Liイオン電池用正極活物質およびその製造方法
【課題】放電容量が非常に高く、サイクル特性も良好な、微細なLiイオン電池用正極活物質、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 (A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質の製造方法であり、この製造方法により製造されたLiイオン電池用正極活物質である。
【解決手段】 (A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質の製造方法であり、この製造方法により製造されたLiイオン電池用正極活物質である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン電池用正極活物質として用いられるLiFePO4、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等のポータブル電子機器の発達や、電気自動車、ハイブリッドカーの実用化に伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。また、ソーラー発電や風力発電といった自然エネルギーのバックアップ電源、地震災害等における電力供給源向けに電池業界、重工業業界から、高容量でサイクル特性のよい二次電池が要求されている。現在、この要求に応える高容量二次電池の正極材料としてLiCoO2等のリチウム含有遷移金属酸化物を用い、負極活物質として炭素系材料を用いたリチウムイオン二次電池が商品化されている。
【0003】
ところが、LiCoO2を用いたリチウムイオン電池は、小型電池としての性能は優れているものの、原料のコバルト埋蔵量が少ないため、資源的制約があり、激しい価格変動があることに加えて、充電時に何らかの原因で内部短絡が生じた際や過充電の際に、LiCoO2からの酸素放出により激しい発熱が起こり、電解液を燃焼、電池を爆発させる危険性を有している等の問題を抱えている。
【0004】
今後、電気自動車やハイブリッド車等の環境対応車の開発が重要になってくる状況を考慮すると、安全でかつ安価なリチウムイオン電池用の正極材料が必要とされてくる。このような状況下、Liイオン電池の正極材料として、原料の豊富な鉄系の材料、特にLiFePO4に期待が持たれている。
【0005】
しかし、LiFePO4は電子伝導性が非常に低いため、単に導電助剤を共存させて正極を構成するだけでは不十分であり、優れた電池特性の確保が困難である。そこで、LiFePO4を用いたリチウムイオン電池用の正極材料において、電子伝導性を高める技術が検討されている。
【0006】
例えば、リチウム化合物、鉄化合物、リン含有アンモニウム塩、炭素物質微粒子を混合して混合物を得る原料混合工程と、該混合物を600℃以上750℃以下の温度で焼成する焼成工程を含む方法により製造された、炭素含有リチウム鉄複合酸化物が、示されている(特許文献1)。また、炭素−リン酸鉄複合体を沈殿により製造する工程、上記炭素−リン酸鉄複合体とリン酸リチウムとを含有する共沈物を製造する工程、上記共沈物を焼成する工程を有する炭素−オリビン型リン酸鉄リチウム複合粒子の製造方法が示されている(特許文献2)。
【0007】
また、リン酸鉄リチウムの原料に電子伝導性物質として炭素を加えて、前駆体混合物又は前駆体懸濁物の分散又は粉砕処理を行い、その後、熱水条件下で反応させるリン酸鉄リチウムの製造方法が、示されている(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、上記の製造方法で使用されている炭素材料は、いずれも粉末であり、各原料と炭素材料を、均一な状態で製造することは困難であり、微細なリン酸鉄リチウム粒子を得るためには、焼成後に粉砕工程が必要となる。また、上記の前駆体混合物又は前駆体懸濁物の分散又は粉砕処理を行った後、熱水条件下で反応させる方法(特許文献3)では、分散又は粉砕処理によって炭素材料の分散性は高まる可能性はあるが、工程が多く複雑で、手間やコストがかかり、安価であるという鉄系材料のメリットを活かし難いという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−34534号広報
【特許文献2】特開2007−35295号広報
【特許文献3】特表2007−511458号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、発明者らは、鋭意研究した結果、原料混合物を仮焼成した後、仮焼成物に、高分子材料を混合し、焼成する工程により製造された、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在する微細なLiイオン電池用正極活物質が、放電容量が非常に高く、サイクル特性もよいことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したLiイオン電池用正極活物質、およびその製造方法に関する。
(1) (A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(2) 高分子材料が、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、またはポリビニルアルコールである、上記(1)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(3) (C)工程での仮焼成の温度が、250〜400℃であり、(D)工程での焼成の温度が、600〜800℃である、上記(1)または(2)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(4) リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(3)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(5) 鉄化合物が、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、炭酸鉄、および金属鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(4)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(6) リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(5)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法により製造された、放電容量が130mAh/g以上のLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質。
【発明の効果】
【0012】
本発明(1)によれば、放電容量が非常に高く、サイクル特性のよいLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質を、高価な装置および原料を用いることなく、簡便に製造することができる。ここで、カーボン微粒子は、Liイオン電池用正極活物質の導電性に寄与するのみならず、放電容量を向上させるという、顕著な効果をもたらす、と考えられる。
【0013】
本発明(7)によれば、放電容量が非常に高く、サイクル特性の良好なLiイオン電池を、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の粒度分布測定結果である。
【図3】実施例で使用したメノウ容器、メノウボールの写真である。
【図4】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図5】実施例4で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図6】実施例5で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図7】比較例1で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図8】比較例4で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図9】実施例で合成した活物質を測定するために用いた電気化学セルの構成図である。
