説明

NO吸着材およびその利用

【課題】NOを精度よく検出可能なNOセンサおよび該センサの構成要素として有用なNO吸着材を提供する。
【解決手段】本発明によると、NOを選択的に吸着するNO吸着材が提供される。該吸着材は、FeおよびCoから選択される中心金属原子と、これに配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体を含む。その平面四配位構造は、二つのアミド性窒素原子;および、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子;が前記中心金属原子に配位して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化窒素を選択的に吸着(捕捉)可能な錯体を用いたNO吸着材に関する。また本発明は、かかるNO吸着材を利用したNOセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)は、生体内の神経伝達物質の一つであり、また免疫反応、血圧調節等においても重要な役割を果たすことが知られている。したがって、NOを検出することは生体の状態を診断する有益な手段となり得る。また、NOの検出は環境測定等の分野においても有用である。
従来、NOを検出(センシング)する方法として電極法が知られている。これは、電極に捕捉されたNOが酸化されてNO2-になる際に生じる電流を利用してNOを検出するものである。かかる電極法に関し、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン等のような、NOとの親和性の高い機能性分子を電極に被覆することが提案されている(非特許文献1および2参照)。
【0003】
【非特許文献1】「アナリティカ チミカ アクタ(Analytica Chimica Acta)」,第341号,1997年,p.177−185
【非特許文献2】「バイオエレクトロケミストリー(Bioelectrochemistry)」,第66号,2005年,p.105−110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
NOを精度よく検出するという観点から、これらNO検出用の機能性分子にはNOと高選択的に反応する性質が求められる。しかし、従来この種の用途に使用し得るものとして提案されている機能性分子(金属ポルフィリン等)は未だNO選択性が十分ではなく、例えばO2やNO2-のような他の生体内分子とも反応しやすいものであった。特に、競争阻害効果の高いNO2-との反応はNOの検出精度に大きな影響を与えるので好ましくない。
【0005】
そこで本発明は、NOを精度よく検出可能なNOセンサおよび該センサの構成要素として有用なNO吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の錯体を用いたNO吸着材および該吸着材を用いたNOセンサによれば上記課題が解決されることを見出して本発明を完成した。
【0007】
ここに開示される一つの発明は、NOを選択的に吸着(捕捉)するNO吸着材に関する。そのNO吸着材は、鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子と、を備える錯体を含む。ここで、前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する四つの原子が前記中心金属原子に配位して形成されている。それら四つの原子のうち二つはアミド性窒素原子である。他の二つは、チオール性硫黄原子(典型的には、−S-で表される基を構成する硫黄原子)、アルコール性酸素原子(典型的には、R−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでRは非芳香族性の有機置換基である)およびフェノール性酸素原子(典型的には、AR−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでARは芳香族性の有機置換基である)からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子である。
このような構成の錯体は、NOと選択的に反応する性質(典型的には、NOに対する配位挙動)を示すものであり得る。例えば、NOに対する反応性に比べてNO2-に対する反応性が明らかに低い(典型的には、実質的に配位挙動を示さない)ものであり得る。したがって、このような錯体を有する上記NO吸着材によると、例えば、NOと他の化学種(例えばNO2-)とが共存し得る条件下においても、より選択性よくNOを吸着(捕捉)することができる。
【0008】
好ましい一つの態様では、前記錯体が下記式(1)で表される構造部分を有する。
【化1】

【0009】
ここで、上記式(1)中のMは、鉄(Fe)およびコバルト(Co)から選択されるいずれかである。R11,R12,R13,R14およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有するまたは有さないアルキル基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレン基から選択されるいずれかである。nAおよびnBは、それぞれ独立に、0,1および2から選択されるいずれかである。かかる構造部分を有する錯体および該錯体を含む上記NO吸着材は、より選択性よくNOを吸着するものであり得る。
【0010】
好ましい他の一つの態様では、前記錯体が下記式(2)で表される構造部分を有する。
【化2】

