説明

MnZn系フェライト粉末、MnZn系フェライトコアの製造方法及びフェライトコア

【課題】高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvが低く抑えられたMnZn系フェライトコアを製造することが可能なMnZn系フェライト粉末、MnZn系フェライトコアの製造方法及びフェライトコアを提供する。
【解決手段】本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末は、酸化鉄をFe23換算で52mol%以上70mol%以下、酸化亜鉛をZnO換算で2mol%以上25mol%以下、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライト粉末であり、MnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MnZn系フェライト粉末、MnZn系フェライトコアの製造方法及びフェライトコアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、多機能化が急速に進展するに伴い、各種部品の高集積化、高周波化も進み、供給される電流も大電流化が進んでいる。大電流化に伴い、各種部品からの発熱は増大し、電子機器の駆動時の発熱による温度上昇も考慮して、トランス、チョークコイルといった回路部品に用いられる磁芯材料は、室温から100℃程度の高温まで高い飽和磁束密度Bsを確保することが求められており、各種部品の高温での安定かつ確実な駆動が求められている。
【0003】
MnZn系フェライトコアは、一般にトランス及びチョークコイルの材料として使用されている。このような要望に応じるべく、トランスやチョークコイルなどに用いられるMnZn系フェライトコアは、動作温度において高い飽和磁束密度Bs及び低いコアロス(磁気損失)Pcvを有することが求められている。
【0004】
MnZn系フェライトコアの飽和磁束密度Bsは、一般に基本組成と焼結体密度に依存する。MnZn系フェライトコアは、基本成分のFe23量を多く、ZnO量を少なくすることで、磁気モーメントが増大し、高い飽和磁束密度Bsを得ることができる。また、組成調整によりキュリー温度を上昇させ、100℃付近の高温での飽和磁束密度Bsの低下を小さくできる。しかし、基本成分のFe23量を多く、ZnO量を少なくすると、焼結性が悪化して焼結体の密度が低下し、飽和磁束密度Bsの低下とコアロスPcvの増大を招く。そのため、MnZn系フェライトコアを構成するFe23とMnOとZnOとの各々の組成を調整するだけでは、高い飽和磁束密度Bsを得つつ、低いコアロスPcvを得ることは困難であった。
【0005】
MnZn系フェライト粉末は、所定の組成となるように配合した原料粉末の混合物を仮焼きした後、粉砕して得られる。このMnZn系フェライト粉末は造粒された後、成形されて成形体となる。この成形体が本焼成されて焼成体となり、この焼成体を加工することによりMnZn系フェライトコアが得られる。上記のようにして仮焼成する際に、MnZn系フェライト粉末に含まれる酸素の放出が不十分の場合には、酸素ガスが焼成体の中に残ったままとなり、焼結体にポアが発生する虞があった。
【0006】
そのため、原料粉末を焼成する際の昇温段階では、特に1000℃以上の温度領域では雰囲気中に窒素を大量に供給して酸素を置換し、雰囲気の酸素濃度または酸素分圧を低くする方法が採用されていた。
【0007】
また、原料粉末の仮焼成時に酸素濃度を空気よりも下げたMnZn系フェライトの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−203864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、原料粉末の仮焼成時に原料粉末中に含まれる酸素を放出し過ぎると、焼成時の制御が難しくなり、変形しやすいほか、成形体の中に残留するバインダー成分には本焼成の際に十分な酸素が供給されないため、残留バインダーの燃焼が十分行なわれない、という問題があった。そのため、MnZn系フェライトコア内部や周辺の雰囲気は還元性となり、変形や異常粒成長が生じたり、カーボンがフェライトコアに大量に残留したりすることにより、高い飽和磁束密度Bsを得つつ、低いコアロスPcvを有するMnZn系フェライトコアが得られない虞があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvが低く抑えられたMnZn系フェライトコアを製造することが可能なMnZn系フェライト粉末、MnZn系フェライトコアの製造方法及びフェライトコアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るMnZn系フェライト粉末は、酸化鉄をFe23換算で52mol%以上70mol%以下、酸化亜鉛をZnO換算で2mol%以上25mol%以下、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライト粉末であり、前記MnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする。
【0012】
MnZn系フェライト粉末は、所定の組成となるように原料粉末を配合し、配合して得られる混合物を仮焼成して得られる。その後、MnZn系フェライト粉末を微粉砕して造粒し、成形する。成形して得られる成形体を焼成することでMnZn系フェライトコア(焼成体)が得られる。一般的なMnZn系フェライトコア製造条件では、原料粉末は仮焼きされると、原料粉末中のZnOがFe23と反応してスピネル相であるZnFe24となるが、焼成時の昇温過程で大部分のMn成分が残りのFe23と反応して全てスピネル相となり、反応が完了する。温度の上昇に伴いスピネル化反応により形成されたスピネル相の固溶と焼結が進行し、酸素分圧を適切に制御することで、緻密なMnZn系フェライトコアが得られる。
