説明

NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体を用いた神経保護法

本発明は、神経保護ペプチドNAPVISPQ(NAP)およびSALLRSIPA(SAL)を模倣するペプチド、ならびに神経細胞機能不全、神経変性障害、認知障害、神経精神障害、および自己免疫疾患の治療における、その使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年8月24日に出願された米国特許仮出願第60/957,790号の恩典を請求する。米国特許仮出願第60/957,790号は、全ての目的のために参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、NAP様およびSAL様のペプチド擬似体、ポリペプチド、またはこれらに由来する低分子、ならびに神経細胞機能不全、神経変性障害、認知障害、神経精神障害、および自己免疫疾患の治療における、その使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
NAPは、活性依存性神経保護タンパク質ADNP(米国特許第6,613,740号(特許文献1); Bassan et al., J. Neurochem. 72: 1283-1293(1999)(非特許文献1))に由来する、8アミノ酸ペプチド(NAPVSIPQ, SEQ ID NO:1)である。ADNP遺伝子内のNAP配列は、げっ歯類およびヒトにおいて同一である(米国特許第6,613,740号(特許文献1); Zamostiano, et al., J. Biol. Chem. 276:708-714(2001)(非特許文献2))。
【0004】
細胞培養において、NAPは、フェムトモル濃度で、多種多様な毒素に対する神経保護活性を有することが示されている(Bassan et al., 1999; Offen et al., Brain Res. 854:257-262(2000)(非特許文献3))。アルツハイマー病の病変の一部をシミュレートする動物モデルでも、NAPは保護活性があった(Bassan et al., 1999; Gozes et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 293:1091-1098(2000)(非特許文献4);米国特許第6,613,740号(特許文献1)も参照されたい)。正常加齢ラットにおいて、NAPを鼻腔内投与するとモーリス水迷路の成績が改善した(Gozes et al., J. Mol. Neurosci. 19:175-178(2002)(非特許文献5))。さらに、NAPは、アポトーシスを減らすことによって虚血損傷後の梗塞容積を減少させ、運動機能障害を軽減し(Leker et al., Stroke 33:1085-1092(2002)(非特許文献6))、炎症を抑えることによってマウスにおける閉鎖性頭部外傷により引き起こされる損傷を軽減した(Beni Adani et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 296:57-63(2001)(非特許文献7); Romano et al., J. Mol Neurosci. 18:37-45(2002)(非特許文献8); Zaltzman et al., NeuroReport 14:481-484(2003)(非特許文献9))。胎児アルコール症候群モデルでは、NAP処置によって、アルコール腹腔内注射後の胎児死亡が阻害された(Spong et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 297:774-779(2001)(非特許文献10);国際公開公報第00/53217号(特許文献2)も参照されたい)。放射標識ペプチドを用いることによって、これらの研究から、鼻腔内処置後(Gozes et al., 2000)、または静脈内注射後(Leker et al., 2002) 、または腹腔内投与後(Spong et al., 2001)に、NAPは血液脳関門を通過し、げっ歯類の脳において検出されることがわかった。
【0005】
SALは、9アミノ酸ペプチド(SALLRSIPA, SEQ ID NO:19)であり、ADNF-9またはADNF-1とも知られ、最も短い活性型ADNFとして特定された(米国特許第6,174,862号(特許文献3)を参照されたい)。SALは、様々な傷害に応答して中枢神経系の神経細胞を生きたままにすることがインビトロアッセイおよびインビボ疾患モデルにおいて示されている(例えば、Gozes et al., 2000; Brenneman et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 285:619-627(1998)(非特許文献11))。D-SALは、安定した、かつ経口利用可能な、全てD-アミノ酸のSAL誘導体であり(Brenneman, et al., J Pharmacol Exp Ther. 309: 1190-7(2004)(非特許文献12))、驚いたことに、試験された系においてSALと似た生物学的活性(効力および効能)を示す。ADNF-1複合体が国際公開公報第03/022226号(特許文献4)において述べられている。
【0006】
NAPおよびSAL等の向神経活性ペプチドは1アミノ酸の保存的置換に対してさえも極めて感受性が高いように見える。例えば、Brenneman et al., J. Pharm. Ex. Ther., 285:619-627(1998)(非特許文献13)およびWilkemeyer et al., Proc. Natl. Acad. Sci, USA, 100:8543-8(2003)(非特許文献14)を参照されたい。従って、NAPおよびSALは模範的な向神経活性ペプチドであるが、これらのコア配列の保存的なペプチドバリエーションであっても治療効果があるか予測されていない。従って、この分野は進歩してきたが、さらなる向神経活性ペプチドが依然として必要とされている。本発明はこの必要および他の必要を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,613,740号
【特許文献2】国際公開公報第00/53217号
【特許文献3】米国特許第6,174,862号
【特許文献4】国際公開公報第03/022226号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bassan et al., J. Neurochem. 72: 1283-1293(1999)
【非特許文献2】Zamostiano, et al., J. Biol. Chem. 276:708-714(2001)
【非特許文献3】Offen et al., Brain Res. 854:257-262(2000)
【非特許文献4】Gozes et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 293:1091-1098(2000)
【非特許文献5】Gozes et al., J. Mol. Neurosci. 19:175-178(2002)
【非特許文献6】Leker et al., Stroke 33:1085-1092(2002)
【非特許文献7】Beni Adani et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 296:57-63(2001)
【非特許文献8】Romano et al., J. Mol Neurosci. 18:37-45(2002)
【非特許文献9】Zaltzman et al., NeuroReport 14:481-484(2003)
【非特許文献10】Spong et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 297:774-779(2001)
【非特許文献11】Brenneman et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 285:619-627(1998)
【非特許文献12】Brenneman, et al., J Pharmacol Exp Ther. 309: 1190-7(2004)
【非特許文献13】Brenneman et al., J. Pharm. Ex. Ther., 285:619-627(1998)
【非特許文献14】Wilkemeyer et al., Proc. Natl. Acad. Sci, USA, 100:8543-8(2003)
【発明の概要】
【0009】
発明の簡単な概要
本発明は、生物学的に活性なNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体、およびこれらのペプチドを作成および使用する方法を提供する。NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体の式は、(R1)a-(R2)-(R3)bである。R1は、1〜約40個のアミノ酸を含むアミノ酸配列であり、各アミノ酸は独立して、天然アミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より選択される。R2は、以下の配列:

の1つである。R3は、1〜約40個の独立して選択されるアミノ酸、例えば、天然アミノ酸またはアミノ酸アナログを含むアミノ酸配列であり、aおよびbは独立して選択され、0または1に等しい。具体的には、この式から配列NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)またはSALLRSIPA(SEQ ID NO:19)は排除される。
【0010】
1つの態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体は、コア配列、すなわち、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)より選択されるR2を含む。
【0011】
別の態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチドは、コアアミノ酸配列、すなわち、R2のみを含む。すなわち、aおよびbは0に等しい。
【0012】
1つの態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチドは、コアアミノ酸配列、すなわち、R2において少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。
【0013】
1つの態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド、すなわち、R2の各アミノ酸は、D-アミノ酸である。
【0014】
別の態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体は少なくとも1つの保護基を含む。
【0015】
1つの態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体はコアアミノ酸配列NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)を含む。さらなる態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体は、コアアミノ酸配列NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)からなる。さらなる態様において、コアアミノ酸配列NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)は、少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。別の態様において、コアアミノ酸配列NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)の各アミノ酸は、D-アミノ酸である。
【0016】
1つの態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体は、コアアミノ酸配列STPTAIPQ(SEQ ID NO:6)を含む。さらなる態様において、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体は、コアアミノ酸配列STPTAIPQ(SEQ ID NO:6)からなる。さらなる態様において、コアアミノ酸配列STPTAIPQ(SEQ ID NO:6)は、少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。別の態様において、コアアミノ酸配列STPTAIPQ(SEQ ID NO:6)の各アミノ酸は、D-アミノ酸である。
【0017】
別の局面において、本発明は、前記の式を有するNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体を含む薬学的組成物を提供する。薬学的組成物はまた、第2の神経保護ポリペプチド、例えば、NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)またはSALLRSIPA(SEQ ID NO: 19)を含む神経保護ポリペプチドを含んでもよい。
【0018】
別の局面において、本発明は、治療的有効量の、前記の式を有するNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体を、治療を必要とする対象に投与し、それにより、対象における、神経変性障害、認知障害、自己免疫障害、末梢神経毒性、運動機能不全、感覚機能不全、不安、うつ病、統合失調症、精神病、胎児アルコール症候群に関する状態、網膜変性を伴う状態、学習および記憶に影響を及ぼす障害、または神経精神障害を治療または予防することによって、対象における、神経変性障害、認知障害、自己免疫障害、末梢神経毒性、運動機能不全、感覚機能不全、不安、うつ病、統合失調症、精神病、胎児アルコール症候群に関する状態、網膜変性を伴う状態、学習および記憶に影響を及ぼす障害、または神経精神障害を治療または予防する方法を提供する。好ましい態様において、投与されるNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体は、以下のアミノ酸配列:NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)の1つを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】200mM ZnCl2と4時間インキュベーションした後の、星状細胞の生存に対するペプチドの効果。グラフは、1ペプチドあたり少なくとも3回の実験を示しており、実験はそれぞれ5通り行った。NATLSIHQ(SEQ ID NO:4): *=p<0.05; **=p<0.005、***=p<0.0005;STPTAIPQ(SEQ ID NO:6):#=p<0.05(負の対照-添加なしと比較)。
