説明

ICタグ抄き込み紙

【課題】紙層表面にICタグ(インレット)の輪郭の凹凸が現れて外観を損なうことを防止し、ICチップを保護すると共に、生産性を向上することができるICタグ抄き込み紙を提供する。
【解決手段】ICチップとアンテナとを有するICタグ2を紙層1内に抄き込んでなるICタグ抄き込み紙であって、紙層は、パルプの繊維間結合を阻害する化合物を含むパルプスラリーから抄造された嵩高紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触方式のICタグ(ICタグインレット)を紙層中に抄き込んだICタグ抄き込み紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ICタグはICチップおよびアンテナを有し、通常、電池を内蔵することなくリーダーまたはライターから発生する電波や磁界によって作動し、大量の情報の読み取りや書き込みを行うことができるものとして普及し始めている。ICチップのメモリー容量は最大で数十キロバイトと二次元バーコードより多く、また、チップが段ボールなどの箱の中に入っていたり、チップから数メートル離れていても、データの読取りや書込みを行うことができる。
ICタグを活用することにより、部品メーカー、製造、卸、小売の各段階でばらばらのバーコードで管理されていた情報を全体で最適化するシステムが構築されるため、更なる流通の効率化がもたされると言われている。その他、医療、食品、教育などの分野でもICタグを使った新しいサービスが生まれる手段となりつつある。
【0003】
ICタグは、通常、プラスチックフィルムなどの基材上に少なくともICチップおよびアンテナを配置してなる薄いインレットを、台紙に取付けるか、又は樹脂コーティングしたり紙の間に挟み込んで構成されている。
【0004】
一方、上記インレットにおいてICチップの厚みは基材と比べて厚く、通常100〜500μmの厚みを有しており、基材上でICチップ部分が突出している。そのため、ICタグの外観を見ると、ICチップ部分が盛上がって目立つという難点がある。又、ICタグのICチップ部分に外部から不可避的な応力が加えられた場合、致命的な損傷を受けるおそれがある。
【0005】
このようなことから、ICタグにおけるICチップ部分を保護する構造として、インレットとそれを被覆する保護基材との間に、ICチップが貫通する抜き穴を有する薄層の構造体を挿入し、インレットと薄層の構造体及び保護機材を接着剤層で貼り合わせる方法が提案されている(特許文献1参照)。
又、インレットの両面を緩衝材と表面層とで順次覆う方法が提案されている(特許文献2参照)。
さらに、第1の発泡紙上にICチップおよびアンテナを配置し、その対向面に接着剤を介して第2の発泡紙を貼り合わせる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006-236081号公報
【特許文献2】特開2005-55975号公報
【特許文献3】特開2000-148955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、薄層構造体に抜き穴を形成するための加工が非常に複雑であるのに加え、貼り合わせ工程が増えるため、ICタグの生産性が低下する。又、特許文献2記載の技術の場合も、緩衝材と表面層とを貼り合わせる工程が増えて生産性が低下するとともに、緩衝材に用いるウレタン系樹脂が高価であるという問題がある。
特許文献3記載の技術の場合、発泡紙によってICチップのクッション性が得られるものの、発泡紙の強度が弱いため、ICタグが折れ曲がり易く加工適性が低いという問題がある。又、発泡紙は、パルプに配合した発泡性粒子を抄造時に発泡させるため生産性が極めて悪く、コストが高い。さらに、この方法によっても接着剤による貼り合わせ工程の回数が多くなるため、生産性が低い。
従って、本発明は、紙層内にICタグ(インレットを含む)を抄き込んだ場合に、紙層表面にICタグの凹凸が現れて外観を損なうことを防止し、ICチップを保護してアンテナ部分からの剥離により破損する危険を防ぐと共に、生産性の高いICタグ抄き込み紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意検討した結果、嵩高紙内にICタグを抄き込むことにより、上記課題を解決できることを見出した。
従って、本発明のICタグ抄き込み紙は、ICチップとアンテナとを有するICタグを紙層内に抄き込んでなるICタグ抄き込み紙であって、前記紙層は、パルプの繊維間結合を阻害する化合物を含むパルプスラリーから抄造された嵩高紙である。
【0009】
前記化合物の含有量が絶乾パルプ100質量部当たり固形分換算で0.1〜5.0質量部であることが好ましく、前記紙層のうち、前記ICタグの直上部分の坪量が75g/m以上であることが好ましい。
