説明

N−メチルカルバミン酸エステル誘導体の製造方法

【課題】
医薬等の製造において重要な合成中間体となり得る、N-メチルカルバミン酸エステル誘導体類の製造法及びその合成中間体をみいだすこと。
【解決手段】
下記式
【化1】


[R1はC1-3アルキル基を示し、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、C1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基若しくはフッ素原子を示す]で表される化合物(I)のアミノ基を、塩基の存在下、ジ-tert-ブチルジカーボネイトと反応させることにより得られる化合物(II)を、還元することを特徴とする化合物(III)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬等の製造において、重要な合成中間体となり得る、N-メチルカルバミン酸エステル誘導体類の製造法及びその合成中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
N-メチルカルバミン酸エステル誘導体については、特許文献1,2等にその製法が開示されており、医薬品等の製造中間体として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開公報 WO2006/078037
【特許文献2】国際公開公報 WO2001/00570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は、N-メチルカルバミン酸エステル誘導体の効率的な製造法について種々考察した結果、N-アルキルアニリン化合物の効率的なブトキシカルボニル化方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、
(1)下記一般式(I)
【0006】
【化1】

【0007】
[式中、R1はC1-3アルキル基を示し、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、C1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基若しくはフッ素原子を示す]で表される化合物を、塩基(当該塩基は、触媒量の4-ジメチルアミノピリジン及び水素化ナトリウムから選ばれる)の存在下、ジ-tert-ブチルジカーボネイトと反応させることを特徴とする、下記一般式(II)
【0008】
【化2】


[式中、R 1、R2、R3及びR4は前述したものと同意義を示す] で表される化合物の製造方法、
【0009】
(2)下記一般式(III)
【化3】

【0010】
[式中、R1はC1-3アルキル基を示し、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、C1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基若しくはフッ素原子を示す]で表される化合物の製造方法であって、下記一般式(I)
【0011】
【化4】

【0012】
[式中、R 1、R2、R3及びR4は前述したものと同意義を示す] で表される化合物のアミノ基を、塩基(当該塩基は、触媒量の4-ジメチルアミノピリジン又は水素化ナトリウムから選ばれる)の存在下、ジ-tert-ブチルジカーボネイトと反応させることにより得られる下記一般式(II)
【0013】
【化5】

【0014】
[式中、R 1、R2、R3及びR4は前述したものと同意義を示す] で表される化合物を還元することを特徴とする製造方法、
【0015】
(3)上記(1)又は(2)において、R2、R3及びR4が同一又は異なって、水素原子若しくはC1-3アルコキシ基である製造方法、
【0016】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか一つにおいて、塩基が触媒量の4-ジメチルアミノピリジンである製造方法である。
【0017】
本発明において、「C1-C3アルキル基」とは、炭素原子を1個乃至3個有する直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル基を挙げることができる。R1、R2、R3及びR4においては、好適にはメチル又はエチル基であり、さらに好適にはメチル基である。
【0018】
本発明において、「C1-3アルコキシ基」とは、前記「C1-3アルキル基」が酸素原子に結合した基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシのような炭素数1乃至3個の直鎖又は分枝鎖アルコキシ基を挙げることができる。R2、R3及びR4においては、好適にはメトキシ基である。
R1は、好適にはメチル基である。
R2は、好適には水素原子である。
R3は、好適には水素原子である。
R4は、好適にはメトキシ基である。
【0019】
本発明のN-メチルカルバミン酸エステル誘導体を製造する方法及び製造方法について、以下に詳細に説明する。
【0020】
出発物質である化合物(I)は、J.Am.Chem.Soc.(1917),39,pp2188-224に開示されている方法などに準じて製造することができる。N-メチルカルバミン酸エステル誘導体(II)及び(III)は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0021】
【化6】