【図2】β-アミロイド中毒後の神経膠培養物の生存に対するペプチドの効果。グラフは、1ペプチドあたり3回の実験を示しており、実験はそれぞれ5通り行った。NATLSIHQ(SEQ ID NO:4): *=p<0.05; **=p<0.005;STPTAIPQ(SEQ ID NO:6):#=p<0.05.(負の対照-添加なしと比較)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
「NAP様ペプチド擬似体」および「NAP様ペプチド」という語句は、NAP(NAPVSIPQ)(SEQ ID NO:1)と類似性を有するペプチドおよび擬似体の両方を等しく指している。従って、これらの語句は、以下の式:(R1)a-(R2)-(R3)bを有する配列を含むペプチドおよび擬似体を意味する。式中、R1およびR3は独立して選択され、1〜約40個のアミノ酸を含むアミノ酸配列であり、各アミノ酸は独立して、天然アミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より選択される。R2は、

等のNAP様ペプチドである。式中、Xは任意のアミノ酸を指し、+は保存的アミノ酸を指し、aおよびbは独立して選択され、かつ0または1に等しく、但し、NAP様ペプチド擬似体はNAPでない。この語句はまた、D-アミノ酸アナログ、例えば、わずか1つのアミノ酸がD配置である、または全てのアミノ酸がD配置であるD-アミノ酸アナログも指す。
【0021】
「SAL様ペプチド擬似体」および「SAL様ペプチド」という語句は、SAL(SALLRSIPA)(SEQ ID NO: 19)と類似性を有するペプチドおよび擬似体の両方を等しく指している。従って、これらの語句は、以下の式:(R1)a-(R2)-(R3)bを有する配列を含むペプチドを意味する。式中、R1およびR3は独立して選択され、1〜約40個のアミノ酸を含むアミノ酸配列であり、各アミノ酸は独立して、天然アミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より選択される。R2は、

等のSAL様ペプチドである。式中、Xは任意のアミノ酸を指し、+は保存的アミノ酸を指し、aおよびbは独立して選択され、かつ0または1に等しく、但し、SAL様ペプチド擬似体はSALでない。この語句は、D-アミノ酸アナログ、例えば、わずか1つのアミノ酸がD配置である、または全てのアミノ酸がD配置であるD-アミノ酸アナログも指す。
【0022】
「ADNFポリペプチド」という語句は、NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)(「NAP」と呼ばれる)またはSALLRSIPA(SEQ ID NO: 19)(「SAL」と呼ばれる)からなるアミノ酸配列を含む活性コア部位を有し、かつ、例えば、Hill et al., Brain Res. 603:222-233(1993); Brenneman & Gozes, J. Clin. Invest. 97:2299-2307(1996);およびForsythe & Westbrook, J. Physiol. Lond. 396:515(1988)に記載されているインビトロ皮質神経細胞培養アッセイを用いて測定される、神経栄養活性/神経保護活性を有する、1つまたはそれ以上の活性依存性神経栄養因子(ADNF)を意味する。ADNFポリペプチドは、ADNF Iポリペプチド、ADNF IIIポリペプチド、神経保護作用/神経栄養作用を示す、例えば、インビトロまたはインビボのいずれかにおいて、中枢神経系由来の神経細胞に対して神経保護作用/神経栄養作用を示す、それらの対立遺伝子、多型変異体、アナログ、種間ホモログ、それらの任意のサブ配列(例えば、SALLRSIPA(SEQ ID NO: 19)もしくは NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1))、または脂肪親和性変異体であり得る。「ADNFポリペプチド」は、ADNF IポリペプチドとADNF IIIポリペプチドの混合物をも意味し得る。
【0023】
活性依存性神経保護タンパク質(ADNP)とも呼ばれる、「ADNF IIIポリペプチド」または「ADNF III」という語句は、NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)(「NAP」と呼ばれる)からなるアミノ酸配列を含む活性コア部位を有し、かつ、例えば、Hill et al., Brain Res. 603,222-233(1993); およびGozes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 427-432(1996)に記載のインビトロ皮質神経細胞培養アッセイを用いて測定される、神経栄養活性/神経保護活性を有する、1つまたはそれ以上の活性依存性神経栄養因子(ADNF)を意味する。ADNFポリペプチドは、ADNF IIIポリペプチド、神経保護作用/神経栄養作用を示す、例えば、インビトロまたはインビボのいずれかにおいて、中枢神経系由来の神経細胞に対して神経保護作用/神経栄養作用を示す、対立遺伝子もしくは多型変異体、アナログ、種間ホモログ、または、それらの任意のサブ配列(例えば、NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1))であり得る。ADNF IIIポリペプチドは、約8アミノ酸からの範囲であることができ、例えば、8〜20、8〜50、10〜100、または約1000もしくはそれ以上のアミノ酸を有し得る。
【0024】
全長ヒトADNF IIIは、123,562.8 Da(1000より多いアミノ酸残基)の予想分子量および約6.97の理論pIを有する。上記したように、ADNF IIIポリペプチドは、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:1)(「NAPVSIPQ」または「NAP」とも呼ばれる)からなるアミノ酸配列を含む活性部位を有する。Zamostiano et al., J. Biol. Chem. 276:708-714(2001)およびBassan et al., J. Neurochem. 72:1283-1293(1999)を参照されたい。特に明記しないかぎり、「NAP」は、Asn-Ala-Proからなるアミノ酸配列を有するペプチドではなく、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。ADNF IIIの全長アミノ酸配列および核酸配列は、国際公開公報第98/35042号、国際公開公報第00/27875号、米国特許第6,613,740号および同第6,649,411号中に見出すことができる。ヒト配列のアクセッション番号はNP_852107であり、Zamostiano et al.,前記も参照されたい。
【0025】
「ADNF I」という用語は、約14,000ダルトンの分子量と8.3±0.25のpIを有する、活性依存性神経栄養因子ポリペプチドを意味する。上記したように、ADNF Iポリペプチドは、Ser-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala(SEQ ID NO: 19)(「SALLRSIPA」または「SAL」または「ADNF-9」とも呼ばれる)からなるアミノ酸配列を含む活性部位を有する。Brenneman & Gozes, J. Clin. Invest. 97:2299-2307(1996)、Glazner et al., Anat. Embryol.((Berl). 200:65-71(1999)、Brenneman et al., J. Pharm. Exp. Ther., 285:619-27(1998)、Gozes & Brenneman, J. Mol. Neurosci. 7:235-244(1996)、およびGozes et al., Dev. Brain Res. 99:167-175(1997)を参照されたい。特に明記しない限り、「SAL」は、Ser-Ala-Leuからなるアミノ酸配列を有するペプチドではなく、Ser-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala(SEQ ID NO: 19)からなるアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。ADNF Iの全長アミノ酸配列は、国際公開公報第96/11948号中に見出すことができる。
【0026】
「対象」という用語は、寿命の任意の段階における、任意の哺乳動物、特にヒトを意味する。
【0027】
「接触」という用語は、以下の語句、すなわち:組み合わせて、添加して、混合して、通過させて、ともにインキュベートして、流れさせて等と同義に、本明細書において使用される。さらに、本発明のポリペプチドまたは核酸は、例えば、非経口、経口、局所、鼻、および吸入経路等の任意の従来の方法によって「投与」することができる。いくつかの態様においては、非経口経路および鼻経路または吸入経路が使用される。
【0028】
「生物学的に活性な」という用語は、インビトロまたはインビボで天然の生物学的分子の機能を活性化または阻害するように天然の生物学的分子と反応するペプチド配列を意味する。「生物学的に活性な」という用語は、最も一般的には、インビトロまたはインビボで、中枢神経系に由来する神経細胞に対して神経保護作用/神経栄養作用を示すNAP様ペプチド擬似体を意味するために、本明細書において使用される。従って、本発明は、試験した時に、例えば、神経毒で処理された大脳皮質培養物において試験した時に、NAPと同じまたは類似の活性を有するポリペプチドサブ配列を提供する(Gozes et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 93:427-432(1996)を参照されたい)。ペプチドはまた、少なくとも2〜10%、好ましくは、10%超、NAP-チューブリン結合と競合する能力を確かめるために、本明細書に記載のように試験することもできる。
【0029】
「神経変性障害または認知障害」という語句は、以下の状態:大脳基底核に影響を及ぼす変性状態(ハンチントン舞踏病、ウィルソン病、線条体黒質変性症、大脳皮質基底核神経節変性症)、トゥレット症候群、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、進行性球麻痺、家族性痙性対麻痺、脊髄筋萎縮、ALSおよびその異型、歯状核赤核萎縮、オリーブ橋小脳萎縮、傍腫瘍性小脳変性症、ならびにドーパミン毒性を含む、中枢運動系疾患;感覚神経細胞に影響を及ぼす疾患、例えば、フリードライヒ失調症、糖尿病、末梢ニューロパシー、および網膜神経細胞変性;辺縁系および皮質系の疾患、例えば、脳アミロイドーシス、ピック萎縮、およびレット症候群;アルツハイマー病、パーキンソン病、AIDS関連痴呆、リー病、散在性レヴィー小体疾患、てんかん、多系統萎縮症、ギラン・バレー症候群、リソソーム性蓄積症、例えば、リポフスチン沈着症、ダウン症候群の後期変性段階、アルパース病、CNS変性の結果としてのめまい、ALS、大脳皮質基底核変性症、および進行性核上性麻痺を含む、複数の神経細胞系および/または脳幹が関与する神経変性異常;発達遅滞および学習障害に関連する異常、ダウン症候群、および酸化ストレスにより誘導された神経細胞死;加齢および慢性アルコールまたは薬物乱用と共に生じる異常、例えば、(i)アルコール依存症の場合、青斑、小脳、コリン作用性前脳基底核における神経細胞変性;(ii)加齢の場合、認知障害および運動障害につながる小脳神経細胞および皮質神経細胞の変性;ならびに(iii)慢性アンフェタミン乱用の場合、運動障害につながる大脳基底核神経細胞の変性を含む;局所性外傷、例えば、脳卒中、局所性虚血、血行不全、低酸素性-虚血性脳症、高血糖、低血糖、閉鎖性頭部外傷、および直接外傷に起因する病理学的変化;治療薬および治療のマイナスの副作用として生じた異常(例えば、抗痙攣量のNMDAクラスのグルタミン酸受容体アンタゴニストに応答した帯状回皮質および嗅内皮質神経細胞の変性)を含むが、これに限定されない。
【0030】
「末梢神経毒性」は、様々な技法によって対象において特定および診断することができる。典型的には、これは、運動機能不全、筋消耗、または嗅覚、視覚、もしくは聴覚の変化、または深部腱反射、振動覚、皮膚感覚、歩調および平衡、筋力、起立性血圧の変化、ならびに慢性痛もしくは間欠痛によって測定することができる。ヒトでは、これらの症候は、時として、PNSおよびCNSの両方における毒性作用も示す。最終的には、神経毒性に起因し得る、可能性のある数百もの末梢ニューロパシーがある。PNS活動の範囲を反映して、症候は、感覚機能、運動機能、または自律神経機能が関与することがある。これらは、罹患している神経のタイプおよび症候の発症期間に応じて分類することができる。末梢神経毒性は、化学療法剤(抗癌剤、抗菌剤等)および疾患プロセスによって誘導され得る。(例えば、米国特許出願第11/388,634号を参照されたい)。
【0031】
「網膜変性を伴う状態」は、レーザーによる網膜障害および眼疾患、例えば、緑内障、網膜色素変性症、アッシャー症候群、動脈閉塞または静脈閉塞、糖尿病性網膜症、水晶体後線維増殖または未熟児網膜症(R.L.F./R.O.P.)、網膜分離、格子様変性、および黄斑変性を含むが、これに限定されない。
【0032】
「精神障害」または「精神疾患」または「精神性疾患」または「精神医学的または神経精神医学的な疾患または病気または障害」は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition,(DSM IV)(Benitez-King G. et al., Curr Drug Targets CNS Neurol Disord. 2004 Dec;3(6):515-33. Reviewも参照のこと)に記載のような、気分障害(例えば、大うつ病、躁病、および双極性障害)、精神病性障害(例えば、統合失調症、分裂情動障害、精神分裂病様障害、妄想障害、短期精神病性障害、および共有精神病性障害)、人格障害、不安障害(例えば、強迫性障害および注意欠陥障害)、ならびに他の精神障害、例えば、化学物質関連障害、小児期障害、痴呆、自閉症性障害、適応障害、せん妄、多発脳梗塞性認知症、およびトゥレット障害を意味する。典型的には、かかる障害は複雑な遺伝的成分および/または生化学的成分を有する。
【0033】