前記化合物は、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、脂肪酸アミド化合物、又はポリアルキレンポリアミン・脂肪酸・エピクロロヒドリン縮合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紙層内にICタグ(インレットを含む)を抄き込んだ場合に、紙層表面にICタグの凹凸が現れて外観を損なうことを防止し、ICチップを保護してアンテナ部分からの剥離等による破損を防ぐと共に、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<ICタグ>
ICタグは、ICチップとアンテナとを有し、通常は平板状をなす。本発明におけるICタグは、プラスチックフィルムなどの基材上に少なくともICチップおよびアンテナを配置してなる薄いインレット、及びこのインレットを台紙に取付けるか又は樹脂コーティング等したものも含む。
ICタグのICチップとアンテナとは接続され、リーダーやライター等の通信機器と無線交信することにより、ICチップに記憶された商品情報などの読み取りや、ICチップへの書き込みができる。通常、ICチップに記録できる最大容量は数十キロバイトであり、記録容量はバーコードの約100倍になる。アンテナとしては、導線をコイル状に巻いて無線交信できるようにした電磁誘導方式によるものや、ポール状のアンテナをICチップに接続した電波方式のものを使用することができる。
【0012】
ICタグは例えば以下のようにして製造することができる。まず、ロール状のフィルム基材にアルミニウムを蒸着後、アンテナパターンをエッチング処理で作成する。アンテナを作成する別の方法として、フィルム上にアンテナパターンとなる導電性ペーストを印刷することもできる。アンテナパターンを作成したのち、フィルム上にICチップを接着剤などで接着してインレットを得ることができる。これら一連の工程はロール状のフィルム上で行われた後、個々のインレット片に断裁する。
【0013】
上記フィルム基材としては主にプラスチックフィルムが使用され、例えば、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。これらの樹脂はいずれも基材に絶縁性や耐熱性を持たせると同時に、耐水性のないICチップを保護するため、耐水性に優れたものを使用することができる。
フィルム基材の厚さは特に限定されるものではないが、商品の外観などを考慮して10μm〜200μmであることが好ましく、さらに好ましくは30μm〜80μmである。
【0014】
<紙層>
本発明において、ICタグを抄き込む紙層は、パルプの繊維間結合を阻害する化合物を含むパルプスラリーから抄造された嵩高紙である。
(パルプの繊維間結合を阻害する化合物)
パルプの繊維間結合を阻害する化合物(以下、適宜「結合阻害剤」と称する)は、パルプの繊維間結合を阻害して紙を嵩高、柔軟にするものであり、得られた紙は密度0.40〜0.70g/mの範囲にあるものが好ましい。結合阻害剤により紙が嵩高、柔軟になる理由について明らかではないが、抄紙時に化合物がパルプ繊維に定着して繊維を疎水化し、パルプ繊維間水素結合が阻害されるためと考えられる。つまり、この結合阻害剤はパルプの結合を化学的に阻害すると考えられる。具体的には、結合阻害剤の水分散液をパルプ繊維スラリーに内添すると、結合阻害剤の多くはパルプ繊維の外側のフィブリルなどの表面に付着すると考えられる。この付着した結合阻害剤の存在により、パルプ繊維のフィブリルの水素結合が阻害され、パルプ繊維同士の結合が阻害され、紙の嵩高化(低密度化)が達成される。
ここで紙の密度は、JIS P8118に規定された方法で測定する。
【0015】
結合阻害剤は、パルプの繊維間結合を阻害するものであれば何でもよいが、例えば分子内に疎水基と親水基を持つ界面活性剤を挙げることができる。
このような結合阻害剤は、近年、製紙用に紙の嵩高化のために上市されており、例えば、国際特許公開第98/03730号パンフレット、特開平11−200284号公報、特開平11−350380号公報、特開2003−96694号公報、特開2003−96695号公報等に示される化合物が挙げられる。
【0016】
結合阻害剤として具体的には、高級アルコールのエチレンおよび/又はプロピレンオキサイド付加物、多価アルコール型非イオン型界面活性剤、高級脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物のエチレンオキサイド付加物、あるいは脂肪酸ポリアミドアミン、脂肪酸モノアミド等の脂肪酸アミド化合物、ポリアルキレンポリアミン・脂肪酸・エピクロロヒドリン縮合物等を使用することができ、これらを単独あるいは2種以上併用することができる。好ましくは多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、脂肪酸ポリアミドアミン、脂肪酸ジアミドアミン、脂肪酸モノアミド等の脂肪酸アミド化合物、ポリアルキレンポリアミン・脂肪酸・エピクロロヒドリン縮合物である。
