説明

N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの安定形態

N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド多形形態が、前記化合物を製造するための方法と共に提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性質が改善されたN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの特定の結晶形態に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、WO2005/087754、WO2007/090409、およびWO2009/015667として公開された国際特許出願に開示されている。この化合物は、KCNQファミリーカリウムイオンチャネルの開口薬であり、したがって、これらチャネルの開口に応答する疾患の治療に有用である。
【0003】
70を超えるヒト遺伝子がカリウムイオンチャネルをコードし、KCNQファミリーは、5つのメンバー(KCNQ1〜5)を含むカリウムイオンチャネルの特定のファミリーである。中枢神経系(CNS)におけるこれらの広範に及ぶ発現に基づけば、このファミリーは、薬物開発の興味深い標的である。事実、KCNQ2およびKCNQ3チャネルにおける変異は、良性家族性新生児痙攣として知られる癲癇の遺伝性形態の原因のようであることが示されている。KCNQ2およびKCNQ3チャネル開口薬である化合物レチガビンも、臨床試験で発作の頻度を首尾良く低減させることが報告されている[Neurol.、68、1197〜1204、2007]。
【0004】
経口剤形、特に錠剤は、投与の容易さおよび結果的に得られるより良好な服薬順守のために、患者および医師にとってしばしば好ましい投与形態である。錠剤の調製では、活性成分が結晶であることが一般に好ましい。結晶形態で存在する化合物は、複数の形態で存在してもよく、すなわち多形であってもよい。多形形態は、薬物としてのその適用可能性に著しい影響を及ぼす明確な性質を有していてもよい。特に多形形態は、異なる安定性、溶解度、または溶解速度、すなわち薬物開発において最適化する必要がある性質を示してもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、改善された性質を有するN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの多形に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、結晶形態にあるN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの遊離塩基の特定の多形が、優れた安定性および/または溶解速度を有することを見出した。
【0007】
したがって、一実施形態において、本発明は、XRPD反射が10.36、12.67、28.64、および29.89(°2θ)の結晶形態にある、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの遊離塩基に関する。
【0008】
一実施形態において、本発明は、XRPD反射が8.68、18.09、22.60、および30.62(°2θ)の結晶形態にある、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの遊離塩基に関する。
【0009】
一実施形態において、本発明は、XRPD反射が8.63、22.26、23.40、および30.49(°2θ)の結晶形態にある、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの遊離塩基に関する。
【0010】
一実施形態において、本発明は、本発明の多形を含む医薬品組成物に関する。
【0011】
一実施形態において、本発明は、薬剤として使用される本発明の多形に関する。
【0012】
一実施形態において、本発明は、発作性障害、統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患を治癒させるための、本発明の多形に関する。
【0013】
一実施形態において、本発明は、治療で使用される本発明の多形に関する。
【0014】
一実施形態において、本発明は、その必要がある患者に対して本発明の多形を投与するステップを含む、KCNQファミリーカリウムイオンチャネルの開口から利益を得ることになる、疾患を治療するための方法に関する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、KCNQファミリーカリウムイオンチャネルの開口から利益を得ることになる、疾患の治療に使用される本発明の多形に関する。
【0016】
一実施形態において、本発明は、KCNQファミリーカリウムイオンチャネルの開口から利益を得ることになる、疾患を治療するための薬剤の製造での本発明の多形の使用に関する。
【0017】
一実施形態において、本発明は、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを製造するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドのα型のX線粉末回折図である。
【図2】N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドのβ型のX線粉末回折図である。
【図3】N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドのγ型のX線粉末回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの遊離塩基の多形形態に関し、その分子構造は下記の通りである。
【0020】
【化1】

【0021】
これら多形形態のそれぞれを、本発明の多形と呼ぶ。
【0022】
一実施形態において、本発明は、本明細書でα型と示される多形形態の結晶N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドに関し、10.36、12.67、28.64、および29.89(2°θ)でX線粉末回折(XRPD)反射を示す。α型のXRDPを図1に示す。実施例に示されるように、α型は、最も低い溶解度(本発明の多形の中で)を有し、その観察結果から、α型が最も安定な形態であると結論付けることができる。
【0023】
一実施形態において、本発明は、8.68、18.09、22.60、および30.62(2°θ)でXRPD反射を示す、本明細書でβ型と示される多形形態の結晶N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドに関する。β型のXRDPを図2に示す。実施例に示されるように、β型は、α型よりも高い固有の溶解速度を有する。したがってβ型は、α型よりも素早く胃腸管内の溶液中に進入し、したがってより速い作用の発現が生じる可能性があることが予測される。
【0024】
一実施形態において、本発明は、8.63、22.26、23.40、および30.49(2°θ)でXRPD反射を示す、本明細書でγ型と示される多形形態の結晶N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドに関する。γ型のXRDPを図3に示す。実施例に示されるように、γ型は、より速い固有の溶解速度によって特徴付けられ、したがってα型およびβ型よりも素早く胃腸管内の溶液中に進入し、したがってより速い作用の発現が生じる可能性があると予測される。
【0025】
N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、WO2005/087754に開示されるように合成してもよく、本発明の多形は、実施例に開示されるように調製してもよい。
【0026】
あるいは、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、4−ブロモ−2,6−ジメチル−アニリンなどの4−ハロゲン−2,6−ジメチル−アニリンを、好ましくはNaCOなどの塩基の存在下、溶媒中で3,3−ジメチル−ブチリルクロライドと反応させることにより、N−(4−ブロモ−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドまたはこれに対応する4−ハロゲン化合物を得る方法によって製造してもよい。
【0027】