【0013】
MnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析すると、700℃から1200℃の間でMnZn系フェライト粉末の質量が減少する。このMnZn系フェライト粉末の質量減少は、原料粉末中スピネル化していない成分がスピネル化反応する際に酸素を放出することに起因するものと考えられる。
【0014】
MnZn系フェライト成形体が本焼成される際、仮焼き後のスピネル化していないFe23やMn23などの酸化物は、昇温過程の700℃から1200℃の間の温度領域で、下記式(1)及び(2)のように、スピネル化反応により酸素が放出される。よって、MnZn系フェライト粉末中スピネル化していない成分が多いほど、焼成の過程で大量の酸素が放出され、重量減少率が大きくなる。
Mn23 + 2Fe23 → 2MnFe24 + (1/2)O2↑ ・・・(1)
3Fe23 → 2Fe34 + (1/2)O2↑ ・・・(2)
【0015】
本発明は、MnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、700℃から1200℃の間におけるMnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下とする。仮焼き後のMnZn系フェライト粉末の酸素放出量を所定の範囲内とし、MnZn系フェライト粉末を成形して得られる成形体の本焼成の際の酸素の放出を所定の範囲に抑える。MnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値を3.0質量%以下とする、即ち焼成時の酸素放出量を3.0質量%以下とすることにより、焼結体に残留した酸素ガスに起因してポアが発生するのを抑制することができるため、MnZn系フェライトコアの密度の低下を抑えることができる。よって、高い飽和磁束密度Bsを有するフェライトコアが製造できる。また、MnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値を0.5質量%以上とする、即ち焼成時の酸素放出量を0.5質量%以上とすることにより、成形体の中に残留するバインダー成分は本焼成の際に成形体内部から放出される酸素により燃焼される。本焼成の昇温の際、残留バインダーが成形体の内部に残留するのを抑制することができるため、本焼成時に成形体から酸素を奪われてMnZn系フェライトコアが還元されるのを防ぐことになる。このため、焼結体のコアロスPcvの増大を抑制することができる。従って、本発明によれば、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvが低く抑えられたMnZn系フェライトコアを製造することができる。
【0016】
本発明では、一次粒子の平均粒子径が、0.6μm以上3.0μm以下であることが好ましい。これにより、MnZn系フェライト粉末を用いて得られるMnZn系フェライトコアはより高い密度が得られ、高い飽和磁束密度Bsを有することができる。
【0017】
本発明に係るMnZn系フェライトコアの製造方法は、酸化鉄をFe23換算で52mol%以上70mol%以下、酸化亜鉛をZnO換算で2mol%以上25mol%以下、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライトコアを製造するにあたり、造粒および成形に供するMnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明は、MnZn系フェライトコアを製造するにあたり、仮焼き後のMnZn系フェライト粉末の酸素含有量を所定の範囲内とし、MnZn系フェライト粉末を成形して得られる成形体を本焼成する際の酸素の放出を所定の範囲に抑えている。これにより、焼結体に残留した酸素ガスに起因してポアが発生するのを抑制できるので、MnZn系フェライトコアの密度の低下を抑えることができ、MnZn系フェライトコアは高い飽和磁束密度Bsを有する。また、MnZn系フェライトコアを製造するにあたり、成形体の中に残留するバインダー成分は本焼成の際に成形体内部から放出される酸素により燃焼されるので、残留バインダーが成形体の内部に残るのを防ぐことができる。これにより、本焼成時にフェライトから酸素が奪われてフェライトが還元されるのを防ぐことができるため、焼結体のコアロスPcvの増大を抑制することができる。よって、本発明によれば、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvが低く抑えられたMnZn系フェライトコアを製造することができる。
【0019】
本発明では、一次粒子の平均粒子径が、0.6μm以上3.0μm以下であることが好ましい。上述のように、MnZn系フェライト粉末を用いて得られるMnZn系フェライトコアはより高い飽和磁束密度Bsを有することができる。
【0020】
