説明

LAC装置及びフェイルオーバ方法

【課題】L2TPにおけるLAC装置の改良のみでフェイルオーバを可能とする。
【解決手段】LAC装置において、冗長化された制御部の運用系への切替が発生した場合、切替後にLNS装置から受信したコントロールメッセージに含まれるNs(シーケンス番号)、Nr(受信確認応答番号)を学習し、このNs、Nrを用いたZLB−ACKメッセージを送信することでフェイルオーバを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LAC装置及びフェイルオーバ方法に係り、特に、L2TPを用いた通信を中継するLAC装置及びフェイルオーバ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、通信事業者はL2TP(Layer2 Tunneling Protocol)によるトンネリング方式を用いて、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)やFTTH(Fiber To The Home)によるブロードバンドインターネット接続サービスを加入者に提供している。LAC(L2TP Access Concentrator)とは、加入者端末を収容するサーバである。図1にLACがL2TP(Layer2 Tunneling Protocol)を用いてLNS(L2TP Network Server)と連携動作し、加入者に対しインターネット接続サービスを提供する場合の構成図を示し、図2にそのプロトコルシーケンスを示す。図1に示すとおり、加入者はLAC−LNS間で構築されたL2TPトンネル(図2:206〜209にて生成)を用いてインターネット接続サービスを利用する。
【0003】
従来、L2TPなどのプロトコル処理を行う制御部を冗長化しているLAC装置において、運用系制御部で障害が発生した場合、旧運用系制御部から新運用系制御部への切替並びにサービスを継続する技術(以下、フェイルオーバと称する)について、L2TPの拡張プロトコルで定義される復旧連絡のためのパケットを用いてフェイルオーバを行う技術が非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】RFC4951、Fail Over Extensions for Layer 2 Tunneling Protocol (L2TP)、“failover”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
L2TPはUDP上で動作するプロトコルであり、メッセージの順序性・信頼性は、LAC−LNS間でトンネルの確立(図2:206〜209)/セッションの確立(図2:210〜213)・定期的な生死確認(図2:214〜215)において使用されるコントロールメッセージに含まれるシーケンス番号(Ns)と受信確認応答番号(Nr)を用いて実現されている。
【0006】
ここで、NsもしくはNrが期待する番号でなかった場合、例えば、ネットワーク上で障害が発生し、LAC−LNS間で疎通ができなくなった場合、L2TPトンネルを切断する仕様になっている。
このため、従来形式で二重化されたLAC装置において、運用系制御部で故障等が発生し、運用系制御部と待機系制御部でコントロールメッセージに含まれるNs、Nrの同期に失敗した状態で系切り替えが発生した場合、新運用系制御部においてL2TPトンネルは切断されてしまい、加入者のインターネット接続による通信は一旦停止してしまう。
【0007】
上記非特許文献1では上記状態を回避するためにL2TPプロトコルに拡張を行い、この拡張メッセージを用いて、装置復旧時にはLNS装置へ復旧したことを伝えるメッセージを送信し、LNS装置から通信に必要な情報を再学習することで、通信の継続を実現している。
一方、非特許文献1の方式はLAC装置・LNS装置の双方で非特許文献1の方式を実装した装置を配備する必要があり、非特許文献1の方式に対応していない装置があった場合、フェイルオーバ機能は動作しない。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、LAC装置の改良でフェイルオーバを可能とするLAC装置及びフェイルオーバ方法を提供することを目的とする。また、本発明は、非特許文献1の方式を実装することなくフェイルオーバを可能とすることを目的とする。