したがって一実施形態において、本発明は、4−ハロゲン−2,6−ジメチル−アニリンと3,3−ジメチル−ブチリルクロライドとを塩基の存在下で反応させるステップを含む、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを製造するための方法に関する。
【0028】
一実施形態では、4−ブロモ−2,6−ジメチル−アニリン 1当量と、1〜2当量、例えば1.5当量のNaCOとを、テトラヒドロフラン(THF)中で撹拌しながらかつ窒素雰囲気中で混合する。1〜2時間後、1〜1.5当量、例えば1.1当量の3,3−ジメチル−ブチリルクロライドを添加し、所望の変換度が実現されるまで撹拌し続ける。得られた化合物は、相抽出および再結晶によって後処理してもよい。その後、この化合物(または対応する4−ハロゲン化合物)とモルホリンとを、パラジウム触媒および塩基の存在下で反応させることにより、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを得る。
【0029】
したがって一実施形態において、本発明は、N−(4−ハロゲン−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド(4−ブロモ化合物など)とモルホリンとを、パラジウム触媒および塩基の存在下で反応させるステップを含む、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを製造するための方法に関する。
【0030】
パラジウム触媒は、パラジウム源およびホスフィンリガンドからなる。有用なパラジウム源には、例えば0およびIIなどの異なる酸化状態にあるパラジウムが含まれる。本発明の方法で使用してもよいパラジウム源の例は、Pd(dba)、Pd(dba)、およびPd(OAc)である。dbaはジベンジリデンアセトンを示し、OAcはアセテートを示す。Pd(dba)を特に挙げてもよい。パラジウム源は、典型的には、0.1〜10モル%の量で、例えば0.1〜1モル%の量で用いられる。本出願の全体を通し、モル%は、限定された反応物に対して計算される。
【0031】
単座および2座の両方を含めた数多くのホスフィンリガンドが公知である。有用なホスフィンリガンドには、2−(2−ジシクロヘキシルホスファニルフェニル)−N,N−ジメチルアニリン(DavePhos)、ラセミ2,2’−ビス−ジフェニルホスファニル−[1,1’]ビナフタレニル(rac−BINAP)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(DPPF)、ビス−(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル(DPEphos)、トリ−t−ブチルホスフィン(Fu塩(Fu’s salt))、ビフェニル−2−イル−ジ−t−ブチル−ホスフィン、ビフェニル−2−イル−ジシクロヘキシル−ホスフィン、(2’−ジシクロヘキシルホスファニル−ビフェニル−2−イル)−ジメチル−アミン、[2’−(ジ−t−ブチル−ホスファニル)−ビフェニル−2−イル]−ジメチル−アミン、およびジシクロヘキシル−(2’,4’,6’−トリ−プロピル−ビフェニル−2−イル)−ホスファンが含まれる。さらに、例えば1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピル−フェニル)−3H−イミダゾール−1−イウムなどのカルベンリガンド;塩化物を、ホスフィンリガンドの代わりに使用してもよい。一実施形態において、ホスフィンリガンドはDavePhosである。ホスフィンリガンドは、典型的には0.1〜10モル%の量で、例えば0.1〜1モル%の量で添加される。
【0032】
塩基は、pHを増大させるために反応混合物に添加される。特に、NaO(t−Bu)、KO(t−Bu)、およびCsCOから選択された塩基が有用である。1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)および1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などの有機塩基も同様に利用可能である。NaO(t−Bu)およびKO(t−Bu)を特に挙げることができる。典型的には、塩基は、1〜5当量あたりの量で、例えば1〜3当量の量で添加される。
【0033】
一実施形態において、0.1〜0.5モル%、例えば0.25モル%のPd(dba)、および0.1〜1モル%、例えば0.5モル%のDavePhos、1当量のN−(4−ブロモ−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアアミド、および1〜2当量、例えば1.6当量のNa(Ot−Bu)を、ジメトキシエタン(DME)などの溶媒と混合し、その後、モルホリンを添加し、所望の変換度が実現されるまで反応を進行させる。最終生成物は、相抽出および再結晶を使用して後処理してもよく、得られた最終多形形態は、使用した溶媒に応じて変化してもよい。実施例に示されるように、水からの再結晶は、α型をもたらすことになる。
【0034】
上記にて論じたように、KCNQカリウムイオンチャネル開口薬は発作性障害の治療に有用であることが示されており、このような理由で本発明の多形は、急性発作、痙攣、癲癇重積、および癲癇、例えば癲癇症候群、および癲癇性発作などの治療に役立てることができる。
【0035】
実施例に示されるように、いくつかの関連ある前臨床モデルは、本発明の多形を精神および気分疾患または障害の治療に役立てることができることを示す。
【0036】
精神疾患には統合失調症が含まれる。統合失調症の症候群は、4つの広範なカテゴリー:陽性、陰性、認知性、および情動性、例えばうつ症状などに包含される。陽性症状は、幻覚、妄想、思考障害、言語およびコミュニケーションの歪曲または誇張、混乱した会話、混乱した行動、および激越の1種または複数など、正常な行動が「過剰」になることにより明らかにされるものである。陰性症状は、情動鈍麻、失語症、非社交性、快感消失症、意欲消失、引きこもり(emotional withdrawal)、抽象思考障害、自発性の欠如、枠にはまった考え、アロギー、および注意欠陥の1種または複数など、正常な行動の欠如を患者が示すものである。認知性症状は、持続した注意の欠如、実行機能および記憶の欠陥の1種または複数など、統合失調症での認知障害に関する。統合失調症の情動性症状には、全体的な抑うつ気分、快感消失症状、睡眠障害、精神運動性激越または遅滞、性機能不全、体重減少、集中困難、妄想観念、エネルギーの低下、無気力感、死について繰り返し考えること、または自殺観念化などのうつ症状を含めてもよい。統合失調症でのうつ症状は、概して不十分な治療結果に関連するように見え、推定される有病率が25〜60%と比較的頻度が高い(Montgomeryおよびvan Zwieten−Boot、Eur Neuropsychopharmacol.、2007、17、70〜77)。
【0037】
統合失調症は、臨床像を基に細分することができる。妄想性サブタイプの統合失調症は、認知機能および情動の相対的な保存という状況での突出した妄想または幻聴の存在によって特徴付けられ、それに対して混乱した会話および行動、平坦なまたは不適切な情動は、分裂性サブタイプの統合失調症の本質的な特徴である。緊張性サブタイプの統合失調症の本質的な特徴は、運動の不動(motoric immobility)ならびに過剰な運動活動の両方に関与する可能性がある著しい精神運動障害である。最後に、残遺性サブタイプの統合失調症は、突出した陽性症状の欠如によって特徴付けられる。
【0038】
気分障害は、気分の乱れが主な特徴である障害を含む。従って、両方のうつ病性障害、例えば大うつ病性障害、気分変調性障害、他に特定されないうつ病性障害、小うつ病、および短期反復型うつ病性気分障害、ならびに双極性スペクトラム障害、例えば双極性I型障害、双極性II型障害、および循環気質性障害などは、気分障害として分類される。大うつ病性障害は、一般的な集団においてかなりの罹患率を有する慢性再発性疾患である。疾患の顕著な特徴は、抑うつ気分である。臨床像はさらに、快感消失症、睡眠障害、精神運動激越または遅滞、性機能不全、体重減少、集中困難、および妄想観念によって特徴付けられる。しかし、うつ病エピソードの最も深刻な合併症は、自殺しようとする試みにつながる自殺観念化の合併症である(DSM IV、American Psychiatric Association、Washington D.C. 1994)。大うつ病性障害の他に、気分変調性障害、他に特定されないうつ病性障害、小うつ病、および反復性短期うつ病性障害などのその他の障害が、抑うつ気分を特徴とする(DSM IV、American Psychiatric Association、Washington D.C. 1994)。気分変調性障害は、重症度、慢性度、および持続性に基づいて、大うつ病性障害と区別される。気分変調性障害は、何年にもわたり存在してきた慢性の、それほど重症ではないうつ症状により特徴付けられる。「他に特定されないうつ病性障害」のカテゴリーには、大うつ病性障害または気分変調性障害のような他のうつ病性障害の基準を満たさない、小うつ病性障害および反復性短期うつ病性障害のような抑うつの特徴を有する障害が含まれる。小うつ病の本質的な特徴は、大うつ病性障害で発現したものとその持続時間が同一であるが症状がより少なくかつ機能障害がより少ない、1つまたは複数のうつ症状期間である。反復性短期うつ病は、大うつ病性障害で発現したものと同一の数および重症度であるが持続期間がより短いうつ症状の、反復性短期エピソードにより特徴付けられる。
