、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0125】
配列番号2:AGCGAGACTTCATGGACGAの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0126】
さらに、配列番号3:TGGTGGTATACAATGCAGGの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0127】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology社、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。
【0128】
量的RT−PCR
Oct−3/4及びNanogの発現をリアルタイムRT−PCRによって決定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)を、オリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。Oct−3/4、Nanog及びSox−2の発現レベルを、グリセルアルデヒド3−ホスフェート−デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0129】
結果
図8に報告するように、Nanog発現は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下において、細胞種HDFf及びHDFnの両方について、HDAC7及びHDAC11のダブルノックダウンによって増加した。Nanog発現は、細胞種HDFfにおいて急速に増加し、第5日まで一致した反応がみられた。細胞種HDFaにおいては穏やか効果がみられた。
【0130】
図9は、HDAC7及びHDAC11の二重又は同時的shRNA干渉中におけるOct−4のmRNA発現に対する効果を報告する。Oct−4発現の増加は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下の両方においてみられた。細胞種HDFnについて強い効果がみられ、そのmRNA発現は、HDAC7又はHDAC11のいずれかのシングルノックダウンと比較して、Oct−4について増加した。
【0131】
図10に報告するように、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞においてSox−2発現が常に生じていた。Sox−2の発現は、HDAC7及びHDAC11のダブルノックダウンによって維持された。
【0132】
図11は、HDAC7及びHDAC11の二重shRNA干渉中の成人ヒト皮膚繊維芽細胞における様々なHDAC遺伝子のmRNA発現に対する効果を報告する。HDAC9の発現の強い増加がみられた。HDAC5の発現も増加した。その他の遺伝子において穏やかな効果がみられた(図11参照)。
【0133】
図12は、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7及びHDAC11の二重shRNA干渉中の様々なHDAC遺伝子のmRNA発現に対する効果を報告する。第7日にピューロマイシン選択によってHDAC9発現の強い増加がみられた。第7日にピューロマイシン選択によってその他の様々なHDAC遺伝子の発現が低下した(図12参照)。
【0134】
図13は、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞におけるHDAC7及びHDAC11の二重shRNA干渉中の様々なHDAC遺伝子のmRNA発現に対する効果を報告する。ピューロマイシン選択を行っていない日及びピューロマイシン選択を行った第5日にもHDAC9の発現の強い増加が見られた。HDAC5の発現も増加した。その他の遺伝子において穏やかな効果がみられた(図13参照)。
【0135】
これらの結果は、shRNA構築物が、HDACをコードする遺伝子の発現を抑制するために用いられることができ、また、細胞のリプログラミングに関与する2つの遺伝子であるOct−4及びNanogなどの多能性遺伝子の発現を誘導することができることを実証している。さらに、これらの結果は、細胞に分化能力を取り戻させることにおいてHDACの阻害が必須の役割を果たすことを実証している。本発明の方法を用いて、あらゆるHDAC又はHDAC関連タンパクを構造的に又は機能的に阻害することができる。
【0136】
代償的経路、冗長的経路、又は、代償性かつ冗長的経路のすべてを説明するために、1つ以上のHDAC、又は、多分化能遺伝子のサイレンシングに関与するその他のあらゆるタンパクを抑制してもよい。阻害タンパクの同じファミリーの1つ以上のタンパク、又は、阻害タンパクの2つの異なるファミリーの2つ以上のタンパクを抑制してもよい。細胞をリプログラミングするための効率的な1つの機構は、冗長的な経路、代償的な経路、又は、冗長的かつ代償的な経路内の複数のタンパクを抑制することであってもよい。この抑制経路内で機能するタンパクを、shRNA、HDAC阻害剤、小分子阻害剤、又は、上に列挙されているものの任意の組合せによって抑制してもよい。
【0137】
実施例5:
HDAC7 shRNAレンチウイルス感染によるHDAC11の発現に対する影響を試験した。3種類のヒト皮膚繊維芽細胞:成人ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFa)、新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFn)及び胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)を用いた。
【0138】
方法
細胞培養液
ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃、及び、5%CO2で保持した。
【0139】
レンチウイルス感染
ヒト皮膚繊維芽細胞にshRNA構築物を感染させた。shRNA構築物をDharmacon社から入手した。このshRNA構築物は、HDAC7aを対象としており、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0140】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology社、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。