本発明に係るフェライトコアは、上記何れかのMnZn系フェライト粉末を成形して焼成することにより得られることを特徴とする。フェライトコアは、上記のMnZn系フェライト粉末を用いて製造されるため、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvを低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvが低く抑えられたMnZn系フェライトコアを製造することが可能なMnZn系フェライト粉末を提供することができる。また、上記MnZn系フェライト粉末を用いることで、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvが低く抑えることができるフェライトコアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、温度と質量減少率との関係を模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、焼成時の温度と放出ガスとの関係を示す図である。
【図3】図3は、MnZn系フェライトコアの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るMnZn系フェライト粉末の実施の形態(以下、実施形態という)及び実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための実施形態及び実施例により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態及び実施例で開示する構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
【0024】
[実施形態]
<MnZn系フェライト粉末>
本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末の実施形態について説明する。本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末は、酸化鉄と酸化亜鉛と酸化マンガンとを原料として含み、所定の組成となるように原料粉末を配合し、配合して得られる混合物を仮焼成し、0.6〜3.0μmの粒径に粉砕して得られるものである。また、この粉末にポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA)などのバインダーを添加して適宜造粒したもの、つまり顆粒も含む。
【0025】
酸化鉄は、Fe23換算で52mol%以上70mol%以下含み、より好ましくは53.5mol%以上69mol%以下であり、更に好ましくは53.5mol%以上66mol%以下である。酸化鉄がFe23換算で52mol%を下回ると、所望の高い飽和磁束密度Bsが得られなくなる虞があるからである。また、酸化鉄がFe23換算で70.0mol%を超えると、緻密なフェライトコアが得られにくくなり、コアロスPcvが大きくなる傾向があり、所望の低コアロスPcvの特性が得られなくなってしまうからである。
【0026】
酸化亜鉛は、ZnO換算で2mol%以上25mol%以下含み、より好ましくは9mol%以上13mol%以下であり、更に好ましくは9mol%以上11mol%以下である。酸化亜鉛は、ZnO換算で2mol%を下回ると、密度の低下が生じ、低コアロス化を図ることが困難となってしまう虞があるからである。酸化亜鉛は、ZnO換算で25mol%を超えると、キュリー温度の低下が生じる傾向があり、高温での飽和磁束密度Bsが低下する虞があるからである。
【0027】
酸化マンガンは、酸化鉄と酸化亜鉛との残部として含まれる。酸化マンガンは、MnO換算で好ましくは20mol%以上38mol%以下含み、より好ましくは24mol%以上37.5mol%以下である。
【0028】
本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末は、さらに他の成分を含んでもよい。他の成分は、Ni、Li、Si、Ca、Zr、Nb、Ta、V、Bi、Mo、Sn、Co、In、Tiなどの少なくとも1種以上である。これらの他の成分は、酸化物あるいは加熱により酸化物となる化合物の粉末が用いられる。これらの副成分は、NiO、Li2CO3、SiO2、CaCO3、ZrO2、Nb25、Ta25、V25、Bi23、MoO3、SnO2、Co34、In25、TiO2等の形態で添加時に用いることができる。これらの中でも、SiO2、CaCO3、ZrO2、Nb25が特に好ましい。NiOは、0.1mol%以上7.5mol%以下、より好ましくは、0.1mol%以上6mol%以下で含有してもよい。LiO0.5は、0.1mol%以上2.0mol%以下、より好ましくは、0.1mol%以上1.5mol%以下で含有してもよい。SiO2は、0.005wt%以上0.03wt%以下で含有してもよい。CaCO3は、0.008wt%以上0.17wt%以下で含有してもよい。ZrO2は、0.005wt%以上0.03wt%以下で含有してもよい。Nb25は、0.005wt%以上0.03wt%以下で含有してもよい。Ta25は、0.01wt%以上0.1wt%以下で含有してもよい。V25は、0.01wt%以上0.1wt%以下で含有してもよい。Bi23は、0.005wt%以上0.04wt%以下で含有してもよい。MoO3は、0.005wt%以上0.04wt%以下で含有してもよい。
【0029】
MnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析(Thermogravimetric Analysis:TG)する場合、700℃から1200℃の間でMnZn系フェライト粉末の質量が減少する。不活性ガスとしては、N2ガス、Arガスなどが挙げられる。図1は、温度と質量減少率との関係を模式的に示す説明図である。図1に示すように、MnZn系フェライト粉末を不活性ガス雰囲気下で熱質量分析することにより温度変化に伴う質量減少率の変化を示す曲線(以下、「TG曲線」という。)が得られる。700℃から1200℃の間で熱質量分析した際にMnZn系フェライト粉末の質量は減少している。図1に示すTG曲線では、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値Aは、1.6質量%程度である。なお、TGは、例えば示差熱(Differential Thermal Analysis:DTA)・熱質量(Thermo Gravimetry:TG)同時測定装置を用いて行われる。これにより、MnZn系フェライト粉末を不活性ガス雰囲気中で1300℃まで昇温して得られるTG曲線から700℃から1200℃の間におけるMnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値を求めることができる。本実施形態において、「質量減少率」とは、熱質量分析を行う際に一定の昇温プログラムの下で行われるTG曲線において、ある温度における平均質量減少率の極限値をいうものとする。このMnZn系フェライト粉末の質量減少は、原料粉末が仮焼きされる際にスピネル化しなかった部分がスピネル化反応する際の酸素放出に起因するものと考えられる。
【0030】
MnZn系フェライト粉末を製造する過程において、成形体が本焼成される際、仮焼き後のスピネル化していないFe23やMn23などの酸化物は、昇温過程の700℃から1200℃の間の温度領域で、下記式(1)及び(2)のように、スピネル化反応により酸素を放出し、反応が完了する。よって、MnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値が大きいほど、本焼成の過程で大量の酸素が放出されることになる。
Mn23 + 2Fe23 → 2MnFe24 + (1/2)O2↑ ・・・(1)
3Fe23 → 2Fe34 + (1/2)O2↑ ・・・(2)
【0031】
本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末は、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下であり、より好ましくは、1.0質量%以上2.0質量%以下である。
【0032】
質量減少率の極大値が3%を超えると、緻密なMnZn系フェライトコアが得られないからである。即ち、MnZn系フェライト粉末を成形し、焼成することで得られるMnZn系フェライトコアの周辺の雰囲気中の酸素濃度は大量の酸素放出により高くなり、スピネル化反応の進行が抑制される。これにより、MnZn系フェライトコア内の放出酸素の排出が遅れ、ポアとして残るからである。MnZn系フェライトコアの密度低下はそのまま飽和磁束密度Bsの低下につながるほか、強度も低下するからである。
【0033】
質量減少率の極大値が0.5%を下回ると、成形体の中に残留するバインダー成分の燃焼に十分な酸素が供給されず、バインダー成分を除去することができないからである。また、MnZn系フェライトコアの内部や周辺の雰囲気は還元性となり、急激な収縮や部分的な熔解が発生しやすくなり、変形や異常粒成長が起こることが多いからである。
【0034】
焼成終了後に、MnZn系フェライトコアの中に残るカーボンはコアの抵抗率を低下させるため、コアロスPcv増加の原因となる。質量減少率の極大値が0.5%を下回ると、焼成終了後にMnZn系フェライトコア中に残るカーボンが多くなるため、コアロスPcvが大きくなってしまう。図2は、本焼成時の温度と放出ガスとの関係を示す図である。図2に示すように、800℃付近でCOのピークが確認されている。これは、300℃付近での脱バインダーで完全に燃焼・分解されていないバインダー成分が成形体の内部から酸素が放出されることにより燃焼し、COガスとして排出されることによるものと考えられる。即ち、ここでの酸素放出がなければ、この部分のバインダー残留成分がMnZn系フェライトコアにそのまま残り、さらに高い温度では酸化物から酸素を奪い取り、MnZn系フェライトコアを還元することになる。この結果、MnZn系フェライトコアの密度が高くなったとしても、コアロスPcvが非常に大きくなってしまう。
【0035】
本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末は、窒素雰囲気中で上記温度範囲で熱分析した際の質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3質量%以下となることで、仮焼き後のMnZn系フェライト粉末の酸素放出量を所定の範囲内とし、MnZn系フェライト粉末を成形して得られる成形体の本焼成の際の酸素の放出を所定の範囲に抑えることができる。これにより、焼結体に残留した酸素ガスに起因してポアが発生するのを抑制することができるため、MnZn系フェライトコアの密度の低下を抑えることができる。よって、本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末を用いることで、高い飽和磁束密度Bsを有するフェライトコアが製造できる。また、成形体の中に残留するバインダー成分は本焼成の際に成形体内部から放出される酸素により燃焼される。本焼成の際、残留バインダーが成形体の内部に残留するのを抑制することができるため、本焼成時に成形体から酸素を奪われてMnZn系フェライトコアが還元されることや、カーボンが残留するのを防ぐことができる。このため、焼結体のコアロスPcvの増大を抑制することができる。
【0036】