【0039】
以前は躁うつ病と呼ばれた双極性スペクトラム障害は、うつ症状が、少なくとも1つの躁病、軽躁病、または混合型のエピソードと組み合わされた気分障害である。躁病エピソードは、異常にかつ持続的に高揚し、開放的になり、または過敏になった気分の明確な期間により特徴付けられる。混合型エピソードは、躁および大うつ病エピソードの両方の基準が満たされた、少なくとも1週間続く期間によって特徴付けられる。躁病エピソードと同様に、軽躁病エピソードは、その間に異常にかつ持続的に高揚し、開放的になり、または過敏になった気分が存在する、明確な期間によって特徴付けられる。しかし躁病エピソードとは対照的に、軽躁病エピソードは、社会的または職業的機能で著しい機能障害を引き起こすほど、または入院を必要とするほどには重症でなく、精神病的な特徴はない。双極性うつ病エピソードの症状は、大うつ病エピソードを特徴付けるものと異ならない。これは、多くの双極性患者が大うつ病に罹患していると最初に診断される理由でもある。上述のように、双極性の診断を引き起こすのは、大うつ病の診断とはまったく異なる躁病、混合型、または軽躁病エピソードの出現である。
【0040】
双極性スペクトラム障害は、双極性I型障害、双極性II型障害、循環気質性障害、および他に特定されない双極性障害に細分することができる。双極性I型障害は、1つまたは複数の躁病または混合型エピソードの出現によって特徴付けられ、しばしば、個々に1つまたは複数の大うつ病エピソードも有していた。双極性II型障害は、少なくとも1つの軽躁病エピソードを伴う1つまたは複数の大うつ病エピソードの出現によって特徴付けられる。双極性I型およびII型障害の進行性により、患者は治療されない場合、新たなエピソードごとに症状の再発の危険性の増大を経験すると共に、その後のエピソードの持続期間および重症度の増大の危険性が増すことを経験する。このため、双極性I型または双極性II型障害の患者は共に、最終的には急速交代(rapid cycling)患者として分類される可能性があり、患者は年に少なくとも4つのエピソードを経験する。循環気質性障害は、双極性スペクトラム障害のサブグループであり、気分障害は、多数の軽躁病期間およびうつ症状期間を含む慢性の変動気分障害によって特徴付けられる。他に特定されない双極性障害は、上述の任意の特定の双極性障害に関する基準を満たさない、双極性の特徴を有する障害のカテゴリーを指す。双極性障害であると診断された患者は、一般集団よりも自殺の危険性が15倍高いと推定されるので、双極性スペクトラム障害は生命を脅かす状態である(HarrisおよびBarraclough、1997、British Journal of Psychiatry、170:205〜228)。現在、双極性スペクトラム障害は、気分安定剤(主にリチウムまたは抗てんかん薬)で双極性患者を維持し、患者が躁病またはうつ病エピソードに逆戻りしたときにそれぞれ抗躁薬(リチウムまたは抗精神病薬)または抗うつ薬(3環系抗うつ薬または選択的セロトニン再取込み阻害剤)を添加することによって、治療される(LiebermannおよびGoodwin、Curr.Psychiatry Rep. 2004、6:459〜65)。従って、ただ1種の治療薬でこれら障害の3つの重大な要素全てを効果的に治療する必要性を満足させるために、双極性スペクトラム障害に対する新規な治療上の処置を開発することが望まれており:そのような新規な薬剤は、好ましくは、迅速な作用の発現により躁症状を軽減すべきであり(抗躁病活性)、迅速な作用の発現によりうつ病症状を軽減すべきであり(抗うつ活性)、躁病およびうつ病症状の再発を防止すべきである(気分安定化活性)。
【0041】
したがって一実施形態において、本発明は、発作性障害、精神病性障害、例えば統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患を治療するための方法であって、その必要がある患者に、本発明の多形の有効量を投与するステップを含む方法に関する。
【0042】
一実施形態において、上述の疾患のいずれかが治療される患者は、その疾患があると最初に診断されている。
【0043】
本発明の多形の「治療上有効な量」は、前記化合物の投与を含む治療的介入で、所与の疾患およびその合併症の臨床症状を治癒させ、軽減し、または部分的に抑止するのに十分な量を指す。これを実現するのに適切な量を、「治療上有効な量」と定義する。各目的での有効量は、疾患または外傷の重症度、ならびに対象の体重および全身状態に依存することになる。適切な投薬量の決定は、通常の実験を使用して、その全てが当業者の範囲内にある、値の行列を構成しその行列の種々の点で試験をすることにより、実現してもよいことが理解されよう。
【0044】
本文脈において、「疾患」、「障害」、および「病気」という用語は、同義語として使用される。
【0045】
本明細書で使用する「治療」および「治療する」という用語は、疾患または障害などの状態を根治するための、患者の管理およびケアを意味する。この用語は、症状もしくは合併症を軽減するための、疾患、障害、もしくは状態の進行を遅延させるための、症状および合併症を軽減もしくは緩和するための、かつ/または疾患、障害、もしくは状態を治癒させもしくはなくすための、ならびに状態を予防するための、活性化合物の投与など、患者が罹患している所与の状態に対するあらゆる治療を含むものとし、前述の予防とは、疾患、状態、または障害を根治させることを目的とした患者の管理およびケアと理解すべきであり、症状または合併症の発症を予防する活性化合物の投与を含む。それにも関わらず、予防的(防止的)および治療的(治癒的)な処置は、本発明の2つの個別の態様である。治療がなされる患者は、好ましくは哺乳類であり、特に人間である。
【0046】
典型的には、本発明の治療では、本発明の多形を毎日投与することを含む。この治療には、1日1回の投与、または1日2回の投与、またはさらにより高い頻度での投与を含めてもよい。
【0047】
ある実施形態において、本発明は、前記多形を約1mg/日から250mg/日の間の量、例えば約1mg/日、例えば約2.5mg/日、例えば約5mg/日、例えば約10mg/日、例えば約50mg/日、例えば約100mg/日、または約250mg/日の量で投与する方法に関する。一実施形態において、本発明の多形は、唯一の治療上有効な化合物として投与してもよい。
【0048】
別の実施形態において、本発明の多形は、併用療法の一部として投与してもよく、すなわち本発明の多形は、例えば抗痙攣性または気分安定化活性を有する1種または複数のその他の治療上有効な化合物と組み合わせて投与してもよい。
【0049】
本発明は、医薬品組成物にも関する。本発明の多形は、単独でまたは薬学的に許容される担体もしくは希釈剤と組み合わせて、単回または多回用量として投与してもよい。本発明による医薬品組成物は、薬学的に許容される担体または希釈剤ならびに任意のその他の公知の助剤または添加物と共に、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co.、Easton、PA、1995に開示されているような従来の技法に従い処方してもよい。
【0050】
本発明の医薬品組成物は、経口、直腸、鼻、肺、局所、頬、舌下、経皮、大槽内、腹腔内、膣、または非経口(皮下、筋肉内、くも膜下腔内、静脈内、および皮内を含む。)経路など、任意の適切な経路により投与するために特に処方されてもよく、経口経路が好ましい。好ましい経路は、治療がなされる対象の全身状態および年齢、治療がなされる障害または疾患の性質、および選択された活性成分に依存することになることが理解されよう。しかし本発明の多形は、錠剤など、固体剤形の調製に特に適している。
【0051】
