説明

HPVにより惹起される疾患の治療用組成物

本発明は、ヒトパピローマウイルスのE7タンパク質の免疫原性領域およびフィブロネクチンのEDA領域を含む免疫原性複合体、並びに前記複合体を含む組成物並びに前記複合体および組成物を用いる刺激により得られる樹状細胞に関する。さらに、本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)により惹起される疾患を治療するための、前記複合体、組成物および樹状細胞を使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)により惹起される疾患を治療するための治療用組成物、さらに具体的には少なくとも1種のHPV E7由来の抗原性ペプチドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸癌は、全世界中の女性における最も一般的な癌の一つであり、癌全体の中で5番目に多く、患者数は140万例と推定される。種々のタイプの粘膜指向性のヒトパピローマウイルスに基づく慢性生殖管感染が子宮頸癌を引き起こすという一貫した証拠がある。
【0003】
子宮癌に対して現在使用されている米国メルク社のGardasilと称するワクチンは、全子宮癌症例の約70パーセントの根源にある該ウイルスの16および18型系統に対して95パーセントを防御することができる。それは、生殖器官において疣贅を起こす6および11型系統に対しても防御となる。
【0004】
HPVの発癌性のタンパク質E6およびE7の発現は、悪性の形質転換、並びにHPV誘発病変の臨床的および細胞学的解決と関連してきたE7に対する細胞性免疫の開始および維持に必要である。
【0005】
パピローマウイルスは、多くの様々な種に感染するDNAウイルスである。これらのウイルスの幾つかは、それらの天然宿主における疾患の発生に関連している。同定されているヒトパピローマウイルス(HPV)のタイプは60を超える。
【0006】
これらのウイルスは、身体の複数の領域でヒト生体に感染して、皮膚の普通の疣贅、喉頭のパピローマ、その他の原因である。
【0007】
HPV生殖器感染は比較的頻度が高く、男性および女性の生殖管に最もしばしば感染するHPVのタイプは6、11、16および18型である。
【0008】
女性において、HPVは、子宮頸部を含む生殖管の種々な部分に感染する。肛門と性器に関わる領域の感染は最も頻度の高い性行為感染症の一つと考えられるので、生殖器HPVは臨床的な問題である。HPVは、以下の形態において示される生殖器感染を惹起する:
i)生殖器疣贅が示される臨床的感染;
ii)病変は目に見えないが、パパニコラウ細胞診などの特別の技法を使用して検出できるウイルス性病変である無症状感染;および、
iii)感染の単独の徴候がHPV DNAの存在である潜伏期。
【0009】
他方、パパニコラウ細胞診の2から4%がHPVの証拠を示すと見積もられるので、無症状感染は比較的一般的である。潜在的感染は、さらに高頻度であり、大部分の成人は1つまたは複数のタイプのHPVを有すると推定される。
【0010】
子宮頸癌は女性によく見られる癌である。この癌の中で、最も普通に見出される扁平上皮細胞癌(観察された症例の約90%)と分泌細胞癌である腺癌とが区別される。子宮頸癌には数段階がある。前癌段階は前立腺上皮内新生物(CIN)と呼ばれ、侵襲的形態(癌)に発展し得る。その前癌形態およびその侵襲的形態にある両者とも、子宮頸癌は、比較的信頼性のある費用のかからない技法、すなわちパパニコラウ検査を使用して診断することができる数少ない癌の一つである。
【0011】
近年集められた証拠により、HPVの幾つかのタイプが子宮頸癌の発生と関連しており、これらのタイプの幾つかは癌の発生の原因となる病因性因子であることが示唆される。
【0012】
HPVは子宮頸部発癌開始剤として作用し、悪性の形質転換は他の因子との相互作用に依存すると仮定されてきた。特にHPV−16、一般的にはパピローマウイルスの性質は、近年研究されてきた。HPV−16は7904bpの二重螺旋DNAゲノムを含む(Seedorf,K.et al.,1985, Virology 145:181−185)。カプシドは直径50nmであり72個のカプソメアを含む(Klug,A.J., 1965, Mol.Biol.11:403−423)。米国特許第4,777,239号は、HPV−16に対する抗体を発生することができて、それ故診断目的にとって有用な一連の17個の合成ペプチドを教示している。
【0013】
HPVは、HPVに誘発される異常な細胞増殖の病原性に関与するように思われる2種のタンパク質、E6およびE7をコードする(Stoppler et al.,1994、Intervirology、37:168−179参照)。HPV16のE6およびE7タンパク質のアミノ酸配列はSeedorfら(Virology、1985、145: 181−185)により定義された。
【0014】
E6およびE7タンパク質をコードする遺伝子は、HPV感染を伴った子宮頸癌腫瘍細胞で必ず発現しているようであることが観察されている。
【0015】
E6およびE7タンパク質は腫瘍退縮に有効な免疫学的標的であると思われる。それにも拘わらず、前記タンパク質をコードするDNAに基づくワクチン開発の可能性として、患者の細胞における不可逆的細胞形質転換事象の発症が生じ得る。EP0796273には、E6およびE7タンパク質の変異および非変異区域との融合タンパク質を使用して、望ましくない細胞形質転換を発生させずに、患者中で免疫応答を生じさせ得る組成物が記載されている。
【0016】
Previlleら(Cancer Res.,2005,65:641−649)は、百日咳菌(ボルデテラ・パータシス)のアデニレートシクラーゼ(CyaA)と完全なE7タンパク質またはそれらの種々の領域とを含む種々の融合タンパク質を記載している。アデニレートシクラーゼはCD11b+樹状細胞に、αβインテグリン(CD11b/CD18)との相互作用により結合することができ、それ故融合タンパク質の幾つかは、HPV16 E7を発現する腫瘍細胞に対する特異的免疫応答(ヘルパーTおよび細胞傷害性T)を引き起こすことができる。
【0017】
Berraondo Pら(Cancer research、2007、67:8847:8855)は、CyaAとアミノ酸30から42までを欠くHPV16の切断型(CyaA−E7Ll30−42)とを含む組換えタンパク質、カチオン性脂質と関連したCpGおよびシクロホスファミドにより形成される組成物を記載している。この組成物はE7を発現する腫瘍に対する免疫応答を生じさせることができる。
【0018】
しかしながら、望ましくない細胞形質転換を生じさせずに、HPVタンパク質を発現する腫瘍細胞に対する免疫応答を患者中に生じさせることができるさらなる免疫原性組成物並びに免疫応答の発生に相乗的に作用して前記タンパク質の投与量を減少させることができるような前記タンパク質と追加成分とを含む組成物に対する必要性が未だ存在する。
【発明の概要】
【0019】
第1の態様において、本発明は、
(i)フィブロネクチンのEDA領域またはそれらの機能的に同等な変異体、および、
(ii)少なくとも1種のHPV E7由来の抗原性ペプチド
を含み、成分(i)と(ii)とが共有結合してなる複合体であって、
抗原性ペプチド(peptide or peptides)に対する細胞傷害性応答を助長する複合体に関する。
【0020】
それに加わる態様において、本発明は、本発明の複合体をコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物と、本発明のポリヌクレオチドまたは本発明の遺伝子構築物を含むベクターと、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物または本発明のベクターを含む細胞とに関する。
【0021】
他の態様において、本発明は、
(i)本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明による宿主細胞、および、
(ii)TLRリガンド、
を一緒にまたは別々に含む第1組成物に関する。
【0022】
他の態様において、本発明は、
(i)請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の宿主細胞、
(ii)TLRリガンドおよび、
(iii)化学療法剤
を一緒にまたは別々に含む第2の組成物に関する。
【0023】
他の態様において、本発明は、医薬組成物、すなわち、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の第1のまたは第2の組成物および少なくとも1種の薬理学的に許容されるアジュバントを含む本発明の医薬組成物に関する。
【0024】
他の態様において、本発明は、医学において使用するための、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の第1のまたは第2の組成物または本発明の医薬組成物に関する。
【0025】
他の態様において、本発明は、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の第1のまたは第2の組成物または本発明の医薬組成物の、ワクチンを製造するための使用に関する。
【0026】
他の態様において、本発明は、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の第1のまたは第2の組成物または本発明の医薬組成物の、ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の予防および治療のための医薬を製造するための使用に関する。
【0027】
他の態様において、本発明は、少なくとも1種のHPV E7抗原を表示する成熟樹状細胞を得るためのインビトロの方法すなわち、
(i)樹状細胞を、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の第1のまたは第2の組成物と、樹状細胞の成熟が起こるのに適した条件で接触させ、かつ
(ii)成熟樹状細胞を回収すること
を含む本発明の方法に関する。
【0028】
他の態様において、本発明は、本発明の方法により得られる細胞、または本発明の第2の細胞に関する。
他の態様において、本発明は、医学において使用するための本発明の第2の細胞に関する。
【0029】
他の態様において、本発明は、ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌を予防および治療するための医薬を製造するための本発明の第2の細胞の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】組替えEDA−HPVE7融合タンパク質の図式的表示である。E7タンパク質の最初の29個のアミノ酸はEDAのN端に位置したが、E7のアミノ酸43〜98はEDAのC端に挿入されていた。融合タンパク質の配列は、アミノ酸についての単一のコードを使用して示す。E7タンパク質のアミノ酸は灰色で示すが、それに対してEDAのアミノ酸は黒色で描いてある。EDA−HPVE7組替えタンパク質のSDS−PAGE分析。5マイクログラムの精製タンパク質を15%SDSポリアクリルアミドゲルで分離してクロマジーブルーで染色した。
【図2】EDAHPV−E7融合タンパク質による骨髄由来の樹状細胞成熟の活性化を示す図である。骨髄由来の樹状細胞を、EDA−HPVE7(500nM)、ペプチドE7(49−57)(500nM)、LPS(1μg/ml)(陽性対照)または培養培地(陰性対照)と共に48時間インキュベートした。次に細胞を捕集して、フローサイトメトリーによりH−2b分子または成熟マーカーCD54およびCD86(RFU:相対蛍光単位)の発現について分析した。
【図3】EDA−HPV−E7融合タンパク質は、骨髄由来の樹状細胞によるIL−12の産生またはヒト単球細胞ラインTHP−1によるTNF−αの産生を誘発する。(A)骨髄由来の樹状細胞を、EDA−HPVE7(500nM)、ペプチドE7(49−57)(500nM)、LPS(1μg/ml)(陽性対照)または培養培地(陰性対照)と共に48時間インキュベートした。24時間後に、培養上清を捕集して上清に放出されたIL−12をELISAにより測定した。 (B)THP−1細胞を、EDA−HPVE7(500nM)、ペプチドE7(49−57)(500nM)、LPS(1μg/ml)または培養培地(陰性対照)と共に15時間インキュベートした。培養後、上清を捕集して放出されたTNF−αをELISAにより測定した。
【図4】PBS中におけるEDA−HPV−E7タンパク質またはDTc/E7(49−57)ペプチドを用いた免疫によるCTLのインビボ誘発を示す図である。(A)マウスは、2nmolEDA−HPV−E7またはDTc/E7(49−57)ペプチドを静脈注射して免疫した。免疫後7日にマウスを屠殺して、脾臓細胞をDTcペプチドの存在または不在下に5日間培養した。CTL活性は、タンパク質EDA−HPV−E7(黒丸印)、ペプチドDTc/E7(49−57)(白丸印)で免疫したマウスから得た脾臓細胞培養中で、放射性標識してDTcペプチドをパルスで適用したEL4細胞を標的細胞として使用する従来のクロム放出アッセイを使用して測定した(グラフでは絶対値を示し、前記の値はペプチドの存在下で得られた値からペプチド無添加で得られた細胞溶解の値を差し引くことにより計算した)。(B)EDA−HPV−E7またはDTc/E7(49−57)ペプチドで免疫したマウスからの脾臓細胞中で、ペプチドE7(49−57)に応答してIFN−γを産生する細胞または放射線照射したTC1もしくはEL−4細胞のELISPOTによる測定。
【図5】EDA−HPV−E7タンパク質またはpI:Cと混合したペプチドDTc/E7(49−57)を用いた免疫によるCTLのインビボ誘発を示す図である。マウスを、pI:C(50μg/マウス)の存在下で2nmolのEDA−HPV−E7またはDTc/E7(49−57)ペプチドを静脈注射して免疫した。免疫後7日にマウスを屠殺して、脾臓細胞をDTc/E7(4957)ペプチドの存在または不在下で5日間培養した。CTL活性は、EDA−HPV−E7+pI:Cタンパク質またはDTc/E7(49−57)+pI:Cペプチドで免疫したマウスから得た脾臓細胞培養中で、放射性標識してDTcペプチドをパルスで適用したEL4細胞(黒丸印)(A)または放射線照射したTC−1細胞(B)(白丸印を)を標的細胞として使用して、従来のクロム放出アッセイを使用して測定した。(C)EDA−HPVE7+pI:CまたはDTc/E7(49−57)+pI:Cで免疫したマウスからの脾臓細胞中における、E7(49−57)ペプチドまたは放射線照射したTC1細胞もしくはEL−4細胞に対して応答してIFN−γを産生する細胞の測定。
【図6A】ポリI:C(pI:C)と組み合わせたEDA−HPVE7融合タンパク質の治療有効性を示す図である。マウスに5×10個のTC−1細胞を注射して25日後に、腫瘍の平均直径が約8mmになったときに、マウスにEDAを主成分とする種々のワクチンの組合せを静脈内に注射した。(A)垂直な2箇所の直径の平均(ミリメートル)として表示する腫瘍サイズを、規則的な間隔で測定した。第100日における実験に含まれたマウスの数の合計に対する腫瘍のないマウスの数、および第100日における生存率(%)を各組の実験について示す。EDA−E7/pI:Cで処置した群における腫瘍の成長とpI:Cで処置した群における腫瘍の成長とを比較する尤度比検定により決定したp−値(p<0.05)を示す。マウスを、腫瘍直径が20mmに達したときまたは動物の衛生状態に基づいて必要なときに屠殺した。
【図6B】(B)免疫原を示して、免疫したマウスの生存曲線を示す(p値を示す((p<0.05))。2つの独立の実験をプールしたデータを示す。
【図7A】大きい腫瘍モデルにおけるEDA−HPVE7融合タンパク質の治療的有効性を示す図である。(A)CS7BL/6マウスに5×10個のTC−1細胞を注射して35日後に、腫瘍の平均直径が約12〜15mmになったとき、マウスは治療せずにおくかまたは特効薬として175mg/kgのシクロホスファミド(CPA)を単回投与で与えられた。第36日に、対照マウス群にPBSまたは30μgのCpG−B/DOTAPを静脈注射した。ワクチン接種したマウスに50μgのEDA−E7および30μgのCpGB/DOTAPを静脈注射した。CpGB/DOTAPで処置した対照群は、第50日にシクロホスファミド、および第51日にCpGB/DOTAPの2回目の投与を受けた。治療したマウスは、第50日にシクロホスファミドおよび第51日にEDA−HPV−E7/CpG−B/DOTAPの注射により2回目のワクチン投与を受けた。
