説明

NK4遺伝子または組換えNK4蛋白質からなる医薬

【課題】本発明は、癌の原発腫瘍に対し有効な治療剤、より詳細には癌の予防・治療に有効なNK4遺伝子治療剤及び組換えNK4蛋白製剤を提供する。また、本発明は、癌の転移に対しても有効な治療剤、より詳細には癌転移の予防・治療に有効なNK4遺伝子治療剤及び組換えNK4蛋白製剤を提供する。
さらに、本発明は、癌を含む血管新生により生じる疾患に対し有効な治療剤、より詳細には血管新生により生じる疾患に対し有効なNK4遺伝子治療剤及び組換えNK4蛋白製剤を提供する。
【解決手段】配列番号:1または配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAまたは該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含有するDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NK4をコードするDNAを利用して癌または/および血管新生による疾患を予防・治療するための遺伝子治療剤に関する。より詳細には、NK4をコードするDNAを生体の細胞内または/および生体内に導入することにより腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生を抑制する遺伝子治療剤及び遺伝子治療方法に関する。
また、本発明は、遺伝子組換え技術を応用してNK4をコードするDNAを含有する組換え発現ベクター、該組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体、抗癌剤または/および血管新生抑制剤として有用な遺伝子組換えNK4を大量かつ経済的に供給する技術に関する。
さらに、本発明は、癌または/および血管新生による疾患を予防・治療するための組換えNK4蛋白製剤に関する。より詳細には、腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生を抑制する組換えNK4蛋白製剤及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療には、外科的療法、化学療法、放射線療法、あるいはこれらを組み合わせた集学的療法等が行われている。
一方、癌で亡くなる人の多くは、原発腫瘍ではなく、原発腫瘍から遊離した癌細胞が他の臓器に転移することにより命を落とす。
すなわち、原発腫瘍を早期に発見できれば外科的療法により癌を取り除くことは可能であるが、膵臓癌や肺癌のような転移しやすい癌では、原発腫瘍のサイズが小さくても、発見されたときにはすでに目に見えないほどの小さな転移癌を形成していることが多く、これらを外科的に取り除くことは困難である。また、抗癌剤を用いる化学療法や放射線療法は、本来癌細胞を直接殺すことが目的なので、このような治療で原発腫瘍が一時的に小さくなったとしても、耐性癌の再発や、生き残った癌の転移を防ぐことは困難である。さらに、抗癌剤や放射線治療は、癌細胞だけではなく正常細胞をも殺す結果、激しい副作用を伴い患者の生活の質や免疫力を低下させる。
このような致命的な癌転移について満足のいく治療法がないのが現状であり、癌転移の阻止に有効な薬剤の開発が切望されている。
【0003】
癌転移の機構に関しては過去に多くの研究が行われている。癌の多くは上皮組織で発生し、癌細胞が原発腫瘍から離脱し、上皮組織を区切っている基底膜を破り、周囲の組織へ浸潤し、血管やリンパ管に侵入し血液やリンパ液の流れによって遠隔の組織に運ばれ、再び血管やリンパ管から血管新生を伴いながら組織に浸潤・成長し、転移が成立する。
【0004】
癌転移抑制剤の開発にはこれらの各プロセスのいずれかを阻止すればよいと考えることができる。例えば、転移先の血管内皮細胞との接着を抑制する物質[Iwamoto. Y et al., Science, 1132-1134 (1987)]、血管新生阻害剤[Cao.Y et al., J. Clin. Invest., 101, 1055-1063(1988)]、癌細胞の浸潤を抑制する物質(特開平3―31214)、基底膜分解酵素の阻害物質[Irimura. T ,Nakajima. M and Nicolson G.L., Biochemistry, 25, 5322-5328(1989)、特開平5−194414]等が挙げられる。
【0005】
血管新生は既存血管の毛細血管増殖により生じる。血管新生は胚発生、創傷治癒、及び組織又は臓器再生等の多数の生理学的プロセスに不可欠である。一方、腫瘍成長等の病態や、遠位部位への腫瘍内転移では血管新生の異常増殖が生じる。腫瘍血管形成の開始は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF),塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)等によって誘発されることが知られている。
【0006】
HGF(Hepatocyte growth factor)は、マイトゲン活性、モートゲン活性、モルフォゲン活性及び血管新生作用を有し、癌細胞をとりまく間質細胞との総合作用(tumor-stroma relationship)により、腫瘍の浸潤、転移を誘発することが知られている[Nakamura. T et al., Cancer Res., 57, 3305-3313(1997)、Jiang. W.G et al., Crit. Rev. Oncol. Hematol., 29, 209-248(1999)]。HGFは、c−Met/HGF受容体に結合し、チロシンリン酸化により腫瘍の浸潤、転移を誘発する[Jiang. W.G et al., Crit. Rev. Oncol. Hematol., 29, 209-248(1999)]。c−Met/HGF受容体は癌細胞において、しばしば過剰に発現していることが知られている[Di. Renzo et al., Oncogene, 6, 1997-2003(1991)、Di. Renzo et al., Cancer Res., 55, 1129-1138(1995)、Nakajima. M et al., Cancer, 85, 1894-1902(1999)]。
【0007】
最近、癌治療に関し腫瘍休眠療法が注目を浴びている。腫瘍休眠療法とは、血管新生阻害剤を用いて、癌細胞を休眠状態にするものである。血管新生阻害剤は、癌細胞を直接殺傷するのではなく、血管新生を阻害することにより、癌細胞の成長に必要な栄養、酸素の供給経路を絶ち、アポトーシスを誘導し、癌細胞を休眠状態にするものであり、血管新生阻害剤としてアンジオスタチン[Cao.Y et al., J. Clin. Invest., 101, 1055-1063(1988)]、エンドスタチン[Blezinger. P et al., Nat. Biotechnol., 17, 343-348(1999)]等が知られている。
【0008】
NK4は、HGFのα鎖のN末端ヘアピンドメインと4つのクリングルドメインを有し、c−Met/HGF受容体に結合し、HGFのアンタゴニストとして作用する[Date.K et al., FEBS Lett, 420, 1-6(1997)、Date.K et al., Oncogene, 17, 3045-3054(1998)]。HGFアンタゴニスト活性により腫瘍浸潤、転移を抑制し、また、HGFアンタゴニスト活性とは別のメカニズムでHGFだけではなく、VEGFやbFGFによる血管新生をも抑制することが知られている[Kuba. K et al., Cancer. Res., 60, 6737-6743(2000)]。
【0009】
一方遺伝子の生体内に対する導入技術の進歩と共に遺伝子治療という新しい治療分野が確立されようとしている。すでに、癌治療を目的とした遺伝子治療は、多数行われているが、その大半は自殺遺伝子を癌細胞に導入することにより癌細胞を殺傷させることを目的としたものである。しかし、すべての癌細胞で目的の遺伝子を発現させることは困難であり、また、化学療法や放射線療法と同様、一時的な癌の退縮が果たせたとしても、残された癌細胞の浸潤や転移を阻止することはできず、癌の浸潤、転移に対し有望な遺伝子治療法は未だ確立されていない。
【0010】
また、遺伝子治療においては、ウイルスベクターが主に用いられているが、ウイルスベクターは腫瘍細胞特異性がない。従って、腫瘍標的能力のないウイルスベクターは転移性疾患に到達する能力がないので、使用上、直接又は局所投与に限定される。
【0011】
NK4をコードするDNAを用いた遺伝子治療については未だ知られておらず、又、薬理作用を有するか否か、遺伝子治療が可能であるかについても不明であった。
【0012】
また、NK4を蛋白製剤として利用するには大量のNK4が必要とされている。しかしながら、NK4をコードするDNAを発現ベクターに組み込んだ、組換え発現ベクターを形質転換した形質転換体が、生物学的活性を有する該NK4を発現するか否か、遺伝子組換え技術を用いて大量かつ経済的に取得することができるか否かについては知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、癌の原発腫瘍に対し有効な治療剤、より詳細には癌の予防・治療に有効なNK4遺伝子治療剤及び組換えNK4蛋白製剤を提供することを目的とする。また、本発明は、癌の転移に対しても有効な治療剤、より詳細には癌転移の予防・治療に有効なNK4遺伝子治療剤及び組換えNK4蛋白製剤を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、癌を含む血管新生により生じる疾患に対し有効な治療剤、より詳細には血管新生により生じる疾患に対し有効なNK4遺伝子治療剤及び組換えNK4蛋白製剤を提供することを目的とする。
本発明の他の目的はNK4をコードするDNA、該DNAを含有する組換え発現ベクター、該組換え発現ベクターを保持する形質転換体、該DNAを用いる組換えNK4の製造法、該製造法により製造された組換えNK4、NK4とc−Met/HGF受容体との結合活性を促進する物質のスクリーニング方法、該スクリーニング方法により得られる物質、又は、スクリーニングにより得られる物質を含有してなる医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、NK4をコードする配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAを腫瘍組織または/および腫瘍細胞、正常組織または/および正常細胞、又は、生体内に導入することにより、HGFアンタゴニスト活性による腫瘍の浸潤抑制や転移の阻止及びHGFアンタゴニスト活性とは別のメカニズムによる血管新生の抑制により、腫瘍の成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生が抑制されることを見出した。
また、本発明者らは、NK4をコードする配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAを発現ベクターに組み込み、宿主に形質転換させることにより遺伝子組換え技術を応用して大量にかつ経済的に組換えNK4を取得することができ、得られた組換えNK4を卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、乳癌、大腸癌等の予防・治療に用いることができることを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) 配列番号:1または配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAまたは該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含有するDNA、
(2) 配列番号:1または配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAである前記(1)記載のDNA、
(3) 前記(1)または(2)記載のDNAを含有する組換え発現ベクター、
(4) 発現ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40またはプラスミドである前記(3)記載の組換え発現ベクター、