本発明は、運用系制御部の故障等が発生し、コントロールメッセージに含まれるNs、Nrの待機系制御部への同期に失敗した状態で系切替えが発生した場合でも、系切り替え後にLNS装置から送信されるNs、Nrを学習し、再同期を行うことで、インターネット接続サービスを停止することなくフェイルオーバを可能とし、サービスを中断無く継続することを目的のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に係るLAC装置は、上記課題を解決するため、LAC装置における運用系制御部の切替が発生した場合は、切替後にLNS装置から受信したコントロールメッセージに含まれるNs、Nrを学習し、LNS装置に対しては、学習したNs、Nrを用いたZLB−ACKメッセージを送信することでトンネル切断によるサービス停止を回避し、フェイルオーバを可能とする。例えば、系切り替え発生後に、LNS装置から受信したパケットのNs値、Nr値を学習し、LNS装置へ、受信したNr値をNs値に、受信したNs値にNr+1した値でZLB ACK(確認応答メッセージ)を送信する。また、系切り替え発生後に、LNS装置からパケットを受信するまではユーザからの新規接続要求を停止し、LNS装置とのL2TPトンネル切断を回避する。
【0010】
手段としては、例えば、加入者端末と、前記加入者端末に対してインターネット接続サービスを提供する複数のLNS装置との間の通信を中継するLAC装置であって、LAC装置の状態を基に、加入者端末とLNS装置とプロトコル処理を行うプロトコル処理部と、LAC装置の運用系制御部と待機系制御部の同期状態を制御する同期制御部を、備える。
【0011】
また、LAC装置は、例えば、ホットスタンバイ形式で二重化された制御部を二つ有し、制御部内には、プロトコル情報を保持するデータベースと、運用状態を監視する監視部と、制御部間で情報を同期するための同期制御部と、加入者端末とLNS装置から送信されたパケットを処理し、制御部の系切り替えが発生した場合は受信パケットを元に情報を再学習するプロトコル処理部とを備える。
【0012】
本発明の第1の解決手段によると、
端末に対してネットワーク接続サービスを提供するLNS装置と、該LNS装置との間でL2TPプロトコルによるL2TPトンネルを確立して通信するLAC装置とを備え、
前記LAC装置及び前記LNS装置は、自コントロールメッセージを識別するためのシーケンス番号と、受信された他のコントロールメッセージに含まれるシーケンス番号に基づいた、次に受信を期待するコントロールメッセージのシーケンス番号である受信確認応答番号とを含むコントロールメッセージを送信し、
前記LAC装置が、前記LNS装置から該受信確認応答番号と同じ値のシーケンス番号を含む所定のコントロールメッセージを受信すると、確認応答メッセージを前記LNS装置に送信し、
前記LNS装置が送信した所定のコントロールメッセージに対して前記確認応答メッセージが前記LAC装置から受信されないと、L2TPトンネルが切断されるシステムにおける前記LAC装置であって、
該LAC装置は、
前記LNS装置とコントロールメッセージを送受信してL2TPのプロトコル処理を行う現用系の第1制御部と、
前記第1制御部の障害が検出されると現用系に切り替わる待機系の第2制御部と、
少なくとも前記第1制御部の障害を検出する監視部と、
を備え、
現用系の前記第1制御部の障害が検出されることで待機系から現用系に切り替わった前記第2制御部は、該切り替え後に前記LNS装置から受信したコントロールメッセージのシーケンス番号及び受信確認応答番号を基に、自LAC装置からLNS装置にコントロールメッセージを送信するためのシーケンス番号及び受信確認応答番号を学習する前記LAC装置が提供される。
【0013】
本発明の第2の解決手段によると、
端末に対してネットワーク接続サービスを提供するLNS装置と、該LNS装置との間でL2TPプロトコルによるL2TPトンネルを確立して通信するLAC装置とを備え、
LAC装置及びLNS装置は、自コントロールメッセージを識別するためのシーケンス番号と、受信された他のコントロールメッセージに含まれるシーケンス番号に基づいた、次に受信を期待するコントロールメッセージのシーケンス番号である受信確認応答番号とを含むコントロールメッセージを送信し、
LAC装置が、LNS装置から該受信確認応答番号と同じ値のシーケンス番号を含む所定のコントロールメッセージを受信すると、確認応答メッセージをLNS装置に送信し、
LNS装置が送信した所定のコントロールメッセージに対して前記確認応答メッセージがLAC装置から受信されないと、L2TPトンネルが切断されるシステムにおけるフェイルオーバ方法であって、
LNS装置とコントロールメッセージを送受信してL2TPのプロトコル処理を行う、LAC装置の現用系の第1制御部の障害を検出するステップと、
LAC装置の待機系の第2制御部を現用系に切り替えるステップと、
LAC装置の第2制御部は、該切り替え後にLNS装置から受信したコントロールメッセージのシーケンス番号及び受信確認応答番号を基に、自LAC装置からLNS装置にコントロールメッセージを送信するためのシーケンス番号及び受信確認応答番号を学習するステップと