【0011】
ここで、上記式(2)中のMは、鉄(Fe)およびコバルト(Co)から選択されるいずれかである。R31,R32,R33およびR34は、それぞれ独立に、水素原子(H)、置換基を有するまたは有さないアルキル基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレン基から選択されるいずれかである。nC,nDおよびnEは、それぞれ独立に、0,1および2から選択されるいずれかである。かかる構造部分を有する錯体および該錯体を含む上記NO吸着材は、より選択性よくNOを吸着するものであり得る。
【0012】
ここに開示されるNO吸着材の好ましい一つの態様では、前記配位子が少なくとも一つのチオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−SS−)を有する。このような構造の配位子を備える錯体は、該錯体がチオール基またはジスルフィド結合を利用して適当な担体(基材)に担持された吸着材を構成するのに適している。ここに開示される技術には、該錯体が前記チオール残基またはジスルフィド残基を介して前記基材に結合した態様のNO吸着材(例えば、前記錯体で修飾された基材を備えるNO吸着材)が含まれる。
【0013】
ここに開示されるNO吸着材は、好ましくは、導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備えた態様であり得る。かかる構成のNO吸着材は、NOセンサの構成要素等として好適に利用され得る。例えば、前記錯体にNO分子が捕捉(吸着)されたことを電気化学的に検出するタイプのNOセンサの構成要素(電極等)として有用なものであり得る。
【0014】
また、ここに開示されるNO吸着材は、好ましくは、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された態様であり得る。かかる構成のNO吸着材は、NOセンサの構成要素等として好適に利用され得る。例えば、前記錯体にNO分子が捕捉(吸着)されたことを光学的に検出するタイプのNOセンサの構成要素として有用なものであり得る。
【0015】
ここに開示される他の一つの発明は、NOを検出するNOセンサに関する。そのNOセンサは、NOを選択的に吸着する錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNO分子が捕捉されたことを検出する検出部とを備える。前記錯体は、鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える。前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する四つの原子が前記中心金属原子に配位して形成されている。それら四つの原子のうち二つはアミド性窒素原子である。他の二つは、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子である。
上記NO捕捉部を構成する錯体は、NOと選択的に反応する性質を示す(例えば、NOに対する反応性に比べてNO2-に対する反応性が明らかに低い)ものであり得る。したがって、かかる錯体を有するNO捕捉部を備えた上記NOセンサによると、NOと他の化学種(例えばNO2-)とが共存する条件下においても、NOの存在(好ましくは、さらにNOの相対的および/または絶対的な存在量)を精度よく検出することができる。
【0016】
ここに開示されるNOセンサの好ましい一つの態様では、前記検出部が、前記NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的および/または光学的に検出し得るように構成されている。例えば、導電性基材と該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備えた態様のNO捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的に検出し得るように構成された検出部とを備えるNOセンサが好ましい。また、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された組成物を有する捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを光学的に検出し得るように構成された検出部とを備えるNOセンサとしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここに開示されるNO吸着材は、中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子と、を備える錯体を含む。該錯体一分子中に形成されている前記平面四配位構造の数は一でもよく二以上でもよい。また、上記NO吸着材を構成する錯体は、遊離の(他の化合物または材料と化学結合を形成していないことをいう。)状態であってもよく、適当な基材との間に化学結合を形成していてもよい。
上記平面四配位構造における中心金属原子はFeまたはCoであり得る。該錯体の安定性(例えば、適当な溶媒に溶解させた状態における安定性)等の観点から、中心金属がCoである錯体がより好ましい。錯体一分子中に二以上の前記平面四配位型配位構造を有する場合、それらの配位構造における中心金属原子は同一であってもよく異なってもよい。製造の容易性および安定性の観点から、通常は、それら二以上の配位構造における中心金属原子が同一(例えば、いずれもCo)であることが有利である。
【0019】
上記平面四配位構造において中心金属原子に配位する四つの原子のうち二つはアミド性窒素原子であり得る。ここで、上記中心金属原子に配位する「アミド性窒素原子」とは、アミド基(−CONH−)からプロトンを除いた基を構成する窒素原子(典型的には、−CON-−で表される基を構成する窒素原子)をいう。
上記中心金属原子に配位する四つの原子のうち他の二つは、それぞれ独立に、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群から選択される原子であり得る。ここで、上記中心金属原子に配位する「チオール性硫黄原子」とは、チオール基(−SH)からプロトンを除いた基を構成する硫黄原子(典型的には、−S-で表される基を構成する硫黄原子)をいう。また、「アルコール性酸素原子」とは、有機基に結合したヒドロキシル基(芳香環に直接結合したものを除く。)からプロトンを除いた基を構成する酸素原子(典型的には、R−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでRは有機置換基であって−O-が直接芳香環に結合したものを除く。)をいい、「フェノール性酸素原子」とは、芳香環に直接結合したヒドロキシル基からプロトンを除いた基を構成する酸素原子(典型的には、AR−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでARは−O-が直接結合している芳香環を有する有機基である。)をいう。
【0020】
このような配位構造を有する錯体がNO分子に対して選択的に反応する(例えば、NOに対する反応性に比べてNO2-に対する反応性が明らかに低い)性質を示す理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、上述した平面四配位構造において中心金属原子に配位する四つの原子は、いずれも中心金属原子に電子を供給する性質を有する(換言すれば、中心金属原子に対する電子対供与体である)。これら四つの原子が平面構造をとっていることは、中心金属原子に電子を供給する上でさらに有利である。ここに開示される錯体は、このような構造を有することによって、かかる配位構造を有さない錯体(例えば、一般的なポルフィリン骨格を有する錯体)に比べて中心金属原子のルイス酸性度が弱められている。このようにルイス酸性度が弱められた錯体であっても、モノラジカル分子であって酸化還元反応活性を有するNOに対しては相互作用(典型的には、NOに対する配位挙動)を示し得るものと推察される。一方、NO2-,Cl-,O2,CO等の化学種は、中心金属原子のルイス酸性度が弱くなると錯体との反応性が著しく低下する。このため、NOと他の化学種との間の反応性の差異がより顕著なものとなり、結果、前記錯体のNO選択性が大幅に向上したものと考えられる。
【0021】
したがって、ここに開示される技術には以下のものが含まれる。
(1).中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体であって、前記配位構造は前記配位子を構成する四つの同一のまたは異なる電子対供与体が前記中心金属に配位して形成されており、前記電子対供与体は、アミド性窒素原子、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される錯体。NOに対して実用的な反応性を示し、かつ、NO2-とは実質的に反応しない錯体が好ましい。
(2).前記(1)に記載の錯体を含むNO吸着材。
(3).前記(1)に記載の錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを検出する検出部とを備えるNOセンサ。
【0022】
上記錯体の中心金属原子の酸化数は、少なくとも該錯体を含むNO吸着材の使用時(NOを捕捉する用途に供される際)において3価であることが好ましい。すなわち、該中心金属原子がFe(III)またはCo(III)の状態にあることが好ましい。かかる状態にある錯体によると、NOに対してより良好かつ選択的な反応性が発揮され得る。上述のように中心金属原子に対して電子を供与する原子が配位していることは、該中心金属原子が2価よりも3価の状態で安定な錯体を構築するのに寄与し得る。ここに開示されるNO吸着材の典型的な態様では、該吸着材に含まれる錯体が、中心金属原子の酸化数が3価である錯体から実質的に構成される。上記NO吸着材に含まれる錯体の中心金属原子の酸化数をより確実に3価とするために、該吸着材の使用前に上記錯体を酸化する処理を行うことができる。この酸化処理は、例えば、該錯体に酸素を含むガス(典型的には空気)を接触させる処理であり得る。
【0023】
このようにNOと選択的に反応し得る錯体の好適例として、下記式(3)で表される構造部分を有する錯体が挙げられる。
【化3】

【0024】
ここで、上記式(3)中の中心金属Mは、Fe(好ましくはFe(III))またはCo(好ましくはCo(III))である。該式中の二つのEは、それぞれ独立に、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される。該式中のR4,R5およびR6は同一のまたは異なる有機基である。これらの基R4,R5およびR6は、上記式中の二つのNがそれぞれアミド性窒素原子であり、二つのEがそれぞれチオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子のいずれかとなるように選択される。安定な平面四配位構造をとりやすいという観点から、R4およびR5はそれぞれ上記式中のN,MおよびEを含む5〜7員環を構成するように選択されることが好ましい。同様に、R6は、上記式中のMおよび二つのNを含む5〜7員環を構成するように選択されることが好ましい。ここに開示されるNO吸着材は、上記式で示される構造部分を一分子中に一または二以上有する錯体を含むものであり得る。例えば、上記式で示される構造部分の二以上がアルキル鎖(主鎖にジスルフィド結合を有するアルキル鎖であり得る。)で連結された構造の錯体であってもよい。
【0025】
好ましい一つの態様では、前記錯体が下記式(1)で表される構造部分を有する。
【化4】

