説明

HPCF型難燃耐熱光ファイバ心線及びその光ファイバコード。

【課題】ハードプラスチッククラッド光ファイバ(HPCF)素線のクラッドと1次被覆材である難燃ナイロン12樹脂間に適度な密着力及び難燃ナイロン12樹脂と難燃ポリプロピレン系エラストマー間の適度な密着力を付与して、従来のPOF心線・ケーブルより数段優れた性能を有し、難燃性、耐熱性、耐熱寸法安定性と端末加工が容易な心線・コードの提供。
【解決手段】石英ガラスのコアに硬質フッ素系樹脂のクラッドを施したHPCF素線上に、難燃ナイロン12樹脂の1次被覆層を設けた心線構造にすることにより、密着性(密着力100〜400g/mm)、難燃性、レーザ照射によるプラスチックフェルールへの融着性が付与される。また、前記心線上に、難燃ポリプロピレン系エラストマーの2次被覆層を設けた光ファイバコードの構造にすることにより、硬度が55以上、耐熱性、難燃性、密着性(密着力100〜300g/mm)が付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車や電車等の移動体内通信への用途や高温・低温環境等の厳しい使用環境下での通信への用途または現場でコネクタ取り付け加工が必要な用途に適したHPCF(ハードプラスチッククラッド光ファイバ)型難燃耐熱光ファイバ心線及びその光ファイバコードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、短、中距離通信への用途において、特に、車の通信分野ではカーナビゲーションシステムやオーディオシステムといったマルチメディア情報が取り扱われ、通信情報量の増加からデータ伝送の高速化への要求が高まっていることやワイヤーハーネスケーブルの軽量化、コストダウン、通信システムの構築への要求からプラスチック光ファイバ(POF)が使用されている。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
【特許文献1】特開2005−84096号公報
【0004】
今後、特に車内の通信分野では、更なる通信情報量の増加やデータ伝送の高速化が求められるのは必須であり、POFを使用した通信システムでは対応が限界に達すると考えられる。
そこで、光ファイバコアに石英ガラスを用いたHPCF(ハードプラスチッククラッド光ファイバ)を使用した通信システムが、その広帯域性や低損失性から車内の通信分野へ展開させる動きが出始めている。
一方、HPCF型光ファイバコードが、移動体内通信への用途に用いられる場合には、様々な特性が要求される。
環境特性では、例えば、車の用途では季節による温度変化やエンジン周り、ルーフ内配線に耐える耐熱性、熱寸法安定性が求められる。
また、機械特性でも可動部配線では、曲げ、引張り、捻り等の応力が複合的にしかも頻繁にかかるため、これらに対する耐性が求められる。
また、エンジンオイルやブレーキオイル、油圧オイル等の様々な油類やガソリン、バッテリー電解液等の引火性のある過酷な環境下で使用されるため、耐薬品性や難燃性も要求される。
更に、移動体通信への用途だけでなく、最近の高速ネットワークの普及により工場内やFA(ファクトリーオートメーション)装置間等の厳しい環境下での光ファイバでの配線要求も増加してきている。
また、石英ガラスを用いたファイバの欠点として光コネクタに取り付ける際、ファイバ先端にフェルールを装着する必要があるが、光ファイバ素線・1次被覆・2次被覆のどれか1つを固定した場合、主に、温度変化等の影響で膨張収縮が起こり、その結果としてピストニングと呼ばれる光ファイバ素線・1次被覆・2次被覆の各構成間でズレが発生し、損失変動やファイバ先端に近接して取り付けられる光素子の破損等を引き起こす可能性がある。
このため、図1(ロ)に示すように、現状では光ファイバ素線、1次被覆・2次被覆をフェルール内ですべて固定するために接着剤を使用しているので、生産性が悪いことや布設現場での加工性が悪いという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、HPCF素線のクラッドと1次被覆材である難燃ナイロン12樹脂間に適度な密着力(100〜400g/mm)及び難燃ナイロン12樹脂と難燃ポリプロピレン系エラストマー間の密着力(100〜300g/mm)を付与して、POF心線・ケーブルより数段優れた性能を有するHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線・コードを提供し、難燃性、耐熱性、熱寸法安定性に優れた心線・コードを提供すると同時に光コネクタ等の取付を行う端末加工においても加工が容易な心線・コードを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、これらの問題を解決するために、鋭意検討した結果、
クラッド外周に難燃剤の配合されたナイロン12樹脂を適温にて溶融後、押出被覆成形することにより適度な密着力(100〜400g/mm)を付与し、同時に環境温度変化による被覆層からの光ファイバの引込みや突き出し、いわゆるピストニングを抑える。