を含むフェイルオーバ方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、LAC装置の改良でフェイルオーバを可能とするLAC装置及びフェイルオーバ方法を提供することができる。また、本発明によれば、非特許文献1の方式を実装することなくフェイルオーバが可能である。
本発明によれば、運用系制御部の故障等が発生し、コントロールメッセージに含まれるNs、Nrの待機系制御部への同期に失敗した状態で系切替えが発生した場合でも、系切り替え後にLNS装置から送信されるNs、Nrを学習し、再同期を行うことで、インターネット接続サービスを停止することなくフェイルオーバ可能となり、サービスを中断無く継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態のネットワーク構成図である。
【図2】本実施形態上で用いられるプロトコルのシーケンスを示す図である。
【図3】本実施形態のLAC装置の構成図である。
【図4】本実施形態のL2TP情報データベースのデータ構造を示す図である。
【図5】本実施形態のセッション情報データベースのデータ構造を示す図である。
【図6】従来の課題を説明するための、二重化されたLAC装置の運用系制御部故障のフローを示す図である。
【図7】本実施形態のフェイルオーバのフローを示す図である。
【図8】本実施形態のプロトコルのシーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図3は、本実施の形態の中継システム300を示す図である。
中継システム300は、LAC装置(アクセス装置)101と、LAC装置101と通信可能な複数の加入者端末100と、LAC装置101と通信可能な複数のLNS装置(ネットワークサーバ)106と、を有する。
LAC装置101は、複数の加入者端末100と通信を行う複数の送信部及び受信部301と、複数のLNS装置106と通信を行う複数の送信部及び受信部301と、送信部・受信部へパケット転送処理を行う転送部302と、ホットスタンバイ形式で二重化された制御部(運用系制御部102と待機系制御部103)とを備える。
【0017】
加入者端末100は、LAC装置101に接続されたパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。例えば、加入者端末100は、一般家庭等においてユーザが使用するパーソナルコンピュータやブロードバンドルータである。加入者端末100は、LAC装置101の送信部・受信部301と、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)やFTTH(Fiber To The Home)などの通信回線を介してPPPoE(PPP Over Ethernet:Ethernetは登録商標)プロトコルを用いて接続される。加入者端末100は、LAC装置101を介してLNS装置106と接続することで、LNS装置106に接続されたISP(Internet Service Provider)との接続を確立し、インターネットに接続する。
【0018】
LAC装置101やLNS装置106は、ISPへの接続サービスを提供するサーバ装置であり、例えば通信事業者等が準備するサーバ装置である。
複数の送信部・受信部301は、加入者端末100とLAC装置101と、LAC装置101とLNS装置106をそれぞれ接続し通信を行うためのインターフェースである。パケット通信は送信部・受信部301を介して行われる。
【0019】
転送部302は、受信部から受信したパケットを制御部102、103へ転送し、また制御部102、103から送信されたパケットを制御部の指示に従い適切な送信部に転送する。
制御部102並びに制御部103はそれぞれ、プロトコル処理部303と、L2TP情報データベース304と、セッション情報データベース305と、同期制御部306と、監視部307と、を有する。
【0020】
プロトコル処理部303は、図2に示す加入者端末100とLAC装置101間で交換されるパケット201〜205の処理を行い、加入者端末100とPPoEセッションを確立する。また、図2に示すLAC装置101とLNS装置106間で交換されるパケット206〜215の処理を行いLNS装置106とL2TP(Layer2 Tunneling Protocol)トンネル・セッションを確立する。さらに確立したセッションに対応するデータ通信に対しては、L2TP情報データベース304とセッション情報データベース305に基づき加入者端末100とLNS装置106間でIP通信を行うためのパケットのエンカプセリング・デカプセリング処理を行う。
