説明

HFC用途のための合成冷却オイル組成物

新規の冷却組成物が本明細書中で開示されている。ある実施形態において、冷却組成物はヒドロキシカルボン酸のエステルの混合物を有する。そのヒドロキシカルボン酸は8から22の炭素原子の範囲の鎖長を有する。また組成物は、アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステル、およびそれらの組み合わせから成るグループから選択されるキャリア流体又はベースオイルを有し、改善された流動性および熱伝導性、そして向上されたオイルの戻りを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して冷却潤滑の分野に関連する。より詳細には、本発明は本明細書中で説明される一級ハイドロフルオロカーボンおよび他の冷却剤と共に使用するための合成冷却オイル組成物に関連する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロフルオロカーボン(HFC)システム用の現在の冷却潤滑剤は、二つのカテゴリー:1)ポリオールエステル(POE)、ポリビニルエーテル(PVE)およびポリアルキレングリコール(PAG)を含む広い温度範囲にわたってHFC冷却剤に可溶性である潤滑剤、および2)例えばミネラルオイル(MO)、アルキルベンゼン(AB)およびポリアルファオレフィン(PAO)であるハイドロカーボンベースのオイルのもののようなHFC冷却剤に部分的又は完全に混合しない潤滑剤に分類できる。一般に、混和性オイルはより良い冷却効率のための優れたオイルの循環をもたらすことが認められている。POEは混和性冷却潤滑剤として最も広く用いられている。しかしながら、POEのような混和性オイルは吸湿性である極性官能基を有しており、それはシステムおよびコンプレッサの部品にとって望ましくない。また、POEの化学構造は、広く用いられており受け入れられている潤滑性向上添加物に非反応性である。また、POEはHFC冷却剤の存在下において発泡を促進せず、そのことはコンプレッサの騒音レベルに望ましくない上昇をもたらす。一方、非混和性オイルは、より良いコンプレッサの耐久性をもたらし、更なる潤滑性向上添加物に対して好ましく反応する。また、その安いコストのために、非混和性オイルはHFCシステムにおける使用に非常に望ましくもある。しかしながら、HFC冷却剤とハイドロカーボンオイルの非混和性が、システムにおけるオイル層の増加を引き起こし、結果的により非効率な熱伝達と低下したステム効率とをもたらす。極端な場合、非混和性は、過剰量のオイルをシステム内に移動させてコンプレッサに戻らないようにし、結果的にオイルの枯渇およびコンプレッサにおける最終的に壊滅的な故障をもたらす。したがって、冷却コンプレッサへの適度なオイルの循環を保証することは、効率の低下および/またはコンプレッサの故障を避けるために不可欠である。POEは、重大な潤滑性の欠陥、非発泡促進性、および高い吸湿性を有することが当業者に知られているが、適切なオイル循環を保証するという最も重要な要求のためにいまだに広く用いられている。
【0003】
AB/POEのような混合冷却潤滑剤システムが提案されている。そのような混和性および非混和性潤滑剤の混合システムは、一方向において非混和性オイルのオイル循環性を改善し、混和性潤滑剤の吸湿性およびシステムにおける潤滑剤の全体のコストを低減する。しかしながら、混和性および非混和性オイルの混合は、一般にコンプレッサの全体的な性能、又は純粋な混和性潤滑剤システムからの当然な変化に対して十分にシステム効率を改善しない。
【0004】
同様に、相溶化剤が、混和性および非混和性オイル間の相互の可溶性を改善し、それによって純粋な混和性潤滑剤システムのオイル移動性と同程度の改善されたオイル移動性を可能にするための代替メカニズムとして提案されている。また、改良されたプール沸騰(pool boiling)が冷却剤と冷却オイルとの間のより高い熱伝達率をもたらし、結果的に熱伝達効率を向上することが報告されている。しかしながら、これらの提案された解決策のいずれもが完全な混和性システムに対する適切な代替物を提供することを示してはいない。したがって、対象が混和性のPOE、PVE又はPAGの化学的性質に基づいていても、又は対象が代替的な潤滑剤システムの化学的性質に基づいていても、冷却コンプレッサへのオイルの循環は、いまだにそのような研究において最重要の要素である。今日まで、非混和性潤滑剤の化学的性質に基づく潤滑剤システムは、そのようなシステムを現在完全に受け入れられている混和性システムに対する実施可能な代替案とするのに必要なシステムの効率および寿命、優れた潤滑性およびコストパフォーマンスをもたらすために、適切なオイル移動性/オイル循環性の必要なバランスを達成できていない。
