JNKシグナル導入経路の細胞透過性ペプチドインヒビター
【課題】c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)タンパク質の有効なインヒビターである、JNKタンパク質に結合し、JNK発現細胞においてJNK媒介効果を阻害する細胞透過性ペプチドを提供すること。
【解決手段】本発明は、細胞におけるJNKの活性化と関連する病態生理学を処置する方法を含む。例えば、標的細胞は、例えば、培養動物細胞、ヒト細胞または微生物であり得る。送達は、キメラペプチドが、診断目的、予防目的または治療目的に使用され個体にキメラペプチドを投与することによりインビボで行われ得る。
【解決手段】本発明は、細胞におけるJNKの活性化と関連する病態生理学を処置する方法を含む。例えば、標的細胞は、例えば、培養動物細胞、ヒト細胞または微生物であり得る。送達は、キメラペプチドが、診断目的、予防目的または治療目的に使用され個体にキメラペプチドを投与することによりインビボで行われ得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して、プロテインキナーゼインヒビター、そしてより詳細には、プロテインキナーゼc−Junアミノ末端キナーゼのインヒビターに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)は、マイトゲン活性化タンパク質(MAP)キナーゼのストレス活性化グループのメンバーである。これらのキナーゼは細胞の増殖および細胞の分化の制御、そしてより一般的には、環境刺激への細胞の応答に関連している。JNKシグナルの伝達経路は、細胞表面のレセプターのいくつかの分類における約束により、環境ストレスに応答して活性化される。これらのレセプターとして、サイトカインレセプター、セルペンチンレセプター、およびレセプターチロシンキナーゼが挙げられ得る。哺乳動物細胞において、JNKは、オンコジーンの形質転換として、このような生物学的プロセスおよび環境ストレスに対する適応応答を媒介することに関係している。JNKはまた、免疫細胞の成熟および分化を含む免疫反応を調節すること、同様に免疫系による破壊として同定される細胞におけるプログラムされた細胞死をもたらすことに関連している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明は、JNKタンパク質の有効なインヒビターであるペプチドの発見に部分的に基いている。JNKペプチドインヒビターとして本明細書中で言及されるこのペプチドは、c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)の下流の細胞増殖の効果を減少する。
【0004】
従って、本発明は新規のJNKインヒビターペプチド、および所望の細胞位置に存在するペプチドを方向付けるために使用し得る輸送ペプチドと結合したJNKペプチドインヒビターを含むキメラペプチドを含む。輸送配列は、原形質膜を横切るペプチドの輸送の方向付けに使用され得る。あるいは、またはさらに、輸送ペプチドは、核のような所望の細胞内位置へのペプチドの方向付けに使用され得る。
【0005】
JNKインヒビターペプチドはL−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。あるいは、そのペプチドは、D−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。
【0006】
また、本発明は、JNK結合ペプチド、ならびにJNK結合ペプチドを特異的に認識する抗体を含む薬学的組成物を含む。
【0007】
本発明はまた、細胞中のJNKキナーゼの発現を阻害する方法を含む。
【0008】
別の局面において、本発明は、細胞におけるJNKの活性化と関連する病態生理学を処置する方法を含む。例えば、標的細胞は、例えば、培養動物細胞、ヒト細胞または微生物であり得る。送達は、キメラペプチドが、診断目的、予防目的または治療目的に使用され個体にキメラペプチドを投与することによりインビボで行われ得る。標的化細胞は、インビボの細胞、すなわち生きている動物もしくはヒトの器官もしくは組織を含む細胞、または生きている動物もしくはヒト中に見出される微生物、であり得る。
【0009】
本発明により提供される利点としては、JNKインヒビターペプチドは小さく、そして大量かつ高純度で容易に産生され得ることが挙げられる。インヒビターペプチドはまた、細胞内消化、および弱い免疫原に対して耐性である。従って、ペプチドはJNKの発現の阻害が所望されるインビトロおよびインビボでの適用に良好に適する。
【0010】
他に定義しない限り、本明細書中で使用される全ての用語および化学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または等価な方法および材料は、本発明の実行または試験に利用され得るが、適切な方法および材料は以下に記載される。全ての刊行物、特許出願、特許および本明細書中で言及される他の参考文献は、その全体が本明細書中で参考として援用される。コンフリクトの場合には、定義を含む本明細書を調節する。さらに、材料、方法、および実施例は説明のみであり、限定されることは意図されない。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかである。
本発明により、例えば、以下が提供される。
(項目1) 280アミノ酸長未満のペプチドであって、ここで該ペプチドが配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目2) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目3) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目4) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目5) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号4のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目6) 上記ペプチドが50アミノ酸長未満である、項目1に記載のペプチド。
(項目7) 上記ペプチドがc−junアミノ末端キナーゼ(JNK)に結合する、項目1のペプチド。
(項目8) 上記ペプチドが、JNK発現細胞に存在する場合、該ペプチドが、少なくとも1つのJNK標的化転写因子の活性化を阻害する、項目1に記載のペプチド。
(項目9) 上記JNK標的化転写因子が、c−Jun、ATF2、およびElk1からなる群より選択される、項目8に記載のペプチド。
(項目10) 上記ペプチドが、JNK発現細胞中に存在する場合、該ペプチドが、JNK効果を変える、項目1に記載のペプチド。
(項目11) 項目10に記載のペプチドであって、ここで、上記JNK誘導効果が、再狭窄、腫瘍形成形質転換、免疫細胞の成熟および分化、炎症誘発性サイトカイン、放射線治療において使用されるイオン化放射、紫外線光、フリーラジカル、DNA損傷因子、化学療法薬剤、虚血、再灌流、低酸素症、低体温症、過温症、アポトーシスおよびストレス性刺激に対する応答からなる群より選択される、ペプチド。
(項目12) 共有結合によって連結された第1のドメインおよび第2のドメインを含むキメラペプチドであって、該第1のドメインが輸送配列を含み、そして該第2のドメインがJNKインヒビター配列を含む、キメラペプチド。
(項目13) 上記輸送配列が、配列番号9または10のアミノ酸配列を含む、項目12に記載のペプチド。
(項目14) 上記輸送配列が、上記ペプチドの細胞性取り込みを増大させる、項目12に記載のペプチド。
(項目15) 上記輸送配列が、上記ペプチドの核局在化を指向する、項目12に記載のペプチド。
(項目16) 上記輸送配列が、ヒト免疫不全ウイルスTATポリペプチドのアミノ酸配列を含む、項目12に記載のペプチド。
(項目17) 上記JNKインヒビター配列が:
(a)280アミノ酸長未満であり;そして
(b)配列番号1のアミノ酸配列を含む、
項目12に記載のペプチド。
(項目18) 上記JNKインヒビター配列が、JNKに結合する、項目12に記載のペプチド。
(項目19) 上記JNKインヒビター配列が、少なくとも1つのJNK標的化転写因子の活性化を阻害する、項目12に記載のペプチド。
(項目20) JNK標的化転写因子が、c−Jun、ATF2、およびElk1からなる群より選択される、項目19に記載のペプチド。
(項目21) 上記JNKインヒビター配列が、JNK発現細胞中に導入される場合、JNK誘導効果を変える、項目12に記載のペプチド。
(項目22) 項目21に記載のペプチドであって、ここで、上記JNK誘導効果が、再狭窄、腫瘍形成形質転換、免疫細胞の成熟および分化、炎症誘発性サイトカイン、放射線治療において使用されるイオン化放射、紫外線光、フリーラジカル、DNA損傷因子、化学療法薬剤、虚血、再灌流、低酸素症、低体温症、過温症、アポトーシスならびにストレス性刺激に対する応答からなる群より選択される、ペプチド。
(項目23) 項目1に記載のペプチドをコードする単離された核酸。
(項目24) 項目23に記載の核酸を含むベクター。
(項目25) 項目24に記載のベクターを含む細胞。
(項目26) 項目1に記載のペプチドおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目27) 項目23に記載の核酸および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目28) 項目1に記載のペプチドに免疫特異的に結合する抗体。
(項目29) 項目28に記載の抗体および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目30) 被験体においてJNKの活性化に関連する病態生理学を処置する方法であって、該方法が、該被験体に細胞透過性生物活性ペプチドを投与する工程を包含し、ここで該ペプチドが細胞内JNKシグナル伝達を妨げる、方法。
(項目31) 上記ペプチドが、配列番号1〜18からなる群より選択される任意の1つのアミノ酸配列を含む、項目30に記載の方法。
(項目32) 上記ペプチドが、少なくとも1つのJNK標的化転写因子の活性化をブロックする、項目30に記載の方法。
(項目33) 上記JNK標的化転写因子が、c−Jun、ATF2、およびElk1からなる群より選択される、項目32に記載の方法。
(項目34) 上記JNK標的化転写因子が、c−Junである、項目32に記載の方法。
(項目35) 項目30に記載の方法であって、ここで上記病態生理学が、再狭窄、腫瘍形成形質転換、免疫細胞の成熟および分化、炎症誘発性サイトカイン、放射線治療において使用されるイオン化放射、紫外線光、フリーラジカル、DNA損傷因子、化学療法薬剤、虚血、再灌流、低酸素症、低体温症、過温症、アポトーシスおよびストレス性刺激に対する応答からなる群より選択される、方法。
(項目36) 上記投与が、腹腔内、鼻内、静脈内、経口およびパッチ送達からなる群より選択される任意の1つの投与経路によって送達される、項目30に記載の方法。
(項目37) ペプチドを調製する方法であって、該方法は、以下:
(a)本発明のペプチドの発現をもたらす条件下で項目25に記載の核酸を含む細胞を培養する工程;および
(b)発現したペプチドを回収する工程、
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1A〜Cは、示された転写因子における保存されたJBDドメイン領域のアラインメントを示す図である。
【図2】図2は、一般的なTAT−IB融合ペプチドのアラインメントを示す図である。
【図3】図3は、280個すべてのアミノ酸のJBDドメインと比較した最小の23個のアミノ酸長さのIB1のJBDドメインによるβ−細胞死の阻害を示すヒストグラムである。
【図4】図4は、組換えJNKのリン酸化に対するTATペプチド、TAT−IB1ペプチドおよびTAT−IB2ペプチドの影響を示す図である。パネルAは、組換えJNKによるc−Jun、ATF2およびElk1のインビトロでのリン酸化の阻害を示す。パネルBは、パネルAに類似の用量応答実験を示す。
【図5】図5は、組換えJNKによるリン酸化のL−TAT−IB阻害を示すヒストグラムである。パネルAは、MKK4存在下での、組換えJNKによるc−Jun、ATF2およびElk1のリン酸化のインビトロにおけるL−TAT−IB阻害を示す。パネルBは、MKK7を用いる類似の用量応答実験を示す。
【図6】図6は、活性化されたJNKによるc−Junリン酸化の阻害を示す図である。
【図7】図7は、L−TAT−IBペプチドによるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期の阻害を示すヒストグラムである。
【図8】図8は、D−TAT−IBペプチドによるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期の阻害を示すヒストグラムである。
【図9】図9は、L−TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドによるIL−Iβ誘導膵臓β細胞死の長期の阻害を示すヒストグラムである。
【図10】図10は、L−TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドによる照射誘導ヒト結腸癌WiDr細胞死の阻害を示すヒストグラムである。
【図11】図11は、L−TATペプチド、TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドによるJNKキナーゼ活性の調節の図である。
【図12】図12は、マウスにおけるTAT−IB1ペプチドの保護効果を示すグラフである。パネルAは、重量に対する照射の効果を示す。パネルBは、脳浮腫(oedemus)および紅斑(erythemus)状態に対する照射の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、細胞透過性のペプチドの発見に一部基き、このペプチドは、c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)の活性化されたシグナル伝達経路を阻害する。これらのペプチドは、JNKインヒビターペプチドとして本明細書中でいわれる。さらに、本発見は、JNKシグナルと関連する病態生理学を処置するための方法および薬学的組成物を提供する。
【0014】
JNKインヒビターペプチドは、種々のインスリン結合(IB)タンパク質におけるkJNK結合ドメイン間の配列アラインメントを調べることにより同定された。このアラインメントの結果は、図1A〜1Cに示される。図1Aは、IB1、IB2、c−JunおよびATF2のJBD間の最も高い相同性の領域を示す。パネルBは、IB1およびIB2のJBDのアミノ酸配列のアラインメントを示す。完全に保存された残基は、アスタリスクで示され、一方GFP−JBD23Mutベクター中でAlaに変更された残基は、白丸で示される。図1Cは、JNKインヒビターペプチドドメインおよび輸送ドメインを含むキメラタンパク質のアミノ酸配列を示す。示される例において、輸送ドメインはヒト免疫不全ウイルス(HIV)TATポリペプチドに由来し、そしてJNKインヒビターペプチドはIB1ポリペプチドに由来する。ヒト、マウス、およびラットの配列はパネルBおよびパネルCにいおいて同一である。
【0015】
IB1(配列番号17)、IB2(配列番号18)、c−Jun(配列番号19)およびATF2(配列番号20)のJNK結合ドメイン間の配列の比較は、部分的に保存された8アミノ酸配列(図1A)を明らかにした。IB1およびIB2のJBDの比較はさらに、2つの配列間で高度に保存された7個のアミノ酸および3個のアミノ酸の2つのブロックを明らかにした。これらの2つのブロックは、IB1(配列番号1)中の23個のアミノ酸のペプチド配列およびIB2(配列番号2)中の21個のアミノ酸のペプチド配列内に含まれる。
【0016】
本発明のJNKインヒビターペプチドは、JNK活性の阻害が所望される任意の状況において使用され得る。これは、インビトロでの適用、エキソビボ、およびインビボでの適用を含み得る。JNKおよびその全てのアイソフォームは、病理学的状態の発達および確立または経路に関与し、またはJNKペプチドは、このような病理学的状態の発生を予防または阻害するために使用され得る。これは疾患の予防および処置ならびに治療的作用に対する二次的な状態の予防および処置を含む。例えば、本発明のペプチドを使用して、例えば、糖尿病、電離放射線、および免疫応答(自己免疫疾患を含む)、虚血/再灌流傷害、心臓および心臓血管肥大、およびいくつかの癌(例えば、Bcr−Abl形質転換)を処置または予防し得る。
【0017】
このペプチドはまた、活性なJNKポリペプチドの存在下で発現が増加する遺伝子の発現を阻害するために使用され得る。これらの遺伝子および遺伝子産物としては、例えば、炎症誘発性のサイトカインが挙げられる。このようなサイトカインは、全ての形態の炎症、自己炎症、免疫および自己免疫疾患、退行性疾患、筋傷害、心筋症、および移植片拒絶において見出される。
【0018】
本明細書中で記載されるJNKインヒビターペプチドはまた、例えば、心筋肥大および動脈硬化損傷を含む低血圧症により誘導される病理学的状態における細胞の剪断応力、ならびに血管の分岐における剪断応力など;放射線治療およびUV照射において使用される場合の電離放射線;フリーラジカル;DNA有害剤(化学療法薬を含む);オンコジーン形質転換;虚血および再灌流障害;低酸素症;ならびに低体温症および過温症に関与する効果を処置または予防するために使用され得る。
【0019】
本発明により提供されるポリヌクレオチドは、分析、特徴付け、または治療的使用のための組換えペプチドを発現するため;組織(ここでは、対応するペプチドが優先的に発現される(構成的であるか、または組織の分化もしくは発生の特定の段階であるかのいずれか、または疾患状態における))のマーカーとして使用され得る。核酸の他の使用として、例えば、ゲル電気泳動ベースの核酸分析における分子量マーカーが挙げられる。
【0020】
本明細書中で開示されるJNKインヒビターペプチドは、表1に提示される。この表は、JNKインヒビターペプチドの名前ならびにその配列の識別番号、長さ、およびアミノ酸配列を表す。
【0021】
【表1】
(JNKインヒビターペプチド)
ひとつの局面において、本発明は、JNKインヒビターペプチドを提供する。用語「ペプチド」は、特定の長さを意味しない。いくつかの実施形態において、JNKインヒビターペプチドは、280個アミノ酸未満であり、例えば、150、100、75、50、35または25個アミノ酸長以下である。種々の実施形態において、JNK結合インヒビターペプチドは配列番号1〜6の1以上のアミノ酸配列を含む。ひとつの実施形態において、JNKインヒビターペプチドは、JNKに結合する。別の実施形態において、このペプチドは、少なくとも1つのJNK活性化転写因子(例えば、c−Jun、ATF2またはElk1)の活性化を阻害する。
【0022】
JNKインヒビターペプチドの例としては、配列NH2−DTYRPKRPTTLNLFPQVPRSQDT−COOH(配列番号1)を(全てまたは部分的に)含む。別の実施形態において、このペプチドは、配列NH2−EEPHKHRPTTLRLTTLGAQDS−COOH(配列番号2)を含む。
【0023】
JNKインヒビターペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、または両方の組み合わせのポリマー重合体であり得る。例えば、種々の実施形態において、このペプチドは、Dレトロインベルソペプチド(Dretro−inverso peptide)である。用語「レトロインベルソ異性体」とは、配列の方向が逆であり、そして各アミノ酸残基のキラリティーが逆である直線状のペプチド異性体を言う。例えば、Jamesonら、Nature、368、744〜746(1994);Bradyら、Nature、368、692〜693(1994)を参照のこと。D−エナンチオマーおよび逆の合成を組み合わせの最終結果は、各アミド結合においてカルボニル基およびアミノ基の位置が置換され、一方、各α炭素で側鎖基の位置が保存される。他に特に示さない限り、本発明の所定の任意のL−アミノ酸配列は、対応するネイティブのL−アミノ酸配列に対して逆の配列を合成することによりDレトロインベルソペプチドに作製され得ることが予想される。
【0024】
1つの実施形態において、Dレトロインベルソペプチドは、配列NH2−TDQSRPVQPFLNLTTPRKPRYTD−COOH(配列番号3)を有する。別の実施形態において、Dレトロインベルソペプチドは、配列NH2−SDQAGLTTLRLTTPRHKHPEE−COOH(配列番号4)を有する。DレトロインベルソTAT−IBペプチドが種々の有用な性質を有することが予想外にも見出された。例えば、D−TATペプチドおよびD−TAT−IBペプチドは、L−TATペプチドおよびL−TAT−IBペプチドと同じくらい効率的に細胞に入り、そしてD−TATペプチドおよびDTAT−IBペプチドは、対応するL−ペプチドよりもより安定である。さらに、D−TAT−IB1は、JNKを阻害する効率においてL−TAT−IBよりも約10から20倍低いが、インビボでこれらは約50倍以上安定である。最後に、以下にさらに考察されるように、D−TAT−IBペプチドは、インターロイキン−1で処理され、そして電離放射された細胞をアポトーシスから保護する。
【0025】
別の実施形態において、本発明によるJNKインヒビターペプチドは、アミノ酸配列NH2−Xn−RPTTLXLXXXXXXXQDS/T−Xn−COOH(配列番号5、およびL−TAT−IBの17〜42残基、配列番号13、図2に示される)を含む。本明細書中で使用される場合、Xnは残基の長さが0であるか、もしくは配列番号1〜2(好ましくは、1と7の間のアミノ酸長のストレッチ)由来のペプチド残基の隣接するストレッチであるか、または10、20、30、もしくはそれ以上のアミノ酸長であり得る。単一残基は、一般的な配列においてSerまたはThrのいずれかであり得るS/Tにより表される。さらなる実施形態において、一般的なIBペプチドは、配列NH2−Xn−S/TDQXXXXXXXLXLTTPR−Xn−COOH(配列番号6、およびL−TAT−IBの17〜42残基、配列番号16、図2に示される)を有するDレトロインベルソペプチドであり得る。
【0026】
JNKインヒビターペプチドは、当該分野で周知の方法(例えば、化学合成、以下に考察される一般的な工学技術)により得られ、または産生され得る。例えば、所望の領域もしくはドメインを含むJNKインヒビターペプチドの一部と一致するペプチドか、またはインビトロで所望の活性を媒介するペプチドは、ペプチドシンセサイザーの使用により合成され得る。
【0027】
候補的なJNKインヒビターペプチドはまた、ペプチドの疎水性領域および親水性領域を同定するために使用され得る親水性分析(例えば、HoppおよびWoods、1981.Proc Natl Acad Sci USA 78:3824〜3828を参照のこと)により分析され得、従って実験操作(例えば、結合実験、抗体合成)のための物質の設計において助けとなる。二次構造分析はまた、特定の構造的モチーフを確立するJNKインヒビターペプチドの領域を同定するために行われ得る(例えば、ChouおよびFasman、1974、Biochem 13:222〜223を参照のこと)。操作、翻訳、二次構造の予想、親水性および疎水性プロファイル、オープンリーディングフレームの予想およびプロッティング、ならびに配列の相同性の決定は、当該分野で利用可能なコンピューターソフトプログラムを使用して達成され得る。構造分析の他の方法として、例えば、X線結晶解析(例えば、Engstrom、1974.Biochem Exp Biol 11:7〜13を参照のこと));質量分析およびガスクロマトグラフィー(例えば、METHODS IN PROTEIN SCIENCE、1997.J.WileyおよびSons、New York、NYを参照のこと)が挙げられ、そしてコンピュータモデリング(例えば、FletterickおよびZoller、編、1986.Computer Graphics and Molecular Modeling:CURRENT COMMUNICATION IN MOLECULAR BIOLOGY、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYを参照のこと)もまた使用され得る。
【0028】
本発明はさらにL型アミノ酸を有するJNK結合ペプチド(例えば、表1に記載されたこれらのL−ペプチド、ならびにこれらの配列の相補体)をコードする核酸に関する。JNKインヒビターペプチドをコードする核酸の適切な供給源はヒトIB1核酸(およびコードされたタンパク質配列)(それぞれ、GenBank 寄託番号AF074091およびAAD20443として利用可能)を含む。他の供給源としては、ラットIB1核酸が挙げられ、そしてタンパク質配列は、それぞれGenBank寄託番号AF108959およびAAD225543に示され、これらはその全体が本明細書中で参考として援用される。ヒトIB2核酸およびタンパク質配列は、GenBank寄託番号AF218778に示され、これもまた、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0029】
JNKインヒビターペプチドをコードする核酸は、当該分野で公知の任意の方法(例えば、配列の3’−および5−末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを使用するPCR増幅により、および/またはcDNAもしくは所定の遺伝子配列に対して特異的なオリゴヌクレオチド配列を使用するゲノムライブラリーからのクローニングにより)により得られ得る。
