説明

Mo−Co基合金

【課題】耐摩耗性に優れ、且つ、表面の酸化被膜が剥離し難いMo−Co基合金を提供すること。
【解決手段】Mo−Co基合金であって、質量%で、Mo:20〜70%、C:0.5〜3.0%、Y:0.1〜1.5%、残部Coおよび不可避的不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mo−Co基合金に関し、特に、部材に盛金されるMo−Co基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
部材は、使用環境に応じた材料で構成される。高温環境で使用される部材は、耐熱性に優れた材料で構成される。また、相手部材に繰り返し接触する部材は、耐摩耗性に優れた材料で構成される。
【0003】
例えば、車両用のエンジンバルブのバルブフェースは、エンジン作動時に、燃焼雰囲気に曝され、金属製のバルブシートに繰り返し接触するので、耐熱性、耐摩耗性に優れた材料(例えば、SUH35等のオーステナイト鋼)で構成される。
【0004】
しかし、部材に要求される全ての特性を単一の材料で満たすことは難しい。また、相手部材に繰り返し接触するのは、部材の表面全体ではなく、部材の表面の一部である。こうした事情から、部材の表面の一部に、耐摩耗性に優れた合金からなる盛金部が設けられている。
【0005】
盛金部に用いられる合金としては、例えばMo−Co基合金等がある(例えば、特許文献1参照)。この合金には、Cが添加されている。Cは、金属炭化物を形成し、合金の硬さを向上させ、耐摩耗性を向上させる。この合金は、部材であるバルブフェースの表面に盛金されると、エンジン作動時に、燃焼雰囲気中の酸素と反応し酸化被膜で覆われる。これにより、部材と相手部材との金属接触を抑制することができ、凝着摩耗を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−310854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のMo−Co基合金では、使用温度が高くなると、酸化被膜が多量に形成され、酸化被膜が剥離しやすくなる。酸化被膜が相手部材との接触によって部分的に剥離すると、合金表面が荒れ、相手部材を摩耗させる相手攻撃性が増大する。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性に優れ、且つ、表面の酸化被膜が剥離し難いMo−Co基合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明のMo−Co基合金は、
質量%で、Mo:20〜70%、C:0.5〜3.0%、Y:0.1〜1.5%、残部Coおよび不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐摩耗性に優れ、且つ、表面の酸化被膜が剥離し難いMo−Co基合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両用のエンジンバルブ及びその周辺部材の概略図である。
【図2】実施例1における試験片の切断面の顕微鏡写真である。
【図3】実施例2における試験片の切断面の顕微鏡写真である。
【図4】比較例1における試験片の切断面の顕微鏡写真である。
【図5】比較例2における試験片の切断面の顕微鏡写真である。
【図6】比較例3における試験片の切断面の顕微鏡写真である。
【図7】比較例4における試験片の切断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
部材(以下、「母材」ともいう)は、使用環境に応じた材料で構成される。高温環境で使用される部材は、耐熱性に優れた材料で構成される。また、相手部材に繰り返し接触する部材は、耐摩耗性に優れた材料で構成される。
【0014】
例えば、図1に示すように、車両用のエンジンバルブ(排気バルブや吸気バルブ)10のバルブフェース11は、エンジン作動時に、燃焼雰囲気に曝され、金属製のバルブシート12に繰り返し接触するので、耐熱性、耐摩耗性に優れた材料(例えば、SUH35等のオーステナイト鋼)で構成される。
【0015】
しかし、母材11に要求される全ての特性を単一の材料で満たすことは難しい。また、相手部材12に繰り返し接触するのは、母材11の表面全体ではなく、母材11の外周面である。こうした事情から、母材11の外周面に、耐摩耗性に優れた合金からなる盛金部13が設けられている。