【0005】
前述のものは潤滑剤配合に対する産業界の要望を表しており、それは混和性または非混和性システムのそれぞれの欠点を有することなく、適用範囲全体にわたってHFCと共に使用可能であり;向上した熱伝達およびオイル移動、向上した潤滑性を提供し、結果的にPOEのような混和性潤滑剤又は非混和性配合物のいずれを用いたものよりもより効率的でコストパフォーマンスの良い冷却システムをもたらす配合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第5593957号明細書
【発明の概要】
【0007】
当該分野におけるこれら及び他の要望は、ヒドロキシカルボン酸のエステルの混合物を含む冷却組成物に対する本明細書中における実施形態において対処されている。そのヒドロキシカルボン酸は8から22の炭素原子の範囲の鎖長を有する。また、組成物は、アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステルおよびそれらの組み合わせから成るグループから選択される本明細書中においてベースオイルとも呼ばれるキャリア流体を有する。
【0008】
ある実施形態においては、冷却組成物はヒドロキシカルボン酸のエステルの混合物を含む。ヒドロキシカルボン酸は少なくとも二つのカルボン酸基を有する。組成物は、アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステル、およびそれらの組み合わせから成るグループから選択されるキャリア流体又はベースオイルを更に有する。
【0009】
別の実施形態においては、冷却組成物はヒドロキシカルボン酸のエステルの混合物を含む。ヒドロキシカルボン酸は環系を含む。組成物は、アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステル、およびそれらの組み合わせから成るグループから選択されるキャリア流体を有する。
【0010】
ある実施形態では、冷却組成物を作成する方法はヒドロキシカルボン酸のエステルを提供することを含む。ヒドロキシカルボン酸は8から22炭素の鎖長を有する。方法は、アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステル、およびそれらの組み合わせから選択されるキャリア流体にエステルを添加することも含む。
【0011】
上記記述は、以下における本発明の詳細な説明がより良く理解されるようにするために、本発明の特徴および技術的利点をかなり広く概説している。本発明の請求項の対象を形成する本発明の更なる特徴および利点は、これ以降に置いて説明される。開示される概念および特有の実施形態は、本発明と同じ目的を実施するための他の構造を改良又は設計するための基礎として容易に利用することができることが当業者によって理解されるべきである。また、そのような同等の構成は添付される請求項に規定される発明の精神および範囲から逸脱しないことが当業者によって認識されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本明細書中で説明される実施例3、5、6、7、8および9に関するOMS試験に用いられる試験装置の模式図であり、参照番号1、3、13および20はそれぞれのぞき窓;2はコンプレッサ;4、7、9、14、17および19はそれぞれ熱電温度計;5および18はそれぞれ圧力計;6はコンデンサ;8および15はそれぞれファン及びモータアセンブリ;10は拡張バルブ;11はバイパス回路バルブ;12はキャピラリーチューブ;16は蒸発器を表す。
【0013】
表記および用語
特定の用語は、特定のシステムの構成要素に言及する以下の説明および請求項全体において使用される。この文書は、名称は異なるが機能は異ならない構成要素の間で区別することを意図しない。
【0014】
