説明

LAMP法を用いたイネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌の検出法

【課題】環状型等温増幅反応(LAMP法)を用いたイネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌の検出法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列を持つ5種類のプライマー全種を用いるプライマーセットからなり、イネ苗立枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、環状型等温増幅反応(LAMP法)によって該特定遺伝子を増幅可能であることを特徴とするイネ苗立枯細菌病菌検出用LAMPプライマー。特定の塩基配列を持つ5種類のプライマー全種を用いるプライマーセットからなり、イネもみ枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、LAMP法によって該特定遺伝子を増幅可能であることを特徴とするイネもみ枯細菌病菌検出用LAMPプライマー。これらのプライマーを用いた本細菌病菌の検出方法、及び本細菌病の発病有無の判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LAMP法(環状型等温増幅反応)を用いたイネ苗立枯細菌病菌(Burkholderia plantarii)及びイネもみ枯細菌病菌(Burkholderia glumae)を特異的に検出できることができる方法、この方法に用いるプライマーセット、また、この方法及びプライマーセットを用いた育苗時の細菌病発病判断方法に関するものである。本発明は、育苗時において、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を特異的に検出できる本細菌病の発病有無を判定できる判定技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
イネ苗立枯細菌病菌やイネもみ枯細菌病菌は、イネの育苗期に発生する細菌病の病原細菌の一種で、育苗時に苗を枯死させる被害を出す。現在行われている防除方法は、主にイネもみを農薬に浸漬する種子消毒法であり、育苗時の被害を予防的に防止している。
【0003】
このような種子消毒は必須の現状であり、また、農薬を種子消毒に使用した場合、排出される農薬廃液処理も必要である。このように、育苗前に発病の有無を調査することができない現状では、防除は必須であるので、コスト面・作業時間の面からもイネ生産者には負担となっている。育苗前に防除要否を判断できる技術が求められている。
【0004】
従来、イネ苗立枯細菌病やイネもみ枯細菌病の診断・判定法として、選択培地を用いてこれらの菌の有無を調査することがある。しかしながら、この方法は、判定までに長時間を要し、判定には熟練性を要する。そこで、生化学的性状から判断するものではなく、遺伝子レベルでの判別方法が着目されている。
【0005】
現在報告されている遺伝子レベルでの判定方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)を利用したイネ苗立枯細菌病菌検出法及びイネもみ枯細菌病菌検出法が報告されている(非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、このPCR法を用いた細菌の検出法は、反応を行うために遺伝子増幅装置を必要とし、最終的な判定操作は電気泳動法と呼ばれる特殊な手法や紫外線を照射する装置などが必要で、開始から判定までに4〜5時間要する。
【0007】
また、このPCR法を用いてイネ浸種時の細菌有無を調査し、防除要否を判断しようとした場合、イネもみ枯細菌病菌は、浸種液を培養し、細菌を増殖させれば判断が可能である。しかし、イネ苗立枯細菌病菌は、浸種液を培養・細菌増殖させたとしてもPCR法による菌の検出限界と発病する最低菌密度レベルがほぼ同じレベルとなり、精度不足で判断は不可能であった。そこで、PCR法よりも迅速で簡便、そして検出感度が高い検出法が求められていた。
【0008】
最近では、PCR法に代わる遺伝子増幅法として環状型等温増幅反応(Loop−Mediated Isothermal Amplification;LAMP)による手法が栄研化学株式会社より開発された。この手法は、特殊な大型機器を用いる必要はなく、また反応時間も短く簡便であり、迅速に結果を得られると考えられる。しかしながら、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌に特異的に反応するLAMPプライマーは、未だ発見されていない。
【0009】