【図10】実施例1で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図11】実施例1で得られたLiイオン電池用正極活物質の1Cでの充放電結果を示す図である。
【図12】実施例2で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図13】実施例3で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図14】実施例3で得られたLiイオン電池用正極活物質の1Cでの充放電結果を示す図である。
【図15】比較例1で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図16】実施例4で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図17】実施例5で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図18】比較例2で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図19】比較例3で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図20】比較例4で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量基準の%である。
【0016】
〔Liイオン電池用正極活物質の製造方法〕
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、(A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする。
【0017】
《(A)工程》
リチウム化合物は、LiFePO4のリチウム源となり、リチウム化合物としては、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムが挙げられ、リチウム化合物は、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、水酸化リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムであり、より好ましくは、ガス分解成分を発生することにより分解生成物の微粒子化が促進されるという観点から炭酸リチウムである。純度は、試薬メーカーから特級として市販されているものが好ましい。
【0018】
鉄化合物は、LiFePO4の鉄源となり、鉄化合物としては、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、炭酸鉄、および金属鉄が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄であり、より好ましくは、ガス分解成分を発生することにより分解生成物の微粒子化が促進されるという観点からシュウ酸鉄である。シュウ酸鉄は、陰イオンが脱離しやすい材料のためである。
【0019】
リン酸化合物は、LiFePO4のリン酸源となり、リン酸化合物としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、リン酸二水素アンモニウムである。陽イオンが脱離しやすい観点からである。
【0020】
リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物の含有量は、リチウムイオン:1質量部に対して、鉄イオンは、7〜9質量部、リンイオンは、4〜5質量部が好ましい。
【0021】
混合する方法としては、ボールミル、ミキサー、乳鉢が挙げられ、均一に混合でき、粉砕も兼ねることができる観点からボールミルが好ましい。ここで、混合は、均一に混合し易い観点から、湿式法により行うことが好ましい。また、混合するときには、コンタミネーション防止の観点から、メノウ、アルミナ、ジルコニア等の容器や、ボール等を使用することが好ましい。
【0022】
《(B)工程》
仮焼成するときの雰囲気は、鉄イオンの酸化を防ぐ観点から、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中であり、3〜5%の水素ガスを含有するアルゴンガス等の弱還元性雰囲気中が好ましい。温度は、250〜400℃が好ましく、300〜350℃がより好ましい。250℃より低いと好ましい仮焼成物(前駆体)の生成が不完全であり、400℃より高いと生成するLiFePO4の粒子成長が顕著となるからである。また、時間は、180〜600分が好ましく、240〜360分が、より好ましい。これより短いと、好ましい前駆体の生成が不完全であり、これより長いと、生産性が悪く、また生成するLiFePO4の粒子成長が顕著となるためである。仮焼成するときには、原料混合物を、アルミナボートに載せて行うと、コンタミネーション防止の観点から好ましい。
【0023】
《(C)工程》
高分子材料としては、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が適切に析出する、Cに対するHの原子比が比較的小さいことが有利である観点からポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリビニルアルコールが好ましい。ここで、ポリエチレングリコールの場合には、重量平均分子量が、6000〜20000であると好ましく、ポリスチレンの場合には、重量平均分子量が、1000〜3000であると好ましい。重量平均分子量が低すぎると液体になり、重量平均分子量が高すぎると溶媒への溶解に時間がかかることになる。高分子材料は、溶媒に溶解して使用することが高分子材料を前駆体表面に均一に分散させる観点から好ましく、高分子材料を溶媒に溶解した溶液と前駆体を混ぜたスラリーを乾燥させることにより、高分子材料を前駆体表面に均一に分散させることが望ましい。このため上述の特性を持つ高分子材料が好ましい。ここで、高分子材料としては、(D)工程での焼成時にLiFePO4の表面に、カーボン微粒子を形成可能なものであればよい。高分子材料としては、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリビニルアルコールなど化学式として、C、Hのみ、またはC、H、Oのみからなり、常温で固体であるものが好ましく、さらに極性を有する高分子材料のときには、メタノール、エタノール等の極性溶媒に、無極性高分子材料のときには、トルエンあるいはキシレン等の無極性溶媒に溶解するものが、より好ましい。
【0024】
高分子材料は、仮焼成物:100質量部に対して、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは、15〜25質量部混合する。5質量部より少ないと、析出炭素量が少なく,均一に分散されず、40質量部より多いと、還元性の雰囲気が強まり,生成物が還元されてしまうからである。
【0025】
仮焼成物に、高分子材料を混合する方法は、(A)工程と同様である。
【0026】
《(D)工程》
(B)工程と同様に、焼成を不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で行う。温度は、600〜800℃が好ましく、700〜750℃がより好ましい。600℃より低いとLiFePO4の結晶性の低下が顕著であり、800℃より高いとLiFePO4の粒子成長が顕著になるためである。また、時間は、180〜1200分が好ましく、480〜720分が、より好ましい。これより短いと、LiFePO4の結晶性の低下が顕著であり、これより長いと、カーボン微粒子が減少する、生産性が悪い、LiFePO4の粒子成長が顕著になるためである。焼成するときには、被焼成物を、アルミナボートに載せて行うと、コンタミネーション防止の観点から好ましい。
【0027】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、例えば、以下の反応式により起こると考えられる。
Li2CO3+2(FeC2O4・2H2O)+2NH4H2PO4
→2LiFePO4+5CO2↑+2NH3↑+5H2O↑+2H2↑
【0028】
上記の反応においては、Feの酸化を防ぐことにより所望の効果を得ることができるので、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気中;水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気中;または真空雰囲気中、で行う。