以下の考察および請求項において、「含む」および「有する」の用語は、制約がない態様で用いられており、それ故に「・・・を含むが・・・に限定されない」を意味するよう解釈されなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ある実施形態において、新規の冷却オイル組成物は、ヒドロキシカルボン酸のエステルの混合物と、アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステル、およびそれらの組み合わせから成るグループから選択されるベースオイル潤滑剤とを有する。一般に、ヒドロキシカルボン酸エステルは、アルコールとのヒドロキシカルボン酸のエステル化の産物である。本明細書において規定されるように、ヒドロキシカルボン酸は、少なくとも一つの−COOH基と少なくとも一つの単独の−OH基とを含むカルボン酸である。通常、ヒドロキシカルボン酸のエステルは、わずか一つのエステル基を有する。好適な実施形態によると、ヒドロキシカルボン酸は8から22炭素原子の範囲である直線状の鎖長を有する。
【0016】
少なくとも一つの実施形態においては、ヒドロキシカルボン酸はモノヒドロキシ脂肪酸である。エステル化可能なヒドロキシカルボン酸の例は、限定されることなくリシノール酸(RA)、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシアラキジン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシエルカ酸、ヒドロキシリノール酸、ヒドロキシアラキドン酸およびそれらの組み合わせを含む。ある実施形態では、ヒドロキシカルボン酸はヒドロキシジカルボン酸のように一つより多くのカルボン酸基を有する。ヒドロキシポリカルボン酸の例は、限定されることなくクエン酸、リンゴ酸、酒石酸およびそれらの組み合わせを含む。更に別の実施形態において、ヒドロキシカルボン酸は、芳香族、単素環、複素環などである環構造を含む。そのようなヒドロキシ酸の例は、限定されることなくサリチル酸、ジヒドロキシ安息香酸およびそれらの組み合わせを含む。更なる実施形態において、ヒドロキシカルボン酸はハロゲン基、付加的なアルキル置換基、アミン基などを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、組成物は一つ以上の付加的なエステルを有する。例えば、組成物はヒドロキシカルボン酸のエステルおよび脂肪酸のエステルを有することができる。限定されることなく、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸、2−エチルヘキサン酸およびそれらの組み合わせを含むあらゆる脂肪酸が使用可能である。さらにエステルは、エチレンオキシドより高い一つ以上の酸化物モノマーを有するアルコキシル化部を有することができる。別の実施形態においては、組成物は一つより多いヒドロキシカルボン酸のエステルを有することが好ましい。言い換えると、各々のエステルは異なるヒドロキシカルボン酸から作成することが可能である。例示的な目的のみのために、そのような実施形態において、組成物はリシノール酸エステルおよびヒドロキシステアリン酸エステルを含むことができる。
【0018】
少なくとも一つの実施形態によると、ヒドロキシカルボン酸がエステル化される対応するアルコールは、直鎖または長鎖のアルコール、すなわち一価アルコールである。適切なアルコールの例は、限定されることなくメタノール、エタノール、カプロンアルコール、カプリルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、イソトリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、ペトロセリニルアルコール、リノリルアルコール、リノレニルアルコール、エラエオステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ガドレイルアルコール、ベヘニルアルコール、エルキルアルコール、ブラシジルアルコール、およびそれらの組み合わせを含む。又は、ポリアルキレングリコールがヒドロキシカルボン酸と反応することが可能であり、ポリアルキレングリコールは、アルコキシル化の分野に詳しい人によって一般に理解されるポリマー開始/停止官能性のいずれをも有し、少なくとも二つの酸化物モノマー型の測定可能な比率からなるポリマー鎖を含む又はエチレンオキシドより高い単一モノマー型(プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなど)からなるポリマー鎖を含むように規定することができる。したがって、実施例は、限定されることなくジヒドロキシおよびポリヒドロキシ官能性ポリアルキレングリコールを含み、それら全てにおいてエチレンオキシドから成らない全てのポリアルキレングリコールであって、少なくとも一つのヒドロキシル官能性を有し、それ故にエステル化されることができるものを含む。