【非特許文献1】日本植物病理学会報、63巻、pp.455−462(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を特異的に検出できる新しい判定技術を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌に特異的に反応するLAMPプライマーを設計、完成させ、そして、これらLAMPプライマーを用いて、イネもみ浸種液中の細菌数と発病度との関係を調べることで、浸種時以降の細菌病防除要否を判断できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌に特異的に反応するLAMPプライマー、該プライマーを用いてイネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を特異的に検出できる方法、該方法を用いた本細菌病の発病有無の判定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)配列番号1〜5で示される5種類のプライマー全種を用いるプライマーセットからなり、イネ苗立枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、環状型等温増幅反応(LAMP法)によって該特定遺伝子を増幅可能であることを特徴とするイネ苗立枯細菌病菌検出用LAMPプライマー。
(2)前記(1)に記載の5種類のプライマー全種をイネ苗立枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングさせ、更に、LAMP法によって特定領域遺伝子を増幅させ、この増幅による反応系の変化を光学的検査により確認することからなるイネ苗立枯細菌病菌の検出方法。
(3)光学的検査による確認が、反応液の濁度を目視判定する確認である、前記(2)に記載のイネ苗立枯細菌病菌の検出方法。
(4)前記(2)又は(3)に記載の方法で、イネもみ浸種液を集菌増殖処理した培養液中のイネ苗立枯細菌病菌を検出することにより、本細菌病の発病有無を判定する方法。
(5)配列番号6〜10で示される5種類のプライマー全種を用いるプライマーセットからなり、イネもみ枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、LAMP法によって該特定遺伝子を増幅可能であることを特徴とするイネもみ枯細菌病菌検出用LAMPプライマー。
(6)前記(5)に記載の5種類のプライマー全種をイネもみ枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングさせ、更に、LAMP法によって特定領域遺伝子を増幅させ、この増幅による反応系の変化を光学的検査により確認することからなるイネもみ枯細菌病菌の検出方法。
(7)光学的検査による確認が、反応液の濁度を目視判定する確認である、前記(6)に記載のイネもみ枯細菌病菌の検出方法。
(8)前記(6)又は(7)に記載の方法で、イネもみ浸種液中のイネもみ枯細菌病菌を検出することにより、本細菌病の発病有無を判定する方法。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明者は、上記した新規プライマーを得るという課題を解決するために、この発明では、配列番号1〜5に示される塩基配列5種のプライマーを全種用いるプライマーセットからなり、イネ苗立枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、LAMP法によって増幅可能なイネ苗立枯細菌病菌検出用LAMPプライマー、そして、配列番号6〜10に示される塩基配列5種のプライマーを全種用いるプライマーセットからなり、イネもみ枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、LAMP法によって増幅可能なイネもみ枯細菌病菌検出用LAMPプライマーとした。
【0013】
上記したイネ苗立枯細菌病菌検出用LAMPプライマー及びイネもみ枯細菌病菌検出用LAMPプライマーは、この2菌株の16S及び23SリボソームRNA遺伝子間に存在するスペーサー領域の塩基配列間に異なる配列が存在していることを利用しており、それぞれの細菌のスペーサー領域に特異的にアニーリングする(図1)。
【0014】
これらの5種類のプライマーセットは、60℃付近においてアニーリングと同時にDNA鎖の合成も起こすものである。それぞれのプライマーからなるDNA合成は、他のプライマーから合成したDNA鎖を剥がしながら進行するため、等温反応にて遺伝子の増幅が起こる。このようなDNA増幅反応が進むと、副産物として形成されるピロリン酸マグネシウムの影響で反応液が白濁するため、増幅の有無を目視により判定できる。
【0015】
完成させたLAMPプライマーを用いて、イネ育苗時の細菌病に対する防除要否を判断する場合、イネ苗立枯細菌病菌は、浸種液をメンブレンフィルターで集菌して、フィルターを液体の選択培地に混入させて培養し、増殖させ、イネ苗立枯細菌病菌検出LAMPプライマーを用いてLAMP反応を行うことにより、発病限界の菌濃度まで検出することが可能となった。また、イネもみ枯細菌病菌については、浸種液を直接用いて、イネもみ枯細菌病菌検出用LAMPプライマーを用いたLAMP反応に使用することで、発病限界の菌濃度まで検出することが可能となった。