次いで本発明の多形と、薬学的に許容される担体とを組み合わせることによって形成された医薬品組成物は、開示された投与経路に適した様々な剤形で容易に投与される。組成物は、薬学の分野で公知の方法を用いて、単位剤形で都合よく存在させてもよい。
【0052】
経口投与用の医薬品組成物は、固体でも液体でもよい。経口投与用の固体剤形には、例えばカプセル、錠剤、糖衣錠、丸薬、ロゼンジ、粉末、および顆粒、例えば粉末もしくはペレット形態で硬質ゼラチンカプセルに入れられたもの、または例えばトローチもしくはロゼンジの形態をしたものが含まれる。適切な場合には、経口投与用の医薬品組成物は、腸溶性コーティングなどのコーティングと共に調製されてもよく、またはこの組成物は、当技術分野で周知の方法により、持続または延長放出などの活性成分の制御放出をもたらすように処方することができる。経口投与用の液体剤形には、例えば溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ、およびエリキシルが含まれる。
【0053】
経口投与に適した本発明の組成物は、それぞれが所定量の活性成分を含有しかつ適切な添加物を含んでいてもよい、カプセルや錠剤などの個別の単位として存在させてもよい。さらに、経口的に利用可能な製剤は、粉末もしくは顆粒、水性もしくは非水性の液体中の溶液もしくは懸濁液、または水中油もしくは油中水液体エマルジョンの形態をとっていてもよい。
【0054】
適切な医薬品担体には、不活性固体希釈液または充填剤、滅菌水溶液、および様々な有機溶媒が含まれる。固体担体の例は、ラクトース、白土(terra alba)、スクロース、シクロデキストリン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、セルロースの低級アルキルエーテル、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、およびガムなどである。液体担体の例は、シロップ、落花生油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン、および水である。
【0055】
担体または希釈剤は、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリルなどの当技術分野で公知の任意の持続放出材料を、単独でまたはワックスと混合して含んでいてもよい。
【0056】
着色剤、香料、保存剤などの目的で通常使用される任意の助剤または添加剤は、これらが活性成分に対して相溶性があることを前提に使用してもよい。
【0057】
固体担体の量は、様々でよいが、通常は約25mgから約1gになる。
【0058】
錠剤は、活性成分と通常の助剤または希釈剤とを混合し、その後、混合物を従来の錠剤成形機で圧縮することによって調製してもよい。
【0059】
製剤は、当業者に公知の方法によって、単位剤形で都合よく存在させてもよい。1日に1回または複数回、例えば1日に1から3回経口投与するのに典型的な単位剤形は、0.01から約1000mg、例えば約0.01から100mg、好ましくは約0.05から約500mg、より好ましくは約0.5mgから約200mgを含有していてもよい。
【0060】
非経口投与、例えば静脈内、くも膜下腔内、筋肉内、および同様の投与経路の場合、典型的な用量は、経口投与で用いられた用量の約半分程度である。
【0061】
一実施形態において、本発明は、発作性障害、統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患の治療に使用される、本発明の多形に関する。
【0062】
一実施形態において、本発明は、発作性障害、統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患を治療する薬剤を製造するための、本発明の多形の使用に関する。
【0063】
本明細書で引用される刊行物、特許出願、および特許を含めた全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれ、また本明細書の他の部分にある任意の個別に提供された特定文書の組込みとは無関係に、各参考文献があたかも参照により組み込まれるものと個々に特別に示されるかのように、かつその全体が本明細書に記述されるかのように(法律により承認された最大限の範囲まで)、同程度まで本明細書に組み込まれる。
【0064】
本発明について記述する文脈での「a」および「an」および「the」および同様の単語の使用は、他に本明細書で指示しない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を包含すると解釈すべきである。例えば「化合物」という文言は、他に指示しない限り、本発明のまたは特に記述された態様の様々な「化合物」を指すと理解すべきである。
【0065】
他に指示しない限り、本明細書に示される全ての正確な値は、対応する近似値の代表例である(例えば、特定の因子または測定に関して提供された全ての正確な例示的な値は、適切な場合には「約」により修飾される、対応する近似測定値も提供すると見なすことができる)。
【0066】
1種または複数の要素に関連して「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、または「含有する(containing)」などの用語を使用する、任意の態様または本発明の態様に関する本明細書での記述は、他に文脈によって示されない限りまたは明らかに矛盾しない限り、その特定の1種または複数の要素「からなる(consists of)」、「から本質的になる(consists essentially of)」、または「を実質的に含んだ(substantially comprises)」類似する態様または本発明の態様を支持するものとする(例えば、特定の要素を含むとして本明細書に記述される組成物は、他に文脈によって示されない限りまたは明らかに矛盾しない限り、その要素からなる組成物についても記述していると理解されるべきである)。
【実施例】
【0067】
融点を、5°/分で較正したTA−Instruments DSC−Q1000機器を使用して、示差走査熱量測定(DSC)により測定して、開始時の値としての融点を得た。サンプル約2mgを、緩く蓋をした皿の中で、窒素流中で5°/分で加熱した。
【0068】
X線粉末回折(XRPD)を、PANalytical X’Pert PRO X線回折計で、CuKα1放射線を使用して測定した。サンプルを、X’celerator検出器を使用して、2θレンジ5〜40°の反射モードで測定した。全ての値±0.1°。
【実施例1】
【0069】
N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド、α型
N−(4−ブロモ−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの合成
【0070】
【化2】

【0071】
300g(1.5モル)の4−ブロモ−2,6−ジメチルアニリンと239g(2.25モル、1.5当量)の炭酸ナトリウムを1.25Lのテトラヒドロフランに溶かした溶液を、窒素雰囲気中、室温で撹拌した。1時間後、230mL(1.65モル、1.1当量)の3,3−ジメチルブチリルクロライドを、温度を30℃よりも低く保ちながら2時間にわたって添加し、次いでこの混合物を室温で2時間撹拌した。2.1Lのテトラヒドロフランおよび3.6Lの水を、透明な相分離を得るために添加した。水相を2.1Lのテトラヒドロフランで抽出し、合わせた有機相を1.5Lの0.5M NaCO水溶液で洗浄した。有機相からの溶媒を留去し、2.1Lのヘプタンを添加することにより、固体が得られた。懸濁液を加温還流し、室温まで冷ました。固体を濾別し、300mLのヘプタンで洗浄した。
【0072】
N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの合成
【0073】
【化3】

【0074】
1.44g(2.5ミリモル、0.0025当量)のビス−ジベンジリデンアセトン−パラジウムおよび1.97g(5.0ミリモル、0.005当量)のDavePhos、298g(1.0モル)のN−(4−ブロモ−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドおよび154g(1.6モル、1.6当量)のナトリウム−tert−ブトキシドを、窒素が充填された3つ口10L丸底フラスコに添加した。2.0LのDMEを添加した。131mL(1.5モル、1.5当量)のモルホリンを添加し、反応混合物を2〜3時間加温還流した。3.0Lの水を添加し、得られた懸濁液を一晩撹拌した。固体を濾別し、1.0Lの水で洗浄した。次いで固体を、40gの木炭と共に、3Lの1M塩酸水溶液中に還流下で溶解した。還流下で1.5時間後、反応を、濾過助剤に通して加温状態でブランク濾過し、フィルタを1.0Lの温水で洗浄した。水相を1.0Lの酢酸エチルで洗浄し、次いで1.0Lのトルエンで洗浄した。相分離後、水相を、690gの27.7%水酸化ナトリウム水溶液に激しく撹拌しながら添加することにより(pH12から13)、沈殿が生じた。得られた固体を濾別し、2.0Lの水で洗浄した。固体を40℃の真空炉内で72時間乾燥することにより、表題の化合物が得られた(HPLC純度:99.9%(area)、XRPD回折図:α−多形)。