【0029】
〔Liイオン電池用正極活物質〕
本発明のLiイオン電池用正極活物質は、上記のLiイオン電池用正極活物質の製造方法により製造された、放電容量が130mAh/g以上のLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在することを特徴とする。
【0030】
LiFePO4は、オリビン型であり、好ましい組成は、LixFePO4(式中、x=0〜1を示す)である。ここで、Li、Fe、P、Oの定量分析は、ICP質量分析法で行う。なお、例えば、結晶構造におけるFeのサイトの一部を、Co、Ni、Mn等の他の元素で置換してもよい。
【0031】
例えば、Mn、Ni、Coは、Feと約同等のイオン半径を有し、かつFeとは異なる電位で酸化還元するものである。そのため、Feサイトの一部を、これらの元素の1種以上で置換することにより、リチウム鉄複合酸化物のエネルギー密度の向上を図ることができる。したがって、リチウム鉄複合酸化物は、Feのサイトの一部を他の元素Mで置換した、組成式LiFe1−yMyPO4(ここで、Mは、Mn、Ni、Coから選ばれる少なくとも1種であり、y=0〜1.0である)で示されるものとすることが望ましい。特に、資源的にも豊富で安価であるという理由から、置換元素MはMnとすることが望ましい。
【0032】
図1に、実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査型電子顕微鏡写真を、図2に、実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の粒度分布測定の結果を示す。図1および図2からわかるように、Liイオン電池用正極活物質は、いわゆる固相法で製造したのにもかかわらず、サブミクロンオーダーであり、粒径範囲は15〜400nmである。粒度分布の累積50%における粒径を平均粒径と考えると60nmである。また粒度分布の頻度36%および粒度分布の頻度64%にピークが見られ、その値は各々35nmと80nmであることから、これらの値の径を持つ粒子が多いことがわかる。また、BET法で測定したLiイオン電池用正極活物質の比表面積が、約10〜30m2/gであり、カーボンは、微粒子で存在していると考えられる。
【0033】
カーボン微粒子の含有量は、Liイオン電池用正極活物質:100質量部に対して、1〜5質量部であると好ましく、1〜3質量部であると、より好ましい。1質量部より少ないと、粒子表面全体に炭素が分布できず、5質量部より多いと無駄である。ここで、カーボン微粒子含有量の定量は、製造したLiイオン電池用正極活物質を、4mol/dm3の塩酸に浸漬してLiFePO4を溶解し、吸引濾過後、乾燥する。このときの残留分の質量をカーボン微粒子量として、処理前のLiイオン電池用正極活物質の質量との比較から求める。なお、カーボン微粒子の含有量は、主に添加する高分子材料の含有量により制御することができ、(D)工程の焼成温度、焼成時間によっても制御することができる。
【0034】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の放電容量は、放電レート:0.2Cで測定したときの値とする。ここで、0.2Cは、理論容量分を充放電するのにかかる時間を5時間とするレートをいい、具体的な測定条件としては、電流値は、Liイオン電池用正極活物質:1gに対して、34mAとし、負極には金属リチウムを用い、電圧範囲は、金属リチウム基準で、4.0〜2.0Vとする。本発明のLiイオン電池用正極活物質の放電容量は、130mAh/g以上であり、好ましくは140mAh以上、より好ましくは150mAh/g以上である。
【0035】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質を用いて、リチウムイオン電池用の正極を構成するには、例えば、Liイオン電池用正極活物質を、そのまま活物質として用い、その他については従来公知の正極と同様に、バインダーや、必要に応じて更に炭素材料などの導電助剤を含有する正極スラリーの成形体とすればよい。また、必要に応じて、これらの正極スラリーを、集電体となる導電性基体の片面または両面に、正極活物質層として形成すればよい。
【0036】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用の正極を用いてリチウムイオン電池を構成する際には、負極、セパレーター、非水電解液、外装体などの各種構成については特に制限はなく、従来公知のリチウムイオン電池と同様の構成を採用することができる。
【0037】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質は、電池電極、二次電池用電極の正極活物質として有効に使用される。特に、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムポリマー電池等の非水電解液二次電池用正極活物質として極めて有効であり、リチウム一次電池用正極活物質としても有効である。本発明の電極活物質を用いた非水電解液二次電池は、大きな充放電容量と高いエネルギー密度を持ち、優れたサイクル特性、安全性等を発現し、中・大型二次電池や車載用二次電池の正極活物質として有効に適用できる。また、本発明の製造方法は、大掛かりな装置が不要で、容易に合成できるため、製造コストを抑えることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
《(A)工程》
図3に、使用したメノウ容器(内容積:約80cm3)と、メノウボールを示す。エタノールを入れたメノウ容器に、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ炭酸リチウム:0.2342g、シュウ酸鉄2水和物:1.1404g、リン酸二水素アンモニウム:0.7292gを加え、FRITSCH社製ボールミル(型番:P−6)で2時間混合し、原料混合物を作製した。
《(B)工程》
原料混合物を電気炉に入れ、5%水素ガスを含むアルゴンガスを流しながら、350℃程度で10時間仮焼成を行い、約1.3gの仮焼成物を作成した。
《(C)工程》
仮焼成物に、高分子材料として、エタノールに溶解したポリエチレングリコール(PEG):0.2gを添加して、上記ボールミルで2時間混合し、被焼成物を作製した。
《(D)工程》
水素ガスを含まないアルゴンガスを流しながら700℃で10時間焼成し、実施例1のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0040】
〔実施例2〕
(C)工程で、仮焼成物に、高分子材料として、エタノールに溶解したポリスチレン:0.2gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0041】
〔実施例3〕
(B)工程で、320℃、5時間で仮焼成したこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0042】
〔比較例1〕
(C)工程で、ポリエチレングリコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0043】
〔実施例4〕
(D)工程で、650℃、10時間で仮焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0044】
〔実施例5〕
(D)工程で、750℃、10時間で仮焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0045】
〔比較例2〕
比較例1で製造したLiイオン電池用正極活物質に、エタノールに溶解したポリエチレングリコール:0.2gを添加した後、ボールミルで2時間混合して、比較例2のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0046】
〔比較例3〕
比較例1で製造したLiイオン電池用正極活物質に、アセチレンブラック(AB):0.2gを添加した後、ボールミルで2時間混合して、比較例3のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0047】
〔比較例4〕
(A)で、さらに、エタノールに溶解したポリエチレングリコール:0.2gを添加し、(C)工程で、ポリエチレングリコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0048】