【0030】
1以上のJNKインヒビターペプチドの組換え体の発現のために、ペプチドをコードする核酸配列の全てまたは一部分を含む核酸が、適切な発現ベクター(すなわち、挿入されたペプチドコード配列の転写および翻訳のために必要なエレメントを含むベクター)に挿入され得る。いくつかの実施形態において、調節エレメントは、異種(すなわち、ネイティブ遺伝子プロモータでない)である。あるいは、必要な転写シグナルおよび翻訳シグナルはまた、遺伝子および/またはそれらの隣接する領域についてネイティブなプロモーターにより供給され得る。
【0031】
種々の宿主ベクター系は、ペプチドをコードする配列を発現するために利用され得る。これらは以下を含むが、限定ではない:(i)ワクシニアウィルス、アデノウイルスなどに感染した哺乳動物細胞系;(ii)バキュロウイルスなどに感染した昆虫細胞系;(iii)酵母ベクターを含む酵母または(iv)バクテリオファージDNA、プラスミドDNA、もしくはコスミドDNAで形質転換された細菌。利用される宿主細胞系により、多数の適する転写エレメントおよび翻訳エレメントの任意の1つが使用され得る。
【0032】
発現ベクター中のプロモーター/エンハンサー配列は、本発明において提供される植物、動物、昆虫、または真菌の調節配列を利用し得る。例えば、プロモーター/エンハンサーエレメントは、酵母および他の真菌(例えば、GAL4プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモータ、ホスホグリセロールキナーゼプロモータ、アルカリホスファターゼプロモータ)から使用され得る。あるいは、またはさらに、これらは動物の転写調節領域、例えば、(i)膵臓のβ細胞中で活性なインスリン遺伝子制御領域(例えば、Hanahanら、1985.Nature 315:115〜122を参照のこと);(ii)リンパの細胞中で活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、Grosschedlら、1984.Cell 38:647〜658を参照のこと);(iii)肝臓中で活性なアルブミン遺伝子制御領域(例えば、Pinckertら、1987.Genes and Dev 1:268〜276を参照のこと);(iv)脳稀突起膠細胞中で活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(例えば、Readheadら、1987.Cell 48:703〜712を参照のこと);および(v)視床下部中で活性なゴナドトロピン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、Masonら、1986.Science 234:1372〜1378)などが挙げられ得る。
【0033】
発現ベクターまたはそれらの誘導体としては、例えば、ヒトまたは動物ウイルス(例えば、ワクシニアウイルスまたはアデノウイルス);昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルス);酵母ベクター;バクテリオファージベクター(例えば、λファージ);プラスミドベクターおよびコスミドベクターが挙げられる。
【0034】
宿主細胞株は、挿入された目的の配列の発現を調節するか、または所望される特定の手段において、この配列によりコードされる発現されたペプチドを改変するか、もしくは処理するか選択され得る。さらに、特定のプロモータ由来の発現は、選択された宿主細胞株における特定のインデューサーの存在下で増強され得る;従って、一般的に設計されたペプチドの発現の制御を容易にする。さらに、異なる宿主細胞は、翻訳プロセスおよび翻訳後のプロセスならびに発現されたペプチドの改変(例えば、グリコシル化、リン酸化など)に対する特定の特徴付けられたメカニズムを有する。従って、適切な細胞株または宿主系は、外来のペプチドの所望される改変およびプロセスが達成されたことを保証するために選択され得る。例えば、細菌系でのペプチド発現は、グリコシル化されていないコアペプチドを産生するために使用され得る;一方、哺乳動物細胞での発現は、異種のペプチドの「ネイディブ」グリコシル化を保証する。
【0035】
本発明はまた、JNKインヒビターペプチドの誘導体、フラグメント、ホモログ、アナログおよび変異体、ならびにこれらのペプチドをコードする核酸を含む。核酸に関しては、本明細書中で提供される誘導体、フラグメントおよびアナログが、少なくとも6個の(隣接する)核酸配列として規定され、そしてこれらは特異的なハイブリダイゼーションをさせるに十分な長さを有する。アミノ酸に関して、本明細書中で提供される誘導体、フラグメントおよびアナログは少なくとも4個の(隣接する)アミノ酸配列として規定され、エピトープに特異的な認識をさせるに十分な長さである。
【0036】
フラグメントの長さは、JNKインヒビターペプチドまたは同じものをコードする核酸が由来する対応する全長の核酸またはポリペプチドの長さ未満である。誘導体およびアナログは、誘導体またはアナログが改変された核酸または改変されたアミノ酸を含む場合、全長でもあり得るし、全長以外であり得る。JNKインヒビターペプチドの誘導体またはアナログとしては、例えば、同一の大きさのアミノ酸配列に対する同一性、または当該分野で公知のコンピュータホモロジープログラムによりなされた配列において整列した配列と比較した場合に、種々の実施形態において、少なくとも約30%、50%、70%、80%、または95%、98%、またはさらに99%まで実質的にこのペプチドと相同である領域を含む分子が挙げられる。例えば、配列の同一性は、デフォルトのパラメーターを有する配列分析ソフトウェア(Sequence Analysis Software Packeage of the Genetics Computer Group,University of Wisconsin Biotechnology Center,1710 University Avenue,Madison,Wis.53705)により測定され得る。
【0037】
参照配列との同一性が100%未満であるポリペプチド配列の場合において、非同一の配置が好まれるが、参照配列に対して保存的置換である必要はない。保存的置換の代表として以下の群での置換が挙げられる:グリシンおよびアラニン;バリン、イソロイシンおよびロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギンおよびグルタミン;セリンおよびスレオニン;リジンおよびアルギニン;そしてフェニルアラニンおよびチロシン。従って、本発明は、ペプチドが対応する親配列を有するタンパク質との相同性(例えば、配列、機能、および免疫原性の性質または他の機能において)を残すような変異がなされた配列を有するペプチドを含む。例えば、このような変異体は、保存的なアミノ酸の変化(例えば、類似の分子の広範な性質のアミノ酸間の変化)を含む変異体であり得る。例えば、脂肪族群であるアラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン中での相互変化は、保存的であると考えられ得る。しばしば、これらの1つに対するグリシンの置換はまた、保存的であると考えられ得る。他の保存的な相互変化としては、以下:脂肪族群中でアスパラギン酸およびグルタミン酸;アミド群中でアスパラギンおよびグルタミン;ヒドロキシル群中でのセリンおよびスレオニン;芳香族群中でフェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;塩基群中でリジン、アルギニンおよびヒスチジン;そして硫黄を含む群中でメチオニンおよびシステインの相互変化が挙げられる。しばしば、メチオニンおよびロイシン群中での置換もまた、保存的であると考えられ得る。好ましい保存的な置換群として、アスパラギン酸−グルタミン酸;アスパラギン−グルタミン;バリン−ロイシン−イソロイシン;アラニン−バリン;フェニルアラニン−チロシン;およびロイシン−アルギニンが挙げられる。
【0038】
特定のポリペプチドが、規定された長さの参照ポリペプチドに対する前記特定の同一性パーセントを有すると言われる、同一性パーセントは参照ペプチドに対するものである。従って、100個のアミノ酸長さである参照ポリペプチドに50%相同であるペプチドは、参照ポリペプチドの50個のアミノ酸長さの部分と完全に同一である50個のアミノ酸のポリペプチドであり得る。それはまた、その全体の長さにわたって参照ポリペプチドと50%相同である100個のアミノ酸長さのポリペプチドであり得た。当然ながら他のポリペプチドは同じ基準を満たす。
【0039】
本発明はまた、開示されたポリヌクレオチドまたはペプチドの対立遺伝子の変異体を含む;これは、天然に存在する別の形態の単離されたポリヌクレオチドであり、これはまたこのポリヌクレオチドによりコードされたペプチドと同一であり、相同的であり、または関連のあるペプチドをコードする。あるいは、天然には存在しない改変体は、変異誘発技術または直接的な合成により産生され得る。
【0040】
開示されたポリヌクレオチドおよびペプチドの種ホモログがまた、本発明により提供される。「改変体」とは、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、これらの必須の性質は残すポリヌクレオチドまたはポリペプチドをいう。一般的に、改変体は、全体的に非常に近似しており、多くの領域において本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと同一である。この改変体は、コード領域、非コード領域、または両者において変化を含み得る。
【0041】
いくつかの実施形態において、タンパク質が輸送の性質を保有したままで、変化した配列は、全体的なアミノ酸配列が伸長されるように挿入を含む。さらに、変化した配列は、タンパク質が輸送の性質を保有しているままで全体的なアミノ酸配列を短くするランダムな内部欠損または設計された内部欠損を含み得る。
【0042】
この変更された配列は、さらにまたあるいは、JNKインヒビターペプチドが誘導されるポリペプチドまたはペプチドをコードする天然に存在するポリヌクレオチドの適切な鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。改変ペプチドは、本明細書中に記載されるアッセイを使用してJNK結合およびJNK媒介活性の調節について試験され得る。「ストリンジェントな条件」は、配列依存であり、そして異なる環境において異なる。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されるイオン強度およびpHで特異的配列に対する熱的融点(TM)よりも約5℃低いくなるように選択され得る。このTMは、標的配列の50%が完全にマッチするプローブにハイブリダイズする温度(規定のイオン強度およびpH下)である。典型的に、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7で少なくとも約0.02モル濃度であり、そして温度が少なくとも約60℃である条件である。他の因子は、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー(中でも、塩基組成および相補鎖のサイズを含む)、有機溶媒の存在および塩基ミスマッチングの程度に影響を及ぼし得るので、パラメーターの組み合わせは、他のどの絶対的な程度より重要である。
【0043】
高いストリンジェンシーとしては、例えば以下が挙げられ得る:工程1:DNAを含むフィルターを、6×SSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.02% PVP、0.02% Ficoll、0.02% BSA、および500μg/ml変性サケ精液DNAから構成される緩衝液中で8時間、一晩、65℃で前処理する。工程2:フィルターを、100mg/ml変性サケ精液DNAおよび5〜20×106cpmの32P標識されたプローブを添加した上の前ハイブリダイゼーション混合物中で48時間、65℃でハイブリダイズする。工程3:フィルターを、2×SSC、0.01% PVP、0.01% Ficoll、および0.01% BSAを含む溶液中で37℃で、1時間洗浄する。これに続いて、50℃にて45分間0.1×SSCで洗浄する。工程4:フィルターを、オートラジオグラフする。使用され得る高いストリンジェンシーの他の条件は、当該分野で周知である。例えば、Ausubelら、(編)、1993、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、NY;およびKriegler、1990、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、NY.を参照のこと。
【0044】
穏やかなストリンジェンシー条件としては、以下が挙げられ得る;工程1:DNAを含むフィルターを、6×SSC、5×Denhardt溶液、0.5%SDS、および100mg/ml変性サケ精液DNAを含む溶液中で6時間、55℃で前処理する。工程2:フィルターを、5〜20×106cpmの32P標識されたプローブを添加した同じ溶液中で18〜20時間、55℃でハイブリダイズする。工程3:フィルターを、2×SSC、0.1% SDSを含む溶液中で37℃で、1時間洗浄し、次いで1×SSCおよび0.1%SDSを含む溶液中で60℃で30分間2回洗浄する。工程4:フィルターを、乾燥ブロットし、そしてオートラジオグラフィーに曝す。使用され得る穏やかなストリンジェンシーの他の条件は、当該分野で周知である。例えば、Ausubelら、(編)、1993、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、NY;およびKriegler、1990、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、NY.を参照のこと。
【0045】
低いストリンジェンシーとしては、以下が挙げられ得る:工程1:DNAを含むフィルターを、35%ホルムアミド、5×SSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.1% PVP、0.1% Ficoll、1% BSA、および500μg/ml変性サケ精液DNAを含む溶液中で6時間、40℃で前処理する。工程2:フィルターを、0.02% PVP、0.02%Ficoll、0.02% BSA、100μg/ml変性サケ精液DNA、10%(重量/容積)硫酸デキストランおよび5〜20×106cpmの32P標識されたプローブを添加した同じ溶液中で18〜20時間、40℃でハイブリダイズする。工程3:フィルターを、2×SSC、25mM Tris−HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1% SDSを含む溶液中で1.5時間、55℃で洗浄する。この洗浄溶液を、新鮮な溶液と取り替え、さらに1.5時間、60℃でインキュベートする。工程4:フィルターを、乾燥ブロットし、そしてオートラジオグラフィーに曝す。必要な場合、フィルターを、65〜68℃で三回洗浄し、そしてフィルムに再度曝す。使用され得る低いストリンジェンシーの他の条件は、当該分野で周知である(例えば、種交差ハイブリダイゼーションために使用されるように)。例えば、Ausubelら、(編)、1993、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、NY;およびKriegler、1990、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、NY.を参照のこと。
【0046】
(JNKインヒビタードメインおよび輸送ドメインを含むキメラペプチド)
別の局面において、本発明は、第1のドメインおよび第2のドメインを含むキメラペプチドを提供する。第1のドメインは、輸送配列を含むが、第2のドメインは、第1のドメインに共有結合(例えば、ペプチド結合)で連結されたJNKインヒビター配列を含む。第1のドメインおよび第2のドメインは、ペプチドにおいて任意の順序で生じ得、そしてこのペプチドは、各ドメインを1つ以上含み得る。
【0047】
輸送配列は、その配列が存在するペプチドを所望の細胞目的地に指向するアミノ酸の任意の配列である。従って、輸送配列は、形質膜を横切って(例えば、細胞外から)、形質膜を介して、そして細胞質内にペプチドを指向し得る。あるいは、またはさらに、輸送配列は、細胞中の所望の場所(例えば、核、リボソーム、ER、リソソーム、もしくはペルオキシソーム)へペプチドを指向し得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、輸送ペプチドは、公知の膜転座配列由来である。例えば、輸送ペプチドは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)1 TATタンパク質の配列を含み得る。このタンパク質は、例えば、米国特許第5,804,604号および同第5,674,980号に記載されており、それぞれ、参考として本明細書に援用される。JNKインヒビターペプチドは、TATタンパク質を構成する完全な86アミノ酸のいくつかまたは全てに連結され得る。例えば、細胞内への取り込みおよび必要に応じて細胞核内へ取り込みを示す、86アミノ酸よりも少ないTATタンパク質の機能的に有効なフラグメントまたは部分は、使用され得る。1つの実施形態において、フラグメントは、TAT残基48〜57を含むペプチド(例えば、NH2−GRKKRRQRRR−COOH(配列番号7)または一般的なTAT配列NH2−Xn−RKKRRQRRR− Xn−COOH(配列番号9))を含む。細胞内への流入および取り込みを媒介する領域を含むTATペプチドは、公知の技術を使用してさらに規定され得る。例えば、Frankedら、Proc.Natl.Acad.Sci、USA 86:7397−7401(1989)を参照のこと。
【0049】
TAT配列は、JNKインヒビター配列のN末端またはC末端のいずれかに連結され得る。2つのプロリン残基のちょうつがいは、TATとJNKインヒビターペプチドとの間に付加されて、完全な融合ペプチドを形成する。例えば、L−アミノ酸融合ペプチドは、L−TAT−IB1ペプチド(配列番号11)、L−TAT−IB2ペプチド(配列番号12)、または一般的なL−TAT−IBペプチド(配列番号13)であり得る。D−レトロ−インベルソ融合ペプチドは、D−TAT−IB1ペプチド(配列番号14)、D−TAT−IB2ペプチド(配列番号15)、または一般的なD−TAT−IBペプチド(配列番号16)であり得る。TATペプチドは、配列NH2−Xn−RRRQRRKKR−Xn−COOH(配列番号10)を有するD−レトロ−インベルソペプチドであり得る。配列番号5〜6、9〜10、13および16において、「X」残基の数は、示された1つに限定されず、上に記載のように変更し得る。
【0050】
輸送配列は、TAT配列に存在する単一(すなわち連続)アミノ酸配列であり得る。あるいは、TATタンパク質に存在する2つ以上のアミノ酸配列であり得るが、天然に存在するタンパク質においては他のアミノ酸配列によって分離される。本明細書中で使用する場合、TATタンパク質は、天然に存在するTATタンパク質、またはその機能的に等価なタンパク質または機能的に等価なそれらのフラグメント(ペプチド)のアミノ酸配列と同じ天然に存在するアミノ酸配列を含む。このような機能的に等価なタンパク質または機能的に等価なフラグメントは、天然に存在するTATタンパク質の細胞内へのおよび細胞核内への取り込み活性と実質的に同様の活性を有する。TATタンパク質は、天然に存在する供給源から得られ得るか、または遺伝子工学技術または化学合成を使用して生成され得る。
【0051】
天然に存在するHIV TATタンパク質のアミノ酸配列は、例えば、天然に存在するTATタンパク質に存在する少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失および/または置換によって改変され、改変TATタンパク質を生成し得る(本明細書中ではTATタンパク質ともいわれる)。増加したまたは減少した安定性を有する改変TATタンパク質またはTATペプチドアナログは、公知の技術を使用して生成され得る。いくつかの実施形態において、TATタンパク質またはペプチドは、天然に存在するTATタンパク質またはそれらの部分のアミノ酸配列と実質的に同様のアミノ酸配列を同一ではないが、含む。さらに、コレステロールまたは他の脂質誘導体が、TATタンパク質に添加され、増加した膜溶解性を有する改変TATを生成し得る。
【0052】
TATタンパク質の改変体は、TAT−JNKインヒビターペプチドの細胞内の局在化を調節するように設計され得る。外因的に添加する場合、このような改変体は、細胞に入るTATの能力が、保持される(すなわち、細胞への改変TATタンパク質またはペプチドの取り込みが、天然に存在するHIV TATの取り込みと実質的に同様である)ように設計される。例えば、核局在化に重要であると考えられた基礎領域の変化(例えば、DangおよびLee、J.Biol.Chem.264:18019−18023(1989);Hauberら、J.Virol.63:1181−1187(1989);Rubenら、J.Viral.63:1−8(1989)を参照のこと)は、TATの(従ってJNKインヒビターペプチドの)細胞質位置選定または部分的細胞質位置選定を生じ得る。あるいは、細胞質または任意の他の成分もしくは画分(例えば、小胞体、ミトコンドリア、グルーム(gloom)体、リソソーム体)を結合する配列は、細胞質または任意の他の画分においてTATおよびJNKインヒビターペプチドを保持し、TATおよびJNKインヒビターペプチドの取り込みに対する調節を与えるために、TATへ導入され得る。
【0053】
輸送ペプチドについての他の供給源として、例えばVP22(例えば、WO97/05265;ElliottおよびO’Hare、Cell 88:223−233(1997)に記載される)または非ウイルス性タンパク質(Jacksonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10691−10695(1992))が挙げられる。
【0054】
JNKインヒビター配列および輸送配列は、当該分野で公知の任意の適切な様式において化学的カップリングによって連結され得る。多くの公知の化学架橋方法は、非特異的である、すなわち、この方法は、輸送ポリペプチドまたは積荷(cargo)高分子上の任意の特定の部位への結合部分を指向しない。結果として、非特異的架橋薬剤の使用は、機能的部位を攻撃するか、または活性部位を立体的にブロックし得、結合体化タンパク質を生物学的に不活性にする。
【0055】
カップリング特異性を増加させる1つの方法は、架橋されるべきポリペプチドの1つあるいは両方において1回のみまたは2、3回見出される官能基への直接的な化学カップリングである。例えば、多くのタンパク質において、チオール基を含む唯一のタンパク質アミノ酸であるシステインは、2、3回だけ現れる。例えばまた、ポリペプチドが、リジン残基を含まない場合、1級アミンに対する特異的な架橋試薬は、このポリペプチドのアミノ末端に対して選択性である。カップリング特異性を増加させるこのアプローチの成功した利用は、ポリペプチドが、分子の生物学的活性の損失無しに変化され得る分子の領域において適切にまれなでかつ反応性の残基を有することを必要とする。
【0056】
システイン残基が、架橋反応におけるポリペプチド配列の関与が別な方法で生物学的活性を妨げそうなポリペプチド配列の部分に存在する場合、システイン残基は、置換され得る。システイン残基が置換される場合、ポリペプチド折り畳みにおいて生じる変化を最小にすることは、典型的に望ましい。置換が、化学的および立体的にシステインと同様の場合、ポリペプチド折り畳みにおける変化は、最小となる。これらの理由から、セリンは、システインの置換として好ましい。以下の実施例に示すように、システイン残基は、架橋の目的でポリペプチドのアミノ酸配列に導入され得る。システイン残基が導入される場合、アミノ末端もしくはカルボキシ末端で、またはアミノ末端の近くもしくはカルボキシ末端の近くでの導入は、好ましい。従来の方法は、目的のポリペプチドが化学合成または組換えDNAの発現のどちらによって生成されようと、このようなアミノ酸配列改変について利用可能である。
【0057】
2つの成分のカップリングは、カップリング剤又は結合体化剤を介して達成され得る。利用され得るいくつかの分子間架橋試薬がある(例えば、MeansおよびFeeney、CHEMICAL MODIFICATION OF PROTEINS、Holden−Day、1974、pp.39−43.を参照のこと)。これらの試薬の中には、例えば、J−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)またはN,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド(共に、スルフヒドリル基に対して高い特異性であり、そして非可逆的結合を形成する。);N,N’−エチレン−ビス−(ヨードアセトアミド)または6〜11個の炭素メチレン架橋を有する他のこのような薬剤(スルフヒドリル基に対して相対的に特異的である);および1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(アミノ基およびチロシン基と不可逆的結合を形成する)がある。この目的に使用する他の架橋試薬としては、p,p’−ジフルオロ−m,m’−ジニトロジフェニルスルホン(アミノ基およびフェノール基と不可逆的架橋を形成する);ジメチルアジピミデート(アミノ基に対して特異的である);フェノールー1,4−ジスルホニルクロライド(アミノ基と主に反応する);ヘキサメチレンジイソシアナートまたはジイソチオシアナート、またはアゾフェニル−p−ジイソシアナート(アミノ基と主に反応する);グルタルアルデヒド(いくつかの異なる側鎖と反応する)およびディスジアゾベンジジン(チロシンおよびヒスチジンと主として反応する)が挙げられる。