【0016】
尚、図1に示す例では、母材の形状は、略円板状であるが、本発明はこれに限定されず、例えば、棒状であっても良いし、環状であっても良い。また、図1に示す例では、合金を盛金する箇所は、母材の外周面であるが、本発明はこれに限定されない。要は、相手部材に繰り返し接触する部分に合金が盛金されていれば良い。
【0017】
盛金部を設ける方法は、一般的な方法であって良く、例えば、プラズマアーク法やレーザクラッド法が用いられる。プラズマアーク法やレーザクラッド法を用いる場合、盛金部用の合金は、粉末の形態で使用されて良い。合金の塊を粉末にする方法は、一般的な方法であって良く、例えば、アトマイズ法が用いられる。
【0018】
盛金部に用いられる合金は、Mo−Co基合金であって、質量%で、Mo:20〜70%、C:0.5〜3.0%、Y:0.1〜1.5%、残部Coおよび不可避的不純物からなる。このMo−Co基合金は、質量%で、Cr:15%以下、Ni:40%以下含有して良い。
【0019】
次に、上記Mo−Co基合金の各成分について説明する。
【0020】
Moは、必須成分であって、Mo炭化物を形成し、合金の耐摩耗性を向上させる。また、Moは、合金表面に酸化被膜を形成する。これにより、部材と相手部材との金属接触を抑制することができ、凝着摩耗を抑制することができる。但し、Mo含有量が20質量%未満であると、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が70質量%を超えると、Mo炭化物が多量に形成され、合金の硬さが高くなり過ぎ、相手部材を摩耗させる相手攻撃性が高くなる。また、Mo含有量が多過ぎると、母材がオーステナイト鋼の場合、母材と合金との線膨張係数差が大きくなり過ぎるので、熱サイクルによって合金割れが発生し易くなる。よって、Mo含有量は、20〜70質量%とした。より好ましい範囲は、20〜50質量%である。
【0021】
Cは、必須成分であって、金属炭化物を形成すると共に、固溶ならびに遊離黒鉛の形成により、合金の硬さを向上させ、耐摩耗性を向上させる。但し、C含有量が0.5質量%未満では、上記効果が十分に得られず、3質量%を超えると合金の硬さが高くなり過ぎ、相手部材を摩耗させる相手攻撃性が高くなる。よって、C含有量は、0.5〜3.0質量%とした。より好ましい範囲は、0.5〜1.5質量%である。
【0022】
Yは、必須成分であって、合金表面に緻密な酸化被膜を形成して、合金内部の酸化を抑制すると共に、酸化被膜が剥離するのを抑制する。但し、Y含有量が0.1質量%未満では、上記効果が十分に得られず、1.5質量%を超えると、合金の硬さが高くなり過ぎ、相手攻撃性が高くなる。また、Y含有量が多過ぎると、合金の耐衝撃性や靱性が低くなるし、コストが高くなる。よって、Y含有量は、0.1〜1.5質量%とした。
【0023】
Crは、必須成分ではなく、任意成分であるが、凝着摩耗を抑制するのに十分な酸化被膜ができる温度を制御する効果がある。Cr含有量が多くなるほど、酸化被膜ができる温度が高くなる。また、母材がオーステナイト鋼の場合には、Cr添加によって、合金と母材との線膨張係数差を小さくすることができ、熱サイクルによって合金割れが発生するのを抑制できる。但し、Cr含有量が15質量%を超えると、酸化被膜ができる温度が高くなり過ぎるので、凝着摩耗を十分に抑制することができない。よって、Cr含有量は、15質量%以下とする。
【0024】
Niは、必須成分ではなく、任意成分であるが、合金の耐衝撃性を向上させる。Ni含有量が40%を超えると、金属炭化物の形成が抑制され、合金の硬さが低くなり過ぎるので、耐摩耗性が低下する。よって、Ni含有量は、40質量%以下とする。
【0025】
尚、Feは、不可避的不純物として含まれる場合を除き、積極的には含まれない。Feが含まれると、合金の硬さが低減し、耐摩耗性が低下する。
【0026】
次に、車両用のエンジンバルブの詳細について再び図1を参照して説明する。
【0027】
車両用のエンジンバルブ10は、軸方向(図1では矢印A方向)に往復動するように構成され、カム14によって往動方向に駆動され、スプリング15によって復動方向に付勢される。エンジンバルブ10の先端には略円板状のバルブフェース11が固定されており、バルブフェース11の外周面には盛金部13が溶着されている。バルブフェース11及び盛金部13は、エンジンバルブ10の往復動に連動して、環状のバルブシート12の開口を開閉する。この際に、盛金部13がバルブシート12に繰り返し接触する。