【0017】
例えば、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物の詳細な具体例は次の通りである。多価アルコールの脂肪酸エステルにおける多価アルコールは、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜24の2〜14価アルコールが好ましい。2価アルコールとしては、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜10のもの、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールが挙げられ、3価以上のアルコールとしては、エーテル基を有していてもよい総炭素数3〜24のアルコールで、1分子中の総水酸基数/総炭素数=0.4〜1であるもの、例えばグリセリン、ポリ(n=2〜5)グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、アラビトール、ソルビトール、スタキオース、エリトリット、アラビット、マンニット、グルコース、ショ糖などが挙げられる。好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エーテル基を有していてもよい総炭素数3〜12のアルコールで、1分子中の水酸基数/総炭素数=0.5〜1である3価以上のアルコールが挙げられる。更に好ましくはグリセリン、ポリ(n=2〜4)グリセリン、ペンタエリスリトールである。
【0018】
また、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物における脂肪酸としては、炭素数1〜24、好ましくは炭素数10〜22の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸は、飽和、不飽和、直鎖、分岐鎖の何れでもよく、特に直鎖飽和脂肪酸が好ましい。更に好ましくは、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸である。
【0019】
多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物は、従来公知のエステル化反応及びアルキレンオキサイド付加反応を行うことで得ることができる。例えば、脂肪酸と多価アルコールの混合物に対し、必要に応じてエステル化触媒を添加し、150 〜250 ℃で反応させることによりエステル化合物が得られる。更にアルカリ触媒等の存在下でアルキレンオキサイドを付加することにより、アルキレンオキサイド付加物が得られる。また、脂肪酸又は多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加後、エステル化してもよい。更に脂肪酸にアルキレンオキサイド付加のみを行って生成物を得られる場合もある。
【0020】
多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物におけるエステル平均置換度は0よりも大きく、好ましくは1モルの多価アルコール当たり、アルコール中のOHが10〜95当量%置換されたものであり、特に好ましくは、1モルの多価アルコール当たり1〜2モルの脂肪酸基を有するものである。
多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物のHLBは好ましくは1〜14、更に好ましくは1.5〜10、最も好ましくは2.5〜6の範囲内にある。多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物の融点は100℃以下であり、好ましくは−15℃以上80℃以下、更に好ましくは20℃以上70℃以下である。
【0021】
結合阻害剤に、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は公知のものを使用することができ、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、ポリマー系、好ましくはノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物 (a)と界面活性剤(b)との比率は、好ましくは(a)/(b)=99.5/0.5〜70/30(重量比)、より好ましくは98/2〜80/20である。
【0022】
市販されている結合阻害剤の例としては、スルゾールVL(商品名、BASF社製:アルキレンオキサイドオリゴマー)、バイボリュームPリキッド(商品名、Bayer社製:脂肪酸ポリアミドアミン)、リアクトペイク(商品名、三晶株式会社製)、KB−08T、KB−08W(商品名、花王株式会社製:高級アルコールのプロピレンオキサイド付加物)、KB−110、KB−115(商品名、花王株式会社製:高級脂肪酸と多価アルコールのエステル体)、DZ2220、(商品名、日本油脂株式会社製:不飽和脂肪酸アミド)が挙げられる。これらの市販化合物の2種以上を併用してもよい。