【0141】
量的RT−PCR
HDAC7a及びHDAC11の発現をリアルタイムRT−PCRによって決定した。簡潔に、製造社のプロトコルに従って、デオキシリボヌクレアーゼI消化と共にトリゾール試剤(Life Technologies社、ゲイサーズバーグ、メリーランド)及びRNeasyミニキット(Qiagen社;ヴァレンシア、カリフォルニア)を用いて、培養液から全RNAを調製した。各サンプルから得た全RNA(1μg)を、オリゴ(dT)プライマー逆転写(Invitrogen社;カールズバッド、カリフォルニア)に供した。7300リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社;フォスターシティ、カリフォルニア)によってPCRマスター混合物を用いてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルについて1μlの稀釈したcDNA(1:10)をPCR反応におけるテンプレートとして加える。HDAC7a及びHDAC11の発現レベルを、グリセルアルデヒド3−ホスフェート−デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0142】
結果
HDAC7a shRNAを感染させた胎児ヒト膚線維芽細胞においては、HDAC7aの発現は減少したが、HDAC11の発現が増加した(図14A)。新生児ヒト膚線維芽細胞(図14B)及び胎児ヒト膚線維芽細胞(図14C)において同様の結果が得られた。この発現の増加は、ピューロマイシンの存在下及び非存在下のいずれにおいてもみられた。HDAC11発現は、試験を行った3つの細胞種のすべてにおいて代償的態様でアップレギュレートされた。多能性遺伝子の発現を低下させることに関与する調節タンパクをコードする遺伝子の発現を阻害することは、調節タンパクをコードするその他の遺伝子の発現を増加させることがある。調節タンパクの1つのファミリー又は調節タンパクの複数のファミリーを対象とする複数の薬剤は、細胞をリプログラミングする効率的な手段であることもある。その薬剤には、小分子阻害剤及びshRNA構築物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0143】
実施例6
HDAC7、HDAC11又はDNMT1を対象とするレンチウイルスshRNAに感染した細胞を、多能性遺伝子の発現に関して染色及び視覚化を行った。この実施例においてはOct−4及びSox−2のタンパク発現を分析したが、本発明の方法を用いて細胞のリプログラミング又は細胞に分化能力を取り戻させることに関与するあらゆる遺伝子の発現を増加させることができることは、当業者に理解されるであろう。
【0144】
方法
細胞培養液
胎児ヒト皮膚繊維芽細胞をCell Applications社(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入し、繊維芽細胞増殖培地(Cell Applications社、サンディエゴ、カリフォルニア)において、湿度95%、37℃、及び、5%CO2で保持した。
【0145】
レンチウイルス感染
胎児ヒト皮膚繊維芽細胞に以下の組成物:(1)DNMT1を対象とするshRNAレンチウイルス;(2)HDAC7を対象とするshRNAレンチウイルス;(3)DNMT1及びHDAC7を対象とするshRNAレンチウイルス;及び(4)HDAC7a及びHDAC11を対象とするshRNAレンチウイルスの1つを感染させた。shRNA構築物をDharmacon社から入手した。HDAC7aを対象とするshRNA構築物は、配列番号1:GCTTTCAGGATAGTCGTGAの配列を有していた。
【0146】
配列番号2:AGCGAGACTTCATGGACGAの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0147】
さらに、配列番号3:TGGTGGTATACAATGCAGGの配列を有するshRNA構築物は、HDAC11を対象としていた。
【0148】
DNMT1を対象とするshRNA構築物は、配列番号4:GTCTACCAGATCTTCGATAの配列を有していた。
【0149】
製造社の説明に従ってヒト皮膚繊維芽細胞にshRNAを感染させた。HDFを、マトリゲル(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア)においてピューロマイシン選択及びhES培養条件(mTeSR Medium社、Stem Cell Technology社、バンクーバー、BC、カナダ)用いて又は用いずに培養した。
【0150】
免疫組織化学
免疫組織化学的検査のために、ターゲットshRNAに感染した細胞及びコントロール細胞をチャンバスライド(LabTek社、ネーパービル、イリノイ)において増殖させた。次いで、細胞を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、製造社のプロトコルに従って、多分化能マーカOct−3/4(Abcam社、ケンブリッジ、マサチューセッツ)を対象とする特異的抗体と共にインキュベートした。Oct−3/4の染色を赤色で視覚化した。核をDAPI染色(Vectorshield社)で視覚化すると青色に見えた。
【0151】
結果
Oct−4タンパク発現は、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)においてshRNA干渉によって増加した。図15Aは、感染させていないHDFf(ネガティブコントロール)の写真である。図15Gは、ヒトES細胞(ポジティブコントロール)の写真である。ネガティブコントロール細胞において、Oct−4タンパクの発現はほとんど検出されなかった。図15Bは、DNMT1を対象とするshRNAに感染したHDFf細胞の写真である。細胞がDNMT1shRNAに暴露されると、Oct−4タンパク発現が明らかに増加する。HDAC7shRNAを感染させたHDFf細胞においては、最小限のOct−4タンパクが検出された(図15C)。これは、この特定のサンプルの処理によるものであるかもしれない。
【0152】