【0019】
別の実施形態においては、アルコールはジオール又はトリオールなどのポリオールとすることができる。若しくは、アルコールは構造において、分岐、環状、又は芳香族とすることができる。
【0020】
ある実施形態において、組成物は、重量で約1%から60%、好ましくは約5%から約40%、より好ましくは約10%から約20%のヒドロキシカルボン酸エステルを有する。組成物は、十分な量のヒドロキシカルボン酸のエステルを含むことによって、コンプレッサに戻るオイルの増加したレベルによって測定される測定可能なシステム効率の改善をもたらすことが好ましい。
【0021】
いくつかの好適な実施形態においては、キャリア流体/ベースオイルは、ポリオールエステル、ポリビニルエーテル、又はポリアルキレングリコールなどの混和性オイルと、アルキルベンゼン、ポリアルファオレフィン、アルキル化ナフテン酸およびミネラルオイルなどの非混和性オイルとそれらの組み合わせとを有することが好ましい。
【0022】
ある実施例においては、混和性および非混和性潤滑剤は、重量で1%の混和性オイルから重量で99%の混和性オイルの範囲の割合で組み合わせ可能であることが好ましい。本明細書中で説明される実施形態の組成物の利点の一つは、主としてHFCから構成される冷却剤と混和性あるいは非混和性である潤滑剤又はキャリア流体と組み合せて用いることができる能力である。限定ではなく説明として、本明細書中で説明される組成物と使用するためのそのような冷却材の例は、R134a,R125、R32、R23、R143a、R116、R152a、およびそれらの組み合わせと、イソブテン、CO、およびHCFC(ヒドロクロロフルオロカーボン)およびそれらの組み合わせなどの少数の冷却剤成分とを含む。
【0023】
冷却システム内に分離した油層を形成しないように、広範な温度範囲にわたってHFCの流動性を維持することが重要である。分離は、キャピラリーの詰まりおよびシステムにおける停滞の原因となるオイルの沈積をもたらすであろう。したがって、説明される実施形態の組成物は、約−100℃から約150℃、好ましくは約−70℃から約100℃、より好ましくは約−40℃から約20℃の範囲である広い温度領域に渡ってHFCの流動性を維持することができる。理論によって限定されることなく、オイルおよび冷却剤が均一相を形成する冷却剤の混和性に対する従来のパラダイムとは異なり、本明細書中で説明される実施形態の組成物は、オイルおよび冷却剤を分散させ、分離した流体層を回避するその能力により試験温度範囲にわたって流動性を促進すると考えられる。
【0024】
別の実施形態においては、冷却組成物は少なくとも一つの添加物を有する。添加物成分は、潤滑性および/またはシステムの安定性を向上させるために当該分野において周知であり一般に用いられているあらゆる冷却システムの添加物とすることができる。実施例は、耐磨耗剤、極圧潤滑剤、腐食および酸化防止剤、金属表面不活性化剤、フリーラジカル捕捉剤、発泡および消泡制御剤、および漏洩検出剤などをふくむ。一般に、これらの添加物は、潤滑剤組成物全体に対して比較的少量のみが存在する。しかしながら、添加物はあらゆる適切な濃度で存在することができる。ある実施形態において、添加物成分は、重量で約0.1%未満から重量で約3%程度の各添加物の濃度で使用される。
【0025】
これらの添加物は個々のシステムの必要性に基づいて選択可能である。ある実施形態においては、潤滑を向上させる添加物が、本明細書において説明される組成物中に含まれるであろう。そのような添加物の例は、それらの潤滑向上利点が良く特徴付けられており、アルキル又はアリルエステルのリン酸およびチオリン酸エステルを含む亜リン酸塩およびリン酸塩のファミリーを含む。これらは、EP潤滑性添加物のトリアリルリン酸塩ファミリーのメンバー、およびリン酸トリクレジルと関連する化合物とを含む。さらに、金属ジアルキルジチオリン酸塩および化合物のこのファミリーの他のメンバーが本発明の組成物において使用可能である。別の耐磨耗添加物は、トールオイル(tall oil)脂肪酸エステルなどの潤滑エステルを含む。別の実施形態においては、抗酸化剤、フリーラジカル捕捉剤、および水捕捉剤などの安定化剤が組成物に添加可能である。このカテゴリーにおける化合物は、限定されることなく、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)およびエポキシドを含むことができる。