【0023】
結合阻害剤はパルプ繊維間の結合を阻害するため、一般に紙の強度が低下する傾向が見られる。また、結合阻害剤を一定量以上に添加しても効果は飽和する。そのため、原料パルプ(絶乾パルプ)に対して結合阻害剤を0.1〜20固形分重量%の範囲で添加することが好ましい。紙質(嵩、摩擦係数を除く)をあまり変化させずに嵩高の効果を十分に発現させるには、絶乾パルプに対して結合阻害剤を0.1〜5固形分重量%添加することがより好ましい。
【0024】
(パルプ)
紙層(湿紙)に用いるパルプは、通常の紙に使用されているパルプであれば特に限定されることなく、ケミカルパルプ(CP)、砕木パルプ(GP)、ケミグラウンドパルプ(CGP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、セミケミカルパルプ(SCP)等の各種製造方法によるパルプを使用することができる。又、パルプの種類も、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、晒パルプ、未晒パルプ、又は脱墨パルプ(DIP)などを使用することができる。叩解条件も限定されることはない。
【0025】
紙層を構成する紙の種類に応じ、必要であれば、公知の内添サイズ剤を使用できる。例えば、アルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤から選ばれる少なくとも1種類のサイズ剤を使用することが可能である。また、紙層の内添填料として、嵩高紙の嵩高性を損なわない範囲内で、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ等の無機填料や、尿素−ホリマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等から選ばれる1種類以上の填料を単独で使用し、又は併用することができる。
【0026】
又、紙層の抄造において、従来から使用されている各種のノニオン性、カチオン性の歩留まり剤、濾水度向上剤、紙力向上剤等の製紙用内添助剤を必要に応じて適宜選択して使用できる。また、例えば、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダや、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等の塩基性アルミニウム化合物や、水に易分解性のアルミナゾル等の水溶性アルミニウム化合物、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物、シリカゾル等を内添してもよい。その他製紙用助剤として各種澱粉類、ポリアクリルアミド、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド、ポリアミン樹脂、ポリアミン、ポリエチレンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物及びこれらの誘導体又は変成物等の各種化合物を使用できる。更に、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添剤を用途に応じて適宜添加することもできる。
【0027】
上記した各種成分を配合したスラリーを用い、通常の製紙工程と同様にして抄紙し、嵩高紙を製造できる。結合阻害剤は、抄紙工程より前工程の位置でパルプに内添される。結合阻害剤を内添する位置は特に制限されるものではないが、好ましくはミキシングチェストや二次ファンポンプ前などであり、歩留向上剤を添加する前が良い。
抄紙方法も、例えばpH4.5付近である酸性抄紙によるか、炭酸カルシウム等のアルカリ性填料を主成分として含み抄紙pHが約6の弱酸性〜約9の弱アルカリ性である中性抄紙によるかを問わない。
【0028】
<ICタグの抄き込み>
ICタグを紙層内に抄き込む方法としては特に制限されず、例えば長網抄紙機、円網抄紙機、ツインフォーマー機、ツインワイヤー機等の一般の多層抄き抄紙機を用い、複数の紙層の間にICタグを挿入して抄き込むことができる。
特に、2つの抄紙機を用いてそれぞれ抄き取った湿紙の表面同士を対向させ、この状態で一方の湿紙の上にICタグを載置した後、各湿紙を抄き合わせて乾燥する方法が好ましい。
例えば、図2に示すように円網30と長網50を組合せ、長網50の上面に抄き取られた第1の湿紙10aの上にICタグ2を載置した後、槽40を有する円網30で抄き取った第2の湿紙10bの下面を第1の湿紙10aの上面に抄き合わせるよう設計された多層抄き抄紙機を用いることもできる。
各湿紙に同じ紙料を用いる場合、各湿紙を抄き合わせると一体化して1つの紙層になる。又、各湿紙に異なる紙料を用いる場合、各湿紙を抄き合わせると2層の紙層となり、ICタグは各紙層の間に抄き込まれるが、この場合も「ICタグを紙層内に抄き込む」ことに含むものとする。