【実施例2】
【0075】
N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド、β型
β型は、10℃/分の加熱速度でα型を170℃に加熱することによって得られた。
【実施例3】
【0076】
N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド、γ型
γ型は、1gのN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを、70℃で3mlの酢酸に溶解することにより得られた。6mlの水(70℃)をゆっくり添加することにより、γ型が沈殿する。
【0077】
下記の表は、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド遊離塩基のα、β、およびγ型の性質をまとめたものである。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【実施例4】
【0080】
電気生理学、ラット
ラットの腹側被蓋野(VTA)、すなわち中脳辺縁系における自発的に活性なドーパミン作動性ニューロンの数の抑制は、化合物の抗精神病性能を説明できることが報告されている(ChiodoおよびBunney 1983、J.Neurosci.、5、2539〜2544)。中脳辺縁系では、臨床的に使用される神経遮断薬の全てが、ドーパミン作動性ニューロンの発火頻度を最初に増加させる(Tungら、1991、J.Neural Transm.Gen Sect.、84(1〜2)、53〜64)。慢性投与後、そのような神経遮断薬は最終的に(治療の3〜4週後に)発火頻度を治療前よりも低いレベルにまで減少させる(Skarsfeldt 1992、Synapse、10、25〜33;White and Wang 1983、Science、221、1054〜1057)。脱分極遮断により媒介されると考えられるドーパミン作動性ニューロンに対するこの抑制作用は、神経遮断薬の抗精神病作用に対して治療的に有意であることが考えられる(GraceおよびBunney 1986、J.Pharmacol.Exp.Ther. 238、1092〜1100)。推論によれば、中脳辺縁系ドーパミン作動性ニューロンの自発的発火頻度の急激な減少を引き起こす化合物は、早発性抗精神病潜在力を有することが予測できる。げっ歯類のVTAにおけるDAニューロン上にKCNQサブユニットが存在することは、文書に十分示されているが、その機能についてはわかっていない(Saganichら、2001、J.Neurosci. 21(13)4609〜4624;Cooperら、2001、J.Neurosci.、21(24)9529〜9540)。その結果、本発明のKCNQ開口薬がVTAにおけるDAニューロンの自発的活性を強力に抑制できるか否かを、in vivoで調査した。
【0081】
対象
270〜340gの体重のオスのWisterラット(Harlan、オランダ)を使用した。動物を、通常の屋内温度(21±2℃)および湿度(55±5%)の制御条件下、12時間の明/暗サイクル下に収容し、飼料および水道水を自由に摂取させる状態にした。
【0082】
実験手順
ラットに、抱水クロラールの腹腔内注射(400mg/kg)で麻酔をした。次いで補足的な麻酔注射(100mg/kg)および薬物投与のために、大腿静脈カテーテルを挿入した。次いで動物を定位固定フレームに載せ、頭蓋骨を露出させ、腹側被蓋野の上方にドリルで穴を開けた(0.5×0.5cm)。細胞外単一細胞記録を、ガラス毛管から引き出されかつ2%Pontamine Sky Blueを2M NaClに溶かした溶液が充填された電極を使用して行った。電極の先端を顕微鏡の制御下で破断し、135Hzで2.0〜8.0MΩのインピーダンスが得られた。次いで水圧マイクロドライブを使用して電極を脳内に降ろすが、このとき下記の座標、すなわち:ブレグマの後方5.5〜5.0mm;正中線の側方0.5〜0.9mmを目標とした。細胞外活動電位を増幅し、弁別し、オシロスコープおよびオーディオモニターでモニタした。弁別されたスパイクを収集し、CED 1401インターフェースユニット(Cambridge Electronic Design Ltd.)に接続されたPCをベースにしたシステム上で、Spike 2ソフトウェア(Cambridge Electronic Design Ltd.、Cambridge、UK)を用いて解析した。推定されるドーパミン作動性ニューロンは、典型的には、脳表面の下方7.0〜8.5mmで見出され、(1)ゆっくりとした不規則な発火パターン(0.5〜10Hz)と、(2)主な正の成分、負の成分、およびその後の軽微な正の成分を有し全体的な持続時間が>2.5ミリ秒である3相活動電位とによって特徴付けられた(Bunneyら、1973、J.Pharmacol.Exp.Ther.、185、560〜571)。
【0083】
化合物の投与
安定な基本的発火頻度が得られたら、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド(用量範囲0.03〜0.5mg/kg;体積範囲0.12〜1.0ml/kg)の累積用量を静脈内投与し、それぞれの注射は少なくとも3分間ずつ間隔を空けて行った。これらの静脈内投与の用量は、0〜10mg/kgの皮下用量範囲に一致する。
【0084】
統計的解析。薬物の効果は、最初の薬物投与(ベースライン)の直前の2〜3分間から計算した平均発火頻度と、最大薬物効果を発揮する少なくとも60秒から計算した平均発火頻度とを、統計的に比較することによって評価した。データは、1元配置ANOVAおよびその後のStudent−Newman−Keuls posthoc検定によって、統計的に解析した。0.05未満のp値を有意と見なした。
【0085】
結果
表1からわかるように、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル-ブチルアミドは、化合物を急性投与した後に麻酔をかけたラットのVTAにおける自発的DA細胞発火を、有意にかつ用量依存的に抑制した。このデータは、この化合物が早発性抗精神病潜在力を有するという概念を裏付けるものである。
【0086】
【表3】

【実施例5】
【0087】
アンフェタミンチャレンジ(challenge)、ラット
げっ歯類へのD−アンフェタミン投与は、側坐核の中脳辺縁ドーパミン受容体を介して自発運動活性の増加を刺激する。精神刺激薬による精神病は、統合失調症の全ての形態を模していない可能性があるが、この薬剤は、妄想型統合失調症および非統合失調症の精神障害に利用可能であると考えられる(Krystalら、214〜224頁、Neurobiology of Mental Illness ISBN 0−19−511265−2)。アンフェタミンで誘発された自発運動活性の増加の抑制は、抗精神病性能を有する化合物を評価するための信頼性ある方法と考えられる(Ogrenら、European J.Pharmacol. 1984、102、459〜464)。以下の実験では、上記にて評価された中脳辺縁回路での自発的DAニューロンの抑制が、行動的抗精神病性エンドポイントに変換され得るか否かについて試験をした。
【0088】
対象
170〜240gの体重のオスのWisterラット(Taconic、デンマーク)を使用する。動物を、通常の屋内温度(21±2℃)および湿度(55±5%)の制御条件下、12時間の明/暗サイクル下に収容し、飼料および水道水を自由に摂取させる状態にした。8匹のラットを、各用量レベルで使用し、かつ試験化合物に対するビヒクルおよびd−アンフェタミンを受容するパラレルコントロール群(parallel control group)と、ビヒクルの注射のみを受ける群とで使用した。
【0089】
実験手順