「気分障害」は、個人が長期間経験する情調または感情状態の混乱を意味する。気分障害には、大うつ病障害(すなわち、単極性障害)、躁病、不快気分、双極性障害、気分変調、循環気質、および他の多くが含まれる。例えば、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition,(DSM IV)を参照されたい。
【0034】
「大うつ病障害」「大うつ病性障害」または「単極性障害」は、以下の症候:持続性の悲しみ、不安、または「空虚な」気分;絶望感または悲観;罪責感、無価値感、または絶望感;性を含む、かつては楽しんでいた趣味および活動への関心または喜びの消失;気力の低下、疲労、「活力の減少」;集中、記憶、または判断の困難;不眠、早朝覚醒、または寝坊;食欲および/もしくは体重の減少または過食および体重増加;死もしくは自殺の念慮または自殺企図;不穏状態または被刺激性;あるいは治療に応じない持続性の身体症候、例えば、頭痛、消化障害、および慢性疼痛のいずれかを伴う気分障害を意味する。様々なサブタイプのうつ病が、例えば、DSM IVに記載されている。
【0035】
「双極性障害」は、極端な気分の期間が交互に現れることを特徴とする気分障害である。双極性障害をもつ人は、通常、過度に高揚したまたは過敏な気分(躁病)から、悲しみおよび無希望の気分(うつ病)の間を揺れ動き、次いで、元に戻るという気分の循環を経験し、その間には正常な気分の期間がある。双極性障害の診断は、例えば、DSM IVに記載されている。双極性障害には、双極性障害I(躁病と、大うつ病を伴う、または大うつ病を伴わない)および双極性障害II(軽躁病と大うつ病)が含まれる。例えば、DSM IVを参照されたい。
【0036】
「不安」「不安障害」、および「不安関連障害」は、不安、恐怖、または不吉な予感という主観的感覚を特徴とする精神医学的症候群、例えば、パニック障害、全般性不安障害、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、強迫性障害、ならびにストレス障害、例えば、急性ストレス障害および外傷後ストレス障害を意味する。これらの障害の診断基準は当業者に周知である(例えば、Harrison 's Principles of Internal Medicine, pp. 2486-2490(Wilson et al., eds., 12th ed. 1991)およびDSM IVを参照されたい)。
【0037】
「自己免疫障害」は、自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群(抗リン脂質症候群)、全身性紅斑性狼瘡(systemic lupus erytromatosis)、ベーチェット症候群、シェーグレン症候群、慢性関節リウマチ、橋本病/甲状腺機能低下症(hypothyroiditis)、原発性胆汁性肝硬変、混合型結合組織病、慢性活動性肝炎、グレーブス病/甲状腺機能亢進症(hyperthyroiditis)、硬皮症、慢性特発性血小板減少性紫斑病、糖尿病性ニューロパシー、および敗血症ショックを意味する(例えば、Schneider A. et al., J Biol Chem. 279:55833-9(2004)を参照されたい)。
【0038】
「運動機能不全」は、筋消耗、ならびに歩調、平衡、および筋力の変化を含む。「感覚機能不全」は、嗅覚、視覚、もしくは聴覚の変化、または深部腱反射、振動覚、皮膚感覚の変化、または慢性痛もしくは間欠痛によって測定することができる。時として、感覚機能不全は疾患と関連し、例えば、足および下肢の、疼痛もしくはしびれてピリピリする感じ、灼熱感、蟻走感、または穿痛感として体験することができる。ヒトでは、運動機能不全および感覚機能不全は両方とも、化学物質(例えば、化学療法)または疾患状態により引き起こされ得るPNSおよびCNSにおける影響を示している。
【0039】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを意味するように、本明細書において同義に使用される。通常は、ペプチドは短いポリペプチドを意味する。これらの用語は、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基が、対応する天然のアミノ酸のアナログまたは擬似体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0040】
「アミノ酸」という用語は、天然および合成のアミノ酸、ならびに、天然のアミノ酸と類似の様式で機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸擬似体を意味する。天然のアミノ酸は、遺伝子コードによりコードされるアミノ酸、ならびに、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリン等の、後から修飾されたアミノ酸である。本出願の目的において、アミノ酸アナログは、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造を有する化合物、すなわち、水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基と結合している炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを意味する。かかるアナログは、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造を保持する。本出願の目的において、アミノ酸擬似体は、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然のアミノ酸と類似の様式で機能する化合物を意味する。
【0041】
アミノ酸には、国際公開公報第01/12654号に開示されているような、化合物の経口利用能およびその他の薬物と同様の特性を向上させ得る非天然のD-キラル性を有するものも含まれ得る。かかる態様においては、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体の1つまたはそれ以上、および潜在的には全てのアミノ酸がD-キラル性を有する。ペプチドの治療的使用は、D-アミノ酸を用いて、より長い半減期および作用時間を提供することにより、増強させることができる。しかしながら、多くの受容体はL-アミノ酸に対して強力な選択性を示す。しかし、天然のL-ペプチドと同等の活性を有するD-ペプチドの例、例えば、ポア形成抗菌ペプチド、βアミロイドペプチド(毒性の変化無し)、および、CXCR4受容体に対する内在性リガンドが報告されている。これに関して、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体も、D-アミノ酸形態で活性を保持する。
【0042】
アミノ酸は、それらの一般的に知られている3文字表記、または、IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨されている1文字表記のいずれかによって参照することができる。同様に、ヌクレオチドは、それらの一般的に受け入れられている1文字コードによって参照することができる。
【0043】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体は、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、または、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一の配列を意味する。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたはそれ以上の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基によって置換されている配列を作製することにより達成することができる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081(1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608(1985); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98(1994))。遺伝子コードの縮重のため、多数の機能的に同一の核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置において、このコドンは、コードされるポリペプチドを変更することなく、記述される対応するコドンのいずれかに変更することができる。かかる核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書中の全ての核酸配列は、その核酸の全ての可能なサイレント変異をも表す。当業者であれば、核酸中の各コドン(通常、メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および、通常、トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を、機能的に同一の分子を得るように改変できると認識すると考えられる。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレントバリエーションは、記述された各配列中に潜在的に含まれる。
【0044】
アミノ酸配列に関して、当業者であれば、コード配列中の単一のアミノ酸または低いパーセンテージのアミノ酸を変更、付加、または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の配列への個々の置換、欠失、または付加は、この変更が化学的に類似するアミノ酸とのアミノ酸置換をもたらす場合、「保存的に改変された変異体」であると認識すると考えられる。機能的に類似するアミノ酸を示す保存的置換の表は当技術分野において周知である。かかる保存的に改変された変異体は、本発明の多型変異体、種間ホモログ、および対立遺伝子に追加的なものであり、これらを除外するものではない。
【0045】
以下のグループはそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
(1)アラニン(A)、グリシン(G);
(2)セリン(S)、スレオニン(T);
(3)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
(4)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
(5)システイン(C)、メチオニン(M);
(6)アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H);
(7)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、バリン(V);および
(8) フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)(例えば、Creighton, Proteins(1984)を参照されたい)。
【0046】
当業者であれば、本明細書中に示された核酸配列およびポリペプチド配列の多くの保存的バリエーションが、機能的に同一の産物を生じると認識すると考えられる。例えば、遺伝子コードの縮重のため、「サイレント置換」(すなわち、コードされるポリペプチドの変化を生じない核酸配列置換)は、アミノ酸をコードする全ての核酸配列の潜在的特性である。同様に、アミノ酸配列中の1個または数個のアミノ酸の「保存的アミノ酸置換」は、非常に類似した特性を有する異なるアミノ酸と置換され(定義のセクションを参照されたい)、開示されているアミノ酸配列、または、アミノ酸をコードする開示されている核酸配列と非常に類似するものとして容易に同定される。
【0047】
さらに、ある特定の保護基を、本発明によるペプチドに付加することができる。保護基はペプチドのN末端もしくはC末端またはその両方に付加することができる。本明細書で使用する「保護基」という用語は、官能基を非反応性にするが、官能基を元の状態に戻すように除去することもできる化合物を意味する。かかる保護基は当業者に周知であり、「Protective Groups in Organic Synthesis」, 4th edition, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, John Wiley & Sons, New York, 2006に開示される化合物を含む。保護基の例には、Fmoc(9-フルオレニルメチルカルバメート、Boc,ベンジルオキシ-カルボニル(Z)、alloc(アリルオキシカルボニル)、およびリソグラフィー(lithographic)保護基が含まれるが、これに限定されない。
【0048】
「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋な」という用語は、その天然の状態で見いだされた場合に、通常は付随する成分を実質的にまたは本質的に含まない物質を意味する。
【0049】
「十分な量」または「有効量」または「治療的有効量」とは、関心対象の活性を示すか、あるいは、症候の主観的な軽減、または、医師もしくは資格を有するその他の観察者により認識される客観的に識別可能な改善をもたらす、ある特定のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体の量のことである。治療的用途において、本発明のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体は、症候を軽減または除去するために十分な量で患者に投与される。これを達成するために適切な量が「治療的有効量」と定義される。投与量の範囲は、使用されるNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体、投与経路、ならびに特定のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体の効力、ならびに薬学的組成物におけるさらなる治療用化合物の有無によって変動する。
【0050】