(5) 前記(1)若しくは(2)記載のDNAまたは前記(3)若しくは(4)記載の組換え発現ベクターを含有するリポソーム、
(6) 前記(3)または(4)記載の組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体、
(7) 宿主が細菌、酵母、植物細胞または哺乳動物細胞である前記(6)記載の形質転換体、
(8) 前記(6)または(7)記載の形質転換体を培養し、前記(1)記載のDNAにコードされる蛋白質を生成せしめることを特徴とする前記(1)記載のDNAにコードされる蛋白質の製造法、
(9) 前記(8)記載の製造法により得られた組換え蛋白質、
(10) 前記(1)若しくは(2)記載のDNA、前記(3)若しくは(4)記載の組換え発現ベクター、前記(5)記載のリポソーム、前記(6)若しくは(7)記載の形質転換体または前記(9)記載の組換え蛋白質を含有してなる医薬、
(11) 抗癌剤である前記(10)記載の医薬、
(12) 卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、肉腫、グリオーマまたはメラノーマの予防・治療剤である前記(10)記載の医薬、
(13) 血管新生抑制剤である前記(10)記載の医薬、
(14) 前記(1)若しくは(2)記載のDNA、前記(3)若しくは(4)記載の組換え発現ベクター、前記(5)記載のリポソーム、前記(6)若しくは(7)記載の形質転換体または前記(9)記載の組換え蛋白質と、他の抗腫瘍剤とを組合わせてなる医薬、
(15) 卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、肉腫、グリオーマまたはメラノーマの予防・治療剤である前記(14)記載の医薬、
(16) 哺乳動物に前記(1)若しくは(2)記載のDNA、前記(3)若しくは(4)記載の組換え発現ベクター、前記(5)記載のリポソーム、前記(6)若しくは(7)記載の形質転換体または前記(9)記載の組換え蛋白質の有効量を投与することを特徴とする癌疾患の予防・治療方法、
(17) さらに他の抗腫瘍剤の有効量を投与する前記(16)記載の予防・治療方法、
(18) 哺乳動物に前記(1)若しくは(2)記載のDNA、前記(3)若しくは(4)記載の組換え発現ベクター、前記(5)記載のリポソーム、前記(6)若しくは(7)記載の形質転換体または前記(9)記載の組換え蛋白質の有効量を投与することを特徴とする癌の転移防止方法、
(19) 哺乳動物に前記(1)若しくは(2)記載のDNA、前記(3)若しくは(4)記載の組換え発現ベクター、前記(5)記載のリポソーム、前記(6)若しくは(7)記載の形質転換体または前記(9)記載の組換え蛋白質の有効量を投与することを特徴とする血管新生抑制方法、
(20) 前記(1)記載のDNAにコードされる蛋白質とc−Met/HGF受容体を用いることを特徴とする前記(1)記載のDNAにコードされる蛋白質のc−Met/HGF受容体に対する結合活性を促進する物質のスクリーニング方法、
(21) 前記(20)記載のスクリーニング方法を用いて得られる、請求項1記載のDNAにコードされる蛋白質のc−Met/HGF受容体に対する結合活性を促進する物質、
(22) 前記(21)記載の物質を含有してなる医薬、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のNK4をコードするDNA、該DNAを含有する組換え発現ベクター、該DNAを含有する人工ベクター、該DNAを含有する組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体を含有する医薬によれば、ヒト又はマウス、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ等の動物に対し、腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制により、高い抗腫瘍性を発揮し得、癌疾患の予防・治療に有用である他、血管新生による疾患の予防・治療においても有用である。
また、本発明のNK4をコードするDNA、該DNAを含有する組換え発現ベクター、該DNAを含有する人工ベクター、該DNAを含有する組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体を含有する医薬を腫瘍組織又は腫瘍細胞内に投与すれば、高い濃度でNK4を存在させることができ、治療の効果があがる。一方、NK4をコードするDNA、該DNAを含有する組換え発現ベクター、該DNAを含有する人工ベクター、該DNAを含有する組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体を含有する医薬によれば、生体内の組織又は細胞内で産生されたNK4が他の組織又は細胞に作用し、原発腫瘍だけではなく、転移癌に対しても浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制効果を奏することができる。
さらに、NK4は生体中に存在するHGFの断片であることから、導入するDNA及び産生される蛋白質の免疫拒絶反応を抑えることができ、安全性が高いといえる。
従って、本発明は、癌または/および血管新生による疾患の遺伝子治療に大いに貢献することができる。
【0017】
また、NK4をコードするDNAを含有する組換え発現ベクターを宿主に導入することにより、今まで困難であった生物学的活性を有する組換えNK4を大量、安定かつ容易に生産することが可能となり、組換えNK4による腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制により、癌または/および血管新生による疾患の予防・治療剤、及び、癌の転移防止剤として大いに貢献することができる。
【0018】
さらに、本発明のNK4とc−Met/HGF受容体との結合活性を促進する物質のスクリーニング方法、該スクリーニング方法を用いて得られる物質、又は、スクリーニングにより得られる物質を含有してなる医薬は、本発明の組換えNK4又はそれをコードするDNA、該DNAを含有する組換え発現ベクター、該DNAを含有する人工ベクター、該DNAを含有する組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体、形質転換体により産生された組換えNK4を含有する抗癌剤及び血管新生抑制剤の効果をさらに有用なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
配列番号:1で表される塩基配列は、NK4をコードするDNAの一例である。NK4は、HGFのα鎖のN末端ヘアピンドメインと4つのクリングルドメインからなる蛋白質をいう。NK4は、c−Met/HGF受容体に結合し、HGFアンタゴニスト活性により腫瘍の浸潤、転移を抑制する。また、HGFアンタゴニスト活性とは別のメカニズムで、血管新生抑制作用を有する。
【0020】
配列番号:2で表される塩基配列は、NK4をコードするDNAの一例である。配列番号:2で表される塩基配列は配列番号:1で表される塩基配列の391番目から405番目までの塩基が欠失しているものである。配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAにより産生される蛋白質もHGFアンタ
ゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有する。
【0021】
本発明においては、上記の配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAの他にも、該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも本発明のNK4をコードするDNAの範囲内である。すなわち、種々の人為的処理、例えば、部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断によるDNA断片の変異、欠失、連結等により、部分的にDNA配列が変化したものであっても、これらDNA変異体が配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有する蛋白質を産生できれば本発明のNK4をコードするDNAの範囲内ものである。
具体的には、一般に1つのアミノ酸に対して複数種の遺伝暗号が存在するため、配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAとは異なる塩基配列を含有するDNAであっても、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有する蛋白質を産生できれば本発明のNK4をコードするDNAの範囲内のものである。
【0022】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、上記DNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。
具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0M程度の塩化ナトリウム存在下、約65℃程度でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍程度の濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムよりなる)を用い、約65℃程度の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University(1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
上記の配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列とハイブリダイズするDNAとして具体的には、配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAの塩基配列と少なくとも約70%以上の相同性を有するDNA、好ましくは約80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは約90%以上の相同性を有するDNA、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
【0023】
また、前記した配列番号:1又は配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされる蛋白質であって、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有する蛋白質もまた本発明のNK4の範囲内である。
すなわち、NK4のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または/および付加されたアミノ酸配列を有するものであっても、HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有する蛋白質は本発明のNK4の範囲内である。
かかる蛋白質は、Molecular Cloning、A laboratory Manual Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Products in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409(1982)、Gene, 34, 315(1985)、Nucleic Acids Resarch, 13, 4431(1985)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 82, 488(1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、上記HGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制活性を有する蛋白質をコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより製造することができる。