【0026】
上記式(1)中のMは、Fe(好ましくはFe(III))またはCo(好ましくはCo(III))であり得る。例えば、MがCoである錯体が好ましい。また、nAおよびnBは、それぞれ独立に、0(化学結合),1(メチレン基)および2(エチレン基)から選択されるいずれかであり得る。nAおよびnBがそれぞれ0および1から選択されるいずれかである錯体がより好ましい。例えば、nAが0または1であってnBが0である錯体が好ましい。
【0027】
上記式(1)中のR11,R12,R13,R14は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有するまたは有さないアルキル基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレン基から選択されるいずれかであり得る。R11〜R14の少なくとも一つがアルキル基である場合、該アルキル基の一好適例として、炭素数1〜6(より好ましくは1〜3)の無置換のアルキル基が挙げられる。また、例えば、置換基としてチオール基(好ましくは第一級チオール基)を有するアルキル基であってもよい。かかるチオール置換アルキル基(アルキルチオール基)は直鎖状であることが好ましく、その炭素数は1〜6(より好ましくは1〜4)であることが好ましい。また、R11〜R14の少なくとも一つがアルキレン基である場合、該アルキレン基の一好適例としては炭素数1〜6(より好ましくは1〜3)の無置換のアルキレン基が挙げられる。R11〜R14のうち二つが互いに結合して環構造を形成していてもよい。これらの基R11〜R14は、互いに同一であってもよく異なってもよい。製造容易性、錯体および配位子の安定性等の観点から、通常は、R11〜R14が同一の基である錯体が好ましい。例えば、R11〜R14がいずれもメチル基である錯体が好ましい。
【0028】
上記式(1)中のR2は、水素原子、置換基を有するまたは有さないアルキル基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレン基から選択されるいずれかであり得る。該アルキル基の一つの好適例として、炭素数1〜6(より好ましくは1〜3)の無置換のアルキル基が挙げられる。また、例えば、置換基としてチオール基(好ましくは第一級チオール基)を有するアルキル基であってもよい。かかるチオール置換アルキル基(アルキルチオール基)は直鎖状であることが好ましく、その炭素数は1〜6(より好ましくは1〜4)であることが好ましい。例えば、R2が末端にチオール基(すなわち第一級チオール基)を有する炭素数1〜3のアルキル基である錯体が好ましい。
【0029】
好ましい他の一つの態様では、前記錯体が下記式(2)で表される構造部分を有する。
【化5】