【0028】
盛金部13の材料には、上記組成のMo−Co基合金が用いられる。この合金には、Cが添加されているので、合金の耐摩耗性を向上させることができる。また、この合金には、Yが添加されているので、緻密な酸化被膜を合金表面に形成することができ、酸化被膜の剥離を抑制することができる。よって、バルブフェース11とバルブシート12との金属接触を効果的に抑制することができ、凝着摩耗を効果的に抑制することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0030】
例えば、上述した実施形態のMo−Co基合金は、盛金部に用いられるとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、部材(母材)に用いられても良い。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
(実施例1〜4、比較例1〜4)
表1に示す原料粉末を適当な配合で混合して、表2に示す組成の混合粉末を作製した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

作製した混合粉末を圧力4トン/cmでプレス成形し、プラズマアーク溶解によりインゴット(各100g)を作製した。作製したインゴットの特性を、以下の方法で評価した。
【0034】
(耐酸化性)
実施例1〜4、比較例1〜4における各インゴットから1cm角の試験片を切り出し、大気中で1000℃、100時間加熱した後、室温まで冷却した。次に、顕微鏡を用いて、試験片の切断面観察を行い、酸化皮膜の膜厚を測定した。
【0035】
(平均線膨張係数)
実施例2〜4における各インゴットから長さ50mm、断面が直径6mmの円柱状の試験片を切り出し、窒素雰囲気中で20℃から800℃までの平均線膨張係数(以下、単に「平均線膨張係数」という)を測定した。
【0036】
(耐衝撃性)
実施例2〜4における各インゴットから長さ55mm、断面が短辺5mm、長辺10mmの角柱状の試験片を切り出し、シャルピー衝撃試験を行った。
【0037】
上記評価の結果を表3にまとめて示す。また、実施例1〜2、比較例1〜4における試験片の切断面の顕微鏡写真を図2〜図7に示す。なお、図2〜図7において、(A)は熱処理前の顕微鏡写真を示し、(B)は熱処理後の顕微鏡写真を示す。
【0038】
【表3】

表3及び図2〜図7から明らかなように、耐摩耗性を向上させるため、Mo−Co合金にCを添加すると、酸化被膜が多量に形成されてしまうが、Yをさらに添加することによって、酸化被膜が多量に形成されるのを抑制することができた。これは、Y添加により、合金表面の酸化被膜が緻密になること、即ち、合金表面の酸化被膜が剥離し難くなることを意味する。尚、希土類元素であるYの代わりに、同じく希土類元素であるCeを添加した場合、酸化被膜が多量に形成されるのを十分に抑制することはできなかった。
【0039】
また、表3から明らかなように、Cr添加によって、合金の平均線膨張係数を大きくすることができ、母材の材料であるSUH35の平均線膨張係数(18×10−6/℃)との差を小さくすることができた。これは、熱サイクルによって合金が割れるのを抑制できることを意味する。
【0040】
さらに、表3から明らかなように、Ni添加によって、合金の耐衝撃性を向上することができた。
【符号の説明】
【0041】
10 エンジンバルブ
11 バルブフェース
12 バルブシート
13 盛金部
14 カム
15 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mo:20〜70%、C:0.5〜3.0%、Y:0.1〜1.5%、残部Coおよび不可避的不純物からなるMo−Co基合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−105979(P2011−105979A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260468(P2009−260468)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】