欠失、置換または/および付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、1個から数十個、好ましくは1個から30個、さらに好ましくは1個から10個、特に1個から数個のアミノ酸であることが好ましい。また、欠失、置換または/および付加される塩基の数は特に限定されないが、1個から数十個、好ましくは1個から90個、さらに好ましくは1個から30個、特に1個から数個の塩基であることが好ましい。
また、N末端アミノ酸として修飾アミノ酸残基ピログルタメートを有するものも本発明のNK4の範囲内である。
【0024】
なお、以下の遺伝子工学又は生物工学の基本操作については、市販の実験書、例えば、遺伝子マニュアル 講談社、高木康敬編 遺伝子操作実験法 講談社、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring harbor Laboratory)(1982)、モレキュラー・クローニング第2版(Molecular Cloning, 2nd ed.)、コールドスプリング・ハーバーラボラトリー(Cold Spring harbor Laboratory)(1989)、メッソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),194 (1991)、実験医学別冊・酵母による遺伝子実験法 羊土社(1994)等に記載された方法に従って行うことができる。
【0025】
まず第一に、前記したNK4をコードするDNAを得る必要がある。NK4をコードするDNAは、例えば、以下のようにして得ることができる。
例えば、公知のHGFの塩基配列に基づいたプライマーを調整し、ヒトの組織又は細胞に含まれるHGF mRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーから選択したHGFcDNAを鋳型として、PCR法[PCR Protocols, Academic Press (1990)]を用いてDNAの増幅を行い、上記のNK4をコードするDNAを取得することができる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミド等いずれであってもよい。また、ヒトの組織又は細胞に含まれるmRNAから直接RT−PCR法によって増幅することもできる。また、公知のHGFの塩基配列情報から従来公知の方法を用いて化学合成により得ることもできる。化学合成法としては、例えば、フォスフォアミダイト法を利用したDNA合成機 model 392(パーキン・エルマー株式会社製)等のDNA合成機で化学合成する方法が挙げられる。
【0026】
また、公知のHGFのアミノ酸配列をコードするDNAの部分塩基配列を有する合成DNAプライマーを用いて、PCR法によって、cDNAライブラリーから目的とするDNAを増幅する方法、又は、HGFのDNA断片若しくは合成DNAを標識したもの(プローブ)とのハイブリダイゼーションによって選別する方法等が挙げられる。
【0027】
次に、上記のようにして得られたNK4をコードするDNAを含有する組換え発現ベクターを構築する。本発明の組換え発現ベクターは上記NK4をコードするDNAと該DNA発現のための発現ベクターから構成される。
【0028】
NK4をコードするDNAは、上記に記載した方法によって得ることができる。
NK4をコードするDNAは、そのまま、あるいは、所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加して使用することができる。該DNAは5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終始コドンとしてのTAA,TAGまたはTGAを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終始コドンは、適当なDNAアダプターを用いて該DNAに付加することができる。さらに、5’末端側には、ポリアデニル化配列を有していることが好ましい。
【0029】
発現ベクターは、NK4をコードするDNAを発現させるため、または発現に有利になるように、通常は、発現ベクターに調節配列を付加したものである。各々の調節配列はベクターに対して内在性であっても外来性であってもよい。
このような調節配列としては、シグナル配列、プロモーター、プロペプチド配列、エンハンサー、選択マーカー、ターミネーター等を挙げることができるが、これらに限定されない。調節配列には、NK4をコードするDNAとの連結、及び上記調節配列の間の連結が容易になるように、リンカーをもたせることもできる。
【0030】
なお、シグナル配列を組み込むことにより、生体細胞内又は宿主細胞内に産生されたNK4を生体細胞外又は宿主細胞外に分泌することができる。すなわち、シグナル配列によりNK4がシグナルペプチドを付加した形で産生することとなり、その結果、NK4を生体細胞外又は宿主細胞外に分泌することができる。NK4は分泌蛋白質であり、生体外にNK4を分泌させるためにはシグナル配列は必須である。このシグナル配列により、NK4は積極的に細胞外へ分泌されて、当該細胞以外の遠く離れた細胞に対しても、NK4により腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生を抑制することができる。
シグナル配列を付加する方法としては、自体公知の方法を用いて行うことができ、例えば、J. Biol. Chem., 264, 17619 (1989)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989)、Genes Develop., 4, 1288 (1990)、特開平5−336963、WO94/23021等に記載の方法が挙げられる。
シグナル配列は好ましくは宿主細胞により認識され、かつ、プロセシングされるものである。宿主がエッシェリシア属(Escherichia)である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列等が、宿主がバチラス属(Bacillus)である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列等が、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列等が、宿主が哺乳動物細胞である場合には、HGF・シグナル配列、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列等がそれぞれ利用できる。本発明においては、特に、ヒト由来のHGFシグナル配列を利用するのが好ましい。
【0031】
プロモーターは、翻訳開始コドンの上流に位置する非翻訳配列であり、特定のDNAの転写をコントロールする。
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、宿主がエッシェリシア属(Escherichia)である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター等が、宿主がバチラス属(Bacillus)である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等が、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が好ましい。
また、哺乳動物細胞を宿主として用いる場合は、ラウス肉腫ウイルス(ウイルスRSV)、MPSV、ポリオマーウイルス、鶏頭ウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(SMV)、B型肝炎ウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、ワクシニアウイルス等のウイルスゲノムから得られるプロモーター、メロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。また、高等哺乳動物宿主を用いる際には、好ましくは、ベクターにエンハンサーを導入する。エンハンサーを導入することにより転写が増大する。エンハンサーとしては、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルスの初期プロモーター/エンハンサー、ポリオマーエンハンサー、アデノウイルスのエンハンサー等が挙げられる。
【0032】
選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。特に、CHO(DHFR)細胞を用いてDHFR遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。
【0033】
組換え発現ベクターは、一般的には、細菌、酵母、糸状菌、植物細胞、哺乳動物細胞等で蛋白質を発現させることのできるDNAあるいはRNAウイルスベクターやプラスミドベクターを用いて、構築することができる。組換え発現ベクターは、例えば、目的とするNK4をコードするDNAを適当な発現ベクターに連結することにより構築することができる。組換え発現ベクターは、公知技術[Molecular Cloning、Cold Spring harbor Laboratory、A laboratory manual(1989)]に従って構築することができる。
【0034】
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、例えば、pCR4、pCR2.1、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等が、枯草菌由来のプラスミド、例えば、pUB110、pTP5、pC194等が、酵母由来プラスミド、例えば、pSH19、pSH15等が、λファージ等のバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス等の他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等が用いられる。
【0035】
上記のNK4をコードするDNA、該DNAを含有する組換え発現ベクター又は該DNAを含有する人工ベクター(例えば、リポソーム)は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)に対して投与することができる。
遺伝子治療に用いる際には、ヒトを含む哺乳動物の細胞内で蛋白質を発現でき、かつ、安全性の高いDNA若しくはRNAウイルスベクター又はプラスミドベクターを用いるのが好ましい。
【0036】
遺伝子治療において好ましいウイルスベクターとしては,アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40等が挙げられる。
【0037】
より好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)若しくはアデノウイルスが挙げられる。アデノウイルスには種々の血清型が存在するが、本発明では2型若しくは5型ヒトアデノウイルスを使用することが好ましい。アデノウイルスは、感染効率が他のウイルスベクターに比べて高いこと、分裂していない細胞に感染することができること及び細胞のゲノムに組み込まれないことが知られており、この観点からアデノウイルスベクターを用いることはさらに好ましい。
【0038】
ウイルスベクターはウイルス遺伝子を完全又はほぼ完全に欠失する複製欠失ウイルスが好ましい。アデノウイルスベクターは少なくともE1領域が非機能的であることが好ましい。また、他の領域も改変してよく、特にE3領域(WO95/02697)、E2領域(WO94/28938)、E4領域(WO94/28152、WO94/12649、WO95/02697)又は後期遺伝子L1からL5の任意のものを改変することができる。複製欠失ウイルスのような改変ウイルスベクターは、自体公知の方法により作成することができる。また、改変ウイルスベクターは、自体公知の方法により回収・精製することができる。なお、例えば、特表平11−514866、特表平11−506311、特表平9−500524、特表平8−501703、特表平8−508648、特開平8−308575等の改変ウイルスベクターを用いることもできる。
