説明

ITOタブレットの製造方法

【課題】設備が大型化することなく、生産効率が高いITOタブレットの製造方法を提供する。
【解決手段】酸化インジウムを主成分とする粉末mを、中空な焼結室Aを有する成形型80内に収容した状態で焼結する方法であって、粉末mを、成形型80の焼結室A内に収容した状態で、成形型80の焼結室A内における粉末mを加圧しながら、成形型80および粉末mに通電する。成形型80および粉末mが自己発熱し、その熱によって粉末mが加熱されるから、粉末mを焼結することができ、加熱されている状態で粉末mは加圧されるから、焼結されたITO焼結体の密度を高くすることができる。粉末mや成形型80の自己発熱によって粉末mを加熱するから、設備を簡単にでき小型化することもできる。粉末mが自己発熱するから、粉末m自体が焼結に適した温度となるまでの時間を短くすることができ、一回の焼結に要する時間が短くなり、生産効率を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITOタブレットの製造方法に関する。酸化インジウムを主成分とするITO(Indium Tin Oxide)膜は、高い導電性に加えて可視光透過性も有しているため、液晶表示装置の透明電極や太陽電池用導電膜等に使用される。このITO膜の形成には、通常、CVD法や真空蒸着法、スッパタリング法等が採用されるが、ITO膜の品質を向上させるためには、その膜厚を均一かつ薄く形成する必要があるため、膜厚の調整が容易であり、しかも、大面積の均一な膜を形成することができるスパッタリング法が適している。
本発明は、かかるITO膜をスパッタリング法によって形成するときに、スパッタリングターゲットとして使用されるITOタブレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ITOタブレットを製造する方法として、ホットプレス法(例えば、非特許文献1)を採用した技術がある(例えば、特許文献1)。図2に示すように、ホットプレス法に使用されるホットプレス装置は、成形型180を加熱する加熱手段200を備えている。このため、酸化インジウムを主成分とし、酸化スズが数%添加された粉末を成形型180の焼結室A内に粉末mのまま収容し、加熱手段200によって成形型180を加熱しながら加圧すれば、成形型180からの伝熱による加熱によって粉末mを焼結することができるから、ITOタブレットを製造することができる。
【0003】
しかるに、ホットプレス法では、成形型180を周囲から加熱して、その成形型180の熱によって粉末mを間接加熱するものであるから、成形型180を加熱するための加熱手段200が必要であり、焼結を行う設備が大型化してしまう。
また、成形型180からの熱伝導によって、粉末mをその外周部分から徐々に加熱するものであるから、成形型180が所定の温度になるまでの時間がかかるし、また、粉末m自体が焼結に適した温度となるまでに時間がかかる。よって、一回の焼結に要する時間が長くなるから、連続してITOタブレットを製造することができず、1台のホットプレス装置では、せいぜい1日数回程度しか焼結作業を行うことができず、非常に生産性が低い。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−136480号
【非特許文献1】「塑性加工技術シリーズ18 粉末の成形と加工―粉からニアネットシェイプへ―」、日本塑性加工学会編、コロナ社、1994年7月、135頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、設備が大型化することなく、生産効率が高いITOタブレットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明のITOタブレットの製造方法は、酸化インジウムを主成分とする粉末を、中空な焼結室を有する成形型内に収容した状態で焼結する方法であって、前記粉末を、前記成形型の焼結室内に収容した状態で、前記成形型の焼結室内における前記粉末を加圧しながら、前記成形型および前記粉末に通電することを特徴とする。
第2発明のITOタブレットの製造方法は、第1発明において、前記成形型が、中空部分を備えたモールドと、該モールドの中空部分に、互いに対向する方向から挿入される一対のダイスとから構成されており、前記モールドの中空部分において、前記一対のダイスの間に形成される前記焼結室内に前記粉末を配置し、前記一対のダイスを互いに接近するように移動させながら、前記一対のダイス間に直流電流を通電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、成形型および粉末に通電すれば、成形型および粉末が自己発熱し、その熱によって粉末が加熱されるから、粉末を焼結することができる。しかも、加熱されている状態で粉末は加圧されるから、焼結されたITO焼結体の密度を高くすることができる。そして、粉末や成形型の自己発熱によって粉末を加熱するから、ホットプレス法のように成形型を加熱するための装置が不要であり、設備を簡単にでき小型化することもできる。また、粉末が自己発熱するから、粉末自体が焼結に適した温度となるまでの時間を短くすることができ、一回の焼結に要する時間が短くなり、生産効率を高くすることができる。
第2発明によれば、焼結室に配置された粉末を一対のダイスによって加圧しながら通電すれば、焼結室内の粉末に確実に通電することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のITOタブレットの製造方法は、酸化インジウムを含む粉末を焼結してITOタブレットを製造する方法であり、粉末に通電して自己発熱させながら加圧することに特徴を有している。