【0058】
架橋試薬は、ホモ二官能性(homobifunctional)であり得る、すなわち、同じ反応をうける二つの官能基を有する。好ましいホモ二官能性架橋試薬は、ビスマレイミドヘキサン(「BMH」)である。BMHは、穏やかな条件下(pH6.5〜7.7)でスルフヒドリル含有化合物と特異的に反応する2つのマレイミド官能基を含む。2つのマレイミド基は、炭化水素鎖で連結される。従って、BMHは、システイン残基を含むポリペプチドの不可逆的架橋に有用である。
【0059】
架橋試薬はまた、ヘテロ二官能性(heterobifunctional)であり得る。ヘテロ二官能性架橋試薬は、2つの異なる官能基(例えば、それぞれ遊離アミンおよび遊離チオールを有する2つのタンパク質を架橋するアミン反応性基およびチオール反応性基)を有する。ヘテロ二官能性架橋試薬の例は、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(「SMCC」)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(「MBS」)、およびスクシンイミド4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(「SMPB」)(MBSの伸長鎖アナログ)である、これらの架橋剤のスクシンイミジル基は、一級アミンと反応し、そしてチオール反応性マレイミドは、システイン残基のチオールと共有結合を形成する。
【0060】
架橋試薬はしばしば、水に対して低い溶解性を有する。スルホネート基などの親水性部分は、架橋試薬に付加され、その水溶解性を改善し得る。スルホ−MBSおよびスルホ−SMCCは、水溶性について改変された架橋試薬の例である。
【0061】
多くの架橋試薬は、細胞性条件下で基本的に切断不可能な結合体を生じる。しかし、いくつかの架橋試薬は、細胞性条件下で切断可能な共有結合(ジスルフィドなど)を含む。例えば、Traut試薬、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)(「DSP」)、およびN−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(「SPDP」)は、周知の切断可能架橋剤である。切断可能架橋試薬の使用は、積荷部分を、標的細胞への送達後に輸送ポリペプチドから分離し得る。直接ジスルフィド結合もまた、有用であり得る。
【0062】
多くの架橋試薬(上記のものを含む)は、市販されている。それらの使用についての詳細な指示は、市販の供給源から容易に入手可能である。タンパク質架橋および結合体化調製物についての概説参考文献は以下である:Wong,CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSS−LINKING,CRC Press(1991)。
【0063】
化学架橋は、スペーサーアームの使用を含み得る。スペーサーアームは、分子間の可撓性を提供するか、または結合体化した部分の間の分子間距離を調整し、そしてそれにより、生物学的活性の保持を補助し得る。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸を含むポリペプチド部分の形態であり得る(例えば、プロリン)。あるいは、スペーサーアームは、架橋剤(例えば、「長鎖SPDP」(Pierce Chem.Co.,Rockford,IL.,cat.No.21651 H)の部分であり得る。
【0064】
あるいは、キメラペプチドは、輸送配列およびJNKインヒビター配列を含む融合ペプチドとして生成され得、これは、公知の適切な宿主細胞において簡便に発現され得る。融合ペプチドは、本明細書において記載されるように、上記のような標準的な組換えDNA技術に類似する方法で、またはそれに容易に適合可能な方法で形成および使用され得る。
【0065】
(JNKインヒビターペプチドに対して特異的な抗体の生成)
JNKインヒビターペプチド(JNKインヒビターペプチド(例えば、表1に示されるアミノ酸配列を含むペプチド)を含むキメラペプチドを含む)は、ペプチドまたはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログと同様に、免疫原として利用されて、これらのペプチド成分を免疫特異的に結合する抗体が生成され得る。そのような抗体としては、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、単鎖、FabフラグメントおよびFab発現ライブラリーが挙げられる。特定の実施形態において、ヒトペプチドに対する抗体が開示される。別の特定の実施形態において、JNKインヒビターペプチドのフラグメントは、抗体産生の免疫原として使用され得る。当該分野において公知の種々の手順は、JNKインヒビターペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対するポリクローナルまたはモノクローナル抗体の生成のために使用され得る。
【0066】
ポリクローナル抗体の生成のために、種々の宿主動物は、ネイティブペプチドまたはその合成改変体、あるいはそれらの誘導体の注射により免疫され得る。種々のアジュバントを使用して、免疫学的応答を増強し得、そしてそれらには以下が挙げられるがそれらに限定されない:フロイント(完全および不完全)、鉱物ゲル(例えば、水酸化アルミニウム)、表面活性化物質(例えば、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、ジニトロフェノールなど)およびヒトアジュバント(例えば、BCGおよびCorynebacterium parvum)。
【0067】
JNKインヒビターペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対して指向されるモノクローナル抗体の調製のために、連続的な細胞株培養により、抗体分子の生成を提供する任意の技術が利用され得る。そのような技術としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:ハイブリドーマ技術(以下を参照のこと:Kohler and Milstein,1975.Nature 256:495−497);トリオーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(以下を参照のこと:Kozbor,et al.,1983.Immunol Today 4:72)およびヒトモノクローナル抗体を生成するためのEBVハイブリドーマ技術 (以下を参照のこと:Cole,et al.,1985.Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp.77−96)。ヒトモノクローナル抗体は、本発明の実施において利用され得、そしてヒトハイブリドーマの使用 (以下を参照のこと:Cote,et al.,1983.Proc Natl Acad Sci USA 80:2026−2030)またはヒトB細胞をエプスタインバーウイルスをインビトロで形質転換すること(以下を参照のこと:Cole,et al.,1985.Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy (Alan R.Liss,Inc.,pp.77−96)により生成され得る。
【0068】
本発明に従って、技術は、JNKインヒビターペプチドに特異的な単鎖抗体の産生のために適合され得る(例えば、以下を参照のこと:米国特許第4,946,778号)。さらに、方法論は、Fab発現ライブラリーの構築のために適合されて(例えば、以下を参照のこと:Huse,et al.,1989.Science 246:1275−1281)、JNKインヒビターペプチドまたはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対する所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ有効な同定を可能にし得る。非ヒト抗体は、当該分野において周知の技術により「ヒト化」され得る。例えば、以下を参照のこと:米国特許第5,225,539号。JNKインヒビターペプチドに対するイディオタイプを含む抗体フラグメントは、以下を含む、当該分野において公知の技術によって生成され得る:例えば、(i)抗体分子のペプシン消化によって生成されるF(ab’)2フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって生成されるFabフラグメント;(iii)パパインおよび還元剤での抗体分子の処理により生成されるFabフラグメント;および(iv)Fvフラグメント。
【0069】
1つの実施形態において、所望の特異性を有する抗体のスクリーニングについての方法論としては以下が挙げられるがそれらに限定されない:酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)および当該分野において公知の他の免疫学的に媒介される技術。特定の実施形態において、JNKインヒビターの特定のドメインに対して特異的である抗体の選択は、そのようなどメインを有するJNKインヒビターペプチドのフラグメントに結合するハイブリドーマの生成によって容易になる。JNKペプチド、または誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログのフラグメント内のドメインに対して特異的である抗体もまた本明細書において提供される。
【0070】
抗JNKインヒビターペプチド抗体は、JNKインヒビターペプチドの局在化および/または定量に関連する分野内で公知の方法において使用され得る(例えば、適切な生理学的サンプル内のペプチドのレベルを測定するにおける使用のため、診断方法における使用のため、ペプチドを画像化するにおける使用のためなど)。所定の実施形態において、抗体由来の結合ドメインを含む、JNKインヒビターペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対する抗体は、薬理学的に活性な化合物(本明細書において「治療剤」(「Therapeutics」)と以下で呼ぶ)として利用される。
【0071】
(所望されないJNK活性を伴う障害を処置または予防する方法)
本発明において含まれるのはまた、被験体に、生物学的に活性な治療化合物(本明細書において「治療剤」(「Therapeutics」)と以下で呼ぶ)を投与することによって、被験体におけるJNK活性に伴う細胞増殖障害を処置する方法である。その被験体は、例えば、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ)であり得る。
【0072】
治療剤としては、以下が挙げられる:例えば、(i)JNKインヒビターペプチドならびにその誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログの任意の1つ以上;(ii)JNKインヒビターペプチドに対して指向される抗体;(iii)JNKインヒビターペプチドならびにその誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログ)をコードする核酸;(iv)JNKインヒビターペプチドをコードする配列に対するアンチセンス核酸、ならびに(v)モジュレーター(すなわち、インヒビター、アゴニストおよびアンタゴニスト)。
【0073】
用語「治療的に有効」とは、例えば、使用されるインヒビターペプチド、の量がJNKに関連する障害を改善するに十分な量であることを意味する。用語「細胞増殖障害」とは、周囲の組織とは、形態学的および機能的に異なるようにしばしばみえる、悪性の細胞集団および非悪性細胞集団をいう。例えば、この方法は、JNKの活性化がしばしば実証された種々の器官系の悪性疾患を処置するにおいて有用であり得る(例えば、肺、乳房(胸部)、リンパ系、胃腸、および生殖尿管ならびに腺癌(以下のような悪性疾患を含む:結腸癌、腎細胞がん、前立腺癌、肺の非小細胞がん、小腸の癌および食道癌)。JNKの活性化を明らかに必要とする、Bcr−Ab1オンコジーン形質転換を伴う癌もまた包含される。
【0074】
この方法はまた、非悪性または免疫学的に関連する細胞増殖疾患(例えば、乾癬、尋常性天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、透析後症候群、白血病、慢性関節リウマチ、後天性免疫不全症候群、敗血性ショックおよび他の型の急性炎症、ならびに脂質組織球増殖症を処置するにおいて有用である。特に好ましくは、免疫病理障害である。本質的には、JNKキナーゼ活性に病因学的に関連する任意の障害が処置を受け入れると考えられる。
【0075】
処置としては、JNKキナーゼ活性を調節する試薬の投与が挙げられる。用語「調節」は、それが過剰発現されるときの、JNKの発現の抑制を含む。それはまた、配列番号1〜6および配列番号11〜16の任意の1つ以上のペプチドを、細胞における天然のc−jun、ATF2およびNFAT4の結合部位の競合インヒビターとして使用することによる、例えば、c−jun、ATF2またはNFAT4のリン酸化の抑制を含む。従って、また、c−jun、ATF2またはNFATから作製される転写因子とその関連するパートナーとの、ヘテロマーまたはホモマー複合体(例えば、c−jun、AFT2およびc−fosから作製されるAP−1複合体)の抑制が包含される。細胞増殖障害がJNK過剰発現に関連するとき、そのような抑制性JNKインヒビターペプチドは、細胞に導入され得る。いくつかの場合において、「調節」は、例えば、JNKに対するIBペプチドの結合をブロックし、それによりIB関連ペプチドによるJNK阻害を予防する、IBペプチド特異的な抗体の使用による、JNK発現の増加を包含し得る。
【0076】
本発明のJNKインヒビター、ペプチド、融合ペプチドおよび核酸は、薬学的組成物中で処方され得る。これらの組成物は、上記の物質のひとつに加えて、薬学的に受容可能な賦型剤、キャリア、緩衝剤、安定化剤または当業者に周知の他の材料を含み得る。そのような材料は、非毒性であるべきであり、そして活性成分の効力に干渉すべきではない。キャリアまたは他の材料の正確な性質は、投与経路に依存し得る(例えば、経口、静脈内、皮膚または皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内またはパッチ経路)。
【0077】
経口投与のための薬学的組成物は、錠剤、カプセル、散剤または液体形態であり得る。錠剤は、固形キャリア(例えば、ゼラチンまたはアジュバント)を含み得る。液状薬学的組成物は、概して、液体キャリア(例えば、水、石油、動物油、植物油、鉱油または合成油)を含む。生理食塩水溶液、デキストロースまたは他の糖溶液もしくはグリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール)もまた含まれ得る。
【0078】
静脈内、皮膚または皮下の注射、あるいは罹患部位への注射のために、活性成分は、非経口的に受容可能な水溶液の形態であり、これは、発熱物質を含まず、そして適切なpH、等張性および安定性を有する。関連分野の当業者は、例えば、等張性ビヒクル(例えば、食塩注射(Sodium Chloride Injection)、リンゲル注射液、乳酸リンゲル注射液)を用いて適切な溶液を調製し得る。保存剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加物もまた、必要に応じて含まれ得る。
【0079】
それがポリペプチド分子であれ、ペプチド分子であれ、核酸分子であれ、個体に与えられるべき、本発明に従う、他の薬学的に有用な化合物は、投与は、好ましくは、「予防有効量」または「治療有効量」(症例にもより得るが、予防は、治療とも考えられ得る)であり、これは、個体に対して利益を示すに十分である。実際に投与される量ならびに投与の速度および時間経過は、処置される性質および重症度に依存する。処置の処方(例えば、投薬量の決定など)は、一般医および他の医師の責任において行われ、そして代表的には、処置されるべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与の方法および実施者に公知のたの因子を考慮する。上記の技術およびプロトコルの例は、以下に見出される:REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,16th edition,Osol,A.(ed),1980。
【0080】
あるいは、標的化治療を使用して、抗体または細胞特異的リガンドのような標的化系の使用により、特定の型の細胞により特異的な活性因子を送達し得る。標的化は、種々の理由で所望され得る:例えば、その因子が、受容不可能なくらいに毒性である場合、またはそれが別の方法で高すぎる投薬量を必要とする場合、またはそれがそうでなければ標的化に侵入し得ない場合。
【0081】
これらの因子を直接投与する代わりに、それらは、例えばウイルスベクター(VDEPT技術の改変、以下を参照のこと)においてその細胞に導入されたコード遺伝子からの発現により標的細胞において生成され得る。このベクターは、処置されるべき特定の細胞に対して標的化され得るか、またはそれは、調節エレメントを含み得、これは、標的細胞によっておおかれ少なかれ選択的にスイッチオンされる。
【0082】
あるいは、この因子は、処置されるべき細胞においてまたはそこへと標的化される、活性化因子によって活性化形態へと変換するために、前駆体の形態で投与され得る。この型のアプローチは、ときに、ADEPTまたはVDEPTとして知られ、前者は、活性化因子を、細胞特異的抗体への結合体化により細胞へと標的化する工程を包含し、他方後者は、ウイルスベクターにおけるコードDNAからの発現によってベクター中で活性化因子(例えば、JNKインヒビターペプチド)を生成する工程を包含する(例えば、以下を参照のこと:EP−A−415731およびWO 90/07936)。
【0083】
本発明の特定の実施形態において、核酸は、JNKインヒビターペプチドをコードする配列、またはその機能的な誘導体を含み、投与されて、遺伝子治療による活性化されたJNKシグナル伝達経路を調節する。より特定の実施形態において、核酸またはJNKインヒビターペプチドをコードする核酸、あるいはその機能的誘導体は、遺伝子治療により投与される。本発明のこの密使形態において、その核酸は、そのコードされたペプチドを生成し、これはついで疾患または障害の機能を調節することによって、治療効果を発揮するように作用する。当該分野において利用可能な遺伝子治療に関連する任意の方法論が本発明の実施において使用され得る。例えば、以下を参照のこと:Goldspiel,et al.1993.Clin Pharm 12:488−505。
【0084】
好ましい実施形態において、治療剤は、IB関連ペプチド、またはそのフラグメント、誘導体もしくはアナログの任意の1つ以上を、適切な宿主中で発現する発現ベクターの部分である核酸を含む。特定の実施形態において、このような核酸は、JNKインヒビターペプチドのコード領域に作動可能に連結されたプロモーターを有する。このプロモーターは、誘導性または構成的であり得、そして必要に応じて組織特異性であり得る。別の特定の実施形態において、コード配列(および任意の他の所望される配列にゲノム中の所望の部位で相同組換えを促進する領域が隣接し、それにより核酸の染色体内の発現を提供する核酸分子が使用される。例えば、以下を参照のこと:Koller and Smithies,1989、Proc Natl Acad Sci USA 86:8932−8935。
【0085】
治療剤核酸の患者への送達は、直接(すなわち、核酸または核酸含有ベクターへの直接の暴露)または間接的(すなわち、細胞はまず核酸でインビトロで形質転換され、ついで患者へと移植される)のいずれかであり得る。これら2つのアプローチは、それぞれ、インビボまたはエキソビボの遺伝子治療として知られる。本発明の特定の実施形態において、核酸は、インビボで直接投与され、ここで発現されて、コードされる産物が生成される。これは、以下を含む、当該分野において公知の多数の方法のいずれかにより達成され得る:例えば、核酸を適切な核酸発現ベクターの部分として構築する工程、およびこれを、それが細胞内に存在するように投与する工程(例えば、欠損もしくは弱毒化レトロウイルスまたは他のウイルスベクターを用いた感染;以下を参照のこと:米国特許第4,980,286号);裸のDNAの直接注射;微粒子ボンバードメント(例えば、Gene Gun(登録商標);Biolistic,DuPont);脂質での核酸のコーティング;関連する細胞表面レセプター/トランスフェクト剤の使用;リポソーム、微粒子または微小カプセル中へのカプセル化;核へ侵入することが知られるペプチドとともにそれを投与すること;またはレセプター媒介エンドサイトーシスの素因があるリガンドとともにそれを投与すること(例えば、以下を参照のこと:Wu and Wu,1987.J Biol Chem 262:4429−4432)(これは、目的のレセプターを特異的に発現する細胞型を「標的化」するために使用され得る)など)。
【0086】
本発明の実施における遺伝子治療のさらなるアプローチは、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、ウイルス感染などのような方法によって遺伝子をインビトロで組織培養物に移す工程を包含する。一般に、この移す方法としては、選択マーカーの細胞への同時移入が挙げられる。ついで、この細胞を選択圧の下に置き(例えば、抗生物質耐性)、移入された遺伝子を取り込んで、発現しつつある細胞の単離を容易にする。ついで、これらの細胞を、患者に送達する。特定の実施形態において、得られた組換え細胞のインビボ投与の前に、核酸は、当該分野において公知の任意の方法によって細胞に導入される。この方法には、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、目的の核酸配列を含むウイルスもしくはバクテリオファージベクターでの感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子移入、およびその移入によってレシピエントの細胞の必要な発達および生理的機能が破壊されないことを確実にする類似の方法論が挙げられる。例えば、以下を参照のこと:Loeffler and Behr,1993.Meth Enzymol 217:599−618。選択された技術は、細胞へ核酸を安定に移入することを提供し、その結果、核酸は、その細胞によって発現され得る。好ましくは、移入される核酸は、その細胞子孫によって遺伝され得、そして発現され得る。
【0087】
本発明の好ましい実施形態において、得られた組換え細胞は、当該分野において公知の種々の方法によって患者に送達され得る。これらの方法には、例えば、内皮細胞の注入(例えば、皮下)、組換え皮膚細胞を皮膚移植片として患者に適用すること、および組換え血球(例えば、造血幹細胞または始原細胞)を静脈内注射することが挙げられる。使用が企図される細胞の全量は、所望の効果、患者の状態などに依存し、そして当業者によって決定され得る。
【0088】
核酸が遺伝子治療の目的で導入され得る細胞は、任意の所望の利用可能な細胞型を包含し、そして異種(xenogeneic)、異種(heterogeneic)、同系(syngeneic)または自己(autogeneic)であり得る。細胞型としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:分化された細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞および血球)、または幹細胞(特に、肺性心筋細胞、肝幹細胞(国際特許公開WO 94/08598)、神経幹細胞(Stemple and Anderson,1992,Cell 71:973−985)、造血幹細胞または始原細胞(例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られた細胞)。好ましい実施形態において、遺伝子治療に利用される細胞は、患者にとって自己である。
【0089】
(免疫アッセイ)
本発明のペプチドおよび抗体は、アッセイ(例えば、免疫アッセイ)において利用されて、JNKもしくはJNKインヒビターペプチドの異常レベルによって特徴付けられる状態、疾患および障害を診断(prognose)、診断(diagnose)、またはモニターをし得るか、またはそれらの処置をモニターし得る。「異常レベル」とは、身体の罹患していない部分から、またはその障害を有しない被験体からの類似のサンプルにおいて存在するレベルに比較してサンプルにおいて増加または減少したレベルを意味する。免疫アッセイは、免疫特異的な結合が生じ得る条件で抗体と患者に由来するサンプルとを接触させる工程、、およびついでその抗体による任意の免疫特異的結合の量を検出または測定する工程を包含する方法によって行われ得る。特定の実施形態において、JNKインヒビターペプチドに対して特異的な抗体を使用して、JNKまたはJNKインヒビターの存在について、患者からの組織または血清のサンプルを分析し得る。ここで、異常レベルのJNKまたはJNKインヒビターペプチドは、罹患した状態の指標である。利用され得る免疫アッセイとしては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:ウェスタンブロット、放射免疫アッセイ(RIA)、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集素アッセイ、蛍光免疫アッセイ、補体固定アッセイ、免疫放射測定アッセイ、およびプロテインA免疫アッセイなどのような競合アッセイ系および非競合アッセイ系。