従って、本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末を用いてMnZn系フェライトコアを製造することにより、得られるMnZn系フェライトコアは、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvを低く抑えることができる。
【0037】
飽和磁束密度Bsは、例えば直流BHトレーサーを用いて測定される。コアロスPcvは、例えばBHアナライザーを用いて測定される。
【0038】
本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末は、一次粒子の平均粒子径が0.6μm以上3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.8μm以上2.0μm以下であり、更に好ましくは、0.8μm以上1.5μm以下である。MnZn系フェライト粉末は、一次粒子の平均粒子径を上記範囲内とすることで、より高い飽和磁束密度Bsを有することができる。なお、MnZn系フェライト粉末の一次粒子の平均粒子径の測定方法は、特に限定されるものでないが、例えば、レーザー回折・散乱法を用いてMnZn系フェライト粉末の大きさを測定するようにしてもよい。
【0039】
<MnZn系フェライトコア>
MnZn系フェライトコアは、本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末を成形して焼成することにより得られる。よって、本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末を用いて得られるMnZn系フェライトコアは、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvを低く抑えることが可能となる。
【0040】
MnZn系フェライトコアは、MnZn系フェライト粉末を成形、焼成などにより目的とする所定形状に成形されて得られる。MnZn系フェライトコアの形状は特に限定されるものではなく、用途に応じて、例えば、トロイダル、ER形状、RM形状、CQ形状等任意の形状とすることができる。
【0041】
<MnZn系フェライトコアの製造方法>
上述したような構成を有する本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末を製造し、このMnZn系フェライト粉末を用いて得られるMnZn系フェライトコアの好適な製造方法について図面を用いて説明する。尚、MnZn系フェライトの製造方法はあくまでも一例に過ぎず、適宜変更を加えることができる。図3は、MnZn系フェライトコアの製造方法を示すフローチャートである。図3に示すように、MnZn系フェライトコアの製造方法は、次の工程を含んでなる。
原料粉末を秤量し、所定の配合比で混合する秤量・配合工程(ステップS11)
混合された原料粉末を乾燥する乾燥工程(ステップS12)
混合された原料粉末を仮焼きする仮焼き工程(ステップS13)
仮焼き後の仮焼体を粉砕し、MnZn系フェライト粉末を得る粉砕工程(ステップS14)
MnZn系フェライト粉末をMnZn系フェライト顆粒に造粒する造粒工程(ステップS15)
MnZn系フェライト顆粒を成形し成形体を得る成形工程(ステップS16)
成形体を焼成してMnZn系フェライトコアを得る本焼成工程(ステップS17)
MnZn系フェライトコアを加工する加工工程(ステップS18)
【0042】
なお、MnZn系フェライトコアの製造方法を説明するに際し、一次粒子からなるMnZn系フェライト粉末と、一次粒子が凝集してなるMnZn系フェライト顆粒とを分けているが、MnZn系フェライト顆粒は、MnZn系フェライト粉末が凝集して形成されるものであり、MnZn系フェライト粉末と同等のものである。本実施形態では、MnZn系フェライトコアの製造方法を具体的に説明するため、MnZn系フェライト粉末とMnZn系フェライト顆粒とを分けて説明する。
【0043】
<秤量・配合工程:ステップS11>
秤量・配合工程(ステップS11)は、所定の組成のフェライトが得られるように原料粉末を秤量し、所定の配合比で混合し、混合粉末を得る工程である。原料粉末としては、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化銅、酸化ニッケル等の酸化物が用いられる。また、原料粉末には、加熱により酸化物となる化合物を用いてもよい。酸化物または加熱により酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩などの粉末がある。また、原料粉末としては、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を用いてもよい。各原料粉末の平均粒子径は、0.1μm以上3.0μm以下の範囲で適宜選定すればよい。原料粉末は所定の組成のフェライトが得られるように、各々秤量され、所定の配合比で混合される。原料粉末は、例えばボールミルを用いて湿式混合されることが好ましいが、乾式混合を利用してもよい。なお、乾式混合を採用した場合に乾燥工程が省略される。原料粉末が、各々秤量され、所定の配合比で混合し、混合粉末とした後、乾燥工程(ステップS12)に移行する。
【0044】
<乾燥工程:ステップS12>
乾燥工程(ステップS12)は、混合粉末を乾燥する工程である。乾燥の方法は、たとえばスプレー乾燥などがある。混合粉末を乾燥した後、仮焼き工程(ステップS13)に移行する。
【0045】
<仮焼き工程:ステップS13>