【図7B】(B)垂直な2箇所の直径の平均(ミリメートル)として表示する腫瘍サイズを、定期的間隔で測定した。第150日における、実験に含まれた動物の合計数に対する腫瘍のないマウスの数および第150日における生存率(%)を実験の各組について示す。マウスは、腫瘍直径が22mmに達したときまたは動物の衛生状態に基づいて必要なときに屠殺した。
【図7C】(C)免疫原を示して、免疫したマウスの生存曲線を示す(p値を示す((p<0.05))。2つの独立の実験をプールしたデータを示す。
【発明の具体的説明】
【0031】
本発明の複合体
本発明らは、フィブロネクチンのEDA領域とHPV−E7すなわちE7タンパク質の免疫原領域とを含む組替えタンパク質が、インビトロで樹状細胞の成熟を誘発し得ることに加えて、前記タンパク質を発現する腫瘍に対してCD8+T細胞により媒介される強力な抗腫瘍活性を生じ得ることを観察した。したがって、本発明の実施例1で観察されるように、前に言及した融合タンパク質と骨髄由来の樹状細胞との接触により、種々の樹状細胞成熟マーカーの発現レベルの定量から推論されるように、前記細胞の成熟が惹起される。それに加えて、本発明の実施例2で観察されるように、前記融合タンパク質の動物モデルへの投与により、E7タンパク質を発現する腫瘍細胞に対する、細胞傷害性T細胞により媒介される免疫応答を生じさせることができる。
【0032】
したがって、第1の態様において、本発明は:
(i)フィブロネクチンのEDA領域または機能的に同等なそれらの変異体、および
(ii)少なくとも1種のHPV E7由来の抗原性ペプチド
を含み、
成分(i)と(ii)とが共有結合してなる複合体であって、抗原性ペプチド(単数または複数)に対する細胞傷害性応答を助長する複合体(以後、本発明の複合体)に関する。
【0033】
複合体の第1の構成要素は、フィブロネクチンのEDA領域または機能的に同等なそれらの変異体である。
【0034】
用語「EDA領域」または「エキストラタイプIII」は本明細書において区別せずに使用され、フィブロネクチン遺伝子のエクソン転写/翻訳により生じて、Toll様受容体4(TLR4)に対する特異的親和性を示すフィブロネクチン分子の領域を指す。このドメインは、Muro A.F.ら(J.Cell.Biol.,2003,162:149−160)により最初に記載された。EDA領域は、マウスフィブロネクチン(GenBank受入番号AAD12250.1)またはラットフィブロネクチン(GenBank受入番号AAB40865.1)などの異なる種から得られるフィブロネクチンから誘導することができる。
【0035】
本明細書において使用する、「フィブロネクチン」は、血液中および組織の細胞間質中に存在する多官能性高分子量糖タンパク質として理解されている。フィブロネクチンは、C末端のジスルフィド結合により結合した2つの同一のポリペプチド鎖により形成される二量体である。各モノマーは、およその分子量が230〜250kDaである。各モノマーは、3タイプの構造単位:タイプI、タイプIIおよびタイプIIIを含む。これらの構造単位の各々は、2本の逆平行のβヘリックスにより形成される。
【0036】
「機能的に同等な変異体」は、EDA配列からの改変、1つもしくは複数のアミノ酸の挿入および/または欠失により誘導されるが、但し、TLR4受容体への結合機能および樹状細胞を活性化する機能は実質的に保たれるこれら全てのペプチドとして理解される。機能的に同等な変異体は、フィブロネクチンEDAドメインに関して、少なくとも25%、少なくとも40%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%を超える同一性を示す変異体である。2種のアミノ酸配列間の同一性の程度は、従来の方法により、例えば、例えばBLAST(Altschul S.F. et al. Basic local alignment search tool. J Mol Biol. 1990 Oct 5;215(3):403−10)などの当技術分野において知られた標準的配列アラインメントアルゴリズムにより決定することができる。当業者は、この記載で参照されたアミノ酸配列は、例えば、リン酸化、アセチル化などの生理学的に関連する化学的改変により、化学的に改変することができることを理解するであろう。したがって、本明細書において使用する「機能的に同等な変異体」という表現は、問題のポリペプチドまたはタンパク質が、フィブロネクチンのEDA領域の少なくとも1つの機能、好ましくは免疫応答に関する少なくとも1つの機能、特に、TLR4と相互作用して樹状細胞の成熟を促進する能力を維持する機能を保つことを意味する。機能的に同等な変異体のTLR4と相互作用する能力は、当業者により知られた従来の方法を使用することにより決定することができる。例えば、簡単な実例として、フィブロネクチンのEDA領域の変異体がTLR4に結合する能力は、関心のあるタンパク質(例えばEDA変異体)が特異的抗体を用いて単離される共免疫沈殿実験を使用して決定することができ、該タンパク質と相互作用する分子(例えばTLR4)がそれに続いてウェスタンブロットにより同定される。自然の条件における酵母ツーハイブリッドアッセイまたは電気泳動アッセイも、使用することができる。後者の方法は、タンパク質錯体のポリアクリルアミドゲル中におけるそれらの分子量に基づく移動に基づく。移動が電
荷によっても規定されるなら、タンパク質に、変性せずにまたは他のタンパク質とそれらとの相互作用を破壊せずに正味の負の電荷を付与するクーマジーブルーを含有する溶液が陰極緩衝剤として使用される。SDS−PAGEゲル中の第2の変性範囲により、スポットを分離して、それに続きコンプレックスを形成するサブユニットの同一性を質量分析法により同定することが可能になる。EDAの機能的と同等な変異体の樹状細胞の成熟を促進する能力を決定するアッセイは、当業者により知られており、例えば、IAb、CD54、CD86およびIL−12などの種々の成熟樹状細胞マーカーの発現レベルを決定することに基づく、本出願の実施例1に記載したアッセイなどがある。
【0037】
当業者は、EDAドメインの配列をコードするヌクレオチド配列における、タンパク質の機能性にとって決定的ではない位置においてアミノ酸の保存的置換を起こす変異は、その構造または機能性全体に影響しない進化に中性の変異であることを理解している。
【0038】
好ましい態様において、本発明の複合体のフィブロネクチンEDA領域は、UniProtデータベース中の受入番号FINC_ヒトで示されたヒトフィブロネクチンのアミノ酸1,631から1,721までに対応し、それは配列番号1の配列のポリペプチドに相当する。
【0039】
本発明の複合体の成分(ii)は、HPV E7タンパク質に由来する1種または複数種の抗原性ペプチドである。E7タンパク質は、種々のHPV血清型に由来し得る。したがって、本発明の関係で使用することができるE7タンパク質には、ヒトHPV血清型80(GenBank:CAA75471.1)のタンパク質E7、ヒトHPV血清型68(GenBank:ACL12352.1)のE7、ヒトHPV血清型11(GenBank:ACL12343)のE7、ヒトHPV血清型59(GenBank:ACL12335)のE7、ヒトHPV血清型33(GenBank:ACL12327)のE7、ヒトHPV血清型72(GenBank:CAA63874)のE7、ヒトHPV血清型16(GenBank:ACL12311)のE7、ヒトHPV血清型13(GenBank:ABC79058)のE7、ヒトHPV血清型73(GenBank:CAA63883)のE7、ヒトHPV血清型96(GenBank:AAQ88290)のE7、ヒトHPV血清型31(GenBank:AAR13015)のタンパク質E7の形質転換変異体、ヒトHPV血清型25(GenBank:BAA09117)のE7、ヒトHPV血清型21(GenBank:BAA09116)のE7、ヒトHPV血清型20(GenBank:BAA09115)のE7、ヒトHPV血清型14(GenBank:BAA09114)のE7、ヒトHPV血清型12(GenBank:BAA09113)のE7、ヒトHPV血清型27b(GenBank:BAE16264)のE7、ヒトHPV血清型77(GenBank:CAA75457)ヒトHPV血清型76(GenBank:CAA75457)のE7、ヒトHPV血清型75(GenBank:CAA75450)のE7、ヒトHPV血清型2(GenBank:NP_077117)のE7、ヒトHPV血清型38(GenBank:CAQ16115、CAQ16114、CAQ16113、CAQ16112、CAQ16111、CAQ16110、CAQ16109、CAQ16108、CAQ16107、CAQ16106、CAQ16105、CAQ16104、CAQ16103、CAQ16102、CAQ16101、CAQ16100)の発癌性のE7、ヒトHPV血清型94(GenBank:CAF05710
)のE7、ヒトHPV血清型95(GenBank:CAF05703)のE7、ヒトHPV血清型43(GenBank:CAF05784)のE7、ヒトHPV血清型5b(GenBank:BAA42818)のE7、ヒトHPV血清型103(GenBank:YP_656493)のE7、ヒトHPV血清型101(GenBank:AAZ39507)のE7、ヒトHPV血清型103(GenBank:AAZ39485)のE7が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書において使用する表現「抗原性ペプチド」は、生体の免疫系を刺激して抗原特異的細胞または液性応答を発生させることができる1つまたは複数のエピトープを含むペプチド分子を指す。抗原性ペプチドと被験者の適当な細胞とを接触させた結果として、抗原は前記被験者に免疫応答の感度または能力を生じさせ、その結果、前記被験者から得られる抗体および免疫細胞は両方とも抗原と特異的に反応することができる。
【0041】
本明細書において使用する表現「HPV E7タンパク質由来の抗原性ペプチド」は、E7の発現により惹起される腫瘍の成長を阻害またはHPVの増殖を阻害することができる、前記タンパク質に対する免疫応答が生ずるように哺乳動物の免疫系を刺激することができるHPV E7タンパク質フラグメントを意味する。
【0042】
抗原(単数または複数)は、完全なE7タンパク質だけでなく、前記タンパク質の単離されたドメイン、E7タンパク質のペプチド断片または複数のエピトープ(例えば5から100の異なったエピトープ)を含むポリエピトープ融合タンパク質であってよいことが観察されるであろう。該ポリペプチドは、場合により追加の区域を含むことができ、例えば、少なくとも4、5、10、15、20、25、30、40、50、60、75、90またはさらに100以上の区域を含むことができて、各々は病原性物質の天然に生ずるE7タンパク質および/または他の区域が由来するタンパク質(単数または複数)と同じであっても異なっていてもよい天然に生ずる腫瘍抗原の一部分である。これらの区域の各々は、少なくとも8アミノ酸の長さを有することができて、各々、他の区域のエピトープと異なる少なくとも1つのエピトープ(好ましくは2つ以上)を含む。ハイブリッドポリペプチド中の少なくとも1つの(好ましくは少なくとも2または3)区域は、例えば、3、4、5、6、7またはさらに10以上のエピトープ、特にMBCクラスIまたはクラスIIに結合するエピトープを含むことができる。2または3以上の区域は、ハイブリッドポリペプチドに近接することができる;すなわち、それらは、それらの間にスペーサなしで端末間で結合することができる。あるいは、任意の2つの隣接する区域は、アミノ酸のスペーサまたはペプチドのスペーサにより結合することができる。
【0043】
表IはHPV E7由来の抗原性ペプチドの例である。
【0044】
【表1】

【0045】
当業者は、HPV E7ペプチドが抗原性であるかどうかを決定する種々の方法、例えば、実施例2で使用する方法(ELISPOT)またはTリンパ球により媒介される標的抗原性ペプチドの活性を検出するインビトロのプロセスを記載する特許EP1334177−B1に記載された方法について知っている。
【0046】
好ましい態様において、本発明の複合体の一部を形成する抗原性ペプチドは、HPV16E7タンパク質から誘導される。
【0047】
本発明の複合体の特定の態様において、後者は、E7のアミノ酸の第1〜29番まで(配列番号51)に対応するまたはそれを含むHPV E7タンパク質由来の抗原性ペプチド、E7のアミノ酸第43〜98番まで(配列番号52)に対応するまたはそれを含む抗原性ペプチドまたはそれら両方を含む。
【0048】
本発明の複合体の特定の態様において、EDA領域には、2つのHPV E7抗原性ペプチドが並んで配置されている。さらにより好ましい態様において、融合タンパク質の配列は配列番号53または配列番号72である。
【0049】
特定の態様において、成分ii)は、単独のポリペプチド鎖をまたは成分i)とともに融合タンパク質を形成する。
【0050】
本発明の融合タンパク質の単離および精製を容易にする目的で、前記融合タンパク質は、所望であれば、融合タンパク質を単離または精製する目的のために使用することができるタグペプチドなどの追加のペプチドを含有することができる。前記タグペプチドは、ポリペプチド(i)および(ii)のいずれの機能性も変化させない、融合タンパク質の任意の位置に所在することができる。限定するものではない例示として、前記タグペプチドは、タグペプチドのC末端が本発明の複合体のN末端に結合するように、本発明の複合体のN末端位に所在することができる。あるいは、タグペプチドは、タグペプチドのN末端が本発明の複合体のC末端に結合するように、本発明の複合体のC末端位に所在することができる。実質的には、融合タンパク質の単離または精製を可能にする任意のペプチドまたはペプチド配列を使用することができる、例えば、ポリヒスチジン配列、生じた融合タンパク質を免疫アフィニティクロマトグラフィーにより精製するのに役立ち得る抗体により認識され得るペプチド配列、例えばタグペプチドなど、例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(RA)由来のエピトープ(Field et al.,1988, Mol. Cell. BioI.,8:2159−2165)、C−mycおよびそれに対する抗体8F9、3C7、6E10、G4、B7および9E10(Evan et al.,1985, Molecular and Cellular Biology, 5:3610−3616);単純ヘルペスウイルスD(gD)タグタンパク質およびそれらの抗体(Paborsky et al., 1990, Protein Engineering, 3:547−553)などである。他のタグペプチドには、フラッグペプチド(Hopp et al., 1988, BioTechnology, 6:1204−1210)およびKT3エピトープ(Martin et al., 1993, Science, 255: 192−194)が含まれる。タグペプチドは、一般的に、アミノまたはカルボキシ末端に配列される。
【0051】
当業者は、フィブロネクチンのEDA領域がその樹状細胞を活性化する性質を保ち、且つHPV E7由来の抗原性ペプチドの領域(単数または複数)が抗原性の性質を保つ限り、本発明の複合体の異なった構成要素は任意の順で置かれてよいことを認識するであろう。
【0052】
したがって、常にN末端からC末端方向へと構成要素の配置を示す、本発明の複合体の構成要素の配列の例は、とりわけ:
・HPV E7由来の抗原性ペプチド−フィブロネクチンEDA、
・フィブロネクチンEDA−HPV E7由来の抗原性ペプチド、
・フィブロネクチンEDA−HPV E7由来の抗原性ペプチド−フィブロネクチンEDA、
・HPV E7由来の抗原性ペプチド−フィブロネクチンEDA−HPV35E7由来の抗原性ペプチド、
・最後の2つの反復
である。
【0053】
当業者は、本発明の複合体を形成する構成要素、すなわち、EDAペプチドと少なくとも1種のHPV E7由来の抗原性ペプチドとが、直接複合体化し得るかまたは、あるいは、それらが前記成分間のリンカーとしてはたらく追加のアミノ酸配列を含有し得ることを理解するであろう。本発明により、前記中間アミノ酸配列は、前記ドメイン間の蝶番部としてはたらき、それらが個々のドメインの3次元形態を保ちながら互いに独立に動くことを可能にする。