実験は、静かな部屋で、通常の光条件で行った。試験物質を、d-アンフェタミンスルフェート(0.5mg/kg)を注射する前、皮下の30分前に注射した。d−アンフェタミンの注射直後、ラットを、4つの赤外線源およびフォトセルを備えたU−フレーム内に置かれた試験ケージ内に、個別に入れた。光線が、ケージの床から上方4cmでケージを横断した。運動性カウントの記録は、隣接する光線の遮断が必要であり、したがってラットの静的動作によって誘発されたカウントが回避される。運動性(カウント)は、2時間にわたり記録した。d−アンフェタミンが存在しない状態でのビヒクル(生理食塩水)処理により誘発される平均運動性を、ベースラインとして使用した。したがってd−アンフェタミンの100パーセントの効果は、全運動性カウントからベースラインを差し引くように計算した。したがって試験化合物を受容した群での応答は、全運動性カウントからベースラインを差し引くことによって決定し、この値は、パラレルアンフェタミンコントロール群で記録された同様の結果のパーセントとして表される。応答パーセントを抑制パーセントに変換し、そこから、log−probit解析を用いてED50値を計算した。パラレルデータ集合では、試験化合物の潜在的な鎮静特性(運動性の抑制)を、自発運動性評価の開始時にd−アンフェタミンスルフェートを投与しないこと以外は本質的に同じ手順を使用して評価した。
【0090】
結果
表2からわかるように、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、ラットのd−アンフェタミン誘発性活動亢進の抑制をもたらした。この効果が発揮される効力は、自発運動活性を抑制する効力よりも強く;すなわちアンフェタミン誘発活動亢進の抑制は、化合物の鎮静特性によって説明できないものであった。むしろ、この有効性は、抗精神病性能のN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを反映している。リチウムは、急性躁病の治療および双極性障害の予防に有効であるとして十分受け入れられており(Goldberg 2000、J.Clin.Psychiatry 61 (Suppl.13)、12〜18)、一方、オランザピンは、統合失調症の治療に有効であることが受け入れられており、リチウムおよびオランザピンは共にこのモデルで有効であったので、これらのデータは、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドが躁病および双極性障害ならびに統合失調症を治療するという可能性を裏付けている。
【0091】
【表4】

【実施例6】
【0092】
微小透析、ラット
精神刺激薬が、中脳辺縁DA投射の終末領域である側坐核での細胞外DAレベルの増加を介して自発運動活性を増大させることが、周知である(Guixら、1992、Neurosci.Lett.、138(1)、137〜140;Moghaddamら、1989、Synapse、4(2)、156〜161)。刺激誘発性自発運動亢進に対する抗精神病薬の拮抗作用は、側坐核において刺激されたDAレベルを抑制する抗精神病薬の作用に関連していることも公知である(Broderickら、2004、Prog.Neuropsychopharmacology and Biol.Psych.、28、157〜171)。したがって側坐核は、精神病の陽性症状からの回復を試験するために、受け入れられる神経解剖学的部位である。その結果、自由に動くラットの側坐核におけるDAのベースラインレベルおよびアンフェタミン誘発レベルに対するN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの効果を調査するために、下記の実験を実施した。実験は、データが、上記にて得られた行動データに関連付けられるように実施した。
【0093】
対象
当初275〜300gの体重であるオスのSprague−Dawleyラット(Charles River)を使用した。動物を、通常の屋内温度(21±2℃)および湿度(55±5%)の制御条件下、12時間の明/暗サイクル下に収容し、飼料および水道水を自由に摂取させる状態にした。
【0094】
手術
動物に、ヒプノーム/ドルミカム(2ml/kgの皮下注射)で麻酔をかけ、脳内ガイドカニューレ(CMA/12)を定位固定的に埋め込んで、側坐核(座標:ブレグマの前方1.7mm、ブレグマの側方−1.2mm、硬膜の腹側8.0mm)に透析プローブの先端を位置決めした。アンカースクリューおよびアクリルセメントを、ガイドカニューレの固定のために利用した。動物の体温を、直腸プローブおよび加熱プレートを用いて37℃に維持した。ラットを2日間かけて手術から回復させ、1匹ずつケージ内に収容した。
【0095】
実験手順
実験の当日、微小透析プローブ(CMA/12、直径0.5mm、長さ2mm)を、意識のある動物のガイドカニューレに挿通した。プローブを、デュアルチャネルスイベルを介して微量注入ポンプに接続し、したがって動物は制限なく動くことが可能になる。濾過したリンガー液(145mM NaCl、3mM KCl、1mM MgCl、1.2mM CaCl)による微小透析プローブの灌流を、1μL/分の一定流量で、実験の継続時間中維持した。安定してから180分後、実験を開始した。透析液を20分ごとに収集した。実験後、ラットを断頭により犠牲にし、その脳を取り出し、凍結し、スライスして、プローブの位置を確認した。
【0096】
化合物の投与
N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド(5mg/kg)またはビヒクル(10%2−ヒドロキシ−プロピル−β−シクロデキストリン、等張性、pH5〜7)を、2.5ml/kgの体積で皮下に投与した。最初の投与の30分後、dex−アンフェタミンスルフェート(0.5mg/kg、皮下注射)を投与した。
【0097】
透析液の解析
透析液中のドーパミン(DA)の濃度を、電気化学的検出によるHPLCを用いて評価した。透析液の構成成分は、逆層液体クロマトグラフィ(ODS 150×3mm、3μM)によって分離した。移動相は、90mM NaHPO、50mMクエン酸ナトリウム、367mg/l ナトリウム1−オクタンスルホン酸、50μM EDTA、および8%アセトニトリル(pH4.0)からなり、その流量は0.5ml/分であった。DAの電気化学的検出は、電量検出器を使用して実現され;電位はE1=−75mVおよびE2=300mV(ガードセル350 mV)に設定した(Coulochem II、ESA)。化合物投与前の3つの透析サンプル中の、DAの透析液レベルを平均し、この値をDAのベースラインレベル(100%)として使用した。
【0098】
統計的解析
化合物投与前の3つの透析サンプル中の、DAの透析液レベルを平均し、DAのベースラインレベル(100%)として使用した。データを、反復測定分散分析および適切な場合にはその後のpost hoc検定(Tukey検定)を使用して解析した。p<0.05を有意と見なした。
【0099】
結果
表3からわかるように、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、自由に動くラットの側坐核でのDAの細胞外レベルの、アンフェタミンにより誘発された増加を有意に(p=0.002)減衰させた。N−(2−6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、この領域での基準細胞外DAレベルに有意な影響を及ぼさなかった(データは示さず)。これらのデータは、上述のラットのアンフェタミン誘発性活性、すなわち抗精神病活性に対するN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの拮抗作用が、側坐核で誘発されたDAレベルの減衰に確かに関連しており、したがってこれら化合物の抗精神病潜在力をさらに高めることを示唆している。DAの誘発レベルが影響を受けるだけではなく、DAの基準レベルが影響を受けるという観察結果は、快感消失症、すなわち臨床的に使用される抗精神病薬で一時的にしかし頻繁に観察される特色を引き起こすリスクが低いことを示唆している。
【0100】
【表5】

【実施例7】
【0101】
アンフェタミン感作、マウス
臨床データは、アンフェタミンで治療したことがない統合失調症および双極性の患者が、アンフェタミンの初回投与に対して過剰応答を示すことを示唆しており、これはこれらの患者がドーパミン作動性感作を示す可能性があることを示唆している(Strakowskiら、1996、Biol.Psychiatry 40、872〜880、Liebermanら、1987、Psychopharmacology、91、415〜433、Strakowskiら、2001、CNS Drugs 15、701〜708)。この現象は、繰り返し行われるアンフェタミンの間欠投与によってアンフェタミンチャレンジに対する行動応答の漸進的増加が生じる場合、げっ歯類で模倣されるが、これは行動感作として公知の現象である(RobinsonおよびBerridge、Brain Research Rev. 1993、18(3):247〜91)。中脳辺縁ドーパミン経路は、この行動感作に関与する主な神経回路と考えられる(RobinsonおよびBecker、Brain Research 1986、396(2):157〜98)。感作された動物での急性アンフェタミンチャレンジに対する行動応答の抑制は、化合物の抗精神病または抗躁病潜在力を評価するためのモデルとして提示される。
