説明

L1/L5バイアス推定を有する広域補強システムのための方法及び装置

広域補強システム(WAAS)は、L1/L5バイアス推定を含む。L1電離層遅延及びL1電離層遅延レートの推定値を受信し、GEO勾配電離層遅延を受信し、GEO衛星のユーザ電離層垂直誤差情報を受信し、L1電離層遅延及びL1電離層遅延レートの推定値並びにGEO勾配電離層遅延からL1/L5バイアス推定値を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L1/L5バイアス推定を有する広域補強システムのための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広域補強システム(WAAS)は、国防総省の全地球測位システム(GPS)標準測位サービス(SPS)を補強する安全性最重要視(セーフティクリティカル:safety critical)システムである。WAASシステムは、RTCA/DO-229C, Minimum Operational Performance Standards for Global Positioning System/Wide Area Augmentation System Airborne Equipment, 28 November 2001という文献として特定されるWAAS最低運用性能基準(MOPS)によって説明されている。この文献は、参照により本明細書に援用され、当業者には既知である。
【0003】
WAASは、出発から途中において、また進入時に全米航空システム(NAS)の航空ナビゲーションの手段を提供する。WAASは、次のもの、すなわち、可用性及び信頼性を改善する測距機能、精度を改善するディファレンシャルGPS補正、及び安全性を改善する完全性監視でGPSを補強する。このシステムは、任意のFAA承認済み飛行フェーズについて、WAAS認定済み航空機航空電子工学に空間信号(Signal-in-Space)(SIS)を提供する。SISは、WAASメッセージブロードキャスト(同報通信)及び測距能力を含むさまざまなサービスを提供する。
【0004】
WAASは、広域基準局(WRS)、広域主局(WMS)、及びGEOアップリンクサブシステム(GUS)の3つのタイプのサイトに分割される。GUSとは、WAASプログラムで実施されたGEOアップリンクサブシステムを言い、GUSTとは、静止通信制御セグメント(Geostationary Communication and Control Segment)(GCCS)プログラムで実施されたGEOアップリンクサブシステムを言う。広域基準局(WRS)は、米国の全米航空システム全体にわたって分散されている。これらの基準局は、GPS測定値及びGEO測定値を収集し、それらの測定値をWMSへ送信する。WMSは、そのデータを処理して、各GEO衛星及び各GPS衛星の補正完全性情報を提供する。この補正情報は、個別の構成要素として、衛星軌道暦誤差(satellite ephemeris error)、時計バイアス、及び電離層推定データを含む。WMSからの補正値は、GEO衛星へのアップリンクのためにGUSTへ送信される。
【0005】
静止通信制御セグメント(GCCS)は、2つのGUSTサブシステム及び1つのGEO衛星を備える。2つのGUSTサブシステムは、互いに動作が独立し、たとえば、自然災害による同時喪失を軽減するために地理的に離されている。一方のGUSTサブシステムは、衛星への主(1次)アップリンクとして動作する一方、他方のGUSTサブシステムは、バックアップとして動作し、ダミーの負荷に放射を行う。各GUSTサブシステムは、信号ジェネレータサブシステム(SGS)及び無線周波数アップリンク(RFU)サブシステムの2つのサブシステムを含む。SGSは、WMSからWAASメッセージを受信し、WAASメッセージを、正確なGPS L1変調及びGPS L5変調並びに擬似ランダム雑音(PRN)ゴールド符号と組み合わせて、WAAS L1アップリンク信号及びWAAS L5アップリンク信号を作成する。RFUは、これらのIF PRN符号化されたL1アップリンク信号及びL5アップリンク信号をSGSから受信し、それらの信号をRFアップリンク周波数に変換し、それらの信号を増幅してGEO衛星へ送信する。
【0006】
RFUは、ダウンリンクL1 WAAS信号及びダウンリンクL5 WAAS信号をGEO衛星から受信し、それらの信号を増幅して、結果として得られたL1信号及びL5信号をSGSに提供する。SGSは、GEO測定値を抽出し、それらの測定値を、制御ループへの入力として使用する。この制御ループは、ダウンリンクL1信号及びダウンリンクL5信号の符号及び搬送波位相がコヒーレントになるように、アップリンク信号を調整して、アップリンク電離層遅延及びドップラー効果を補償する。また、GUSTサブシステムは、信号ジェネレータ及び受信機の周波数基準として使用されるセシウム周波数標準も含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書に含まれる例示的な実施形態は、添付図面と共に鑑みられる以下の詳細な説明からより完全に理解されよう。
図1は、広域基準局(wide-area reference station)(WRS)102a〜102NがGPS衛星104及びGEO衛星106から信号を受信する、本発明による信号符号搬送波コヒーレンシ(signal code carrier coherency)を有するWAASシステム100を示している。広域主局(WMS)108は、広域基準局102と通信して、情報をGEOアップリンクサブシステム(GUS)110に提供する。GUS110は、L1信号及びL5信号を含む信号をGEO衛星106から受信し、補正情報をGEO衛星106に提供する。航空機等のスペースビークル(SV)112は、GPS衛星104及びGEO衛星106からの情報を使用して、空間を飛行する。
【0008】
従来のWAASシステムでは、WAAS広域主局(WMS)が、WAASネットワーク時刻(WNT)を計算し、各衛星の時計パラメータ(オフセット及びドリフト)を推定する。GEOアップリンクシステム(GUS)の時計は、独立して自由に動作する時計を有する。しかしながら、GUS時計は、GEO衛星空間信号(SIS)から正確な測距を可能にするためにWNT(GPS時間)を追従しなければならず、その結果、時計ステアリング(clock steering)アルゴリズムが必要となる。GUS時計ステアリングアルゴリズムは、WAASメッセージプロセッサ(WMP)にある。WAASタイプ9メッセージ(GEOナビゲーションメッセージ)は、WMSによって提供されるGUS WMPへの入力である。
【0009】
GUST時計は、GPS時刻エポック及びWAASネットワーク時刻(WNT)にステアリングされる。GUST受信機時計誤差は、GPSエポックからのその1PPS(パルス毎秒)のずれである。時計誤差は、GUSプロセッサで計算される。この計算は、複数の衛星データ(MOPS残差と呼ばれる擬似距離残差)を(予測誤差統計量で重み付けされた最小二乗という意味で)結合して、測量されたGUS位置に関する位置誤差推定値にすることにより、ユーザ位置誤差を計算することによって行われる。このように計算された時計誤差は、WAASネットワーク時刻を基準とした相対的なものである。時計ステアリングアルゴリズムは、WAASタイプ9メッセージ(GEOナビゲーションメッセージ)で初期化される。この構成では、GUST受信機時計は、1PPSでGPS時刻エポックとの同期が維持される。10MHz周波数標準は、受信機の周波数基準であるので、受信機の周波数出力は、1PPSが調整されるように制御される必要がある。比例積分微分(PID)コントローラは、GUSTロケーションにおいてGPS時刻と同期する。
【0010】
また、時計ステアリングメカニズムは、GUST時計を軌道誤差から切り離し、WMSの補正プロセッサの軌道決定フィルタにおける軌道誤差の可観測性も向上させる。さらに、時計ステアリングアルゴリズムは、GUSTロケーションにおけるGUST時計をGPS時刻に同期させる。
【0011】
再び図1を参照して、基準局102は、GPS測定値及びGEO測定値を収集して、収集した情報をWAAS広域主局(WMS)108へ送信する。WMS108は、そのデータを処理して、各GEO衛星104及び各GPS衛星106の補正完全性情報を提供する。この補正情報は、別個の構成要素として、衛星軌道暦誤差、時計バイアス、及び電離層推定データを含む。WMS108からの補正値は、GEO衛星106へのアップリンク用にGUS110へ送信される。
【0012】
広帯域SIS搬送波は、符号搬送波周波数コヒーレンスが維持されるL1信号及びL5信号を含む。GEO106は、L1信号を1575.42MHzでブロードキャストし、L5信号を1176.45MHzでブロードキャストする。L1パスでは、GUST110は、WMS108から完全性補正データ及びWAAS特有メッセージを受信し、前方(順方向)誤り訂正(FEC)符号化を追加し、それらのメッセージを、たとえば航空機112といったWAASユーザへブロードキャストするためにCバンドアップリンクを介してGEO衛星106へ送信する。GUSTアップリンク信号は、GPS標準測位サービス波形(C/A符号、BPSK変調)を使用する。一方、データレートはそれよりも高い(250ビット毎秒)。250ビットのデータは、2分の1レート畳み込み符号(one-half rate convolutional code)で符号化され、その結果、500シンボル毎秒の送信レートになる。各シンボルは、1.023×10チップ/秒の擬似乱数列であるC/A符号によって変調されて、スペクトル拡散信号が提供される。この信号は、次に、GUS110によって中間周波数(IF)搬送波へ2相位相シフトキーイング(BPSK)変調され、Cバンド周波数にアップコンバートされ、GEO106へアップリンクされる。