なお、3層以上の湿紙を抄き合わせることにより、3層以上の紙層を形成させてもよいが、この場合、いずれかの紙層内か、又は隣接する2つの紙層の間にICタグが抄き込まれる点は上記と同様である。
又、紙層を形成するために積層される2つ(以上)の湿紙に用いるパルプは同じ材質、濾水度であっても良いし、異なっていても良い。3層以上の湿紙の抄き合わせ紙の場合も同様である。
【0029】
図1は、ICタグ抄き込み紙の平面に垂直な方向の断面を示す。平板状のICタグ2が紙層1内に抄き込まれている。紙層1は、パルプの繊維間結合を阻害する化合物を含むパルプスラリーから抄造された嵩高紙である。紙層1は、それぞれ同一の紙料からなる湿紙10a、10b(乾燥後は1a、1b)を抄き合わせているため、乾燥後は全体として単一の紙層からなるように見える。
【0030】
ICタグ2は、所定の挿入機を用いて1個ずつ湿紙上に載置することができる。湿紙の表面にICタグを載置しその上に別の湿紙を重ね合わせた後、これらをニップロールで脱水したのち、シリンダードライヤーやヤンキードライヤーなど通常の乾燥方法により70〜150℃の熱をかけることで乾燥し、紙層を形成することができる。
また、得られた紙層に対し、通常のサイズプレスを行うこともできる。サイズプレスに使われる薬品の種類は特に限定されるものではないが、一例として澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、燐酸エステル化澱粉、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどをあげることができる。
【0031】
上記のようにして作成したICタグ抄き込み紙の表面に粘着層を塗設することで、ラベルとして使用することができる。また、表面に塗工層を設けることで、オフセット印刷適性、熱転写記録適性、インクジェット記録適性、感熱記録適性等の各種記録適性を付与することができる。
【0032】
なお、図1に示す紙層1のうち、ICタグ2の直上部分(ICタグ2を挟む2つの紙層部分1a、1bのそれぞれ)の坪量が75g/m以上であることが好ましい。ここで、ICタグの直上部分とは、ICタグの表面及び裏面に対向する紙層部分であり、ICタグが無く湿紙同士が抄き合わさった部分を除く。
上記紙層部分の機能の一つに、ICタグの表面及び裏面を覆い、外部からの衝撃に対してICタグのクッションとして機能するという特徴がある。このため、ICタグの直上部分の坪量をそれぞれ75g/m以上に規定する。ICタグの直上部分のうち、いずれかの坪量が75g/m未満であると、外部からの衝撃に対してICタグを保護することができない場合がある。
なお、3層以上の湿紙を抄き合わせる態様として、例えばICタグの表面側に1つの湿紙Aを配置し、ICタグの裏面側に2つの湿紙B、Cを配置する場合、ICタグの裏面側におけるICタグの直上部分の坪量は湿紙B、Cの合計坪量となる。
【0033】
<実施例>
以下、実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り質量部及び質量%を示す。
【実施例1】
【0034】
(ICタグの作製)
図3に示すICタグ(この実施例ではインレット)2として、ロール状で厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム2a上にアルミを蒸着し、エッチング処理することによりアンテナ2bを形成させた。フィルム上にICチップ2cを設置してアンテナと接続した後、個々のICタグのサイズが55×96mmになるようにロール状フィルムを断裁した。
【0035】
(ICタグ抄き込み紙の製造)
抄紙用の紙料は、濾水度400mlのLBKP100部に対し、結合阻害剤として飽和脂肪酸の多価アルコールエステル(KB115、花王株式会社製の商品名)0.5部、カチオン化澱粉0.8部、硫酸バンド0.5部、AKDサイズ剤0.2部、軽質炭酸カルシウム20部、および歩留向上剤として高分子カチオンPAMを順次添加し、さらにパルプ濃度が1%となるように水を添加して調製した。
図2に示した抄紙機を使用し、抄紙速度を50m/minとし、坪量が100g/mになるように上記紙料を長網上に抄き取って第1の湿紙を形成した後、所定のICタグインレット挿入装置を用いて第1の湿紙の上に1個のICタグを載せ、円網で抄き取った100g/mの第2の湿紙をICタグの上へ重ね合わせた。重ね合わせた湿紙を線圧2.5MPa・cm(25kg/cm)でウエットプレスを通して脱水したのち、ドライヤーで乾燥を行って紙層を形成し、ICタグを内包した抄き込み紙を得た。
【実施例2】
【0036】
結合阻害剤の添加量を2.0部に変更したこと以外は実施例1と同様にしてICタグ抄き込み紙を得た。
【実施例3】
【0037】
結合阻害剤として、上記したKB115の代わりに、飽和脂肪酸ポリアミドアミン(K300、日華化学株式会社製の商品名)を1.6部添加したこと以外は実施例1と同様にしてICタグ抄き込み紙を得た。
