説明

NT−4発現阻害剤、該阻害剤を有する育毛養毛剤、及び育毛養毛組成物

【課題】優れた効果を有する育毛養毛剤と、この育毛養毛剤の有効成分に適したNT−4発現阻害剤を提供する。
【解決手段】本発明にかかるNT−4発現阻害剤は、アオガンピ(Wikstroemia retusa)、瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)、野瑞香(Daphne feddei)、シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として有することを特徴とする。また、本発明に係る育毛養毛剤は、本発明のNT−4発現阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする。さらに、本発明に係る育毛養毛組成物は、本発明の育毛養毛剤を有効成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NT−4(Neurotrophin−4:神経栄養因子−4)の発現を阻害する作用を有する特定の植物の抽出物を有効成分として含有するNT−4発現阻害剤、該阻害剤を有する育毛養毛剤、及び育毛養毛組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脱毛症の発症原因、発症機序については多くの研究がなされているが、いまだ不明な点が多い。従って、従来の育毛養毛剤の効果は、非常に個人差が大きく、満足するものは見出されていない。
【0003】
本願発明者らは、本願に先立って、「アポトーシス誘導促進蛋白質の阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする育毛養毛剤」を提案している(特許文献1)。前記阻害物質としては、椿皮、九節菖蒲、レンゲソウ、アサクー、エクロニアなどの植物抽出物を特定している。この育毛養毛剤は、優れた育毛養毛効果を有し、かつ長期に亘る使用に十分耐え得る安全性を備えている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−232828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記育毛養毛剤の有効成分と同等もしくはそれ以上の効果を有する有効成分が、上記以外の他の植物からも得ることができれば、原料確保の点からも、育毛養毛効果を有する整髪料などの組成物とする場合の製剤化の自由度を確保する点からも、好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記育毛養毛剤の有効成分である特定の植物の抽出物は、アポトーシス誘導促進蛋白質の阻害作用を有するものであった。これに対して、NT−4の発現そのものを制御する作用を有する植物を特定できれば、さらに育毛養毛効果が高い育毛養毛剤を構成することが可能となるものと期待される。かかる観点から、本発明者らは、前記課題を解決するために、下記のように、鋭意、検討を重ねた。
【0007】
本発明者らは、多くの植物を対象に上記NT−4の発現そのものを制御する作用を有するか否かを測定した。その結果、沈丁花科の木本植物であるアオガンピ(Wikstroemia retusa)、瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)、野瑞香(Daphne feddei)、シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)の各植物の抽出物にNT−4発現阻害作用が優れていることが判明した。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明にかかるNT−4発現阻害剤は、アオガンピ(Wikstroemia retusa)、瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)、野瑞香(Daphne feddei)、シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる育毛養毛剤は、上記NT−4発現阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
なお、本発明で言う「育毛養毛剤」とは、育毛および養毛を促進する作用を有し、目的の組成物に添加することにより、育毛養毛を促進する効果を付与した育毛養毛用組成物を調製するための薬剤を意味する。本発明の育毛養毛剤を含む育毛養毛用組成物を、哺乳類の主に頭皮に適用することにより、育毛養毛を促進する効果が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるNT−4発現阻害剤は、NT−4の発現そのものを阻害する作用を有するので、NT−4に起因するアポトーシスの誘導を防止することができる。そのため、本発明に係るNT−4発現阻害剤は、NT−4によるアポトーシスに起因して生体に生じる悪影響の予防、治療及び改善のために有用である。特に、毛包におけるNT−4によるアポトーシスの誘導を防止することにより、哺乳類に対する育毛養毛効果を発揮することができる。
