説明

MRI装置用磁場調整

【課題】
医療診断用に用いる核磁気共鳴断層写真装置(MRI)において、高精度に磁場を調整
する支援を行う手法と装置を提供する。
【解決手段】
所定数の点において磁場計測を行い、目標磁場との差である誤差磁場を算出し、その誤差磁場を特異値分解により得た基底である固有分布関数の中から固有分布関数を選択し、その選択した固有分布関数の組み合わせで近似的に補正できる磁場調整機構面上の電流ポテンシャル分布を求め、求めた電流ポテンシャルから前記目標の磁場分布が与えられた領域の磁場計測点の補正磁場量を計算し、その補正磁場量に相当する磁場調整作業後の目標磁場からの残留誤差磁場を求め、前記残留誤差磁場および前記補正磁場量に基づき、前記超電導磁石装置の磁石を修理または調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導磁石装置に係り、核磁気共鳴断層撮像装置(Magnetic Resonance Imaging)に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴を利用した診断では、磁場強度と診断箇所が対応しているので、マグネットシステムが発生する磁場強度に要求される精度は磁場強度の百万分の1程度の変動が問題にされる精度である。MRI装置における磁場には大別して3種類がある。それらは
(1)時間的に定常で空間的にも一定な磁場で、通常0.1から数テスラ以上の強さである、撮像を行う空間(通常直径で30−40cmの球もしくは楕円体の空間)ないで数ppm程度の変動範囲である。
(2)1秒程度以下の時定数で変化して、空間的に傾斜した磁場。
(3)核磁気共鳴に対応した周波数(数MHz以上)の高周波の電磁波によるもの。
このうち(1)の磁場は時間的に一定で、かつ空間的にも人体の断層撮影を行う領域では極めて高精度に均一性が磁場強度に要求される。高精度とは、たとえば40cm直径の撮像空間FOV(Field of View)で、±1.5ppmのように百万分の1のオーダの精度が要求される。このようにきわめて高精度な均一性が要求される磁場分布は、磁石を製作・励磁の後に磁場を精度よく調整する必要がある。一般に製作誤差による誤差磁場は均一磁場に要求される許容誤差磁場に比べて1000倍以上大きい。製作後の据え付け時に要求される磁場調整(シミング)は数100ppmから数ppmへの誤差磁場の低減を行うことになり、きわめて高精度な磁場調整装置およびその手法が要求される。
【0003】
従来の手法としては線形計画法を用いた方法によるシミングがある。たとえば、特許文献1や特許文献2に記述され、実際の機器の調整に適用された手法がある。しかし、この線形計画法による手法には、以下の課題がある。
(1)詳細な磁場計算を行うために多くの計算時間が必要である。
(2)ここの鉄片や電流の設置や変化に高精度の磁場に対応した精度を要求される。
(3)誤ったシミング作業を行った場合に、誤った箇所の特定が難しく回復に手間がかかる。
【0004】
さらに、図2に示すように球面調和関数を用いて磁場分布を調整していることで課題が発生する。図2は従来の磁場調整法の例を示す図であり、球面関数を用いている(特許文献1)。
【0005】
球面調和関数は、球面上では直交して基底を構成しているが、磁場調整機構上また非球面の磁場評価面上では相互の干渉があり、精度の良い球面調和関数分布の磁場を発生させようとすると、細かい磁場調整機構上の調整が要求される。たとえば、均一な磁場分布が球面調和関数のもっとも次数の低い分布であるが、実際にこの分布を正確に出すことは、完全に磁場調整領域を取り囲む磁場調整機構でなければ不可能であり、従来技術が対象としているMRIではこのような磁場調整機構は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−87245号公報
【特許文献2】特開2003−167941号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. ABE, T. NAKAYAMA, S. OKAMURA, K. MATSUOKA ,"A new technique to optimize coil winding path for the arbitrarily distributed magnetic field and application to a helical confinement system",Phys. Plasmas. Vol.10 No.4 (2003)1022.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、磁場調整装置とその手法で、前述の問題点の解決を含み、かつ調整の進展状況と最終的な誤差磁場がどの程度に低減できるかの見通しを調整作業中に確認しながら、確実に調整を完了できる手法と装置を提供することにある。素早く調整を完了するために誤った作業時にも容易に自動的に訂正できる機能を含む手法およびその手法を含み磁場調整作業の指針を表示する装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
目標磁場に対して曲面もしくは平面などの任意面上の電流分布を求める手法には、論文に記載されている電流ポテンシャルを用いる方法(非特許文献1)がある。この計算手法は論文中でDUCASと名付けられている。この手法を、特にこの手法の中で用いられている電流ポテンシャルと特異値分解の考え方を応用して磁場調整を行う。
【0010】
非特許文献1のDUCASでは、補正すべき誤差磁場として入力する磁場分布は、プラズマ閉じこめの理論で決めた目標磁場と仮定した電流ポテンシャルなどで計算した磁場分布との差、つまり数値計算で求めた値であるが、本発明では実装置を対象とするので、目標磁場と計測磁場の差を誤差磁場とし、多数点の計測磁場を扱い誤差磁場分布を把握する。
【0011】