【0030】
上記式(2)中のMは、Fe(好ましくはFe(III))またはCo(好ましくはCo(III))であり得る。例えば、MがCoである錯体が好ましい。また、nC,nDおよびnEは、それぞれ独立に、0(化学結合),1(メチレン基)および2(エチレン基)から選択されるいずれかであり得る。nC〜nEがいずれも0または1である錯体がより好ましい。例えば、nCおよびnDがいずれも0であってnEが1である錯体が好ましい。
また、上記式(2)中のR31,R32,R33,R34は、上記式(1)中のR11,R12,R13,R14と同様の基であり得る。例えば、R11〜R14がいずれもメチル基である錯体が好ましい。
【0031】
ここに開示されるNO吸着材またはNOセンサに用いられる錯体は、例えば、上述したいずれかの構造(平面四配位構造)部分を一分子中に二以上有する錯体であり得る。例えば、式(1)で示される一つの構造部分におけるR11,R12,R13,R14およびR2のいずれかが、式(1)で示される他の一つの構造部分におけるR11,R12,R13,R14およびR2のいずれかと直接的あるいは間接的に(すなわち、他の基を介して)連結された錯体であり得る。また、例えば、式(2)で示される一つの構造部分におけるR31,R32,R33,R34のいずれかが、式(2)で示される他の一つの構造部分におけるR31,R32,R33,R34のいずれかと直接的あるいは間接的に連結された錯体であり得る。また、式(1)で示される一つの構造部分におけるR11,R12,R13,R14およびR2のいずれかが、式(2)で示される他の一つの構造部分におけるR31,R32,R33,R34のいずれかと直接的あるいは間接的に連結された錯体であってもよい。例えば、上記式(1)で表される二つの構造部分に含まれるチオール基が互いに結合してなるジスルフィド結合(−SS−)によって連結された構造の錯体であり得る。
【0032】
ここに開示されるNO吸着材は、上述したいずれかの錯体を遊離の状態で含むものであってもよく、また、上述したいずれかの錯体を、該錯体と適当な基材(例えば、少なくとも表面が金等の導電性金属からなる基材)との間に化学結合が形成された状態で有する態様のNO吸着材であってもよい。例えば、固体状(好ましくは粉末状)の上記錯体を適当な容器に収容した態様、上記錯体が適当な基材(好ましくは、少なくとも表面が導電性材料により構成された導電性基材)の少なくとも表面に配置された態様、該錯体を適当な液状媒体に溶解または分散(好ましくは溶解)させた態様のNO吸着材であり得る。
ここで、上記錯体が適当な基材の表面に配置された態様は、該錯体が前記基材の表面に物理的に保持されており該錯体と前記基材との間の化学結合は実質的に形成されていない態様であり得る。また、上記錯体が適当な基材の表面に配置された態様は、該錯体と前記基材との間に化学結合が形成されている態様であってもよい。
【0033】
かかる化学結合は、例えば、式(1)で示される構造部分におけるR11,R12,R13,R14およびR2のうち一または二以上の基と上記基材との間に形成されたものであり得る。また、式(2)で示される構造部分におけるR31,R32,R33およびR34のうち一または二以上の基と上記基材との間に形成されたものであり得る。上記錯体がチオール基を有する(例えば、式(1)で表される構造部分中のR11,R12,R13,R14およびR2の少なくとも一つがチオール基を有するか、または、式(2)で表される構造部分中のR31,R32,R33およびR34の少なくとも一つがチオール基を有する)こと、あるいは、該錯体がジスルフィド結合を有する(例えば、式(1)で表される二つの構造部分がジスルフィド結合により連結された構造を有する)ことは、該チオール基またはジスルフィド結合を利用して該錯体を金の表面に均一に結合させやすいという観点から有利である。例えば、該チオール基またはジスルフィド結合を利用して、少なくとも表面が金からなる基材(例えば、真空蒸着により形成された金薄膜を表面に有する基材)の表面に該錯体を自己組織化に配置することが可能である。
【0034】
また、ここに開示されるNOセンサは、NOを選択的に吸着する錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNO分子が捕捉されたことを検出する検出部とを備える。上記NO捕捉部に備えられる錯体は、FeおよびCoから選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体であって、該平面四配位型の配位構造において、二つのアミド性窒素原子と、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子とが前記中心金属原子に配位している錯体である。上述したNO吸着材を構成する錯体として有用な錯体は、いずれも、上記NOセンサの捕捉部を構成する錯体として使用可能である。該錯体は、例えば、上記式(3)で表される構造部分を有する錯体であり得る。上記式(1)で表される構造部分および上記式(2)で表される構造部分の少なくとも一方を有する錯体であることが好ましい。上述したNO吸着材に備えられる錯体として好適な錯体は、ここに開示されるNOセンサの捕捉部に備えられる錯体としても好適なものであり得る。また、ここに開示されるNOセンサの捕捉部は、上述したいずれかのNO吸着材からなるか、あるいは該吸着材をその構成要素として有するものであり得る。
【0035】
好ましい一つの態様では、前記NO捕捉部が、少なくとも表面が導電性材料により構成された導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備える。上記導電性基材の少なくとも表面を構成する導電性材料は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、あるいはこれらの金属のいずれかを主体とする合金であり得る。このような導電性基材の表面に前記錯体が配置された構成を有するNO捕捉部が好ましい。かかる構成のNO捕捉部において、前記錯体は前記導電性基材の表面に物理的に保持されていてもよく、化学的に(すなわち、該基材表面と錯体との間の化学結合により)保持されていてもよい。かかる構成のNO捕捉部は、前記錯体が配置された導電性基材を電極として、該錯体にNOが捕捉されたことを電気的に検出する態様のNOセンサを構築するのに適している。導電性基材の表面に前記錯体を配置する方法としては、例えば、一般的な電解重合法を好ましく採用することができる。また、少なくとも表面が金により構成された導電性基材(例えば、表面に金薄膜を有する導電性基材)を選択し、前記錯体として少なくとも一つのチオール基またはジスルフィド結合を有する錯体を選択することにより、該チオール基またはジスルフィド結合を利用して該錯体を前記導電性基材の表面に適切に配置することができる。例えば、該導電性基材の表面に、前記錯体の自己組織化膜(より好ましくは、自己組織化単分子膜)を形成することができる。
【0036】
好ましい他の一つの態様では、前記NO捕捉部が、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された組成物を有する。該組成物が適当な支持体に含浸された態様であってもよい。例えば、前記組成物がまたはこれを含浸させた支持体が適当な容器に収容されている。好ましい他の一つの態様では、前記NO捕捉部が、固体状の前記錯体(好ましくは粉末状)が適当な容器に収容された構成を有する。固体状の前記錯体が適当な支持体の少なくとも表面に配置された構成であってもよい。かかる態様のNO捕捉部は、典型的には、前記錯体または該錯体を含む組成物のスペクトルの変化を、肉眼および/または任意の機器を用いて把握し得るように構成されている。このような構成のNO捕捉部は、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを光学的に(例えば、IRスペクトル、紫外可視吸収スペクトル、可視光における色調等のうち少なくとも一つの変化により)検出する態様のNOセンサを構築するのに適している。また、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された組成物を有するNO捕捉部は、該錯体にNOが捕捉されたことを電気的に検出する態様のNOセンサの構成要素としても有用である。例えば、前記錯体を含む電解液を用いて電気化学セルを構築し、該電気化学セルの電気化学的挙動の変化を利用してNOの捕捉(好ましくは、さらにその量)を検出することができる。
【0037】
このような構成のNOセンサの概略構成例を図5に模式的に示す。この図に示すNOセンサ10は、NO捕捉部20と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的に検出する検出部30とを備える。NO捕捉部20は、導電性基材22と、該導電性基材の表面に配置された上記いずれかの錯体(すなわち、NOを選択的に吸着する錯体)24とを備える。検出部30は、錯体24にNOが捕捉されたことより生じる電流(例えば、該捕捉されたNOが酸化されてNO2-になる際に生じる電流)を検出し得るように構成されている。このような構成のNOセンサ10によると、例えば、NOと他の化学種(例えば、NO2-,Cl-,O2,CO等のうち一種または二種以上の化学種)とが共存する条件下においても、NOの存在(好ましくは、さらにNOの相対的および/または絶対的な存在量)を精度よく検出することができる。
【0038】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0039】
<実施例1>
以下の手順により、上記式(1)で表される構造部分を有するコバルト錯体(錯体[2])を合成した。
【0040】
[A.2−メルカプト−2−メチルプロパン酸エチルの合成]
エタノール200mLに金属ナトリウム4.7g(0.2mol)を溶解させた溶液に、ベンジルメルカプタン25g(0.2mol)を滴下した。10分後、さらにα−イソブタン酸エチル39.3g(0.2mol)を滴下し、50℃で30分間撹拌した。その後、100mLのH2Oを加え、減圧濃縮によりエタノールを除去し、50mLのジエチルエーテルで3回抽出した。得られたエーテル相を飽和食塩水により洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて脱水した後に減圧濃縮を行って、2−メルカプト−2−メチルプロパン酸エチル(Ethyl 2-benzylmercapto-2-methylpropanate)を透明の油状物として得た。収量は43.1g、収率は90%であった。
【0041】
[B.2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパン酸の合成]
上記Aにより得られた2−メルカプト−2−メチルプロパン酸エチル43.1g(0.18mol)を含むエタノール溶液100mLに、KOH25g(0.45mol、2.5当量)を加え、室温で2時間撹拌した後、50mLのH2Oを加えて減圧濃縮によりエタノールを除き、12mol/L(12N)のHClを加えてpH2に調整したところ沈殿が生じたのでこれを濾取した。得られた褐色生成物をn−ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒中で再結晶することにより、2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパン酸(2-Benzylmercapto-2-methylpropanoic acid)を透明の針状結晶として得た。収量は23.1g、収率は63%であった。
【0042】
[C.塩化2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイルの合成]
上記Bにより得られた2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパン酸10.5g(50mmol)を塩化チオニル23.8g(200mmol)に溶解し、攪拌しながら70℃で2時間還流した。その後、減圧濃縮することにより塩化チオニルを除去し、さらにトルエン20mLを加えて減圧濃縮し、共沸させることにより塩化チオニルを除去して、塩化2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイル(2-Benzylmercapto-2-methylpropanoic acid chloride;以下、「化合物[C]」ということもある。)の褐色溶液をた。
なお、上記A〜Cの工程に関する参考文献として、U. Luhmann et.
al, Chemische Berichite, 110, 1421-1431 (1997) が挙げられる。
【0043】
[D.2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパンアミドの合成]
上記Cで得られた塩化2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイル10g(40.9mmol)を酢酸エチル50mLに溶解した。氷冷し激しく攪拌したアンモニア水100mLにこの溶液を滴下した。数時間攪拌した後、薄層クロマトグラフィ(展開溶媒;CHCl3:メタノール=7:1(体積比),Rf値=0.7)により目的物の生成を確認した。有機相を分離して5%KHSO4水溶液にて2回、10%Na2CO3水溶液にて1回洗浄し、さらに飽和食塩水により洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて脱水した後に減圧蒸留を行って黄褐色の固体を得た。これをヘキサンで洗浄することにより、2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパンアミド(2-Benzylmercapto-2-methylpropaneamide)を薄黄褐色の固体として得た。収量は7.34g、収率は80%であった。
【0044】
[E.2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロピルアミンの合成]
蒸留テトラヒドロフラン(THF)150mLにNaBH47.4g(212.6mmol)加え、これを氷冷し攪拌しながら三フッ化ホウ素エーテル錯体54g(212.6mmol)を滴下してジボランのTHF溶液を調製した。一方、蒸留THF100mLに上記Dで得られた2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパンアミド10g(47.7mmol)を溶解した。ここに上記ジボランTHF溶液を加え、窒素雰囲気下、75℃で一晩還流した。氷冷下でメタノールおよび水を加え、ジボランを失活させた後、減圧乾固した。これを5%KHSO4水溶液に溶解し、ヘキサンで洗浄した後、水相の沈殿物を濾去した。濾液の水相を氷冷しながら水酸化カリウムをpH11になるまで加え、ジエチルエーテルにより抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにより脱水して減圧濃縮することで、2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロピルアミン(2-Benzylmercapto-2-methylpropylamine;以下、「化合物[E]」ということもある。)を薄黄色の液体として得た。収量は7.26g、収率は75%であった。
【0045】
[化合物[H]の合成]
以下に示す合成スキームに沿って化合物[H]を合成した。なお、記号「Bn」はベンジル基(C65−CH2−)を表している。
【0046】
【化6】