発現または活性の「インヒビター」、「アクチベーター」、および「モジュレーター」は、発現または活性に関するインビトロおよびインビボアッセイを使用して同定される、それぞれ、阻害する、活性化する、または調節する分子(例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、ならびに、それらのホモログおよび擬似体)を意味するために使用される。「モジュレーター」という用語には、インヒビターおよびアクチベーターが含まれる。インヒビターは、例えば、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの発現を抑制するか、あるいは、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドに結合して、刺激もしくは酵素活性を部分的にもしくは完全にブロックするか、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを減少させる、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを抑制する、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの活性化を遅らせる、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを不活性化する、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの感受性を低下させる、または本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの活性をダウンレギュレートする薬剤、例えば、アンタゴニストである。アクチベーターは、例えば、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの発現を誘導もしくは活性化するか、または、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドに結合して、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを刺激する、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを増加させる、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを開く、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを活性化する、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを促進する、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの活性化もしくは酵素活性を増強する、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの感受性を増大させる、または本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの活性をアップレギュレートする薬剤、例えば、アゴニストである。モジュレーターには、天然および合成のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、化学小分子等が含まれる。インヒビターおよびアクチベーターを同定するためのアッセイには、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの存在下または非存在下において、推定されるモジュレーター化合物を細胞に適用し、次いで、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性に及ぼす機能的影響を調べる工程が含まれる。潜在的なアクチベーター、インヒビター、またはモジュレーターによって処理された、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドを含むサンプルまたはアッセイを、その影響の程度を調べるために、インヒビター、アクチベーター、またはモジュレーターを含まない対照サンプルと比較する。対照サンプル(モジュレーターによって処理されていない)の相対活性値を100%とする。対照に対する本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性値が約80%、任意で50%または25〜1%である場合に阻害は達成される。対照に対する本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性値が110%、任意で150%、任意で200〜500%、または1000〜3000%以上の場合に活性化は達成される。
【0051】
「試験化合物」もしくは「薬物候補」もしくは「モジュレーター」という用語または本明細書において用いられる文法上の相当語句は、天然または合成の任意の分子、例えば、タンパク質、オリゴペプチド(例えば、約5〜約25アミノ酸長、好ましくは、約10〜20または12〜18アミノ酸長、好ましくは12、15、または18アミノ酸長)、有機低分子、多糖、脂質、脂肪酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド等について述べている。試験化合物は、試験化合物ライブラリー、例えば、十分な範囲の多様性をもたらすコンビナトリアルライブラリーまたはランダム化ライブラリーの形をとってもよい。試験化合物は、任意で、融合パートナー、例えば、標的化化合物、レスキュー(rescue)化合物、二量体化化合物、安定化化合物、アドレス指定可能な(addressable)化合物、および他の機能的部分に連結される。従来法により、阻害活性等のある望ましい特性または活性を有する試験化合物(「リード化合物」と呼ばれる)を特定し、リード化合物の変異体を作り出し、変異体化合物の特性および活性を評価することによって、有用な特性を有する新たな化学的実体が作製される。多くの場合、かかる分析のためにハイスループットスクリーニング(HTS)法が使用される。
【0052】
「有機低分子」は、約50ダルトン超かつ約2500ダルトン未満、約2000ダルトン未満、約100〜約1000ダルトン、または約200〜約500ダルトンの分子量を有する天然または合成の有機分子を意味する。
【0053】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明者らは、以前に、NAP(NAPVSIPQ, SEQ ID NO:1)が、脳チューブリンと相互作用し(Divinski et al., J. Biol. Chem. 279, 28531-28538(2004))、チューブリンの組み立てを刺激して、微小管の組み立てと関連する神経突起成長を増大させることによって、神経細胞およびグリア細胞を保護することを示している(GozesおよびSpivak-Pohis, Curr Alzheimer Res, 3: 197-199(2006))。アフィニティクロマトグラフィーによって、NAPはまた、βIIIチューブリンと特異的に相互作用することも示された(Divinski et al., J. Neurochem, 98, 973-984(2006))。SALも同様に神経を保護することが示されている(例えば、Gozes et al., 2000; Brenneman et al., 1998を参照のこと)。機能を消失させずに、8アミノ酸NAPコア配列および9アミノ酸SALコア配列を改変することはできないと以前は考えられていた。本願は、NAPコア配列およびSALコア配列と配列類似性を有するが、生物学的機能、例えば、神経細胞生存の促進も有するペプチドを始めて証明する。NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体が特定され、本明細書の表1および表2に列挙した。生物学的活性は、NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体の少なくとも2つ:NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)において見出された。これらの化合物は、神経変性疾患または神経変性障害を治療するための治療用分子として使用することができる。
【0054】
II.NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の設計および合成
NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体のコア活性部位を含むポリペプチドおよびペプチドは、例えば、1回につき1個のアミノ酸を活性コア部位のN末端またはC末端に系統的に付加し、結果として生じたペプチドを生物学的活性について、本明細書に記載のようにスクリーニングすることによって改変することができる。さらに、かかるペプチドの中の様々なアミノ酸残基の側鎖によりなされる寄与は、ある特定のアミノ酸、例えば、Alaを用いた系統的なスキャンを介して調査することができる。NAP様ペプチドまたはSAL様ペプチドに由来するポリペプチドも作ることができる。
【0055】
NAP様およびSAL様の配列および特性を有するペプチドは、例えば、公的利用可能なデータベース内に見られる配列を有する公知のタンパク質から得ることができる。例には、NCBI、OMIM、UniProtKB/Swiss-Prot、EMBOSS Pairwise Alignment Algorithms、ClustalW、Tcoffee、BLAST、RADAR、PROSITE、Phylogenetic Tree、およびSelectionが含まれる。
【0056】
NCBI(米国立バイオテクノロジー情報センター,USA)の中には、MEDLINEおよび他の生命科学雑誌から、1950年代までのバイオメディカル論文の1600万超の引用を収録している、米国立医学図書館の一サービスであるPubMedがある。PubMedの中には、全文論文および他の関連情報源へのリンクがある。NCBIはまた、ヒト遺伝子および遺伝障害のカタログであるOMIM(Online Mendelian Inheritance in Man)を開発している。OMIMは、文字情報、参考文献、MEDLINEおよびEntrezシステム内の配列記録へのリンク、ならびにNCBIおよび他の場所にあるさらなる関連情報源へのリンクを収録している。
【0057】
UniProtKB/Swiss-Protは、手作業でアノテートされたタンパク質知識ベースであり、コンピュータによりアノテートされた補足であるUniProtKB/TrEMBLと共に、公的利用可能なタンパク質配列の全てにアクセスする。このデータベースは、3つの別個の基準:他のデータベースとの統合、最小冗長性(minimal redundancy)、および高いアノテーション(high annotation)(例えば、タンパク質の機能、翻訳後修飾、ドメインおよび部位、二次構造、四次構造、タンパク質配列内の欠損に関連する疾患、変異体等)の点で他のタンパク質データベースと異なる。
【0058】
EMBOSSは、「The European Molecular Biology Open Software Suite」である。EMBOSSのペアワイズアラインメントツールは2つの配列を比較するのに用いられる。ClustalWは、DNAまたはタンパク質の汎用多重配列アラインメントプログラムである。これは、多岐にわたる配列の生物学的に意味のある多重配列アラインメントを作成し、選択された配列のベストマッチを計算し、同一性、類似性、および違いが分かるように配列を整列させる。T-coffeeは、ClustalWに似た別の選択肢である。
【0059】
Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)は、配列間の局所類似性の領域を見つける。このプログラムは、ヌクレオチド配列またはタンパク質配列と配列データベースを比較し、マッチの統計的有意性を計算する。BLASTを用いると、配列間の機能的関係および進化的関係を推測し、遺伝子ファミリーのメンバーの特定を助けることができる。
【0060】
PROSITEは、配列内の類似性に基づいてタンパク質を限られた数のファミリーにグループ分けする、タンパク質ファミリーおよびドメインのデータベースである。一般的に、ある特定のファミリーに属するタンパク質またはタンパク質ドメインは機能特性を共有し、共通の祖先に由来している。PROSITEは、現在、1000超のタンパク質ファミリーまたはドメインに特有のパターンおよびプロファイルを収録している。これらのサイン(signature)にはそれぞれ、これらのタンパク質の構造および機能に関する背景情報を提供する文書が付いている。
【0061】
Phylogenetic treeは、SaitouおよびNeiのNJ(近隣結合)法に頼っており、最初に、多重アラインメントからの全配列ペア間の距離(パーセント分岐)を計算し、次いで、NJ法を距離行列に適用する。選択により、1アミノ酸部位での選択力(selective force)を検出することが可能になる。非同義(アミノ酸変化)置換と同義(サイレント)置換の比は、Ka/Ks比として知られ、各アミノ酸部位での正の選択および浄化選択を評価するのに用いられる。
【0062】
当業者であれば、ある特定の核酸配列に変化を加える多くのやり方を認識すると考えられる。かかる周知の方法には、部位特異的変異誘発、縮重オリゴヌクレオチドを用いたPCR増幅、変異原性薬剤または放射線への核酸含有細胞の曝露、望ましいオリゴヌクレオチドの化学合成(例えば、大きな核酸を作製するために連結および/またはクローニングと組み合わせる)、ならびに他の周知の技法(Giliman & Smith, Gene 8:81-97(1979); Roberts et al., Nature 328:731-734(1987)を参照されたい)が含まれる。
【0063】
最も一般的には、ポリペプチド配列は、対応する核酸配列を変え、ポリペプチドを発現させることによって変化する。しかしながら、ポリペプチド配列はまた、任意の望ましいポリペプチドを生成する市販のペプチド合成機を用いて合成により作製されてもよい(Merrifield, Am. Chem. Soc. 85:2149-2154(1963); Stewart & Young, Solid Phase Peptide Synthesis(2nd ed. 1984)を参照されたい)。
【0064】
当業者であれば、本発明の望ましい核酸またはポリペプチドを、提供された配列および一般的にタンパク質に関する当技術分野における知識に基づいて選択することができる。タンパク質および核酸がどういったものかという知識があれば、当業者は、本明細書において開示された核酸およびポリペプチドに類似したまたは等価な活性を有する適切な配列を選択することができる。前記の定義のセクションにおいて、例示的な保存的アミノ酸置換が述べられている。
【0065】
ポリペプチドは、適切なアッセイにおいて、望ましい特徴についてのスクリーニング法によって評価される。例えば、ポリペプチドの免疫学的特徴の変化は、適切な免疫学的アッセイによって検出することができる。核酸と標的核酸とのハイブリダイゼーション、タンパク質の酸化還元もしくは熱安定性、疎水性、タンパク質分解に対する感受性、または凝集傾向等の他の特性の改変は全て、標準技法に従ってアッセイされる。ここでは、NAP様擬似体またはSAL様擬似体の活性部位を含むポリペプチドは、生物学的活性、例えば、神経細胞の細胞死の軽減または阻害について評価される。