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高精度な磁場を生成するMRI装置を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施例である磁場調整フロー図を示す。
【図2】従来方法のシミングフロー図を示す。
【図3】本発明の好適な一実施例による磁場補正に必要な電流ポテンシャルと磁場調整用の磁化鉄片量の換算の考え方を示す図である。
【図4】本発明の好適な一実施例で利用する計算体系の一般的体系例の図である。
【図5】本発明の好適な一実施例である磁場調整に利用するMRI用磁石の磁場調整機構の配置図を示す。
【図6】本発明を図5の磁場調整機構に適用する計算モデルの図を示す。
【図7】本発明による磁場分布のスペクトル図を、シミングによる到達可能均一度と共に示す図であり、(a)はシミング前、(b)はシミング後のスペクトルを示す図を示す。
【図8】本発明によるシムトレイへの磁場補正用の鉄片量配置の表示例を、電流ポテンシャル等高線と共に表示する図である。
【図9】本発明による鉄片表示のために升目内磁気モーメント計算および鉄片量換算の考え方を示す図である。
【図10】本発明を、起磁力配置設計手法に用いた場合のフロー図である。
【図11】鉄片を用いてシミングを実施したシムトレイ面の模式図である。
【図12】永久磁石を用いてシミングを実施したシムトレイ面の模式図である。
【図13】電流ループによる磁気モーメント調整法についての模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0015】
図3は、電流ポテンシャルと小コイルの電流ループと、それに磁化鉄片の等価性を示す図である。
【0016】
図3(a)は、計算時の有限要素12と接点11および電流ポテンシャルTによる電流21、図3(b)は、小コイル3を流れる電流1による磁気モーメント生成、図3(c)は、磁化した鉄片4による磁化電流2による磁気モーメントを示す。図3(a)のように、電流ポテンシャルTがある接点11に値があるとすると、大きさTの電流ポテンシャルによる電流21がその周りの接点との間に旋回して流れていると解釈できる。つまり、図3(b)の小コイル3の電流ループに電流1が流れている状況と等価である。また、これは磁化した鉄片4の表面に磁化電流2、jm(A/m)が流れている右側の状況と同等である。つまり、DUCASで電流分布を表現するために用いられている電流ポテンシャル値Tは単位として[A]の次元を持つが、これは磁気モーメント[Am2]の密度[1/m2]で、[A]の次元を持つと考えることもできる。
【0017】
一方、充分磁化した鉄片4は、磁化電流が囲む面積と磁力線方向の長さの積に磁気モーメントが比例するので、体積に比例する磁気モーメントを持つ。つまり、磁場調整時には電流ポテンシャルTは、鉄片4の密度[単位面積あたりの重量g/m2もしくは体積cc/cm2]に比例する量である。この性質を利用し、また従来手法の球面調和関数でなくDUCAS中で用いられている特異値分解で得た固有分布関数と特異値を利用する。
【0018】
これにより、DUCASを利用し、磁場発生装置を対象として、磁場を調整する支援計算を行い、その調整用に配置する鉄片もしくは磁気モーメントの配置を表示する装置を提供する。作業者は表示に従って調整を進めることで目標の磁場分布に調整することができる。
【0019】
本発明は任意の磁場分布を目標磁場とすることができるが、以下では主に目標磁場が一様に均一な磁場であることとして議論する。しかし、目標磁場が分布を持つかどうかは以下の議論に影響は与えない。単に、議論の理解を容易化するためである。
【0020】

【0021】
【数1】

【0022】
従来法ではルジャンドル多項式とか球面調和関数を用いている。本発明では、特異値分解による分布関数を用いる。加算する関数ψmとその係数Cmの決め方を具体的に説明していく。
【0023】
本発明の議論は、一般的な体系として図4の体系を考える。図4は、本実施例の計算体系を示す図である。電流ポテンシャル評価面13と磁場計測評価点の集合14より構成されている。一般的には電流ポテンシャル評価面13は複数枚の面もあり得るがここでは各1枚として議論する。また磁場評価点は必ずしも面を構成しないがここでは面上の点として示している。
【0024】
計測点jには3次元の磁場成分Bxj、Byj、Bzjがあるが、1点の計測は計測位置とその位置で定義されている単位ベクトルpで計測磁場成分を示す。空間の点としては1点でも、本発明の中では3個のデータということもある。
【0025】
またMRI装置のように均一磁場を得ようとする場合には、磁場の軸方向の主成分のみを一定にすることになる。MRIでは磁場強度が一定であることが重要であるが、主成分以外が非常に弱いために、主成分の磁場がほぼ磁場強度に等しいためである。
【0026】

【0027】

【0028】
【数2】

【0029】
特異値分解を適用する一般的な体系は図4の様である。磁場評価点の領域があり、その位置で磁場を計測する。CCS面に磁場調整用の鉄片を配置する。この面をMRIではシムトレイ面と呼ぶ。
【0030】
この面上の鉄片密度と誤差磁場補正の関係を説明する。面を三角要素で分割し、その接点に電流ポテンシャルを割りあてる。これは非特許文献1に記述の通りである。磁場評価点の計測データを要素に持つ磁場ベクトルとCCS面上の電流ポテンシャルを要素に持つ電流ポテンシャルベクトルの間の関係は、式(3)のとおりである。
【0031】
【数3】

【0032】

【0033】

【0034】
【数4】

【0035】
ここでλjは特異値である。また添え字jは特異値の大きさの順に固有分布に番号を付けた順番の数値である。一つの番号に対して、電流ポテンシャル分布と磁場分布を示す基底ベクトルが各一個ずつ対応している。この一つの番号に関連した2つの基底ベクトルと一つの特異値をまとめて一つの固有モードと呼ぶことにする。また、順番の番号jは固有モードの次数である。
【0036】
特異値の大きな低次の固有モードは、単位電流ポテンシャル分布vjあたりの磁場強度がλjjであることから理解できるように、大きな磁場を発生できるといえる。一方、特異値の小さな固有モードで電流ポテンシャルを変化させても磁場の分布はわずかであるということになる。この性質は後に説明するが本磁場調整法に重要な役目を果たす。式(1)の分布関数としては特異値分解で得た固有ベクトルの分布を使う。
【0037】

【0038】
【数5】

【0039】

【0040】
電流ポテンシャルと鉄片密度の関係を次に述べる。鉄片は表面の磁化電流を考慮して磁気モーメントに置き換えることが出来る。鉄片の表面の磁化電流jm(A/m)は、式(7)のとおりとなる。
【0041】
【数6】