【0013】
従来のWAASシステムでは、GUSは、WMSからのWAASタイプ9メッセージ(GEOナビゲーション)を使用してGEOのエポックをGPSエポックと位置合わせする時計ステアリングアルゴリズムを含む。WAASタイプ9メッセージは、aGf0又は時計オフセットと呼ばれる項を含む。このオフセットは、GEOのエポックとWAASネットワーク時刻(WNT)との間の補正、すなわち時間差を表している。WNTは、WAASの内部時刻基準尺度であり、GPS時刻尺度を追従する必要がある一方、同時に、ユーザには、協定世界時(UTC)に変換したものを提供する。GPSマスタ時刻は直接取得することができないので、WAASアーキテクチャは、場合によっては異なる数組の受信機及び時計(WAAS基準局)からの、場合によっては異なる数組の測定値を使用してWNTが複数のWMSで計算されることを必要とする。WNTは、50ナノ秒以内までGPS時刻と一致している必要がある。同時に、WNTからUTCまでのオフセットをユーザに提供しなければならず、このオフセットは、20ナノ秒の精度である。従来のGUSは、ローカル時計調整値を計算する。これらの時計調整値に基づいて、GUS時計を高速にしたり低速にしたりするように周波数標準を作成することができる。これによって、全GEO時計オフセットは、WAASタイプ9メッセージによって認められた範囲内に維持され、その結果、ユーザは、自身のアルゴリズムで適切な時計補正を行うことができる。
【0014】
別の時計ステアリングメカニズムでは、GUST110は、たとえば、1次になった後の最初の24時間の期間中、上記時計ステアリング方法を使用する。以下でより完全に説明するように、GUST時計がWNTと同期すると、時計ステアリングの本発明による第2の方法が、受信機時計誤差のMOPS解と、aGf0の平均と、MOPS解の平均とを合成したものを時計ステアリングコントローラへの入力として使用する。
【0015】
図2は、時計ステアリングを有する1つの例示的な1次GUSTシステム200を示している。このGUSTシステム200は、受信機204に結合されている全地球測位システム(GPS)静止衛星アンテナ202を備える。受信機204は、初期時刻同期情報を信号ジェネレータ206、WAASメッセージプロセッサ208、及びGUSTプロセッサ210に提供する。また、GUST受信機204は、GUSTプロセッサ210にデータも提供する。WAASメッセージプロセッサ(WMP)208は、本発明による時計ステアリング制御情報を周波数標準システム212に提供する。周波数標準システム212は、時計ステアリング情報を位相雑音エンハンサ214に提供する。位相雑音エンハンサ214は、時計ステアリング情報を受信機204及び信号ジェネレータ206に渡す。
【0016】
加えて、GUSTプロセッサ210は、時計誤差情報をWAASメッセージプロセッサ208に渡し、ラップされたWAASメッセージをWAASメッセージプロセッサ208へ送信する。WAASプロセッサ208は、ラップされていないWAASメッセージをGUSTプロセッサ210へ送信する。WAASメッセージプロセッサ208は、ラップされたWAASメッセージのラップを解除して、CRC(巡回冗長検査)データを除去し、このラップされていないメッセージ(CRCなし)をGUSTプロセッサ210へ送信する。
【0017】
L1空間信号(SIS)及びL5空間信号のタイミング又は符号位相は、GUST受信機204及び信号ジェネレータ206によって設定される。GUST受信機204は、セシウム周波数標準212からの入力基準周波数に基づいて配給される。時計調整(ステアリング)がない場合、セシウム周波数標準212の出力周波数は、時間と共に変化する。この結果、受信機204及び信号ジェネレータ206は、時間と共にGPSエポックからずれる。補正がない場合、このずれは、最終的には、非常に大きくなるので、L1及びL5の符号位相偏移は必要限界を超える。
【0018】
セシウム周波数標準212を周波数制御コマンドで調整することによって、受信機204及び信号ジェネレータ206は、GPSエポック及びWAASネットワーク時刻(WNT)との同期を維持することができる。
【0019】
1次GUSTサブシステム200の場合、SISの符号位相偏移は、アップリンク遅延推定誤差、及び、制御ループによって補償されていない、L1信号とL5信号との間のディファレンシャルバイアスによっても影響を受ける。タイプ9メッセージ時計オフセットaGf0は、初期時計ステアリングで使用されて、初期符号位相偏移を0にする。後に発生するL1/L5バイアスによるどの符号位相偏移も、aGf0の長期平均を使用することによって補正され、時計ステアリング制御規則への入力として使用される。
【0020】
バックアップGUSTサブシステムの場合、時計ステアリングの目的は、受信機及び信号ジェネレータをWAASネットワーク時刻(又はGPS時刻)と同期状態に維持することである。この同期を達成することによって、1次GUSTとバックアップGUSTとの間の時計誤差の相違は最小にされる。
【0021】
図3は、本発明による時計ステアリングを有する1次GEOアップリンクサブシステムタイプ1(GUST)300を示している。GUST受信機302は、GPS測定値をGUSTプロセッサ304へ送信する。GUSTプロセッサ304は、図1のGUSTプロセッサ110とほぼ同様のものとすることができる。WAAS主局(WMS)306は、WAASメッセージをGUSTプロセッサ304に提供し、aGf0情報を含むタイプ9メッセージをユーザ距離(レンジ)精度(URA)チェックモジュール307に提供する。1つの例示的な実施形態では、ブロック307、310、312、314、316、318、及び320に関連した処理は、図2のWAASメッセージプロセッサ208で行うことができる。ブロック304の処理は、GUSTプロセッサ210で行うことができる。
【0022】
GUSTプロセッサ304は、従来の合理性チェック310プロセスを実行するWAASメッセージプロセッサ308に受信機時計誤差情報を送信する。合理性チェックプロセス310は、平滑化モジュール312及び長期MOPS時計誤差モジュール314に、フィルタリングされた受信機時計誤差を出力する。平滑化モジュール312は、平滑化された受信機時計誤差を計算する。この平滑化された受信機時計誤差は、たとえば、60秒にわたって平均されたものとすることができる。平滑化モジュールは、平滑化された受信機時計誤差出力を加算モジュール316に提供する。より詳細には、平滑化モジュール312は、現在の受信機時計誤差と、最近のX秒内に合理性チェック(モジュール310)を通過したすべての有効な受信機時計誤差との合計を求める。次に、平滑化モジュール312は、その合計を、有効な受信機時計誤差の総数で除算して、平滑化された受信機時計誤差を得る。一実施形態では、平均が60秒の期間にわたって計算されるようにX=59秒である。一般に、Xは、多くとも3600(1時間)とすべきである。
【0023】
長期MOPS時計誤差モジュール314は、フィルタリングされた受信機時計誤差を合理性チェックモジュール310から受信し、24時間等の期間にわたる長期MOPS時計誤差平均を計算する。この長期MOPS時計誤差平均は、加算モジュール316に提供される。まず、過去Y時間にわたって合理性チェック(モジュール310)を通過したすべての有効な受信機時計誤差の合計が計算される。次に、この合計は、有効な受信機時計誤差の個数で除算されて、長期MOPS時計誤差平均が得られる。Yの値は、通常、24時間である。
【0024】
長期aGf0モジュール318は、URAチェックモジュール307から有効なaGf0信号を受信し、24時間等にわたる長期aGf0平均を計算する。aGfoモジュール318は、長期aGf0信号を加算モジュール316に提供する。まず、過去Z時間にわたってユーザ距離精度(URA)チェック(モジュール307)を通過したすべての有効なaGf0メッセージの合計が計算される。次に、この合計は、有効なaGf0の個数で除算されて、長期aGf0平均が得られる。Zの値は、通常、24時間である。
【0025】
加算モジュール316は、以下でより完全に説明する比例積分微分(PID)コントローラ320への入力を提供する。次に、PIDコントローラ320は、時計調整コマンド情報を周波数標準原子時計322に提供する。
【0026】
次に、1次GUSTの時計ステアリングをさらに詳細に説明する。受信機時計誤差の決定は、WAAS MOPSに説明されているユーザ位置解決アルゴリズムに基づいている。MOPS重み付け最小二乗解決法の構成要素は、観測行列(G)、測定重み行列(W)、及びMOPS残差列ベクトル(Δp)である。以下の式(1)に示すように、G及びWを使用して、重み付け利得行列(K)が計算される。
【0027】
K=(GWG)−1W 式1
次に、ユーザ位置誤差及び時計バイアス解の列ベクトルを以下の式(2a、2b、2c)に記載する。
【0028】
ΔX=KΔp 式2a
ΔX=(GWG)−1WΔp 式2b
ここで、ΔXは次の通りである。
【0029】
【数1】

