説明

NBR組成物

【課題】耐摩耗性を損なうことなく、シール材が摺動部位に使用された場合の長寿命化および機器の省エネルギー化を図り得る、低摩擦化を達成せしめた加硫成形物を与えるNBRゴム組成物を提供する。
【解決手段】NBR100重量部に対し、ホワイトカーボン1〜150重量部および平均粒径2μm以下でかつモース硬度6以上の無機化合物0.5〜50重量部を含有させたNBR組成物。無機化合物としては、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、石英粉、窒化チタン、炭化チタンおよび炭化ジルコニウムの少なくとも一種が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NBR組成物に関する。更に詳しくは、シール材の加硫成形材料などとして有効に用いられるNBR組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルゴム(NBR)組成物は、耐油性に優れており、自動車、産業機械工業等の広い分野でオイルシール、Oリング、パッキン等のシール材料として用いられている。例えば、特許文献1には、NBRにカーボンブラックおよび酸化クロムを含有させた往復動シール用耐摩耗性ゴム組成物が提案されている。しかるに、このようなシール用成形材料から得られる成形品は、摩擦が大きいことで、シール摺動部位の発熱によるシール材の劣化促進や、摺動抵抗による機器のエネルギー損失といった問題がある。
【特許文献1】特公平6−74352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、耐摩耗性を損なうことなく、シール材が摺動部位に使用された場合の長寿命化および機器の省エネルギー化を図り得る、低摩擦化を達成せしめた加硫成形物を与えるNBRゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる本発明の目的は、NBR100重量部に対し、ホワイトカーボン1〜150重量部および平均粒径2μm以下でかつモース硬度6以上の無機化合物0.5〜50重量部を含有させたNBR組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0005】
NBRにホワイトカーボンおよび平均粒径2μm以下でかつモース硬度6以上の無機化合物を配合したNBR組成物から得られる加硫成形物は、NBRが本来有する機械的強度(常態物性)やNBRにカーボンブラックを配合した場合にみられるような耐摩耗性を殆んど損なうことなく、低摩擦性を著しく向上させることができる。これは、充填剤として、低摩擦化を可能とするホワイトカーボンを選択し、一般的に用いられているカーボンブラックよりも耐摩耗性に劣るホワイトカーボンのみの配合では達成することが難しい耐摩耗性の点を、補強効果のない特定の無機化合物を添加することにより、耐摩耗性を損なうことなく、自己摩耗性および相手材摺動面の摩耗を抑えることを可能としているのである。
【0006】
このように、本発明に係るNBR組成物は、耐摩耗性、耐摩擦性などの要求されるオイルシール、パッキン、Oリング等のシール材の加硫成形材料として好適に用いられる。具体的には、例えばショックアブソーバ用などの往復動摺動シールの加硫成形材料として用いられる。なお、NBRに代えて、アクリルゴムやフッ素ゴムについても同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
NBRとしては、結合アクリロニトリル含量が18〜48%、好ましくは20〜35%で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が32〜85、好ましくは32〜80のアクリロニトリル−ブタジエンゴムが用いられ、実際には市販品、例えば日本ゼオン製品DN302等をそのまま用いることができる。このNBRに対しては、ホワイトカーボンおよび無機化合物が添加されて、本発明のNBR組成物が調製される。
【0008】
ホワイトカーボン(補強性シリカ)としては、ハロゲン化けい酸または有機けい素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式法ホワイトカーボン、けい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法ホワイトカーボンなどであって、非晶質シリカを用いることができ、市販品、例えば日本アエロジル製品Aerosil 200、日本シリカ工業製品Nipsil LPなどがそのまま用いられる。また、その比表面積が30〜200m2/g程度のものが一般に用いられる。ホワイトカーボンは、その価格、取扱い性および耐摩耗性の良さから一般的に用いられているカーボンブラックと比べて耐摩耗性に劣るものの、摩擦係数を低下させることを可能とする。