表1に、実施例1〜5、比較例1〜4の製造条件のまとめを示す。
【0049】
〔カーボン含有量の定量〕
製造したLiイオン電池用正極活物質を、4mol/dm3の塩酸に浸漬してLiFePO4を溶解し、吸引濾過後、乾燥した。このときの残留分の質量をカーボン微粒子量として、処理前のLiイオン電池用正極活物質の質量との比較から、Liイオン電池用正極活物質中のカーボン含有量を求めた。表1に、結果を示す。
【0050】
〔比表面積の測定〕
製造したLiイオン電池用正極活物質の比表面積を、島津製作所社製比表面積測定装置(型番:フローソーブII−2300)を用いて、測定した。表1に、結果を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
〔走査型電子顕微鏡観察〕
実施例1で得られたLiイオン電池用正極活物質をJEOL製走査型電子顕微鏡(型番:JSM−5900)で観察した。図1に、その結果を示す。
【0053】
〔粒度分布測定〕
実施例1で得られた正Liイオン電池用正極活物質の粒度分布測定を、マイクロトラック社製(型番:UPA−EX)で行った。図2に、その結果を示す。図2で、棒グラフは頻度を、折れ線グラフは累積を示す。
【0054】
〔X線回折測定〕
実施例1、4、5、および比較例1、4で得られたLiイオン電池用正極活物質を、リガク製X線回折装置を用いて、2θ:10〜70°の範囲でX線回折測定を行った。図4に実施例1の、図5に実施例4の、図6に実施例5の、図7に比較例1の、図8に比較例4の、それぞれの結果を示す。ここで、図4〜8で、縦軸は、強度(Intensity、単位:a.u.(Arbitrary unit))、横軸は、2θ(単位:°)を示し、図4〜8の上段には、LiFePO4の無機結晶構造データベースを元に記載したX線ピークを、参考のために記載した。測定した全てで、LiFePO4の単一相が確認された。
【0055】
〔試験例5〕
図9に、電池特性評価に用いた電気化学セルの構成図を示す。図9では、10は作用極、11は正極および集電体、12は不織布、13はセパレーター、14は負極、15は対極、16は電解液を示す。電極面積は1cm2とした。合成したLiイオン電池用正極活物質粉末、アセチレンブラック(導電助剤)、ポリテトラフルオロエチレン(結着剤)を、質量比70:25:5で混合したもの(総量:0.1g)を正極11とした。負極14には、金属リチウムを用い、電解液16には、ポリカーボネートとジメトキシエタンを体積比1:1で混合した溶液に電解質として1mol/dm3のLiClO4を溶解した有機溶媒を用いた。集電体11には、ニッケルメッシュ、セパレーター13には、日揮化学株式会社製セパレーター、さらに不織布12には、三井石油化学工業製ポリプロピレン不織布を用いた。
【0056】
充放電測定は、充放電測定装置(北斗電工(株)製 HJ−101 SM6)を用いて行った。測定条件は、20℃の温度条件下、2端子法で、充放電レート:0.2C(Liイオン電池用正極活物質:1gに対して、34mA)、電圧範囲:2.5〜4.0Vで、充電・放電を10回繰り返した。また、実施例1、3については、充放電レート:1C(理論容量分を充放電するのにかかる時間を1時間とするレート)でも測定を行った。図10に、実施例1の0.2Cでの結果を、図11に、実施例1の1Cでの結果を、図12に、実施例2の0.2Cでの結果を、図13に、実施例3の0.2Cでの結果を、図14に、実施例3の1Cでの結果を、図15に、比較例1の0.2Cでの結果を、図16に、実施例4の0.2Cでの結果を、図17に、実施例5の0.2Cでの結果を、図18に、比較例2の0.2Cでの結果を、図19に、比較例3の0.2Cでの結果を、図20に、比較例4の0.2Cでの結果を示す。なお、図10〜20で、縦軸は、負極Li金属に対する電圧(Voltage、単位:V)、横軸は、容量(capacity、単位:mAh/g)を示す。
【0057】
また、表2に、初期放電容量、10サイクル後の放電容量、容量維持率を示す。ここで、容量維持率は、〔(10サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)〕である(単位は、「%」)。ここで、比較例3の10サイクル後の放電容量には、2サイクル後の値を、比較例4の10サイクル後の放電容量には、3サイクル後の値を記載した。
【0058】
【表2】
【0059】
表1からわかるように、実施例1〜5のいずれにおいても1.67〜3.79質量%のカーボンが存在し、比表面積が、14.55m2/gと非常に大きかった。これに対して、比較例1〜3は、比表面積が、7.68m2/g以下であった。また、実施例1〜5では、0.2Cでの放電容量が140mAh/g以上、10サイクル後のサイクル維持率が95%以上であった。特に、焼成温度が700℃で、カーボン量が1.98〜2.92%の実施例1〜3では、150mAh/g以上と非常に高く、10サイクル後のサイクル維持率も顕著に良好であった。また、図10、図12、図13からわかるように、3.4V付近でのフラットな放電領域が大きく、使用面からも良好である。さらに、実施例1、3では、1C放電においても良好な結果が得られた。これに対して、(C)工程で高分子材料を添加しなかった比較例1では、放電容量が113mA/gと小さく、サイクル特性も悪かった。(D)工程後に高分子材料を添加した比較例2は、放電容量が150mAh/gと大きいが、粒子径が大きいためサイクル特性が低下した。ここで、比較例2について、図18から120mAh/gにおける充電と放電の電圧差(分極)を算出したところ、0.254Vであった。これに対して、実施例1、実施例2、実施例3で合成した正極材料の120mAh/gにおける分極は、それぞれ0.163V、0.166V、0.104Vであり、これらと比べると比較例2の分極は大きいので、電池抵抗が大きいことがわかる。(D)工程後にABを添加した比較例3は、粒子成長が進んだため、放電容量が109mA/gと小さく、(A)工程で高分子材料を添加した比較例4も、放電容量が97mA/gと小さかった。また、各比較例では、放電開始電圧が低く、放電容量が低いだけでなく、放電エネルギー量も低い。これらの結果より、本発明のLiイオン電池用正極活物質の表面に存在するカーボン微粒子により、Liイオン電池用正極活物質の導電性が向上することに加えて、放電容量が著しく増加することがわかった。
【0060】
以上より、本発明の製造方法によるLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質は、放電容量、サイクル特性ともに顕著に優れており、Liイオン電池向けに好適である。
【符号の説明】
【0061】
10 作用極
11 正極および集電体
12 不織布
13 セパレーター
14 負極
15 対極
16 電解液
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン電池用正極活物質として用いられるLiFePO4、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等のポータブル電子機器の発達や、電気自動車、ハイブリッドカーの実用化に伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。また、ソーラー発電や風力発電といった自然エネルギーのバックアップ電源、地震災害等における電力供給源向けに電池業界、重工業業界から、高容量でサイクル特性のよい二次電池が要求されている。現在、この要求に応える高容量二次電池の正極材料としてLiCoO2等のリチウム含有遷移金属酸化物を用い、負極活物質として炭素系材料を用いたリチウムイオン二次電池が商品化されている。
【0003】
ところが、LiCoO2を用いたリチウムイオン電池は、小型電池としての性能は優れているものの、原料のコバルト埋蔵量が少ないため、資源的制約があり、激しい価格変動があることに加えて、充電時に何らかの原因で内部短絡が生じた際や過充電の際に、LiCoO2からの酸素放出により激しい発熱が起こり、電解液を燃焼、電池を爆発させる危険性を有している等の問題を抱えている。
【0004】
今後、電気自動車やハイブリッド車等の環境対応車の開発が重要になってくる状況を考慮すると、安全でかつ安価なリチウムイオン電池用の正極材料が必要とされてくる。このような状況下、Liイオン電池の正極材料として、原料の豊富な鉄系の材料、特にLiFePO4に期待が持たれている。
【0005】
しかし、LiFePO4は電子伝導性が非常に低いため、単に導電助剤を共存させて正極を構成するだけでは不十分であり、優れた電池特性の確保が困難である。そこで、LiFePO4を用いたリチウムイオン電池用の正極材料において、電子伝導性を高める技術が検討されている。