【0090】
(キット)
本発明は、抗JNKインヒビターペプチド抗体、および必要に応じて標識された、抗体に対する結合パートナーを含む1つ以上の容器を備える、診断用途または治療用途のキットをさらに提供する。抗体に取り込まれた標識としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:化学発光部分、酵素部分、蛍光部分、呈色部分、または放射性部分。別の特定の実施形態において、JNKインヒビターペプチドをコードするかまたは代替的に相補的である改変されたかまたは改変されていない核酸、および必要に応じてその標識された、その核酸に対する結合パートナーを含む、1つ以上の容器を含む、診断用途のためのキットもまた提供される。代替の特定の実施形態において、そのキットは、1つ以上の容器中に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、以下を参照のこと:Innis,et al.,1990.PCR PROTOCOLS,Academic Press,Inc.,San Diego,CA)、リガーゼ連鎖反応、サイクリックプローブ反応など、または当該分野で公知の他の方法のための増幅プライマーとして働き得る、一対のオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、各々は6−30ヌクレオチド長)を含み得る。このキットは、必要に応じて、診断標準またはアッセイにおけるコントロールとして使用するために、精製されたJNKインヒビターペプチドまたはその核酸の所定の量をさらに含み得る。
【0091】
本発明は、本明細書において記載される特定の実施形態によってその範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書において記載されるものの本発明の種々の改変は、上記の説明および添付の図面から当業者には明白である。そのような改変は、添付の特許請求の範囲内に入る。
【0092】
種々の文献が本明細書において引用されており、その開示は、その全体が本明細書において参考として援用される。
【実施例】
【0093】
(実施例1:JNKインヒビターペプチドの同定)
JNKとの効率的な相互作用のために重要なアミノ酸配列を、公知のJBD間の配列アラインメントにより同定した。IB1(配列番号17)、IB2(配列番号18)、c−Jun(配列番号19)、およびATF2(配列番号20)のJBD間の配列比較は、弱く保存された8アミノ酸配列を規定した(図1A)。IB1およびIB2のJBDは、JNKとの結合においてc−JunもしくはATF2より約100倍効率的であるので(Dickensら、Science 277:693(1997)、IB1とIB2との間で保存された残基が、最大結合を付与するために重要でなければならないことが推論された。IB1とIB2のJBD間の比較は、2つの配列間で高度に保存されている7および3つのアミノ酸の2つのブロックを規定した。これらの2つのブロックは、IB1(配列番号1)内の23アミノ酸およびIB2(配列番号2)内の21アミノ酸のペプチド配列内に含まれている。これらの配列は、図1Bに示され、IB2配列内のダッシュは、保存された残基をアラインするための配列内のギャップを示す。
【0094】
(実施例2:JNKインヒビター融合タンパク質の調製)
JNKインヒビター融合タンパク質を、JBD23のC末端またはIB2(JBD21)のJBD由来の21アミノ酸配列を、HIV−TAT48-57(Vivesら、J.Biol.Chem.272:16010(1997))由来のN末端10アミノ酸長キャリアペプチドへ、2つのプロリン残基からなるスペーサーを介して、共有結合することにより合成した。このスペーサーを、可撓性を最大とするために、そして所望でない二次構造の変化を防止するために、使用した。図1Cに示されるように、これらの調製物を、L−TAT(配列番号7)、L−TAT−IB1(配列番号11)、およびL−TAT−IB2(配列番号2)と、それぞれ命名した。全てのDレトロインベルソペプチドTAT融合ペプチドもまた合成し、そしてD−TAT(配列番号8)およびD−TAT−IB1(配列番号14)と、それぞれ命名した。全てのDおよびLペプチドを古典的なFモック合成により生成し、そして質量分析によりさらに分析した。それらを、HPLCにより最終的に精製した。プロリンスペーサーの効果を決定するために、2つのプロリンを有するもの、2つのプロリンを有さないものという2つのタイプのTATペプチドを生成した。その2つのプロリンの付加は、TATペプチドの細胞内への侵入または細胞内での局在化を改変するようではなかった。
【0095】
保存されたアミノ酸残基を示す一般的なペプチドは、図2に示される。「X」は、任意のアミノ酸を示す。所定のペプチドにおけるXの数は、示されるものに限定されるわけではなく、変化しうる。一般配列のより詳細な記載については、上記を参照のこと。
【0096】
(実施例3:JBD23によるβ細胞死の阻害)
次いで、JNKの生物学的活性に対するIB1の23アミノ酸長のJBD配列の効果を研究した。23アミノ酸の配列を、グリーン蛍光タンパク質(GFP−JBD23構築物)のN末端に結合し、そしてこの構築物の、IL−1βにより誘導される膵臓β細胞アポトーシスに対する効果を評価した。図3を参照のこと。アポトーシスのこの態様は、以前にJBD1-280でのトランスフェクションによってブロックされることが示されたのに対して、ERK1/2またはp38の特異的インヒビターは、保護しなかった。Ammendrupら(前出)を参照のこと。
【0097】
23アミノ酸配列(JBD23;図1B)および完全に保存された領域で変異した配列(JBD23mut)に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、そしてグリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードするpEGFP−N1ベクター(Clontechから入手)のEcoRIおよびSalI部位に直接挿入した。インスリンが産生するβTC−3細胞を、10%ウシ胎仔血清、100μg/mL ストレプトマイシン、100ユニット/mL ペニシリン、および2mM グルタミンを補充したRPMI 1640培地中で培養した。インスリンを産生するβRC−3細胞を、示されたベクターでトランスフェクトし、そしてIL−1β(10ng/mL)を細胞培養培地に添加した。アポトーシス細胞の数を、IL−1βを添加した48時間後に、倒立蛍光顕微鏡を使用して計算した。細胞質の「小胞形成」の特徴により、アポトーシス細胞を正常細胞から区別し、2日後に計数した。
【0098】
図3に示されるように、GFPはコントロールとして使用したグリーン蛍光タンパク質発現ベクターであり;JBD23は、IB1のJBD由来の23アミノ酸の配列に結合したキメラGFPを発現するベクターであり;JBD23Mutは、GFP−JBD23と同じベクターであるが、JBDは、図1Bに示される4つの保存された残基で変異されている;JBD280は完全なJBD(アミノ酸1-280)に結合したGFPベクターである。GFP−JBD23を発現する構築物は、JBD1-280と同様に効率的に、IL−1βが誘導する膵臓β細胞アポトーシスを防止した(図3、JBD280/IL−1に比較してのJBD23/IL−1)。さらなるコントロールとして、完全に保存されたIB1残基で変異された配列は、アポトーシスを防止する能力が非常に減少されていた(図3、JBD23Mut/IL−1)。
【0099】
(実施例4:TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの細胞内移入)
TAT、TAT−IB1、およびTAT−IB2ペプチド(「TAT−IBペプチド」)のLおよびD立体異性体形態の細胞へ侵入する能力を評価した。
【0100】
L−TAT、D−TAT、L−TAT−IB1、L−TAT−IB2、およびD−TAT−IB1ペプチド(それぞれ配列番号7、8、11、12、および14)を、フルオレセインに結合体化したグリシン残基のN末端への付加により標識した。標識したペプチド(1μM)を、βTC−3細胞培養に添加し、これを実施例3に記載されるように維持した。所定の時間に、細胞をPBSで洗浄し、そして氷冷メタノールアセトン(1:1)中で5分間固定し、その後、蛍光顕微鏡下で検査した。蛍光標識したBSA(1μM、12モル/モルBSA)をコントロールとして使用した。結果は、全ての上記の蛍光標識したペプチドが、細胞培養中に一旦添加されると、効率的にかつ迅速に(5分未満で)細胞に侵入したことを実証した。反対に、蛍光標識したウシ血清アルブミン(1μM BSA、12モル フルオレセイン/モルBSA)は、細胞に侵入しなかった。
【0101】
時間経過の研究は、L立体異性体ペプチドについての蛍光シグナルの強度が、24時間後に、70%減少したことを示した。48時間において、シグナルはほとんどか全く存在しなかった。対照的に、D−TAT、およびD−TAT−IB1は、細胞内で非常に安定であった。これら全てのDレトロインベルソペプチド由来の蛍光シグナルは、1週間後にもなお非常に強力であり、そしてそのシグナルは、処置の2週間後にわずかに少し減少したに過ぎなかった。
【0102】
(実施例5:c−JUN、ATF2およびElk1リン酸化のインビトロでの阻害)
その標的転写因子のJNK媒介リン酸化に対するペプチドの効果を、インビトロで研究した。組換えおよび非活性化JNK1、JNK2、およびJNK3を、転写および翻訳ウサギ網状赤血球溶解物キット(Promega)を使用して生成し、そしてc−JUN、ATF2、およびElk1を単独または基質としてのグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)に融合させて用いた固相キナーゼアッセイにおいて使用した。用量応答研究を、L−TAT、L−TAT−IB1、またはL−TAT−IB2ペプチド(0〜25μM)を、反応緩衝液(20mMTris酢酸、1mM EGTA、10mM p−ニトロフェニルホスフェート(pNPP)、5mM ピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mM ジチオスレイトール)において20分間、組換えJNK1、JNK2、またはJNK3キナーゼと混合した。次いで、そのキナーゼ反応物を10mM MgCl2および5μCi33P−γーdATPおよび1μgのGST−Jun(アミノ酸1〜89)、GST−AFT2(アミノ酸1〜96)またはGST−ELK1(アミノ酸307〜428)の添加により開始した。GST融合タンパク質を、Stratagene(LaJolla,CA)から購入した。10μLのグルタチオンアガロースビーズもまた、その混合物に添加した。次いで、反応生成物を、変性10%ポリアクリルアミドゲル上で、SDS−PAGEによって分離した。ゲルを乾燥し、そして引き続いてX線フィルム(Kodak)に暴露した。JNKによるc−Jun、ATF2、およびElk1リン酸化のほとんど完全な阻害が、2.5μM程度のTAT−IBペプチドの用量で観察された。しかし、顕著な例外は、Elk1のJNK3リン酸化のTAT−IB阻害が存在しないことであった。全体として、TAT−IB1ペプチドは、それらの標的転写因子のElk1のJNKファミリーのリン酸化を阻害するにおいて、わずかにTAT−IB2に対して優れているようであった(図4Aを参照のこと)。
【0103】
組換えJNK1、JNK2、およびJNK3によるGST−Jun(アミノ酸1〜73)のリン酸化を阻害するD−TAT、D−TAT−IB1、およびL−TAT−IB1ペプチド(0〜250μM用量研究)の能力は、上記のように分析された。全体として、D−TAT−IB1ペプチドは、L−TAT−IB1よりも約10〜20倍非効率的なレベルで、c−JunのJNK媒介リン酸化を減少させた(図4Bを参照のこと)。
【0104】
(実施例6:活性化JNKによるc−JUNリン酸化の阻害)
ストレス性刺激によって活性化されるJNKに対するL−TAT、L−TAT−IB1、またはL−TAT−IB2ペプチドの効果を、JNKをUV光照射したHeLa細胞またはIL−1β処理したβTC細胞から引きおろすために、GST−Junを使用して評価した。βTC細胞を、以下に記載のように培養した。HeLaを、10%ウシ胎仔血清、100μg/mLのストレプトマイシン、100ユニット/mlのペニシリン、および2mM グルタミンを補充したDMEM培地において培養した。細胞抽出調製物のために使用する1時間前に、βTC細胞を、上記のようにIL−1βで活性化した一方、HeLa細胞を、UV光(20J/m2)によって活性化した。細胞抽出物を、コントロール、UV光照射HeLa細胞、およびIL−1β処置βTC−3細胞から、溶解緩衝液(20mM Tris酢酸、1mM EGTA、1%TritonX−100、10mM p−ニトロフェニルホスフェート、5mM ピロリン酸ナトリウム、10mM βグリセロホスフェート、1mM ジチオスレイトール)中の細胞培養物を引っかき取ることによって調製した。細片を、SS34 Beckmanローター中での15,000rpmで5分間の遠心分離によって除去した。100μgの抽出物を、1時間、室温で1μgのGST−jun(アミノ酸1-89)および10μLのグルタチオンアガロースビーズ(Sigma)とともにインキュベートした。引っかき用緩衝液での4回の洗浄の後、そのビーズをL−TAT、L−TAT−IB1またはL−TAT−IB2ペプチド(25μM)を補充した同じ緩衝液中で20分間再懸濁した。次いで、キナーゼ反応を10mM MgCl2および5μCiの33P−γ−dATPの添加により開始し、そして30℃で30分間インキュベートした。次いで、反応生成物をSDS−PAGEによって変性10%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。ゲルを乾燥し、そして引き続いてX線フィルム(Kodak)に暴露した。TAT−IBペプチドは、効率的に、これらの実験において、活性化JNKによるc−Junのリン酸化を防止した(図6を参照のこと)。
(実施例7:TAT−IBペプチドによるc−JUNリン酸化のインビボ阻害)
細胞透過性ペプチドがインビボでJNKシグナリングをブロックし得るかどうかを決定するため、本発明者らは異種GAL4系を使用した。HeLa細胞(上記のように培養)を、GAL4 DNA結合ドメインに連結したc−Jun(アミノ酸1−89)の活性化ドメインを含むGAL−Jun発現構築物(Stratagene)と共に5×GAL−LUCレセプターベクターで同時トランスフェクトした。JNKの活性化を、直ぐ上流のキナーゼMKK4およびMKK7(Whitmarshら、Science 285:1573(1999)を参照)を発現するベクターの同時トランスフェクションにより達成した。簡潔には、3×105細胞を、製品の指示書に従ってDOTAP(Boehringer Mannheim)を使用して、3.5cmディッシュにおいて、プラスミドでトランスフェクトした。GAL−Jうnを含む実験には、20ngのプラスミドを、1μgのレセプタープラスミドpFR−Luc(Stratagene)および0.5μgのMKK4発現プラスミドもしくはMKK7発現プラスミドのいずれかでトランスフェクトした。トランスフェクションの3時間後、細胞培地を交換し、そしてTAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチド(1μM)を加えた。ルシフェラーゼ活性を、16時間後に、タンパク質含量に対して正規化した後でPromegaの「Dual Reporter System」を使用して測定した。図5に示されるように、TAT−IB1ペプチドおよびTAT−IB2ペプチドの添加が、共に、JNKのMKK4媒介活性化後およびMKK7媒介活性化後のc−Jun活性化をブロックした。HeLa細胞はJNK1イソフォームおよびJNK2イソフォームの両方を発現するがJNK3は発現しないので、本発明者らは細胞をJNK3でトランスフェクトした。再び、2つのTAT−IBペプチドはc−JunのJNK2媒介活性化を阻害した。
【0105】
(実施例8:TAT−IBペプチドによるIL−1β誘導膵臓β細胞死の阻害)
本発明者らは、IL−1βにより誘発される膵臓β細胞アポトーシスの促進に対するL−TAT−IBペプチドの効果を調べた。βTC−3細胞培養物を、30分間1μMのL−TAT−IB1ペプチドまたはL−TAT−IB2ペプチドのいずれかと共に、続いて10ng/mlのIL−1βと共にインキュベートした。ペプチド(1μM)の第2の添加を24時間後に行った。アポトーシス細胞を、IL−1βとの2日間のインキュベーション後に、Propidium Iodide(赤く染色された細胞が死細胞である)およびHoechst33342(青く染色された細胞が、インタクトな形質膜を有する細胞である)核染色を使用して計数した。図5に示されるように、TAT−IBペプチドの添加により、IL−1βの存在下で2日間培養されたβTC−3細胞のIL−1β誘導アポトーシスが阻害された。
【0106】
IL−1β誘導細胞死の長期阻害を、βTC−3細胞を上記のように(ペプチドおよびIL−1βとの細胞のインキュベーションを12日間持続したことを除いて)処理することにより調べた。さらなるペプチド(1μg)を各日添加し、そしてさらなるIL−1β(10ng/mL)を1日おきに添加した。TAT−IB1ペプチドは、これらの条件においてアポトーシスに対して強力な保護を付与する。まとめると、これらの実験により、TAT−IBペプチドは、細胞運命に対するJNKシグナリングの効果を妨げ得る、生物学的に活性な分子であることが確立される。
【0107】
(実施例9:ペプチドの合成)
本発明のペプチドは、天然のタンパク質分解を妨げるために逆に合成された全D体アミノ酸ペプチド(すなわち、全Dレトロ−インベルソペプチド)であり得る。本発明の全Dレトロ−インベルソペプチドは、ネイティブのペプチドと同様な機能的特性を有するペプチドを提供する。ここで、成分アミノ酸の側鎖はネイティブペプチドのアラインメントに対応するが、プロテアーゼ耐性骨格を保持する。
【0108】
本発明のレトロ−インベルソペプチドは、D体アミノ酸を使用して、レトロ−インベルソペプチドアナログ中のアミノ酸の配列が、モデルとして働く選択されたペプチド中の配列と正確に反対であるように、アミノ酸をペプチド鎖に付着することによって合成されるアナログである。例示のため、天然に存在するTATタンパク質(L体アミノ酸から生成)は、配列GRKKRRQRRR(配列番号7)を有し、このペプチドのレトロ−インベルソペプチドアナログ(D体アミノ酸から生成)は、配列RRRQRRKKRG(配列番号8)を有する。D体アミノ酸の鎖を合成してレトロ−インベルソペプチドを生成する手順は、当該分野において公知である(例えば、Jamesonら、Nature,368,744−746(1994);Bradyら、Nature,368,692−693(1994);Guichardら、J.Med.Chem.39,2030−2039(1996)を参照)。具体的には、レトロ−ペプチドを、古典的なF−モック合成により作製し、質量分析によりさらに分析する。これらを最終的にHPLCにより精製した。
【0109】
ネイティブなペプチドの生来の問題は、天然プロテアーゼによる分解および生来の免疫原性であるので、本発明のヘテロ2価化合物またはヘテロ多価化合物は、所望のペプチドの「レトロ−インベルソ異性体」を含むように調製される。したがって、ペプチドを天然のタンパク質分解から保護することは、半減期を延長させることおよびそのペプチドを能動的に破壊することを狙う免疫応答の程度を減少させることの両方により、その特定のヘテロ2価化合物またはヘテロ多価化合物の有効性を増大させる。
【0110】
(実施例10:全Dレトロ−インベルソIBペプチドの長期生物学的活性)
ペプチドヘテロ結合体を含むD−TAT−IBレトロ−インベルソについて、ネイティブのL体アミノ酸アナログと比較する場合、実施例5に示すように、ネイティブなプロテアーゼによる破壊からのD−TAT−IBペプチドの保護に起因して、長期生物学的活性が予測される。
【0111】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導膵臓β細胞死の阻害を分析した。図10に示すように、示されたペプチド(1μM)を単回添加し、次いでIL−1β(10ng/ml)を添加して、βTC−3細胞を上記のように30分間インキュベートした。次いで、IL−1βとの2日間のインキュベーションの後、Propidium IodideおよびHoechst33342核染色を使用して、アポトーシス細胞を計数した。最小1,000細胞を、各実験について計数した。平均の標準誤差(SME)を示す(n=5)。D−TAT−IBペプチドは、IL−1誘導アポトーシスを、L−TAT−IBペプチドと同様な程度まで減少させた(図5と図10を比較)。
【0112】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導細胞死の長期阻害もまた分析した。示されたペプチド(1μM)を単回添加し、次いでIL−1β(10ng/ml)を添加し、続いてサイトカインを1日おきに、βTC−3細胞を上記のように30分間インキュベートした。次いで、IL−1βとの15日間のインキュベーションの後、Propidium IodideおよびHoechst33342核染色を使用して、アポトーシス細胞を計数した。L−TAT−IB1ペプチドの単回添加は、長期保護を付与しないことに注意すべきである。最小1,000細胞を、各実験について計数した。平均の標準誤差(SME)を示す(n=5)。結果を図9に示す。D−TAT−IBは、長期(15日)保護を付与し得たが、L−TAT−IB1は長期保護を付与しなかった。
【0113】
(実施例11:TAT−IBペプチドによる照射誘導膵臓β細胞死の阻害)
JNKはまた電離放射線による活性化される。TAT−IBペプチドが照射誘導JNK損傷に対して保護を提供するかどうかを決定するため、図10に示されるように、「WiDr」細胞に、D−TAT、L−TAT−IB1またはD−TAT−IB1ペプチド(照射の30分前に1μMを添加)の存在下または非存在下で照射した(30Gy)。コントロール細胞(CTRL)は照射しなかった。細胞を、48時間後に、上記のように、PIおよびHoechst33342染色により分析した。SEMを示す(n=3)。L−TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドは共に、このヒト結腸ガン細胞株において照射誘導アポトーシスを妨げ得た。
【0114】
(実施例12:TAT−IBペプチドによる電離放射線に対する放射線防護)
TAT−IBペプチドの放射線防護効果を決定するため、C57 Bl/6マウス(2〜3ヶ月齢)に、Phillips RT250 R線を、0.74Gy/分の線量率(17mA、0.5mm Cuフィルター)で照射した。照射の30分前に、動物に、TAT、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチドのいずれか(1mM溶液30μl)をi.p.注射した。簡潔には、マウスに以下のとおり照射した:マウスを小さなプラスチック箱に、頭が外に出るように横たえて入れる。動物を背中が照射装置の下になるように置き、首を小さなプラスチックトンネル中に固定して頭部を正確な位置に維持した。体部を鉛で保護した。照射前は、マウスを標準的なペレットマウス飼料で飼育したが、照射後は、マウスを、毎日新しくした半液状飼料で飼育した。
【0115】
次いで、口唇粘膜の反応を、Parkinsら(Parkinsら、Radiotherapy & Oncology,1:165−173,1983)により開発されたスコア付けシステムに従って、2人の独立した観察者によりスコア付けした。ここで、紅斑の状態ならびに浮腫、剥離および滲出の存在について値を見積もった。さらに、紅斑/浮腫の状態の各記録の前に動物の体重を測定した。
【0116】
図12Aは照射後のマウスの体重を示す。そのマウスの最初の体重を100とし、それに対する値を報告した。CTRL:30μlの生理食塩水を注射したコントロールマウス。報告した各値について、n=2。S.D.をしめす。x軸の値は日数。
【0117】
図12Bは照射後の紅斑/浮腫のスコア付けを示す。図12Aと同じマウスの腹側口唇の浮腫および紅斑の状態を定量化した。報告した各値について、n=2。x軸の値は日数。
【0118】
これらの実験の結果は、TAT−IBペプチドが電離放射線に関連する体重損失および紅斑/浮腫に対して保護し得ることを示す。
【0119】
(実施例13:L−TAT−IB1ペプチドによるJNK転写因子の抑制)
AP−1二重化標識プローブ(5’−CGC TTG ATG AGT CAG CCG GAA−3’)を用いてゲルシフト法を行った。HeLa細胞核抽出物を、示されるように、5ng/mlのTNF−αで1時間処理したかまたは処理しなかった。TATペプチドおよびL−TAT−IB1ペプチドを、TNF−αの30分前に添加した。特定のAP−1 DNA複合体ゲルの部分(非標識特異的および非特異的競合物との競合実験により示される)のみを示す。L−TAT−IB1ペプチドは、TNF−αの存在下でAP−1 DNA結合複合体の形成を減少させる(図11を参照)。
【0120】
(等価物)