【0021】
同期制御部306は、制御部102と制御部103の間でホットスタンバイ形式の二重化を実現するためにL2TP情報データベース304とセッション情報データベース305の同期処理を行う。同期処理は、例えばL2TP情報データベース304並びにセッション情報データベース305のレコードが追加・削除されたタイミングで実施される。
監視部307はホットスタンバイ形式の二重化を実現するために制御部102と制御部103で運用系制御部・待機系制御部の制御を行う。例えば、運用系・待機系の生存確認を行う。なお、監視部307は各制御部にあってもよいし、制御部とは別の構成でもよい。
【0022】
図4に、L2TP情報データベース304のデータ構造を示す。
L2TP情報データベース304は、プロトコル処理部で処理されたLNS装置106毎のL2TP Tunnel情報(トンネル情報)と、IPアドレス情報と、Ns情報(シーケンス番号情報)401と、Nr情報(確認応答番号情報)402とを有する。
【0023】
図4の例では、L2TP情報データベース304は、L2TP Key毎に、Local Tunnel IDと、Local IP Addressと、RemoteTunnel IDと、Remote IP Addressと、Ns情報401と、Nr情報402が記憶される。各Tunnel IDが上述のL2TP Tunnel情報に対応し、各IP Addressが上述のIPアドレス情報に対応する。
【0024】
L2TP Keyは、データベースの行を識別するための番号等の識別情報を表す。例えば、PPPoEのセッション番号とL2TPのトンネルを一致させるために使用することができる。Local Tunnel IDは、L2TPトンネル生成時、自装置(本実施の形態ではLAC装置)で個別に使用され、L2TPトンネルを特定されるために使用される番号である。Local IP Addressは、自装置(LAC装置)が使用するIPアドレスである。Remote Tunnel IDは、L2TPトンネル生成時、対向装置(本実施の形態ではLNS装置)から通知され、L2TPトンネルを特定されるために使用される番号である。L2TPトンネルは、LocalTunnelIDとRemoteTunnelIDの組みで一つのトンネルが決定される。Remote IP Addressは、対向装置(LNS装置)が使用するIPアドレスである。
【0025】
データベース304のレコードは、例えばLNS装置106とトンネルを確立したタイミングで追加(図2:216)され、トンネルを切断したタイミングで削除される。L2PT制御パケットの送受信(図2:206〜215)によりNsとNrが更新される度にNs値フィールド401とNr値フィールド402が更新される。
【0026】
図5にセッション情報データベース305のデータ構造を示す。
セッション情報データベース305は、加入者端末100と接続されたインタフェースID(例えば送信部・受信部301の番号など)と、VLAN(Virtual LAN)−IDと、プロトコル処理部303で処理された加入者端末100毎のPPPoEセッション情報(ID)と、L2TPセッション情報(ID)と、L2TP Keyとを有する。
【0027】
VLAN IDは、ユーザが使用するVLANを特定するためのIDである。PPPoE Session IDは、PPPoEでユーザを特定するためのIDである。セッション情報データベース305のレコードは、例えばセッションを確立したタイミングで追加(図2:217)され、切断したタイミングで削除される。
【0028】
ここで、シーケンス番号(Ns)と確認応答番号(Nr)について説明する。なお、詳細はプロトコルで規定されている通りである。
Ns番号は、送信者が、図2中のZLB−ACK(確認応答メッセージ)以外のメッセージを送信する際に、メッセージを一意にするために付与されるシーケンス番号である。Ns番号は、メッセージを一意に識別するために、送信メッセージ毎に1ずつ増加される。なお、Zlb−Ack送信後のメッセージについては例外的に増加されない。数字の範囲は例えば0〜65535で、65535に達した場合は0に戻る。
【0029】
Nr番号は、受信者が、送信者に対し次に受信を期待するメッセージのNs番号を送信者に通知するために使われる番号である。逆に言うと、Nr番号−1のメッセージを受信したことを送信者に通知するために使用される確認応答番号である。数字の範囲は例えば0〜65535で、65535に達した場合は0に戻る。なお、NsはLACからLNSへのメッセージについての第1のシーケンス番号と、LNSからLACへの第2のシーケンス番号を有することができる。Nrについても同様である。
【0030】
上記ルールに基づき、Ns、Nrがどのように書き換わっていくかを、図2を例に以下説明する。