【0009】
これらのホワイトカーボンは、NBR100重量部当り約1〜150重量部、好ましくは約20〜150重量部の割合で用いられる。これより少ない配合割合では、目的とする低耐摩擦化の改善効果が達成されず、一方これより多い割合で用いられると、ゴム硬度が非常に高くなり、またゴム弾性も失われるようになる。
【0010】
無機化合物としては、平均粒径(レーザー回折法により測定)が2μm以下、好ましくは0.2〜2μmであって、かつモース硬度6以上のものが用いられ、具体的には酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化ケイ素、炭化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、石英粉、窒化チタン、炭化チタンおよび炭化ジルコニウムの少なくとも一種、好ましくは酸化アルミニウム、炭化ケイ素が用いられる。モース硬度が6以上の無機化合物を用いることにより、耐摩耗性を改善することが可能となり、また平均粒径2μm以下のものを用いることにより、摺動相手材の摩耗を著しく減ずることが可能となる。ここで、このような無機化合物は、NBR100重量部当り約0.5〜50重量部、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは約3〜20重量部の割合で用いられる。使用割合がこれより少ないと、本発明の目的とする耐摩耗性の改善効果が得られず、一方これよりも多い割合で用いられると、常態物性が悪化するようになる。
【0011】
ホワイトカーボンおよび無機化合物を配合したNBRの加硫は、硫黄加硫、過酸化物加硫等任意の加硫系単独あるいは組み合わせて用いることができるが、好ましくは硫黄加硫系が用いられる。
【0012】
組成物中には、以上の必須成分以外に、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート等の多官能性不飽和化合物、活性炭酸カルシウム等の他の補強剤、タルク、クレー、グラファイト、けい酸カルシウム等の充填剤、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の受酸剤、老化防止剤、ジオクチルセバケート(DOS)などの可塑剤などゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0013】
組成物の調製は、インタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練することによって行われ、その加硫は、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレス等を用い、一般に約160〜200℃で約3〜30分間程度加熱することによって行われ、更に必要に応じて約140〜160℃で約0.5〜10時間加熱する二次加硫も行われる。
【実施例】
【0014】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0015】
実施例1
NBR(DN302) 100重量部
ホワイトカーボン(Aerosil 200) 70 〃
アルミナ(日本軽金属製品A32:平均粒径1μm、モース硬度9) 5 〃
酸化亜鉛 5 〃
ステアリン酸 1.5 〃
DOS 20 〃
老化防止剤(大内新興化学製品Nocrac 224) 2 〃
硫黄 0.8 〃
加硫促進剤(大内新興化学製品ノクセラーTT) 2 〃
加硫促進剤(大内新興化学製品ノクセラーCZ) 2 〃
以上の各配合成分をニーダおよびオープンロールで混練し、混練物について170℃、20分間のプレス加硫および150℃、4時間のオーブン加硫を行ない、250×120×2mmテストピースを作製した。得られたテストピースを用いて、次の各項目の測定を行った。
常態物性:JIS K-6301準拠
動摩擦係数:表面性測定機(新東化学製品)を用い、4mm径SUS鋼球の摩擦子、荷重50g、移動速度5mm/分の条件下で、製品とした場合の実使用状態を想定し、測定する加硫物表面にJIS潤滑油No.3を塗布して測定
テーバー摩耗:JIS K6264準拠して摩耗容積を測定
0.2〜0.3ccを◎、0.3〜0.4ccを○、0.4〜0.5ccを△、0.6〜0.7ccを× として評価
製品摩擦力:圧力2MPa、ストローク±0.2mmの条件下で、摩擦力を測定
40N以下のものを小、40〜50Nのものを中、50N以上のものを大として評価
製品摩耗:圧力2MPa、ストローク±1mm、100時間の条件下で、摩耗面積を測定
摩耗面積が0.1mm2以下のものを◎、0.1〜0.2mm2のものを○、0.2〜0.3mm2の ものを△、0.3mm2以上のものを×として評価
軸摩耗:圧力2MPa、ストローク±1mm、100時間の条件下で、摩耗深さを測定