【0042】
ここでMは磁化(T)である。鉄片が飽和状態にあれば、ほぼMは2.1T程度である。従って、jmは約1.7×106A/mである。従って1立方メートルの体積の鉄は約1.7×106Am2(170Acm2/1cc)の磁気モーメントを持つ。この値は磁石の種類、特に磁場強度に依存するので、個々に検討する必要はある。しかし、磁石の磁場強度が1T程度を超える磁石では、鉄片はほぼ飽和に近い状態に磁化していると考えて差し支えない。この時には鉄の磁気モーメントは体積に比例する。
【0043】

【0044】
【数7】

【0045】

【0046】
本発明による手法でも補正すべき誤差磁場の固有分布関数はいくつも存在する。多数の固有モードから補正すべき固有モードの選択方法と補正法に上記の方法を拡張する。これについての基本的な考え方は次の項目である。
【0047】
(1)小さい電流ポテンシャル(つまり少ない鉄片量)で大きな磁場を補正できる固有モードから選択する。この指標が特異値λjである。特異値は本計算体系では固有分布毎の単位電流ポテンシャルあたりの磁場強度であるので、この特異値の小さい固有分布は選択しない。また言い換えると特異値は単位鉄片量あたりの磁場強度に比例する値であるとも言える。一般に、できるだけ小さな物量で均一磁場を生成したいために、特異値の大きな固有分布を、調整に用いる。
【0048】
(2)計測磁場に含まれる固有磁場分布の成分強度が小さなものは無視できる。内積[式(5)]で計算する成分強度が、目標とする均一磁場レベルで許容される誤差磁場に比べて十分小さな強度であれば、あえて補正する必要はない。特異値が大きな固有分でも、成分強度が小さい場合にはシミングに用いる必要はなく、選択しない。
【0049】
(3)特に補正を必要と作業者が判断する固有分布関数を個々に選択し、内積で求める強度または人為的に決めた強度で補正する。たとえば、誤差磁場分布のピークが重なり局所的に大きな誤差磁場が発生している場合には、人為的にピークを下げる補正を適切な固有分布関数の選択と大きさで補正する。
【0050】
(4)選択した固有分布関数の電流ポテンシャル成分を補正した後の均一度(到達均一度)を求め固有分布関数の選択が妥当であるかどうかを判定する。到達均一度が十分でなければ固有分布関数の選択を再検討する。ここで均一度は、磁場評価領域の複数計測点のなかで、磁場強度の最大,最小の差、言い換えると、誤差磁場の最大ピークから最小ピークの差について、平均磁場に対する割合を示したもので、MRIでは通常1/百万(ppm)のオーダで議論する。
【0051】
(5)目標磁場を変更すると、誤差磁場に含まれる各固有分布の強度と、残差として残る磁場の強度、つまり到達均一度も変化するので、固有分布選択には目標磁場も考慮が必要である。
【0052】
(6)数回から数10回の回数を繰り返して調整を行う。これは、調整機構の精度が、目標とする磁場精度に比べて通常荒いために繰り返し操作して磁場精度を向上させる。たとえば、MRIの磁場調整(シミング)では、1マイクロTの精度で磁場調整を行う必要があるが、調整以前の誤差磁場は数mT程度のものである。これを一気に調整することにした場合、調整のために配置する鉄片は1/1000より細かい精度での物量の管理が要求されるが、実作業でこの精度を管理することは容易でない。そこで、本発明によると一回の調整では1/10程度以下の精度での物量管理で、回数を追う毎に誤差磁場を低下させ、最終的な磁場精度との相対比を低下させ、1/10以下の物量管理でも十分な最終磁場精度を得る。
【0053】

【0054】
【数8】

【0055】
ここで、和Σは選択した固有分布関数に対して実行される。この補正を実行した後に撮像領域の磁場分布がどのようになるかは容易に計算予測できる。
【0056】
一つの方法は、固有分布関数の磁場分布の関数から求める方法である。式(10)となる。
【0057】
【数9】