この意味で、本発明による好ましい中間アミノ酸配列は、この運動を可能にする構造的延性により特徴づけられる蝶番部であろう。特定の態様において、前記中間アミノ酸配列は柔軟性リンカーである。好ましい態様において、前記柔軟性リンカーは、20アミノ酸以下の長さの柔軟性リンカーペプチドである。
【0054】
リンカー領域の効果は、EDAペプチドと成分(ii)との間にスペースを提供することである。したがって、EDAペプチドの二次構造は成分(ii)の存在により影響されずおよび逆も成り立つことが保証される。スペーサは、好ましくはポリペプチドの性質のものである。リンカーペプチドは、好ましくは、少なくとも2アミノ酸、少なくとも3アミノ酸、少なくとも5アミノ酸、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも30アミノ酸、少なくとも40アミノ酸、少なくとも50アミノ酸、少なくとも60アミノ酸、少なくとも70アミノ酸、少なくとも80アミノ酸、少なくとも90アミノ酸または約100アミノ酸を含む。
【0055】
より好ましい態様において、リンカーペプチドは、グリシン、セリン、アラニンおよびトレオニンからなる群から選択される2つ以上のアミノ酸を含む。本発明の好ましい態様において、前記柔軟性リンカーは、ポリグリシンリンカーである。リンカー/スペーサの可能な例には、AGSSTGSSTGPGSTT(配列番号:55)またはGGSGGAP(配列番号56)が含まれる。これらの配列は、設計して巻いたコイルを他のタンパク質ドメインに結合するために使用されてきた(Muller,K.M.,Arndt,K.M.and Alber,T., Meth. Enzimology, 2000, 328:261−281)。好ましくは、前記リンカーは、アミノ酸配列GGGVEGGG(配列番号57)を含むかまたはそれからなる。
【0056】
リンカーは、本発明の複合体の2つの成分の上下流に隣接する成分に共有結合により結合することができる。スペーサは、本質的に非免疫原性であり、および/またはタンパク分解されやすくなく、および/またはシステイン残基を全く含まないことが好ましい。同様に、スペーサの3次元構造は、好ましくは線状または実質的に線状である。
【0057】
スペーサまたはリンカーペプチドの好ましい例として、結合したタンパク質の機能を実質的に損なわずにまたは結合したタンパク質の少なくとも一方の機能を実質的に損なわずに、タンパク質を結合するために使用されてきたものが挙げられる。スペーサまたはリンカーは巻かれたコイル構造を含むタンパク質を結合するためにより好ましく使用されてきた。
【0058】
リンカーは、テトラネクチン中でβ−シートを形成するテトラネクチン残基53〜56、およびテトラネクチン中で折り返しを形成する残基57〜59を含むことができる(Nielsen,B.B.et al.,FEBS Lett.412:388−396,1997)。セグメントの配列はGTKVHMK(配列番号58)である。このリンカーは、天然テトラネクチン中に存在するとき、3量化ドメインがCRDドメインと結合しており、それ故それは、一般的に3量化ドメインを他のドメインに接続するのに適するという利点を有する。さらに、生じる構築物は、リンカーのない構築物より免疫原性が強くないと期待される。
【0059】
あるいは、適当なリンカーペプチドは、マウスIgG3の上方蝶番部の10アミノ酸残基の配列を基礎に形成することができる。このペプチド(PKPSTPPGSS、配列番号59)は、巻かれたコイルによる2量化した抗体の産生のために使用されたことがあり(Pack P. and Pluckthun,A., 1992, Biochemistry 31:1579−1584)、本発明によるスペーサペプチドとして有用であり得る。さらにより好ましくは、それは、ヒトIgG3の上方蝶番部の対応する配列であり得る。ヒトIgG3の配列は、ヒトにおいて免疫原性ではないと期待される。本発明の複合体で使用することができるさらなるリンカーペプチドには、配列APAETKAEPMT(配列番号60)のペプチドおよび配列GAPのペプチドが含まれる。
【0060】
あるいは、本発明の複合体の2つの成分は、配列がプロテアーゼの切断標的を含むペプチドにより接続することができ、したがって成分(ii)のEDAペプチドの分離が可能になる。本発明のポリペプチドに組み込むのに適したプロテアーゼ切断部位には、エンテロキナーゼ標的部位(配列DDDDK配列番号61)、Xa因子標的部位(切断部位IEDGR、配列番号62)、トロンビン標的部位(切断部位LVPRGS、配列番号63)、プロテアーゼTEV標的部位(切断部位ENLYFQG、配列番号64)、切断用プロテアーゼ(PreScission protease)標的部位(切断部位LEVLFQGP、配列番号65)およびインテイン標的部位等が含まれる。
【0061】
本発明の複合体を得る方法
本発明の複合体は、当業者に知られた任意の方法を使用して得ることができる。したがって、EDAペプチドまたは前記タンパク質の変異体を任意の標準的方法により得ることは可能である。例えば、EDAペプチドは、cDNAから、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、出芽酵母(Sacharomyces cerevisiae)、メタノール資化性酵母(Pichia pastoris)などの異種生体中における発現により得ることができる。
【0062】
十分な量の精製されたEDAペプチドが利用可能になれば、後者をHPV E7由来の抗原性ペプチド(単数または複数)と複合体化しなければならない。成分(ii)とEDA分子との複合体化は、種々の方法で実施することができる。一つの可能性は、官能基を治療的有効成分に、前記成分の活性を妨げない位置で直接結合することである。本発明において理解される官能基とは、前記分子の特徴的化学的反応に寄与する、分子中の特別の原子団のことである。官能基の例として、ヒドロキシ、アルデヒド、アルキル、アルケニル、アルキニル、アミド、カルボキサミド、第一級、第二級、第三級および第四級アミン、アミノキシ、アジド、アゾ(ジイミド)ベンジル、カーボネート、エステル、エーテル、グルオキシリル、ハロアルキル、ハロホルミル、イミン、イミド、ケトン、マレイミド、イソシアニド、イソシアネート、カルボニル、ナイトレート、ナイトライト、ニトロ、ニトロソ、ペルオキシド、フェニル、ホスフィン、ホスフェート、ホスホノ、ピリジル、スルフィド、スルホニル、スルフィニル、チオエステル、チオールおよび酸化された3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)基が挙げられるが、これらに限定されない。前記基の例は、ApoA分子中でチオール基と特異的に反応するマレイミドまたはグリオキシリル基、およびEDA分子および成分(ii)中の第一級アミノ基と反応する、酸化された3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)基である。
【0063】
もう一つの可能性は、成分(ii)とEDA分子とを、ホモまたはヘテロの二官能性基により複合体化することである。二官能性基は、最初に治療的有効化合物に結合し、次に、EDAペプチドと複合化することができ、または、別の方法で、二官能性基をEDAペプチドに結合させて、次に、後者を成分(ii)と複合体化することが可能である。このタイプの複合体の実例には、ケトン−オキシムとして知られる複合体が含まれ(US20050255042中に記載されている)、その場合、複合体の第1成分は、ヘテロの二官能性基中に存在するケトン基に結合しているアミノキシ基を含み、ヘテロの二官能性基は、順送りで複合体の第2成分中のアミノ基と結合している。
【0064】
他の態様において、本発明の複合体の成分(i)と(ii)とを複合体化するために使用される作用剤は、光分解で、化学的に、熱的にまたは酵素的に処理することができる。特に、治療的に有効な化合物だけが細胞中に放出されるように、標的細胞中にある酵素により加水分解され得る連結剤の使用は、興味がある。細胞内で処理され得る連結剤のタイプの例は、WO04054622、WO06107617、WO07046893およびWO07112193に記載されている。
【0065】
好ましい態様において、本発明の複合体の成分(ii)は、オリゴペプチドおよびペプチドの両方を含むペプチド性の化合物であるから、当業者にとって周知であり、システイン部分に存在するチオール基による複合化に基づく方法、リシン部分に存在する第一級アミノ基による複合化に基づく方法(US6809186)、N−末端部分とC末端部分とによる複合化に基づく方法を含む、ポリペプチド鎖を化学的に改質する方法を使用することができる。ポリペプチドを改質してそれらの他の化合物とのカップリングを可能にするために適した試薬には:グルタルアルデヒド(ポリペプチドのN末端に化合物を結合することを可能にする)、カルボジイミド(ポリペプチドのC末端に化合物を結合することを可能にする)、N末端およびシステイン部分の活性化を可能にするスクシンイミドエステル(例えばMBS、SMCC)、チロシン部分の活性化を可能にするベンジジン(BDB)、これらのグリコシル化されたタンパク質中の炭水化物部分の活性化を可能にする過ヨウ素酸塩が含まれる。
【0066】
本発明のポリヌクレオチド、遺伝子構築物、ベクターおよび宿主細胞
EDA成分およびHPV E7由来の抗原性ペプチド(単数または複数)が単一のペプチド鎖を形成する特定の事象において、前記複合体をコードするポリヌクレオチドを使用する単一ステップでの複合体の発現は可能である。したがって、他の態様において、本発明は、本発明の複合体をコードするポリヌクレオチドに関する。当業者は、本発明のポリヌクレオチドが、成分(ii)とEDAポリペプチドまたはその機能的に同等な変異体とが単一のペプチド鎖を形成するこれらの複合体だけを、相対的位置関係とは独立に且つ両成分が直接連結しているかまたはスペーサ領域により分離しているかという事実とは独立にコードすることを理解するであろう。
【0067】
本発明において使用する用語「ポリヌクレオチド」は、任意の長さで、リボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドにより形成されたヌクレオチドのポリマー形態を指す。該用語は、一本鎖および二重螺旋ポリヌクレオチド、並びに改変ポリヌクレオチド(メチル化された、保護された等)を含む。
【0068】
他の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物(本明細書においては今後本発明の遺伝子構築物と称する)に関する。構築物は、好ましくは、本発明のポリヌクレオチドの発現を調節する配列に機能的に結合した本発明のポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドが発現する細胞と適合性であれば、原則として、任意のプロモーターを本発明の遺伝子構築物のために使用することができる。したがって、本発明を実施するのに適したプロモーターには、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、SV40、CMV、トリ肉腫ウイルス、肝炎Bウイルスなど真核生物のウイルスのゲノムに由来するものなどの構成型プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子プロモーター、レトロウイルスLTR領域、免疫グロブリン遺伝子プロモーター、アクチン遺伝子プロモーター、EF−1α遺伝子プロモーター、並びにタンパク質発現が分子またはテトラサイクリン系、NFKB/UV光系、Cre/Lox系などの外因性シグナルの添加に依存する誘発性プロモーターおよびヒートショック遺伝子プロモーター、WO/2006/135436に記載された調節性RNAポリメラーゼIIプロモーター並びに組織特異的プロモーターが含まれるが、これらに必ずしも限定されない。
【0069】
組織特異的なプロモーターの他の例として、アルブミン遺伝子プロモーター(Miyatake et al., 1997, J. Virol, 71:5124−32)、肝炎ウイルスコアプロモーター(Sandig et al., 1996, Gene Ther., 3:1002−9);α−フェトプロテイン遺伝子プロモーター(Arbuthnot et al., 1996, Hum.Gene Ther.,7:1503−14)およびチロキシン結合グロブリン結合タンパク質遺伝子プロモーター(Wang,L., et al., 1997, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:11563−11566)が挙げられる。本発明の構築物は、好ましくは、CD11cプロモーター(Masood,R., et al. 2001. Int J Mol Med 8:335−343; Somia,N.V., et al. 1995. Proc Acad Sci USA 92:7570−7574)、ファシンプロモーター (Sudowe, S., et al., 2006. J Allergy Clin Immunol.117:196−203)、CD83遺伝子プロモーター、CD36遺伝子プロモーターまたはデクチン−2プロモーター(Gene Ther., 2001, 8:1729−1737)などの樹状細胞特異的プロモーターを含有する。
【0070】
本発明のポリヌクレオチドまたはそれを形成する遺伝子構築物は、ベクターの一部を形成することができる。したがって、他の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物を含むベクターに関する。当業者は、前記ベクターは、適当なポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物を増殖して得るのに適したクローニングベクターまたは複合体の精製に適した種々の異種の生物体における発現ベクターであることができるので、使用することができるベクターのタイプに関して限定はないことを理解するであろう。したがって、本発明による適当なベクターには、UC18、pUC19、Bluescriptおよびその誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、CoIEI、pCRI、RP4、pSA3およびpAT28などのファージおよびシャトルベクターなどの原核細胞における発現ベクター、2−ミクロンプラスミドタイプベクター、統合プラスミド、YEPベクター、セントロメアプラスミドなどの酵母における発現ベクター、pACシリーズおよびpVLシリーズのベクターなどの昆虫細胞における発現ベクター、pIBI、pEarleyGate、pAVA、pCAMBIA、pGSA、pGWB、pMDC、pMY、pOREシリーズのベクターなどの植物における発現ベクター、およびウイルスベクター(アデノウイルス、アデノウイルス関連ウイルス並びにレトロウイルスおよびレンチウイルス)並びにpSilencer4.1−CMV(Ambion)、pcDNA3、pcDNA3.1/hygpHCMV/Zeo、pCR3.1、pEFI/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Ze02、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAXI、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2dおよびpTDTIなどの非ウイルスベクターのいずれかに基づく上位真核細胞(superior eukaryotic cell)における発現ベクターが含まれる。
【0071】
本発明のベクターは、前記ベクターにより形質転換、形質移入または感染され得る細胞に、形質転換、形質移入または感染するために使用することができる。前記細胞は、原核細胞または真核細胞であってよい。例として、前記DNA配列を導入することができるベクターは、プラスミドまたはDNA配列が宿主細胞中に導入されたとき、それが前記細胞のゲノム中に組み込まれて染色体(またはクロモソ−ム)と一緒に複製されるベクターであってよい。前記ベクターは、当業者により知られた従来の方法により得ることができる(Sambrook et al., 2001, “Molecular cloning, to Laboratory Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y. Vol 1−3a)。
【0072】