【0047】
すなわち、THF100mLに、上記Eで得られた2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロピルアミン7.26g(34.5mmol)を溶解した。この溶液を攪拌しながら、アミノ基にBocが付加されたDL−ホモシスチン(Boc2-DL-homocystine)6.06g(34.5mmol)と、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)4.49g(34.5mmol)とを加えた(上記合成スキームでは、DL−ホモシスチンを出発物質とし、これにBocを付加する段階についても併せて表示している。)。このようにして調製されたTHF溶液に、THFに溶解したジシクロヘキシルカルボジイミド7.14g(34.5mmol)を滴下し、室温にて2日間攪拌した。ここに酢酸2mLを加えて30分攪拌し、白色沈殿物を濾去した後に減圧濃縮した。その残渣をジエチルエーテルに溶解して濾過し、得られた濾液を10%Na2CO3水溶液にて2回、5%KHSO4水溶液にて2回洗浄し、さらに飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムにより脱水し、減圧濃縮を行って粘性のある液体(化合物[F])を得た。収量は7.54g、収率は62%であった。
【0048】
上記で得られた化合物[F]7.54g(21.4mmol)にトリフルオロ酢酸:H2O=5:2(体積比)の混合溶液46mLを加え、5時間攪拌した後、減圧濃縮した。これをヘキサンで洗浄した後、THF150mLに溶解し、トリエチルアミンを加えて中和した。一方、上記Cで得られた塩化2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイルとDMF20mLとを加えて室温で3時間攪拌した後、減圧濃縮した。これにトルエンを入れ、エバポレーターで2度共沸して得た褐色の液体を先のTHF溶液に滴下した後、一晩攪拌した。ろ過により不溶物を濾去し、減圧濃縮した後、ジエチルエーテル150mLに溶解した。5%KHSO4水溶液と10%Na2CO3水溶液とでそれぞれ2回づつ洗浄し、さらに飽和食塩水で1回洗浄した後、減圧濃縮した。最後にシリカゲルカラムを用いて不純物を分離し、褐色で粘性のある目的物(化合物[G])を得た。収量は3.04g、収率は31%であった。
【0049】
上記で得られた化合物[G]3.04g(6.63mmol)に蒸留THF20mLを加えて溶解させ、蒸留エタノール4.58g(99.54mmol)を加え、−78℃でNH3ガスを吹き込んで250mLとした。その後、金属ナトリウム2.90g(126.1mmol)を加えて30分攪拌した後、NH4Clを加えた。室温にてNH3を蒸発させた後、H2OとH2SO4水溶液とを加えてpH3に調整し、減圧濃縮した。濾過により沈殿物を取り除き、酢酸エチルで抽出し、減圧濃縮により白色粉末の目的主成物(化合物[H])を得た。収量は1.27g、収率は69%であった。
【0050】
[錯体[2]の合成]
上記で得られた化合物[H]を使用して、以下に示す合成スキームにより二核コバルト(III)錯体[2]を合成した。
【0051】
【化7】