【0066】
より具体的には、本発明の小さなペプチドは、当業者に公知の適切なアッセイおよび動物モデルを用いてスクリーニングすることができる。
【0067】
これらのアッセイおよびモデルを使用すると、当業者であれば、本発明の開示に従って、多数のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体を、望ましい活性を有するものかどうかスクリーニングすることができる。
【0068】
本発明のペプチドは、多種多様な周知の技法によって調製することができる。典型的には、比較的短いサイズのペプチドが、従来法に従って固体支持体上または溶液中で合成される(例えば、Merrifield, Am. Chem. Soc. 85: 2149-2154(1963)を参照されたい)。様々な自動合成機およびシーケンサーが市販されており、公知のプロトコールに従って使用することができる(例えば、Stewart & Young, Solid Phase Peptide Synthesis(2nd ed.1984)を参照されたい)。配列のC末端アミノ酸が不溶性支持体に取り付けられた後に、配列中の残りのアミノ酸を連続的に付加する固相合成が、本発明のペプチドの化学合成に好ましい方法である。固相合成の技法は、Barany & Merrifield, Solid-Phase Peptide Synthesis; pp.3-284 in The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology. Vol. 2: Special Methods in Peptide Synthesis, Part A.; Merrifield et al 1963; Stewart et al. 1984に記載されている。NAPおよび関連ペプチドは、標準的なFmocプロトコール(Wellings & Atherton, Methods Enzymol. 289:44-67(1997))を用いて合成される。
【0069】
前述の技法に加えて、本発明において用いられるペプチドは、組換えDNA法によって調製することができる。一般的に、これは、タンパク質をコードする核酸配列を作り出す工程、発現カセット内の核酸を特定のプロモーターの制御下に置く工程、および宿主細胞内でタンパク質を発現させる工程を伴う。組換え操作される、当業者に公知の細胞には、細菌、酵母、植物、糸状菌、昆虫(特に、バキュロウイルスベクターを使用する場合)、および哺乳動物の細胞が含まれるが、これに限定されない。
【0070】
組換え核酸は、選択された宿主における発現に適した制御配列に機能的に連結される。大腸菌(E. coli)の場合、例示的な制御配列には、T7、trp、またはλプロモーター、リボソーム結合部位、好ましくは、転写終結シグナルが含まれる。真核細胞の場合、制御配列には、典型的には、プロモーター、好ましくは、免疫グロブリン遺伝子、SV40、サイトメガロウイルス等に由来するエンハンサー、およびポリアデニル化配列が含まれ、スプライスドナー配列およびスプライスアクセプター配列が含まれてもよい。
【0071】
本発明のプラスミドは、周知の方法によって、選択された宿主細胞に導入することができる。かかる方法には、例えば、大腸菌の場合は、塩化カルシウム形質転換法、哺乳動物細胞の場合は、リン酸カルシウム処理またはエレクトロポレーション法が含まれる。プラスミドによって形質転換された細胞は、プラスミドに含まれる遺伝子、例えば、amp、gpt、neo、およびhyg遺伝子によって付与される抗生物質耐性によって選択することができる。
【0072】
組換えペプチドが発現されたら、硫安沈殿、アフィニティカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動等を含む当技術分野の標準的な手順に従って精製することができる(例えば、Scopes,Polypeptide Purification(1982);Deutscher,Methods in Enzymology Vol.182:Guide to Polypeptide Purification(1990)を参照されたい)。任意のさらなる工程は、発現タンパク質をさらに多く単離する工程、必要に応じてペプチドを切断または他の方法で改変する工程を含み、任意で、タンパク質を再生する工程を含む。
【0073】
化学合成、生物学的発現、または精製の後、ペプチドは、構成ペプチドのネイティブなコンホメーションとは実質的に異なるコンホメーションを有することがある。この場合、ペプチドを変性および還元し、次いで、好ましいコンホメーションに再び折り畳むことが役立つ。ペプチドを還元および変性する方法ならびに再折り畳みを誘導する方法は当業者に周知である(Debinski et.al.,J.Biol.Chem.268:14065-14070(1993);Kreitman & Pastan,Bioconjug.Chem.4.581-585(1993);およびBuchner et.al.,Anal.Biochem.205:263-270(1992)を参照されたい)。例えば、Debinski らは、グアニジン-DTEによる封入体ポリペプチドの変性および還元について述べている。次いで、ペプチドは、酸化型グルタチオンおよびL-アルギニンを含む酸化還元緩衝液の中で再び折り畳まれる。
【0074】
当業者であれば、ペプチドの生物学的活性を低下させることなくペプチドに改変を加えることができると認識すると考えられる。改変の中には、標的分子のクローニング、発現、または融合ポリペプチドへの組込みを容易にするために加えることができるものもある。かかる改変は当業者に周知であり、例えば、開始部位を設けるためにアミノ末端に付加されるメチオニン、または都合のよい位置にある制限部位もしくは終結コドンもしくは精製配列を作り出すために、いずれかの末端に配置される付加アミノ酸(例えば、ポリHis)を含む。
【0075】
III.NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の機能アッセイおよび治療的用途
NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の生物学的活性を確かめる方法の1つは、神経細胞を死から保護する能力をアッセイする方法である。かかるアッセイの1つは、(Brenneman & Gozes, J. Clin. Invest. 97:2299-2307(1996))に記載のように調製された、解離大脳皮質培養物を用いて行われる。この試験パラダイムは、試験ペプチドを、テトロドトキシン(TTX)と共に処理される培養物に添加することからなる。TTXは、これらの培養物においてアポトーシス死を引き起こし、従って、この「プログラム細胞死」およびこのタイプの死機構を引き起こす他の全ての手段に対する効能を証明するためのモデル物質として用いられる。試験期間は5日であり、神経細胞が計数され、特徴的な形態によって、および神経細胞の免疫細胞化学マーカー、例えば、神経細胞特異的エノラーゼを用いた確認によって特定される。他の細胞に基づくアッセイには、NAP様ペプチドまたはSAL様ペプチドが、例えば、β-アミロイドタンパク質または高レベルのZnCl2に曝露された神経細胞の生存を促進する能力をアッセイすることが含まれる。これらのアッセイは、本明細書の実施例2において証明される。NAP様タンパク質およびSAL様タンパク質によって促進される神経細胞生存はまた、神経毒、例えば、HIV由来エンベロープタンパク質であるgp120およびN-メチル-D-アスパラギン酸の存在下でも測定することができる。
【0076】
別の局面において、本発明は、神経細胞の細胞死を軽減する方法を提供する。この方法は、神経細胞と、神経細胞の細胞死を軽減するのに十分な量のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体を接触させる工程を含む。さらなる局面において、NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、その活性コア部位内に、好ましくは、活性コア部位のN末端および/またはC末端に、少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。別の好ましい局面において、NAP様ペプチドまたはSAL様ペプチドのコアの各アミノ酸はD-アミノ酸である。好ましいNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体には、例えば、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)が含まれる。
【0077】
本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、神経障害の治療および神経細胞の細胞死の阻止において使用することができる。例えば、本発明のNAP様ペプチド擬似体は、神経細胞の死を阻止するのに使用することができる。神経細胞には、脊髄神経細胞、海馬神経細胞、大脳皮質神経細胞およびコリン作用性神経細胞が含まれるが、これに限定されない。より具体的には、本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、(1)HIV由来エンベロープタンパク質であるgp120;(2)N-メチル-D-アスパラギン酸(興奮毒性);(3)テトロドトキシン(電気活動の遮断);および(4)アルツハイマー病における神経細胞変性に関連する物質であるβ-アミロイドペプチドに関連する細胞死の阻止において使用することができる。好ましいNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体には、例えば、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)が含まれる。
【0078】
従って、本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、有効量の本発明のNAP様ペプチド擬似体を、HIVウイルスに感染した患者に投与することによって、gp120誘導性の神経細胞の細胞死を軽減するのに使用することができる。本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体はまた、N-メチル-D-アスパラギン酸による刺激により誘導された興奮毒性に関連する神経細胞の細胞死を軽減するのに使用することができる。この方法は、神経細胞と、神経細胞の細胞死を阻止するのに十分な量の本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体を接触させる工程を含む。本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体はまた、アルツハイマー病に罹患した、またはアルツハイマー病により損なわれた患者において、β-アミロイドペプチドにより誘導された細胞死を軽減するのに使用することができる。この方法は、患者に、神経細胞の細胞死を阻止するのに十分な量の本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体を投与する工程を含む。NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体はまた、アルツハイマー病に罹患した、またはアルツハイマー病により損なわれた患者において、コリン作用遮断によって生じた学習障害を緩和するのに使用することができる。例えば、NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、アルツハイマー患者における短期記憶および/または参照記憶を改善するのに使用することができる。好ましいNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体には、例えば、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)が含まれる。
【0079】
同様に、本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、多くの他の神経学的疾患および欠損に関連する神経細胞の細胞死を阻止するために類似の様式で使用できることが当業者に明らかである。本発明の治療的用途および診断的用途から利益を得る異常には、神経細胞の細胞死および/または亜致死性の神経細胞異常につながる状態(疾患および傷害)が含まれ、例えば、以下:大脳基底核に影響を及ぼす変性状態(ハンチントン舞踏病、ウィルソン病、線条体黒質変性症、大脳皮質基底核神経節変性症)、トゥレット症候群、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、進行性球麻痺、家族性痙性対麻痺、脊髄筋萎縮、ALSおよびその異型、歯状核赤核萎縮、オリーブ橋小脳萎縮、傍腫瘍性小脳変性症、およびドーパミン毒性を含む、中枢運動系疾患;感覚神経細胞に影響を及ぼす疾患、例えば、フリードライヒ失調症、糖尿病、末梢ニューロパシー、網膜神経細胞変性;辺縁系および皮質系の疾患、例えば、脳アミロイドーシス、ピック萎縮、レット症候群;アルツハイマー病、AIDS関連痴呆、リー病、散在性レヴィー小体疾患、てんかん、多系統萎縮症、ギラン・バレー症候群、リソソーム性蓄積症、例えば、リポフスチン沈着症、ダウン症候群の後期変性段階、アルパース病、CNS変性の結果としてのめまいを含む、複数の神経細胞系および/または脳幹が関与する神経変性異常;発達遅滞および学習障害に関連する異常、ならびにダウン症候群、ならびに酸化ストレスにより誘導された神経細胞死;加齢および慢性アルコールまたは薬物乱用と共に生じる異常、例えば、アルコール依存症の場合、青斑、小脳、コリン作用性前脳基底核における神経細胞変性;加齢の場合、認知障害および運動障害につながる小脳神経細胞および皮質神経細胞の変性;ならびに慢性アンフェタミン乱用の場合、運動障害につながる大脳基底核神経細胞の変性を含む;局所性外傷、例えば、脳卒中、局所性虚血、血行不全、低酸素性-虚血性脳症、高血糖、低血糖、閉鎖性頭部外傷、または直接外傷に起因する病理学的変化;治療薬および治療のマイナスの副作用として生じた異常(例えば、抗痙攣量のNMDAクラスグルタミン酸受容体アンタゴニストに応答した帯状回皮質および嗅内皮質神経細胞の変性、例えば、化学療法治療に起因する末梢ニューロパシー、ならびにレーザー眼治療による網膜障害)が含まれる。本発明のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体はまた、自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症および精神障害、例えば、統合失調症およびうつ病を治療するのに使用することができる。好ましいNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体には、例えば、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)が含まれる。