具体的には、石英ガラスのコアに硬質フッ素系樹脂のクラッドを施したHPCF素線上に、0.1wt%以上のカーボンブラック、5〜20%(好ましくは約15wt%)のトリアジン系難燃剤と1〜20wt%の接着性樹脂を配合した難燃ナイロン12樹脂の1次被覆層を設けた心線構造にすることにより、密着性(密着力100〜400g/mm)、難燃性、レーザ照射によるプラスチックフェルールへの融着性が付与される。
また、難燃ナイロン樹脂には適量のカーボンブラックが添加されているので、黒色となり、接着剤を用いずにレーザ光によるフェルールとの融着接続が可能となり、端末加工が容易となる。
光ファイバ心線は、外径公差を±40μmに制御して高精度な位置合せによるレーザ融着を可能にしている。
また、上記心線の外周に2次被覆材として難燃ポリプロピレン系エラストマーを被覆したHPCF型難燃耐熱光ファイバコードにおいては、光ファイバ心線の難燃ナイロン12樹脂と難燃ポリプロピレン系エラストマーの密着力を100〜300g/mm(好ましくは、150〜250g/mm)に制御して、端末加工時の光コードの使い勝手を向上させる。
具体的には、前記心線上に、30〜50wt%の難燃剤、1〜10wt%の接着性樹脂を配合した難燃ポリプロピレン系エラストマーの2次被覆層を設けたHPCF型難燃耐熱光ファイバコードの構造にすることにより、硬度が55以上、難燃性、密着性(密着力100〜300g/mm)が付与される。
更に、難燃ポリプロピレン系エラストマーの材料硬度を55以上(ジュロメータ:Dスケール)として堅牢にすることにより端末加工時のフェルールを接着剤方式だけではなく、捻込式や押圧式といった機械的な加工方法にも適用させることが可能となり、同時に機械特性も向上させることができる。
また、2次被覆材として難燃ポリプロピレン系エラストマーを使用することで難燃性、耐熱性、耐薬品性も良好になる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のHPCF型難燃耐熱光ファイバコードを使用することで、POF心線・ケーブルより環境特性、機械特性、低損失、広帯域、端末加工性の良好なHPCF型光ファイバコードを提供できるという優れた効果があり、その工業的価値は大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のHPCF型難燃耐熱光ファイバコード1の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明は、図1(イ)に示すように、中心部に設けた石英ガラスのコア1aに硬質フッ素系樹脂のクラッド1bを施したHPCF素線2を設け、その外周に難燃ナイロン12樹脂の1次被覆層3を施した光ファイバ心線1Aを形成し、更にその外周に難燃ポリプロピレン系エラストマーの2次被覆層4を設けたHPCF型難燃耐熱光ファイバコード1Bである。ここで、 本発明の前記心線やコードに難燃性を付与する方法としては、ナイロン12樹脂やポリプロピレン系エラストマーに難燃剤を配合すれば良い。所望の難燃性を実現するため、難燃剤の他に難燃助剤も添加することができる。難燃剤としては臭素系、金属水酸化物、リン系、窒素系などがあり、所望難燃レベルに応じて各種難燃剤を適量添加する。
具体的には、臭素系ではテトラブロモビスフェノールA、ビステトラブロモフタルイミドエタン、臭素化ポリスチレン、ポリジブロモプロピルエーテル、デカブロモジフェニルエタン等があり、金属水酸化物では水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、リン系では芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステル、赤リン等があり、窒素系ではトリアジン系、グアニジン系、グアニル尿素系、メラミン系等がある。
本発明品の2次被覆材においてもこれらの難燃剤群から1種類または2種類以上を選択して配合することができ、難燃性向上効果があり、被覆材の物性には影響を与えない量として、その配合量は30〜50wt%が好ましい。
また、接着性樹脂としてはポリアミド、ポリエステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン等があり、本発明品では最も効果の高いと考えられる接着性ポリアミドを1次被覆材に、接着性ポリプロピレンを2次被覆材にそれぞれ配合し、HPCF素線及びナイロン12との密着力を制御した。
次に、具体的実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0009】