【0052】
すなわち、アルゴン雰囲気下において、脱気した蒸留DMF20mLに上記で得られた化合物[H]200mg(0.72mmol)を溶解した。この溶液に、脱プロトン剤としてのNaH98.7mg(4.11mmol)を加えて15分間攪拌した。その後、引き続きアルゴン雰囲気下において、塩化コバルト(CoCl2)93.5mg(0.72mmol)を添加して一晩攪拌した。これにより、溶液の色が赤紫色から濃緑色へと変化した。この濃緑色の溶液(錯体[1]を含む。)を大気中で15分攪拌し(これにより錯体[1]の中心金属たるコバルト原子をCo(III)に酸化させた。)、その後、真空ラインにて減圧濃縮することで緑色の固体を得た。この緑色の固体をアセトニトリル20mLに溶解し、セライト濾過および脱塩を行った後、減圧濃縮した。これをアセトニトリル5mLに溶解し、テトラフェニルホスホニウムクロリド(Ph4PCl)269.4mg(0.72mmol)を加え大気下にて1時間攪拌した後に濃縮乾固した、これを再度アセトニトリル5mLに溶解し、セライト濾過、脱塩および減圧濃縮を行い、アセトニトリル5mLに溶解させてジエチルエーテル700mLを加えることにより、目的物たる錯体[2]が析出した。この錯体[2]は、上記式(1)におけるMがCoであり、nAおよびnBがいずれも0であり、R11〜R14がいずれもメチル基であり、R2が−CH2CH2S−である二つの構造部分を含む。該錯体[2]は、それら二つの構造部分が、各R2中のS同士が結合したジスルフィド結合によって連結された構造を有する。
【0053】
このようにして得られた錯体[2]のNO吸着性を以下のようにして評価した。
[NOの供給によるIRスペクトルの変化]
上記錯体[2]のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを「NO吹き込み前」として図1の上部に示す。
また、アルゴン雰囲気下において錯体[2]5mgをメタノール20mLに溶解させた。この溶液に、錯体[2]の量に対して大過剰量のNOガスを吹き込んだ。その後、該溶液からアセトニトリルを減圧除去し、得られた固体のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを「NO吹き込み後」として図1の下部に示す。
この図1からわかるように、NO吹き込み後のIRスペクトルでは、配位したNOの伸縮振動に由来するピークが1650cm-1に現れている(一方、配位していない(自由な)NOでは伸縮振動のピークが1840cm-1に現れる)。この結果から、錯体[2]がNOに対して良好な反応性(配位挙動)を示すことがわかる。
【0054】
なお、上記NO吹き込みの前後では、錯体[2]を含む溶液の色が明らかに変化したことが目視でも認められた。すなわち、NO吹き込み前における溶液の色が緑色であったのに対し、NO吹き込みにより該溶液の色がオレンジ色に変化した。
【0055】
[NOの供給による紫外可視吸収スペクトルの変化]
図2は、上記NO吹き込みの前後における紫外可視吸収スペクトルであって、NO吹き込み前のスペクトルを一点鎖線で、NO吹き込み後のスペクトルを実線で示している。この図からわかるように、NOガスの吹き込みに伴い、四配位平面型コバルト(III)錯体に特徴的な600nm付近の吸収が見られなくなる一方、五配位あるいは六配位の錯体に特徴的な400nm付近の吸収が見られるようになった。なお、図2中、350nm付近よりも短波長側の鋭い吸収ピークはNO自体に由来する吸収である。このことは、NOのみについて測定した紫外可視吸収スペクトルから確認することができる。
NO吹き込みの前後における上述のような紫外可視吸収スペクトルの変化は、NO吹き込みにより溶液中の錯体[2]がNOと反応して、例えば以下に示すNO付加体(錯体[2]の中心金属原子がNOおよび溶媒に配位した構造の六配位錯体)が形成されることを支持している。
【0056】
【化8】

【0057】
[NO2-との反応性]
メタノール:水の2:8(体積比)混合溶媒20mLに錯体[2]5mgを溶解させた溶液を調製した。この溶液に2.6gのNaNO2を加えることにより、該溶液に含まれる錯体[2]の量に対して大過剰量(10000当量)亜硝酸イオン(NO2-)を供給した。そして、NO2-の供給前後における溶液の紫外可視光吸収スペクトルを測定した。その結果を、NO2-供給前のスペクトルを点線、NO2-の供給後のスペクトルを実線として、図3に示す。この図からわかるように、四配位平面型コバルト(III)錯体に特徴的な600nm付近の吸収はNO2-の供給後にも残ったままであった。この図中において丸で囲んだ部分の拡大図からも、600nm付近のスペクトルにおいてNO2-の供給前後で変化が認められないことは明らかである(そのため、実線と点線とが重なって示されている。)。このことは、NO2-の供給によって錯体[2]の中心金属(ここではCo)の配位環境が変化していないこと、換言すれば、この錯体[2]がNO2-に対する反応性(配位挙動)を実質的に有さないことを示している。なお、NO2-の供給によって350nm付近よりも短波長側のスペクトルが変化しているのは、配位していないNO2-に由来するものである。
なお、この錯体[2]は、NO2-の他、Cl-,CoおよびO2のいずれの化学種に対しても実質的に反応性(配位挙動)を示さないことを確認した。
【0058】
[電気化学的挙動の測定]
アルゴン雰囲気下において、錯体[2]1mmolおよび0.1molの電解質(ここでは(CH3CH24NPF6を使用した。)を、20mLのアセトニトリルに溶解させた。この溶液を電解液として、三電極方式の電気化学セルを構築した。作用電極および対極としてはPtを、参照電極としてはAg/Ag+電極を使用した。このセルについて、室温(約25℃)にてサイクリックボルタンメトリー測定を行った。
次いで、上記セルの電解液中に大過剰量のNOガスを吹き込んだ後、同様にしてサイクリックボルタンメトリー測定を行った。
【0059】
これらの測定により得られたサイクリックボルタモグラムを図4に示す。図4中の点線はNO吹き込み前、実線はNO吹き込み後のサイクリックボルタモグラムである。この図からわかるように、NO吹き込み前、吹き込み後ともに比較的可逆性の良い酸化還元挙動を示している。NO吹き込み後の測定では、吹き込み前に比べて、電流値が大きく変化する電位(傾きが急な部分)が全体に300mV程度負側(図4の左側)にシフトしている。この結果は、例えばNOの吹き込みの前後で電流値が大きく異なる電位(例えば、Ag電極に対して−1.3V)において該セルに流れる電流値をモニターすることによって、該電流値の変化としてNOの存在をセンシングし得ることを示している。
【0060】
<実施例2>
この実施例2は、上記式(1)で表される構造部分を有する他のコバルト錯体を合成した例である。
【0061】
[化合物[I]の合成]
3,3−ジメチルアクリル酸(3,3-dimethylacrylic acid)8g、ベンジルメルカプタン9.4mLおよびピペリジン12mLを混合して13時間還流した。その混合物を塩酸水溶液でpH2とし、ジエチルエーテルで抽出(100mL×3回)した。それらのエーテル溶液を飽和炭酸水素ナトリウム(sat. NaHCO3aq)でpH8とし、水相を分離した。その水相を塩酸水溶液で再度pH2とし、エーテル抽出を行った。得られたエーテル相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、減圧除去後の残渣を高真空下において減圧蒸留することによりβ−ベンジルメルカプトイソ吉草酸(β-Benzylmercaptoisovaleric acid)を得た。収量は約5gであった。この工程に関する参考文献として、H. Schulz et. al, J. Med. Chem, 9(5), 647-650(1966)が挙げられる。
得られたβ−ベンジルメルカプトイソ吉草酸を塩化チオニル20mlに溶解し、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を数滴添加した。その混合物を室温で2時間攪拌し、減圧濃縮を行った。残渣にトルエン20mLを加えて減圧濃縮した。この操作を3回繰り返して化合物[I]を得た。収量は5.3gであった。この工程に関する参考文献として、S. Ito et. al, Chem. Pharm. Bull., 41(6), 1066-1073(1993)が挙げられる。
【0062】
[化合物[K]の合成]
以下に示す合成スキームに沿って化合物[K]を合成した。
【0063】
【化9】