【0080】
従って、神経細胞の細胞死を軽減するNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、1997年2月7日に出願された国際公開公報第98/35042号および1998年11月6日に出願された米国特許第6613740号に記載の様々な方法を用いてスクリーニングすることができる。例えば、本明細書に記載のNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の設計および合成ならびにアッセイに関する前記の開示を用いると、当業者であれば、活性コア部位内に少なくとも1つのD-アミノ酸を含む、生物学的に活性な他のNAP様ペプチド擬似体を特定できることが当業者に容易に明らかになるだろう。例えば、Brenneman et al., Nature 335:639-642(1988)、およびDibbern et al., J. Clin. Invest. 99:2837-2841(1997)は、HIV由来エンベロープタンパク質(gp120)に関連した神経細胞の細胞死を軽減することができるADNFポリペプチドをスクリーニングするのに使用することができるアッセイを開示している。また、Brenneman et al., Dev. Brain Res. 51:63-68(1990)、およびBrenneman & Gozes, J. Clin. Invest. 97:2299-2307(1996)は、N-メチル-D-アスパラギン酸による刺激により誘導された興奮毒性に関連する神経細胞の細胞死を軽減することができるNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体をスクリーニングするのに使用することができるアッセイを開示している。例えば、国際公開公報第98/35042号に記載の他のアッセイもまた、他の生物学的に活性なNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体を特定するのに使用することができる。
【0081】
さらに、神経細胞の細胞死を軽減するNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体は、インビボでスクリーニングすることができる。例えば、コリン作用遮断に関連する学習欠損および記憶欠損を防ぐことができるNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の能力を試験することができる。例えば、コリン作用遮断は、ラットにおいてコリノトキシン(cholinotoxin)AF64Aを投与することによって得ることができ、ADNFポリペプチドを鼻腔内投与することができ、水迷路実験を行うことができる(Gozes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:427-432(1996))。有効なNAP様ペプチド擬似体で処置された動物は、対照と比較して学習能および記憶能の向上を示すだろう。
【0082】
さらに、アルツハイマー病に関連する神経細胞の細胞死を防ぐ、または軽減することができるNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の能力を、インビボでスクリーニングすることができる。これらの実験のために、アポリポタンパク質E(ApoE)欠損ホモ接合マウスを使用することができる(Plump et al., Cell 71:343-353(1992); Gordon et al., Neuroscience Letters 199: 1-4(1995); Gozes et al., J. Neurobiol. 33:329-342(1997))。
【0083】
NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体が免疫細胞増殖を阻害する能力は、Offen et al. J Mol Neurosci. 15(3):167-76(2000)および国際公開公報第04/060309号に記載のようにアッセイすることができる。両方とも、MOG誘導性慢性EAEマウスモデルについて述べており、全ての目的のために参照により本明細書に組み入れられる。STOPタンパク質欠損マウスは、当技術分野において認められた統合失調症モデルであり、NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の抗統合失調症活性を評価するのに使用することができる。例えば、全ての目的のために参照により本明細書に組み入れられる、Andrieux et al., Gene & Develop., 16:2350-2364(2002)を参照されたい。NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体の抗不安活性は、全ての目的のために参照により本明細書に組み入れられる、国際公開公報第04/080957号に開示された、マウスモデルおよびモーリス水迷路パラダイムを用いて評価することができる。NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体による末梢神経毒性の軽減は、ラットモデルならびにロータロッド試験およびプランター試験を用いて評価することができる。例えば、全ての目的のために参照により本明細書に組み入れられる、国際公開公報第06/099739号を参照されたい。
【0084】
IV.創薬
NAP相互作用タンパク質としてチューブリンが特定され、チューブリン内のNAP様配列が発見されているので、さらなる創薬の標的、例えば、神経細胞障害、例えば、神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、AIDS関連痴呆、ハンチントン舞踏病、およびパーキンソン病)、認知障害、末梢神経毒性、運動機能不全、感覚機能不全、不安、うつ病、精神病、網膜変性を伴う状態、学習および記憶に影響を及ぼす障害、または神経精神障害、神経細胞の細胞死および酸化ストレスに関連する疾患、HIV関連痴呆複合体、脳卒中、頭部外傷、脳性麻痺、胎児アルコール症候群に関連する状態、ならびに自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症を治療するための標的として、チューブリンおよびチューブリン由来ペプチドを使用することができる。かかる治療剤はまた、出生前および出生後に、学習および記憶を向上させる方法において使用することもできる。(例えば、Katchalski-Katzir et al., Biophys Chem. 100(1-3):293-305(2003); Chang et al., J Comput Chem. 24(16): 1987-98(2003)に記載のように)無傷のチューブリン構造と、置換剤としてNAPを用いて、NAPと同じ部位に結合する薬剤を見つける実験を行ってもよい。
【0085】
本発明のポリペプチドまたはチューブリンに結合することができる薬剤をスクリーニングすることによって、予備スクリーニングを行ってもよい。なぜなら、このように特定された薬剤の少なくとも一部は結合活性モジュレーターである可能性が高いからである。この結合アッセイは、通常、本発明のポリペプチドと1つまたは複数の試験薬剤を接触させ、タンパク質および試験薬剤が結合複合体を形成するのに十分な時間をとる工程を伴う。形成したどの結合複合体も、多くの確立した分析法のいずれかを用いて検出することができる。タンパク質結合アッセイには、非変性SDS-ポリアクリルアミドゲル上で共沈、共移動を測定する方法、ならびにウエスタンブロット上で共移動を測定する測定する方法が含まれるが、これに限定されない(例えば、Bennet and Yamamura, Neurotransmitter, Hormone or Drug Receptor Binding Methods, in Neurotransmitter Receptor Binding(Yamamura et al., eds.), pp.61-89(1985)を参照されたい)。かかるアッセイにおいて用いられるタンパク質は、天然で発現されてもよく、クローニングされてもよく、合成されてもよい。
【0086】
前述の任意のスクリーニング法によって最初に特定された薬剤は、見かけ上の活性を検証するためにさらに試験することができる。好ましくは、かかる研究は、適切な動物モデルを用いて行われる。かかる方法の基本形式は、最初のスクリーニングの間に特定されたリード化合物を、ヒトのモデルとして役立つ動物に投与し、次いで、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの発現または活性が実際にアップレギュレートされるかどうかを確かめる工程を伴う。検証試験において用いられる動物モデルは、一般的に、任意の種類の哺乳動物である。適切な動物の具体例には、霊長類、マウス、およびラットを含むが、これに限定されない。
【0087】
本発明のポリペプチドのモジュレーターとして試験される薬剤は、任意の小さな化合物でもよく、タンパク質、糖、核酸、RNAi、または脂質などの生物学的実体でもよい。典型的には、試験化合物は小さな化学分子およびペプチドである。本発明のアッセイにおいて、本質的に任意の化合物を潜在的なモジュレーターまたはリガンドとして使用することができるが、ほとんどの場合、水溶液または有機(特に、DMSOをベースとする)溶液に溶解することができる化合物が用いられる。アッセイは、アッセイ段階を自動化し、任意の便利な供給源に由来する化合物をアッセイに供給することによって、大きな化合物ライブラリーをスクリーニングするように設計され、アッセイは典型的には並行して行われる(例えば、ロボットアッセイではマイクロタイター形式でマイクロタイタープレート上で行われる)。Sigma(St. Louis, MO)、Aldrich(St. Louis, MO)、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika(Buchs, Switzerland)等を含む、多くの化合物供給業者がいることが理解されるだろう。モジュレーターには、本発明のmRNAのレベルを下げるように設計された薬剤(例えば、アンチセンス分子、リボザイム、DNAzymes等)またはmRNAからの翻訳レベルを下げるように設計された薬剤も含まれる。
【0088】
好ましい1つの態様において、ハイスループットスクリーニング法は、多数の潜在的な治療用化合物(潜在的なモジュレーターまたはリガンド化合物)を含有する、コンビナトリアル化合物ライブラリーまたはペプチドライブラリーを準備することを伴う。次いで、望ましい特徴的な活性、例えば、チューブリン結合を示すライブラリーメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を特定するために、かかる「コンビナトリアル化合物ライブラリー」または「リガンドライブラリー」は、本明細書に記載のように1つまたは複数のアッセイにおいてスクリーニングされる。このように特定された化合物は、従来の「リード化合物」として役立ってもよく、それ自体が潜在的な治療剤または実際の治療剤として用いられてもよい。小さな活性分子をスクリーニングするのに利用可能なライブラリーには、Available Chemical Directory(ACD,278,000化合物)、ACDスクリーニングライブラリー(>1,000,000化合物)、CRC Combined Chemical Dictionary(約350,000化合物)、Anisex(115,000化合物)、Maybridge(62,000化合物)、DerwentおよびNCIライブラリーが含まれる。
【0089】
V.発見された化合物の活性についてのアッセイ
さらなる創薬方法には、神経保護活性のスクリーニングが含まれる。かかる活性は、例えば、Divinski et al.(2006)およびGozes et al.(2005)に記載のように、神経細胞ストレスおよび生存の古典的な組織培養モデルにおいて試験することができる。これらのアッセイは当技術分野において公知であり、微小管再編成、神経突起成長、および毒性因子からの保護に対する試験化合物の効果に焦点を当てている。
【0090】
動物モデルにおける神経保護を試験するインビボアッセイもまた当技術分野において公知である。運動活動に対する様々な試験物質の効果を測定する試験には、例えば、ラットにおける、ロートロッド試験が含まれる。感覚活動に対する試験物質の効果を測定するために、嗅覚能を使用してもよい。かかるアッセイは、例えば米国出願公開第2006/0247168号に記載されている。
【0091】
試験化合物の効能を試験するために、十分に確立した胎児アルコール症候群モデルを使用することができる(Webster et al., Neurobehav. Toxicol 2:227-234(1980))。このパラダイムは、アルコール投与によって生じた強い酸化ストレスに対する効能についての試験である(Spong et al., 2001)。このモデルは、強い酸化ストレスならびに胎児アルコール症候群に対して有効な薬剤の迅速かつ関連性のある評価を可能にする。試験化合物の防御効果を評価するために、胎児死亡数を求めてもよい。
【0092】
レーザーに曝露された網膜細胞、例えば、レーザー手術の状態にある網膜細胞に対する試験化合物の防御効果を試験する実験は、米国特許仮出願第60,776,329号に記載されている。簡単に言うと、ラットをレーザー光凝固に曝露し、すぐに、保護化合物を用いて全身または硝子体内に処置した。動物を屠殺し、網膜組織切片を組織異常および形態異常について観察した。
【0093】
前記のように、NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体のモジュレーターを、免疫細胞増殖を阻害する能力、抗統合失調症活性、抗不安活性、および末梢神経毒性を軽減する能力についてアッセイすることができる。
【0094】
VI.薬学的投与
本発明は、薬学的投与のための多くの神経保護NAP様およびSAL様ペプチド擬似体および組成物を提供する。例えば、薬学的組成物は、本明細書に記載のNAP様ペプチド擬似体もしくはSAL様ペプチド擬似体の1つ、または複数を組み合わせて含んでもよい。好ましいNAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体には、例えば、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)が含まれる。薬学的組成物は、ADNFポリペプチド等のさらなる神経保護化合物を、NAP様ペプチド擬似体およびSAL様ペプチド擬似体と組み合わせて含んでもよい。神経保護ADNFポリペプチドには、NAP(SEQ ID NO:1)またはSAL(SEQ ID NO:19)を含むものが含まれる。NAP様ペプチド擬似体は少なくとも1つのD-アミノ酸を含んでもよく、アミノ酸の全てがD-キラル性でもよい。ある態様において、さらなる神経保護ペプチドは少なくとも1つのD-アミノ酸を有し、全てD-アミノ酸を有する。