コア材として石英ガラス、クラッド材として紫外線硬化樹脂を用い、溶融伸延を行って、コア直径200μm、クラッドの厚み15μmのHPCF素線を得た。次いで、このHPCF素線に押出被覆装置を用いて、難燃剤及び接着性樹脂を配合しないナイロン12樹脂(ナイロン12(a)と記す。)を被覆して厚みが335μmの1次被覆層を形成し、外径0.9mmのHPCF心線を得た。更に、このHPCF心線上に同様の押出被覆装置を用いて、難燃ポリプロピレン系エラストマー樹脂(PPエラストマー(1)と記す。)を被覆して厚みが650μmの2次被覆層を形成し、外径2.2mmのHPCF型難燃耐熱光ファイバコードを得た。得られた光ファイバコードの構造を図1と表1に示し、各種特性の評価結果を表2に示す。
【実施例2】
【0010】
実施例2の変更点は、実施例1に対して、1次被覆材として難燃剤(トリアジン系化合物)を約15wt%と約10wt%の接着性樹脂を配合した難燃ナイロン12樹脂(ナイロン12(b)と記す。)を使用した点である。それ以外は実施例1と同様にしてHPCF型光ファイバコードを作製した。得られたHPCF型難燃耐熱光ファイバコードの各種特性を評価し、その結果を表2に示す。
【実施例3】
【0011】
実施例3の変更点は、実施例1に対して、1次被覆材として難燃剤(トリアジン系化合物)を約15wt%と約10wt%の接着性樹脂を配合した難燃ナイロン12樹脂(ナイロン12(b)と記す。)を用い、2次被覆材として難燃剤が少なく、接着性樹脂を配合しないポリプロピレン系エラストマー樹脂(PPエラストマー(2)と記す。)を使用した点である。それ以外は、実施例1と同様の方法でHPCF型光ファイバコードを作製した。得られたHPCF型難燃耐熱光ファイバコードの各種特性を評価し、その結果を表2に示す。
次に、参考のために、比較例1を実施した。比較例1の変更点は、実施例1に対して、1次被覆材としてポリ塩化ビニル樹脂を(PVCと記す。)を用いたことである。それ以外は、実施例1と同様の方法でHPCF型光ファイバコードを作製した。得られたHPCF型難燃耐熱光ファイバコードの各種特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0012】

【表1】

【0013】
本発明のHPCF型難燃耐熱光ファイバコード1の各種実施例についての比較表を表2に示す。
【0014】

【表2】

【0015】
・この表2から明らかなように、本発明の実施例3の場合が、適度な密着力に制御され、環境温度変化によるピストニングも小さく、難燃性や耐熱性やレーザ融着性や伝送損失において、総合的に良好な結果を示していることがわかった。
・次に、各論としては、実施例1〜3と比較例1に示すように、種々の1次被覆材と2次被覆材を組合せて確認を行った。
・HPCF素線と1次被覆材、2次被覆材の組合せにより密着力に差が生じた。
・1次被覆材(難燃ナイロン12樹脂)との密着力では適度な密着力(100〜400g/mm)に制御して押出被覆成形が出来たが、中には100g/mm以下でピストニングが起ったものがあった。
・2次被覆材(難燃ポリプロピレン系エラストマー)との密着力では適度な密着力100〜300g/mm(より好ましくは、150〜250g/mm)に制御されていたが、材料によっては弱すぎて、密着していないものがあった。
・光ファイバ心線の1次被覆押出加工時の外径変動は、全てが40μm以内に制御されており、良好な結果を得た。このように制御されているため、レーザ照射により、光ファイバ心線とフェルール間レーザ融着の信頼性を高めることが可能になる。
・耐熱性は125℃の槽に3000時間サンプルを投入し、その後の外観変化と損失変化を確認したがいずれのサンプルも外観に変化はなく、損失変化もみられず、良好な結果を得た。
・難燃性は、難燃剤配合量が、30wt%未満では不合格になったが、30wt%以上では自己消火して合格となり、良好な結果を得た。
・レーザ融着は、図1(ロ)に示すように、光ファイバ心線1Aの部分にレーザ照射7をすることにより、透明樹脂製フェルールが融着して、光ファイバ心線に接着される。この加工については光ファイバの心線色が、白の場合、不可能であったが、黒の場合にはレーザ融着が可能であった。ここで、レーザの媒体は、CO2(二酸化炭素)を使用した。本発明のレーザ照射による接着度合いは、従来の接着方式に比べて、ほぼ同等であった。また、その加工時間は、従来の接着による方法に比べて1/30に短縮することが可能になった。
・2次被覆材については、端末加工時、Dスケール52以下では力を加えたときにコード自体が変形し、フェルール取り付けは不可能であった。硬度が、Dスケール55以上あれば、捻込式や押圧式のフェルールも使用可能であることがわかった。
・比較例1は、参考までに、1次被覆材としてPVCを用いたため、密着力、ピストニング、耐熱性において良好な結果を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のHPCF型難燃耐熱光ファイバコードおよびこのコードの少なくとも片端に光コネクタ等のプラグを付けたコードは、主として車や電車等の移動体内通信への用途、高温・低温環境等の厳しい使用環境下での通信への用途、光コネクタ等を取付ける端末加工を現場で行う必要がある用途に好適である。