【0006】
例えば、リチウム化合物、鉄化合物、リン含有アンモニウム塩、炭素物質微粒子を混合して混合物を得る原料混合工程と、該混合物を600℃以上750℃以下の温度で焼成する焼成工程を含む方法により製造された、炭素含有リチウム鉄複合酸化物が、示されている(特許文献1)。また、炭素−リン酸鉄複合体を沈殿により製造する工程、上記炭素−リン酸鉄複合体とリン酸リチウムとを含有する共沈物を製造する工程、上記共沈物を焼成する工程を有する炭素−オリビン型リン酸鉄リチウム複合粒子の製造方法が示されている(特許文献2)。
【0007】
また、リン酸鉄リチウムの原料に電子伝導性物質として炭素を加えて、前駆体混合物又は前駆体懸濁物の分散又は粉砕処理を行い、その後、熱水条件下で反応させるリン酸鉄リチウムの製造方法が、示されている(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、上記の製造方法で使用されている炭素材料は、いずれも粉末であり、各原料と炭素材料を、均一な状態で製造することは困難であり、微細なリン酸鉄リチウム粒子を得るためには、焼成後に粉砕工程が必要となる。また、上記の前駆体混合物又は前駆体懸濁物の分散又は粉砕処理を行った後、熱水条件下で反応させる方法(特許文献3)では、分散又は粉砕処理によって炭素材料の分散性は高まる可能性はあるが、工程が多く複雑で、手間やコストがかかり、安価であるという鉄系材料のメリットを活かし難いという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−34534号広報
【特許文献2】特開2007−35295号広報
【特許文献3】特表2007−511458号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、発明者らは、鋭意研究した結果、原料混合物を仮焼成した後、仮焼成物に、高分子材料を混合し、焼成する工程により製造された、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在する微細なLiイオン電池用正極活物質が、放電容量が非常に高く、サイクル特性もよいことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したLiイオン電池用正極活物質、およびその製造方法に関する。
(1) (A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(2) 高分子材料が、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、またはポリビニルアルコールである、上記(1)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(3) (C)工程での仮焼成の温度が、250〜400℃であり、(D)工程での焼成の温度が、600〜800℃である、上記(1)または(2)記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(4) リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(3)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(5) 鉄化合物が、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、炭酸鉄、および金属鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(4)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(6) リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(5)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれか記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法により製造された、放電容量が130mAh/g以上のLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質。
【発明の効果】
【0012】
本発明(1)によれば、放電容量が非常に高く、サイクル特性のよいLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質を、高価な装置および原料を用いることなく、簡便に製造することができる。ここで、カーボン微粒子は、Liイオン電池用正極活物質の導電性に寄与するのみならず、放電容量を向上させるという、顕著な効果をもたらす、と考えられる。
【0013】
本発明(7)によれば、放電容量が非常に高く、サイクル特性の良好なLiイオン電池を、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の粒度分布測定結果である。
【図3】実施例で使用したメノウ容器、メノウボールの写真である。
【図4】実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図5】実施例4で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図6】実施例5で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図7】比較例1で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図8】比較例4で作製したLiイオン電池用正極活物質のX線回折図である。
【図9】実施例で合成した活物質を測定するために用いた電気化学セルの構成図である。
【図10】実施例1で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図11】実施例1で得られたLiイオン電池用正極活物質の1Cでの充放電結果を示す図である。
【図12】実施例2で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図13】実施例3で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図14】実施例3で得られたLiイオン電池用正極活物質の1Cでの充放電結果を示す図である。
【図15】比較例1で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図16】実施例4で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図17】実施例5で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図18】比較例2で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図19】比較例3で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【図20】比較例4で得られたLiイオン電池用正極活物質の0.2Cでの充放電結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量基準の%である。
【0016】
〔Liイオン電池用正極活物質の製造方法〕
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、(A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする。
【0017】
《(A)工程》
リチウム化合物は、LiFePO4のリチウム源となり、リチウム化合物としては、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムが挙げられ、リチウム化合物は、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、水酸化リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムであり、より好ましくは、ガス分解成分を発生することにより分解生成物の微粒子化が促進されるという観点から炭酸リチウムである。純度は、試薬メーカーから特級として市販されているものが好ましい。