【0022】
上記式中及び以下の記載において、R 1、R2、R3及びR4は前述したものと同意義を示す。
【0023】
化合物(I)とジ-tert-ブチルジカーボネイトを反応させる第一工程により化合物(II)を製造し、化合物(II)のニトロ基を還元する第二工程により化合物(III)を製造することができる。以下に第一工程および第二工程について詳しく説明する。
【0024】
(工程1)
本工程は、不活性溶媒中、原料である化合物(I)と、4-ジメチルアミノピリジン又は水素化ナトリウム存在下、ジ-tert-ブチルカーボネイトと反応させることにより達成される。
【0025】
溶媒としては、原料となる化合物(I)およびジ-tert-ブチルジカーボネイトをある程度以上溶解し、反応を阻害しないものであれば特に限定はない。そのような溶媒としては例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、またはメシチレン等の炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、またはヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド類、もしくはこれらの混合溶媒が挙げられ、好適には炭化水素類またはアミド類であり、さらに好適にはトルエン、エチルシクロヘキサン又はジメチルアセトアミドであり、特に好適にはトルエンである。
【0026】
ジ-tert-ブチルジカーボネイトは、必要に応じて溶媒に溶解して加えることもできる。
【0027】
本工程で用いる4-ジメチルアミノピリジンの量は、用いられる化合物(I)に対して0.01当量以上であれば特に限定はないが、好適には0.05から0.5当量、さらに好適には0.1当量である。
【0028】
本工程で用いる水素化ナトリウムの量は、用いられる化合物(I)に対して1当量以上であれば特に限定はないが、好適には1から2当量、さらに好適には1.2から1.5当量である。
【0029】
本工程の反応温度は特に限定はないが、通常0℃から溶媒の還流温度、好適には室温から120℃、さらに好適には40℃〜90℃である。
【0030】
本工程の反応時間には特に限定はないが、水素化ナトリウムを用いた場合は、通常1時間から48時間、好適には10時間から24時間であり、4-ジメチルアミノピリジンを用いた場合は、通常5分から30分、好適には、10分程度である。
【0031】
本工程の反応終了後は後処理することなく引き続き第二工程を実施してもよいし、必要であれば通常の後処理のあと生成物である化合物(II)を単離してもよい。生成物を単離する場合は後処理のあと、抽出、濾別等の操作によって単離する。単離後、生成物はそのまま使用してもよいし、あるいは必要に応じ、蒸留、再結晶、昇華、分配、もしくはクロマトグラフィー等の通常の精製法で精製したのち使用してもよい。
【0032】
(工程2)
本工程は通常溶媒中で行われる。接触還元による除去において使用される溶媒は、反応を阻害せず、出発物質を溶解するものであれば特に限定はないが、好適にはメタノール、エタノールのようなアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、酢酸のような脂肪酸、酢酸エチルのようなエステル類を挙げることができ、さらに好適にはメタノールである。
【0033】
使用される触媒としては、通常、接触還元反応に使用されるものであれば、特に限定はないが、好適には、パラジウム炭素、パラジウム黒、ラネーニッケル、酸化白金、白金黒、ロジウム−酸化アルミニウム、トリフェニルホスフィン−塩化ロジウム、パラジウム−硫酸バリウムが用いられ、さらに好適にはパラジウム炭素である。
【0034】
圧力は、特に限定はないが、通常0.1乃至1.0MPaで行なわれ、好適には0.5MPaの水素加圧下でおこなわれる。
【0035】
反応温度及び反応時間は、出発物質、溶媒及び触媒の種類等により異なるが、通常、0℃乃至100℃(好適には、10℃乃至50℃)、5分乃至24時間(好適には、1時間乃至5時間)である。
【0036】
本工程の反応終了後は後処理後、生成物である化合物(III)の物性に応じて酸性、中性、または塩基性にした後、抽出、濾別等の単離操作を行う。単離後生成物はそのまま使用してもよいし、あるいは必要に応じ、蒸留、再結晶、昇華、分配、もしくはクロマトグラフィー等の通常の精製法で精製したのち使用してもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、医薬等の製造中間体であるN-メチルカルバミン酸エステル誘導体の製造方法を提供する。本発明の製造方法を用いることにより収率良く高純度で、安価な試薬を用いて簡便な操作で目的化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施例等を示し、さらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
(実施例1)N-(2-アミノ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステルの製造
【0040】
(1−1)
【化7】

【0041】
5-メトキシ-N-メチル-2-ニトロアニリン100.0kg(548.9モル)を、窒素気流下でジメチルアセトアミド1108kgに溶解させ、60重量%水素化ナトリウム30.74kg(768.5モル)を0〜5℃で溶解液に加え、ジメチルアセトアミド20.0kgで洗い込み、20〜25℃で2時間撹拌した。エチルシクロヘキサン250Lを0〜5℃で反応液に加え、ジ-tert-ブチルジカーボネイト143.8kg(658.7モル)とエチルシクロヘキサン100Lの混合液を0〜5℃で反応液に滴下し、エチルシクロヘキサン50Lで洗い込み、0〜5℃で15時間撹拌した。水2000Lを40℃以下で反応液に加え、25〜30℃で1時間撹拌した後、0〜5℃で1時間撹拌した。析出した結晶を濾過分離し、エチルシクロヘキサン300L、および水2000Lで結晶を洗浄し、湿N-(2-ニトロ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステル163.1kgを得た(乾品換算145.9kg、5-メトキシ-N-メチル-2-ニトロアニリンに対する収率:94.2%)。
【0042】
(1−2)
【化8】