したがって、本発明にかかるNT−4発現阻害剤は、哺乳類の脱毛症、特に男性型脱毛症を改善すると共に、長期に亘る使用に十分耐え得る安全性を備え、使用感の良好な育毛養毛剤の有効成分として産業的価値を有し、医療組成物や毛髪化粧料などの育毛養毛用組成物として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
上述のように、本発明にかかるNT−4発現阻害剤は、アオガンピ(Wikstroemia retusa)、瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)、野瑞香(Daphne feddei)、シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として有することを特徴とする。上記各植物の抽出物は、互いに相克する作用を有していないため、本発明のNT−4阻害剤は、上記4種の植物抽出物を組み合わせたものを有効成分としてもよい。
【0013】
(植物の抽出物)
アオガンピ(Wikstroemia retusa)、瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)、野瑞香(Daphne feddei)、シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)は、それぞれ沈丁花科の植物であり、それらの用部に特に限定はないが、有効性を発揮させる点から、根、あるいは材(茎の木質の部分)が好適である。これら植物の抽出物は、市販品あるいは公知の抽出方法によって得られたものを使用することができる。
【0014】
上記抽出方法に用いる溶媒(以下、「抽出溶媒」という。)としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;酢酸エチル、ジエチルエーテルなどの溶媒が挙げられ、これらを単独で又は2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0015】
上記抽出方法における各種条件は、特に制限されるものではないが、通常、抽出原料と前記抽出溶媒との比率は、質量比で抽出原料:抽出溶媒=1:2〜1:50程度の範囲が好ましい。また、抽出温度は、5〜80℃の範囲が好ましく、1時間〜1週間、抽出溶媒に浸漬したり、攪拌したりすることによって行うことが好ましい。なお、抽出pHは、極端な酸性又はアルカリ性でなければ、特に制限はない。
【0016】
これら植物抽出物のNT−4発現阻害率は、それぞれの入手先によってある程度の変動があるが、1ppmで65%〜91%であり、大変高い値である。
【0017】
なお、ここで言う「NT−4発現阻害率」とは、培養細胞系において活性型男性ホルモン(DHT)によって誘導されるNT−4の発現量を基準に、各植物抽出物を添加した場合の発現阻害量の割合として定義される値である。
【0018】
(育毛養毛剤)
本発明にかかる育毛養毛剤は、上記NT−4発現阻害剤、具体的には、上記アオガンピ(Wikstroemia retusa)、瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)、野瑞香(Daphne feddei)、シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)から選ばれる少なくとも一種の植物の抽出物を含むNT−4発現阻害剤を有効成分として有することを特徴とする。
上記植物抽出物の溶出溶媒が、エタノール、水/エタノール(含水エタノール)等の非毒性の溶媒である場合は、溶出物を育毛養毛剤としてそのまま用いても良く、あるいは上記溶出溶媒を希釈液として用いてもよい。また、前記溶出物を濃縮エキスとしてもよく、凍結乾燥などにより乾燥粉末物にしたり、ペースト状に調製したりしてもよい。なお、他の溶媒を用いた場合は、溶媒を留去後、乾燥分を非毒性の溶媒で希釈して用いることが望ましい。
【0019】
本発明の育毛養毛剤を、所定の目的組成物に添加することにより、その目的組成物に養毛育毛効果を付与した育毛養毛組成物を得ることができる。
【0020】
本発明の育毛養毛剤を所定の目的組成物に添加する場合、その目的組成物中における前記植物抽出物の配合量は、その製品形態、使用頻度により異なり一概に規定することはできないが、通常、製剤全体に対して前記植物抽出物を有効成分として固形物換算で0.001〜1.0質量%、特に0.01〜1.0質量%が好ましい。0.001質量%より少ないと十分な効果が期待できず、また1.0質量%を超えると効果が頭打ちになったり、製剤の安定性および使用感の面で不具合が発生したりする可能性があるためである。
【0021】
本発明の育毛養毛組成物は、さらに炭素鎖長が11、13、15、および17の奇数鎖脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪酸を含むことが好ましい。前記脂肪酸を含むことにより、相乗的な育毛養毛効果を得ることができるためである。これら脂肪酸の濃度としては0.0005〜50質量%、特に0.25〜25質量%が好ましい。0.0005質量%より少ないと十分な効果が期待できず、また50質量%を超えると効果が頭打ちになったり、製剤の安定性の面で不具合が発生したりする可能性があるためである。