【0030】
ΔX(U)はUp(上方)誤差であり、ΔX(E)はEast(東方)誤差であり、ΔX(N)はNorth(北方)誤差であり、Cは、MOPS重み付け最小二乗解決法の結果としての時計バイアス又は受信機時計誤差である。
【0031】
n×4の観測行列(G)は、GUSTオムニアンテナからスペースビークル(SV)への見通し(LOS)方位角(Az)及びLOS仰角(El)を使用してUp−East−North(UEN)基準で計算される。値nは、視野内の衛星の個数である。観測行列を計算するための公式は、式(3)に示される。
【0032】
【数2】

【0033】
n×n重み行列(W)は、視野内の個々の衛星の全分散(σ)の関数である。重み行列の逆行列は、以下の式(4)に示される。
【0034】
【数3】

【0035】
全分散(σ)を計算するための式(5)は、次のようになる。
【0036】
【数4】

【0037】
ユーザディファレンシャル距離誤差(user differential range error)(UDREi)、ユーザ電離層垂直誤差分散(user ionospheric vertical error variance)σUIVEi、LOS傾斜係数(obliquity factor)(Fppi)、及び垂直対流圏遅延モデル(vertical troposphere delay model)の不確定性の標準偏差(σtropo,i)を計算するためのアルゴリズムは、WAAS MOPSに含まれており、当業者には既知である。
【0038】
MOPS残差(Δp)は、以下の式(6)に記載するように、平滑化されたMOPS測定擬似距離(PRM,i)と、予測された擬似距離(PRcorr,i)との間の差である。
【0039】
Δp=PRM,i−PRcorr,i 式6
地球中心地球固定(ECEF)基準におけるMOPS測定擬似距離(PRM,i)は、地球の自転、WAAS時計補正、電離層効果、及び対流圏効果について補正される。PRM,iを計算するための式(7)は、
PRM,i=PRL,i+ΔPRCC,i+ΔPRFC,i+ΔPRER,i−ΔPRT,i−ΔPRI,i−ΔPRmp 式7
である。
【0040】
平滑化されたL1擬似距離(PRL,i)、擬似距離時計補正(ΔPRCC,i)、擬似距離高速補正(ΔPRFC,i)、擬似距離地球自転補正(ΔPRER,i)、擬似距離対流圏補正(ΔPRT,i)、及び擬似距離電離層補正(ΔPRI,i)、を計算するためのアルゴリズムは、WAAS MOPSに含まれている。擬似距離マルチパス補正(ΔPRmp)の計算は、当業者に既知である。
【0041】
GPS送信時のECEFにおける予測擬似距離(PRcorr,i)は、高速補正及び長期補正について補正されたブロードキャスト軌道暦(broadcast ephemeris)から計算される。この計算は、以下の式(8)に定義される。
【0042】
【数5】