それ故、他の態様において、本発明は、本発明により提供される構築物またはベクターにより形質転換、形質移入または感染することができた、本発明のポリヌクレオチド、遺伝子構築物またはベクターを含む細胞に関する。形質転換、形質移入または感染した細胞は、当業者により知られた従来の方法により得ることができる(Sambrook et al.,2001、前出)。特定の態様において、前記宿主細胞は、適当なベクターで形質移入または感染した動物細胞である。
【0073】
本発明の複合体の発現に適した宿主細胞には、哺乳動物、植物、昆虫、真菌および細菌の細胞が含まれるが、これらに限定されない。細菌の細胞には、バチルス(Bacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)およびブドウ球菌(Staphylococcus)属の種などのグラム陽性細菌の細胞、並びにエシェリキア(Escherichia)およびシュードモナス(Pseudomonas)属などのグラム陰性細菌の細胞が含まれるが、これらに限定されない。真菌細胞は、好ましくはサッカロミセス(Saccharomyces)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)およびハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)などの酵母細胞を含む。昆虫細胞には、ショウジョウバエ細胞およびSf9細胞が含まれるが、これらに限定されない。植物細胞には、とりわけ、穀類、薬用、観賞用または球根状植物などの作物植物細胞が含まれる。本発明に適した哺乳動物細胞には、上皮細胞ライン(ブタその他)、骨肉腫細胞ライン(ヒトその他)神経芽細胞腫の細胞ライン(ヒトその他)、上皮癌(ヒトその他)、グリア細胞(マウスその他)、肝細胞ライン(サルその他)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、COS細胞、BHK細胞、HeLa細胞、911細胞、AT1080細胞、A549細胞、293細胞またはPER.C6細胞、ヒトECC NTERA−2細胞、mESCラインのD3細胞、HS293およびBGV01、SHEF1、SHEF2およびHS181などのヒト胚幹細胞、NIH3T3細胞、293T細胞、REH細胞およびMCF−7細胞およびhMSC細胞が含まれる。
【0074】
本発明の免疫原性組成物
本発明者らは、本発明の複合体とToll様受容体(TLR)アゴニストとの組合せにより、前記成分の各々が別々に投与されたときに得られるよりも大きい免疫応答が生ずることが可能になることを観察した。したがって、実施例3で観察されるように、EDA−HPVE7融合タンパク質およびポリI:Cにより形成した組成物は、融合タンパク質だけが投与されるときには治療可能ではない腫瘍を根絶することができる。
【0075】
したがって、他の態様において、本発明は:
(i)本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明による宿主細胞、および
(ii)TLRリガンド
を一緒にまたは別々に含む組成物(本明細書において以後、本発明の組成物1または本発明の第1組成物と称する)に関する。
【0076】
本発明の第1組成物の一部を形成する成分のモル濃度は変えることができるが、2成分のモル濃度の比は、好ましくは、50:1と1:50との間、より好ましくは20:1と1:20との間、1:10と10:1との間、5:1と1:5との間に含まれる。
【0077】
組成物の第1成分i)は、本発明のペプチドに関連して詳細に記載した。好ましい特定の態様において、前記第1成分は、ヒト由来のフィブロネクチンのEDA領域を含む。他の態様において、本発明の組成物の第1成分は、E7タンパク質のアミノ酸1から29までおよび/またはE7タンパク質のアミノ酸43から98までを含む。さらにより好ましい態様において、本発明の組成物を形成する複合体の第1成分は、配列番号53または配列番号72で記載される2種のHPV E7抗原性ペプチドが側面に接するEDA領域を含む(それに加えて6ヒスチジンタグを含む)。
【0078】
本発明において、「TLR受容体リガンド」は、少なくとも1種のTLR(Toll様受容体)受容体に特異的に結合して、結合すると前記受容体とその天然リガンドとの結合に特徴的な副刺激シグナルまたは前記受容体とTLRアゴニストとの結合の結果生ずる他のシグナルのあるものを刺激することができる分子と理解される。
【0079】
Toll様受容体(またはTLR)は、生来の免疫系の一部を形成するI型膜貫通タンパク質のファミリーである。脊椎動物において、それらは免疫系の適応も可能にする。TLRはインターロイキン受容体と一緒になって、インターロイキン−1/Toll様受容体スーパーファミリーとして知られるスーパーファミリーを形成する。このファミリーの全ての構成員は、Toll−IL−1受容体(TIL)ドメインと呼ばれるドメインを共通して有する。
【0080】
大部分の哺乳動物は、10ないし15タイプのTLRを有すると見積もられている。今までに13タイプのTLRが、ヒトおよびマウスにおいて同定された(Du X, et al. 2000, Eur.Cytokine Netw. 11:362−71; Chuang TH. et al., 2000. Eur. Cytokine Netw.11:372−378; Tabeta K, et al.; 2004, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101:3516−3521)。
【0081】
TLRリガンドは、TLRが発現した細胞に依存して、並びにTLRリガンドの起源に依存して幾つかの免疫応答を誘発する。例えば、微生物のリガンドの場合に、免疫細胞は、炎症を惹起するサイトカインを産生し得る。ウイルス因子の場合には、細胞はアポトーシスを起こし得る。
【0082】
特定の態様において、リガンドは、アゴニストリガンドである。TLR受容体のアゴニストリガンドは、(i)実際のTLR受容体の天然リガンド、もしくはTLR受容体に結合してそれらで副刺激シグナルを誘発する能力を保存する機能的に同等なそれらの変異体、または(ii)TLR受容体に対するアゴニスト抗体、またはTLR受容体に、より特定すれば、前記受容体の細胞外ドメインに特異的に結合して、この受容体により制御される免疫シグナルのあるものおよび関連するタンパク質を誘発することができる機能的に同等なそれらの変異体である。結合特異性は、ヒトTLR受容体またはヒトに相同の異種のTLR受容体に対するものであってよい。
【0083】
種々のTLRのリガンドの例を表2に体系的に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
当業者が理解するように、TLR受容体のアゴニストリガンドおよび一般的にはリガンドの活性を検出するのに利用できる、樹状細胞のインビトロ同時刺激などの非常に種々の免疫アッセイがある。簡単に説明すると、前記アッセイは、培養した樹状細胞とTLRアゴニストリガンドとを接触させて、前記細胞の活性化を測定することからなる。前記活性化は、受容体がTLR3である場合に、何らかのマーカー、例えばポリ(I:C)の検出により決定することができる。活性化された樹状細胞は、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)およびCD40などの種々のタンパク質を発現する。したがって、例えばChen X.Z.ら(Arch Dermatol Res. 2009 Jul 4、印刷前の電子出版)により記載されているように、前記リガンドに曝した後の樹状細胞における前記タンパク質の発現レベルの変化を検出することにより、TLRアゴニストリガンドのアゴニスト活性を検出することが可能である。
【0086】
他の好ましい特定の態様において、TLRリガンドは、TLR3リガンド、TLR9リガンドおよび両者の組合せの群から選択される。より好ましい方法において、TLR3リガンドはポリ(I:C)(ポリイノシン酸−ポリシチジル酸またはポリイノシン酸−ポリシチジル酸ナトリウム塩)である。
【0087】
他の好ましい態様において、TLR9リガンドは、少なくとも1種のCpGモチーフ、より好ましくはタイプBCpG−ホスホロチオエート(CpG1826:5’TCCATGACGTTCCTGACGTT−3’配列番号66)を含むオリゴヌクレオチドである。
【0088】
本発明者らは、本発明の複合体が、TLRリガンドおよび化学療法剤の使用により得られる抗腫瘍応答を改善し得ることを観察した。具体的に、本発明の図7は、EDA−HPVE7融合タンパク質、TLR9リガンドCpGおよびシクロホスファミドを含む組成物の投与が、如何にシクロホスファミドおよびTLR9リガンドの投与を超える腫瘍サイズ縮小を生ずるかを示す。
【0089】
したがって、他の態様において、本発明は:
(i)本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明による宿主細胞、
(ii)TLRリガンド、および
(iii)化学療法剤
を含む、本発明の組成物(本明細書において以後、本発明の組成物2または本発明の第2組成物と称する)に関する。
【0090】
本発明の第2組成物の成分(i)(本発明の複合体)および(ii)(TLRリガンド)は、前節で詳細に説明した。
【0091】
「化学療法剤」は、細胞を必ずしも殺さずに細胞増殖を阻害し得る任意の物質または細胞死を誘発し得る任意の物質と理解される。細胞死を惹起せずに細胞増殖を阻害することができる作用剤は、細胞分裂抑制剤と総称され、それに対してアポトーシスを活性化することにより細胞死を正常に誘発することができるものは、細胞傷害性薬物と総称される。本発明の組成物における使用に適した化学療法剤の例として、(i)タキサン、パクリタキセルム、ドセタキセル、エポチロンおよびラウリマリドなどの微小管安定剤、(ii)イレッサ(登録商標)、グリベック、Tarceva(商標)、(エルロチニブHCI)、BAY−43−9006などのキナーゼ阻害剤、(iii)トラツツマブ(Herceptin(登録商標))セツキシマブ(Erbitux(登録商標))、ベバシズマブ(Avastinm)、リツキシマブ(ritusan(登録商標))、ペルツツマブ(Omnitarg(商標)を含むが、これらに限定されないキナーゼ活性を有する受容体特異的抗体;(iv)ラパマイシンおよびCCI−778などのmTOR経路阻害剤;(v)Apo2L/Trail、(vi)エンドスタチン、コンブレタスタチン、アンジオスタチン、トロンボスポンジンなどの抗血管形成剤および血管内皮成長阻害剤(VEGI);(vii)活性化T細胞、非特異的免疫刺激剤(例えばインターフェロン、インターロイキン)を含む抗新生物ワクチン;(viii)ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、ミトマイシンおよびミトザントロンなどの抗生物質細胞傷害性薬物;(ix)メルファラン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、クロラムブシル、ホテムスチン、ブスルファン、テモゾロミドおよびチオテパなどのアルキル化剤;(x)ニルタミド、酢酸シプロテロン、アナストロゾール、エキセメスタン、タモキシフェン、ラロキシフェン、ビカルタミド、アミノグルテチミド、酢酸リュープロレリン、クエン酸トレミフェン、レトロゾール、フルタミド、酢酸メゲストロールおよび酢酸ゴセレリンなどの抗新生物ホルモン剤;(xi)酢酸シプロテロンおよび酢酸メドロキシプロゲステロンなどの生殖腺ホルモン;(xii)シタラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、トポテカン、ヒドロキシウレア、チオグア
ニン、メトトレキセート、コラスパーゼ(Colaspase)、ラルチトレキセドおよびカペシタビンなどの抗代謝物;(xiii)ナンドロロンなどのタンパク質同化剤;(xiv)酢酸メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコーチゾン、プレドニゾロンおよびプレドニゾンなどの副腎ステロイドホルモン;(xv)カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、エトポシドおよびデカルバジンなどの抗新生物薬、および(xvi)トポテカンおよびイリノテカンなどのトポイソメラーゼ阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
如何なる理論にも拘束されることは望まず、化学療法剤は、適当な用量で投与されるとき、調節性T細胞の不活性化により間接的に免疫刺激剤として作用することができると思われる。
【0093】
好ましい態様において、化学療法剤は、細胞分裂抑制剤であり、より好ましくは、それは、シクロホスファミドまたはシクロホスファミドアナログである。シクロホスファミドアナログは、文献で周知である(Cyclophosphamide, Merck Index,11th Edition,pages 429−430;文書US5190929)。
【0094】
本明細書において今後、用語「本発明の組成物」は、場合により、本発明の第1組成物および本発明の第2組成物の両方を指す。当業者が理解するように、本発明の組成物は、単一成分として剤形化するか、あるいは組み合わせてそれらを続けて投与できる別々の剤形として提供することができる。本発明の組成物は、キットの一部として提供することもでき、キット中の成分は個別に剤形化されるが、単一の容れ物の中に梱包される。
【0095】
本発明の複合体および組成物の医学的使用
本研究者達は、本発明の複合体が、樹状細胞の成熟を誘発し、ペプチドに対するインビボの抗腫瘍免疫応答の活性化を誘発して、HPVE7タンパク質を発現している十分発育した大きい腫瘍を根絶することができることを観察した(本発明の実施例1から3を参照されたい)。
【0096】
それ故、他の態様において、本発明は、医学において使用するための本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクターまたは本発明の組成物に関する。
【0097】
他の態様において、本発明は、医薬組成物、すなわち、本発明の融合タンパク質、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物および少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体またはアジュバントを含む本発明の医薬組成物に関する。
【0098】
「アジュバント」は、本発明の医薬組成物の効能を強化する任意の物質と理解される。
【0099】
アジュバントの例として、水酸化アルミニウム、アルミニウムホスフェート、アルミニウム硫酸塩などのアルミニウム塩(ミョウバン)により形成されるアジュバント、完全フロイントアジュバント(CFA)並びに不完全なフロイントアジュバント(IFA)などの水中油または油中水エマルションの剤形;鉱物ゲル;ブロックコポリマー、アブリジン(商標)、SEAM62;細菌細胞壁の成分により形成されたアジュバント、例えば、リポ多糖(例えば、リピドAもしくはモノホスホリルリピドA(MLA))、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)の成分などを含むアジュバントなど、熱ショックタンパク質もしくはそれらの誘導体をを含むアジュバント;ジフテリア毒素(DT)、百日咳毒素(PT)、コレラ毒素(CT)大腸菌の熱に不安定な毒素(LT1およびLT2)、シュードモナス・内毒素Aおよび外毒素、B.セレウス(cereus)細胞外酵素B、B.スファエリクス(sphaericus)毒素、C.ボツリヌス毒素C2およびC3、C.リモスム(limosum)、C.ペルフリンゲンス(perfringens)、C.スピリフォルマ(spiriforma)およびC.ディフィシル(difficile)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の細胞外酵素並びに毒素、EDIMおよび、ジフテリア毒素の無毒性変異体であるCRM−197変異体などの変異体毒素を含む細菌毒素のADP−リボシル化から誘導されたアジュバント;ISCOM(免疫刺激錯体)などサポニン;ケモカイン、キモカインおよびサイトカイン、例えばインターロイキン(IL−IIL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL7、IL−8、IL−12、その他)、インターフェロン(インターフェロンγなど)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)など;デフェンシン(defensin)1または2、ランテス(RANTES)、MIP1−α、およびMEP−2、ムラミルペプチド、例えば、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(ノル−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−s−n−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)など;CpG分子、CpGジヌクレオチドおよびCpGモチーフを含む合成オリゴヌクレオチドのファミリーから誘導されるアジュバント;C.リモスム(C.limosum)細胞外酵素および合成アジュバント例えばPCPPなど、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、MTP−PEおよび;細菌から抽出された3成分、モノホスホリル脂質A、トレハロースジミコレートおよび細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)を2%/ツイーン80添加スクワレンエマルション中に含むRIBIが挙げられるが、これらに限定されない。アジュバントの他の例として、DDA(ジメチルジオクタデシルアンモニウム臭化物)、完全および不完全フロイントアジュバントおよびクイル(Quil)Aが挙げられる。