【0058】
ここで和Σは選択した固有分布関数に対して実行される。
【0059】

【0060】
【数10】

【0061】
これらの2つの方法は同じ計算結果を与える。ここでも和Σは選択した固有分布関数に対して実行される。この計算法で、磁場調整後の到達均一度を予測して目標の精度で磁場調整が進行しているかどうかを判定する。
【0062】
判定には、到達均一度だけでなく、シミングに必要な鉄片物量も参考にして、過大な鉄片が必要ならば、固有分布関数の選択を再検討する。どのような選択を行っても、過大な鉄片量が必要と計算される場合には、磁石の設計もしくは製作不良と判断できる。この機能は
(a)製作完了時の品質管理
(b)コイルや磁性体配置の設計時に、起磁力配置の設計の妥当性,配置の再検討要否の検討に利用できる。
【0063】
前記の本発明における改良項目の作用を順に記述する。
項目(1)の固有モードの選択は特に低次側の固有分布関数について誤差磁場を補正するために選択する。比較的少量の鉄片で磁場が補正できる範囲で低次の分布関数を選択する。低次側のみと言っても通常数十から数百の個数の固有分布関数を選択する。固有分布関数の鉄片(電流ポテンシャル)配置に従って磁場を補正することで、選択しなかった固有分布に対しては大きな影響、新たな誤差磁場を与えないように、補正できる。これは、特に、選択しなかった高次(番号付けした大きな番号の固有分布)を乱さないという点で利点がある。つまり磁場調整を行っているときに、選択しなかった高次固有分布が乱れて作業が繁雑になることはない。
【0064】
特異値分解で選択した低次固有分布関数は少量の鉄片で補正できるが、高次を変化させるには多くの鉄量を必要とする。高次部分を乱さない理由には、分布が直交していること以外に、高次に多くの量の鉄片が必要という理由もある。つまり、少量の鉄片を配置する低次分布関数の補正では、誤差的に配置が乱れても高次成分の強度を変化させるには至らない。この意味でも低次側の固有分布から選択して補正していく。
【0065】
また、低次は補正できる磁場が特異値に比例して大きいために、効率的につまり少量の鉄片で磁場調整つまりシミングが実行できる。
【0066】
項目(2)は補正の必要でない固有分布関数成分は補正しない。しかし、選択して補正量に含めても、補正量が小さいため、前述のように高次成分を乱すこともないために、問題は発生しない。
【0067】
項目(3)は、鉄片配置量と磁場分布を調整するために選択を調整する。鉄片のみで磁場を補正する場合には、鉄片を取り去る負の鉄片量による調整が実行しにくい場合もある。一方、高次分布は鉄片を配置しても小さな磁場しか発生しない。つまり、高次成分の鉄片を配置して、低次の補正時に鉄片を取り去る余地を作る。また、正のピークから負のピーク値の範囲で均一度を定義すると、特にピーク部分のみ集中して均一度の表示が悪くなる場合もある。この場合には人為的に適当な補正成分を加える。これにより目標の均一度に達しやすくなる。
【0068】
項目(4)で、目標の精度で磁場を調整できるかどうかかをチェックできる。選択した固有分布関数に対して磁場を補正したときに、繰り返し補正していけば最終的に目標の均一度に達することが必要である。本手法ではすでに述べた計算方法でどの程度までの均一度が得られるかを推定できる。この推定に従って、固有分布関数の選択を変更するかどうか、また均一度が非常に悪い値しか得ることができない場合は製作上の問題があり、品質に問題があると判断できる。品質上の問題は補正が実行し難い高次成分で発生しやすいが、本発明の手法では特異値分解で成分を分けているので、高次の固有モードで発生している問題を容易に発見できる。
【0069】
項目(5)は均一とする磁場強度をいくらの強度にするかの選択である。目標磁場を変更しながら固有分布関数の選択を行い、到達均一度と鉄片量をチェックして、均一度がよく、鉄片の配置も容易な目標磁場を選ぶ。鉄片の配置が容易ということは、単に量が少ないと言うことではなく、必要な比較的低次の分布関数が十分補正可能で、負の鉄量の計算値で鉄片が配置できない領域が存在しない配置である。
【0070】
項目(6)は計測から鉄片配置の作業を繰り返して、磁場調整を完了させる。磁場調整を実行する幾何学的配置にも依存するが、選択する特異値の大きさは低次と高次で大きい場合には4桁程度の差がある。つまり、磁場調整中に100cc程度の物量を扱う調整から0.01ccを扱う調整まで、固有分布関数の選択で変化していく。一方、鉄片の大きさを1/10を下まわる精度で管理することは実用上手間をとる。そこで、繰り返し調整を実行して、磁場の残差を補正して一回ごとの調整は1/10程度の精度でも、繰り返しで良い均一度を出せるようにする。繰り返し中に、初期には高次まで固有分布を選択して磁場調整を行って物量の大きな調整を行い、徐々に次数の上限を下げて行くようにする。次数を下げるときには、高次部分が十分補正できたことを確認する。また次数を下げるに従って、補正として計算結果が要求する物量も減少してくる。従って物量の1/10程度である調整精度も向上していく。
【0071】
繰り返しで磁場調整を行うが、項目(2)に関連して説明したように、選択しなかった高次の固有モードは乱されることはない。このため、予知する均一度が繰り返し中に変化することはない。
【0072】
以上のように、シムトレイ面の電流ポテンシャルから撮像領域に置いた磁場評価点の磁場強度への応答行列の特異値分解で得る固有分布関数を基礎にする本発明の手法によれば、誤差磁場に対して少ない補正量で、調整後の磁場を予知しながら、目標の磁場均一度が得られる。繰り返しシミング作業を行う必要がある。また繰り返し作業途中では、特に高次分布のシミングを行っている場合には低次分布関数に対応した誤差磁場成分が増大し、均一度が見かけ上悪化する場合があるが、本手法では固有分布関数の成分強度を確認することで、選択した固有分布の高次側成分が補正され、弱くなり、磁場調整が進展していることが確認できる利点もある。これは作業者の作業妥当性確認にも有利である。また、調整終了時に到達できる均一度も把握できるために製作上の誤差で目標の精度までの磁場調整が不可能で無いことも確認しながら安心して調整を進めることが可能な利点もある。
【実施例1】
【0073】
実施例1を説明する。実施例1として垂直磁場を持つ開放型MRI装置の磁場調整(シミング)への適用を説明する。図5はMRI装置の磁石が発生する磁場をシミング(磁場調整)の体系である。撮像領域の空間(磁場計測評価領域)6があり、その表面もしくは内部の面も含む磁場評価点の磁場分布を均一に調整(シミング)する。図1は本実施例において、磁場分布を調整するシミングのフローを示す。図5のような垂直磁場型で開放型MRIの撮像領域の磁場調整に適用する実施例である。地面に対して垂直方向の磁場成分の強さで、撮像領域の上下に磁場調整機構の面(シムトレイ5)があり、その面上に鉄片4を配置する.
【0074】
MRI装置のシミングに本実施例を適用した場合のメッシュ生成例を図6に示す。この実施例では球体面上が磁場計測評価点の集合14で、数百点の磁場計測点が配置されている。球体の上下の円盤面がシミングを実行するときに鉄片4を配置する面の計算モデル、つまり電流ポテンシャル評価面13である。図の右側に有限要素で概略を示したように、この面上に接点を持つ三角要素で構成される有限要素計算の体系を構成している。
【0075】
図1の破線内の予備計算部分1Bをシミング作業に先だって計算しておく、特異値分解計算ステップ32Sを含み、計算メッシュ生成ステップ31S、特異値分解の結果である固有分布関数と特異値の保存ステップ33Sを含む。この部分は数千点の電流ポテンシャル値に対応した接点から撮像領域の数百点程度の磁場計測点への応答行列Aの特異値分解を含む予備計算部分1Bであり、比較的長時間の計算時間を必要とする。このため、磁石の体系に合わせた計算体系でシミング用の固有分布関数を計算しておき、シミング作業中の計算時間を短縮する。
【0076】
あらかじめ計算したデータは計算機の記憶領域に保存ステップ33Sで保存しておき、必要時に読み出し(特異値分解結果の読み出しステップ16S)て利用する。つまり計算機中には、磁場分布の基底ベクトル群である固有分布関数が数個以上、また電流面の分布関数である基底ベクトル群が同数、そして両者の大きさの変換情報である特異値が同数の組み合わせで保存されている。
【0077】
磁石の励磁後、しばらく時間が経過した後に磁場調整(シミング)開始ステップ11Sとなる。図1のフローに従って作業が行われる。磁場計測ステップ12Sし、磁場分布データ保存ステップ13Sと磁場データ読み出しステップ14Sの後、磁場均一度判断ステップ15Sで均一度良好かどうかを判断する。十分な均一度であればシミングの必要はなく、磁場調整終了ステップ40Sのステップとなる。これは、十分な均一度で利用されていた装置が保守時などで消磁した後に再励磁した場合にはあり得るが、新しい磁石では製作誤差で数百から千ppm程度の均一度であり、磁場調整(シミング)が必要と判断される。
【0078】