【0043】
SV位置補正(Xcorr,i、Ycorr,i、Zcorr,i)を計算するためのアルゴリズムは、WAAS MOPSに含まれている。GUSTの固定位置パラメータ(XGUST、YGUST、ZGUST)はサイト特有のものである。
【0044】
従来の2周波搬送波レベリング(dual frequency carrier leveling)技法は、マルチパス雑音を削減するのに使用することができる。搬送波サイクルスリップモニタ(carrier cycle slip monitor)が、搬送波レベルアルゴリズムを保護するために設けられる。
【0045】
次に、測定マルチパス雑音が、GUST受信機の相関器間隔(correlator spacing)の最大初期マルチパス及び最後のサイクルスリップからの時間に基づく決定性アルゴリズムを使用する連続搬送波レベリング時間の関数として推定される。
【0046】
GUST受信機のそれぞれは、視野内の衛星の擬似距離及び搬送波位相測定値を生成する。衛星の擬似距離信号が、反射されて、GUST受信機に到達する際に(直接的な信号と比較して)遅延する場合には、その測定データは、それらの衛星については誤差となる場合がある。誤差の量は、遅延時間及び受信機相関器のタイプに依存する。システムは、受信された擬似距離及び搬送波位相測定値(大きなマルチパス誤差の影響を受けにくい)を利用してマルチパス誤差を補正する。
【0047】
1次GUST及びバックアップGUSTの双方の時計ステアリングアルゴリズムについて、1つの例示的な実施形態では、制御規則は、PID(比例プラス積分プラス微分)コントローラを使用して実施され、このコントローラは、以下の式を有する。s領域におけるPIDコントローラは、以下のように式(9)に定式化される。
【0048】
u(s)=k*e(s)+(k/T)*(1/s)e(s)+k*T*e(s)*s 式9
ここで、kは比例利得であり、Tは積分時間であり、Tは微分時間であり、e(s)はコントローラへの入力であり、u(s)はコントローラの出力である。上記式が離散時間領域に変換されると、以下の式(10)となる。
【0049】
u(n)=u(n−1)+(k+kT/T+kT/T)e(n)−(k+2*kT/T)e(n−1)+kT/Te(n−2) 式10
ここで、Tはサンプリング時間である。
【0050】
k_alpha=(k+kT/T+kT/T)、k_beta=−(k+2*kT/T)、及びk_gamma=kT/Tとし、x(t)を時計誤差とする。制御システムは、周波数ドリフトを補償するので、x(t)が−e(t)と等しくなるように入力x(t)を打ち消さなければならず、以下の式(11)が得られる。
【0051】
u(n)=−k_alpha*x(n)+k_beta*x(n−1)+k_gamma*x(n−2)) 式11
制御規則の出力は、原子時計周波数を調整するために周波数標準322へ送信される周波数調整コマンドである。調整された原子時計周波数は、受信機302及び信号ジェネレータ206(図2)がGPSエポック及びWAASネットワーク時刻と同期した状態を保つ。このように、周波数標準322の閉ループ制御が確立される。
【0052】
GUSTが1次になった後、たとえば24時間の間、PIDコントローラへの入力は、以下のように式(12)の異なる誤差を組み合わせたものである。
PID入力=平滑化された受信機時計誤差
−長期MOPS時計誤差平均
+長期タイプ9 aGf0平均 式12
式(12)に示すPID入力は、式(11)のx(n)に対応するものである。前のタイムスタンプn−1及びn−2で計算される式(12)のPID入力は、式(11)のx(n−1)及びx(n−2)にそれぞれ対応するものである。
【0053】
上述したように、平滑化された受信機時計誤差312は、通常は多くとも1時間の短期間にわたるフィルタリングされた受信機時計誤差の平均であり、これは絶えず計算される。長期MOPS時計誤差314は、通常は24時間の長期間にわたるフィルタリングされた受信機時計誤差の平均であり、これは、通常は24時間ごとに1回計算される。長期タイプ9 aGf0平均318は、通常は24時間の期間にわたるタイプ9メッセージ時計オフセットaGf0の平均であり、これは、通常は24時間ごとに1回計算される。
【0054】
バックアップGUSTサブシステムの場合、上述した平滑化された受信機時計誤差のみが、PIDコントローラへの入力として使用される。
本発明の別の態様では、L5信号符号搬送波コヒーレンシは、GUST初期化の期間中及びスイッチオーバの後に維持される。1次GUSTが障害を受けると、バックアップGUSTが新たな1次となり、障害を受けた1次GUSTはバックアップモードに入る。これは、GUSTスイッチオーバと呼ばれる。GUSTスイッチオーバは、システムのオペレータが手動で開始することもできる。
【0055】
GUST処理(GPT)ソフトウェアは、複数のプロセッサに存在し、WAASメッセージをWMSから受信し、WAASメッセージを、正確なGPS L1変調及びGPS L5変調並びに擬似ランダム雑音(PRN)ゴールド符号と組み合わせて、WAAS L1アップリンク信号及びWAAS L5アップリンク信号を作成する。RFUは、これらのIF PRN符号化されたL1アップリンク信号及びL5アップリンク信号をSGSから受信し、それらの信号をCバンドRFアップリンク周波数に変換し、それらの信号を増幅してGEO衛星へ送信する。
【0056】
図4に示すように、受信機350は、ダウンリンクL1 WAAS信号及びダウンリンクL5 WAAS信号をGEO衛星352から受信し、結果として得られたL1 GEO測定値及びL5 GEO測定値を提供する。これらの測定値は、後述するように、制御ループ402及び404への入力として使用される。
【0057】
L1制御ループ402及びL5制御ループ404は、それぞれ4つの機能を含む。すなわち、電離層カルマンフィルタ406a、406b、レンジ(距離)カルマンフィルタ408a、408b、符号制御410a、410b、及び周波数制御412a、412bをそれぞれ含む。加えて、L1制御ループ402及びL5制御ループ404の双方は、L1/L5バイアス推定モジュール414からの入力も受信する。さらに、各制御ループ402、404は、符号制御ループ416a、416b及び周波数制御ループ418a、418bも含む。
【0058】
L1電離層カルマンフィルタ406a及びL5電離層カルマンフィルタ406bは、勾配(傾斜)電離層遅延(電離層によって引き起こされたGEO信号の遅延)、及び、電離層遅延の変化率を推定する。距離カルマンフィルタ408a、bは、GEO衛星352とGUSTとの間の距離、距離レート(距離の変化率)、距離加速度、及び加速レートを推定する。
【0059】
コールドスタート時、信号ジェネレータ354は、GEO衛星間の所定のアップリンク距離、アップリンクパスハードウェア遅延、GEO衛星トランスポンダ遅延、及びアップリンク符号に対するドップラー効果が補償されるような符号チップの進み及び符号チップレートで初期化される。1次モードへのコールドスタート後の初期化の期間中、符号制御ループ406は、符号チップレートに対するドップラー効果及びGEO距離オフセットの補償値を計算する。GEO距離オフセットは、上述したパラメータの所定の値と、実際のGEO距離及び他のハードウェア遅延の合計との間の不一致である。
【0060】
1次モードへのGUSTスイッチオーバ後、符号制御ループ416は、GEO衛星間の所定のアップリンク距離、アップリンクパスハードウェア遅延、GEO衛星トランスポンダ遅延、及びアップリンク符号に対するドップラー効果、並びに擬似距離ジャンプ(pseudorange jump)(以下に記述)の補償を計算する。この計算は、command_chip_rate及びoutput_chip_rateを含む。