【0095】
本発明の薬学的組成物は様々な薬物送達系において使用するのに適している。血液脳関門を通過することができるペプチドは、当業者に公知の方法を用いて、例えば、全身投与、鼻投与等することができる。血液脳関門を通過することができない大きなペプチドは、当業者に周知の技法を用いて脳室内(ICV)注射またはカニューレを介して哺乳動物脳に投与することができる(例えば、Motta & Martini, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 168:62-64(1981); Peterson et al., Biochem. Pharamacol. 31:2807-2810(1982); Rzepczynski et al., Metab. Brain Dis. 3:211-216(1988); Leibowitz et al., Brain Res. Bull. 21:905-912(1988); Sramka et al., Stereotact. Funct. Neurosurg. 58:79-83(1992); Peng et al., Brain Res. 632:57-67(1993); Chem et al., Exp. Neurol. 125:72-81(1994); Nikkhah et al., Neuroscience 63:57-72(1994); Anderson et al., J. Comp. Neurol. 357:296-317(1995);およびBrecknell & Fawcett, Exp. Neurol. 138:338-344(1996)を参照されたい)。
【0096】
本発明における使用に適した製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences(17th ed. 1985))に記載されている。さらに、薬物送達法の短い総説については、Langer, Science 249:1527-1533(1990)を参照されたい。適切な用量範囲は、本明細書において提供される実施例ならびに国際公開公報第9611948号に記載されている。
【0097】
従って、本発明は、前記のポリペプチドの1つまたは複数と薬学的に許容される賦形剤を含む、治療用組成物または医用薬剤を提供する。ここで、ポリペプチドの量は治療効果をもたらすのに十分な量である。
【0098】
治療的用途において、本発明のポリペプチドは、非経口投与、局所投与、経口投与、鼻投与、肺投与(例えば、吸入による)、全身投与、または局所投与を含む任意の有効な手段による投与を目的とした薬学的組成物に具体化される。非経口投与の場合、薬学的組成物は、例えば、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、または筋肉内投与される。鼻用ポンプ(nasal pump)、局所パッチ、および点眼薬も使用することができる。
【0099】
従って、本発明は、許容される担体、好ましくは、水性担体に溶解または懸濁された前記のポリペプチドの溶液を含む非経口投与用組成物を提供する。例えば、水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等を含む様々な水性担体を使用することができる。これらの組成物は従来の周知の滅菌法によって滅菌されてもよく、滅菌濾過されてもよい。結果として生じた水溶液は使用のためにそのままで包装されてもよく、凍結乾燥されて包装されてもよく、凍結乾燥された調製物は投与の前に滅菌溶液と混合される。組成物は、pH調節剤および緩衝剤、張性調節剤、湿潤剤等、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン等を含む、生理学的条件に近づけるのに必要な薬学的に許容される補助物質を含有してもよい。
【0100】
固体組成物のためには、例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を含む、従来の非毒性固体担体を使用することができる。経口投与のためには、薬学的に許容される非毒性の組成物は、上記した担体等の通常使用される賦形剤のいずれかと、通常は、10〜95%の活性成分、より好ましくは25%〜75%の濃度の活性成分とを合わせることにより形成される。
【0101】
エアロゾル投与のためには、ポリペプチドは、好ましくは、微粉化された形態で界面活性剤および噴射剤と共に供給される。当然ながら、界面活性剤は、非毒性であって、好ましくは噴射剤に溶解性でなければならない。かかる薬剤の代表は、6〜22個の炭素原子を含む脂肪酸のエステルまたは部分エステル(例えば、脂肪族多価アルコールまたはその環状無水物と共にあるカプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリック酸(olesteric acid)、およびオレイン酸)である。混合または天然のグリセリド類等の混合エステルを使用してもよい。望ましければ、例えば、鼻腔内送達のためのレシチンと同様に、担体も含有させることができる。例には、1ミリリットルあたり7.5mg NaCl、1.7mgクエン酸一水和物、3mgリン酸二ナトリウム二水和物、および0.2mg塩化ベンズアルコニウム溶液(50%)を含む溶液が含まれる(Gozes et al., J Mol Neurosci. 19(1-2): 167-70(2002))。
【0102】
治療的用途において、本発明のポリペプチドは、神経変性障害、認知障害、および他の状態の症候を軽減もしくは除去するために、または学習および記憶を向上させるために十分な量で患者に投与される。これを達成するために適切な量が「治療的有効量」と定義される。この用途のために有効な量は、例えば、使用される特定のポリペプチド、予防される疾患または障害のタイプ、投与様式、患者の体重および一般的健康状態、ならびに、処方医の判断によって左右される。
【0103】
例えば、1日あたり1回(例えば、夜に)鼻腔内投与される100ng〜10mgの用量範囲に該当するポリペプチド量が治療的有効量であり得る。あるいは、用量は、この範囲外であっても、または、異なるスケジュールであってもよい。例えば、用量は、用量あたり、0.0001mg/kg〜10,000mg/kgの範囲でもよく、好ましくは、約0.001mg/kg、0.1mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、50mg/kg、または500mg/kgである。用量は、1時間毎、4、6または12時間毎、食事時、毎日、2、3、4、5、6、もしくは7日毎、毎週、2、3、4週間毎、毎月、または2、3もしくは4ヶ月毎、あるいはこれらの任意の組み合わせで投与することができる。投与期間は、処置する症候に応じて、単回(急性)投与であっても、または、数日間、数週間、数ヶ月間、もしくは、数年間の期間にわたってもよい。当業者は適切な用量を決定することができ、Gozes et al., 2000; Gozes et al., 2002; Bassan et al. 1999; Zemlyak et al., Regul. Pept. 96:39-43(2000); Brenneman et al., Biochem. Soc. Trans. 28: 452-455(2000); Erratum Biochem Soc. Trans. 28:983; Wilkemeyer et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:8543-8548(2003); Alcalay et al., Neurosci Lett. 361:128-31(2004);およびGozes et al., CNS Drug Rev., 11(4):353-68(2005)中に報告されている予備的データを頼りにしてもよい。
【0104】
実施例
実施例1:NAP様配列およびSAL様配列の探索
他のタンパク質に、(例えば、微小管との相互作用を介して)神経保護をもたらすNAP様配列またはSAL様配列があるかどうか取り組むために、NAPに似ており、かつ神経保護をもたらすチューブリン特異的配列があるかどうか取り組むために、バイオインフォマティクスによる探索を開始した。
【0105】
NAP配列およびSAL配列を、多くの異なるサーチエンジン:NCBI、OMIM、UniProtKB/Swiss-Prot、EMBOSS Pairwise Alignment Algorithms、ClustalW、T-coffee、BLAST、RADAR、PPSearch、PROSITE、Phylogenetic Tree、およびSelectonにかけた。
【0106】
ヒトチューブリンタンパク質の検索の際には、UniProtKB/Swiss-Protにおいて、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)生物についてフィールド説明(field description)チューブリンおよびブール演算子を使用した。2つの配列間の最良の類似性領域を見つけるために、EMBOSSにおいてBlosum62とwaterアラインメントを使用した。Jalviewエディタをさらに用いて、多重アラインメントをClustalWから得た。
【0107】
BLAST、ならびに類似プログラムRADARおよびPPSearchについては、ヒトβ3チューブリンおよびそのオルソログをクエリーとして使用した。選択のために、チューブリンのCDSおよび12のオルソログ生物をFASTA形式で入力ファイルとして提出した。
【0108】
結果を下記および表1にまとめた。タンパク質間相互作用およびGTP結合に重要なチューブリン内構造要素は、NAPと有意なホモロジーを示す。
NAVLSIHQ(SEQ ID NO:2)-チューブリンβ1
NATLSVHQ(SEQ ID NO:3)-チューブリンβ2
NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)-チューブリンβ3
【0109】
様々なチューブリンサブユニットのNCBIタンパク質アクセス番号:
チューブリンβ1 Q9H4B7
チューブリンβ2a Q13885
チューブリンβ2b Q9BVA1
チューブリンβ2c P68371
チューブリンβ3 Q13509
チューブリンβ4 P04350
チューブリンβ5 P07437
チューブリンβ6 Q9BUF5
【0110】
配列NAVLSIHQ(SEQ ID NO:2)、NATLSVHQ(SEQ ID NO:3)、およびNATLSIHQ(SEQ ID NO:4)は、それぞれ、チューブリンβ1、β2、およびβ3において見出されたが、αチューブリンには見出されなかった。配列はアミノ酸184-191に及んでいる。この配列は、微小管内のβチューブリンとαチューブリンとの縦方向の接触において重要だと仮定されている領域と重複している。すなわち、二量体化すると隠れてしまう、分子上部にある比較的曝露した領域に位置する。この配列はまた、β-チューブリンのGTP結合ポケット、特に、リボース結合に関連する領域の近くにある(Nogales and Wang(2006) Curr Opin Cell Biol, 18, 179-184; NogalesおよびWang(2006) Curr Opin Struct Biol, 16, 221-229)。
【0111】
ホモロジーは>50%であるが、NAPに見られる2個のプロリンは保存されていない。プロリンがタンパク質間相互作用とよく関連していることを考慮すれば、NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)は、本来備わっている微小管との会合を依然として有しながら、さらなるタンパク質結合またはタンパク質相互作用/破壊活性を有している可能性が高い。
【0112】
NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)とのホモロジーが高い他の配列には、STPTAIPQ(SEQ ID NO:6)(アクセッション番号Q7KZS6)が含まれ、これは、チューブリンセグメントおよびロドプシンファミリーからのGタンパク質共役受容体に関連するセグメントを含む。後者は、色素沈着に関連するメラノコルチン1受容体との類似性を有する。
【0113】
さらなる配列類似性が、重要なタンパク質、例えば、クエン酸リアーゼにおいて観察された(表1)。ATPクエン酸リアーゼは、多くの組織におけるサイトゾルアセチル-CoA合成を担う主要酵素である。ATPクエン酸リアーゼは新規脂質合成において中心的な役割を有する。神経組織において、ATPクエン酸リアーゼは、(類似性により)アセチルコリンの生合成に関与している可能性がある。
【0114】
(表1)NAP(NAPVSIPQ)配列ホモロジー

【0115】
(表2)SAL(SALLRSIPA)配列ホモロジー


【0116】
実施例2:神経保護活性アッセイ
NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)はNAP様ペプチドである。ZnCl2およびβ-アミロイド中毒後の星状細胞および神経細胞の生存に対する、これらのペプチドの効果を試験した。
【0117】
A.方法:
1.大脳皮質星状細胞