【0022】
本発明の育毛養毛用組成物は、更に、既存の育毛養毛成分を含有してもよい。既存の養育毛成分としては、PDG(ペンタデカン酸グリセリド)、特開平09−157136号公報記載のコレウスエキス、特開平10−45539号公報記載のゲンチアナエキス、マツカサエキス、ローヤルゼリーエキス、クマザサエキスなどの化学物質及びエキス類を挙げることができる。中でも、育毛養毛効果の点から、PDG、コレウスエキスが好ましい。
【0023】
前記既存の育毛養毛成分として例示した化学物質及びエキス類は、市販品あるいは公知の方法によって得られたものを使用することができる。特に、前記エキス類は植物成分の抽出により得ることができる。この場合、抽出に用いる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類などが挙げられ、これらは一種を単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。抽出方法は、通常の植物エキスの抽出法などの方法に準じて行えばよく、必要により公知の方法で脱臭、脱色等の処理を施してから用いてもよい。また、市販の抽出物も用いることができる。
【0024】
また、本発明の育毛養毛剤には、使用目的に応じて、上記有効成分以外の任意の成分を配合することができる。そのような成分としては、例えば、精製水、エタノール、非イオン性界面活性剤、糖質系界面活性剤およびその他の界面活性剤、セルロース類、油脂類、エステル油、高分子樹脂、色剤、香料、紫外線吸収剤やビタミン類、ホルモン類、血管拡張剤、アミノ酸類、抗炎症剤、皮膚機能亢進剤、角質溶解剤等の薬効成分などを挙げることができる。
【0025】
前記セルロース類としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0026】
前記界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノまたはイソステアレート、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル(モノミリスチン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸ペンタグリセリン)等が挙げられる。
【0027】
前記油脂類としては、例えば、多価アルコール脂肪酸エステル(トリ−2エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン酸等)、サフラワー油、月見草油、ホホバ油等が挙げられる。
【0028】
前記エステル油としては、例えば、不飽和脂肪酸アルキルエステル(オレイン酸エチル、リノール酸イソプロピル等)、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル等が挙げられる。
【0029】
前記アミノ酸類としては、例えば、メチオニン、セリン、グリシン、シスチン等が挙げられる。
【0030】
前記角質溶解剤としては、例えば、サリチル酸、レゾルシン等が挙げられる。
【0031】
前記高分子樹脂としては、例えば、両性、カチオン性、アニオン性及びノニオン性ポリマー等が挙げられる。
【0032】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、メトキシケイ皮酸オクチル(ネオヘリオパンAV)、オキシベンゾン、ウロカニン酸等が挙げられる。
【0033】
本発明の育毛養毛剤に、その他の成分として、蛋白質を配合する場合は、任意の量で配合できる。
【0034】
本発明の育毛養毛剤を用いた育毛養毛組成物としては、各種の外用製剤類(動物用に使用する製剤も含む)全般が挙げられる。具体的には、カプセル状、粉末状、顆粒状、固形状、液状、ゲル状、軟膏状、或いは気泡性の(1)医薬品類、(2)医薬部外品類、(3)局所又は全身用の皮膚化粧品類、(4)頭皮・頭髪に適用する薬用及び/又は化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、トリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料など)が挙げられる。
【0035】
本発明の育毛養毛組成物の具体例の主なものとしては、前記NT−4発現阻害剤を有効成分として含む育毛養毛用毛髪化粧料及び育毛養毛用医薬品が挙げられる。前記育毛養毛用毛髪化粧料及び育毛養毛用医薬品には、本発明の効果を損なわない範囲において、既知の薬効成分を必要に応じて適宜配合することができる。既知の薬効成分としては、例えば、抗菌剤、抗炎症剤、保湿剤等を配合することができる。
【0036】