DNMT1shRNA及びHDAC7 shRNAに感染した細胞は、Oct−4タンパクの発現の劇的な増加を示した(図15D)。DNMT1shRNA及びHDAC7 shRNAの両方で処理した細胞は、ヒトES細胞(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア)に非常に類似した発現パターンをもたらす(図15E)。これらのデータは、Oct−4遺伝子発現の増加がOct−4タンパク発現の増加に至るというここで与えられているデータを確証付ける。DNMT及びHDAC11は、転写の活性化の制御及びクロマチンリモデリングに関して別個の機能を有している。2つの独立した調節グループのメンバーの阻害は、Oct−4の発現を劇的に増加させた。DNMT1及びHDAC11に感染した細胞においてもOct−4タンパク発現が増加した(図15E)。DNMT1及び複数のHDACの阻害は、結果的にOct−4タンパクの発現を増加させた。
【0153】
HDAC7及びHDAC11 shRNAに感染した細胞においては、Oct−4の発現に検出可能な増加はみられなかった(図15F)。これは実験系の限界のせいであるかもしれない。代替的に、この結果は、多能性遺伝子の発現を最適に増加させるためには、複数の経路を抑制すべきであることを示唆している可能性もある。別個の調節性複合体において機能するタンパクをコードする遺伝子の発現を阻害することによって、多能性遺伝子のより高い発現レベルをもたらす可能性がある。あらゆる調節性複合体のあらゆるメンバーを抑制してもよい。
【0154】
Sox−2タンパク発現は、胎児ヒト皮膚繊維芽細胞(HDFf)においてshRNA干渉によって増加した。図16Aは、感染していないHDFf(ネガティブコントロール)の写真である。図16Gは、ヒトES細胞(図16G)の写真である。ネガティブコントロール細胞においては、Sox−2タンパクの発現がほとんど検出されなかった。図16Bは、DNMT1を対象とするshRNAに感染したHDFf細胞の写真である。核染色がみられたが、わずかな量のSox−2タンパクが検出された。HDAC7shRNA及びDNMT1shRNAに感染したHDFf細胞においては、最小限のSox−2タンパクが検出された(図16C)。これは、この特定のサンプルの処理のせいである可能性がある。
【0155】
DNMT1shRNA及びHDAC11 shRNAに感染した細胞は、Sox−2タンパクの発現の劇的な増加を示した(図16D)。2つの独立した調節グループのメンバーの阻害によって、Sox−2の発現が劇的に増加した。HDAC7 shRNAに感染した細胞は、最小限のSox−2のタンパク発現を示した(図16E)。Sox−2タンパク発現は、HDAC7及びHDAC11に感染した細胞においても増加した(図16F)。DNMT1及び複数のHDACの阻害は、Sox−2タンパクの発現を増加させた。
【0156】
これらの結果は、ヒストンデアセチラーゼ及びDNAメチル基転移酵素の阻害が、細胞のリプログラミングに関与する多能性遺伝子の発現を増加させたことを実証している。2つの別個のshRNA構築物は、2つの独立した調節タンパクをターゲットにしており、その結果、Oct−4及びSox−2タンパクの発現が劇的に増加した。多能性遺伝子の転写の阻害又は抑制に関与する1つよりも多い調節タンパクを阻害することは、細胞をリプログラミングし、細胞に分化能を取り戻させる効率的なメカニズムである可能性がある。
【0157】
ヒストンデアセチラーゼ及び関連ファミリーメンバーの阻害を用いて、多能性遺伝子の発現を増加させることができ、また、分化細胞をリプログラミングすることができる。これらのリプログラミング方法は、卵子、胚又はES細胞に無関係である。更に、これらの方法は、悪影響を与え得るウイルスベクターに無関係である。また、これらの方法は、c−myc及びKlf4などの腫瘍誘発遺伝子にも無関係である。
【0158】
さらに、本発明の方法を用いて体細胞核移植(SCNT)を用いずに分化細胞をリプログラミングすることができる。SCNTは非常に非能率的であり、リプログラミング分野に重大な限定が課される。本方法はSCNTの必要性を軽減する。
【0159】
本方法は、強いリポーター因子を有する人工ベクターに対する効果の測定とは対称的に、多能性の内因性遺伝子及びタンパクの発現の増加を実証した。人工ベクターは、内因性遺伝子と同じクロマチン構造を有しておらず、また、その他の遺伝子及びゲノムの環境を作り出すプロモータ因子を有していない。人工ベクターは、天然ゲノムの環境を再現するために必要な天然因子の多くを有していない。ここで与えられている結果は、ヒト細胞の処理及び内因性遺伝子に対する効果の測定から得られた効果を表している。
【0160】
最後に、ここで与えられているデータは、ヒストンデアセチラーゼの機能を抑制又は変更することが、分化細胞のリプログラミング及び分化能力の回復に関与する1つのステップであることを実証している。
【0161】
本明細書中においては特定の実施形態を図示及び説明したが、示されている特定の実施形態に代えて同じ目的を達成するように意図されたあらゆる配置を用いてもよいことは当業者に理解されるであろう。本出願は、記載されている本発明の原理に従って機能するあらゆる脚色又は変形を包含するように意図されている。従って、本発明は、特許請求の範囲及びその均等物のみによって限定されるように意図されている。本出願において引用されている特許、参考文献及び刊行物の開示は、参照することによって本明細書中に組み込まれている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞をリプログラミングする方法において、
ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞の集団を暴露させるステップと、
多能性遺伝子の発現を誘導するステップと、
多能性細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと、
前記選択した細胞を増殖させて細胞の集団を作るステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、
前記薬剤に細胞を暴露させる前と後とで細胞の遺伝子型を比較するステップと、