本発明の特定の実施形態の上記詳細な説明から、独特な細胞透過生物活性ペプチドが記載されていることが明らかであるはずである。特定の実施形態が本明細書で詳細に開示されているが、これは、例示を目的としただけで、本願発明の範囲を限定す意図はない。特に、種々の置換、変更、および改変が、本発明に対して、本発明の精神および範囲を逸脱することなくなされ得ることは、本発明者らにより企図されている。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して、プロテインキナーゼインヒビター、そしてより詳細には、プロテインキナーゼc−Junアミノ末端キナーゼのインヒビターに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)は、マイトゲン活性化タンパク質(MAP)キナーゼのストレス活性化グループのメンバーである。これらのキナーゼは細胞の増殖および細胞の分化の制御、そしてより一般的には、環境刺激への細胞の応答に関連している。JNKシグナルの伝達経路は、細胞表面のレセプターのいくつかの分類における約束により、環境ストレスに応答して活性化される。これらのレセプターとして、サイトカインレセプター、セルペンチンレセプター、およびレセプターチロシンキナーゼが挙げられ得る。哺乳動物細胞において、JNKは、オンコジーンの形質転換として、このような生物学的プロセスおよび環境ストレスに対する適応応答を媒介することに関係している。JNKはまた、免疫細胞の成熟および分化を含む免疫反応を調節すること、同様に免疫系による破壊として同定される細胞におけるプログラムされた細胞死をもたらすことに関連している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明は、JNKタンパク質の有効なインヒビターであるペプチドの発見に部分的に基いている。JNKペプチドインヒビターとして本明細書中で言及されるこのペプチドは、c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)の下流の細胞増殖の効果を減少する。
【0004】
従って、本発明は新規のJNKインヒビターペプチド、および所望の細胞位置に存在するペプチドを方向付けるために使用し得る輸送ペプチドと結合したJNKペプチドインヒビターを含むキメラペプチドを含む。輸送配列は、原形質膜を横切るペプチドの輸送の方向付けに使用され得る。あるいは、またはさらに、輸送ペプチドは、核のような所望の細胞内位置へのペプチドの方向付けに使用され得る。
【0005】
JNKインヒビターペプチドはL−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。あるいは、そのペプチドは、D−アミノ酸のポリマーとして存在し得る。
【0006】
また、本発明は、JNK結合ペプチド、ならびにJNK結合ペプチドを特異的に認識する抗体を含む薬学的組成物を含む。
【0007】
本発明はまた、細胞中のJNKキナーゼの発現を阻害する方法を含む。
【0008】
別の局面において、本発明は、細胞におけるJNKの活性化と関連する病態生理学を処置する方法を含む。例えば、標的細胞は、例えば、培養動物細胞、ヒト細胞または微生物であり得る。送達は、キメラペプチドが、診断目的、予防目的または治療目的に使用され個体にキメラペプチドを投与することによりインビボで行われ得る。標的化細胞は、インビボの細胞、すなわち生きている動物もしくはヒトの器官もしくは組織を含む細胞、または生きている動物もしくはヒト中に見出される微生物、であり得る。
【0009】
本発明により提供される利点としては、JNKインヒビターペプチドは小さく、そして大量かつ高純度で容易に産生され得ることが挙げられる。インヒビターペプチドはまた、細胞内消化、および弱い免疫原に対して耐性である。従って、ペプチドはJNKの発現の阻害が所望されるインビトロおよびインビボでの適用に良好に適する。
【0010】
他に定義しない限り、本明細書中で使用される全ての用語および化学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または等価な方法および材料は、本発明の実行または試験に利用され得るが、適切な方法および材料は以下に記載される。全ての刊行物、特許出願、特許および本明細書中で言及される他の参考文献は、その全体が本明細書中で参考として援用される。コンフリクトの場合には、定義を含む本明細書を調節する。さらに、材料、方法、および実施例は説明のみであり、限定されることは意図されない。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかである。
本発明により、例えば、以下が提供される。
(項目1) 280アミノ酸長未満のペプチドであって、ここで該ペプチドが配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目2) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目3) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目4) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号3のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目5) 項目1に記載のペプチドであって、ここで該ペプチドが、配列番号4のアミノ酸配列を含む、ペプチド。
(項目6) 上記ペプチドが50アミノ酸長未満である、項目1に記載のペプチド。
(項目7) 上記ペプチドがc−junアミノ末端キナーゼ(JNK)に結合する、項目1のペプチド。
(項目8) 上記ペプチドが、JNK発現細胞に存在する場合、該ペプチドが、少なくとも1つのJNK標的化転写因子の活性化を阻害する、項目1に記載のペプチド。
(項目9) 上記JNK標的化転写因子が、c−Jun、ATF2、およびElk1からなる群より選択される、項目8に記載のペプチド。
(項目10) 上記ペプチドが、JNK発現細胞中に存在する場合、該ペプチドが、JNK効果を変える、項目1に記載のペプチド。
(項目11) 項目10に記載のペプチドであって、ここで、上記JNK誘導効果が、再狭窄、腫瘍形成形質転換、免疫細胞の成熟および分化、炎症誘発性サイトカイン、放射線治療において使用されるイオン化放射、紫外線光、フリーラジカル、DNA損傷因子、化学療法薬剤、虚血、再灌流、低酸素症、低体温症、過温症、アポトーシスおよびストレス性刺激に対する応答からなる群より選択される、ペプチド。
(項目12) 共有結合によって連結された第1のドメインおよび第2のドメインを含むキメラペプチドであって、該第1のドメインが輸送配列を含み、そして該第2のドメインがJNKインヒビター配列を含む、キメラペプチド。
(項目13) 上記輸送配列が、配列番号9または10のアミノ酸配列を含む、項目12に記載のペプチド。
(項目14) 上記輸送配列が、上記ペプチドの細胞性取り込みを増大させる、項目12に記載のペプチド。
(項目15) 上記輸送配列が、上記ペプチドの核局在化を指向する、項目12に記載のペプチド。
(項目16) 上記輸送配列が、ヒト免疫不全ウイルスTATポリペプチドのアミノ酸配列を含む、項目12に記載のペプチド。
(項目17) 上記JNKインヒビター配列が:
(a)280アミノ酸長未満であり;そして
(b)配列番号1のアミノ酸配列を含む、
項目12に記載のペプチド。
(項目18) 上記JNKインヒビター配列が、JNKに結合する、項目12に記載のペプチド。
(項目19) 上記JNKインヒビター配列が、少なくとも1つのJNK標的化転写因子の活性化を阻害する、項目12に記載のペプチド。
(項目20) JNK標的化転写因子が、c−Jun、ATF2、およびElk1からなる群より選択される、項目19に記載のペプチド。
(項目21) 上記JNKインヒビター配列が、JNK発現細胞中に導入される場合、JNK誘導効果を変える、項目12に記載のペプチド。
(項目22) 項目21に記載のペプチドであって、ここで、上記JNK誘導効果が、再狭窄、腫瘍形成形質転換、免疫細胞の成熟および分化、炎症誘発性サイトカイン、放射線治療において使用されるイオン化放射、紫外線光、フリーラジカル、DNA損傷因子、化学療法薬剤、虚血、再灌流、低酸素症、低体温症、過温症、アポトーシスならびにストレス性刺激に対する応答からなる群より選択される、ペプチド。
(項目23) 項目1に記載のペプチドをコードする単離された核酸。
(項目24) 項目23に記載の核酸を含むベクター。
(項目25) 項目24に記載のベクターを含む細胞。
(項目26) 項目1に記載のペプチドおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目27) 項目23に記載の核酸および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目28) 項目1に記載のペプチドに免疫特異的に結合する抗体。
(項目29) 項目28に記載の抗体および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目30) 被験体においてJNKの活性化に関連する病態生理学を処置する方法であって、該方法が、該被験体に細胞透過性生物活性ペプチドを投与する工程を包含し、ここで該ペプチドが細胞内JNKシグナル伝達を妨げる、方法。
(項目31) 上記ペプチドが、配列番号1〜18からなる群より選択される任意の1つのアミノ酸配列を含む、項目30に記載の方法。
(項目32) 上記ペプチドが、少なくとも1つのJNK標的化転写因子の活性化をブロックする、項目30に記載の方法。
(項目33) 上記JNK標的化転写因子が、c−Jun、ATF2、およびElk1からなる群より選択される、項目32に記載の方法。
(項目34) 上記JNK標的化転写因子が、c−Junである、項目32に記載の方法。
(項目35) 項目30に記載の方法であって、ここで上記病態生理学が、再狭窄、腫瘍形成形質転換、免疫細胞の成熟および分化、炎症誘発性サイトカイン、放射線治療において使用されるイオン化放射、紫外線光、フリーラジカル、DNA損傷因子、化学療法薬剤、虚血、再灌流、低酸素症、低体温症、過温症、アポトーシスおよびストレス性刺激に対する応答からなる群より選択される、方法。
(項目36) 上記投与が、腹腔内、鼻内、静脈内、経口およびパッチ送達からなる群より選択される任意の1つの投与経路によって送達される、項目30に記載の方法。
(項目37) ペプチドを調製する方法であって、該方法は、以下:
(a)本発明のペプチドの発現をもたらす条件下で項目25に記載の核酸を含む細胞を培養する工程;および
(b)発現したペプチドを回収する工程、
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1A〜Cは、示された転写因子における保存されたJBDドメイン領域のアラインメントを示す図である。
【図2】図2は、一般的なTAT−IB融合ペプチドのアラインメントを示す図である。
【図3】図3は、280個すべてのアミノ酸のJBDドメインと比較した最小の23個のアミノ酸長さのIB1のJBDドメインによるβ−細胞死の阻害を示すヒストグラムである。
【図4】図4は、組換えJNKのリン酸化に対するTATペプチド、TAT−IB1ペプチドおよびTAT−IB2ペプチドの影響を示す図である。パネルAは、組換えJNKによるc−Jun、ATF2およびElk1のインビトロでのリン酸化の阻害を示す。パネルBは、パネルAに類似の用量応答実験を示す。
【図5】図5は、組換えJNKによるリン酸化のL−TAT−IB阻害を示すヒストグラムである。パネルAは、MKK4存在下での、組換えJNKによるc−Jun、ATF2およびElk1のリン酸化のインビトロにおけるL−TAT−IB阻害を示す。パネルBは、MKK7を用いる類似の用量応答実験を示す。
【図6】図6は、活性化されたJNKによるc−Junリン酸化の阻害を示す図である。
【図7】図7は、L−TAT−IBペプチドによるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期の阻害を示すヒストグラムである。
【図8】図8は、D−TAT−IBペプチドによるIL−1β誘導膵臓β−細胞死の短期の阻害を示すヒストグラムである。
【図9】図9は、L−TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドによるIL−Iβ誘導膵臓β細胞死の長期の阻害を示すヒストグラムである。
【図10】図10は、L−TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドによる照射誘導ヒト結腸癌WiDr細胞死の阻害を示すヒストグラムである。
【図11】図11は、L−TATペプチド、TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドによるJNKキナーゼ活性の調節の図である。
【図12】図12は、マウスにおけるTAT−IB1ペプチドの保護効果を示すグラフである。パネルAは、重量に対する照射の効果を示す。パネルBは、脳浮腫(oedemus)および紅斑(erythemus)状態に対する照射の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、細胞透過性のペプチドの発見に一部基き、このペプチドは、c−Junアミノ末端キナーゼ(JNK)の活性化されたシグナル伝達経路を阻害する。これらのペプチドは、JNKインヒビターペプチドとして本明細書中でいわれる。さらに、本発見は、JNKシグナルと関連する病態生理学を処置するための方法および薬学的組成物を提供する。
【0014】
JNKインヒビターペプチドは、種々のインスリン結合(IB)タンパク質におけるkJNK結合ドメイン間の配列アラインメントを調べることにより同定された。このアラインメントの結果は、図1A〜1Cに示される。図1Aは、IB1、IB2、c−JunおよびATF2のJBD間の最も高い相同性の領域を示す。パネルBは、IB1およびIB2のJBDのアミノ酸配列のアラインメントを示す。完全に保存された残基は、アスタリスクで示され、一方GFP−JBD23Mutベクター中でAlaに変更された残基は、白丸で示される。図1Cは、JNKインヒビターペプチドドメインおよび輸送ドメインを含むキメラタンパク質のアミノ酸配列を示す。示される例において、輸送ドメインはヒト免疫不全ウイルス(HIV)TATポリペプチドに由来し、そしてJNKインヒビターペプチドはIB1ポリペプチドに由来する。ヒト、マウス、およびラットの配列はパネルBおよびパネルCにいおいて同一である。
【0015】
IB1(配列番号17)、IB2(配列番号18)、c−Jun(配列番号19)およびATF2(配列番号20)のJNK結合ドメイン間の配列の比較は、部分的に保存された8アミノ酸配列(図1A)を明らかにした。IB1およびIB2のJBDの比較はさらに、2つの配列間で高度に保存された7個のアミノ酸および3個のアミノ酸の2つのブロックを明らかにした。これらの2つのブロックは、IB1(配列番号1)中の23個のアミノ酸のペプチド配列およびIB2(配列番号2)中の21個のアミノ酸のペプチド配列内に含まれる。
【0016】
本発明のJNKインヒビターペプチドは、JNK活性の阻害が所望される任意の状況において使用され得る。これは、インビトロでの適用、エキソビボ、およびインビボでの適用を含み得る。JNKおよびその全てのアイソフォームは、病理学的状態の発達および確立または経路に関与し、またはJNKペプチドは、このような病理学的状態の発生を予防または阻害するために使用され得る。これは疾患の予防および処置ならびに治療的作用に対する二次的な状態の予防および処置を含む。例えば、本発明のペプチドを使用して、例えば、糖尿病、電離放射線、および免疫応答(自己免疫疾患を含む)、虚血/再灌流傷害、心臓および心臓血管肥大、およびいくつかの癌(例えば、Bcr−Abl形質転換)を処置または予防し得る。
【0017】
このペプチドはまた、活性なJNKポリペプチドの存在下で発現が増加する遺伝子の発現を阻害するために使用され得る。これらの遺伝子および遺伝子産物としては、例えば、炎症誘発性のサイトカインが挙げられる。このようなサイトカインは、全ての形態の炎症、自己炎症、免疫および自己免疫疾患、退行性疾患、筋傷害、心筋症、および移植片拒絶において見出される。
【0018】
本明細書中で記載されるJNKインヒビターペプチドはまた、例えば、心筋肥大および動脈硬化損傷を含む低血圧症により誘導される病理学的状態における細胞の剪断応力、ならびに血管の分岐における剪断応力など;放射線治療およびUV照射において使用される場合の電離放射線;フリーラジカル;DNA有害剤(化学療法薬を含む);オンコジーン形質転換;虚血および再灌流障害;低酸素症;ならびに低体温症および過温症に関与する効果を処置または予防するために使用され得る。
【0019】
本発明により提供されるポリヌクレオチドは、分析、特徴付け、または治療的使用のための組換えペプチドを発現するため;組織(ここでは、対応するペプチドが優先的に発現される(構成的であるか、または組織の分化もしくは発生の特定の段階であるかのいずれか、または疾患状態における))のマーカーとして使用され得る。核酸の他の使用として、例えば、ゲル電気泳動ベースの核酸分析における分子量マーカーが挙げられる。
【0020】
本明細書中で開示されるJNKインヒビターペプチドは、表1に提示される。この表は、JNKインヒビターペプチドの名前ならびにその配列の識別番号、長さ、およびアミノ酸配列を表す。
【0021】
【表1】
(JNKインヒビターペプチド)
ひとつの局面において、本発明は、JNKインヒビターペプチドを提供する。用語「ペプチド」は、特定の長さを意味しない。いくつかの実施形態において、JNKインヒビターペプチドは、280個アミノ酸未満であり、例えば、150、100、75、50、35または25個アミノ酸長以下である。種々の実施形態において、JNK結合インヒビターペプチドは配列番号1〜6の1以上のアミノ酸配列を含む。ひとつの実施形態において、JNKインヒビターペプチドは、JNKに結合する。別の実施形態において、このペプチドは、少なくとも1つのJNK活性化転写因子(例えば、c−Jun、ATF2またはElk1)の活性化を阻害する。
【0022】
JNKインヒビターペプチドの例としては、配列NH2−DTYRPKRPTTLNLFPQVPRSQDT−COOH(配列番号1)を(全てまたは部分的に)含む。別の実施形態において、このペプチドは、配列NH2−EEPHKHRPTTLRLTTLGAQDS−COOH(配列番号2)を含む。
【0023】
JNKインヒビターペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、または両方の組み合わせのポリマー重合体であり得る。例えば、種々の実施形態において、このペプチドは、Dレトロインベルソペプチド(Dretro−inverso peptide)である。用語「レトロインベルソ異性体」とは、配列の方向が逆であり、そして各アミノ酸残基のキラリティーが逆である直線状のペプチド異性体を言う。例えば、Jamesonら、Nature、368、744〜746(1994);Bradyら、Nature、368、692〜693(1994)を参照のこと。D−エナンチオマーおよび逆の合成を組み合わせの最終結果は、各アミド結合においてカルボニル基およびアミノ基の位置が置換され、一方、各α炭素で側鎖基の位置が保存される。他に特に示さない限り、本発明の所定の任意のL−アミノ酸配列は、対応するネイティブのL−アミノ酸配列に対して逆の配列を合成することによりDレトロインベルソペプチドに作製され得ることが予想される。
【0024】
1つの実施形態において、Dレトロインベルソペプチドは、配列NH2−TDQSRPVQPFLNLTTPRKPRYTD−COOH(配列番号3)を有する。別の実施形態において、Dレトロインベルソペプチドは、配列NH2−SDQAGLTTLRLTTPRHKHPEE−COOH(配列番号4)を有する。DレトロインベルソTAT−IBペプチドが種々の有用な性質を有することが予想外にも見出された。例えば、D−TATペプチドおよびD−TAT−IBペプチドは、L−TATペプチドおよびL−TAT−IBペプチドと同じくらい効率的に細胞に入り、そしてD−TATペプチドおよびDTAT−IBペプチドは、対応するL−ペプチドよりもより安定である。さらに、D−TAT−IB1は、JNKを阻害する効率においてL−TAT−IBよりも約10から20倍低いが、インビボでこれらは約50倍以上安定である。最後に、以下にさらに考察されるように、D−TAT−IBペプチドは、インターロイキン−1で処理され、そして電離放射された細胞をアポトーシスから保護する。
【0025】
別の実施形態において、本発明によるJNKインヒビターペプチドは、アミノ酸配列NH2−Xn−RPTTLXLXXXXXXXQDS/T−Xn−COOH(配列番号5、およびL−TAT−IBの17〜42残基、配列番号13、図2に示される)を含む。本明細書中で使用される場合、Xnは残基の長さが0であるか、もしくは配列番号1〜2(好ましくは、1と7の間のアミノ酸長のストレッチ)由来のペプチド残基の隣接するストレッチであるか、または10、20、30、もしくはそれ以上のアミノ酸長であり得る。単一残基は、一般的な配列においてSerまたはThrのいずれかであり得るS/Tにより表される。さらなる実施形態において、一般的なIBペプチドは、配列NH2−Xn−S/TDQXXXXXXXLXLTTPR−Xn−COOH(配列番号6、およびL−TAT−IBの17〜42残基、配列番号16、図2に示される)を有するDレトロインベルソペプチドであり得る。
【0026】
JNKインヒビターペプチドは、当該分野で周知の方法(例えば、化学合成、以下に考察される一般的な工学技術)により得られ、または産生され得る。例えば、所望の領域もしくはドメインを含むJNKインヒビターペプチドの一部と一致するペプチドか、またはインビトロで所望の活性を媒介するペプチドは、ペプチドシンセサイザーの使用により合成され得る。
【0027】
候補的なJNKインヒビターペプチドはまた、ペプチドの疎水性領域および親水性領域を同定するために使用され得る親水性分析(例えば、HoppおよびWoods、1981.Proc Natl Acad Sci USA 78:3824〜3828を参照のこと)により分析され得、従って実験操作(例えば、結合実験、抗体合成)のための物質の設計において助けとなる。二次構造分析はまた、特定の構造的モチーフを確立するJNKインヒビターペプチドの領域を同定するために行われ得る(例えば、ChouおよびFasman、1974、Biochem 13:222〜223を参照のこと)。操作、翻訳、二次構造の予想、親水性および疎水性プロファイル、オープンリーディングフレームの予想およびプロッティング、ならびに配列の相同性の決定は、当該分野で利用可能なコンピューターソフトプログラムを使用して達成され得る。構造分析の他の方法として、例えば、X線結晶解析(例えば、Engstrom、1974.Biochem Exp Biol 11:7〜13を参照のこと));質量分析およびガスクロマトグラフィー(例えば、METHODS IN PROTEIN SCIENCE、1997.J.WileyおよびSons、New York、NYを参照のこと)が挙げられ、そしてコンピュータモデリング(例えば、FletterickおよびZoller、編、1986.Computer Graphics and Molecular Modeling:CURRENT COMMUNICATION IN MOLECULAR BIOLOGY、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYを参照のこと)もまた使用され得る。
【0028】
本発明はさらにL型アミノ酸を有するJNK結合ペプチド(例えば、表1に記載されたこれらのL−ペプチド、ならびにこれらの配列の相補体)をコードする核酸に関する。JNKインヒビターペプチドをコードする核酸の適切な供給源はヒトIB1核酸(およびコードされたタンパク質配列)(それぞれ、GenBank 寄託番号AF074091およびAAD20443として利用可能)を含む。他の供給源としては、ラットIB1核酸が挙げられ、そしてタンパク質配列は、それぞれGenBank寄託番号AF108959およびAAD225543に示され、これらはその全体が本明細書中で参考として援用される。ヒトIB2核酸およびタンパク質配列は、GenBank寄託番号AF218778に示され、これもまた、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0029】
JNKインヒビターペプチドをコードする核酸は、当該分野で公知の任意の方法(例えば、配列の3’−および5−末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを使用するPCR増幅により、および/またはcDNAもしくは所定の遺伝子配列に対して特異的なオリゴヌクレオチド配列を使用するゲノムライブラリーからのクローニングにより)により得られ得る。
【0030】
1以上のJNKインヒビターペプチドの組換え体の発現のために、ペプチドをコードする核酸配列の全てまたは一部分を含む核酸が、適切な発現ベクター(すなわち、挿入されたペプチドコード配列の転写および翻訳のために必要なエレメントを含むベクター)に挿入され得る。いくつかの実施形態において、調節エレメントは、異種(すなわち、ネイティブ遺伝子プロモータでない)である。あるいは、必要な転写シグナルおよび翻訳シグナルはまた、遺伝子および/またはそれらの隣接する領域についてネイティブなプロモーターにより供給され得る。
【0031】
種々の宿主ベクター系は、ペプチドをコードする配列を発現するために利用され得る。これらは以下を含むが、限定ではない:(i)ワクシニアウィルス、アデノウイルスなどに感染した哺乳動物細胞系;(ii)バキュロウイルスなどに感染した昆虫細胞系;(iii)酵母ベクターを含む酵母または(iv)バクテリオファージDNA、プラスミドDNA、もしくはコスミドDNAで形質転換された細菌。利用される宿主細胞系により、多数の適する転写エレメントおよび翻訳エレメントの任意の1つが使用され得る。