(1)LAC装置から図2:206のメッセージを送信
ここで、Ns、Nrは初期値の0を使用する
(2)LNS装置から図2:207のメッセージを送信
ここで、Nsについては初期値0を使用する。一方、Nrについては図2:206のメッセージを受信しているため、206のNs値+1を使用し1となる。
(3)LAC装置から図2:208のメッセージを送信
ここで、Nsについては、上記(1)206のメッセージNs=0に対し、値を1増加させ、Ns=1とする。Nrについては上記(2)207のメッセージを受信しているためNr=1を使用する。
(4)LNS装置で図2:209のメッセージを送信
ここで、Nsについては、上記(2)207のメッセージNs=0に対し、値を1増加させ、Ns=1とする。Nrについては上記(3)の208のメッセージを受信しているためNr=2を使用する。
このような仕組みでNs、Nrは変化していく。
【0031】
図6に、本発明を用いずに、従来方式で運用系制御部の故障切替が発生した場合の課題を説明するためのシーケンスを示す。従来方式で運用系制御部の故障切替が発生した場合の動作及び課題を説明する。
まず、加入者端末100はLAC装置運用系制御部1102とPPPoE600、PPP601で接続を行う。そして、LAC装置運用系制御部1102はLNS装置106とL2TPセッションの確立処理603〜607を行い、加入者端末のセッションが確立されたタイミングでL2TP情報データベースとセッション情報データベースの情報を待機系制御部1103へ同期させる(608)。
【0032】
その後、LNS装置106はLAC装置運用系制御部101に対しL2TPの定期的な生死確認メッセージであるHello609を送信し、LAC装置運用系制御部1102はZLB−ACKを送信する。図の例では、Hello609は、Ns=262、Nr=384であり、ZLB−ACK610は、Ns=384、Nr=263である。LAC装置としては、Hello609のメッセージ受信以前に情報同期を行っているため、切り替り後の新運用系(旧待機系)制御部1103ではHello609のメッセージを受信した情報(Ns=262、Nr=384)が同期されていない。例えば、旧運用系制御部1102は、Ns=263のメッセージ待ちであるのに対し、新運用系制御部1103は、Ns=262のメッセージ待ちである。一方、LNS装置106としてはZLB−ACK610のメッセージを受信しているため、次に送信するメッセージのNs番号は263となる。このように、LAC装置1101とLNS装置106間で情報のアンマッチが発生する。
【0033】
ここで運用系制御部において故障611が発生すると、運用系の切替が発生する。LAC装置の新運用系制御部1103は系切り替え後、図の例では、LNS装置106からNs=263、Nr=384のHello612を受信する。LAC装置新運用系制御部1103のNs、NrはNs=384、Nr=262のままになっているため、新運用系制御部1103は、Ns=263のHello612に対してNr=264のZLB−ACKを送信することができない。LAC装置1101としてはNs=262のメッセージ受信をまっている状態である。このためLNS装置106はHelloの再送612〜614を行うが、新運用系制御部1103からZLB−ACKを受信できず再送を満了する。その後、LNS装置106はL2TPのトンネル切断メッセージであるStopCCN615を送信し、L2TPトンネルを切断616する。この時点で加入者端末のインターネット接続による通信は一旦停止してしまう。
【0034】
図7、8に、本実施の形態のフェイルオーバ処理のフロー図とシーケンス図を示す。
加入者端末100のセッション確立800〜810までは図6の従来方式と同様のシーケンスであり、上述の通りである。
監視部307は常時他系の稼動状態を監視しており(ステップ701)、他系のハードウェアの故障やソフトウェアの故障を検出した場合(ステップ702のYes、811)、自系の運用状態を確認する(ステップ703)。自系の運用状態が運用系であった場合(ステップ704のYes)、故障が発生したのは待機系制御部103であるため、待機系制御部へ再起動指示を行う(ステップ705)。一方、自系の運用状態が待機系であった場合(ステップ704のNo)、故障が発生したのは運用系制御部102であるため、自系を、待機系制御部から運用系制御部へ遷移する(ステップ706)。待機系制御部から運用系制御部に遷移した新運用系制御部103は、プロトコル処理部303に対して加入者端末100からの新規接続要求の受付を停止するよう指示する(ステップ707、812)。新規接続要求を停止させると、新規接続要求に伴い図2:210のようなNsを消費するパケットの送信を防ぐことができ、LAC装置とLNS装置間でNs、Nrのズレを防ぐことができる。