【0018】
鉄化合物は、LiFePO4の鉄源となり、鉄化合物としては、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、炭酸鉄、および金属鉄が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄であり、より好ましくは、ガス分解成分を発生することにより分解生成物の微粒子化が促進されるという観点からシュウ酸鉄である。シュウ酸鉄は、陰イオンが脱離しやすい材料のためである。
【0019】
リン酸化合物は、LiFePO4のリン酸源となり、リン酸化合物としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸が挙げられ、これらを単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。好ましくは、リン酸二水素アンモニウムである。陽イオンが脱離しやすい観点からである。
【0020】
リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物の含有量は、リチウムイオン:1質量部に対して、鉄イオンは、7〜9質量部、リンイオンは、4〜5質量部が好ましい。
【0021】
混合する方法としては、ボールミル、ミキサー、乳鉢が挙げられ、均一に混合でき、粉砕も兼ねることができる観点からボールミルが好ましい。ここで、混合は、均一に混合し易い観点から、湿式法により行うことが好ましい。また、混合するときには、コンタミネーション防止の観点から、メノウ、アルミナ、ジルコニア等の容器や、ボール等を使用することが好ましい。
【0022】
《(B)工程》
仮焼成するときの雰囲気は、鉄イオンの酸化を防ぐ観点から、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中であり、3〜5%の水素ガスを含有するアルゴンガス等の弱還元性雰囲気中が好ましい。温度は、250〜400℃が好ましく、300〜350℃がより好ましい。250℃より低いと好ましい仮焼成物(前駆体)の生成が不完全であり、400℃より高いと生成するLiFePO4の粒子成長が顕著となるからである。また、時間は、180〜600分が好ましく、240〜360分が、より好ましい。これより短いと、好ましい前駆体の生成が不完全であり、これより長いと、生産性が悪く、また生成するLiFePO4の粒子成長が顕著となるためである。仮焼成するときには、原料混合物を、アルミナボートに載せて行うと、コンタミネーション防止の観点から好ましい。
【0023】
《(C)工程》
高分子材料としては、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が適切に析出する、Cに対するHの原子比が比較的小さいことが有利である観点からポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリビニルアルコールが好ましい。ここで、ポリエチレングリコールの場合には、重量平均分子量が、6000〜20000であると好ましく、ポリスチレンの場合には、重量平均分子量が、1000〜3000であると好ましい。重量平均分子量が低すぎると液体になり、重量平均分子量が高すぎると溶媒への溶解に時間がかかることになる。高分子材料は、溶媒に溶解して使用することが高分子材料を前駆体表面に均一に分散させる観点から好ましく、高分子材料を溶媒に溶解した溶液と前駆体を混ぜたスラリーを乾燥させることにより、高分子材料を前駆体表面に均一に分散させることが望ましい。このため上述の特性を持つ高分子材料が好ましい。ここで、高分子材料としては、(D)工程での焼成時にLiFePO4の表面に、カーボン微粒子を形成可能なものであればよい。高分子材料としては、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポリビニルアルコールなど化学式として、C、Hのみ、またはC、H、Oのみからなり、常温で固体であるものが好ましく、さらに極性を有する高分子材料のときには、メタノール、エタノール等の極性溶媒に、無極性高分子材料のときには、トルエンあるいはキシレン等の無極性溶媒に溶解するものが、より好ましい。
【0024】
高分子材料は、仮焼成物:100質量部に対して、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは、15〜25質量部混合する。5質量部より少ないと、析出炭素量が少なく,均一に分散されず、40質量部より多いと、還元性の雰囲気が強まり,生成物が還元されてしまうからである。
【0025】
仮焼成物に、高分子材料を混合する方法は、(A)工程と同様である。
【0026】
《(D)工程》
(B)工程と同様に、焼成を不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で行う。温度は、600〜800℃が好ましく、700〜750℃がより好ましい。600℃より低いとLiFePO4の結晶性の低下が顕著であり、800℃より高いとLiFePO4の粒子成長が顕著になるためである。また、時間は、180〜1200分が好ましく、480〜720分が、より好ましい。これより短いと、LiFePO4の結晶性の低下が顕著であり、これより長いと、カーボン微粒子が減少する、生産性が悪い、LiFePO4の粒子成長が顕著になるためである。焼成するときには、被焼成物を、アルミナボートに載せて行うと、コンタミネーション防止の観点から好ましい。
【0027】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の製造方法は、例えば、以下の反応式により起こると考えられる。
Li2CO3+2(FeC2O4・2H2O)+2NH4H2PO4
→2LiFePO4+5CO2↑+2NH3↑+5H2O↑+2H2↑
【0028】
上記の反応においては、Feの酸化を防ぐことにより所望の効果を得ることができるので、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気中;水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気中;または真空雰囲気中、で行う。
【0029】
〔Liイオン電池用正極活物質〕
本発明のLiイオン電池用正極活物質は、上記のLiイオン電池用正極活物質の製造方法により製造された、放電容量が130mAh/g以上のLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在することを特徴とする。
【0030】
LiFePO4は、オリビン型であり、好ましい組成は、LixFePO4(式中、x=0〜1を示す)である。ここで、Li、Fe、P、Oの定量分析は、ICP質量分析法で行う。なお、例えば、結晶構造におけるFeのサイトの一部を、Co、Ni、Mn等の他の元素で置換してもよい。
【0031】
例えば、Mn、Ni、Coは、Feと約同等のイオン半径を有し、かつFeとは異なる電位で酸化還元するものである。そのため、Feサイトの一部を、これらの元素の1種以上で置換することにより、リチウム鉄複合酸化物のエネルギー密度の向上を図ることができる。したがって、リチウム鉄複合酸化物は、Feのサイトの一部を他の元素Mで置換した、組成式LiFe1−yMyPO4(ここで、Mは、Mn、Ni、Coから選ばれる少なくとも1種であり、y=0〜1.0である)で示されるものとすることが望ましい。特に、資源的にも豊富で安価であるという理由から、置換元素MはMnとすることが望ましい。
【0032】
図1に、実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の走査型電子顕微鏡写真を、図2に、実施例1で作製したLiイオン電池用正極活物質の粒度分布測定の結果を示す。図1および図2からわかるように、Liイオン電池用正極活物質は、いわゆる固相法で製造したのにもかかわらず、サブミクロンオーダーであり、粒径範囲は15〜400nmである。粒度分布の累積50%における粒径を平均粒径と考えると60nmである。また粒度分布の頻度36%および粒度分布の頻度64%にピークが見られ、その値は各々35nmと80nmであることから、これらの値の径を持つ粒子が多いことがわかる。また、BET法で測定したLiイオン電池用正極活物質の比表面積が、約10〜30m2/gであり、カーボンは、微粒子で存在していると考えられる。
【0033】