【0026】
添加物の添加は、使用者が結果物たる組成物を調整することでさらなる潤滑性をもたらすことを可能にする。そのようなものとして、開示される組成物は広範なHFCの要望に対して最適な潤滑の要求をもたらすことができる。さらに、これらの添加物の組み合わせは、当該分野において周知のように必要に応じて採用することができる。
【0027】
実施例
本発明の様々な例示的な実施形態を更に説明するために、以下の実施例が提供される。
【0028】
エステルの調製および評価
実施例1−イソトリデカノールのリシノール酸エステル
リシノール酸(RA)エステルは、チタン触媒の存在下において200℃で12時間にわたるイソトリデカノールとのリシノール酸のエステル化によって調製された。理論上の水がエステル化から回収されると、産物は中性化および乾燥された。その後、産物は固形触媒を除去するためにフィルター濾過された。結果物のエステルは、0.31mgKOH/gの全酸価(TAN)を有し、40℃で24センチストークス(centistokes)(cSt)の粘度を有した。ヒドロキシカルボン酸の別のエステルは、以下に説明されるように更なる実施例に関連して合成され同様に試験された。
【0029】
卓上発泡試験は、冷却剤を有するISO68POEのベースオイルに添加された10%の処理レベルの上述のエステルによって20℃において200cc/分から20cc/分の流速範囲で行われた。全ての試験は、高い又は低い流速のいずれにおいてもHFC冷却剤との使用においてそれ自体は発泡しないISO68POEにおいて行われた。結果は表1に示されている。
【0030】
実施例2−ブタノールのレシノール酸エステル
この実施例においては、エステルは実施例1に関する上述の手順に従ってレシノール酸およびブタノールのエステル化によって調製された。
【0031】
卓上発泡試験は上述のように行われ、結果は表1に示されている。
【0032】
HFC流動性を試験するために、HFC(134a)冷却剤:オイルの90:10の混合物からなる冷却組成物は、冷却剤中のオイルの流動性が算出された後に密閉されて−40℃の低温槽に30分間沈められた。冷却剤/オイルの混合物が−40℃において完全な流動性を示した場合にはパスが記録された。結果は表1に示されている。
【0033】
実施例3−3c−ブタノールが開始したポリアルキレングリコール(butanol initiated polyalkylene glycol)のレシノール酸エステル
本実施例において、エステルは実施例1に関して上述された手順に従って、270g/モルの分子量のブタノールが開始したポリアルキレングリコールとのレシノール酸のエステル化によって調製されており、ポリマー鎖中に50/50wt/wtEO/PO(ランダム)を含み、単一の末端ヒドロキシル基を有する。
【0034】
卓上発泡試験は上述のとおり行われ、結果は表1に示されている。
【0035】
HFC流動性試験は上述のとおり行われ、結果は表1に示されている。
【0036】
オイル移動試験(oil migrationstudy)(OMS)は以前に説明されたミニスプリットA/Cシステム(mini-split A/C system)で行われており、それは、20フィート(約6メートル)の戻り配管と、2500から7000rpmの間の圧縮速度で24000btu/時の回転式コンプレッサと、インバータとを備えており、のぞき窓がコンプレッサの汚水槽に設置されることで、10℃及び−40℃の中間蒸発器温度において、もしあるのであれば、詰まりを検出するためにキャピラリチューブの直後にオイルのレベルを測定することができる。使用されるHFC冷却材はR410a(高温用途)およびR404a(低温用途)であり、合計のオイル量は500mlであった。コンプレッサの汚水槽に設置されたのぞき窓は、既知量のオイルを添加することによって目盛り付けされた。その後、対応するオイル戻り量が記録されることによって、混和性潤滑剤(POE)が使用される際に得られるオイルの戻りの基準値と量が比較される際に向上したオイルの戻りが観察されるか否かを決定することができる。結果は以下の表1に提示される。