以前に述べられたように(McCarthy KD, de Vellis J., J. Cell Biol., 85:890-902(1980); Gozes I et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 257:959-66(1991))、細胞培養物を調製した。新生仔マウス(Harlan Biotech Israel Ltd., Rehovot, Israel)を断頭によって屠殺し、脳を取り出した。皮質を切断し、髄膜を取り除いた。組織をハサミで切り刻み、ハンクス液X1(HBSS, Biological Industries, Beit Haemek, Israel)、15mM HEPES緩衝液pH7.3(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)および0.25%トリプシン(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)の中に入れ、37℃、10%CO2のインキュベーター内に20分間置いた。次いで、細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Sigma, Rehovot, Israel)に溶解した10%熱失活ウシ胎仔血清(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)、0.1%硫酸ゲンタマイシン溶液(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)および0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン-ナイスタチン溶液(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)を含有する溶液D1 8mlの中に入れた。細胞を静置し、次いで、D1 2.5mlを含有する新たしいチューブに移し、パスツールピペットを用いて粉砕した。このプロセスを2回以上繰り返した。細胞を全て懸濁したら、血球計(Neubauer improved, Germany)を用いて細胞密度を求め、1x106細胞/15ml D1を、それぞれの75cm2フラスコ(Corning, Corning, NY, USA)に接種した。細胞を37℃、10%CO2でインキュベートした。24時間後に、培地を交換し、細胞をコンフルエントになるまで(1週間)増殖させた。
【0118】
2.大脳皮質星状細胞の継代培養
存在している可能性のある残存している神経細胞および乏突起膠細胞を取り出すために、大脳皮質星状細胞を含有するフラスコを振盪した。次いで、フラスコを10ml冷HBSSx1、HEPES 15mMで洗浄した。5mlのベルセン(versene)-トリプシン溶液(BioLab, Jerusalem, Israel)を各フラスコに添加し、星状細胞を取り出すために、フラスコを室温で5分間インキュベートした。次いで、細胞を取り出すためにフラスコを振盪した。ベルセン-トリプシン溶液をD1 5mlで中和した。細胞懸濁液を収集し、100gで10分間遠心分離した。上清を除去し、細胞をD1に再懸濁した。細胞を96ウェルプレート(Corning, Corning, NY, USA)に入れ(各フラスコを2個のプレートに入れる)、37℃、10%CO2でコンフルエントになるまでインキュベートした。
【0119】
3.混合神経膠培養物
新生仔ラットを用いて、前記のように大脳皮質星状細胞培養物を調製した。細胞をD1に懸濁した後、100gで5分間遠心分離し、上清を捨てた。DMEM中に、5%熱失活ウマ血清(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)、0.1%ゲンタマイシン、0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン-ナイスタチン、1%N3(培養において神経細胞発生に必須の合成培地成分,(Romijn HJ, Brain Res., 254:583-9(1981)])、15μg/ml 5'-フルオロ-2-デオキシウリジン(FUDR, Sigma, Rehovot, Israel)、および3μg/mlウリジン(Sigma, Rehovot, Israel)を含有する溶液D2に、細胞ペレットを再懸濁した。細胞を血球計で計数し、D2で希釈し、17,000細胞/well/96ウェルプレートを、前記のように調製した8日齢星状細胞に播種した。翌日、培地を、FUDRおよびウリジンを含有しないD2に交換した。細胞を、37℃、10%CO2で1週間増殖させた後に、実験を行った。
【0120】
4. MAP2アッセイ
β-アミロイド中毒後の神経膠培養物における神経細胞生存を、神経細胞特異的抗体MAP2を用いてアッセイした。混合神経膠培養物を調製して1週間後に、細胞増殖培地を吸引し、新鮮なD2培地を細胞に添加した。水に溶解し、37℃で少なくとも2週間凝集させた、0.25μM β-アミロイド1-42(American Peptide Company, Sunnyvale, CA, USA)を、10-19M〜10-5Mの漸増濃度のNATLSIHQ(SEQ ID NO:4)またはSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)と共に、各ウェルに添加した。細胞を、10%CO2中で、37℃で5日間インキュベートした。
【0121】
β-アミロイドおよびペプチドを添加して5日後に、各ウェルから培地を取り除き、冷メタノールを添加することによって、細胞を固定した。細胞を冷蔵庫の中に一晩入れた。以前に述べられたように(Brooke SM et al., Neurosci. Lett., 267:21-4(1999))、細胞を抗MAP2で免疫染色した。メタノールを取り除き、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で4回洗浄した。非特異的抗体結合のブロッキングは、細胞を、5%脱脂乳を含むPBS中で4℃で一晩インキュベートすることによって行った。次いで、ブロッキング溶液を取り除き、抗MAP2(1:1000; Sigma, Rehovot, Israel)を各ウェルに添加した。細胞を室温で30分間インキュベートし、その後に、PBSで4回洗浄した。ビオチン化抗マウスIgG(1:200, Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を各ウェルに添加し、細胞を室温で30分間インキュベートした後に、PBSで4回洗浄した。細胞を、製造業者のプロトコールに従って調製したABC試薬(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)と室温で30分間インキュベートし、次いで、PBSで4回洗浄した。次いで、製造業者のプロトコールに従って調製したABTS試薬(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を各ウェルに添加し、細胞を暗所で室温で20分間インキュベートした。プレートをELISAプレートリーダーにおいて405nmで測定した。ブランクとして、未処理細胞を含有するウェルおよび一次抗体を含有しないウェルを使用した。
【0122】
5. MTSアッセイ
ZnCl2による中毒後の星状細胞の生存を、MTSアッセイを用いて試験した。星状細胞を96ウェルプレートに継代培養して1週間後に、星状細胞増殖培地を吸引し、200μM ZnCl2および漸増濃度のNATLSIHQ(SEQ ID NO:4)またはSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)(濃度範囲:10-16〜10-7M)を含有する新鮮な培地を細胞に添加した。細胞を、10%CO2中で37℃で4時間インキュベートした後に、Celltiter 96 Aqueous non-radioactive cell proliferation assay(Promega, Madison, WI, USA)を用いてMTSアッセイを行った。このアッセイは、製造業者の説明書に従って行い、ELISAプレートリーダーにおいて490nmで測定した。
【0123】
B.結果:
結果を以下の図1および図2ならびに表2に示した。両ペプチドとも神経保護アッセイにおいて活性があった。神経膠細胞および星状細胞の両方の生存アッセイにおいて、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)の効能はSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)の効能より大きかった。
【0124】
(表3)星状細胞および神経細胞の生存に対する試験ペプチドの有効濃度の概要

【0125】
本発明は、神経栄養活性および神経保護活性および可能性のあるさらなる治療活性を提供するための、新たなクラスのチューブリン結合性ペプチド擬似体を、NAPまたはSALと類似性を有するペプチドを含むものを含めて説明していることが理解されるだろう。改変には、従来の置換、40アミノ酸のN末端またはC末端の付加、凍結乾燥(lipophylization)、アセチル化等が含まれる。
【0126】
前記の実施例は、本発明の効果を例示することを目的とし、下記の特許請求の範囲により意図される本発明の態様または範囲を限定することを目的としない。本発明の他の変異体は当業者に容易に明らかであり、添付の特許請求の範囲に包含される。本明細書において引用された全ての刊行物、データベース、GenBank配列、GO用語、特許、および特許出願はその全体が、それぞれ個々の刊行物または特許出願が参照により組み入れられるように詳細かつ個々に示されるのと同じ程度に参照により組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(R1)a-(R2)-(R3)bを有するNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体であって、但し、配列NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)もSALLRSIPA(SEQ ID NO: 19)も含まない、
NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体:
式中、
R1は、1〜約40のアミノ酸を含むアミノ酸配列であり、各アミノ酸は独立して、天然アミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より選択され;
R2は、

からなる群より選択されるメンバーであり;
R3は、1〜約40個のアミノ酸を含むアミノ酸配列であり、各アミノ酸は独立して、天然アミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より選択され;かつ
aおよびbは独立して選択され、かつ0または1に等しい。
【請求項2】
R2が、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるメンバーである、請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項3】
aおよびbが0に等しい、請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項4】
R2の少なくとも1つのアミノ酸がD-アミノ酸である、請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項5】
R2の各アミノ酸がD-アミノ酸である、請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項6】
少なくとも1つの保護基をさらに含む、請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項7】
NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)である、請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項8】
STPTAIPQ(SEQ ID NO:6)である、請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項9】
少なくとも1つのアミノ酸がD-アミノ酸である、請求項7または8記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項10】
各アミノ酸がD-アミノ酸である、請求項7または8記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項11】
少なくとも1つの保護基をさらに含む、請求項7または8記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体。
【請求項12】
請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体を含む、薬学的組成物。
【請求項13】
NAPVSIPQ(SEQ ID NO:1)およびSALLRSIPA(SEQ ID NO: 19)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む神経保護ポリペプチドをさらに含む、請求項12記載の薬学的組成物。
【請求項14】
対象における、神経変性障害、認知障害、自己免疫障害、末梢神経毒性、運動機能不全、感覚機能不全、不安、うつ病、統合失調症、精神病、胎児アルコール症候群に関する状態、網膜変性を伴う状態、学習および記憶に影響を及ぼす障害、または神経精神障害を治療または予防する方法であって、以下の工程を含む方法:
治療的有効量の請求項1記載のNAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体を、これを必要とする対象に投与し、それにより、対象における、神経変性障害、認知障害、自己免疫障害、末梢神経毒性、運動機能不全、感覚機能不全、不安、うつ病、統合失調症、精神病、胎児アルコール症候群に関する状態、網膜変性を伴う状態、学習および記憶に影響を及ぼす障害、または神経精神障害を治療または予防する工程。
【請求項15】
NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体が、NATLSIHQ(SEQ ID NO:4)およびSTPTAIPQ(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるメンバーである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体が鼻腔内投与される、請求項14記載の方法。
【請求項17】
NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体が経口投与される、請求項14記載の方法。
【請求項18】
NAP様ペプチド擬似体またはSAL様ペプチド擬似体が静脈内投与または皮下投与される、請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−536801(P2010−536801A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521273(P2010−521273)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001497
【国際公開番号】WO2009/026687
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510049757)ラモト アト テルーアビブ ユニバーシティー  リミテッド (2)
【出願人】(510049768)アロン セラピューティクス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】