カーボン微粒子の含有量は、Liイオン電池用正極活物質:100質量部に対して、1〜5質量部であると好ましく、1〜3質量部であると、より好ましい。1質量部より少ないと、粒子表面全体に炭素が分布できず、5質量部より多いと無駄である。ここで、カーボン微粒子含有量の定量は、製造したLiイオン電池用正極活物質を、4mol/dm3の塩酸に浸漬してLiFePO4を溶解し、吸引濾過後、乾燥する。このときの残留分の質量をカーボン微粒子量として、処理前のLiイオン電池用正極活物質の質量との比較から求める。なお、カーボン微粒子の含有量は、主に添加する高分子材料の含有量により制御することができ、(D)工程の焼成温度、焼成時間によっても制御することができる。
【0034】
本発明のLiイオン電池用正極活物質の放電容量は、放電レート:0.2Cで測定したときの値とする。ここで、0.2Cは、理論容量分を充放電するのにかかる時間を5時間とするレートをいい、具体的な測定条件としては、電流値は、Liイオン電池用正極活物質:1gに対して、34mAとし、負極には金属リチウムを用い、電圧範囲は、金属リチウム基準で、4.0〜2.0Vとする。本発明のLiイオン電池用正極活物質の放電容量は、130mAh/g以上であり、好ましくは140mAh以上、より好ましくは150mAh/g以上である。
【0035】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質を用いて、リチウムイオン電池用の正極を構成するには、例えば、Liイオン電池用正極活物質を、そのまま活物質として用い、その他については従来公知の正極と同様に、バインダーや、必要に応じて更に炭素材料などの導電助剤を含有する正極スラリーの成形体とすればよい。また、必要に応じて、これらの正極スラリーを、集電体となる導電性基体の片面または両面に、正極活物質層として形成すればよい。
【0036】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用の正極を用いてリチウムイオン電池を構成する際には、負極、セパレーター、非水電解液、外装体などの各種構成については特に制限はなく、従来公知のリチウムイオン電池と同様の構成を採用することができる。
【0037】
本発明の方法で製造されたLiイオン電池用正極活物質は、電池電極、二次電池用電極の正極活物質として有効に使用される。特に、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムポリマー電池等の非水電解液二次電池用正極活物質として極めて有効であり、リチウム一次電池用正極活物質としても有効である。本発明の電極活物質を用いた非水電解液二次電池は、大きな充放電容量と高いエネルギー密度を持ち、優れたサイクル特性、安全性等を発現し、中・大型二次電池や車載用二次電池の正極活物質として有効に適用できる。また、本発明の製造方法は、大掛かりな装置が不要で、容易に合成できるため、製造コストを抑えることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
《(A)工程》
図3に、使用したメノウ容器(内容積:約80cm3)と、メノウボールを示す。エタノールを入れたメノウ容器に、Li、Fe、Pの原料として、それぞれ炭酸リチウム:0.2342g、シュウ酸鉄2水和物:1.1404g、リン酸二水素アンモニウム:0.7292gを加え、FRITSCH社製ボールミル(型番:P−6)で2時間混合し、原料混合物を作製した。
《(B)工程》
原料混合物を電気炉に入れ、5%水素ガスを含むアルゴンガスを流しながら、350℃程度で10時間仮焼成を行い、約1.3gの仮焼成物を作成した。
《(C)工程》
仮焼成物に、高分子材料として、エタノールに溶解したポリエチレングリコール(PEG):0.2gを添加して、上記ボールミルで2時間混合し、被焼成物を作製した。
《(D)工程》
水素ガスを含まないアルゴンガスを流しながら700℃で10時間焼成し、実施例1のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0040】
〔実施例2〕
(C)工程で、仮焼成物に、高分子材料として、エタノールに溶解したポリスチレン:0.2gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0041】
〔実施例3〕
(B)工程で、320℃、5時間で仮焼成したこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0042】
〔比較例1〕
(C)工程で、ポリエチレングリコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0043】
〔実施例4〕
(D)工程で、650℃、10時間で仮焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0044】
〔実施例5〕
(D)工程で、750℃、10時間で仮焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0045】
〔比較例2〕
比較例1で製造したLiイオン電池用正極活物質に、エタノールに溶解したポリエチレングリコール:0.2gを添加した後、ボールミルで2時間混合して、比較例2のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0046】
〔比較例3〕
比較例1で製造したLiイオン電池用正極活物質に、アセチレンブラック(AB):0.2gを添加した後、ボールミルで2時間混合して、比較例3のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0047】
〔比較例4〕
(A)で、さらに、エタノールに溶解したポリエチレングリコール:0.2gを添加し、(C)工程で、ポリエチレングリコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のLiイオン電池用正極活物質を製造した。
【0048】
表1に、実施例1〜5、比較例1〜4の製造条件のまとめを示す。
【0049】
〔カーボン含有量の定量〕
製造したLiイオン電池用正極活物質を、4mol/dm3の塩酸に浸漬してLiFePO4を溶解し、吸引濾過後、乾燥した。このときの残留分の質量をカーボン微粒子量として、処理前のLiイオン電池用正極活物質の質量との比較から、Liイオン電池用正極活物質中のカーボン含有量を求めた。表1に、結果を示す。
【0050】
〔比表面積の測定〕
製造したLiイオン電池用正極活物質の比表面積を、島津製作所社製比表面積測定装置(型番:フローソーブII−2300)を用いて、測定した。表1に、結果を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
〔走査型電子顕微鏡観察〕
実施例1で得られたLiイオン電池用正極活物質をJEOL製走査型電子顕微鏡(型番:JSM−5900)で観察した。図1に、その結果を示す。
【0053】
〔粒度分布測定〕
実施例1で得られた正Liイオン電池用正極活物質の粒度分布測定を、マイクロトラック社製(型番:UPA−EX)で行った。図2に、その結果を示す。図2で、棒グラフは頻度を、折れ線グラフは累積を示す。
【0054】
〔X線回折測定〕
実施例1、4、5、および比較例1、4で得られたLiイオン電池用正極活物質を、リガク製X線回折装置を用いて、2θ:10〜70°の範囲でX線回折測定を行った。図4に実施例1の、図5に実施例4の、図6に実施例5の、図7に比較例1の、図8に比較例4の、それぞれの結果を示す。ここで、図4〜8で、縦軸は、強度(Intensity、単位:a.u.(Arbitrary unit))、横軸は、2θ(単位:°)を示し、図4〜8の上段には、LiFePO4の無機結晶構造データベースを元に記載したX線ピークを、参考のために記載した。測定した全てで、LiFePO4の単一相が確認された。
【0055】
〔試験例5〕
図9に、電池特性評価に用いた電気化学セルの構成図を示す。図9では、10は作用極、11は正極および集電体、12は不織布、13はセパレーター、14は負極、15は対極、16は電解液を示す。電極面積は1cm2とした。合成したLiイオン電池用正極活物質粉末、アセチレンブラック(導電助剤)、ポリテトラフルオロエチレン(結着剤)を、質量比70:25:5で混合したもの(総量:0.1g)を正極11とした。負極14には、金属リチウムを用い、電解液16には、ポリカーボネートとジメトキシエタンを体積比1:1で混合した溶液に電解質として1mol/dm3のLiClO4を溶解した有機溶媒を用いた。集電体11には、ニッケルメッシュ、セパレーター13には、日揮化学株式会社製セパレーター、さらに不織布12には、三井石油化学工業製ポリプロピレン不織布を用いた。