【0016】
本発明において使用される試料としては、イネ苗立枯細菌病菌やイネもみ枯細菌病菌の培養液や寒天培地上に増殖させた菌体コロニーを蒸留水に懸濁した菌液を使用する。また、イネのもみ、もみ浸種時の浸種液、葉、茎などを試料として用いる場合、もみや植物体は、水や緩衝液に浸漬させるか、水や緩衝液中に浸したのち磨砕させることにより液体中に増幅に用いられる菌体・核酸を遊離させる。また、もみ浸種時における浸種液を用いる場合には、そのままかあるいは5μmフィルターなどで夾雑物を除去して精製した菌液、また、夾雑物をフィルターで除去した液中の菌を0.22μmフィルターで集菌し、そのフィルターを1/5濃度の液体選択培地に混入させて培養し、増殖させた培養液を試料とする。
【0017】
このように得られたイネ苗立枯細菌病菌やイネもみ枯細菌病菌が遊離した菌液からそれぞれの核酸を増幅するためには、LAMP法を行い特定遺伝子領域を増幅させる。このLAMP法は、栄研化学株式会社が開発した核酸増幅法である。LAMP法は、標的遺伝子の6箇所の領域に対して4種類のプライマーを設定して、鎖置換反応を利用し、一定温度で反応させることを特徴とする。
【0018】
反応は、サンプルとなる遺伝子、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を同一の反応チューブに混合し、一定温度(60℃〜65℃付近)で保温することにより、遺伝子の増幅から検出までを1ステップの工程で行うことができる。増幅効率が高く、DNAを1時間程度で10〜1010倍に増幅することが可能である。その極めて高い特異性から、増幅産物の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができる。また、増幅副産物であるピロリン酸マグネシウム(白色沈殿物質)の白濁の有無によっても標的遺伝子配列の有無を判別できる。
【0019】
本発明のイネ苗立枯細菌病菌に特異的なプライマーは、その特定領域を標的として、ループを形成する2種類の内部プライマーであるFIP(配列番号1)とBIP(配列番号2)と、2種類の外部プライマーであるF3(配列番号3)とB3(配列番号4)、そしてDNA合成の起点を増やすことが可能となるループプライマーであるLB(配列番号5)、以上の5種類のLAMPプライマーを全種用いることでイネ苗立枯細菌病菌の特定遺伝子領域を増幅させることができる。このプライマーを用いたLAMP反応を20分〜2時間程度行い、遺伝子の増幅の有無、すなわち、イネ苗立枯細菌病菌の検出は、反応液の白濁具合により目視で確認することができる。
【0020】
FIP:5’−GCCCCCATGTACAGAGACGTCTGAATCCAACCAGACCCACC−3’(配列番号1)
BIP:5’−AGGGGGTCGTCGGTTCGATCGCAACCTTGGTCCAAGCC−3’(配列番号2)
F3 :5’−GATAAGGCGGGGGTCGTT−3’(配列番号3)
B3 :5’−CGCCAATAAGGAAACCTCGG−3’(配列番号4)
LB :5’−CCTCCACCAATCTTCAATAAAG−3’(配列番号5)
【0021】
また、イネもみ枯細菌病菌に特異的なプライマーも同様に、その特定領域を標的として、LAMPプライマーであるFIP(配列番号6)、BIP(配列番号7)、F3(配列番号8)、B3(配列番号9)、LB(配列番号10)を5種すべて用いることでイネもみ枯細菌病菌の特定遺伝子領域を増幅させることができる。このプライマーを用いたLAMP反応を40分〜2時間程度行い、遺伝子の増幅の有無、すなわち、イネもみ枯細菌病菌の検出は、反応液の白濁具合により目視で確認することができる。
【0022】
FIP:5’−ATCGAACCGACGACCCCCTGTAGGGAAGGGGGCATAGC−3’(配列番号6)
BIP:5’−CAGGGATGCTGAGCAGTTGTCAGCGCTACTTCTCGCTCATC−3’(配列番号7)
F3 :5’−GGAACACCTGGGTAGTCTCT−3’(配列番号8)
B3 :5’−TGTTAAAGAACGACAGCCGA−3’(配列番号9)
LB :5’−TTGGCGATTGAGCCAGTCAGAG−3’(配列番号10)
【発明の効果】
【0023】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明によれば、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を短時間で検出ができる。LAMP法を用いるため、特別な機器を使用することなく、反応物の濁度を目視により判定することができる。