【0100】
用語「担体」は、有効成分がそれとともに投与される希釈剤または賦形剤を指す。そのような薬学的担体は、滅菌液体、例えば、水および石油、動物、植物または合成起源の油を含む油、例えば、ピーナツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油など油であってよい。水または食塩の水溶液並びにデキストロ−スおよびグリセリンの水溶液は、特に注射用溶液のために担体として好ましく使用される。適当な薬学的担体は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(1995)に記載されている。本発明の担体は、連邦または州政府の規制当局により承認されたかまたは米国薬局方または動物、より特定すればヒトで使用するために一般的に認められた他の薬局方にリストされていることが好ましい。
【0101】
本発明の医薬組成物の所望の薬学的投与形態を製造するために必要な担体および補助物質は、とりわけ、選択された薬学的投与形態に依存するであろう。医薬組成物の前記薬学的投与形態は、当業者により知られた従来の方法にしたがって製造される。有効成分の種々の投与方法、使用すべき賦形剤およびそれらを製造するための工程の総説は、「Tratado de Farmacia Galenica」、C.Fauli i Trillo、Luzan 5、S.A.de Ediciones、1993に見出すことができる。医薬組成物の例として、経口、局所または非経口的投与のための任意の固体(錠剤、ピル、カプセル、顆粒、その他)または液体(溶液、懸濁液またはエマルション)組成物が挙げられる。さらに、医薬組成物は、適当な安定剤、懸濁液、防腐剤、界面活性剤等を含有することができる。
【0102】
医薬中で使用するために、本発明の複合体は、プロドラッグ、塩、溶媒和物またはクラスレートの、単離されているかまたは追加の活性な作用剤との組合せのいずれかの形態で見出すことができる。本発明による化合物の組合せは、薬学的観点から許容される賦形剤と一緒に剤形化することができる。本発明において使用するために好ましい賦形剤には、糖類、デンプン、セルロース、ガムおよびタンパク質が含まれる。特定の態様において、本発明の医薬組成物は、固体(例えば錠剤、カプセル、コートされた錠剤、顆粒、坐剤、再構成して液体形態を提供することができる滅菌された結晶性または非晶質の固体、その他)、液体(例えば溶液、懸濁液、エマルション、エリキシル、ローション、軟膏その他)または半固体(ゲル、ポマード、クリーム剤等)の薬学的投与形態に剤形化することができる。本発明の医薬組成物は、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、心室内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下または直腸経路を含むが、これらに限定されない任意の経路により投与することができる。有効成分、使用すべき賦形剤の投与およびそれらを製造するための工程の種々の形態の総説は、Tratado de Farmacia GalEmica, C. Fauli i Trillo, Luzan 5, S.A. de Ediciones, 1993 and in Remington’s Pharmaceutical Sciences(A.R.Gennaro,Ed.),20th edition, Williams & Wilkins PA,USA(2000)に見出すことができる。薬学的に許容し得る担体の例は、当技術分野において知られており、リン酸緩衝食塩水溶液、水、油/水エマルションなどのエマルション、種々のタイプの湿潤剤、滅菌溶液、その他が挙げられる。前記担体を含む組成物は、当技術分野において知られた従来の方法により剤形化することができる。
【0103】
核酸(本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは遺伝子構築物)が投与される事象において、本発明は、特に前記核酸の投与のために調製された医薬組成物を想定する。医薬組成物は、前記核酸を無防備の形態で、すなわち、核酸を生体のヌクレアーゼによるそれらの分解から保護する化合物の不在で含むことができ、形質移入のために使用した試薬に関連する毒性を排除する利点を含む。無防備の化合物に適した投与経路には、静脈内、腫瘍内部、脳内、腹腔内、脾臓内、筋肉内、網膜下、皮下、粘膜、局所および経口経路が含まれる(Templeton,2002,DNA Cell Biol.,21:857−867)。あるいは、核酸は、リポソームの一部を形成し、コレステロールに複合体化して、または細胞膜を通る転座を促進することができる化合物、例えば、HIV 1 TATタンパク質から誘導されるTatペプチドなど、D.melanogaster Antennapediaタンパク質のホメオドメインの第3ヘリックス、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質、アルギニンオリゴマーおよびペプチド、例えば、WO07069090(Lindgren,A.et al.,2000,Trends Pharmacol.Sci,21:99−103,Schwarze,S.R.et al.,2000,Trends Pharmacol.Sci.,21:45−48,Lundberg,M et al.,2003,Mol Therapy 8:143−150およびSnyder,E.L.and Dowdy,S.F.,2004,Pharm.Res.21:389−393)に記載されたペプチドなどのペプチドと複合体化して投与することができる。あるいは、ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクター、好ましくは、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスまたはマウス白血病ウイルス(MLV)もしくはレンチウイルス(HIV、FIV、EIAV)などのレトロウイルスに基づくベクターの一部を形成して、投与することができる。
【0104】
本発明の組成物は、体重1キログラム当たり10mg未満、好ましくは体重1kg当たり5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.0001、0.00005または0.00001mg未満の用量で投与することができる。単位用量は、注射、吸入または局所投与により投与することができる。
【0105】
用量は、治療すべき状態の重症度および応答に依存し、数日と数ヶ月または状態が寛解したことを観察するまでの間で変えることができる。最適用量は、患者の生体中の薬剤濃度の定期的測定を実施して決定することができる。最適用量は、前もってインビトロまたは動物モデルにおけるインビボアッセイにより得られたEC50値により決定することができる。単位用量は、1日1回または1日1回未満、好ましくは、2、4、8または30日毎に1日1回未満で投与することができる。あるいは、初期用量を投与し、続いて1回または数回の、一般的に初期用量より少ない量の維持量を投与することが可能である。維持投与計画は、1日当たり0.01μgと1.4mg/kg体重との間で変化する用量、例えば1日に体重1kg当たり10、1、0.1、0.01、0.001、または0.00001mgを用いて患者を治療することを含むことができる。維持量は、5、10または30日毎に最大1日1回で投与することが好ましい。治療継続期間は、患者が罹患する障害のタイプ、その重症度および患者の状態により変えなければならない。治療後は、患者の展開を監視して、疾患が治療に応答しない事象においては用量を増加べきかどうか、疾患の改善が観察されればまたは望ましくない副作用が観察されれば、用量を減少すべきかどうかを決定しなければならない。
【0106】
特定の態様において、本発明の組成物の成分は、同時に、逐次にまたは別々に投与することができる。好ましい態様において、化学療法剤(好ましくはシクロホスファミド)を最初に投与して、それに続いて、可変時間の後、本発明の組成物の残余の成分、すなわち、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物、本発明のベクターまたは本発明による宿主細胞およびTLRリガンドを投与する。本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物、本発明のベクターまたは本発明による宿主細胞およびTLRの投与は、同時に、別々にまたは逐次に行うことができる。好ましい態様においては、TLRリガンド(好ましくはpI:CまたはCpG−B/DOTAP)および複合体化したポリヌクレオチド、遺伝子構築物、ベクターまたは本発明による宿主細胞(好ましくは融合タンパク質)を、同時に投与する。本発明の組成物が、化学療法剤、好ましい態様においては具体的にシクロホスファミド(CPA)を含む場合には、CPAは、制御性T細胞を選択的に殺すことができる「少量を頻繁に連続投与する用量(metronomic dose)」と呼ばれる最適未満の濃度で使用される(Ghiringhelli et al.,Cancer Immunol.Immunother.2007,56:641−8)。
【0107】
本発明の組成物は、一体の用量として、あるいは、最初の用量および1回または複数回のブースター投与量として投与することができる。したがって、好ましい態様において、本発明の組成物は、第1の用量および第2のブースター用量として投与される。本発明の組成物が別々の時間に投与されるときは、本発明の第1成分の第1の用量、本発明の第2成分の第2の用量、本発明の第1成分からの第2のブースター用量、本発明の第2成分からの第2のブースター用量と期間中そのように次々に投与されると理解される。より好ましい態様において、療法には、化学療法剤(好ましくはシクロホスファミド)が投与される第1の投与、本発明による複合体、ポリヌクレオチド、遺伝的構築物、ベクターまたは宿主細胞およびTLRリガンドが投与される第2の投与;化学療法剤(好ましくはシクロホスファミド)を含む第3の投与および本発明による複合体、ポリヌクレオチド、遺伝的構築物、ベクターまたは宿主細胞が、TLRリガンド(好ましくはpI:CまたはCpG−B/DOTAP)と一緒に再度投与される第4の投与が含まれる。第2のおよび第4の投与においては、TLRリガンド(好ましくは、pI:CまたはCpG−B/DOTAP)および本発明による複合体、ポリヌクレオチド、遺伝的構築物、ベクターまたは宿主細胞、(好ましくは融合タンパク質)が、同時に、別々にまたは逐次に投与される。
【0108】
好ましい態様においては、TRLリガンド(好ましくはpI:CまたはCpG−B/DOTAP)および本発明による複合体、ポリヌクレオチド、遺伝的構築物、ベクターまたは宿主細胞(好ましくは融合タンパク質)が、同時に投与される。
【0109】
毎日の用量は、単一の用量でまたは特定の状況によっては2回以上の用量で投与することができる。繰り返し投与または頻回投与が所望であれば、ポンプ、半永続性カテーテル(静脈内、腹腔内、クモ膜下槽内または嚢内)またはリザーバーなどの投与デバイスの埋め込みが薦められる。
【0110】
他の態様において、本発明は、ワクチン製造のための、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物の使用に関する。換言すれば、本発明は、ワクチンとして使用するための、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物に関する。あるいは、本発明は、対象者への本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物の投与を含む、対象者にワクチン接種する方法に関する。
【0111】
「ワクチン」は、一旦生体内に入ると、抗体と呼ばれる攻撃に対する応答を生じさせる抗原製剤として理解される。この応答は、大部分の症例において、永続的免疫の原因となる免疫学的記憶を生じさせる。
【0112】
ワクチンは、全身的または局所的に投与される。ワクチンは、単回投与により、または本発明の組成物の投与について以前記載したような複数回の投与によるブーストを用いて、投与することができる。
【0113】
他の態様において、本発明は、ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の予防および治療のための医薬を製造するための、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物の使用に関する。あるいは、本発明は、ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の予防および治療において使用するための、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物に関する。あるいは、本発明は、対象者におけるヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌予防および治療のための、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物の前記対象者への投与を含む方法に関する。
【0114】
ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および疾患には、疣贅(足の疣贅など)、生殖器疣贅、反復性呼吸器乳頭腫(喉頭のパピローマなど)およびパピローマ感染と関連する癌が含まれる。パピローマウイルスと関連した癌には、肛門生殖器癌(例えば子宮頸部、肛門周囲、外陰部、膣内、陰茎癌、その他)、頭部および頸部癌(例えば口腔咽頭腔癌、食道癌、その他)および皮膚癌(例えば、基底細胞癌、扁平上皮細胞癌)が含まれる。
【0115】
本発明の樹状細胞を用いるワクチン接種方法
他の癌療法の取り組みは、免疫教育者としての正常樹状細胞の役割の利点を利用することである。前に言及したように、樹状細胞は数ある中でウイルス抗原を捉えてそれらをT細胞に提示し、初期のT細胞性免疫応答におけるそれらの助勢を募ることである。これは身体に侵入した外来細胞に対してよく機能するが、癌細胞は、しばしば「自己」/「外来」物質検出系を逃れる。研究者達は、樹状細胞を改変することにより、癌細胞に対するT細胞の攻撃を含む特別なタイプの自己免疫応答を活性化することができる。腫瘍作用剤は単独では免疫応答を生じさせるには十分でないという事実に基づき、未成熟樹状細胞と本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物とを接触させることが可能であり、その結果、樹状細胞の活性化、HPV E7由来の抗原(単数または複数)の捕捉、および主要組織適合抗原に関連する表面におけるそれらの提示が生ずる。したがって、これらの活性化した細胞を患者に投与することができ、それで腫瘍抗原が患者の免疫系に提示され、その結果最終的に、T細胞により媒介された、患者の癌細胞に対する免疫応答が生ずる。
【0116】