L1 output chip rate=L1_command_chip_rate+1.023x106chip/second
L5 output chip rate=L5_command_chip_rate+10.23x106chip/second
周波数制御ループ418は、アップリンク信号に対するドップラー効果及びGEO衛星トランスポンダ周波数オフセットの補償値を計算する。この計算は、command_frequency及びoutput_frequencyを含む。
L1 output frequency=L1_command_frequency+107 Hz
L5 output frequency=L5_command_frequency+107 Hz
GPTは、L1出力チップレート、L1出力周波数、L5出力チップレート、及びL5出力周波数を信号ジェネレータ354へ送信する。信号ジェネレータ354は、次に、これらの入力に基づいて自身の出力信号を調整する。
【0061】
公称GEO L5符号チップレートは、10.23×10チップ/秒である。このチップレートは、L1 C/A符号の公称チップレートの10倍である。この高い符号チップレートのために、GUST受信機は、L5符号搬送波ダイバージェンスについてL1よりも影響を受けやすい(許容誤差が厳しい)。
【0062】
ダウンリンクL5符号と搬送波との間の符号搬送波ダイバージェンスを特徴付けるための1つの方法は、搬送波周波数と符号チップレートとの間の比である。L5搬送波の公称周波数は、1176.45×10Hzであり、L5符号の公称チップレートは10.23×10チップ/秒である。この比(公称周波数+L5搬送波のダウンリンクドップラー)/(公称チップレート+L5符号のダウンリンクドップラー)は115である。
【0063】
GUST受信機350は、GEO信号のロックを失うことなく搬送波の一定の周波数オフセットを許容することができる。換言すれば、以下の2つの条件が与えられると、周波数オフセットは、一定の制限、たとえば±95Hzを超えることができない。
【0064】
条件(1)
L5搬送波周波数=1176.45×10Hz−GEO距離レート/L5波長+周波数オフセット
条件(2)
L5符号チップレート=10.23×10チップ毎秒−GEO距離レート/L5チップ幅
ここで、
L5波長=光速/L5搬送波公称周波数=299792458/(1176.45×10)m
L5チップ幅=光速/L5符号公称チップレート=299792458/(10.23××10)m
GEO距離レートは、GEO衛星とGUSTサイトとの間の距離の真の変化率である。
GEO距離レート/L5_wavelengthは、搬送波のドップラーであり、
GEO距離レート/L5チップ幅は、符号のドップラーである。
【0065】
GUST受信機は、上述した周波数オフセット(Hzによる)が一定の制限を超えると、L5信号のロックを失うことになる。
別の状況は、上記周波数オフセットが0であり、且つ、L5オフセットが存在するときである。符号オフセットは、周波数オフセットの制限と同等の制限を有し、次のように計算される。すなわち、L5 chip_rate_offset_limit =−周波数オフセット制限Hz*L5波長/L5チップ幅(チップ/秒)
換言すれば、以下の2つの条件が与えられると、L5符号オフセットは、±chip_rate_offset_limit(チップ/秒)を超えることができない。
条件(1)
L5搬送波周波数=1176.45×10Hz−GEO距離レート/L5波長
条件(2)
L5符号チップレート=10.23×10チップ毎秒−GEO距離レート/L5チップ幅+L5符号オフセット
上述したL5符号オフセットが、±chip_rate_offset_limit(チップ/秒)を超えると、GUST受信機350は、L5信号のロックを失うことになる。
【0066】
L5信号が、GUSTの初期化又はスイッチオーバの期間中に、一旦ロックを失うと、L1制御ループ402及びL5制御ループ404の双方は、安定状態制御モードに移行することができない。GCCS仕様に定義された必要な制限内でL1及びL5の符号及び搬送波をコヒーレントに保つ安定状態制御には、別個のアルゴリズムが存在する。安定状態制御がない場合、仕様によって必要とされる符号搬送波コヒーレンスは、もはや達成不可能である。当該技術分野で既知のように、L1制御ループ及びL5制御ループの安定状態制御モードを表す変数は、それぞれ、L1_dynamic_frequency_control(L1動的周波数制御)及びL5_dynamic_frequency_control(L5動的周波数制御)である。
【0067】
コマンド周波数は、制御アルゴリズムにより、アップリンクパスの信号に対するドップラー効果及びGEOトランスポンダ周波数オフセットを補償する値を用いて初期化される。アップリンクドップラーは、初期推定GEO距離レート(GEO距離の変化率)に基づいて推定される。この初期推定GEO距離レートは、WAASタイプ9メッセージに含まれるECEF(地球中心地球固定)調整されたフレーム(ECEF coordinated frame)における速度に基づいて計算される。この制御アルゴリズムは、符号に対するドップラー効果を補償するようにコマンドチップレートを初期化する。符号に対するドップラー効果は、上述したような初期GEO距離レートに基づいて推定される。トランスポンダオフセットは、あらかじめ定められ、フィールド統合(field integration)の期間中にサイト特有のパラメータとして定義される。
【0068】
GUSTスイッチオーバの後、新しい1次GUSTは、2つのCバンド信号をGEO衛星にアップリンクする。GEO衛星トランスポンダは、次に、それらの信号をL1信号及びL5信号に変換する。上述したように、GUSTがバックアップモードにコールドスタートされた時に、信号符号の進みは、所定の値に基づいて設定される。アップリンク信号符号チップレートは、GUSTが、スイッチオーバ前のバックアップモードにまだある時に設定される。アップリンク信号符号チップの進み及びチップレートは、実際のL5擬似距離を、L5計画擬似距離よりも長くする場合もあるし、短くする場合もある。2つのGUST時計間の不一致も、実際のL5擬似距離とL5計画擬似距離との間の不一致の一因になる。L5計画擬似距離は、GUSTスイッチオーバ前のL5推定距離及びL5推定距離レートに基づいて計画されたものである。この不一致は、擬似距離ジャンプと呼ばれる。新たな1次GUSTにおけるL5符号制御ループ416は、L5擬似距離が、L5計画擬似距離に最終的に等しくなるように、L5符号チップレートを調整する。換言すれば、L5擬似距離ジャンプは補償される。
【0069】
GUST制御ループの初期化の期間中にL5符号搬送波コヒーレンスを維持する、本発明に関する技法は、いくつかの異なる機能モジュールに含めることができる。
L5符号制御
1次モードへのコールドスタートに続く制御ループの初期化の期間中、L1制御ループ402は、符号チップレートに対するドップラー効果に加えて初期GEO距離オフセットも補償するように符号チップレートを調整する。初期GEO L1距離オフセットは、推定電離層遅延を除いたL1擬似距離と、信号ジェネレータがそれによって初期化される所定のGEO距離との間の不一致である。L1制御ループ402の初期GEO距離オフセットは、L5制御ループ404のオフセットに接近している。L5符号制御ループ416bは、L1符号補償に続くことによって、L5制御ループの初期GEO距離誤差を補償する。初期GEO距離オフセット補償がL1制御ループ402で完了すると、論理フラグL1_init_offset_compensatedがTRUEに設定される。L5チップレートコマンドは、L1チップレートコマンドに続いて停止する。このアルゴリズムの擬似コードは、次の通りである。
【0070】
【数6】