【0035】
そして、新運用系制御部103は、LNS装置106からコントロールパケット(例えば、図8のHello813)を受信した場合(ステップ708のYes、813)、受信したパケットのソースIPアドレスとTunnel−IDを取得する(ステップ709)。新運用系制御部103は、取得されたソースIPアドレスがL2TP情報データベース304のRemote IP−Addressに一致し、かつ、取得されたTunnel−IDがL2TP情報データベース304のLocal Tunnel−IDと一致するレコードを検索する。検索の結果、レコードに一致するものが存在する場合(ステップ710のYes)、新運用系制御部103は、受信パケット内のNs値とNr値を取得し(ステップ711)、該当レコードのNsフィールド401を受信したパケットのNr値で更新し(ステップ712)、該当レコードのNrフィールド402を受信したパケットのNs値に1加算した値(Ns値+1)で更新する(ステップ713)。なお、本実施の形態ではNsは1ずつ増加するものとして説明するが、Nsが他の予め定められた規則により変化する場合、ステップ713の処理もこの規則に対応させることができる。そして、新運用系制御部103は、更新したNs値401、Nr値402を基に、LNS装置106へZLB ACKパケットを送信する(ステップ714、814)。新運用系制御部103は、自系のプロトコル処理部303に対して加入者端末100からの新規接続要求停止の解除を通知し(ステップ715、815)、フェイルオーバ処理が完了する。フェイルオーバ完了後は、L2TPトンネル切断が発生することなく、故障前の加入者端末情報を保持したまま、新規加入者接続を受付することができる(815〜818)。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、例えば、L2TPプロトコルにおけるLAC装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
100:加入者端末
101、1101:LAC(L2TP Access Concentrator)装置
102、1102:運用系制御部#1
103、1103:待機系部制御部#2
104:L2TP(Layer2 Tunneling Protocol)トンネル
105:通信事業者IPネットワーク
106:LNS(L2TP Network Server)装置
107:ISP(Internet Service Provider)
209、213:ZLB−ACK(Zero Length Byte ACKnowledgement)
300:中継システム
301:加入者端末100とLAC装置101のインタフェース送信部・受信部
302:転送部
303:プロトコル処理部
304:L2TP情報データベース
305:セッション情報データベース
306:同期制御部
307:監視部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末に対してネットワーク接続サービスを提供するLNS装置と、該LNS装置との間でL2TPプロトコルによるL2TPトンネルを確立して通信するLAC装置とを備え、
前記LAC装置及び前記LNS装置は、自コントロールメッセージを識別するためのシーケンス番号と、受信された他のコントロールメッセージに含まれるシーケンス番号に基づいた、次に受信を期待するコントロールメッセージのシーケンス番号である受信確認応答番号とを含むコントロールメッセージを送信し、
前記LAC装置が、前記LNS装置から該受信確認応答番号と同じ値のシーケンス番号を含む所定のコントロールメッセージを受信すると、確認応答メッセージを前記LNS装置に送信し、
前記LNS装置が送信した所定のコントロールメッセージに対して前記確認応答メッセージが前記LAC装置から受信されないと、L2TPトンネルが切断されるシステムにおける前記LAC装置であって、
該LAC装置は、
前記LNS装置とコントロールメッセージを送受信してL2TPのプロトコル処理を行う現用系の第1制御部と、
前記第1制御部の障害が検出されると現用系に切り替わる待機系の第2制御部と、
少なくとも前記第1制御部の障害を検出する監視部と、
を備え、
現用系の前記第1制御部の障害が検出されることで待機系から現用系に切り替わった前記第2制御部は、該切り替え後に前記LNS装置から受信したコントロールメッセージのシーケンス番号及び受信確認応答番号を基に、自LAC装置からLNS装置にコントロールメッセージを送信するためのシーケンス番号及び受信確認応答番号を学習する前記LAC装置。
【請求項2】
前記第2制御部は、