【0079】
次にステップは固有モード選択妥当性判断のための表示ステップ19Sである。ステップ18Sの計算結果を表示して固有モード選択の妥当性を判断する。表示は主に2つあるが、一つは図7に示し、他の一つは図8に示した。
【0080】
図7は、式(5)に示すような式で求めた誤差磁場に含まれる磁場の固有分布の強さを縦軸に、固有モードの次数を横軸に示した図でスペクトルと呼ぶことにする。縦軸は対数スケールで示している。尚、図7には、固有モード選択の範囲,到達可能均一度も示す。また、図8は、シミング作業用の鉄片配置量の表示例を、電流ポテンシャル等高線とともに示す。
【0081】
本例で示す計算内容は、図5,図6の体系であるが、磁場評価点を直径40cmの面上とし、この表面の誤差磁場を均一度20ppm以下とする均一な磁場を目標としている。
【0082】
この図7のスペクトル表示を参考にして、補正する固有分布関数を選択する。図中で×が個々の固有モードに対応しているが、○で囲ったものが選択した固有モード15である。○で囲ってないものは非選択の固有モード16である。この選択は既に記述した方法で行う。補正をする分布関数を選択すると、その誤差磁場成分を計測誤差磁場から差し引くことで、到達できる均一度を計算して予測できる。図7では上部に楕円で囲ったところに、到達可能均一度17として示している。
【0083】
2つのスペクトルを示したが、図7(a)はシミング前で、図7(b)はシミング後である。シミング前にはこの例では726ppmであり、スペクトル図では低次モードの誤差磁場成分が大きいことがわかる。○は次数80以下で、計測精度のほぼ下限以上の強さの誤差磁場成分として選択した固有モードである。この例では、選択した固有モードを補正すれば15.25ppmと予測されている。固有モード選択の次数上限を示す線22と固有モード選択で強さ下限を示す線23をスペクトルの図である図7上で表示して固有モードを選択する。
【0084】
予測した到達可能な均一度が不十分であれば再度固有分布関数の選択を再検討する。固有分布関数の数を調整、つまり固有分布関数選択範囲の番号上下限や固有モード強度Cjの下限を調整する。また個々に選択した固有分布関数の補正割合を調整するなどの選択肢もある。
【0085】
ステップ19Sでの他のもう一つの表示は、図8の鉄片配置量の指示図で、シミング可能かどうかのチェックに利用する。図の円形は図5に示したシムトレイ5を示している。上下の2枚あるが、この図では下側のシムトレイである。図中の升目7はシムトレイ5に配置された区画であり、それぞれに番地が割りつけてある。図7では左右方向にA、B、C−−−、上下方向に1、2、3、−−−で番地を指定する。升目7内の数値は、升目に配置する鉄体積18を示している。図8では0.1cc単位である。升目には5cc程度の鉄片は十分配置できる構造であり、表示の量は十分少なく、配置可能である。繰り返しの調整中には取り扱う鉄片量が徐々に小さくなるので、当初の1/10、1/100、1/1000と小さい単位で表示していく。
【0086】
図8には、シムトレイ5を計算モデル化した電流ポテンシャル評価面13上で、升目7,升目の鉄片量10に加え、電流ポテンシャルの等高線19を示した。電流ポテンシャル等高線19をコイル形状と考えると、この形状のコイルで誤差磁場は補正できる。このことは先に述べた既公表論文に書かれている。本発明での等高線表示には別の利点がある。特異値分解で求めた分布関数は面上に広がりをもって鉄片もしくは磁気モーメントの配置を要求する。しかし等高線のピーク8や等高線の谷9付近に最も多くの配置(もしくは除去)を要求している。この2つの性質を利用して磁場調整用の鉄片配置位置を柔軟に考える。配置や除去の制限がなければ等高線ピークの周りの同符号で閉じた電流ポテンシャル等高線19の鉄片量を加算して等高線のピーク8位置付近に配置(から除去)する。またその付近が、例えばシムトレイ固定用の支持具が有るなどして、配置できない場合には、同じ量の配置を、閉じた等高線領域内で他の部分に配置(から除去)してもかまわない。図7の等高線のピーク8はL−M間の線と7−8間線上にピークがあるが、その周りのL,Mと7、8の交差部分の升目には合計5+3+2+1=11の量の配置が要求されている。そこで、本発明ではL−M間の線と7−8間線上に等高線のピーク8位置に11の量の鉄片を配置して良い。このような配置を行うことで作業量低減と、配置位置精度が緩和されることで、作業が容易になる。
【0087】
升目内の磁気モーメントもしくは鉄量の計算方法を図9参照で述べる。図9は、本実施例の磁場調整用計算で接点ポテンシャル値から磁気モーメント、鉄片量への換算概念を示す。既に式(7)に続く記述で、鉄の体積と磁気モーメントは比例する事を述べた。また電流ポテンシャルは単位面積当たりの磁気モーメントを示していると解釈できる。そこで、ある領域の鉄片量を求めるには、その領域で電流ポテンシャルTを面積積分し、その領域に必要な磁気モーメントとし、既に述べたように鉄片量に換算する。図9は、図8に示した升目7と接点の関係を模式的に示した。×で示した点が接点である。連続な分布関数ではないので、例えば、図中の式のように接点とその接点に対応する面積の積を加算して升目7内の磁気モーメントとする。接点に対応する面積は例えば接点が属している要素の1/3(△要素の場合)とする等の方法がある。
【0088】
升目7の大きさおよび計算時の要素サイズについてコメントする。升目7の大きさは図8に示す鉄量配置分布の分解能を持つ程度の細かさが要求される。均一度を得るために必要な固有モードの次数の上限付近で等高線分布を確認し、そのピークや谷部分のサイズの大きさより小さなものとする。一方、細かい升目にすると手間がかかることになる。図8では等高線のピーク8と等高線の谷9部分の最小の大きさに比べてほぼ同程度としている。同程度であるために、細かい等高線の部分では升目7のみでは十分な分解能が無いところもある。この場合には配置する位置を等高線のピークと谷の位置を参考にして位置を調整して鉄片を配置する。有限要素の大きさは接点の個数が升目内にいくつ存在するかで決める。既に述べたように鉄片配置量の精度は1/10程度で良く、繰り返しで均一度を高めていく。接点の個数も5個程度以上有れば、対応する面積に若干の誤差が発生しても、十分な精度であると考える。図8の例では片面が1500程度の接点。図6のように上下のシムトレイを電流評価面として、2枚合計で3000接点程度以上と考える。
【0089】
図7(a)と図8の鉄片量表示による確認で十分なシミングができると予測されたので、この例では鉄片配置作業ステップ22Sに移った。この予測の根拠は、到達可能均一度17が目標値に比べて十分よく、鉄片配置が可能な量であることである。
【0090】
シミング可否の判断ステップ20Sで到達可能均一度もしくは鉄片量が不適と判断されると再度固有モード選択と目標磁場決定ステップ17Sに戻る。しかし、各種条件を変更しても目標の磁場調整可能かを判断する磁場調整可能判断ステップ21Sで磁場調整不可と判断されると、磁石は不良であり、修理・調整のステップ41Sに入る。
【0091】