仮焼き工程(ステップS13)は、混合粉末を仮焼きする工程である。仮焼きは、原料粉末の熱分解や原料粉末に含まれる成分の均質化やMnZn系フェライト相の生成や焼結による超微粉の消失や適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、混合粉末を後述する工程に適した形態に変換するために行われる。仮焼きは、ロータリキルンやトンネル炉、バッチ炉などを用いて、窒素または大気雰囲気中で行われる。仮焼温度は700℃以上1000℃以下とすることが好ましい。仮焼きの仮焼時間は10分間以上5時間以下とすることが好ましい。仮焼時間は特に上記時間に限定されるものではなく、適宜調整する。混合された原料粉末が、仮焼きされた後、粉砕工程(ステップS14)に移行する。
【0046】
<粉砕工程:ステップS14>
粉砕工程(ステップS14)は、仮焼き後の仮焼体を粉砕し、MnZn系フェライト粉末を得る工程である。粉砕は、仮焼体の凝集や融着をくずして適度の焼結性を有する粉末を製造するために行われる。仮焼体の粉砕は、粗粉砕と微粉砕との何れか一方又は両方を行なうことで、仮焼体は、例えば、平均粒子径が数μm程度にまで粉砕される。この仮焼体を粉砕することで、MnZn系フェライト粉末が得られる。粗粉砕は、例えば、ジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いて仮焼体を粉砕する。微粉砕は、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、乾式または湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粗粉砕した粉末を更に粉砕する。仮焼体が大きい塊を形成している場合には、粗粉砕を行ってから微粉砕を行うことが好ましい。
【0047】
MnZn系フェライト粉末は、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下となるようにする。より好ましくは、1.0質量%以上2.0質量%以下である。MnZn系フェライト粉末を不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、加熱されることにより700℃から1200℃の間でMnZn系フェライト粉末の質量は減少する。本焼成する際に、原料粉末中スピネル化していない成分がスピネル化反応する際に酸素を放出することによりMnZn系フェライト粉末の質量は減少する。よって、MnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値が大きいほど、本焼成の過程で大量の酸素が放出されることになる。
【0048】
MnZn系フェライト粉末の酸素放出量を上記範囲内とすることで、MnZn系フェライト粉末を成形して得られる成形体を本焼成する際、酸素の放出量を抑えることができる。MnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値を3.0質量%以下とする、即ち焼成時の酸素放出量を3.0質量%以下とすることにより、焼結体に残留した酸素ガスに起因してMnZn系フェライトコアにポアが発生することを抑制し、MnZn系フェライトコアの密度の低下を抑えることができる。このため、高い飽和磁束密度Bsを有するMnZn系フェライトコアが製造される。また、MnZn系フェライト粉末の質量減少率の極大値を0.5質量%以上とする、即ち焼成時の酸素放出量を0.5質量%以上とすることにより、成形体の中に残留するバインダー成分は本焼成の際に成形体の内部から放出される酸素により燃焼されるので、本焼成の際、残留バインダーが成形体の内部に残留するのを抑制することができる。これにより、本焼成時にMnZn系フェライトコアが還元されるのを防ぐことができるため、MnZn系フェライトコアのコアロスPcvが大きくなることを抑制することができる。
【0049】
仮焼体を粉砕し、MnZn系フェライト粉末とした後、造粒工程(ステップS15)に移行する。
【0050】
<造粒工程:ステップS15>
造粒工程(ステップS15)は、MnZn系フェライト粉末を造粒して顆粒にする工程である。造粒は、粉砕材料を適度な大きさの凝集粒子である顆粒とし、成形に適した形態とするために行われる。このため、MnZn系フェライト粉末を造粒して顆粒にすることで、後述の成形工程(ステップS16)を円滑にすることができる。造粒法としては、例えば、加圧造粒法やスプレードライ法などが挙げられる。スプレードライ法は、粉砕材料に、結合剤を加えてスラリー状にした後、スプレードライヤー中で霧化し、乾燥する方法である。結合剤としては、例えばポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA)などが用いられる。得られる顆粒の粒径は、30μm以上200μm以下とすることが好ましい。MnZn系フェライト粉末を造粒して得られた顆粒を、MnZn系フェライト顆粒とする。MnZn系フェライト粉末を顆粒に造粒した後、成形工程(ステップS16)に移行する。
【0051】
なお、MnZn系フェライト顆粒は、MnZn系フェライト粉末を凝集させ、成形に適した形態としたものであり、本実施形態ではMnZn系フェライト粉末と同等のものとみなしている。
【0052】
<成形工程:ステップS16>
成形工程(ステップS16)は、MnZn系フェライト顆粒を成形する工程である。MnZn系フェライト顆粒は圧縮成形用金型を使用して、圧縮成形し、成形体を得る。圧縮成形用金型は、成形用凹型部材と成形用凸型部材とで構成され、圧縮成形は、成形用凹型部材にMnZn系フェライト顆粒を充填し、成形用凹型部材と成形用凸型部材とで、圧縮成形することにより行われる。成形体の形状は特に限定されるものではなく、用途に応じて、例えば、トロイダル、ER形状、RM形状、CQ形状等任意の形状とすることができる。MnZn系フェライト顆粒を成形した後、本焼成工程(ステップS17)に移行する。