【0064】
すなわち、実施例1と同様の手法により化合物[F]を合成し、Bocを外して2−アミノ−N−(2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロピル)アセトアミド(2-Amino-N-(2-benzylmercapto-2-methylpropyl)acetamide)を得た。この2−アミノ−N−(2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロピル)アセトアミド7.54g(21.4mmol)にトリフルオロ酢酸:H2O=5:2(体積比)の混合溶液46mLを加え、5時間攪拌した後、減圧濃縮した。これをヘキサンで洗浄した後、THF150mLに溶解し、トリエチルアミンを加えて中和した。このTHF溶液に、化合物[I](塩化2−ベンジルメルカプト−2−メチルブタノイル)5.2g(21.4mmol)を溶解したTHF溶液を滴下した後、一晩攪拌した。その後、濾過により不溶物を濾去し、減圧濃縮した後、ジエチルエーテル150mLに溶解した。5%KHSO4水溶液と10%Na2CO3水溶液とで各2回づつ洗浄し、さらに飽和食塩水で1回洗浄した後、減圧濃縮した。最後にシリカゲルカラムを用いて不純物を分離し、褐色で粘性のある目的物(化合物[J])を得た。収量は3.04g、収率は31%であった。
【0065】
上記で得られた化合物[J](3-Benzylmercapto-3-methyl)butanoyl-aminoacetoyl-[N-(2-benzylmercapto-2-methyl)propyl]amine)3.04g(6.63mmol)に蒸留THF20mLを加えて溶解させ、蒸留エタノール4.58g(99.54mmol)を加え、−78℃でNH3ガスを吹き込んで250mLとした。その後、金属ナトリウム2.90g(126.1mmol)を加えて30分攪拌した後、NH4Clを加えた。室温にてNH3を蒸発させた後、H2OとH2SO4水溶液とを加えてpH3に調整し、減圧濃縮した。濾過により沈殿物を取り除き、酢酸エチルで抽出して減圧濃縮することにより、白色粉末状の目的主成物(化合物[K])を得た。収量は1.27g、収率は69%であった。
【0066】
[錯体[3]の合成]
上記実施例1における化合物[H]に代えて化合物[K]を使用した点以外は錯体[2]の合成と同様にして、二核コバルト(III)錯体[3]を合成した。この錯体[3]は、上記式(1)におけるMがCoであり、nAが1であり、nBが0であり、R11〜R14がいずれもメチル基であり、R2が−CH2CH2S−である二つの構造部分を含む。該錯体[3]は、それらの二つの構造部分が、各R2中のS同士が結合したジスルフィド結合によって連結された構造を有する。
【0067】
<実施例3>
この実施例3は、上記式(1)で表される構造部分を有するさらに他のコバルト錯体を合成した例である。
【0068】
[化合物[L]の合成]
実施例2の化合物[K]の合成においてBoc2-DL−ホモシスチンに代えてBocグリシンを使用し、その他の点について実施例2と同様の手法により、以下に示す化合物[L]を合成した。
【0069】
【化10】

【0070】
[錯体[4]の合成]
上記実施例1における化合物[H]に代えて化合物[L]を使用した点以外は錯体[2]の合成と同様にして、単核コバルト(III)錯体[4]を合成した。この錯体[4]は、上記式(1)におけるMがCoであり、nAが1であり、nBが0であり、R11〜R14がいずれもメチル基であり、R2がH(水素原子)である構造部分を一つ有する。
【0071】
<実施例4>
以下の手順により、上記式(2)で表される構造部分を有するコバルト錯体(錯体[5])を合成した。
【0072】
[化合物[R]の合成]
以下の合成スキームにより化合物[R]を合成した。
【0073】
【化11】