図7(b)はシミング終了時のスペクトルである。17ppmの均一度までシミングできている。これは当初予測した15ppm台と比較して、大差ない均一度で、良い精度で均一度の予測ができていたと言える。図7(a)のスペクトルの均一度に至るまでには繰り返し作業を図1のフローのように行っている。この繰り返しの必要性については既に説明したが、後で、実例で説明する。
【0092】
ステップ21Sで磁場調整可能性を判断するが、この内容を説明する。ステップ21Sを経由してステップ17Sに戻り、固有モード選択を再検討しても十分な均一度が、適切な補正量(シム鉄片量)で得られない場合もある。つまりこれは磁石の製作精度などが不十分で、磁場が不良で、目標の均一度を得ようとすると大量の鉄片の配置が必要で、実際には不可能な場合である。この評価によって、磁場調整を行うことなく磁場の不良を検知できる。不良であれば、適切な手直しを行うが、補正量の分布から問題の箇所を推定することもできる。また手直し不可であれば、製品の不良と判断でき、磁場調整を繰り返して人手を使うことなく、判断ができる利点も本発明に含まれている。
【0093】
到達可能な均一度の予測が十分な均一度を持っていれば、補正に必要な鉄片分布計算結果を、紙面印刷やプロジェクトによる拡大表示などで出力し、その分布に従って、シミング用鉄片を配置する作業を行う。シミング作業で配置する鉄片量には、その量や位置に誤差があり、また鉄片磁化の程度も鉄片の材料性質や磁石内の磁場分布に依存するため、電流ポテンシャルからの鉄片換算に誤差も存在する。このため、一度の作業では到達可能な均一度には達しない。そのため、図1のように繰り返し作業を行い、磁場を均一に近づけていく。
【実施例2】
【0094】
実施例2を説明する。既に製作後の品質の検査に使えることを既に述べたが、この手法は同様の判定で磁石の設計に利用できる。この場合のフローを図10に示す。本実施例では、計算上で磁場調整を行い、目標磁場精度を達成できることを確認することで起磁力配置設計に適用する。起磁力配置検討開始51Sの後、起磁力配置を仮定するステップ52Sを行なう。この起磁力配置に基づいて磁場計算ステップ53Sを行う。また起磁力配置らシミングトレイの配置に基づいて特異値分解を実行し、その結果を保存しておく。この予備計算部分1Bは実施例1と同じである。1Bの部分は起磁力配置仮定ステップ52Sに基づき、起磁力配置改善判断ステップ56Sでシムトレイ変更が必要であると判断された場合のみ、実行する。この予備計算部1Bは図1と同様である。ステップ56Sで既存の特異値分解データが利用できるかどうかを、判断し、その結果によっては単に特異値分解結果のデータセットを読み出すステップ16Sのみとする。
【0095】
磁場計算結果を読み出しステップ14S、磁場均一度を判断するステップ15Sを実行し、既に良好な均一度であればMRI磁石用起磁力配置候補案ステップ56Sとなる。一般には、磁場分布から既に説明した本発明の手法でシミングにより均一度が良くなるかを判断する。均一度がシミングにより十分には改善されない場合、またはシミングに必要な鉄片量が過大でシミングが不可と判断される場合は、再度、起磁力配置仮定ステップ52Sに戻る。この判断部分3Bは図1の17〜21Sのステップと同じである。磁場調整計算部分3Bも、図1の3Bと同じである。
【0096】
シミングが可能であれば、さらにステップ55Sで起磁力配置補正して改善するかどうかを、シミングに必要な鉄片量を参考にして、また磁石全体の構造設計を参考にして検討する。起磁力配置の再検討を行わなければ、候補のMRI磁石用起磁力配置候補案56Sとなる。また起磁力配置を補正する場合には再度起磁力配置仮定ステップ52Sに戻る。起磁力配置を再検討する場合は、例えば超伝導コイルの経験磁界が過大であるとか、支持構造が難しい電磁力である場合等が考えられる。
【0097】
このようにして、本発明のシミングを計算上で仮想的に行い、起磁力配置の候補を得る。起磁力配置の設計には、十分な均一度が得られると判定された起磁力配置については、起磁力量,電磁力さらに応力などの全体設計を行い、さらに磁石の成立性を判断する。成立性が難しいとわかれば、再度起磁力配置を仮定するところから始める。
【0098】
図1では磁場調整手段として、磁化した鉄片4の磁気モーメントを利用する方法で記述して、鉄片配置作業ステップ22Sとしている。しかし、図3で説明したように磁化した鉄片は小コイル3による電流と等価である。そこで、図8の升目状に小コイルを並べ、その電流1を、本手法で計算した磁気モーメント分布に従って調整することも鉄片配置作業ステップ22Sの代替として可能である。
【0099】
本発明の手法では負の量を要求する磁場調整が要求されることがある。小コイルによる電流調整で、磁場調整を行う場合には、電流極性を変えることで、また永久磁石を使う場合には方向を変えることで対応できるが、鉄片の磁化は周囲の磁場環境で決まり、極性を変更できない。この場合の負の量は次のように考える。高次部分まで選択している場合には負の量の部分は配置しない。正の物量部分のみ配置することで、誤差磁場の凹凸振動空間的波長が1/2倍程度になり、負の物量を配置しなかったことで打ち消されなかった誤差磁場成分の固有モード次数は約2倍の次数の高次側に移り、特異値の減少で、磁場強度も弱まり、磁場調整上無視できるようになる。しかし、比較的低次の固有モード選択となって磁場調整を行っている場合には、負の量の要求は通常既に高次までの磁場調整で配置した鉄片の量を削減する方法で調整できる。しかし時には既に升目内に鉄量が零となっている場合には、その近傍から取り去る。近傍とは等高線の閉じた線の領域からである。それでも採るべき鉄片がない場合には、人為的に特定の固有モードを補正に必要な大きさからはずし、負の量が無くなるようにする。特定の固有モードは高次のモードから選択することで、磁場に与える影響を小さくできる。
【0100】
図1や図10の実施例で、磁場調整計算部分3Bは特にまとまったソフトウエアとしておくことで、磁場調整を行う時には特異値分解結果の保存データと共にして機動性の良い磁場調整の支援ツールとなる。
【実施例3】
【0101】
実施例1と実施例2では鉄片を必要な磁気モーメントを発生する物量で配置する例を示したが、既に言及したように、配置する鉄の物量として負の量が要求され、升目7の中に取り除ける鉄量が十分でないもしくは零となっている場合も発生する。前記のように対応しても十分な均一度にならない場合が発生する場合、鉄の代わりに永久磁石4Pもしくは電流ループ4Cを使う。これらは正の鉄物量に対しても適用しても問題は無いが、鉄の磁化で対応できる場合には、安価にシミングできる鉄片を用いることが望ましい。
【0102】
実際のシミングでの升目枠内の様子を実施例として説明する。図11に示すように、実際の升目内は、実施例1と実施例2の場合でも、いくつかの体積の異なる鉄片4を配置することを想定する。その磁気モーメントの大きさはMf1〜Mf4で異なる。図9に示した必要な磁気モーメントは、各Mfiにつき式(13)のとおりである。式(13)から求められる磁気モーメントを発生できるように、枠内の鉄の体積を、体積の異なる鉄片の組み合わせで調整する。
【0103】
【数11】