(2)本発明は、迅速で簡便にイネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を検出することができる点で優れている。
(3)従来の検出法であるPCR法に比べて検出感度が高く、微量の細菌も検出することが可能となり、浸種時以降の細菌病防除要否判定にも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0025】
以下の実施例では、イネ苗立枯細菌病菌検出用LAMP反応液には、配列番号1〜5で示されるLAMPプライマーセットを用い、イネもみ枯細菌病菌検出用LAMP反応液には、配列番号6〜10で示されるLAMPプライマーセットを用いて、LAMP法により遺伝子を増幅し、反応液の濁度変化によって増幅を検出した。
【0026】
LAMP反応液は、最終反応溶液25μL中の各試薬濃度が、下記になるように調整した。
・20 mM Tris−HCl(pH 8.8)
・10 mM KCl
・10 mM (NHSO
・ 8 mM MgSO
・ 0.1 % Tween20
・ 1.4mM each dNTP
・ 0.8 M Betaine
・ 8 Units Bst DNAポリメラーゼ(New England BioLab社製)
(プライマー)
・40pM FIP
・40pM BIP
・5pM F3
・5pM B3
・20pM LB
テンプレート(菌液)1μl
【0027】
LAMP反応条件については、60℃で2時間保持して反応させ、その後、80℃で5分間の酵素変性処理を行った。
【実施例1】
【0028】
(2菌株を用いた解析)
イネ苗立枯細菌病菌検出用LAMP反応液とイネもみ枯細菌病菌検出用LAMP反応液を用いて、2菌株の検出を行った。使用菌株は、イネ苗立枯細菌病菌(MAFF301723)、イネもみ枯細菌病菌(MAFF106666)とし、それぞれの菌を滅菌蒸留水で懸濁した液をLAMP反応の試料として用いた。
【0029】
上記に記した菌液1μlを加えた25μl反応液を60℃で反応させ、経時的に濁度を測定した。ネガティブコントロールとして蒸留水1μlを使用した。濁度装置として栄研化学のリアルタイム濁度測定装置(RT−160C)を使用した。
【0030】
図2に示す結果から、イネ苗立枯細菌病菌検出用LAMPプライマーを用いた反応液では、イネ苗立枯細菌病菌のみで増幅反応が認められ、イネもみ枯細菌病菌とネガティブコントロールでは増幅反応が認められなかった。
【0031】
また、図3に示す結果から、イネもみ枯細菌病菌検出用LAMPプライマーを用いた反応液では、イネもみ枯細菌病菌のみで増幅反応が認められ、イネ苗立枯細菌病菌とネガティブコントロールでは増幅反応が認められなかった。
【実施例2】
【0032】
(15菌株を使用した特異性調査)
15菌株(3属6種)を用いて実施例1と同様にLAMP反応を行った。反応液の白濁の有無を目視により判定した。結果は表1に示ように、イネ苗立枯細菌病菌検出用LAMP反応液はBurkholderia plantarii菌株のみに、イネもみ枯細菌病菌検出用LAMP反応液はBurkholderia glumae菌株のみで白濁がみられ、他の菌株では白濁が起こらず、特異的にそれぞれの菌を判定できた。
【0033】
【表1】

【実施例3】
【0034】
(PCR法とLAMP法による検出限界の比較)
(1)PCR法による反応
PCR法で使用するイネ苗立枯細菌病菌検出用PCRプライマー・イネもみ枯細菌病菌検出用PCRプライマーは、両者とも2菌株の16S及び23SリボソームRNA遺伝子間に存在するスペーサー領域の塩基配列からなるもので、フォワードプライマーは、それぞれ異なる遺伝子配列部分を、リバースプライマーは、共通配列部分を使用している。
【0035】
PCRプライマーの塩基配列は、以下に示すとおりである。
PCRプライマー−1:5’−GATTGAGCCAGTCAGAGGATAAGTC−3’
PCRプライマー−2:5’−TGTCTGACACGGAACACCTGGGTAG−3’
PCRプライマー−3:5’−AGGTTGAGTTCTCGCATTTGTGCCG−3’
【0036】
PCRプライマー−1は、イネ苗立枯細菌病菌の配列からなるフォワードプライマー、PCRプライマー−2は、イネもみ枯細菌病菌の配列からなるフォワードプライマー、そしてPCRプライマー−3は、2菌株の共通配列からなるリバースプライマーである。
【0037】
PCR法に用いる反応液は、最終反応液20μlとし、以下に示す反応組成とした。
・10×Buffer(TaKaRa社製) 2μl
・dNTPs(TaKaRa社製) 1.6μl
・10%スキムミルク 0.5μl
・Ex Taq polymerase(TaKaRa社製) 0.1μl
・50μM PCRプライマー−1、−2、−3 各0.2μl
・滅菌蒸留水 14.2μl
・菌液 1μl
【0038】