【0039】
これらの改変ウイルスベクターにNK4をコードするDNAを導入し、生体内又は細胞に感染させることによって、生体内又は細胞内に遺伝子を導入することが可能である。
ウイルスベクターの調整法、遺伝子の導入方法は、別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社(1996)、あるいは、別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社(1997)等に記載されている。
【0040】
発現ベクターを裸のプラスミドとしてin vivo導入することもできる。遺伝子治療において好ましいプラスミドとしては、pCAGGS[Gene,108,193-200(1991)]、pBK−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラジーン社)、特表平11−511009等が挙げられる。遺伝子治療用の裸のプラスミドは、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、遺伝子銃で担体(金属粒子)とともにDNAを細胞内に導入する方法等、自体公知の方法により細胞に導入することができる[Wu et al.,J. Blol. Chem. 267, 963-967(1992)、Wu et al.,J. Blol. Chem. 263, 14621-14624, (1988)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 88, 2726-2730 (1991)]。
【0041】
また、人工的なベクターとしては、リポソーム、マイクロカプセル、サイトフェクチン、DNA―蛋白質複合体、バイオポリマー等が挙げられる。
【0042】
リポソームとは、内部に水層を有する脂質二重膜でできた閉鎖小胞体であり、その脂質二分子膜構造は生体膜に極めて近似していることが知られている。リポソームを製造するに際し使用されるリン脂質としては、例えば、レシチン、リゾレシチン等のホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール等の酸性リン脂質、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質等が挙げられる。また、コレステロール等を添加することもできる。リポソームは、自体公知の方法に従って製造することができる。リポソームには、膜融合リポソーム、HVJ―膜融合リポソーム[Kaneda. Y et al., Biol. Chem, 264, 12126-12129(1989)、Kato. K et al., Biol. Chem, 266, 3361-3364(1991)、Tomita. N et al., Biochem. Biophys. Res., 186, 129-134, (1992)、Tomota. N et al., Cric. Res., 73, 898-905(1993)]、陽イオン性リポソーム(特表平2000−510151、特表平2000−516630)等が知られている。センダウイルス(HVJ)と融合させたHVJ―膜融合リポソームを用いることは、特に好ましい。リポソームの表面にHVJの糖タンパクを組み込み又は共有結合させてポリエチレングリコール等を添加すると、細胞への遺伝子導入効率があがる。
NK4をコードするDNAにシグナル配列、プロモーター及びポリアデニル化配列を付加したDNAをリポソーム中に含有させることにより、本発明の遺伝子治療剤とすることができる。また、組換え発現ベクターをリポソーム中に含有させることにより、本発明の遺伝子治療剤とすることもできる。
リポソームを用いてDNAを導入する方法には、リポソーム法、HVJ−リポソーム法、陽イオン性リポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法等が挙げられる。
【0043】
マイクロカプセルはフィルムコートされた粒子であり、膜形成ポリマー誘導体、疎水性可塑剤、表面活性剤または/および潤滑剤窒素含有ポリマーの混合物からなるコーティング材料でコートされた粒子等で構成される。特表2000−500744等は、遺伝子治療に好適に使用される。
NK4をコードするDNAにシグナル配列、プロモーター及びポリアデニル化配列を付加したDNAをマイクロカプセル中に含有させることにより、本発明の遺伝子治療剤とすることができる。また、組換え発現ベクターをマイクロカプセル中に含有させることにより、本発明の遺伝子治療剤とすることもできる。
【0044】
NK4コードするDNAを含有する組換え発現ベクターを宿主細胞へ導入した形質転換体を本発明の遺伝子治療剤とすることもできる。宿主としては、ビフィズス菌、乳酸菌、酵母、糸状菌等を用いることができる。好ましくは、ビフィズス菌、乳酸菌を用いる。ビフィズス菌としてはBifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve等が挙げられる。乳酸菌としては、ラクトバチラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptoccoccus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)等が挙げられる。また、これらの形質転換体をカプセルに含有させて本発明の遺伝子治療剤とすることもできる。
カプセルの形状は、好ましくは3層構造を使用する。3層構造の場合、形質転換体が最内層であり、この形質転換体を被覆する中間層が親油性の膜であり、最外層が必要に応じて口中溶解性の外皮膜、胃溶解性の外皮膜、小腸溶解性の外皮膜、大腸溶解性の外皮膜等を選択できる。最内層は形質転換体と必要に応じ水、整理食塩水、緩衝液、培養液等である。中間層の親油性の膜としては動物性油脂、植物性油脂、それらの生物学的若しくは化学的に処理された油脂等が用いられる。外皮膜としては、天然高分子皮膜、例えば、ゼラチン、寒天、ペクチン、アルギン酸等、又は必要に応じ、これらに蛋白質、糖蛋白、ムコ多糖、糖、糖アルコール、多価アルコール等を添加した物質から得られる高分子皮膜が好ましい。これらのカプセルは公知方法に従って製造される。
【0045】
本発明の遺伝子治療剤の患者への導入方法としては、遺伝子治療剤を直接体内に導入するin vivo法及びヒトからある種の細胞を取り出して体外でDNAを該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法がある[日経サイエンス、4月号、20−45(1994)、月間薬事、36、23−48(1994)、実験医学増刊、12、15(1994)]。本発明では、in vivo法が好ましい。
【0046】
in vivo法により投与する場合は、治療目的の疾患、標的臓器などに応じた適当な投与経路により投与される。例えば、病変の認められる組織に直接腫瘍内投与若しくは局所投与するか又は静脈、動脈、皮下、筋肉内、腹腔内、内視鏡的、エアロゾル的等により投与することも可能である。投与方法としては静脈内又は腹腔内投与が好ましい。また、病変の見られる組織、特に腫瘍への直接注射も好ましい。核磁気共鳴撮像又はコンピューター断層撮影等の当該技術分野で利用できる任意のものを使用して腫瘍を撮影し、例えば、定位注射により本発明の遺伝子治療剤を投与することができる。
【0047】
なお、NK4をコードするDNAにシグナル配列を付加することにより、分泌蛋白質となり、腫瘍組織内若しくは腫瘍細胞内又は局所投与する必要は必ずしもなく、細胞内で産生、分泌された蛋白質が遠く離れた標的臓器に作用し、腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制作用を生ずる。従って、腫瘍組織以外の正常組織内又は正常細胞内への投与も可能である。なお、ヒトに投与する場合は静脈内投与又は筋肉内投与が好ましい。
【0048】
製剤形態としては、上記の各投与形態にあった種々の製剤形態をとることができる。例えば、有効成分である本発明のDNAを含有する注射剤とした場合、当該注射剤は常法により調整することができる。遺伝子治療剤に用いる基剤としては、通常注射剤に用いる基剤であれば、特に制限されず、蒸留水、塩化ナトリウム、又は塩化ナトリウムと無機塩等との混合物の塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコース等の溶液、グリシン、アルギニン等のアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液等が挙げられ得る。また、常法に従い、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、ゴマ油、ダイズ油等の植物油又はレシチン若しくは非イオン性界面活性剤等の界面活性剤等の助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調整してもよい。これらの注射剤を粉末化、凍結乾燥等の操作により用事溶解用製剤とすることもできる。
【0049】
また、HVJ−リポソーム等のリポソーム製剤においては、例えば、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤の形態とすることができる。
さらに、マイクロカプセル製剤においては、疾患部位の周囲に遺伝子を存在し易くするために、例えば徐放製の製剤を調整し、経口製剤としたり又は患部、皮下、筋肉内等に埋め込むこともできる。
【0050】
製剤中のDNAの含量は、治療目的の疾患、投与部位、投与回数、所望治療期間、患者の年齢、体重等により異なり、適宜調整することができるが、通常癌患者(体重60kgとして)においては一般にNK4をコードするDNAの重量にして約0.01〜2000mg、好ましくは0.1〜100mgである。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
以上のような本発明のNK4遺伝子治療剤は、癌または/および血管新生による疾患の予防・治療剤として、及び、癌の転移防止剤として使用することができる。従って、本発明のNK4遺伝子治療剤は腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制に使用することができる。また、本発明のNK4遺伝子治療剤は腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制方法を提供することができる。
【0051】
対象疾患の癌としては、例えば、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、子宮癌、胆管癌、膵島細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、精巣癌、睾丸腫瘍、甲状腺癌、皮膚癌、悪性カルチノイド腫瘍、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、メラノーマ、グリオーマ等が挙げられるが、なかでも卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、肉腫、メラノーマ又はグリオーマが好ましく、特に、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌が好ましい。
【0052】
血管新生による疾患としては、例えば、リウマチ性関節炎、乾癬、オスラー−ウェバー(Osler-Webber)症候群、心筋の脈管形成、末梢血管拡張症、血友病性関節炎、眼の脈管形成疾患(例えば、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、老人黄班部変性、角膜移植拒絶、血管新生緑内障、水晶体後繊維増殖症、又はペルオーシス等)、血管繊維腫、良性腫瘍(例えば、血管腫、聴神経腫、神経繊維腫、トラコーマ、化膿性肉芽腫等)、白血病を含む造血器腫瘍、固形腫瘍、腫瘍転移、創傷肉芽形成等が挙げられる。