【0104】
式(13)で、Tiは枠内の接点iの電流ポテンシャル値(A)で、Siはその接点に付属する面積である。接点は複数の要素に付属するので、ここで示す三角要素では各要素の1/3が個々の接点に属すると考えて問題はない。鉄片の体積と磁気モーメントの換算方法は既に図3で議論したが、式9も参考にして飽和した鉄片の磁気モーメントは1ccあたり170Acm2/cc程度で換算できる。升目に必要とされた磁気モーメントを鉄片の体積に換算して必要な体積を升目内に配置する。磁場が弱く、鉄片が磁気飽和してない場合には、磁化Mは飽和磁化とは異なり、この換算係数も異なるが、この場合には材料の磁化曲線(M−H曲線、M=磁化強度T、H=磁界の強さA/mもしくはT)を参考にして決める。
【0105】
次に、永久磁石4Pおよび電流ループ4Cについての実施例を述べる。
永久磁石4Pを用いる場合、鉄片4と異なる点は、磁気モーメントの換算法のみである。永久磁石4Pは図12のように周囲の磁場と逆方向でも、磁気モーメントMpを配置できる。つまり負の鉄片物量が配置できる。従って、Mpの方向を必要とする体積の符号に合わせて、磁場の方向もしくは反対方向で、物量の正負を配置できる。磁気モーメントと体積と換算は、M−H曲線から読みとる。つまり配置する位置での磁界Hから,永久磁石を逆方向に配置する場合にはM−H曲線から、磁化Mを読みとる。磁化が読みとれば既に説明した鉄の磁化と同じ方法で換算できる。必要な永久磁石体積おおよそ式(14)で求められる。式(14)では磁化Mが負になる場合もある。
【0106】
【数12】