摩耗深さが1μm以下のものを◎、1〜2μmのものを○、2〜3μmのものを△、3 μm以上のものを×として評価
【0016】
実施例2
実施例1において、アルミナ量が3重量部に変更されて用いられた。
【0017】
実施例3
実施例1において、アルミナ量が1重量部に変更されて用いられた。
【0018】
実施例4
実施例1において、アルミナ量が10重量部に変更されて用いられた。
【0019】
実施例5
実施例1において、ホワイトカーボン量が65重量部に、またアルミナ量が30重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0020】
実施例6
実施例1において、アルミナの代わりに、炭化ケイ素(屋久島電工製品OY-20;平均粒径0.6μm、モース硬度9)が同量用いられた。
【0021】
実施例7
実施例1において、アルミナの代わりに、炭化タングステン(日本新金属製品WC-F;平均粒径0.6μm、モース硬度9)が同量用いられた。
【0022】
実施例8
実施例1において、アルミナの代わりに、酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業製品UEP;平均粒径0.25μm、モース硬度7.5)が同量用いられた。
【0023】
実施例9
実施例1において、アルミナの代わりに、酸化鉄(Bayer社製品Bayoxide E III;平均粒径0.2μm、モース硬度6)が同量用いられた。
【0024】
実施例10
実施例1において、アルミナの代わりに、酸化チタン(Bayer社製品R-KB-4;平均粒径0.2μm、モース硬度6)が同量用いられた。
【0025】
以上の各実施例で得られた測定結果は、次の表1に示される。
表1
測定項目 10
常態物性
硬さ (JIS A) 80 80 80 81 80 80 80 80 80 80
引張強さ (MPa) 23.8 24.2 24.0 23.5 22.9 24.0 23.7 23.8 23.6 23.5
伸び (%) 340 340 350 330 300 340 320 320 310 310
動摩擦係数 (%) 0.35 0.35 0.35 0.35 0.35 0.35 0.35 0.35 0.35 0.35
テーバー摩耗(cc) ○ ○ △ ◎ ◎ ○ ○ ○ △ △
製品摩擦力 小 小 小 小 小 小 小 小 小 小
製品摩耗 ◎ ◎ △ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○
軸摩耗 ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
【0026】
比較例1
実施例1において、アルミナとして、日本軽金属製品A31(平均粒径5μm、モース硬度9)が同量用いられた。
【0027】
比較例2
実施例1において、アルミナが用いられなかった。
【0028】
比較例3
実施例1において、ホワイトカーボンおよびアルミナが用いられず、FEFカーボンブラックが90重量部用いられた。
【0029】
比較例4
実施例1において、アルミナの代わりに、ケイ酸カルシウム(NYCO社製品NYAD1250;平均粒径4.5μm、モース硬度4.5)が同量用いられた。
【0030】
以上の各比較例で得られた測定結果は、次の表2に示される。
表2
測定項目
加硫物性
硬さ (JIS A) 80 80 80 81
引張強さ (MPa) 23.1 24.1 19.4 23.0
伸び (%) 310 330 250 320
動摩擦係数 (%) 0.35 0.35 0.5 0.35
テーパー摩耗(cc) ○ × ○ ×
製品摩擦力 小 小 大 小
製品摩耗 ◎ × ○ ×
軸摩耗 × ◎ ◎ ◎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NBR100重量部に対し、ホワイトカーボン1〜150重量部および平均粒径2μm以下でかつモース硬度6以上の無機化合物0.5〜50重量部を含有せしめてなるNBR組成物。
【請求項2】
無機化合物が、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、石英粉、窒化チタン、炭化チタンおよび炭化ジルコニウムの少なくとも一種である請求項1記載のNBR組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のNBR組成物から加硫成形されたゴム加硫成形品。
【請求項4】
シール材として用いられる請求項3記載のゴム加硫成形品。

【公開番号】特開2006−37044(P2006−37044A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223190(P2004−223190)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】