【0053】
<本焼成工程:ステップS17>
本焼成工程(ステップS17)は、作製した成形体を焼成してMnZn系フェライトコア(焼結体)を得る工程である。焼成する際には、例えば、焼成温度は、1100℃以上1400℃以下であることが好ましく、焼成の総時間は10時間以上100時間以下であることが好ましく、焼成雰囲気は、酸素濃度を制御した雰囲気とすることが好ましい。成形体を焼成してMnZn系フェライトコアを得た後、加工工程(ステップS18)に移行する。
【0054】
<加工工程:ステップS18>
加工工程(ステップS18)は、MnZn系フェライトコアを加工する工程である。MnZn系フェライトコアを所定形状に加工したり、MnZn系フェライトコアの表面を研磨したりする。
【0055】
このように、仮焼き工程(ステップS13)で混合粉末を仮焼きした後に生成されるMnZn系フェライト粉末は、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値を、0.5質量%以上3.0質量%以下とする。成形体を本焼成する際に、成形体に含まれる酸素が放出されることによりMnZn系フェライト粉末の質量は減少する。このことから、MnZn系フェライト粉末を不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合の700℃から1200℃の間における質量減少率は、MnZn系フェライト粉末の酸素放出量といえる。MnZn系フェライト粉末の酸素放出量を上記範囲内として成形体を本焼成する際の酸素の放出を所定の範囲にすることで、MnZn系フェライトコアの酸素に起因するポアの発生を抑制し、MnZn系フェライトコアの密度の低下を抑制することができる。本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末を用いて得られるMnZn系フェライトコアは、本焼成工程(ステップS17)において、酸素濃度や焼成温度など焼成条件を調整することにより、MnZn系フェライトコアのコア密度は4.85g/cm3以上とすることができる。
【0056】
また、成形体の中に本焼成時まで残留するバインダー成分が本焼成の際に成形体の内部に残るのを抑制することができ、MnZn系フェライトコアに残留するカーボンの量を100PPM以下に抑制することができる。これにより、MnZn系フェライトコアのコアロスが大きくなることを抑制することができる。
【0057】
このように、本実施形態に係るMnZn系フェライト粉末を用いて得られるMnZn系フェライトコアは、高い飽和磁束密度Bsを有すると共に、コアロスPcvを低く抑えることができる。
【実施例】
【0058】
本発明の内容を実施例及び比較例を用いて以下に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
酸化鉄をFe23換算で55mol%、酸化亜鉛をZnO換算で10mol%、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライトコアを構成するそれぞれの元素の酸化物の原料を配合して混合し、粉砕し、混合粉末を得た。この混合粉末を大気又は窒素雰囲気中で、700℃以上1200℃以下の範囲で温度を変化させて2時間保持し、仮焼きを行った後、粉砕した。これによりMnZn系フェライト粉末を得た。得られた粉末の窒素雰囲気中での質量減少率から酸素放出量を求めた。この得られた仮焼粉末に所定量の微量添加物およびPVAを添加し、微粉砕後にスプレー造粒してMnZn系フェライト顆粒を得た。得られたMnZn系フェライト顆粒を外径20mmのトロイダル形状に成形し、成形体を得た。得られた成形体を、温度が1300℃で酸素分圧が2.0%の条件下で焼成を行ない、MnZn系フェライトコアを得た。得られたMnZn系フェライトコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを求めた。実施例1のMnZn系フェライコアの組成比と仮焼粉末の酸素放出量とMnZn系フェライコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを表1に示す。
【0060】
<実施例2から5、比較例1から3>
酸化鉄をFe23換算で55mol%、酸化亜鉛をZnO換算で10mol%、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライトコアを成形するために用いられる仮焼粉末を実施例1と同様に作成した。得られた仮焼粉末を用いて実施例1と同様にしてMnZn系フェライトコアを作成した。得られた仮焼粉末の窒素雰囲気中での酸素放出量とMnZn系フェライコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを求めた。実施例2から5と比較例1から3のMnZn系フェライコアの組成比と仮焼粉末の酸素放出量とMnZn系フェライコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを表1に示す。
【0061】
<実施例6から11、比較例4、5>