【0107】
図13に示す電流ループでは、ループに流す電流による磁気モーメントMcは原理式に基づき、ループ内の面積をSlとすると、Mcは式(15)により求められる。
【0108】
【数13】

【0109】
この磁気モーメントが必要とされる磁気モーメントと同じになるように電流を電源10から、符号も考慮して調整する。
実際のシミングに用いる磁気モーメントの発生方法とその材料について図11,12,13に示したが、このほかにも、鉄でなく、ニッケルやコバルトなどの他の磁性体も考えられる。この場合には、永久磁石で述べたように磁化曲線を調べて、その換算磁気モーメントを求め、その上で必要な体積を求め、図11、12と同様に升目内に配置していく。
磁化曲線で磁化が求められない場合も存在する。例えばシミング用の磁性体が、磁場が基の磁場とは異なる場合が発生するケースである。この場合には磁性体の磁化の程度を計測することが望ましい。例えば、実際に磁化が不明な磁性体片を配置する前後で、周囲の磁場を計測し、磁化が既知の場合の配置による磁場変化と比較する。もしくは計算上の磁場変化と比較することになる。また、磁化曲線が既知の材料のみで有れば、詳細な非線形磁場計算を行い、その計算結果から配置した鉄片の磁化計算値として利用する。
【0110】
実施例1乃至3によれば、最終的な到達均一度を予測しながら、また磁石の品質を確認し、間違いを自動的に補正して、計測・補正鉄配置計算・配置を繰り返すことにより確実な磁場調整を行うことができる。また、高い磁場精度が要求される磁石の起磁力配置設計にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、医療診断用に用いる核磁気共鳴断層写真装置(MRI)などのように、コイルと鉄などの磁性体を配置して磁場を発生する磁石装置において、所望の磁場強度の分布に磁場を調整する方法と装置を提供する。特にMRI等のように核磁気共鳴応用装置では被計測領域において、極めて高精度に均一化する方法と装置を提供する。特に、誤差磁場を鉄片を配置することで補正し、磁場強度を均一化するシミングと言われる作業で、誤差磁場分布と鉄片配置分布をそれぞれの直行基底の組み合わせで均一磁場分布に補正する。
【符号の説明】
【0112】
1 電流
2 磁化電流
3 小コイル
4 鉄片
4P 永久磁石
4C 電流ループ
5 シムトレイ
6 磁場計測評価領域
7 升目
8 等高線のピーク
9 等高線の谷
10 直流電源
11 接点
12 有限要素
13 電流ポテンシャル評価面
14 磁場計測評価点の集合
15 選択した固有モード
16 非選択の固有モード
17 到達可能均一度
18 升目に配置する鉄体積
19 電流ポテンシャル等高線
21 電流ポテンシャルによる電流
22 固有モード選択の次数上限を示す線
23 固有モード選択で強さ下限を示す線
1B 予備計算部分
2B 磁場計測部分
3B 磁場調整計算部分
11S 磁場調整開始ステップ
12S 磁場計測ステップ
13S 計測磁場保存ステップ
14S 磁場データ読み出しステップ
15S 均一度判断ステップ
16S 特異値分解結果読み出しステップ
17S 固有モード選択と目標磁場決定ステップ
18S 固有モード強度、補正電流ポテンシャル、鉄片量、補正磁場分布および到達可能均一度計算ステップ
19S スペクトル、到達可能均一度および鉄片配置量計算ステップ
20S シミング可否の判断ステップ
21S 品質良否判断ステップ
22S 鉄片配置作業ステップ
31S 計算メッシュ生成ステップ
32S 特異値分解計算ステップ
33S 特異値分解結果保存ステップ
40S 磁場調整終了ステップ
41S 修理・調整ステップ
51S 起磁力配置検討開始ステップ
52S 起磁力配置仮定ステップ
53S 磁場計算ステップ
54S 磁場計算結果保存ステップ
55S シムトレイ変更要否判断ステップ
56S 起磁力配置改善判断ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導磁石装置により、目標の磁場分布が与えられた領域の磁場分布の誤差磁場成分を低減し、目標の磁場分布を得るための磁場調整作業において、該超電導磁石装置の磁石を修理または調整する必要があるか否かを判定する超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法であって、
前記超電導磁石装置は磁場調整手段として、電流ループ、または受動的に磁化する鉄片などの磁性体や外部磁場に依存しない永久磁石を配置する曲面もしくは平面状の磁場調整機構を有し、
所定数の点において磁場計測を行い、
目標磁場との差である誤差磁場を算出し、
その誤差磁場を特異値分解により得た基底である固有分布関数の中から固有分布関数を選択し、
その選択した固有分布関数の組み合わせで近似的に補正できる磁場調整機構面上の電流ポテンシャル分布を求め、
求めた電流ポテンシャルから前記目標の磁場分布が与えられた領域の磁場計測点の補正磁場量を計算し、その補正磁場量に相当する磁場調整作業後の目標磁場からの残留誤差磁場を求め、
前記残留誤差磁場および前記補正磁場量に基づき、前記目標の磁場分布が得られる妥当な磁場調整が可能でないときに、さらに前記固有分布関数の選択において、他の固有分布関数を選択しても前記目標の磁場分布が得られる妥当な磁場調整が可能でないときに、前記超電導磁石装置の磁石を修理または調整することを特徴とする超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法。
【請求項2】
請求項1の超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法で、磁場計測から前記補正磁場量の計算と前記残留誤差磁場を算出するまでの作業を繰り返し実行することを特徴とする超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法において、誤差磁場の補正に必要な電流ポテンシャル分布を求める固有分布関数の選択を、特異値の大きさの順に並べて番号付けした番号(次数)と、誤差磁場に含まれる固有分布の強さの相関図(スペクトル図)上で選択することを特徴とする超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法において、等高線とともに鉄片を配置する面を多角形で分割し、分割した領域毎に、磁気モーメントの大きさもしくは鉄片量や永久磁石量を、面積積分値で、等高線と共に、もしくは等高線無しで示すことを特徴とする超電導磁石装置の磁石修理・調整要否判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−101105(P2012−101105A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289044(P2011−289044)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2010−511090(P2010−511090)の分割
【原出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】