【0032】
発現ベクター中のプロモーター/エンハンサー配列は、本発明において提供される植物、動物、昆虫、または真菌の調節配列を利用し得る。例えば、プロモーター/エンハンサーエレメントは、酵母および他の真菌(例えば、GAL4プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモータ、ホスホグリセロールキナーゼプロモータ、アルカリホスファターゼプロモータ)から使用され得る。あるいは、またはさらに、これらは動物の転写調節領域、例えば、(i)膵臓のβ細胞中で活性なインスリン遺伝子制御領域(例えば、Hanahanら、1985.Nature 315:115〜122を参照のこと);(ii)リンパの細胞中で活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、Grosschedlら、1984.Cell 38:647〜658を参照のこと);(iii)肝臓中で活性なアルブミン遺伝子制御領域(例えば、Pinckertら、1987.Genes and Dev 1:268〜276を参照のこと);(iv)脳稀突起膠細胞中で活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(例えば、Readheadら、1987.Cell 48:703〜712を参照のこと);および(v)視床下部中で活性なゴナドトロピン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、Masonら、1986.Science 234:1372〜1378)などが挙げられ得る。
【0033】
発現ベクターまたはそれらの誘導体としては、例えば、ヒトまたは動物ウイルス(例えば、ワクシニアウイルスまたはアデノウイルス);昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルス);酵母ベクター;バクテリオファージベクター(例えば、λファージ);プラスミドベクターおよびコスミドベクターが挙げられる。
【0034】
宿主細胞株は、挿入された目的の配列の発現を調節するか、または所望される特定の手段において、この配列によりコードされる発現されたペプチドを改変するか、もしくは処理するか選択され得る。さらに、特定のプロモータ由来の発現は、選択された宿主細胞株における特定のインデューサーの存在下で増強され得る;従って、一般的に設計されたペプチドの発現の制御を容易にする。さらに、異なる宿主細胞は、翻訳プロセスおよび翻訳後のプロセスならびに発現されたペプチドの改変(例えば、グリコシル化、リン酸化など)に対する特定の特徴付けられたメカニズムを有する。従って、適切な細胞株または宿主系は、外来のペプチドの所望される改変およびプロセスが達成されたことを保証するために選択され得る。例えば、細菌系でのペプチド発現は、グリコシル化されていないコアペプチドを産生するために使用され得る;一方、哺乳動物細胞での発現は、異種のペプチドの「ネイディブ」グリコシル化を保証する。
【0035】
本発明はまた、JNKインヒビターペプチドの誘導体、フラグメント、ホモログ、アナログおよび変異体、ならびにこれらのペプチドをコードする核酸を含む。核酸に関しては、本明細書中で提供される誘導体、フラグメントおよびアナログが、少なくとも6個の(隣接する)核酸配列として規定され、そしてこれらは特異的なハイブリダイゼーションをさせるに十分な長さを有する。アミノ酸に関して、本明細書中で提供される誘導体、フラグメントおよびアナログは少なくとも4個の(隣接する)アミノ酸配列として規定され、エピトープに特異的な認識をさせるに十分な長さである。
【0036】
フラグメントの長さは、JNKインヒビターペプチドまたは同じものをコードする核酸が由来する対応する全長の核酸またはポリペプチドの長さ未満である。誘導体およびアナログは、誘導体またはアナログが改変された核酸または改変されたアミノ酸を含む場合、全長でもあり得るし、全長以外であり得る。JNKインヒビターペプチドの誘導体またはアナログとしては、例えば、同一の大きさのアミノ酸配列に対する同一性、または当該分野で公知のコンピュータホモロジープログラムによりなされた配列において整列した配列と比較した場合に、種々の実施形態において、少なくとも約30%、50%、70%、80%、または95%、98%、またはさらに99%まで実質的にこのペプチドと相同である領域を含む分子が挙げられる。例えば、配列の同一性は、デフォルトのパラメーターを有する配列分析ソフトウェア(Sequence Analysis Software Packeage of the Genetics Computer Group,University of Wisconsin Biotechnology Center,1710 University Avenue,Madison,Wis.53705)により測定され得る。
【0037】
参照配列との同一性が100%未満であるポリペプチド配列の場合において、非同一の配置が好まれるが、参照配列に対して保存的置換である必要はない。保存的置換の代表として以下の群での置換が挙げられる:グリシンおよびアラニン;バリン、イソロイシンおよびロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギンおよびグルタミン;セリンおよびスレオニン;リジンおよびアルギニン;そしてフェニルアラニンおよびチロシン。従って、本発明は、ペプチドが対応する親配列を有するタンパク質との相同性(例えば、配列、機能、および免疫原性の性質または他の機能において)を残すような変異がなされた配列を有するペプチドを含む。例えば、このような変異体は、保存的なアミノ酸の変化(例えば、類似の分子の広範な性質のアミノ酸間の変化)を含む変異体であり得る。例えば、脂肪族群であるアラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン中での相互変化は、保存的であると考えられ得る。しばしば、これらの1つに対するグリシンの置換はまた、保存的であると考えられ得る。他の保存的な相互変化としては、以下:脂肪族群中でアスパラギン酸およびグルタミン酸;アミド群中でアスパラギンおよびグルタミン;ヒドロキシル群中でのセリンおよびスレオニン;芳香族群中でフェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;塩基群中でリジン、アルギニンおよびヒスチジン;そして硫黄を含む群中でメチオニンおよびシステインの相互変化が挙げられる。しばしば、メチオニンおよびロイシン群中での置換もまた、保存的であると考えられ得る。好ましい保存的な置換群として、アスパラギン酸−グルタミン酸;アスパラギン−グルタミン;バリン−ロイシン−イソロイシン;アラニン−バリン;フェニルアラニン−チロシン;およびロイシン−アルギニンが挙げられる。
【0038】
特定のポリペプチドが、規定された長さの参照ポリペプチドに対する前記特定の同一性パーセントを有すると言われる、同一性パーセントは参照ペプチドに対するものである。従って、100個のアミノ酸長さである参照ポリペプチドに50%相同であるペプチドは、参照ポリペプチドの50個のアミノ酸長さの部分と完全に同一である50個のアミノ酸のポリペプチドであり得る。それはまた、その全体の長さにわたって参照ポリペプチドと50%相同である100個のアミノ酸長さのポリペプチドであり得た。当然ながら他のポリペプチドは同じ基準を満たす。
【0039】
本発明はまた、開示されたポリヌクレオチドまたはペプチドの対立遺伝子の変異体を含む;これは、天然に存在する別の形態の単離されたポリヌクレオチドであり、これはまたこのポリヌクレオチドによりコードされたペプチドと同一であり、相同的であり、または関連のあるペプチドをコードする。あるいは、天然には存在しない改変体は、変異誘発技術または直接的な合成により産生され得る。
【0040】
開示されたポリヌクレオチドおよびペプチドの種ホモログがまた、本発明により提供される。「改変体」とは、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、これらの必須の性質は残すポリヌクレオチドまたはポリペプチドをいう。一般的に、改変体は、全体的に非常に近似しており、多くの領域において本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと同一である。この改変体は、コード領域、非コード領域、または両者において変化を含み得る。
【0041】
いくつかの実施形態において、タンパク質が輸送の性質を保有したままで、変化した配列は、全体的なアミノ酸配列が伸長されるように挿入を含む。さらに、変化した配列は、タンパク質が輸送の性質を保有しているままで全体的なアミノ酸配列を短くするランダムな内部欠損または設計された内部欠損を含み得る。
【0042】
この変更された配列は、さらにまたあるいは、JNKインヒビターペプチドが誘導されるポリペプチドまたはペプチドをコードする天然に存在するポリヌクレオチドの適切な鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。改変ペプチドは、本明細書中に記載されるアッセイを使用してJNK結合およびJNK媒介活性の調節について試験され得る。「ストリンジェントな条件」は、配列依存であり、そして異なる環境において異なる。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されるイオン強度およびpHで特異的配列に対する熱的融点(TM)よりも約5℃低いくなるように選択され得る。このTMは、標的配列の50%が完全にマッチするプローブにハイブリダイズする温度(規定のイオン強度およびpH下)である。典型的に、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7で少なくとも約0.02モル濃度であり、そして温度が少なくとも約60℃である条件である。他の因子は、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー(中でも、塩基組成および相補鎖のサイズを含む)、有機溶媒の存在および塩基ミスマッチングの程度に影響を及ぼし得るので、パラメーターの組み合わせは、他のどの絶対的な程度より重要である。
【0043】
高いストリンジェンシーとしては、例えば以下が挙げられ得る:工程1:DNAを含むフィルターを、6×SSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.02% PVP、0.02% Ficoll、0.02% BSA、および500μg/ml変性サケ精液DNAから構成される緩衝液中で8時間、一晩、65℃で前処理する。工程2:フィルターを、100mg/ml変性サケ精液DNAおよび5〜20×106cpmの32P標識されたプローブを添加した上の前ハイブリダイゼーション混合物中で48時間、65℃でハイブリダイズする。工程3:フィルターを、2×SSC、0.01% PVP、0.01% Ficoll、および0.01% BSAを含む溶液中で37℃で、1時間洗浄する。これに続いて、50℃にて45分間0.1×SSCで洗浄する。工程4:フィルターを、オートラジオグラフする。使用され得る高いストリンジェンシーの他の条件は、当該分野で周知である。例えば、Ausubelら、(編)、1993、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、NY;およびKriegler、1990、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、NY.を参照のこと。
【0044】
穏やかなストリンジェンシー条件としては、以下が挙げられ得る;工程1:DNAを含むフィルターを、6×SSC、5×Denhardt溶液、0.5%SDS、および100mg/ml変性サケ精液DNAを含む溶液中で6時間、55℃で前処理する。工程2:フィルターを、5〜20×106cpmの32P標識されたプローブを添加した同じ溶液中で18〜20時間、55℃でハイブリダイズする。工程3:フィルターを、2×SSC、0.1% SDSを含む溶液中で37℃で、1時間洗浄し、次いで1×SSCおよび0.1%SDSを含む溶液中で60℃で30分間2回洗浄する。工程4:フィルターを、乾燥ブロットし、そしてオートラジオグラフィーに曝す。使用され得る穏やかなストリンジェンシーの他の条件は、当該分野で周知である。例えば、Ausubelら、(編)、1993、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、NY;およびKriegler、1990、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、NY.を参照のこと。
【0045】
低いストリンジェンシーとしては、以下が挙げられ得る:工程1:DNAを含むフィルターを、35%ホルムアミド、5×SSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.1% PVP、0.1% Ficoll、1% BSA、および500μg/ml変性サケ精液DNAを含む溶液中で6時間、40℃で前処理する。工程2:フィルターを、0.02% PVP、0.02%Ficoll、0.02% BSA、100μg/ml変性サケ精液DNA、10%(重量/容積)硫酸デキストランおよび5〜20×106cpmの32P標識されたプローブを添加した同じ溶液中で18〜20時間、40℃でハイブリダイズする。工程3:フィルターを、2×SSC、25mM Tris−HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1% SDSを含む溶液中で1.5時間、55℃で洗浄する。この洗浄溶液を、新鮮な溶液と取り替え、さらに1.5時間、60℃でインキュベートする。工程4:フィルターを、乾燥ブロットし、そしてオートラジオグラフィーに曝す。必要な場合、フィルターを、65〜68℃で三回洗浄し、そしてフィルムに再度曝す。使用され得る低いストリンジェンシーの他の条件は、当該分野で周知である(例えば、種交差ハイブリダイゼーションために使用されるように)。例えば、Ausubelら、(編)、1993、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley and Sons、NY;およびKriegler、1990、GENE TRANSFER AND EXPRESSION、A LABORATORY MANUAL、Stockton Press、NY.を参照のこと。
【0046】
(JNKインヒビタードメインおよび輸送ドメインを含むキメラペプチド)
別の局面において、本発明は、第1のドメインおよび第2のドメインを含むキメラペプチドを提供する。第1のドメインは、輸送配列を含むが、第2のドメインは、第1のドメインに共有結合(例えば、ペプチド結合)で連結されたJNKインヒビター配列を含む。第1のドメインおよび第2のドメインは、ペプチドにおいて任意の順序で生じ得、そしてこのペプチドは、各ドメインを1つ以上含み得る。
【0047】
輸送配列は、その配列が存在するペプチドを所望の細胞目的地に指向するアミノ酸の任意の配列である。従って、輸送配列は、形質膜を横切って(例えば、細胞外から)、形質膜を介して、そして細胞質内にペプチドを指向し得る。あるいは、またはさらに、輸送配列は、細胞中の所望の場所(例えば、核、リボソーム、ER、リソソーム、もしくはペルオキシソーム)へペプチドを指向し得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、輸送ペプチドは、公知の膜転座配列由来である。例えば、輸送ペプチドは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)1 TATタンパク質の配列を含み得る。このタンパク質は、例えば、米国特許第5,804,604号および同第5,674,980号に記載されており、それぞれ、参考として本明細書に援用される。JNKインヒビターペプチドは、TATタンパク質を構成する完全な86アミノ酸のいくつかまたは全てに連結され得る。例えば、細胞内への取り込みおよび必要に応じて細胞核内へ取り込みを示す、86アミノ酸よりも少ないTATタンパク質の機能的に有効なフラグメントまたは部分は、使用され得る。1つの実施形態において、フラグメントは、TAT残基48〜57を含むペプチド(例えば、NH2−GRKKRRQRRR−COOH(配列番号7)または一般的なTAT配列NH2−Xn−RKKRRQRRR− Xn−COOH(配列番号9))を含む。細胞内への流入および取り込みを媒介する領域を含むTATペプチドは、公知の技術を使用してさらに規定され得る。例えば、Frankedら、Proc.Natl.Acad.Sci、USA 86:7397−7401(1989)を参照のこと。
【0049】
TAT配列は、JNKインヒビター配列のN末端またはC末端のいずれかに連結され得る。2つのプロリン残基のちょうつがいは、TATとJNKインヒビターペプチドとの間に付加されて、完全な融合ペプチドを形成する。例えば、L−アミノ酸融合ペプチドは、L−TAT−IB1ペプチド(配列番号11)、L−TAT−IB2ペプチド(配列番号12)、または一般的なL−TAT−IBペプチド(配列番号13)であり得る。D−レトロ−インベルソ融合ペプチドは、D−TAT−IB1ペプチド(配列番号14)、D−TAT−IB2ペプチド(配列番号15)、または一般的なD−TAT−IBペプチド(配列番号16)であり得る。TATペプチドは、配列NH2−Xn−RRRQRRKKR−Xn−COOH(配列番号10)を有するD−レトロ−インベルソペプチドであり得る。配列番号5〜6、9〜10、13および16において、「X」残基の数は、示された1つに限定されず、上に記載のように変更し得る。
【0050】
輸送配列は、TAT配列に存在する単一(すなわち連続)アミノ酸配列であり得る。あるいは、TATタンパク質に存在する2つ以上のアミノ酸配列であり得るが、天然に存在するタンパク質においては他のアミノ酸配列によって分離される。本明細書中で使用する場合、TATタンパク質は、天然に存在するTATタンパク質、またはその機能的に等価なタンパク質または機能的に等価なそれらのフラグメント(ペプチド)のアミノ酸配列と同じ天然に存在するアミノ酸配列を含む。このような機能的に等価なタンパク質または機能的に等価なフラグメントは、天然に存在するTATタンパク質の細胞内へのおよび細胞核内への取り込み活性と実質的に同様の活性を有する。TATタンパク質は、天然に存在する供給源から得られ得るか、または遺伝子工学技術または化学合成を使用して生成され得る。
【0051】
天然に存在するHIV TATタンパク質のアミノ酸配列は、例えば、天然に存在するTATタンパク質に存在する少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失および/または置換によって改変され、改変TATタンパク質を生成し得る(本明細書中ではTATタンパク質ともいわれる)。増加したまたは減少した安定性を有する改変TATタンパク質またはTATペプチドアナログは、公知の技術を使用して生成され得る。いくつかの実施形態において、TATタンパク質またはペプチドは、天然に存在するTATタンパク質またはそれらの部分のアミノ酸配列と実質的に同様のアミノ酸配列を同一ではないが、含む。さらに、コレステロールまたは他の脂質誘導体が、TATタンパク質に添加され、増加した膜溶解性を有する改変TATを生成し得る。
【0052】
TATタンパク質の改変体は、TAT−JNKインヒビターペプチドの細胞内の局在化を調節するように設計され得る。外因的に添加する場合、このような改変体は、細胞に入るTATの能力が、保持される(すなわち、細胞への改変TATタンパク質またはペプチドの取り込みが、天然に存在するHIV TATの取り込みと実質的に同様である)ように設計される。例えば、核局在化に重要であると考えられた基礎領域の変化(例えば、DangおよびLee、J.Biol.Chem.264:18019−18023(1989);Hauberら、J.Virol.63:1181−1187(1989);Rubenら、J.Viral.63:1−8(1989)を参照のこと)は、TATの(従ってJNKインヒビターペプチドの)細胞質位置選定または部分的細胞質位置選定を生じ得る。あるいは、細胞質または任意の他の成分もしくは画分(例えば、小胞体、ミトコンドリア、グルーム(gloom)体、リソソーム体)を結合する配列は、細胞質または任意の他の画分においてTATおよびJNKインヒビターペプチドを保持し、TATおよびJNKインヒビターペプチドの取り込みに対する調節を与えるために、TATへ導入され得る。
【0053】
輸送ペプチドについての他の供給源として、例えばVP22(例えば、WO97/05265;ElliottおよびO’Hare、Cell 88:223−233(1997)に記載される)または非ウイルス性タンパク質(Jacksonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10691−10695(1992))が挙げられる。
【0054】
JNKインヒビター配列および輸送配列は、当該分野で公知の任意の適切な様式において化学的カップリングによって連結され得る。多くの公知の化学架橋方法は、非特異的である、すなわち、この方法は、輸送ポリペプチドまたは積荷(cargo)高分子上の任意の特定の部位への結合部分を指向しない。結果として、非特異的架橋薬剤の使用は、機能的部位を攻撃するか、または活性部位を立体的にブロックし得、結合体化タンパク質を生物学的に不活性にする。
【0055】
カップリング特異性を増加させる1つの方法は、架橋されるべきポリペプチドの1つあるいは両方において1回のみまたは2、3回見出される官能基への直接的な化学カップリングである。例えば、多くのタンパク質において、チオール基を含む唯一のタンパク質アミノ酸であるシステインは、2、3回だけ現れる。例えばまた、ポリペプチドが、リジン残基を含まない場合、1級アミンに対する特異的な架橋試薬は、このポリペプチドのアミノ末端に対して選択性である。カップリング特異性を増加させるこのアプローチの成功した利用は、ポリペプチドが、分子の生物学的活性の損失無しに変化され得る分子の領域において適切にまれなでかつ反応性の残基を有することを必要とする。
【0056】
システイン残基が、架橋反応におけるポリペプチド配列の関与が別な方法で生物学的活性を妨げそうなポリペプチド配列の部分に存在する場合、システイン残基は、置換され得る。システイン残基が置換される場合、ポリペプチド折り畳みにおいて生じる変化を最小にすることは、典型的に望ましい。置換が、化学的および立体的にシステインと同様の場合、ポリペプチド折り畳みにおける変化は、最小となる。これらの理由から、セリンは、システインの置換として好ましい。以下の実施例に示すように、システイン残基は、架橋の目的でポリペプチドのアミノ酸配列に導入され得る。システイン残基が導入される場合、アミノ末端もしくはカルボキシ末端で、またはアミノ末端の近くもしくはカルボキシ末端の近くでの導入は、好ましい。従来の方法は、目的のポリペプチドが化学合成または組換えDNAの発現のどちらによって生成されようと、このようなアミノ酸配列改変について利用可能である。
【0057】
2つの成分のカップリングは、カップリング剤又は結合体化剤を介して達成され得る。利用され得るいくつかの分子間架橋試薬がある(例えば、MeansおよびFeeney、CHEMICAL MODIFICATION OF PROTEINS、Holden−Day、1974、pp.39−43.を参照のこと)。これらの試薬の中には、例えば、J−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)またはN,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド(共に、スルフヒドリル基に対して高い特異性であり、そして非可逆的結合を形成する。);N,N’−エチレン−ビス−(ヨードアセトアミド)または6〜11個の炭素メチレン架橋を有する他のこのような薬剤(スルフヒドリル基に対して相対的に特異的である);および1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(アミノ基およびチロシン基と不可逆的結合を形成する)がある。この目的に使用する他の架橋試薬としては、p,p’−ジフルオロ−m,m’−ジニトロジフェニルスルホン(アミノ基およびフェノール基と不可逆的架橋を形成する);ジメチルアジピミデート(アミノ基に対して特異的である);フェノールー1,4−ジスルホニルクロライド(アミノ基と主に反応する);ヘキサメチレンジイソシアナートまたはジイソチオシアナート、またはアゾフェニル−p−ジイソシアナート(アミノ基と主に反応する);グルタルアルデヒド(いくつかの異なる側鎖と反応する)およびディスジアゾベンジジン(チロシンおよびヒスチジンと主として反応する)が挙げられる。
【0058】
架橋試薬は、ホモ二官能性(homobifunctional)であり得る、すなわち、同じ反応をうける二つの官能基を有する。好ましいホモ二官能性架橋試薬は、ビスマレイミドヘキサン(「BMH」)である。BMHは、穏やかな条件下(pH6.5〜7.7)でスルフヒドリル含有化合物と特異的に反応する2つのマレイミド官能基を含む。2つのマレイミド基は、炭化水素鎖で連結される。従って、BMHは、システイン残基を含むポリペプチドの不可逆的架橋に有用である。
【0059】