【0071】
ここで、L1_ init_offset_compensated変数は、初期GEO L1距離オフセット補償の完了を示す論理フラグである。この変数は、補償が完了した時はTRUEに設定され、補償が完了していない時はFALSEに設定される。
【0072】
初期L1 GEO距離オフセット補償が完了した時、L1推定距離レートは、真の距離レートの比較的正確な推定値となる。GEO衛星L5トランスポンダオフセットが計算されていた場合で、且つ、L5距離カルマンフィルタ408bが収束していない場合には、一時的なL5距離レート(L1推定距離レート)を使用して、L5コマンドチップレートを計算する。これによって、距離レート誤差が最小にされ、したがって、符号搬送波ダイバージェンスが最小にされる。このアルゴリズムの擬似コードは次の通りである。
【0073】
【数7】

【0074】
ここで、
L5_range_KF_range_covarはL5距離カルマンフィルタの共分散であり、
L5_range_KF_range_rate_covar(t)はL5距離カルマンフィルタの距離レート共分散であり、
L5_range_KF_range_covar_convergenceは予め定められた収束閾値であり、
L5_range_KF_range_rate_covar_convergenceは予め定められた収束閾値であり、
primary_mode_init_periodは予め定められた時間長であり、
L5_temporary_range_rateは推定距離レートである(以下に示す)。
L5周波数制御
初期GEO L1距離オフセット補償が完了すると、L1推定距離レートが、GEO衛星のL5トランスポンダオフセットの計算において一時的なL5距離レートとして使用される。距離レート推定値による誤差は、L1推定距離レートが正確であるために最小にされる。このアルゴリズムの擬似コードは以下の通りである。
【0075】
【数8】

【0076】
ここで、
L5_initial_taget_frequencyは初期化コマンド周波数と同一であり、
CU_lambda_L5_loopはL5パスにおけるCバンドアップリンク信号の波長であり、
L5_lambdaはL5信号の波長であり、
L5_dopplerは受信機により測定されたドップラー(Hz)であり、
L5_doppler_outlier_thresholdは予め定められた閾値であり、
L5_doppler_storeは以前のL5_dopplerの値からなるアレイである。
【0077】
GEO衛星のL5トランスポンダオフセットが計算されると、安定状態制御モードに達するまで、以下の方法で、L5符号及び搬送波をコヒーレントに保つ。
【0078】
【数9】

【0079】
ここで、
L5_nominal_CC_ratioは定数で115に等しく、
L5_command_chip_rateはL5符号制御機能で計算され、
L5_taget_freqはL5_command_frequencyとなるように制限される。
【0080】
L5制御ループが安定状態制御モードに移行すると、変数L5_initial_frequency_controlはFALSEにリセットされる。
GUSTスイッチオーバ後のL5符号搬送波コヒーレンスの維持
GUSTスイッチオーバの直後のL5符号搬送波コヒーレンスを維持するためのアルゴリズムは、L5周波数制御ループ418bで実施される。
【0081】
上述したように、L5擬似距離ジャンプが、GUSTスイッチオーバ後に起こる可能性がある。制御ループは、この擬似距離ジャンプを即座に補償する。符号制御ループ416bがそれを行っている間、周波数補償は、符号及び搬送波のダイバージェンスが制限を超えないように符号補償と一致していなければならない。
【0082】
擬似距離ジャンプが補償されている間、符号搬送波をコヒーレントに保つアルゴリズムの擬似コードは次の通りである。
【0083】
【数10】