【0037】
実施例4(比較)−ポリエチレングリコールのリシノール酸エステル
本実施例において、実施例1に関して上述された手順に従って、1:1のモル比でポリエチレングリコール(200g/モルの分子量)とリシノール酸のエステル化によってモノエステルが調製された。
【0038】
卓上発泡試験は上述のように行われ、結果は表1に示されている。
【0039】
HFC流動性試験は上述のように行われ、結果は表1に示されている。
【0040】
実施例5−5a(比較)−ポリエチレングリコールのリシノール酸ジエステル
本実施例において、2:1のモル比でリシノール酸のポリエチレングリコール(200g/モルの分子量)とのエステル化によってジエステルが調製されており、それは実施例1に関して上述されたように調製されている。
【0041】
卓上発泡、HFC流動性、およびOMS試験は上述のように行われており、結果は表1に示されている。
【0042】
実施例6−6a−イソプロパノールのリシノール酸エステル
本実施例において、エステルはイソプロパノールのリシノール酸エステルを有し、実施例1に関して上述されたように調製された。
【0043】
卓上発泡、HFC流動性、およびOMS試験は上述のように行われ、結果は以下において表1に示されている。
【0044】
実施例7(比較)ISO68POE
本実施例において、卓上発泡およびOMS試験はISO68POEにおいて行われており、結果は以下において表1に示されている。
【0045】
実施例8(比較)ISO32AB
本実施例において、卓上発泡、HFC流動性およびOMS試験はISO32ABにおいて行われており、結果は以下において表1に示されている。
【0046】
実施例9(比較)ISO32ミネラルオイル
本実施例において、HFC流動性およびOMS試験はISO32ミネラルオイルにおいて行われており、結果は以下において表1に示されている。
【表1】


*キー
P−パス
F−不合格
M−低い流動性の観察
**キー
X−試験の実施
Y−向上したオイルの戻りの観察
【0047】
実施例3のヒドロキシカルボン酸エステル組成物の使用は、実施例3aおよび7の結果の比較によって示されるように、OMS試験においてPOEなどの純粋な混和性オイルシステムと比較して向上したオイルの戻りをもたらした。同様に、実施例6のヒドロキシカルボン酸エステル組成物の使用は、実施例6aおよび7の結果の比較によって示されるように、OMS試験において純粋な混和性システムと比較して向上したオイルの戻りをもたらした。これら両方の実施例において、基準のPOEシステムと比べてオイルの量における最小限の5−10%の増加は、コンプレッサのオイル廃液槽上に設置されたのぞき窓を介して直ちに明らかになった;いくつかの個々の実験例においては、70%の最大値に至るオイル量の増加が観察された。最も重要なことは、実施例3bおよび8の結果を比較することによって示されるように、同レベルの向上がABなどの非混和性オイルにおいても観察されたことである。そのような向上は、混和性および非混和性オイルシステムの両方に対してコンプレッサへの冷却オイルのより効率的な循環を表す。この予想できず驚くべき結果は前例がないと考えられる。このレベルのオイルの戻りの向上は、コンプレッサおよびシステムの性能を改善するために非常に価値がある。
【0048】
また、卓上発泡試験において、実施例3および6のヒドロキシルカルボン酸エステルは、実施例3、3aおよび6の実施例7との比較によって示されるようにHFC冷却剤流の存在下において混和性冷却剤オイルの発泡を促進することと、実施例3b、3cおよび6の実施例8との比較によって示されるように、HFC冷却剤流の存在下において非混和性冷却剤オイルの発泡を促進することとが観察された。このことは、冷却剤と組成物との間の相互作用の兆候であると解釈することができ、それは改善された熱伝達効率(および、理論的には向上したプール沸騰)を最終的にもたらす。また、改善された発泡性は、非発泡潤滑剤と比較した際に、より低いコンプレッサの騒音レベルをもたらすことが予想される。
【0049】
本発明の好適な実施形態が示されて説明されたが、それらの変更は本発明の精神および教示から逸脱することなく当業者によって実施可能である。本明細書中で説明される実施形態は例示のみであり、限定することを意図していない。本明細書中で開示される本発明の多くの変更および改良は、本発明の範囲内である。したがって、保護の範囲は上述の説明によって限定されず、以下の請求項によってのみ限定され、その範囲は請求項の対象物の全ての同等物を含む。