【0017】
本発明は、代表的な例を示したが、これに限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲内において、含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(イ)本発明のHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線1A及びその光ファイバコード1Bの構造断面図で、(ロ)は、本発明のレーザ照射によるフェルール接続方法及び従来の接着剤によるフェルール接続方法の比較説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1A 本発明のHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線
1B 本発明のHPCF型難燃耐熱光ファイバコード
1a コア
1b クラッド
2 HPCF素線
3 1次被覆層
4 2次被覆層
5 透明樹脂製フェルール
7 レーザ照射
8 融着部
1A´ 従来の光ファイバ心線
1B´ 従来の光ファイバコード
2´ 従来の光ファイバ素線
5´ 従来のフェルール
6´ 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスのコアに硬質フッ素系樹脂のクラッドを施したハードプラスチッククラッド光ファイバ(HPCF)素線に難燃ナイロン12樹脂の1次被覆層を設けたHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線であって、HPCF素線のクラッドと難燃ナイロン12樹脂の密着力が、100〜400g/mmであることを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線。
【請求項2】
請求項1の1次被覆層は、5〜20wt%のトリアジン系難燃剤と1〜20wt%の接着性樹脂を配合した難燃ナイロン12樹脂であることを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線。
【請求項3】
請求項2の1次被覆層は、0.1wt%以上のカーボンブラックを配合し、黒色として、プラスチックフェルールに挿入し、レーザ照射による融着で光コネクタを取り付けることが可能になることを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線。
【請求項4】
請求項3において、レーザ照射によるHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線とフェルールの融着性を良好にするため、組合せるフェルールの材質は透明樹脂であることを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線。
【請求項5】
請求項1のHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線上に、更に、難燃ポリプロピレン系エラストマーの2次被覆層を設けたHPCF型難燃耐熱光ファイバコードであって、難燃ナイロン12樹脂と難燃ポリプロピレン系エラストマーの2次被覆層の密着力が、100〜300g/mmであることを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバコード。
【請求項6】
請求項2のHPCF型難燃耐熱光ファイバ心線上に、更に、30〜50wt%の難燃剤、1〜10wt%の接着性樹脂を配合した難燃ポリプロピレン系エラストマーの2次被覆層を設けたことを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバコード。
【請求項7】
請求項6において、難燃ポリプロピレン系エラストマーの硬度が、Dスケール55以上であることを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバコード。
【請求項8】
請求項7の光ファイバコードは、Dスケール55以上の硬度を有するため、捻込式や押圧式のようなフェルールと機械的な接続で光コネクタを取り付けることが可能になることを特徴とするHPCF型難燃耐熱光ファイバコード。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−3203(P2008−3203A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171154(P2006−171154)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(390002598)沖電線株式会社 (45)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】