上記育毛養毛用毛髪化粧料及び育毛養毛用医薬品は、常法に従って均一溶液、ローション、ジェルなどの形態で外用により使用することができる。また、前記養育毛用毛髪化粧料は、エアゾールの形態をとることができ、その場合には、前記成分以外に、n−プロピルアルコールまたはイソプロピルアルコールなどの低級アルコール:ブタン、プロパン、イソブタン、液化石油ガス、ジメチルエーテル等の可燃性ガス:窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等の圧縮ガスを含有することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
アオガンピ(Wikstroemia retusa)の茎部及び葉部を粉砕機にて破砕し、25.3gの破砕物を得た。これに500mLの酢酸エチルを加え、室温にて一昼夜撹拌した。得られた酢酸エチル抽出液を桐山ロート用濾紙(桐山製作所社製、グラスファイバー(GFP)濾紙)を用いて濾過し、残渣を除去した抽出液を得た。この抽出液をエバポレーターにて減圧乾固し、1.80gの固形分(植物抽出物)を得た。この固形分に溶媒や他の添加物を加えることなく、そのまま実施例1のNT−4発現阻害剤として、以下の「NT−4発現阻害作用の評価方法」に供し、NT−4発現阻害作用を評価した。
【0039】
(実施例2)
瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)の根部を粉砕機にて破砕し、35.2gの破砕物を得た。これに700mLの酢酸エチルを加え、室温にて一昼夜撹拌した。得られた酢酸エチル抽出液を桐山ロート用濾紙(桐山製作所社製、グラスファイバー(GFP)濾紙)を用いて濾過し、残渣を除去した抽出液を得た。この抽出液をエバポレーターにて減圧乾固し、1.92gの固形分(植物抽出物)を得た。この固形分に溶媒や他の添加物を加えることなく、そのまま実施例2のNT−4発現阻害剤として、以下の「NT−4発現阻害作用の評価方法」に供し、NT−4発現阻害作用を評価した。
【0040】
(実施例3)
野瑞香(Daphne feddei)の茎部及び葉部を粉砕機にて破砕し、34.9gの破砕物を得た。これに700mLの酢酸エチルを加え、室温にて一昼夜撹拌した。得られた酢酸エチル抽出液を桐山ロート用濾紙(桐山製作所社製、グラスファイバー(GFP)濾紙)を用いて濾過し、残渣を除去した抽出液を得た。この抽出液をエバポレーターにて減圧乾固し、1.66gの固形分(植物抽出物)を得た。この固形分に溶媒や他の添加物を加えることなく、そのまま実施例1のNT−4発現阻害剤として、以下の「NT−4発現阻害作用の評価方法」に供し、NT−4発現阻害作用を評価した。
【0041】
(実施例4)
シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)の茎部及び葉部を粉砕機にて破砕し、25.2gの破砕物を得た。これに500mLの酢酸エチルを加え、室温にて一昼夜撹拌した。得られた酢酸エチル抽出液を桐山ロート用濾紙(桐山製作所社製、グラスファイバー(GFP)濾紙)を用いて濾過し、残渣を除去した抽出液を得た。この抽出液をエバポレーターにて減圧乾固し、0.78gの固形分(植物抽出物)を得た。この固形分に溶媒や他の添加物を加えることなく、そのまま実施例1のNT−4発現阻害剤として、以下の「NT−4発現阻害作用の評価方法」に供し、NT−4発現阻害作用を評価した。
【0042】
(NT−4発現阻害作用の評価方法)
NT−4上流配列約2000bp(配列番号1)を、pGL3−basic (Promega社製)にサブクローニングを行った。本プラスミドを、内部標準としてのpRL−SV40(Promega社製)とともに、HeLa細胞に導入した。1日培養後、上記アオガンピの抽出物(実施例1)、上記瑞香狼毒の抽出物(実施例2)、上記野瑞香(Daphne feddei)の抽出物(実施例3)、および上記シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)の抽出物(実施例4)をそれぞれ固形分換算にて1ppmと、10−7M dihydrotestosterone(DHT)とを含む培地に交換した。コントロール群としてはDHTを含まない培地を用いた。24時間後にデュアル−ルシフェラーゼ レポーター アッセイ システム(Dual-Luciferase Reporter Assay System:Promega社製)を用いてルシフェラーゼアッセイ(Luciferase assay)を行った。培養は、10%チャコール処理済FBSを添加したDMEM(Dulbecco’s modified Eagle's Medium、フェノールレッド不含)培地で行った。
【0043】
(NT−4発現阻害作用の評価結果)
各サンプルのルシフェラーゼ相対活性(Relative Luciferase Activity)を算出した。このルシフェラーゼ相対活性は、NT−4上流配列とpGL3-basicのサブクローニングにより得られたベクターにより発現するホタルルシフェラーゼの活性値を、内部標準として導入したpRL-SV40により発現するウミシイタケルシフェラーゼの活性値で徐することにより求められる値である。
【0044】
次に、このルシフェラーゼ相対活性からNT−4発現阻害率(%)を、以下の式(1)に基づいて、算出した。以下の算出式(1)を適用するに当たって、コントロールとして0.1%エチルアルコール溶液を用いた。