【0084】
ここで、L5_static_transponder_offsetは、GUSTスイッチオーバ前の旧1次GUSTによって推定され、
saved_L5_range_KF_range_rateは、GUSTスイッチオーバが起こる前にL5距離カルマンフィルタによって推定されたGEO距離レートである。
【0085】
L5制御ループが安定状態制御モードに移行すると、変数L5_switchover_initial_frequency_controlがFALSEにリセットされる。
本発明の別の態様では、L1信号とL5信号との間のディファレンシャルバイアスのリアルタイム推定が提供される。L1信号及びL5信号の双方の電離層遅延及び電離層遅延レートの推定値が、GUST制御ループによって使用される。電離層遅延の推定は、図4のフィルタ406a、406b等のL1カルマンフィルタ及びL5カルマンフィルタを使用して行われる。L1、L5電離層フィルタ406a、406bへの入力は、たとえば、所定のL1ダウンリンク遅延値、L5ダウンリンク遅延値、L1擬似距離値、及びL5擬似距離値を含む。GUST制御ループは、L1擬似距離とL5擬似距離との差及び所定のL1ダウンリンク遅延と所定のL5ダウンリンク遅延との差をスケーリングし、これらの結果をカルマンフィルタの測定値として使用する。L1信号とL5信号との間のディファレンシャルバイアスは、電離層遅延の不正確な推定になる場合がある。
【0086】
L1信号とL5信号との間のディファレンシャルバイアスは、受信機の2つの独立した信号ジェネレータチャネル、2つの独立した衛星トランスポンダ、ダウンリンクパスのケーブル遅延、並びに受信機におけるL1チャネルとL5チャネルとの間のバイアスの使用等の多数の因子によって存在する場合がある。これらの誤差のソースは、アップリンクパスバイアス及びダウンリンクパスバイアスとしてカテゴリー化することができる。ディファレンシャルバイアスは、電離層カルマンフィルタには電離層遅延として見える。このディファレンシャルバイアスを補償しない場合、GUST電離層遅延推定値は、正確でなくなる可能性がある。電離層遅延の不正確な推定によって、制御ループ誤差又はGEO信号符号位相偏移が生じる。
【0087】
GUST制御ループが補償を行うために、このバイアスが求められるべきである。しかしながら、ディファレンシャルバイアスのソースを容易に特定することが可能でない場合がある。換言すれば、推定メカニズムは、誤差のどれくらいの量がアップリンクパスからのものであり、誤差のどれくらいの量がダウンリンクパスからのものであるかを区別することができない場合があり、合成のディファレンシャルバイアスのサイズの推定値のみが求められる。
【0088】
本発明の一態様によれば、ディファレンシャルバイアスtau_l1l5は、推定されたL1電離層遅延(カルマンフィルタ推定値)をGEO勾配電離層遅延(変数Wiono)と比較することによって求めることができる。GEO勾配電離層遅延は、WAASメッセージの電離層格子点(IGP(Ionospheric Grid Point))情報から計算される。GEO勾配電離層遅延(Wiono)の詳細な計算は、既知であり、RTCA社によるRTCA/DO-229C, Minimum Operational Performance Standards for Global Positioning System/Wide Area Augmentation System Airborne Equipment, 28 November 2001のセクションA4.4.10に記載されている。この文献は、参照により本明細書に援用される。
【0089】
一実施形態では、L1/L5バイアス推定tau_l1l5の計算は、GUSTが1次モードになった時にのみ行われる。推定メカニズムがGEO勾配電離層遅延を基準として使用するための条件の1つは、σUIVE,GEO(以下、シグマUIVEと呼ぶ。すなわち、擬似コードにおけるgeo_uive)の平方根が、最後の更新時のその値に許容誤差を加えたもの以下であることである。ここで、UIVEとは、ユーザ電離層垂直誤差(User Ionospheric Vertical Error)をいい、σUIVE,GEOは、GEO勾配電離層遅延の精度を反映する。シグマUIVEが前の値に許容誤差を加えたもの以下であるときにGEO勾配電離層遅延を使用してL1/L5バイアス推定を更新することによって、この推定は、前の更新と比較して同じ又はより良い精度を有することになる。
【0090】
図5は、本発明によるL1/L5バイアス推定を有する1つの例示的な実施形態を示している。図4の一定の要素及び参照符号が参照される。図4では、同じ参照符号は同じ要素を示している。一般に、L1/L5バイアス推定器414は、L1/L5バイアス推定値をL1制御ループ402及びL5制御ループ404に提供する。
【0091】
WAAS主局500は、WAASメッセージを提供する。このWAASメッセージは、GEO勾配電離層遅延を計算し、GEO衛星のユーザ電離層垂直誤差(UIVE)を計算するためにGUSTプロセッサ502によって使用される電離層格子点(IGP)情報を含む。σUIVE,GEOデータ504及びGEO勾配電離層遅延データ506は、L1/L5バイアス推定器414に提供される。L1制御ループ402は、推定されたL1電離層遅延及びL1電離層遅延レートの情報をバイアス推定器414に提供する。加えて、L1距離フィルタ408a及びL5距離フィルタ408bは、L1フィルタ収束ステータス並びにL1及びL5の初期オフセット補償ステータスの形でバイアス推定器414にステータスを提供する。L1電離層フィルタ406a及びL5電離層フィルタ406bは、L1及びL5の電離層レート収束ステータス並びにL1電離層共分散収束ステータスの形でステータスを提供する。
【0092】
図5に示すように、GUSTが1次モードである場合に、L1/L5バイアス推定値は、以下のように、L1/L5バイアス推定器414によってL1制御ループ402及びL5制御ループ404に提供される。
(A)以下の条件、即ち
(1)シグマUIVEがgeo_usable_uive(シグマUIVE閾値)よりも小さい、
(2)シグマUIVEがgeo_uive_store(前のシグマUIVE値)に許容誤差を加えたもの以下である、
(3)L1距離フィルタが収束する、
(4)L1電離層レート及び共分散収束が収束する、
(5)L5電離層レートが収束する、
(6)L1初期オフセット補償が完了する、
(7)L5初期オフセット補償が完了する場合、
以下を実行する。
【0093】
【数11】