【0102】
対象
約35gの体重のオスのNMRIマウス(Charles River)を使用した。動物を、通常の屋内温度(21±2℃)および湿度(55±5%)の制御条件下、12時間の明/暗サイクル下で、1ケージ当たり6匹のマウスを収容し、飼料および水道水を自由に摂取させる状態にした。1つの実験群当たり、12匹のマウスを使用した。
【0103】
実験手順
全てのマウスを、d−アンフェタミンスルフェート(2.5mg/kg、皮下注射)または生理食塩水(10ml/kg)で1日に1回、5日間にわたって前処理した。前処理の最後の日と試験日との間の17日間は、動物は、上述のように標準的なケアを受けた状態でそれぞれのホームケージ内で保持した。実験は、静かな室内で通常の光条件下で行った。マウスを、試験物質またはビヒクルで処理し、30分間試験ケージ内に個々に入れた。次いでマウスに対し、D−アンフェタミンスルフェート(1.25mg/kg、皮下注射)または生理食塩水(5ml/kg)でチャレンジし、試験ケージに内に再び入れて、データ収集を開始した。4cmの間隔を空けて配置された5×8赤外線光源およびフォトセルが、自発運動活性をモニタする。光線は、ケージの底から上方1.8cmを横断した。カウントされた運動性の記録は、隣接する複数の光線の遮断を必要とし、それによってマウスの静的な運動により引き起こされたカウントは回避される。
【0104】
化合物の投与
アンフェタミンで前処理したマウス、およびビヒクルで前処理したマウスに対し、データ収集の30分前にN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド(0〜5mg/kg)またはビヒクル(10% 2−ヒドロキシ−プロピル−β−シクロデキストリン、等張性、pH5〜7、5ml/kg)を用いて皮下処理した。
【0105】
データ解析
30分の試験で得られた全カウント数を、1つの動物群当たりで平均し、以下の手法で薬物効果を計算するのに使用した:アンフェタミン前処理動物でのアンフェタミンチャレンジにより誘発された平均運動性を、感作応答として使用した。ビヒクル前処理動物へのビヒクルチャレンジにより誘発された平均の運動性を、ベースライン運動性応答として使用した。ベースライン値を、感作アンフェタミン応答値から差し引き、100%、すなわち感作反応として設定した。この計算を、各用量群に関して繰り返し、引き続き各用量群に関する値を100%値に対する値として表した。すなわち、試験化合物を受容したアンフェタミン感作群での応答を、このように感作反応からベースライン運動性を差し引いたものとして決定し、感作アンフェタミン応答群で記録された同様の結果のパーセントで表した。応答パーセントを抑制パーセントに変換し、log−probit解析を行い、したがって感作応答の抑制に関するED50が生成された。同様に、ベースライン運動性を抑制するためのED50は、ベースライン運動性応答に対する、ビヒクル前処理、ビヒクルチャレンジ、薬物処理がなされた動物での運動性応答とすることにより計算した。引き続き、治療指数の値を、第1のED50を第2の値で割ることにより計算することができる。
【0106】
結果
表4からわかるように、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド、ならびに抗躁病性化合物リチウム、および抗精神病性オランザピンは全て、感作マウスでのアンフェタミンチャレンジによって誘発された活動亢進を抑制する。これらの化合物がこの効果を発揮する効力は、これらの化合物がベースライン運動性を抑制する効力よりも大きい。すなわち化合物は、沈静効果、すなわち抗精神病性/抗躁病性効果を保有し、すなわちその鎮静効果から切り離すことが可能である(すなわち、治療指数>1)。この切離しは、神経遮断薬に特徴的であり(KapurおよびMamo 2003、Biol.Psych. 27(7)、1081〜1090)、したがってN−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドに関する抗精神病性/抗躁病性の潜在力を裏付けている。
【0107】
【表6】

【実施例8】
【0108】
条件回避、ラット
条件回避応答(CAR)モデルでは、フットショックを回避するために1つの場所から他の場所へ移動することにより、固定時間内で刺激に応答するようラットを訓練する。抗精神病薬は、フットショックの出現により引き出された逃避行動を抑制することなく、ある用量範囲内で回避応答を選択的に抑制する。CARモデルは、抗精神病性の潜在力を有する化合物に対して感受性のある、予測的かつ信頼性ある動物モデルと見なされる。全ての臨床的に有効な抗精神病薬は、CARを抑制することが示されている(WadenbergおよびHicks、Neuroscience and Biobehav Rev 23、851〜862、1999)。
【0109】
対象
調査開始時に150gの体重であるオスのWisterラット(Taconic、デンマーク)を使用した。ラットを対にして収容し、12時間の明/暗サイクル(06:00に点灯)で維持した。動物に自由に摂取させたときの体重の80%でラットを維持するために、動物には1日1回飼料を与えた(約6ペレット/ラット)。水は自由に摂取可能であった。温度(21±1℃)および相対湿度(55±5%)は自動的に制御した。
【0110】
実験手順
条件回避試験は、音を減衰させたチャンバー内にそれぞれが配置された4つの自動化シャトルボックス(ENV−010M、MED−Associates)を使用して実施した。各ボックスを、開口を有する仕切りによって2つの区画に分割した。動物の位置、および一方の区画から他方への横断を、分割壁のそれぞれの側に配置した2つのフォトセルによって検出した。条件刺激(CS)、音、および光を提供した場合、動物は、CSを停止させ(試練を終わらせる)かつ無条件刺激(UCS)の出現を回避するために、シャトルボックスの他方の区画へ横断するのに10秒を有する。ラットが10秒よりも長く同じ区画内に居続けた場合は、逃避が行われるまでまたは最大持続時間10秒まで、0.5mAの急な足への刺激としてUCSを提供する。下記の行動変数を評価した:回避(10秒以内のCSに対する応答);逃避(CS+UCSに対する応答);逃避失敗(応答の失敗);試験間の横断および自発運動活性。各試験セッションの3分前に、ラットをシャトルボックスに慣れさせた。訓練中、各試験セッションは、20秒から30秒の間でランダムに変化する試験間間隔を有する、30の試験からなる。訓練は、ラットが80%以上の回避を示すまで、連続して3日間実施した。各動物に関するベースライン値が生ずる前の日に予備試験を行い、その後に試験を行うが、したがって動物は、それ自体の対照として役割を果たす。7から8匹のラットを各用量レベルで使用した。試験化合物のビヒクルを受容するパラレルコントロール群も含めた。
【0111】
化合物の投与
N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド(2.5および5mg/kg)を、5ml/kgの体積で、試験の30分前に皮下投与した。化合物を、10% 2−ヒドロキシ−プロピル−β−シクロデキストリン(グルコースで等張化、pH5〜7)のビヒクルに溶解した。
【0112】
統計的解析
回避および逃避の失敗行動に対する化合物の効果を、反復測定2元配置分散分析、次いで適切な場合にはそれに続くpost hoc比較(Student−Newman−Keuls法)によって、統計的に評価した。Pレベル<0.05を、統計的に有意と見なした。
【0113】
結果
表5からわかるように、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、回避数を著しく減少させた。試験がなされた用量は、逃避の失敗の発生を全く引き起こさず、これは運動性能に対する効果の欠如に相当した(データは示さず。)。結論として、これらのデータは、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの抗精神病潜在力を裏付けている。
【0114】
【表7】

【実施例9】