【0050】
本明細書中で引用された全ての特許、特許出願および公報の開示は、それら全体を参照することによって、本明細書中に記載されていることを補完する例示の、手順の又は他の詳細をそれらが示す範囲において、本明細書中に援用される。本開示中における参照の考察は、特に本願の優先日後の発行日を有する全ての引例について、それが本発明の先行技術であることを認めるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却組成物であって、
ヒドロキシカルボン酸のエステルの混合物と、
アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステル、及びそれらの組み合わせから成るグループから選択されるキャリア流体と
を有し、前記ヒドロキシカルボン酸は8から22個の炭素原子の範囲の鎖長を有する。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸はモノヒドロキシ脂肪酸を有する請求項1の冷却組成物。
【請求項3】
ヒドロキシカルボン酸は一つより多くのカルボン酸基を有する請求項1の冷却組成物。
【請求項4】
ヒドロキシカルボン酸は、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシアラキジン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシリノール酸、ヒドロキシエルカ酸、ヒドロキシアラキドン酸、リシノール酸およびそれらの組み合わせから成るグループから選択される請求項1の冷却組成物。
【請求項5】
エステルは、ヒドロキシカルボン酸とアルコールとのエステルを有する請求項1の冷却組成物。
【請求項6】
アルコ−ルは、一価アルコール、直長鎖アルコール、分岐鎖アルコールおよびそれらの組み合わせからなるグループから選択される請求項5の冷却組成物。
【請求項7】
エステルはヒドロキシカルボン酸とポリアルキレングリコールとのエステルを有し、エステルはエチレンオキシドよりも高い一つ以上の酸化物モノマーを有するアルコキシル化部位を有する請求項1の冷却組成物。
【請求項8】
ヒドロキシカルボン酸のエステルおよび脂肪酸のエステルの混合物を有する請求項1の冷却組成物。
【請求項9】
キャリア流体は、ハイドロフルオロカーボン冷却剤と混和性である化合物を有する請求項1の冷却組成物。
【請求項10】
キャリア流体は、ハイドロフルオロカーボン冷却剤と非混和性である化合物を有する請求項1の冷却組成物。
【請求項11】
R134a、R125、R32、R23、R143a、R116、R152aおよびそれらの組み合わせから成るグループから選択される冷却剤と、イソブテン、CO、HCFCおよびそれらの組み合わせから成る少数冷却剤化合物とを有する請求項1の冷却組成物。
【請求項12】
冷却組成物を製造する方法であって、
a)ヒドロキシカルボン酸のエステルを提供することと、
b)アルキルベンゼン、アルキル化ナフテン酸、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリアルファオレフィン、ミネラルオイル、ポリオールエステルおよびそれらの組み合わせを添加すること
を有し、前記ヒドロキシカルボン酸は、8から22個の炭素の鎖長を有する。

【図1】
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【公表番号】特表2010−503757(P2010−503757A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528507(P2009−528507)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/078542
【国際公開番号】WO2008/034088
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(508029859)シュリーブ ケミカル プロダクツ インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】