【0056】
充放電測定は、充放電測定装置(北斗電工(株)製 HJ−101 SM6)を用いて行った。測定条件は、20℃の温度条件下、2端子法で、充放電レート:0.2C(Liイオン電池用正極活物質:1gに対して、34mA)、電圧範囲:2.5〜4.0Vで、充電・放電を10回繰り返した。また、実施例1、3については、充放電レート:1C(理論容量分を充放電するのにかかる時間を1時間とするレート)でも測定を行った。図10に、実施例1の0.2Cでの結果を、図11に、実施例1の1Cでの結果を、図12に、実施例2の0.2Cでの結果を、図13に、実施例3の0.2Cでの結果を、図14に、実施例3の1Cでの結果を、図15に、比較例1の0.2Cでの結果を、図16に、実施例4の0.2Cでの結果を、図17に、実施例5の0.2Cでの結果を、図18に、比較例2の0.2Cでの結果を、図19に、比較例3の0.2Cでの結果を、図20に、比較例4の0.2Cでの結果を示す。なお、図10〜20で、縦軸は、負極Li金属に対する電圧(Voltage、単位:V)、横軸は、容量(capacity、単位:mAh/g)を示す。
【0057】
また、表2に、初期放電容量、10サイクル後の放電容量、容量維持率を示す。ここで、容量維持率は、〔(10サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)〕である(単位は、「%」)。ここで、比較例3の10サイクル後の放電容量には、2サイクル後の値を、比較例4の10サイクル後の放電容量には、3サイクル後の値を記載した。
【0058】
【表2】
【0059】
表1からわかるように、実施例1〜5のいずれにおいても1.67〜3.79質量%のカーボンが存在し、比表面積が、14.55m2/gと非常に大きかった。これに対して、比較例1〜3は、比表面積が、7.68m2/g以下であった。また、実施例1〜5では、0.2Cでの放電容量が140mAh/g以上、10サイクル後のサイクル維持率が95%以上であった。特に、焼成温度が700℃で、カーボン量が1.98〜2.92%の実施例1〜3では、150mAh/g以上と非常に高く、10サイクル後のサイクル維持率も顕著に良好であった。また、図10、図12、図13からわかるように、3.4V付近でのフラットな放電領域が大きく、使用面からも良好である。さらに、実施例1、3では、1C放電においても良好な結果が得られた。これに対して、(C)工程で高分子材料を添加しなかった比較例1では、放電容量が113mA/gと小さく、サイクル特性も悪かった。(D)工程後に高分子材料を添加した比較例2は、放電容量が150mAh/gと大きいが、粒子径が大きいためサイクル特性が低下した。ここで、比較例2について、図18から120mAh/gにおける充電と放電の電圧差(分極)を算出したところ、0.254Vであった。これに対して、実施例1、実施例2、実施例3で合成した正極材料の120mAh/gにおける分極は、それぞれ0.163V、0.166V、0.104Vであり、これらと比べると比較例2の分極は大きいので、電池抵抗が大きいことがわかる。(D)工程後にABを添加した比較例3は、粒子成長が進んだため、放電容量が109mA/gと小さく、(A)工程で高分子材料を添加した比較例4も、放電容量が97mA/gと小さかった。また、各比較例では、放電開始電圧が低く、放電容量が低いだけでなく、放電エネルギー量も低い。これらの結果より、本発明のLiイオン電池用正極活物質の表面に存在するカーボン微粒子により、Liイオン電池用正極活物質の導電性が向上することに加えて、放電容量が著しく増加することがわかった。
【0060】
以上より、本発明の製造方法によるLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質は、放電容量、サイクル特性ともに顕著に優れており、Liイオン電池向けに好適である。
【符号の説明】
【0061】
10 作用極
11 正極および集電体
12 不織布
13 セパレーター
14 負極
15 対極
16 電解液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
高分子材料が、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、またはポリビニルアルコールである、請求項1記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
(C)工程での仮焼成の温度が、250〜400℃であり、(D)工程での焼成の温度が、600〜800℃である、請求項1または2記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
鉄化合物が、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、炭酸鉄、および金属鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法により製造された、放電容量が130mAh/g以上のLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質。
【請求項1】
(A)リチウム化合物、鉄化合物、およびリン酸化合物を混合し、原料混合物を作製する工程、(B)原料混合物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で仮焼成し、仮焼成物を作製する工程、(C)仮焼成物に、高分子材料を混合し、被焼成物を作製する工程、(D)被焼成物を、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中または真空雰囲気中で焼成する工程、をこの順で含むことを特徴とする、LiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在するLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
高分子材料が、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、またはポリビニルアルコールである、請求項1記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
(C)工程での仮焼成の温度が、250〜400℃であり、(D)工程での焼成の温度が、600〜800℃である、請求項1または2記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
リチウム化合物が、水酸化リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、および炭酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
鉄化合物が、クエン酸鉄、シュウ酸鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、酸化鉄、炭酸鉄、および金属鉄からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
リン酸化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のLiイオン電池用正極活物質の製造方法により製造された、放電容量が130mAh/g以上のLiFePO4の表面にカーボン微粒子が存在することを特徴とする、Liイオン電池用正極活物質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−210376(P2011−210376A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73965(P2010−73965)
【出願日】平成22年3月28日(2010.3.28)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月28日(2010.3.28)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
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