なお、ITOタブレットの製造に使用される粉末(以下では、単に粉末mという)は、酸化インジウムを主成分とし、微量の酸化スズが添加されたものであるが、粉末に含まれる素材は、粉末全体の少なくとも95%が酸化インジウムであって、酸化スズが、粉末全体の3〜5%程度含まれていればよく、その他の素材は特に限定されない。
【0009】
まず、本発明のITOタブレットの製造方法に使用される装置を説明する。
図1は本発明のITOタブレットの製造方法に使用される焼結型80の縦断面図である。同図に示すように、焼結型80は、モールド81および一対のダイス82,83から構成されている。
図1に示すように、モールド81は、中空部分を備えた部材であり、通常カーボングラファイトを素材とするものが使用される。各ダイス82,83は、モールド81の中空部分と同一径の円柱状に形成されたものであり、通常カーボングラファイトを素材とするものが使用される。
【0010】
なお、モールドおよびダイスの素材はカーボングラファイトに限られず、導電性を備えている素材であればよい。とくに、酸化雰囲気で焼結する場合、つまり、大気中等のように酸素が存在する条件で焼結するには、大気中で500℃以上の耐熱性を有する素材が必要であるが、かかる素材として、ボロンナイトライド(BN)やホウ化ジルコニウム(ZrB)等の導電性セラミックスが考えられる
【0011】
前記モールド81の中空部分には、上方のダイス82の下端部、および下方のダイス83の上端部が、それぞれ挿入離脱自在に取り付けられている。そして、モールド81の中空部分において、モールド81、ダイス82の下端およびダイス83の上端で囲まれた部分が焼結室Aとなっている。
【0012】
つぎに、本発明のITOタブレットの製造方法を説明する。
まず、焼結型80の焼結室Aにおいて、上下一対のダイス82,83間に粉末mを収容する。そして、上下一対のダイス82,83によって粉末mを上下から加圧しながら直流電源によってダイス82, 83に通電すると、ダイス82から、モールド81および粉末mを通ってダイス83に向って直流電流が流れる。
すると、モールド81、ダイス82, 83および粉末mは、自己の抵抗値と流れる電流量に応じて発熱し、粉末mは、自己発熱とモールド81およびダイス82, 83からの伝熱によって加熱されるから、その熱によって粉末mが焼結し、ITO焼結体(ITOターゲット)が製造される。
なお、焼結室Aに配置された粉末mを挟んでいる一対のダイス82, 83を通して粉末m等に通電するから、焼結室A内の粉末m等に確実に通電することができ、粉末mを確実に焼結させることができる。
【0013】
また、粉末mは加熱されている状態において、一対のダイス82, 83によって加圧されるから、粉末mの塑性変形を促進させ、ち密化を促すことができる。よって、焼結されたITOターゲットの密度を高くすることができる。
【0014】
また、粉末mや成形型80に通電することによって粉末mや成形型80を自己発熱させて、その熱によって粉末mを加熱するから、ホットプレス法のように成形型80を加熱するための装置が不要であり、設備を簡単にでき小型化することもできる。
【0015】
さらに、粉末mが自己発熱するから、成形型80からの伝熱だけで粉末m温度を上昇させる場合に比べて、粉末mが焼結に適した温度となるまでの時間を短くすることができる。すると、一回の焼結に要する時間を短くすることができるから、生産効率を高くすることができる。
【0016】
さらに、粉末m同士の間には空隙が存在しているため、粉末mに通電すると、空隙を挟んで隣接する粉末m同士の間では放電が生じる可能性がある。すると、この放電によって粉体に吸着されているガスなどを吹きとばす表面浄化作用や絶縁酸化皮膜の破壊作用が生じるから、高速焼結および高密度化を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のITOタブレットの製造方法に使用される焼結型80の縦断面図である。
【図2】ホットプレス装置の概略説明図である。
【符号の説明】
【0018】
80 焼結型
81 モールド
82 ダイス
83 ダイス
A 焼結室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウムを主成分とする粉末を、中空な焼結室を有する成形型内に収容した状態で焼結する方法であって、
前記粉末を、前記成形型の焼結室内に収容した状態で、前記成形型の焼結室内における前記粉末を加圧しながら、前記成形型および前記粉末に通電する
ことを特徴とするITOタブレットの製造方法。
【請求項2】
前記成形型が、
中空部分を備えたモールドと、
該モールドの中空部分に、互いに対向する方向から挿入される一対のダイスとから構成されており、
前記モールドの中空部分において、前記一対のダイスの間に形成される前記焼結室内に前記粉末を配置し、
前記一対のダイスを互いに接近するように移動させながら、前記一対のダイス間に直流電流を通電する
ことを特徴とする請求項1記載のITOタブレットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−96607(P2006−96607A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284229(P2004−284229)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】