したがって、他の態様において、本発明は、少なくとも1種のHPV E7抗原を提示する成熟樹状細胞を得るインビトロの方法であって:
(i)樹状細胞と、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物とを、樹状細胞の成熟が起こるのに適した条件で接触させるステップ、および
(ii)成熟樹状細胞を回収するステップ
を含む方法に関する。
【0117】
樹状細胞(DC)は、最も強力な抗原提示細胞(APC)であり、活性化されていないTリンパ球(ナイーブTリンパ球)と相互作用する独特の能力を有し、最初の免疫応答を開始して、CD4+ヘルパーTリンパ球およびCD8+細胞傷害性Tリンパ球を活性化する。
【0118】
炎症および免疫応答が不在であると、樹状細胞は、血液、末梢組織、リンパ液および二次リンパ器官を通って巡視する。末梢組織において、樹状細胞は自己および外来抗原を捕捉する。捕捉された抗原は処理されてそれらの断片を生じ、それらはクラスIおよびIIMHC分子に渡される(それぞれCD8+またはCD4+Tリンパ球を活性化するために)。抗原捕捉、分解および負荷のこの過程は抗原提示と称される。
しかしながら、刺激がないと、末梢樹状細胞の抗原提示は効果的でない。外因性シグナルすなわち病原体から来るシグナル(単数または複数)または内因性シグナル(単数または複数)は、樹状細胞を、それらが成熟と称される過程を開始するように誘導し、それにより樹状細胞はAPCおよびTリンパ球活性化因子に形質転換する。
【0119】
本発明において使用することができる種々のタイプの樹状細胞がある。それに対して、単球に類似の骨髄腫樹状細胞(mDC)があり、それはさらに2つのサブタイプ:最も普通でT細胞の主要な刺激因子であるmDC−1、およびそれより少なくて主な機能は創傷感染と戦うことであるmDC−2に分かれる。
【0120】
一方、プラズマ細胞に類似しているが、骨髄腫樹状細胞に典型的なある特徴を有する形質細胞様樹状細胞(pDC)がある。
【0121】
未成熟樹状細胞は、骨髄造血性幹細胞から誘導される。これらの幹細胞は、エンドサイトーシス能力が高くT細胞活性化能力は低い未成熟細胞に分化する。これらの細胞は、それらの膜中にTLRなどの種々の膜受容体を有する。
【0122】
細菌およびウイルスの産生物、並びに炎症性サイトカインおよび他の典型的な分子は、樹状細胞の成熟を生来の樹状細胞の表面受容体との直接相互作用により誘導する。Tリンパ球はCD40依存性および独立の経路により、内皮細胞は細胞と細胞との直接接触およびサイトカイン分泌により、樹状細胞の最終的成熟に寄与する。危険シグナルが発生すると直後に、抗原捕捉、細胞内輸送および分解、および細胞内MHC分子の往来の効率が改善される。ペプチド負荷、並びに分子MHCの半減期および細胞表面への移動は増大する。T細胞副刺激分子の表面における発現も増大する。このようにして樹状細胞は、最も強力なAPC、および活性化されていないTリンパ球を活性化して免疫応答を開始することができる唯一のものになる。抗原提示におけるそれらの能力の改善と一緒に、成熟は樹状細胞の末梢組織からの大量移動も誘発する。ケモカイン受容体および接着分子の発現における改変、並びに細胞骨格構成における重要な変化が、樹状細胞のリンパ液を通る二次リンパ器官への移動に寄与する。
【0123】
樹状細胞は、2タイプのシグナル、すなわち:病原体の直接認識(特異的認識パターンを有する受容体により)、および感染の間接的認識(炎症性サイトカイン、内部細胞化合物(internal cell compounds)および特異的免疫応答による)に応答する。これらのシグナルに応答して、樹状細胞は活性化されてそれらの成熟過程を開始し、それにより有効なT細胞刺激因子に形質転換する。DCの成熟にとって最も有効なシグナルの一つは、toll様受容体TLR、(TLRl〜9)とそれらのそれぞれのリガンドとの相互作用により媒介される(KaishoおよびAkiraによる総説 Biochimicaet Biophysica Acta,2002,1589:1−13)。
【0124】
本発明において使用する未成熟樹状細胞は、初代培養細胞であってよい。したがって、本発明の方法において使用する樹状細胞は、自家細胞でも異種細胞でもよい。
【0125】
本明細書において使用する、用語「自家」は、細胞が同一個体からのものであることを意味する。
【0126】
本明細書において使用する、用語「異種」は、細胞が異なった個体からのものであることを意味する。
【0127】
樹状細胞は、基本的には、末梢血液単核細胞(PBMC)を、前記細胞の接着が可能になるように培養瓶中に蒔くことからなるプロトコルを使用して、インビトロでPBMCから発生させることができる。その後、細胞をインターロイキン4(IL4)および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)で処理すると、約1週間で細胞は未成熟樹状細胞(iDC)へと分化するに至る。場合により、細胞は、それらを腫瘍壊死因子α(TNFα)で処理して成熟させることができる。
【0128】
樹状細胞は、標準的方法を使用して適当な供給源から得ることができる。樹状細胞の単離に適したこれらの組織には、末梢血、脊髄、腫瘍浸潤細胞、腫瘍周囲の組織に浸潤している細胞、リンパ節の生検、胸腺、脾臓、皮膚、臍帯血液、末梢血から得た単球、末梢血から得たCD34−またはCD14陽性細胞、並びに任意の他の適当な組織または体液が含まれる。
【0129】
場合により、安定な細胞培養を使用することができる。文書WO9630030には、樹状細胞様細胞/腫瘍細胞ハイブリドーマおよび複数種の樹状細胞様細胞/腫瘍細胞ハイブリッドを得る方法が記載されている。これらのハイブリッドおよびハイブリドーマは、腫瘍細胞と樹状細胞様細胞との融合により生成する。例えば、自家腫瘍細胞ラインからの不死の腫瘍細胞と自家HLAに適合した同種の樹状細胞様細胞とを融合することができる。自家腫瘍細胞ラインは、原発腫瘍およびそれらの転移から得ることができる。あるいは、自家のまたは同種のHLAに適合した樹状細胞様細胞ラインの不死の樹状細胞様細胞を、自家腫瘍細胞と融合することができる。文書WO/2002/048167には、安定な樹状細胞ラインを発生させる方法も記載されている。使用することができる他の細胞ラインは、CBIである(Paglia P. et al.1993.Journal of Experimental Medicine,Vol 178,1893−1901)。
【0130】
本発明の方法の第1のステップは、樹状細胞と、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、本発明の遺伝子構築物、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物とを、樹状細胞の成熟が起こるのに適した条件で接触させることからなる。
【0131】
本発明は、樹状細胞と本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、本発明の遺伝子構築物、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物とを接触させる任意の可能な方法を考慮している。当業者は、化合物のタイプに応じて、接触の実施が異なることを理解するであろう。したがって、それが、本発明の複合体または本発明のペプチドである場合、これらは、樹状細胞が触れるプラスチック、ガラス、その他の表面に、細胞が位置しまたは結合することができる培養培地に直接添加することができる。本発明の複合体並びに本発明のペプチドの成分を固体表面に結合する形態は、当業者により知られている。
【0132】
それが本発明の遺伝子構築物または本発明のベクターである場合、前記成分を細胞(本発明の細胞)に導入するために使用する技法は、本発明の遺伝子構築物の節で前に記載した。特定の態様において、本発明の細胞は、それらの膜中に本発明の複合体の成分を有するので、それらは樹状細胞に接触可能である。
【0133】
「成熟が起こるのに適した条件」は、本発明の複合体、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、本発明の細胞、本発明の組成物または本発明の医薬組成物が接触して、その結果少なくとも1種のHPV E7由来の抗原が提示された後、樹状細胞の活性化が可能になるこれら全ての培養条件(酸素、温度、湿度、栄養分その他)と理解される。この活性化は、未成熟樹状細胞が何らかの提示された抗原を貪食して、前記抗原を小片に分解し、組織適合系分子(MCH)を使用することにより前記部分をそれらの表面に提示したときに起こる。成熟樹状細胞は、同時に、T細胞の活性化において共受容体として作用するCD80(B7.1)CD86(B7.2)およびCD40などの膜受容体を上方制御して、したがってその結果、それらの前記T細胞を活性化する能力は増大する。成熟樹状細胞は、樹状細胞の血流全体を通って脾臓に至る移動、およびそこからリンパ系へのそれらの移動を誘発する受容体CCR7の発現も上方制御する。成熟樹状細胞は、それらが処理した抗原を提示するヘルパーT細胞、キラーT細胞およびBリンパ球を活性化することができる。
【0134】
したがって、少なくとも1種のHPV E7抗原を提示する成熟樹状細胞は、HPV E7抗原を捕捉した後、前記抗原を処理した後、それを主要組織適合性複合体(MBC)に結合した膜の表面に提示することができる樹状細胞として理解される。
それに加えて、成熟樹状細胞は、上で示した上方発現した膜受容体を提示することができる。
【0135】
他のステップにおいて、細胞は、本発明の複合体の誘導体の1種または複数種のペプチドの内部移行、処理および提示に適した条件下で維持される。本発明の複合体から誘導された少なくとも1種の抗原性ペプチドの内部移行、処理および提示に適した条件は、樹状細胞の活性化を定量するための標準的アッセイを使用して決定することができる。
【0136】
DCの成熟は、細胞表面の多数の分子マーカーおよび表現型の変化を使用して追跡することができる。これらの変化は、例えば、フローサイトメトリー技法を使用して分析することができる。成熟マーカーは、典型的には特異的抗体を使用してマークされ、マーカーまたは一群のマーカーを発現するDCは、例えば、FACSによる細胞選別を使用してDC全体から分離することができる。DC成熟マーカーは、未成熟DCに比較して成熟DCにおいて高レベルで発現されて出現する遺伝子を含む。これらのマーカーには、細胞表面のMBCクラスII抗原(特にHLA−DR)、CD40、CD80、CD86、CD83などの副刺激分子、CD45、CD11cおよびCD18などの細胞輸送分子が含まれるが、これらに限定されない。さらに、DCの成熟は、ある種のNotchリガンド例えばデルタ様リガンド(DLL4)など、Th1応答の誘発と関連するJagged1およびJagged2の発現を測定して決定することができる。一方、成熟樹状細胞は、混合リンパ球反応(MLR)で同種のT細胞の増殖を刺激するそれらの能力を使用して確認することができる。さらに、未成熟DCは抗原の内部移行に非常に有効であるが抗原提示が低いのに対して、成熟DC細胞は抗原の内部移行は低いが抗原提示に非常に有効であることが一般的に見られている。
【0137】
樹状細胞の抗原提示機能は、MHC限定、抗原依存性のT細胞活性化アッセイ並びに当業者にとって周知の他のアッセイ、例えば末梢血液リンパ球におけるインビトロ刺激の能力など、例えば、DCの存在におけるCD8+リンパ球によるIFN−γ産生量の定量などを使用して、測定することができる。この定量は、ELISPOTと称する技法を使用して実施することができる。T細胞の活性化は、それに加えて、例えば刺激された樹状細胞によるサイトカイン産生の誘発を測定して定量することができる。サイトカイン産生の刺激は、ELISAなどの、当業者により周知の非常に種々の標準的技法を使用して定量することができる。
【0138】
標的細胞にトリチル化チミジン(3H−TdR)を結合するなどの他の細胞傷害性アッセイも使用することができる。3H−TdRは、細胞核に組み込まれる。・H−TdRの遊離は、DNA断片化に基づく細胞死の尺度である。
【0139】
本発明の方法の第2のステップにおいて、ステップ(a)で得られた成熟樹状細胞が回収される。
【0140】
本発明の方法のステップa)で得た成熟細胞を回収するために種々の戦略を使用することができる。例えば、成熟細胞により発現された、および前に記載した、例えばCD80などの膜マーカーを使用することができる。
【0141】
細胞表面マーカーの発現は、従来の方法および装置を使用して例えば、フローサイトメトリーにより定量することができる。例えば、市販の抗体および当技術分野において知られた通常のプロトコルを使用して、Becton Dickinson CaliburのFACS(蛍光性活性化細胞選別)システムを使用することができる。したがって、フローサイトメトリーにおいて、特異的な細胞表面マーカーについてバックグラウンドシグナルより上のシグナルを提示する細胞を選択することができる。バックグラウンドシグナルは、従来のFACS分析において各表面マーカーを検出するために使用した特異的抗体と同じイソタイプの非特異的抗体により生ずるシグナル強度として定義される。マーカーが陽性とみなされるためには、観察された特異的シグナルが、従来の方法および装置(例えば、市販の抗体および当技術分野において知られた通常のプロトコルを用いて使用したBecton Dickinson Calibur FACSシステム)を使用したバックグラウンドシグナルの強度に対して、20%を超え、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、500%、1000%、5000%、10000%またはそれを超えて強くなければならない。
【0142】
本発明による方法により得た樹状細胞は、E7抗原に対する免疫応答の発生に応答する疾患の治療に有用であることが証明された。前記方法を使用して、本発明の複合体からの少なくとも1種の抗原を提示する成熟細胞が得られる。したがって、他の態様において、本発明は、本発明の方法または本発明の樹状細胞により得られる、本発明の複合体からの少なくとも1種の抗原を提示し且つCD40陽性である抗原提示樹状細胞に関する。
【0143】
他の態様において、本発明は、医学においてそれらを使用するための本発明の樹状細胞に関する。前記本発明の樹状細胞は、それをDCワクチン接種として使用して、すなわち前記患者に対する前記細胞の投与により、患者における免疫応答を惹起するために使用することができる。したがって他の態様において、本発明は、患者における免疫応答の発生にための本発明の樹状細胞に関する。換言すれば、本発明は、対象者に対する抗原提示細胞の投与を含む、対象者における免疫反応を惹起する方法に関する。
【0144】
DCを用いるワクチン接種は、抗原提示DCを対象者(例えば、ヒト患者)に投与することにより実施され、対象者に免疫応答が誘発される。免疫応答は、典型的には、抗原性ペプチド(例えば、本発明の複合体の成分)でマークされた標的細胞に対するCTL応答を含む。これらの標的細胞は、典型的には癌細胞である。改変されたDCを患者に投与すべきとき、これらの細胞は、同じ患者の幹細胞から単離することが好ましい(すなわち、DCは自家患者に投与される)。しかしながら、HLAに関して適合性の同種の患者または一致がない同種の患者に、細胞を投与することができる。この後者の場合は、細胞を受ける患者に免疫抑制薬を投与しなければならない。
【0145】
細胞は、任意の適当な形態で、好ましくは担体(例えば食塩水溶液)とともに投与することができる。投与は、通常は静脈内であるが、動脈内、筋肉内、皮内、腹腔内または皮下投与も許容される。投与または免疫は種々の時間間隔で繰り返すことができる。
【0146】
DC注射は、サイトカインの投与と組合せることができ、それはDCの数およびそれらの活性が、GM、CSF、IL−12と同じように維持されるように作用する。
【0147】
患者に投与する用量は、免疫応答を誘発するために有効でなければならなず、免疫応答は、T細胞の増殖、Tリンパ球の細胞傷害性および/または患者の応答の経時的に有益な治療効果を測定するアッセイを使用して検出することができる。利用できる場合には、通常10から10個のDC細胞が注射される。ワクチンは、1回または複数回患者に投与して、有益な結果を達成することができる。ワクチンの1回目の投与と続く投与(単数または複数)との間の時間は、患者の健康、年齢、体重その他を含むがそれらに限定されない種々の要因に依存する。ワクチンは、例えば、週に1回、2週間毎に1日1回、3週間毎に1日1回、1ヵ月に1回を含むが、これらに限定されない任意の適当な時間間隔で投与することができる。特定の態様において、ワクチンは、無期限で投与することができる。他の特定の態様において、ワクチンは、2週間間隔で3回投与される。ワクチンの用量は、患者の健康、安定性、年齢、体重、その他を含むが、これらに限定されない種々の要因にも依存する。臨床的利益を含む十分な免疫レベルが一旦達成されたら、一般的に頻度を落として投与する(例えば、毎月または半年毎の投与)ブースター用量を使用することができる。