PCR反応は、上記の反応液を最初に94℃で2分間熱変性したのち、熱変性94℃30秒、アニーリング60℃30秒、ポリメラーゼ伸長反応72℃40秒を1サイクルとして計30サイクル行ったのち、72℃5分間伸長反応を行った。反応装置は、STRATAGENE社製RoboCyclerを使用し、反応終了後の増幅産物を1.5%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色したのち、紫外線を照射することで増幅産物を確認した。
【0039】
(2)PCR法とLAMP法による検出限界の比較結果
イネ苗立枯細菌病菌(MAFF301723)を9.6×10−2〜9.6×10cfu/mlの10段階希釈、イネもみ枯細菌病菌(MAFF106666)を3.9×10−2〜3.9×10cfu/mlの10段階希釈した菌液を、それぞれPCR反応とLAMP反応の試料として用いた。ネガティブコントロールは、滅菌蒸留水を使用した。LAMP法は、実施例1と同様にして行った。
【0040】
その結果、イネ苗立枯細菌病菌の検出では、PCR法では9.6×10cfu/mlまで増幅断片が確実に検出できたが、9.6×10cfu/mlでは薄いバンドとして観察された。これに対して、LAMP法では9.6×10cfu/mlまで反応液の濁度が上昇し菌を検出することができた(図4)。よって、同等の検出感度、あるいは10倍程度PCR法よりもLAMP法の方が検出感度が高かった。
【0041】
一方、イネもみ枯細菌病菌の検出では、PCR法では3.9×10cfu/mlまで増幅断片が検出できた。LAMP法では3.9×10cfu/mlまで反応液の濁度が上昇し、菌を検出することができた(図5)。よって、LAMP法は、PCR法よりも10倍程度検出感度が高いことが明らかとなった。
【実施例4】
【0042】
(浸種液中の菌検出結果と発病の関連(イネ苗立枯細菌病菌))
イネ苗立枯細菌病菌の浸種液中の増殖実態をLAMP法により調査し、催芽時以降の防除要否を判断できるか否かを検討した。
【0043】
・汚染種子作製法:(1)1/2アンチホルミンで一時間表面殺菌し、イネ苗立枯細菌病菌を1.9×10〜1.9×108cfu/mlの7濃度段階でコシヒカリ種子に減圧接種して汚染種子を作製した。また、(2)3.5×10cfu/mlで減圧接種したコシヒカリ種子を、混入割合0.025%(1粒)、0.25%(10粒)、1%(1g)、10%(10g)、100%(100g)の5段階で健全種子に混和、100gの汚染種子を作製した。
【0044】
・浸種液中の菌検出法:浸種前の試験種子を60分間振とうし、被検液を採取、更に、浸種3日後、浸種5日後及び催芽直後に採種した浸種液を被検液とした。また、それぞれ採種した浸種液50mlを5μmフィルターで夾雑物を除去後、0.22μmフィルターで集菌、集菌フィルターを1/5ADFT液体培地(20ml)に混入し、振とう培養(30℃,24h)後に検出した(表2〜5にはMFと示す)。
【0045】
検出は、PCR法(実施例3と同様の方法)及びLAMP法(実施例1と同様の方法)により菌検出した。
・菌密度調査:被検液の菌密度を調べるために、選択培地(ADFT培地)を用い、段階希釈平板法により菌密度調査した。
【0046】
・浸種・育苗管理:汚染種子を水道水中で浸種(15℃,6日間、浴比1:2)し、催芽(30℃,24h、浴比1:2)させた。イチゴパック(150cm,5×10cm)に12.5g/パックで播種後、30℃定温(照明:14L−10D)で10日間育苗し、発病程度を観察した。
【0047】
・発病調査:各イチゴパックから200苗ランダムに抽出し、発病を調査した。無発病は、全苗調査した。発病度の算出:発病度=100×(5×枯死苗数+3×葉の黄白化等発病苗数)/5×調査苗数
【0048】
上記の方法で調査した結果、イネ苗立枯細菌病の発病は、接種濃度が1.9×10以上又は汚染もみ(3.5×10cfu/ml)の混入割合が0.25%以上で認められた。浸種水を直接LAMP反応に用いるだけでは、発病限界の菌濃度まで検出することは不可能であった。しかし、メンブランフィルターで集菌して増殖させた被検液をLAMP反応に用いることで、検出可能であった。
【0049】
よって、本病の発病限界の菌濃度をイネ苗立枯細菌病菌検出用LAMP反応液により集菌・増殖させた浸種液から検出することが可能であった(表2、表3)。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【実施例5】
【0052】
(浸種液中の菌検出結果と発病の関連(イネもみ枯細菌病菌))
イネもみ枯細菌病菌の浸種液中の増殖実態をLAMP法により調査し、催芽時以降の防除要否を判断できるか否かを検討した。
【0053】
実施例4で示した方法と同様であるが、イネもみ枯細菌病菌を2.9×10〜2.9×108cfu/mlの6濃度段階でコシヒカリ種子に減圧接種した。また、5.9×10cfu/mlの菌液をコシヒカリに減圧接種した汚染もみを5段階の混入割合にして汚染種子を作製した。また、集菌後の増殖用培地には1/5CCNT液体培地を、菌密度調査には選択培地としてS−PG培地を用いた。
【0054】