【0074】
すなわち、蒸留THF100mLに1,3−ジアミノプロパン1.85g(25mmol)を溶解し、攪拌しながらトリエチルアミン5.06g(50mmol)を加えた後、塩化2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイル(化合物[C])12.77g(50mmol)を滴下した。これにより生じた白い沈殿物を濾別し、その濾液に1mol/L(1M)のHCl水溶液50mLを加えて減圧濃縮した。その濃縮溶液にジエチルエーテルを添加して白色の固体(化合物[Q];N,N'-bis[(2-benzylmercapto-2-methyl)propioyl]-1,3-promaneamine)を得た。収量は8.00g,収率は73.7%であった。
【0075】
得られた化合物[Q]2.00g(4.61mmol)を蒸留THF20mLに溶解し、次いで蒸留エタノール4.58g(99.5mmol)を加えた。この溶液を−78℃に冷却し、アンモニアガスを導入して総量を250mLとした。ここに金属ナトリウム1.91g(83.1mmol)を加えて30分間攪拌し、この青色溶液が無色になるまで塩化アンモニウムを加えた。過剰のアンモニアを室温で除去し、水と希H2SO4水溶液とを用いてpH3とした。不溶性化合物を濾過により取り除き、溶液を酢酸エチルで抽出した。有機相を脱水して濃縮乾固すると白色粉末(化合物[R];N,N'-bis[(2-mercapto-2-methyl)propioyl]-1,3-promaneamine)が得られた。収量は0.84g、収率は85.5%であった。
【0076】
[錯体[5]の合成]
このようにして得られた化合物[R]を用い、以下のようにして、該化合物[R]を配位子として有する単核コバルト(III)錯体[5]を合成した。
すなわち、アルゴン雰囲気下において、上記で得られた化合物[R]1.00g(3.60mmol)を蒸留DMFに溶解し、NaH0.345g(14.4mmol)を加えた。15分間攪拌した後にCoCl20.47g(3.60mmol)を加えたところ、溶液の色が緑色に変化した。該溶液から溶媒を減圧除去し、大気中にてアセトニトリル20mLに再溶解し、不要物をセライト濾去した。再度溶媒を減圧除去して少量の水を加え、テトラフェニルホスホニウムブロミド(PPh4Br)水溶液を加えると、直ちに目的物たる錯体[5]の緑色沈殿物が生じた。収量は1.80g、収率は82.2%であった。この錯体[5]は、上記式(2)におけるMがCoであり、nCおよびnDがいずれも0であり、nEが1であり、R31〜R34がいずれもメチル基である構造部分を一つ有する。
【0077】
このようにして得られた錯体[5]のNO吸着性を以下のようにして評価した。
[NOの供給によるIRスペクトルの変化]
上記錯体[5]のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを図6に示す。
また、アルゴン雰囲気下において上記錯体[5]5mgをアセトニトリル20mLに溶解させた。この溶液に大過剰量のNOガスを吹き込んだ。その後、該溶液からアセトニトリルを減圧除去し、得られた固体のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを図7に示す。
これらの図からわかるように、NO吹き込み後のIRスペクトル(図7)では、1650cm-1にNO伸縮振動に由来するピークが現れている。この結果から、錯体[5]がNOに対して良好な反応性(配位挙動)を示すことがわかる。
【0078】
[NO2-との反応性]
アルゴン雰囲気下において、上記コバルト(III)錯体[5]5mgをメタノール:水=2:8(体積比)混合溶媒20mLに溶解した。この溶液に、0.21g(この溶液に含まれる錯体[5]の量に対して400当量)のNaNO2を100当量づつ加えることによって亜硝酸イオン(NO2-)を供給した。NaNO2添加前に測定した紫外可視吸収スペクトルと、NaNO2を100当量添加する毎に測定した紫外可視吸収スペクトルとを図8に重ねて示す。図中の上向矢印は、その波長における吸収強度がNaNO2の添加につれて増加したことを表す。
この図8からわかるように、650nm付近にある四配位コバルト(III)錯体に特徴的な吸収はNaNO2の添加前後で全く変化しなかった。このことは、NO2-の供給によって中心金属の配位環境が変化していないこと、換言すれば、この錯体[5]がNO2-に対する反応性(配位挙動)を実質的に有さないことを示している。
なお、NO2-の供給によって400nm付近よりも短波長側のスペクトルが変化しているのは、配位していない亜硝酸イオン(NO2-)の存在に起因するものである。
また、この錯体[5]は、NO2-の他、Cl-,CoおよびO2のいずれの化学種に対しても実質的に反応性(配位挙動)を示さないことを確認した。
【0079】
<実施例5>
上記錯体[5]の合成において、CoCl2に代えてFeCl3を使用した点、および、このFeCl3を加える際に系を−10℃に冷却した点を除いては該錯体[5]の合成と同様にして、化合物[R]を配位子として有する単核鉄(III)錯体[6]を合成した。
【0080】
アルゴン雰囲気下において、上記鉄錯体[6]5mgをアセトニトリル20mLに溶解させた。この溶液に、錯体[6]の量に対して大過剰量のNOガスを吹き込んだ。その結果、NO吹き込み前にはオレンジ色であった溶液が、NOの吹き込みにより若干くすんだ黒緑色に変化したことが肉眼でもはっきりと認められた。この結果は、上記鉄錯体[6]がNOに対して良好な反応性(配位挙動)を示すことを支持している。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】錯体[2]のIRスペクトル、および、錯体[2]を含む溶液にNOを供給した後に濃縮乾固して得られた固体のIRスペクトルを示すチャートである。
【図2】錯体[2]を含む溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび該溶液にNOを供給した後の紫外可視吸収スペクトルを示すチャートである。
【図3】錯体[2]を含む溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび該溶液にNO2-を供給した後の紫外可視吸収スペクトルを示すチャートである。
【図4】錯体[2]を有する電極を用いて、NO吹き込みの前後において測定されたサイクリックボルタモグラムである。
【図5】NOセンサの一構成例の概略を模式的に示す説明図である。
【図6】錯体[5]のIRスペクトルを示すチャートである。
【図7】錯体[5]を含む溶液にNOを供給した後に濃縮乾固して得られた固体のIRスペクトルを示すチャートである。
【図8】錯体[5]を含む溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび該溶液にNO2-を供給した後の紫外可視吸収スペクトルを示すチャートである。
【符号の説明】
【0082】
10:NOセンサ
20:NO捕捉部(電極)
22:導電性基材
24:錯体
30:NO検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NOを選択的に吸着するNO吸着材であって、
鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子と、を備える錯体を含み、
ここで、前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する以下の原子:
二つのアミド性窒素原子;および、
チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子;
が前記中心金属原子に配位して形成されている、NO吸着材。
【請求項2】
前記錯体が下記式(1)で表される構造部分を有する、請求項1に記載の吸着材。
【化1】

(式中、MはFeまたはCoであり、R11〜R14およびR2はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基および置換基を有してもよいアルキレン基から選択されるいずれかであり、nAおよびnBはそれぞれ独立に0,1および2から選択されるいずれかである。)
【請求項3】
前記錯体が下記式(2)で表される構造部分を有する、請求項1に記載の吸着材。
【化2】

(式中、MはFeまたはCoであり、R31〜R34はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基および置換基を有してもよいアルキレン基から選択されるいずれかであり、nC,nDおよびnEはそれぞれ独立に0,1および2から選択されるいずれかである。)
【請求項4】
前記配位子は少なくとも一つのチオール基またはジスルフィド結合を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸着材。
【請求項5】
導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の吸着材。
【請求項6】
前記錯体が液状媒体に溶解または分散されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の吸着材。
【請求項7】
NOを検出するNOセンサであって、
NOを選択的に吸着する錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを検出する検出部とを備え、
前記錯体は、鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体であって、前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する以下の原子:
二つのアミド性窒素原子;および、
チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子;
が前記中心金属原子に配位して形成されている錯体である、NOセンサ。
【請求項8】
前記検出部は、前記NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的および/または光学的に検出し得るように構成されている、請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記NO捕捉部は、導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備える、請求項7または8に記載のセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−117782(P2007−117782A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309127(P2005−309127)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 錯体化学会・日本化学会主催、第55回錯体化学討論会講演要旨集の抄本(発行者:錯体化学会、発行日:2005年9月1日)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】