【0148】
免疫応答を惹起する方法で使用するDCは、それらを在庫品の薬剤として使用することができるようにまたは製剤の細胞と治療される患者の細胞との間に組織適合性がある場合に、それらを使用する用意があるように製剤化することが好ましい。治療目的の対象者と樹状細胞との間の適合性が欠如すると、細胞の早発排除(特に複数回の投与後)があるのでまたは意図された標的の免疫系を混乱させる強い抗異種応答の発生に基づくかのいずれかにより、ワクチンの効果の減少が生じ得る。この関係で、本発明の樹状細胞中のHLAクラスI対立遺伝子の少なくとも幾つか(特に遺伝子座Aおよびさらに特定すればA2対立遺伝子における)が患者と共有されるワクチンの使用が有利である。したがって腫瘍抗原の少なくとも幾つかが自家のクラスIの分子中に提示され、それにより抗腫瘍応答が増大すれば、抗アロタイプ応答が減少するであろう。
【0149】
部分的一致は、最もありふれたHLA−Aアロタイプ(HLA−A2、A1、A19、A3、A9、およびA24)の2つ以上を有する細胞を用いて作製されたDCによるワクチンを使用して得ることができる。大部分の患者に対する全体的一致は、遺伝子座HLA−Aにただ1つのアロタイプを有する種々の可能性を選択することができる一連の種々のDCを医師に提供するとこにより達成することができる。
治療は、標準的組織適合試験方法を使用する患者における1種または複数種のHLAアロタイプ同定、およびHLAアロタイプ(単数または複数)が患者と一致するDCによる患者の治療を含むであろう。例えば、HLA−A2およびHLA−A19の患者は、HLA−A2もしくはHLA−A19についてホモ接合体の細胞のいずれかまたは両者の混合物を用いて治療することができる。
【0150】
HLAの一致の欠如の潜在的な負の効果は、外来性アロタイプに対する免疫寛容を生じさせて治療することができる。ワクチンの調製中にDC細胞は、2群:免疫寛容を生じる未成熟細胞を生ずる群、および抗原提示のための成熟DCを生ずる他の群に分割される。免疫寛容を生じる細胞は、それらが成熟細胞の受容を生ずるように設計される。免疫寛容を生じる細胞は、十分な程度の免疫応答不在(例えば、混合リンパ球反応で測定される)が生ずるように、患者に1回または複数回投与されるであろう。患者が免疫寛容になれば(1週間または1ヵ月後に)、標的腫瘍抗原に対する免疫応答に必要な量および頻度で、成熟抗原提示細胞を対象者に投与する。
【0151】
特定の態様において、本発明の抗原提示樹状細胞は、治療すべき象者にとって自己である。ワクチンの組成物はアジュバントを含むことができる。アジュバントは、任意の利用可能なアジュバントまたはそれらの組合せであってよい。アジュバントの例は、本発明の複合体および組成物に医学的使用の節で挙げた。
【0152】
他の態様において、本発明は、ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の予防および治療のための医薬を製造するための本発明の樹状細胞の使用に関する。あるいは、本発明は、ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の予防および治療のための本発明の樹状細胞に関する。最後に、本発明は、前記対象者に対する本発明による樹状細胞の投与を含む、対象者におけるヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の治療方法に関する。
【0153】
本発明を、以下の例により説明するが、それらは単に例示であり、発明の限定とみなしてはならない。
【実施例】
【0154】
材料および方法
マウスおよび細胞ライン
特定の病原体のいない5週齢の雌C57BL/6マウスをHarlan Laboratories(Barcelona、スペイン)から購入し、CIMA動物施設で無菌条件下に水および食物が自由な状態に保った。動物を使用する実験は動物管理のための指示指針にしたがって実施した。
【0155】
THP1細胞(American Type Culture Collection ATCC,Manassas,VA)を、EDAから誘導した融合タンパク質による単球活性化のインビトロアッセイのために使用した。TC−1、HPV16−E6を発現する腫瘍細胞および始原マウス肺上皮細胞由来のHPV16−E7タンパク質は、American Type Culture Collection(LGC Promochem,Molsheim,France)から得た。細胞は、10%熱不活化胎児仔牛血清、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、0.4mg/mlゲネチシンおよび5×10−5mol/lの2−メルカプトエタノールで補完したGlutaMAX添加RPMI 1640(Life Technologies,Cergy−Pontoise,France)中で維持した。5×105のTC−1細胞を、C57BL/6マウスの剃毛した背中(左側)に200μL PBS中で注射した。2方向に垂直の直径(ミリメートル)の平均として表した腫瘍サイズを、一定間隔で測定した。EL−4(マウス胸腺腫)腫瘍細胞を、American Type Culture Collection(LGC Promochem、Molsheim、フランス)から得て細胞傷害性検討のための標的細胞として使用し(DTcペプチド添加または無添加で培養した)、それらが如何なるHPVタンパク質も発現しないので腫瘍の陰性対照として使用した。
【0156】
試薬
HPV16−E7H2−Db制限エピトープに対応する合成E749−57ペプチド[RAHYNIVTF(配列番号67):アミノ酸に対する一字コード]は、Proirnrnune(Oxford、英国)から購入した。ポリイノシン酸−ポリシチジル酸(PlC、ポリI:C、plCまたはpI:C)はInvivogen(SanDiego、CA)から購入して、注射前にPBS中に希釈した。CpGホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドタイプB(CpG1826:5’−TCCATGACGTTCCTGACGTT−3’)はProligo(Paris、France)により合成された。30μgのCpGオリゴデオキシヌクレオチドを、50μLのOptimen培地(Gibco,Grand Island,NY,米国)中に希釈して、60μgのDOTAP(Roche、Mannheim、ドイツ)と混合し、100μLのOptimenで希釈した。シクロホスファミド(CPA)(Sigrna,Steinheim,ドイツ)を注射前にPBSで希釈してワクチン接種の24時間前に投与した。種々の抗原性剤形およびアジュバントを同時に注射した。静脈内投与は眼窩後部注射により200μLの体積で実施した。
【0157】
組替えEDA−HPVE7融合タンパク質の調製
フィブロネクチンからのエキストラドメインAを発現するプラスミドpET20b−EDAを、前に記載したようにして調製して(Lasarte,Casares et al.2007)、EDAタンパク質のN端に連結したHPV−E7タンパク質の最初の1〜29アミノ酸およびEDAのC末端に連結したHPV−E7の43〜98アミノ酸を含有する融合タンパク質を発現するための発現プラスミドpET20b−EDA−HPVE7を構築するために使用した。この発現プラスミドは、下記のように2ステップで構築した。TC−1細胞からのRNAは、1×10個の細胞からChomczynskiおよびSacchi(Chomczynski and Sacchi 1987)の方法により、Ultraspec(Biotecx、Houston、TX、米国)をメーカーの指示にしたがって使用して単離した。全RNAを逆転写して、HPV−E7タンパク質をコードする遺伝子を、前に記載したように(Lasarte,Casares et al.2007)上流で最初のUP−1 CATATGCATGGAGATACACCTAC[配列番号68](下線を引いたNdeI制限部位を含む)および下流で最初のDW−1 GCGGCCGCTGGTTTCTGAGAACAGAT[配列番号69](NotI制限部位を含有する)を使用して、PCRにより増幅した。生ずるPCR生成物は、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen,Carlsbad,CA,米国)を使用して、pCR2.1−TOPO中にクローニングし、プラスミドpCR2.1−TOPO−HPV−E7に導いた。発現プラスミドpET20b−EDA−HPVE7の構築についての最初のステップについては、プラスミドpCR2.1−TOPOHPV−E7テンプレートとして、プライマーUP−1(配列番号68)およびDW−2(CATATGATTTAATTGCTCATAACA、配列番号70)を使用するPCR反応。生じたフラグメントをpCR2.1−TOPOでサブクローニングするとプラスミドpCR2.1−TOPO−(1〜29)E7が生ずる。このプラスミドをNdeI制限酵素で消化して、生じたフラグメントをNdeIで消化したpET20b−EDAプラスミドでサブクローニングするとプラスミドpET20b−EDA−(1〜29)E7が生ず
る。第2のステップにおいては、プラスミドpCR2.1−TOPO−HPV−E7テンプレートとしてプラスミドUP−2(GCGGCCGCAGGACAAGCAGAACCGGA、配列番号71)およびDW−1(配列番号69)を使用するPCR反応を実施した。生じたPCR生成物をpCR2.1−TOPOでサブクローニングするとプラスミドpCR2.1−TOPO(43〜98)E7が生じ、それをNotIで消化してE7タンパク質のこの部分をコードするフラグメントを精製した。この生成物を前にNotIで消化したプラスミドpET20bEDA−(1〜29)E7でサブクローニングした。この過程の後、本発明者らは、プラスミドpET20b−EDA−HPVE7を得てその配列を決定し、カルボキシ端に6つのヒスチジン残基(6×Hisタグ)を担持する融合タンパク質(1〜29)E7−EDA−(43〜98)E7の正しい発現を確認した。このプラスミドpET20b2−26をBL21(DE3)細胞中に形質移入して、組替えタンパク質を発現し、それを、細胞抽出物の可溶性分画から、FPLCプラットホーム(AKTA、Pharmacia)を使用して親和性クロマトグラフィー(Histrap、Pharmacia)により精製した。溶出したタンパク質を、Hitrap脱塩カラム(Pharmacia)を使用して脱塩し、AmiconのUltra4−5000MWCO遠心濾過デバイス(Millipore Carrighwahill、アイルランド)を使用して濃縮した。この組替えタンパク質を、Endotrapカラム(Profos Ag、Regensburg、ドイツ)を使用することにより、内毒素レベルが、リムルス試験法の定量的発色(Cambrex、Walkersville、MD、米国)により試験して0.2EU/μgタンパク質未満になるまで内毒素を除いて精製した。精製した組替えタンパク質をSDS−PAGEにより分離して、Bio−Safe Coomassie試薬(Bio−Rad、Hercules、CA)を使用し、メーカーの指示にしたがってクーマジーブルーで染色した(図1)。
【0158】
ウェスタンブロットおよび質量分析法によるタンパク質のキャラクタリゼーション
【0159】
ウェスタンブロット分析:精製したタンパク質を10%SDS−PAGEゲルに負荷し、続いてニトロセルロース膜に電気泳動で移した。ヒスチジンタグ付タンパク質を抗His抗体(Qiagen)および抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Amersham Pharmacia)を使用して検出した。タンパク質のバンドは、増強化学発光(Amersham Pharmacia Biotech、Freiburg、ドイツ)により検出した。トリプシン消化物から、WatersのMALDI−TOF GL−REF質量分光計を使用して、ペプチドのマスフィンガープリント(PMF)を得た。簡単に説明すると、1.2μLのトリプシン消化物を0.1%TFA添加50%アセトニトリル中の等量のα−シアノ−4−ヒドロキシ−トランス−ケイヒ酸と混合して、MALDI−TOF標的プレート上にスポットした。データ処理は、Masslynx 4.0(Waters)でACTHを内部ロック質量標準として使用して実施した。
【0160】
微細毛細管逆相LCをCapLC(Waters)毛細管系で実施した。トリプシン消化物の逆相分離は、5%アセトニトリル、0.2%ギ酸で平衡化したAtlantis、C18、3μm、75μm×10cmのNano Ease溶融シリカ毛細管カラム(Waters)で実施した。6μLの試料を注入した後、カラムを5分間同じ緩衝液で洗浄し、ペプチドを、30分で5〜50%のアセトニトリルの線形グラジエントを使用して、一定の流速0.2μL/分で溶出した。カラムを、Pico Tipナノスプレーイオン化供給源(Waters)を使用するQ−TOF Micro(Waters)に連結した。加熱した毛細管温度は80°Cであり、スプレー電圧は1.8〜2.2kVであった。MS/MSデータは自動化されたデータ依存様式で収集した。各概略走査における3つの非常に強いイオンを2.5の単離幅および35%の相対衝突エネルギーを使用して衝突誘起解離(CID)により順次に断片化した。データ処理は、Masslynx 4.0を用いて実施した。PMFに基づくタンパク質同定は、Masslynxスコアが少なくとも7であり、且つ合致したペプチドが指名したタンパク質配列の少なくとも30%を提示するときにのみ受け入れた。MS/MSデータによるタンパク質同定は、7を超えるスコア値について、および少なくとも3つの独立のペプチドの配列に基づくときのみ考慮した。
【0161】
単球活性化のインビトロ分析。THP−1
THP−1細胞を1×10細胞/ウェルで入れて、培養の安定化のための完全培地中で、37°Cおよび5%COで終夜培養した。種々の濃度の指示した抗原を培養液に加えて、15時間のインキュベーション後に、培養上清を収穫した。THP−1細胞ラインにより培地に放出されたヒトTNF−αの濃度を、市販のELISAアッセイ(BD Pharmingen)を使用してメーカーの指示にしたがって定量した。
【0162】
DC成熟のインビトロ分析
骨髄(BM)由来の樹状細胞を、マウス大腿骨骨髄細胞の培養により発生させた。赤血球をACK細胞溶解緩衝液で溶解した後、骨髄細胞を洗浄し、続いてCD4(GK1;ATCC、Manassas、VA)、CD8(53.6.72;ATCC)Ly−6G/Gr1(BD−Pharmingen;SanDiego、CA)およびCD45R/B220(BD−Pharmingen)に対する抗体の混合物と続いてウサギ補体とのインキュベーションによりリンパ球をおよび顆粒球完全に除去した。残存する細胞を、12ウェルのプレート中106細胞/mlで、20ng/mlのmGM−CSFおよび20ng/mlのmIL−4(両方ともPeprotech;London、UKから)で補完したCM(10%FCS、2mMグルタミン、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび5×10−5Mの2−メルカプトエタノールで補完したRPMI1640)中で増殖させた。2日毎に、培地の3分の2をサイトカインを含有する新鮮培地で置換した。付着しない樹状細胞を第7日に収穫して、種々の刺激剤の存在または不在下に37°Cおよび5%COで培養した、24時間の培養後、上清を収穫してIL−12(p70)、TNF−αをELISA(BD−Pharmingen)によりメーカーの指示にしたがって測定した。DC成熟マーカーの発現はフローサイトメトリーにより測定した。細胞をラット抗CD16/32mAb(2.4G2クローン、BD Pharmingen)とともに15分間、前培養して、一次抗体の非特異的結合を阻止した。この初期インキュベーションの後、細胞を一次抗体により4°Cで15分間染色して洗浄し、FACS走査サイトメータ(BD Biosciences、San Diego、CA)で捕捉して、Cell Questソフトウェア(BD Biosciences)を使用して分析した。使用した抗体は:抗IAβb(25−9−17クローン)、抗H−2Kb(AF6−88.5クローン)、抗CD40(3/23クローン)、抗CD54(3E2クローン)、抗CD80(16−10A1クローン)、抗CD86(GL1クローン)、抗CD11c(HL−3クローン)であり、全てBD Pharmingenからのものである。