【実施例4】
【0038】
第1の湿紙、第2の湿紙の坪量をともに75g/mとしたこと以外は実施例2と同様にしてICタグ抄き込み紙を得た。
【0039】
<比較例1>
結合阻害剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてICタグ抄き込み紙を得た。
【0040】
<比較例2>
結合阻害剤の添加量を25部に変更したこと以外は実施例1と同様にしてICタグ抄き込み紙を得た。
【0041】
<比較例3>
第1の湿紙、第2の湿紙の坪量をともに50g/mとしたこと以外は実施例2と同様にしてICタグ抄き込み紙を得た。
【0042】
<評価>
(湿紙の坪量)
JIS P 8124に従い測定した。
(ICタグ抄き込み紙の外観)
ICタグ(インレット)抄き込み部分の紙層の凹凸状態(抄き込んだICタグ(インレット)の輪郭が判別できるほど目立つか否か)を目視評価した。
○:凹凸が全く見られず、ICタグ(インレット)の輪郭が判別できなかった。
△:若干凹凸が見られるが、実用上問題ないレベルであった。
×:大きな凹凸がありICタグ(インレット)の輪郭が判別できるほど目立った。
【0043】
(衝突試験)
ICタグ抄き込み紙の表面に、重さ500gの鉄球を高さ10cmから自由落下させた後、ICタグの動作確認を行い、ICタグの破損状態を評価した。
○:ICタグに破損は生じず不具合なく全量使用可能(使用可能なICタグの割合が100%)
△:一部ICタグに破損は生じたものの概ね不具合なく使用可能(使用可能なICタグの割合が80%以上100%未満)
×:ICタグの破損が生じ使用不可能(使用可能なICタグの割合が0%以上80%未満)
(紙層強度)
ICタグ抄き込み紙表面にセロテープ(登録商標)を貼り付け、これを引き剥がしたときの紙層の剥がれ具合(テープへの紙層の付着)を目視評価した。
○:紙層の剥がれは全く見られなかった。
△:紙層の剥がれは若干見られるが、実用上問題ないレベルであった。
×:紙層が大きく剥がれた。
【0044】
得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、各実施例の場合、紙層表面にICタグ(インレット)の輪郭の凹凸が現れず外観に優れ、ICチップへの衝撃を緩和して保護することができ、紙層強度も実用上充分であった。
【0046】
一方、結合阻害剤を用いなかった比較例1の場合、紙層表面にICタグ(インレット)の輪郭の凹凸が目立って外観に劣り、又、ICチップへの衝撃を緩和できず保護効果に劣った。又、結合阻害剤の添加量が25部を超えた比較例2の場合、紙層強度が低下した。
ICタグ2の直上部分の坪量が75g/m未満である比較例3の場合、ICチップへの衝撃を緩和できずに保護効果に劣った。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ICタグ抄き込み紙の平面に垂直な方向の断面を示す図である。
【図2】各湿紙の表面を対向させた抄紙機を用いた抄き合わせを示す図である。
【図3】ICタグの平面構成を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 紙層
1a、1b ICタグ2の直上部分
2a フィルム基材
2b アンテナ
2c ICチップ
2 ICタグ(インレット)
10a、10b 湿紙
30 円網(円網抄紙機)
40 槽(円網抄紙機)
50 長網(長網抄紙機)
60 サクションボックス
70 フェルト(円網抄紙機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップとアンテナとを有するICタグを紙層内に抄き込んでなるICタグ抄き込み紙であって、前記紙層は、パルプの繊維間結合を阻害する化合物を含むパルプスラリーから抄造された嵩高紙であるICタグ抄き込み紙。
【請求項2】
前記化合物の含有量が絶乾パルプ100質量部当たり固形分換算で0.1〜5.0質量部である請求項1記載のICタグ抄き込み紙。
【請求項3】
前記紙層のうち、前記ICタグの直上部分の坪量が75g/m以上である請求項1又は2記載のICタグ抄き込み紙。
【請求項4】
前記化合物は、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、脂肪酸アミド化合物、又はポリアルキレンポリアミン・脂肪酸・エピクロロヒドリン縮合物である請求項1ないし3のいずれかに記載のICタグ抄き込み紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−248448(P2008−248448A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93451(P2007−93451)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】