【0094】
(B)tau_l1l5_storeが0でないとき、L1/L5バイアスを次のように推定する。
【0095】
【数12】

【0096】
tau_l1l5は、L1/L5バイアス推定値である。
L1/L5バイアス推定のメカニズムを以下に擬似コードで示す。
【0097】
【数13−1】

【0098】
【数13−2】

【0099】
【数13−3】

【0100】
本発明の例示的な実施形態を説明してきたが、それらの実施形態の概念を組み込んだ他の実施形態も使用できることが今や当業者に明らかであろう。したがって、本明細書に含まれる例示的な実施形態は、特許請求の範囲の趣旨及び範囲によってのみ限定されるべきである。本明細書で引用されたすべての刊行物及び参考文献は、参照により本明細書に全体が明確に援用される。他の実施形態も、特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明によるGEOアップリンクサブシステム(GUS)を有するWAASシステムの図的表現である。
【図2】本発明による時計ステアリングを有するGUSTを示す図である。
【図3】本発明による1つの例示的な時計ステアリングメカニズムの概略図である。
【図4】GEOアップリンクサブシステムタイプ1(GUST)のブロック図である。
【図5】本発明によるL1/L5バイアス推定を有するシステムのブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L1電離層遅延(iono delay)及びL1電離層遅延レートの推定値(estimate)を受信し、
GEO勾配電離層遅延(slant ionosperic delay)を受信し、
GEO衛星のユーザ電離層垂直誤差(user iono vertical error)情報を受信し、
L1電離層遅延及びL1電離層遅延レートの推定値並びにGEO勾配電離層遅延からL1/L5バイアス推定値を計算する、
ことを含む方法。
【請求項2】
反復して前記L1/L5バイアス推定値を計算し、及び増分変化を所定の量に制限することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
所定の条件が満たされる場合に、前記L1/L5バイアス推定値を計算することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記所定の条件は、シグマUIVEがgeo usable uiveよりも小さいこと、シグマUIVEが、geo uive storeに許容誤差を加えたもの以下であること、L1距離フィルタが収束すること、L1電離層レート及び共分散が収束すること、L5電離層レートが収束すること、L1初期オフセット補償が完了すること、並びにL5初期オフセット補償が完了することの1つ又は複数を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記L1/L5バイアス推定値を
【数1】

として計算することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記L1/L5バイアス推定値をL1制御ループ及びL5制御ループに提供することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記GEO勾配電離層遅延及び前記GEO衛星の前記ユーザ電離層垂直誤差情報は、電離層格子点情報から計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記電離層格子点情報はWAASメッセージで受信される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
現在記憶されているL1/L5バイアス推定値の絶対値が所定のステップ値よりも小さくない場合には、
次のことを行う、すなわち、
前記現在記憶されているL1/L5バイアス推定値が前記所定のステップ値よりも大きい場合には、前記L1/L5バイアス推定値をインクリメントし、且つ、前記現在記憶されているL1/L5バイアス推定値をディクリメントし、
前記現在記憶されているL1/L5バイアス推定値が前記所定のステップ値よりも小さい場合には、前記L1/L5バイアス推定値をディクリメントし、且つ、前記現在記憶されているL1/L5バイアス推定値をインクリメントし、
それ以外の場合には、前記現在記憶されているL1/L5バイアス推定値を0に設定する、
ことによって前記L1/L5バイアス推定値を計算することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
L1制御ループモジュールと、
前記L1制御ループモジュールに結合されているL5制御ループモジュールと、
前記L1制御ループモジュール及び前記L5制御ループモジュールに結合されているL1/L5バイアス推定モジュールであって、L1電離層遅延及びL1電離層遅延レートの推定値並びにGEO勾配電離層遅延からL1/L5バイアス推定値を計算する、前記L1/L5バイアス推定モジュールと、
を備えるシステム。
【請求項11】
前記L1/L5バイアス推定モジュールは、前記L1制御ループモジュールの距離推定フィルタ及び前記L5制御ループモジュールの距離推定フィルタからステータス情報を受信する、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記L1/L5バイアス推定モジュールは、前記L1制御ループモジュールの電離層推定フィルタ及び前記L5制御ループモジュールの電離層推定フィルタからステータス情報を受信する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記L1/L5バイアス推定モジュールは、所定の条件が満たされるときに、前記L1/L5バイアス推定値を計算する、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記所定の条件は、シグマUIVEがgeo usable uiveよりも小さいこと、シグマUIVEが、geo uive storeに許容誤差を加えたもの以下であること、L1距離フィルタが収束すること、L1電離層レート及び共分散が収束すること、L5電離層レートが収束すること、L1初期オフセット補償が完了すること、並びにL5初期オフセット補償が完了することの1つ又は複数を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
マシンによって実行されるとき、以下の結果、即ち、
L1電離層遅延及びL1電離層遅延レートの推定値を受信すること、
GEO勾配電離層遅延を受信すること、
GEO衛星のユーザ電離層垂直誤差情報を受信すること、並びに
L1電離層遅延及びL1電離層遅延レートの前記推定値並びに前記GEO勾配電離層遅延からL1/L5バイアス推定値を計算すること、
を生じさせる命令が記憶されているストレージ媒体を備える物品。
【請求項16】
反復して前記L1/L5バイアス推定値を計算する命令と、増分変化を所定の量に制限する命令をさらに含む、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
所定の条件が満たされる場合に、前記L1/L5バイアス推定値を計算することをさらに含み、前記所定の条件は、シグマUIVEがgeo usable uiveよりも小さいこと、シグマUIVEが、geo uive storeに許容誤差を加えたもの以下であること、L1距離フィルタが収束すること、L1電離層レート及び共分散が収束すること、L5電離層レートが収束すること、L1初期オフセット補償が完了すること、並びにL5初期オフセット補償が完了することの1つ又は複数を含む、請求項15に記載の物品。
【請求項18】
前記L1/L5バイアス推定値を
【数2】

として計算することをさらに含む、請求項15に記載の物品。
【請求項19】
前記L1/L5バイアス推定値をL1制御ループ及びL5制御ループに提供することをさらに含む、請求項15に記載の物品。
【請求項20】
前記GEO勾配電離層遅延及び前記GEO衛星の前記ユーザ電離層垂直誤差情報は、電離層格子点情報から計算される、請求項15に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−509165(P2009−509165A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532267(P2008−532267)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/035259
【国際公開番号】WO2007/037957
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(503455363)レイセオン カンパニー (244)
【Fターム(参考)】