【0053】
また、本発明のNK4遺伝子治療剤は、他の抗腫瘍剤等と組み合わせて用いることができる。一般的には作用機序の異なる数種類の抗腫瘍剤と組み合わせて用いることが好ましい。
他の抗腫瘍剤としては、例えば、アルキル化剤、各種代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、その他の抗腫瘍剤、抗腫瘍性植物成分、BRM(生物学的応答性制御物質)、細胞接着阻害剤、マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤、ホルモン、ビタミン、抗菌性抗生物質又は化学療法剤等が挙げられる。
【0054】
より具体的には、アルキル化剤として、例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN−オキシド、クロラムブチル等のアルキル化剤、例えば、カルボコン、チオテパ等のアジリジン系アルキル化剤、例えば、ディブロモマンニトール、ディブロモダルシトール等のエポキシド系アルキル化剤、例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンハイドロクロライド、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ラニムスチン等のニトロソウレア系アルキル化剤、ブスルファン、トシル酸インプロスルファン、ダカルバジン等が挙げられる。
各種代謝拮抗剤としては、例えば、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、チオイノシン等のプリン代謝拮抗剤、フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン、エノシタビン等のピリミジン代謝拮抗剤、メトトレキサート、トリメトレキサート等の葉酸代謝拮抗剤等、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
抗腫瘍性抗生物質としては、例えば、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、THP−アドリアマイシン、4’−エピドキソルビシン、エピルビシン等のアントラサイクリン系抗生物質抗腫瘍剤、クロモマイシンA3 、アクチノマイシンD等、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
その他抗腫瘍剤しては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、タモキシフェン、カンプトテシン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、L−アスパラギナーゼ、アセクラトン、シゾフィラン、ピシバニール、ウベニメクス、クレスチン等、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。また、プロカルバジン、ピポブロマン、ネオカルチノスタチン、ヒドロキシウレア等も挙げることができる。
抗腫瘍性植物成分としては、例えば、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン等のビンカアルカロイド類、エトポシド、テニポシド等のエピポドフィロトキシン類、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
BRMとしては、例えば、腫瘍壊死因子、インドメタシン等、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
細胞接着阻害剤としては、例えば、RGD配列を有する物質、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
マトリックス・メタロプロテアーゼ阻害剤としては、例えば、マリマスタット、バチマスタット等、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
ホルモンとしては、例えばヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プラステロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、オキシメトロン、ナンドロロン、メテノロン、ホスフェストロール、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、メドロキシプロゲステロン等、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
ビタミンとしては、例えば、ビタミンC、ビタミンA等、及び、その塩若しくは複合体が挙げられる。
【0055】
また、本発明のNK4遺伝子治療剤は、外科的療法や放射線療法と組み合わせて用いることもできる。放射線療法には、ガンマ線照射、X線照射、UV照射、マイクロ波照射、電子線照射等が挙げられる。
【0056】
従って、本発明のNK4遺伝子治療剤は、他の抗腫瘍剤等または/および外科的療法や放射線療法と組み合わせた癌または/および血管新生による疾患の予防・治療剤として、及び、癌の転移防止剤として使用することができる。従って、本発明のNK4遺伝子治療剤は、他の抗腫瘍剤等または/および外科的療法や放射線療法と組み合わせた腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制に使用することができる。また、本発明のNK4遺伝子治療剤は、他の抗腫瘍剤等または/および外科的療法や放射線療法と組み合わせた腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制方法を提供することができる。
【0057】
本発明はNK4をコードするDNAを含有する組換え発現ベクターを宿主に形質転換することにより、遺伝子組換え技術を応用して大量かつ経済的に組換えNK4を取得することができる。
【0058】
NK4をコードするDNAを含有する組換え発現ベクターは、宿主細胞へ導入され、形質転換体が構築される。
組換え発現ベクターを宿主へ導入する方法としては、自体公知の方法であればいずれも用いることができる。例えば、コンピテント細胞法[J. Mol. Biol., 53, 154(1970)]、DEAEデキストラン法[Science, 215, 166, (1982)]、インビトロパッケージング法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 72, 581(1975)]、ウイルスベクター法[Cell, 37, 1053, (1984)]、マイクロインジェクション法[Exp. Cell. Res., 153, 347(1984)]、エレクトロポレーション法[Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法[Science, 221, 551(1983)]、リポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 84, 7413 (1987)]、プロトプラスト法[特開昭63−2483942、Gene, 17, 107, (1982)、Molecular & General Genetics, 168, 111 (1979)]に記載の方法等を挙げることができる。
【0059】
宿主としては、細菌、酵母、糸状菌、植物細胞、哺乳動物細胞等が挙げられる。例えば、細菌としては、エッシェリシア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、バチラス属 (Bacillus)、ラクトバチラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、ストレプトコッカス属(Streptoccoccus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)等が挙げられる。
酵母としては、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、NCYC1913、NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)、パン酵母等が挙げられる。
糸状菌としては、アスペルギルス属(Asperugillus)、ペニシリウム属(Penicillium)等が挙げられる。
植物細胞としては、ワタ、トウモロコシ、ポテト、ソラマメ、ペチュニア、トマト、タバコ等が挙げられる。
哺乳動物細胞としては、マウスC127細胞、チャイニーズハムスターCHO細胞、サルCOS細胞、マウス細胞BALB/3T3、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒト細胞HeLa、ヒトFL細胞、ヒト胎児腎臓由来の293細胞[実験医学、12、316(1994)]等が挙げられる。
【0060】
得られた形質転換体は、組換えNK4を産生するためにその宿主に応じた適切な培地中で培養される。培地中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、無機物、ビタミン、血清及び薬剤等が含有される。
形質転換体の宿主が大腸菌の場合、LB培地(日水製薬)、M9培地[J. Exp. Mol. Genet., Cold Spring Laboratory, New York,431(1972)]等が、宿主が酵母の場合YEPD培地[Genetic Engineering, vol. 1, Plenum Press, New York, 117(1979)] 等が、宿主が動物細胞の場合、20%以下のウシ胎仔血清を含有するMEM培地、DMEM培地、PRMI1640培地(日水製薬)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。形質転換体の培養は、通常20℃〜45℃、pHは5〜8の範囲で行われ、必要に応じて通気、攪拌が行われるがこれらに限定されるものではない。また、宿主が接着性の動物細胞等の場合は、所望によりガラスビーズ、コラーゲンビーズ、アセチルセルロースフォローファイバー等の担体が用いられる。
【0061】
組換えNK4を産生している形質転換体は、その培養液上清中に組換えNK4を分泌することから、この形質転換体の培養上清を用いて組換えNK4の抽出を行うことができる。また、形質転換体中に産生された組換えNK4の抽出を行うこともできる。蛋白質を培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームまたは/および凍結融解等によって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により組換えNK4の粗抽出液を得る方法等が適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジン等の蛋白質変性剤や、トリトンX−100TM等の界面活性剤が含まれていてもよい。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれる組換えNK4の精製は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析法、限外濾過法、ゲル濾過法、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法等の等電点の差を利用する方法等が用いられる。
かくして得られた組換えNK4は、塩の形であっても本発明の範囲内である。
【0062】
本発明により産生された組換えNK4は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)に対して投与することができる。