調査した結果、イネもみ枯細菌病の発病は、接種濃度が2.9×10以上又は汚染もみ(5.9×10cfu/ml)の混入割合が1%以上で認められ、浸種5日後までの浸種液では、発病する菌濃度である浸種水を用いたLAMP反応ではすべて菌が検出できた。よって、本病の発病限界の菌濃度をイネもみ枯細菌病菌検出用LAMP反応液により浸種液から直接検出することが可能であった(表4、表5)。
【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0057】
以上詳述したように、本発明は、LAMP法を用いたイネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌の検出法に係るものであり、本発明により、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を短時間で検出ができる。LAMP法を用いるため、特別な機器を使用することなく、反応物の濁度を目視により判定することができる。本発明は、迅速で簡便にイネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を検出することができる点で優れている。従来の検出法であるPCR法に比べて検出感度が高く、微量の細菌も検出することが可能となり、浸種時以降の細菌病防除要否判定にも利用できる。本発明は、育苗時において、イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌を特異的に検出できる本細菌病の発病有無を判定できる判定技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】イネ苗立枯細菌病菌及びイネもみ枯細菌病菌の16S及び23リボソームRNA遺伝子間の塩基配列を示す。
【図2】イネ苗立枯細菌病菌検出用LAMP反応液の濁度と経時的変化を示す。
【図3】イネもみ枯細菌病菌検出用LAMP反応液の濁度と経時的変化を示す。
【図4】PCR反応LAMP反応によるイネ苗立枯細菌病菌の検出限界の比較を示す。
【図5】PCR反応LAMP反応によるイネもみ枯細菌病菌の検出限界の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜5で示される5種類のプライマー全種を用いるプライマーセットからなり、イネ苗立枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、環状型等温増幅反応(LAMP法)によって該特定遺伝子を増幅可能であることを特徴とするイネ苗立枯細菌病菌検出用LAMPプライマー。
【請求項2】
請求項1に記載の5種類のプライマー全種をイネ苗立枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングさせ、更に、LAMP法によって特定領域遺伝子を増幅させ、この増幅による反応系の変化を光学的検査により確認することからなるイネ苗立枯細菌病菌の検出方法。
【請求項3】
光学的検査による確認が、反応液の濁度を目視判定する確認である、請求項2に記載のイネ苗立枯細菌病菌の検出方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の方法で、イネもみ浸種液を集菌増殖処理した培養液中のイネ苗立枯細菌病菌を検出することにより、本細菌病の発病有無を判定する方法。
【請求項5】
配列番号6〜10で示される5種類のプライマー全種を用いるプライマーセットからなり、イネもみ枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングし、LAMP法によって該特定遺伝子を増幅可能であることを特徴とするイネもみ枯細菌病菌検出用LAMPプライマー。
【請求項6】
請求項5に記載の5種類のプライマー全種をイネもみ枯細菌病菌の特定遺伝子領域にアニーリングさせ、更に、LAMP法によって特定領域遺伝子を増幅させ、この増幅による反応系の変化を光学的検査により確認することからなるイネもみ枯細菌病菌の検出方法。
【請求項7】
光学的検査による確認が、反応液の濁度を目視判定する確認である、請求項6に記載のイネもみ枯細菌病菌の検出方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の方法で、イネもみ浸種液中のイネもみ枯細菌病菌を検出することにより、本細菌病の発病有無を判定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−220228(P2008−220228A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61131(P2007−61131)
【出願日】平成19年3月10日(2007.3.10)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】