【0043】
湿N-(2-ニトロ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステル162.47kg(乾品換算145.3kg、514.7モル)、および5%パラジウム−炭素50%湿品11.62kgをトルエン1526Lに分散させ、0.5MPaの水素加圧下、35〜40℃で3時間撹拌した。パラジウム−炭素を濾去し、トルエン581Lで洗浄し、濾洗液を減圧下で581Lまで濃縮した。濃縮液にエチルシクロヘキサン1453Lを35〜40℃で加え、2時間で0℃まで冷却し、-5〜0℃で2時間撹拌した。析出した結晶を濾別し、エチルシクロヘキサン726Lで洗浄し、減圧乾燥してN-(2-アミノ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステル113.4kgを得た(N-(2−ニトロ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステルに対する収率:87.3%、5-メトキシ-N-メチル-2-ニトロアニリンに対する収率:82.2%)。
物性値は、いずれも実施例2の値と一致した。
【0044】
(実施例2)N-(2-アミノ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステルの製造
【0045】
(2−1)
【化9】

【0046】
5-メトキシ-N-メチル-2-ニトロアニリン97.1kg(5330モル)、および4-ジメチルアミノピリジン6.51kg(533モル)を、窒素気流下でトルエン338kgに溶解させ、ジ-tert-ブチルジカーボネイト162.9kg(7462モル)とトルエン182kgの混合液を、108〜115℃で低沸分を留去しながら滴下した。トルエン26kgで洗い込み、108〜115℃で10分間撹拌し、減圧下で液量290Lまで濃縮した。濃縮液にメタノール291Lを加え、60〜70℃で390Lまで濃縮した。濃縮液にメタノール291Lを加え、60〜70℃で390Lまで濃縮した。50〜60℃でメタノールを加えて液量を583Lに調整し、1.2時間で25℃まで冷却した。水291Lを20〜25℃で滴下し、0〜5℃で1.5時間撹拌した。析出した結晶を濾別し、80%メタノール292L、水194Lで洗浄し、湿N-(2-ニトロ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステル150.34kgを得た(乾品換算144.28kg、5-メトキシ-N-メチル-2-ニトロアニリンに対する収率:95.9%)。
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6)δ:1.22(6.9H, s), 1.42(2.1H, s), 3.21(2.3H, s), 3.23(0.7H, s), 3.89(3H,s), 7.01(1H,dd,J=2.6,9.0Hz),7.13(1H,d,J=2.6Hz), 8.00(1H,d,J=9.0Hz).
【0047】
(2−2)
【化10】

【0048】
湿N-(2-ニトロ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステル149.4kg(乾品換算143.1kg、5069モル)、および5%パラジウム−炭素50%湿品5.72kgをメタノール571kgに分散させ、0.5MPaの水素加圧下、15〜25℃で7時間撹拌した。パラジウム−炭素を濾去し、メタノール228kgで洗浄し、濾洗液を減圧下で570Lまで濃縮した。水429Lを40〜50℃で濃縮液に加え、種晶0.05kgを加え0.5時間攪拌した。水286Lを40〜50℃で加え、3.5時間で5℃まで冷却し、0〜5℃で1時間撹拌した。析出した結晶を濾別し、50%メタノール572Lで洗浄し、減圧乾燥してN-(2-アミノ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステル114.07kgを得た(N-(2-ニトロ-5-メトキシフェニル)-N-メチルカルバミン酸tert-ブチルエステルに対する収率:89.2%、5-メトキシ-N-メチル-2-ニトロアニリンに対する収率:85.5%)。
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6)δ:1.31(6.9H, br.s), 1.42(2.1H, br.s), 2.99(3H, s), 3.26(3H, s), 4.40(2H, br.s), 6.54(1H,br.s), 6.62(1H,dd,J=2.3,8.3Hz),6.66(1H,d,J=8.3Hz).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】


[式中、R1はC1-3アルキル基を示し、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、C1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基若しくはフッ素原子を示す]で表される化合物を、塩基(当該塩基は、触媒量の4-ジメチルアミノピリジン及び水素化ナトリウムから選ばれる)の存在下、ジ-tert-ブチルジカーボネイトと反応させることを特徴とする、下記一般式(II)
【化2】


[式中、R1、R2、R3及びR4は前述したものと同意義を示す] で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
下記一般式(III)
【化3】


[式中、R1はC1-3アルキル基を示し、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、C1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基若しくはフッ素原子を示す]で表される化合物の製造方法であって、下記一般式(I)
【化4】


[式中、R1、R2、R3及びR4は前述したものと同意義を示す] で表される化合物のアミノ基を、塩基(当該塩基は、触媒量の4-ジメチルアミノピリジン又は水素化ナトリウムから選ばれる)の存在下、ジ-tert-ブチルジカーボネイトと反応させることにより得られる下記一般式(II)
【化5】


[式中、R1、R2、R3及びR4は前述したものと同意義を示す] で表される化合物を還元することを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、R2、R3及びR4が同一又は異なって、水素原子若しくはC1-3アルコキシ基である製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、塩基が触媒量の4-ジメチルアミノピリジンである製造方法。

【公開番号】特開2012−62262(P2012−62262A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206452(P2010−206452)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】