酸化鉄をFe23換算で63mol%、酸化亜鉛をZnO換算で13mol%、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライトコアを成形するために用いられる仮焼粉末を実施例1と同様に作成した。得られた仮焼粉末を用いて得られた成形体を、温度が1300℃で酸素分圧が1.0%の条件下で実施例1と同様に焼成を行ない、MnZn系フェライトコアを作成した。得られた仮焼粉末の窒素雰囲気中での酸素放出量とMnZn系フェライコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを求めた。実施例6から11と比較例4、5のMnZn系フェライコアの組成比と仮焼粉末の酸素放出量とMnZn系フェライコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを表1に示す。
【0062】
<実施例12から14、比較例6、7>
酸化鉄をFe23換算で69mol%、酸化亜鉛をZnO換算で11mol%、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライトコアを成形するために用いられる仮焼粉末を実施例1と同様に作成した。得られた仮焼粉末を用いて得られた成形体を、温度が1320℃で酸素分圧が0.6%の条件下で実施例1と同様に焼成を行ない、MnZn系フェライトコアを作成した。得られた仮焼粉末の窒素中での酸素放出量とMnZn系フェライコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを求めた。実施例12から14と比較例6、7のMnZn系フェライコアの組成比と仮焼粉末の酸素放出量とMnZn系フェライコアの密度と飽和磁束密度BsとコアロスPcvとを表1に示す。
【0063】
(酸素放出量)
示差熱(DTA)・熱質量(TG)同時測定装置(商品名:TG8120、理学電機社製)を用いて、30mg以上50mg以下のMnZn系フェライト粉末を白金皿に入れて、流量200mL/minのN2気流中で、10℃/minの昇温速度で1300℃まで昇温し、得られた熱質量分析曲線(TG曲線)における700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値を求めた。測定された質量減少率の極大値を表1に示す。
【0064】
(密度)
アルキメデス法で水を用いて測定した。測定された密度を表1に示す。
【0065】
(粒度)
MnZn系フェライト顆粒の粒度分布の測定は粒度分布測定装置(商品名:マイクロトラック、日機装株式会社製)を用いて、レーザー回折・散乱法で測定した。
【0066】
(飽和磁束密度Bs)
外径20mmのトロイダル形状を100℃で直流BHトレーサーを用いて1194A/mでの飽和磁束密度Bsを測定した。測定された飽和磁束密度Bsを表1に示す。
【0067】
(コアロスPcv)
BHアナライザー(岩通計測株式会社製)を用いて温度100℃で、200mT、100KHzで測定した。
【0068】
【表1】

【0069】
酸素放出量が0.5%以上2.8%以下の粉末から得られるMnZn系フェライトコア(実施例1から14、参照)は、酸素放出量が上記範囲内にない粉末から得られるMnZn系フェライトコア(比較例1から7、参照)よりも飽和磁束密度Bsを高く維持しつつ、コアロスPcvを低く維持できることが確認された。よって、酸素放出量を所定の範囲内とした仮焼粉末を用いて得られるMnZn系フェライトコアは、飽和磁束密度Bsを高く維持しつつ、コアロスPcvを低く維持できるので、トランス、チョークコイルなどに好適に用いることができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明に係るMnZn系フェライト粉末、MnZn系フェライト粉末の製造方法及びフェライトコアは、高い飽和磁束密度Bsを得つつ、低いコアロスPcvを有するので、トランス、チョークコイルといった部品に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄をFe23換算で52mol%以上70mol%以下、酸化亜鉛をZnO換算で2mol%以上25mol%以下、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライト粉末であり、
前記MnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とするMnZn系フェライト粉末。
【請求項2】
一次粒子の平均粒子径が、0.6μm以上3.0μm以下である請求項1に記載のMnZn系フェライト粉末。
【請求項3】
酸化鉄をFe23換算で52mol%以上70mol%以下、酸化亜鉛をZnO換算で2mol%以上25mol%以下、残部に酸化マンガンを含むMnZn系フェライトコアを製造するにあたり、
造粒および成形に供するMnZn系フェライト粉末を、不活性ガス雰囲気下で熱質量分析した場合に、700℃から1200℃の間における質量減少率の極大値が、0.5質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とするMnZn系フェライトコアの製造方法。
【請求項4】
一次粒子の平均粒子径が、0.6μm以上3.0μm以下である請求項3に記載のMnZn系フェライトコアの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のMnZn系フェライト粉末を成形して焼成することにより得られることを特徴とするフェライトコア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195415(P2011−195415A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66212(P2010−66212)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】