NT-4発現阻害率(%)=[1−(RLASamp−RLACont)/(RLADHT−RLACont)]×100
・・・・・・(1)

式(1)中、RLACont:コントロール群のNT-4発現率(ルシフェラーゼ相対活性)
RLADHT:DHT添加群のNT-4発現率
RLASamp:各サンプル添加群のNT-4発現率
【0045】
上述のようにして求めた各実施例サンプルのNT−4発現阻害率(%)を下記(表1)に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
(表1)に見るように、NT−4発現阻害作用が最も低い実施例4(シナプトレピス・レトゥーサの抽出物)にあっても、NT−4発現阻害率が69.0という高い値を示しており、本発明のNT−4発現阻害剤は、大変高いNT−4発現阻害作用を有することが確認できる。
【0048】
(育毛養毛効果の評価方法)
雄のC57BL/6マウス(7週齢)を用い、小川らの方法(フレグランスジャーナル,Vol.17,No.5,p20−29,1989.参照)を参考にして実験を行った。マウスの背部体毛を約2cm×4cmの大きさに電気バリカン及び電気シェーバーにて除毛し、毛髪成長期を誘導した。除毛後、DHT30mgを皮下に投与した。翌日より1日1回100μLずつ週5回、30日間サンプル塗布を行い、除毛部分に対し毛再生が始まった部分の面積比の変化を求め、下記10段階評価にて、毛再生の早さの比較を行った。
【0049】
サンプルとしては、前記実施例1、2、3、4で得られたNT−4発現阻害剤を用いた。サンプル量は0.1質量%(溶媒:エタノール)とした。また、コントロール群には、溶媒であるエタノールを塗布した。各群ともに1群6匹として実験に供した。除毛、皮下投与後から、下記発毛スコアが5点に至るまでに要した日数を測定した。
【0050】
(育毛養毛効果の評価基準(発毛スコア))
除毛された部分の全体面積に対する毛再生が始まった部分の面積の割合(%)に下記点数を付して、点数の大きさによって、育毛養毛効果を評価した。その結果を(表2)に示した。
(点数):(毛再生面積率(%))
1点:0〜10%
2点:11〜20%
3点:21〜30%
4点:31〜40%
5点:41〜50%
6点:51〜60%
7点:61〜70%
8点:71〜80%
9点:81〜90%
10点:91〜100%
【0051】
【表2】

【0052】
表2に見るように、実施例1で得たアオガンピの抽出物(NT−4発現阻害剤)を有効成分とした例では、5点到達日は27日であり、実施例2で得た瑞香狼毒の抽出物を有効成分として用いた場合では、5点到達日は26日であり、実施例3で得た野瑞香の抽出物を有効成分として用いた場合では、5点到達日は28日であり、実施例4で得たシナプトレピス・レトゥーサの抽出物を有効成分として用いた場合では、5点到達日は30日であった。これに対して、コントロールの場合では、40日を過ぎても5点に到達しなかった。したがって、本発明のNT−4発現阻害剤を有効成分として用いることにより、育毛養毛効果に優れた育毛養毛剤を提供できることが、確認された。
【0053】
(育毛養毛剤の処方例)
本発明のNT−4発現阻害剤を有効成分として含有する育毛養毛剤の処方例を以下に示す。
【0054】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明にかかるNT−4発現阻害剤は、NT−4の発現そのものを阻害し、それによりNT−4に起因するアポトーシスの誘導を防止することができるので、NT−4によるアポトーシスに起因して生体に生じる悪影響の予防、治療及び改善のために有用である。特に、毛包におけるNT−4によるアポトーシスの誘導を防止することにより、哺乳類に対する育毛養毛効果を発揮することができる。また、本発明にかかる育毛養毛剤は、前記本発明にかかるNT−4発現阻害剤を有効成分として有しているので、哺乳類の脱毛症、特に男性型脱毛症を改善すると共に、長期に亘る使用に十分耐え得る安全性を備え、使用感の良好な育毛養毛剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アオガンピ(Wikstroemia retusa)、瑞香狼毒(Stellera chamaejasme)、野瑞香(Daphne feddei)、シナプトレピス・レトゥーサ(Synaptolepis retusa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分として有するNT−4発現阻害剤
【請求項2】
請求項1に記載のNT−4発現阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする育毛養毛剤。
【請求項3】
請求項2に記載の育毛養毛剤を有効成分として含有することを特徴とする育毛養毛組成物。

【公開番号】特開2010−138093(P2010−138093A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314619(P2008−314619)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】