前記切り替え後に前記LNS装置から受信したコントロールメッセージ内の受信確認応答番号をシーケンス番号とし、かつ、該受信したコントロールメッセージ内のシーケンス番号に基づき予め定められた規則で求まる値を受信確認応答番号とした確認応答メッセージを、前記LNS装置へ送信する請求項1に記載のLAC装置。
【請求項3】
前記第2制御部は、
前記切り替え後に前記LNS装置から受信したコントロールメッセージ内の受信確認応答番号をシーケンス番号とし、かつ、該受信したコントロールメッセージ内のシーケンス番号に基づき予め定められた規則で求まる値を受信確認応答番号として、該シーケンス番号及び受信確認応答番号を記憶し、
該記憶されたシーケンス番号及び受信確認応答番号に従い、L2TPのプロトコル処理を行う請求項1に記載のLAC装置。
【請求項4】
予め定められた前記規則は、受信したコントロールメッセージ内のシーケンス番号に1を加えることである請求項2又は3に記載のLAC装置。
【請求項5】
前記第2制御部は、
前記切り替え後に、ユーザからの新規接続要求の受付を停止し、前記LNS装置からのコントロールメッセージに基づく前記学習の後に、ユーザからの新規接続要求の再開することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のLAC装置。
【請求項6】
端末に対してネットワーク接続サービスを提供するLNS装置と、該LNS装置との間でL2TPプロトコルによるL2TPトンネルを確立して通信するLAC装置とを備え、
LAC装置及びLNS装置は、自コントロールメッセージを識別するためのシーケンス番号と、受信された他のコントロールメッセージに含まれるシーケンス番号に基づいた、次に受信を期待するコントロールメッセージのシーケンス番号である受信確認応答番号とを含むコントロールメッセージを送信し、
LAC装置が、LNS装置から該受信確認応答番号と同じ値のシーケンス番号を含む所定のコントロールメッセージを受信すると、確認応答メッセージをLNS装置に送信し、
LNS装置が送信した所定のコントロールメッセージに対して前記確認応答メッセージがLAC装置から受信されないと、L2TPトンネルが切断されるシステムにおけるフェイルオーバ方法であって、
LNS装置とコントロールメッセージを送受信してL2TPのプロトコル処理を行う、LAC装置の現用系の第1制御部の障害を検出するステップと、
LAC装置の待機系の第2制御部を現用系に切り替えるステップと、
LAC装置の第2制御部は、該切り替え後にLNS装置から受信したコントロールメッセージのシーケンス番号及び受信確認応答番号を基に、自LAC装置からLNS装置にコントロールメッセージを送信するためのシーケンス番号及び受信確認応答番号を学習するステップと
を含むフェイルオーバ方法。
【請求項7】
前記学習するステップは、
LAC装置の第2制御部が、前記切り替え後にLNS装置から受信したコントロールメッセージ内の受信確認応答番号をシーケンス番号とし、かつ、該受信したコントロールメッセージ内のシーケンス番号に基づき予め定められた前記規則で求まる値を受信確認応答番号とした確認応答メッセージを、LNS装置へ送信することを含む請求項6に記載のフェイルオーバ方法。
【請求項8】
前記学習するステップは、
LAC装置の第2制御部が、前記切り替え後にLNS装置から受信したコントロールメッセージ内の受信確認応答番号をシーケンス番号とし、かつ、該受信したコントロールメッセージ内のシーケンス番号に基づき予め定められた規則で求まる値を受信確認応答番号として、該シーケンス番号及び受信確認応答番号を記憶すること
を含み、
LAC装置の第2制御部が、該記憶されたシーケンス番号及び受信確認応答番号に従い、L2TPのプロトコル処理を行う請求項6に記載のフェイルオーバ方法。
【請求項9】
予め定められた前記規則は、受信したコントロールメッセージ内のシーケンス番号に1を加えることである請求項7又は8に記載のフェイルオーバ方法。
【請求項10】
LAC装置の第2制御部が、前記切り替え後に、ユーザからの新規接続要求の受付を停止し、LNS装置からのコントロールメッセージに基づく前記学習の後に、ユーザからの新規接続要求の再開することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載のフェイルオーバ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−283427(P2010−283427A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132900(P2009−132900)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】