組換えNK4を含有する抗癌剤又は血管新生抑制剤は、種々の製剤形態、例えば、液剤、固形剤、カプセル剤等をとり得るが、一般的には有効成分である組換えNK4のみ又はそれと慣用の担体とともに注射剤とされるか、慣用の担体とともに経口剤とされるか、又は徐放剤とされる。当該注射剤は常法により調整することができ、例えば、組換えNK4を適切な溶媒、例えば、滅菌水、緩衝液、生理食塩水等に溶解した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調整することができる。注射剤中の組換えNK4の含量としては、通常、癌患者(体重60kgとして)においては約0.01〜5.0(W/V%)に調整される。また、経口剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、軟又は硬カプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤等の剤形に製剤化される。徐放剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、軟又は硬カプセル剤、マイクロカプセル等の剤形に製剤化される。これらの製剤は、製剤化の常法に準じて調整することができる。製剤中の組換えNK4の含量は、剤形、適用疾患等に応じて適宜調整することができる。
製剤化に際して、好ましくは安定化剤が添加され、安定化剤としては、例えば、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、マンニトール、グルコース、デキストラン、エチレングリコール等が挙げられる。さらに、本発明の製剤は製剤化に必要な添加物、例えば、賦形剤、溶解補助剤、酸化防止剤、無痛化剤、等張化剤等と配合してもよい。液状製剤とした場合は、凍結保存又は凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥剤は、用事に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。また、徐放剤とした場合は、徐放用担体として例えば、可溶性コラーゲン又は可溶性コラーゲン誘導体、ゼラチン等の蛋白質、セラミックス多孔体、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、キチン又はキチン誘導体、水膨潤性高分子ゲル等を使用することができる。
本発明の製剤は、該製剤の形態に応じた適切な投与経路により投与され得る。例えば、注射剤の形態にして静脈、動脈、皮下、筋肉内等に投与することができる。また、徐放剤の形態にして生体内、例えば患部、皮下、筋肉内等に埋め込むことにより投与することができる。投与量は、患者の症状、年齢、体重等により適宜調整されるが、通常癌患者(体重60kgとして)においては組換えNK4として約1mg〜300mg、好ましくは約10mg〜100mgであり、これを1日1回ないし数回に分けて投与するのが適当である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0063】
本発明の組換えNK4蛋白製剤は、癌または/および血管新生による疾患の予防・治療剤、及び、癌の転移防止剤として使用することができる。従って、本発明の組換えNK4蛋白製剤は腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制に使用することができる。また、本発明の組換えNK4蛋白製剤は腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制方法を提供することができる。癌及び血管新生による疾患には、上記した疾患が挙げられる。
また、本発明の組換えNK4蛋白製剤は、他の抗腫瘍剤等と組み合わせて用いることができる。他の抗腫瘍剤には、上記した抗腫瘍剤等が挙げられる。
さらに、本発明の組換えNK4蛋白製剤は、外科的療法や放射線療法と組み合わせて用いることもできる。
従って、本発明の組換えNK4蛋白製剤は、他の抗腫瘍剤等または/および外科的療法や放射線療法と組み合わせた腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制に使用することができる。また、本発明の組換えNK4蛋白製剤は、他の抗腫瘍剤等または/および外科的療法や放射線療法と組み合わせた腫瘍の浸潤抑制、成長抑制、転移抑制、アポトーシス誘導または/および血管新生抑制方法を提供することができる。
【0064】
本発明のスクリーニング方法は、
(1)前記したNK4をコードするDNA又はNK4を用いることを特徴とするNK4の活性を促進する物質のスクリーニング方法A、より具体的には、
(2)NK4とc−Met/HGF受容体を用いることを特徴とするNK4のc−Met/HGF受容体に対する結合活性を促進する物質のスクリーニング方法Bである。
【0065】
より具体的には、本発明のスクリーニング方法Bは、NK4とc−Met/HGF受容体とを接触させた場合における、NK4のc−Met/HGF受容体に対する結合活性を測定し、比較することを特徴とするNK4のc−Met/HGF受容体に対する結合活性を促進する物質のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法に用いるc−Met/HGF受容体(NK4と結合する限り、c−Met/HGF受容体の部分ペプチドであってもよい)としては、公知のc−Met/HGF受容体[Rodrigues G.A et al., Mol. Cell Biol., 11, 2962-2970(1991)、Park. M et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 84, 6379-6383 (1987)]を用いることができる。
【0066】
本発明のスクリーニング方法Bを用いて得られる物質は、NK4のc−Met/HGF受容体に対する結合活性を促進する化合物であり、ペプチド、蛋白質、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、DNA等である。
本発明のスクリーニング方法Bを用いて得られる物質は、NK4のc−Met/HGF受容体に対する結合活性を促進することによりNK4の活性を促進することができるので、NK4の活性促進剤などの安全で低毒性な医薬として使用することができる。従って、上記したNK4をコードするDNA、該DNAを含有する組換え発現ベクター、該DNAを含有する人工ベクター、該DNAを含有する組換え発現ベクターで形質転換した形質転換体又は形質転換体により産生された組換えNK4を含有する医薬と組み合わせて、癌の予防・治療剤、血管新生抑制剤として使用することができる。
また、本発明のスクリーニング方法Bを用いて得られる物質は、抗癌作用、血管新生抑制作用等を有していてもよく、そのような場合には、例えば、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、子宮癌、胆管癌、膵島細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、精巣癌、睾丸腫瘍、甲状腺癌、皮膚癌、悪性カルチノイド腫瘍、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、メラノーマ、グリオーマ等の予防・治療剤、血管新生抑制剤として使用することができる。なかでも卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、肉腫、メラノーマ又はグリオーマが好ましく、特に、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、乳癌、大腸癌の予防・治療剤、血管新生抑制剤として使用することができる。
【0067】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる物質を上記の医薬として使用する場合、常法に従って製剤化し、使用することができる。例えば、該物質は、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、あるいは水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用することができる。例えば、該物質を生理学的に認められる慣用の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等とともに経口剤とされるか又は慣用の担体とともに注射剤として常法に従い製造することができる。
また、上記医薬組成物は、例えば、緩衝剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、酸化防止剤等と配合してもよい。
さらに、上記医薬組成物は適当な薬剤と組み合わせて、例えばc−Met/HGF受容体が高発現している臓器や組織を特異的なターゲットとしたDDS製剤として使用することもできる。
このようにして得られる医薬組成物は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)に対して投与することができる。
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる物質の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法等により差異はあるが、経口投与の場合、癌患者(体重60kg)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法等によっても異なるが、例えば注射剤の形では、通常癌患者(体重60kg)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好ましい。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0068】
実施例
以下、本発明の実施例を説明するが、以下の開示は本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明の技術的範囲を何等限定するものではない。
実施例1 NK4cDNAの作製
ヒトのMRC−5線維芽細胞からFast Track mRNA isolation kit (Invitrogen)を使用し、mRNAを単離し、これを使用してRT−PCR(reverse transcription / polymerase chain reaction)を行い、NK4cDNAを単離した。具体的には、mRNA溶液0.5μl(150ng)、10×RT−PCR溶液[500mM KCl、 100mM トリス−HCl(pH9.0)、1% Triton X −100、15mM MgCl]5μl、dNTP (2.5mM) 4μl、プライマー:1(10mM)2μl、プライマー:2(10mM)2μl、Taqポリメラーゼ(Takara) 0.5μl、RNasin (Promega) 0.5μl、逆転写酵素(Takara) 0.5μl及びDEPC処理HO 35.2μlを混合し、42℃ 30分、95℃ 5分で逆転写反応を行い、94℃ 30秒、55℃ 1分、72℃ 1分のサイクルを40回繰り返し、さらに72℃ 7分間反応させNK4cDNAを得た。このようにして得られたNK4cDNAをTA Cloning Kit (Invitrogen)を使用してpCRIITMベクターにクローニングし、pCRII/NK4を得た。
なお、プライマー:1及びプライマー:2の配列は以下のとおりである。
プライマー:1(5’− CCCGTCCAGCGGTACCATGTGGGTGACC −3’:配列番号3)
プライマー:2(5’− TACGGGATGGACTAGTTAGACTATTGTAG −3’:配列番号4)
【0069】
実施例2 NK4cDNAの塩基配列決定
上記で得られたNK4cDNAはTaq DyeDeoxyTM Terminator Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を使用し、Gene Amp PCR System 9600 (Perkin Elmer)で塩基配列決定のためのサンプルを作製した。塩基配列の決定に当たり、ABI社製のDNA Sequencer Model:377 オートシークエンサーを用い、蛍光標識ターミネーターを用いたサンガー法で塩基配列解析を行った。シークエンスによって2種類の塩基配列、配列番号:1及び配列番号:2が決定された。