【0163】
統計分析
非線形混合効果モデルで腫瘍成長データを分析するために、Monolixソフトウェア(http://www.monolix.org/)を使用した。経時的な腫瘍の平均直径を、方程式1.1で記述されるモデルを使用して適合させ、治療を尤度比検定を使用して比較した。
【数1】

式中、Yijはマウスiの時間tijにおける腫瘍直径であり、Y、k、kおよびkは、それぞれ、初期腫瘍直径、腫瘍成長速度、エフェクター細胞固有の致死活性およびエフェクター細胞の排除速度を表すモデルの係数である。
【0164】
カプランマイヤープロットを使用して生存率を分析した。Prismソフトウェア(GraphPad Software,Inc.San Diego、米国)を使用してログランク検定で生存曲線における差の有意性を決定した。インビボの致死分析の結果は、ANOVAに続くダネットの多重比較検定により分析した。0.05未満のp値を統計的に有意であるとみなした。
【0165】
実施例1
EDA−HPVE7融合タンパク質はインビトロで骨髄由来の樹状細胞の成熟を誘発することができる
すでに記載したように、文献WO06134190には、フィブロネクチンからのエキストラドメインA(EDA)、Toll様受容体4(TLR4)の内因性リガンドを包含する組替えタンパク質が、TLR4シグナル伝達経路に結合して活性化することが記載されている。EDAは、DCによるIL−12またはTNF−αなどの炎症誘発性サイトカインの産生も刺激して、インビトロおよびインビボにおけるそれらの成熟を誘発する。それ故、組替えタンパク質EDA−HPV−E7がインビトロでBMDCの成熟も誘発することができるか否かをアッセイした。BMDCを500nMのEDA−HPV−E7とともにインキュベーションすると成熟マーカーIAb、CD54および、程度は低いがCD86分子の発現を上方制御し得ることを見出した(図2)。その上、EDA−HPV−E7は、BMDCによるIL−12サイトカインの産生を強く刺激することができた(図3A)。同様に、組替え融合タンパク質EDA−HPVE7は、TLR4分子を発現するヒト単球細胞ラインTHP−1によるTNF−αサイトカインの産生も誘発することができた(図3B)。これらの結果はEDAとHPVE7タンパク質との融合タンパク質は、EDAの炎症誘発性の性質を保持することを示す。
【0166】
実施例2
EDA−HPVE7融合タンパク質は、共アジュバント不在下にインビボでHPVE7特異的CTLを誘発する。
【0167】
EDA−HPVE7融合タンパク質で免疫したマウスが、HPVE7特異的T細胞応答を発生するか否かをアッセイした。融合タンパク質の能力を、C57BL6マウスにより認識される細胞傷害性T細胞決定基を含む合成E7(49〜57)ペプチドと比較した。マウスは静脈注射によりPBS中2nmolのEDAHPV−E7またはペプチドDTc/E7(49〜57)で免疫した。免疫7日後にマウスを屠殺して、脾臓細胞をペプチドDTcの存在または不在下に5日間に培養した。CTL活性は、DTcペプチドでパルスしたまたはしない放射性標識したEL4細胞を標的細胞として使用する従来のクロム放出アッセイを使用して測定した(図4A)(グラフに絶対値を示す。前記値はペプチド不在で得た細胞溶解の値をペプチド存在下で得た値から差し引いて計算した)。EDA−HPVE7タンパク質で免疫したマウスの方が、細胞傷害性T細胞エピトープでパルスした標的細胞に対して高いレベルのCTL活性を有することが示される。それは、ELISPOTで、すなわち、EDAHPV−E7またはE7(49〜57)ペプチドで免疫したマウスからの脾臓細胞中における、ペプチドE7(49〜57)の存在または不在下で培養して、または放射線照射したTC1腫瘍細胞(HPVE7タンパク質を発現する)に対して応答して、または腫瘍細胞EL−4(陰性対照)に対して応答してIFN−γを産生する細胞の数によっても測定した(図4B)。EDA−HPV E7で免疫したこれらのマウスは、E7(49〜57)またはTC1細胞に対して特異的なIFN−γ産生スポットのより高い数を有することが見出され、細胞傷害性T細胞決定基単独と比較してより高いこのタンパク質の免疫源性が確認された。
【0168】
実施例3
EDA−HOVE7融合タンパク質は共アジュバントの存在下にインビボでHPVE7特異的CTLを誘発する。
EDA−HPVE7融合タンパク質で免疫したマウスが、TLR3リガンドのポリI:C(pI:C)の存在下で、改善されたHPVE7特異的T細胞応答を発生するか否かをアッセイした。マウスは静脈注射によりpI:C(50μg/マウス)の存在下に2nmolEDA−HPVE7またはDTc/E7(49〜57)ペプチドで免疫した。免疫7日後に、マウスを屠殺して脾臓細胞をDTc/E7(49〜57)ペプチドの存在または不在下で培養した。5日培養した後、CTL活性を、DTcペプチドでパルスしたもしくはしない放射性標識EL4細胞(図5A)または放射線照射したTC−1細胞(図5B)を標的細胞として使用して、従来のクロム放出アッセイを使用して測定した(グラフは、ペプチドなしで得られた細胞溶解の値をペプチド存在下で得た値から差し引いて計算した絶対値を示す)。並行して、EDAHPV−E7またはDTc/E7(49〜57)ペプチドで免疫したマウスからの脾臓細胞を、E7(49〜57)ペプチドまたはTC1細胞または放射線照射したEL−4細胞の存在または不在下で24時間インキュベートして、ELISPOTを使用してIFN−γ産生を測定した(図5C)。
【0169】
実施例4
ポリI:Cおよびシクロホスファミドと組み合わせたEDA−HPVE7融合タンパク質の治療的有効性。
抗原送達系としておよびワクチンとしてのEDA−HPVE7の効力をさらによく評価するために、この融合タンパク質の治療的有効性とE7(49〜57)ペプチドの治療的有効性とを、両方ともTLRリガンドpI:Cで補完して比較した。それ故、C57BL/6マウスに5×10のTC−1細胞を用いて皮下注射して、25日後に、腫瘍の平均直径が約8mmになったときに治療的に処置した。したがって、静脈注射で以下の組合せのEDAワクチンによりマウスを処置した:(i)50μgのpI:Cを加えた2nmolのEDA−HPVE7;(ii)50μgのpI:Cを加えた2nmolのペプチドE7(49〜57);(iii)2nmolのEDAおよび50μgのpI:Cを加えた2nmolのE7(49〜57)ペプチド;(iv)50μgのpI:Cを加えた2nmolのEDA;(v)50μgのpI:C単独;(vi)2nmolのEDA−HPVE7単独または;(vii)PBS。
【0170】
PBSを注射したマウス(対照群)においては、腫瘍は継続的に成長して、マウスを30日目と40日目の間に屠殺しなければならなかった(図6A)。抗原なしでアジュバントにより処置した腫瘍の大部分は、具体的にはpI:CおよびEDA+pI:Cで処置したマウスは、若干のマウスでは腫瘍成長の遅れが観察されたとはいえ、同じ腫瘍成長速度をたどった。この遅れは僅少に終わり、生存の延長は統計的に有意でない(図6B)。E7ペプチド(E7(49〜57))の免疫カクテルへの添加により、アジュバントにより誘発された腫瘍成長抑止は僅かに改善された(図6A)。幾つかの腫瘍は、数日間腫瘍サイズの寛解を示し、さらに1匹のマウスでは腫瘍が完全に消失したが、しかしながら、腫瘍は成長し続けて、最終的にはマウスを屠殺した。融合タンパク質EDA−HPV E7は、単独では腫瘍を根絶することができなかったが、腫瘍成長における遅れは観察された。しかしながら、EDA−HPVE7とTLR3に結合する緩和なアジュバントであるpI:Cとの組合せは、これらの大きい確立した腫瘍の根絶を60%のマウスで達成することができた(図6A)。腫瘍成長(図6A)および生存(図6B)は両方とも、pI:C処置マウスとは有意に異なる(E7(49〜57)+pI:Cで処置したマウスとEDA−HPV E7+pI:Cで処置したマウスとの間の尤度比検定を使用して決定してp<0.0004(図6A)、および生存曲線の比較のためのログランク検定を使用して決定してp<0.05(図6B))。それ故、抗原とEDAとの共有結合およびアジュバント共投与は両方とも、マウスにおける大きい腫瘍を根絶するために必要である。
【0171】
より困難な状況におけるEDA−HPVに基づくワクチン接種の治療的有効性をアッセイした。そのために、C57BL/6マウスに5×10のTC−1細胞を皮下注射して、35日後に、腫瘍平均直径が約12〜15mmになったときに治療的に処置した。このモデルにおいては、EDA−HPVE7をマウスの治療について低用量の化学療法剤シクロホスファミド(CPA、175mg/kg)と組み合わせた。24時間後に、マウスをEDA−HPV−E7(2nmol/マウス)およびCpG−B/DOTAP(30μg/マウス)で免疫した。単独またはアジュバントと組み合わせたPBSで免疫したマウスおよびCPA治療のみのマウス(図7B)を対照として使用した。図7Aに示した図式に示したように、全ての動物は、対応する治療による第2の投与を検討の第50日に受けた。
【0172】
CpG/DOTAPを加えたEDA−HPVE7とCPAとの組合せで2回免疫したマウスの治療は、これらの非常に大きい腫瘍を50%のマウスにおいて拒絶することができたが、アジュバントおよびCPA投与による治療後に治癒したマウスは12%だけであることが見出された(CPA+CpG/DOTAP治療マウスに対するCPA+CpG/DOTAP+EDA−HPVE7治療マウスの尤度比検定を使用して決定してp=0.0064(図7A)および生存曲線の比較のためにログランク検定を使用して決定してp<0.05)(図7C)。
【0173】
まとめると、組替え融合タンパク質EDA−HPVE7は、樹状細胞の成熟を誘発し、インビボで抗腫瘍免疫応答の活性化を誘発し、且つHPVE7タンパク質を発現している十分確立した大きい腫瘍を根絶することができることが証明された。これらのデータは、ヒト子宮頸癌に対する代替的療法の開発に対して、EDA−HPVE7タンパク質を考慮することができることを示唆する。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)フィブロネクチンのEDA領域またはそれらの機能的に同等な変異体、および
ii)少なくとも1種のHPV E7由来の抗原性ペプチド
を含み、成分(i)と(ii)とが共有結合してなる、複合体であって、
前記抗原性ペプチドに対する細胞傷害性応答を助長する、複合体。
【請求項2】
フィブロネクチンのEDA領域がヒト由来である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
成分(ii)が、配列番号51のアミノ酸の1〜29番を含有する抗原性ペプチド、配列番号52のアミノ酸の43〜98番を含有する抗原性ペプチドまたは両方を含む、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
成分(ii)が成分(i)とともに単一ポリペプチド鎖を形成する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
前記EDA領域が、2つのHPV E7抗原性ペプチドと並んで配置されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
配列番号53または配列番号72の配列を含む、請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載の複合体をコードする、ポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物を含む、ベクター。
【請求項9】
請求項7に記載のポリヌクレオチドまたは遺伝子構築物、または請求項8に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項10】
(i)請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の宿主細胞、および
(ii)TLRリガンド
を一緒にまたは別々に含む、組成物。
【請求項11】
(i)請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の宿主細胞、
(ii)TLRリガンド、および
(iii)化学療法剤
を一緒にまたは別々に含む、組成物。
【請求項12】
TLRリガンドが、TLR3リガンド、TLR9リガンドおよび両者の組合せからなる群から選択される、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
TLR3リガンドがポリ(I:C)である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
TLR9リガンドが、少なくとも1つのCpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドである、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
化学療法剤(iii)がシクロホスファミドである、請求項11〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の細胞、または請求項10〜15のいずれか一項に記載の組成物、および少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体もしくはアジュバントを含む、医薬組成物。
【請求項17】
医薬に使用するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の細胞または請求項10〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
ワクチンを製造するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の細胞または請求項10〜16のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項19】
ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の予防および治療のための医薬を製造するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の細胞または請求項10〜16のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項20】
少なくとも1種のHPV E7抗原を提示する成熟樹状細胞を得るためのインビトロ方法であって、
i)樹状細胞と、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合体、請求項7に記載のポリヌクレオチドもしくは遺伝子構築物、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の細胞または請求項10〜16のいずれか一項に記載の組成物とを、樹状細胞の成熟が起こるために適した条件で接触させ、かつ
ii)成熟樹状細胞を回収すること
を含む、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法により得られる、樹状細胞。
【請求項22】
医薬に使用するための、請求項21に記載の樹状細胞。
【請求項23】
ヒトパピローマウイルスにより惹起される感染および/またはHPV感染と関連する子宮頸癌の予防および治療のための医薬を製造するための、請求項22に記載の細胞の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公表番号】特表2013−504314(P2013−504314A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528397(P2012−528397)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070590
【国際公開番号】WO2011/029980
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】