架橋試薬はまた、ヘテロ二官能性(heterobifunctional)であり得る。ヘテロ二官能性架橋試薬は、2つの異なる官能基(例えば、それぞれ遊離アミンおよび遊離チオールを有する2つのタンパク質を架橋するアミン反応性基およびチオール反応性基)を有する。ヘテロ二官能性架橋試薬の例は、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(「SMCC」)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(「MBS」)、およびスクシンイミド4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(「SMPB」)(MBSの伸長鎖アナログ)である、これらの架橋剤のスクシンイミジル基は、一級アミンと反応し、そしてチオール反応性マレイミドは、システイン残基のチオールと共有結合を形成する。
【0060】
架橋試薬はしばしば、水に対して低い溶解性を有する。スルホネート基などの親水性部分は、架橋試薬に付加され、その水溶解性を改善し得る。スルホ−MBSおよびスルホ−SMCCは、水溶性について改変された架橋試薬の例である。
【0061】
多くの架橋試薬は、細胞性条件下で基本的に切断不可能な結合体を生じる。しかし、いくつかの架橋試薬は、細胞性条件下で切断可能な共有結合(ジスルフィドなど)を含む。例えば、Traut試薬、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)(「DSP」)、およびN−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(「SPDP」)は、周知の切断可能架橋剤である。切断可能架橋試薬の使用は、積荷部分を、標的細胞への送達後に輸送ポリペプチドから分離し得る。直接ジスルフィド結合もまた、有用であり得る。
【0062】
多くの架橋試薬(上記のものを含む)は、市販されている。それらの使用についての詳細な指示は、市販の供給源から容易に入手可能である。タンパク質架橋および結合体化調製物についての概説参考文献は以下である:Wong,CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSS−LINKING,CRC Press(1991)。
【0063】
化学架橋は、スペーサーアームの使用を含み得る。スペーサーアームは、分子間の可撓性を提供するか、または結合体化した部分の間の分子間距離を調整し、そしてそれにより、生物学的活性の保持を補助し得る。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸を含むポリペプチド部分の形態であり得る(例えば、プロリン)。あるいは、スペーサーアームは、架橋剤(例えば、「長鎖SPDP」(Pierce Chem.Co.,Rockford,IL.,cat.No.21651 H)の部分であり得る。
【0064】
あるいは、キメラペプチドは、輸送配列およびJNKインヒビター配列を含む融合ペプチドとして生成され得、これは、公知の適切な宿主細胞において簡便に発現され得る。融合ペプチドは、本明細書において記載されるように、上記のような標準的な組換えDNA技術に類似する方法で、またはそれに容易に適合可能な方法で形成および使用され得る。
【0065】
(JNKインヒビターペプチドに対して特異的な抗体の生成)
JNKインヒビターペプチド(JNKインヒビターペプチド(例えば、表1に示されるアミノ酸配列を含むペプチド)を含むキメラペプチドを含む)は、ペプチドまたはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログと同様に、免疫原として利用されて、これらのペプチド成分を免疫特異的に結合する抗体が生成され得る。そのような抗体としては、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、単鎖、FabフラグメントおよびFab発現ライブラリーが挙げられる。特定の実施形態において、ヒトペプチドに対する抗体が開示される。別の特定の実施形態において、JNKインヒビターペプチドのフラグメントは、抗体産生の免疫原として使用され得る。当該分野において公知の種々の手順は、JNKインヒビターペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対するポリクローナルまたはモノクローナル抗体の生成のために使用され得る。
【0066】
ポリクローナル抗体の生成のために、種々の宿主動物は、ネイティブペプチドまたはその合成改変体、あるいはそれらの誘導体の注射により免疫され得る。種々のアジュバントを使用して、免疫学的応答を増強し得、そしてそれらには以下が挙げられるがそれらに限定されない:フロイント(完全および不完全)、鉱物ゲル(例えば、水酸化アルミニウム)、表面活性化物質(例えば、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、ジニトロフェノールなど)およびヒトアジュバント(例えば、BCGおよびCorynebacterium parvum)。
【0067】
JNKインヒビターペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対して指向されるモノクローナル抗体の調製のために、連続的な細胞株培養により、抗体分子の生成を提供する任意の技術が利用され得る。そのような技術としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:ハイブリドーマ技術(以下を参照のこと:Kohler and Milstein,1975.Nature 256:495−497);トリオーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(以下を参照のこと:Kozbor,et al.,1983.Immunol Today 4:72)およびヒトモノクローナル抗体を生成するためのEBVハイブリドーマ技術 (以下を参照のこと:Cole,et al.,1985.Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp.77−96)。ヒトモノクローナル抗体は、本発明の実施において利用され得、そしてヒトハイブリドーマの使用 (以下を参照のこと:Cote,et al.,1983.Proc Natl Acad Sci USA 80:2026−2030)またはヒトB細胞をエプスタインバーウイルスをインビトロで形質転換すること(以下を参照のこと:Cole,et al.,1985.Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy (Alan R.Liss,Inc.,pp.77−96)により生成され得る。
【0068】
本発明に従って、技術は、JNKインヒビターペプチドに特異的な単鎖抗体の産生のために適合され得る(例えば、以下を参照のこと:米国特許第4,946,778号)。さらに、方法論は、Fab発現ライブラリーの構築のために適合されて(例えば、以下を参照のこと:Huse,et al.,1989.Science 246:1275−1281)、JNKインヒビターペプチドまたはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対する所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ有効な同定を可能にし得る。非ヒト抗体は、当該分野において周知の技術により「ヒト化」され得る。例えば、以下を参照のこと:米国特許第5,225,539号。JNKインヒビターペプチドに対するイディオタイプを含む抗体フラグメントは、以下を含む、当該分野において公知の技術によって生成され得る:例えば、(i)抗体分子のペプシン消化によって生成されるF(ab’)2フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって生成されるFabフラグメント;(iii)パパインおよび還元剤での抗体分子の処理により生成されるFabフラグメント;および(iv)Fvフラグメント。
【0069】
1つの実施形態において、所望の特異性を有する抗体のスクリーニングについての方法論としては以下が挙げられるがそれらに限定されない:酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)および当該分野において公知の他の免疫学的に媒介される技術。特定の実施形態において、JNKインヒビターの特定のドメインに対して特異的である抗体の選択は、そのようなどメインを有するJNKインヒビターペプチドのフラグメントに結合するハイブリドーマの生成によって容易になる。JNKペプチド、または誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログのフラグメント内のドメインに対して特異的である抗体もまた本明細書において提供される。
【0070】
抗JNKインヒビターペプチド抗体は、JNKインヒビターペプチドの局在化および/または定量に関連する分野内で公知の方法において使用され得る(例えば、適切な生理学的サンプル内のペプチドのレベルを測定するにおける使用のため、診断方法における使用のため、ペプチドを画像化するにおける使用のためなど)。所定の実施形態において、抗体由来の結合ドメインを含む、JNKインヒビターペプチド、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログに対する抗体は、薬理学的に活性な化合物(本明細書において「治療剤」(「Therapeutics」)と以下で呼ぶ)として利用される。
【0071】
(所望されないJNK活性を伴う障害を処置または予防する方法)
本発明において含まれるのはまた、被験体に、生物学的に活性な治療化合物(本明細書において「治療剤」(「Therapeutics」)と以下で呼ぶ)を投与することによって、被験体におけるJNK活性に伴う細胞増殖障害を処置する方法である。その被験体は、例えば、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ)であり得る。
【0072】
治療剤としては、以下が挙げられる:例えば、(i)JNKインヒビターペプチドならびにその誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログの任意の1つ以上;(ii)JNKインヒビターペプチドに対して指向される抗体;(iii)JNKインヒビターペプチドならびにその誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログ)をコードする核酸;(iv)JNKインヒビターペプチドをコードする配列に対するアンチセンス核酸、ならびに(v)モジュレーター(すなわち、インヒビター、アゴニストおよびアンタゴニスト)。
【0073】
用語「治療的に有効」とは、例えば、使用されるインヒビターペプチド、の量がJNKに関連する障害を改善するに十分な量であることを意味する。用語「細胞増殖障害」とは、周囲の組織とは、形態学的および機能的に異なるようにしばしばみえる、悪性の細胞集団および非悪性細胞集団をいう。例えば、この方法は、JNKの活性化がしばしば実証された種々の器官系の悪性疾患を処置するにおいて有用であり得る(例えば、肺、乳房(胸部)、リンパ系、胃腸、および生殖尿管ならびに腺癌(以下のような悪性疾患を含む:結腸癌、腎細胞がん、前立腺癌、肺の非小細胞がん、小腸の癌および食道癌)。JNKの活性化を明らかに必要とする、Bcr−Ab1オンコジーン形質転換を伴う癌もまた包含される。
【0074】
この方法はまた、非悪性または免疫学的に関連する細胞増殖疾患(例えば、乾癬、尋常性天疱瘡、ベーチェット症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性心疾患、透析後症候群、白血病、慢性関節リウマチ、後天性免疫不全症候群、敗血性ショックおよび他の型の急性炎症、ならびに脂質組織球増殖症を処置するにおいて有用である。特に好ましくは、免疫病理障害である。本質的には、JNKキナーゼ活性に病因学的に関連する任意の障害が処置を受け入れると考えられる。
【0075】
処置としては、JNKキナーゼ活性を調節する試薬の投与が挙げられる。用語「調節」は、それが過剰発現されるときの、JNKの発現の抑制を含む。それはまた、配列番号1〜6および配列番号11〜16の任意の1つ以上のペプチドを、細胞における天然のc−jun、ATF2およびNFAT4の結合部位の競合インヒビターとして使用することによる、例えば、c−jun、ATF2またはNFAT4のリン酸化の抑制を含む。従って、また、c−jun、ATF2またはNFATから作製される転写因子とその関連するパートナーとの、ヘテロマーまたはホモマー複合体(例えば、c−jun、AFT2およびc−fosから作製されるAP−1複合体)の抑制が包含される。細胞増殖障害がJNK過剰発現に関連するとき、そのような抑制性JNKインヒビターペプチドは、細胞に導入され得る。いくつかの場合において、「調節」は、例えば、JNKに対するIBペプチドの結合をブロックし、それによりIB関連ペプチドによるJNK阻害を予防する、IBペプチド特異的な抗体の使用による、JNK発現の増加を包含し得る。
【0076】
本発明のJNKインヒビター、ペプチド、融合ペプチドおよび核酸は、薬学的組成物中で処方され得る。これらの組成物は、上記の物質のひとつに加えて、薬学的に受容可能な賦型剤、キャリア、緩衝剤、安定化剤または当業者に周知の他の材料を含み得る。そのような材料は、非毒性であるべきであり、そして活性成分の効力に干渉すべきではない。キャリアまたは他の材料の正確な性質は、投与経路に依存し得る(例えば、経口、静脈内、皮膚または皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内またはパッチ経路)。
【0077】
経口投与のための薬学的組成物は、錠剤、カプセル、散剤または液体形態であり得る。錠剤は、固形キャリア(例えば、ゼラチンまたはアジュバント)を含み得る。液状薬学的組成物は、概して、液体キャリア(例えば、水、石油、動物油、植物油、鉱油または合成油)を含む。生理食塩水溶液、デキストロースまたは他の糖溶液もしくはグリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール)もまた含まれ得る。
【0078】
静脈内、皮膚または皮下の注射、あるいは罹患部位への注射のために、活性成分は、非経口的に受容可能な水溶液の形態であり、これは、発熱物質を含まず、そして適切なpH、等張性および安定性を有する。関連分野の当業者は、例えば、等張性ビヒクル(例えば、食塩注射(Sodium Chloride Injection)、リンゲル注射液、乳酸リンゲル注射液)を用いて適切な溶液を調製し得る。保存剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加物もまた、必要に応じて含まれ得る。
【0079】
それがポリペプチド分子であれ、ペプチド分子であれ、核酸分子であれ、個体に与えられるべき、本発明に従う、他の薬学的に有用な化合物は、投与は、好ましくは、「予防有効量」または「治療有効量」(症例にもより得るが、予防は、治療とも考えられ得る)であり、これは、個体に対して利益を示すに十分である。実際に投与される量ならびに投与の速度および時間経過は、処置される性質および重症度に依存する。処置の処方(例えば、投薬量の決定など)は、一般医および他の医師の責任において行われ、そして代表的には、処置されるべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与の方法および実施者に公知のたの因子を考慮する。上記の技術およびプロトコルの例は、以下に見出される:REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,16th edition,Osol,A.(ed),1980。
【0080】
あるいは、標的化治療を使用して、抗体または細胞特異的リガンドのような標的化系の使用により、特定の型の細胞により特異的な活性因子を送達し得る。標的化は、種々の理由で所望され得る:例えば、その因子が、受容不可能なくらいに毒性である場合、またはそれが別の方法で高すぎる投薬量を必要とする場合、またはそれがそうでなければ標的化に侵入し得ない場合。
【0081】
これらの因子を直接投与する代わりに、それらは、例えばウイルスベクター(VDEPT技術の改変、以下を参照のこと)においてその細胞に導入されたコード遺伝子からの発現により標的細胞において生成され得る。このベクターは、処置されるべき特定の細胞に対して標的化され得るか、またはそれは、調節エレメントを含み得、これは、標的細胞によっておおかれ少なかれ選択的にスイッチオンされる。
【0082】
あるいは、この因子は、処置されるべき細胞においてまたはそこへと標的化される、活性化因子によって活性化形態へと変換するために、前駆体の形態で投与され得る。この型のアプローチは、ときに、ADEPTまたはVDEPTとして知られ、前者は、活性化因子を、細胞特異的抗体への結合体化により細胞へと標的化する工程を包含し、他方後者は、ウイルスベクターにおけるコードDNAからの発現によってベクター中で活性化因子(例えば、JNKインヒビターペプチド)を生成する工程を包含する(例えば、以下を参照のこと:EP−A−415731およびWO 90/07936)。
【0083】
本発明の特定の実施形態において、核酸は、JNKインヒビターペプチドをコードする配列、またはその機能的な誘導体を含み、投与されて、遺伝子治療による活性化されたJNKシグナル伝達経路を調節する。より特定の実施形態において、核酸またはJNKインヒビターペプチドをコードする核酸、あるいはその機能的誘導体は、遺伝子治療により投与される。本発明のこの密使形態において、その核酸は、そのコードされたペプチドを生成し、これはついで疾患または障害の機能を調節することによって、治療効果を発揮するように作用する。当該分野において利用可能な遺伝子治療に関連する任意の方法論が本発明の実施において使用され得る。例えば、以下を参照のこと:Goldspiel,et al.1993.Clin Pharm 12:488−505。
【0084】
好ましい実施形態において、治療剤は、IB関連ペプチド、またはそのフラグメント、誘導体もしくはアナログの任意の1つ以上を、適切な宿主中で発現する発現ベクターの部分である核酸を含む。特定の実施形態において、このような核酸は、JNKインヒビターペプチドのコード領域に作動可能に連結されたプロモーターを有する。このプロモーターは、誘導性または構成的であり得、そして必要に応じて組織特異性であり得る。別の特定の実施形態において、コード配列(および任意の他の所望される配列にゲノム中の所望の部位で相同組換えを促進する領域が隣接し、それにより核酸の染色体内の発現を提供する核酸分子が使用される。例えば、以下を参照のこと:Koller and Smithies,1989、Proc Natl Acad Sci USA 86:8932−8935。
【0085】
治療剤核酸の患者への送達は、直接(すなわち、核酸または核酸含有ベクターへの直接の暴露)または間接的(すなわち、細胞はまず核酸でインビトロで形質転換され、ついで患者へと移植される)のいずれかであり得る。これら2つのアプローチは、それぞれ、インビボまたはエキソビボの遺伝子治療として知られる。本発明の特定の実施形態において、核酸は、インビボで直接投与され、ここで発現されて、コードされる産物が生成される。これは、以下を含む、当該分野において公知の多数の方法のいずれかにより達成され得る:例えば、核酸を適切な核酸発現ベクターの部分として構築する工程、およびこれを、それが細胞内に存在するように投与する工程(例えば、欠損もしくは弱毒化レトロウイルスまたは他のウイルスベクターを用いた感染;以下を参照のこと:米国特許第4,980,286号);裸のDNAの直接注射;微粒子ボンバードメント(例えば、Gene Gun(登録商標);Biolistic,DuPont);脂質での核酸のコーティング;関連する細胞表面レセプター/トランスフェクト剤の使用;リポソーム、微粒子または微小カプセル中へのカプセル化;核へ侵入することが知られるペプチドとともにそれを投与すること;またはレセプター媒介エンドサイトーシスの素因があるリガンドとともにそれを投与すること(例えば、以下を参照のこと:Wu and Wu,1987.J Biol Chem 262:4429−4432)(これは、目的のレセプターを特異的に発現する細胞型を「標的化」するために使用され得る)など)。
【0086】
本発明の実施における遺伝子治療のさらなるアプローチは、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、ウイルス感染などのような方法によって遺伝子をインビトロで組織培養物に移す工程を包含する。一般に、この移す方法としては、選択マーカーの細胞への同時移入が挙げられる。ついで、この細胞を選択圧の下に置き(例えば、抗生物質耐性)、移入された遺伝子を取り込んで、発現しつつある細胞の単離を容易にする。ついで、これらの細胞を、患者に送達する。特定の実施形態において、得られた組換え細胞のインビボ投与の前に、核酸は、当該分野において公知の任意の方法によって細胞に導入される。この方法には、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、目的の核酸配列を含むウイルスもしくはバクテリオファージベクターでの感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子移入、およびその移入によってレシピエントの細胞の必要な発達および生理的機能が破壊されないことを確実にする類似の方法論が挙げられる。例えば、以下を参照のこと:Loeffler and Behr,1993.Meth Enzymol 217:599−618。選択された技術は、細胞へ核酸を安定に移入することを提供し、その結果、核酸は、その細胞によって発現され得る。好ましくは、移入される核酸は、その細胞子孫によって遺伝され得、そして発現され得る。
【0087】
本発明の好ましい実施形態において、得られた組換え細胞は、当該分野において公知の種々の方法によって患者に送達され得る。これらの方法には、例えば、内皮細胞の注入(例えば、皮下)、組換え皮膚細胞を皮膚移植片として患者に適用すること、および組換え血球(例えば、造血幹細胞または始原細胞)を静脈内注射することが挙げられる。使用が企図される細胞の全量は、所望の効果、患者の状態などに依存し、そして当業者によって決定され得る。
【0088】
核酸が遺伝子治療の目的で導入され得る細胞は、任意の所望の利用可能な細胞型を包含し、そして異種(xenogeneic)、異種(heterogeneic)、同系(syngeneic)または自己(autogeneic)であり得る。細胞型としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:分化された細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞および血球)、または幹細胞(特に、肺性心筋細胞、肝幹細胞(国際特許公開WO 94/08598)、神経幹細胞(Stemple and Anderson,1992,Cell 71:973−985)、造血幹細胞または始原細胞(例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られた細胞)。好ましい実施形態において、遺伝子治療に利用される細胞は、患者にとって自己である。
【0089】
(免疫アッセイ)
本発明のペプチドおよび抗体は、アッセイ(例えば、免疫アッセイ)において利用されて、JNKもしくはJNKインヒビターペプチドの異常レベルによって特徴付けられる状態、疾患および障害を診断(prognose)、診断(diagnose)、またはモニターをし得るか、またはそれらの処置をモニターし得る。「異常レベル」とは、身体の罹患していない部分から、またはその障害を有しない被験体からの類似のサンプルにおいて存在するレベルに比較してサンプルにおいて増加または減少したレベルを意味する。免疫アッセイは、免疫特異的な結合が生じ得る条件で抗体と患者に由来するサンプルとを接触させる工程、、およびついでその抗体による任意の免疫特異的結合の量を検出または測定する工程を包含する方法によって行われ得る。特定の実施形態において、JNKインヒビターペプチドに対して特異的な抗体を使用して、JNKまたはJNKインヒビターの存在について、患者からの組織または血清のサンプルを分析し得る。ここで、異常レベルのJNKまたはJNKインヒビターペプチドは、罹患した状態の指標である。利用され得る免疫アッセイとしては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:ウェスタンブロット、放射免疫アッセイ(RIA)、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集素アッセイ、蛍光免疫アッセイ、補体固定アッセイ、免疫放射測定アッセイ、およびプロテインA免疫アッセイなどのような競合アッセイ系および非競合アッセイ系。
【0090】
(キット)
本発明は、抗JNKインヒビターペプチド抗体、および必要に応じて標識された、抗体に対する結合パートナーを含む1つ以上の容器を備える、診断用途または治療用途のキットをさらに提供する。抗体に取り込まれた標識としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:化学発光部分、酵素部分、蛍光部分、呈色部分、または放射性部分。別の特定の実施形態において、JNKインヒビターペプチドをコードするかまたは代替的に相補的である改変されたかまたは改変されていない核酸、および必要に応じてその標識された、その核酸に対する結合パートナーを含む、1つ以上の容器を含む、診断用途のためのキットもまた提供される。代替の特定の実施形態において、そのキットは、1つ以上の容器中に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、以下を参照のこと:Innis,et al.,1990.PCR PROTOCOLS,Academic Press,Inc.,San Diego,CA)、リガーゼ連鎖反応、サイクリックプローブ反応など、または当該分野で公知の他の方法のための増幅プライマーとして働き得る、一対のオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、各々は6−30ヌクレオチド長)を含み得る。このキットは、必要に応じて、診断標準またはアッセイにおけるコントロールとして使用するために、精製されたJNKインヒビターペプチドまたはその核酸の所定の量をさらに含み得る。