【0115】
強制水泳試験、マウス
統合失調症の症状のスペクトラムは、快感消失症、引きこもり、および感情の平坦化を含めた陰性症状の群を含む。そのような症状は、現在入手可能な抗精神病薬では不十分な状態で治療される(Duncanら、2004、Schizoph.Res.、71(2〜3)、239〜248)。強制水泳試験は、抗うつ活性の前臨床評価用の、広くかつ頻繁に使用されているモデルである(Porsoltら、1977、Arch.Int.Pharmacodyn. 229、327〜336)。N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドが抗うつ様または気分高揚効果を有するか否かを試験するために、これらの化合物についてマウスの強制水泳試験で試験をした。
【0116】
対象
23〜25gの体重のオスのNMRIマウス(Charles River)を使用した。マウスは、通常の屋内温度(21±2℃)および湿度(55±5%)の制御条件下、12時間の明/暗サイクルで、1ケージあたり8匹のマウスとして保持し、このとき飼料および水道水を自由に摂取させた。1つの実験群あたり8匹のマウスを使用した。
【0117】
実験手順
マウスを、調整済みの水(25℃)1200mlが入っている2000mlビーカー内に入れ、6分間泳がせた。マウスの動作をビデオ記録し、デジタル化し、デジタル解析システム(Bioobserve)により解析した。試験セッションの最後の3分間に関し、不動のまま費やされる時間を各マウスごとに定量化した。
【0118】
処理
試験の30分前に、マウスを、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドまたはビヒクル(10% 2−OH−プロピル−シクロデキストリン、10ml/kg)で皮下処理した。さらに正の対照として、イミプラミン−HCl(40mg/kg)および生理食塩水対照(10ml/kg)を含めた。
【0119】
解析
不動のまま費やされる時間を、1元配置分散分析を用いて、関連ある対照群に対して実験群全体にわたり統計的に比較した。適切な場合には、post−hoc検定(Student−Newman−Keuls)を用いた。Pレベル<0.05を有意と見なした。
【0120】
結果
表6からわかるように、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドは、マウスの3〜6分の水泳中、不動のまま費やされる時間を著しく減少させた。この有効性は、イミプラミン−HClの関連ある用量の効果よりも劣り、またはその効果と同等であった。対照的に、抗精神病性オランザピンは、この試験において弱い効果しか発揮せず、この結果はこの化合物がヒトの陰性症状に対して不適切な効果を有するという観察結果と一致した。これらのデータは、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドの抗うつ潜在力を裏付け、これは統合失調症患者の陰性症状を治療する潜在力に変換することができる。
【0121】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
10.36、12.67、28.64、および29.98(°2θ)でXRPD反射を有する結晶形態の化合物N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド。
【請求項2】
図1に示されるXRPDパターンを示す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
8.68、18.09、22.60、および30.62(°2θ)でXRPD反射を有する結晶形態の化合物N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド。
【請求項4】
図2に示されるXRPDパターンを示す、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
8.63、22.26、23.40、および30.49(°2θ)でXRPD反射を有する結晶形態の化合物N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミド。
【請求項6】
図3に示されるXRPDパターンを示す、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
治療で使用される、請求項1から6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
薬剤として使用される、請求項1から6のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の化合物を含む、医薬品組成物。
【請求項10】
発作性障害、統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患を治療するための方法であって、その必要がある患者に、請求項1から6のいずれかに記載の化合物の有効量を投与するステップを含む方法。
【請求項11】
発作性障害、統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患を治癒させるための、請求項1から6のいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
発作性障害、統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患の治療に使用される、請求項1から6のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
発作性障害、統合失調症、うつ病性障害、および双極性スペクトラム障害から選択された疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1から6のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項14】
4−ハロゲン−2,6−ジメチル−アニリンと3,3−ジメチル−ブチリルクロライドとを塩基の存在下で反応させるステップを含む、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを製造するための方法。
【請求項15】
前記4−ハロゲン−2,6−ジメチル−アニリンが4−ブロモ−2,6−ジメチル−アニリンである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
N−(4−ハロゲン−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドとモルホリンとをパラジウム触媒および塩基の存在下で反応させるステップを含む、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを製造するための方法。
【請求項17】
前記N−(4−ハロゲン−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドがN−(4−ブロモ−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
4−ブロモ−2,6−ジメチル−アニリンと3,3−ジメチル−ブチリルクロライドとを塩基の存在下で反応させてN−(4−ブロモ−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを得て、前記N−(4−ブロモ−2,6−ジメチル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドをパラジウム触媒および塩基の存在下で、引き続きモルホリンと反応させて、N−(2,6−ジメチル−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−3,3−ジメチル−ブチルアミドを得る、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−526152(P2012−526152A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510116(P2012−510116)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【国際出願番号】PCT/DK2010/050101
【国際公開番号】WO2010/130260
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】