多能性細胞と一致する表現型を有する細胞を識別するステップとをさらに具えることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、多能性遺伝子によってコードされるタンパクを対象とする抗体又は細胞表面マーカーを用いるステップをさらに具えることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記細胞表面マーカーが、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記細胞を増殖させるステップの前に、前記薬剤への暴露前に存在する前記細胞の多能性遺伝子のクロマチン構造を、前記薬剤への暴露後に得られるクロマチン構造と比較するステップをさらに具えることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、クロマチン構造を比較するステップが、ヒストンのアセチル化状態を比較するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法において、前記多能性遺伝子が、Oct−4、Sox−2及びNanogからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記薬剤が、小分子阻害剤、核酸配列及びshRNA構築物からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記ヒストンデアセチラーゼが、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC8、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7A、HDAC9、HDAC10、HDAC11、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6及びSIRT7からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項10】
細胞をリプログラミングする方法において、
HDACの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する第1薬剤に細胞を暴露させるステップと、
第2調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する第2薬剤に前記細胞を暴露させるステップであって、前記第2調節タンパクがHDACとは別個の機能を有するステップと、
多能性遺伝子の発現を誘導するステップと、
細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具えることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記細胞を、前記第1薬剤及び前記第2薬剤に同時に暴露させることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、多能性遺伝子によってコードされるタンパクを対象とする抗体又は細胞表面マーカーを用いて細胞を分離するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記細胞表面マーカーが、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、前記第1薬剤及び前記第2薬剤に細胞を暴露させる前と後とで細胞の表現型を比較するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項10に記載の方法において、前記第1薬剤及び前記第2薬剤が、小分子阻害剤、核酸配列及びshRNA構築物からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項10に記載の方法において、前記第2調節タンパクが、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン及びサーチュイン活性剤からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項17】
ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞の集団を暴露させるステップと、
多能性遺伝子の発現を誘導するステップと、
多能性細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと、
前記選択した細胞を増殖させて細胞の集団を作るステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法によって生産されることを特徴とするリプログラミング細胞の高密度集団。
【請求項18】
請求項17に記載のリプログラミング細胞の高密度集団において、前記リプログラミング細胞が、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択される細胞表面マーカーを発現することを特徴とする細胞の高密度集団。
【請求項19】
請求項17に記載のリプログラミング細胞の高密度集団において、前記多能性遺伝子が、Oct−4、Nanog及びSox−2からなる群より選択されることを特徴とする細胞の高密度集団。
【請求項20】
請求項17に記載のリプログラミング細胞の高密度集団において、前記リプログラミング細胞が、前記集団の少なくとも60%を占めることを特徴とする細胞の高密度集団。
【請求項1】
細胞をリプログラミングする方法において、
ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞の集団を暴露させるステップと、
多能性遺伝子の発現を誘導するステップと、
多能性細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと、
前記選択した細胞を増殖させて細胞の集団を作るステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、
前記薬剤に細胞を暴露させる前と後とで細胞の遺伝子型を比較するステップと、