【0091】
本発明は、本明細書において記載される特定の実施形態によってその範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書において記載されるものの本発明の種々の改変は、上記の説明および添付の図面から当業者には明白である。そのような改変は、添付の特許請求の範囲内に入る。
【0092】
種々の文献が本明細書において引用されており、その開示は、その全体が本明細書において参考として援用される。
【実施例】
【0093】
(実施例1:JNKインヒビターペプチドの同定)
JNKとの効率的な相互作用のために重要なアミノ酸配列を、公知のJBD間の配列アラインメントにより同定した。IB1(配列番号17)、IB2(配列番号18)、c−Jun(配列番号19)、およびATF2(配列番号20)のJBD間の配列比較は、弱く保存された8アミノ酸配列を規定した(図1A)。IB1およびIB2のJBDは、JNKとの結合においてc−JunもしくはATF2より約100倍効率的であるので(Dickensら、Science 277:693(1997)、IB1とIB2との間で保存された残基が、最大結合を付与するために重要でなければならないことが推論された。IB1とIB2のJBD間の比較は、2つの配列間で高度に保存されている7および3つのアミノ酸の2つのブロックを規定した。これらの2つのブロックは、IB1(配列番号1)内の23アミノ酸およびIB2(配列番号2)内の21アミノ酸のペプチド配列内に含まれている。これらの配列は、図1Bに示され、IB2配列内のダッシュは、保存された残基をアラインするための配列内のギャップを示す。
【0094】
(実施例2:JNKインヒビター融合タンパク質の調製)
JNKインヒビター融合タンパク質を、JBD23のC末端またはIB2(JBD21)のJBD由来の21アミノ酸配列を、HIV−TAT48-57(Vivesら、J.Biol.Chem.272:16010(1997))由来のN末端10アミノ酸長キャリアペプチドへ、2つのプロリン残基からなるスペーサーを介して、共有結合することにより合成した。このスペーサーを、可撓性を最大とするために、そして所望でない二次構造の変化を防止するために、使用した。図1Cに示されるように、これらの調製物を、L−TAT(配列番号7)、L−TAT−IB1(配列番号11)、およびL−TAT−IB2(配列番号2)と、それぞれ命名した。全てのDレトロインベルソペプチドTAT融合ペプチドもまた合成し、そしてD−TAT(配列番号8)およびD−TAT−IB1(配列番号14)と、それぞれ命名した。全てのDおよびLペプチドを古典的なFモック合成により生成し、そして質量分析によりさらに分析した。それらを、HPLCにより最終的に精製した。プロリンスペーサーの効果を決定するために、2つのプロリンを有するもの、2つのプロリンを有さないものという2つのタイプのTATペプチドを生成した。その2つのプロリンの付加は、TATペプチドの細胞内への侵入または細胞内での局在化を改変するようではなかった。
【0095】
保存されたアミノ酸残基を示す一般的なペプチドは、図2に示される。「X」は、任意のアミノ酸を示す。所定のペプチドにおけるXの数は、示されるものに限定されるわけではなく、変化しうる。一般配列のより詳細な記載については、上記を参照のこと。
【0096】
(実施例3:JBD23によるβ細胞死の阻害)
次いで、JNKの生物学的活性に対するIB1の23アミノ酸長のJBD配列の効果を研究した。23アミノ酸の配列を、グリーン蛍光タンパク質(GFP−JBD23構築物)のN末端に結合し、そしてこの構築物の、IL−1βにより誘導される膵臓β細胞アポトーシスに対する効果を評価した。図3を参照のこと。アポトーシスのこの態様は、以前にJBD1-280でのトランスフェクションによってブロックされることが示されたのに対して、ERK1/2またはp38の特異的インヒビターは、保護しなかった。Ammendrupら(前出)を参照のこと。
【0097】
23アミノ酸配列(JBD23;図1B)および完全に保存された領域で変異した配列(JBD23mut)に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、そしてグリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードするpEGFP−N1ベクター(Clontechから入手)のEcoRIおよびSalI部位に直接挿入した。インスリンが産生するβTC−3細胞を、10%ウシ胎仔血清、100μg/mL ストレプトマイシン、100ユニット/mL ペニシリン、および2mM グルタミンを補充したRPMI 1640培地中で培養した。インスリンを産生するβRC−3細胞を、示されたベクターでトランスフェクトし、そしてIL−1β(10ng/mL)を細胞培養培地に添加した。アポトーシス細胞の数を、IL−1βを添加した48時間後に、倒立蛍光顕微鏡を使用して計算した。細胞質の「小胞形成」の特徴により、アポトーシス細胞を正常細胞から区別し、2日後に計数した。
【0098】
図3に示されるように、GFPはコントロールとして使用したグリーン蛍光タンパク質発現ベクターであり;JBD23は、IB1のJBD由来の23アミノ酸の配列に結合したキメラGFPを発現するベクターであり;JBD23Mutは、GFP−JBD23と同じベクターであるが、JBDは、図1Bに示される4つの保存された残基で変異されている;JBD280は完全なJBD(アミノ酸1-280)に結合したGFPベクターである。GFP−JBD23を発現する構築物は、JBD1-280と同様に効率的に、IL−1βが誘導する膵臓β細胞アポトーシスを防止した(図3、JBD280/IL−1に比較してのJBD23/IL−1)。さらなるコントロールとして、完全に保存されたIB1残基で変異された配列は、アポトーシスを防止する能力が非常に減少されていた(図3、JBD23Mut/IL−1)。
【0099】
(実施例4:TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチドの細胞内移入)
TAT、TAT−IB1、およびTAT−IB2ペプチド(「TAT−IBペプチド」)のLおよびD立体異性体形態の細胞へ侵入する能力を評価した。
【0100】
L−TAT、D−TAT、L−TAT−IB1、L−TAT−IB2、およびD−TAT−IB1ペプチド(それぞれ配列番号7、8、11、12、および14)を、フルオレセインに結合体化したグリシン残基のN末端への付加により標識した。標識したペプチド(1μM)を、βTC−3細胞培養に添加し、これを実施例3に記載されるように維持した。所定の時間に、細胞をPBSで洗浄し、そして氷冷メタノールアセトン(1:1)中で5分間固定し、その後、蛍光顕微鏡下で検査した。蛍光標識したBSA(1μM、12モル/モルBSA)をコントロールとして使用した。結果は、全ての上記の蛍光標識したペプチドが、細胞培養中に一旦添加されると、効率的にかつ迅速に(5分未満で)細胞に侵入したことを実証した。反対に、蛍光標識したウシ血清アルブミン(1μM BSA、12モル フルオレセイン/モルBSA)は、細胞に侵入しなかった。
【0101】
時間経過の研究は、L立体異性体ペプチドについての蛍光シグナルの強度が、24時間後に、70%減少したことを示した。48時間において、シグナルはほとんどか全く存在しなかった。対照的に、D−TAT、およびD−TAT−IB1は、細胞内で非常に安定であった。これら全てのDレトロインベルソペプチド由来の蛍光シグナルは、1週間後にもなお非常に強力であり、そしてそのシグナルは、処置の2週間後にわずかに少し減少したに過ぎなかった。
【0102】
(実施例5:c−JUN、ATF2およびElk1リン酸化のインビトロでの阻害)
その標的転写因子のJNK媒介リン酸化に対するペプチドの効果を、インビトロで研究した。組換えおよび非活性化JNK1、JNK2、およびJNK3を、転写および翻訳ウサギ網状赤血球溶解物キット(Promega)を使用して生成し、そしてc−JUN、ATF2、およびElk1を単独または基質としてのグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)に融合させて用いた固相キナーゼアッセイにおいて使用した。用量応答研究を、L−TAT、L−TAT−IB1、またはL−TAT−IB2ペプチド(0〜25μM)を、反応緩衝液(20mMTris酢酸、1mM EGTA、10mM p−ニトロフェニルホスフェート(pNPP)、5mM ピロリン酸ナトリウム、10mM p−グリセロホスフェート、1mM ジチオスレイトール)において20分間、組換えJNK1、JNK2、またはJNK3キナーゼと混合した。次いで、そのキナーゼ反応物を10mM MgCl2および5μCi33P−γーdATPおよび1μgのGST−Jun(アミノ酸1〜89)、GST−AFT2(アミノ酸1〜96)またはGST−ELK1(アミノ酸307〜428)の添加により開始した。GST融合タンパク質を、Stratagene(LaJolla,CA)から購入した。10μLのグルタチオンアガロースビーズもまた、その混合物に添加した。次いで、反応生成物を、変性10%ポリアクリルアミドゲル上で、SDS−PAGEによって分離した。ゲルを乾燥し、そして引き続いてX線フィルム(Kodak)に暴露した。JNKによるc−Jun、ATF2、およびElk1リン酸化のほとんど完全な阻害が、2.5μM程度のTAT−IBペプチドの用量で観察された。しかし、顕著な例外は、Elk1のJNK3リン酸化のTAT−IB阻害が存在しないことであった。全体として、TAT−IB1ペプチドは、それらの標的転写因子のElk1のJNKファミリーのリン酸化を阻害するにおいて、わずかにTAT−IB2に対して優れているようであった(図4Aを参照のこと)。
【0103】
組換えJNK1、JNK2、およびJNK3によるGST−Jun(アミノ酸1〜73)のリン酸化を阻害するD−TAT、D−TAT−IB1、およびL−TAT−IB1ペプチド(0〜250μM用量研究)の能力は、上記のように分析された。全体として、D−TAT−IB1ペプチドは、L−TAT−IB1よりも約10〜20倍非効率的なレベルで、c−JunのJNK媒介リン酸化を減少させた(図4Bを参照のこと)。
【0104】
(実施例6:活性化JNKによるc−JUNリン酸化の阻害)
ストレス性刺激によって活性化されるJNKに対するL−TAT、L−TAT−IB1、またはL−TAT−IB2ペプチドの効果を、JNKをUV光照射したHeLa細胞またはIL−1β処理したβTC細胞から引きおろすために、GST−Junを使用して評価した。βTC細胞を、以下に記載のように培養した。HeLaを、10%ウシ胎仔血清、100μg/mLのストレプトマイシン、100ユニット/mlのペニシリン、および2mM グルタミンを補充したDMEM培地において培養した。細胞抽出調製物のために使用する1時間前に、βTC細胞を、上記のようにIL−1βで活性化した一方、HeLa細胞を、UV光(20J/m2)によって活性化した。細胞抽出物を、コントロール、UV光照射HeLa細胞、およびIL−1β処置βTC−3細胞から、溶解緩衝液(20mM Tris酢酸、1mM EGTA、1%TritonX−100、10mM p−ニトロフェニルホスフェート、5mM ピロリン酸ナトリウム、10mM βグリセロホスフェート、1mM ジチオスレイトール)中の細胞培養物を引っかき取ることによって調製した。細片を、SS34 Beckmanローター中での15,000rpmで5分間の遠心分離によって除去した。100μgの抽出物を、1時間、室温で1μgのGST−jun(アミノ酸1-89)および10μLのグルタチオンアガロースビーズ(Sigma)とともにインキュベートした。引っかき用緩衝液での4回の洗浄の後、そのビーズをL−TAT、L−TAT−IB1またはL−TAT−IB2ペプチド(25μM)を補充した同じ緩衝液中で20分間再懸濁した。次いで、キナーゼ反応を10mM MgCl2および5μCiの33P−γ−dATPの添加により開始し、そして30℃で30分間インキュベートした。次いで、反応生成物をSDS−PAGEによって変性10%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。ゲルを乾燥し、そして引き続いてX線フィルム(Kodak)に暴露した。TAT−IBペプチドは、効率的に、これらの実験において、活性化JNKによるc−Junのリン酸化を防止した(図6を参照のこと)。
(実施例7:TAT−IBペプチドによるc−JUNリン酸化のインビボ阻害)
細胞透過性ペプチドがインビボでJNKシグナリングをブロックし得るかどうかを決定するため、本発明者らは異種GAL4系を使用した。HeLa細胞(上記のように培養)を、GAL4 DNA結合ドメインに連結したc−Jun(アミノ酸1−89)の活性化ドメインを含むGAL−Jun発現構築物(Stratagene)と共に5×GAL−LUCレセプターベクターで同時トランスフェクトした。JNKの活性化を、直ぐ上流のキナーゼMKK4およびMKK7(Whitmarshら、Science 285:1573(1999)を参照)を発現するベクターの同時トランスフェクションにより達成した。簡潔には、3×105細胞を、製品の指示書に従ってDOTAP(Boehringer Mannheim)を使用して、3.5cmディッシュにおいて、プラスミドでトランスフェクトした。GAL−Jうnを含む実験には、20ngのプラスミドを、1μgのレセプタープラスミドpFR−Luc(Stratagene)および0.5μgのMKK4発現プラスミドもしくはMKK7発現プラスミドのいずれかでトランスフェクトした。トランスフェクションの3時間後、細胞培地を交換し、そしてTAT、TAT−IB1およびTAT−IB2ペプチド(1μM)を加えた。ルシフェラーゼ活性を、16時間後に、タンパク質含量に対して正規化した後でPromegaの「Dual Reporter System」を使用して測定した。図5に示されるように、TAT−IB1ペプチドおよびTAT−IB2ペプチドの添加が、共に、JNKのMKK4媒介活性化後およびMKK7媒介活性化後のc−Jun活性化をブロックした。HeLa細胞はJNK1イソフォームおよびJNK2イソフォームの両方を発現するがJNK3は発現しないので、本発明者らは細胞をJNK3でトランスフェクトした。再び、2つのTAT−IBペプチドはc−JunのJNK2媒介活性化を阻害した。
【0105】
(実施例8:TAT−IBペプチドによるIL−1β誘導膵臓β細胞死の阻害)
本発明者らは、IL−1βにより誘発される膵臓β細胞アポトーシスの促進に対するL−TAT−IBペプチドの効果を調べた。βTC−3細胞培養物を、30分間1μMのL−TAT−IB1ペプチドまたはL−TAT−IB2ペプチドのいずれかと共に、続いて10ng/mlのIL−1βと共にインキュベートした。ペプチド(1μM)の第2の添加を24時間後に行った。アポトーシス細胞を、IL−1βとの2日間のインキュベーション後に、Propidium Iodide(赤く染色された細胞が死細胞である)およびHoechst33342(青く染色された細胞が、インタクトな形質膜を有する細胞である)核染色を使用して計数した。図5に示されるように、TAT−IBペプチドの添加により、IL−1βの存在下で2日間培養されたβTC−3細胞のIL−1β誘導アポトーシスが阻害された。
【0106】
IL−1β誘導細胞死の長期阻害を、βTC−3細胞を上記のように(ペプチドおよびIL−1βとの細胞のインキュベーションを12日間持続したことを除いて)処理することにより調べた。さらなるペプチド(1μg)を各日添加し、そしてさらなるIL−1β(10ng/mL)を1日おきに添加した。TAT−IB1ペプチドは、これらの条件においてアポトーシスに対して強力な保護を付与する。まとめると、これらの実験により、TAT−IBペプチドは、細胞運命に対するJNKシグナリングの効果を妨げ得る、生物学的に活性な分子であることが確立される。
【0107】
(実施例9:ペプチドの合成)
本発明のペプチドは、天然のタンパク質分解を妨げるために逆に合成された全D体アミノ酸ペプチド(すなわち、全Dレトロ−インベルソペプチド)であり得る。本発明の全Dレトロ−インベルソペプチドは、ネイティブのペプチドと同様な機能的特性を有するペプチドを提供する。ここで、成分アミノ酸の側鎖はネイティブペプチドのアラインメントに対応するが、プロテアーゼ耐性骨格を保持する。
【0108】
本発明のレトロ−インベルソペプチドは、D体アミノ酸を使用して、レトロ−インベルソペプチドアナログ中のアミノ酸の配列が、モデルとして働く選択されたペプチド中の配列と正確に反対であるように、アミノ酸をペプチド鎖に付着することによって合成されるアナログである。例示のため、天然に存在するTATタンパク質(L体アミノ酸から生成)は、配列GRKKRRQRRR(配列番号7)を有し、このペプチドのレトロ−インベルソペプチドアナログ(D体アミノ酸から生成)は、配列RRRQRRKKRG(配列番号8)を有する。D体アミノ酸の鎖を合成してレトロ−インベルソペプチドを生成する手順は、当該分野において公知である(例えば、Jamesonら、Nature,368,744−746(1994);Bradyら、Nature,368,692−693(1994);Guichardら、J.Med.Chem.39,2030−2039(1996)を参照)。具体的には、レトロ−ペプチドを、古典的なF−モック合成により作製し、質量分析によりさらに分析する。これらを最終的にHPLCにより精製した。
【0109】
ネイティブなペプチドの生来の問題は、天然プロテアーゼによる分解および生来の免疫原性であるので、本発明のヘテロ2価化合物またはヘテロ多価化合物は、所望のペプチドの「レトロ−インベルソ異性体」を含むように調製される。したがって、ペプチドを天然のタンパク質分解から保護することは、半減期を延長させることおよびそのペプチドを能動的に破壊することを狙う免疫応答の程度を減少させることの両方により、その特定のヘテロ2価化合物またはヘテロ多価化合物の有効性を増大させる。
【0110】
(実施例10:全Dレトロ−インベルソIBペプチドの長期生物学的活性)
ペプチドヘテロ結合体を含むD−TAT−IBレトロ−インベルソについて、ネイティブのL体アミノ酸アナログと比較する場合、実施例5に示すように、ネイティブなプロテアーゼによる破壊からのD−TAT−IBペプチドの保護に起因して、長期生物学的活性が予測される。
【0111】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導膵臓β細胞死の阻害を分析した。図10に示すように、示されたペプチド(1μM)を単回添加し、次いでIL−1β(10ng/ml)を添加して、βTC−3細胞を上記のように30分間インキュベートした。次いで、IL−1βとの2日間のインキュベーションの後、Propidium IodideおよびHoechst33342核染色を使用して、アポトーシス細胞を計数した。最小1,000細胞を、各実験について計数した。平均の標準誤差(SME)を示す(n=5)。D−TAT−IBペプチドは、IL−1誘導アポトーシスを、L−TAT−IBペプチドと同様な程度まで減少させた(図5と図10を比較)。
【0112】
D−TAT−IB1ペプチドによるIL−1β誘導細胞死の長期阻害もまた分析した。示されたペプチド(1μM)を単回添加し、次いでIL−1β(10ng/ml)を添加し、続いてサイトカインを1日おきに、βTC−3細胞を上記のように30分間インキュベートした。次いで、IL−1βとの15日間のインキュベーションの後、Propidium IodideおよびHoechst33342核染色を使用して、アポトーシス細胞を計数した。L−TAT−IB1ペプチドの単回添加は、長期保護を付与しないことに注意すべきである。最小1,000細胞を、各実験について計数した。平均の標準誤差(SME)を示す(n=5)。結果を図9に示す。D−TAT−IBは、長期(15日)保護を付与し得たが、L−TAT−IB1は長期保護を付与しなかった。
【0113】
(実施例11:TAT−IBペプチドによる照射誘導膵臓β細胞死の阻害)
JNKはまた電離放射線による活性化される。TAT−IBペプチドが照射誘導JNK損傷に対して保護を提供するかどうかを決定するため、図10に示されるように、「WiDr」細胞に、D−TAT、L−TAT−IB1またはD−TAT−IB1ペプチド(照射の30分前に1μMを添加)の存在下または非存在下で照射した(30Gy)。コントロール細胞(CTRL)は照射しなかった。細胞を、48時間後に、上記のように、PIおよびHoechst33342染色により分析した。SEMを示す(n=3)。L−TAT−IB1ペプチドおよびD−TAT−IB1ペプチドは共に、このヒト結腸ガン細胞株において照射誘導アポトーシスを妨げ得た。
【0114】
(実施例12:TAT−IBペプチドによる電離放射線に対する放射線防護)
TAT−IBペプチドの放射線防護効果を決定するため、C57 Bl/6マウス(2〜3ヶ月齢)に、Phillips RT250 R線を、0.74Gy/分の線量率(17mA、0.5mm Cuフィルター)で照射した。照射の30分前に、動物に、TAT、L−TAT−IB1およびD−TAT−IB1ペプチドのいずれか(1mM溶液30μl)をi.p.注射した。簡潔には、マウスに以下のとおり照射した:マウスを小さなプラスチック箱に、頭が外に出るように横たえて入れる。動物を背中が照射装置の下になるように置き、首を小さなプラスチックトンネル中に固定して頭部を正確な位置に維持した。体部を鉛で保護した。照射前は、マウスを標準的なペレットマウス飼料で飼育したが、照射後は、マウスを、毎日新しくした半液状飼料で飼育した。
【0115】
次いで、口唇粘膜の反応を、Parkinsら(Parkinsら、Radiotherapy & Oncology,1:165−173,1983)により開発されたスコア付けシステムに従って、2人の独立した観察者によりスコア付けした。ここで、紅斑の状態ならびに浮腫、剥離および滲出の存在について値を見積もった。さらに、紅斑/浮腫の状態の各記録の前に動物の体重を測定した。
【0116】
図12Aは照射後のマウスの体重を示す。そのマウスの最初の体重を100とし、それに対する値を報告した。CTRL:30μlの生理食塩水を注射したコントロールマウス。報告した各値について、n=2。S.D.をしめす。x軸の値は日数。
【0117】
図12Bは照射後の紅斑/浮腫のスコア付けを示す。図12Aと同じマウスの腹側口唇の浮腫および紅斑の状態を定量化した。報告した各値について、n=2。x軸の値は日数。
【0118】
これらの実験の結果は、TAT−IBペプチドが電離放射線に関連する体重損失および紅斑/浮腫に対して保護し得ることを示す。
【0119】
(実施例13:L−TAT−IB1ペプチドによるJNK転写因子の抑制)
AP−1二重化標識プローブ(5’−CGC TTG ATG AGT CAG CCG GAA−3’)を用いてゲルシフト法を行った。HeLa細胞核抽出物を、示されるように、5ng/mlのTNF−αで1時間処理したかまたは処理しなかった。TATペプチドおよびL−TAT−IB1ペプチドを、TNF−αの30分前に添加した。特定のAP−1 DNA複合体ゲルの部分(非標識特異的および非特異的競合物との競合実験により示される)のみを示す。L−TAT−IB1ペプチドは、TNF−αの存在下でAP−1 DNA結合複合体の形成を減少させる(図11を参照)。
【0120】
(等価物)
本発明の特定の実施形態の上記詳細な説明から、独特な細胞透過生物活性ペプチドが記載されていることが明らかであるはずである。特定の実施形態が本明細書で詳細に開示されているが、これは、例示を目的としただけで、本願発明の範囲を限定す意図はない。特に、種々の置換、変更、および改変が、本発明に対して、本発明の精神および範囲を逸脱することなくなされ得ることは、本発明者らにより企図されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載される発明。
【請求項1】
本明細書に記載される発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−81479(P2013−81479A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−15111(P2013−15111)
【出願日】平成25年1月30日(2013.1.30)
【分割の表示】特願2011−116398(P2011−116398)の分割
【原出願日】平成12年10月12日(2000.10.12)
【出願人】(507045085)ザイジェン エス.アー. (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−15111(P2013−15111)
【出願日】平成25年1月30日(2013.1.30)
【分割の表示】特願2011−116398(P2011−116398)の分割
【原出願日】平成12年10月12日(2000.10.12)
【出願人】(507045085)ザイジェン エス.アー. (17)
【Fターム(参考)】
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