【0070】
実施例3 組換えアデノウイルス発現ベクターの構築
サイトメガロウイルスの初期プロモーター/エンハンサー、実施例1で調整したNK4cDNA及びSV40のポリ(A)シグナル配列からなる発現カセットをシャトルプラスミドベクターpSV2+[Korst RJ, Hum. Gene Ther., 6, 277-287(1995)]に挿入することによって発現用カセットを構築した。この発現用カセットとE1A及びE1B、E3の一部を欠くアデノウイルスタイプ5のゲノムからなるpJM17(Microbix Biosystems Inc.)をHEK293細胞(ヒトの胚腎細胞)にカルシウム共沈法によりコトランスフェクトした。発現カセットの入った組換えアデノウイルスは、ウイルスDNAの制限酵素消化によって生じるDNA断片の長さの違いにより目的ウイルスを選別し、NK4cDNAを発現する組換えアデノウイルス発現ベクターAdCMV.NK4を構築した。構築した組換えアデノウイルス発現ベクターを[図1]に示す。
【0071】
実施例4 AdCMV.NK4のHGF誘導腫瘍細胞浸潤に対する作用
マトリゲル インベイション チャンバー(Matrigel invasion chamber、24ウェル)を用いた基底膜浸潤モデルでHGFの腫瘍細胞浸潤誘導作用に対するAdCMV.NK4の効果を調べた。対照群として、SUIT−2細胞(ヒトの膵臓癌細胞)、NK4cDNAの代わりにEsherichia coliの LacZ遺伝子を含有するAdCMV.LacZを使用した。トランスフェクトされていないSUIT−2細胞、AdCMV.NK4又はAdCMV.LacZでトランスフェクトされたSUIT−2細胞(ヒトの膵臓癌細胞)は、2%ウシ胎仔血清(FBS)を含んだRPMI培地に懸濁され、5×10 cells/wellに調整された後、マトリゲル インベイション チャンバーのトランスウェル(transwell)に播かれた。ロワーカップ(lower cup)の2%ウシ胎仔血清(FBS)を含んだRPMI培地には、HGF存在下、非存在下のものが用意された。24時間の培養後、トランスウェル(transwell)内の細胞を取り除き、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。顕微鏡下、トランスウェル(transwell)外に浸潤してきた細胞数で浸潤能を評価した。その結果を[図2]に示す。その結果、HGFの非存在下では、トランスウェル(transwell)外に浸潤してきた細胞はなかった。一方、10ng/mlのHGFの存在下では、トランスフェクトされていない無処理のSUIT−2細胞及びAdCMV.LacZでトランスフェクトされたSUIT−2細胞は強く浸潤した。一方AdCMV.NK4でトランスフェクトされたSUIT−2細胞の浸潤は感染多重度(MOI)依存的に強く抑制された。
これは、HGFが腫瘍細胞の浸潤を促すのに対し、AdCMV.NK4により産出されたNK4がHGFのアンタゴニストとして作用することにより、腫瘍細胞の浸潤を抑制した結果である。
【0072】
実施例5 AdCMV.NK4による腫瘍の成長抑制及び血管新生抑制
ヌードマウスを用い、AdCMV.NK4による腫瘍の成長抑制及び血管新生抑制効果を調べた。対照群として、SUIT−2細胞(ヒトの膵臓癌細胞)、NK4cDNAの代わりにEsherichia coliの LacZ遺伝子を含有するAdCMV.LacZを使用した。6週齢のヌードマウス(BALB/c nu/nu)(Japan SLC Inc.)の皮下にSUIT−2細胞(Ad非投与群)、AdCMV.LacZでトランスフェクトされたSUIT−2細胞(Ad−LacZ)、AdCMV.NK4でトランスフェクトされたSUIT−2細胞(Ad−NK4)を移植した。AdCMV.LacZ及びAdCMV.NK4は50 MOI(感染多重度)で感染させた。腫瘍移植後経時的に腫瘍体積を追跡した。また、腫瘍移植後28日経過後に血管数を調べた。腫瘍体積は〔短径(mm)〕×〔長径(mm)〕×0.52で算出した。なお、腫瘍の成長は腫瘍体積を測定することによって評価した。
腫瘍体積を経時的に追跡した結果を[図3]に示す。腫瘍体積は、移植後18日目でAd非投与群が539mm、AdCMV.LacZトランスフェクト細胞が435mm、AdCMV.NK4トランスフェクト細胞が180mmであり、AdCMV.NK4は腫瘍の成長を強く抑制した。この結果から、AdCMV.NK4により腫瘍細胞で産生したNK4は腫瘍の成長を顕著に抑制できることが確認された。
腫瘍移植後28日経過後の血管数を[図4]に示す。AdCMV.LacZが感染した腫瘍周辺の血管数は12.8血管数/視野であるのに対し、AdCMV.NK4が感染した腫瘍周辺の血管の数は、6.1血管数/視野(p<0.05)であり、AdCMV.NK4は血管新生を強く抑制した。この結果から、AdCMV.NK4により腫瘍細胞で産生したNK4は血管新生を顕著に抑制できることが確認された。
【0073】
実施例6 NK4遺伝子発現による腫瘍の成長抑制及びNK4産生
ヌードマウスを用い、NK4遺伝子発現による腫瘍の成長抑制及びNK4の産生を調べた。哺乳細胞での発現ベクターpcDNA3にヒトNK4cDNAを組み込んだ発現用ベクターpcDNA3/NK4をTMK1細胞(ヒトの胃癌細胞)にDMRIE−C試薬(Life Technologies Inc.)を使用して導入した。10%ウシ胎仔血清を含むDMEM/F12培地にて24時間培養後、G418を300μg/ml含むDMEM/F12からなる選択培地にて培養した。NK4を恒常的に産生するTMK1細胞をクローニングした。NK4遺伝子を導入していないTMK1細胞ならびにNK4を恒常的に産生するTMK1細胞をそれぞれPならびにT11とした。P細胞とT11細胞を100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)にそれぞれ1×10個懸濁し、5週齢ヌードマウス(BALB/c)(Charles River Japan)の脇腹に皮下移植した。腫瘍体積は〔短径(mm)〕×〔長径(mm)〕×0.52で計算した。腫瘍の成長は腫瘍体積を測定することによって評価した。
腫瘍体積を経時的に追跡した結果を[図5]に示す。T11細胞を移植したマウスの腫瘍成長はP細胞を移植したマウスと比較して、移植31日経過後において78%抑制された(p<0.01)。この結果から、腫瘍細胞にNK4遺伝子を発現させることにより腫瘍の成長が顕著に抑制されることが確認された。
NK4の産生量を[図6]に示す。移植31日経過後、NK4の産生量をヒトHGFを使用してELISA法により測定した。皮下腫瘍から摘出したNK4の産生量はP細胞では0.06ng/mg(検出限界以下)であるのに対し、pcDNA3/NK4をトランスフェクトしたT11細胞では31.4ng/mgであった。この結果から、pcDNA3/NK4をトランスフェクトしたT11細胞ではNK4を産生していることが確認された。
【0074】
実施例7 AdCMV.NK4による腫瘍の成長抑制及びNK4産生
ヌードマウスを用い、AdCMV.NK4による腫瘍の成長抑制及びNK4の産生を調べた。対照群として、PBS、NK4cDNAの代わりにEsherichia coliの LacZ遺伝子を含有するAdCMV.LacZを使用した。TMK1細胞(ヒトの胃癌細胞)(1×10個)は100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に懸濁し、5週齢ヌードマウス(BALB/c)(Charles River Japan)の脇腹に皮下移植した。TMK1細胞移植7日後、マウスは腫瘍を形成した。100μlのPBS、100μlのPBSと混合したAdCMV.LacZ及びAdCMV.NK4(それぞれ1×10プラーク形成単位、pfu)をTMK1細胞移植7日後から5日間マウスの腫瘍に直接投与した。
腫瘍体積を測定した。腫瘍体積は〔短径(mm)〕×〔長径(mm)〕×0.52で計算した。腫瘍の成長は腫瘍体積を測定することによって評価した。腫瘍体積を経時的に追跡した結果を[図7]に示す。TMK1細胞の移植7日後、腫瘍は直径約3〜5mmであった。AdCMV.NK4投与は腫瘍移植後21日経過後まで腫瘍成長傾向を示さなかった。腫瘍体積は腫瘍移植後31日経過時において、PBSと比較して71%抑制した(p<0.01)。この結果から、AdCMV.NK4は生体内において腫瘍の成長を顕著に抑制できることが確認された。
NK4の産生量を[図8]に示す。TMK1細胞移植一週間経過後のNK4の産生量をヒトHGFを使用してELISA法により測定した。皮下腫瘍から摘出したNK4の産生量はPBSでは0.05ng/mg(検出限界以下)、AdCMV.LacZでは0.01ng/mg(検出限界以下)であるのに対し、AdCMV.NK4では7.36ng/mgであった。この結果から、AdCMV.NK4は生体内でNK4を産生していることが確認された。
【0075】
実施例8 組換え発現ベクターの構築
実施例1で作製したpCRIIベクターに組み込まれたNK4cDNAを制限酵素 Kpn I / Spe Iで切断し、 T4 DNAポリメラーゼ(Takara)処理により切断末端を平滑化させた。得られたNK4cDNA断片をあらかじめ制限酵素 Xho Iで処理した後、切断末端を平滑化しておいたCHO細胞用発現ベクターpCAGGS−DHFRと混合し、T4 DNAリガーゼで結合してNK4発現ベクターpCAGGS−DHFR/NK4を得た。得られたプラスミドの図を[図9]に示す。得られたNK4発現ベクターはニワトリβ−アクチンプロモーターとウサギβ−グロビンポリ(A)シグナル配列の間にNK4cDNAを有する。また、形質転換された細胞の選択は、マウスジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子にサイトメガロウイルス初期プロモーターとポリ(A)シグナル配列で連結したDHFRキメラ遺伝子により可能となる。
【0076】
実施例9 チャイニーズハムスターCHO細胞への形質転換とその発現
上記CHO細胞発現用ベクターpCAGGS−DHFR/NK4はWiglerらの方法[Cell, 11, 233(1977)]によりチャイニーズハムスターCHO細胞のDHFR欠損細胞に導入した。約30μgのpCAGGS−DHFR/NK4プラスミドをそれぞれ240μlの0.5M 塩化カルシウムに溶解し、20mM HEPES、280mM 塩化ナトリウム及び1.5mM リン酸ナトリウムからなる2×HEPES緩衝液(pH7.1)240μlを攪拌しながら加えた。室温で30分攪拌を続けプラスミドとリン酸カルシウムの共沈殿物を形成させた。続いて、10%ウシ胎仔血清(ギブコ社)と1%グルタミンとを含むα―MEM培地(フローラボラトリー社)を用いて5×10個のCHO細胞を5%CO存在下で37℃、24時間培養した。培地交換した後、プラスミドとリン酸カルシウム共沈殿物を加え室温で20分間放置した。さらに、37℃で4時間インキュベートした後、培地を除去し、15%グリセリンを添加した1×HEPES緩衝液を加え室温で5分間放置した。培地で細胞を洗浄した後、培地交換しさらに37℃で7日間培養して形質転換細胞を得た。得られた細胞株はリボヌクレオシドとデオキシリボヌクレオシドを含まず、透析した10%ウシ胎仔血清(ギブコ社)、2%グルタミンを含むα―MEM培地(フローラボラトリー社)を用いて安定なNK4高生産株を得るために100nM、250nM、500nM、750nM、1μM、2μMとメソトレキセート濃度を順次追加させながら同培地で継代培養を繰り返した。得られたNK4産生組換え細胞をクローン選別を行い、安定なNK4生産株を得た。
【0077】
実施例10 形質転換CHO細胞培養上清からの組換えNK4の精製
上記実施例9で得られたNK4産生チャイニーズハムスターCHO組換え細胞株をリボヌクレオシドとデオキシリボヌクレオシドを含まず、10%ウシ胎仔血清(ギブコ社)と1%グルタミンと2μM メソトレキセートを含むα―MEM培地(フローラボラトリー社)で培養し、その培養上清より、組換えNK4を精製した。
1)ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー
NK4産生チャイニーズハムスターCHO組換え細胞株の培養液12Lに最終濃度0.01%になるようにTween 80を添加し、ステベックスHVフィルター(日本ミリポア)により濾過した。0.15M 塩化ナトリウムを含む緩衝液A(20mM Citrate−NaOH、 0.01%Tween 80、 pH6.5)で平衡化したヘパリン−セファロースCL−6B(ファルマシア製、カラム体積 50ml)に添加した。0.5M 塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで洗浄後、0.5Mから2.5Mの塩化ナトリウムによる直線濃度勾配により溶出したピーク画分を集め、ヘパリン溶出液Aとした。
2)陰イオン交換クロマトグラフィー
ヘパリン溶出液Aを100倍容の緩衝液B(20mM Tris−HCl、 0.01%Tween 80、pH8.0)で3回透析を行った後、緩衝液Bで平衡化したDEAE−セファロース(ファルマシア製、カラム体積 40ml)に添加した。緩衝液Bで洗浄後、1M 塩化ナトリウムを含む緩衝液Bで溶出したピーク画分を集め、DEAE溶出液とした。
3)ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー(2回目)
DEAE溶出液を100倍容の緩衝液Aで3回透析を行った後、0.15 M塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで平衡化したヘパリン−セファロースCL−6B(ファルマシア製、カラム体積 50ml)に添加した。0.3M 塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで洗浄後、0.3Mから2.5Mの塩化ナトリウムによる直線濃度勾配により吸着物を溶出した。NK4のピーク画分を集め、ヘパリン溶出液Bとした。精製された組換えNK4の収量は約12mgであり、培養上清液からの回収率は約50%であった。
4)SDS−ポリアクリルアミド電気泳動
組換えNK4を2−メルカプトエタノール還元下及び非還元下でSDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。精製組換えNK4は非還元条件下[2−ME(−)]では約50kDaを示し、還元条件下[2−ME(+)]では約67kDaを示した。
【0078】
実施例11 組換えNK4による腫瘍の成長抑制
組換えNK4による腫瘍の成長抑制の効果を調べた。腫瘍体積は〔短径(mm)〕×〔長径(mm)〕×0.52で計算した。腫瘍の成長は腫瘍体積を測定することによって評価した。腫瘍体積を測定した結果を[図10A]に示す。SUIT−2細胞(ヒトの膵臓癌細胞)懸濁液50μl(2×10cells/ml)を6週齢ヌードマウス(BALB/c nu/nu)(Japan SLC Inc.)の膵臓に注入した。上記マウスに生理食塩水と混合した実施例10で精製した組換えNK4(1.5mg/kg/day)を一日につき2度、25日間腹空内投与した。コントロールとしてBSAを同量(1.5mg/kg/day)一日につき2度、25日間腹空内投与した。組換えNK4投与はコントロールと比較して腫瘍の成長を60.7%抑制した(p<0.05)。コントロール群は脾周辺に浸潤し、さらに、膵臓皮膜にまで浸潤していたが、NK4投与群は脾周辺及び膵臓皮膜への浸潤は認めらなかった。この結果により、組換えNK4がHGFのアンタゴニストとして作用し、腫瘍細胞の浸潤を抑制し、又、腫瘍の成長を抑制したことが確認された。
【0079】
実施例12 組換えNK4による転移結節の抑制
組換えNK4による転移抑制効果を検討した。転移抑制効果は、腸間膜及び腹膜壁の転移結節数を数えることにより評価した。転移結節の数は、1mm以上の転移結節を肉眼観察することにより行った。転移結節数を測定した結果を[図10B]に示す。SUIT−2細胞(ヒトの膵臓癌細胞)懸濁液50μl(2×10cells/ml)を6週齢ヌードマウス(BALB/c nu/nu)(Japan SLC Inc.)の膵臓に注入した。上記マウスに生理食塩水と混合した上記組換えNK4(1.5mg/kg/day)を一日につき2度、25日間腹空内投与した。コントロールとしてBSAを同量(1.5mg/kg/day)一日につき2度、25日間腹空内投与した。組換えNK4投与はコントロール(BSA)と比較してヌードマウスの腸間膜、横隔膜及び腹膜における転移結節の数を、84.1%抑制した(p<0.05)。この結果により、組換えNK4が腫瘍細胞の転移を抑制したことが確認された。
【0080】
実施例13 組換えNK4投与による生存率の効果
癌末期における組換えNK4の投与の効果を評価した。生存率を評価した結果を[図11]に示す。NK4の投与はSUIT−2細胞(ヒトの膵臓癌細胞)懸濁液50μl(2×10cells/ml)を6週齢ヌードマウス(BALB/c nu/nu)(Japan SLC Inc.)の膵臓に投与した後24日目から開始した。NK4非投与のコントロールマウス(n=15匹)は、SUIT−2細胞移植後26日目から死亡し、69日目にはすべて死亡した。一方、NK4投与マウス(n=10匹)は4匹がSUIT−2細胞移植後65日以内に死亡したが、70日以上過ぎても6匹は生存していた。この結果により、組換えNK4の投与は末期癌の状態においても延命効果を有することが確認された。
【0081】
製剤例1
生理食塩水100ml中に実施例10で調整した組換えNK4(1g)、マンニトール(1g)及びポリソルベート80(10mg)を含有する溶液を無菌的に調整し、1mlずつバイアルに分注した後、凍結乾燥して密封して、本発明の医薬を凍結乾燥剤として調整した。
【0082】
製剤例2
0.02M リン酸緩衝液(0.15M NaCl及び0.01%ポリソルベート80含有、pH7.4)100ml中に、実施例10で調整した組換えNK4(1g)及びヒト血清アルブミン100mgを含む水溶液を無菌的に配合して、1mlずつバイアルに分注した。次いで、各バイアル中の液剤を凍結乾燥して密封して、本発明の医薬を凍結乾燥剤として調整した。
【0083】
製剤例3
注射用蒸留水100ml中に、実施例10で調整した組換えNK4(1g)、ソルビトール(2mg)、グリシン(2mg)及びポリソルベート80(10mg)を含む溶液を無菌的に調整し、1mlずつバイアルに分注した後、凍結乾燥して密封して、本発明の医薬を凍結乾燥剤として調整した。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】組換えアデノウイルスベクターAdCMV.NK4の構築図を示した図である。
【図2】HGF存在下、非存在下におけるSUIT−2細胞(無処理の細胞)、AdCMV.LacZをトランスフェクトしたSUIT−2細胞(LacZ 100 MOI)、AdCMV.NK4をトランスフェクトしたSUIT−2細胞(NK4 50 MOI、NK4 100 MOI)の腫瘍浸潤抑制効果の結果を示した図である。
【図3】SUIT−2細胞(Ad非投与群)、AdCMV.LacZをトランスフェクトしたSUIT−2細胞(Ad−lacZ)、AdCMV.NK4をトランスフェクトしたSUIT−2細胞(Ad−NK4)をヌードマウスへ移植後経時的に腫瘍体積を測定し、腫瘍の成長抑制効果の結果を示した図である。
【図4】SUIT−2細胞(Ad非投与群)、AdCMV.LacZをトランスフェクトしたSUIT−2細胞(Ad−lacZ)、AdCMV.NK4をトランスフェクトしたSUIT−2細胞(Ad−NK4)をヌードマウスへ移植後28日経過後の血管数を計測し、血管新生抑制効果の結果を示した図である。
【図5】TMKI細胞(P)とpcDNA3/NK4をトランスフェクトしたTMKI細胞(T11)をヌードマウスへ移植後、経時的に腫瘍体積を測定し、腫瘍の成長抑制効果の結果を示した図である。
【図6】TMKI細胞(P)とpcDNA3/NK4をトランスフェクトしたTMKI細胞(T11)をヌードマウスへ移植し、移植後31日経過後のNK4の産生量の結果を示した図である。
【図7】ヌードマウスにTMKI細胞を移植し、移植後7日経過後PBS、AdCMV.LacZ(Ad−lacZ)、AdCMV.NK4(Ad−NK4)を投与し、腫瘍体積を経時的に測定し、腫瘍の成長抑制効果の結果を示した図である。
【図8】TMKI細胞を移植したヌードマウスにPBS、AdCMV.LacZ(LacZ)、AdCMV.NK4(NK4)を連続3日投与後のNK4の産生量の結果を示した図である。
【図9】pCAGGS−DHFR/NK4の模式図を示した図である。
【図10】Aは腫瘍体積を測定することにより、組換えNK4の腫瘍の成長抑制効果の結果を示した図である。Bは転移結節数を計測することにより、組換えNK4の転移抑制効果を示した図である。
【図11】癌末期のヌードマウスに組換えNK4を投与して、マウスの生存数を計測し、組換えNK4の延命効果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1製剤中に下記DNAが0.01〜2000mg含まれるように、以下の(a)、又は(b)を含む抗癌剤。
(a) 配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列からなるDNAまたは該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有するDNAを含有する組換え発現ベクター
(b) (a)のベクターを含有するリポソーム
【請求項2】
発現ベクターがアデノウィルスベクターである請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項3】
胃癌の治療剤である請求項1又は2に記載の抗癌剤。
【請求項4】
さらに他の抗腫瘍剤を含む請求項1〜3のいずれかに記載の抗癌剤。
【請求項5】
1製剤中に下記DNAが0.01〜2000mg含まれるように、以下の(a)、又は(b)を含む血管新生抑制剤。
(a) 配列番号:1若しくは配列番号:2で表される塩基配列からなるDNAまたは該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFアンタゴニスト活性及び血管新生抑制作用を有するDNAを含有する組換え発現ベクター
(b) (a)のベクターを含有するリポソーム
【請求項6】
発現ベクターがアデノウィルスベクターである請求項5に記載の血管新生抑制剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−7514(P2008−7514A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212194(P2007−212194)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【分割の表示】特願2002−48644(P2002−48644)の分割
【原出願日】平成14年2月25日(2002.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2001年10月15日発行の「Cancer Research」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2001年10月発行の「Gene Therapy」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2001年(平成13年)12月9日 「毎日新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2001年(平成13年)12月17日 「日本経済新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2002年1月 日経サイエンス社発行の「日経サイエンス 第32巻 第1号 通巻363号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2002年2月発行の「MOLECULAR THERAPY」に発表
【出願人】(502068908)クリングルファーマ株式会社 (16)
【出願人】(591115073)
【Fターム(参考)】