多能性細胞と一致する表現型を有する細胞を識別するステップとをさらに具えることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、多能性遺伝子によってコードされるタンパクを対象とする抗体又は細胞表面マーカーを用いるステップをさらに具えることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記細胞表面マーカーが、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記細胞を増殖させるステップの前に、前記薬剤への暴露前に存在する前記細胞の多能性遺伝子のクロマチン構造を、前記薬剤への暴露後に得られるクロマチン構造と比較するステップをさらに具えることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、クロマチン構造を比較するステップが、ヒストンのアセチル化状態を比較するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法において、前記多能性遺伝子が、Oct−4、Sox−2及びNanogからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記薬剤が、小分子阻害剤、核酸配列及びshRNA構築物からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記ヒストンデアセチラーゼが、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC8、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7A、HDAC9、HDAC10、HDAC11、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6及びSIRT7からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項10】
細胞をリプログラミングする方法において、
HDACの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する第1薬剤に細胞を暴露させるステップと、
第2調節タンパクの活性、発現、又は、発現及び活性を抑制する第2薬剤に前記細胞を暴露させるステップであって、前記第2調節タンパクがHDACとは別個の機能を有するステップと、
多能性遺伝子の発現を誘導するステップと、
細胞を選択するステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具えることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記細胞を、前記第1薬剤及び前記第2薬剤に同時に暴露させることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、多能性遺伝子によってコードされるタンパクを対象とする抗体又は細胞表面マーカーを用いて細胞を分離するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記細胞表面マーカーが、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10に記載の方法において、前記細胞を選択するステップが、前記第1薬剤及び前記第2薬剤に細胞を暴露させる前と後とで細胞の表現型を比較するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項10に記載の方法において、前記第1薬剤及び前記第2薬剤が、小分子阻害剤、核酸配列及びshRNA構築物からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項10に記載の方法において、前記第2調節タンパクが、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン及びサーチュイン活性剤からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項17】
ヒストンデアセチラーゼの活性、発現、又は、活性及び発現を抑制する薬剤に細胞の集団を暴露させるステップと、
多能性遺伝子の発現を誘導するステップと、
多能性細胞を示す細胞表面マーカーを発現する細胞を選択するステップと、
前記選択した細胞を増殖させて細胞の集団を作るステップであって、前記細胞が分化能を取り戻すステップと、を具える方法によって生産されることを特徴とするリプログラミング細胞の高密度集団。
【請求項18】
請求項17に記載のリプログラミング細胞の高密度集団において、前記リプログラミング細胞が、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60及びTra−1−81からなる群より選択される細胞表面マーカーを発現することを特徴とする細胞の高密度集団。
【請求項19】
請求項17に記載のリプログラミング細胞の高密度集団において、前記多能性遺伝子が、Oct−4、Nanog及びSox−2からなる群より選択されることを特徴とする細胞の高密度集団。
【請求項20】
請求項17に記載のリプログラミング細胞の高密度集団において、前記リプログラミング細胞が、前記集団の少なくとも60%を占めることを特徴とする細胞の高密度集団。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2011−516076(P2011−516076A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503981(P2011−503981)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/002163
【国際公開番号】WO2009/126251
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510267052)ニューポテンシャル,インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】NUPOTENTIAL,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/002163
【国際公開番号】WO2009/126251
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510267052)ニューポテンシャル,インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】NUPOTENTIAL,INC.
【Fターム(参考)】
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